説明

太陽電池用の波長変換素子、太陽電池モジュール

【課題】太陽光エネルギーを電力に変換する際の変換効率を低コストでしかも低労力で向上させる。
【解決手段】太陽光エネルギーを電力に変換する太陽電池用の波長変換素子において、供給される太陽光のうち太陽電池2の吸収帯域に対応する光を透過可能な基板11と、供給される太陽光における紫外光に応じて励起子が励起される第1のエネルギー準位を有する複数の量子ドット11からなる入力側量子ドットグループ13と、第1のエネルギー準位との共鳴に応じて入力側量子ドットグループ13を構成する各量子ドット12から基板11を介して励起子が注入される共鳴エネルギー準位を有し、当該共鳴エネルギー準位から放出されたエネルギーに応じて紫外光より長波長である、太陽電池2の吸収帯域の出力光を生成する出力側の量子ドット14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光エネルギーを電力に変換する太陽電池用の波長変換素子について、特に変換効率を向上させるとともに紫外線による太陽電池の劣化を軽減する上で好適な太陽電池用の波長変換素子、これを利用した太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は太陽光のエネルギーを直接電力に変換する太陽光発電システムの心臓部を構成するものであり、Si単結晶、多結晶、あるいはアモルファスSiのp−n接合面、ショットキーバリアー面等で構成されている。この太陽電池の構造としては、太陽電池素子単体(セル)をそのままの状態で使用することなく、一般的に数枚〜数十枚の太陽電池素子を直列、並列に配線し、長期間に亘りセルを保護するために各種パーケージングが施され、ユニット化される。
【0003】
このパッケージに組み込まれたユニットを太陽電池モジュールといい、一般的に太陽光が当たる面をガラス面で覆い、熱可塑性プラスチックからなる充填材で間隙を埋め、裏面を封止用シートで保護された構成になっている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−048944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図12に太陽光のスペクトル分布を示す。太陽光のスペクトルは紫外線から赤外線まで幅広く分布するが、短波長(紫外、紫、青)の光になるほど光子は大きなエネルギーを持ち、より大きな禁制帯幅を超えてキャリアを励起できる。この短波長側の光に対応した禁制帯幅を持つ単接合太陽電池を用いれば、より大きな電圧を得ることができ、短波長域の光のエネルギーをより効率良く利用できる。しかしながら、かかる単接合太陽電池により禁制帯幅を拡げすぎれば、より長波長の光は素通りして利用されず、変換効率が悪化してしまう。
【0006】
また、図12に示すように、短波長から長波長にかけて複数種の太陽電池素子71〜73で構成するいわゆる多接合太陽電池も提案されているが、材料コストが増加するとともに製造労力の負担が増大してしまうという問題点があった。
【0007】
更に、紫外光が太陽電池素子に直接照射されることにより、これが経時的に劣化してしまうのを防止する必要性もあった。
【0008】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、太陽光エネルギーを電力に変換する際の変換効率を低コストでしかも低労力で向上させることができ、しかも紫外線による太陽電池の劣化を軽減することが可能な太陽電池用の波長変換素子、太陽電池モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明を適用した太陽電池用の波長変換素子は、上述した課題を解決するために、太陽光エネルギーを電力に変換する太陽電池用の波長変換素子において、供給される太陽光のうち上記太陽電池の吸収帯域に対応する光を透過可能な基板と、供給される太陽光における紫外光に応じて励起子が励起される第1のエネルギー準位を有する複数の量子ドットからなる入力側量子ドットグループと、上記第1のエネルギー準位との共鳴に応じて上記入力側量子ドットグループを構成する各量子ドットから上記基板を介して励起子が注入される共鳴エネルギー準位を有し、当該共鳴エネルギー準位から放出されたエネルギーに応じて上記紫外光より長波長である、上記太陽電池の吸収帯域の出力光を生成する出力側の量子ドットとを備えることを特徴とする。もちろんかかる出力光を生成する準位も吸収に寄与し、そのため太陽光の一部を吸収することで逆に発電部へ到達する太陽光を減少させる効果も持つが、出力光を生成する準位はその準位を持つ量子ドットの密度(個数)を紫外光により励起される量子ドットと比較し大幅(例えばサイズ比が1:2の場合には1/8以下にできる。)に低くすることが可能であるので、出力光を生成する準位は吸収よりも出力光の発生への寄与が遙に大きい。したがって、太陽電池の効率の良い波長の光を発電部に供給することが可能となり、結果発電効率は向上する。
【0010】
また、本発明を適用した太陽電池用の波長変換素子では、上記基板は、上記太陽電池の吸収帯域に対応する可視光の波長を透過可能とされ、上記入力側量子ドットグループを構成する各量子ドットは、波長400nm以上の光に応じて励起子が励起される第1のエネルギー準位を有し、上記出力側の量子ドットは、上記入力側量子ドットグループを構成する量子ドットの吸収波長より長波長であり、かつ上記太陽電池の吸収特性が極大となる波長以下の出力光を生成することを特徴とするものであってもよい。
【0011】
また、本発明を適用した太陽電池用の波長変換素子では、上記入力側量子ドットグループを構成する各量子ドットは、上記出力側の量子ドットよりも形成比率が高いことを特徴とするものであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
上述した構成からなる本発明では、太陽電池により吸収することができる光のスペクトル強度を増加させることができることから、発電効率をより向上させることができる。しかも、波長変換素子を通過する太陽光は、紫外光成分をより低下させることができることから、この太陽電池に対して直接的に照射される紫外光の量を減少させることが可能となる。このため、紫外光が太陽電池に直接照射されることによる経時的な劣化を抑えることが可能となる。
【0013】
また、本発明によれば、従来の如く短波長から長波長にかけて複数種の太陽電池素子で構成するいわゆる多接合太陽電池を構成することなく、太陽光のより広帯域のスペクトル成分を発電に使用することができ、発電効率向上をより安価に、しかも低労力で実現することが可能となる。
【0014】
更に、本発明によれば、入力側量子ドットグループを構成する各量子ドットは、波長400nm以上の光に応じて励起子が励起される第1のエネルギー準位を有し、出力側の量子ドットは、上記入力側量子ドットグループを構成する量子ドットの吸収波長より長波長であり、かつ上記太陽電池の吸収特性が極大となる波長以下の出力光を生成するように構成した場合、エネルギー吸収効率をより向上させることが可能となる。
【0015】
また、入力側量子ドットグループを構成する各量子ドットについて、出力側の量子ドットよりも形成比率を高くすることにより、可視光については基板をそのまま透過させ、紫外光については可視光に変換する割合を高くすることができ、エネルギー吸収効率を向上させることができる点において有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用した太陽電池モジュールの構成図である。
【図2】波長変換素子の構成の概略を説明するための図である。
【図3】各量子ドットのエネルギー準位を示す図である。
【図4】太陽光のスペクトル分布を示す図である。
【図5】各量子ドットのエネルギー準位を示す他の図である。
【図6】各量子ドットのエネルギー準位を示す更なる他の図である。
【図7】波長変換素子を構成する量子ドットの吸収強度分布を示す図である。
【図8】照射された光の波長に対する、太陽電池により生成された起電力の関係を示す図である。
【図9】この本発明例の比較例に対する起電流の増加率並びに太陽電池における受光感度を示す図である。
【図10】太陽電池の受光感度の例を示す図である。
【図11】量子ドットが形成された基板に入射させた光の波長に対する、光の吸収量、光の発光量の関係を示す図である。
【図12】従来技術の問題点について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
本発明は、図1に示すようなる太陽電池用の波長変換素子1に適用される。この波長変換素子1は、太陽光エネルギーを電力に変換する太陽電池2における太陽光の入射側に配置される。太陽電池2は、筐体10に収容可能とされ、波長変換素子1は、かかる筐体10に収容された太陽電池2の上面を覆いつつ、当該筐体10に装着可能とされている。なお、本発明は、かかる太陽電池2、波長変換素子1を備える太陽電池モジュール4として適用するようにしてもよい。
【0019】
太陽電池2は、厚さ0.3〜0.4mm程度のSi単結晶、多結晶、あるいはアモルファスSiのp−n接合面、ショットキーバリアー面等で構成されている。例えば、結晶Siの場合にその禁制帯幅は、1.12eVであり、太陽電池に用いた場合、近紫外域から1.2μm程度までの波長の光を吸収して発電することができる。多結晶Siの場合には、結晶の粒径が数mm程度で構成されている。単結晶Siに比べると面積あたりの出力(変換効率)は低下するものの、エネルギー収支の面では単結晶Siより優れている。またアモルファスSiを太陽電池2に適用する際には、シランガスから化学気相成長(CVD)させることにより作製される。結晶Siに比べてエネルギーギャップが大きいため、高温時も出力が落ちにくい特性を有する。
【0020】
図2は、波長変換素子1の構成の概略を説明するための図である。波長変換素子1は、基板11と、この複数の量子ドット12からなる入力側量子ドットグループ13と、入力側量子ドットグループ13近傍に設けられた出力側の量子ドット14とを備えている。
【0021】
基板11は、ガラスやポリカーボネート樹脂等からなる。基板11を構成するガラスついては、白板ガラス、強化ガラス、倍強化ガラス、熱線反射ガラスなどが用いられるが、一般的には厚さ3mm〜5mm程度の白板強化ガラスが多く使用される。また基板11を構成するガラスついて、GaAsやCdS、ZnSe、ZnS等をドープしたガラス等で構成するようにしてもよい。また、この基板11は、ポリカーボネート樹脂で構成する場合、厚みが5mm程度のものが多く使用される。いずれの場合においても、この基板11は、供給される太陽光のうち太陽電池2の吸収帯域に対応する光を透過可能な材料で構成されていてもよいし、これに限らず、太陽光の何れの帯域も透過可能な材料で構成されていてもよい。
【0022】
入力側量子ドットグループ13を構成する量子ドット12や、出力側の量子ドット14は、CuCl等の材料系で構成され、励起子を三次元的に閉じ込めることにより形成される離散的なエネルギー準位に基づき、単一電子(励起子)を制御する。各量子ドット12、14は、CuCl、GaN又はZnO等の材料系からなる。ちなみに、各量子ドット12、14を構成する材料系がCuClである場合に、これらは立方体として構成され、また各量子ドット12,14を構成する材料系がGaNやZnOである場合に、これらは球形或いは円盤形として構成される。
【0023】
これら各量子ドット12、14を構成する材料系として上記CuClを用いる場合において、先ずCuClの粉末と、NaClの粉末を混合して約800℃の温度で融解する。次に、上下方向に温度勾配が施された炉内へ上記融解した混合粉末をつり下げ、数mm/hの速度で炉内を上下移動させることにより、混合粉末内部に温度勾配を作り出して序々に結晶化させてゆく。そして約200℃程度の温度で数分から数10分間熱処理をすると、CuClの量子ドット12,14を包含したNaCl結晶を作製することができる。ちなみに、このブリッジマン法では、熱処理温度や熱処理時間を変えることにより、生成する量子ドット12,14のサイズを自在に制御することもでき、これらを100nm以下の領域に並べて形成させることも可能となる。
【0024】
なお、これら各量子ドット12,14は、更に分子エピタキシー(MBE)成長法に基づいて基板11上に作製してもよいし、また近接場光CVDを利用して量子ドットの形成位置を精度よく制御してもよい。
【0025】
以下の説明においては、量子ドット12、14を構成する材料系としてCuClを用いる場合を例に挙げて説明をする。これら量子ドット12、14では、励起子の閉じ込め系によりキャリアのエネルギー準位が離散的になり、状態密度をデルタ関数的に尖鋭化させることができる。また、この量子ドット12、14におけるエネルギー準位は、下位において比較的離散的に存在しているが、上位になるにつれて連続して存在することとなり、次第に帯状になる。
【0026】
このような量子ドット12、14が形成された基板11に対して、太陽光が入射されると、紫外光がこの量子ドット12により吸収されることになる。
【0027】
以下、太陽光のうち紫外光を量子ドット12が吸収した場合の挙動について説明をする。
【0028】
図3は、各量子ドット12、14のエネルギー準位を示している。各量子ドット12,14における量子閉じ込め準位E(nx,ny,nz)は、粒子の質量をmとし、また量子ドットの辺長をLとしたときに、以下の式(1)により定義される。
【0029】
E(nx,ny,nz)=h2/8π2m(π/L)2(nx2+ny2+nz2)・・・・・(1)
【0030】
この式(1)に基づき、各量子ドット12,14のE(nx,ny,nz)を計算する。ここで量子ドット12と、量子ドット14との辺長比が、およそ1:√2であるとき、図3に示すように、量子ドット12における量子準位が(1,1,1)であるときのE(111)と、量子ドット14における量子準位が(2,1,1)であるときのE(211)とが等しくなる。即ち、量子ドット12の量子準位(1,1,1)と、量子ドット14の量子準位(2,1,1)は、互いに励起子の励起エネルギー準位が共鳴する関係にある。実際これらの間で共鳴を起こさせるためには、量子ドット12における量子準位(1,1,1)に対応する波長の入射光Aをそれぞれ供給することにより、かかる量子準位へ励起子を励起させることができる。
【0031】
仮に波長λ1の入射光Aを供給することにより、量子ドット12における量子準位(1,1,1)へ励起子を励起させた場合には、かかる量子準位(1,1,1)と量子ドット14における量子準位(2,1,1)との間で共鳴が生じる。
【0032】
その結果、第1の量子ドット12における量子準位(1,1,1)に存在する励起子が、量子ドット14の量子準位(2,1,1)へ移動し、さらに量子ドット14の量子準位(1,1,1)へ遷移する。この結果、見かけ上、量子ドット12から量子ドット14へ励起子が移動することになる。
【0033】
そして、この量子ドット14の量子準位(1,1,1)へ移動した励起子は、そこから発光する。この量子ドット14の下位の量子準位(1,1,1)からの発光は、出力信号としての出力光として取り出されることになるが、その波長λ2は、入射光の波長λ1と比較していきおい長くなる。これは、量子ドット14のサイズが、量子ドット12と比較して大きいからである。
【0034】
即ち、このような互いに共鳴準位を持つとともに、量子ドット14のサイズを量子ドット12よりも大きく構成することにより、量子ドット12から量子ドット14へ励起子を移動させることが可能となる。基板11上において辺長比が互いに異なる各量子ドット12,14を形成させることにより、(1)式に基づく量子準位をほぼ等しくすることができ、これらの間で共鳴を起こさせることにより、体積の小さい量子ドット12から体積の大きい量子ドット14へ励起子を注入することができる。換言すれば、量子ドット間で体積(サイズ)を互いに異ならせることにより、これらの間で励起子を伝送することができる。
【0035】
このため、かかる励起子の伝送原理を利用して、体積の小さい量子ドット12に応じた波長λ1の入射光Aを供給することにより、それぞれの量子準位に励起子を励起させ、これを体積の大きい量子ドット14へ伝送する。量子ドット14では、かかる伝送された励起子を下位準位へ放出することにより波長λ2からなる出力光Bを生成する。その結果、この量子ドット12から量子ドット14への励起子の移動を通じて、波長λ1の入射光Aをより長波長からなる波長λ2の出力光Bへ変換することが可能となる。
【0036】
ここで、波長λ1を紫外光の波長となるように、量子ドット12におけるE(111)を設定し、また、この量子ドット12におけるE(111)と共鳴するように量子ドット14におけるE(211)を設定することにより、波長λ1の紫外光からなる入射光Aを、より長波長λ2からなる出力光Bに変換することができる。
【0037】
図4(a)は、太陽光のスペクトル分布を示す。太陽光のスペクトルは紫外線から赤外線まで幅広く分布するが、例えば多結晶Siの太陽電池2により発電効率の高い帯域は、400nm〜700nm程度である。
【0038】
このため、波長400nm未満の紫外光は、かかる太陽電池2により直接的に吸収することができない。しかしながら、本発明では、上述した構成からなる波長変換素子1を、太陽電池2の入射側に配置している。このため、太陽電池2により吸収可能な帯域は、400nm〜700nmの光は、量子ドット12により吸収されることが無いため、そのまま波長変換素子1を通過して太陽電池2に到達し、また、波長400nm未満の紫外光は、量子ドット12により吸収されることになり、上述したメカニズムに基づいてより長波長の出力光Bに変換されることになる。ここで、この出力光Bの波長λ2が400nm〜700nmの間となるように量子ドット12、14を制御したとき、この波長変換素子1を通過した光のスペクトル分布は、図4(b)に示すように、紫外領域のスペクトル強度が低下し、その分400〜700nmの波長帯域におけるスペクトル強度が高くなる。もちろんかかる出力光を生成する準位も吸収に寄与し、そのため太陽光の一部を吸収することで逆に発電部へ到達する太陽光を減少させる効果も持つが、出力光を生成する準位はその準位を持つ量子ドットの密度(個数)を紫外光により励起される量子ドットと比較し大幅(例えばサイズ比が1:2の場合には1/8以下にできる。)に低くすることが可能であるので、出力光を生成する準位は吸収よりも出力光の発生への寄与がはるかに大きい。したがって、太陽電池の効率の良い波長の光を発電部に供給することが可能となり、結果発電効率は向上する。
【0039】
その結果、太陽電池2により吸収することができる光のスペクトル強度を増加させることができることから、発電効率をより向上させることができる。しかも、波長変換素子1を通過する太陽光は、紫外光成分をより低下させることができることから、この太陽電池2に対して直接的に照射される紫外光の量を減少させることが可能となる。このため、紫外光が太陽電池2に直接照射されることによる経時的な劣化を抑えることが可能となる。
【0040】
また、本発明によれば、従来の如く短波長から長波長にかけて複数種の太陽電池素子で構成するいわゆる多接合太陽電池を構成することなく、太陽光のより広帯域のスペクトル成分を発電に使用することができ、発電効率向上をより安価に、しかも低労力で実現することが可能となる。
【0041】
しかも、本発明によれば、宇宙線や真空紫外線等もこの波長変換素子1により吸収することができることから、これらが直接的に太陽電池2へ照射されるのを防止することができ、素子の寿命を長くすることが可能となる。
【0042】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば図5に示すように、量子ドット12’が基板11上において更に形成されていてもよい。この量子ドット12’は、量子ドット12よりもさらにサイズが小さく構成されている。また、量子ドット12’と、量子ドット14との辺長比が1:2であるとき、この量子ドット12’における量子準位(1,1,1)におけるE(111)は、量子ドット14の量子準位(2,2,2)におけるE(222)と等しく、互いに共鳴する準位である。この量子ドット12’からも同様に励起子が量子ドット14へと移動していくことになる。量子ドット12’により吸収される入射光A’の波長λ1’は、量子ドット12により吸収される入射光Aの波長λ1とは異なるものであるが、係る入射光A’も同様に量子ドット12’内において光励起させ、これを量子ドット14へ伝送してより長波長の波長λ2の出力光Bに変換することが可能となる。
【0043】
特に紫外光の帯域は400nm未満の領域において帯域幅を有するものであるところ、かかる紫外光のいずれの波長をも量子ドット12で吸収してこれを出力光Bに変換することで、太陽電池2における変換効率を向上させる必要がある。このため、多岐に亘るサイズや種類からなる量子ドット12を基板11上に形成させ、紫外光のいずれの波長をも量子ドット12で吸収できる構成とする必要がある。仮にサイズを異ならせた場合においても、上述した図5に示すように、出力側の量子ドット14において、これと共鳴準位をもたせることにより、励起子の移動を実現することが可能となる。
【0044】
なお出力側の量子ドット14は、出力光Bの波長λ2が400nm〜700nmの間となるように制御される場合に限定されるものではなく、太陽電池2の吸収帯域に対応する波長領域であればいかなる波長λ2で構成されていてもよい。
【0045】
ちなみに、この出力側量子ドット14も同様に、多岐に亘るサイズや材質で構成することにより、その出力光Bの波長λ2や共鳴準位が互いに相違するものであってもよい。但し、この出力光の波長λ2が太陽電池の吸収帯域に対応する波長であり、しかも量子ドット12における量子準位と共鳴準位を有することが必須となる。
【0046】
また、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば図6に示すように、入力側量子ドットグループ13を構成する量子ドット12から、出力側の量子ドット14へ励起子を伝送する際において、他の量子ドット16を介して行うようにしてもよい。
【0047】
例えば、量子ドット12、量子ドット16、量子ドット14間において、それぞれ辺長比が1:√2:2で構成されているものとする。このとき、量子ドット12におけるE(111)と、量子ドット16におけるE(211)とが共鳴することになり、よりサイズの大きい量子ドット16に対して量子ドット12から励起子によるエネルギー移動が起きることになる。また、量子ドット16におけるE(111)と、量子ドット14におけるE(211)とが共鳴することになり、よりサイズの大きい量子ドット14に対して量子ドット16から励起子によるエネルギー移動が起きることになる。その結果、最終的に量子ドット12により吸収された波長λ1からなる入射光Aは、波長λ2からなる出力光Bに波長変換されることになる。このように、量子ドット12、14のみではなく、その間に他の量子ドット14を介して励起子を伝送する構成においても、本発明所期の効果を得ることが可能となる。ちなみに、この量子ドット16は1種類で構成されている場合に限定されるものではなく、段階的に徐々に小さくなるように構成されていてもよい。
【0048】
なお、本発明においては、量子ドット12について、波長400nm未満の紫外光に応じて励起子が励起されるように、第1のエネルギー準位E(111)が形成されていることになるが、そのときの吸収強度は図7に示すように波長400nm未満を中心とした分布が形成されていることが望ましい。実際に、これら各量子ドット12により吸収される紫外光は波長380nm以下である。図7はCuCl量子ドットで平均サイズ5nmとした結果であり、量子ドットのサイズ分布等の制御により、波長400nm付近ではわずかな吸収しかないが、強い発光が存在する。
【0049】
特に太陽電池モジュール4としての適用を考える場合において、この紫外光の波長の光を吸収し、これを長波長の光へ変換することが必須となるため、量子ドット12について上述した分布になるように調整することが望ましい。
【0050】
更に本発明においては、量子ドットの代替として、分子、イオンを上記基板中に分散させて構成するようにしてもよい。具体的には、入力される太陽光のうち、400nm以下の波長の成分を十分に吸収し得るだけの濃度を持つ、400nm以下の波長帯域に吸収を持つ分子、イオンと波長400nm以上の入力光をほとんど吸収しないように濃度調整された波長400nm以上に発光帯域を持つ分子、イオンが同時に分散されたガラス、樹脂、結晶などである。
【実施例1】
【0051】
以下、本発明を適用した太陽電池用の波長変換素子1、並びに太陽電池2の実施例について説明をする。
【0052】
上述した効果を検証するために、以下の実験を行った。この実験では、本発明例として、基板11上にCdSeからなる量子ドット12、14を形成させた波長変換素子1と太陽電池2とからなる太陽電池モジュール4を、また比較例として、何ら量子ドット12、14を設けない基板11と、太陽電池2とからなる比較用の太陽電池モジュールを使用する。ちなみに、本発明例、比較例においてそれぞれ使用する太陽電池2は、互いにほぼ同一の光吸収特性を示すものである。
【0053】
この実験では、それぞれ準備した本発明例、比較例について実際に波長300〜600nmの光を照射し、太陽電池2により吸収されることにより生じる起電力を測定する。
【0054】
図8は、かかる実験結果を示しており、横軸が照射された波長を、縦軸が太陽電池2により生成された起電力を示している。本発明例、比較例ともに波長が高くなるにつれて起電力が高くなるのが分かる。これは本発明例、比較例において実装されている太陽電池2の吸収帯域が、特に波長300〜600nmの範囲において長波長になるほど吸収特性が向上するため、これに応じて生成される起電力が高くなるためである。
【0055】
また、この図8において可視光域(400nm以上)では、ほぼ本発明例、比較例ともに同一の起電力となっている。しかしながら、この可視光域において徐々に波長を下げ、400nm近くまで下がると、この本発明例と比較例との間で起電力の差異が生じてくるのが分かる。この差異は、本発明例の起電力が、比較例の起電力よりも高くなることにより生じるものである。
【0056】
また、紫外光域(400nm未満)では、本発明例と比較例との起電力差がさらに大きくなる。そして、この起電力差は、波長が低くなるにつれて更に大きくなる傾向が示されている。
【0057】
実際にこの紫外光域においては、太陽電池2における受光感度は極めて低い。このため、比較例にように何ら量子ドットが形成されていない場合には、モジュール内に入射された紫外光域の光がそのまま太陽電池2に到達するものの、かかる帯域において太陽電池2は受光感度が低いことから、起電力の向上に殆ど寄与しない。これに対して、本発明例では、紫外光を吸収可能な入力側の量子ドット12を基板11上に形成させている。このため、この紫外光を吸収し、上述したメカニズムに基づいて出力側の量子ドット14を介して長波長側で放出させることができる。かかる長波長側の方が太陽電池2における受光感度が向上することから、起電力がより向上することになる。これが、本発明例と比較例との間の起電力の差異として現れてくることになる。
【0058】
図9は、この本発明例の比較例に対する起電流の増加率並びに太陽電池2における受光感度を示している。起電力増加率は、本発明例における起電流Iと、比較例における起電流Iとしたとき、(I−I)/Iで表される。
【0059】
この起電流の増加率は、紫外光域において高くなり、可視光域において低くなっているのが分かる。また、起電流増加率は、この図9の傾向からみる限り、紫外光域内において波長が低くなるにつれて増加し、また波長が高くなるにつれて減少する。さらに、この起電力増加率は、400nm以上の可視光域において、500nm以上の領域における起電力増加率よりも、400nm近傍における起電力増加率の方が僅かながら高くなっているのが分かる。
【0060】
また、この図9において示した受光感度は、波長360nmから立ち上がり、400nmあたりまで急激に上昇し、400nm以上では、波長の増加とともに光吸収緩やかに上昇する。なお、この受光感度の傾向はあくまで太陽電池2における一例であり、これに限定されるものではないことは勿論である。
【0061】
このような図9に示す傾向の下で本発明例では、入力側の量子ドット12について400nm以下の紫外光域の光を吸収可能とし、さらに出力側の量子ドット14において400nm超の可視光域の光を放出可能とすることにより、入力側の量子ドット12により吸収された紫外光のエネルギーが可視光として放出されることになる。また可視光域においては、上述したように太陽電池2の受光感度が高くなるため、起電力増加率を向上させることが可能となる。
【0062】
なお、本発明例では、400nm超の領域であっても400nm近傍においては、未だ起電流増加率が高くなっている。このため、入力側の量子ドット12について400nm以上の可視光域の光を吸収可能としてもよい。かかる場合には、入力側量子ドットグループを構成する各量子ドット12は、波長400nm以上の光に応じて励起子が励起される第1のエネルギー準位を有しており、出力側の量子ドット14は、量子ドット12の吸収波長より長波長である範囲においての出力光を生成可能とされている。
【0063】
例えば、入力側量子ドットグループを構成する各量子ドット12は、波長460nmの光を吸収可能とされており、出力側の量子ドット14は、560nmの光が放出可能なように設計されているものとする。かかる場合において、量子ドット12は、波長460nmの光を吸収し、量子ドット14は、波長560nmの光を放出することになるが、図9に示すように、太陽電池2の受光感度は、波長560nmの方が波長460nmよりも高くなっている。このため、波長460nmの光を量子ドット12により吸収してこれを量子ドット14を介して波長560の光として放出した方が、エネルギー吸収効率を向上させることができ、ひいては、起電流増加率をも向上させることが可能となる。
【0064】
即ち、波長400nm超の可視光域においても、波長が高くなるにつれて受光感度は、増加する。これに着目し、可視光域においても、この受光感度の増加領域において、吸収能を示す量子ドット12を設け、さらにこれよりも長波長側において出力光を放出可能な量子ドット14を設けることにより、エネルギー吸収効率を改善することが可能となる。
【0065】
ちなみに、この受光感度の増加領域は、太陽電池2によって異なる。例えばSi製の太陽電池の場合には、一般的に受光感度の増加領域は、400〜800nmである。
【0066】
また、図10は、Si系の太陽電池2の受光感度の例を示している。かかる例において波長400nm以上の可視光域では、その吸収特性が極大となる波長は約950nmである。このため、この図10に示す太陽電池2における受光感度の増加領域は400〜950nmである。このような光吸収特性を示す太陽電池2に対して本発明を適用する際には、受光感度の増加領域は400〜950nmにおいて吸収能を示す量子ドット12を設け、さらにこれよりも長波長側において出力光を放出可能な量子ドット14を設けることになる。但し、この出力側の量子ドット14により放出される出力光がかかる光吸収性能の増加領域の上限である950nmを超えてしまうと却って太陽電池2によるエネルギー吸収性能が低下してしまう。従って、量子ドット14は、太陽電池2の吸収特性が極大となる波長以下の出力光を生成するようなものとすることが望ましい。
【実施例2】
【0067】
また、本発明では、入力側量子ドットグループを構成する各量子ドット12は、出力側の量子ドット14よりも形成比率が高くなるようにしてもよい。即ち、量子ドット12の総数が量子ドット14の総数よりも多くなるように設定してもよい。
【0068】
図11(a)は、量子ドット12、14が形成された基板11に入射させた光の波長に対する、これら量子ドット12、14による光の吸収量の関係を示している。また図11(b)は、紫外光の光を入射させた場合における量子ドット12、14からの光の発光量の波長依存性の関係を示している。図中実線は、何れも出力側の量子ドット14が入力側の量子ドット12よりも少ない場合(以下、出力側低比率という。)を示しており、図中点線は、何れも出力側の量子ドット14が入力側の量子ドット12よりも多い場合(以下、出力側高比率という。)を示している。ちなみにこの例では、量子ドット12が主として紫外光域における吸収性能を発揮し、また量子ドット14が主として可視光域において光を放出するように形成されている場合を想定している。
【0069】
図11(a)に示すように、光吸収量は、出力側低比率の場合には、紫外域において高くなっている。これは、量子ドット12の比率が高いため、紫外域における吸収性能が高くなっている。これに対して、出力側の量子ドット14の比率が低いために、可視光域において吸収性能が低下しているのが分かる。その結果、量子ドット14により吸収される可視光の量が低下してしまう。
【0070】
これに対して、出力側高比率の場合には、点線で示すように、紫外光域における吸収性能が低下し、その代わりに可視光域における吸収性能が増加している。これは、出力側の量子ドット14の形成比率が高いことから、かかる可視光を量子ドット14自身が吸収してしまうことによる。
【0071】
また図11(b)に示すように、紫外光の光を照射した場合には、出力側低比率の場合において、可視光域において光発光量が高くなっているのが分かる。このような可視光域においてピークが生じる理由として、出力側低比率の場合においては、入力側の量子ドット12において吸収された紫外光のエネルギーが、出力側の量子ドット14において可視光として放出されたためである。入力側の量子ドット12の総数が多い分、紫外光のエネルギーに基づいて可視光として放出される量が多くなるためである。このような可視光域においてピークが生じる理由として、出力側高比率の場合においては、出力側の量子ドット14自身が吸収した僅かな可視光を、再び可視光域において出力光として放出しているためである。出力側の量子ドット14の総数が多い分、可視光として放出される量が多くなるためである。
【0072】
しかしながら、全体のエネルギー効率を考えた場合には、出力側低比率の方が有利となる。その理由として、出力側高比率の場合、出力側の量子ドット14の総数が増加するが、可視光の光を量子ドット14が一度吸収して、これを放出することになる。その結果、この量子ドット14により吸収されることによる励起子のエネルギー分が必ずしも100%出力光として放出されるわけではなく熱等に変換される分もあり、量子ドット14による吸収、放出の無い場合と比較して結局のところエネルギー損失が多くなってしまう。
【0073】
これに対して、出力側低比率の場合には、出力側の量子ドット14が少ないため、可視光域の入射光については、量子ドット14により吸収されることなくそのまま基板11を透過して太陽電池2側へ入射する割合が高くなり、その結果、エネルギー損失の低下を防止することができる。また、入力側の量子ドット12の形成比率が高いために、紫外光側においては、量子ドット12により吸収されて紫外光のエネルギーに基づいて可視光として放出される量が多くなる。即ち、出力側低比率の場合は、出力側高比率の場合と比較して、可視光については基板11をそのまま透過させ、紫外光については可視光に変換する割合を高くすることができる点において有利となる。
【符号の説明】
【0074】
1 波長変換素子
2 太陽電池
4 太陽電池モジュール
10 筐体
11 基板
12 量子ドット
13 入力側量子ドットグループ
14 量子ドット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光エネルギーを電力に変換する太陽電池用の波長変換素子において、
基板と、
供給される太陽光における紫外光に応じて励起子が励起される第1のエネルギー準位を有する複数の量子ドットからなる入力側量子ドットグループと、
上記第1のエネルギー準位との共鳴に応じて上記入力側量子ドットグループを構成する各量子ドットから上記基板を介して励起子が注入される共鳴エネルギー準位を有し、当該共鳴エネルギー準位から放出されたエネルギーに応じて上記紫外光より長波長である、上記太陽電池の吸収帯域の出力光を生成する出力側の量子ドットとを備えること
を特徴とする太陽電池用の波長変換素子。
【請求項2】
上記入力側量子ドットグループを構成する各量子ドットは、波長400nm未満の紫外光に応じて励起子が励起される第1のエネルギー準位を有し、
上記出力側の量子ドットは、波長400nm以上の出力光を生成すること
を特徴とする請求項1記載の太陽電池用の波長変換素子。
【請求項3】
上記入力側量子ドットグループを構成する各量子ドットにより吸収される紫外光は、波長380nm以下であること
を特徴とする請求項1又は2記載の太陽電池用の波長変換素子。
【請求項4】
上記量子ドットの代替として、分子、イオンを上記基板中に分散させてなること
を特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項記載の太陽電池用の波長変換素子。
【請求項5】
上記第1のエネルギー準位との共鳴するエネルギー準位を有する他の量子ドットを介して、上記入力側量子ドットグループを構成する量子ドットから上記出力側の量子ドットへ励起子を伝送すること
を特徴とする請求項1〜4のうち何れか1項記載の太陽電池用の波長変換素子。
【請求項6】
上記入力側量子ドットグループを構成する各量子ドットは、波長400nm以上の光に応じて励起子が励起される第1のエネルギー準位を有し、
上記出力側の量子ドットは、上記入力側量子ドットグループを構成する量子ドットの吸収波長より長波長であり、かつ上記太陽電池の吸収特性が極大となる波長以下の出力光を生成すること
を特徴とする請求項1記載の太陽電池用の波長変換素子。
【請求項7】
上記入力側量子ドットグループを構成する各量子ドットは、上記出力側の量子ドットよりも形成比率が高いこと
を特徴とする請求項1〜6のうち何れか1項記載の太陽電池用の波長変換素子。
【請求項8】
太陽光エネルギーを電力に変換する太陽電池と、
供給される太陽光のうち上記太陽電池の吸収帯域に対応する光をそのまま透過させ、また供給される太陽光における紫外光を上記太陽電池の吸収帯域の出力光に変換する請求項1〜7のうち何れか1項記載の太陽電池用の波長変換素子とを備えること
を特徴とする太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−223309(P2009−223309A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37099(P2009−37099)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究課題「ナノフォトニックデバイスとシステムの開発」中の「ナノフォトニックデバイスの動作検証、ナノフォトニックデバイス製作のための加工法の開発、さらにシステム応用の検討」事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】