説明

太陽電池モジュール用封止材組成物及びそれを用いた封止材シート

【課題】ガラス等の透明基板との高い密着強度を有し、太陽電池モジュール用封止材組成物のベース樹脂にポリオレフィン系樹脂を使用した場合であっても、密着強度及び耐久性に優れた太陽電池モジュール用封止材を提供する。
【解決手段】下記のシロキサン系化合物を含有する太陽電池モジュール用封止材組成物。


(上記一般式中、Rは、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、ビニル基、スチリル基、イソシアネート基、アクリル基、アリル基、エポキシ基のいずれかであり、nは、0〜10の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池モジュール用封止材組成物、及びそれを用いた太陽電池モジュール用の封止材シート、更にはそれを組み込んだ太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、クリーンなエネルギー源としての太陽電池が注目されている。現在、種々の形態からなる太陽電池モジュールが開発され、提案されている。一般に太陽電池モジュールは、透明前面基板と太陽電池素子と裏面保護シートとが、太陽電池モジュール用封止材を介して積層された構成である。
【0003】
太陽電池モジュール用封止材としては、透明性や流動性の面からEVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)を主として、架橋剤と、架橋助剤とを含有する構成が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
太陽電池モジュール等を構成する各部材は、常時、強い紫外線、熱線、風雨等といった過酷な環境に曝されることになる。このため、太陽電池モジュールを構成する各部材は、これらの条件において、長期間に亘る耐久性を備える必要があり、特にガラス等から構成される透明基板と上記封止材との間の密着強度を向上させる必要がある。そこで、太陽電池モジュール用封止材組成物に、シリコン原子1個で比較的低分子量である、いわゆるモノマータイプの一般的なシランカップリング剤を添加した組成物からなる太陽電池用封止材が知られている(特許文献2参照)。
【0005】
また、このモノマータイプのシランカップリング剤の析出の問題を解消するために、特定構造のポリシロキサン化合物を含有し、ポリシロキサン化合物単独、又は、モノマータイプのシロキサン系化合物と併用する太陽電池用封止材が知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−135200号公報
【特許文献2】特開2005−126708号公報
【特許文献3】特開2000−183382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載された太陽電池モジュール用封止材組成物に添加されているシロキサン系化合物は、モノマータイプのシランカップリング剤である。このため、ガラス等から構成される透明基板との密着時においてシランカップリング剤同士の加水分解反応、縮合重合反応が不十分となり、樹脂組成物に取り込まれるシランカップリング剤が不足し、透明基板との十分な密着強度が得られない。特に、太陽電池モジュール用封止材組成物のベース樹脂に、低密度ポリエチレンなどの疎水性のポリオレフィン樹脂を使用した場合には、シランカップリング剤同士の加水分解反応、縮合重合反応があまり進行せず、ガラス等の透明基板との十分な密着強度が得られないという問題点を有する。
【0008】
また、特許文献3の特定構造のポリシロキサン化合物は、その析出防止を主眼としている。このため、モノマータイプに比べて分子量増加に伴う析出防止効果が得られるものの、反応性が不足しており密着強度が不十分である。しかも、特許文献3に記載されたポリシロキサン化合物は、複数種類の官能基を有する異なる繰り返し単位から構成されているものであるため、実際に上記ポリシロキサン化合物を製造することは困難である場合が多い。さらに、特許文献3に記載されたポリシロキサン化合物は、その構造式から明らかなようにメチル基を多く含有しており、ガラス表面とシロキサン結合をすることができないため、ガラス等の透明基板と十分な密着強度が得られない。
【0009】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ガラス等の透明基板との高い密着強度を有し、太陽電池モジュール用封止材組成物のベース樹脂に疎水性のポリオレフィン系樹脂を使用した場合であっても、密着強度及び耐久性に優れた太陽電池モジュール用封止材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、太陽電池モジュール用封止材組成物に添加されている密着向上剤として、特定の反応性基を有するオリゴマータイプのシロキサン系化合物を使用することにより、ガラス等の透明基板との高い密着強性及び耐久性に優れた太陽電池モジュール用封止材を得ることが可能なことを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 下記一般式で表されるシロキサン系化合物を含有することを特徴とする太陽電池モジュール用封止材組成物。
【化1】

(上記一般式中、Rは、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、ビニル基、スチリル基、イソシアネート基、アクリル基、アリル基、エポキシ基のいずれかであり、nは、0〜10の整数を表す。)
【0012】
(2) 前記一般式中、Rがメタクリロキシ基、アクリロキシ基、ビニル基、アクリル基から選ばれるいずれかである(1)記載の太陽電池モジュール用封止材組成物。
【0013】
(3) 前記シロキサン系化合物と、密度0.940g/cm以下の低密度ポリエチレン樹脂と、架橋剤と、架橋助剤と、を含有する(1)又は(2)記載の太陽電池モジュール用封止材組成物。
【0014】
(4) (1)から(3)いずれか記載の太陽電池モジュール用封止材組成物からなる単層の封止材シート、又は、該太陽電池モジュール用封止材組成物からなる密着強化層を備える多層の封止材シートであって、前記多層の封止材シートの場合に前記密着強化層が最外層に設けられている太陽電池モジュ−ル用の封止材シート。
【0015】
(5) (4)記載の単層の封止材シートと、ガラス基板と、が積層されているか、又は、(4)記載の多層の封止材シートにおける密着強化層と、ガラス基板と、が対向するように積層されている太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ガラス等から構成される透明基板との高い密着強度を有する太陽電池モジュール用封止材組成物を提供することができ、なかでも、ベース樹脂に低密度ポリチレンなどのポリオレフィン系樹脂を使用した場合であっても、ガラス等から構成される透明基板との密着性及び耐久性に優れた太陽電池モジュール用封止材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の太陽電池モジュールの層構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の太陽電池モジュール用封止材組成物、封止材シート及び太陽電池モジュールの順に詳細に説明する。
【0019】
<太陽電池モジュール用封止材組成物>
本発明に係る太陽電池モジュール用封止材組成物の代表的な構成は、シロキサン系化合物とベース樹脂とを必須とし、他に架橋剤や架橋助剤を含有する系であるが、本発明の特徴は、シロキサン系化合物にあるので、まず、シロキサン系化合物について説明し、以下、その他の成分について説明する。
【0020】
[シロキサン系化合物]
本発明の太陽電池モジュール用封止材組成物に含まれるシロキサン系化合物は、下記一般式のオリゴマータイプのシロキサン化合物系化合物を含有することを特徴とする。上記オリゴマータイプのシロキサン化合物系化合物は、一般式からも明らかなように、その両末端にメトキシ基を有し、かっこ内に示した特定の繰り返し単位を有するオリゴマーである。
【0021】
【化2】

(上記一般式中、Rは、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、ビニル基、スチリル基、イソシアネート基、アクリル基、アリル基、エポキシ基のいずれかであり、nは、0〜10の整数を表す。)
【0022】
一般に、太陽電池モジュール用封止材組成物に含有されている密着向上成分としては、いわゆるモノマータイプのシランカップリング剤が使用されている。モノマータイプのシランカップリング剤は、そのベース樹脂に依存して反応性が異なる。EVAのように、アセチルオキシ基の存在によって、水分含有量が大きく、酸性条件になり、二重結合を有する場合には、充分な接着強度を発揮する。しかし、例えばベース樹脂が低密度ポリエチレンの場合、疎水性で水分含有量が小さく、官能基もないので酸性条件にもならず、二重結合のような反応性基も存在しない。このためベース樹脂へのシランカップリング剤の取り込みが十分でなく、ガラス等から構成される透明基板との密着性が十分でないものとなっている。
【0023】
そこで、本発明においては、太陽電池モジュール用封止材組成物に含有させるシロキサン系化合物の主成分として、モノマータイプのシロキサン系化合物ではなく、オリゴマータイプのシロキサン系化合物を採択し、二重結合などの反応性を有する特定の官能基を導入した。本発明のシロキサン系化合物では、−OCH部分が加水分解で−OHになり、ガラス表面の−OHと縮合反応が起こりシロキサン結合を形成するとともに、Rは主鎖の残存二重結合と結合する。また、疎水性が向上することで反応性が向上し、太陽電池モジュール用封止材組成物のベース樹脂が低密度ポリエチレンであっても、樹脂に取り込まれるシロキサン系化合物の量を増加させて、ガラス等の透明基板との密着性を向上させているものである。
【0024】
上記オリゴマータイプのシロキサン系化合物を表す一般式において、nの値は、0〜10であることが好ましい。nの値が0以上であると、疎水性が向上しポリエチレンと相溶しやすく反応性が向上するため好ましく、10以下であるとシロキサン化合物の移動性が向上し、ガラス界面での反応が早くなるため好ましくない。特にシロキサン系化合物の化学構造的な安定性の観点から、4量体(n=2)、6量体(n=4)、8量体(n=6)とすることが好ましい。
【0025】
上記一般式において、繰り返し単位構造中の主鎖を構成するシリコン(Si)に直接結合する置換基Rは、炭素間二重結合等の反応性の高い置換基であることが好ましい。すなわち、上記置換基Rが、反応性の高い置換基であることにより、太陽電池モジュール用封止材組成物に添加されている架橋剤から発生するラジカル活性種の攻撃を受け、置換基Rの炭素間二重結合が開裂し、ベース樹脂であるポリエチレン系樹脂やEVAなどと反応することができるからである。つまり、本発明においては、繰り返し単位構造中の主鎖を構成するシリコン(Si)に直接結合する置換基Rとして、ベース樹脂であるポリエチレン系樹脂と反応性の高い置換基を採択することにより、太陽電池モジュール用封止材組成物全体としてのガラス等の透明基板との密着性を向上させているものである。置換基Rとしては、架橋剤から発生するラジカル活性種の攻撃を受け易く、ベース樹脂であるポリエチレン系樹脂やEVA等と反応性が高いものであれば特に限定させるものではないが、例えばメタクリロキシ基、アクリロキシ基、ビニル基、スチリル基、ウレイド基、クロロプロピル基、メルカプト基、ポリスルフィド基、イソシアネート基、アクリル基、アリル基、エポキシ基、アルコキシ基、メトキシ基、エトキシ基等を挙げることができる。これらの置換基R中でも、架橋剤から発生するラジカル活性種の攻撃を受けやすく、ベース樹脂との反応性が高いことから、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、ビニル基、アクリル基が好ましい。
【0026】
上記オリゴマータイプのシロキサン系化合物は、その数平均分子量は、400〜2000である。これを一般式中のnとの関係で言えば、例えばRがメタクリロキシ基の場合、数平均分子量600のものはn=3、数平均分子量1700のものはn=7〜8程度である。オリゴマータイプのシロキサン系化合物の粘度及び分子量が上記範囲にあることにより、ガラス等から構成される透明基板と太陽電池モジュール用封止材の密着性を向上させることができるため好ましい。
【0027】
上記オリゴマータイプのシロキサン系化合物としては、上記条件を満たすものであれば特に限定されるものではないが、例えば、信越化学工業株式会社製の商品名「X−40−2655A(上記一般式におけるRがメタクリロキシ基)」、「X−40−9272B(上記一般式におけるRがメタクリロキシ基)」、「X−40−9270(上記一般式におけるRがビニル基)」を例示することができる。
【0028】
なお、上記オリゴマータイプのシロキサン系化合物は、例えば下記のモノマーを従来公知の方法で重合させることによっても容易に得ることができる。
【0029】
【化3】

【0030】
なお、上記シロキサン系化合物の使用量は、太陽電池モジュール用封止材組成物中に0.01質量%〜3質量%含まれることが好ましく、より好ましくは0.05質量部〜2.0質量部の範囲である。この範囲内であればガラス等から構成される透明基板と太陽電池モジュール用封止材の密着性を向上させることができるため好ましい。
【0031】
[ベース樹脂]
太陽電池モジュール用封止材組成物に含まれるベース樹脂は、例えばポリオレフィン樹脂であり、オレフィンモノマーから構成されるものであれば特に制限されるものではない。したがって、ポリオレフィン系樹脂には、低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレンとα−オレフィンとの共重合体である直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)の他、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等も含まれるが、上記のように、特に疎水性のポリエチレン樹脂において優れた効果を奏するので、以下、本発明に使用できる低密度ポリエチレンについて説明する。
【0032】
(低密度ポリエチレン)
本発明においては密度が0.940以下の低密度ポリエチレン(LDPE)、好ましくは直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いる。直鎖低密度ポリエチレンはエチレンとα−オレフィンとの共重合体であり、本発明においては、その密度が0.940g/cm以下の範囲内、好ましくは0.900g/cm以下の範囲内、より好ましくは0.870〜0.890g/cmの範囲である。この範囲であれば、太陽電池モジュール用封止材とガラス等の透明前面基板との密着性が高まり、透明前面基板の端面からの水分の浸入を抑えることができる。
【0033】
本発明においてはメタロセン系直鎖低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンは、シングルサイト触媒であるメタロセン触媒を用いて合成されるものである。このようなポリエチレンは、側鎖の分岐が少なく、コモノマーの分布が均一である。このため、分子量分布が狭く、上記のような超低密度にすることが可能であり太陽電池モジュール用封止材に対して柔軟性を付与できる。太陽電池モジュール用封止材に柔軟性が付与される結果、太陽電池モジュール用封止材とガラス等の透明前面基板との密着性が高めることができる。
【0034】
また、低密度ポリエチレンは、結晶性分布が狭く、結晶サイズが揃っているので、結晶サイズの大きいものが存在しないばかりでなく、低密度であるために結晶性自体が低い。このため、シート状に加工した際の透明性に優れる。したがって、本発明の太陽電池モジュール用封止材組成物からなる封止材が、透明前面基板と太陽電池素子との間に配置されても発電効率はほとんど低下しない。
【0035】
直鎖低密度ポリエチレンのα−オレフィンとしては、好ましくは分枝を有しないα−オレフィンが好ましく使用され、これらの中でも、炭素数が6〜8のα−オレフィンである1−ヘキセン、1−ヘプテン又は1−オクテンが特に好ましく使用される。α−オレフィンの炭素数が6以上8以下であることにより、太陽電池モジュール用封止材に良好な柔軟性を付与することができるとともに良好な強度を付与することができる。その結果、太陽電池モジュール用封止材とガラス等の透明前面基板との密着性がさらに高まり、水分の浸入を抑えることができる。
【0036】
また、直鎖低密度ポリエチレンのメルトマスフローレート(MFR)は、190℃において0.5g/10分以上40g/10分以下であることが好ましく、2g/10分以上40g/10分以下であることがより好ましい。MFRが上記の範囲であることにより、ガラス等から構成される透明基板と太陽電池モジュール用封止材の密着性に優れる。
【0037】
太陽電池モジュール用封止材組成物に含まれる低密度ポリエチレンの密度が0.940g/cm以下の直鎖低密度ポリエチレンの含有量は、組成物中で好ましくは10質量%以上99質量%以下、より好ましくは50質量%以上99%質量以下であり、更に好ましくは90質量%以上99%質量以下である。逆に言えばこの範囲内であれば他の樹脂を含んでいてもよい。例えば0.940g/cmを越える他のポリエチレン系樹脂などが例示できる。これらは、例えば添加用樹脂として用いてもよく、後述のその他の成分をマスターバッチ化するために使用できる。
【0038】
[架橋剤]
架橋剤は公知のものが使用でき、特に限定されるものではなく、例えば公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ヒドロパーオキシ)ヘキサン等のヒドロパーオキサイド類;ジ‐t‐ブチルパーオキサイド、t‐ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐パーオキシ)ヘキシン‐3等のジアルキルパーオキサイド類;ビス‐3,5,5‐トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、o‐メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4‐ジクロロベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t‐ブチルパーオキシアセテート、t‐ブチルパーオキシ‐2‐エチルヘキサノエート、t‐ブチルパーオキシピバレート、t‐ブチルパーオキシオクトエート、t‐ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t‐ブチルパーオキシベンゾエート、ジ‐t‐ブチルパーオキシフタレート、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン‐3、t‐ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート等のパーオキシエステル類;メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類等の有機過酸化物、または、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4‐ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジクミルパーオキサイド、といったシラノール縮合触媒等を挙げることができる。架橋剤の含有量としては、組成物中に0.01質量%〜2質量%含まれることが好ましく、より好ましくは0.05質量%〜1.5質量%の範囲である。
【0039】
[架橋助剤]
本発明においては、好ましくは炭素−炭素二重結合及び/またはエポキシ基を有する多官能モノマー、より好ましくは多官能モノマーの官能基がアリル基、(メタ)アクリレート基、ビニル基である。これによって適度な架橋反応を促進させて太陽電池モジュール用封止材とガラス等の透明前面基板との密着性を向上させているとともに、本発明においては、この架橋助剤が直鎖低密度ポリエチレンの結晶性を低下させ透明性を維持する。これによって、太陽電池モジュール用封止材とガラス等の透明前面基板との密着性のみならず、
透明性と低温柔軟性に優れる太陽電池モジュール用封止材を得ることができ、具体的にはEVAと上記密着性とともに同程度の透明性や低温柔軟性を得ることができる。
【0040】
具体的には、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルフマレート、ジアリルマレエート等のポリアリル化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート等のポリ(メタ)アクリロキシ化合物、二重結合とエポキシ基を含むグリシジルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル及びエポキシ基を2つ以上含有する1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルなどのエポキシ系化合物を挙げることができる。これらは単独でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0041】
上記架橋助剤の中でも、上記密着性を有し、低密度ポリエチレンに対する相溶性が良好で、架橋によって結晶性を低下させ透明性を維持し、低温での柔軟性を付与する観点からTAICが好ましく使用できる。
【0042】
架橋助剤の使用量は、組成物中に0.01質量%〜3質量%含まれることが好ましく、より好ましくは0.05質量部〜2.0質量部の範囲である。この範囲内であれば適度な架橋反応を促進させてガラス等から構成されるガラス等の透明基板と太陽電池モジュール用封止材の密着性向上させることができる。
【0043】
[ラジカル吸収剤]
本発明の太陽電池モジュール用封止材組成物においては、ラジカル重合開始剤となる上記の架橋助剤と、それをクエンチするラジカル吸収剤とを併用することにより、架橋の程度を調整することができる。このようなラジカル吸収剤としては、ヒンダードフェノール系などの酸化防止剤や、ヒンダードアミン系の耐候安定化などが例示できる。架橋温度付近でのラジカル吸収能力が高い、ヒンダードフェノール系のラジカル吸収剤が好ましい。ラジカル吸収剤の使用量は、組成物中に0.01質量%〜3質量%含まれることが好ましく、より好ましくは0.05質量部〜2.0質量部の範囲である。この範囲内であれば適度に架橋反応を抑制し、透明基板と太陽電池モジュール用封止材の密着性を向上させることができる。
【0044】
[その他の成分]
太陽電池モジュール用封止材組成物には、さらにその他の成分を含有させることができる。例えば、本発明の太陽電池モジュール用封止材組成物から作製された封止材に耐候性を付与するための耐候性マスターバッチ、各種フィラー、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等の成分が例示される。これらの含有量は、その粒子形状、密度等により異なるものではあるが、それぞれ太陽電池モジュール用封止材組成物中に0.001〜5質量%の範囲内であることが好ましい。これらの添加剤を含むことにより、太陽電池モジュール用封止材組成物に対して、長期に亘って安定した機械強度や、黄変やひび割れ等の防止効果等を付与することができる。
【0045】
耐候性マスターバッチとは、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び上記の酸化防止剤等をポリエチレン等の樹脂に分散させたものであり、これを太陽電池モジュール用封止材組成物に添加することにより、太陽電池モジュール用封止材に良好な耐候性を付与することができる。耐候性マスターバッチは、適宜作製して使用してもよいし、市販品を使用してもよい。耐候性マスターバッチに使用される樹脂としては、本発明に用いる直鎖低密度ポリエチレンでもよく、上記のその他の樹脂であってもよい。
【0046】
なお、これらの光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び酸化防止剤は、それぞれ1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0047】
更に、本発明の太陽電池モジュール用封止材組成物に用いられる他の成分としては上記以外に接着性向上剤、核剤、分散剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤、難燃剤等を挙げることができる。
【0048】
<太陽電池モジュール用封止材及びそれを用いた太陽電池モジュール>
次に、本発明の太陽電池モジュール用封止材及びそれを用いた太陽電池モジュールの一例について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の太陽電池モジュールについて、その層構成の一例を示す断面図である。本発明の太陽電池モジュール1は、入射光の受光面側から、透明前面基板2、前面封止材3、太陽電池素子4、背面封止材5、及び裏面保護シート6が順に積層されている。本発明の太陽電池モジュール1は、少なくとも前面封止材3として、本発明の太陽電池モジュール用封止材(以下単に「封止材シート」ともいう)を使用する。
【0049】
本発明の太陽電池モジュール用の封止材シートは、例えば、上記の太陽電池モジュール用封止材組成物を、従来公知の方法で成型加工して得られるものであり、シート状又はフィルム状としたものである。なお、本発明におけるシート状とはフィルム状も含む意味であり両者に差はない。
【0050】
太陽電池モジュール用封止材組成物のシート化は、通常の熱可塑性樹脂において用いられる成形法、すなわち、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形、回転成形等の各種成形法により行われる。こうして、上記太陽電池モジュール用封止材組成物をシート化することにより、本発明の封止材シートとして、太陽電池モジュール用封止材組成物からなる密着強化層のみからなる単層シート、又は当該密着強化層を備える多層シートが得られる。
【0051】
封止材シートは、単層シートであってもよく、多層シートであってもよい。多層シートの場合、透明前面基板2との密着性を向上させるために、透明前面基板2との界面側に本発明の太陽電池モジュール用封止材組成物からなる密着強化層が配置されていればよい。このため、例えば封止材シートを2層構成として一方の層のみに密着強化層を配置してもよく、コア層を挟んで3層以上の構成として少なくとも一方の最外層に密着強化層を配置してもよい。上記のような、多層フィルムからなる封止材シートを作製するには、例えば、従来公知のTダイ多層共押出し法を用いることができる。
【0052】
太陽電池モジュール1は、例えば、上記の透明前面基板2、前面封止材3、太陽電池素子4、背面封止材5、及び裏面保護シート6からなる部材を順次積層してから真空吸引等により一体化し、その後、ラミネーション法等の成形法により、上記の部材を一体成形体として加熱圧着成形して製造することができる。そして、このとき、単層シートからなる前面封止材3とガラス基板が積層されるか、又は、多層シートからなる前面封止材3の上記密着強化層が、透明前面基板2の一例であるガラス基板と対向するように積層されることで、ガラス基板と封止材シートとの密着性を向上できる。
【0053】
なお、本発明の太陽電池モジュール用封止材シートは、その成形温度を150から250℃の高温とすることで、成形終了時点に架橋済みのシートとしてもよい。また、成形温度を例えば90℃から100℃の低温とすることで未架橋としてもよい。後者の場合、後述の太陽電池モジュールの製造時点で高温加熱して架橋を完了する。
【0054】
このようにして得られる、本発明の太陽電池モジュールは、ガラス等から構成される透明基板と太陽電池モジュール用封止材の密着性に優れることが特徴である。すなわち、本発明の太陽電池モジュールは、ガラス等から構成される透明基板と封止材との間の密着強度を向上させているため、強い紫外線、熱線、風雨等といった過酷な環境に曝される場合であっても、長期間に亘るきわめて高い耐久性を備えるものとなっている。
【0055】
さらに、太陽電池モジュールにおいては、太陽電池モジュール用封止材シートのベース樹脂としてEVA樹脂のみならず、低密度ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂を使用することができるため、水蒸気透過度が低いものとすることができる。また、太陽電池モジュール用封止材シートと透明前面基板2や裏面保護シート6と、太陽電池モジュール用封止材シートとの間からの水分の浸入も効果的に抑えることができるという優れた効果を奏する。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
<封止材シートの製造>
下記表1の組成の組成物を混合して溶融し、常法Tダイ法により厚さ460から480μmとなるように成膜して太陽電池モジュール用の未架橋の単層の封止材シートを得た。成膜温度は90℃〜100℃とした。
LLDPE1:エチレンと1−ヘキセンとの共重合体であり、密度0.88g/cm、190℃でのメルトマスフローレート(MFR)30g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン。ポリスチレン換算の数平均分子量53000。
LLDPE2:エチレンと1−ヘキセンとの共重合体であり、密度0.88g/cm、190℃でのメルトマスフローレート(MFR)8g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン。ポリスチレン換算の数平均分子量77000。
架橋剤(TBEC):t‐ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート(アルケマ吉富株式会社製、商品名ルペロックスTBEC)
架橋助剤(TAIC):トリアリルイソシアヌレート(Statomer社製、商品名SR533)
UV吸収剤A:チバ・ジャパン株式会社製、商品名CHIMASSORB81
UV吸収剤B:ケミプロ化成株式会社製、商品名KEMISORB102
耐候安定剤A:チバ・ジャパン株式会社製、商品名Tinuvin770
耐候安定剤B:ADEKA株式会社製、商品名Adekastab LA−81
酸化防止剤:チバ・ジャパン株式会社製、商品名Irganox1076
シランカップリング剤A(SC剤A):信越化学工業株式会社製、商品名KBM1003
シランカップリング剤B(SC剤B):信越化学工業株式会社製、商品名KBM503
シロキサン系化合物C(SC剤C、上記一般式におけるRがメタクリロキシ基):信越化学工業株式会社製、商品名X−40−2655A、数平均分子量610
シロキサン系化合物D(SC剤D、上記一般式におけるRがメタクリロキシ基):信越化学工業株式会社製、商品名X−40−9272B、数平均分子量620
シロキサン系化合物E(SC剤E、上記一般式におけるRがビニル基):信越化学工業株式会社製、商品名X−40−9270
【0057】
【表1】

【0058】
<太陽電池モジュール用封止材の評価>
次に、これらの未架橋の太陽電池モジュール用封止材を120℃、真空加熱ラミネータで処理した後、150℃オーブンで30分加熱架橋を行ない、それぞれの実施例及び比較例について架橋後の太陽電池モジュール用封止材を得た。この架橋後の太陽電池モジュール用封止材について、下記の試験条件におけるガラス密着維持率を評価した。その結果をまとめて表2に示す。
【0059】
ガラス密着維持率(%)の試験方法:
ガラス密着サンプル作製方法:ガラス基板(白板フロート半強化ガラス JPT3.2 75mm×50mm×3.2mm)に封止材を上記方法(57段落)で密着させる。
剥離試験方法:ガラス基板上に密着している封止材を15mm幅にカットし、剥離試験機(テンシロン万能試験機 RTF−1150−H)にて垂直剥離(50mm/min)試験を行いガラス密着強度を測定する。
耐久試験方法:SUV照射前を初期ガラス密着強度とし、SUV照射後のガラス密着強度の初期剥離強度に対しての維持率を測定する。SUV照射はアイ スーパー UVテスターSUV−W151を用いて温度63℃、湿度50%の環境下で照度100m/cmで行い、照射時間は49時間とした。
【0060】
【表2】

【0061】
表2から解かるように、本発明の太陽電池モジュール用封止材は、ガラス密着維持率が55.0〜70.0%と高い値を有している。すなわち、これらの結果から、本発明の太陽電池モジュール用封止材は、ガラス等の透明基板との密着性にきわめて優れることが理解できる。
【符号の説明】
【0062】
1 太陽電池モジュール
2 透明前面基板
3 前面封止材
4 太陽電池素子
5 背面封止材
6 裏面保護シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式で表されるシロキサン系化合物を含有することを特徴とする太陽電池モジュール用封止材組成物。
【化1】

(上記一般式中、Rは、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、ビニル基、スチリル基、イソシアネート基、アクリル基、アリル基、エポキシ基のいずれかであり、nは、0〜10の整数を表す。)
【請求項2】
前記一般式中、Rがメタクリロキシ基、アクリロキシ基、ビニル基、アクリル基から選ばれるいずれかである請求項1記載の太陽電池モジュール用封止材組成物。
【請求項3】
前記シロキサン系化合物と、密度0.940g/cm以下の低密度ポリエチレン樹脂と、架橋剤と、架橋助剤と、を含有する請求項1又は2記載の太陽電池モジュール用封止材組成物。
【請求項4】
請求項1から3いずれか記載の太陽電池モジュール用封止材組成物からなる単層の封止材シート、又は、該太陽電池モジュール用封止材組成物からなる密着強化層を備える多層の封止材シートであって、前記多層の封止材シートの場合に前記密着強化層が最外層に設けられている太陽電池モジュ−ル用の封止材シート。
【請求項5】
請求項4記載の単層の封止材シートと、ガラス基板と、が積層されているか、又は、請求項4記載の多層の封止材シートにおける密着強化層と、ガラス基板と、が対向するように積層されている太陽電池モジュール。

【図1】
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【公開番号】特開2012−124340(P2012−124340A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274091(P2010−274091)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】