説明

太陽電池用バックシート、及び、それを用いた太陽電池モジュール、ならびに、前記太陽電池用バックシートの製造方法、及び、前記太陽電池モジュールの製造方法

【課題】特に、ゴムの積層シートを用いてクッション性を高め、さらにバリア性、太陽電池を構成する封止材との接着性に優れる太陽電池用バックシート、及びそれを用いた太陽電池モジュールを提供することを目的としている。
【解決手段】本実施形態におけるバックシート5は、第1のゴム層7と第2のゴム層8とが積層され、前記第2のゴム層8の前記第1のゴム層7との界面9と反対面が、太陽電池裏面への貼着面8aであり、前記第1のゴム層7がフッ素ゴムで形成され、前記第2のゴム層8がアクリルゴムで形成されることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の裏面保護に使用される太陽電池用バックシートに関する。
【背景技術】
【0002】
光エネルギーを電力に変換する太陽電池には裏面保護用としてバックシートが貼着されている。
従来におけるバックシートは例えば樹脂からなり、複数の樹脂層が接着層を介して積層され、更に、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)からなる封止層との貼着面に接着層が設けられた構成となっている。
【0003】
従来におけるバックシートは上記のように樹脂で構成されたものでありクッション性が低い。このため、太陽電池裏面にバックシートを圧力を加えながら貼着しても、前記バックシートを太陽電池の裏面に均一に圧着することが難しかった。特に太陽電池の裏面に凹凸があると、樹脂からなるバックシートでは、封止材との密着性が悪化し、バリア性及び接着力が低下する可能性があった。
また上記したようにバックシートは接着層を備える。このため従来では接着工程が必要となり低コスト化を効果的に促進することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−352966号公報
【特許文献2】特開2000−183382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献に記載された発明は、いずれも、樹脂からなる太陽電池用バックシートが開示されており、上記した従来の課題を解決するための手段は開示されていない。
【0006】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、ゴムの積層シートを用いてクッション性を高め、さらにバリア性、太陽電池を構成する封止材との接着性に優れる太陽電池用バックシート、及び、それを用いた太陽電池モジュールを提供することを目的としている。
更に接着層を備えることなく、低コスト化を促進できる太陽電池用バックシートの製造方法、及び、太陽電池モジュールの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明における太陽電池用バックシートは、
第1のゴム層と第2のゴム層とが積層され、前記第2のゴム層の前記第1のゴム層との界面と反対面が、太陽電池裏面への貼着面であり、
前記第1のゴム層がフッ素ゴムで形成され、前記第2のゴム層がアクリルゴムで形成されることを特徴とするものである。
【0008】
このように本発明ではゴム層の積層シートによりバックシートを構成することでクッション性に優れたバックシートに出来る。本発明ではバックシートの薄型化においても十分に高いクッション性を付与できる。それに加えて、本発明のバックシートを太陽電池裏面に貼着したときフッ素ゴムからなる第1のゴム層が外層となるため水蒸気バリア性に優れたバックシートに出来る。また本発明では、アクリルゴムからなる第2のゴム層が、主にEVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)フィルムからなる封止層との貼着面を備えており、これにより、バックシートと太陽電池間の接着性を適切に向上させることが可能である。
【0009】
本発明では、前記第1のゴム層と前記第2のゴム層との界面付近では、前記フッ素ゴムと前記アクリルゴムとが混在していることが好ましい。後述する実験によれば、第1のゴム層と第2のゴム層との界面付近に、前記フッ素ゴムと前記アクリルゴムとが混在した状態が見られ、これにより、前記界面での接着力が非常に強くなっており、第1のゴム層と第2のゴム層との間に別に接着層を設けることなく、第1のゴム層と第2のゴム層とを一体化することが出来る。
【0010】
また本発明では、前記第1のゴム層と前記第2のゴム層との間が架橋結合されていることが好ましい。これにより、第1のゴム層と第2のゴム層との界面での接着力を強くでき、第1のゴム層と第2のゴム層との間に別に接着層を設けることなく、第1のゴム層と第2のゴム層とを一体化することが出来る。
【0011】
また本発明では、前記フッ素ゴム及び前記アクリルゴムに対する架橋剤には、同じアミン系架橋剤が用いられることが好ましい。これにより、第1のゴム層と第2のゴム層との界面での接着力を強くでき、また同じ架橋剤を使用できることから生産コストも低減できる。
【0012】
また本発明における太陽電池モジュールは、太陽電池セルと、前記太陽電池セルを封止する封止材と、前記封止材の一方の面に貼着された透光性基板と、前記封止材の他方の面に貼着された上記のいずれかに記載された太陽電池用バックシートとを有し、前記第2のゴム層が前記封止材に貼着され、前記第1のゴム層が外層を構成していることを特徴とするものである。
【0013】
本発明のバックシートを太陽電池の裏面に貼着することで、水蒸気バリア性に優れ、太陽電池モジュールの耐候性、耐久性を効果的に向上させることができる。また、バックシートと太陽電池との接着性を向上させることができる。
【0014】
また本発明における太陽電池用バックシートの製造方法は、フッ素ゴムからなる第1のゴム層と、アクリルゴムからなる第2のゴム層とを積層する工程、及び
加硫して、前記第1のゴム層と前記第2のゴム層とを一体化する工程、
を有することを特徴とするものである。
【0015】
これにより、第1のゴム層と第2のゴム層との界面での接着力を強くでき、第1のゴム層と第2のゴム層との間に別に接着層を設けることなく、第1のゴム層と第2のゴム層とを一体化することが出来る。したがって従来のように接着層を用いた接着工程が必要なく生産コストの低減を図ることが出来る。
【0016】
本発明では、前記フッ素ゴム及び前記アクリルゴムの架橋剤として同じアミン系架橋剤を用いることが好ましい。本発明では、このように同じアミン系架橋剤を用いて、フッ素ゴム及びアクリルゴムの双方を加硫させることが出来る。そして本発明によれば、第1のゴム層と第2のゴム層との界面での接着力を非常に強くでき、また同じ加硫剤を用いることから生産コストの低減を図ることが出来る。
【0017】
また本発明では、未加硫状態のフッ素ゴムからなるシート状の第1のゴム層上に、アクリルゴムを未加硫状態で積層した後、加硫して、前記第1のゴム層と前記第2のゴム層とを一体化することが好ましい。これにより、第1のゴム層と第2のゴム層との界面での接着力を効果的に強くできる。
【0018】
また本発明における太陽電池モジュールの製造方法は、太陽電池セルと、前記太陽電池セルを封止する封止材と、前記封止材の一方の面に貼着された透光性基板と、を有する太陽電池の裏面保護として、上記にて記載された太陽電池用バックシートを、前記封止材の他方の面に貼着することを特徴とするものである。
【0019】
本発明では、バックシートと太陽電池との間に接着層を介在させることなく、アクリルゴムからなる第2のゴム層を太陽電池の封止材に貼着することが可能になり、生産コストの低減を効果的に図ることが出来る。
【0020】
本発明では、未加硫状態のフッ素ゴムからなるシート状の第1のゴム層上に積層された未加硫状態のアクリルゴムを前記封止材の他方の面に当接させた状態で加硫することが好ましい。本発明では、これにより、バックシートと太陽電池との間に接着力をより効果的に向上させることが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のバックシートは、フッ素ゴムとアクリルゴムとの積層シートで構成され、従来に比べて、クッション性が高く、さらにバリア性、及び太陽電池を構成する封止材との接着性に優れる。更に接着層が無くとも前記ゴム層を積層してなるバックシートを製造でき、したがって従来のように接着工程が必要なく、低コスト化を促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1(a)は、本発明における実施の形態の太陽電池モジュールを高さ方向(厚さ)から切断して現れる縦断面図であり、図1(b)は、本発明における実施の形態のバックシートの部分拡大縦断面図、
【図2】図2(a)〜(c)は、本実施形態におけるバックシート及びそれを用いた太陽電池モジュールの製造方法を示す一工程図(各図面は部分縦断面図を示す)、
【図3】積層ゴムシートの実施例におけるSEM写真であり、図3(b)は(a)の一部分を更に拡大した写真、
【図4】実施例における波長分散型X線による元素分析結果、
【図5】実施例のEDSによるイメージマッピング。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1(a)は、本発明における実施の形態の太陽電池モジュールを高さ方向(厚さ)から切断して現れる縦断面図であり、図1(b)は、本発明における実施の形態のバックシートの部分拡大縦断面図である。
【0024】
図1(a)に示すように太陽電池モジュール1は、太陽電池セル2と、太陽電池セル2を封止する封止材3と、封止材3の一方の面3a(表面)に貼着されたガラス基板(透光性基板)4と、封止材3の他方の面3b(裏面)に貼着されたバックシート5とを有して構成される。
【0025】
本実施の形態では、太陽電池セル2及び封止材3を有して構成される部分を太陽電池6と定義し、太陽電池6の裏面保護としてバックシート5が貼着された状態を太陽電池モジュール1と定義する。
【0026】
ガラス基板4の部分はガラス以外であってもよいが透光性であり、光を太陽電池セル2にまで導くことが可能な基板であることが必要である。太陽電池セル2は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する素子である。
【0027】
封止材3は、主に、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)フィルムで構成される。封止材3は、例えば太陽電池セル2の上下にラミネートされた構成である。
【0028】
本実施の形態におけるバックシート5は、第1のゴム層7と第2のゴム層8との積層シートで構成される。バックシート5は、封止材3の裏面3b全体を覆っている。
【0029】
図1(a)に示すように、第2のゴム層8には、第1のゴム層7との界面9と反対面に封止材3との貼着面8aが設けられている。また第2のゴム層8は、太陽電池モジュール1において、裏面側での外層を構成している。
【0030】
本実施形態では、外層を構成する第1のゴム層7が、フッ素ゴムで形成され、封止材3と貼着される第2のゴム層8が、アクリルゴムで形成される。
【0031】
フッ素ゴムとしては特に限定されるものでなく、フッ化ビニリデン−6フッ化プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−6フッ化プロピレン−4フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−4フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等を例示でき、これらのうち(あるいは、例示以外の共重合体も含めて)いずれか1つを単独で、あるいは複数組合わせて用いることも出来る。
【0032】
またフッ素ゴムの架橋剤としても特に限定するものでなく、アミン系架橋剤、過酸化物架橋剤、ポリオール系架橋剤等を用いることが出来るが、後述するようにアミン系架橋剤を用いることが好ましい。
【0033】
また、アクリルゴムとしては特に限定されるものでなく、アクリル酸エステルを主成分とする、例えば、アクリル酸エステル−2クロロエチルビニルエーテル共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体等を例示でき、これらのうち(あるいは、例示以外の共重合体も含めて)いずれか1つを単独で、あるいは複数組合わせて用いることも出来る。
【0034】
またアクリルゴムの架橋剤としても特に限定するものでないが、アクリルゴムポリマー中のカルボキシル基と比較的容易に架橋構造を形成できるアミン系架橋剤を用いることが好ましい。
【0035】
本実施形態では図1(b)に示すように、フッ素ゴムからなる第1のゴム層7と、アクリルゴムからなる第2のゴム層8との界面9には別に接着層を設けることなく、両ゴム層7,8を直接接着することが出来る。
【0036】
例えば、フッ素ゴムとアクリルゴムに対する架橋剤には同じアミン系架橋剤を用いることで、第1のゴム層7と第2のゴム層8との界面9での接着力を非常に強くすることが出来る。また、このように、同じ架橋剤を用いることで、生産コストの低減を図ることも出来る。
【0037】
後述する実験によれば、第1のゴム層7と第2のゴム層8との界面付近では、フッ素ゴムとアクリルゴムとが混在していることが確認されている。そして、第1のゴム層7と第2のゴム層8との間が架橋結合されていると考えられる。これにより、第1のゴム層7と第2のゴム層8との界面9での接着力を非常に強く出来る。したがって本実施形態では、第1のゴム層7と第2のゴム層8との間に別に接着層を設けることなく、第1のゴム層7と第2のゴム層8とを一体化できる。
【0038】
各ゴム層7,8の厚みは限定されるものでないが、数mm程度のシートから数十μm〜数百μm程度の薄いシートにすることも可能である。
【0039】
このように、本実施形態では、第1のゴム層7と第2のゴム層8との積層シートで太陽電池用のバックシート5を構成することで、クッション性に優れたバックシート5に出来る。本実施形態では、バックシート5を薄型化しても従来のようにバックシートを樹脂層で形成していた場合に比べて、十分に高いクッション性を付与することが出来る。このため、図1(a)に示すようにバックシート5側から押圧して太陽電池6の裏面にバックシート5を貼着したときに、バックシート5全体を太陽電池6の裏面に均一に圧着することが出来る。例えば、太陽電池セル2との間の段差等により封止材3の裏面3bに微小な凹凸が形成される場合があっても、バックシート5を封止材3の裏面3bに圧着するときに、凹凸に倣ってバックシート5全体が弾性変形することで、封止材3とバックシート5との間を効果的に密着させることが出来、封止材3とバックシート5間に高い接着力を得ることが出来る。
【0040】
しかも本実施形態でのバックシート5は、太陽電池6の裏面に貼着したときにフッ素ゴムで形成された第1のゴム層7が外側となるため水蒸気バリア性に優れた構成に出来る。したがって本実施形態のバックシート5を貼着した太陽電池モジュール1では、耐候性、耐久性を効果的に向上させることが可能である。
【0041】
また本実施形態におけるバックシート5は、上記したように、第1のゴム層7と第2のゴム層8との界面9での接着力を強くでき、第1のゴム層7と第2のゴム層8との間に別に接着層を設けることなく、第1のゴム層7と第2のゴム層8とを一体化できる。
【0042】
更に本実施形態では、アクリルゴムからなる第2のゴム層8が、主にEVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)フィルムから成る封止材3との貼着面8aを有している。アクリルゴムとEVAとは化学構造が似ているため、加圧・加熱処理により、第2のゴム層8と封止材3との間に別に接着層を設けずとも、第2のゴム層8を封止材3の裏面3bに強い接着力にて貼着することが可能である。
【0043】
図2(a)〜(c)は、本実施形態におけるバックシート及びそれを用いた太陽電池モジュールの製造方法を示す一工程図(各図面は部分縦断面図で示される)である。
【0044】
図2(a)の工程では、フッ素ゴム成分と架橋剤等を含む配合物を用いて、未加硫状態でシート状のフッ素ゴムから成る第1のゴム層7を形成する。このとき架橋剤には、アミン系架橋剤を用いることが好ましい。
【0045】
続いて、アクリルゴム成分と架橋剤等を含む配合物10を、未加硫状態で、第1のゴム層7上の全体に積層し、シート状のアクリルゴムからなる第2のゴム層8を形成する。このとき、配合物10に含まれる架橋剤には、フッ素ゴムと同じアミン系架橋剤を用いることが好ましい。
【0046】
次に図2(b)の工程では、未加硫状態の第1のゴム層7及び第2のゴム層8を所定の加熱温度でプレス加硫して、第1のゴム層7と第2のゴム層8とが一体化した積層シート状のバックシート5を形成する。
【0047】
続いて、図2(c)の工程では、バックシート5側から圧力を加えて、バックシート5を太陽電池の封止材3の裏面3bに貼着する。このとき、アクリルゴムから成る第2のゴム層8を太陽電池の封止材3側に向けて第2のゴム層8と封止材3間を圧着する。
【0048】
本実施形態では、図2(a)(b)に示すようにフッ素ゴムからなる第1のゴム層7とアクリルゴムからなる第2のゴム層8との間に別に接着層を設けることなく第1のゴム層7と第2のゴム層8とを強く接着でき、第1のゴム層7と第2のゴム層8とを一体化出来る。
【0049】
特に本実施形態では、同じアミン系架橋剤を用いて、フッ素ゴムとアクリルゴムの双方を加硫させることができ、第1のゴム層7と第2のゴム層8との界面9での接着力を非常に強くすることが出来る。また同じ架橋剤を用いることができ、生産コストの低減を図ることが出来る。
【0050】
また、図2(a)(b)に示す工程では、同じアミン系架橋剤を用いて、未加硫状態のフッ素ゴムからなる第1のゴム層7上に、アクリルゴムの混合物10を未加硫状態で積層し、シート状のアクリルゴムからなる第2のゴム層8を形成する。その後、前記第1のゴム層7及び第2のゴム層8を加硫して、第1のゴム層7及び第2のゴム層8が一体化した積層シート状のバックシート5を形成することができる。これにより、第1のゴム層7と第2のゴム層8との界面9で架橋結合を促進でき、第1のゴム層7と第2のゴム層8との界面での接着力を非常に強くすることが出来る。
【0051】
更に、アクリルゴムと封止材3を構成するEVAとの化学構造が似ていることから、図2(c)に示す工程のように、バックシート5と太陽電池6との間に別に接着層を設けずとも、アクリルゴムからなる第2のゴム層8を太陽電池6の封止材3に直接、貼着することが可能である。また、本実施形態でのバックシート5は、ゴム層7,8の積層シートにて構成されることからクッション性に優れており、バックシート5全体を均一に太陽電池6の裏面に圧着させることが出来る。
【0052】
また本実施形態では、図2(c)の工程において、アクリルゴムの配合物10を未加硫状態のまま、封止材3の裏面3bに当接させた状態で、所定の加熱温度で、プレス加硫することも可能である。これにより、第1のゴム層7と第2のゴム層8間のみならず、バックシート5と、太陽電池6間の接着力をより効果的に向上させることができる。
【0053】
よって太陽電池6に貼着する前のバックシート5としては、加硫されたフッ素ゴムからなる第1のゴム層7と加硫されたアクリルゴムから成る第2のゴム層8との積層シートの構成以外に、未加硫状態のフッ素ゴムからなる第1のゴム層7上に未加硫状態のアクリルゴムからなる第2のゴム層8が積層された構成のものを製造することが可能である。
【0054】
本実施形態では、上記のようにバックシート5の製造工程、及びバックシート5の太陽電池6への貼着工程において、従来のように接着工程を必要としない。したがって従来に比べて生産コストの低減を図ることが可能である。
【0055】
また、バックシート5の製造方法は、図2(a)(b)以外のものであってもよい。例えば、加硫したフッ素ゴムからなるシート状の第1のゴム層7と、加硫したアクリルゴムから成るシート状の第2のゴム層8とを別々に製造して、第1のゴム層7と第2のゴム層8とを積層する。そして、更にプレス加硫して、第1のゴム層7と第2のゴム層8とを一体化する。これにより、フッ素ゴムとアクリルゴムの各ゴム層7,8から成り界面9での接着力に優れた積層シートのバックシート5を製造することが出来る。
【実施例】
【0056】
(積層ゴムシートの作製)
まず、以下の配合割合による配合物を調製した。
(配合物1)
三元系フッ素ゴム「バイトンB」(デュポンエラストマー(株)) 100重量部
酸化マグネシウム 15重量部
架橋剤 「ダイアーク#1」(昭和電工(株)) 1重量部
【0057】
(配合物2)
アクリルゴム 「ニポールAR71」(日本ゼノン(株)) 100重量部
ステアリン酸 「アデカ脂肪酸SA400」((株)ADEKA) 0.5重量部
酸化亜鉛(二種) 3重量部
架橋剤 「ダイアーク#1」(昭和電工(株)) 1重量部
【0058】
上記の各配合物1,2を夫々、容積60ccのラボプラストミルにて、室温で10分間混練し、シート状に成形した。いずれのシート状のゴム層も未加硫状態である。
【0059】
続いて、フッ素ゴムからなるシート状の第1のゴム層と、アクリルゴムからなるシート状の第2のゴム層とを重ね合わせ、170℃、10分間の条件でプレス加硫することにより、第1のゴム層と第2のゴム層とを一体化した積層ゴムシートを作製した。
【0060】
(SEM及びEDSによる分析)
上記にて得た積層ゴムシートを厚さ方向に切断し、現れた切断面の状態を走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子(株)製、JSM−5600)にて観察した。図3(a)(b)にSEM写真を示す。図3(b)は(a)の一部分を更に拡大したものである。
【0061】
図3(a)(b)に示す上側のゴム層がフッ素ゴムからなる第1のゴム層で、下側のゴム層がアクリルゴムからなる第2のゴム層である。
続いて、電子分散X線分析装置(EDS、日本電子(株)製、JED−2200)にて元素分布を観察した。図4には、波長分散型X線による元素分析結果が示されている。
【0062】
次に、EDSにより切断面におけるC(炭素)、F(フッ素)、Mg(マグネシウム)、及びZn(亜鉛)の各分布について調べた。図5に、EDSによるイメージマッピングを示す。
【0063】
図5に示す測定結果から、界面の図示上側領域に、FやMgが多く、界面の図示下側領域にCがやや多くなっており、界面を介してフッ素ゴムとアクリルゴムとの両ゴム層の存在を確認できた。
【0064】
両ゴム層の界面付近でのイメージマッピングを観察してみると、界面付近でのF(フッ素)の濃度は、中間を示す色で示されており、界面付近でフッ素濃度に勾配があることがわかった。すなわち、界面付近では、フッ素ゴムとアクリルゴムとが混在していることを確認できた。
【0065】
(接着強度試験)
上記にて作製した積層ゴムシートを、幅10mm、厚さ1mm、長さ100mmに加工した。続いて、積層ゴムシートの上面と下面を引っ張り試験機に固定し、速度50mm/分の条件にて上下に引っ張り、破断強度と破断が起こった箇所の観察を行った。
その結果、破断強度が約2kgfであった。また破断箇所は、フッ素ゴムとアクリルゴムとの接着界面でなく、アクリルゴムからなる第2のゴム層内であった。
以上から、フッ素ゴムとアクリルゴムとの界面での接着性は優れていることがわかった。
【0066】
(製法における第1のゴム層(フッ素ゴム)と第2のゴム層(アクリルゴム)との組み合わせ(加硫・未加硫条件))
上記の実験に示すように、フッ素ゴムとアクリルゴムとの双方を未加硫状態で積層し、その後、加硫させることで、フッ素ゴムとアクリルゴムとの界面での接着性を優れたものにできた。
【0067】
フッ素ゴムとアクリルゴムとの双方を未加硫状態で積層し、その後、加硫させる製造方法(実施例1)は、加硫させたフッ素ゴムと、加硫させたアクリルゴムとの双方を積層し、その後、更にプレス加硫させる製造方法(実施例4)に比べて高い接着力を得ることが出来た。また、フッ素ゴムとアクリルゴムの一方を未加硫状態とし、他方を加硫状態として積層し、その後、更にプレス加硫させる製造方法(実施例2,3)においても、実施例4以上の優れた接着力を得ることができる。
【符号の説明】
【0068】
1 太陽電池モジュール
2 太陽電池セル
3 封止材
4 ガラス基板
5 バックシート
6 太陽電池
7 第1のゴム層(フッ素ゴム)
8 第2のゴム層(アクリルゴム)
9 界面
10 配合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のゴム層と第2のゴム層とが積層され、前記第2のゴム層の前記第1のゴム層との界面と反対面が、太陽電池裏面への貼着面であり、
前記第1のゴム層がフッ素ゴムで形成され、前記第2のゴム層がアクリルゴムで形成されることを特徴とする太陽電池用バックシート。
【請求項2】
前記第1のゴム層と前記第2のゴム層との界面付近では、前記フッ素ゴムと前記アクリルゴムとが混在している請求項1記載の太陽電池用バックシート。
【請求項3】
前記第1のゴム層と前記第2のゴム層との間が架橋結合されている請求項1又は2に記載の太陽電池用バックシート。
【請求項4】
前記フッ素ゴム及び前記アクリルゴムに対する架橋剤には、同じアミン系架橋剤が用いられる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の太陽電池用バックシート。
【請求項5】
太陽電池セルと、前記太陽電池セルを封止する封止材と、前記封止材の一方の面に貼着された透光性基板と、前記封止材の他方の面に貼着された請求項1ないし4のいずれか1項に記載された太陽電池用バックシートとを有し、前記第2のゴム層が前記封止材に貼着され、前記第1のゴム層が外層を構成していることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項6】
フッ素ゴムからなる第1のゴム層と、アクリルゴムからなる第2のゴム層とを積層する工程、及び
加硫して、前記第1のゴム層と前記第2のゴム層とを一体化する工程、
を有することを特徴とする太陽電池用バックシートの製造方法。
【請求項7】
前記フッ素ゴム及び前記アクリルゴムの架橋剤として同じアミン系架橋剤を用いる請求項6記載の太陽電池用バックシートの製造方法。
【請求項8】
未加硫状態のフッ素ゴムからなるシート状の第1のゴム層上に、アクリルゴムを未加硫状態で積層した後、加硫して、前記第1のゴム層と前記第2のゴム層とを一体化する請求項6又は7に記載の太陽電池用バックシートの製造方法。
【請求項9】
太陽電池セルと、前記太陽電池セルを封止する封止材と、前記封止材の一方の面に貼着された透光性基板と、を有する太陽電池の裏面保護として、請求項6ないし8のいずれか1項に記載された太陽電池用バックシートを、前記封止材の他方の面に貼着することを特徴とする太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項10】
未加硫状態のフッ素ゴムからなるシート状の第1のゴム層上に積層された未加硫状態のアクリルゴムを前記封止材の他方の面に当接させた状態で加硫する請求項9記載の太陽電池モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−166020(P2011−166020A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29107(P2010−29107)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】