説明

多軸フラックスゲート型磁気センサ

【課題】温度変動に関わらず正確なセンシングができる多軸フラックスゲート型磁気センサを供給する。
【解決手段】環状の第1磁性体コアと、第1磁性体コアに巻かれた第1励磁コイルと、第1磁性体コアに互いの入力軸が直交するように巻かれた2つの検出コイルと、検出コイルの出力を検出し、出力信号をその検出コイルにフィードバックする2つの信号検出/フィードバック部と、第1励磁コイルに励磁電流を供給する第1励磁部と、を有し、さらに、第2磁性体コアと、第2磁性体コアに巻かれた補正コイルと、検出コイルの出力から、補正コイルへ印加する補正電流を生成する補正信号生成部と、を備え、補正コイルが作る補正磁界が、第1磁性体コアに巻かれた2つの検出コイル間の干渉を、打ち消せる位置及び方向に、第2磁性体コア及び補正コイルを配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多軸フラックスゲート型磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
<フラックスゲート型磁気センサ900>
まず、従来のフラックスゲート型磁気センサ900の検出の原理について簡単に説明する。図1のように、パーマロイ等の高透磁率材料からなる環状の磁性体コア1(図1中に破線で示す)に、励磁コイル2としてトロイダル巻線を施し、この磁性体コア1の外側に検出コイル4としてソレノイド巻線を施す。
【0003】
励磁コイル2には励磁回路20から周波数fの例えば矩形波状の励磁電流Iが供給される。励磁電流Iによって励磁コイル2に起磁力が発生し、発生した磁束φが検出コイル4を鎖交する。励磁電流Iの値を、磁性体コア1を磁気飽和させるのに十分な大きさに設定しておくことで、磁性体コア1は周期的に磁気飽和を繰り返す。
【0004】
地磁気等の外部磁界Hがある場合に、磁性体コア1を周波数fで励磁すると,検出コイル4に周波数2fのパルス波形が発生する。このパルス波形のパルス幅と振幅が外部磁界Hの大きさで変化する。よって、この周波数2fのパルス波形(以下、センサ出力信号ともいう)をセンサ出力信号検出回路30で検出することにより外部磁界Hを計測することができる。なお、詳細な動作原理については、特許文献1等に記載されている。
【0005】
ところが、この場合のセンサ出力信号の振幅は、外部磁界が小さいときにのみ外部磁界の大きさと線形関係が成り立つ。そのため、磁気センサ900は、リニアリティが悪く、測定範囲が狭いという問題がある。
【0006】
<フラックスゲート型磁気センサ910>
この欠点を避けるための技術として、フィードバック磁界H’を用いた方法がある。図2を用いて、1軸クローズドループ方式の従来のフラックスゲート型磁気センサ910を説明する。フラックスゲート型磁気センサ910は、外部磁界Hと絶対値が等しく、外部磁界Hに対して逆極性となるフィードバック磁界H’を作り、センサ部10の磁界が常に0磁界になるようにフィードバック制御を行う。
【0007】
信号検出/フィードバック回路130は、センサ部10の出力を電流に変換し、この電流で検出コイル4に対してフィードバックをかける。フィードバック電流が検出コイル4に流れることで外部磁界Hと逆極性のフィードバック磁界H’が発生し、H’の絶対値がHと等しくなるまでフィードバック電流は増加し、検出コイル内に存在する磁界が0になったところでバランスする。この時の電流は外部磁界Hに比例するため、この電流を検出することによって、外部磁界Hを検出することができる。このようにしてリニアリティが良く、測定範囲が広いフラックスゲート型磁気センサ装置を実現することができる。
【0008】
<多軸フラックスゲート型磁気センサ920>
図3を用いて従来の多軸フラックスゲート型磁気センサ920を説明する。ここでは3軸型を例に説明する。
フラックスゲート型磁気センサ900と同様に、図示しない環状の磁性体コアに、励磁コイル2−1としてトロイダル巻線を施し、この磁性体コアの外側に第2検出コイル4としてソレノイド巻線を施す。さらに、第2検出コイル4に直交するように、磁性体コアの外側に第1検出コイル3としてソレノイド巻線を施す。環状の磁性体コアと、励磁コイル2−1と、第1検出コイル3と、第2検出コイル4とにより第1及び第2センサ部110を構成する。
【0009】
さらに、図示しない環状の磁性体コアに、励磁コイル2−2としてトロイダル巻線を施し、この磁性体コアの外側に第3検出コイル5としてソレノイド巻線を施す。環状の磁性体コアと、励磁コイル2−2と、第3検出コイル5とにより第3センサ部210を構成する。第3検出コイル5の入力軸(例えばz軸とする)が、第1検出コイル3及び第2検出コイル4の入力軸(例えばx軸及びy軸とする)それぞれに対して直交するように、第3センサ部210を配置する。図3(A)において第3センサ部210の正面図を示し、(B)において第3センサ部210の平面図を示す。第1検出コイル3は信号検出/フィードバック回路130−1に、第2検出コイル4は信号検出/フィードバック回路130−2に、第3検出コイル5は信号検出/フィードバック回路130−3に、それぞれ接続される。各検出コイル3〜5は、それぞれ第1〜第3フィードバック磁界H’、H’、H’、を作り、磁気センサ910と同様の方法によりセンシングを行う。これによって、互いに直交する入力軸を持つ3軸型のフラックスゲート型磁気センサを構成している。
【0010】
従来、多軸フラックスゲート型磁気センサを用いて、油田掘削ツールの姿勢制御を行う際などに、掘削に伴う摩擦熱、或いは、地熱等のため、磁性体コアの磁気特性等が温度によって変動し出力変動を引き起こすという問題があった。これらの特性変動は、温度に対して非線形となることが多く、センサ出力の温度特性も温度に対して非線形なものとなることが避けられなかった。信号処理回路内に、サーミスターによる温度検知機構を設け、温度上昇に伴う回路のゲイン低下を補正する技術として、特許文献2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−92381号公報
【特許文献2】特開2002−71773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献2は、単純に一定値以上のゲインが確保されていればよいような用途においては有効であるが、温度特性カーブの直線性が求められるような用途においては不十分であるという問題がある。
【0013】
また、環状の磁性体コアを有するフラックスゲート型磁気センサを多軸化する際に、検出コイルが互いに直交することは避けがたいが、直交する2軸は、コア材の不均質であることに起因し、干渉を起こし、かつ、この干渉量は温度依存性を持つことが知られている(参考文献1参照)。
[参考文献1]P. Brauer, J. M. G. Merayo, O. V. Nielsen, F. Primdahl and J. R. Petersen, "Transverse field effect in fluxgate sensors", Sensors and Actuators A: Physical, 1997, vol.59, Volume 59, p.70-74
【0014】
よって、従来の多軸フラックスゲート型磁気センサ920は、直交するフィードバック磁界の間(例えば、第1フィードバック磁界H’と第2フィードバック磁界H’の間)に、干渉が生じ、正確なセンシングができないという問題がある。
【0015】
この干渉量を予め測定しておき、補正することが考えられるが、干渉量は温度依存性があり、かつ、その温度依存性は温度変動に対して非線形なものである。そのため、単純に干渉量を補正することができない。温度変動がほぼ直線的であれば、干渉量を補正することは容易であるが、温度変動が非線形であり多項式近似を用いて補正をかける場合、補正式の次数は高い方が望ましいにもかかわらず、通常は補正システムの制限から補正式の次数も制約を受ける。データの非線形な変動に対し充分な次数を確保できないと、補正残差が増大し実用に耐えうるものではなくなる。
【0016】
以下、干渉量は温度依存性があり、かつ、その温度依存性は温度変動に対して非線形なものであることを簡単に説明する(参考文献1参照)。まず、各検出コイル内の磁束Φは以下の式で表される。
【0017】
【数1】

【0018】
但し、Φはコイル内の全磁束を、Ld0(t)は検出コイルの自己インダクタンス(磁性体コア無しの場合)を、i(t)は検出電流を、μは磁性体コアの透磁率を、Acoreは磁性体コアの断面積を、dは磁性体コアの直径を、θは磁性体コアの回転位置として表される角度を、M(t,θ)は磁性体コアの接線方向の磁化を、h(n,θ)は磁性体コア内の磁界の(n番目の検出巻線によって生み出される)接線方向成分を、Nは検出コイルの巻数を表す。
【0019】
ここで磁性体コアの接線方向の磁化M(t,θ)は、磁化率χ(θ)に比例し、飽和磁化Mの2乗に反比例する(参考文献1参照)。磁化率χ(θ)は磁性体コアの回転方向成分に依存する量であり、これが、直交する軸間の干渉の原因となっている。また、飽和磁化Mは一般的に温度上昇に伴って低下することが知られており、非線形な特性を持つ。従って、磁化M(t,θ)は磁化率χ(θ)と温度の関数となっており、直交する軸からの干渉量は、温度により非線形に変動する。この非線形な干渉量により、干渉量を補正することが難しく、正確なセンシングができない。
【0020】
例えば、多軸フラックスゲート型磁気センサ920のセンサ感度の温度特性は、図4の実線で示すように、ある温度を境に温度係数が急激に増大するような特性を示す。これは、磁性体コアの材質等が非線形な温度係数を持ち、直交軸間の干渉量に影響を与えていることに由来すると推定されている。なお、図4の測定方法の詳細については後述する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の課題を解決するために、本発明に係る多軸フラックスゲート型磁気センサは、環状の第1磁性体コアと、第1磁性体コアに巻かれた第1励磁コイルと、第1磁性体コアに互いの入力軸が直交するように巻かれた2つの検出コイルと、検出コイルの出力を検出し、出力信号をその検出コイルにフィードバックする2つの信号検出/フィードバック部と、第1励磁コイルに励磁電流を供給する第1励磁部と、を有する。さらに、第2磁性体コアと、第2磁性体コアに巻かれた補正コイルと、検出コイルの出力から、補正コイルへ印加する補正電流を生成する補正信号生成部と、を備え、補正コイルが作る補正磁界が、第1磁性体コアに巻かれた2つの検出コイル間の干渉を、打ち消せる位置及び方向に、第2磁性体コア及び補正コイルを配置する。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、補正コイルに補正電流を印加し、補正磁界を作り、直交する軸間の干渉を相殺することで、温度変動に関わらず正確なセンシングができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来のフラックスゲート型磁気センサ900の構成例を示す図。
【図2】フィードバック磁界を用いた従来のフラックスゲート型磁気センサ910の構成例を示す図。
【図3】(A)は従来のフィードバック磁界を用い、かつ、多軸であるフラックスゲート型磁気センサ920の構成例を、(B)は第3センサ部210の平面図を示す図。
【図4】従来の多軸フラックスゲート型磁気センサ920と実施例1の多軸フラックスゲート型磁気センサ100の磁気感度の変化量と温度の関係を示す図。
【図5】実施例1の多軸フラックスゲート型磁気センサ100の構成例を示す図。
【図6】補正信号生成回路61の構成例を示す図。
【図7】多軸フラックスゲート型磁気センサ100の第1及び第2センサ部110の平面図と第3センサ部310の背面図を示す図。
【図8】多軸フラックスゲート型磁気センサ100の第1及び第2センサ部110と第3センサ部310の配置関係を示す斜視図。
【図9】(A)は磁性体コア1及び励磁コイル2の平面図、(B)はコイル固定手段11の底面図。
【図10】(A)は第1及び第2センサ部110の底面図、(B)は第1及び第2センサ部110の正面図、(C)は第1及び第2センサ部110の右側面図。
【図11】第3センサ部310の底面図。
【図12】実施例1の多軸フラックスゲート型磁気センサ100の原理を説明するための図。
【図13】1つの検出コイルの出力から補正磁界を調整する方法を説明するための図。
【図14】検出コイルとして、磁性体コアの一部に対し巻線を施した場合の構成例を示す図。
【図15】検出コイルの入力軸が2軸であり、磁性体コア1−1と1−2を同一平面上に配した場合の構成例を示す図。
【図16】2つの検出コイルの出力から補正磁界を調整する方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
<多軸フラックスゲート型磁気センサ100>
図5〜8を用いて実施例1に係る多軸フラックスゲート型磁気センサ100を説明する。多軸フラックスゲート型磁気センサ100は、第1及び第2センサ部110と、第3センサ部310と、信号検出/フィードバック回路130−1〜130−3と、励磁回路120−1〜120−2と、補正信号生成回路61を有する。
【0026】
<第1及び第2センサ部110>
図9及び10を用いて第1及び第2センサ部110を説明する。図9(A)の破線で示すパーマロイ等の高透磁率材料からなる環状の磁性体コア1−1に励磁コイル2−1としてトロイダル巻線を施す。
【0027】
励磁コイル2−1を図9(B)のコイル固定手段11−1の励磁コイル嵌合部11aに嵌め込む。さらに、磁性体コア1−1の外側に(第2検出コイル用溝部11cに)、第2検出コイル4としてソレノイド巻線を施す(図10(A)参照)。さらに、第2検出コイル4に直交するように、磁性体コアの外側に(第1検出コイル用溝部11bに)、第1検出コイル3としてソレノイド巻線を施す。このように磁性体コア1−1に対し、第1検出コイル3と第2検出コイル4を巻くことで、検出コイルの入力軸が直交する。環状の磁性体コア1−1と、励磁コイル2−1と、コイル固定手段11−1と、第1検出コイル3と、第2検出コイル4とにより第1及び第2センサ部110を構成する。なお、センサ部の図面の向きを図10(A)、(B)、(C)、の表現で表す。図7に示すように、非磁性体のシャフト320の切り欠き部321に第1及び第2センサ部110を配置する。なお、第1及び第2センサ部110は、図7において、平面図として示されている。
【0028】
<第3センサ部310>
図11を用いて第3センサ部310を説明する。図9(A)のように磁性体コア1−1と同様の磁性体コア1−2に励磁コイル2−2としてトロイダル巻線を施す。
【0029】
励磁コイル2−2を図9(B)のコイル固定手段11−2の励磁コイル嵌合部11aに嵌め込む。さらに、磁性体コアの外側に(第3検出コイル用溝部11cに)、第3検出コイル5としてソレノイド巻線を施す。さらに、第3検出コイル5に直交するように、磁性体コアの外側に(補正コイル用溝部11bに)、補正コイル6としてソレノイド巻線を施す。このように磁性体コア1−2に対し、第3検出コイル5と補正コイル6を巻くことで、第3検出コイル5と補正コイル6の入力軸が直交する。磁性体コア1−2と、励磁コイル2−2と、コイル固定手段11−2と、第3検出コイル5と、補正コイル6とにより第3センサ部310を構成する。図7に示すように、シャフト320の切り欠き部322に第3センサ部310を配置する。なお、第3センサ部310は、図7において、背面図として示されている。図7及び8に示すように、切り欠き部321と322の成す面が直交し、第3検出コイル5の入力軸が第1検出コイル3及び第2検出コイル4のそれぞれの入力軸に対し直交するように配置することで、3軸のフラックスゲート型磁気センサを構成することができる。
【0030】
<励磁回路120−1及び120−2>
励磁回路120−1は励磁コイル2−1に、励磁回路120−2は励磁コイル2−2に、それぞれ接続され、励磁コイル2−1及び励磁コイル2−2に励磁電流を供給する。なお、図5において、励磁コイル2−1及び2−2それぞれに対して、励磁回路120−1及び120−2を設けているが、励磁回路120−1及び120−2は共通の励磁回路であってもよい。
【0031】
<信号検出/フィードバック回路130−1、130−2及び130−3>
第1検出コイル3は信号検出/フィードバック回路130−1に、第2検出コイル4は信号検出/フィードバック回路130−2に、第3検出コイル5は信号検出/フィードバック回路130−3にそれぞれ接続される。
【0032】
信号検出/フィードバック回路130−1〜130−3は、それぞれ検出コイル3〜5の出力を検出し、出力信号をその検出コイルにフィードバックする。各検出コイル3,4及び5は、それぞれ第1、第2及び第3フィードバック磁界H’、H’、H’、を作り、磁気センサ910と同様の方法によりセンシングを行う。つまり、信号検出/フィードバック回路130−1、130−2及び130−3は、それぞれのフィードバック電流によって、外部磁界を検出する。
【0033】
<補正信号生成回路61>
補正信号生成回路61は、第1検出コイル3及び第2検出コイル4の少なくとも一方の出力から、補正コイル6へ印加する補正電流を生成する。例えば、本実施例では、第2検出コイル4の出力から、補正コイル6へ印加する補正電流を生成する。図6を用いて説明する。補正信号生成回路61は、バッファアンプ62−2と抵抗65とからなる。バッファアンプ62−2は、第2検出コイル4の出力が入力される。バッファアンプ62−2のゲインはゲイン調整端子63−2で設定される。補正コイル6の一端は抵抗器65を介してバッファアンプ62−2に接続され、他端はシグナルグランド66に接続されており、バッファアンプ62−2の出力を補正コイル6へ印加すると、補正コイル6が補正磁界H’を作る。ゲイン調整端子63−2で設定されるゲインの大きさの求め方については後述する。
【0034】
<補正コイルの配置>
図12に示すように、例えば、補正コイル6が作る補正磁界H’が、第1磁性体コア1−1に巻かれた第1検出コイル3と第2検出コイル4が生成するフィードバック磁界H’とH’の間に生じる干渉を、打ち消せる(相殺する)位置及び方向に、磁性体コア1−2及び補正コイル6を配置する。例えば、図7及び8のようにx軸方向において、補正コイル6と第1及び第2検出コイルをずらして配置し、それぞれの磁性体コアの中心間の距離を約35mmとする。例えば、補正コイル6が作る補正磁界H’の向きが、第2検出コイル4が作るフィードバック磁界H’の向きとほぼ逆方向になるように配置し、第2検出コイル4の出力に応じて補正コイル6に印加する補正電流の量を調整すると、補正コイル6が作る補正磁界H’が、直交するフィードバック磁界の相互干渉を相殺するように働き、第1検出コイル3による磁気検出感度の直線性を補償することができる。
【0035】
<補正磁界の調整>
補正磁界の最適値は、干渉を起こす検出コイル3及び4と補正コイル6との距離、位置関係、方向等により異なるため、切り欠き部321及び322内で第2検出コイル4及び補正コイル6の距離、位置関係、方向等を調整可能な構成としておく。
【0036】
例えば、図13のような構成とし、温度を印加し、第2検出コイル4の出力を用いて、補正磁界を生成しながら、第1検出コイル3の磁気センサ感度の変化をモニターし、温度特性カーブの非直線性が最小となるように、バッファアンプ62−2のゲインや、相殺しようとする干渉を起こす検出コイルと補正コイル6との距離、位置関係、方向や、補正コイル6の巻数を調整する。この調整により、予めこのゲイン等を決定しておき、実際の使用においては、2つの検出コイルのうちの少なくとも一方の出力を用いて、補正電流の大きさを決定し、補正磁界を調整する。
【0037】
<効果>
このような構成により、直交する2軸間の干渉は抑えられ、結果として図4の破線で示すように、温度に対して磁気感度の変化量はほぼ線形となる。これにより、磁気感度変化量を容易に補正することができ、正確なセンシングが可能となる。また、高温用のアプリケーションに対しても適用可能となる。
【0038】
なお、図4は従来の多軸フラックスゲート型磁気センサ920と多軸フラックスゲート型磁気センサ100の磁気感度の変化量と温度の関係を示す。なお、各検出コイル3〜5及び補正コイルの巻数は全て同じとし、検出コイル3及び4と補正コイルの距離は約35mmとし、補正コイルの入力軸は、x軸と平行であり、第2検出コイル4の出力を補正信号生成回路61の入力とし、補正信号生成回路61の出力を補正コイル6に供給し、補正コイル6が補正磁界を作る。
【0039】
図4のデータ取得手順は以下の通りである。(1)x軸を地磁気と直交するよう、姿勢を設定する。(2)地磁気の伏角を基準に、45°毎に8ポイント(1周分)、それぞれの点において、第2検出コイル4、第3検出コイル5の出力電圧を測定する。なお、第1検出コイル3の入力軸(x軸)周りに回転させた時のデータとなるので、当然、第1検出コイル3の出力電圧はほぼ0となる。また、地磁気の伏角は、測定する地域によって異なる。(3)y軸を地磁気と直交するよう、姿勢を設定し、(2)と同様の手順で、第1検出コイル3、第3検出コイル5の出力電圧を測定する。(4)z軸を地磁気と直交するよう、姿勢を設定し、(2)と同様の手順で、第1検出コイル3、第2検出コイル4の出力電圧を測定する。但し、測定軸の順(2)〜(4)は、必ずしもx軸、y軸、z軸の順である必要はない。上記に従って測定したデータより、「反復Total Field Calibration 手法」を用いて(参考文献2参照)、地磁気センサの特性値(バイアス、感度、ミスアライメント)を算出する。
[参考文献2]R. Estes, P. Walters, “Improvement of Azimuth Accuracy by Use of Iterative Total Field Calibration Technique and Compensation for System Environment Effects”, SPE Annual Technical Conference and Exhibition, Society of Petroleum Engineers, 1989, SPE 19546, p.287-298
【0040】
各温度で(1)〜(4)を繰返し、それぞれの温度でのセンサ特性値を求め、第1検出コイルの出力に基づき「反復Total Field Calibration 手法」により得られた磁気センサ感度をプロットすることで、図4の温度特性カーブを求めた。
【0041】
本実施例では、磁性体コア1−1と1−2を同一の構成としているため、生産効率を向上させることができる。さらに、励磁コイル2−1と2−2や、コイル固定手段11−1と11−2を同一の構成とすることで、同様の効果を得ることができる。さらに、検出コイル3、4、5を全て同一の構成とすることで、生産効率を向上させることができる。本実施例では、多軸フラックスゲート型磁気センサ920において、第3検出コイル5と同じ磁性体コアに巻かれ、第3検出コイル5に対し直交するコイルを補正コイル6として用いているため、補正コイル6と補正信号生成回路61以外の新たな部品等を増やすことなく、正確なセンシングを可能としている。
【0042】
[変形例]
各検出コイル4〜6は、入力軸が直交すればよく、各磁性体コアに全体に対しソレノイド巻線を施すのではなく、図14のように、磁性体コアの一部に対し、巻線を施したものであってもよい。
【0043】
また、各磁性体コアの形状は、それぞれ必要とされる検出コイルまたは補正コイルを巻くことができればよい。よって、各磁性体コアの形状(環状)は、実施例に示した円環状に限定されるものではなく、矩形環状、多角形環状、楕円環状等であってもよい。
【0044】
また、本実施例では、検出コイルの入力軸が3軸だが、2軸であってもよいし、4軸以上であってもよい。
【0045】
また、本実施例では、補正コイル6の入力軸を相殺しようと直交軸間干渉を起こす検出コイルのうちの一方の第1検出コイル3の入力軸と平行に、かつ、他方の第2検出コイル4の入力軸と直交するように配置しているが、相殺しようとする干渉を、打ち消せる位置及び方向に配置すればよい。
【0046】
例えば、図15は、検出コイルの入力軸が2軸であり、磁性体コア1−1と1−2を同一平面上に配し、補正コイル6の入力軸を、第1検出コイル3の入力軸と直交するように、かつ、第2検出コイル4の入力軸と逆方向に配置した場合の例を示す。
【0047】
また、補正コイルが巻かれる磁性体コア1−2の形状は、棒状等、他の形状であってもよい。また、磁性体コア1−2の材質が磁性体コア1−1と異なってもよい。
【0048】
本実施例の補正信号生成回路61は、第2検出コイル4の出力から、補正コイル6へ印加する補正電流を生成しているが、第1検出コイル3及び第2検出コイル4の両方の出力から、補正コイル6へ印加する補正電流を生成してもよい。
【0049】
図6を用いて説明する。補正信号生成回路61は、バッファアンプ62−1及び62−2と、加算回路64と、抵抗器65とからなる。バッファアンプ62−1は第1検出コイル3の出力が入力され、バッファアンプ62−2は第2検出コイル4の出力が入力される。バッファアンプ62−1のゲインはゲイン調整端子63−1で、バッファアンプ62−2のゲインはゲイン調整端子63−2で設定される。加算回路64は、バッファアンプ62−1及び62−2の出力が入力され、これを加算し出力とする。補正コイル6の一端は抵抗器65を介して加算回路64に接続され、他端はシグナルグランド66に接続されており、加算回路64の出力を補正コイル6へ印加すると、補正コイル6が補正磁界を作る。
【0050】
例えば、図16のような構成とし、補正磁界の最適値を以下のようにして求める。温度を印加し、第1検出コイル3及び第2検出コイル4の出力を用いて、補正磁界を生成しながら、第1検出コイル3の磁気センサ感度の変化をモニターし、温度特性カーブの非直線性が最小となるように、バッファアンプ62−1及び62−2のゲインや、相殺しようとするフィードバック磁界を作る検出コイル(例えば、第2検出コイル4)と補正コイル6との距離、位置関係、方向や、補正コイル6の巻数を調整する。
【0051】
なお、図16では、第1検出コイル3の入力軸と補正コイル6の入力軸のなす角が45°とし、第2検出コイル4の入力軸と補正コイル6の入力軸のなす角が135°とし、補正コイル6の作る補正磁界H’が、第1フィードバック磁界H’及びH’の両方に対し、影響し、直交軸間の干渉を相殺する。直交するフィードバック磁界を生成する2軸のフィードバック電流から、直交する2軸間の干渉量を推定するため、より正確に干渉を相殺し、より正確なセンシングが可能となる。
【0052】
また、本実施例では補正コイルは1つであるが、2つの補正コイルと2つの補正信号生成回路を設け、2つの検出コイルのそれぞれに対応させ、各補正信号生成回路が、対応する検出コイルの出力から、対応する補正コイルに印加する補正電流を生成し、それぞれのフィードバック磁界のうち干渉している磁界を相殺し、直交する2軸間の干渉を打ち消す構成としてもよい。
【符号の説明】
【0053】
900,910 フラックスゲート型磁気センサ
920,100 多軸フラックスゲート型磁気センサ
110 第1及び第2センサ部
210,310 第3センサ部
1,1−1,1−2 磁性体コア
2,2−1,2−2 励磁コイル
3,4,5 検出コイル
6 補正コイル
61 補正信号生成回路
120,120−1,120−2 励磁回路
130、130−1,130−2,130−3 信号検出/フィードバック回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の第1磁性体コアと、第1磁性体コアに巻かれた第1励磁コイルと、第1磁性体コアに互いの入力軸が直交するように巻かれた2つの検出コイルと、検出コイルの出力を検出し、出力信号をその検出コイルにフィードバックする2つの信号検出/フィードバック部と、前記第1励磁コイルに励磁電流を供給する第1励磁部と、を有する多軸フラックスゲート型磁気センサであって、
第2磁性体コアと、
第2磁性体コアに巻かれた補正コイルと、
前記検出コイルの出力から、前記補正コイルへ印加する補正電流を生成する補正信号生成部と、を備え、
前記補正コイルが作る補正磁界が、前記第1磁性体コアに巻かれた2つの検出コイル間の干渉を、打ち消せる位置及び方向に、前記第2磁性体コア及び補正コイルを配置する、
ことを特徴とする多軸フラックスゲート型磁気センサ。
【請求項2】
請求項1記載の多軸フラックスゲート型磁気センサであって、
前記第2磁性体コアは環状であり、
前記第2磁性体コアに巻かれた第2励磁コイルと、
前記第2磁性体コアに巻かれた第3検出コイルと、
第3検出コイルの出力を検出し、出力信号を第3検出コイルにフィードバックする第3信号検出/フィードバック部と、
前記第2励磁コイルに励磁電流を供給する第2励磁部と、を備え、
前記補正コイルと前記第3検出コイルの入力軸が直交する、
ことを特徴とする多軸フラックスゲート型磁気センサ。
【請求項3】
請求項1または2記載の多軸フラックスゲート型磁気センサであって、
前記第1磁性体コアと前記第2磁性体コアは同一の構成であり、
前記第1励磁コイルと前記第2励磁コイルは同一の構成であり、
第1磁性体に互いに直交するように巻かれた2つの検出コイルと、前記第2磁性体コアに前記補正コイルに直交するように巻かれた検出コイルは、全て同一の構成である、
ことを特徴とする多軸フラックスゲート型磁気センサ。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の多軸フラックスゲート型磁気センサであって、
第3検出コイルの入力軸は、第1磁性体に巻かれた2つの検出コイルの入力軸それぞれに対し直交するように配置される、
ことを特徴とする多軸フラックスゲート型磁気センサ。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の多軸フラックスゲート型磁気センサであって、
前記補正信号生成部の入力は、第1磁性体に巻かれた2つの検出コイルのうちの何れか一方の信号である、
ことを特徴とする多軸フラックスゲート型磁気センサ。
【請求項6】
請求項1から4の何れかに記載の多軸フラックスゲート型磁気センサであって、
前記補正信号生成部の入力は、第1磁性体に巻かれた2つの検出コイルの信号である、
ことを特徴とする多軸フラックスゲート型磁気センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−214934(P2011−214934A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82146(P2010−82146)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】