説明

太陽電池および太陽電池の製造方法

【課題】陽極酸化膜を有する絶縁層付金属基板を備えた太陽電池において、化合物半導体からなる光電変換層の製造温度である500℃以上の高温を経験しても、良好な絶縁特性と強度を維持する基板を備える。
【解決手段】太陽電池1を、Alよりも、熱膨張係数が小さく、かつ剛性が高く、かつ耐熱性が高い基材13の少なくとも一方の面に、Al材11が加圧接合により一体化されたものを金属基板14とし、そのAl材11の表面にポーラス構造を有するAlの陽極酸化膜12が形成されてなる絶縁層付金属基板10上に、光電変換層30とその上下に配された上部電極50および下部電極20とを含む光電変換回路を備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Alの陽極酸化膜を絶縁層とした絶縁層付金属基板を備えた太陽電池およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池においては、バルクの単結晶Siまたは多結晶Si、あるいは薄膜のアモルファスSiを用いたSi系太陽電池が主流であったが、近年Siに依存しない化合物半導体系太陽電池の研究開発がなされている。化合物半導体系太陽電池としては、GaAs系等のバルク系と、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなるCIS(Cu−In−Se)系あるいはCIGS(Cu−In−Ga−Se)系等の薄膜系とが知られている。CIS系あるいはCIGS系は、光吸収率が高く、高い光電変換効率が報告されている。なお、アモルファスSiの成膜温度は200〜300℃程度であるが、高い光電変換効率を示す良好な化合物半導体層を形成するためには、成膜温度500℃以上とする必要がある。
【0003】
現在、太陽電池用基板としてはガラス基板が主に使用されているが、可撓性を有する金属基板を用いることが検討されている。金属基板を用いた太陽電池は、基板の軽量性および可撓性(フレキシビリティー)という特徴から、ガラス基板を用いたものに比較して、広い用途へ適用できる可能性がある。さらに、金属基板は高温プロセスにも耐えうるという点で、光電変換特性が向上し太陽電池のさらなる光電変換効率の向上が期待できる。一方で、金属基板を用いる場合、基板とその上に形成される電極および光電変換半導体層との短絡が生じないよう、金属基板の表面に絶縁層を設ける必要がある。
【0004】
特許文献1には、太陽電池用基板としてステンレスを用い、CVD(Chemical Vapor Deposition)等の気相法やゾルゲル法等の液相法によりSiやAlの酸化物を被覆し絶縁層を形成することが提案されている。しかしながら、これらの絶縁層形成手法は、製法的にピンホールやクラックを発生し易く、大面積の薄膜絶縁層を安定に作製する手法としては、本質的な課題を抱えている。
【0005】
特許文献2には、太陽電池用基板として、Al(アルミニウム)基板の表面を陽極酸化することで陽極酸化膜を形成することにより、Al基板上に絶縁層として陽極酸化膜が設けられてなる絶縁層付金属基板を用いることが提案されている。かかる方法では、大面積基板とする場合も、その表面全体にピンホールがなくかつ密着性の高い絶縁層を簡易に形成することができる。
【0006】
しかしながら、非特許文献1から明らかなように、Al基板上の陽極酸化膜は、120℃以上に加熱するとクラックが発生することが知られており、一度クラックが発生すると絶縁性、特にリーク電流が増大してしまうという問題を抱えている。
【0007】
一方、特許文献3には、従来のアモルファスSi層を備えた光起電力装置の基板として、合金鋼板上にAl層を設け、この層の表面に陽極酸化法によって絶縁層を形成してなる絶縁層付金属基板を用いることが開示されている。特許文献3には、合金鋼板を基材として備えることにより、アモルファスSi堆積時などの工程中で200〜300℃に加熱されてAl層が軟化しても合金鋼板は軟化せず、弾性力などの機械的強度を維持することができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−339081号公報
【特許文献2】特開2000−49372号公報
【特許文献3】特開昭62−89369号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】茅島正資、莚 正勝、東京都立産業技術研究所、研究報告、第3号2000年12月、p21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
Al材上の陽極酸化膜にクラックが生じる原因は、Alの線熱膨張係数(23×10−6/℃)が陽極酸化膜の線熱膨張係数よりも大きいことにあると考えられる。すなわち、陽極酸化膜の線熱膨張係数の正確な数値は不明であるが、その値は酸化アルミニウム(αアルミナ)に近く7×10−6/℃程度と推定されることを考慮すると、約16×10−6/℃という大きな線熱膨張係数差に起因する応力に陽極酸化膜が耐えきれないため、上記のようにクラックが生じると考えられる。
【0011】
また、Alは200℃程度で軟化する為、この温度以上を経験したAlは極めて強度が弱く、クリープ変形や座屈変形といった永久変形(塑性変形)を生じやすい。したがって、このようなAl材を用いる場合には、半導体装置の構造やその製造時のハンドリングに厳しい制限が必要である。これは屋外用太陽電池などへの半導体装置の適用を困難なものにしている。
【0012】
既述の特許文献3においては、光電変換層(光吸収層)としてアモルファスSiを備えた装置を作製するにあたって、200〜300℃の温度に加熱された場合にも耐えられる構造として、合金鋼材上にAl材を備えた基板を用いるとされている。しかしながら、現在検討されている化合物半導体を光電変換層として用いる場合、高品質な光電変換効率を得るためには、成膜温度がさらに高温であることを要し、一般的には500℃以上が適する。従って、500℃以上の高温に耐えうる構成の基板が求められる。
【0013】
しかしながら特許文献3に記載されているような、溶融アルミメッキ鋼板では、アルミと鉄鋼との界面に厚い合金層が生成するため、曲げ歪が加わった時に、アルミと鉄鋼界面で剥離が生じる可能性が大きい。合金層が薄ければ剥離も抑制されると考えられるが、溶融アルミメッキでは合金層の厚さの調整等も困難であり、実用に耐えうる可撓性を有する基板を得るのは困難である。
【0014】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、陽極酸化膜を有する絶縁層付金属基板を備えた太陽電池において、その製造工程において良好な光電変換効率を有する化合物半導体層の製造温度である500℃以上の高温を経験しても、良好な絶縁特性と強度を維持することが可能な基板を備えた太陽電池およびその製造方法を提供することを目的とし、特に、電力系統連携が可能な大面積のモジュール構造太陽電池をロールツーロールで製造することができる基板を備えた太陽電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係る太陽電池は、
化合物半導体からなる光電変換層を備えた太陽電池であって、
Alよりも、線熱膨張係数が小さく、かつ剛性が高く、かつ耐熱性が高い金属からなる基材の少なくとも一方の面に、Al材が加圧接合により一体化されたものを金属基板とし、該金属基板の前記Al材の表面に、ポーラス構造を有するAlの陽極酸化膜が電気絶縁層として形成されてなる絶縁層付金属基板上に、前記光電変換層と、該光電変換層の上下に配された上部電極および下部電極とを含む光電変換回路を備えてなることを特徴とするものである。
前記金属基板は、基材の一方の面のみにAl材が一体化されてなる2層構造であってもよいし、基材の両面にそれぞれAl材一体化されてなる3層構造であっても良い。また、3層構造である場合には、一方のAl材表面にのみ陽極酸化膜が形成されていてもよいし、両方のAl材表面に陽極酸化膜が形成されていてもよい。
【0016】
ここで、「Al材」とは、Alを主成分とする金属材を意味し、具体的には、Al含量90質量%(wt%)以上の金属材を意味するものとする。Al材は、純Al、純Al中に不可避不純物元素が微量固溶しているものでもよいし、Alと他の金属元素との合金材でもよい。
【0017】
「線熱膨張係数」とは、バルク体の線膨張係数を意味するものとする。
【0018】
「剛性」とは、外力に対する寸法変形の起きにくさを意味し、その比較は降伏応力若しくは0.2%耐力値を用いて行うものとする。また「耐熱性」とは、室温に比較して300℃以上の温度における剛性低下程度を指標とするものであり、剛性低下程度が小さいほど耐熱性が高いことを意味する。
【0019】
前記基材を構成する前記金属は、Alよりも、線熱膨張係数が小さく、かつ剛性が高く、かつ耐熱性が高いものであればよいが、特には、鋼材、Ti材のいずれかであることが好ましい。
「鋼材」とは、鋼からなる金属材を意味するものとする。ここで、「鋼」とは、鉄含量50質量%以上の金属を意味するものとする。すなわち、鋼は、鉄および鉄に炭素を含有させたいわゆる炭素鋼、あるいは線熱膨張係数と剛性の観点で用途に合った特性を得るために鉄にクロム、ニッケル、モリブデンなどの合金元素を加えた合金鋼を含むものとする。
「Ti材」とは、Tiを主原料とする金属材を意味するものとする。ここでは、純Tiのみならず、Ti−6Al−4V、Ti−15V−3Cr−3Al−3Snなどの合金であってもよい。
【0020】
また、基材とAl材とは、加熱することなく接合されたものであることが好ましい。
【0021】
また、本発明の太陽電池において、前記光電変換回路は、前記光電変換層が、複数の開溝部によって複数の素子に分割され、かつこの複数の素子が電気的に直列接続されたものであることが好ましい。
【0022】
本発明の太陽電池においては、前記基材と前記光電変換層との線熱膨張係数の差が7×10−6/℃未満であることが好ましい。
【0023】
本発明の太陽電池は、前記光電変換の主成分が、少なくとも1種のカルコパイライト構造の化合物半導体であることが好ましい。
この場合、前記基材が、炭素鋼、フェライト系ステンレスおよび前記Ti材のいずれかからなるものであり、
前記下部電極が、Moからなるものであり、
前記光電変換層の主成分が、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることが望ましい。
特に、前記Ib族元素が、CuおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種であり、
前記IIIb族元素が、Al,GaおよびInからなる群より選択された少なくとも1種であり、
前記VIb族元素が、S,Se,およびTeからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0024】
なお、本発明の太陽電池は、前記基材が、炭素鋼、フェライト系ステンレスおよび前記Ti材のいずれかからなり、
前記光電変換層の主成分が、CdTe化合物半導体であるものであってもよい。
【0025】
ここで、「光電変換層の主成分」とは、含量75質量%以上の成分を意味するものとする。
【0026】
本明細書における元素の族の記載は、短周期型周期表に基づくものである。本明細書において、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる化合物半導体は、「I−III−VI族半導体」と略記している箇所がある。I−III−VI族半導体の構成元素であるIb族元素、IIIb族元素、およびVIb族元素はそれぞれ1種でも2種以上でもよい。
【0027】
本発明の太陽電池の製造方法は、Alよりも、線熱膨張係数が小さく、かつ剛性が高く、かつ耐熱性が高い金属からなる基材の少なくとも一方の面に、加圧接合によりAl材が一体化されたものを金属基板とし、該金属基板の前記Al材の表面に、ポーラス構造を有するAlの陽極酸化膜が電気絶縁層として形成されてなる絶縁層付金属基板を用意し、
該絶縁層付金属基板上に、500℃以上の成膜温度にて化合物半導体からなる光電変換層を成膜することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明の太陽電池は、Alよりも、線熱膨張係数が小さく、かつ剛性が高く、かつ耐熱性が高い基材の少なくとも一方の面に、Al材が加圧接合により一体化されたものを金属基板とし、この金属基板のAl材の表面に陽極酸化膜が形成されてなる絶縁層付金属基板を備えているので、高温(500℃以上)となる基板上への化合物半導体からなる光電変換層の成膜工程においても、陽極酸化膜のクラックの発生を抑制することができ、該絶縁層付基板は高い絶縁性が維持できる。これは、Al材の熱膨張が基材により拘束される為に、金属基板全体の熱膨張が基材の熱膨張特性に支配されることに加え、弾性率(ヤング率)の小さいAl材が基材と陽極酸化膜との間に介在することにより、基材と陽極酸化膜の熱膨張差による陽極酸化膜の応力を緩和している為と考えられる。
【0029】
更に、本発明の太陽電池は、絶縁層付金属基板において、Alよりも耐熱性が高い金属を基材として用いているため、500℃以上の高温となる化合物半導体成膜工程を経た後であっても、該絶縁層付基板は高い強度を維持することが可能となる。
【0030】
また、金属基板が、基材にAl材が加圧接合により一体化されたものであるので、基材とAl材間の界面において生成される合金層を溶融メッキ等による方法と比較して抑制することができる。合金層の生成を抑制することにより、曲げ歪みが加わった場合にもAl材と基材との剥離を抑制することができる。また、金属基板の作製が容易であり、蒸着法や電気アルミメッキ等による方法と比較して低コストで、かつ大面積の基板を容易に得ることができる。すなわち、基材にAl材が加圧接合により一体化された金属基板を用いることにより、結果として、大面積かつフレキシブルな量産性の高い太陽電池を得ることが可能となる。
【0031】
本発明の太陽電池は、上述のように、500℃以上の高温を経験しても高い絶縁性、および高い強度を維持した絶縁層付金属基板を備えているので、500℃以上の高温で成膜された化合物半導体を備えることができ光電変換特性を向上させることができる。
本発明の太陽電池の製造方法によれば、500℃以上の高温を経験しても高い絶縁性、および高い強度を維持した絶縁層付金属基板を用いているので、製造時のハンドリング等に制限をなくすことが可能となる。また、この基板上に500℃以上の成膜温度で化合物半導体からなる光電変換層を成膜するので、光吸収が高く、高い光電変換効率を示す良好な光電変換層を備えた太陽電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施形態の太陽電池に用いられる絶縁層付金属基板の模式断面図
【図2】絶縁層付金属基板の設計変更例の模式断面図
【図3A】実施形態に係る太陽電池の短手方向の模式断面図
【図3B】実施形態に係る太陽電池の長手方向の模式断面図
【図4】I−III−VI化合物半導体の格子定数とバンドギャップとの関係を示す図
【図5】基材とAl材が一体化されてなる金属基板において、10μm厚さの合金層が生成される熱処理条件を示す図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の太陽電池の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0034】
(絶縁層付金属基板)
初めに、本発明の太陽電池の実施形態において、光電変換回路が形成される絶縁層付金属基板について説明する。
図1は、本発明の太陽電池の絶縁層付金属基板の模式断面図である。
【0035】
図1に示す絶縁層付金属基板10は、基材13の一方の面にAl材11が一体化されたものを金属基板14とし、そのAl材11の表面を陽極酸化することによりポーラス構造を有するAlの陽極酸化膜12が電気絶縁層として形成されてなるものである。したがって、本実施形態において用いられる絶縁層付金属基板10は、基材13/Al材11/陽極酸化膜12の3層構造を有する。
【0036】
金属基板14は、Alよりも線熱膨張係数が小さく、かつ剛性が高く、かつ耐熱性が高い金属からなる基材13の一方の面にAl材11が加圧接合により一体化されてなるものである。
【0037】
基材13の材質は、Alよりも線熱膨張係数が小さく、かつ剛性が高く、かつ耐熱性が高い金属であれば特に制限はなく、絶縁層付金属基板10およびその上に設けられる光電変換回路構成と材料特性から応力計算結果により適宜選択することができる。特には、鋼材もしくはTi材が好ましい。好ましい鋼材としては、例えばオーステナイト系ステンレス鋼(線熱膨張係数:17×10−6/℃)、炭素鋼(10.8×10−6/℃)、およびフェライト系ステンレス鋼(10.5×10−6/℃)、42インバー合金やコバール合金(5×10−6/℃)、36インバー合金(<1×10−6/℃)等が挙げられる。Ti材としては、例えば、Ti(9.2×10−6/℃)を用いることができるが、純Tiに限らず、展伸用合金であるTi−6Al−4V、Ti−15V−3Cr−3Al−3Snについても、線熱膨張係数はTiとほぼ同様であるため、好ましく用いることができる。
【0038】
なお、絶縁層付金属基板上に形成される光電変換層についての詳細は後記するが、光電変換層として用いられる主たる化合物半導体の線熱膨張係数は、III−V族系の代表であるGaAsで5.8×10−6/℃、II−VI族系の代表であるCdTeで4.5×10−6/℃、I-III-VI族系の代表であるCu(InGa)Seで10×10−6/℃である。
基板上に化合物半導体を500℃以上の高温で成膜した後に室温にまで冷却する際、基材との熱膨張差が大きいと剥離等の成膜不良が生じる。また基材との熱膨張差に起因する化合物半導体内の強い内部応力により、光電変換効率が低下する可能性がある。従って、基材と化合物半導体の線熱膨張係数差は、7×10−6/℃未満、好ましくは3×10−6/℃未満が良い。ここで、線熱膨張係数および線熱膨張係数差は、室温(23℃)の値である。
【0039】
基材13の厚さは、半導体装置の製造プロセス時と稼動時のハンドリング性(強度と可撓性)により、任意に設定可能であるが、10μm〜1mmであることが好ましい。
【0040】
金属基板14の剛性は、塑性変形をしない弾性限界応力が重要であるため、降伏応力若しくは0.2%耐力値によって定義する。鋼材の0.2%耐力値とその温度依存性は、「鉄鋼材料便覧」,日本金属学会,日本鉄鋼協会編,丸善株式会社、あるいは「ステンレス鋼便覧(第3版)」,ステンレス協会編,日刊工業新聞社に記載されている。基材の機械加工度と調質にもよるが、基材13の0.2%耐力値は室温で250〜900MPaであることが好ましい。
基板上への光電変換層成膜時は高温(500℃以上)になるが、鋼およびTiの耐力は、500℃において、一般に室温の耐力に対し70%程度は維持される。一方Alの室温における耐力は機械加工度と調質にもよるが300MPa以上であるものの、350℃以上では室温の耐力の1/10以下に低下する。
従って高温時の絶縁層付金属基板10の弾性限界応力や熱膨張は鋼材もしくはTi材からなる基材13の高温特性が支配的となる。応力計算に必要なAl材と鋼材もしくはTi材のヤング率とその温度依存性は、「金属材料の弾性係数」,日本機械学会に記載されている。
【0041】
Al材11の主成分としては、純粋な高純度Alや日本工業規格(JIS)の1000系純Alでもよいし、Al−Mn系合金、Al−Mg系合金、Al−Mn−Mg系合金、Al−Zr系合金、Al−Si系合金、およびAl−Mg−Si系合金等のAlと他の金属元素との合金でもよい(「アルミニウムハンドブック第4版」(1990年、軽金属協会発行)を参照)。また、純粋な高純度Alに、Fe、Si、Mn、Cu、Mg、Cr、Zn、Bi、Ni、およびTi等の各種微量金属元素が固溶状態で含まれていてもよい。Al合金中のAl以外の成分の総量、あるいは、Al以外の不純物の総量としては、10wt%未満であること、すなわちAl純度が90wt%以上であることが、陽極酸化処理後の陽極酸化部分の絶縁性を担保する上で好ましい。特に、200V以上の高電圧が印加されたときにリーク電流をより抑制するためには、Al純度が99wt%以上であることがより好ましい。また、Al材中にSiが析出していると、絶縁破壊電圧が低下し、リーク電流が増加することになるので、Si粒子が析出していないものであることが、陽極酸化処理後の陽極酸化部分の絶縁性を担保する上で好ましい(特願2009−113673号;本出願時において未公開)。
【0042】
Al材11の厚さは、半導体装置の全体の層構成と材料特性から応力計算結果により適宜選択できるが、絶縁層付金属基板10とした形態において0.1〜500μmである。基材13と陽極酸化膜12との間にAl材11が介在することにより、温度変化によって熱膨張が生じた際の陽極酸化膜12の応力が緩和される。なお、絶縁層付金属基板10を製造する際に、Al材11は陽極酸化、および陽極酸化の事前洗浄や研磨により厚さが減少するため、それを見越した厚さとしておく必要がある。
【0043】
既述の通り、金属基板14は、基材13とAl材11とを、加圧接合により一体化したものであり、特に加圧接合時に、加熱を行うことなく接合したものであることが好ましい。ここで、加熱を行うことなく接合するとは、外的に熱を加えることなく常温下で接合を行うことを意味する。
【0044】
基材にAl材を一体化して金属基板を形成する方法としては、基材への溶融メッキが知られている(特許文献3参照。)しかしながら、アルミニウムの融点は660℃であることから、溶融メッキ温度は一般に700℃以上の温度とする必要がある。このような高温を経験した金属基板は、基材とAl材との界面に10μm超の厚い合金層および合金層形成に伴う空隙やクラックが生成されてしまうことを本発明者は確認している。基材とAl材との界面に空隙、クラック等があると、基板に曲げ歪等が加わった際に、その界面で剥離を生じることから、フレキシブルな太陽電池を得ることはできない。この界面に生成される合金層は、主として脆性を有する金属間化合物でから形成されていると推定される。
【0045】
また、フレキシブルな太陽電池においてはもちろんであるが、フレキシブルでない太陽電池であっても、基材とAl材との界面にこのような脆弱な合金層と合金層形成に伴う空隙やクラックが内在していると、直射日光と夜間という熱サイクルに伴う素子の熱膨張、収縮が繰り返されるためクラック等を起点として、割れや剥離が生じる恐れがあり、太陽電池としての信頼性の点でも問題がある。
【0046】
また、溶融アルミメッキ鋼板として、ガルバリウム(Galvalume)鋼板が知られている。これはアルミに40wt%強の亜鉛と数wt%のシリコンを添加することにより、溶融温度を低下させ、基材とAl材(ここでは、アルミ、亜鉛、シリコンからなるアルミ合金材)の界面における基材材料とアルミ合金材からなる合金層の形成を抑制させたものである。同様の技術を用いアルミ合金材を用いることにより融点を低下させ、界面に生成される基材との合金層形成を抑制できる可能性があると考えられる。しかしながら、アルミ合金材の溶融温度を純アルミの融点660℃から100℃以上低いものとするには、一般的に10wt%以上の合金元素を添加する必要がある。そして、このようなアルミに10wt%以上の合金元素を含むアルミ合金材からなるアルミ合金メッキ層を陽極酸化することによって得られる陽極酸化被膜は、モジュール構造の太陽電池に必要な高い耐電圧や小さい絶縁リーク電流といった絶縁性能を満たすことができないことを、本発明者らは確認している(後記実施例参照。)。
【0047】
一方、基材13とAl材11とを、加圧接合により一体化した金属基板14は、特に加圧接合時に、加熱を行うことなく接合したものであれば、基材13とAl材11との界面にほとんど合金層は生成されない。
このような加圧接合および圧延のみにより、すなわち加熱を行うことなく一体化した金属基板14であっても、基板上に半導体層等の成膜過程において加熱されることにより、基材13とAl材11との界面に合金層が成長する。以下、熱処理に伴う合金層の成長について説明する。
【0048】
図5は、本発明者らの検討により得られた、加熱をせず加圧接合と圧延のみにより得た金属基板(クラッド材)a〜cを熱処理した際に、基材とAl材との界面に生じる合金層が10μmになる熱処理条件を、TTTダイアグラム(Time-Temperature-Transform Diagram)の形式で示したものである。
【0049】
図5において、金属基板a〜cについての基材とAl材との界面に生じる合金層が10μmになる熱処理条件が、それぞれ符号a〜cで示されている。なお、各熱処理条件は、誤差を考慮して帯状の領域で示している。金属基板aは、基材がフェライト系ステンレス鋼(SUS430)、金属基板bは基材が低炭素鋼(SPCC)、金属基板cは基材が純度99.5%の高純度Ti材であり、金属基板a〜cのAl材はいいずれも純度4Nの高純度Alである。
【0050】
図5に示されるように、合金層が10μmとなる熱処理条件は、保持温度が高温であるほど短時間であり、保持時間が長いほど低温である。
【0051】
いずれの基板a〜cについても、図5に示す熱処理条件において、合金層の厚さが10μmとなる領域よりも下側および/または左側の領域の熱処理条件であれば、基板の合金層の厚さを10μm以下とすることができる。なお、合金層は、均一な厚さで成長するものではなく、多少の凹凸を有するものであるため、合金層の厚さは、基板の断面における合金層の平均的な厚さを意味するものとする。この合金層の厚さ(平均的な厚さ)は、基板の断面を観測することにより測定することができる。具体的には、基板を切断して断面を出し、断面をSEM(走査型電子顕微鏡)等で撮影して、撮影像における合金層の面積を画像解析によって測定し、観察視野の長さで除することで合金層の厚さを求めることができる。
【0052】
図5に示されるように、いずれの基板の熱処理条件についても保持温度と保持時間とが直線関係にあることから基材13とAl材11との界面における合金層の成長には加算則が成り立つ。すなわち、複数回の熱処理工程を経験すると、各熱処理工程の温度および処理時間で成長する厚みを加算した厚さの合金層が成長することとなる。
なお、図5は、合金層の厚さが10μmとなる熱処理条件の一部を示すものであり、本発明者らの検討によれば、この保持温度と保持時間との直線的な関係は、より高温側および低温側にそのまま延長することができる。
【0053】
以上のように、金属基板の熱処理においては加熱温度が高いほど、また加熱時間が長いほど合金層の厚みが増加することが明らかである。したがって、基板上に500℃以上の条件下で光電変換層が形成されることを考慮すると、太陽電池用基板としての金属基板14は、加熱を行わず加圧接合により接合されたものが好ましいのはもちろんであるが、加圧接合後の圧延工程においても熱処理による金属軟化処理が行わない方が良いのは、言うまでもない。
【0054】
なお、金属基板の形成方法としては、上述の溶融メッキの他にも、例えば、基材へのAlの蒸着、スパッタ等の気相法、非水電解液を使用した電気アルミメッキ等が、考えられる。しかしながら、これらの方法に用いられる一般的な装置においては、大面積の金属基板を作製するのが難しく、大面積の金属基板を作製しようとすると非常に高コストなものとなる。したがって、気相法、電気アルミメッキ等によりAl材が基材に一体化された金属基板は実用的とは言えず、電力系統連携が可能な大面積のモジュール構造太陽電池のための基板には適さない。
このように、大面積の基板作製が容易であり、低コストかつ高量産性の観点からも、基材とAl材との接合は、ロール圧延等による加圧接合が最適である。
【0055】
陽極酸化は、金属基板14を陽極とし、陰極と共に電解液に浸漬させ、陽極陰極間に電圧を印加することで実施できる。このとき金属からなる基材13が電解液に接触すると、基材13とAl材11との局部電池を形成する為、電解液に接触する基材13はマスキング絶縁しておく必要がある。具体的には、基材13とAl材11との2層構造をなす金属基板14の場合は、端部に加えて鋼基材13の表面も絶縁する必要がある。
【0056】
陽極酸化処理前に、必要に応じてAl材11の表面は洗浄処理・研磨平滑化処理等を施す。陰極としてはカーボンやAl等が使用される。電解質としては制限されず、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、およびアミドスルホン酸等の酸を、1種または2種以上含む酸性電解液が好ましく用いられる。陽極酸化条件は使用する電解質の種類にもより特に制限されない。条件としては例えば、電解質濃度1〜80質量%、液温5〜70℃、電流密度0.005〜0.60A/cm、電圧1〜200V、電解時間3〜500分の範囲にあれば適当である。電解質としては、硫酸、リン酸、シュウ酸、若しくはこれらの混合液が好ましい。かかる電解質を用いる場合、電解質濃度4〜30質量%、液温10〜30℃、電流密度0.002〜0.30A/cm、および電圧20〜100Vとすることが好ましい。
【0057】
陽極酸化処理時には、Al材11の表面から略垂直方向に酸化反応が進行し、Al材表面に陽極酸化膜12が生成される。前述の酸性電解液を用いた場合、陽極酸化膜12は、多数の平面視略正六角形状の微細柱状体が隙間なく配列し、各微細柱状体の中心部には丸みを帯びた底面を有する微細孔が形成され、微細柱状体の底部にはバリア層(通常、厚み0.02〜0.1μm)が形成されたポーラス型となる。このようなポーラスな陽極酸化膜は、非ポーラスな酸化アルミニウム単体膜に比較して膜のヤング率が低いものとなり、曲げ耐性や高温時の熱膨張差により生じるクラック耐性が高いものとなる。なお、酸性電解液を用いず、ホウ酸等の中性電解液で電解処理すると、ポーラスな微細柱状体が配列した陽極酸化膜でなく緻密な陽極酸化膜(非ポーラスな酸化アルミニウム単体膜)となる。酸性電解液でポーラスな陽極酸化膜を生成後に、中性電解液で再電解処理するポアフィリング法によりバリア層の層厚を大きくした陽極酸化膜を形成してもよい。バリア層を厚くすることにより、より絶縁性の高い被膜とすることができる。
【0058】
陽極酸化膜12の厚さは特に制限されず、絶縁性とハンドリング時の機械衝撃による損傷を防止する表面硬度を有していれば良いが、厚すぎると可撓性の点で問題を生じる場合がある。このことから、好ましい厚さは0.5〜50μmであり、その厚みは定電流電解や定電圧電解における電流、電圧の大きさ、および電解時間により制御可能である。
【0059】
以上のように、本発明の太陽電池は、Alよりも、線熱膨張係数が小さく、かつ剛性が高く、かつ耐熱性が高い金属からなる基材の一方の面に、Al材が加圧接合により一体化されたものを金属基板とし、この金属基板のAl材の表面に陽極酸化膜が形成されてなる絶縁層付金属基板を備えている。この絶縁層付金属基板は、高温(500℃以上)となる基板上への化合物半導体からなる光電変換層の成膜工程においても、陽極酸化膜のクラックの発生を抑制することができ、高い絶縁性が維持できる。これは、Al材の熱膨張が鋼基材により拘束される為に、金属基板全体の熱膨張が基材の熱膨張特性に支配されることに加え、弾性率の小さいAl材が基材と陽極酸化膜の間に介在することにより、基材と陽極酸化膜の熱膨張差による陽極酸化膜の応力を緩和している為と考えられる。
【0060】
(絶縁層付金属基板の設計変更例)
図2は、絶縁層付金属基板の設計変更例を示す模式断面図である。上記においては金属基板14が、基材13とAl材11との2層のバイメタル構造を有する場合について説明した。しかしながら、金属基板はこのようなバイメタル構造に限るものではなく、腐食性や陽極酸化性の観点から、図2に示すように基材13の両面にAl材11、11’を有する3層構造であってもよい。つまり、図2に示す絶縁層付金属基板10’は、鋼基材13の両面にAl材11および11’が一体化されたものを金属基板14’とし、両Al材11および11’の表面を陽極酸化することにより、ポーラス構造を有するAlの陽極酸化膜12、12’が両表面にそれぞれ電気絶縁層として形成されてなるものである。すなわち、絶縁層付金属基板10’は、陽極酸化膜12’/Al材11’/基材13/Al材11/陽極酸化膜12の5層構造を有する。
【0061】
なお、Al材11’/基材13/Al材11の3層構造の金属基板14’Al材11および11’のうち一方についてのみ、陽極酸化処理を施し、一方のAl材の表面にのみ陽極酸化膜を備えた構成の絶縁層付金属基板としてもよい。また金属基板14’において、Al材11とAl材11’は同じ材質であっても良いし、異なる材質であっても良い。要するに光電変換回路を形成しない面は任意であり、表面硬度や耐食性の点や高温時の変形の点等の製造適性に見合った構成とすることができる。
【0062】
ここで、3層構造を有する金属基板14’を陽極酸化する際には、鋼基材13とAl材11、11’との局部電池の形成を防ぐため、両面を陽極酸化する場合には端部をマスキングして絶縁する必要があり、一方の面のみを陽極酸化する場合には端部に加えて他方の表面も絶縁する必要がある。
【0063】
なお、絶縁層付金属基板は、化合物半導体からなる光電変換層の成膜工程において高温になると熱歪により撓む(カーリング)ことがあるため、図2に示すように3層構造の金属基板14’の両面に陽極酸化膜12および12’を設けたものであってもよい。
【0064】
(太陽電池の構成)
以下、上述した絶縁層付金属基板上に光電変換回路を備えてなる本発明に係る太陽電池について説明する。
図3Aおよび図3Bを参照して、本発明に係る実施形態の太陽電池の全体構成について説明する。ここで、本実施形態の太陽電池は、化合物半導体からなる光電変換層を備えた太陽電池であり、多数の光電変換素子構造を電気的に直列接続することで高電圧出力とした太陽電池である。図3Aは太陽電池の短手方向の模式断面図、図3Bは太陽電池の長手方向の模式断面図である。
【0065】
本実施形態の太陽電池1は、図1に示す絶縁層付金属基板10の表面の陽極酸化膜12上に、下部電極20と化合物半導体からなる光電変換層30とバッファ層40と上部電極(透明電極)50とが順次積層されてなるものである。
【0066】
太陽電池1には、短手方向断面視(図3A)において、下部電極20のみを貫通する第1の開溝部61、光電変換層30とバッファ層40とを貫通する第2の開溝部62、および上部電極50のみを貫通する第3の開溝部63が形成されており、長手方向断面視(図3B)において、光電変換層30とバッファ層40と上部電極50とを貫通する第4の開溝部64が形成されている。
【0067】
上記構成では、第1〜第4の開溝部61〜64によって多数の素子Cに分離された構造が得られる。また、第2の開溝部62内に上部電極50が充填されることで、ある素子Cの上部電極50が隣接する素子Cの下部電極20に直列接続した構造が得られる。
なお、直列接続された素子のうち、駆動時に最も高電位となる電極(最も正極性側の端部の素子の正電極)を、金属基板と電気的に接続(短絡)させておくことが、陽極酸化層の絶縁性を高めるために好ましい(特願2009−093536号;本出願時において未公開)。一般には、下部電極側を正極とするため、金属基板と短絡させるのは下部電極となる。
【0068】
(光電変換層)
光電変換層30は光吸収により電荷を発生する層であり、化合物半導体からなるものである。なお、光電変換層30を、絶縁層付金属基板上に下部電極を介して成膜する際には、基板温度500℃以上の条件下で成膜を行う。500℃以上の成膜温度で成膜することにより、光吸収特性および光電変換特性の良好な光電変換層を得ることができる。
光電変換層30の主成分は特に制限されず、少なくとも1種のカルコパイライト構造の化合物半導体であることが好ましい。このとき、化合物半導体は、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることが好ましい。
特に、光吸収率が高く、高い光電変換効率が得られることから、Ib族元素が、CuおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種からなり、IIIb族元素が、Al,GaおよびInからなる群より選択された少なくとも1種からなり、VIb族元素が、S,Se,およびTeからなる群から選択された少なくとも1種からなるものであることが好ましい。
【0069】
上記化合物半導体の具体例としては、
CuAlS,CuGaS,CuInS
CuAlSe,CuGaSe,CuInSe(CIS),
AgAlS,AgGaS,AgInS
AgAlSe,AgGaSe,AgInSe
AgAlTe,AgGaTe,AgInTe
Cu(In1−xGa)Se(CIGS),Cu(In1−xAl)Se,Cu(In1−xGa)(S,Se)
Ag(In1−xGa)Se,およびAg(In1−xGa)(S,Se)等が挙げられる。
【0070】
光電変換層30は、CuInSe(CIS)、および/またはこれにGaを固溶したCu(In,Ga)Se(CIGS)を含むことが特に好ましい。CISおよびCIGSはカルコパイライト結晶構造を有する半導体であり、光吸収率が高く、高い光電変換効率が報告されている。また、光照射等による効率の劣化が少なく、耐久性に優れている。
【0071】
光電変換層30には、所望の半導体導電型を得るための不純物が含まれる。不純物は隣接する層からの拡散、および/または積極的なドープによって、光電変換層30中に含有させることができる。光電変換層30中において、I−III−VI族半導体の構成元素および/または不純物には濃度分布があってもよく、n型,p型,およびi型等の半導体性の異なる複数の層領域が含まれていても構わない。例えば、CIGS系においては、光電変換層30中のGa量に厚み方向の分布を持たせると、バンドギャップの幅/キャリアの移動度等を制御でき、光電変換効率を高く設計することができる。光電変換層30は、I−III−VI族半導体以外の1種または2種以上の半導体を含んでいてもよい。I−III−VI族半導体以外の半導体としては、Si等のIVb族元素からなる半導体(IV族半導体)、GaAs等のIIIb族元素およびVb族元素からなる半導体(III−V族半導体)、およびCdTe等のIIb族元素およびVIb族元素からなる半導体(II−VI族半導体)等が挙げられる。光電変換層30には、特性に支障のない限りにおいて、半導体、所望の導電型とするための不純物以外の任意成分が含まれていても構わない。光電変換層30中のI−III−VI族半導体の含有量は特に制限されず、75質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上が特に好ましい。
【0072】
CIGS層の成膜方法としては、1)多源同時蒸着法(J.R.Tuttle et.al ,Mat.Res.Soc.Symp.Proc., Vol.426 (1996)p.143.およびH.Miyazaki, et.al, phys.stat.sol.(a),Vol.203(2006)p.2603.等)、2)セレン化法(T.Nakada et.al,, Solar Energy Materials and Solar Cells 35(1994)204-214.およびT.Nakada et.al,, Proc. of 10th European Photovoltaic Solar Energy Conference(1991)887-890.等)、3)スパッタ法(J.H.Ermer,et.al, Proc.18th IEEE Photovoltaic Specialists Conf.(1985)1655-1658.およびT.Nakada,et.al, Jpn.J.Appl.Phys.32(1993)L1169-L1172.等)、4)ハイブリッドスパッタ法(T.Nakada,et.al., Jpn.Appl.Phys.34(1995)4715-4721.等)、および5)メカノケミカルプロセス法(T.Wada et.al, Phys.stat.sol.(a), Vol.203(2006)p2593等)等が知られている。また、その他のCIGS成膜法としては、スクリーン印刷法、近接昇華法、MOCVD法、およびスプレー法などが挙げられる。例えば、スクリーン印刷法あるいはスプレー法等で、Ib族元素、IIIb族元素、およびVIb族元素を含む微粒子膜を基板上に形成し、熱分解処理(この際、VIb族元素雰囲気での熱分解処理でもよい)を実施するなどにより、所望の組成の結晶を得ることができる(特開平9−74065号公報、特開平9−74213号公報等)。
【0073】
図4は、主なI−III−VI化合物半導体における格子定数とバンドギャップとの関係を示す図である。組成比を変えることにより様々な禁制帯幅(バンドギャップ)を得ることができる。バンドギャップよりエネルギーの大きな光子が半導体に入射した場合、バンドギャップを超える分のエネルギーは熱損失となる。太陽光のスペクトルとバンドギャップの組合せで変換効率が最大になるのがおよそ1.4〜1.5eVであることが理論計算で分かっている。光電変換効率を上げるために、例えばCu(In,Ga)Se(CIGS)のGa濃度を上げたり、Cu(In,Al)SeのAl濃度を上げたり、Cu(In,Ga)(S,Se)のS濃度を上げたりしてバンドギャップを大きくすることで、変換効率の高いバンドギャップを得ることができる。CIGSの場合、1.04〜1.68eVの範囲で調整できる。
【0074】
組成比を膜厚方向に変えることでバンド構造に傾斜を付けることができる。傾斜バンド構造としては、光の入射窓側から反対側の電極方向にバンドギャップを大きくするシングルグレーデットバンドギャップ、あるいは、光の入射窓からPN接合部に向かってバンドギャップが小さくなりPN接合部を過ぎるとバンドギャップが大きくなるダブルグレーデッドバンドギャップの2種類がある(T.Dullweber et.al, Solar Energy Materials & Solar Cells, Vol.67, p.145-150(2001)等)。いずれもバンド構造の傾斜によって内部に発生する電界のため、光に誘起されたキャリアが加速され電極に到達しやすくなり、再結合中心との結合確率を下げるため、発電効率が向上する(WO2004/090995号パンフレット等)。
【0075】
また、光電変換層30の主成分は、II−VI族化合物半導体であるCdTeあってもよい。CdTeからなる光電変換層は、Al陽極酸化膜上に下部電極として金属や黒鉛電極を設け、その上に近接昇華法により成膜することができる。近接昇華法とは、CdTe原料を真空下で600℃程度にし、その温度より低温にした基板上にCdTe結晶を凝縮させる手法である。
【0076】
(電極およびバッファ層)
下部電極(裏面電極)20および上部電極(透明電極)50はいずれも導電性材料からなる。光入射側の上部電極50は透光性を有する必要がある。
【0077】
例えば、下部電極20の材料としてMoを用いることができる。下部電極20の厚みは100nm以上であることが好ましく、0.45〜1.0μmであることがより好ましい。下部電極20の成膜方法は特に制限されず、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法等の気相成膜法が挙げられる。上部電極50の主成分としては、ZnO,ITO(インジウム錫酸化物),SnO,およびこれらの組合せが好ましい。上部電極50は、単層構造でもよいし、2層構造等の積層構造もよい。上部電極50の厚みは特に制限されず、0.3〜1μmが好ましい。バッファ層40としては、CdS,ZnS,ZnO,ZnMgO,ZnS(O,OH) ,およびこれらの組合せが好ましい。
【0078】
好ましい組成の組合せとしては例えば、Mo下部電極/CdSバッファ層/CIGS光電変換層/ZnO上部電極が挙げられる。
【0079】
ソーダライムガラス基板を用いた光電変換装置においては、基板中のアルカリ金属元素(Na元素)がCIGS膜に拡散し、光電変換効率が高くなることが報告されている。本実施形態においても、アルカリ金属をCIGS膜に拡散させることは好ましい。アルカリ金属元素の拡散方法としては、Mo下部電極上に蒸着法またはスパッタリング法によってアルカリ金属元素を含有する層を形成する方法(特開平8−222750号公報等)、Mo下部電極上に浸漬法によりNaS等からなるアルカリ層を形成する方法(WO03/069684号パンフレット等)、Mo下部電極上に、In、CuおよびGa金属元素を含有成分としたプリカーサを形成した後このプリカーサに対して例えばモリブデン酸ナトリウムを含有した水溶液を付着させる方法等が挙げられる。
【0080】
また、下部電極20の内部に、NaS,NaSe,NaCl,NaF,およびモリブデン酸ナトリウム塩等の1種または2種以上のアルカリ金属化合物を含む層を設ける構成も好ましい。
【0081】
光電変換層30〜上部電極50の導電型は特に制限されない。通常、光電変換層30はp層、バッファ層40はn層(n−CdS等)、上部電極50はn層(n−ZnO層等 )あるいはi層とn層との積層構造(i−ZnO層とn−ZnO層との積層等)とされる。かかる導電型では、光電変換層30と上部電極50との間に、pn接合、あるいはpin接合が形成されると考えられる。また、光電変換層30の上にCdSからなるバッファ層40を設けると、Cdが拡散して、光電変換層30の表層にn層が形成され、光電変換層30内にpn接合が形成されると考えられる。光電変換層30内のn層の下層にi層を設けて光電変換層30内にpin接合を形成してもよいと考えられる。
【0082】
(その他の層)
太陽電池1は必要に応じて、上記で説明した以外の任意の層を備えることができる。例えば、絶縁層付金属基板10と下部電極20との間、および/または下部電極20と光電変換層30との間に、必要に応じて、層同士の密着性を高めるための密着層(緩衝層)を設けることができる。また、必要に応じて、絶縁層付金属基板10と下部電極20との間に、アルカリイオンの拡散を抑制するアルカリバリア層を設けることができる。アルカリバリア層については、特開平8−222750号公報を参照されたい。
【0083】
また、必要に応じて、カバーガラス、保護フィルム等を取り付けることができる。
【0084】
以上のように、本発明に係る太陽電池は、前述した絶縁層付金属基板10を基板として備えており、この絶縁層付金属基板10は、半導体成膜工程において高温(500℃以上)を経ても、陽極酸化膜のクラックの発生を抑制することができ、高い絶縁性が維持できるので、生産性を高めることができる。また、高温に対する耐性の高い基板を用いているので、化合物半導体を500℃以上の成膜条件下で成膜することができ、そのような化合物半導体を備えているので高い光電変換特性を得ることができる。さらに、基板10が高温においても高い剛性を維持可能な基材を備えているので製造時のハンドリング等に制限をなくすことが可能となる。
【0085】
なお、本発明に係る太陽電池に用いられている絶縁層付基板は、太陽電池の基板としての用途以外にも、様々な半導体装置の基板として用いることができる。具体的には、例えば可撓性トランジスタ等にも適用可能である。
【実施例】
【0086】
本発明に係る太陽電池の絶縁層付金属基板の実施例1〜5および比較例1〜3について説明する。
【0087】
(実施例1)
市販のオーステナイト系ステンレス鋼(材質:SUS304(JIS規格))と、高純度Al(アルミ純度:4N)を冷間圧延法により加圧接合、減厚することにより、ステンレス鋼厚さ100μm、Al厚さ30μmの2層クラッド材を作製し金属基板とした。にこの金属基板のステンレス鋼面と端面をマスキングフイルムで被覆し、エタノールで超音波洗浄、酢酸+過塩素酸溶液で電解研磨した後、80g/Lシュウ酸溶液中で40Vの定電圧電解することにより、絶縁層として10μm厚さのポーラス構造を有する陽極酸化膜をAl表面に形成した。陽極酸化処理後Alの厚さは5μmになっていた。以上の工程により、陽極酸化膜(10μm)/Al(5μm)/ステンレス鋼(100μm)という構造の絶縁層付金属基板を得た。
【0088】
(実施例2)
冷間圧延法により作製された市販のAl/鋼/Al板(Al/鋼/Alのそれぞれの厚さ=20/110/20μm、Al材質:JIS1200(JIS規格)相当、鋼:SPCC低炭素鋼(JIS規格))を金属基板とした。この金属基板の端面をマスキングフイルムで被覆した後、実施例1と同様の処理手順により洗浄、研磨および陽極酸化を行い、絶縁層として10μm厚さのポーラス構造を有する陽極酸化膜を両Al表面に形成した。陽極酸化処理後Alの厚さは5μmになっていた。以上の工程により、陽極酸化膜(10μm)/Al(5μm)/鋼(110μm)/Al(5μm)/陽極酸化膜(10μm)という構造の絶縁層付金属基板を得た。
【0089】
(実施例3)
市販のフェライト系ステンレス鋼(材質:SUS430)と、高純度Al(アルミ純度:4N)を冷間圧延法により加圧接合、減厚することにより、ステンレス鋼厚さ50μm、Al厚さ30μmの2層クラッド材を作製し金属基板とした。この金属基板に対して、実施例1と同様の処理手順により、マスキングフイルムの被膜、洗浄、研磨および陽極酸化を行い、Al表面にポーラス構造を有する陽極酸化膜を形成した。陽極酸化処理後のAlの厚さは15μmになっていた。以上の工程により、陽極酸化膜(10μm)/Al(15μm)/ステンレス鋼(50μm)という構造の絶縁層付金属基板を得た。
【0090】
(実施例4)
実施例3と同じ金属基板を用い、同様の処理手順によりポーラス構造を有する陽極酸化膜を形成した後、さらに、0.5Mホウ酸と0.05M4ホウ酸NaとからなるpH7.4の溶液中で1mA/cmと400Vの定電流定電圧電解を行った。すなわち、本実施例では、酸性電解液中での電解に引き続き、中性電解液中で電解を行うポアフィリング法による電解処理を行った。処理後のAlの厚さは15μmであり、アルミとポーラス陽極酸化膜との界面のバリア層は0.5μmになっていた。以上の工程により、陽極酸化膜(10μm)/Al(15μm)/ステンレス鋼(50μm)という構造の絶縁層付金属基板を得た。
【0091】
(実施例5)
市販の純Ti(純度:99.5%)と市販の高純度Al(純度:4N)を用い、冷間圧延法により加圧接合、減厚し、Ti厚さ80μm、Al厚さ15μmの2層クラッド材を作製し金属基板とした。この金属基板に対して、実施例1と同様の処理手順により、マスキングフイルムの被膜、洗浄、研磨および陽極酸化を行い、Al表面にポーラス構造を有する陽極酸化膜を形成した。陽極酸化処理後のAlの厚さは5μmになっていた。以上の工程により、陽極酸化膜(10μm)/Al(5μm)/Ti(80μm)という構造の絶縁層付金属基板を得た。
【0092】
(比較例1)
市販の高純度Al(厚さ500μm、材質:純度4Nグレード、圧延加工上がり)を用いて、マスキングフイルム皮膜をすることなく、実施例1と同様の処理手順により、洗浄、研磨および陽極酸化を行い、10μm厚さのポーラス構造を有する陽極酸化膜を両面に形成した。以上の工程により、陽極酸化膜(10μm)/Al(450μm)/陽極酸化膜(10μm)という構造の絶縁層付金属基板を得た。
【0093】
(比較例2)
市販のAl(厚さ300μm、材質:JIS1200グレード(JIS規格)、圧延加工上がり)を用いて、マスキングフイルム皮膜をすることなく、実施例1と同様の処理手順により、洗浄、研磨および陽極酸化を行い、10μm厚さのポーラス構造を有する陽極酸化膜を両面に形成した。以上の工程により、陽極酸化膜(10μm)/Al(250μm)/陽極酸化膜(10μm)という構造の絶縁層付金属基板を得た。
【0094】
(比較例3)
実施例3と同じ金属基板を用い、pH7.4の0.5Mホウ酸と0.05M4ホウ酸Na中で、1mA/cmと600Vの定電流定電圧電解することにより、Al表面に非ポーラスで緻密なバリア型の陽極酸化被膜を形成した。陽極酸化処理後、Alの厚さは28μmであり、緻密な陽極酸化膜は0.8μmとなっていた。以上の工程により、非ポーラス構造で緻密な陽極酸化膜(0.8μm)/Al(28μm)/ステンレス鋼(50μm)という構造の絶縁層付金属基板を得た。
【0095】
(比較例4)
実施例3と同じフェライト系ステンレス鋼(SUS430:厚さ100μm)を基材として用い、高純度Al(アルミ純度:4N)を700℃で溶融した状態に基材を浸漬することにより、SUS430の両面に高純度Alが溶融メッキされた金属基板を得た。SUS430と高純度Alの界面には約15μmのAl,Cr,Feからなる合金層が生成していた。
この金属基板を、実施例2と同様の処理手順により、マスキングフイルムの被膜、洗浄、研磨および陽極酸化を行い、Al表面にポーラス構造を有する陽極酸化膜を形成した。陽極酸化処理後のAlの厚さは15μmになっており、AlとSUS430の界面に形成された合金層はそのまま15μmであった。以上の工程により、陽極酸化膜(10μm)/Al(15μm)/合金層(15μm)/ステンレス鋼(100μm)/合金層/Al/陽極酸化層という構造の絶縁層付金属基板を得た。
【0096】
(比較例5)
実施例3と同じフェライト系ステンレス鋼(SUS430:厚さ100μm)を基材として用い、Al−55wt%+Zn−43.4wt%+Si−1.6wt%の合金(融点570℃)を600℃で溶融した状態に基材を浸漬することにより、SUS430の両面に略同様の組成を有するAl合金が溶融メッキされた金属基板を得た。SUS430とAl合金の界面には約3μmのAl,Cr,Fe,Znからなる合金層が生成していた。
この金属基板を、実施例2と同様の処理手順により、マスキングフイルムの被膜、洗浄、研磨および陽極酸化を行い、Al表面にポーラス構造を有する陽極酸化膜を形成した。陽極酸化処理後のAlの厚さは15μmになっており、AlとSUS430の界面に形成された合金層はそのまま3μmであった。以上の工程により、陽極酸化膜(10μm)/Al(15μm)/合金層(3μm)/ステンレス鋼(100μm)/合金層/Al/陽極酸化層という構造の絶縁層付金属基板を得た。
【0097】
(比較例6)
実施例3と同じフェライト系ステンレス鋼(SUS430:厚さ100μm)を基材として用い、Al−80wt%+Mg−20wt%の合金(融点550℃)を600℃で溶融した状態に基材を浸漬することにより、SUS430の両面に略同様の組成を有するAl合金が溶融メッキされた金属基板を得た。SUS430とAl合金の界面には約5μmのAl,Cr,Fe,Mgからなる合金層が生成していた。
この金属基板を、実施例2と同様の処理手順により、マスキングフイルムの被膜、洗浄、研磨および陽極酸化を行い、Al表面にポーラス構造を有する陽極酸化膜を形成した。陽極酸化処理後のAlの厚さは15μmになっており、AlとSUS430の界面に形成された合金層はそのまま5μmであった。以上の工程により、陽極酸化膜(10μm)/Al(15μm)/合金層(5μm)/ステンレス鋼(100μm)/合金層/Al/陽極酸化層という構造の絶縁層付金属基板を得た。
【0098】
なお、各実施例および比較例において、陽極酸化層、Al、合金層等の厚みは以下のように測定した。金属基板をダイヤモンドカッターで切断後、Alイオンビームを用いたイオンポリッシュで面出しを行い、SEM−EDX(エネルギー分散型X線分析装置付き走査型電子顕微鏡)によりSEM−で反射電子像を得た。絶縁層(陽極酸化膜)、Al、合金層および基材の各層は、平均原子量が異なるので、明瞭なコントラストの付いた像が得られる。この像における各層の面積を画像解析により測定し、観察視野の長さで除することで各層の厚さを求めた。
【0099】
(絶縁性評価)
上記それぞれの実施例および比較例において得られた絶縁層付金属基板について、そのままの状態(加熱無し)と、真空加熱炉にて500℃で1時間熱処理した状態とで絶縁特性を比較した。絶縁特性測定として、陽極酸化した面の上に電極として0.2μm厚さのAuを3.5Φmm直径でマスク蒸着により設け、金属基板−Au電極間にAu電極を負極性として、200Vの電圧を印加し、電圧印加時に金属基板−Au電極間に流れるリーク電流を測定した。ここで、検出されたリーク電流をAu電極面積(9.6mm)で除した値をリーク電流密度とした。
【0100】
下記の表1はそれぞれの基板についての絶縁特性測定の結果である。これより、500℃の熱履歴を受けると、比較例ではリーク電流が著しく増加する、あるいは絶縁破壊するのに対し、実施例ではリーク電流がほとんど変化しないことがわかる。この結果、本実施例に係る基板を用いた本発明の太陽電池は、500℃×1時間の熱履歴を経験しても、良好な絶縁特性と強度を維持することが可能であることが実証された。また、実施例のように、基材とAl材とを加圧接合することにより、金属基板を作製した場合、加熱無し、加熱後共にリーク電流が小さいという結果が得られた。また、陽極酸化処理の際に、酸性電解液中で電解処理をした後、さらに中性電解液中で電解処理を行った実施例4は、酸性電解液中で電解処理をしただけの実施例3と比較して、リーク電流が1桁小さく、非常に絶縁性が高かった。
【0101】
さらに、比較例3のように、非ポーラス構造で緻密な陽極酸化膜の場合は、加熱無しの状態では、非常に高い絶縁性が得られるが、500℃の高温で加熱されることにより、絶縁破壊が生じた。この結果から、ポーラス構造を有する陽極酸化膜は、非ポーラス構造で緻密な陽極酸化膜に比較して高温時の熱膨張差により生じるクラック耐性が高いことが実証された。
【0102】
比較例4では、加熱無しの状態では良好な絶縁性を示すものの、500℃での加熱により絶縁破壊が生じた。また、比較例5では、加熱無の状態でも200V印加で絶縁破壊を生じ、更に比較例6では、加熱無しの状態でもリーク電流が高く、500℃加熱後には絶縁破壊が生じた。
【0103】
比較例4〜6において、500℃の加熱後の試料においては、加熱をしていない試料と比較して5μm程度の合金層の成長と、Al層厚減少が認められた。更に、Alと合金層の間にクラック状の空隙ができており、陽極酸化層には膜厚方向にクラックを生じていた。従って、絶縁破壊を生じたのは、複数回の熱履歴(それぞれ600℃以上での溶融メッキ処理および絶縁性評価実験における500℃×1時間の加熱処理)により、基材とAl材との界面での合金層の成長に起因して、陽極酸化層にクラックが生じたためと判断される。このことから、溶融メッキにより作製したAlメッキ層を有する金属基板は、モジュール型の太陽電池に必要な絶縁性が確保できないことが明らかである。
また、比較例5、6のように、メッキ材中のAl以外の成分が多いと、その陽極酸化膜には充分な絶縁性が得られないことが明らかになった。
【表1】

【0104】
(半導体成膜後の半導体層表面の評価)
次に、上記実施例1〜5および比較例1〜3の絶縁層付金属基板上に、それぞれ下部電極および半導体層を成膜した実施例1−1〜5−3、比較例1−1〜比較例3−1について半導体層表面の評価を行った。実施例1−は、実施例1の絶縁層付金属基板上に後記表2に示す下部電極、半導体層の組合せが成膜されたものを意味するものであり、実施例2−、3−等も同様である。
【0105】
上述の実施例および比較例の絶縁層付金属基板を用い、それぞれ陽極酸化膜面上に、0.5μm厚さのAuまたはMoからなる下部電極を室温でスパッタリング法により設けた。次に、下部電極上に基板温度500℃として半導体層を成膜した。半導体層としては、GaAs、CuIn0.7Ga0.3Se2またはCdTeのいずれかを成膜した。GaAsおよびCuIn0.7Ga0.3Se2は、Kセル(Knudsen-Cell:クヌーセンセル)を蒸着源として用いた蒸着法を用いて、2μmの厚みに成膜した。一方、CdTeは近接昇華法を用い、5μmの厚みに成膜した。
【0106】
表2に、各実施例および比較例の下部電極、半導体層の組成、基材と半導体層との線熱膨張係数差、および半導体層表面の表面状態の評価を示す。なお、表2において、比較例1はAl以外の基材を備えていないため、Al材と半導体層との線熱膨張係数差を示している。ここでは、成膜後の半導体層の表面を光学顕微鏡で観察し、剥離クラックが認められない場合を○、部分的剥離もしくはクラックが生じている場合を△、観測領域において1/10の面積以上の剥離が生じている場合を×と判定した。
【表2】

【0107】
実施例において、基材と化合物半導体との室温での線熱膨張係数差が7×10−6/℃以内の場合は、実施例1−4に部分剥離が認められた以外には、大きな剥離は認められなかった。なお、今回の評価実験でMo上にCIGSを成膜した実施例、比較例については、Mo/CIGS界面に30nm程度の厚さのMoSeが生成されていた。このMoSeの生成が、実施例1−4において、熱膨張係数差が7ppm/℃であっても部分剥離を生じた原因と推定される。一方で、実施例2〜5のように、基材と半導体との線熱膨張係数差が7ppm/℃未満の場合は、MoSeが生成されているにもかかわらず剥離やクラック等の成膜欠陥は認められなかった。
【符号の説明】
【0108】
1 太陽電池
10 絶縁層付金属基板
11 Al材
12 陽極酸化膜
13 基材
14 基材とAl材とが一体化された金属基板
20 下部電極
30 光電変換半導体層
40 バッファ層
50 上部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物半導体からなる光電変換層を備えた太陽電池であって、
Alよりも、線熱膨張係数が小さく、かつ剛性が高く、かつ耐熱性が高い金属からなる基材の少なくとも一方の面に、加圧接合によりAl材が一体化されたものを金属基板とし、該金属基板の前記Al材の表面に、ポーラス構造を有するAlの陽極酸化膜が電気絶縁層として形成されてなる絶縁層付金属基板上に、前記光電変換層と、該光電変換層の上下に配された上部電極および下部電極とを含む光電変換回路を備えてなることを特徴とする太陽電池。
【請求項2】
前記基材を構成する前記金属が、鋼材、Ti材のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の太陽電池。
【請求項3】
前記光電変換回路は、前記光電変換層が、複数の開溝部によって複数の素子に分割され、かつ該複数の素子が電気的に直列接続されたものであることを特徴とする請求項1または2項記載の太陽電池。
【請求項4】
前記基材と前記光電変換層との線熱膨張係数の差が7×10−6/℃未満であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の太陽電池。
【請求項5】
前記光電変換層の主成分が、少なくとも1種のカルコパイライト構造の化合物半導体であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の太陽電池。
【請求項6】
前記基材が、炭素鋼、フェライト系ステンレスおよび前記Ti材のいずれかからなるものであり、
前記下部電極が、Moからなるものであり、
前記光電変換層の主成分が、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることを特徴とする請求項5記載の太陽電池。
【請求項7】
前記Ib族元素が、CuおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種であり、
前記IIIb族元素が、Al,GaおよびInからなる群より選択された少なくとも1種であり、
前記VIb族元素が、S,Se,およびTeからなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項6記載の太陽電池。
【請求項8】
前記基材が、炭素鋼、フェライト系ステンレスおよびTiのいずれかからなり、
前記光電変換層の主成分が、CdTe化合物半導体であることを特徴とする1から4いずれか1項記載の太陽電池。
【請求項9】
Alよりも、線熱膨張係数が小さく、かつ剛性が高く、かつ耐熱性が高い金属からなる基材の少なくとも一方の面に、Al材が加圧接合により一体化されたものを金属基板とし、該金属基板の前記Al材の表面に、ポーラス構造を有するAlの陽極酸化膜が電気絶縁層として形成されてなる絶縁層付金属基板を用意し、
該絶縁層付金属基板上に、500℃以上の成膜温度にて化合物半導体からなる光電変換層を成膜することを特徴とする太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−124526(P2011−124526A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53202(P2010−53202)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【特許番号】特許第4629153号(P4629153)
【特許公報発行日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】