説明

多重効用造水装置

【課題】ドライスポットの発生を完全に無くする。
【解決手段】多重効用造水装置は、複数の水平状伝熱管21よりなる伝熱管束12と、伝熱管束にその上方から海水を散布するノズル13とを備えている。伝熱管束12の両側方に、一対の垂直状蒸気流制限プレート14が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、海水から淡水を造水するための多重効用造水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の多重効用造水装置としては、複数の水平状伝熱管よりなる伝熱管束と、伝熱管束にその上方から海水を散布する散布手段とを備えているものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
散布された海水は、流下しながら液膜を形成し、伝熱管内を流れる加熱蒸気によって加熱され蒸発して蒸気を発生する。発生した蒸気は、伝熱管束の外側に向かう程その蒸気流出速度は増大していくこととなる。そのため、伝熱管束の上部から海水を均一に散布しても、伝熱管束内における液膜流れは発生した蒸気流れの影響を受けて、伝熱管束下部では均一な液膜分布を得ることができない。元々、伝熱管束下部では液膜蒸発のため液膜流量は少なく、このように液膜の偏流が生じると、直ちにドライスポット(伝熱管表面の局所的な乾き)が発生してしまう。ドライスポットが発生するとスケールが析出し、熱伝達が著しく低下するため、多重効用造水装置においては、ドライスポットが発生しないように、安定した液膜を形成することが必要である。
【0004】
ドライスポットが発生する要因は、伝熱管束上部では、発生した蒸気流により液膜が大量に飛散させられ、これにより、伝熱管束下部では海水が行き渡らなくなることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−198701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の目的は、ドライスポットの発生を完全に無くすることのできる多重効用造水装置をを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による多重効用造水装置は、複数の水平状伝熱管よりなる伝熱管束と、伝熱管束にその上方から海水を散布する散布手段とを備えている多重効用造水装置において、伝熱管束の両側方に、一対の垂直状蒸気流制限プレートが配置されているを特徴とするものである。
【0008】
この発明による多重効用造水装置では、蒸気流制限プレートによって、伝熱管束の側方への蒸気流を制限することによって、液膜の飛散が防止される。したがって、伝熱管束の下部に海水が充分に供給され、ドライスポットの発生を防止することができる。
【0009】
さらに、伝熱管束の最側端の伝熱管およびこれの隣の伝熱管が、一定の管ピッチをおいて縦一列に並べられかつ一定の管外径を有しており、同最側端の伝熱管およびこれと対応する側の蒸気流制限プレートの隙間が、同管ピッチから管外径を減じた数値の1/2〜1倍に設定されていると、蒸気流制限プレートによって、蒸気流れを最適に制限することができる。同数値が1倍を超えると、蒸気がバイパスしてしまう恐れがあり、同数値が1/2倍未満であると、伝熱管に蒸気流制限プレートが接触する恐れがあり、そうすると、伝熱管の伝熱面を有効に機能させることができない。
【0010】
また、伝熱管束の下部の一部の伝熱管が抜管されていると、伝熱管束の下部における蒸気流路を確保することができ、蒸気流速の増大を抑制することができる。
【0011】
また、伝熱管束の上部の伝熱管の管外径よりも、伝熱管束の下部の伝熱管の管外径が小となされていると、伝熱管が抜管される場合と比較して、伝熱面積を低下させることなく、伝熱管束の下部における蒸気流路を確保することができ、蒸気流速の増大を抑制することができる。
【0012】
さらに、各蒸気流制限プレートが、多孔板によって形成されていると、蒸気流の一部を各蒸気流制限プレートから流出させられるため、伝熱管束圧損の増大を防ぐ効果がある。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、ドライスポットの発生を完全に無くすることのできる多重効用造水装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明による多重効用造水装置の垂直横断面図である。
【図2】図1の一部拡大断面図である。
【図3】同多重効用造水装置を模式的に示す斜視図である。
【図4】同多重効用造水装置の変形例を示す垂直横断面図である。
【図5】同多重効用造水装置の他の変形例を示す垂直横断面図である。
【図6】同多重効用造水装置のさらなる他の変形例を示す垂直横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を参照すると、多重効用造水装置は、水平円筒状ケーシング11と、ケーシング11内の長さ方向に縦一列に収容されている複数の伝熱管束12と、ケーシング11内の、伝熱管束12の上方にケーシング長さ方向縦2列に配置されている左右のスプレイノズル13と、ケーシング11内の、各伝熱管束12の両側方に配置されている左右一対の垂直状蒸気流制限プレート14とを備えている。
【0016】
各伝熱管束12は、多段および多列に配列されている複数の水平状伝熱管21よりなる。各蒸気流制限プレート14は、図示しない管板に固定されている。
【0017】
図2に、多列の伝熱管21のうち、最右列の伝熱管21およびこれより一列隣の伝熱管21と、両蒸気流制限プレート14のうち、右側の蒸気流制限プレート14とが詳細に示されている。両列の伝熱管21の管ピッチを、Pとし、両列の伝熱管21の管外径を、ともに等しくて、Dとする。最右列の伝熱管21および右側の蒸気流制限プレート14の隙間を、Cとしたときに、以下の数式を満足することが望ましい。
【0018】
(P−D)・1/2≦C≦P−D
間隙Cが(P−D)の1倍を超えて離れすぎると、その隙間Cを蒸気がバイパスしてしまうという問題点がある。逆に、間隙Cが(P−D)の1/2倍未満となって近づけすぎると、接触する恐れがあり、そうすると、伝熱管21の伝熱面が有効に機能しなくなる。
【0019】
図3は、多重効用造水装置を模式的示すものである。第n段の効用において、スプレイノズル13から、単位時間当たり一定量の海水が伝熱管束12にその上方から散布される。散布された海水は、多段の伝熱管21を伝って流下させられる。海水は、伝熱管21の表面で液膜蒸発によって蒸気が発生させられる。発生した蒸気は、下方および側方に流れようとするが、側方に流れようとする蒸気は、その流れが蒸気流制限プレート14によって制御されるため、蒸気は、主として、下方に向かって流れ、伝熱管束12の下方から流出させられる。第n段の効用の伝熱管束12から流出させられた蒸気は、第n+1段の効用の伝熱管束12の伝熱管21内に供給される。
【0020】
伝熱管21の蒸気流れ方向下流側端部には生産水ボックス31が設けられている。伝熱管21内で蒸気の凝縮によって生成された生産水は、生産水ボックス31を通じて集められて配水される。
【0021】
伝熱管束12内を蒸気は、下向きに流れるため、伝熱管束12内の液膜流れも蒸気流れと同様に、下向きに流動していくので液膜の偏流は生じない。したがって、発生蒸気量分の必要最低限の海水量さえ伝熱管束12上部から散布すれば、ドライスポットが発生することはない。
【0022】
図4に、伝熱管束12の変形例が示されている。この変形例においては、多列の伝熱管21のうち、一部の列の伝熱管21の下部に、抜管部41が形成されている。蒸気流制限プレート14によって蒸気流を制御した場合、伝熱管束12の周囲全体から流出させていた蒸気を下向きの一方向から流出させることになるため、蒸気流速が上昇する。また、伝熱管束12下部に向かうほど、発生蒸気が積算され蒸気流速は上昇し、伝熱管束12の圧損が増大することが懸念される。そのため、大型の伝熱管束12(とくに、高さ方向に大)には適した方法ではなく、伝熱管束12をあまり大きくすることができない。そこで、伝熱管21を抜管して間引き、蒸気流出流路を確保することにより、蒸気流速の増大を抑制することが可能となる。
【0023】
図5は、伝熱管束12の他の変形例を示すものである。この他の変形例では、上部の伝熱管21の外径Dよりも、下部の伝熱管51の外径dを小としている。この他の変形例においても、図4に示す変形例の場合と同等に、蒸気流速の増大を抑制することが可能となる。この場合、抜管部41による場合と比較して、伝熱面をあまり減らすことなく、抜管部41による場合と同等の効果が得られる。
【0024】
図6に、伝熱管束12のさらなる他の変形例が示されている。このさらなる他の変形例では、各蒸気流制限プレート14が多孔板61によって形成されている。多孔板製各蒸気流制限プレート14を通じて、所要量の蒸気を流出させることができるため、蒸気流速の増大抑制効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
この発明による多重効用造水装置は、海水から淡水を造水するために、ドライスポットの発生を完全に無くすることを達成するのに適している。
【符号の説明】
【0026】
12 伝熱管束
13 ノズル
14 蒸気流制限プレート
21 伝熱管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の水平状伝熱管よりなる伝熱管束と、伝熱管束にその上方から海水を散布する散布手段とを備えている多重効用造水装置において、伝熱管束の両側方に、一対の垂直状蒸気流制限プレートが配置されていることを特徴とする多重効用造水装置。
【請求項2】
伝熱管束の最側端の伝熱管およびこれの隣の伝熱管が、一定の管ピッチをおいて縦一列に並べられかつ一定の管外径を有しており、同最側端の伝熱管およびこれと対応する側の蒸気流制限プレートの隙間が、同管ピッチから管外径を減じた数値の1/2〜1倍に設定されている請求項1に記載の多重効用造水装置。
【請求項3】
伝熱管束の下部の一部の伝熱管が抜管されている請求項1または2に記載の多重効用造水装置。
【請求項4】
伝熱管束の上部の伝熱管の管外径よりも、伝熱管束の下部の伝熱管の管外径が小となされている請求項1または2に記載の多重効用造水装置。
【請求項5】
各蒸気流制限プレートが、多孔板によって形成されている請求項1〜4のいずれか一つに記載の多重効用造水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−162434(P2010−162434A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4354(P2009−4354)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】