説明

大気浄化性能を有するアルミニウム製品およびその製造方法

【課題】 アルミニウム製熱交換器のようなアルミニウム製品の表面に大気浄化用触媒をバインダーを介して担持せしめて大気浄化性能を付与したアルミニウム製品において、大気浄化性能をより向上させると共に、長期間使用しても触媒を担持しているアルミニウム表面の腐食による触媒の脱落が十分に防止され、大気浄化性能の低下と触媒成分の大気中への拡散が長期間に亘って十分に防止されるようにすること。
【解決手段】 表面にベーマイト層が形成されているアルミニウム製品と、前記アルミニウム製品の表面にバインダーを介して担持されている大気浄化用触媒とを備えることを特徴とする大気浄化性能を有するアルミニウム製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気浄化性能を有するアルミニウム製品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光化学オキシダント濃度の1時間値の最大値が年々高くなる傾向にあり、特に東京や名古屋などの都市部においては、光化学オキシダント濃度が環境基準値(1時間値が0.06ppm以下)を満たしていない。
【0003】
前記光化学オキシダントは、工場や自動車から排出される窒素酸化物と炭化水素類とが太陽の紫外線照射の下で反応して生成するオゾンを主成分とする酸化力の強い汚染物質である。オゾンは物質の酸化劣化を引き起こすだけでなく、人体に対しても悪影響を及ぼすものであり、熱分解法や活性炭法、触媒法など、従来から様々なオゾン分解方法が提案されている。
【0004】
前記触媒法に用いられるオゾン分解用触媒としては、MnO、Co、NiO、Fe、AgO、Cr、CeO、V、CuO、MoOなどが知られており、これらのうち、MnOが最も高い活性を示すことが知られている(Applied Catalysis B,Environmental,11(1997),129−166(非特許文献1))。また、オゾンから酸素を生成させる反応における触媒としてクリプトメレン(cryptomelane)形態のα−MnOが好ましいことが知られている(特表2003−527951号公報(特許文献1))。
【0005】
また、特表2001−518001号公報(特許文献2)には、自動車のラジエータなどの熱交換器の表面にα−MnOなどの触媒をバインダーを介して担持せしめ、大気中のオゾン、一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物などの汚染物を無害な化合物に転化させる方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載のような従来の方法では、用いる熱交換器がアルミニウム製ラジエータのようなアルミニウム製熱交換器の場合に、長期間の使用により触媒を担持しているアルミニウム表面に腐食が発生し、触媒の脱落が起きてしまい大気浄化性能の低下を招くと共に、触媒成分の大気中への拡散を引き起こすという問題があった。
【0007】
一方、特許文献2に記載のような従来の方法より効率よくオゾンを分解除去する方法として、特開2009−208018号公報(特許文献3)には、オゾン分解除去用触媒の支持体の表面に無電解メッキによりCo、Cu、Niなどの触媒成分をコーティングする方法が開示されており、支持体としてアルミニウム製熱交換器を用いる場合にはその表面に熱水または熱水蒸気中でベーマイト処理を施して熱交換器の表面積を増大させることが好ましい旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2003−527951号公報
【特許文献2】特表2001−518001号公報
【特許文献3】特開2009−208018号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Applied Catalysis B,Environmental,11(1997),129−166
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、アルミニウム製熱交換器のようなアルミニウム製品の表面に大気浄化用触媒をバインダーを介して担持せしめて大気浄化性能を付与したアルミニウム製品において、大気浄化性能をより向上させると共に、長期間使用しても触媒を担持しているアルミニウム表面の腐食による触媒の脱落が十分に防止され、大気浄化性能の低下と触媒成分の大気中への拡散が長期間に亘って十分に防止されるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、無電解メッキの前処理として有効であったベーマイト処理が、驚くべきことにアルミニウム製品の表面に大気浄化用触媒をバインダーを介して担持せしめる際の前処理としても有効であり、それによって大気浄化性能がより向上すると共に、触媒を担持しているアルミニウム表面の腐食による触媒の脱落が長期間に亘って防止されるようになり、大気浄化性能の低下と触媒成分の大気中への拡散を十分に防止することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の大気浄化性能を有するアルミニウム製品は、表面にベーマイト層が形成されているアルミニウム製品と、前記アルミニウム製品の表面にバインダーを介して担持されている大気浄化用触媒とを備えることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の大気浄化性能を有するアルミニウム製品の製造方法は、アルミニウム製品の表面にベーマイト層を形成せしめる第一の工程と、大気浄化用触媒とバインダーとを含有するスラリーを前記アルミニウム製品の表面に付与する第二の工程と、前記バインダーを固化させて前記アルミニウム製品の表面に前記バインダーを介して前記大気浄化用触媒を担持せしめる第三の工程とを含むことを特徴とする方法である。
【0014】
前記本発明の大気浄化性能を有するアルミニウム製品において、前記ベーマイト層が、アルミニウム製品を80℃以上の熱水または水蒸気に5分以上接触せしめて前記アルミニウム製品の表面に析出させたアルミニウム水酸化物からなる層であることが好ましい。
【0015】
また、前記本発明の大気浄化性能を有するアルミニウム製品の製造方法において、前記第一の工程が、アルミニウム製品を80℃以上の熱水または水蒸気に5分以上接触せしめて前記アルミニウム製品の表面にアルミニウム水酸化物を析出させるベーマイト処理工程であることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明においては、前記大気浄化用触媒が、MnO、CeO、Fe、Co、NiO、AgO、Cr、V、CuOおよびMoOからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、また、前記アルミニウム製品がアルミニウム製熱交換器であることが好ましい。
【0017】
なお、アルミニウム製品の表面に大気浄化用触媒をバインダーを介して担持せしめる際の前処理としてベーマイト処理を施すことにより、大気浄化性能がより向上すると共に、触媒を担持しているアルミニウム表面の腐食による触媒の脱落が長期間に亘って防止されるようになり、大気浄化性能の低下と触媒成分の大気中への拡散を十分に防止することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察している。すなわち、大気浄化用触媒とバインダーとからなる触媒層をアルミニウム製品の表面に形成する前にその表面にベーマイト層を形成することにより、アルミニウム表面にいわゆるバリアとして機能する層が形成され、それによって担持されている触媒によるアルミニウム表面への影響が十分に防止されるようになる。具体的には、アルミニウム製品の表面にベーマイト層が存在することにより、担持されている触媒の影響によってアルミニウム表面が溶解して水酸化アルミニウムが生成するといったいわゆる腐食が十分に防止されるようになる。また、ベーマイト層は親水性であるため、その表面に担持される触媒とのアフィニティーが高く、触媒層とアルミニウム表面との密着性が向上すると共に、触媒層の均一性が向上する。そのため、アルミニウム製品の表面にベーマイト層が存在することにより、大気浄化性能がより向上すると共に、触媒の脱落が長期間に亘って防止されるようになり、大気浄化性能の低下と触媒成分の大気中への拡散が十分に防止されるようになると本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アルミニウム製熱交換器のようなアルミニウム製品の表面に大気浄化用触媒をバインダーを介して担持せしめて大気浄化性能を付与したアルミニウム製品において、大気浄化性能をより向上させると共に、長期間使用しても触媒を担持しているアルミニウム表面の腐食による触媒の脱落が十分に防止され、大気浄化性能の低下と触媒成分の大気中への拡散が長期間に亘って十分に防止されるようにすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1においてアルミニウム製品の表面上に形成されたベーマイト層の表面の状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1においてアルミニウム製品の表面上に形成されたベーマイト層の断面の状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例1において用いたアルミニウム製品(ベーマイト層は形成していない)の表面の状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例および比較例で使用したオゾン分解除去性能評価装置を示す模式図である。
【図5】実施例1および比較例1で得られたアルミニウム製品のオゾン分解除去性能の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0021】
先ず、本発明の大気浄化性能を有するアルミニウム製品ついて説明する。本発明の大気浄化性能を有するアルミニウム製品は、表面にベーマイト層が形成されているアルミニウム製品と、前記アルミニウム製品の表面にバインダーを介して担持されている大気浄化用触媒とを備えることを特徴とするものである。
【0022】
本発明に用いられるアルミニウム製品としては、特に制限されないが、アルミニウム製のラジエータ、エバポレータ、ヒータコア、コンデンサーなどのアルミニウム製熱交換器が好適に用いられる。また、本発明においては、ハニカム状、フォーム状、モノリス状、コルゲート状などの通気性を有する形状を有するアルミニウム製の大気浄化反応用基材をアルミニウム製品として用いることも可能である。
【0023】
本発明において前記アルミニウム製品の表面に形成されるベーマイト層としては、アルミニウム製品を80℃以上(より好ましくは90〜100℃)の熱水または水蒸気に5分以上(より好ましくは10分〜1時間)接触せしめて前記アルミニウム製品の表面に析出させたアルミニウム水酸化物からなる層であることが好ましい。このようなベーマイト処理における処理温度や処理時間が前記下限未満では、ベーマイト層の形成が不十分となり、アルミニウム表面の腐食が十分に防止されなくなる傾向にあり、また、触媒層とアルミニウム表面との密着性や触媒層の均一性も低下する傾向にある。
【0024】
また、このようなベーマイト層の厚みは、特に制限されないが、0.2〜2μmであることが好ましい。ベーマイト層の厚みが前記下限未満では、アルミニウム表面の腐食が十分に防止されなくなる傾向にあり、また、触媒層とアルミニウム表面との密着性や触媒層の均一性が低下する傾向にある。他方、ベーマイト層の厚みが前記上限を超えた場合には、格段の効果は得られないばかりか、処理時間の増加に伴いコスト高となる傾向にある。
【0025】
本発明に用いられる大気浄化用触媒としては、特に制限されないが、オゾンなどの大気中汚染物質を効果的に浄化するという観点から、MnO、CeO、Fe、Co、NiO、AgO、Cr、V、CuOおよびMoOからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、中でも、MnO、CeOおよびFeからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、α−MnOが特に好ましい。
【0026】
また、このような大気浄化用触媒の粒子径も特に制限されないが、平均粒子径(メジアン径)が20μm以下であることが好ましく、10〜20μm以下であることがより好ましい。大気浄化用触媒の平均粒子径が前記上限を超えると、大きな塊となってアルミニウム表面に担持され、密着性や触媒層の均一性が低下する傾向にある。
【0027】
本発明に用いられるバインダーとしては、特に制限されないが、水性ポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂エマルジョン、ブタジエン系樹脂ラテックスなどの有機系バインダーや、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、リン酸アルミニウム系バインダーなどの無機系バインダーが挙げられ、中でも、大気浄化用触媒粉末のバインダーへの分散性、触媒層とアルミニウム表面との密着性(接着性)という観点から水性ポリウレタン樹脂が特に好ましい。
【0028】
本発明においては、前記ベーマイト層が形成されている前記アルミニウム製品の表面に前記バインダーを介して前記大気浄化用触媒が担持されており、前記バインダー(前記バインダーの固化物)と前記大気浄化用触媒とからなる触媒層が前記表面上に形成されていることが好ましい。
【0029】
本発明のアルミニウム製品に担持される大気浄化用触媒の量は、特に制限されないが、アルミニウム製品1L当たり10〜100gであることが好ましい。触媒の担持量が前記下限未満では、触媒の担持効果が十分に発揮されず、大気浄化性能が低くなる傾向にある。他方、触媒の担持量が前記上限を超えると、触媒成分が粒成長して大気浄化性能が低下する傾向にある。
【0030】
また、本発明のアルミニウム製品における大気浄化用触媒の量とバインダーの量の比率も特に制限されないが、一般的には、大気浄化用触媒100質量部に対してバインダー(固形分換算)の量が5〜20質量部であることが好ましい。バインダーの量が前記下限未満では、アルミニウム表面と触媒との密着性が不十分となる傾向にあり、他方、バインダーの量が前記上限を超えると、バインダーが触媒表面を過剰に被覆し、大気浄化性能が不十分となる傾向にある。
【0031】
次に、本発明の大気浄化性能を有するアルミニウム製品の製造方法について説明する。本発明の方法においては、先ず、前記アルミニウム製品の表面に前記ベーマイト層を形成せしめる(第一の工程)。この工程におけるベーマイト処理の好適な諸条件は、前述のとおりである。ベーマイト処理の具体的な方法としては、例えば、アルミニウム製品を熱水中に浸漬する方法、アルミニウム製品を水蒸気雰囲気中に配置する方法、アルミニウム製品の表面に熱水や水蒸気をスプレーなどにより接触させる方法などが挙げられる。
【0032】
次に、本発明の方法においては、前記ベーマイト層が形成されたアルミニウム製品の表面に、前記大気浄化用触媒と前記バインダーとを含有するスラリーを付与する(第二の工程)。
【0033】
前記スラリーの調製方法は特に制限されないが、例えば、前記大気浄化用触媒と前記バインダーとを分散媒に入れ、均一に混合することによりスラリーを調製することができる。前記分散媒としては、特に制限されないが、安全性が高く、安価であるという観点から水が好ましい。また、水以外の溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトンなどの有機溶媒も使用可能であり、水と有機溶媒とを任意の割合で混合した混合溶媒も使用することができる。
【0034】
また、前記スラリーの組成も特に制限されず、用いる触媒やバインダーに応じて適宜調整されるが、ウォッシュコート法に用いるスラリーの場合は、分散媒(好ましくは水)100質量部に対して、前記大気浄化用触媒10〜50質量部程度、前記バインダー(固形物換算)2〜6質量部程度であることが好ましい。スラリーの調製に用いる攪拌機も特に制限されず、例えば、予備撹拌にはマグネットスターラーやプロペラ攪拌機など、強力撹拌にはホモジナイザーやヘンシェルミキサーなどが適宜用いられる。
【0035】
前記ベーマイト層が形成されたアルミニウム製品の表面に前記スラリーを付与する方法としては、例えば、ウォッシュコート法、含浸法、塗布法、噴霧法などが挙げられ、目詰まりがなく均一にコートでき、表面積を増やすという観点からウォッシュコート法が特に好ましい。なお、前記スラリーの付着量は、スラリーの濃度やスラリーの付与回数などを調整することにより適宜調節することができる。
【0036】
次に、本発明の方法においては、前記バインダーを固化させて、前記アルミニウム製品の表面に前記バインダーを介して前記大気浄化用触媒を担持せしめる(第三の工程)。
【0037】
前記バインダーを固化させる方法は、特に制限されず、用いるバインダーなどに応じて適宜選択されるが、例えば、前記スラリーを40〜100℃で5分以上乾燥させることによってバインダーを加熱硬化せしめる方法が挙げられる。
【0038】
このような本発明の製造方法によって得られる本発明のアルミニウム製品は、その表面に担持している大気浄化用触媒により優れた大気浄化性能が発揮される。具体的に発揮される大気浄化性能は、用いる触媒に依存し、特に制限されないが、大気中のオゾン、一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物などの汚染物を無害な化合物に転化(分解除去)させる性能が挙げられる。
【0039】
本発明のアルミニウム製品を用いて大気浄化する方法も特に制限されず、本発明のアルミニウム製品に大気を接触せしめることによってその中のオゾンなどの汚染物を分解除去することができる。本発明のアルミニウム製品と大気との接触方法としては、バッチ式や、アルミニウム製品の固定床に大気を流通させて接触させる方法などが挙げられる。また、接触条件は適宜設定することができるが、オゾンを効率よく分解除去できる観点からは接触温度が室温〜200℃が好ましく、50〜200℃がより好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
<第一の工程>
アルミニウム製品として、アルミニウム製ラジエータフィン(熱交換器、直径30mm×厚み16mmの寸法に切り出したもの)を用いた。これを常圧下で沸騰させたイオン交換水(100℃)中に1時間浸漬し、アルミニウム製品の表面にベーマイト処理を施した。それによってアルミニウム製品の表面上に析出したアルミニウム水酸化物により形成されたベーマイト層の厚みは約0.5μmであった。アルミニウム製品の表面上に形成されたベーマイト層の表面(図1に示す)と断面(図2に示す)を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、図1(表面)および図2(断面)に示すように、表面に燐片状(微細片状)の物質が均一に付着しており、十分な親水性とアンカー効果が期待できるものであることが確認された。
【0042】
<第二の工程>
先ず、スラリーを以下のようにして調製した。すなわち、イオン交換水100質量部に対し、α−MnO触媒(中央電気工業製、商品名:CMD−200、ボールミル粉砕によりd50=1.3μmに調整したもの)33質量部、水性ポリウレタン樹脂バインダー(DIC製、商品名:ウレタン樹脂2250、固形分量35%)10.6質量部(固形分換算で3.7質量部)をそれぞれ量りとってビーカーに入れ、スターラを用いて予備撹拌を行った後、更に均一に混合するためにホモジナイザー(特殊機化工業製、商品名:T.K.ロボミックス)を用いて5000rpmで10分間強力に撹拌混合し、ウォッシュコート法用のスラリーを得た。
【0043】
次に、表面にベーマイト層を形成した前記アルミニウム製品の表面に、以下のようにしてウォッシュコート法により前記スラリーを付与した。すなわち、前記アルミニウム製品に前記スラリーを流し込み、スラリーがアルミニウム製品に均一な厚みおよび被覆量で被覆されるようにアルミニウム製品を上下交互に向きを変え、かつ下方向から真空ポンプで吸引して余分なスラリーを除去しながらウォッシュコートを施した。
【0044】
<第三の工程>
次に、前記スラリーにより表面が被覆された前記アルミニウム製品を60℃の熱風で20分間乾燥させることにより前記バインダーを硬化せしめ、前記触媒(大気浄化用触媒)が前記バインダーにより表面に担持された前記アルミニウム製品(アルミニウム製ラジエータフィン)を得た。なお、得られたアルミニウム製品における触媒の担持量は、アルミニウム製品の容量1Lあたり50gであった。
【0045】
(比較例1)
第一の工程におけるベーマイト処理を施さないで前記アルミニウム製品をそのまま第二の工程に供するようにした以外は実施例1と同様にして前記触媒(大気浄化用触媒)が前記バインダーにより表面に担持された前記アルミニウム製品(アルミニウム製ラジエータフィン)を得た。なお、得られたアルミニウム製品における触媒の担持量は、アルミニウム製品の容量1Lあたり45gであった。また、ベーマイト層を形成していないアルミニウム製品の表面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、図3に示すように、表面は平滑であることが確認された。
【0046】
(アルミニウム製品の表面に対する触媒の密着性の評価試験>
実施例1および比較例1で得られた大気浄化用触媒を備えたアルミニウム製品(アルミニウム製ラジエータフィン)をそれぞれ用いて、以下のようにして密着性の評価試験を実施した。すなわち、先ず、得られたアルミニウム製品の重量を測定した。次いで、そのアルミニウム製品に対してイオン交換水中での超音波洗浄(超音波の周波数:38kHz、出力:120W、照射時間:120分)を施し、60℃の熱風で20分間乾燥させた後、再度重量を測定した。そして、超音波洗浄前後のアルミニウム製品の重量を比較して、アルミニウム製品に担持されている触媒の残存率(超音波洗浄後の触媒の重量/超音波洗浄前の触媒の重量)を求めた。
【0047】
その結果、実施例1で得られたアルミニウム製品における触媒残存率は93%であったのに対して、比較例1で得られたアルミニウム製品における触媒残存率は22%であった。
【0048】
このような結果から、アルミニウム製品の表面にベーマイト処理を施して用いた実施例1の製造方法によって得られたアルミニウム製品は、ベーマイト処理を施さないでアルミニウム製品をそのまま用いた比較例1の製造方法によって得られたアルミニウム製品に比べて、大気浄化用触媒の付着率が著しく高く、触媒の脱落が十分に防止されていた。したがって、実施例1で得られたアルミニウム製品を用いれば、長期間使用しても触媒を担持しているアルミニウム表面の腐食も抑制でき、大気浄化性能の低下と触媒成分の大気中への拡散が長期間に亘って十分に防止されるようになることが確認された。
【0049】
<オゾン分解除去性能評価>
実施例1および比較例1で得られた大気浄化性能を有するアルミニウム製品(触媒の密着性の評価試験後の試料)を用いて、図4に示すオゾン分解除去性能評価装置を用いてそれぞれのオゾン分解除去性能を評価した。図4に示すオゾン分解除去性能評価装置の触媒床1(内径30mm)に、前記大気浄化性能を有するアルミニウム製品(アルミニウム製ラジエータフィン、直径30mm×厚み16mm)を設置した。この石英管2中の触媒床1に、500体積ppmのオゾンと20体積%の酸素とを含む混合気体(残りは窒素)を入ガス温度が約35℃、約50℃または約100℃、流量が10L/分の条件で供給し、触媒床通過前後の混合気体中のオゾン濃度を測定してオゾン分解除去率を算出した。その結果を図5に示す。
【0050】
図5に示した結果から明らかなように、アルミニウム製品の表面にベーマイト処理を施して用いた実施例1の製造方法によって得られたアルミニウム製品は、ベーマイト処理を施さないでアルミニウム製品をそのまま用いた比較例1の製造方法によって得られたアルミニウム製品に比べて、オゾン浄化性能が非常に優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上説明したように、本発明によれば、アルミニウム製熱交換器のようなアルミニウム製品の表面に大気浄化用触媒をバインダーを介して担持せしめて大気浄化性能を付与したアルミニウム製品において、大気浄化性能をより向上させると共に、長期間使用しても触媒を担持しているアルミニウム表面の腐食による触媒の脱落が十分に防止され、大気浄化性能の低下と触媒成分の大気中への拡散が長期間に亘って十分に防止されるようにすることが可能となる。
【0052】
したがって、本発明は、ウォッシュコート法などによって大気浄化用触媒をバインダーを介して担持せしめることによってアルミニウム製品に大気浄化性能を付与する技術において、大気浄化性能を長期に亘って高く維持できると共に、触媒の密着性を向上させて触媒が脱落しないようにするための技術として非常に有用である。
【符号の説明】
【0053】
1…触媒床、2…石英管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にベーマイト層が形成されているアルミニウム製品と、前記アルミニウム製品の表面にバインダーを介して担持されている大気浄化用触媒とを備えることを特徴とする大気浄化性能を有するアルミニウム製品。
【請求項2】
前記ベーマイト層が、アルミニウム製品を80℃以上の熱水または水蒸気に5分以上接触せしめて前記アルミニウム製品の表面に析出させたアルミニウム水酸化物からなる層であることを特徴とする請求項1に記載の大気浄化性能を有するアルミニウム製品。
【請求項3】
前記大気浄化用触媒が、MnO、CeO、Fe、Co、NiO、AgO、Cr、V、CuOおよびMoOからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の大気浄化性能を有するアルミニウム製品。
【請求項4】
前記アルミニウム製品がアルミニウム製熱交換器であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の大気浄化性能を有するアルミニウム製品。
【請求項5】
アルミニウム製品の表面にベーマイト層を形成せしめる第一の工程と、大気浄化用触媒とバインダーとを含有するスラリーを前記アルミニウム製品の表面に付与する第二の工程と、前記バインダーを固化させて前記アルミニウム製品の表面に前記バインダーを介して前記大気浄化用触媒を担持せしめる第三の工程とを含むことを特徴とする大気浄化性能を有するアルミニウム製品の製造方法。
【請求項6】
前記第一の工程が、アルミニウム製品を80℃以上の熱水または水蒸気に5分以上接触せしめて前記アルミニウム製品の表面にアルミニウム水酸化物を析出させるベーマイト処理工程であることを特徴とする請求項5に記載の大気浄化性能を有するアルミニウム製品の製造方法。
【請求項7】
前記大気浄化用触媒が、MnO、CeO、Fe、Co、NiO、AgO、Cr、V、CuOおよびMoOからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項5または6に記載の大気浄化性能を有するアルミニウム製品の製造方法。
【請求項8】
前記アルミニウム製品がアルミニウム製熱交換器であることを特徴とする請求項5〜7のうちのいずれか一項に記載の大気浄化性能を有するアルミニウム製品の製造方法。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−110438(P2011−110438A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266041(P2009−266041)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】