説明

多関節拮抗制御マニピュレータ

【課題】人間の筋骨格系制御特性を生かし、制御自由度や精度、制御速度を共に満足できる多関節拮抗制御マニピュレータとその制御方法を提供する。
【解決手段】多関節マニピュレータは、中央制御装置10と、多関節マニピュレータ16本体とを有する。多関節マニピュレータ本体16は、人工骨格18と、筋ワイヤ20〜30と、筋ワイヤ制御用モータ32,34を備える。筋ワイヤ20〜30は、二関節筋ワイヤ20,22と、一関節筋ワイヤ24〜28から構成される。中央制御装置10は、記憶装置に記憶された制御関数によって前記一関節筋制御用モータと前記二関節筋制御用モータを併用拮抗制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間の筋骨格系の特徴を用いた多関節拮抗制御用マニピュレータとその制御方法に関する。人間の筋骨格系の特徴は、複数筋による多関節の拮抗制御であり、本発明では、これらの特徴を生かした多関節マニピュレータの設計構造とその制御方法を提案する。
【背景技術】
【0002】
生物や人間の身体は、屈筋と伸筋による拮抗筋の制御によって関節を動かす。人間型ロボットの構造を設計する上で、この拮抗制御は関節硬さを制御でき、人間の多様な動きを再現するために、最も重視すべき部分である。従来のモータによるフィードバック制御(PID)では、この拮抗制御は再現できない。このような拮抗制御を行うために、近年では、同じくPID制御に基づく拮抗制御が提案されているが、屈筋と伸筋の一ペアで制御を行う一対制御である限界がある。一方、新しいアクチュエータも提案され、筋の弾性特性に近いゴムチューブを空気圧で制御を行う空気圧アクチュエータも提案されているが、柔軟性はあるものの空気圧の制御速度がモータ制御に比べ非常に遅く、また、非線形的な特性によって制御精度にも問題がある。これらの理由で、筋骨格系の特性を生かした複数筋による制御自由度や制御精度、その制御速度を満足させるマニピュレータとその制御方法は、未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−233188号公報
【特許文献2】米国特許第6532400号
【特許文献3】特許第3436320号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「人間の下肢機構をモデルとした拮抗駆動関節を有する2足歩行型ヒューマノイドの開発」,山口仁一等,バイオメカニズム学会14,pp.261−271(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1では、一関節筋だけの制御となり、効率的な制御仕組みではない。また、単一筋による制御を行うため、モータの動力が十分に必要なため、モータのサイズが大きくなる必要があり、構造的な制約が生じる。
【0006】
特許文献2では、人工筋の空気圧アクチュエータにおける空気圧と発生する張力との関係が非線形で人工筋の大きさや長さによって制御条件が異なり、線形制御には向いていないなど、制御が難しい。さらに、空気を送る際の遅れなどで軌道に沿う動きの生成には精度が落ちる。
【0007】
非特許文献1でも、一関節筋だけで制御が行われるため、一関節と二関節両方を併用し、制御を行う人間の骨格制御の効率性を生かすことが出来ない。また、モータも十分な動力が必要なだけ、サイズが大きくなり、構造的な制約が生じる。筋ワイヤテンションを維持するために物理的なプーリを筋ワイヤに設置しているが、プーリと骨格と接触を避けるために、筋ワイヤの走行を考慮する必要があり、構造的な制約が生じる。
【0008】
二関節筋は人体の骨格を制御する上で、一関節筋と共に併用して使われ、重要な役割を担う。二関節筋の長所は、多関節における連動制御が可能であることで、人体のような可動制限を有する骨格に対し、まとまった動きを制御する上で有効である。また、その役割のため、一関節筋に比べ、筋の体積も大きく、強い駆動力を持つ。このような側面から、人体の骨格をベースに設計される人間型ロボットの設計においても二関節筋と一関節筋が併用できる構造は極めて有効である。特許文献3のように、空気アクチュエータである人工筋肉による二関節筋は近年提案されているが、制御速度やゴムの非線形特性による制御精度に大きな問題を抱えていた。制御速度と制御精度を共に満足できる二関節マニピュレータの開発が望まれていた。
【0009】
本発明の目的は、筋骨格系の制御自由度や制御速度と制御精度を共に満足できる屈筋と伸筋による拮抗制御を目的とする多関節マニピュレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、線形制御のため、制御し易くて精度がとれ、かつ制御速度も速いモータ制御を用いる。モータは筋肉の役割をするワイヤを駆動し、関節を制御する。このようなモータとワイヤのセットを実際の筋の配置に基づいて複数配置し、制御自由度がある多関節拮抗マニピュレータを構築した。その仕組みは、関節を備える人工骨格と、前記人工骨格に一端が接続され、一関節筋に相当する一関節筋ワイヤと、前記人工骨格に一端が接続され、二関節筋に相当する二関節筋ワイヤと、前記一関節筋ワイヤの他端が接続され、前記一関節筋ワイヤを駆動する一関節筋制御用モータと、前記二関節筋ワイヤの他端が接続され、前記二関節筋ワイヤを駆動する二関節筋制御用モータと、予め記憶した制御関数に基づいて、前記一関節筋制御用モータと前記二関節筋制御用モータを併用して駆動制御する制御手段とを備え、前記一関節筋ワイヤ及び前記二関節筋ワイヤは、それぞれ屈筋に相当するワイヤと伸筋に相当するワイヤから構成され、前記屈筋に相当するワイヤは、前記関節の回転軸を基準として前記関節の一方に配置され、前記伸筋に相当するワイヤは、前記関節の回転軸を基準として前記関節の他方に配置され、かつ、前記ワイヤのうち一関節筋ワイヤと前記二関節筋ワイヤは互いに接触しないように離間して配置され、前記制御手段は、前記一関節筋ワイヤ及び前記二関節筋ワイヤがテンションを維持しているか否かを判定し、テンションを維持するように前記一関節筋制御用モータと前記二関節筋制御用モータをフィードバック制御することを特徴とする。
【0011】
本発明の1つの実施形態では、前記制御手段は、筋の特性を生かすために、人間の筋長の変化及び筋の収縮速度の変化に対する筋力の変化特性を示す筋線維の収縮特性再現プロセスを用いてモータの制御信号をフィルタリングすることで前記一関節筋制御用モータと前記二関節筋制御用モータを駆動制御する。また、本発明の1つの実施形態では、前記制御関数は、コンピュータシミュレーションによる学習及び実空間における学習により作成されて前記制御手段の記憶装置に記憶される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、筋骨格系の制御自由度や制御速度と制御精度を共に満足できる屈筋と伸筋による拮抗制御を目的とする多関節マニピュレータを得ることができる。
【0013】
また、本発明によれば、筋線維の収縮特性再現プロセスを用いることで人間の筋特性を再現することができる。
【0014】
さらに、本発明によれば、モータにより筋ワイヤのテンションを維持するように制御するため物理プーリが不要となり、モデルや用途の柔軟性が向上するとともに調整コストを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態の多関節マニピュレータの駆動構造説明図である。
【図2】図1の部分正面図(一関節筋系)である。
【図3】図1の部分正面図(二関節筋系)である。
【図4】図1の部分側面図である。
【図5】図1の部分断面図である。
【図6】図1の部分立体図である。
【図7】人体構造との対応関係を示す説明図である。
【図8】実施形態の制御ブロック図である。
【図9】実施形態の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0017】
本実施形態の多関節マニピュレータは、中央制御装置10と、この中央制御装置10により駆動制御される多関節マニピュレータ本体16から構成される。中央制御装置10は、CPU12及びメモリ14を備える。メモリ14には、所定の制御関数獲得プロセスによって得られた制御関数が格納される。CPU12は、多関節マニピュレータ本体16の状態をセンシングし、メモリ14に格納された制御関数を用いて制御信号を多関節マニピュレータ本体16に出力して駆動制御する。
【0018】
多関節マニピュレータ本体16は、腕の人工骨格18と、筋ワイヤ20〜30と、筋ワイヤ制御用モータ32を備える。筋ワイヤ20〜30は、その始点は筋ワイヤ制御用モータ32の回転軸に垂直となるように繋がれ、その終点は関節を跨って腕の人工骨格18に接続される。筋ワイヤ20〜30を筋ワイヤ制御用モータ32の回転軸に巻き込むことにより関節の回転挙動を制御する。
【0019】
筋ワイヤ20〜30は2種類に分類される。すなわち、1つの関節を制御する一関節用筋ワイヤと、2つの関節を制御する二関節用筋ワイヤである。一関節用筋ワイヤは、筋ワイヤ24,26,28,30であり、二関節用筋ワイヤは、筋ワイヤ20,22である。また、筋ワイヤ制御用モータも筋ワイヤと同様に2種類に分離される。すなわち、一関節用筋ワイヤ24,26,28,30を駆動するモータ32と、二関節用筋ワイヤ20,22を駆動するモータ34である。
【0020】
図2に、一関節用の筋ワイヤ制御用モータ32の正面図を示す。また、図3に、二関節用の筋ワイヤ制御用モータ34の正面図を示す。さらに、図4に、筋ワイヤ制御用モータ32,34の側面図を示す。一関節用の筋ワイヤ制御用モータ32は、回転軸32a及びワイヤ巻き込み用ケース32bを有し、回転軸32aの両側に筋ワイヤ24(あるいは26)の始点が接続される。また、二関節用の筋ワイヤ制御用モータ34は、回転軸34a及びワイヤ巻き込み用ケース34bを有し、回転軸34aの一方に筋ワイヤ20(あるいは22)の始点が接続される。2種類の筋ワイヤは、いずれも関節を跨って腕の人工骨格18に終点が接続される。筋ワイヤ20は伸筋を構成し、筋ワイヤ22は屈筋を構成する。また、筋ワイヤ24,28は伸筋を構成し、筋ワイヤ26,30は屈筋を構成する。また、36,38は関節である。筋ワイヤ20,22は、2つの関節36,38に係合する。
【0021】
図5に、関節36のA−A断面を示す。また、図6に、関節36の模式的な立体図を示す。関節36は関節軸36a及びこの関節軸36aを中心に回転するモーメント36bを有する。モーメント36bは、相対的に径が大きいモーメント36b1と、これを挟むようにその両側に配置された相対的に径が小さいモーメント36b2から構成される。そして、この関節軸36aを境にして屈筋と伸筋が図中上下に分かれて配置される。すなわち、関節軸36aの上部には、筋ワイヤ22,30からなる屈筋群が配置され、関節軸36aの下部には、筋ワイヤ20,28からなる伸筋群が配置される。二関節用の筋ワイヤ20,22は、いずれも関節36の中央に配置され、相対的に径が大きいモーメント36b1に載る。また、一関節用の筋ワイヤ28,30は、いずれも二関節の筋ワイヤ20,22を挟むようにその両側に配置され、相対的に径が小さいモーメント36b2に載る。
【0022】
図7に、人体の腕の構造を模式的に示す。腕の筋肉には、上腕筋、肘筋、上腕二頭筋長頭、上腕二頭筋短頭、上腕三頭筋長頭、上腕三頭筋外側頭、上腕三頭筋内側頭、三角筋中部線維、三角筋前部線維が存在する。本実施形態における、多関節マニピュレータ本体16の構成と、これら人体の筋肉とを対応させると、以下のとおりである。
上腕三頭筋長頭→筋ワイヤ20
上腕二頭筋長頭、上腕二頭筋短頭→筋ワイヤ22
上腕三頭筋内側頭、上腕三頭筋外側頭→筋ワイヤ24
三角筋中部線維、三角筋前部線維→筋ワイヤ26
肘筋→筋ワイヤ28
上腕筋→筋ワイヤ30
【0023】
このような構成において、本実施形態では拮抗制御を用いて多関節マニピュレータ本体16を駆動制御する。拮抗制御は、一つの先端を制御するために複数のアクチュエータが働く並列メカニズムである。既存の関節制御用の拮抗制御は、フィードバック制御の一対制御の限界もあり、一関節だけを制御する構造になっている。しかし、個々の関節だけでは、総合的な人間の動きは生成できないため、個々の関節の制御は並列に繋がれ、特定の動きを制御するための階層構造の下部アクチュエータ化されている。この仕組みは、人間のような多関節の制御には、効率的ではない。これに比べ、人間の生体システムは関節の制御に二関節筋と一関節筋を併用する仕組みを取ることで、多関節を効率よく並列制御が可能である。主に二関節筋は、断面積が大きく非常に大きな力が出せ、一関節筋は、比較的に力が小さい。この差は、二関節筋が連動制御による二つの関節を制御し、大まかな動きを生成する一方で、その細かい調整は、一関節筋によって生成される役割の違いによって特化されたと考えられる。この仕組みによって個々の関節を一関節筋で制御するより、並列で効果的な制御が可能になる。本実施形態でも、この効率的な並列制御仕組みを取り入れるため、一関節筋用と二関節筋用の制御が併用できるような構造を採用している。また、この制御の実現のために、一対線形制御のフィードバック制御に代わって非線形制御に適している強化学習を制御方策として用いる。
【0024】
また、本実施形態では、筋ワイヤ制御用モータ32,34の制御は、従来のモータ制御に比べ、以下の二つの特徴を有している。
(1)筋線維の収縮特性再現プロセス
この機構は、筋線維の収縮特性をモータ制御による人工筋の役割をするワイヤの動き制御によって再現するためのものである。筋収縮特性は、収縮速度によって筋力が変化する速度−力特性(図8のFV)、筋長によって筋力が変化する筋長−力特性(図8のFL)、筋が一定の長さLopt以上に伸びる際の弾性特性を表す筋長−弾性力特性(図8のFLpe)によって表せる。本実施形態のプロセスでは、まず、この三つの部分を正規化する。三つの部分共に筋力は最大筋力によって正規化し、筋長、筋収縮線速度はLoptによって正規化する。正規化したFLにFVを乗算した力にFLpeを加算することで筋力が計算できる。筋力の制御はFLにFVを乗算した値に制御信号を乗算して制御を行う。このような筋特性をモータの回転トルクの制御に適用するプロセスを筋線維の収縮特性再現プロセスとする。
(2)モータ制御ワイヤテンション維持プロセス
筋のテンションを維持するためのモータ制御である。従来のモデルでは、プーリを用いた物理的な構造を用いて筋テンションを維持していたが、ワイヤに取り付ける必要があるため、構造的な制約があった。本実施形態では、図8に示すように、ワイヤの長さLや、収縮速度をフィードバックし、ワイヤテンション維持のためのモータ制御の判断とし、テンションを維持できるようにする。一つの実施形態として、図9のようなプロセスがある。最大伸ばされたワイヤ長をLmaxとし、最大収縮した際のワイヤ長をLminとする。ワイヤ長Ltの正規化を行うために、LtとLminとの差分であるLt−Lminの値をLmax−Lminの値で正規化し、Lt(〜)を求める。ここで、(〜)は、Ltの上付〜を便宜的に表す。このLt(〜)をワイヤテンション維持のための制御パターンに入力し、テンション維持のための最適なモータの制御信号を求める。制御プロセスは、図9のように筋線維の収縮特性再現プロセスからの制御信号aFがワイヤテンションを維持できるか否かを判断し、維持できなければ、ワイヤテンション維持のための制御パターンによって求めた制御信号awtk’に取り替えて出力する。制御信号aFのワイヤテンション維持における判断は、ワイヤ収縮速度Lt(・)が収縮する方向Lt(・)≧0でawtk’より大きい条件を満足しない場合は、awtk’に取り替え出力する。ここで、(・)は、Ltの上付・を便宜的に表す。本明細書では、モータ制御ワイヤテンション維持プロセスを適宜、電動プーリと表現する。これにより、従来の物理的な構造を持つプーリに比べ、よりシンプルな構造を持つモデルの構築が可能である。
【0025】
多関節マニピュレータ本体16の制御は、図1に示すように、中央制御装置10のCPU12がセンサリングによりフィードバックされた情報をメモリ14の制御関数に入力することにより最適な制御信号を筋ワイヤ制御用モータ32,34に供給し、制御を行う。筋ワイヤ20〜30は筋ワイヤ制御用モータ32,34により力を出力し、関節36を動かす。関節36には、筋ワイヤ20〜30に対するモーメントアームの役割をするように筋ワイヤ20〜30が載る。筋ワイヤ20〜30は、各関節に対して屈伸用のワイヤがペアになっている。また、一関節用の筋ワイヤと二関節用の筋ワイヤとの接触を防ぐ構成となっている(図5参照)。
【0026】
実空間上での制御関数を得るためには、まず仮想空間上でコンピュータシミュレーションによる学習を行って制御関数を獲得する。このプロセスにより、実空間での学習の手間が減り、実空間での学習コストが大幅に低下する。獲得した制御関数は仮想空間上で得られたものであるから、実空間と環境の差を考慮して実空間上で利用できるように「慣らし」の学習を行う。以上のプロセスによって得られた制御関数を中央制御装置10のメモリ14に格納する。
【0027】
以下、図8を用いて学習プロセスについて説明する。
【0028】
学習制御エージェントは、フィードバック信号sから、目標動作をするための最適な制御信号aを出力する。ここで、フィードバック信号sは、関節角度ベクトル、関節角速度ベクトル、筋長(筋ワイヤ長)ベクトル、筋(筋ワイヤ)収縮速度ベクトル、先端(マニピュレータ先端)の位置ベクトルの関数である。学習制御プロセスは、例えば強化学習のアクタークリティック法を用いる。筋の粘性特性の速度、筋長におけるアクティブ特性と弾性特性の筋長における受動特性を再現するために、筋線維の収縮特性再現プロセスに基づいて制御信号aのフィルタリングを行う。図8において、FLは横軸に筋長の正規値のL/最適筋長値Lopt、縦軸に筋力の正規値のF/最大値Fmaxとしたときのアクティブ特性であり、FVは横軸に相対筋収縮速度のV(=L(・))/最適筋長値Lopt、縦軸に筋力のF/最大値Fmaxとしたときのアクティブ特性であり、FLpeは横軸に筋長のL/最適値Lopt、縦軸に筋力のF/最大値Fmaxとしたときの受動特性である。FL及びFLpeには筋長ベクトルLが供給されてこれに対応する係数が読み出され、FVには筋収縮速度ベクトルL(・)が供給されてこれに対応する係数が読み出され、制御信号aに乗算される。より詳細には、筋長の変化に対する筋力の変化を示すFLを用いて現在の筋長Lに対する係数を読み出して制御信号aに乗算する。そして、乗算されたaA’に対して、さらに、筋の収縮速度に対する筋力の変化を示すFVを用いて現在の収縮速度L(・)に対する係数を読み出して乗算する。さらに、Loptを超えての筋長の変化に対する筋の弾性力の変化を示すFLpeを用いて現在の筋長Lに対する係数を読み出して制御信号aに乗算し、FLとFVにより係数が乗算された信号aA’’と加算することで制御信号aをフィルタリングする。
【0029】
筋線維の収縮特性再現プロセスでフィルタリングされた制御信号aFは、筋のテンションを維持するために、電動プーリに供給される。電動プーリは、筋のテンションを維持するために、筋ワイヤのテンションをセンサリングし、弛みがないか否かを判断して筋のテンションを維持するための最適な制御信号awtkをアクチュエータである筋ワイヤ制御用モータ32,34に出力し、筋のテンションを維持する。以上のプロセスにより得られた結果sを学習制御エージェントにフィードバックする。
【0030】
このように、本実施形態では、一関節筋と二関節筋を併用する拮抗制御システムを用いることで、円滑な制御を可能としている。本実施形態の特徴をまとめると、以下のとおりである。
(A)一関節筋と二関節筋の併用拮抗制御システム
人体の一関節筋と二関節筋の併用拮抗制御システムのように、ロボット関節の駆動構造において一関節筋と二関節筋を併用制御できる構造と拮抗制御システムを実行する。一関節の制御に複数のモータ制御を適用するために、既存の一対制御のフィードバック制御の代わりに強化学習制御を取り入れている。これにより、外力や荷重等の環境変化におけるモーションコンプライアンスが高い制御システムを実現できる。また、既存の一対制御のための単一の大型モータの制御に比べ、一関節における複数小型モータの協調制御が可能になり、細かい制御の実現や誤動作による事故の危険性を減らすことが可能である。
(B)筋線維の収縮特性再現プロセス
駆動要素である筋の特性を再現するために、粘性要素と弾性要素による筋線維の収縮特性再現プロセスにより電動モータの入力信号のフィルタリングを行う。筋の駆動特性は主に筋線維の収縮特性により説明されるが、粘性要素により、速度や筋長の変化に対する筋特性と弾性要素により、伸ばされた際の筋特性が表現できる。この筋特性は、人体の骨格を有効に制御できるように最適化されていて、速度や伸縮による関節の負担を考慮された仕組みになっている。このような筋特性は、人体の骨格の構造を持つ人間型ロボットにも有効であろう。
(C)電動プーリ
既存の筋ワイヤ上に設置される物理プーリの代わりにモータで筋ワイヤのテンションを制御できる電動プーリを実現している。これにより、物理プーリの筋走行の制約構造を解消し、よりシンプルで柔軟な駆動構造の構築が可能になる。また、物理プーリは、その物理的な構造により、決まったパターンの筋の受動要素を再現しているが、筋の受動特性やテンションは筋の制御機能や、ロボットの用途により、調整する必要がある。この際に物理的な構造に依存する物理プーリは調整が難しく、コストがかかる。電動プーリは、その面、センサリングによるモータの制御により、調整できるため、モデルや用途に柔軟で、調整コストが低い。また、電動プーリは、筋のテンションを維持し、その受動特性は、筋線維の収縮特性再現プロセスにより再現する。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、人間と暮らす環境で人間に接してもらうための最適なシステムは、人間の筋骨格制御システムの充実な再現が必要であると考えられる。本実施形態では、人体の特性を最大に再現できる機械構造と制御プロセスを提供できる。人間型ロボットは、大きさや構造の制限と安全性が重要な設計方針である。このような設計方針は、多数の小型モータの協調制御や干渉制御による十分なトルクの生成と拮抗制御で実現が可能になるため、制御構造に柔軟な発明制御モデルは大きなメリットがある。また、多数の小型モータを利用することによって人間に優しい繊細な制御や拮抗制御によるスティフニスの制御も可能で、安全性が重要視される家庭や看護用の人間型ロボットにもその利用を期待できる。
【符号の説明】
【0032】
10 中央制御装置、12 CPU、14 メモリ、16 多関節マニピュレータ本体、18 人工骨格、20〜30 筋ワイヤ、32,34 筋ワイヤ制御用モータ、36,38 関節。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多関節拮抗制御マニピュレータであって、
関節を備える人工骨格と、
前記人工骨格に一端が接続され、一関節筋に相当する一関節筋ワイヤと、
前記人工骨格に一端が接続され、二関節筋に相当する二関節筋ワイヤと、
前記一関節筋ワイヤの他端が接続され、前記一関節筋ワイヤを駆動する一関節筋制御用モータと、
前記二関節筋ワイヤの他端が接続され、前記二関節筋ワイヤを駆動する二関節筋制御用モータと、
予め記憶した制御関数に基づいて、前記一関節筋制御用モータと前記二関節筋制御用モータを併用して駆動制御する制御手段と、
を備え、
前記一関節筋ワイヤ及び前記二関節筋ワイヤは、それぞれ屈筋に相当するワイヤと伸筋に相当するワイヤから構成され、
前記屈筋に相当するワイヤは、前記関節の回転軸を基準として前記関節の一方に配置され、前記伸筋に相当するワイヤは、前記関節の回転軸を基準として前記関節の他方に配置され、かつ、前記ワイヤのうち一関節筋ワイヤと前記ワイヤのうち二関節筋ワイヤは互いに接触しないように離間して配置され、
前記制御手段は、前記一関節筋ワイヤ及び前記二関節筋ワイヤがテンションを維持しているか否かを判定し、テンションを維持するように前記一関節筋制御用モータと前記二関節筋制御用モータをフィードバック制御する
ことを特徴とする多関節拮抗制御マニピュレータ。
【請求項2】
請求項1記載の多関節拮抗制御マニピュレータにおいて、
前記制御手段は、制御関数により前記一関節筋制御用モータと前記二関節筋制御用モータを併用拮抗制御することを特徴とする多関節拮抗制御マニピュレータ。
【請求項3】
請求項1記載の多関節拮抗制御マニピュレータにおいて、
人間の筋長の変化及び筋の収縮速度の変化に対する筋力の変化特性を示す筋線維の収縮特性再現プロセスを用いて制御信号をフィルタリングし、筋の力学的な特性を生かした前記一関節筋制御用モータと前記二関節筋制御用モータの駆動制御を特徴とする多関節拮抗制御マニピュレータ。
【請求項4】
請求項1記載の多関節拮抗制御マニピュレータにおいて、
前記制御関数は、コンピュータシミュレーションによる学習及び実空間における学習により作成されて前記制御手段の記憶装置に記憶される
ことを特徴とする多関節拮抗制御マニピュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−143523(P2011−143523A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7992(P2010−7992)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】