説明

天井吊下型防振装置

【課題】天井吊下型防振装置において、部品点数を抑えつつ、コンパクトながらナットを組み付ける際の作業性を向上させ、且つ、強度を確保する。
【解決手段】天井及び機器に各々連結される吊りボルトを挿通するための貫通孔5c,5dがそれぞれ形成された上板3及び下板5と、これらの板3,5を繋ぐ一対の側板7,9とが金属板の曲げ加工により一体形成されたハウジング2を備え、下板5には吊りボルトがナットによって取り付けられる一方、上板には吊りボルトがコイルばね33を介してナットによって取り付けられる天井吊下型防振装置1である。一対の側板7,9は、被支持体が吊り下げられていない状態におけるコイルばね33の先端よりも下側の部位に切欠部7a,9aが形成されている。下板5は、略直角に折り曲げられた側板7,9の延出部5b,5aを、重ね合わせることで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアコン等の天吊型の機器を吊り下げるための天井吊下型防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、支持体から垂下する吊りボルトと、被支持体に取り付けられる吊りボルトとを弾性部材を介して連結し、この弾性部材によって振動を吸収することにより、支持体と被支持体との間で振動が伝わることを抑制するようにした天井吊下型防振装置が知られている。
【0003】
このような防振装置としては、例えば、特許文献1の図21〜図24に従来例として示されるように、鋼材からなるコ字型の2個のフレームと、ゴム材からなる防振体とを組合わせてなる、矩形枠体を有するものが多い。
【0004】
しかしながら、2個のフレームを組み合わせた矩形枠体を有する天井吊下型防振装置では、部品点数が多くなるとともに、支持体側及び被支持体側の吊りボルトをダブルナット等で枠体に取り付ける際に、枠体に囲まれた極めて狭い空間において、スパナ等の工具を用いてナットを固定しなければならいことから、ナットの締め付け作業が極めて煩雑になるという問題がある。
【0005】
そこで、特許文献1には、両側端縁をその横断面から見てくの字状に屈曲形成した垂直片と、当該垂直片の両端に直角に折曲形成された上片、下片とを有するフレーム(ハウジング)を備えた防振吊り体が開示されている。この防振吊り体によれば、製造コストを低減でき、且つ、組み立て作業を簡略、迅速に行うことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−124440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のもののようなハウジング形状を、屈曲形成や折曲形成のみによって形成することは困難である。また、仮に垂直片の屈曲形成した両側端縁を、垂直片の両端に直角に折曲形成された上片及び下片に隅肉溶接すると、溶接ヒケによって上片と下片との平行度を保てないおそれがある。
【0008】
さらに、プレス成形等でかかるハウジング形状を形成する場合には、肉厚が制限されるため、荷重が集中荷重に近い形で作用する、ナットでボルトを直接固定している側(上片)が歪んで、ハウジング全体が変形するおそれがある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、天井吊下型防振装置において、部品点数を抑えつつ、コンパクトながらナットを組み付ける際の作業性を向上させ、且つ、強度を確保する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明では、上下の平行板を繋ぐ側板に、作業スペースを確保するための切欠部を形成するとともに、ナットが直接取り付けられる側の平行板の強度を高めてその変形を抑えることで、切欠部を形成することで細幅になった側板の部位に、曲げや捻り等が作用するのを抑えるようにしている。
【0011】
第1の発明は、支持体及び被支持体に各々連結される吊りボルトを挿通するための貫通孔がそれぞれ形成された上下一対の平行板と、上下方向に延びて当該両平行板を繋ぐ一対の側板と、が金属板の曲げ加工により一体形成されたハウジングを備え、当該上下一対の平行板のうち一方側の平行板には、吊りボルトがナットによって取り付けられる一方、他方側の平行板には、吊りボルトが弾性部材を介してナットによって取り付けられる天井吊下型防振装置であって、上記一対の側板は、上記各ナットを固定するための工具を上記ハウジングに側方から挿入するための開放部が形成されるように配設され、且つ、少なくとも、被支持体が吊り下げられていない状態における上記弾性部材の先端よりも上下方向一方側の部位の開放部側に、切欠部が形成されており、上記一方側の平行板は、略直角に折り曲げられた上記側板の延出部を、重ね合わせることによって形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
第1の発明によれば、弾性部材が設けられるとともに各吊りボルトが取り付けられるハウジングは、上下一対の平行板と、これら両平行板を繋ぐ一対の側板とが金属板の曲げ加工により一体形成されているので、部品点数を抑えることができる。
【0013】
また、一対の側板は、各ナットを固定するための工具(スパナ等)をハウジングに側方から挿入するための開放部が形成されるように配設され、且つ、少なくとも、被支持体が吊り下げられていない状態における弾性部材の先端よりも上下方向一方側の部位の開放部側に、切欠部が形成されているので、各ナットを囲む部位の面積が減少する。これにより、例えば天井吊下型防振装置をエアコン等の機器(被支持体)の側面に直接据え付けるような場合にも、両平行板に取り付けられたナットを固定し易くなるので、ハウジングを大きくすることなく、ナットを組み付ける際の作業性を向上させることができる。
【0014】
ここで、側板に切欠部が形成されることで、各ナットを囲む部位の面積が減少する反面、細幅となった上下方向一方側の部位は、曲げや捻りに対する剛性が小さくなる。このため、吊り荷重がナットを介して集中荷重に近い形で作用する、一方側の平行板が変形すると、かかる細幅の部位に曲げや捻りが作用して、ハウジング全体が変形してしまうおそれがある。
【0015】
そこで、本発明の天井吊下型防振装置では、一方側の平行板を、略直角に折り曲げられた側板の延出部を重ね合わせることによって形成している。これにより、一方側の平行板の剛性が高められてその変形が抑制されるので、切欠部が形成されることで細幅となった部位には、下方への引張力以外の力が作用し難くなることから、ハウジング全体が変形するのを抑えることができる。
【0016】
なお、他方側の平行板は、吊りボルトが弾性部材を介してナットによって取り付けられることから、荷重が弾性部材の形状に応じて分散されるため、一方側の平行板に比して変形し難くなっている。
【0017】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記両平行板は、略矩形状に形成されていることを特徴とするものである。
【0018】
第2の発明によれば、両平行板が略矩形状に形成されていることから、効率の良い板取が行えるとともに、曲げ加工が容易になる。また、例えば天井吊下型防振装置を機器の側面に直接据え付けるような場合にも、ハウジングを機器等の側面に密着させることが可能となり、小スペース化に寄与することができる。
【0019】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、上記一対の側板は、コーナー部を介して隣接するように形成されていることを特徴とするものである。
【0020】
第3の発明によれば、一対の側板をコーナー部を介して隣接するように形成するとともに、これらの開放部側に切欠部を形成することで、隣接する2側面よりも広い開放部を形成することが可能となることから、ナットを組み付ける際の作業性をより一層向上させることができる。
【0021】
さらに、一対の側板を折曲形成すれば、曲げや捻り等に対しても強度を確保することができる。
【0022】
第4の発明は、上記第1又は第2の発明において、上記一対の側板は、互いに対向するように形成されていることを特徴とするものである。
【0023】
第4の発明によれば、金属板を展開した状態から、一方向(例えば時計回り)の曲げ加工によってハウジングを形成することができるので、施工性が向上する。
【0024】
また、側板の対向方向は、側板近傍に応力が集中しやすいため、平行板の貫通孔の位置が制限されるが、側板の対向方向及び上下方向と直交する方向については、平行板の側縁の近傍まで貫通孔を近づけることが可能となる。このため、例えば天井吊下型防振装置を機器の側面に直接据え付けるような場合には、側板が機器の側面と直角をなすように天井吊下型防振装置を配置すれば、機器のブラケット等に設けられた吊りボルトの位置に合わせて貫通孔を形成することが可能となり、取付の自由度が大きくなる。
【0025】
第5の発明は、上記第4の発明において、上記ハウジングは、上記一対の側板の切欠部が形成されていない部位と、上記他方側の平行板とを繋ぐ側板部をさらに有していることを特徴とするものである。
【0026】
第5の発明によれば、他方側の平行板が、一対の側板及び側板部と繋がることで、三辺固定版をなすので、元々集中荷重が作用し難い他方側の平行板の変形をより一層抑えることができる。
【0027】
第6の発明は、上記第1〜第5のいずれか1つの発明において、上記ハウジングは、上記各板を重ね合わせた部位が、プロジェクション溶接により溶接されていることを特徴とするものである。
【0028】
第6の発明によれば、各板を重ね合わせた部位をネジやリベット等で結合する場合に比して製造が簡単になるとともに、隅肉溶接する場合に比して低コストの溶接が可能となり、且つ、溶接ヒケを回避することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る天井吊下型防振装置によれば、上下一対の平行板と、これら両平行板を繋ぐ一対の側板とが金属板の曲げ加工により一体形成されているので、ハウジングの部品点数を抑えることができる。
【0030】
また、一対の側板は、各ナットを固定するための工具をハウジングに側方から挿入するための開放部が形成されるように配設され、且つ、少なくとも、被支持体が吊り下げられていない状態における弾性部材の先端よりも上下方向一方側の部位の開放部側に、切欠部が形成されているので、各ナットを囲む部位の面積が減少し、ナットを組み付ける際の作業性を向上させることができる。
【0031】
さらに、一方側の平行板を、略直角に折り曲げられた側板の延出部を重ね合わせることによって形成しているので、一方側の平行板の変形が抑制され、側板に曲げや捻りが作用し難くなることから、ハウジング全体が変形するのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態1に係る天井吊下型防振装置の斜視図である。
【図2】天井吊下型防振装置を示す図であり、同図(a)は上面図であり、同図(b)は背面図であり、同図(c)は正面図であり、同図(d)は右側側面図であり、同図(e)は下面図である。
【図3】同図(a)はゴム座の側面図であり、同図(b)は座金付ゴム座の側面図である。
【図4】天井吊下型防振装置を機器の側面に取り付けた状態を模式的に示す図である。
【図5】天井吊下型防振装置における作業スペースを模式的に示す平断面図である。
【図6】本発明の実施形態2に係る天井吊下型防振装置の斜視図である。
【図7】天井吊下型防振装置を示す図であり、同図(a)は上面図であり、同図(b)は左側側面図であり、同図(c)は正面図であり、同図(d)は右側側面図であり、同図(e)は下面図である。
【図8】天井吊下型防振装置における作業スペースを模式的に示す平断面図である。
【図9】本発明の実施形態3に係る天井吊下型防振装置の斜視図である。
【図10】天井吊下型防振装置を示す図であり、同図(a)は上面図であり、同図(b)は左側側面図であり、同図(c)は正面図であり、同図(d)は右側側面図であり、同図(e)は下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお以下では、正面図、背面図及び側面図では、各図の上側を上方とし、図の下側を下方として説明する。
【0034】
(実施形態1)
図1及び2は、本実施形態に係る天井吊下型防振装置を示し、図1は斜視図であり、図2(a)は上面図であり、図2(b)は背面図であり、図2(c)は正面図であり、図2(d)は右側側面図であり、図2(e)は下面図である。また、図4は、天井吊下型防振装置を機器に取り付けた状態を示すである。図4に示すように、この天井吊下型防振装置1(スプリングハンガー)は、エアコン等の機器(被支持体)51を天井(支持体)49から吊り下げて設置するためのものであり、天井49から下方に延びる寸切りボルトである上側吊りボルト41と、機器51の取付用ブラケット53から上方に延びる下側吊りボルト43とを弾性的に連結している。
【0035】
天井吊下型防振装置1は、ハウジング2と、コイルばね(弾性部材)33と、ゴム座35と、座金付ゴム座37とを備えている。ハウジング2は、上下一対の平行板である上板3及び下板5と、上下方向に延びて上板3と下板5とを繋ぐ一対の側板7,9とを有しており、これら上板3、下板5及び側板7,9とが金属板の曲げ加工により一体形成されている。
【0036】
上板3は、上下方向に延びる側板9の上側の延出部を略90度折り曲げることで、略矩形状に形成されており、一対の側板7,9に挟まれるコーナー部と対向するコーナー部が円弧状に隅切りされている。この上板3には、天井49に連結される上側吊りボルト41を挿通するための、より詳しくは、上側吊りボルト41が挿通されるゴム座35を取り付けるための上下に延びる上側貫通孔3aが形成されている。
【0037】
このゴム座35は、図3(a)に示すように、上板3の上面に係止する円盤状の上側係止部35cと、上板3の下面に係止する、上側係止部35cよりも外径の大きい円盤状の下側係止部35eと、これら上下の係止部35c,35eの間に形成された、上側係止部35cよりも外径の小さい円盤状の嵌合部35dと、上側係止部35cの上面から上方に向かうほど縮径する円錐台状の上側テーパ部35bと、下側係止部35eの下面から下方に延びる円盤状の係合部35fと、当該係合部35fの下面から下方に向かうほど縮径する逆円錐台状の下側テーパ部35gとを有するゴム塊であり、上側吊りボルト41を挿通するための上下に延びる貫通孔35aが形成されている。なお、ゴム座35の構造を分かり易くするために、図3(a)では、ゴム座35の左半分を断面図で表している。
【0038】
このように形成されたゴム座35の上側テーパ部35bを、下方から上側貫通孔3aに差し込むと、上側テーパ部35b及び上側係止部35cが変形して上側貫通孔3aから上板3の上面側に抜け出す。これにより、嵌合部35dが上側貫通孔3aに嵌り、上板3が上側係止部35cと下側係止部35eとの間に挟まれて、ゴム座35が上板3に固定される。
【0039】
また、係合部35fの外径は、コイルばね33の内径よりも大きく形成されている。このため、コイルばね33の上側の端部に下側テーパ部35g及び係合部35fを差し込むと、コイルばね33のループ内周部が係合部35fに食い込み、コイルばね33がゴム座35を介して上板3に固定される。
【0040】
上記座金付ゴム座37は、図3(b)に示すように、略円盤状のナット受け部37dと、ナット受け部37dの上面から上方に延びる円盤状の係合部37cと、当該係合部37cの上面から上方に向かうほど縮径する円錐台状のテーパ部37bとを有するゴム塊であり、上側吊りボルト41を挿通するための上下に延びる貫通孔37aが形成されている。なお、座金付ゴム座37の構造を分かり易くするために、図3(b)では、座金付ゴム座37の左半分を断面図で表している。
【0041】
ナット受け部37dには、下方に開放する円形凹部37eが形成されており、また、ナット受け部37dの下端部且つ円形凹部37eの周縁部には、径方向内側に突起する円環状の突起部37fが形成されている。座金付ゴム座37は、平座金39とゴム塊とを同時成形したものであり、平座金39の周縁部に係合するように突起部37fを形成することにより、平座金39がナット受け部37dから外れ難くなっている。
【0042】
また、係合部37cの外径は、コイルばね33の内径よりも大きく形成されている。このため、コイルばね33の下側の端部にテーパ部37b及び係合部37cを差し込むと、コイルばね33のループ内周部が係合部37cに食い込み、座金付ゴム座37がコイルばね33及びゴム座35を介して上板3に固定される。
【0043】
そうして、上側吊りボルト41を、ゴム座35の貫通孔35a、コイルばね33のループ内、座金付ゴム座37の貫通孔37aの順に挿通し、座金付ゴム座37の下面から飛び出した上側吊りボルト41の先端部(下端部)にナット45,45を螺合させることで、すなわち、上板3に、上側吊りボルト41が座金付ゴム座37、コイルばね33及びゴム座35を介してナット45,45によって取り付けられることで、図4に示すように、天井吊下型防振装置1が、上側吊りボルト41に弾性的に吊り下げられることになる。なお、図4の例では、上側吊りボルト41をダブルナット45,45で天井吊下型防振装置1に取り付けるようにしたが、1つのナット45で取り付けるようにしてもよい。
【0044】
一方、下板5は、上下方向に延びる一対の側板7,9の下側の延出部5a,5bを、側板7の延出部5bが下側になるようにそれぞれ略90度折り曲げて重ね合わせることで、略矩形状に形成されており、上板3と同様に、一対の側板7,9に挟まれるコーナー部と対向するコーナー部が円弧状に隅切りされている。また、重ね合わされた延出部5a,5bは、プロジェクション溶接により2箇所が溶接されており、これにより互いに分離し難くなっている。
【0045】
この下板5には、より詳しくは、折り曲げて重ね合わされた延出部5a,5bには、機器51の取付用ブラケット53から上方に延びる下側吊りボルト43を挿通するための上下に延びる同心の下側貫通孔5c,5dがそれぞれ形成されている。なお、下側貫通孔5c,5dは、上板3の上側貫通孔3aと同心となるように形成されている。
【0046】
そうして、下側吊りボルト43を、下側貫通孔5c,5dに下側から挿通し、下板5の上面から飛び出した下側吊りボルト43にナット47を螺合させることで、図4に示すように、天井吊下型防振装置1が機器51の取付用ブラケット53に取り付けられて、当該機器51が天井49に弾性的に吊り下げられることになる。
【0047】
ここで、下板5には、吊り荷重がナット47を介して集中荷重に近い形で作用するが、上述の如く、折り曲げられた延出部5a,5bを重ね合わせることによって下板5を形成しているので、下板5の剛性が高められてその変形が抑制されるようになっている。
【0048】
ところで、上側吊りボルト41及び下側吊りボルト43にそれぞれナット45,45,47を螺号させる際には、各ナット45,45,47をスパナ等の工具で固定する必要がある。このため、上記一対の側板7,9は、各ナット45,45,47を固定するための工具をハウジング2に側方から挿入するための開放部4が形成されるように配設されている。より具体的には、一対の側板7,9は、側板7と側板9とが略90度の角度をなすように折り曲げることで形成されており、コーナー部を介して隣接するように配置されている。これにより、一対の側板7,9に挟まれるコーナー部と対向するコーナー部側には、スパナ等を挿入するための開放部4が形成されることになる。
【0049】
側板7の上側の延出部7dは、略90度折り曲げられて、図2(a)に示すように、側板9の延出部を折り曲げてなる上板3の上側に重ね合わされている。この重ね合わされた延出部7dと上板3とは、プロジェクション溶接により1箇所が溶接されており、これにより互いに分離し難くなっている。
【0050】
なお、延出部5a,5bをほぼ全面に亘って重ね合わせた下板5とは異なり、延出部7dを上板3の一部にだけ重ね合わせるのは、電気亜鉛メッキを行うためにハウジング2を処理液に浸漬した際に延出部7dと上板3との隙間に入り込む処理液の量を減少させるためである。これにより、延出部7dと上板3との隙間に残留する処理液の量が減少することから、処理液の介在によってメッキがのらない部分が発生するのを抑えることができるとともに、残留処理液の影響でハウジング2が劣化する(錆びる)のを抑えることができる。また、延出部7dと上板3とをほぼ全面的に重ね合わさなくとも、上板3には上側吊りボルト41がゴム座35を介して取り付けられることから、外径の大きい下側係止部35eによって上側吊りボルト41からの荷重が分散されるので、上板3は変形し難くなっている。
【0051】
また、一対の側板7,9には、機器51が吊り下げられていない状態における、コイルばね33の先端(下端)よりも下側の部位の開放部4側に、図2(b)及び(d)に示すように、それぞれ切欠部7a,9aが形成されている。このため、側板7,9は、上側部分7c,9c(切欠部7a,9aが形成されていない部位)に比して、その下側部分7b,9b(切欠部7a,9aが形成されている部位)が細幅となる。これにより、ナット45,45,47を囲む部位の面積が減少することから、図5に示すように、切欠部7a,9aを形成していない防振装置の作業スペース(二点鎖線矢印)よりも広い作業スペース(実線矢印)を確保することが可能となる。なお、図5では、図を見易くするために、取付用ブラケット53、下側吊りボルト43及びナット47を図示省略している。
【0052】
このように側板7,9に各々切欠部7a,9aが形成されることで、各ナット45,45,47を囲む部位の面積が減少する反面、細幅となった下側部分7b,9bの曲げや捻りに対する剛性が小さくなるが、上述の如く、2つの延出部5a,5bを重ね合わせることで下板5の変形が抑制されるので、切欠部7a,9aが形成されることで細幅となった下側部分7b,9bには、曲げや捻り等の引張以外の力が作用し難くなっている。
【0053】
さらに、一対の側板7,9は折曲形成されているので、曲げや捻り等に対しても強度が確保されている。
【0054】
−効果−
本実施形態によれば、ハウジング2は、上板3及び下板5と、これらを繋ぐ一対の側板7,9と、が金属板の曲げ加工により一体形成されているので、部品点数を抑えることができる。
【0055】
また、一対の側板7,9がコーナー部を介して隣接するように形成され、且つ、機器51が吊り下げられていない状態における、コイルばね33の先端よりも下側の部位の開放部4側に、切欠部7a,9aが形成されているので、各ナット45,45,47を囲む部位の面積が減少する。これにより、各ナット45,45,47を固定するための工具をハウジング2に側方から挿入するための大きい開放部4が形成され、スパナ等によって各ナット45,45,47を固定し易くなるので、ナット45,45,47を組み付ける際の作業性を向上させることができる。
【0056】
さらに、本発明の天井吊下型防振装置1では、略直角に折り曲げられた側板7,9の延出部5a,5bを重ね合わせることによって、下板5を形成していることから、下板5の剛性が高められてその変形が抑制されるので、切欠部7a,9aが形成されることで細幅となった下側部分7b,9bには、下方への引張力以外の力(曲げや捻り)が作用し難くなることから、ハウジング2全体が変形するのを抑えることができる。
【0057】
また、上板3及び下板5が略矩形状に形成されていることから、効率の良い板取が行えるとともに、曲げ加工が容易になる。しかも、ハウジング2を機器51の側面に密着させることが可能となり、小スペース化に寄与することができる。
【0058】
さらに、延出部5aと延出部5b、及び、延出部7dと上板3を、プロジェクション溶接により溶接しているので、ネジやリベット等で結合する場合に比して製造が簡単になるとともに、隅肉溶接に比して低コストの溶接が可能となり、且つ、溶接ヒケを回避することができる。
【0059】
(実施形態2)
本実施形態は、ハウジング12の形状が実施形態1と異なるものである。以下、実施形態1と異なる点について説明する。
【0060】
図6及び7は、本実施形態に係る天井吊下型防振装置を示し、図6は斜視図であり、図7(a)は上面図であり、図7(b)は左側面図であり、図7(c)は正面図であり、図7(d)は右側側面図であり、図7(e)は下面図である。
【0061】
天井吊下型防振装置11は、ハウジング12と、コイルばね33と、ゴム座35と、座金付ゴム座37とを備えている。ハウジング12は、上板13及び下板15と、これら上板13と下板15とを繋ぐ一対の側板17,19とを有しており、これら上板13、下板15及び側板17,19とが金属板の曲げ加工により一体形成されている。
【0062】
上板13は、略矩形状に形成されており、この上板13には、天井49に連結される上側吊りボルト41を挿通するための、より詳しくは、上側吊りボルト41が挿通されるゴム座35を取り付けるための上下に延びる上側貫通孔13aが形成されている。
【0063】
一対の側板17,19は、金属板を展開した状態から、一方向(図7(c)の時計回り)に折り曲げることによって、上板13の左右の側縁から垂下して、互いに対向するように形成されている。これにより、天井吊下型防振装置11の前側には、スパナ等を挿入するための開放部14が形成されることになる。
【0064】
また、一対の側板17,19には、機器51が吊り下げられていない状態における、コイルばね33の先端(下端)よりも下側の部位の開放部14側に、図7(b)及び(d)に示すように、それぞれ切欠部17a,19aが形成されている。このため、側板17,19は、上側部分17c,19c(切欠部17a,19aが形成されていない部位)に比して、その下側部分17b,19b(切欠部17a,19aが形成されている部位)が細幅となる。これにより、図8に示すように、切欠部17a,19aを形成していない防振装置の作業スペース(二点鎖線矢印)よりも広い作業スペース(実線矢印)を確保することが可能となる。
【0065】
このように側板17,19に各々切欠部17a,19aが形成されることで、各ナット45,45,47を囲む部位の面積が減少する反面、細幅となった下側部分17b,19bは、曲げや捻りに対する剛性が小さくなるが、下記の如く、2つの延出部15a,15bを重ね合わせることで下板15の剛性が高められてその変形が抑制されるので、細幅となった下側部分17b,19bには、曲げや捻り等の引張以外の力が作用し難くなっている。
【0066】
下板15は、一対の側板17,19の下側の延出部15a,15bを、側板17の延出部15bが下側になるようにそれぞれ略90度折り曲げて重ね合わせることで、略矩形状に形成されている。また、重ね合わされた延出部15a,15bは、プロジェクション溶接により2箇所が溶接されており、これにより互いに分離し難くなっている。
【0067】
この下板15(延出部15a,15b)には、下側吊りボルト43を挿通するための上下に延びる同心の貫通孔15c,15dが形成されている。なお、貫通孔15c,15dは、上板13の上側貫通孔13aと同心となるように形成されている。
【0068】
ここで、側板17,19の対向方向は、側板17,19近傍に応力が集中しやすいため、下板15の貫通孔15c,15dの位置が制限されるが、側板17,19の対向方向の直角方向については、下板15の側縁と貫通孔15c,15dとの間隔lを小さくすることが、すなわち、下板15の側縁の近傍まで貫通孔15c,15dを近づけることが可能となる。このため、機器51の取付用ブラケット53に設けられた下側吊りボルト43の位置に合わせて貫通孔15c,15dを形成することが可能となり、取付の自由度が大きくなる。
【0069】
−効果−
本実施形態によれば、金属板を展開した状態から、一方向の曲げ加工によってハウジング12を形成することができるので、施工性が向上するとともに、下板15の側縁の近傍まで貫通孔15c,15dを近づけることが可能となるので、取付の自由度が大きくなる。
【0070】
(実施形態3)
本実施形態は、ハウジング22の形状が実施形態2と異なるものである。以下、実施形態2と異なる点について説明する。
【0071】
図9及び10は、本実施形態に係る天井吊下型防振装置を示し、図9は斜視図であり、図10(a)は上面図であり、図10(b)は左側面図であり、図10(c)は正面図であり、図10(d)は右側側面図であり、図10(e)は下面図である。
【0072】
天井吊下型防振装置21は、ハウジング22と、コイルばね33と、ゴム座35と、座金付ゴム座37とを備えている。ハウジング22は、上板23及び下板25と、これら上板23と下板25とを繋ぐ一対の側板27,29とに加え、一対の側板27,29の上側部分(後述する切欠部27a,29aが形成されていない部位)27c,29cと、上板23とを繋ぐ側板部31をさらに有しており、これら上板23、下板25、側板27,29及び側板部31とが金属板の曲げ加工により一体形成されている。
【0073】
上板23は、略矩形状に形成されており、この上板23には、天井49に連結される上側吊りボルト41を挿通する(上側吊りボルト41が挿通されるゴム座35を取り付ける)ための上下に延びる上側貫通孔23aが形成されている。
【0074】
側板部31は、金属板を折り曲げることによって、上板23の前側の側縁から垂下するように形成されている。そうして、一対の側板27,29は、側板部31の左右両側の部位を後側に折り曲げることによって、互いに対向するように形成されている。これにより、天井吊下型防振装置21の前側且つ側板部31の下側には、スパナ等を挿入するための開放部24が形成されることになる。
【0075】
左右の側板27,29の上側の延出部27d,29dは、図10(a)に示すように、略90度折り曲げられて上板23の上側に重ね合わされており、この重ね合わされた延出部27d,29dと上板23とは、プロジェクション溶接により1箇所ずつ溶接されており、これにより、上板23が三辺固定版をなしている。
【0076】
また、一対の側板27,29には、機器51が吊り下げられていない状態における、コイルばね33の先端(下端)よりも下側の部位の開放部24側に、図10(b)及び(d)に示すように、それぞれ切欠部27a,29aが形成されている。これにより、側板27,29は、上側部分27c,29cに比してその下側部分27b,29bが細幅となることから、天井吊下型防振装置21を機器51の側面に直接据え付けるような場合にも、広い作業スペースを確保することが可能となる。
【0077】
下板25は、一対の側板27,29の下側の延出部25a,25bを、側板27の延出部25bが下側になるようにそれぞれ略90度折り曲げて重ね合わせることで、略矩形状に形成されている。また、重ね合わされた延出部25a,25bは、プロジェクション溶接により2箇所が溶接されており、これにより互いに分離し難くなっているとともに、折り曲げられた延出部25a,25bを重ね合わせることによって下板25を形成しているので、下板25の変形が抑制されるようになっている。
【0078】
この下板25(延出部25a,25b)には、下側吊りボルト43を挿通するための上下に延びる同心の貫通孔25c,25dが形成されている。なお、貫通孔25c,25dは、上板23の上側貫通孔23aと同心となるように形成されている。
【0079】
−効果−
本実施形態によれば、上板23が、一対の側板27,29及び側板部31と繋がることによって三辺固定版をなすので、上側吊りボルト41がゴム座35を介して取り付けられることで元々集中荷重が作用し難い上板23の変形をより一層抑えることができる。
【0080】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0081】
上記各実施形態では、ハウジング2,12,22に、吊りボルトが座金付ゴム座37、コイルばね33及びゴム座35を介してナット45,45によって取り付けられる側を上側、吊りボルトがナット47によって直接取り付けられる側を下側としたが、これに限らず、例えば天井吊下型防振装置1,11,21の上下を逆にして、下板5,15,25をナット47によって天井49に取り付けるとともに、取付用ブラケット53から上方に延びる寸切りボルトを座金付ゴム座37、コイルばね33及びゴム座35を介して上板3,13,23に取り付けてもよい。
【0082】
また、上記各実施形態では、上板3,13,23及び下板5,15,25を矩形状としたが、これに限らず、一対の側板7,9がコーナー部を介して隣接するように形成されているのであれば、例えば上板3及び下板5を三角形状に形成してもよいし、また、一対の側板17,19,27,29が互いに対向するように形成されているのであれば、例えば上板13,23及び下板15,25を台形状に形成してもよい。
【0083】
さらに、上記各実施形態では、ハウジング2,12,22の各板を重ね合わせた部位をプロジェクション溶接により溶接したが、重ね合わせた部位の分離を抑えつつ上板3,13,23と下板5,15,25との平行度を保てるのであれば、これに限らず、例えば重ね合わせた部位をリベットで結合するようにしてもよい。
【0084】
また、上記各実施形態では、弾性部材としてコイルばね33を用いたが、これに限らず、例えばゴムばねを用いてもよい。
【0085】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上説明したように、本発明は、エアコン等の天吊型の機器を吊り下げるための天井吊下型防振装置等について有用である。
【符号の説明】
【0087】
1、11、21 天井吊下型防振装置
2、12、22 ハウジング
3、13、23 上板(平行板)
3a、13a、23a 上側貫通孔(貫通孔)
4、14、24 開放部
5、15、25 下板(平行板)
5a,5b、15a、15b、25a、25b 延出部
5c,5d、15c、15d、25c、25d 下側貫通孔(貫通孔)
7、9、17、19、27、29 側板
7a,9a、17a、19a、27a、29a 切欠部
27c、29c 上側部分(切欠部が形成されていない部位)
31 側板部
33 コイルばね(弾性部材)
41 上側吊りボルト(吊りボルト)
43 下側吊りボルト(吊りボルト)
45、47 ナット
49 天井(支持体)
51 機器(被支持体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体及び被支持体に各々連結される吊りボルトを挿通するための貫通孔がそれぞれ形成された上下一対の平行板と、上下方向に延びて当該両平行板を繋ぐ一対の側板と、が金属板の曲げ加工により一体形成されたハウジングを備え、当該上下一対の平行板のうち一方側の平行板には、吊りボルトがナットによって取り付けられる一方、他方側の平行板には、吊りボルトが弾性部材を介してナットによって取り付けられる天井吊下型防振装置であって、
上記一対の側板は、上記各ナットを固定するための工具を上記ハウジングに側方から挿入するための開放部が形成されるように配設され、且つ、少なくとも、被支持体が吊り下げられていない状態における上記弾性部材の先端よりも上下方向一方側の部位の開放部側に、切欠部が形成されており、
上記一方側の平行板は、略直角に折り曲げられた上記側板の延出部を、重ね合わせることによって形成されていることを特徴とする天井吊下型防振装置。
【請求項2】
請求項1記載の天井吊下型防振装置において、
上記両平行板は、略矩形状に形成されていることを特徴とする天井吊下型防振装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の天井吊下型防振装置において、
上記一対の側板は、コーナー部を介して隣接するように形成されていることを特徴とする天井吊下型防振装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の天井吊下型防振装置において、
上記一対の側板は、互いに対向するように形成されていることを特徴とする天井吊下型防振装置。
【請求項5】
請求項4記載の天井吊下型防振装置において、
上記ハウジングは、上記一対の側板の切欠部が形成されていない部位と、上記他方側の平行板とを繋ぐ側板部をさらに有していることを特徴とする天井吊下型防振装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の天井吊下型防振装置において、
上記ハウジングは、上記各板を重ね合わせた部位が、プロジェクション溶接により溶接されていることを特徴とする天井吊下型防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−141013(P2011−141013A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3253(P2010−3253)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】