説明

多重伝送装置および多重伝送方法

【課題】チップサイズを小さくすることができるディジタル処理を有する多重伝送装置および多重伝送方法を提供する。
【解決手段】データの多重化処理部、又は、データの多重化処理部と多重分離処理部とを有する多重伝送装置において、多重化処理部を、データの情報ビットを中心とした逆高速フーリエ変換により波形整形を行う前段IFFT回路202と、複数の前段IFFT回路202の出力を逆高速フーリエ変換した後補間して波形合成を行う後段IFFT回路203とから構成し、多重分離処理部を、受信した信号に受信ナイキストフィルタの時間応答波形を窓関数として乗算して畳み込み積分する窓関数乗算および畳み込み積分回路232と、窓関数乗算および畳み込み積分回路232の出力を高速フーリエ変換して周波数軸情報を得る高速フーリエ変換回路233とから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データを多重化する多重伝送装置および多重伝送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
データを多重化して伝送する多重伝送装置においては、送信データをシンボルに変換して変調および多重化する処理や、受信した信号を復調して分離する処理等のディジタル処理をICチップにして実装している。多重伝送する場合、送信側では信号点を周波数情報にして逆高速フーリエ変換した後に畳み込み積分を行って波形合成することにより時間軸情報とし、一方、受信側では、時間軸情報を高速フーリエ変換した後、畳み込み積分をして周波数情報を得るように構成されている(例えば、特許文献1〜6参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3747415号公報
【0004】
【特許文献2】特開平05−207001号公報
【特許文献3】特開平05−260100号公報
【特許文献4】特開平05−260109号公報
【特許文献5】特開平08−116347号公報
【特許文献6】特開平10−224271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の構成をICチップ化すると、送信側では畳み込み積分におけるメモリ量が膨大になり、また、受信側の処理が複雑で処理量が大きくなることから、チップサイズが大きくなり、この多重伝送装置のコストが高くなるという課題があった。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、チップサイズを小さくすることができるディジタル処理を有する多重伝送装置および多重伝送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、第1の本発明に係る多重伝送装置は、データの多重化処理部、又は、データの多重化処理部と多重分離処理部とを有するものであり、多重化処理部は、データの情報ビットを中心とした逆高速フーリエ変換により波形整形を行う第1の変換手段(例えば、実施形態における前段IFFT回路202)と、複数の第1の変換手段の出力を逆高速フーリエ変換した後補間して波形合成を行う第2の変換手段(例えば、実施形態における後段IFFT回路203)と、を有して構成される。
【0008】
このような第1の本発明に係る多重伝送装置において、第1の変換手段は、データを変調するための信号点発生手段(例えば、実施形態における信号点発生用ROM214)と、この信号点発生手段で発生した信号点をリアルパートおよびイマジナリパートにわけて逆高速フーリエ変換し、この信号点に対応する送信ベースバンド信号のリアルパートおよびイマジナリパートを出力する第1の逆高速フーリエ変換手段(例えば、実施形態におけるフィルタ係数用ROM215、リアルパート乗算回路216、1/2ナイキスト遅延回路217、イマジナリパート乗算回路218、および、畳み込み積分回路219)と、から構成される波形整形手段(例えば、実施形態における波形整形部210)を有することが好ましい。
【0009】
また、第2の変換手段は、複数の第1の変換手段の出力から、送信ベースバンド信号のリアルパートおよびイマジナリパートの組を、逆高速フーリエ変換する第2の逆高速フーリエ変換手段(例えば、実施形態における逆高速フーリエ変換回路225)と、第2の逆高速フーリエ変換手段の出力を時間軸上で加算し、補間フィルタの時間応答波形を窓関数として乗算した後、畳み込み積分を行って合成波形を出力する補間手段(例えば、実施形態における波形合成回路227およびインターポーレーション部228)と、を有することが好ましい。
【0010】
また、波形整形手段が、データを所定の時間だけ順次遅延させて出力するタップ遅延線と、このタップ遅延線から出力されたデータを選択し、信号点発生手段に入力するセレクタと、を有することが好ましい。
【0011】
さらに、第1の変換手段が、複数の波形整形手段と、これらの複数の波形整形手段の出力の各々を周波数シフトする回転手段(例えば、実施形態における回転回路部223)と、回転された出力を合成する加算手段(例えば、実施形態における合成回路224)と、を有することが好ましい。
【0012】
また、第2の本発明に係る多重伝送装置は、データの多重化処理部、又は、データの多重化処理部と多重分離処理部とを有するものであり、多重分離処理部が、受信した信号に受信ナイキストフィルタの時間応答波形を窓関数として乗算して畳み込み積分する窓関数および畳み込み積分手段(例えば、実施形態における窓関数および畳み込み演算回路232)と、窓関数および畳み込み積分手段の出力を高速フーリエ変換して周波数軸情報を得る高速フーリエ変換手段(例えば、実施形態における高速フーリエ変換回路233)と、を有して構成される。
【0013】
一方、第1の本発明に係る多重伝送方法は、データの多重化処理部、又は、データの多重化処理部と多重分離処理部とを有する多重伝送方法において、多重化処理部が第1の変換手段と第2の変換手段とを有し、第1の変換手段により、データの情報ビットを中心とした逆高速フーリエ変換により波形整形を行う第1のステップと、第2の変換手段により、複数の第1の変換手段の出力を逆高速フーリエ変換した後、補間して波形合成を行う第2のステップと、を有して構成される。
【0014】
このような第1の本発明に係る多重伝送方法において、第1の変換手段が、信号発生手段と第1の逆高速フーリエ変換手段とを備える波形整形手段を有し、第1のステップが、信号点発生手段により、データを変調した信号点を発生するステップと、第1の逆高速フーリエ変換手段により、信号点発生手段で発生した信号点をリアルパートおよびイマジナリパートに分けて逆高速フーリエ変換し、この信号点に対する送信ベースバンド信号のリアルパートおよびイマジナリパートを出力するステップと、を有することが好ましい。
【0015】
また、第2の変換手段が、第2の逆高速フーリエ変換手段と補間手段とを有し、第2のステップが、第2の逆高速フーリエ変換手段により、複数の第1の変換手段の出力から、送信ベースバンド信号のリアルパートおよびイマジナリパートの組を、逆高速フーリエ変換するステップと、補間手段により、第2の逆高速フーリエ変換手段の出力を時間軸上で加算し、送信ナイキストフィルタの時間応答波形を窓関数として乗算した後、畳み込み積分を行って合成波形を出力するステップとを、を有することが好ましい。
【0016】
また、波形整形手段が、タップ遅延線とセレクタとを有し、第1のステップが、タップ遅延線により、データを所定の時間だけ順次遅延させて出力し、セレクタによりこのタップ遅延線から出力されたデータを選択して、信号点発生手段に入力するステップを有することが好ましい。
【0017】
さらに、第1の変換手段が、複数の波形整形手段と回転手段と加算手段とを有し、第1のステップが、回転手段により、複数の波形整形手段の出力の各々を周波数シフトするステップと、加算手段により、回転された出力を合成して出力するステップと、を有することが好ましい。
【0018】
また、第2の本発明に係る多重伝送方法は、データの多重化処理部、又は、データの多重化処理部と多重分離処理部とを有する多重伝送方法において、多重分離処理部が、窓関数および畳み込み積分手段と高速フーリエ変換手段とを有し、窓関数および畳み込み積分手段により、受信した信号に受信ナイキストフィルタの時間応答波形を窓関数して乗算して畳み込み積分するステップと、高速フーリエ変換手段により、窓関数および畳み込み積分手段の出力を高速フーリエ変換して周波数軸情報を得るステップと、を有して構成される。
【発明の効果】
【0019】
第1の本発明に係る多重伝送装置を以上のように構成すると、多重化処理部を第1の変換手段と第2の変換手段とから構成することにより、この多重化処理部で必要とされるメモリ量を削減することができ、この多重化処理部が実装されるチップサイズを小さくすることができる。
【0020】
このとき、第1の変換手段を、信号点発生手段と第1の逆高速フーリエ変換とからなる波形整形手段で構成し、データから基本送信ベースバンド信号を出力するように構成することにより、第1の逆高速フーリエ変換の処理を簡単にすることができる。
【0021】
また、第2の変換手段を、第2の逆高速フーリエ変換手段と補間手段とから構成することにより、この第2の変換手段で必要とされるメモリ量も削減することができる。
【0022】
なお、波形整形手段にタップ遅延線とセレクタとを設け、データをタップ遅延線に入力し、セレクタで選択して信号点発生手段に入力するように構成することにより、第1の変換手段で必要なメモリ量は、タップ遅延線に用いられるメモリだけとなるため、この多重化処理部が実装されるチップサイズを小さくすることができる。
【0023】
また、第1の変換手段に複数の波形整形手段を設け、これらの出力を周波数シフトさせて合成して出力するように構成することにより、後段(第2の変換手段)の処理量を軽減させることができる。
【0024】
また、第2の本発明に係る多重伝送装置を以上のように構成すると、多重分離処理部で実行される高速フーリエ変換処理を1回とすることができるので、多重分離処理部の処理量を低減し、この多重分離処理部が実装されるチップサイズを小さくすることができる。
【0025】
一方、第1および第2の本発明に係る多重伝送方法を以上のように構成しても、この方法の実装において、メモリ量および処理量を低減することができるので、チップサイズを小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。まず、図1を用いて、本発明に係る多重伝送装置の構成について説明する。この多重伝送装置は、電力線搬送システムに適用した場合の送信側の多重化処理部と受信側の多重分離処理部との両方の構成を備えたモデム構成の場合を示し、ディジタル部1、アナログ部2、電源部3、送信ドライバ回路(DV)4、電力線に対して信号の送受信を行うトランス5、漏洩電界を抑圧するためのコモンモードチョーク(CMC)6、10BASE−Tや100BASE−TX等のLAN(屋内ローカルエリアネットワーク)との接続部7、および、RJコネクタ(RJ45)8から構成される。
【0027】
ディジタル部1は、接続部7で送受信データの授受を行うとともに時分割制御等を行うPLCメディアアクセス制御部(PLC−MAC)11、送信データを多重化して送信する多重化処理部12、および、受信した信号を分離して受信データとする多重分離処理部13から構成される。ここで、多重化処理部12は、スクランブラおよび和分回路(SCR&和分)14、信号点発生手段としての信号点発生部15、多重化する手段の要部を構成する逆高速フーリエ変換部(IFFT)16、変調部(MOD)17、および、D/A変換器(D/A)18から構成され、多重分離処理部13は、A/D変換器(A/D)19、復調部(DEM)20、高速フーリエ変換部(FFT)21、タイミング同期部(TIM抽出&PLL)22、信号点を判定する手段としての信号点判定部23、および、差分およびデスクランブル回路25から構成される。なお、このディジタル部1において、PLCメディアアクセス制御部11は、コントローラ(CPU)26により制御される。また、このディジタル部1の各部の機能を、プロセッサの演算処理機能により実現することも可能である。
【0028】
アナログ部2は、第1のローパスフィルタ(LPF1)31、ハイパスフィルタおよびゲインスイッチ部(HPF&GSW)32、第2のローパスフィルタ(LPF2)33、および、ディジタル制御水晶発振器(DCXO)34(電圧制御水晶発振器でも可能)から構成される。また、接続部7は、RJコネクタ8を介して入出力される信号(LANデータ)を処理するイーサネット(登録商標)処理部(Ether PHY)27およびフィルタリング処理、フラグメント処理、再送処理、暗号化処理、および、スイッチング処理等を行うPLCスイッチ部(PLC−SW)28から構成される。
【0029】
このような多重伝送装置において、10BASE−Tあるいは100BASE−TX側からRJコネクタ8を介して接続部7に入力されたLANデータは、イーサネット(登録商標)処理部27を経由して、PLCスイッチ部28に取り込まれる。このPLCスイッチ部28に取り込まれたデータは、フィルタリング/フレーミング/フラグメント/バッファリング/スイッチング等の機能を得て、PLCメディアアクセス制御部11に渡される。このPLCメディアアクセス制御部11では、コントローラ26からの指示の元に、時分割処理等を行い、コントローラ26からの制御情報(親局と子局間の会話)の転送やユーザデータのタイムスロット管理を実施する。そして、このPLCメディアアクセス制御部11から出力された送信データは、スクランブラおよび和分回路14に入力されて、データがランダム化され、送信スペクトルの安定化/漏洩電界の安定化が実現されるとともに、回線変動に耐えるべく位相和分が行われる。このランダム化および位相和分処理後、信号点発生手段としての信号点発生部15により複数チャネルの送信信号点が生成される。この信号点発生部15は、ROM等により構成することができるものであり、また、ノッチの生成やスペクトル拡散、さらには、雑音キャンセルのためのゼロ点挿入等を行う構成とすることができる。
【0030】
そして、複数チャネルの送信信号点である周波数軸上の情報は、逆高速フーリエ変換部16により時間軸上の情報に変換され、変調部17に入力されて波形整形された後、変調される。ここで、変調部17は、信号点を時間軸上はナイキスト時間間隔で、かつ、周波数軸上はナイキスト周波数間隔で多重化するように構成されている。この変調部17からの変調信号は、D/A変換器18に入力されてアナログ信号に変換された後、アナログ部2の第1のローパスフィルタ31によりアナログ信号上の不要帯域が除去された後、送信ドライバ回路4により増幅され、トランス5とコモンモードチョーク6とを介して、電力線、例えばAC100Vの屋内配電線側又は屋内電灯線側に送信される。このように、本実施例に係る多重伝送装置における多重化処理は、時間軸上ではナイキスト時間間隔、周波数軸上では複数のキャリア周波数をナイキスト周波数間隔で配置し、時間軸直交/周波数軸直交により、多重化データ伝送を行うものである。
【0031】
一方、受信側の多重分離処理は、送信側の多重化処理と逆の処理を行うものであり、コモンモードチョーク6とトランス5とを介して入力された受信信号は、ハイパスフィルタおよびゲインスイッチ部32により不要な低域成分が除去された後、受信信号を所定レベルまで増幅され、第2のローパスフィルタ33により高域の不要帯域成分が除去される。そして、ディジタル部1のA/D変換器19によってディジタル信号に変換される。
【0032】
このディジタル部1のA/D変換器19によりディジタル信号に変換された受信信号は、復調部20において復調され、ベースバンド信号とされた後、不要帯域が除去され、高速フーリエ変換部21により時間軸情報が周波数軸情報に変換される。そして、信号点判定部23により受信信号点が判定され、差分およびデスクランブル回路25により、位相差分がとられた後、ランダム化されていた状態が元に戻され送信データが再生される。さらにPLCメディアアクセス制御部11を経由した後、接続部7を介して端末(図示を省略)へ転送される。
【0033】
前述の位相差分処理は、信号点判定部23における判定後に行う構成を示すが、信号点判定前に位相差分処理を実施する構成とすることも可能である。また、同期モデムでは、受信クロックを送信クロックに同期させる必要があるが、この同期信号は、送信側で複数の特定周波数によりタイミング用の基準信号を送信し、受信側では、この同期信号を抽出することで、送信との同期を確立している。この同期信号の抽出ポイントは、パスバンドでもベースバンドでも、または、高速フーリエ変換(FFT)後でも良いが、効率的な処理が行える場所から信号を抽出して同期化を行うことができる。図1においては、高速フーリエ変換部21の出力信号から抽出可能としている。そして、タイミング同期部22により、ディジタル制御水晶発振器34を制御して、所望の同期を確立することができる。
【0034】
電源部3は、各部に例えばDC電圧5Vの動作電圧を供給する電源出力部41と電源フィルタ42とを含む構成を有している。この電源出力部41は、DC5V等の直流電圧をAC100Vの交流電圧からスイッチング電源構成等により形成するものであるが、スイッチング電源構成とすると、スイッチング雑音が発生するため、電源フィルタ42により、そのスイッチング雑音がコモンモードチョーク6側およびモデム側に漏洩しないように構成されている。また、電源部3は、回線側に対して不要な漏洩電界が発生しないように、この電源部3からのコモンモード電流を最小化する必要がある。さらに、この電源部3を回線に接続することで、対地間平衡度を悪化させないように、あるいは、低インピーダンス化により微小信号が消滅しないように、伝送帯域内のLCL(対地間平衡度)やノーマルモードインピーダンスを所望の値以上に設定することが必要である。
【0035】
図2は、多重伝送装置の多重化処理部12と多重分離処理部13との主要部、すなわち、図1に示す多重伝送装置のディジタル部1の主要部の説明図であり、51は図1における信号点発生部15に対応する送信信号点発生回路、52は図1における逆高速フーリエ変換部16に対応し、多重化する手段を構成する送信IFFT部、53は図1における信号点判定部23に対応する受信信号点判定回路、54は図1における高速フーリエ変換部21に対応する受信FFT部を示す。また、55はリアルパート逆高速フーリエ変換部(Real−part IFFT)、56はイマジナリパート逆高速フーリエ変換部(Imag−part IFFT)、57は時間軸窓関数乗算部、58は時間軸窓関数乗算部(1/2遅延)、59は波形合成および畳み込み積分回路、60は窓関数乗算および畳み込み積分回路、61は高速フーリエ変換部(FFT)、62はリアルパートとイマジナリパートとの信号抽出合成回路を示す。
【0036】
送信データを送信信号点発生回路51に入力して、ベクトル信号としての送信信号点とし、その信号点のリアルパート(Real)とイマジナリパート(Imag)とに分け、リアルパートは、リアルパート逆高速フーリエ変換部55に入力し、イマジナリパートは、イマジナリパート逆高速フーリエ変換部56に入力して、それぞれ逆高速フーリエ変換し、時間軸窓関数乗算部57,58に入力する。時間軸窓関数乗算部57,58は、時間軸上の信号に対して送信ナイキストフィルタの時間応答波形を窓関数として乗算する手段を含む。なお、時間軸窓関数乗算部(1/2遅延)58の窓関数は、時間軸窓関数乗算部57の窓関数よりも1/2ナイキスト時間長遅れており、この窓関数が乗算されたイマジナリパート側の信号は、リアルパート側の信号から1/2ナイキスト時間長分、時間シフトされることとなる。そして、波形合成および畳み込み積分回路59においてリアルパートとイマジナリパートとを波形合成するとともに畳み込み積分を行い、図1における変調部17に入力して変調され、D/A変換器18によりアナログ信号に変換されてアナログ部2に入力する。
【0037】
また、受信FFT部54においては、復調された受信信号が入力され、窓関数乗算および畳み込み積分回路60により、受信ナイキストフィルタの時間応答波形に対応した窓関数を乗算した後、フーリエ変換単位に畳み込み積分を行い、高速フーリエ変換部61に入力し、この高速フーリエ変換部61により周波数情報に変換し、リアルパートとイマジナリパートとはそれぞれ1/2ナイキスト時間長間隔となるように送信側でシフトしているから、信号抽出合成回路62において単純合成し、受信信号点判定回路53に入力する。
【0038】
本発明の構成は、図1および図2に示すものであり、次に示す第1〜第6の課題を解決するものである。まず、第1の課題は、高効率データ伝送の実現であり、高効率データ伝送実現のためには、時間軸上/周波数軸上での無駄を省くことが鍵である。その実現例の一つとして、従来からあるWavelet−OFDM方式がある。このWavelet−OFDM方式は、時間軸直交/周波数軸直交を実現した方式であるが、時間軸で効率的なデータ伝送を実現する他の方式として、ナイキスト伝送方式がある。
【0039】
ナイキスト伝送方式の伝達関数は、(0,1,0)であり、符号間干渉なしで最も高速にデータを伝送できる方式であるが、同時に時間軸上で等価的に時間軸直交を実現している伝送方式である。本発明は、このナイキスト伝送方式と、周波数軸で直交可能なOFDM方式とを適用して、時間軸直交/周波数軸直交の多重伝送を実現するものである。そのため、送信側では、例えば、信号点のリアルパートとイマジナリパートとに分解し、最初にリアルパートを伝送し、次に、1/2ナイキスト時間長後、イマジナリパートを伝送することにより、隣接チャネルの符号間干渉なしで高効率データ伝送が可能となる。
【0040】
また、第2の課題は特定帯域の漏洩低減である。これは、ナイキストフィルタを送受等分割することで実現することができる。また、より少ないタップ数で、より深い漏洩低減を実現するため、送信側cosフィルタに独自の窓関数を乗算し、サイドローブを低減することにより実現可能である。
【0041】
また、第3の課題は雑音抑圧である。送信側と同様に、受信側をcosフィルタとするとともに、送信側と同様に独自の窓関数を乗算する構成として、70dBを超える雑音抑圧を可能とすることができる。
【0042】
また、第4の課題は雑音キャンセルである。これは、送信側で定期的にゼロ点を挿入し、データの信号点を、ゼロ点とゼロ点間に配置して伝送し、受信側では、送信側で送信されたゼロ点上の雑音成分を、補間予測して、信号点上に重畳された雑音をキャンセルすることにより実現可能である。
【0043】
また、第5の課題は、マルチパス対応である。分岐回路等によるマルチパスによる遅延した信号成分が重畳することによるエラー発生について、これを低減するために、例えば、判定帰還等化器を用いることにより、受信側における安定したマルチパス除去が可能である。
【0044】
また、第6の課題はタイミング同期である。タイミング同期としては、周波数同期と位相同期との2種類あり、周波数同期に関しては、複数のチャネルから得られた同期信号から周波数同期をかければ十分であり、また、位相同期に関しては、タイミングインターポレーションフィルタを設けて、時間位相をシフトさせることで、タイミング位相を合わせるか、又は、受信側の等化器を1タップの複素等化器ではなく、ダブルサンプリングの等化器を設けて、タイミング位相を合わせる構成を適用することができる。
【0045】
図3は、伝送路(フィルタ)の時間応答を示すもので、入力信号をインパルスとして伝送路(フィルタ)に入力した場合、出力信号は、伝送路(フィルタ)特性に対応した帯域制限による時間応答波形となる。この伝送路(フィルタ)の入力側に連続してデータ(各種インパルス波形)を加えると、出力側では、これらの時間応答波形が重なって出力されることになる。
【0046】
多重伝送装置からのデータはパルス信号であり、高周波成分まで含むため、このまま、帯域制限のある伝送路に送出すると、波形歪みにより符号間干渉が発生する。したがって、符号間干渉が発生しないようにフィルタで波形整形を行い、パルスを送出する。この代表的な符号間干渉なしのフィルタがナイキストフィルタであり、以下に示す周波数特性と時間応答波形を有する。
【0047】
まず、周波数応答H(f)は、ナイキスト時間間隔をT(s)とし、ロールオフ率をβ(βは0〜1)とすると、
H(f)=1, 0≦f≦(1−β)/2T
=[1−sin[πT(f−1/2T)/β]]/2,
(1−β)/2T≦f≦(1+β)/2T
=0, (1+β)/2T≦f
と表される。一方、時間応答波形A(t)は、
A(t)=sinc(πt/T)[cos(πβt/T)/(B)]
但し、B=(1−(2βt/T)2
と表される。
【0048】
図4は、ナイキスト伝送における波形の説明図であり、図示するように、時間軸の応答波形が等間隔にゼロ点を通過する波形であるならば、連続してインパルス伝送しても、互いの符号が干渉することなく高速でデータ伝送が可能である。これが、前述のナイキスト伝送である。すなわち、ナイキスト伝送路の時間応答は(0,1,0)となっており、等価的に時間軸で直交している系列となる。
【0049】
図5は、ナイキスト伝送路の周波数特性を正規化して示し、ナイキストフィルタのフィルタ特性はcos二乗特性を示すもので、一般にロールオフ率と呼ばれる要素があるが、同図においては、ロールオフ率が100%の場合を示している。
【0050】
図6は、直交周波数分割多重のイメージ図であり、各キャリア周波数はそれぞれ整数倍の関係にあり、互いに直交したキャリアになっている。このため、周波数軸上では、互いのスペクトルが重なっているが、このとき周波数軸上では互いに直交関係にあるため、受信側で高速フーリエ変換により周波数分解が可能である。また、送信側では、逆高速フーリエ変換により、周波数軸の情報を時間軸の情報に変換して送信する。
【0051】
前述の図4に示す時間軸上で直交した波形の信号を、図6に示す周波数軸上で直交した波形の信号として多重化することにより、高効率の多重伝送が可能となる。この場合、時間軸上ではナイキスト時間間隔で多重化し、周波数軸上ではナイキスト周波数間隔で多重化することになる。
【0052】
図7は、ナイキスト伝送路(cos二乗特性)を送受等分割したときの時間応答波形を示し、送信フィルタをcosフィルタ特性、受信フィルタもcosフィルタ特性とし、伝送路としてはcos二乗特性とした場合を示す。このように、フィルタ特性を送受等分割する理由は、雑音耐力の最適化にある。
【0053】
図8は、cosフィルタの時間応答特性を示し、1/2ナイキスト時間間隔で(0,1,1,0)の応答特性となり、これを送受畳み込み処理により、図9に示すように、cos二乗フィルタの時間応答波形(1/2ナイキスト時間間隔で(0,1,2,1,0)、ナイキスト時間間隔で(0,1,0))を得ることができ、ナイキスト間隔で伝送すれば、符号間干渉なしに高速でデータ伝送が可能となる。
【0054】
図10は、隣接チャネル間の干渉の説明図であり、3チャネル多重時の周波数スペクトルを示す。同図に示すように、CH−1/CH0/CH+1の3チャネルが周波数軸上で多重されているが、チャネルCH0の周波数スペクトルが、チャネルCH−1/CH+1の周波数スペクトルとハッチングエリアで示すように重なっている。このエリアにより、双方で時間軸上/周波数軸上での干渉が起きる。
【0055】
チャネルCH0の周波数特性は、送信側はcosフィルタであるため、チャネルCH0の周波数特性をF[0](f)とすると、fは−1〜1(Hz)において、
F[0](f)=cos(f*π/2) …(1)
と表される。また、チャネルCH+1の周波数特性をF[+1](f)とすると、fは0〜2(Hz)において、
F[+1](f)=sin(f*π/2) …(2)
と表される。したがって、図10の右側ハッチングエリアの周波数スペクトルF[0+1](f)は、f=0〜1(Hz)の範囲において、
F[0+1](f)=cos(f*π/2)*sin(f*π/2) …(3)
=1/2(sin(2*f*π/2))
=1/2(sin(f*π)) …(4)
となる。
【0056】
同様に、チャネルCH−1とチャネルCH0との干渉エリアは、チャネルCH−1の周波数特性をF[−1](f)とすると、fは−2〜0(Hz)において、
F[−1](f)=−sin(f*π/2) …(5)
と表される。したがって、図10の左側ハッチングエリアの周波数スペクトルF[0−1](f)は、f=−1〜0(Hz)の範囲において、
F[0−1](f)=cos(f*π/2)*(−sin(f*π/2))…(6)
=−1/2(sin(2*f*π/2))
=−1/2(sin(f*π)) …(7)
となる。両者とも極性は異なっているが、パワースペクトル的には同一のsinフィルタとなる。送信側が100%cosフィルタ、受信側も100%cosフィルタで伝送しているため、送受のフィルタを畳み込むと、隣接チャネル間の周波数スペクトル(干渉スペクトル)は100%sinフィルタ特性となる。
【0057】
図11〜図14は、隣接チャネル間の干渉の説明図であり、いずれも信号点のイマジナリ成分をリアル成分に対して1/2ナイキスト時間長遅延させた場合の波形を示している。まず、図11は、チャネル0(CH0)で0度送信(リアル成分のみ送信)した場合でチャネル0で0度位相で受信した場合の波形である。実線の矢印がリアル成分のサンプリング点を示し、破線の矢印がイマジナリ成分のサンプリング点を示しているが、リアル側のみ(0,1,0)のサンプリング結果が得られ、イマジナリ側のサンプリング結果は(0,0,0)となるため、送信側で送信した波形を受信側で正確に再現していると言える。
【0058】
図12は、隣接チャネル間の干渉を現わした図である。チャネル−1(CH−1)で0度送信(リアル成分のみ送信)した場合にチャネル0で0度位相で受信した場合の波形(リアルとイマジナリ)を示したものである。リアル成分を実線の矢印の点でサンプリングを行えば、リアル側への干渉はない。また、イマジナリ成分を破線の矢印の点でサンプリングを行えば、イマジナリ側への干渉はない。但し、破線の矢印の点でリアル成分をサンプリングすれば、イマジナリ側に干渉が発生していることとなる。
【0059】
図13は、チャネル−1で90度送信(イマジナリ成分のみ送信)をした場合であるが、今度は、リアル成分を実線の矢印の点でサンプリングを行えば干渉は無い。また、破線の矢印の点でイマジナリ成分をサンプリングすれば干渉は無いが、実線の矢印の点でイマジナリ成分をサンプリングすれば、リアル側の干渉成分となる。
【0060】
図14は、チャネル−1で45度送信(リアルとイマジナリの両方の成分を送信)した場合であるが、実線の矢印の点でリアル成分をサンプリングすれば干渉は無い。また、破線の矢印の点でイマジナリ成分をサンプリングすれば干渉は無いが、イマジナリ成分を実線の矢印の点でサンプリングし、また、リアル成分を破線の矢印の点でサンプリングすれば、干渉がある。
【0061】
以上示したように、イマジナリ成分をリアル成分に比して1/2ナイキスト時間長ずらした状態で波形伝送を行い、リアル成分はリアル点(実線の矢印の点)、イマジナリ成分はイマジナリ点(破線の矢印の点)でサンプリングを行えば、隣接間干渉なしに波形伝送が可能なことを示しており、時間軸直交および周波数軸直交が可能なことを示している。
【0062】
図15は、シングルキャリア対応の送信変調部を示すもので、71は送信ローパスフィルタ(送信LPF)、72は送信変調部(送信MOD)、73は送信キャリア発生部(送信CRR)、69はゼロ挿入部、70は加算部(Σ)、Tは遅延回路を示し、図1における変調部17の構成に相当する部分を示す。なお、Xm+nおよびXm−nは、Xm+0に対して、nT時間前およびnT時間後の信号を示し、C−n,・・・,C0,・・・,C+nはタップ係数を示す。
【0063】
ナイキスト速度で入力された信号は、通常、ナイキスト速度の整数倍に変換されて送信される。入力データ信号は、先ず、送信ローパスフィルタ71のゼロ挿入部69と、遅延回路や加算部70を含むフィルタ部により、ナイキスト速度からサンプリング速度(ナイキスト速度の整数倍)に速度変換される。また、送信ローパスフィルタ71により、データ信号を符号間干渉なしで高速データ伝送できるように波形整形される。そして、送信変調部72により、送信キャリア発生部73からのキャリア信号と乗算されて、所望の周波数帯域へ周波数シフトする。
【0064】
これを一つのインパルスに着目して時間軸で観測すると、インパルスとフィルタ出力とキャリア信号と変調信号とは、図16に示すものとなる。まず、入力されたインパルスをXkとすると、送信ローパスフィルタ71の出力Fは、
F=Xk*C−n・・・Xk*C+n …(8)
となる。次に、この送信ローパスフィルタ71の出力Fがキャリア信号E(jωt)=cosθ+jsinθと乗算されるが、乗算後の変調信号をSとすると、
S=F*E
=Xk*C−n*E(jω(t−p))・・・Xk*C+n*E(jω(t+p))
…(9)
となる。これは、入力のインパルスXkにキャリア信号E(jωt)を乗算した系列を算出しておき、その結果に窓関数として、cosフィルタの時間応答波形を乗算すればよいことを示している。また、入力のインパルスは時系列で順次入力されるため、窓関数を乗算したフィルタ出力も順次出力されることとなる。フィルタ演算では時間軸上の畳み込み処理を行っているが、最終的に変調波形として出力された送信信号に関しては、時間軸で単純加算を実施してやればよい。また、隣接チャネルの干渉をなくすために、リアルパートとイマジナリパートとの信号を1/2ナイキスト時間長だけ、シフトして加算すれば良いことを示す。
【0065】
図17は、送信IFFT部の要部を示し、図2における多重処理部の構成を示しており、この図2における符号と同一符号は同一部分を付している。スクランブル処理や和分処理を施した送信データを送信信号点発生回路51に入力し、ベクトル信号としての送信信号点として、その信号点のリアルパート(Real)とイマジナリパート(Imag)とに分解し、リアルパートは、リアルパート逆高速フーリエ変換部55に入力し、イマジナリパートは、イマジナリパート逆高速フーリエ変換部56に入力して、それぞれ逆高速フーリエ変換し、リアルパートには時間軸窓関数乗算部57で窓関数が乗算され、イマジナリパートには、時間軸窓関数乗算部(1/2遅延)58でリアルパートより1/2ナイキスト時間長遅れた窓関数が乗算され、波形合成および畳み込み積分回路59においてリアルパートとイマジナリパートとを波形合成するとともに畳み込み積分を行い、図15に示す送信ローパスフィルタ71を介して送信変調部72に入力し、送信キャリア発生部73からの送信キャリアを乗算する。
【0066】
図18は、前述の図17におけるリアルパート逆高速フーリエ変換部(Real−part IFFT)55、および、イマジナリパート逆高速フーリエ変換部(Imag−part IFFT)56と、波形合成および畳み込み積分回路59との間の時間軸窓関数乗算部57,58の説明図であり、前述のように、送信信号点発生回路51からのベクトル信号点のリアルパートとイマジナリパートとが、それぞれリアルパート逆高速フーリエ変換部55とイマジナリパート逆高速フーリエ変換部56とに入力されて、時間軸上の信号成分に変換し、送信ナイキストフィルタの時間応答波形を窓関数として乗算し、リアルパート側とイマジナリパート側とを1/2ナイキスト時間長分、時間シフトする。この状態をナイキスト時間長のIFFTの記号配列と、インパルス応答波形とにより示している。そして、波形合成および畳み込み積分回路59により、リアルパート側とイマジナリパート側とのベクトル加算を行って合成した後、畳み込み積分を行った信号を出力する。また、連続して入力される送信データは、時間軸上においてそれぞれ1ナイキスト時間長分遅れているので、1ナイキスト時間長分ずれた形で前回の波形とベクトル加算され、加算出力が送信ベースバンド信号となる。このように、ベクトル信号のリアルパートとイマジナリパートに対して窓関数を乗算するときに、一方の窓関数を1/2ナイキスト時間長遅らせることにより、窓関数乗算後の波形の一方を1/2ナイキスト時間長ずらすことができるので、信号点のキャリア位相(リアルパートとイマジナリパート)自体にズレが生じない。
【0067】
図19は、図1における多重化処理部12の中の変調処理手段を含む要部を示し、74は信号点発生回路、75は送信IFFT部、76は送信LPF部、77は送信MOD部、78は送信CRR部を示し、それぞれ図1における信号点発生部15と逆高速フーリエ変換部16と変調部17とに対応した構成を示す。また、信号点発生回路74は、図17の送信信号点発生回路51に対応し、送信IFFT部75は、図17の送信IFFT部52に対応するものである。前述のように、信号点発生回路74に入力された送信データは、リアルパートとイマジナリパートとに分離して、送信IFFT部75によりベースバンドの時間波形に変換され、送信LPF部76により不要帯域を除去し、送信MOD部77において送信CRR部78からのキャリア周波数信号により変調して、D/A変換器18を経てアナログ部2(図1参照)に入力する送信信号とする。
【0068】
図20は、図1における多重分離処理部13の中の復調処理手段を含む要部を示し、84は受信DEM部、85は受信CRR部、86は受信LPF部、87は受信FFT部、88は信号点判定回路を示し、それぞれ図1における復調部20と高速フーリエ変換部21と信号点判定部23とに対応する構成を示す。アナログ部2から出力されA/D変換器19でディジタル信号に変換された受信信号(図1参照)が受信DEM部84に入力され、受信CRR部85からのキャリア信号により復調され、受信LPF部86により不要帯域が除去され、受信FFT部87によりフーリエ変換されて周波数領域の信号となり、信号点判定回路88において信号点の判定が行われ、受信データとなり、差分およびデスクランブル回路25(図1参照)に入力されて、送信側の和分処理の逆の差分処理とデスクランブル処理とが行われる。
【0069】
受信復調のために、本来であれば、個々のキャリア信号E(jωt)により復調され、波形整形用フィルタを経由して受信信号点を得るが、この計算は、受信信号系列(インパルス系列)をR(k−m),・・・,R(k+m)とすると、まずは、キャリア信号E(jω(t−p)),・・・,E(jω(t+p))が乗算され、
R(k−m)*E(jω(t−p)),・・・,R(k+m)*E(jω(t+p))
となり、さらに波形整形用フィルタの係数C+n,・・・,C−nが乗算され、次式に示すフィルタ出力Fを得る。
【0070】
F=Σ[R(k−m)*E(jω(t−p))*C+n+・・・
+R(k+m)*E(jω(t+p))*C−n] …(10)
【0071】
上記の式は、受信信号系列Rに波形整形用フィルタの時間応答波形Cによる窓関数を乗算した信号系列を、高速フーリエ変換により周波数軸上に分解し、これを時間軸上で加算(畳み込み積分となる)を実施すれば、受信の波形整形用フィルタ処理が極めて簡単に処理できることを示している。また、送信側では、1/2ナイキスト時間長シフトした形でイマジナリ成分を伝送しているため、受信側では、受信FFT部87において、2倍のナイキスト周波数間隔で出力計算を行えば、受信データを再生できることとなる。具体的には図11〜図14に示す波形として処理できる。
【0072】
図21および図22は、受信FFT部の説明図であり、図2における符号と同一符号は同一部分を示し、図22における符号89は、窓関数乗算および畳み込み積分回路/FFTとして示すように、図21の信号抽出合成回路62と高速フーリエ変換部61と窓関数乗算および畳み込み積分回路60(窓関数を乗算する手段)との作用説明用の機能ブロックである。受信信号は、窓関数乗算および畳み込み積分回路60において、窓関数(受信ナイキストフィルタの時間応答波形)と乗算し、この窓関数との乗算結果をFFT単位で畳み込み積分し、高速フーリエ変換部61においてFFT処理を行って個々の周波数情報を得る。リアルパートとイマジナリパートとは、それぞれ1/2ナイキスト時間長分シフトしているため、受信信号と窓関数との乗算は、ナイキスト周波数の2倍の間隔で行うこととなる(窓関数の時間軸を1/2ナイキスト時間長間隔でシフト)。この結果、FFT後に、所望のリアルパート信号/イマジナリパート信号を得るために、これらを信号抽出合成回路62において単純合成し、所望の受信信号点を得る。前述のように、多重分離処理部13は、受信ナイキストフィルタの時間応答波形を窓関数として乗算する手段と、この手段の出力信号に対してナイキスト時間間隔で高速フーリエ変換して加算する第1の手段と、窓関数を1/2ナイキスト時間長ずらして乗算し、高速フーリエ変換して加算する第2の手段と、それぞれの加算出力信号からリアルパートとイマジナリパートとを抽出して信号点判定を行う手段とを含むものである。
【0073】
図23は、チャネル数と周波数との関係の説明図であり、6チャネル分の周波数帯域において、チャネルCH−0を中心として、ナイキスト周波数間隔で、チャネルCH−2〜CH+2の5チャネル分の多重化が可能であることを示す。したがって、この場合の伝送効率Eaは、
Ea=(5/6)=83.3[%] …(11)
となる。同様に、99チャネル多重時には、
Ea=99/100=99.0[%] …(12)
となり、多重数を多くすることにより、高効率データ伝送が可能となる。
【0074】
図24は、特定帯域漏洩低減の説明図であり、多数のチャネル多重による周波数帯域内の特定帯域に対する干渉防止等の場合に、例えば、最低でも2チャネル分、キャリアを抜けば特定帯域にノッチ(漏洩低減)を行うことが可能となる。
【0075】
図25は、不要帯域抑圧の説明図であり、個々のチャネルの不要帯域は、受信側のナイキストフィルタによってカット(抑圧)することにより、不要帯域による雑音成分を抑圧することができる。この雑音抑圧量はフィルタの特性(フィルタ係数とタップ数)で決定されるが、システム側の要件に対応して最適化することができる。
【0076】
図26は、隣接チャンル間の干渉除去の説明図であり、例えば、トレーニング時の隣接間の干渉除去を行う場合に適用可能であり、偶数チャネルCH+0,CH−2,CH+2には、例えば、(1,1,1,−1)の系列で送信し、奇数チャネルCH+1,CH−1には、(1,−1,1,1)の系列で送信すると、受信側では、(1,1,1,−1)の系列で送信したチャネルに関しては、(1,1,1,−1)で受信し、(1,−1,1,1)で送信したチャネルに関しては、(1,−1,1,1)で受信することになる。すなわち、隣接チャネルを直交した形で伝送できるため、受信側では隣接チャネル間の干渉なしに受信信号を復元することが可能となる。この手段を適用した場合、伝送速度が半分に低下することになるが、主に、データ伝送に先立って送受信するトレーニング信号等に適用することにより、タイミング信号、キャリア信号等の安定抽出を可能とすることができる。
【0077】
図27は、ローパスフィルタの等価回路を示し、前述の送信ローパスフィルタや受信ローパスフィルタに適用できるものであり、Tは遅延回路、Σは加算回路、C−n,・・・,C0,・・・,C+nはタップ係数を示す。
【0078】
図28は、図1における変調部17の構成を示し、図29は、図1における復調部20の構成を示し、cosθ,−sinθは中心キャリアを示し、変調部17においては、リアルパート(入力Real)とcosθの乗算結果と、イマジナリパート(入力Imag)と−sinθの乗算結果とを合成して変調出力信号とする。また、復調部20においては、入力信号にそれぞれcosθと−sinθとを乗算して、リアルパート(出力Real)とイマジナリパート(出力Imag)とを出力する。
【0079】
送信側では、IFFT出力に送信ナイキストフィルタの時間応答波形をそのまま乗算して窓関数処理を実施している。また、受信側では、受信信号に受信ナイキストフィルタの時間応答波形をそのまま乗算し、その後FFT処理を実施することで、受信側での窓関数処理を実施している。この場合の送受フィルタ特性の概略を図30に示す。同図において、縦軸は振幅特性、横軸は周波数で、ナイキスト周波数間隔を示す。また、SBFRMはサブフレームを示し、この時間長は、ナイキスト時間長に一致させる。すなわち、2SBFRMは、フィルタの時間応答波形長をナイキストの2倍の時間長に設定したフィルタ特性を示している。また、8SBFRMは、8倍のナイキスト時間長を持ったフィルタ特性とする。このため、サブフレーム(SBFRM)数が大となればフィルタ特性は良好となるが、タップ数増大に伴い処理が重くなる。同図から明らかなように、目標の70dBを達成するためには、8SBFRMの時間長の処理でも不足していることを示している。
【0080】
一般にフィルタ係数に時間軸の窓関数処理を施せば、不要帯域外の成分の改善を行うことが可能である。一般的な窓関数としては、方形波/三角波/ハニング窓/ハミング窓/ブラックマン窓/フラットトップ窓等がある。この中で不要帯域外特性が優れているものとして、ハニング窓/ブラックマン窓/フラットトップ窓等がある。そこで、多重伝送をナイキスト伝送とするという目的と不要帯域外の成分をできるだけ低減/除去するという大きく2種類の目的がある。第1のデータ伝送を行う部分であるが、これは、1024値伝送した場合でも1stピーク成分が送受合成特性で40dB以下程度となっていれば十分であるので、この観点から言えば、図30に示す特性から2SBFRMの時間長のフィルタがあれば十分である。したがって、2SBFRMの時間長を超える時間部分に関して、例えば、ハニング窓の係数を乗算することで、不要帯域の低減/除去が効率的に行えると考える。なお、ハミング窓の特徴として、過渡域を急峻にできることがある。但し、欠点として、阻止域での減衰量は余り大きくできない。
【0081】
このように時間軸の両端に乗算する窓関数としてハミング窓関数とハニング窓関数があるが、より、雑音抑圧度が高く、かつ、符号間干渉が発生しない窓関数として、本実施例においては以下に示すハニング窓関数を選定した(窓関数をW(n)とする)。
【0082】
W(n)=β−(1−β)cos(2πn/(N−1)) (0≦n≦N−1)
=0 (その他)
但し、0≦β≦1
特に、β=0.5のときハニング窓
β=0.54のときハミング窓 という
【0083】
図31は、窓関数に関する説明であり、縦軸は正規化した振幅、横軸は時間で、0を中心としたナイキスト時間間隔を示し、窓関数の時間波形および窓関数乗算前後のフィルタ係数を示す。±1.5ナイキスト時間長の間は伝送路としての特性確保のため、窓関数は1.0の値を乗算している。窓関数が±1.5ナイキスト時間長を超える部分に関しては、不要帯域外成分の低減/除去のため、ハニング窓関数の特性を乗算し、不要帯域外の低減/除去を行う。本実施例に示すような電力線搬送システムにおいては、過渡域はナイキストの波形整形上重要であり、崩すことができない。また、阻止域に関しては、できるだけ急峻な特性が必要となる。そのため、時間応答波形の中央部分と、この中央部分の両側との領域に分けて、中央部分領域は方形窓関数とし、両側部分領域は、ハニング窓関数として処理の最適化を実現した。なお、これは一例を示すものであり、ハニング窓関数以外の窓関数を適用することも可能である。
【0084】
図32は、窓関数乗算の有無によるフィルタ特性の説明図であり、縦軸は振幅特性、横軸は周波数で、ナイキスト周波数間隔を示す。方形窓のみの場合は、細線の特性となり、また、図31に示す独自窓の関数を適用することにより、太線の特性となる。したがって、ナイキスト周波数間隔2の近傍において、目標の70dBを達成している。そのため、送信側の特性帯域での漏洩低減、受信側での大振幅トーン雑音時での雑音抑圧が可能となる。
【0085】
雑音抑圧は個々のチャネルから見た帯域外の不要成分に関しては、かなりの効果を発揮できる。しかしながら、同一帯域内に混入した大振幅トーン雑音に関しては無力である。この場合には、帯域内に混入した狭帯域の大振幅トーン雑音に関して、雑音キャンセル等を適用して、雑音キャンセルを行うことになる。
【0086】
図33は、雑音キャンセル手段を適用した要部の説明図であり、図19および図20と同一符号は同一名称部分を示し、91は信号点発生部、92は送信ゼロ点挿入回路、93はFFT部、94は受信雑音キャンセル回路を示す。送信側では、信号点発生回路74を、信号点発生部91と送信ゼロ点挿入回路92とにより構成し、信号点発生部91により送信信号点を発生した後、送信ゼロ点挿入回路92において信号点間にゼロ点を挿入して、前述の手段により、送信IFFT部75、送信LPF部76、および、送信MOD部77を介して送信信号とする。
【0087】
また、受信側では、受信FFT部87をFFT部93と受信雑音キャンセル回路94とにより構成し、受信DEM部84、および、受信LPF部86を介して復調した受信信号を受信FFT部87に入力する。FFT部93によりフーリエ変換し、受信雑音キャンセル回路94において、ゼロ点上の雑音成分を抽出し、ゼロ点間の信号点上の雑音成分を補間予測し、その信号点上の雑音成分を除去して、信号点判定回路88に入力する。このゼロ点挿入により受信側で雑音キャンセル処理を行う基本的な手段は、特開2002−164801号公報に詳細に説明されており、重複する説明は省略する。本発明においては、前述のように、時間軸および周波数軸で直交伝送する方式においては、ゼロ点の挿入がリアルパート側とイマジナリパート側とに交互に挿入されることとなる。また、受信側では同様に交互に信号点が現れ、かつ、交互にゼロ点が現れる点が相違し、受信キャンセル回路94においては、このような点を考慮して、雑音の間引きと補間予測の処理を行うことになる。
【0088】
図34は、マルチパス対策を施した要部の説明図であり、図33と同一符号は同一名称部分を示し、95は判定帰還型自動等化器を示す。この判定帰還型自動等化器95は、受信雑音キャンセル回路94により信号点上の雑音成分を除去して入力し、信号点判定回路88の判定情報を帰還して等化処理を行うものである。各種のデータ伝送路の中には、伝送路のマルチパスにより受信歪みが発生する場合がある。このマルチパスに対して、OFDM方式においてはガードタイムを設けることで、マルチパスによる対策を実施している。また、ISDNにおいては、ナイキスト時間長がマルチパス時間長に対して短いため、判定帰還型等化器を用いることで対策を実施している。また、PHSにおいては、ナイキスト時間長がマルチパス時間長に対して十分長いので、特に対策は実施していない。
【0089】
前述のように、本発明は、ナイキスト伝送を基本としており、時間軸直交/周波数軸直交であることから、OFDMのようにガードタイムを設けることは高効率データ伝送を行う上で得策ではない。また、ナイキスト時間間隔をマルチパス時間間隔よりも大とした場合には、(例えば、メガヘルツ帯PLC(Power Line Communication)におけるマルチパス時間長は最大でも2μs程度であるため、ナイキスト時間長を2倍の4μsとした場合には)判定帰還型自動等化器を設けても、そのタップ係数は成長しない(成長できる値がない)。このため、マルチパス対策の一つの手段として、ナイキスト時間長をマルチパス時間長よりも十分に長く設定することが考えられる。多値化率を上げた場合、その他、かなりの精度が要求される場合には、図34に示すように、判定帰還型自動等化器95を設けることが好適である。
【0090】
多数のチャネルを周波数軸で多重した場合には、タイミング周波数は親局モデムの送信タイミングで決定されるため、一つで良いが、タイミング位相に関しては、個々の伝送路の群遅延特性に左右されてくるため、厳密には時間等化が必要となる。この時間等化はローパスフィルタ(LPF)の係数を時間軸でシフトしてタイミング位相調整するか、あるいは、ナイキスト間隔よりも早い、例えば、ダブルサンプリング型自動等化器を使用して、タイミング位相に無関係に受信できるようにするかの何れかを適用できる。例えば、チャネル対応の時間等化器を設けて、群遅延特性を時間等化することができる。
【0091】
図35は、タイミング位相を調整する手段を適用した要部の説明図であり、図34と同一符号は同一名称部分を示し、96は時間等化回路、97はTIP(タイミングインターポーレーション)位相調整部、98はTIM(タイミング)抽出部を示す。この時間等化回路96を、FFT部93と受信雑音キャンセル回路94との間に設ける。FFT部93の出力のチャネル対応のタイミング位相を、TIM抽出部98により抽出し、この抽出結果が所定の位相となるように、TIP位相調整部97において位相調整を行う。このTIP位相調整部97は、例えば、図27と同様なトランスバーサル型フィルタにより構成することができる。また、このフィルタ係数を時間移動することにより、タイミング位相を調整する。それにより、伝送路の群遅延歪みに対する時間等化を行うことができる。この時間等化の詳細説明については、特開2003−324360号公報に記述されているので、重複する説明は省略する。
【0092】
図36は、エラー訂正手段を適用した要部の説明図であり、図33〜図35と同一符号は同一名称部分を示し、99は送信エラー訂正部、100は信号点判定部、101は受信エラー訂正部を示す。送信側においては、送信エラー訂正部99を設け、受信側においては、受信エラー訂正部101を設けた場合を示し、電力線搬送システムにおいては、振幅特性/群遅延特性/ロス特性/信号対雑音特性が周波数軸に沿って大きく変化するものであり、データ伝送品質は伝送路が確定すると、周波数と大きな相関を持つこととなる。このため、送信側で周波数に依存した冗長化を行ってデータを送信し、受信側では、送信側で付加された冗長度を利用し、かつ、個々の周波数(チャネル)に依存したデータ伝送品質検出手段(SQD回路)を設けることにより、受信側での強力なエラー訂正が可能となる。この場合の送信エラー訂正部99と受信エラー訂正部101とによるデータ伝送における動作は、例えば、特開2003−134095号公報に記載されているから、重複する説明は省略する。
【0093】
また、電力線搬送システムにおいては、多分岐接続に伴うマルチパス/伝送路ロス/群遅延歪み等がある。また、家電機器/既存無線局からの飛来電波に伴う雑音等がある。こられのデータ伝送に対する劣化要因は、接続される家電機器の接続状態、さらに、稼働状況により時々刻々変化するため、ある特定の周波数の伝送は保証されないことがある。このため、安定したデータ伝送を実現するには、複数の周波数にわたった情報伝送を行うことが解決策の一つとなる。この具体的な手段として、スペクトル拡散がある。電力線を伝送路とした伝送品質は、周波数に対して強い相関を持つため、周波数に依存しないようにスペクトル拡散を行うことが得策である。
【0094】
また、インバータ等の家電機器から発生するスイッチング雑音は、多数の高調波群であることが多い。このため、スペクトル拡散を行う場合には、選定する周波数を規則的(例えば、整数倍の間隔)に配置するのではなく、不規則(ランダム)に配置することが望ましい。さらに、伝送路の歪みは広帯域にわたるため、局所的な配置にするのではなく、広範囲にわたった配置とすることが得策である。例えば、49チャネル数があって、7倍のスペクトル拡散を行う場合、周波数7個単位で大まかに区切り、この7個の中をさらに7PNで選択することで、周波数軸上でランダムかつほぼ広帯域にわたり等間隔を実現し、伝送品質の向上を図ることが得策である。
【0095】
図37は送信側の多重化処理部12、図38は受信側の多重分離処理部13とのそれぞれ複数チャネルにスペクトル分散を行ってデータを送受信する要部の説明図であり、図37においては、前述の信号点発生回路74の信号点発生部91からの例えば信号Aを、チャネルCH0,CH5,CH10,CH15,CH16,CH21,CH26,CH31に分散した状態で拡散変調して送信する。その場合に、変調点をMOD0〜MOD3の4種類とすると、チャネル対応に変調点も相違させる。
【0096】
図38においては、受信復調したチャネルCH0,CH5,CH10,CH15,CH16,CH21,CH26,CH31の信号Aについて、それぞれ信号点判定回路88の受信信号点判定&SQD(信号品質)部における判定結果に重み付けを行って、加算部(Σ)により加算し、信号点判定部100において判定して受信データとする。この場合の信号品質(SQD)は、周波数の異なるチャネルCH0〜CH31対応に、雑音等を含む伝送路条件が異なることによって相違し、信号品質(SQD)が良好な程、大きい値の重み付けを行って加算することにより、伝送品質を飛躍的に向上させることが可能となる。この場合、多重化処理部12は、周波数軸または時間軸の何れか一方または両方に送信する信号を拡散した状態で多重化し、多重分離処理部13は、拡散されたチャネル対応に信号点判定を行って加算し、その加算結果に対して再度信号点判定を行う手段または拡散されたチャネル対応に信号点判定を行って、それぞれに伝送品質(信号品質SQD)に対応した係数を重み付けとして乗算して加算しその加算結果に対して再度信号点判定を行う手段を有する構成とすることができる。
【0097】
ところで、前述の図2に示す構成においては、送信信号点発生回路51は、送信データに対応する信号点を、リアルパートとイマジナリパートとに分けて処理する場合を示すが、偶数チャネルと奇数チャネルとに分けて処理することも可能である。図39は、多重化処理部12と多重分離処理部13との主要部において、送信データに対応する信号点を偶数チャネルと奇数チャネルとに分けて処理するように構成した場合を示しており、51は図1における信号点発生部15に対応する送信信号点発生回路、52は図1における逆高速フーリエ変換部16に対応する送信IFFT部、53は図1における信号点判定部23に対応する受信信号点判定回路、54は図1における高速フーリエ変換部21に対応する受信FFT部を示す。また、111,112はIFFT部、113は時間軸窓関数乗算部、114は時間軸窓関数乗算部(1/2遅延)、115は波形合成および畳み込み積分回路、116は窓関数乗算および畳み込み積分回路、117,118はFFT部を示す。
【0098】
送信側の多重化処理部において、送信信号点発生回路51は、送信データに対応する信号点を偶数チャネルと奇数チャネルとに分けて、送信IFFT部52のIFFT部111,112にそれぞれ入力し、周波数軸上の信号を時間軸上の信号に変換し、時間軸窓関数乗算部113,114に入力して、偶数チャネルと奇数チャネルとの信号に対して、前述のように窓関数を乗算する。このとき、時間軸窓関数乗算部114の窓関数は時間軸窓関数乗算部113の窓関数に対して1/2ナイキスト時間長遅延されている。そして、波形合成および畳み込み積分回路115において偶数チャネルと奇数チャネルとの信号を合成して出力する。
【0099】
受信側の多重分離処理部13においては、偶数チャネルと奇数チャネルとの信号を、窓関数乗算および畳み込み積分回路116により、送信側の窓関数に対応する窓関数を乗算し、それぞれFFT部117,118により時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換し、受信信号点判定回路53により、偶数チャネルと奇数チャネルとのそれぞれの信号点を判定して受信データとする。
【0100】
偶数チャネルと奇数チャネルとの送信点データを窓関数により1/2ナイキスト時間長の時間シフトすることにより、図11〜図14について、リアルパートとイマジナリパートとに対する1/2ナイキスト時間長の時間シフトの場合と同様に、相互間の干渉がなくなって、多重伝送が可能となる。
【0101】
なお、以上において説明した多重伝送装置としては、多重化処理部12と多重分離処理部13の何れか一方のみを設けた構成とすることができるものであり、データ伝送における送信側の多重化処理部12を主要部とした多重伝送装置または受信側の多重分離処理部13を主要部とした多重伝送装置とすることができる。また、多重伝送方法においても、同様に、何れか一方のみを適用することができる。
【0102】
このような多重伝送装置を電力線搬送システムに適用する場合、一つの通信路(電力線)を複数の多重伝送装置の組で利用しなければならず、また、電力線を用いる場合には広いダイナミックレンジが要求されることから、多重方式として周波数分割多元接続(FDMA)方式ではなく時分割多元接続(TDMA)方式で実現することが得策である。TDMA方式とは、時間を分割して各局に割り当てる方式であり、割り当てられた時間(これを「タイムスロット」と呼ぶ)中はユーザ通信路の全帯域幅を使用できる。各局は、信号を断続的かつ周期的(この周期を「フレーム周期」という)に送信する。TDMA方式を用いる場合、親局に設定された多重伝送装置が未使用のタイムスロット(以下、「空きスロット」と呼ぶ)を見つけてその空きスロットに特定信号(ID信号)を送信し、子局に設定された多重伝送装置は、その子局が属する親局の特定信号を検出して、親局と通信を行うためのタイムスロットを特定する。また、このとき、子局は、親局からの特定信号を用いて親局のクロックと自局(子局)のクロックとの同期を行うように構成されている。
【0103】
それでは、タイムスロットの選定およびクロックの同期方法について説明する。まず、クロックの同期方法であるが、本実施例においては、図40に示すように、第1の同期信号に同期する第1のPLL手段200と、第2の同期信号に同期する第2のPLL手段300とを有し、これらの2つの同期信号に同期する同期装置であって、第2のPLL手段300は、第1のPLL手段200の出力信号(第1の推定同期信号)をこの第2のPLL手段300の同期量子化単位として同期を確立することで、異なる2つの同期信号に同期を確立するように構成されている。それでは、以降に具体的に説明する。
【0104】
伝送路に接続された親局と子局とがタイムスロットを選定するためには、双方で参照可能な基準となるクロックが必要であり、本実施例においては、電力線における電源周波数を用いて同期信号(上述の第2の同期信号に対応)を生成する。なお、我が国における電源周波数は、50Hz若しくは60Hzが採用されているため、いずれの周波数においても対応可能なように、本実施例では電源周波数から20Hzの同期信号を取り出すように構成されている。
【0105】
図41は、電源周波数から20Hzの同期信号を取り出すように構成された20Hz同期信号検出回路120を示しており、121はゼロクロス点検出回路および時間窓発生回路、122は特定信号検出回路、123は20Hz同期信号選定回路を示す。電力線(AC100V)から取り出されたPLC信号は、ゼロクロス点検出回路および時間窓発生回路121に入力される。ゼロクロス点検出回路は図42に示すように、電源電圧が0Vとなるときに(すなわち、ゼロクロス点において)、パルス信号を出力するように構成されており、時間窓発生回路において、このパルス信号をカウントし、50Hzの場合は5パルス、60Hzの場合は6パルス毎に20Hzの時間窓を設定する。また、電力線から取り出されたPLC信号は、特定信号検出回路122に入力されて特定信号が検出される。ゼロクロス点検出回路および時間窓発生回路121において設定された時間窓と、特定信号検出回路122による検出結果は20Hz同期信号選定回路123に入力される。この20Hz同期信号選定回路123は、設定された時間窓において特定信号が検出された場合は、この特定信号を元に20Hzの同期を確立して20Hz同期信号を出力し、特定信号が検出されない場合は、他に親局が存在しないと判断して、20Hzの位相を独自に設定決定して20Hz同期信号として出力する。なお、この20Hz同期信号検出回路120は、親局および子局のいずれにも設けられる。
【0106】
図43は、親局側PLL回路130を示しており、131は位相の進み遅れ判断回路、132は第1積分回路、133は第2積分回路、134は第2の分周回路を示す。この親局側PLL回路130は、高精度クロック発振回路39(図1におけるディジタル制御水晶発振器(DCXO)34に対応)から発振される発振周波数(例えば32MHz)を基準として、第1の分周回路40によりナイキストクロック(例えば62.5kHz)を生成する。そして、このナイキストクロックを基本単位として、二次系のPLLを構成し、20Hz同期信号検出回路120から入力された20Hz同期信号との同期を確立し、推定20Hz同期信号を出力する。ここで、電源周波数は±2Hz程度の変動があるため、PLLの周波数追従範囲は48Hz〜62Hz、すなわち、時間長としては48.3ms〜52.1msとなる。
【0107】
そのため、二次系PLL回路は、位相の進み遅れ判断回路131で20Hz同期信号と第2の分周回路134から出力される推定20Hz同期信号とを比較して位相情報を検出し、この位相情報を第1積分回路132に入力し、この第1積分回路132において、位相情報から周波数情報を積分して出力する。そして、位相の進み遅れ判断回路131から出力された位相情報と第1積分回路132から出力された周波数情報積分結果とを足し合わせて第2積分回路133に入力する。この第2積分回路133において最終的な位相情報の積分を行いこの積分結果を用いて第2の分周回路134の分周比を制御する。なお、本実施例においては、ナイキストクロックは62.5kHz(16μs)であるため、第2の分周回路134の分周比は、3018〜3257カウントの範囲となる。
【0108】
図44は、親局側タイムスロット選定回路140を示しており、141は特定信号復調回路、142は特定信号検出回路、143はコントローラ(CPU)、144は特定信号送信回路を示し、コントローラ143は図1のコントローラ26に対応する。この親局側タイムスロット選定回路140におけるコントローラ143は、電力線から受信したPLC信号を用いて特定信号検出回路142により特定信号を検出し、これを元に、特定信号復調回路141で受信データRDを再生する。そして、上述の親局側PLL回路130から出力される推定20Hz同期信号を基準に空きスロットを検出し、特定信号送信回路144によりこの親局のID信号を特定信号として電力線に送信する。
【0109】
一方、図45は、子局側PLL回路150を示し、図46は、子局側タイムスロット選定回路160を示す。図45において、151は特定信号TIM(タイミング)位相抽出回路、152は特定信号検出回路、153は位相の進み遅れ判断回路、154は第1積分回路、155は第2積分回路、156は20Hz同期PLL回路を示し、この特定信号TIM位相抽出回路151〜第2積分回路155は、図40における第1のPLL手段200に相当する。なお、この子局側PLL回路150における20Hz同期PLL回路156は、図40における第2のPLL手段300に相当し、また、図43に示す親局側PLL回路130と同一の構成を有しており、同一の符号を付して詳細説明は省略する。この20Hz同期PLL回路156により、20Hz同期信号検出回路120から出力された20Hz同期信号が、後述する推定62.5kHz同期信号を量子化単位として同期され、推定20Hz同期信号(図40における第2の推定同期信号に対応する)として出力される。また、図46において、161は特定信号復調回路、162は特定信号検出回路、163はコントローラ(CPU)を示し、コントローラ163は図1におけるコントローラ26に相当する。
【0110】
子局において、子局側タイムスロット選定回路160のコントローラ163は、電力線から受信したPLC信号を用いて特定信号検出回路162により特定信号を検出し、これを元に、特定信号復調回路161で受信データRDを再生する。そして、この受信データRDに含まれるID信号と、自局の親局として設定されてコントローラに入力されるID信号とを比較し、子局側PLL回路150の20Hz同期PLL回路156から出力される推定20Hz同期信号を基準に親局が設定したタイムスロットを検出し、そのタイムスロットを特定信号タイムスロット選定信号として出力する。
【0111】
子局側PLL回路150は、高精度クロック発振回路39(図1におけるディジタル制御水晶発振器(DCXO)34に対応)から発振される発振周波数(例えば32MHz)を基準として、第1の分周回路40によりナイキストクロック(例えば62.5kHzであって、図40における第1の同期信号に相当する)を生成する。また、電力線から受信したPLC信号を用いて特定信号検出回路152により特定信号を検出するとともに、特定信号TIM位相抽出回路151により特定信号のタイミング位相情報を抽出する。そして、位相の進み遅れ判断回路153は、子局側タイムスロット選定回路160から出力された特定信号タイムスロット選定信号で選定されたタイムスロットの特定信号タイミング位相情報と第1の分周回路40から出力されるナイキストクロック(推定62.5kHz同期信号)とを比較し、位相誤差を出力する。この位相誤差を第1積分回路154および第2積分回路155で周波数情報と位相情報との積分をとり、その結果を用いて高精度クロック発振回路39を制御することにより、選定した特定信号を元にこの子局のナイキストクロックを親局のナイキストクロックと同期させることができる(この信号が図45の推定62.5kHz同期信号であり、図40における第1の推定同期信号に相当する)。これにより、20Hz同期PLL回路156から出力される推定20Hz同期信号も親局と同期する。
【0112】
以上のように、子局のナイキストクロック(第1の推定同期信号)を親局のナイキストクロックにミクロ的同期を行い、同時に、推定20Hzの同期信号(第2の推定同期信号)を電源周波数に対して、ナイキストクロック(第1の推定同期信号)を1量子化単位としてマクロ的に同期させることにより、2つのクロックに対して同期を確立し、データ伝送の高速化を実現することができる。
【0113】
このような多重伝送装置の受信側では、ユーザデータの受信に先立ち、データ伝送路としてのタイミング位相、キャリア位相、および、キャリア振幅の各種引き込み動作を確立する必要がある。特に、電力線搬送システムに適用した場合は、回線特性は、周波数軸でかなりの変動を受けているため、これらの動作をチャネル単位で実施する必要がある。このため、本実施例においては、図47に示すように、ユーザデータの送信に先立ち、トレーニング信号を全チャネル使用して送信するように構成し、受信側の各種セットアップ動作を確立している。なお、本実施例においてはトレーニング信号として10PN信号を選択し、無信号部(NTE)に2サブフレーム、トレーニング信号に10サブフレーム、そして、このトレーニング信号の前後にガードフレームをそれぞれ4サブフレーム設けた20サブフレーム(サブフレーム期間=約320μS)で構成した場合を示している。
【0114】
ところで、このトレーニング信号は固定パターンで構成されており、かつ、上述のように時間軸で全チャネル同一時刻に送信するため、そのまま送信すると信号のピーク値が増大し、漏洩電界のピーク値が増大する等、所望の性能を得ることが困難となる。図48は、このようなトレーニング信号が送信されても信号のピーク値が増大しないように構成した多重化処理部12の要部を示し、171はスクランブラ回路(SCR)、172はG/N変換および和分回路(G/N変換和分)、173は送信信号点発生回路、174はランダム位相回転回路、175はリアル−イマジナリ分離回路、176は逆高速フーリエ変換回路(IFFT)、177は窓関数乗算回路を示す。なお、スクランブラ回路171およびG/N変換および和分回路172は図1におけるスクランブラおよび和分回路14に対応し、送信信号点発生回路173とランダム位相回転回路174とリアル−イマジナリ分離回路175とは図1における信号点発生部15に対応し、逆高速フーリエ変換回路176と窓関数乗算回路177とは図1における逆高速フーリエ変換部16に対応する。
【0115】
スクランブラ回路171に入力された送信データはランダム化され、G/N変換および和分回路172により、エラー発生の均一化と位相不定に対する対策が施され、さらに、送信信号点発生回路173に入力されて個々の送信データからオリジナルの送信信号点が発生される。これらの送信信号点のそれぞれはランダム位相回転回路174によりランダム位相回転が乗算されてランダムな位相回転が行われ、周波数軸上の位相のランダム化が行われる。このランダム位相回転回路174により、周波数軸上のプリディストーション補償が行われるとともに、その後の時間分散で最終的なピーク値漏洩低減を図ることができる。そして、ランダム位相回転が行われた送信信号点は、リアル−イマジナリ分離回路175でリアルパートとイマジナリパートとにエネルギーが分離され、逆高速フーリエ変換回路176で時間軸上の信号成分に変換され、窓関数乗算回路177で窓関数の乗算および畳み込み積分が行われて所望の送信ベースバンド(BB)出力に変換される。
【0116】
図49は、チャネル個々に511PNのランダム位相回転を行い、ピーク値の漏洩低減を行った結果であり、ピーク値と平均値との比(PAR)が約8dB改善されている。すなわち、ホワイトノイズのPARが約15dBであることを考慮すると、約7dBのピーク値漏洩低減が可能となる。なお、上記にさらにπ/4シフト方式等を適用し、ピーク値漏洩低減を行うことも可能である。
【0117】
本実施例で示す多重伝送装置に適用される変調方式は、時間軸/周波数軸で直交多重伝送を実現したものであり、極めて伝送効率が高い。しかしながら、隣接チャネル間においては、互いに片軸干渉が発生するため、データ通信時には、これらの干渉軸を安定的に取り除くことが必要である。上述のように本実施例においては、スクランブラ回路171によりランダム化されているため、干渉軸の特定が困難である。このため、送信側で専用のトレーニング信号を送信し、受信側ではこれらを元に、タイミング位相同期、および、キャリア位相同期の確立を行い、干渉軸の安定抽出および除去を行うように構成されている。
【0118】
以上のように、隣接チャネル間の干渉があり、また、送信側でトレーニング信号そのものにランダム位相回転がかけられているという条件の元でのトレーニング信号の要件としては、第1に自キャリアのタイミング位相が正確に抽出可能であり(干渉S/N=40dB以上)、第2に自キャリアのキャリア位相が正確に抽出可能であり(干渉S/N=40dB以上)、第3に自キャリアの受信信号レベルが正確に抽出可能であり(干渉S/N=40dB以上)、第4に上記3点をS/Nが−10dBの環境下でも安定して抽出可能であることが要求される。
【0119】
S/Nが−10dBの雑音環境下で雑音耐力のある情報抽出を行うためには、複数シンボルを用いた相関フィルタ検出が有力である。しかしながら、通常のM系列を用いた直交系列では、シンボル数nに依存した相関値1/nが残るため、干渉S/N=40dB以上という条件を満足することができず、本実施例においては使用困難である。このため、4PN系列(1,−1,1,1)のように、相関をとると完全にゼロにできる完全直交系列を導入することが必要である。そして、S/Nが−10dBの環境下での雑音耐力を確保するためには、最低でも10シンボルの信号長が必要であり、本実施例においては、10PNの系列の中で完全直交系列を創出する。なお、送信信号点を±1の2値に限定した場合、10PNのパターンには完全直交系列は存在しない。完全直交系列は積分相関の結果がゼロとなることが必要であり、そのため、結果としてゼロ点が少なくとも1個必要となるからである。
【0120】
以上より、本実施例においては、先頭の信号点をゼロに固定し、残りの9サブフレームのパターンを±1の2値信号点にした組み合わせの中から、相関出力のピーク値が所定の値より大きく、また、相関出力の幅が所定の値より小さい(サンプリングする際のサンプル数が小さい)組み合わせを選択する。さらに、隣接するチャネル(すなわち、偶数チャネルと奇数チャネル)においては時間位相を180°ずらすことで、隣接間の干渉をなくした。図50に、偶数チャネルと奇数チャネルのトレーニング信号(最適トレーニングパターン)を示す。
【0121】
それでは、このようなトレーニング信号を用いた、本実施例におけるタイミング位相同期およびキャリア位相同期の方法について説明する。まず、タイミング位相同期について説明する。受信キャリアの位相は、電力線の状態により大きく変化し、受信側ではキャリア位相が不定となる。したがって、受信部においては、キャリア位相が不定の状態でも安定した通信が可能となるように、キャリア位相抽出とタイミング位相抽出を行う必要がある。図51は、図1におけるタイミング同期部22に対応するタイミング同期回路180の構成を示しており、181はゲインスイッチおよび第1の自動ゲイン調整回路(GSW&AGC1)、182は相関フィルタ回路(PNF)、183はパワー値算出および非線形フィルタ回路(PWR&NLF)、184は復調・ローパスフィルタ・位相調整回路(DEM&LPF&位相調整)、185は時間軸・周波数軸中央値フィルタ(FDMF&TDMF)、186は第2の自動ゲイン調整回路(AGC2)、187は二次PLL回路を示す。
【0122】
高速フーリエ変換部21により周波数軸情報に変換された受信信号は、回線の歪みを受け、周波数個々に異なったレベルになっているため、ゲインスイッチおよび第1の自動ゲイン調整回路181に入力され、ゲインスイッチで大振幅のトーン雑音を相対的に雑音抑圧し、第1の自動ゲイン調整回路で周波数のレベルが一定レベルに調整される。そして、相関フィルタ回路182により、トレーニング信号と相関のない信号が除去される。このとき、トレーニング信号は図50に示すように偶数チャネルと奇数チャネルとで互いに直交するように設定されているため、隣接干渉のない信号が出力される。なお、大振幅のトーン雑音はこの相関フィルタ回路182によりさらに雑音抑圧される。又、この相関フィルタ回路182を通常のトランスバーサル型フィルタ(FIR)で構成した場合を図52に示す。
【0123】
相関フィルタ回路182から出力される信号はキャリア位相によって変化する信号である。そのため、パワー値算出および非線形フィルタ回路183において、パワー値算出回路で信号のパワー値を算出してキャリア位相で変化しない位相情報に変換し、非線形フィルタ回路で隣接チャネル間干渉等の不要成分を除去する。ここで、非線形フィルタ回路は、パワー値算出回路から出力されるパワー値の最大値および最大値前後のサンプル値(サンプル数n)を抽出し、他の全てをゼロとすることで不要雑音を除去するものである。このとき、非線形フィルタ回路のサンプル数nを小さくすればS/N改善量は増大するがタイミング位相情報が小さくなりジッタが増加するため、ジッタ量が小さくなるようにサンプル数nを必要最小限に選択する必要がある(本実施例においてはサンプル数nを7と設定している)。また、本実施例においては、パワー値算出回路で全チャンネルのパワー値を算出して加算後、統一的な非線形フィルタの判断を行い、この結果を共通に用いて非線形フィルタ回路を適用するように構成している。これにより、非線形フィルタの判断に伴う雑音を最小化して特性を良好なものとすることができる。
【0124】
パワー値算出および非線形フィルタ回路183から出力される信号(タイミング信号)には、タイミングの周波数成分(ナイキストクロックを62.5kHzとした場合、10PNのトレーニング信号に対しては6.25kHz)が含まれているため、この位相情報を抽出するために、復調・ローパスフィルタ・位相調整回路184において、タイミング信号をトレーニング長(6.25Hz)のキャリアで復調しローパスフィルタ処理を行う。これにより、直流成分であるタイミング位相が抽出される。
【0125】
このとき、送信側では、送信波形のPARの最小化を行うために、各送信信号点に対してランダム位相(固定値)を乗算している。そのため、復調された信号に対して送信側でのランダム位相回転と逆の回転が乗算される。また、送信信号の時間軸/周波数軸での直交多重を実現するために、イマジナリパートをリアルパートに対して1/2ナイキスト時間長シフトしている。このため、オリジナル信号点に位相角(イマジナリパートの成分であるimag値)が存在する場合、送信波形が最大1/2ナイキスト時間長分ずれるため、受信側でその分、タイミング位相がずれることとなる。このため、受信側では、送信のリアル成分とイマジナリ成分の両方の合成エネルギーが抽出される。具体的には、相関フィルタの0次成分と+1次成分とのベクトル合成を行ってタイミング位相が求められる。
【0126】
図53は、送信側での位相回転に伴う、受信側でのタイミング位相(TIM位相)の回転状況をシミュレーションした結果である。この図53からも明らかなように、送信信号点0度(リアル成分100%)と90度(イマジナリ成分100%)のときが、最大で受信タイミング位相が±9.0度(幅で最大18度=180度/10サブフレーム)シフトすることとなる。実際には、パワー値算出および非線形フィルタ回路183を構成する非線形フィルタ回路(7サンプル抽出)に伴う切り出し誤差が発生するため、送信のランダム位相回転θに合わせて、受信側では、抽出したタイミング位相に補正量Θ(=8.82*cos(2θ))を減算する必要がある。これらの処理により、推定誤差は最大±0.30度(誤差0.33%)となる。
【0127】
また、非線形フィルタ回路における受信波形の切り出しを実施しているが、送信側でのランダム位相回転により受信側でのタイミング位相において、若干ながら時間位相がシフトし、結果として、波形切り出しに伴う抽出波形のエネルギー減少が発生する。この結果タイミング振幅の変動減少が発生する。この切り出しに伴う振幅誤差は図54に示すように、送信側のランダム位相回転角度に依存し、固定的に決まるため、受信側で補正が可能である。この図54に示すように、補正カーブを乗算することで振幅値の補正が可能となる。具体的な補正値の算出式は、送信側のランダム位相回転量をθ(度)とすると、補正値AはA=0.103*POWER((sin(2θ)),2)となる。
【0128】
復調・ローパスフィルタ・位相調整回路184により抽出されたタイミング位相は、時間軸・周波数軸中央値フィルタ185により、周波数軸上/時間軸上で非直線成分が除去された後、加算されて所望のタイミング信号となる。ここで、時間軸・周波数軸中央値フィルタ185は、周波数軸上の平均をとるフィルタ(FDMF)と時間軸上の平均をとるフィルタ(TDMF)とから構成される。そして、正確な位相情報を得るべく第2の自動ゲイン調整回路186によりレベルが正規化され、二次PLL回路187によりフィルタリングされて所望のPLL特性を有するPLL出力が得られ、このPLL出力によりディジタル制御水晶発振器(DCXO)34が制御される。
【0129】
図55は、以上の処理により抽出されたタイミング位相の結果を示すものである。復調・ローパスフィルタ・位相調整回路184において、トレーニング長(6.25Hz)のキャリアで復調しローパスフィルタ処理した後の出力波形(DCF後の出力波形)は、タイミング位相として、幅で約18度の変動成分が観測されている。一方これらを逆位相補正後(逆位相ランダム後)においては、1点の位相に正規化される。さらにこれらを周波数軸および時間軸で積分した結果(FDMF後)では、雑音成分がさらに抑圧され、正確なタイミング位相を抽出することができる。
【0130】
次に、キャリア位相同期について説明する。上述のタイミング位相抽出に関しては、電力線の遅延特性が高々3μs程度であること、並びに、時間変動も小さいため、過去の積分操作による安定抽出が可能である。しかしながら、キャリア位相に関しては、電力線の位相特性が時々刻々変化しているため、タイミング位相とは異なる瞬間リセット型の位相追従が必須である。しかも、雑音環境下での安定したキャリア位相抽出が必要である。図56は、多重分離処理部13の主要部を示し、191はゲインスイッチおよび第1の自動ゲイン調整回路(GSW&AGC1)、192は相関フィルタ回路(PNF)、193はランダム位相逆回転回路、194は逆数演算回路、195は複素共役回路、196はリアル−イマジナリ(Real Imag)合成回路、197は信号点判定回路、198は差分・N/G・デスクランブル回路(差分 N/G DSCR)を示す。なお、ゲインスイッチおよび第1の自動ゲイン調整回路191から信号点判定回路197までは、図1における信号点判定部23に対応し、差分・N/G・デスクランブル回路198は、図1における差分およびデスクランブル回路25に対応する。また、ゲインスイッチおよび第1の自動ゲイン調整回路191および相関フィルタ回路192は、前述のタイミング位相同期回路180におけるゲインスイッチおよび第1の自動ゲイン調整回路181および相関フィルタ回路182と共通化して実装することも可能である。
【0131】
高速フーリエ変換部21により周波数軸情報に変換された受信信号は、ゲインスイッチおよび第1の自動ゲイン調整回路191に入力され、回線の歪みや周波数個々に異なったレベルが調整される。図47を用いて説明したように、ユーザデータの送信に先立ち、トレーニング信号が全チャネル使用して送信される。そのため、トレーニング信号に対しては、ゲインスイッチおよび第1の自動ゲイン調整回路191の出力を相関フィルタ回路192に入力し、トレーニング信号と相関のない信号や隣接チャネルの干渉成分を除去する。そして、ランダム位相逆回転回路193により、送信側で位相回転されたデータを元に戻し、逆数演算回路194により受信キャリアの位相抽出と受信キャリアの振幅検出が行われる。
【0132】
受信キャリアの位相は、隣接チャネルからの干渉がない部分、すなわち、直交関係が保てる相関フィルタ出力の最大値中央部分を用いて抽出される。なお、図57に示すように、送信側では、送信信号のPAR低減のため、イマジナリパートをリアルパートに比して1/2ナイキスト時間長遅延させて送信している。このため、受信側での相関出力はイマジナリパート側がリアルパート側に比して1/2ナイキスト時間長だけ遅延して出力される。一方、このときのキャリア位相であるが、相関出力の中央点のみ、および、1/2遅延点のみのいずれかの位相抽出では、受信タイミング位相情報回転に伴うキャリア位相の回転が発生するため、正確なキャリア位相を抽出することができない。しかしながら、中心点と1/2遅延点でのキャリア位相誤差は、図58に示すように逆相となっているため、両方の情報をベクトル加算することで、相殺が可能で、安定したキャリア位相抽出が可能となる。そのため、逆数演算回路194は、送信側でのランダム位相回転に伴う受信キャリア位相の安定抽出を実現するために、相関フィルタ出力の最大値中央部分と1/2遅延点の合成ベクトル信号(0次相関と1次相関の和)とを用いて抽出するように構成されている。このような構成とすることにより、受信キャリア位相誤差をゼロとすることができる。
【0133】
受信キャリアの振幅も、隣接チャネルからの干渉がない部分、すなわち、直交関係が保てる相関フィルタ出力の最大値中央部分を用いて検出される。さらに、送信側でのランダム位相回転に伴う受信キャリア振幅の安定抽出を実現するため、相関フィルタ出力の最大値中央部分と1/2遅延点との合成ベクトル信号を用いて検出するように構成されている。この場合も受信キャリア振幅誤差をゼロとすることができる。なお、逆数演算回路194は、受信キャリア振幅の逆数を算出して出力するように構成されている。
【0134】
一方、ユーザデータに対しては、ゲインスイッチおよび第1の自動ゲイン調整回路191の出力を複素共役回路195に入力する。この複素共役回路195は、図59に示すように、入力信号に対して、逆数演算回路194で求められた受信キャリアの位相と振幅の逆数値を乗算することにより、受信信号の振幅を正規化するとともに、回線上のキャリア位相を0度に正規化する。そして、リアル−イマジナリ合成回路196によりもとの送信信号点を再生する。なお、このとき、送信側で行われたランダム回転の逆回転が行われる。さらに、信号点判定回路197で元の信号点を再生し、差分・N/G・デスクランブル回路198によりオリジナルの送信データを復調することができる。このように、送信側で特殊なトレーニング信号を送信し、受信側では短時間の積分操作により、リセット型PLLを構成してキャリア位相同期を行うことにより、雑音耐力の向上とともにキャリア位相の安定化を実現することができる。
【0135】
以上のように、トレーニング信号を用いてタイミング位相同期およびキャリア位相同期を行うことにより、本実施例に係る多重伝送装置を、大振幅雑音環境下(S/N−70dB)においても、安定した情報抽出を可能とすることができる。
【0136】
さて、このような多重伝送装置を実装するに当たっては、ディジタル部1をICチップに実装することが行われる。そのため、多重伝送装置を安価に製造するためには、ディジタル部1の処理における演算量とメモリ量を削減することが重要である。例えば、図48に示したディジタル部1を構成する多重化処理部12を実装する場合において、最大8サブフレーム長で、32MHzでサンプリングを行い、1ワードのビット長を16ビットとすると、窓関数乗算回路177におけるメモリ量Mは、
M=16ビット*512ポイント
*8サブフレーム*2(複素数)*2ワード(リアル/イマジナリ)
=32.768キロバイト
となる。そのため、このままICチップに実装すると巨大なメモリ領域が必要となり、安価なチップを実現することはできない。
【0137】
図60は、ディジタル部1のチップサイズを削減するための多重化処理部12の構成を示すものであり、201はスクランブラ・G/N・和分回路(SCR G/N 和分)を示し、202は前段IFFT回路を示し、203は後段IFFT回路を示す。送信データは、スクランブラ・G/N・和分回路201に入力され、図48に示した処理と同様に、ランダム化された後、グレイコードからナチュラルコード(G/N)に変換され、さらに位相和分されて、前段IFFT回路202に入力される。この前段IFFT回路202は、送信データ(ビット情報)を中心に、信号点発生、ランダム位相回転、リアル/イマジナリ分離、8ポイント逆高速フーリエ変換、窓関数演算、および、畳み込み積分を行うように構成されている。ここで、逆高速フーリエ変換のポイント数は、メモリ量の削減であるため、信号点に展開する以前のビット情報をメモリの中心として一括の演算処理を行う。但し、演算処理の高速化、効率向上のため、逆高速フーリエ変換処理は必要最小限の8ポイントとした。この前段IFFT回路202において8ポイント逆高速フーリエ変換処理された信号は窓関数処理され、時間軸上の畳み込み積分が行われた後、後段IFFT回路203に入力される。
【0138】
後段IFFT回路203は、前段IFFT回路202から出力された信号に対して、64ポイント逆高速フーリエ変換処理を行い、さらに、その信号をインターポーレーション(補間)を目的とした波形整形処理(補間フィルタの時間応答波形を窓関数として乗算する窓関数処理および畳み込み積分処理)を行い、最終的な所望の32MHzサンプリングの送信波形を得る。
【0139】
図61に、前段IFFT回路202における逆高速フーリエ変換のポイント数を1,2,4,8,16,32,64,128,256と変化させたときの、前段IFFT回路202と後段IFFT回路203における逆高速フーリエ変換処理の構成を示す。前段IFFT回路202はポイント数の増加に応じて、サンプリング周波数が62.5kHz〜16MHzに変化するが、メモリ量は、上述のようにポイント数に拘わらず、3.84キロバイト必要である。一方、後段IFFT回路203は、前段IFFT回路202のポイント数に応じて、512ポイント〜2ポイントまで変化し(いずれも前段と後段のポイント数を乗算すると512になる)、メモリ量は前段IFFT回路202のポイント数が多くなるほど少なくなる(サンプリング周波数の増大にともない時間長が短くなり、メモリ量が減るため)。
【0140】
本実施例においては、上述のように多重化処理部12におけるフィルタ部を、基本の波形整形部(前段IFFT回路202)とインターポーレータ部(後段IFFT回路203)との2種類に分割して実現している。基本の波形整形部では、本質的に必要な波形整形処理を行うが、メモリ量の最小化を実現するため、サンプリング速度は必要最小限に低速で実現する必要がある。但し、前段のサンプリング速度は、スペクトルの折り返しが発生しないことと、後段の逆高速フーリエ変換処理後に十分なインターポーレーションが実現できることが必要となる。図61において、インターポーレーションの可否とは、後段IFFT回路203でインターポーレーションを実現できるか否かを示しており、前段のポイント数が1段および2段のときは実現することができない。また、前段IFFT回路202における波形整形処理において、ポイント数が少ないと乗算処理が不要か軽い乗算処理で済むため、単純セレクタを使用して処理を簡単にすることができるが、図61の単純セレクタの使用可否は、この単純セレクタが使用可能か否かを示している。
【0141】
本実施例においては、後段の処理においてインターポーレーションを実現でき、単純セレクタを使用できることから、前段を8ポイント(サンプリング周波数は500kHz)、後段を64ポイント(サンプリング周波数は32MHz)の逆高速フーリエ変換処理で実現するように構成している。これにより、前段および後段を合わせたメモリ量は5.888キロバイトで実現することができる(上述の図48の構成に比べて、メモリ量は約18%程度にすることができる)。
【0142】
図62は、前段IFFT回路202の構成を示しており、211はシリアル/パラレル変換回路(S/P)、210は波形整形部を示し、さらに、この波形整形部210において、212は最大10ビットを有した8サブフレームのタップ遅延線、213はセレクタ、214は信号点発生用ROM、215はフィルタ係数用ROM、216はリアルパート乗算回路、217は1/2ナイキスト遅延回路(T/2)、218はイマジナリパート乗算回路、219は畳み込み積分回路(Σ)、220はランダム位相回転回路、221はリアルパート加算回路(Σ)、222はイマジナリパート加算回路(Σ)を示す。なお、図62においては、上述のようにトレーニング信号により送信データの位相と振幅は一致するため、和分回路は省略している。また、絶対位相で処理するため、G/N変換回路も省略している。
【0143】
シリアル/パラレル変換回路211でパラレルデータに変換された送信データは、タップ遅延線212に入力され、セレクタ213によりそれぞれ出力される10ビット(10ビット/Hz伝送の場合)の中から一つが選択されて信号点発生用ROM214に入力され、対応する信号点(リアルパートxとイマジナリパートy)が発生される。一方、フィルタ係数用ROM215には、サンプリングカウンタの位相信号が入力されており、この位相信号に対応してフィルタ係数用ROM215からフィルタ係数が出力される。このとき、この波形整形部210から出力される送信ベースバンド信号のリアルパートをXとし、イマジナリパートをYとし、畳み込み積分回路219後の信号点をx+jyとし、ランダム位相回転の回転量をcos+jsinとすると、
X+jY=(x+jy)(cos+jsin)
=(xcos−ysin)+j(ycos+xsin)
と表される。
【0144】
そのため、フィルタ係数用ROM215から出力されたフィルタ係数は、そのままリアルパート乗算回路216で信号点のリアルパートxとイマジナリパートyとが乗算されて、畳み込み積分回路219で畳み込み積分が行われ、ランダム位相回転回路220でリアルパートにcosが乗算され、イマジナリパートに−sinが乗算されて、それぞれがリアルパート加算回路221で加算されて基本送信ベースバンド信号のリアルパートXとなり、一方、1/2ナイキスト遅延回路217で1/2ナイキスト時間長遅延されたフィルタ係数は、イマジナリパート乗算回路218で信号点のリアルパートxとイマジナリパートyとが乗算されて、畳み込み積分回路219で畳み込み積分が行われ、ランダム位相回転回路220でリアルパートにsinが乗算され、イマジナリパートにcosが乗算されて、それぞれがイマジナリパート加算回路222で加算されて基本送信ベースバンド信号のイマジナリパートYとなる。
【0145】
このように、多重化処理部の波形整形部210を以上のように構成すると、タップ遅延線212からセレクタ213により取り出されたデータは、メモリを必要とせずに基本送信ベースバンド信号に変換処理される。そのため、前段IFFT回路202に必要とされるメモリ量M′は、タップ遅延線210で必要とされる最大10ビット(10ビット/Hz伝送の場合)の8サブフレームとなり、384チャネルで実現する場合は、
M′=10ビット*8サブフレーム*384チャネル
=3.84キロバイト
となるため、上述した従来のメモリ量Mの1/8とすることができる。
【0146】
なお、この図62で示すように、信号点が1ビットの場合に、スクランブラ処理、G/N変換処理、和分処理、信号点発生処理、ROF変調、および、D/A変換処理をROM内で実行する方法については、特開平08−116347号公報に詳述されているため、ここでの説明は省略する。
【0147】
ところで、図63に示すように、前段IFFT回路202で出力される基本送信ベースバンド信号に対して、後段IFFT回路203におけるインターポーレーション(LPF)で許容される帯域は所定の帯域幅を有しているため、前段の処理でできる限り複数チャネルを多重化しておくと後段の処理量を低減することができる。そのため、図64に示すように、複数の波形整形部210(図64の場合はk個の波形整形部210)から出力される基本送信ベースバンド信号(X+jY)のそれぞれに対して、回転回路部223で回転させて(Ejθ1,Ejθ2,・・・,Ejθkを乗算して)周波数シフトした後、合成回路(Σ)224で複数チャネルの信号を合成してから、後段IFFT回路203に入力するように構成することが好ましい。なお、図63は3個の基本送信ベースバンド信号を出力するように構成した場合を示している。
【0148】
図65は、図60における多重化処理部12のさらに詳細な構成を示すものであり、201はスクランブラ回路(SCR)、202は前段IFFT回路、203は後段IFFT回路を示しており、前段IFFT回路202において、211はシリアル/パラレル変換回路(S/P)、210′は波形整形部を示し、後段IFFT回路203において、225は逆高速フーリエ変換部(IFFT)、226は回転回路部、227は波形合成部(Σ)、228はインターポーレーション(IPL)部を示す。なお、この図63における波形整形部210′は、チャネル数分の波形整形部を有して構成され、チャネル毎に図62に示す波形整形部210を有するか、若しくは、図64に示すように複数のチャネルの波形を周波数シフトして合成したものを出力するように構成されている。なお、この場合のメモリ量は、上述の通り、10ビット/Hz伝送の場合、最大80ビット/チャネルとなる。
【0149】
この図65において、送信データはスクランブラ回路201でランダム化された後、シリアル/パラレル変換回路202でパラレルデータに変換される。そして、波形整形部210′を構成する複数の波形整形部のそれぞれで基本送信ベースバンド信号に変換され、逆高速フーリエ変換部225に入力される。逆高速フーリエ変換部225は、複数の逆高速フーリエ変換回路(図63の場合は、225a,225bの2個から構成される)を有しており、波形整形部210′から出力される基本送信ベースバンド信号のうち、複数のチャネル分まとめられてそれぞれの逆高速フーリエ変換回路225a,225bに入力される。逆高速フーリエ変換後の信号には、回転回路部226で隣接チャネル間分の周波数が乗算され、周波数シフトが行われた後、波形合成回路227で加算され、その後、インターポーレーション部228で、窓関数乗算および畳み込み積分が行われ、最終的に所望の送信ベースバンド信号を得ることができる。
【0150】
以上のように、多重化処理部12において、第1段目の前段IFFT回路202を8ポイント逆高速フーリエ変換としてサンプリング周波数を500kHzとし、第2段目の後段IFFT回路203を64ポイント逆高速フーリエ変換としてサンプリング周波数を32MHzとすることで、最終的なメモリ量を約5.5分の1にすることができる。なお、図61に示すように、第1段目の逆高速フーリエ変換を16ポイントとし、第2段目の逆高速フーリエ変換を32ポイントとすることにより、メモリ量を6.7分の1にすることができるが、この場合、第1段目の逆高速フーリエ変換のポイント数を増大させることで、第1段目の演算量が増大してしまう。
【0151】
次に、ディジタル部1の多重分離処理部13のチップサイズの削減方法について説明する。図66は多重分離処理部の主要部を示すものであり、230は復調回路(DEM)、231はデシメーション回路(DCM)、232は窓関数乗算および畳み込み積分回路、233は高速フーリエ変換回路(FFT)を示す。この図66において、復調回路230およびデシメーション回路231は図1の復調およぶ非線形フィルタ部20に対応し、窓関数乗算および畳み込み積分回路232と高速フーリエ変換回路233は図1における高速フーリエ変換部21に対応する。
【0152】
アナログ部2から出力された受信信号は、復調回路230によりベースバンド信号に復調され、次に、デシメーション回路231により不要帯域が除去されるとともに、サンプリング周波数が必要最小限にされる。さらに、この受信信号に対して窓関数乗算および畳み込み積分回路232において窓関数の係数を乗算し、高速フーリエ変換単位で畳み込み積分を実施した後、高速フーリエ変換回路233により周波数軸の信号に変換する。
【0153】
ここで、説明を簡単にするために、3ポイントの高速フーリエ変換を3サブフレーム実行する場合を例として、従来の回路および本実施例における回路の処理について、図67および図68を用いて説明する。図67は、従来の多重分離処理部13の処理を示しており、受信信号のそれぞれに対して受信窓関数が乗算される(ステップS10)。そして、これらの乗算結果が高速フーリエ変換され、それぞれの受信信号に回転子が乗算された後、サブフレーム毎に加算される(ステップS20)。そして、3サブフレームのフーリエ変換結果が加算され(ステップS30)、Σ等価演算により最終的な高速フーリエ変換の結果を得ることができる(ステップS40)。
【0154】
一方、図66に示す、本実施例の方法によれば、図68に示すように、受信信号のそれぞれに対して受信窓関数が乗算され(ステップS1)、その結果が畳み込み積分されて、サブフレーム毎の結果が出力される(ステップS2)。そして、この畳み込み積分の結果をフーリエ変換することにより最終的な高速フーリエ変換の結果を得ることができる(ステップS3)。すなわち、従来に比べて高速フーリエ変換処理は1回で済むため、処理量を大きく低減することができる。例えば、512ポイントの高速フーリエ変換を6サブフレームに対して実行する場合は、処理量を約1/10に低減することができる。
【0155】
以上説明したように、多重化処理部12においてはメモリ量を削減し、多重分離処理部13においては処理量を削減することにより、ディジタル部1のチップサイズを削減することができ、この多重伝送装置のコストを安くすることができる。
【0156】
なお、以上の説明においては、本発明に係る多重伝送装置を、電力線搬送システムに適用した場合を示したが、本発明がこの実施例に限定されることはなく、あらゆる通信に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】本発明に係る多重伝送装置の構成を示す説明図である。
【図2】上記多重伝送装置の要部説明図である。
【図3】伝送路の時間応答波形の説明図である。
【図4】ナイキスト伝送の波形説明図である。
【図5】ナイキスト伝送路の周波数特性説明図である。
【図6】直交周波数分割多重のイメージ説明図である。
【図7】送受信フィルタの時間応答波形説明図である。
【図8】cosフィルタの時間応答波形説明図である。
【図9】cos二乗フィルタの時間応答波形説明図である。
【図10】隣接チャネル間の干渉説明図である。
【図11】隣接チャネル間の干渉を説明する図であって、CH0において0度送信し、CH0で0度受信したときの干渉説明図である。
【図12】隣接チャネル間の干渉を説明する図であって、CH1において0度送信し、CH0で0度受信したときの干渉説明図である。
【図13】隣接チャネル間の干渉を説明する図であって、CH1において90度送信し、CH0で0度受信したときの干渉説明図である。
【図14】隣接チャネル間の干渉を説明する図であって、CH1において45度送信し、CH0で0度受信したときの干渉説明図である。
【図15】送信変調部の説明図である。
【図16】送信変調部の波形説明図である。
【図17】送信IFFT部の説明図である。
【図18】送信IFFT部の機能説明図である。
【図19】送信側の要部説明図である。
【図20】受信側の要部説明図である。
【図21】受信FFT部の説明図である。
【図22】受信FFT部の機能説明図である。
【図23】伝送効率の説明図である。
【図24】特定帯域漏洩低減の説明図である。
【図25】雑音抑圧の説明図である。
【図26】隣接チャネル間干渉除去の説明図である。
【図27】ローパスフィルタの説明図である。
【図28】変調部の説明図である。
【図29】復調部の説明図である。
【図30】窓関数なしの場合のフィルタ特性説明図である。
【図31】窓関数とフィルタ係数との説明図である。
【図32】窓関数乗算の場合のフィルタ特性説明図である。
【図33】雑音キャンセル手段を適用した送受信側の要部説明図である。
【図34】マルチパス対策を適用した送受信側の要部説明図である。
【図35】タイミング位相調整を適用した送受信側の要部説明図である。
【図36】エラー訂正を適用した送受信側の要部説明図である。
【図37】送信側の周波数拡散の説明図である。
【図38】受信側の周波数拡散の説明図である。
【図39】信号点を偶数チャネルと奇数チャネルに分割した場合の本発明に係る多重伝送装置の要部説明図である。
【図40】同期手段の要部説明図である。
【図41】20Hz同期信号検出回路の説明図である。
【図42】電源周波数と時間窓との関係を示す説明図である。
【図43】親局側PLL回路の説明図である。
【図44】親局側タイムスロット選定回路の説明図である。
【図45】子局側PLL回路の説明図である。
【図46】子局側タイムスロット選定回路の説明図である。
【図47】トレーニング信号とユーザデータの関係を示す説明図である。
【図48】ピーク漏洩低減を適用した送信側の要部説明図である。
【図49】ピーク漏洩低減効果を示す説明図である。
【図50】最適トレーニングパターン(10PN)を示す説明図である。
【図51】タイミング位相同期回路の説明図である。
【図52】非線形フィルタ回路の説明図である。
【図53】送信ランダム位相回転による受信タイミング位相の変化を示す説明図である。
【図54】タイミング位相の振幅情報補正結果を示す説明図である。
【図55】受信側タイミング位相抽出結果を示す説明図である。
【図56】キャリア位相同期回路の説明図である。
【図57】受信相関出力を示す説明図である。
【図58】キャリア位相差特性を示す説明図である。
【図59】複素共役回路の説明図である。
【図60】チップサイズを削減した送信側の要部説明図である。
【図61】前段および後段IFFT回路の構成を比較した説明図である。
【図62】前段IFFT回路の要部説明図である。
【図63】送信ベースバンド信号とインターポーレーションフィルタの関係を示す説明図である。
【図64】波形整形部を複数用いた前段IFFT回路の要部説明図である。
【図65】送信側の要部説明図である。
【図66】チップサイズを削減した受信側の要部説明図である。
【図67】従来の受信側の処理を示す説明図である。
【図68】チップサイズを削減するために採用した、本発明に係る受信側の処理を示す説明図である。
【符号の説明】
【0158】
202 前段IFFT回路(第1の変換手段)
203 後段IFFT回路(第2の変換手段)
210 波形整形部(波形整形手段)
212 タップ遅延線
213 セレクタ
214 信号点発生用ROM(信号点発生手段)
215 フィルタ係数用ROM(第1の逆高速フーリエ変換手段)
216 リアルパート乗算回路(第1の逆高速フーリエ変換手段)
217 1/2ナイキスト遅延回路(第1の逆高速フーリエ変換手段)
218 イマジナリパート乗算回路(第1の逆高速フーリエ変換手段)
219 畳み込み積分回路(第1の逆高速フーリエ変換手段)
223 回転回路部(回転手段)
224 合成回路(加算手段)
225 逆高速フーリエ変換回路(第2の逆高速フーリエ変換手段)
227 波形合成回路(補間手段)
228 インターポーレーション部(補間手段)
232 窓関数乗算および畳み込み積分回路(窓関数および畳み込み積分手段)
233 高速フーリエ変換回路(高速フーリエ変換手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データの多重化処理部を有する多重伝送装置又はデータの多重化処理部と多重分離処理部とを有する多重伝送装置であって、
前記多重化処理部は、
前記データの情報ビットを中心とした逆高速フーリエ変換により波形整形を行う第1の変換手段と、
複数の前記第1の変換手段の出力を逆高速フーリエ変換した後補間して波形合成を行う第2の変換手段と、を有する多重伝送装置。
【請求項2】
前記第1の変換手段は、
前記データを変調するための信号点発生手段と、
前記信号点発生手段で発生した信号点をリアルパートおよびイマジナリパートに分けて逆高速フーリエ変換し、前記信号点に対応する送信ベースバンド信号のリアルパートおよびイマジナリパートを出力する第1の逆高速フーリエ変換手段と、から構成される波形整形手段を有する請求項1に記載の多重伝送装置。
【請求項3】
前記第2の変換手段は、
複数の前記第1の変換手段の出力から、前記送信ベースバンド信号の前記リアルパートおよび前記イマジナリパートの組を、逆高速フーリエ変換する第2の逆高速フーリエ変換手段と、
前記第2の逆高速フーリエ変換手段の出力を時間軸上で加算し、補間フィルタの時間応答波形を窓関数として乗算した後、畳み込み積分を行って合成波形を出力する補間手段と、を有する請求項1または2に記載の多重伝送装置。
【請求項4】
前記波形整形手段が、
前記データを所定の時間だけ順次遅延させて出力するタップ遅延線と、
前記タップ遅延線から出力された前記データを選択し、前記信号点発生手段に入力するセレクタと、を有する請求項2に記載の多重伝送装置。
【請求項5】
前記第1の変換手段が、
複数の前記波形整形手段と、
複数の前記波形整形手段の出力の各々を周波数シフトする回転手段と、
回転された前記出力を合成する加算手段と、を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の多重伝送装置。
【請求項6】
データの多重化処理部を有する多重伝送装置又はデータの多重化処理部と多重分離処理部とを有する多重伝送装置であって、
前記多重分離処理部が、
受信した信号に受信ナイキストフィルタの時間応答波形を窓関数として乗算して畳み込み積分する窓関数および畳み込み積分手段と、
前記窓関数および畳み込み積分手段の出力を高速フーリエ変換して周波数軸情報を得る高速フーリエ変換手段と、を有する多重伝送装置。
【請求項7】
データの多重化処理部を有する多重伝送方法又はデータの多重化処理部と多重分離処理部とを有する多重伝送方法において、
前記多重化処理部が第1の変換手段と第2の変換手段とを有し、
前記第1の変換手段により、前記データの情報ビットを中心とした逆高速フーリエ変換により波形整形を行う第1のステップと、
前記第2の変換手段により、複数の前記第1の変換手段の出力を逆高速フーリエ変換した後、補間して波形合成を行う第2のステップと、を有する多重伝送方法。
【請求項8】
前記第1の変換手段が、信号発生手段と第1の逆高速フーリエ変換とを備える波形整形手段を有し、
前記第1のステップが、
前記信号点発生手段により、前記データを変調した信号点を発生するステップと、
前記第1の逆高速フーリエ変換手段により、前記信号点発生手段で発生した前記信号点をリアルパートおよびイマジナリパートに分けて逆高速フーリエ変換し、前記信号点に対応する送信ベースバンド信号のリアルパートおよびイマジナリパートを出力するステップと、を有する請求項7に記載の多重伝送方法。
【請求項9】
前記第2の変換手段が、第2の逆高速フーリエ変換手段と補間手段とを有し、
前記第2のステップが、
前記第2の逆高速フーリエ変換手段により、複数の前記第1の変換手段の出力から、前記送信ベースバンド信号の前記リアルパートおよび前記イマジナリパートの組を、逆高速フーリエ変換するステップと、
前記補間手段により、前記第2の逆高速フーリエ変換手段の出力を時間軸上で加算し、補間フィルタの時間応答波形を窓関数として乗算した後、畳み込み積分を行って合成波形を出力するステップと、を有する請求項7または8に記載の多重伝送方法。
【請求項10】
前記波形整形手段が、タップ遅延線とセレクタとを有し、
前記第1のステップが、
前記タップ遅延線により、前記データを所定の時間だけ順次遅延させて出力し、前記セレクタにより、前記タップ遅延線から出力された前記データを選択して、前記信号点発生手段に入力するステップを有する請求項8に記載の多重伝送方法。
【請求項11】
前記第1の変換手段が、
複数の前記波形整形手段と回転手段と加算手段とを有し、
前記第1のステップが、
前記回転手段により、複数の前記波形整形手段の出力の各々を周波数シフトするステップと、
前記加算手段により、回転された前記出力を合成して出力するステップと、を有する請求項7〜10のいずれか一項に記載の多重伝送方法。
【請求項12】
データの多重化処理部を有する多重伝送方法又はデータの多重化処理部と多重分離処理部とを有する多重伝送方法において、
前記多重分離処理部が、窓関数および畳み込み積分手段と高速フーリエ変換手段とを有し、
前記窓関数および畳み込み積分手段により、受信した信号に受信ナイキストフィルタの時間応答波形を窓関数として乗算して畳み込み積分するステップと、
前記高速フーリエ変換手段により、前記窓関数および畳み込み積分手段の出力を高速フーリエ変換して周波数軸情報を得るステップと、を有する多重伝送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図61】
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【図62】
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【図63】
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【図64】
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【図65】
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【図66】
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【図67】
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【図68】
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【公開番号】特開2007−325070(P2007−325070A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154450(P2006−154450)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(301022703)株式会社ネットインデックス (16)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000005913)三井物産株式会社 (37)
【Fターム(参考)】