説明

大型アレイ式示差走査熱量計のDSC測定装置

本発明の実施形態は潜在的治療(診断)薬と知られていない標的分子との結合相互作用をスクリーニングし、特性化するためにエネルギー論を基本にしたアプローチの方法および装置を特徴とする。方法および装置は、これらの反応の発生、結合相互作用の強さ、場合によりこれらのプロセスが発生する速度を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2007年5月16日出願の米国特許仮出願番号第60/930,463号(代理人整理番号12250.0004)の優先権を主張するものであり、上記明細書の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
現在、ゲノミクスやプロテオミクスの分野では、多大な労力と資金が投入されており、労力のほとんどは治療薬や診断薬の開発に集中している。これらの治療薬や診断薬は、DNA(またはRNA)レベルでゲノミクスの分野で作用し、またはタンパク質レベルではプロテオミクスの分野で作用し得る。いずれの場合も、治療薬および/または診断薬の活性は、特定の標的分子に強く結合して、この複雑な構造によって標的分子の機能を変える薬物分子の能力にある。
【0003】
現在では、特定の薬剤が標的分子、例えば、核酸またはタンパク質といかに効果的に結合するかを評価するのに2つの一般的なアプローチ、つまり構造的アプローチと機能的アプローチとがある。構造的アプローチは、相互作用分子が3D構造であるとの認識から結合相互作用の可能性を予測することに基づくものである。標的分子と薬物分子とがいかに十分に組み合わされるかを評価するこの幾何学的アプローチは、詳細に試験しなければならない潜在的薬物分子の数を最小限に抑えるのに使用される。機能的アプローチは、治療薬の存在下で核酸またはタンパク質の生物学的機能における変化の測定に基づくものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の実施形態は、潜在的治療(診断)薬と知られていない標的分子との結合相互作用をスクリーニングし、特性化するためにエネルギー論を基本にしたアプローチの方法および装置を特徴とする。方法および装置は、これらの反応の発生、結合相互作用の強さ、場合によりこれらのプロセスが起こる速度を検出する。
【0005】
方法および装置は複数の試料細胞のアレイとそれに対応するセンサとを利用するので、ハイスループットのエネルギー検出が可能であることが望ましい。
【0006】
本発明のシステムはまた、トレイの充填、システムへのトレイの装着および取り外し、試料へのセンサの挿入のために知られているロボット技術を使用することができる。
【0007】
本発明のシステムはさらに、センサピンを利用する。センサピンを使用するということは、センサピン周囲の液体試料はセンサまでの熱経路がより短いということであり、すなわち、液体試料への、また液体試料からの熱伝導がより早くなるということである。
【0008】
本発明のシステムはまた、(例えば、温度が上昇した時に試料または溶媒が全く蒸発または煮沸されないように)個々の細胞を十分な密閉状態にすることができる。具体的には、本発明のシステムは、96ウェルトレイ(上述したように、突出リムを有する場合が多い)を使用するので、封止ガスケットを組み込むことが可能である。封止ガスケットは、試験される試料の完全性の維持を助けるものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態によるDSC測定装置の概略図である。
【図2】本発明の一実施形態による使い捨ての試料ウェルプレートを示す図である。
【図3】本発明の一実施形態による(センサ配置の前の)温度制御ブロックアセンブリを示す図である。
【図4】本発明の一実施形態による(センサ配置の後の)温度制御ブロックアセンブリを示す図である。
【図5】本発明の一実施形態によるセンサアレイおよび結線を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態によるA/D変換器および増幅器のデータ収集ボードを示す図である。
【図7】本発明の一実施形態によるセンサピンアレイを示す図である。
【図8】本発明の一実施形態による試料ウェルおよびそれに対応するセンサピンの横断面図である。
【図9】本発明の一実施形態によるリフトアセンブリを示す図である。
【図10】本発明の一実施形態による下位のシールドアセンブリを示す図である。
【図11】本発明の一実施形態によるアセンブリのブロック図の内部を示す図である。
【図12】本発明の一実施形態によるウェルアレイの外側を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1では、本発明の一実施形態によるDCS測定装置100の概略図が示されている。測定装置100は、複数のセンサピン102を含む。本実施形態のセンサピン102は、高純度銅を機械加工されたものである。センサピンは、ニッケルめっきで被覆され、次に外側を不透水性の金めっきで被覆される。理解されるように、センサピンは高熱伝導性を有し、それでも化学的に不活性であることが望ましい。したがって、本実施形態では、銅コアは適切な銅合金の約75%から99.99%純度とすることができ、ニッケルめっきは99.999%純度、金は99.999%純度とすることができる。それでも、当業者には理解されるように、状況によっては異なる純度水準が適する場合があるので、それらの純度水準は単に例にすぎない。
【0011】
ニッケルは、金が反応性を示す銅センサピン本体と融合するのを防ぐことに留意されたい。しかしながら、この同じ機能を果たすことができるその他の材料には銀や白金が含まれるが、これらに限定されない。さらに、一部の実施形態では、センサピン102のコアが銅ではなく、アルミニウム、銀、金、白金、または高熱伝導性を有するその他の合金もしくは材料製とすることもできる。同様に、最外面として金を使用しないで、センサピンは任意の不活性の導電性金属(例えば、銀もしくは白金)でめっきされてもよいし、またはHastelloy−Cもしくはタンタル(これらに限定されない)を含む不活性材料もしくは合金で作られてもよい。
【0012】
センサピン102は、一般に分析技術で使用される96ウェルプレートに合うように設計される。ピン102の正確な直径および長さは、充填された時のウェル内の望ましい液体のアニュラスによって決まる。例えば、ある分析では、液体のアニュラスはより小さいのが望ましいので、より長いピン102か、より直径の大きいピン102か、またはより長く、より直径の大きいピン102がふさわしいということになる。ある分析では、液体のアニュラスはより大きいのが望ましいので、より短いピン102か、より直径の小さいピン102か、またはより短く、より直径の小さいピン102が必要になる。行われる分析のタイプを表す正確なピン102のサイズに合わせることは、試料ウェルの量および形状に依存する。
【0013】
センサピン102は、熱流量センサ104に接続される。本実施形態では、熱流量センサ104はPeltierセンサまたはSeebeck装置である。半導体熱電センサ(Peltier装置)は、Melcor、Ferrotech、Micropeltなど、これらの会社に限定されないが、多数の会社で製造されている。これらの製造業者は、本発明の熱流量センサとして使用するのに適したPeltier装置を製造している。しかしながら、当業者には明らかであるように、センサも使用される。例えば、本発明で使用できる他の熱流量または温度差センサには、熱電対、熱電対列、サーミスタ、およびRTD(抵抗温度装置)が含まれるが、これらに限定されない。
【0014】
一実施形態では、熱電対列センサの使用が検討される。これらのタイプのセンサは、典型的には感度(ボルト/ワット)がより低いため、(当業者には明らかであるように)感度差の原因となる増幅成分に修正が加えられる必要がある場合がある。本発明の中に組み込まれてもよい他のタイプのセンサは、RTDセンサ(通常は白金巻線もしくは銅巻線センサ)または半導電サーミスタセンサ(対で使用)である。つまり、当業者には明らかであるような任意の数のセンサがセンサピン102と熱量計ブロックとの間の温度差を測定可能であれば、これらは本発明に組み込まれてもよい。
【0015】
Peltierセンサを含む本実施形態に戻ると、センサピン102は種々の方法でセンサ104に接続することができる。例えば、センサピン102はセンサ104にはんだ付けまたは接着されてもよい。
【0016】
本実施形態の熱流量センサ104は、熱量計ブロック106に接続される。図3から図5でより詳細に示されるように、本実施形態では、熱量計ブロック106は凹部105を有するアルミニウム片であり、その凹部105内にセンサ104がセンサピン102に対応するように配置され、同様にセンサピン102は96ウェルプレート120内のウェルに対応する。しかしながら、熱量計ブロック106は、例えば、当業者には明らかな銅、金、銀などの他の多数の熱伝導性材料で製造することもできるが、これらの材料に限定されない。
【0017】
熱量計ブロック106は、第I段108および第II段107の2つの段を有する。第I段と第II段との間には、熱減衰材109がある。熱量計ブロック106は、1つ以上の温度制御モジュール116によって走査ブロック110と熱連通している。
【0018】
このように、本実施形態では、第I段の温度制御は能動的であり、第II段の温度制御は受動的である。熱減衰材109は、比較的低い熱導電性を有する物質である。例えば、減衰材109は、シリコーンゴムの薄層間に挟まれたアルミニウムの薄層とすることができる。熱勾配または熱変動の減衰材は、低熱伝導性材料(例えば、薄板シリコーンゴム)の単一の層、または複数の代替の絶縁(または低熱伝導性)材料(例えば、薄板シリコーンゴム)間に挟まれた熱導電性材料(例えば、薄板アルミニウム)の複数の薄層とすることもできる。比較的低い熱伝導性を有することで温度変動または温度勾配を減衰または緩衝することができる材料であれば、減衰材109用の他の多数の材料が当業者には明らかである。例えば、他の減衰材109には、プラスチック、ガラス、断熱発泡体、ガラス繊維もしくはセラミック製の断熱材、および封入空間が含まれるが、これらに限定されない。
【0019】
温度制御モジュール116は、加熱速度または熱量計の温度の走査を二次(または微)調整するための手段である。温度制御モジュール116は、高出力半導電性熱電センサ(例えば、Peltier装置)である。Peltier装置は、Melcor、Ferrotech、Micropeltなど、これらの会社に限定されないが、多数の会社で製造されている。これらの製造業者は、本発明の温度制御モジュールとして使用するのに適したPeltier装置を製造する。温度制御モジュール116は、一部の熱を走査ブロック110から熱量計ブロック106の第I段108に伝達する。温度制御モジュール116はまた、熱量計ブロック106の第I段108と走査ブロック110とが同じ温度になるように(△T=T(108)−T(106)=0)、多少の追加の加熱力を供給する。温度制御モジュール116は、抵抗加熱素子(例えば、コイルヒータもしくはフィルムヒータ)を含む他の適切な加熱装置と交換もしくは置き換えることができるが、これら素子に限定されない。
【0020】
走査ブロック110は、熱量計ブロックの基準温度成分であり、熱容量が大きい高熱伝導性材料の有効質量から作られる。本実施形態では、走査ブロック110は厚いアルミニウム板である。走査ブロックは、ステンレス鋼、銅、銀、または金を含む他の多数の材料製とすることもできるが、これらに限定されない。走査ブロック110は、1つ以上の走査制御モジュール114と熱連通している。走査制御モジュール114は、加熱速度または熱量計の温度の走査を調整するための一次(または粗)手段である。走査制御モジュール114は、高出力半導電性熱電センサ(例えば、Peltier装置)である。Peltier装置は、Melcor、Ferrotech、Micropeltなど、これらの会社に限定されないが、多数の会社で製造されている。これらの製造業者は、本発明の走査制御モジュールとして使用するのに適したPeltier装置を製造する。走査制御モジュール114は、一定の割合(例えば、1分ごとに1°上昇)で、走査ブロック110を加熱することができる。走査制御モジュール114は、抵抗加熱素子(例えば、コイルヒータもしくはフィルムヒータ)を含む他の適切な加熱装置と交換もしくは置き換えることができるが、これら素子に限定されない。
【0021】
ヒートシンク112は、走査制御モジュール114のほぼ上に配置され、本システム100が動作可能な熱的に安定した環境を提供する。本実施形態では、ヒートシンク112は大きな銅ブロックであり、機器の冷却または停止サイクル時に、冷却液がここを通って流れる。ヒートシンクは、ステンレス鋼、銅、銀または金を含む高熱伝導性および高熱容量の他の多数の材料製とすることができるが、これらの材料に限定されない。冷却液の接続は、ヒートシンク112を貫通し冷却液ライン113を接続する銅熱交換コイルによって行われる。
【0022】
ヒートシンク112は、一定の温度(例えば、室温または室温に近い温度)で保たれる、または温度を浮かせた(floated)状態にできる。ヒートシンクの大きな熱容量と冷却液を流すことで制御される時のヒートシンクの開始温度とにより、熱量計の温度や熱量計が温度を走査する速度を調整する時にヒートシンクが基準点として働くことができる。本実施形態では、ヒートシンク112を貫通する冷却液ライン113によりほぼ一定の温度が維持される(図11も参照)。冷却液は、水または熱を伝達できる多数の他の流体とすることができる。例えば、不凍液やオイルなどの他の熱交換流体が挙げられるが、これらに限定されない。ヒートシンク112は、(冷却液ライン113以外の)他の手段により所望の温度に維持できることは留意されたい。例えば、フィン付きヒートシンクから周囲に熱を消散させるファンを備える高表面積またはフィン付きの構造体が挙げられるが、これに限定されない。
【0023】
ウェルプレート120上に、ウェル封止ガスケット118が配置される。ウェル封止ガスケット118は、デュロメータの低硬さのシリコーン板材料である。ウェル封止マットもしくはガスケットは、バイトン、テフロン(登録商標)、ネオプレン、または他の不活性の無孔軟質ガスケット材料を含む多数の材料製とすることができるが、これらに限定されない。ウェル封止ガスケット118は、96ウェルプレート126内の個々のウェル128に対応する1つ以上のチャネル126を含む。1つ以上の保護膜130がチャネル126上に位置決めされる。個々のウェル128が上昇すると、センサピン102が膜130を貫通して、ピン102が感知する環境が最大限に熱的に保護される。膜130はまた、試料が飛び散ることよる試料の相互汚染を防ぐのを助ける。
【0024】
ウェル封止ガスケット118はまた、96ウェルプレート120が上昇してセンサピン102を挿入する時に、96ウェルプレート120の衝撃を緩衝する二次機能を果たす。この緩衝作用が、96ウェルプレート120の破砕を防ぐのを助ける。さらに、96ウェルプレート120の衝撃を緩衝することで、個々のセンサガスケット132もセンサピン102の周囲に挿入できる。
【0025】
本実施形態では、96ウェルプレート120は上昇してセンサピン102と接触することに留意されたい。しかしながら、一部の実施形態では、ウェルプレート120は固定で、ピンが下げられることができる。ウェルプレート120の下に位置するのが、断熱シールド122である。断熱シールドは、試料ウェルの周囲の温度制御された環境を提供する。断熱シールドは、熱量計ブロック106および108と同じ温度になるように制御され、本実施形態では、アルミニウムブロックで作られており、そこにプラスチック試料トレイまたは96ウェルプレート120の試料ウェルを取り囲むように孔パターンが設けられる。断熱シールドは、ステンレス鋼、銅、銀または金を含む高熱伝導性および高熱容量の他の多数の材料製とすることができるが、これらの材料に限定されない。断熱シールド122は、さらに図9、図10に示されている。断熱シールド122は、96ウェルプレート120のウェル128に対応する1つ以上の開口部134を含む。具体的には、図9に示されるように、96ウェルプレート120は断熱シールド122上に配置される。ウェル128は開口部134に挿入され、96ウェルプレート120の上面136(図2)は断熱シールド122の上面138(図10)にほぼ平坦に接して位置する。
【0026】
断熱シールド122は、走査ブロック110とほぼ同じ温度に維持される。断熱シールド122の温度は、1つ以上のシールド制御モジュール124によって制御される。シールド制御モジュール124は、高出力半導電性熱電センサ(例えば、Peltier装置)である。Peltier装置は、Melcor、Ferrotech、Micropeltなど、これらの会社に限定されないが、多数の会社で製造されている。これらの製造業者は、本発明のシールド制御モジュールとして使用するのに適したPeltier装置を製造する。シールド制御モジュール124は、一定の割合(例えば、1分ごとに1°上昇)で、かつ熱量計ブロック106および108の温度を追跡しながら断熱シールド122を加熱することができる。シールド制御モジュール124は、抵抗加熱素子(例えば、コイルヒータもしくはフィルムヒータ)を含む他の適切な加熱装置と交換されることができるが、これら素子に限定されない。
【0027】
センサ接続線115(図5)は、熱流量センサ104を増幅器117(図6)に接続する。増幅器117は、当業者には明らかであるように、接続線115を介して96の熱流量センサ104により生じる96の電圧信号を増幅する。(96の熱流量センサの各々から)増幅された信号は、その後、収集され/測定され、処理される。これらの目的に適用できる利用可能な市販の汎用DAQ(データ収集)カードやソフトウェアプログラムが多数ある。データ収集および制御は、適切なバス型(Bus Type)(例えば、USB/PCI/ISA)のDAQカード、OSサポート(例えば、WIN)、サンプリングレート(>1kS/sec)、必要なアナログ入力(マルチチャンネル、最低解像度16ビット)、アナログ出力、デジタルI/O、カウンタタイマ、トリガ機能を使用して行われる。熱量計設計、低レベル信号の収集、およびPIDフィードバックアルゴリズムを使用する温度制御の当業者であれば、多数の製造業者から入手できる適切な市販のDAQカードを選択することができる。これらの製造業者には、Data Translation、IOTech、Miicrostar Laboratories、National Instruments、Sensoray、またはSignatecが挙げられるが、これらに限定されない。この処理された情報は、次に、パーソナルコンピュータ140(図12)に送信され、その後、パーソナルコンピュータ140が処理された信号を可読データに変換する。適切なDAQソフトウェアは、DAQカードの製造業者の各々から入手可能である(カード固有のソフトウェアもある)。適切なDAQプログラムは、DASYLab、DAPTools、DAS Wizard、DaqViewXLを含むが、これらに限定されない。DAQ機能は、明らかな機器制御機能の全てを含む(例えば、タイミング、スタート、ストップ、シール圧力監視、リフト駆動および位置決め、ガス浄化、クリーニングサイクル、温度制限、温度平衡、温度制御、増幅されたセンサ電圧信号を温度に応じてロギング)。増幅された電圧は、温度に応じて、各々の試料の見掛けの過剰熱容量に変換される。機器または試料のベースライン信号減算におけるデータ分析、96のデータチャネルの各々からの生データまたはベースラインデータのプロット、種々の機器の制御もしくはチェック機能のプロットまたは監視、熱変性および/またはタンパク質と核酸とのリガンド結合の種々のモデルに一致する物理的化学的データの報告のためにデータを適切な熱安定性モデルもしくは熱変性モデルに適合させることは、市販のソフトウェアパッケージ、Cp−Calc(Calorimetry Sciences Corporation製)を使用して行われる。DSC熱力学分析を実行可能な別の市販のソフトウェアパッケージは、Origin(Origin 7.0)から入手できる。チャネル111(図3、図4)はまた、接続線115が通される通路として含まれる。
【0028】
図9から図11を参照すると、本システムとともに含まれ得る他のいくつかの特徴は、下位制御プレート142である。下位制御プレート142は、シールド制御モジュール124の下部にある。図9に示された実施形態では、下位制御プレート142は、シートリフトアセンブリ144上で支持されている。図9の密閉式リフトアセンブリ144は、空気圧リフト150に接続されたプラットフォーム148を含む。プラットフォーム148と下位制御プレート142との間に、1つ以上のスペーサ146がある。本実施形態では、下位制御プレート142は厚いアルミニウム板であり、プラットフォーム148は別個の厚いアルミニウム板であり、スペーサ146はアルミニウム製のスタンドオフロッドである。当業者には明らかであるように、本システムに関連して他のタイプのリフトも利用可能であることに留意されたい。例えば、リフティングは油圧ジャッギング機構、シザーズジャッキ、ねじジャッキ、チェーンもしくはベルト駆動により行うことができる。当業者には理解されているように、ウェル128内に入れられた液体試料がセンサピン102と接触した状態になるように、またウェル封止ガスケット118が押し付けられて試料ウェルを完全に封止するように、断熱シールド122を持ち上げるのに採用できる多数の機構がある。例えば、一実施形態では、スペーサ146およびプラットフォーム148は取り除かれて、空気圧リフト150が直接下位制御プレート142を上昇させることができる。しかしながら、(上述したヒートシンク112の機能と同じように)熱的に安定した環境を提供することのみを考えれば、追加の構成要素とそれに伴う空間を保つことが有利となる場合がある。
【0029】
一部の実施形態では、2つ以上のヒートシンク112を有するのがさらに望ましい場合もある。例えば、ヒートシンクはシステム100の底部および上端に配置することができる。図9、図10で見られるように、システム100はさらに、エンクロージャ152内に入れられる。エンクロージャ152は薄板アルミニウムから作られる。エンクロージャは、スチール、ステンレス鋼、プラスチック、または繊維ガラスを含む他の薄板、プレス物または成型物から作ることもできる。本実施形態では、エンクロージャは台座フレーム154にねじ留めされ、支持される。当業者には明らかであるように、フレーム154は取り除かれるか、または必要な構造支持材となるような多数の材料から作ることができる。これらの材料には、スチール、ステンレス鋼、またはアルミニウムの管、アングルもしくは平坦な金属素材もしくは押出成形品が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
図11に見られるように、エンクロージャ152はまた、電力供給装置156および信号処理電子機器(図示せず)のEMF(電磁界)遮蔽のためのシールド158を収容することもできる。本実施形態のEMFシールドとなるのは接地された銅エンクロージャであるが、ミューメタルを含む他の材料製とすることもできるが、この材料に限定されない。シールド158は、電力線、電話線、ラジオおよびTV放送、電子レンジ、および携帯電話などの無線装置などからの浮遊干渉信号を防ぐのを助ける。
【0031】
一実施形態による本システムの動作は以下の通りである。使用者が96ウェルプレート120の1つ以上のウェル128内に試料160を配置する。本システムの利点は、試料トレイおよび96ウェルの構造のロボット技術を使用する機能である。これらは、他の分析用途では使用されているが、熱量測定技術には使用されていない。ウェルプレート120は、その後、断熱シールド122内の対応する開口部134内に入れられる。一実施形態では、ウェルプレート120は、試料トレイ入口162(図12)を通って導入される。ウェルプレート120が配置されると、入口162は閉じられ、使用者は空気圧リフト150を上昇させると、次に空気圧リフト150がプラットフォーム148を上昇させ、プラットフォーム148が断熱シールド122を上昇させる。
【0032】
断熱シールド122内にある試料160が上昇すると、センサピン102がウェル封止ガスケット118の膜130を押して貫通し、試料ウェル128内に含まれる液体試料および対応する試料160の中に入る。次に、試料160の周囲の熱環境はコントロールされる。例えば、上述したように、ヒートシンク112が冷却液ライン113を使用いて一定の温度に維持される。同じ温度が、下位制御プレート142の下に位置する空間によって維持される。
【0033】
次に、走査ブロック110が走査制御モジュール114によって所望の温度まで加熱される。この熱は、完全にではないが、温度制御モジュール116(△T制御モジュールとも呼ばれる)を使用して熱量計ブロック106まで伝達される。温度制御モジュール116はまた、直接熱量計ブロック106を加熱する。熱量計ブロック106の2つの段、すなわち、第I段108、第II段107を含む実施形態では、温度制御モジュール116は、第I段と連通する(その結果、熱を第I段に伝達する)。第I段と第II段との間で、減衰材109は種々の要因から生じる可能性のある熱流量の不一致による熱雑音を低減するのを助ける。温度制御モジュール116を使用することはまた、分析結果に影響する可能性のある雑音がほとんどない、安定した熱環境が作られる手段ともなる。試料ウェルのレベルおよびセンサピン付近の温度の制御は、能動的および受動的機構の両方を使用して、複数のレベルの段階式微調整によって維持される。第1のレベルの調整は、熱量計アセンブリのための調整温度および温度変化率を得るために(走査制御モジュール114からの)加熱による走査ブロック110の温度調整である。第2のレベルの調整では、熱量計ブロックの第I段の温度が△T制御モジュール116から少量の追加の加熱によって走査ブロックと同じ温度に維持される。これらの最初の2つの調整ステップはともに、走査ブロックの所望の走査温度変化率を得るために、また熱量計ブロックの第I段を走査ブロックの温度と同じ温度に維持するために知られている比例−積分−微分(PID)制御方式を使用して行われる。これらのフィードバック制御プロセスは両方とも、調整の設定ポイントが両方向に外れると信号雑音を取り込む。次のレベルの調整は、第II段の熱量計ブロックが第I段のブロックの平均温度に合わせるという意味で受動的である。この平均化は、2つの熱量計ブロック106と108を分離する減衰材109を通して2つの熱量計ブロックの減衰された結合による受動的(および低速の)反応により行われる。能動的かつ受動的制御素子にする目的は、環境または機器の人為的な原因による温度(および熱流量)の変動を発生させる干渉なしに、試料160で発生する温度誘発の化学反応のエネルギー特性が検出できるように、試料の温度を走査することにある。したがって、熱センサ104は、ほぼ熱的に安定した環境にある。システム100の反対側からは、断熱シールド122が同時に走査ブロック110とほぼ同じ温度まで加熱される。このようにして、断熱シールド122、試料プレート120、その中の試料160、センサピン102、および熱センサ104が全て、同時にほぼ同じ温度になる。
【0034】
このような条件下で、使用者は種々のデータを生成することができる。例えば、使用者は、希釈溶液128内にあるバイオターゲット(例えば、受容体、タンパク質および核酸)と一緒に試料ウェルに入れられた潜在的薬剤化合物(またはリガンド)の存在下または非存在下で薬剤バイオターゲットの熱的安定性の変化を判断することができる。同時にかつ均一に断熱シールド122、および熱量計ブロック106に熱を加えることにより、試料160およびセンサ104の両方が同じ熱環境に置かれる。このことにより、使用者は、バイオターゲット分子の熱性アンフォールディング(変性)さらに受容体/リガンドの相互作用(薬剤結合または放出)による熱エネルギーの結果として得られる試料溶液内の熱容量の変化を検出することができる。さらに有用なのは、本システムにより上記の検出が96の試料において同時に行うことが可能であると考えられる。
【0035】
当然、これは本システムの1つの可能性のある用途にすぎない。他の多数の用途には、診断用途が挙げられ得るが、これに限定されない。この診断用途は、適切な体液(例えば、血液、尿、腹水、髄液、羊水、唾液)内のプロテオミクス(またはタンパク質分布)が、特徴的熱変性プロフィールによって、また病気を診断するのに使用される確立されたデータベースを参照して、アレイDSCで感知されるというものである。
【0036】
本発明の変形形態
一部の実施形態では、走査ブロック110は、制御モジュール116および主要な熱量計ブロック106と直接連通することができる。一部の実施形態では、センサアレイは、96が個々にセンサ104を配置するのではなく、一体型設計とすることができる。一部の実施形態では、センサアレイは異なる形状にすることもでき、他の96ウェル式生物工学的応用で使用される明らかなハイスループットのスクリーニング構造体内に384、1536またはそれ以上センサを有することができる。一部の実施形態では、測定アセンブリは真空に配置されてもよい。一部の実施形態では、部品配置、フレーム、外装アセンブリは大きく変えられて、全体設計をより小型にすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)1つ以上の走査制御モジュールと、
b)走査制御モジュールを熱連通した走査ブロックと、
c)1つ以上の温度制御モジュールと、
d)温度制御モジュールと熱連通した熱量計ブロックと、
e)熱量計ブロックと接続された1つ以上の熱流量センサと、
f)熱流量センサと熱連通した1つ以上のセンサピンと、
g)断熱シールドと、
h)断熱シールドと熱連通した1つ以上のシールド制御モジュールとを備える、熱量計アレイ。
【請求項2】
熱量計ブロックの温度勾配が、2段の熱量計ブロックの構造体の中の不動態の低熱伝導性減衰層を使用して最小限に抑えられる、請求項1に記載の熱量計アレイ。
【請求項3】
96のセンサ信号の各々が、アレイ内の任意の他のセンサからの信号またはアレイ内の複数の他の特異的に配置されたセンサの平均と組み合わされると、シングルエンドモードか差動モードかのいずれかで使用され得る、請求項1に記載の熱量計アレイ。
【請求項4】
断熱シールドが、96ウェル試料プレートを受承することができる、請求項1に記載の熱量計アレイ。
【請求項5】
96ウェル試料プレート内の96のウェルの各々が、120°までの温度の水を封じ込めるのに十分な圧力まで封止される、請求項1に記載の熱量計アレイ。
【請求項6】
120°までの温度の蒸発または沸騰による水の減少を防ぐのに適した封止ガスケットに加えられる封止力を生成することができるリフトアセンブリをさらに備える、請求項1に記載の熱量計アレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2010−527451(P2010−527451A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508532(P2010−508532)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/063504
【国際公開番号】WO2008/144297
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(509314770)エナジエテイツク・ジエノミクス・コーポレイシヨン (1)
【Fターム(参考)】