説明

多輪駆動車両の動力ユニット

【課題】従来の多輪駆動車両において、左右に軸心を有するエンジンとトランスミッションを前後に並設し、左右一側のベルト伝動装置で駆動連結する縦型動力ユニットでは、コンパクト化が難しく、前後に軸心を有するエンジンとトランスミッションを左右に並設し、前後一側のベルト伝動装置で駆動連結する横型動力ユニットでは、傾斜したベルト伝動装置の下方に動力取出軸を通すため最上高さが高くなる、という問題があった。
【解決手段】エンジン出力軸49と変速入力軸50を、同一水平面上で左右平行に配置し、該エンジン出力軸49と変速入力軸50の同側端間に、ベルト伝動装置7を横設すると共に、該エンジン出力軸49と変速入力軸50間に、トランスミッション8からの変速動力を取り出す動力取出軸34を互いに平行に介設し、該動力取出軸34は前記ベルト伝動装置7を前後方向に貫通する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン、トランスミッション、及び該トランスミッションへの変速入力軸と前記エンジンからのエンジン出力軸との間を駆動連結するベルト伝動装置より構成し、多輪駆動車両の機体前後に配置した車軸駆動装置に、前記トランスミッションからの変速動力を伝達する多輪駆動車両の動力ユニットに関し、特に、トランスミッションから変速動力を取り出す動力取出軸の配置構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の運搬車等の多輪駆動車両(以下、単に「車両」とする。)においては、左右方向にエンジン出力軸の軸心を有するエンジンの直後方に、同じく左右方向に各変速軸の軸心を有するトランスミッションを並設し、該変速軸のうちの変速入力軸と前記エンジン出力軸を車両の左右一側に延設し、該変速入力軸の軸端とエンジン出力軸の軸端との間をベルト伝動装置によって駆動連結して成る動力ユニット(以下、「縦型動力ユニット」とする。)に関する技術が公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、該縦型動力ユニットにおいて、前記トランスミッションからの変速動力を車両前部にある前車軸駆動装置まで伝達するには、トランスミッションで前記ベルト伝動装置とは左右反対側に動力取出部を突出して形成すると共に、該動力取出部からは、トランスミッションの前方のエンジンと干渉しないように、動力取出軸を前車軸駆動装置まで迂回して延設する必要があった。
そのため、動力ユニットの左右幅の増加が避けられず、エンジンとトランスミッションを前後に並設して前後長が長いことも相俟って、縦型動力ユニットのコンパクト化は困難であった。
【0003】
これに対し、前後方向にエンジン出力軸の軸心を有するエンジンの左右一側に、同じく前後方向に各変速軸の軸心を有するトランスミッションを並設し、変速入力軸と前記エンジン出力軸を車両の前後一側に延設し、該変速入力軸の軸端とエンジン出力軸の軸端との間をベルト伝動装置によって駆動連結して成る、前後長が短い動力ユニット(以下、「横型動力ユニット」とする。)による対応が考えられる。該横型動力ユニットの場合も、トランスミッションからの変速動力を車両前後部にある車軸駆動装置まで伝達するには、トランスミッションの前方または後方に配置したベルト伝動装置との干渉を避ける必要があるが、それには、動力取出軸を迂回させるのではなく、ベルト伝動装置のの配置構成を変更する対応が考えられる。
【0004】
例えば、エンジン出力軸よりも変速入力軸を高位置にしてベルト伝動装置を上下傾斜姿勢で配置し、該ベルト伝動装置において上昇した変速入力軸側の下方空間を通過するように、前記動力取出軸を前後方向に配置することにより、ベルト伝動装置を迂回することなく、動力取出軸をそのまま車軸駆動装置まで延設することができ、前述のような動力取出部が不要となって、動力ユニットの左右幅の増加も避けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−76548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述のような横型動力ユニットにおいては、ベルト伝動装置を上下傾斜姿勢で配置するために動力ユニットの最上高さが高くなり、車両における配置位置が限定されると共に、車両の重心が高くなって旋回時の安定性も低下する、という問題があった。
更に、少しでも前記最上高さを低くしようとすると、トランスミッション内における変速入力軸と動力取出軸とが接近し、変速構造の緻密化・複雑化が避けられずに組立性・メンテナンス性が悪化する、という問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
すなわち、請求項1においては、エンジン、トランスミッション、及び該トランスミッションへの変速入力軸と前記エンジンからのエンジン出力軸との間を駆動連結するベルト伝動装置より構成し、多輪駆動車両の車両前後に配置した車軸駆動装置に、前記トランスミッションからの変速動力を伝達する多輪駆動車両の動力ユニットにおいて、前記エンジン出力軸と変速入力軸を、同一水平面上で左右平行に配置し、該エンジン出力軸と変速入力軸の同側端間に、前記ベルト伝動装置を横設すると共に、該エンジン出力軸と変速入力軸の間に、前記トランスミッションからの変速動力を取り出す動力取出軸を互いに平行に介設し、該動力取出軸は前記ベルト伝動装置を前後方向に貫通して配置するものである。
請求項2においては、前記動力取出軸は、前記ベルト伝動装置内で巻回されたベルトの回転軌道の内部を通過するものである。
請求項3においては、前記ベルト伝動装置は、基部を開閉自在に設けた運転座席の直下方に配設するものである。
請求項4においては、前記動力ユニットは、運転座席と一緒に平面視で車両略中央に集中配置するものである。
請求項5においては、前記動力取出軸は、前方の前車軸駆動装置への前ドライブシャフトの後端部と、後方の後車軸駆動装置への後ドライブシャフトの前端部に軸継手を介して連結し、該軸継手の少なくとも一方には自在継手を使用するものである。
請求項6においては、前記動力取出軸は、前後のドライブシャフトと略同一軸心上に配設するものである。
請求項7においては、前記動力取出軸は、前方の前車軸駆動装置への前ドライブシャフトの後端部と、後方の後車軸駆動装置への後ドライブシャフトの前端部に軸継手を介して連結し、該軸継手の全てに、駆動側軸と従動側軸を略同一軸心上でのみ連結可能な同軸継手を使用するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、以上のように構成したので、以下に示す効果を奏する。
すなわち、請求項1により、ベルト伝動装置を上下傾斜姿勢で配置する場合に比べて、動力ユニットの最上高さを低く抑えることができ、車両における動力ユニットの配置自由度を高めると共に、車両の重心が低くなって旋回時の安定性も向上する。そして、前後長、左右幅に加えて高さも低くなって、高さ方向でも動力ユニットのコンパクト化を図ることができる。更に、トランスミッションにおける変速入力軸と動力取出軸を離間して配置することができ、変速構造を簡素化して組立性・メンテナンス性も良好となる。
請求項2により、ベルトの回転軌道の内部空間を利用して動力取出軸を配置することができ、該動力取出軸のための配置空間をベルト伝動装置に別途に設ける必要がなく、ベルト伝動装置の大きさを最小限に抑えて動力ユニットの一層のコンパクト化を図ることができる。
請求項3により、運転座席の下方空間を利用してベルト伝動装置を配置することができ、空き空間の減少による車両のコンパクト化、ベルト伝動装置へのアクセスの容易化によるメンテナンス性の向上、及びベルト伝動装置へのアクセス用の開口を塞ぐための蓋体として前記基部を使用することによる部品コストの低減を図ることができる。
請求項4により、重量物を車両略中央に配置することができ、車両の重量バランスが良好となって走行安定性が向上する。
請求項5により、たとえ動力取出軸と前後のドライブシャフトの間で略同一軸心上にない連結部があっても、自在継手を使うことにより前後の車軸駆動装置に確実に動力を伝達することができ、動力ユニットや車軸駆動装置の配置自由度を高めることができる。
請求項6により、たとえ各装置の配置精度に余裕を持たせるために自在継手を使う場合であっても、該自在継手を使った連結部の騒音や振動を軽減することができ、車両走行時の快適性を向上することができる。
請求項7により、自在継手を使った動力伝達時の騒音や振動を確実に回避することができ、車両走行時の快適性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係わる運搬車の全体構成を示す全体側面図である。
【図2】動力ユニット5を搭載する運搬車の動力伝達構成を示すスケルトン図である。
【図3】動力ユニット5の前方斜視図である。
【図4】動力ユニット5の動力取出軸周囲の平面図である。
【図5】別形態の動力ユニット5Aを搭載する運搬車の動力伝達構成を示すスケルトン図である。
【図6】動力ユニット5Aの動力取出軸周囲の平面図である。
【図7】別形態の動力ユニット5Bを搭載する運搬車の動力伝達構成を示すスケルトン図である。
【図8】別形態の動力ユニット5Cを搭載する運搬車の動力伝達構成を示すスケルトン図である。
【図9】別形態の動力ユニット5Dを搭載する運搬車の動力伝達構成を示すスケルトン図である。
【図10】別形態の動力ユニット5Eを搭載する運搬車の動力伝達構成を示すスケルトン図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
なお、図中の矢印Fで示す方向を多輪駆動車両である運搬車の前進方向とし、以下で述べる各部材の位置や方向等はこの前進方向を基準とするものである。
【0011】
まず、本発明に係わる運搬車1の全体構成について、図1、図2により説明する。
該運搬車1の本体は、前部フレーム2と後部フレーム3とを前後に連接して構成される。そして、このうちの後部フレーム3は、平面視略直方形の水平状の床板3aと、該床板3aの前後左右端に立設した鉛直状の側板3bとより成るものであり、該後部フレーム3の上方には、荷台4が上下回動可能に支持されている。
【0012】
該後部フレーム3の前半には、本発明に係わる動力ユニット5を構成するトランスミッション8とエンジン6とが左右に並設される一方、該後部フレーム3の後半には、略左右中央に後車輪駆動装置10が配設されている。
【0013】
該後車輪駆動装置10のハウジング18内には、左右一対の後車軸12・12間を差動的に連結する差動装置15、該差動装置15をロックするためのデフロック機構16、及び後車軸12・12に制動力を付与する摩擦式のブレーキ装置17・17が収容されている。
【0014】
このうちの差動装置15は、後車軸12・12と同一回転軸心を有するようにハウジング18内に回転自在に支持されたデフケース19と、該デフケース19に固設されたリングギア20と、前記デフケース19の回転軸線に対して直交配置されデフケース19と一体的に回転するピニオン軸21と、該ピニオン軸21に回転自在に配置されるピニオン22・22と、該ピニオン22・22に噛合されるデフサイドギア23・23とから構成されている。
【0015】
前記デフロック機構16は、デフケース19のリングギア20固設側の後車軸12上に軸方向摺動自在に設けたデフロックスライダ24と、該デフロックスライダ24に固設されて先端をリングギア20に係合させる係合爪25と、該係合爪25の先端を係止可能にリングギア20の背面に設けた被係合爪26とより構成される。そして、該デフロックスライダ24は、図示せぬデフロックレバーに連係されており、該デフロックレバーの操作によって、デフロックスライダ24が摺動して係合爪25が被係合爪26に係止され、デフケース19と後車軸12が一体的に連結され、差動装置15がロックされて左右の後車軸12・12が同一回転数で駆動される。
【0016】
前記ブレーキ装置17は、前記後車軸12に相対回転不能に係止した摩擦板27と、ハウジング18に係止すると共に前記摩擦板27に交互に積層させた摩擦板28とを備え、両摩擦板27・28を図示せぬ押圧機構によって押圧可能に構成される。そして、該押圧機構は図示せぬブレーキレバーに連係されており、該ブレーキレバーの操作によって、両摩擦板27・28が押圧され、後車軸12・12が制動される。
【0017】
このような後車軸駆動装置10のハウジング18の前部からは、回転自在に支持された入力軸29が前方に突設されると共に、該入力軸29の後端にはベベルギア30が設けられ、該ベベルギア30に前記リングギア20が噛合される。一方、入力軸29の前端は、前記動力ユニット5からの後ドライブシャフト31の後端に、自在継手32を介して連動連結されており、これにより、動力ユニット5からの動力が、入力軸29よりベベルギア30を介して後車軸駆動装置10に入力され、後車軸12・12に固定された後輪14・14を駆動可能としている。
【0018】
また、前記前部フレーム2の後半には、前記動力ユニット5を構成するベルト伝動装置7が、前記トランスミッション8とエンジン6の前方に配置される一方、該前部フレーム2の前半は、その後半より一段高くし、その下方の略左右中央に前車輪駆動装置9が配設されている。
【0019】
該前車輪駆動装置9は、左右一対の前車軸11・11を有し、該前車軸11・11は、前部フレーム2の前半の左右各外側にて操舵可能に配した左右一対の前輪13の前輪軸13aと略同一軸心上に配置されると共に、該前輪軸13aに自在継手36及び伝動軸37を介して駆動連結されている。該前部フレーム2の前半はフロントカバー38で覆われ、該フロントカバー38の後端上部に操作・計器盤が配置され、その上方に丸形ハンドル39が配設されると共に、該丸型ハンドル39の更に後方に、運転座席47が配置される。そして、前記前部フレーム2の前部左右各側端から各前輪軸13aに対しては、それぞれ、コイルバネやショックアブソーバ等で構成される通例のサスペンション機構が延設されて、両前輪13・13が独立的に懸架されている。
【0020】
更に、前車軸駆動装置9のハウジング40の後部からは、回転自在に支持された入力軸42が後方に突設されると共に、該入力軸42の前端にはベベルギア43が設けられ、該ベベルギア43には、双方向クラッチ機構41のセンターギア44が噛合される。一方、入力軸42の後端は、前記動力ユニット5からの前ドライブシャフト45の前端に同軸継手46を介して連動連結されており、これにより、動力ユニット5からの動力が、入力軸42からベベルギア43を介して前車軸駆動装置9に入力され、前輪軸13a・13aに固定された前輪13・13を駆動可能としている。
【0021】
なお、前記双方向クラッチ機構41とは、後輪14・14を駆動する動力ユニット5によって駆動される入力軸42と左右の前車軸11・11との間に、それぞれ双方向クラッチを介在させるものであって、該双方向クラッチの内輪と外輪に、それぞれ、入力軸42側の回転と前車軸11側の回転を入力する。この際、駆動力を伝達する内輪の回転速度よりも外輪の回転速度が常に速くなるように設定することにより、前後進のいずれにおいても、後輪14がスリップして前輪13の回転速度が低下した時に初めて、双方向クラッチが係合して前車軸11への動力伝達が開始する構成となっている。
【0022】
このような前車軸駆動装置9により、通常は後輪14・14のみの駆動による二輪駆動で走行し、該後輪14・14がスリップしたときにのみ、自動的に双方向クラッチが入って前輪13・13が駆動され、四輪駆動で走行可能としている。
【0023】
次に、前記動力ユニット5における動力伝達構成について、図2、図4により説明する。
該動力ユニット5は、前述の如く、エンジン6、ベルト伝動装置7、及びトランスミッション8より構成される。このうちのエンジン6は、クランク軸6aが前後方向に向くように配置され、該クランク軸6aの前端には、エンジン出力軸49が同軸継手48を介して略同一軸心上で連結される。そして、該エンジン出力軸49は、前記ベルト伝動装置7の伝動ケース51に設けた軸受を介して回転自在に支持される。
【0024】
前記ベルト伝動装置7においては、前記エンジン出力軸49の先端部に割りプーリ構造を成す駆動プーリ52が設置され、同様にして、前記エンジン出力軸49と同一水平面上で左右平行に配置された変速入力軸50の先端部にも、割りプーリ構造を成す従動プーリ53が設置され、該従動プーリ53と前記駆動プーリ52との間にはベルト54が巻回される。そして、駆動プーリ52にてベルト54を挟持する間隔と、従動プーリ53にてベルト54を挟持する間隔をそれぞれ自在に変えることにより、駆動プーリ52と従動プーリ53におけるベルト54の回転半径を変更することができ、これにより、エンジン6からの動力を、無段でシフト可能に、エンジン出力軸49から変速入力軸50に向かって伝達できるようにしている。
【0025】
前記トランスミッション8のミッションケース55内には、前記変速入力軸50と同軸継手58を介して略同一軸心上で連結される伝動軸56、変速動作が行われる変速軸57、及び前記前後の車軸駆動装置9・10への動力を取り出すための動力取出軸34が、いずれも、ミッションケース55に設けた軸受を介して、相対回転自在に互いに平行に支持される。
【0026】
該動力取出軸34は、前記伝動ケース51を貫通する前取出軸77の後端に、前記ミッションケース55を貫通する後取出軸78の前端を、同軸継手35を介して略同一軸心上で連結して構成される。なお、該同軸継手35は、前記前取出軸77の後端に形成されたスプライン筒体77aに、前記後取出軸78の前端に形成されたスプライン軸体78aを挿嵌して成るスプライン継手であって、前後の取出軸77・78を互いに相対回転不能に嵌合して、後取出軸78の回転を前取出軸77に伝達可能としている。
【0027】
そして、前記伝動軸56上には伝達駆動ギア59が固設され、それに対向するようにして、前記変速軸57の前部には伝達従動ギア60が固設され、該伝達従動ギア60は前記伝達駆動ギア59に噛合されている。
【0028】
更に、前記変速軸57上で伝達従動ギア60の後方には、前から順に、低速駆動ギア61、高速駆動ギア62、及び後進駆動ギア63が相対回転自在に支持されると共に、それぞれに対向するようにして、前記後取出軸78上には、3枚の従動ギア64・65・66が固設されている。このうちの高速駆動ギア62は、前記低速駆動ギア61のボス部上に相対回転自在に支持されている。
【0029】
そして、前記従動ギア64・65は、それぞれ、駆動ギア61・62に噛合されると共に、従動ギア66は、アイドルギア67を介して後進駆動ギア63に噛合される。更に、前記高速駆動ギア62と後進駆動ギア63との間の変速軸57上には、スプラインハブ68が配置され、該スプラインハブ68上には、クラッチスライダ69が相対回転不能かつ軸方向摺動自在に設けられている。
【0030】
これにより、クラッチスライダ69は、軸方向移動により、低速駆動ギア61のクラッチ歯部61a、高速駆動ギア62のクラッチ歯部62a、及び後進駆動ギア63のクラッチ歯部63aに対し選択的に係合自在とし、低速ギア列61・64、高速ギア列62・65、及び後進ギア列63・67・66を介することにより、低速、高速及び後進速の回転速度とトルクを、選択的に後取出軸78に対して付与できるようにして、前進2段と後進段から成るトランスミッション8が構成される。なお、図2に示す状態は、クラッチスライダ69が駆動ギア61・62・63のいずれとも係合しない中立状態を示している。
【0031】
このような構成において、トランスミッション8のクラッチスライダ69に図示せぬクラッチフォーク、リンク機構を介して連係された変速レバーを操作し、クラッチスライダ69を軸方向に移動させると、低速・高速の前進2段と後進1段の動力を、後取出軸78、つまり動力取出軸34から出力することができる。
【0032】
次に、前記動力取出軸34の配置構成について、図1乃至図4により説明する。
前記ベルト伝動装置7の伝動ケース51は、前ケース70と後ケース71に前後二分割して構成されており、前ケース70の正面視略中央で後方へ押し出して筒状に開口した後方押出し部70aと、後ケース71の正面視略中央で前方へ押し出して筒状に開口した前方押出し部71aとが前後から押圧されて連結することにより、前記伝動ケース51には、動力取出軸34にベルト伝動装置7を前後方向に貫通させるための筒状の開口部51aが形成される。
【0033】
該開口部51aは、前記動力取出軸34と略同一軸心上に形成されると共に、該動力取出軸34との間に所定の隙間が設けられており、たとえ動力取出軸34が回転中に振動しても、前記開口部51aの内壁にある接合代51b等の凸部とは接触しないようにしている。
【0034】
更に、該開口部51aは、前記プーリ52・53間に巻回されたベルト54の回転軌道の内部に形成することができる。なお、該開口部51aを回転軌道の外部に形成する場合には、伝動ケース51を拡大し、該拡大部分に前記開口部51aの配置空間を設ける等する必要があり、ベルト伝動装置7の大型化が避けられない。
【0035】
このような開口部51aを通るようにして伝動ケース51を通過した動力取出軸34は、その先端に前記前ドライブシャフト45の後端が自在継手72を介して連動連結されており、前記トランスミッション8から取り出した変速動力を、前ドライブシャフト45から前方の前車軸駆動装置9に入力できるようにしている。同様にして、動力取出軸34の後端には、水平面上で右斜め後方に傾斜した後ドライブシャフト31の前端が自在継手72を介して連動連結されており、前記トランスミッション8から取り出した変速動力を、後ドライブシャフト31から後方の後車軸駆動装置10に入力することができる。
【0036】
すなわち、エンジン6、トランスミッション8、及び該トランスミッション8への変速入力軸50と前記エンジン6からのエンジン出力軸49との間を駆動連結するベルト伝動装置7より構成し、多輪駆動車両である運搬車1の車両前後に配置した車軸駆動装置9・10に、前記トランスミッション8からの変速動力を伝達する運搬車1の動力ユニット5において、前記エンジン出力軸49と変速入力軸50を、同一水平面上で左右平行に配置し、該エンジン出力軸49と変速入力軸50の同側端間に、前記ベルト伝動装置7を横設すると共に、該エンジン出力軸49と変速入力軸50の間に、前記トランスミッション8からの変速動力を取り出す動力取出軸34を互いに平行に介設し、該動力取出軸34は前記ベルト伝動装置7を前後方向に貫通して配置するので、ベルト伝動装置7を上下傾斜姿勢で配置する場合に比べて、動力ユニット5の最上高さを低く抑えることができ、運搬車1における動力ユニット5の配置自由度を高めると共に、運搬車1の重心が低くなって旋回時の安定性も向上する。そして、前後長、左右幅に加えて高さも低くなって、高さ方向でも動力ユニット5のコンパクト化を図ることができる。更に、トランスミッション8における変速入力軸50と動力取出軸34を離間して配置することができ、変速構造を簡素化して組立性・メンテナンス性も良好となる。
【0037】
更に、前記動力取出軸34は、前記ベルト伝動装置7内で巻回されたベルト54の回転軌道の内部を通過するので、該内部空間を利用して動力取出軸34を配置することができ、該動力取出軸34のための配置空間をベルト伝動装置7に別途に設ける必要がなく、ベルト伝動装置7の大きさを最小限に抑えて動力ユニット5の一層のコンパクト化を図ることができる。
【0038】
また、このようにして動力取出軸34が貫通するベルト伝動装置7は、前述の如く、前部フレーム2の後半に支持される。該前部フレーム2も、前記後部フレーム3と同様に、床板2aと、該床板2aの前後左右端に立設した鉛直状の側板2bとより成るものであり、該前部フレーム2の上方には、前記フロントカバー38の後部に連設された階段状のミッドカバー73が覆設されている。
【0039】
該ミッドカバー73は、運転者の搭乗・運転・作業等の際の踏み板としての平面状の床部74の後部に、前記運転座席47を載置固定するL字状の座台部75が連設するようにして構成され、該座台部75の上部には、直下方で前記ベルト伝動装置7を臨む位置に上部開口75aが開口されている。そして、該上部開口75aを覆うようにして、前記運転座席47の基部47aが載置されている。
【0040】
該基部47aの前端は、前記座台部75から突設した支持ステー76に前後回動可能に支持されており、前記運転座席47を、該支持ステー76の左右方向の支軸76aを中心にして、前方に傾倒可能な構成としている。これにより、ベルト伝動装置7のメンテナンス時には、離座して運転座席47を前方に回動するだけで前記上部開口75aを開放することができ、該上部開口75aを通してベルト伝動装置7に容易にアクセスすることができる。
【0041】
すなわち、このように、前記ベルト伝動装置7は、基部47aを開閉自在に設けた運転座席47の直下方に配設するので、運転座席47の下方空間を利用してベルト伝動装置7を配置することができ、空き空間の減少による車両である運搬車1のコンパクト化、ベルト伝動装置7へのアクセスの容易化によるメンテナンス性の向上、及びベルト伝動装置7へのアクセス用の開口である上部開口75aを塞ぐための蓋体として前記基部47aを使用することによる部品コストの低減を図ることができる。
【0042】
また、前述の如く、ベルト伝動装置7は前部フレーム2の後半に配置され、エンジン6とトランスミッション8は後部フレーム3の前半に配置されており、これらエンジン6、ベルト伝動装置7、及びトランスミッション8から成る動力ユニット5は、平面視で車両略中央に配置されている。しかも、前述の如く、運転座席47もベルト伝動装置7の直上方に配置することから、重量物である動力ユニット5に加えて、運転者が着座する運転座席47も車両略中央に配置させるようにしている。
【0043】
すなわち、前記動力ユニット5は、運転座席47と一緒に平面視で車両略中央に集中配置するので、重量物を車両略中央に配置することができ、車両である運搬車1の重量バランスが良好となって走行安定性が向上する。
【0044】
次に、前記動力取出軸34と前後のドライブシャフト45・31との間の連結構成について、図4乃至図8により説明する。
なお、以下では、前記動力ユニット5と異なる点を中心に説明すると共に、各要素に用いた符号と同じ符号は、同一または同等の機能を有する要素を指すものであり、同じ符号を付した要素については、特に必要としない限り、説明は省略する。
【0045】
図5、図6に示す運搬車1Aの動力ユニット5Aは、前記動力ユニット5における動力取出軸34の前後の軸継手のうち、前ドライブシャフト45の後端との軸継手を、自在継手72から同軸継手79に変更したものである。
【0046】
該同軸継手79は、内周にスプラインを有する筒体として形成され、該同軸継手79に、前方からは前ドライブシャフト45後端のスプライン軸体45aを嵌挿すると共に、後方からは前取出軸77前端のスプライン軸体77bを嵌挿して、前ドライブシャフト45と動力取出軸34を略同一軸心上で連結し、動力ユニット5Aからの動力を前ドライブシャフト45に伝達可能としている。
【0047】
一方、動力取出軸34の後端と後ドライブシャフト31の前端との軸継手には、前記動力ユニット5と同様に、自在継手72を使用している。これは、後ドライブシャフト31が、水平面上で右斜め後方に傾斜して配置され、前後方向に延設された動力取出軸34とは角度をなした状態で連結されるからであり、該自在継手72を使用することにより、後ドライブシャフト31の左右傾斜の有無にかかわらず、動力取出軸34の動力を後ドライブシャフト31に伝達可能としている。なお、このような後ドライブシャフト31の左右傾斜は、動力ユニット5・5Aと後車軸駆動装置10間における左右方向の相対位置のずれによって発生するものであり、該ずれが設計上避けられない場合であっても、前記自在継手72によって対応することができる。
【0048】
すなわち、前記動力取出軸34は、前方の前車軸駆動装置9への前ドライブシャフト45の後端部と、後方の後車軸駆動装置10への後ドライブシャフト31の前端部に軸継手を介して連結し、該軸継手の少なくとも一方には自在継手72を使用するので、たとえ動力取出軸34と前後のドライブシャフト45・31の間で略同一軸心上にない連結部があっても、自在継手72を使うことにより前後の車軸駆動装置9・10に確実に動力を伝達することができ、動力ユニット5・5Aや車軸駆動装置9・10の配置自由度を高めることができる。
【0049】
更に、該動力ユニット5Aにおいては、前記動力ユニット5とは異なり、動力取出軸34を構成する前取出軸77と後取出軸78との間の軸継手が、前ドライブシャフト45と動力取出軸34との間の前記同軸継手79と同じものに変更されている。該同軸継手79に、前方からは前取出軸77後端のスプライン軸体77cを嵌挿すると共に、後方からは後取出軸78前端のスプライン軸体78aを嵌挿しており、前後の取出軸77・78が互いに相対回転不能に嵌合して略同一軸心上で連結されている。これにより、動力ユニット5Aに使用する複数の軸継手を共通化することができ、軸継手の在庫管理が容易となって管理コストの低減やメンテナンス性の向上を図ることができる。
【0050】
加えて、該動力ユニット5Aにおいては、前記動力ユニット5とは異なり、前取出軸77が伝動ケース51A内に形成した軸受部80によって回転自在に支持される。該軸受部80は、伝動ケース51Aを前後方向に貫通して固定される筒状の軸受カラー80aと、該軸受カラー80aの内周前後端に固定されたベアリング等の軸受80b・80bにより構成され、該軸受80b・80b内に前取出軸77が内挿されて回転自在に支持されている。これにより、前記動力ユニット5のように動力取出軸34が開口部51a内に無支持状態で配置される場合に比べ、連結部にある同軸継手79にかかる負荷や振動を軽減することができ、部品寿命の向上や騒音の低減を図ることができる。
【0051】
また、図7に示す運搬車1Bの動力ユニット5Bは、前記動力ユニット5における動力取出軸34と前後のドライブシャフト45・31とを略同一軸心上に配置した上で、軸34・45・31の間の連結部を全て前記同軸継手79に変更したものである。これにより、前記自在継手72を使用する場合に比べ、連結部における騒音や振動を軽減することができる。
【0052】
すなわち、前記動力取出軸34は、前方の前車軸駆動装置9への前ドライブシャフト45の後端部と、後方の後車軸駆動装置10への後ドライブシャフト31の前端部に軸継手を介して連結し、該軸継手の全てに、駆動側軸である動力取出軸34と従動側軸である前後のドライブシャフト45・31を略同一軸心上でのみ連結可能な同軸継手79を使用するので、自在継手72を使った動力伝達時の騒音や振動を確実に回避することができ、車両走行時の快適性を向上することができる。
【0053】
また、図8に示す運搬車1Cの動力ユニット5Cは、前記動力ユニット5における動力取出軸34と前後のドライブシャフト45・31とを略同一軸心上に配置したものである。該軸34・45・31の間の連結部の全てには、前記動力ユニット5と同様に、自在継手72を使用している。
【0054】
該自在継手72は、図4に示すように、両端の二股状の軸部72b・72cの間を十字形状の中間軸72aを介して連結したものであり、軸34・45・31の間が角度をなした状態で連結されていると、回転中のモーメントの変化等によって振動するが、このように軸34・45・31を略同一軸心上に配置することにより、連結部における騒音や振動を軽減することができる。
【0055】
すなわち、前記動力取出軸34は、前後のドライブシャフト45・31と略同一軸心上に配設するので、たとえ前後の車軸駆動装置9・10や動力ユニット5C等の各装置の配置精度に余裕を持たせるために自在継手72を使う場合であっても、該自在継手72を使った連結部の騒音や振動を軽減することができ、車両走行時の快適性を向上することができる。
【0056】
次に、前後輪13・14の回転方向を逆方向に変更可能な動力ユニット5D・5Eについて、図9、図10により説明する。
図9に示す運搬車1Dは、前記運搬車1において、動力ユニット5、前後の車軸駆動装置9・10、及び各装置間を連結連動する軸34・45・31から成る動力伝達機構全体を左右反転して配置することにより、動力ユニット5D、前後の車軸駆動装置9A・10Aとしたものである。
【0057】
左右反転後の動力伝達経路上の各軸の回転方向は、エンジン6のエンジン出力軸49から前車軸駆動装置9Aの入力軸42までは左右反転前と同一であるが、該入力軸42先端のベベルギア43と、前記前車軸11に連結するセンターギア44との噛合位置が、入力軸42の軸心を挟んで左側から右側に移行する。このため、センターギア44で回転方向が反転し、前車軸11に連結される前輪13の回転方向も反転する。後輪14の回転方向についても同様に反転する。
【0058】
すなわち、動力ユニット5、前後の車軸駆動装置9・10、及び各装置間を連結連動する軸34・45・31から成る動力伝達機構を左右反転して設置可能な構成とするので、エンジン6やトランスミッション8等の装置仕様が異なる場合であっても、もとの装置の左右を反転して移動するだけで、前後輪13・14の回転方向を適正な回転方向に容易に変更することができ、大きな設計変更を不要として製造コストを低減することができる。
【0059】
また、図10に示す運搬車1Eの動力ユニット5Eは、前記動力ユニット5における伝達駆動ギア59と伝達従動ギア60との間にアイドルギア81を介設したものである。これにより、前記伝達従動ギア60を固設した変速軸57の回転方向が、アイドルギア81設置前に対して反転し、前後輪13・14の回転方向も反転する。
【0060】
すなわち、動力ユニット5内の動力伝達経路途中に反転ギアとしてのアイドルギア81を介設するので、装置仕様に合わせて前後輪13・14の回転方向を適正な回転方向に容易に変更することができ、大きな設計変更を不要として製造コストを低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、エンジン、トランスミッション、及び該トランスミッションへの変速入力軸と前記エンジンからのエンジン出力軸との間を駆動連結するベルト伝動装置より構成し、多輪駆動車両の車両前後に配置した車軸駆動装置に変速動力を伝達する、全ての多輪駆動車両の動力ユニットに適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 多輪駆動車両(運搬車)
5 動力ユニット
6 エンジン
7 ベルト伝動装置
8 トランスミッション
9 前車軸駆動装置
10 後車軸駆動装置
31 後ドライブシャフト
34 動力取出軸
45 前ドライブシャフト
47 運転座席
47a 基部
49 エンジン出力軸
50 変速入力軸
54 ベルト
72 自在継手
79 同軸継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン、トランスミッション、及び該トランスミッションへの変速入力軸と前記エンジンからのエンジン出力軸との間を駆動連結するベルト伝動装置より構成し、多輪駆動車両の車両前後に配置した車軸駆動装置に、前記トランスミッションからの変速動力を伝達する多輪駆動車両の動力ユニットにおいて、前記エンジン出力軸と変速入力軸を、同一水平面上で左右平行に配置し、該エンジン出力軸と変速入力軸の同側端間に、前記ベルト伝動装置を横設すると共に、該エンジン出力軸と変速入力軸の間に、前記トランスミッションからの変速動力を取り出す動力取出軸を互いに平行に介設し、該動力取出軸は前記ベルト伝動装置を前後方向に貫通して配置することを特徴とする多輪駆動車両の動力ユニット。
【請求項2】
前記動力取出軸は、前記ベルト伝動装置内で巻回されたベルトの回転軌道の内部を通過することを特徴とする請求項1に記載の多輪駆動車両の動力ユニット。
【請求項3】
前記ベルト伝動装置は、基部を開閉自在に設けた運転座席の直下方に配設することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多輪駆動車両の動力ユニット。
【請求項4】
前記動力ユニットは、運転座席と一緒に平面視で車両略中央に集中配置することを特徴とする請求項3に記載の多輪駆動車両の動力ユニット。
【請求項5】
前記動力取出軸は、前方の前車軸駆動装置への前ドライブシャフトの後端部と、後方の後車軸駆動装置への後ドライブシャフトの前端部に軸継手を介して連結し、該軸継手の少なくとも一方には自在継手を使用することを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載の多輪駆動車両の動力ユニット。
【請求項6】
前記動力取出軸は、前後のドライブシャフトと略同一軸心上に配設することを特徴とする請求項5に記載の多輪駆動車両の動力ユニット。
【請求項7】
前記動力取出軸は、前方の前車軸駆動装置への前ドライブシャフトの後端部と、後方の後車軸駆動装置への後ドライブシャフトの前端部に軸継手を介して連結し、該軸継手の全てに、駆動側軸と従動側軸を略同一軸心上でのみ連結可能な同軸継手を使用することを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか一項に記載の多輪駆動車両の動力ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−247671(P2010−247671A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99291(P2009−99291)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000125853)株式会社 神崎高級工機製作所 (210)
【出願人】(591005165)ディーア・アンド・カンパニー (109)
【氏名又は名称原語表記】DEERE AND COMPANY
【Fターム(参考)】