説明

多重波長光センサー

光センサーは、単一の基板上に形成され光源からの光を受光するように配置された二つ以上の平面状のブラッグ格子と、該二つ以上の格子の上に重なるサンプル窓とを備える。それぞれのブラッグ格子は、ブラッグ格子内を伝播する光が経験する有効モード屈折率及びブラッグ波長によって異なる波長フィルタリング応答を有する。サンプル窓は有効モード屈折率と格子の応答に影響を与える流体のサンプルを受け取ることができる。格子は光をフィルタリングし、フィルタリングした光をスペクトル分析のために出力する。これにより、流体の屈折率とそれに関連した特性を決定することができる。格子の一つ以上はリファレンス格子であってもよく、センサーに対する温度や他の乱れを補償するために用いられる。格子は別々の流体サンプルをテストする別々のサンプル窓を有してもよいし、共通の窓を共有して、単一のサンプルを複数の格子を用いてテストすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体サンプルの屈折率およびそれに関連したパラメータや特性を検出するための平面状の導波路格子に関する。
【背景技術】
【0002】
流体の光学屈折率の測定は、生体分析や生体検出を含む分野において重要である。流体が異なるか、または同じ流体でも濃度が異なると、屈折率が異なるので、屈折率の測定により流体を識別または区別することができる。流体の屈折率または屈折率の変化は、多くの生物学的に重要な測定量を決定するために用いることができる。例えば、タンパク質濃度やブドウ糖レベルが挙げられる。他の分野においては、屈折率の測定は、プロセス制御や爆発物の検出等の多種多様な応用分野において使われている(非特許文献1を参照)。
【0003】
屈折率を測定するための多種多様な装置と方法が知られており、アッベ型の屈折計や表面プラズモン共鳴に基づいたセンサーが挙げられる。光導波路が用いられてもよい。光導波路に近接して液体が存在すると、導波路内を伝播する光の有効モード屈折率が変更される。この屈折率の変更は、光路長の変化を感知する方法を用いて測定可能である。例えば、干渉計構造を用いて屈折率の変化を測定し、これをもとにしてタンパク質の存在が検出されてきた(非特許文献2を参照)。
【0004】
干渉計を用いて測定することの代わりとなるのは、光導波路格子を用いることである。格子の反射率は、屈折率に依存し、導波路に接触する液体の屈折率により変更される。このタイプの装置の初期型においては、表面を浮き彫りにした格子を備えた平面状の光導波路が用いられ、導波路表面上のガスの吸着と脱着により屈折率が変化し、ガスを検出することができた(非特許文献3を参照)。生体及び化学用の集積光センサーとして他の平面格子の形状も提案されている(非特許文献4を参照)。他の格子に基づいた装置は、ファイバブラッグ格子を用いている(非特許文献5を参照)。感度をよくするために湿式エッチングを用いてファイバを薄くすることが提案されており(非特許文献6を参照)、D‐ファイバにおいて長周期格子を用いることにより、標準的な通信用ファイバの格子よりもさらに感度がよくなることがわかっている(非特許文献7を参照)。しかしながら、ファイバ格子を用いると、導波路のコアを液体に対して露出させるのに時間がかかる。例えばエッチングを用いた場合には、ファイバの位置を制御して、一まとまりのファイバを固定してコアにアクセスするまで研磨することが困難である。平面状の導波路は、伝播する光学モードに一般的にはアクセスし易いので好ましい。
【0005】
【特許文献1】英国特許出願公開第2395797号明細書
【非特許文献1】J.Bowen、L.J.Noe、B.P.Sullivan、K.Morris、V.Martin、G.Donnelly、「Gas phase detection of trinitrotoluene utilizing a solid−phase antibody immobilized on a gold film by means of surface plasmon resonance spectroscopy」、Appl.Spectrosc.、2003年、第57巻、第8号、p.906―914
【非特許文献2】R.G.Heideman、R.P.H.Kooyman、J.Greve、「Performance of a highly sensitive optical wave−guide Mach−Zehnder interferometer immunosensor」、Sensors and Actuators B−Chemical、1993年、第10巻、第3号、p.209―217
【非特許文献3】K.Tiefenthaler、W.Kukosz、「Integrated optical switches and gas sensors」、Optics Letters、1984年、第10巻、第4号、p.137―139
【非特許文献4】W.Lukosz、D.Clerc、Ph.M.Nellen、「Input and output grating couplers as integrated optical chemo− and biosensors」、Sensors and Actuators A、1991年、第25巻、p.181―184
【非特許文献5】A.Asseh、S.Sandgren、H.Ahlfeldt、B.Sahlgren、R.Stubbe、G.Edwall、「Fiber optical Bragg grating refractometer」、Fiber and Integrated Optics、1998年、第17巻、第1号、p.51―62
【非特許文献6】A.Iadicicco、A.Cusano、A.Cutolo、R.Bernini、M.Giordano、「Thinned fiber Bragg gratings as high sensitivity refractive index sensor」、IEEE Photonics Technology Letters、2004年、第16巻、第4号、p.1149―1151
【非特許文献7】X.Chen、K.Zhou、L.Zhang、I.Bennion、「Optical chemsensors utilizing long−period fiber gratings UV−inscribed in D−fiber with enhanced sensitivity through cladding etching」、IEEE Photonics Technology Letters、2004年、第16巻、第5号、p.1352―1354
【非特許文献8】B.J.Luff、J.S.Wilkinson、G.Perrone、「Indium tin oxide overlayered waveguides for sensor applications」、Applied Optics、1997年、第36巻、第27号、p.7066―7072
【非特許文献9】W.Lukosz、「Integrated optical chemical and biochemical sensors」、Sensors and Actuators B、1995年、第29巻、p.37―50
【非特許文献10】R.Kashyap、「Photosensitive optical fibers: Devices and applications」、Optical Fiber Technology、1994年、第1巻、p.17―34
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1側面は、基板と前記基板内の一つ以上の光導波路内に形成された二つ以上の平面状のブラッグ格子と前記ブラッグ格子の少なくとも一つに対応してその上に重なる一つ以上のサンプル窓とを備えた光センサーであり、前記ブラッグ格子のそれぞれは該ブラッグ格子内を伝播する光が経験する有効モード屈折率によって異なる波長フィルタリング応答を有しており、前記一つ以上のサンプル窓は流体のサンプルを受け取るように配置され流体のサンプルの存在により前記対応するブラッグ格子内を伝播する光が経験する有効モード屈折率に影響を与えて前記ブラッグ格子の波長フィルタリング応答を変更するようになっており、前記ブラッグ格子は光源から光を受光し前記光をフィルタリングし前記フィルタリングされた光をスペクトル分解光検出器で検出するために出力する光センサーに向けられている。
【0007】
単一の基板上に複数の格子を実装したセンサーは、多様なセンサーの構成が可能であるという点で有利であり、センサーにより行われる測定に対してスペクトルの要素を与える異なるブラッグ波長を用いて、同時に多数のサンプルをテストしたり、異なるパラメータの下でテストしたりして、流体に関する詳細な情報が得られ、異なる流体を区別することが可能となる。また、異なる波長を用いることにより、適切な波長の光を用いるだけで異なる格子に一対一対応でアクセスすることが可能になるので、格子内外での光の結合と後続の検出光の分析が非常に直接的なものとなる。センサーから出力された光を用いて屈折率と分散を測定することが可能となり、屈折率に関連したパラメータを決定したり、流体サンプル内の階層やサンプル窓の長さ方向に沿った流体の空間分布を調べたり、及び/又は、流体の種類を識別したりすること等ができる。一つの基板上に格子を配置するので、格子はより同じような環境を有し、センサーの出力が、乱れにより生じるエラーにあまり影響を受けないようになる。何故ならば、全ての格子が同じように乱され、相対的には出力が影響を受けないからである。センサーの製造及び構造は単純化可能である。直接紫外線露光法を用いて、単一プロセスによりセンサー全体の構成要素を形作ることが可能となる。平面状の導波路格子は、所望の波長フィルタリング応答を備えた反射素子を提供する特に便利な方法である。何故ならば、小型且つ強固であり、特に紫外線露光を用いて、幅広い範囲の応答を有するように形成可能だからである。
【0008】
実施例によっては、一つ以上のサンプル窓は二つ以上のブラッグ格子のそれぞれに対応しており、二つ以上のブラッグ格子の全てに流体のサンプルが与えられてもよい。これにより、必要に応じて、全ての格子を流体のテストまたは測定に用いることが可能となる。一つ以上のサンプル窓は二つ以上のブラッグ格子の全てにより共有される単一のサンプル窓を有してもよく、サンプル窓が受け取る流体のサンプルは、二つ以上のブラッグ格子の全ての中を伝播する光の有効モード屈折率に影響を与える。従って、全ての格子が単一の流体サンプルを調べるために用いられ、流体の特性についての詳細なスペクトル情報が可能な限り単純に決定される。代わりに、一つ以上のサンプル窓は二つ以上のブラッグ格子に対応した別々のサンプル窓を有してもよく、二つ以上のブラッグ格子のそれぞれに別々の流体のサンプルが与えられる。これにより、複数の異なるサンプルを同時に見ることが可能となり、また、例えば用いられる流体のサンプルが非常に小さい場合といった窓の大きさが重要である場合に問題となる。
【0009】
二つ以上のブラッグ格子は一つ以上のブラッグ格子のペアを有してもよく、ブラッグ格子のペアのそれぞれは、リファレンス格子と対応したサンプル窓を有する検出格子を備えており、検出格子及びリファレンス格子は、該格子が実質的に同じモードの閉じ込めを有するのに十分に近い間隔のブラッグ波長を有する。例えば、検出格子及びリファレンス格子は、2から10nm分だけ間隔の空いたブラッグ波長を有する。リファレンス格子を用いることにより、エラーに繋がり得る熱的な変化や他の乱れに対する補償が可能となる。リファレンス格子及び検出格子の応答を比較することにより、検出格子に加えられた流体サンプルによる屈折率の変化を、無関係な乱れによる変化から隔離する。格子が同一の基板上に存在し、リファレンス格子及び検出格子の環境が、流体サンプルを除いては可能な限り一緒になるので、特に正確に比較される。リファレンス格子と検出格子の環境を更に似たようなものにするため、リファレンス格子は、検出格子に対応するサンプル窓とは別の対応するサンプル窓を有してもよい。例えば、参照用の流体をリファレンス格子に加えて、二つの格子に温度変化に対する同じような応答を与える。また、リファレンス格子及び検出格子は単一の導波路内に形成されてもよい。
【0010】
実施例によっては、二つ以上のブラッグ格子は、ブラッグ格子のグループに分けられる複数のブラッグ格子を有してもよく、一つのグループ内のブラッグ格子は第1間隔で空けられたブラッグ波長を有しており、グループのそれぞれは平均ブラッグ波長を有し、平均ブラッグ波長は他のグループの平均ブラッグ波長から第1間隔よりも大きな第2間隔で空けられている。例えば、第2間隔は第1間隔の十倍以上である。第1間隔は2から10nmに範囲内にあってもよい。
【0011】
好ましくは、一つ以上の光導波路は光をシングルモードで伝播するようになっている。
【0012】
一つ以上のサンプル窓の中の少なくとも一つは、対応するブラッグ格子が形成されている光導波路のコアの上に重なるクラッド層の一部分を有してもよく、サンプル窓が受け取る流体のサンプルがクラッド層に接触するようになっている。更に、センサーは、クラッド層の一部分の厚さが異なる二つ以上のサンプル窓を有してもよい。追加としてまたは代わりとして、一つ以上のサンプル窓の中の少なくとも一つは、対応するブラッグ格子が形成されている光導波路のコアが露出された部分を有してもよく、サンプル窓が受け取る流体のサンプルが前記コアに接触するようになっている。これらのオプションを用いて、流体に対する格子の感度を選択することが可能となり、前者の場合には、クラッド層の厚さを選択してコアに対する流体の近さを決定することにより、更なる柔軟性が備わる。後者の場合には、コアが露出された部分は、対応するブラッグ格子が形成されている光導波路の近接する部分のコアの厚さより薄くてもよい。こうすることにより、格子を介するシングルモードの導波性が与えられ、サンプル窓のエッジの導波路構造の変化により生じ得るモードの乱れを解消する。
【0013】
対応するサンプル窓を有するブラッグ格子は、長さ方向に沿って屈折率の変化が逓減するコアを有する光導波路内に形成されてもよく、サンプル窓のエッジで有効モード屈折率が急激に変化することを減少させるようになっている。こうした構造の導波路は、急激に変化する構造の境界で生じ得る反射を減少させることにより、窓の境界でのモードの乱れを解消する。同じ様に、一つ以上のサンプル窓は、対応するブラッグ格子が形成されている光導波路内の光が伝播する方向に対して角度が付けられたエッジを一つ以上有してもよく、ブラッグ格子を伝播する光の反射を減少させるようになっている。
【0014】
一つ以上の光導波路は該一つ以上の光導波路の導波特性を変更する層を一つ以上有してもよい。追加の層を用いて、導波路内を伝播する光の光場をサンプル窓に向けてまたはサンプル窓から離れるようにひずませることができ、窓内の受け取った流体に対するセンサーの感度を調節することが可能となる。
【0015】
本発明によるセンサーは、直接屈折率を測定するために用いてもよいし、屈折率により異なる特性を測定または検出するために用いてもよい。センサーに簡単な修正を行うことによって、このように拡張可能である。例えば、一つ以上のサンプル窓の中の少なくとも一つには、サンプル窓の受け取る流体のサンプル内に存在し得る分子と結合する化学的選択性のある材料の表面コーティングが備わっていてもよく、この結合により、対応するブラッグ格子内を伝播する光の有効モード屈折率が変化する。従って、化学的または生物学的に反応する物質が検出可能であり、例えば、生体サンプル内に特定の抗体が存在するかがテストされる。また、一つ以上のサンプル窓の中の少なくとも一つには、サンプル窓の受け取る流体のサンプルによって変化し得る表面プラズモンを有する金属の表面層が備わっていてもよく、この表面プラズモンの変化により、対応するブラッグ格子内を伝播する光の有効モード屈折率が変化する。
【0016】
センサーは、基板の温度を変更して、二つ以上のブラッグ格子が略同じ温度になるようにする加熱または冷却装置を更に備えてもよい。格子及び流体サンプルを加熱することにより、異なる流体の温度で測定することが可能となる。リファレンス格子を含む全ての格子が同じ基板上にあるので、格子は同じように加熱され、不均一に加熱される場合の波長フィルタリング応答の温度依存性により生じ得るエラーが削除される。
【0017】
上述の実施例による光センサーの格子には、必要に応じて、使用者が光源や光出力検出器を接続することができる。一方、他の実施例においては、これらの構成要素が追加的に含まれ、検出素子及び分析素子と共に単一の基板上に固定されていてもよい。実施例によっては、光センサーは、二つ以上のブラッグ格子に光を届けて、それぞれのブラッグ格子が、波長フィルタリング応答の少なくとも一部をカバーするスペクトルバンド幅を有する光を受光するようにする一つ以上の光源を更に備えてもよい。また、センサーは、ブラッグ格子のそれぞれから出力された光を検出してスペクトル分解するスペクトル分解光検出器を更に備えてもよい。
【0018】
本発明の第2側面は、プロセスを行う装置を制御するプロセス制御システムであり、プロセスで用いられるまたは生成される流体のサンプルを受け取るように配置された第1側面による光センサー一つ以上と、前記一つ以上の光センサーのブラッグ格子の波長フィルタリング応答をカバーする光を発生させる光源と、前記一つ以上の光センサーからの光を受光してスペクトル分析を行い前記分析に応答して前記装置を制御するための制御信号を一つ以上発生させるスペクトル分解光検出器と、前記一つ以上の光センサーと前記光源と前記光検出器とに接続され前記光源からの光を受光し前記一つ以上の光センサーへと光を分配し前記一つ以上の光センサーから出力された光を受光し前記光検出器へと前記出力光を届ける光ルーティング装置とを備えたプロセス制御システムに向けられている。
【0019】
本発明の第3側面は、第1側面による光センサー複数と、前記複数の光センサーのそれぞれに接続され光源から光を受光し前記複数の光センサーへと前記光を分配し前記複数の光センサーから出力された光を受光し、スペクトル分析のために前記受光した光を出力する光ルーティング装置とを備えた光センサーネットワークに向けられている。ネットワークは、複数の光センサーのブラッグ格子の波長フィルタリング応答をカバーする光を発生させ光ルーティング装置に光を届けるように配置された光源と、光ルーティング装置から出力された光を受光するように配置され光のスペクトル分析を行うスペクトル分解光検出器とを更に備えてもよい。更には、光センサーネットワークは、光検出器からのスペクトル分析の結果を受け取るように配置され前記結果から前記複数の光センサーに加えられた流体のサンプルの特性を一つ以上決定するプロセッサを備えてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のより良い理解のためと、如何に本発明が効果的に実施されるかを示すために、本発明を添付した図面の例示により説明する。
【0021】
ブラッグ格子等の光反射格子は、光導波構造内部に屈折率の周期的な変更を有しており、この導波構造は、コアよりも屈折率の低いクラッド材料で取り囲まれたコアを有している。この構造は、二つの屈折率の間の境界で全て内部反射により光波を導波する。格子は、周期的な屈折率の変更の大きさにより決定されるバンド幅以内になる波長の導波路に沿って伝播する光を反射し、他の波長の光を透過させる。
【0022】
クラッドの全てまたは一部を除去することにより、導波路のコア領域が露出されるか露出されたに近い状態になり、この領域に流体が加えられて導波路を伝播する光の光場が流体にまで拡がると、流体の屈折率は、伝播する光が経験する有効モード屈折率を変更する。これにより、今度は、測定可能である格子の反射率が変更される。この測定から、流体の屈折率を決定することができる。屈折率を直接測定することもできるし、屈折率との間の関係が明らかであるならば、流体の他の性質を測定することにより屈折率を決定することもできる。
【0023】
ブラッグ格子は波長λBraggにおいて反射のピークを有する。これはブラッグの関係式により決定される。
eff=λBragg/2Λ
ここで、neffは有効モードの屈折率であり、Λは格子の周期である。従って、格子の周期が明らかであり、反射された波長のピークが測定されれば、有効モード屈折率をブラッグの関係式から計算することができる。これにより、流体の屈折率は、基準となる標準的な液体の測定された性質を参照することにより、または計算により確定可能である。
【0024】
このようにするためには、格子から反射されるか格子を透過する光の波長を正確に測定して、流体の存在によりどれだけブラッグ波長がシフトされたのかを調べる必要がある。従って、適切なスペクトル解像度を有する光検出装置が用いられ、例えば光スペクトル分析器(OSA)、分光計、格子の反射バンド幅に亘る波長で走査される可変光源からの光を用いて各々の波長で反射された強度を記録する方法等がある。結果として、流体の特性は、測定された波長で確定される。
【0025】
本発明はこの概念を拡張して、単一の基板上に複数の格子を備えた、流体の特性を決定するためのセンサーを提供する。各々の格子は、異なるブラッグ波長の反射応答を有する。多様な格子に流体を加えることにより、単一の装置を用いて異なる波長で屈折率や他の流体の特性を決定することが可能となる。従って、分散特性(波長の変化)が測定可能になる。また、波長が異なることにより、多様な格子に一対一対応でアクセスするので、異なる格子からの結果は容易に区別可能であり、複数の流体サンプルを同時に測定することが可能となる。同一の基板に複数の格子を配置することにより結果が改善される。何故ならば、各々の格子が経験する圧力や温度変化等といった格子の周期とブラッグ波長を変更し誤った結果を与える環境的な乱れは、同一または同じようなものだからである。本発明においては、それぞれの格子は同じ変化を経験するので、相対的なシフトが同じである。
【0026】
図1は本発明による光センサーの単純な第1実施例の概略的な平面図である。光センサー10は単一の基板12上に形成されており、二つの平面状の導波路格子に対応した導波路が形成されている。第1格子14Aは光導波路内に形成されており、その上部にサンプル窓16Aを有し、サンプル窓は導波特性を決定するクラッドの一部分または全てが除去された基板の領域である。従って、サンプル窓16A内に流体のサンプルを配置することによって、格子14Aに流体のサンプルが加えられることになる。格子14Aは1.3μmのブラッグ波長を有する。第2格子14Bは平行な導波路に形成され、同様にその上部にサンプル窓を備え、1.5μmのブラッグ波長を有する。
【0027】
各々の格子のブラッグ波長は、ナローバンドの光フィルターとして機能することを可能とする反射/透過機能を有しており、ブラッグの関係式を満たす波長を有する光のみを反射する。こうした機能は、波長フィルタリング応答として考えることができる。図2には、反射強度Iに対する波長λのプロットとして格子14の応答を示す。これは、応答のピークのバンド幅をカバーするのに十分な幅のバンド幅を有する光で照らされた場合に格子から反射される光である。従って、センサーは適切なスペクトルバンド幅の光を供給される必要がある。発光ダイオードであってもよい。一般的なブロードバンド光源を用いてもよい。単一の基板上に存在する格子の波長の範囲に依存して、複数の光源を組み合わせて、全ての格子をカバーすることができる。センサーの動作は、格子14のブラッグ波長のシフトに依存しており、入力光もまた、予想される大きさのシフトを含んだバンド幅を有する。これはセンサーにより検出される流体の範囲に依存する。
【0028】
上述のように、各々の格子14はその上に重なるクラッドの一部分または全てが除去されており、サンプル窓16が受け取る流体のサンプルが存在することにより、有効モード屈折率が影響を受けたり変更されたりする。図2に矢印で示すように、有効モード屈折率が変化する方向に依存して、格子のブラッグ波長がシフトされる。シフトの大きさは屈折率の変化の大きさに依存しており、屈折率の変化は流体サンプルの屈折率に依存している。屈折率の大きな流体はモード屈折率とブラッグ波長とを増大させるので、図2では、応答のピークは右に移る。屈折率の小さな流体は反対の効果を有し、ピークは左に移る。
【0029】
センサー10を動作させるために、光は導波路に沿って光源18から格子14に向けられる。光源は1.3μmと1.5μmの光を生成可能である。二つのブロードバンド光源を組み合わせてこのようにしてもよく、格子14の両方のバンド幅とブラッグ波長の最大予想シフトとに対応させることができる。光源18からの出力は第1光ファイバ20に沿って、光サーキュレータ22内に伝わる。光サーキュレータは、基板12内に形成された入力導波路26に結合された第2光ファイバ24へと光を伝える。入力導波路は同じように基板に形成された集積波長スプリッター28に結合されており、集積波長スプリッターは、二つの波長成分へと光を分裂させて、各々の成分を、対応する格子14が形成された導波路へと伝える。しかしながら、二つの導波路へと光を分配するような如何なる光結合装置や光分裂装置を用いてもよい。異なるブラッグ波長によって格子14は波長に関して自己選択的になるので、自分の波長では反射し、他の波長の光は受け付けない(透過させる)。従って、対応するブラッグ波長以外の波長の光を、損失無しで特定の格子に供給することが可能であり、格子に分配する前に光を分光する必要がない。
【0030】
格子14で反射された光は導波路に沿ってスプリッター28に戻る。入力導波路26、第2光ファイバ24、サーキュレータ22に戻るように、光は結合され、反射光が第3光ファイバ30に伝わる。こうすることにより、検出及びスペクトル分解/分析のために、光が光スペクトル分析器(OSA)32に供給される。OSAは受光した光をスペクトル分解して、光の強度対波長を表示する。この場合、表示はそれぞれの格子からの二つのピークを示している。サンプル窓16内に流体サンプルが存在するために生じるブラッグ波長のシフトはこの表示から測定することが可能である。また、これから、流体サンプルの屈折率と関連した特性を決定することが可能である。
【0031】
ブラッグ波長の異なる二つの格子が存在して、それぞれの格子に別々のサンプル窓が備わっていることにより、センサーにはいくつもの使い方がある。異なる流体をそれぞれの格子に同時に加えて、両方のフィルタリング応答をカバーする光を用いて単一の測定が行われる。測定結果に異なる反射波長が存在することにより、格子、更には流体サンプルを区別することが可能となる。よって、二つの異なるサンプルの測定及び検出を同時に実施することが可能となる。当然のことながら、必要であれば、格子を独立的に用いることも可能である。また、同じ流体のサンプルを両方の格子に加えることにより、二つの異なる波長での測定結果が得られる。これは、一般的に波長により変化する屈折率(分散、dn/dλ)に対して有効であり、二つ以上の波長での測定によりこの変化を決定することができる。または、この変化が予め分かっており、屈折率に関連した流体の特性に興味があるような場合には、この変化を参酌することができる。また、異なる流体は、屈折率の変化の測定に基づいて区別または識別することが可能である。何故ならば、一つの波長におい流体が同じ屈性率を有しても、その分散は異なるからである。センサーから得られた屈折率のデータは、屈折率のべき級数表現(セルマイヤーの式)にフィッティング可能である。
【0032】
この概念を拡張して多数の格子をカバーすることが可能であり、スペクトルの詳細な情報を得ることができ、波長により区別することで多数の流体サンプルをテストすることが可能となる。こうするためには、一つの光源からの光または複数の光源の組み合わせによる光が、全ての格子のバンド幅及びシフトをカバーする必要がある。光はそれぞれの格子に結合され、スペクトル分析のためにフィルタリングした後に集められる。光ファイバと、基板内に形成された導波路と、カプラーと、スプリッターと、サーキュレータとが適切に組み合わされていれば、どのように組み合わされていてもよい。更に、個々の光源を複数用いてもよく、対応する出力は個々の格子に直に結合される。また、センサーに入射する光が単一の偏光を有するようにする更なる構成要素が加えられてもよく、これにより、センサーの導波路及び格子の複屈折が、測定される格子の応答に与える影響が減少する。
【0033】
多数の異なるサンプルをテストすることをセンサーが目的としている場合には、それぞれの格子には、図1に示すように別々のサンプル窓が備わっていることが望ましい。一方、多数の波長で単一の流体をテストすることを目的としている場合には、複数または全ての格子に亘って延伸する単一のサンプル窓を備えることにより、センサーが単純化され、一つのサンプルが窓の下の全ての格子に加えられる。
【0034】
図3はこのようなセンサーの実施例の概略図である。この場合、センサー10は7つの格子14A〜14Gを備え、それぞれは異なるブラッグ波長を有し、単一の基板12に形成された平行な導波路内に形成されている。一つのサンプル窓16が全ての格子を覆う。平行な導波路は単一の入力/出力導波路26に結合され、入力/出力導波路は光ファイバ24を介してサーキュレータ22に接続される。サーキュレータは光源から入ってくる光を格子に伝え、格子から反射された光を、スペクトル分析するためにスペクトル分解光検出器に向ける。図では、導波路間の接続は1:n(本実施例ではnは7)のスターカプラーを用いて直接収束/分岐するようになっているが、例えばY‐スプリッター(1:2カプラー)を縦続接続して、同じように結合させることが可能である。
【0035】
更に、格子は別々の導波路内に配置される必要は無い。代わりに、二つ以上の格子を単一の導波路に沿って順々に配置することが可能である。個々の格子は自己選択的な反射性を有するので、単一の導波路に、全ての格子の応答をカバーするバンド幅を有する光を伝えることが可能となる。第1格子は、それ自身の応答内の波長を有する光を反射し、それ以外の全ての波長を後続の格子へと透過する。第2格子以降についても同様である。
【0036】
図4はこのように設計したセンサーの概略図である。センサー10は4つの格子14A〜14Dを特徴とし、それぞれは異なるブラッグ波長を有し、基板12に形成された単一の導波路の長さ方向に沿って順々に形成されている。入ってくる光は導波路26に直接結合され、格子へと伝えられる。そして、反射光が導波路26から放出されると、反射光はスペクトル測定のために集められる。
【0037】
本発明の更なる実施例はリファレンス格子として用いられる一つ以上の格子を有する。前述のように、それぞれの格子はセンサー内の他の格子とは異なるブラッグ波長を有する。リファレンス格子の目的は、流体を測定するための格子(検出格子であると考えられる)の効率を悪くするような環境の乱れや他の乱れを補償することである。乱れとしては、基板に加えられる圧力変化や温度変化が挙げられる。このような乱れは格子の構造を一時的に変化させてしまうおそれがあり、加えられた流体サンプルに起因するものではないのに、測定されたスペクトルからは区別することが不可能なブラッグ波長のシフトを生じさせてしまう。これに対応するために、流体サンプルが加えられないリファレンス格子が備えられる。リファレンス格子から反射された光のスペクトルのシフトは、流体サンプルによるものでなく、望ましくない乱れによるものであるとみなすことができる。従って、乱れを検出するのみならず、その効果を測定することが可能である。そうして、乱れを補償するような適切な調整が、検出格子からの測定結果に対して行われる。
【0038】
全ての格子を単一の基板上に配置するような本発明の構成により、リファレンス格子が使いやすくなる。何故ならば、リファレンス格子と検出格子とは同じ環境を経験して、同じ乱れに晒されているからである。リファレンス格子が検出格子と同じように乱されることを更に確実にして精度を改善するために、リファレンス格子並びに検出格子にサンプル窓を備えることにより、二つの格子の環境を更に一致させることが可能である。例えば水溶液等の特性と格子に与える影響が明らかな参照用の流体をリファレンス格子に加えて、テスト用の流体サンプルを検出格子に加えることができる。一方、他の実施例においては、リファレンス格子は窓を有さない。
【0039】
好ましくは、リファレンス格子は、検出格子のブラッグ格子から近い間隔が空いたブラッグ波長を有する。こうすることにより、二つの格子には同じようなモード特性が与えられるが、スペクトルの区別が可能であり、その応答と振る舞いが可能な限り一致する。例えば、リファレンス格子と検出格子のブラッグ波長は10nmの間隔が空けられており、リファレンス格子に対して1540nmで、検出格子に対して1550nmとなっている。一方、2nmという間隔にまで下げることもできる。図1に示すように、リファレンス格子を、検出格子の導波路とは別の導波路に設けてもよい。また、図4に示すように、検出格子と同じ導波路に設けてもよい。複数の格子を備えるセンサーにおいては、リファレンス格子を検出格子毎に備えることもできる。代わりに、乱れを検出する必要はあるが補償する必要が無い場合には、複数の検出格子またはセンサー全体に対して単一のリファレンス格子を備えることもある。二つ以上のリファレンス格子を有するセンサーにおいては、全てのリファレンス格子に亘って単一の窓が用いられ、単一の参照用の流体を全てのリファレンス格子に加えることもできる。
【0040】
図5A〜5Dは、リファレンス格子を備えるセンサーの多様な実施例の概略図である。しかしながら、上述の内容から多様な変形が可能であるということは明らかである。図5Aは格子が二つの簡単なセンサー10を示しており、窓を備えていないリファレンス格子34と、サンプル窓16を備えた検出格子14とが、基板12上の同じ導波路26に形成されている。図5Bは二つの格子の同じようなセンサーを示しているが、リファレンス格子34には、参照用の液体を受け取るための窓36が備わっている。図5Cは三つの別々の導波路に形成された三つの検出格子14A〜14Cを備えたより大きなセンサー10を示しており、検出格子は共通サンプル窓16を共有している。検出格子14A〜14Cのそれぞれには、検出格子と同じように形成されたリファレンス格子34A〜34Cが対応している。三つのリファレンス格子34は、参照用の流体を加えるための共通窓36を共有している。図5Dに示すセンサー10は、三つの検出格子14A〜14Cを有しており、それぞれにサンプル窓16A〜16Cが備わっており、別々の導波路に形成されている。また、三つのリファレンス格子34A〜34Cが備わっているが、同じように別々の導波路に形成されていて、(例えば、ブラッグ波長の間隔が適切であることによって)近接する検出格子に対応するようになっている。
【0041】
関心のある波長の数、一度にテストされる流体サンプルの数、リファレンス格子に対する何らかの要求に応じて、本発明のセンサーは如何なる数の格子を備えることもできる。上述のように、それぞれの格子は異なるブラッグ波長を有する。調査される流体とその特性に応じて、それぞれの波長と全体としての波長の範囲が選択される。その範囲において、波長の間隔は、必要に応じて一定であってもよいし不規則であってもよい。さらに、格子を波長に関してグループにわけてもよく、同じグループの格子は密な間隔の波長を有し、グループ同士はより幅広い間隔の波長を有する。一つのグループの波長というものを、そのグループ内の全ての格子の波長の平均値とみなすことができる。例えば、一つのグループの複数の格子は、2から10nmの範囲で間隔が空けられた波長を有して、グループ同士は、例えば50nm、100nmや200nmの波長の間隔が空けられている。従って、グループは、1100nm、1200nm、1300nm、1400nm、1500nm、1600nmの平均波長を有して、第1グループは1098nm、1100nm、1102nmの三つの格子を有し、第2グループは1198nm、1200nm、1202nmの三つの格子を有するといったようになる。グループ内の間隔を密にすることにより、導波路に対するモード特性が実質的に同じになる。よって、波長によって格子を区別することができるままで、例えば流体サンプルの同一の階層や同一の分子種を検出することが可能となる。また、グループ同士の波長の間隔が広いことにより、スペクトルの有益な情報が得られる。また、このグループという概念を、リファレンス格子を備えるセンサーに拡張すると、それぞれのグループが一つの検出格子と一つのリファレンス格子を有して、この二つの格子が、基板上の他の検出格子の波長よりも更に密な間隔の波長を有するようになる。
【0042】
外部からの乱れという点に関して、温度を、屈折率の測定の望ましい変数として導入することが可能である。例えば加熱素子や冷却素子などの温度を変化させる装置を、光センサーに熱的に結合させることが可能である。熱を加えて(奪って)、流体サンプルの温度を変化させることができる。検出格子とリファレンス格子も、格子の周期やブラッグ波長に影響を与える温度変化を経験するが、格子は同じ基板上で温度を変化させる装置に結合されるので、それぞれの格子は実質的に同じ温度変化と波長フィルタリング応答のシフトを経験する。従って、リファレンス格子を用いて、検出格子の温度による直接的なシフトを識別することができ、流体の温度による屈折率の変化を区別して、測定することが可能となる。屈折率格子は一般的に温度により変化する。よって、屈折率の測定が行われている間に、わかっている温度の内から選択した温度へと流体を加熱または冷却するか、温度サイクルを介して流体を加熱または冷却することにより、温度に対する屈折率の変化率dn/dTが求まる。さらに、同じ流体のサンプルを、異なるブラッグ波長を有する複数の検出格子に加えることにより、スペクトルの次元が追加され、d(dn/dT)/dλとd(dn/dλ)/dTの測定が可能になる。また、異なる流体を区別することができる。何故ならば、一定の温度または複数の温度で屈折率が同一であるとしても、屈折率の温度依存性が同じであるとは考え難いからである。更には、化学反応や生体反応における熱に依存する段階を識別することも可能である。
【0043】
図6は、上述の方法で加熱または冷却装置40を追加した光センサー10の概略的な平面図を示す。センサーは、異なるブラッグ波長を有して異なる導波路に形成されるが、共通のサンプル窓16を共有する三つの検出格子14を備えている。この方法により良い結果を得るために、加熱または冷却装置40は、(例えば、熱的に結合された媒体42を用いて)全ての格子に同じ加熱または冷却効果を与えるように光センサー10に結合され、屈折率の測定に影響を与える格子間の温度変化を除去する。好ましくは、ヒーターは基板12全体に同じ加熱効果を与えるように光センサーに結合される。
【0044】
本発明によるセンサーを設計する際には、ファクターの数を考慮することが好ましい。ファクターには、動作波長、多様な導波路層の屈折率と寸法、格子の波長フィルタリング応答が含まれる。流体サンプルの屈折率の違いに対するセンサーの感度は、格子の有効モード屈折率が流体の屈折率にどれだけ影響を受けるかに依存しており、同様に、格子内を伝播する光の光学モードが格子の導波路層の外から流体内部へと拡がる大きさに依存している。従って、導波路のモードへと流体を近づけるように制御することにより、感度が変更され、流体の吸収による光学モードの損失も変更される。屈折率の低い領域内部への光の浸透は、(導波路と液体との)屈折率の違いと、光の波長に依存している。一般的に、波長が長いと流体内部に更に浸透し、高い感度を与える。しかしながら、波長が長いと損失が大きくなってしまう場合もある。例えば、水ベースの流体サンプルに用いる場合には、波長が短いと吸収が著しく低くなるので、1.5μmよりも1.3μmの波長の光の方が好ましい。
【0045】
設計の際には、流体の屈折率や屈折率の範囲や、センサーが測定しようとする流体を考慮する必要もある。一般的には、導波路は流体よりも高い屈折率を有するものと予想され、光学モードはコアに閉じ込められ、流体内への浸透は少ない。流体の屈折率がコアの屈折率に近づくと、モードの浸透の深さが増加して、流体の屈折率に対するセンサーの感度も増加する。高感度のためには、格子の導波路を、流体よりも屈折率の低い材料で形成するとよい。こうすると、損失の多いモードに繋がるが、流体の屈折率に対して非常に感度が良くなる。
【0046】
更なる実施例においては、屈折率分布型の導波路を用いることができる。サンプル窓は、対応する格子を含んだ導波路が、導波路を伝播する光のエバネッセント場の近くへと、窓が受け取る流体を届けるように修正されている領域を有する。これは、導波路のクラッドの一部または全てを除去することによって成され、導波路のコアの一部を同様に除去してもよい(これについては後述する)。従って、導波路の窓の部分は、導波路の近接する部分とは異なるモード屈折率を有する。特にクラッドが完全に除去されてコアが露出された場合に異なる。モード屈折率の変化は急激なものであり、格子の応答において、ファブリーペロー型の強い干渉縞が生じて、センサーの出力が乱される。これに対処するため、導波路の屈折率を格子の長さ方向の一部または全てに亘って変更し、屈折率分布型の構造や屈折率が逓減する構造が与えられる。これによりモード屈折率が変更され、窓に対して適切に配置されていると、窓により生じるモード屈折率の急激な変化が完全に補償される。干渉縞を弱めるために変化をよりなだらかにしてもよい。例えば、窓の大きさや除去されたクラッドの深さやクラッドとコアの屈折率の値に依存して、屈折率の逓減は、必要に応じ数百マイクロメートルから数ミリメートルの距離に亘って延伸する。
【0047】
代わりにまたは追加的に行われる方法は、サンプル窓をその下にある導波路に対して角度を付けることにより、後方反射を減少させることである。従って、(入ってくる光の導波路内の伝播方向に対して)窓の第1エッジ、及び好ましくは第2エッジ(特に導波路に沿って一つ以上の格子が備えられている場合)は、光の伝播方向に対して垂直とならないように配置される。従って、窓の始まりと終わりである境界で反射された光は、導波路に沿って戻るようにはならない。一般的には数度の角度で十分である。図7は、このようにして、格子14を含む導波路26に対して角度を付けたエッジ44を有する窓16の概略図を示す。
【0048】
また、導波路構造を最適化して格子がシングルモードで動作するようにすることが有効である。一般的に、シングルモードの導波路(二つの直交する偏光が多分許される)は、格子の波長の応答において、より鮮明な反射ピークや透過ディップを与える。従って、センサーの導波路は、特に導波路がサンプル窓に到る場所において、シングルモードで動作することがサポートさせていることが好ましい。窓の中の流体のサンプルは、窓を形成するために除去されたクラッド材料よりも著しく低い屈折率を有している場合があり、窓の領域において導波路がマルチモードになり得る。
【0049】
シングルモードで動作させるような如何なる導波路の構成を用いてもよい。これに対するデザインレジメの一つが図8に示されている。図8は、サンプル窓を備えた格子の長さ方向に対するセンサーの一部分の概略的な断面図である。センサーは、下部クラッド層52を支持するベース層50を有する基板12上に形成されており、下部クラッド層52はコア層54の下にあり、コア層54は上部クラッド層56の下にある。格子14はコア層54内に形作られている。サンプル窓16は格子14の上方に位置し、格子14の上方にある上部クラッド層56を部分的に除去して形成されているので、この領域のクラッド層は近接するクラッド層の部分よりも薄くなっている。流体のサンプル58がサンプル窓16に加えられている。しかしながら、サンプル窓の部分のクラッドは比較的厚いままであるので、流体はコアから比較的離されたままである。つまり、伝播する波のエバネッセント場60の僅かな部分しか流体58内に浸透しておらず、流体がモードの特性に与える影響は小さく、シングルモードでの動作が維持される。
【0050】
他のデザインレジメが図9に示されている。図9もまた、サンプル窓を備えた格子の長さ方向に対するセンサーの概略的な断面図である。センサーは、図8と同じ構造を有する基板12上に形成されている。しかしながら、この場合、サンプル窓16は、窓領域の上部クラッド層56を全て除去して形成されており、コア54の一部も除去されている。従って、コア54は窓の領域において、近接するコアの領域と比較して厚さが減少している。コアの厚さに変化が生じてもシングルモードの動作が維持され、図8の場合よりも感度の良い装置が提供される。しかしながら、流体58内部に延伸するエバネッセント場60の割合が大きいために、吸収や散乱による損失が大きくなりやすい。
【0051】
実施例によっては、上部クラッド層のみを完全に除去して、サンプル窓を形成してもよく、コアは処理がされず、一様な厚さである。
【0052】
光場が流体内に浸透する割合は、導波路構造に一つ以上の層を追加することにより変更可能であり、導波路のモード特性が調節される。例えば、クラッドに屈折率の高い層を加えることによって、光場を流体の近くまで引き伸ばして、感度を強化する。このためには、インジウムスズ酸化物が適切であるが(非特許文献8を参照)、他の屈折率の高い材料を排除するものではない。図10はこのようにして設計されたセンサーの実施例を概略的に示しており、図10もまた、サンプル窓を備えた格子の長さ方向に対する断面図で示されている。センサーは、上部クラッド層56を部分的に除去して形成されたサンプル窓16を備える図8を参照して説明したものと同じ層状の構造を有する基板上に形成されているが、流体58に向かってエバネッセント場60をひずませる追加の上部クラッド層62を有する。
【0053】
上述の本発明によるセンサーは、直接関心のあるパラメータとして、または濃度等の更なる特性の指標として、流体のサンプルのバルクの屈折率を測定するために用いられる。しかしながら、他の実施例においては、表面処理が行われて、生物剤の特定の分子に対する特異性が与えられる。このようにするために、化学的選択性のある物質の表面コーティングがサンプル窓に加えられる。化学的選択性のある物質は、流体のサンプル内に存在し得る特定の分子種に結合するレセプターといったものである。結合すると、上述のようにして測定される有効モード屈折率に特定の変化が生じる。従って、その分子種を含むサンプルは格子からの特定の出力を与える。一方、その分子種が存在しないサンプルは化学的選択性のある物質に結合せず、屈折率が変更されないので、異なる出力が与えられる。この方法は、化学的または生物学的なサンプルのテストや検出に用いられる。例えば、レセプターは、サンプル内に存在するリガンドに結合する分子であってもよく、また、レセプターはサンプル中の抗原に結合する抗体であってもよく、抗原と抗体が反対になってもよい(非特許文献9を参照)。本発明の多様な実施例によると、センサー上の検出格子に対応するサンプル窓の一つ、複数または全てに対して、化学的選択性のある物質の層を備えさせることができる。また、サンプル窓同士の化学的選択性のある物質が異なってもよい。
【0054】
更なる実施例においては、金属膜が、表面層やコーティングとしてサンプル窓に加えられる。これにより、表面プラズモンセンサーとして動作する格子が提供され、サンプル窓内の流体の存在により変更される表面プラズモンを金属層がサポートする。有効モード屈折率もこの変更に対応して変化するが、上述のように検出格子のブラッグ波長の変化により測定可能である。表面プラズモンをサポートするどのような金属を用いてもよく、金、銀、アルミ、プラチナ等が挙げられる。生物学的な適合性があるために、生物学的な流体のサンプルをテストするのには、特に金が適切である。また、金は格子の感度を増大させるものと予測される。本発明の多様な実施例によると、センサー上の検出格子に対応するサンプル窓の一つ、複数または全てに対して、金属層を備えさせることができ、サンプル窓同士の金属が異なってもよい。
【0055】
図11は、化学的選択性のある検出用または表面プラズモン検出用の構造を有するセンサーの実施例の一部分の概略的な図面である。図11もまた、検出格子の長さ方向に対する断面図で示されている。センサーは、図8を参照して説明したものと同じ層状の構造を有する基板上に形成されている。しかしながら、表面コーティングまたは層64がサンプル窓上に加えられており、流体のサンプル58はコーティングの上面上に存在する。化学的選択性のあるセンサーの場合には、コーティング64は、流体のサンプル58内の分子と結合可能な化学的選択性のある物質であり、表面プラズモンセンサーの場合には、金属膜である。前者の場合、エバネッセント波60Aは、コーティングされていない場合と比較しても、実質的にひずんでいない。後者の場合、波60Bは、表面プラズモンにより、金属膜内に副ピークを有する。これにより、光場のより多くの割合が流体に近づくようになるので、感度が増大する。
【0056】
本発明による多重波長センサーとしては多くの構成が可能である。上述の実施例の複数及び全てを単一のセンサーに集積することが可能である。異なる格子の波長とサンプル窓とを色々と組み合わせることができ、例えば、感度の異なる構成、化学的選択性のあるコーティングの異なる窓(例えば、異なる化合物に対して単一の生体サンプルをテストするために)、表面プラズモン金属膜の異なる窓や、これらの組み合わせが考えられる。また、サンプル内の分子からの格子の応答に対する変化を分析することにより情報を得ることもできる。何故ならば、多重波長で情報を記録することができるため、流体内に存在する分子種を見抜くことができるからである。例えば、水以外の液体に水を加えると、OH結合からの1400nm及び1500nmにおいて、1100nm及び1200nmよりも大きな変化が生じ得る。同様にC−H結合及びC=C二重結合の存在が、異なる波長において検出され、多相で多重構成の液体の情報が与えられる。一般的にこの変化の原因は、分子の強い共鳴が生じるスペクトル領域での屈折率の変更と追加的な吸収の両方である。このような情報は、工業上のシステムの汚染を検出するのに応用される。
【0057】
サンプル窓内のクラッド層の厚さを変更して、光場が流体サンプル内に浸透する深さを異ならせることにより、格子ごとの感度を変更することができる。浸透する深さが異なることにより、感度を異ならせるだけではなく、流体のサンプルを異なる深さで応答させて、サンプル内の階層を調べることが可能となる。例えば、(化学的選択性のあるコーティングが備わっていたりすると)窓の表面に流体が付着して、バルクの流体サンプルとは異なる屈折率が与えられるような場合である。格子は幅広い間隔の波長を有してもよいし、代わりに、非常に密な間隔の波長(例えば2nm間隔)の異なる格子を有してもよい。各々は異なる厚さのクラッドを備えており、分子種の堆積についての情報を得るために用いられる。密な間隔の波長は、実質的に同じモードの閉じ込めと場の浸透深さとを有しており、同じ分子種を“見る”。しかしながら、検出の際には区別されて、各々の格子に対して別々に分析が行われる。複数の格子から成るグループを更に複数備え、そのグループ内の格子が、第1のグループから更に間隔の空いた或る一つの波長の周りで、密な間隔で区切られた波長を有することにより、測定にスペクトルの次元が与えられる。
【0058】
図12はクラッド層の厚さの異なる窓を備えた格子を備えたセンサーの一部分の概略的な断面図である。センサーは、図8を参照して説明したのと同じような層状の基板上に形成されている。この実施例では、三つの格子14A〜14Cが備わっていて、単一の導波路26のコア54の長さ方向に沿って順々に形成されている。それぞれの格子は異なるブラッグ波長を有しており、特に前の方にある格子を介した伝播が格子の応答に影響を与えないように、十分に独立した応答を与えるように選択される。それぞれの格子14はサンプル窓16を有しており、左側の窓16は、上部クラッド層56を完全に除去して形成されていて、窓16B及び16Cは上部クラッド層56を部分的に除去して形成されているが、右側の窓16Cよりも中央の窓16Bの方が、クラッドが薄くなっている。つまり、導波路と格子を伝播する光のエバネッセント波は、中央の格子14Bよりも左側の格子14Aに対して、窓が受け取る流体58の内部により浸透して、中央の格子14Bに対しては、右側の格子14Cよりも浸透する深さは深くなるということである。場が浸透する深さが深くなると、流体の屈折率に対する感度が良くなる。また、窓の底面の流体の層が流体のバルクとは異なる場合(例えば、生体的な層が選択的に窓の表面に付着する場合)には、流体の構造に対して、更なる情報が得られる。
【0059】
全ての実施例において、色々な流体を、測定、検出またはモニタリングすることが可能である。適切なものとしては、液体、二相液体、コロイド、液体‐固体相転移、超臨界気体、乳剤、生体サンプルが挙げられる。例えば、多重波長測定の応用として考えられるものとして、水から氷への相転移をモニタリングして航空機への氷の堆積を明らかにするような氷の形成を検出するセンサーが挙げられる。
【0060】
追加としてまたは代わりに、格子のブラッグ波長の中心を測定して、格子のバンド幅(例えば、3dBと10dB等の異なる幅)と、格子の応答のラインシェイプを測定することが可能であり、流体サンプルについて更なる情報が得られる。例えば、強力に吸着する流体は、格子の応答の幅広いスペクトルピークを生じさせる有効格子長を制限してしまう。格子の長さ方向に沿った流体の変化(大きな分子が窓の表面に付着した場合、または二相の液体が存在する場合)により、格子の長さ方向に沿って導波路の屈折率に変化が生じ、格子のラインシェイプの変化として観察される。より複雑な分析として、格子から反射されたスペクトルの測定出力をモデルでフィッティングしてもよい。出力には、格子に沿った屈折率のランダムな変化や損失が含まれ、おそらくは、検出される光が伝播したセンサー内の他の位置からのものである。
【0061】
本発明による光センサーは、一つ以上の流体や流体サンプルの屈折率を決定する必要がある場合や、屈折率によって変化する流体の性質や特徴を決定する必要がある場合や、流体を識別したり区別したりする必要がある場合といったどのような状況にも用いられる。考えられる応用分野としては、物理学、化学、生物学、医学、薬学、食物学が挙げられる。例えば、工業的なプロセスや製造プロセスの制御にセンサーを用いることができる。プロセスにおいて用いられるまたは製造される流体を一つ以上のセンサーを用いて繰り返してテストすることが可能である。例えば、プロセス装置にソフトウェアによる命令を送って、プロセスの後続段階を制御するために、その結果が用いられる。例えば、プロセスの終点を決定することができるし、汚染といった好ましくない事態を検出することもできる。例えば、測定にはフィードバックループの一部が含まれて、製造プロセスにおける流体の構成を常時モニタリングする。このようにセンサーを用いることにより、プロセスが自動化できるし、精度を改善することができる。
【0062】
複数のセンサーを用いる場合には、センサーを一つのネットワーク内に結合して、プロセス制御システムが提供させる。プロセス装置を介して複数のセンサーを遠隔配置して、中央制御ハブに接続する。ハブは、制御システム内のセンサーの格子のいずれのバンド幅もカバーする波長を有する光を発生する一つ以上の光源を含む。また、格子から反射された光を受光してスペクトル分析するOSA等の検出器を含む。また、光ルーティング装置が含まれ、光源から光を受光して光をセンサーに導いて、また、センサーから反射された光を受光してOSAに導く。光ファイバを用いて、様々な構成要素を中央制御ハブに接続することが可能である。OSAは、おそらく中央処理装置または同じような処理装置に組み合わされていて、反射光を分析して、モニタリングされている流体の特性を決定する。そして、決定された流体の特性の値に基づいて、プロセス装置に一つ以上の制御信号を出力する。
【0063】
多様な光の波長と複数のセンサーを適切に取り扱えるのであれば、光ルーティング装置はどのように設計されてもよい。第1の例は、光源と特定のセンサーを光学的に接続することにより(順次または必要に応じた方法で)それぞれのセンサーを別々にアドレスするように設計されたファイバ光スイッチである。この場合、スイッチにより固有のアドレス付けがされるので、それぞれのセンサーは格子のブラッグ波長に関して識別可能である。第2の例は、光源からの光を波長によって分裂させて、対応するセンサーに導く直列式の光スプリッターである。ここで、それぞれのセンサーはブラッグ波長の異なる格子を有する。逆に、スプリッターは反射光を再結合するように動作する。しかしながら、このようにすることができない場合には、代わりに、異なるブラッグ波長を有するセンサーにおいて、例えばアレイ状の導波路格子等の波長を逆多重化する構成要素を用いて、センサーに対して波長を一対一でマッチングさせる。
【0064】
図13は本発明の実施例によるプロセス制御システムの単純化された概略図を示す。制御システム70は、上述の実施例に従って、四つのセンサー72A〜72Dを備え、プロセスを実行させるように動作する装置を介して適切に配置されている。それぞれのセンサーは、光ファイバ76A〜76Dにより、単一の中央制御ハブ74に接続されている。ハブは、光源78と、スペクトル分解光検出器80と、光ルーティング装置82とを備える。中央制御ハブは破線で示されているが、様々な構成要素をまとめるような囲いやハウジングを備えてもよいし、備えなくてもよい。光ルーティング装置82は、光源78からの光を受光し、(上述のように、スイッチングして特定のセンサーに接続するか、光を分裂させるかのどちらかにより)光ファイバ76を介してセンサー72に光を導き、光ファイバ76を介してセンサー72から戻ってきた光を受光し、検出器80に導く。検出器は、戻ってきた光を分析して、一つ以上のセンサーによりテストされた流体サンプルの特性を決定して、対応する制御信号を発生させる。制御信号は制御ライン84を介して装置に提供される。
【0065】
プロセス制御システムは単一のセンサーを用いて実現させることが可能ではあるが、光ルーティング装置を介して複数のセンサーを接続するという概念は幅広く適用可能である。従って、本発明は光センサーネットワークへと更に拡張され、複数のセンサー(同一でもよいし異なってもよい)が光ルーティング装置に接続される。光ルーティング装置は、光源から光を受光し、光を対応するセンサーに分配し、センサーの格子から反射された光を集め、スペクトル分析のために光を伝える。分析結果は、スペクトル分析より明らかなブラッグ波長のシフトから、センサーによりテストされた流体の特性を決定するようにプログラムされたコンピュータプロセッサ等のプロセッサに与えられる。一つのセンサー基板に全ての格子を収容すること、及び/又は、離れた位置に配置する必要のある複数のセンサーを集中制御することが現実的ではないような場合に、このようなネットワークを用いて、波長と窓の種類が異なる多数の格子を集積化することができる。
【0066】
適切な方法で格子と導波路が形成されそれらが接続されるのであれば、どのような製造方法を用いてもよく、上述の本発明による光センサーが製造される。例えば、リソグラフィーとエッチングが用いられる。特に好ましい方法は直接紫外線(UV)を露光する方法であり、UVレーザーを放射して、シリカの屈折率を増大させ、チャネル導波路と格子の両方を単一の基板上に形成する(特許文献1を参照)。
【0067】
直接UV露光方法が特に有効であるのは、長くて高品質の平面格子が形成可能だからである。これにより、非常に細い線幅の格子が与えられ、高感度センサーにつながる。ブラッグ波長λBraggのブラッグ格子のバンド幅Δλは下記のように与えられる(非特許文献10を参照)。
Δλ=λBragg/2neffL(π+(κL)1/2
ここで、κは結合係数であり下記のように定義される。
κ=πnδnη/λBraggeff
また、nは導波路のクラッドの屈折率であり、neffは有効モード屈折率であり、δnは格子内の屈折率の変調の強さであり、ηは、前方伝播モードと後方伝播モードの重なり積分であり、Lは格子の長さである。従って、バンド幅は、弱い格子に対しては格子の長さに依存し、強い格子に対しては屈折率の変調に依存する。流体の屈折率の変化に対する光センサーの解像度は、解像可能な最小の波長のシフトに関連している。従って、狭いスペクトルバンド幅(波長フィルタリング応答)を備えた長い格子を用いることが望ましい。
【0068】
例えば、直接UV露光法を用いてシリコンの三層ウェーハ上のシリカ内にチャネル導波路と格子を形成して、センサーが製造されてもよい。この場合、下にあるシリコンウェーハベースは、様々な導波路層を形成するためドーピングされたシリコン酸化物(ドーピングされたシリカ)の後続の堆積工程に対して、強固なキャリアを提供する。シリコンは、酸化層の成長やアニーリング工程に対して適合性がある。更に、シリコンウェーハ内に他の素子を組み込むことが可能であり、例えば、流量を制御したり、流体サンプルを計量や加熱したり、その場温度測定等の追加的な測定をまとめて行ったりするためのMEMS構造が挙げられる。また、シリコンウェーハは、シリカよりも熱膨張係数が小さいので、アニーリング後にシリカ層は室温で圧縮される。これによって層が強固になることが促進される。しかしながら、シリコン以外の物質上にシリカ層を成長させることも可能であるし、シリカに限定されるわけでもない。
【0069】
多数の方法により層を成長させることができる。出発点はシリコンベースであり、水蒸気環境下において簡単に熱酸化されて、その表面に酸化薄膜層が成長する。この第1層は、後続のより厚い酸化層の成長及び圧密化を促進する。火炎加水分解堆積法(FHD)、低圧化学気相蒸着法(LPCVD)、プラズマ強化型化学気相蒸着法(PECVD)、直接結合法、イオン交換法等の方法を用いて、これらの層を堆積させる。直接UV露光法においては、感光性のある層が必要となる。これは、次のような三層構造によって達成される。即ち、上部及び下部層がクラッド層であり、中央の層は、感度を良くするためにゲルマニウム酸化物などの物質がドーピングされたコア層である。いずれの層にも、屈折率や製造温度等を制御するために、ドーパントを追加することができる。一般的に、リン、ホウ素、スズ、チタンがシリカにドーピングされる。また、高圧化で数日間、重水素を層にドーピングすることにより、感光性に対する応答が増大される。水素によっても感光性が強まる。代わりに、高速熱処理を行うことによっても、感光性が強まる。
【0070】
次に、チャネル導波路が層構造内に形成される。直接UV露光においては、基板はUVレーザー放射の焦点スポットの下に移されるが、そのスポットの大きさは、所望のチャネルの大きさに大体対応する。好ましくは、チャネルは、強力なブラッグ格子の応答を与えるために、シングルモードとなるように設計される。固有の干渉パターンを有するスポットを用いて、格子が形作られる。レーザー強度は、正確に制御された位置において変調され、格子を備える導波路と共に格子を同時に形成することが可能となる。形成装置をコンピュータ制御することにより、格子の周期と長さ(従って、ブラッグ波長とバンド幅)及び光導波路の形状を正確に制御することが可能となる。従って、上述のようなチャネル導波路によって接続された二つ以上の格子を備えた単一基板光センサーを、単一の製造工程により形成することが可能となる。
【0071】
導波路と格子が形成された後には、一つのサンプル窓または複数のサンプル窓を形成するように基板が処理される。フッ化水素酸を用いてエッチングすることにより、クラッド材料を除去することが可能である。窓の領域は、基板の窓とならない領域をエッチング前にフォトレジストでマスキングすることによって画定される。フォトレジストはリソグラフィー工程を用いて形が定められてもよい。リソグラフィー工程は導波路の位置決めに関係しており、格子の位置と共に窓を正しい位置に配置する。クラッドの深さが異なる複数の窓が必要な場合には、エッチング前にエッチング耐性層を異なるように堆積させたり、エッチングを適当な時間で中断し十分にエッチングされた窓をエッチング耐性物質で覆ったり、基板を段階的にエッチング液体内に沈めたり、気相エッチングにおいて段階的に基板を横切るようにマスキング板を引き剥がす等の方法を用いて、深さが異なるように窓の領域をエッチングすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】二つのブラッグ格子を備えた本発明の実施例による光センサーの概略図である。
【図2】光センサーの動作を説明するために図1の光センサーに含まれる格子の波長フィルタリング応答を例示する図である。
【図3】複数のブラッグ格子を備えた更なる実施例による光センサーの概略図である。
【図4】単一の導波路内に複数のブラッグ格子を備えた更なる実施例による光センサーの概略図である。
【図5A】一つ以上のリファレンス格子を備えた実施例による光センサーの概略図である。
【図5B】一つ以上のリファレンス格子を備えた実施例による光センサーの概略図である。
【図5C】一つ以上のリファレンス格子を備えた実施例による光センサーの概略図である。
【図5D】一つ以上のリファレンス格子を備えた実施例による光センサーの概略図である。
【図6】加熱又は冷却素子を備えた更なる実施例による光センサーの概略図である。
【図7】更なる実施例によるブラッグ格子の上に重なる検出窓を例示する概略図である。
【図8】第1構成のサンプル窓を備えた実施例による光センサーの一部分の概略的な断面図である。
【図9】第2構成のサンプル窓を備えた実施例による光センサーの一部分の概略的な断面図である。
【図10】層状の導波路構造を採用した実施例による光センサーの一部分の概略的な断面図である。
【図11】第3構成のサンプル窓を備えた実施例による光センサーの一部分の概略的な断面図である。
【図12】感度の異なるサンプル窓を実装した実施例による光センサーの一部分の概略的な断面図である。
【図13】本発明の実施例による光センサーを実装したプロセス制御システムの概略図である。
【符号の説明】
【0073】
10 光センサー
12 基板
14 格子
16 サンプル窓
18 光源
20 第1光ファイバ
22 光サーキュレータ
24 第2光ファイバ
26 導波路
28 集積波長スプリッター
30 第3光ファイバ
32 光スペクトル分析器
34 リファレンス格子
36 窓
40 加熱または冷却装置
42 媒体
44 エッジ
50 ベース層
52 下部クラッド層
54 コア層
56 上部クラッド層
58 流体サンプル
60 エバネッセント場
62 追加クラッド層
64 コーティング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板内の一つ以上の光導波路内に形成された二つ以上の平面状のブラッグ格子と、
前記ブラッグ格子の一つ以上に対応してその上に重なる一つ以上のサンプル窓とを備えた光センサーであり、
前記ブラッグ格子のそれぞれは、該ブラッグ格子内を伝播する光が経験する有効モード屈折率によって異なる波長フィルタリング応答を有しており、
前記一つ以上のサンプル窓は、流体のサンプルを受け取るように配置され、流体のサンプルの存在により、前記対応するブラッグ格子内を伝播する光が経験する有効モード屈折率に影響を与えて前記ブラッグ格子の波長フィルタリング応答を変更するようになっており、
前記ブラッグ格子は光源から光を受光し、前記光をフィルタリングし、前記フィルタリングされた光をスペクトル分解光検出器で検出するために出力する光センサー。
【請求項2】
前記一つ以上のサンプル窓は前記二つ以上のブラッグ格子のそれぞれに対応しており、前記二つ以上のブラッグ格子の全てに流体のサンプルが与えられる請求項1に記載の光センサー。
【請求項3】
前記一つ以上のサンプル窓は前記二つ以上のブラッグ格子の全てにより共有される単一のサンプル窓を有して、前記サンプル窓が受け取る流体のサンプルは、前記二つ以上のブラッグ格子の全ての中を伝播する光の有効モード屈折率に影響を与える請求項2に記載の光センサー。
【請求項4】
前記一つ以上のサンプル窓は前記二つ以上のブラッグ格子に対応した別々のサンプル窓を有して、前記二つ以上のブラッグ格子のそれぞれに別々の流体のサンプルが与えられる請求項2に記載の光センサー。
【請求項5】
前記二つ以上のブラッグ格子は一つ以上のブラッグ格子のペアを有しており、
前記ブラッグ格子のペアのそれぞれは、リファレンス格子と対応したサンプル窓を有する検出格子を備えており、前記検出格子及びリファレンス格子は、該格子が実質的に同じモードの閉じ込めを有するのに十分に近い間隔のブラッグ波長を有する請求項1に記載の光センサー。
【請求項6】
前記検出格子及び前記リファレンス格子は、2から10nm分だけ間隔の空いたブラッグ波長を有する請求項5に記載の光センサー。
【請求項7】
前記リファレンス格子は、前記検出格子に対応するサンプル窓とは別の対応するサンプル窓を有している請求項5または6のいずれかに記載の光センサー。
【請求項8】
前記リファレンス格子及び前記検出格子は単一の導波路内に形成されている請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の光センサー。
【請求項9】
前記二つ以上のブラッグ格子は、ブラッグ格子のグループに分けられる複数のブラッグ格子を有しており、
一つのグループ内のブラッグ格子は第1間隔で空けられたブラッグ波長を有しており、前記グループのそれぞれは平均ブラッグ波長を有し、前記平均ブラッグ波長は他のグループの平均ブラッグ波長から前記第1間隔よりも大きな第2間隔で空けられた請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の光センサー。
【請求項10】
前記第2間隔は前記第1間隔の十倍以上である請求項9に記載の光センサー。
【請求項11】
前記第1間隔は2から10nmに範囲内にある請求項9または請求項10のいずれかに記載の光センサー。
【請求項12】
前記一つ以上の光導波路は光をシングルモードで伝播するようになっている請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の光センサー。
【請求項13】
前記一つ以上のサンプル窓の中の少なくとも一つは、前記対応するブラッグ格子が形成されている光導波路のコアの上に重なるクラッド層の一部分を有しており、前記サンプル窓が受け取る流体のサンプルが前記クラッド層に接触するようになっている請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の光センサー。
【請求項14】
前記クラッド層の一部分の厚さが異なる二つ以上のサンプル窓を有する請求項13に記載の光センサー。
【請求項15】
前記一つ以上のサンプル窓の中の少なくとも一つは、前記対応するブラッグ格子が形成されている光導波路のコアが露出された部分を有しており、前記サンプル窓が受け取る流体のサンプルが前記コアに接触するようになっている請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の光センサー。
【請求項16】
前記コアが露出された部分は、前記対応するブラッグ格子が形成されている前記光導波路の近接する部分のコアの厚さよりも薄い請求項15に記載の光センサー。
【請求項17】
対応するサンプル窓を有する前記ブラッグ格子は、長さ方向に沿って屈折率の変化が逓減するコアを有する光導波路内に形成されており、前記サンプル窓のエッジで有効モード屈折率が急激に変化することを減少させるようになっている請求項1から請求項16のいずれか一項に記載の光センサー。
【請求項18】
前記一つ以上のサンプル窓は、前記対応するブラッグ格子が形成されている光導波路内の光が伝播する方向に対して角度が付けられたエッジを一つ以上有しており、前記ブラッグ格子を伝播する光の反射を減少させるようになっている請求項1から請求項17のいずれか一項に記載の光センサー。
【請求項19】
前記一つ以上の光導波路は該一つ以上の光導波路の導波特性を変更する層を一つ以上有する請求項1から請求項18のいずれか一項に記載の光センサー。
【請求項20】
前記一つ以上のサンプル窓の中の少なくとも一つには、前記サンプル窓の受け取る流体のサンプル内に存在し得る分子と結合する化学的選択性のある材料の表面コーティングが備わっており、前記結合により、前記対応するブラッグ格子内を伝播する光の有効モード屈折率が変化する請求項1から請求項19のいずれか一項に記載の光センサー。
【請求項21】
前記一つ以上のサンプル窓の中の少なくとも一つには、前記サンプル窓の受け取る流体のサンプルによって変化し得る表面プラズモンを有する金属の表面層が備わっており、前記表面プラズモンの変化により、前記対応するブラッグ格子内を伝播する光の有効モード屈折率が変化する請求項1から請求項19のいずれか一項に記載の光センサー
【請求項22】
前記基板の温度を変更して、前記二つ以上のブラッグ格子が略同じ温度になるようにする加熱または冷却装置を更に備えた請求項1から請求項21のいずれか一項に記載の光センサー。
【請求項23】
前記二つ以上のブラッグ格子に光を届けて、それぞれのブラッグ格子が、波長フィルタリング応答の少なくとも一部をカバーするスペクトルバンド幅を有する光を受光するようにする一つ以上の光源を更に備えた請求項1から請求項22のいずれか一項に記載の光センサー。
【請求項24】
前記ブラッグ格子のそれぞれから出力された光を検出してスペクトル分解するスペクトル分解光検出器を更に備えた請求項1から請求項23のいずれか一項に記載の光センサー。
【請求項25】
プロセスを行う装置を制御するプロセス制御システムであり、
プロセスで用いられるまたは生成される流体のサンプルを受け取るように配置された請求項1から請求項24のいずれか一項に記載の光センサー一つ以上と、
前記一つ以上の光センサーのブラッグ格子の波長フィルタリング応答をカバーする光を発生させる光源と、
前記一つ以上の光センサーからの光を受光してスペクトル分析を行い、前記分析に応答して前記装置を制御するための制御信号を一つ以上発生させるスペクトル分解光検出器と、
前記一つ以上の光センサーと前記光源と前記光検出器とに接続され、前記光源からの光を受光し、前記一つ以上の光センサーへと光を分配し、前記一つ以上の光センサーから出力された光を受光し、前記光検出器へと前記出力光を届ける光ルーティング装置とを備えたプロセス制御システム。
【請求項26】
請求項1から請求項24のいずれか一項に記載の光センサー複数と、
前記複数の光センサーのそれぞれに接続され、光源から光を受光し、前記複数の光センサーへと前記光を分配し、前記複数の光センサーから出力された光を受光し、スペクトル分析のために前記受光した光を出力する光ルーティング装置とを備えた光センサーネットワーク。
【請求項27】
前記複数の光センサーのブラッグ格子の波長フィルタリング応答をカバーする光を発生させ、前記光ルーティング装置に前記光を届けるように配置された光源と、
前記光ルーティング装置から出力された光を受光するように配置され、前記光のスペクトル分析を行うスペクトル分解光検出器とを更に備えた請求項26に記載の光センサーネットワーク。
【請求項28】
前記光検出器からのスペクトル分析の結果を受け取るように配置され、前記結果から前記複数の光センサーに加えられた流体のサンプルの特性を一つ以上決定するプロセッサを更に備えた請求項27に記載の光センサーネットワーク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2008−506940(P2008−506940A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520879(P2007−520879)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【国際出願番号】PCT/GB2005/002680
【国際公開番号】WO2006/008447
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(500125788)ユニバーシティ、オブ、サウサンプトン (12)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF SOUTHAMPTON
【Fターム(参考)】