説明

天然乳化剤

【課題】 本発明は、食品添加物ではなく、アレルゲン性が低く、安全性の高い、新規な天然由来の乳化剤を提供することである。
【解決手段】ペプチド含量が5重量%以上、RNA含量が5重量%以上、食物繊維含量が15重量%以上である酵母エキスからなる、食品用乳化剤。該酵母エキスを乳化を必要とする食品に0.1〜5重量%含有させることを特徴とする、前記食品を乳化させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然の食品用乳化剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マーガリンやマヨネーズなど油中に水滴をあるいは水中に油滴を均一に分散させて得る食品の製造には乳化技術が欠かせない。
【0003】
しかしながら、元来水と油は混合しにくい為これらを乳化するために界面活性剤などの助剤が使用される。
【0004】
食品に使用される界面活性剤として、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの合成乳化剤や、レシチン、カゼインなどの天然物乳化剤が挙げられるが、これらは食品衛生法による食品添加物としての規格が定められている為、これらを食品に使用した場合は添加物表示が必要となる。
【0005】
また、卵由来のレシチン、乳由来のカゼインは一部の人に対してはアレルゲン性があるため、使用が制限される場合がある。
【0006】
その他天然由来の乳化剤として、微生物の培養液より得られるバイオサーファクタントが挙げられる。特許文献1には赤色酵母を特許文献2には食用酵母を培養して得られる培養液中の糖とタンパク質を有する成分に乳化安定性があるとの記載がある。
【0007】
しかしながら、これらは酵母を培養することにより培養液中に酵母細胞から分泌されるものであり、培養液中に分泌された成分を食品に用いる場合は通常、培地成分と分離するために薬品、溶媒または樹脂を用いて精製を行わなければならない。
【0008】
また、非特許文献1にはSaccharomyces cerevisiaeの細胞壁にはマンノースとタンパク質の融合した物質が含まれ、これが乳化作用を示すと記載されている。また、特許文献3にはマンノ蛋白質を酵母から加熱抽出する方法が記載されている。この場合、十分な量のマンノ蛋白質を得るには、高温または長時間の加熱を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−255692号公報
【特許文献2】特開2007−216218号公報
【特許文献3】特開平10−98号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】D. R. Cameron et al., Applied and Environmental Microbiology, June . 1988, 54, 6:p. 1420−1425
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、食品添加物以外で、アレルゲン性が低く、安全性の高い、新規な天然由来の乳化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題の解決につき鋭意研究の結果、特定の組成を有する酵母エキスに乳化剤の効果があることを見出した。
すなわち本発明は、
1)酵母エキスが有効成分である食品用乳化剤。
2)前記酵母エキスがペプチド含量5重量%以上、かつRNA含量が5重量%以上である、上記(1)記載の食品用乳化剤。
3)前記酵母エキス中の食物繊維含量が15重量%以上である、上記(1)または(2)に記載の食品用乳化剤。
4)乳化を必要とする食品に上記(1)〜(3)いずれか一つに記載の酵母エキスを 0.1〜5重量%含有させることを特徴とする、前記食品を乳化させる方法。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、酵母を原料として、複雑な精製工程や長時間の加熱工程を経ずに、食品用乳化剤として用いうる酵母エキスを取得できる。酵母エキスは植物由来の一般の食品であり、この酵母エキスからなる乳化剤を、乳化が必要となる食品に添加することで、アレルゲン性が低く、安全性の高い乳化物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる酵母エキスは、乾燥菌体あたり、ペプチドを5重量%以上望ましくは10重量%以上さらに望ましくは16重量%以上含有し、かつRNAを5重量%以上望ましくは10重量%以上さらに望ましくは25重量%以上含有するものである。これ以外の組成の酵母エキスでは、乳化効果は不十分で、安定性も良くない。
本発明に用いる酵母エキスは、それに加えて、食物繊維の含量が15重量%以上のものが望ましく、20重量%以上であれば更に望ましい。更に、全アミノ酸に占めるペプチドの割合(以下「ペプチド率」という)が70重量%以上のものが望ましく、より望ましくは90重量%以上である。
【0015】
このような酵母エキスは、望ましくはRNA含量が6.5%以上である酵母を培養し、該酵母菌体を集菌、洗浄した後、熱水で酵母菌体内の酵素を失活させ、その後、細胞壁溶解酵素を添加して得られる抽出物を濃縮、殺菌、乾燥することにより製造することができる。前記抽出物に核酸分解酵素や蛋白質分解酵素を作用させると、RNA含量やペプチド含量が規定の含量以下になるため、望ましくない。
【0016】
このような酵母エキスの製造に用いられる酵母としては、食用酵母であるパン酵母、ビール酵母、トルラ酵母などを挙げることができるが、RNA含量が6.5%以上である酵母が望ましいことから、中でもRNA含量が一般的に高いとされるトルラ酵母を用いることが望ましい。
なお、本発明でいうペプチドとは、アミノ酸が2個以上アミノ結合したものをいい、全アミノ酸量より遊離アミノ酸量を引くことにより算出した。
【0017】
乳化を必要とする食品に酵母エキスを含有させる方法は、水相に混合すると良い。
【0018】
食品に対する酵母エキスの添加量は、一般的に0.1〜5重量%である。この範囲であれば、乳化力が得られる。0.1重量%より少ない含有量では明瞭な差異を認めることは困難であり、また、5重量%より多く含有させることは、酵母エキスの風味が目立ちまた、コストメリットなど工業的なことを考えると好ましくない。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。但し、本発明は、以下の態様に限定されるものではない。
【0020】
<製造例>
キャンディダ・ユティリスCs7529株(FERM BP−1656株)の10%菌体懸濁液1000mlを10N-硫酸でpH3.5に調整し、60℃、30分間加熱処理した後、遠心分離で菌体を回収し、菌体を水で洗浄し硫酸や余分な抽出物を除去した。本菌体を水で菌体濃度10%に調整、懸濁した後、90℃、30分間加熱し、菌体内酵素を完全に失活させ、40℃、pH7.0に調整し、細胞壁溶解酵素(ツニカーゼ大和化成製)0.5gを加え4時間反応し、エキスを抽出した。遠心分離により菌体残さを除去し、得られた上澄液を濃縮、スプレードライし、酵母エキス粉末30gを得た。得られた酵母エキス1は、ペプチド含量18.7重量%、RNA含量30.4重量%、食物繊維含量22.7重量%であった。
【0021】
<実施例1> 乳化作用評価
表1に示す配合割合で水に酵母エキス1(ペプチド含量18.7重量%、RNA含量30.4重量%、食物繊維22.7重量%)を添加し、サラダ油を添加し、ホモジナイザー(IKA LABORTECHNUK T25basic )によって10000rpm1分処理することにより乳化物を得た。
【0022】
【表1】

【0023】
<比較例1>
実施例1において、酵母エキス1の代わりに酵母エキス2(ペプチド含量5.73重量%、RNA含量0.00重量%、食物繊維1.7重量%
)を添加したこと以外は、実施例1と同様に行い、乳化物を得た。
【0024】
<比較例2>
実施例1において、酵母エキス1の代わりに酵母エキス3(ペプチド含量22.09重量%、RNA含量0.00重量%、食物繊維33.3重量%
)を添加したこと以外は、実施例1と同様に行い、乳化物を得た。
【0025】
<評価>
実施例1及び比較例1、2で得られた乳化物の粒度分布を測定して平均粒子径(μm)を求めた。粒度分布はレーザー回式粒度分布計(MICROTRAC
MT3000TRAC)を用い、乳化直後の粒度分布を測定した。また、乳化物を室温下で3日静置し、乳化の状態を目視で評価した。
【0026】
評価結果を表2及び図1に示す。実施例1で得られた乳化物は比較例1、2のものより粒子径が細かく、単分散に近い形での粒度分布がみられ、乳化の状態も良好であった。
【0027】
【表2】

乳化の状態
◎:分離がみられない
○:一部分離しているが、乳化部分が多い
△:乳化部分もあるが、分離している部分が多い
×:分離している
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上説明してきたように、本発明によると、乳化を必要とする食品に規定の組成の酵母エキスを添加することにより、食品添加物表示をしなくて済み、アレルゲン性が低く、安全性の高い、乳化物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1、比較例1、比較例2で得られた乳化物の粒度分布を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母エキスが有効成分である食品用乳化剤。
【請求項2】
前記酵母エキスがペプチド含量が5重量%以上、かつRNA含量が5重量%以上である、請求項1に記載の食品用乳化剤。
【請求項3】
前記酵母エキス中の食物繊維含量が15重量%以上である、請求項1または2に記載の食品用乳化剤。
【請求項4】
乳化を必要とする食品に請求項1〜3いずれか一項に記載の酵母エキスを 0.1〜5重量%含有させることを特徴とする、前記食品を乳化させる方法。


【図1】
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【公開番号】特開2012−231747(P2012−231747A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102894(P2011−102894)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】