太陽電池裏面シート及びこれを用いた太陽電池モジュール
【課題】光の再利用効率を向上させる。
【解決手段】太陽電池モジュール1は、内部に太陽電池セル3を封止した封止層4の前面側に前面板2を配置し、封止層4の裏面側に裏面シート5を配置する。裏面シート5は透光性絶縁層7と凹凸構造層8と光反射性金属層9と接着層10と耐候層11とを順に積層して構成した。凹凸構造層8の光反射性金属層9側の面に微細な凹部と凸部からなる凹凸構造15を形成し、凹凸構造15の凹凸形状を光反射性金属層9に転写して形成した。凹凸構造15は数ミクロン程度のランダムな長さ(長軸)と幅(短軸)と高低差を有する線状の凸部または凹部が平行に多数配列された構成を有する。光反射性金属層9は、入射光を反射させる際に短軸方向に強く散乱し長軸方向に散乱しないよう制限された一方向性散乱構造を形成する。
【解決手段】太陽電池モジュール1は、内部に太陽電池セル3を封止した封止層4の前面側に前面板2を配置し、封止層4の裏面側に裏面シート5を配置する。裏面シート5は透光性絶縁層7と凹凸構造層8と光反射性金属層9と接着層10と耐候層11とを順に積層して構成した。凹凸構造層8の光反射性金属層9側の面に微細な凹部と凸部からなる凹凸構造15を形成し、凹凸構造15の凹凸形状を光反射性金属層9に転写して形成した。凹凸構造15は数ミクロン程度のランダムな長さ(長軸)と幅(短軸)と高低差を有する線状の凸部または凹部が平行に多数配列された構成を有する。光反射性金属層9は、入射光を反射させる際に短軸方向に強く散乱し長軸方向に散乱しないよう制限された一方向性散乱構造を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールの裏面に配設されて、太陽電池セルに入射せずに裏面シートへ入射する光を有効に再利用することが可能な太陽電池裏面シートと、この太陽電池裏面シートを用いた太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池パネルの普及は大きな広がりを見せ、電卓等の小型電子機器に搭載される比較的小さなものから、家庭用として住宅に取り付けられる太陽電池パネルや大規模な発電施設に用いられる大面積の太陽電池発電システム、さらには人工衛星の電源まで、様々な分野で利用が促進されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
太陽電池は光エネルギーを電気エネルギーに変換するものであり、太陽電池のうち主要なものは使用材料の種類によって結晶シリコン系、アモルファスシリコン系、有機化合物系等に分類される。このうち、現在市場で流通しているものは、ほとんどが結晶系シリコン太陽電池であり、この結晶系シリコン太陽電池はさらに単結晶型及び多結晶型に分類される。
単結晶型シリコンの太陽電池は基板の品質が良いために高効率化が容易であるという長所を有する反面、基板の製造コストが高いという短所を有する。これに対して多結晶型のシリコン太陽電池は基板の品質が劣るために高効率化が難しいという短所はあるものの、低コストで製造できるという長所があり、現在の太陽電池セルの主流となっている。
【0004】
多結晶型シリコンの太陽電池の高効率化に関しては様々な検討が行われている。一例として、太陽電池に用いられるシリコン基板の表面にはテクスチャ構造が形成されており、これによってシリコン基板表面での太陽光の反射を低減させて光電変換効率の向上が図られている。
一方、単結晶型シリコンの太陽電池においては、アルカリ溶液等の異方性エッチングにより微細なピラミッドまたは逆ピラミッドのテクスチャ構造を形成することで太陽光の反射を低減させることが行なわれている。この異方性エッチングでは、単結晶シリコンのエッチング速度が、Si(100)結晶方位面とSi(111)結晶方位面とで異なることを利用している(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
ところが、このような異方性エッチングを多結晶シリコンの太陽電池に適用しようとした場合、アルカリ水溶液によるエッチングが結晶の面方位に依存するため、多結晶シリコンにおけるピラミッド構造を均一に形成できず、シリコン基板全体での反射率の低減を効果的に行なうことができないという問題があった。
【0006】
このような問題を解決するために、多結晶シリコン基板へテクスチャを形成する方法として、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching)法によって多結晶シリコン基板表面に微細な突起を形成する手法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この手法によれば、微細な突起を多結晶シリコンにおける不規則な結晶の面方位に左右されずに均一に形成することにより、特に多結晶シリコンを用いた太陽電池セルにおいても反射率をより効果的に低減することができる。
【0007】
また、表面反射防止膜を組み合わせることにより、さらに変換効率を向上できることが知られている。即ち、結晶シリコンは波長400nm〜1100nm領域で6.00〜3.50の大きな屈折率を持つので、短波長領域で約54%、長波長領域で約34%の反射損失が生じる。この反射損失を減ずるために、屈折率の異なる透明材料で表面反射防止膜を形成し、これにより変換効率を向上させることができる。
さらに、シリコン基板上に形成する電極を微細化することで受光面積を増加させ、太陽光を多く取り込むことによって変換効率を向上させることも検討されている(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
以上のような高効率化技術の進歩により、最近では多結晶シリコン太陽電池においても、研究レベルでは18%程度の変換効率が達成されており、多結晶シリコン太陽電池における変換効率の理論限界(20〜30%)に近づいてきている。
そこで、更に光利用効率を高めるために、太陽電池モジュールの前面から入射した太陽光のうち太陽電池セルに入射せずに裏面シートへ入射する太陽光を再利用する試みが行なわれている。
【0009】
即ち、一般的な結晶シリコン系太陽電池モジュールでは、リーク電流を低減させるために太陽電池モジュール内の複数の太陽電池セル間に隙間が形成されている。そのため、太陽電池セルに入射せずに裏面シートへ入射する一部の太陽光を再利用することが出来れば光利用効率を向上できる。
そこで、太陽電池モジュール内の太陽電池セルの裏面側に反射材を備えた裏面シートを配置し、太陽電池セルの隙間から裏面シートへ入射する太陽光を反射させることにより、太陽電池セルに再入射させることで光利用効率の向上が図られている。反射材として、例えば、白色系顔料を混入した樹脂材料、つや消し表面加工を施した金属材料などの光を散乱反射させる反射材を用いることができる。また、反射材の表面を凹凸構造とすることで、さらに光利用効率を向上させることが可能である(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−295437号公報
【特許文献2】特開昭62−35582号公報
【特許文献3】特公昭60−27195号公報
【特許文献4】特開2000−332279号公報
【特許文献5】特開平10−284747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の太陽電池モジュールでは、上述した手段により光の利用効率を上げることで変換効率を向上させようとしているが、損失となってしまう光もあるため、十分に変換効率を向上させることができているとは言えない。
例えば、隣り合う太陽電池セルの間の領域に入射した光を裏面材で反射させて再利用する従来の手法では、図14に示す太陽電池モジュール50において、太陽電池セル51の裏面側に裏面シート52が設けられ、この裏面シート52には透光性絶縁層の裏面側に例えば高さ5mm程度のプリズムが平行に配列されてなる反射部材53が設けられている。
そして、太陽電池モジュール50の前面板から入射する入射光のうち、太陽電池セル51を透過したり太陽電池セル51の間隙を透過したりする入射光は反射部材53で反射させられるが、この反射光の多くは太陽電池セル51の裏面や側面で反射することになり、前面板で再反射して太陽電池セル5へ再入射する光は少ない。そのため、十分に損失光を再利用するに至っているとは言えず、損失光をより確実に再利用してさらなる発電効率の向上を図ることが強く望まれている。
【0012】
本発明は、このような実情に鑑みて、本来損失となってしまう光をより確実に再利用できるようにした太陽電池裏面シート及びこれを備えた太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る太陽電池裏面シートは、内部に太陽電池セルを封止した封止層の前面側に透光性前面板が積層されてなる太陽電池モジュールの裏面側に配置される太陽電池裏面シートであって、前面側から順に少なくとも透光性絶縁層と、該透光性絶縁層と反対側の面に凹凸構造を形成した凹凸構造層と、凹凸構造に倣った微細な凹凸形状を有する光反射性金属層と、接着層と、耐候層とが積層されてなり、光反射性金属層は微細な凹凸形状によって入射光を反射させて一方向に光を散乱させる一方向性散乱構造を有することを特徴とする。
本発明による太陽電池裏面シートは、例えば太陽電池セルを透過した光や太陽電池セルを外れた光が入射すると、透光性絶縁層を透過して凹凸構造層に進入し、凹凸構造に倣った微細な凹凸形状を有する光反射性金属層によって入射光が反射させられ、しかも光反射性金属層は一方向性散乱構造によって一方向に光を散乱させて反射させるために、これら反射光が裏面シートの透光性絶縁層から出射して一方向に散乱することで、入射光に近い角度で反射する反射光が多くなり、これらの光が透光性前面板で反射等して太陽電池モジュールの太陽電池セルに再入射するため反射光を再利用できる割合が増大する。
【0014】
また、一方向性散乱構造は、長軸と短軸と高低差がそれぞれ数ミクロン程度である線状の凹凸部がランダムに長軸方向に平行に複数配列されていて、反射光を短軸方向に散乱させるようにしたことを特徴とする。
線状の凹凸部がランダムに形成されていて長軸方向に平行に配列されていることで、反射光を散乱光として短軸方向の一方向に規制してより確実に再利用できる。
【0015】
また、凹凸部の長軸方向は、太陽電池セルの端辺に対して35°〜55°の範囲の角度で配列されていてもよい。
このような特徴の太陽電池裏面シートによれば、凹凸部の短軸方向である長軸方向に略直交する両方向に散乱光が射出し、再利用に寄与する反射光が増えてより確実に光を再利用することが可能となる。
【0016】
また、凹凸部の長軸方向は、太陽電池セルの端辺に略平行に配列されていてもよい。
このような特徴の太陽電池裏面シートによれば、凹凸部の短軸方向である長軸方向に略直交する両方向に散乱光が射出し、再利用に寄与する反射光が増えてより確実に光を再利用することが可能となる。
【0017】
また、光反射性金属層に対して凹凸構造層側または/及び接着層側に、光反射性金属層の腐食を防ぐためのバリア層が設けられていてもよい。
このような太陽電池裏面シートによれば、高温高湿環境下であっても、バリア層が光反射性金属層の腐食を防ぐため、光反射性金属層によって前面側から入射する光を特定方向へ乱反射させ、太陽電池セルへ再入射させることにより光の利用効率が向上する効果を長期にわたって持続させることができる。
【0018】
また、バリア層は、光反射性金属層に密接して配設されていてもよい。
これにより、バリア層が光反射性金属層の劣化を防ぐ効果を高めることができる。
【0019】
また、バリア層は、バルブ金属もしくはバルブ金属を含む合金からなっていてもよい。
バルブ金属とは、表面に酸化被膜を生じ不動態となる金属を指すものであり、このようなバルブ金属もしくはバルブ金属を含む合金は優れた耐食作用を持つため、バリア層として採用することで、光反射性金属層の腐食を長期に渡って防ぐことができる。
また、バリア層は、無機酸化物からなるものでもよい。
無機酸化物は、優れた水蒸気バリア性、ガスバリア性を示すことで知られており、このような無機酸化物をバリア層として採用することで、光反射性金属層の劣化を長期に渡って防ぐことができる。
【0020】
本発明による太陽電池モジュールは、上述したいずれかの太陽電池裏面シートを、その裏面側に配設したことを特徴とする。
このような太陽電池モジュールによれば、光反射性金属層に形成された凹凸構造が散乱方向に制限を設けた一方向性散乱構造であることによって、より確実に光を再利用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る太陽電池裏面シート及び太陽電池モジュールによれば、凹凸構造層の凹凸構造に倣った微細な凹凸形状を有する光反射性金属層によって、裏面シートへの入射光が反射させられ、しかも光反射性金属層は一方向性散乱構造によって一方向に光を散乱させて反射させるために、これら反射光が裏面シートの透光性絶縁層から出射して一方向に散乱することで、入射光に近い角度で反射する反射光が多くなり、これらの光が透光性前面板で反射する等して太陽電池モジュールの太陽電池セルに再入射するため、反射光を再利用できる割合が増大する。
特に、光反射性金属層は一方向性散乱構造によって一方向に光を散乱させるよう規制することができるから、光をより確実に再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一実施形態による太陽電池モジュールの概略構成を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す太陽電池モジュールの裏面シートの概略構成を示す拡大縦断面図である。
【図3】(a)、(b)、(c)は電極を含む太陽電池モジュールの概略構成を説明する縦断面図である。
【図4】本実施形態における裏面シートの凹凸構造層の凹凸構造を示す要部平面図である。
【図5】凹凸構造層の凹凸構造を示す断面図である。
【図6】図4、図5に示す凹凸構造を形成した光反射性金属層と反射光との関係を示す図である。
【図7】(a)は光反射性金属層の凹凸部が太陽電池セルの端辺に対して45°の角度で配列された構成を示す要部説明図、(b)は光反射性金属層の凹凸部が太陽電池セルの一の端辺に平行に配列された構成を示す要部説明図である。
【図8】第一実施形態における裏面シートの第一変形例による概略構成を示す縦断面図である。
【図9】第一実施形態における裏面シートの第二変形例による概略構成を示す縦断面図である。
【図10】本発明の第二実施形態による裏面シートの概略構成を示す縦断面図である。
【図11】第二実施形態による裏面シートの第一変形例による裏面シートの概略構成を示す縦断面図である。
【図12】第二実施形態による裏面シートの第二変形例による裏面シートの概略構成を示す縦断面図である。
【図13】第二実施形態による裏面シートの第三変形例による裏面シートの概略構成を示す縦断面図である。
【図14】従来の裏面材としてプリズムを用いた場合の図6と同様な図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態による太陽電池モジュールについて添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の第一実施形態による太陽電池モジュールの概略構成を示す縦断面図である。図1に示す太陽電池モジュール1は、太陽光等、光源Lからの光が入射する前面板2と、太陽電池セル3を封止する封止層4と、裏面シート5とが概略で積層されて構成されている。なお、光源Lとしては、通常、太陽以外に室内灯等の人工照明等が採用される。
また、太陽電池モジュール1は、前面板2、封止層4、太陽電池セル3及び裏面シート5が積層状態で真空ラミネータによって熱ラミネートされることで一体成形されている。
【0024】
前面板2は太陽電池モジュール1の最前面に配置されており、太陽電池セル3を衝撃、汚れ、水分の浸入等から保護するもので、透過率が高い透明な材料から形成された板状をなしている。
図1に示すように、光源Lから射出される光のうち、前面板2の入射面2aに垂直に入射する光H0は、前面板2内に入射して透過し封止層4に入射される。なお、入射面2aの法線NGは、例えば水平面に平行な平面P上に前面板2を載置した状態における平面Pの法線Nと平行な方向とする。入射面2aに垂直に入射する光H0とは、法線NGに平行に前面板2に入射する光のことを示している。
【0025】
前面板2は、強化ガラス、サファイアガラス等のガラス、あるいはPC(ポリカーボネート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等の樹脂シートから構成されている。また、前面板2の厚さは強化ガラスであれば約3〜5mm程度、樹脂シートであれば約5mm程度のものが用いられる。
【0026】
封止層4は、例えば厚み0.4〜1mm程度のシート状の封止材からなり、その内部に複数の太陽電池セル3を分散して固定している。前面板2に入射した光H0は封止層4を透過して太陽電池セル3へ入射する光H1となり、光H1の一部は太陽電池セル3間で封止層4を通過して裏面シート5に入射する光となる。
封止層4は光H1を透過させるため光線透過率が高い材料が用いられ、さらに耐候性、耐高温、耐高湿、耐候性等の耐久性、電気絶縁性を有する素材が好適である。この条件を満たす封止材として、例えば、酢酸ビニルの含有量が20〜30%であるEVA(エチレンビニルアセテート共重合体)やPVB(ポリビニルブチラール)等を主成分とする熱可塑性の合成樹脂材が使用される。
【0027】
太陽電池セル3は、光電効果により受光面3aに入射した光を電気へ変換する機能を持ち、単結晶シリコン型、多結晶シリコン型、アモルファスシリコン型、CIGS(Cu・In・Ga・Seの化合物)系薄膜型等多くの種類が存在するが、ここでは単結晶もしくは多結晶シリコン型の太陽電池セルを用いることとする。
この太陽電池セル3は、複数個が電極(図示省略)によって接続されてモジュールを形成している。
【0028】
本実施形態においては、封止層4から太陽電池セル3に入射した光H1が、太陽電池セル3で電気へ変換される。なお、前面板2の入射面2aに対して斜めに入射した光は、垂直入射の光H0と比較して、入射面2aで反射される割合が多く、太陽電池セル3に入射する光が少ない。即ち、発電に利用できる光が少ない。そのため、入射光H0が入射面2aに垂直に入射する場合が、最も効率良く発電を行なうことができる。
【0029】
次に、本実施形態における裏面シート5について図2により説明する。この裏面シート5は、太陽電池セル3自体を透過した光や太陽電池セル3に入射せずに封止層4を透過した光H1を反射する機能を有し、前面側から順に少なくとも透光性絶縁層7と、凹凸構造層8と、光反射性金属層9と、接着層10と、耐候層11とが順に積層されて構成されている。
【0030】
透光性絶縁層7は裏面シート5の前面側に配されており、電気絶縁性を有する材料から構成されている。
ここで、裏面シート5に要求される重要な性能の一つとして、電気絶縁性がある。この電気絶縁性は、太陽電池モジュール1が内部に電極を含むことから、長期使用での短絡や漏電等を防ぐための必須の性能である。また、太陽電池モジュール1においては、特に太陽電池セル3側の表面が電気絶縁性であることが求められている。
【0031】
透光性絶縁層7の必要性について、図3に示す太陽電池モジュール1Aの構成により説明する。図3に示す太陽電池モジュール1Aは例えば前面板2と封止層4と光反射性金属層9とが積層して構成されているものとする。そして、封止層4内には、複数の太陽電池セル3が電極13を挟んで配列されており、電極13によって太陽電池セル3が接続されて、発電された電力を取り出すことができる。
図3(a)に示す上述の概略構成を備えた太陽電池モジュール1Aにおいて、通常、太陽電池セル3は封止層4の厚み方向中央付近にあり、光反射性金属層9から離れているため、電極13がショートすることによる電流のリークは起こらない。
【0032】
しかし、太陽電池セル3を封止する封止層4は軟化した封止材からなるため、図3(b)に示すように光反射性金属層9が仮に前面板2側に比較的近い位置に配置されているとすると、太陽電池セル3と光反射性金属層9が接触してしまうことがある。このとき光反射性金属層9を通じて電極13がショートし、電流がリークする不具合が発生する。
これに対し、図3(c)に示すように太陽電池モジュール1Aにおいて、透光性絶縁層7を光反射性金属層9と封止層4との間に配設することにより、上述したショートを防止することができる。
なお、透光性絶縁層7の厚みが不十分な場合、図3(c)に示すように、透光性絶縁層7が絶縁破壊して電極13と光反射性金属層9との間で放電dが生じて電流のリークが起こることがある。
【0033】
ここで、電気絶縁性を示す数値基準の一つとして絶縁破壊電圧がある。この絶縁破壊電圧は、絶縁破壊電圧以上の電圧が加わると絶縁状態が破壊されるという指標であり、絶縁破壊電圧が高い方が電気的に安定であると言える。
例えば、参考文献1(「太陽光発電システム構成材料」(工業調査会))によると、各種電気絶縁用プラスチックフィルム(25μm)の絶縁破壊電圧(kV)のおおよその数値は、PET(ポリエチレンテレフタレート)6.5、PEN(ポリエチレンナフタレート)7.5、PVC(延伸硬質塩ビ)4.0、PC(ポリカーボネート)5.0、OPP(延伸ポリプロピレン)6.0、PE(ポリエチレン)4.0、TAC(トリアセテート) 3.0、PI(ポリイミド)7.0である。これらはいずれも絶縁材料としての絶縁破壊電圧を満たしている(参考 JISC2318/電気用二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム)。
また、PVF(ポリ・フッ化・ビニル)の代表的な製品であるデュポン社のテドラー(登録商標)の絶縁破壊電圧は、約3.0kVである。
【0034】
太陽電池モジュール1の絶縁性能の一つとして、最大システム電圧の2倍+1000Vの直流電圧を1分間印加しても絶縁破壊などの異常がないこと、と定められている(参考 JISC8918/結晶系太陽電池モジュール)。最大システム電圧は、通常600〜1000Vである。
以上の理由により、絶縁破壊電圧の平均値は3kV以上であるのが望ましく、上述の各種材料はこの基準を満たしている(参考 JISC2151/電気用プラスチックフィルム試験方法の17.2.2平板電極法)。絶縁破壊電圧が3kVより小さい場合、長期使用による短絡や漏電の可能性が高くなる。
【0035】
そのため、本実施形態における透光性絶縁層7は、上述した各種絶縁材料のいずれかからなる樹脂フィルムによって構成されている。この透光性絶縁層7に使用する材料としては、透明あるいは半透明の材料であることが望ましく、光の散乱を生じる要素が少ない方が好ましい。
裏面シート5に入射した光は、透光性絶縁層7を透過した後に光反射性金属層9で反射され、再度透光性絶縁層7を透過して裏面シート5からの反射光となる。したがって、透光性絶縁層7の透明性が高くて散乱要素が少なければ、裏面シート5へ入射した光が反射光となる効率が高くなる。
【0036】
また、透光性絶縁層7に用いる材料は上述したものに限ったものではなく、絶縁破壊電圧の基準値を満たす材料であれば、適宜採用することが可能である。例えば、EVAやPVB等を主成分とする合成樹脂フィルムを採用することも可能である。これらの樹脂を採用した場合には、封止層4との密着性が向上するため好ましい。
【0037】
また、透光性絶縁層7は単層であっても多層であってもよい。単層の場合には、上述の材料のいずれかを要求特性に合わせて選択することができる。
透光性絶縁層7が多層である場合の構成方法として、例えばPETフィルムにPVF等のフッ素樹脂フィルムを貼り合わせる方法、PETフィルムにPVF等のフッ素樹脂塗膜を形成する方法、PETフィルムにEVAやPVB等を主成分とする合成樹脂フィルムを貼り合わせる方法等が挙げられる。
PVF等のフッ素樹脂、EVAやPVB等を主成分とする合成樹脂は、電気絶縁性の基準を満たすとともに、封止層4との密着性が向上するため好ましい。しかし、単層で十分な強度を得ようとすると厚みを厚くする必要がありコスト高の要因となってしまう。したがって、透光性絶縁層7は強度を確保する基材との組合せによる多層構造とすることが好ましい。特に、フッ素樹脂に関しては、塗膜を形成する方法を採用することも出来、この構成を用いるとフッ素樹脂フィルムを貼り合わせる方法よりも工程を簡略化でできるため、好ましい。
【0038】
また、透光性絶縁層7は、上述の材料のいずれか、例えばPETフィルムを2層貼り合わせた多層構造としてもよい。絶縁性を高めるためには、1枚構成よりも多層構成の方が絶縁欠陥をカバーし、信頼性が高くなることが知られている。そのため、PETフィルム単層よりも、2層貼り合わせた多層構造の方が透光性絶縁層7の絶縁性をより向上させることができる。
なお、透光性絶縁層7の層構成は上述したものに限ったものではなく、要求特性に応じて適宜変更可能である。
【0039】
次に、凹凸構造層8について説明する。
凹凸構造層8は紫外線硬化樹脂もしくは熱硬化性樹脂から形成されている。
凹凸構造層8として使用する樹脂は、紫外線硬化樹脂もしくは熱硬化性樹脂であれば、種類は特に限定されるものではなく、例えばポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリル―(ポリ)スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル―ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)等のポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、リエチレンナフタレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を1種又は2種以上混合して使用することができる。
また、凹凸構造層8として、上述の樹脂の他に例えば散乱反射体、硬化剤、可塑剤、分散剤、各種レベリング剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、粘性改質剤、潤滑剤、光安定化剤等の各種添加剤が適宜配合されてもよい。
また、凹凸構造層8は、上述した材料のいずれかによって単層で構成されてもよく、多層で構成されてもよい。
【0040】
凹凸構造層8は、光反射性金属層9に密接する面に微細な凹凸形状からなる凹凸構造15が形成されている。そして、光反射性金属層9は凹凸構造15の凹凸形状に倣った凹凸形状を転写している。
凹凸構造15は、光H1が光反射性金属層9で反射する際に反射光の散乱方向に制限を設けた一方向性散乱構造を形成している。一方向性散乱とは、通常の等方散乱とは異なり、散乱方向に制限が設けられ、ある特定の方向に散乱することを意味する。
凹凸構造15は、図4に示すように、それぞれ数ミクロン程度の長さ(長軸)と幅(短軸)と高低差を有する線状または棒状の凸部及び/または凹部が多数配列された構成であり、その長さと幅、そして高さまたは深さ(高低差)等がランダムに設定された細長い微細凹凸構造で構成されている。しかも、凹凸構造15は微細な凹部と凸部が長軸方向に略平行にランダムに配列された構成を有している。このような凹凸構造15では、照射される光H1が微細で細長い凹部または凸部の短軸方向に散乱し且つ長軸方向には散乱しないため、散乱方向を制御することができる。
【0041】
また、図5(a)〜(c)に示すように、凹凸構造層8の凹凸構造15で形成される凹部と凸部は、例えば高低差h=1〜3μm程度であり、その長軸方向に直交する断面形状は面取りされた四角形や三角形等の略多角形、半円形、半楕円形等適宜の形状を採用できる。或いは図5(a)〜(c)に示す短軸方向の断面形状は、四角形と楕円形状や半円形状、凸円弧状形状などが混在する形状でも良い、一方、図4及び図5を参照して、長軸方向の断面形状は主に面取りされた四角形形状とされている。
なお、図5に示す凹凸構造15を有する凹凸構造層8は他の図に対して上下反転して示されている。
このような凹凸構造15が転写された光反射性金属層9では、図6に示すように、入射する光が細長い微細な凹部及び凸部の短軸方向に散乱するため、その断面形状によって散乱方向を制御することができる。
これは、短軸方向の断面形状は、高さ方向、幅方向の差が小さいため光が散乱しやすく、長軸方向の断面形状は、高さ方向に比べて幅方向が長いため幅方向への光の散乱が起こりにくいためである。
【0042】
また、凹凸構造15が転写された面形状を有する光反射性金属層9は、太陽電池セル3を例えば四角形として、その長軸方向がそのいずれかの端辺に対して45°±10°の範囲、即ち35°〜55°の範囲、好ましくは45°の傾斜角になるように配列されていることが好ましい(図7(a)参照)。
このように配列することで、前面板2に略直角に入射する入射光H0は、図6に示すように、裏面シート5に入射して凹凸構造15に倣う形状の光反射性金属層9で反射して太陽電池セル3に向けて反射する際、線状または棒状の凹部または凸部の短軸方向に散乱し、長軸方向にはあまり散乱しない。
【0043】
そのため、多くの反射光H2は入射光H1に近い反射角で反射するよう反射方向が規制され、太陽電池セル3に衝突せずに前面板2で全反射して、太陽電池セル3の受光面3aに再入射する。そして、裏面シート5内における入射光H1と太陽電池セル5との距離が領域X内にあるとして、図14に示すプリズムを反射部材53とした裏面シート52と比較して、反射光H2の光反射性金属層9に対する角度が垂直に近くなる。
そのため、図6に示すように、これら裏面シート5に入射する入射光H1は凹凸構造15の凹凸形状に倣う光反射性金属層9で反射させられることで再利用に寄与する面積が増え、発電効率を高めることができる。
【0044】
また、凹凸構造15の凹凸形状を有する光反射性金属層9は、凹部及び凸部の長軸方向が太陽電池セル3のそれぞれの端辺に対して略平行になるように配置することも好ましい(図7(b)参照)。このように配置することで、再利用に寄与する面積をさらに増やすことができ、発電効率をさらに高めることが可能である。
【0045】
なお、光反射性金属層9における凹凸構造15の長軸方向が太陽電池セル3のそれぞれの端辺に対して略平行になるように配置する構成(図7(b)参照)の方が、凹凸構造15の長軸方向が太陽電池セル3の端辺に対して35°〜55°の範囲に配置する構成(図7(a)参照)と比べてより発電効率を高めることができて好適である。
しかしながら、光反射性金属層9は、凹凸構造15の長軸方向が太陽電池セル3の端辺に対して35°〜55°の範囲に設定した配置の方が、太陽電池セル3の端辺に対して略平行になるような配置に比べて太陽電池セル3に対しての位置合わせが容易であり、作業性を重視する場合には好適である。
【0046】
樹脂材料からなる凹凸構造層8を形成する方法として、単層の場合には金型を用いたプレス法・キャスティング法・押し出し成形法・射出成形法などが挙げられる。これらの方法では、シート形成と同時に一方の面に凹凸構造15を形成することが可能である。
また、樹脂材料からなる凹凸構造層8(凹凸構造15)を形成する別の方法として、多層の場合には平面スタンパやロールスタンパの凹凸形成面に熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂や電子線硬化型樹脂等を塗布または注入して凹凸構造15を形成すると共に、対向する他方の面に基材を配置して硬化させ、硬化処理後にスタンパから離型するといった方法が挙げられる。これらの方法では、使用する樹脂の粘度を低くすることができるため成形性がよいという利点がある。
また、凹凸構造層8を多層とする場合、透光性絶縁層7を、凹凸構造15を一方の面に形成した凹凸構造層8の他方の面を支持する基材として採用することも可能である(図10,図11参照)。
【0047】
凹凸構造層8の凹凸構造15を加工するために使用する金型は、バイトによる金属板の切削加工や、バイト切削及び電子ビームによる描画やエッチングによって得られた母型の電鋳加工等により得ることができる。このような加工により成形された金型は、表面に凹凸構造15の逆型構造が形成されている。
例えば、所望の形状をもつバイトで金属板を切削することで、所望の凹凸構造15の逆型構造が形成された金型が得られる。金型は板状でもよく、ロール状でもよいが、ロール状の金型とする方が望ましい。ロール状の金型であれば、連続エンボス加工が可能であり、大きな面積を必要とする裏面シートの作製方法として好適である。
【0048】
上述の製造方法で使用する金型の基材は、特に限定されるものではなく、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PVC(延伸硬質塩ビ)、PC(ポリカーボネート)、OPP(延伸ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、TAC(トリアセテート)、PI(ポリイミド)等の樹脂材料からなるフィルムを使用することができる。
【0049】
次に、光反射性金属層9について説明する。
光反射性金属層9は、例えばアルミニウムや銀などの金属からなり、凹凸構造層8の凹凸構造15の凹凸形状に追従した形状を有する層状に形成する。光反射性金属層9の形成手段としては、均一厚みに金属層が形成できれば特に限定されるものではなく、例えば(a)真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法;PVD法)、(b)プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法;CVD法)等が採用される。
これらの方法の中でも、生産性が高く良質な金属層を形成できる真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法による真空蒸着装置の加熱手段としては電子線加熱方式、抵抗加熱方式、誘導加熱方式のいずれかを適宜用いればよい。
【0050】
光反射性金属層9に用いられる金属として、金属光沢を有しかつ上記のいずれかの形成方法が可能であれば特に限定されるものではない。光反射性金属層9として、例えば、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)等の単体金属もしくは合金が挙げられ、単層で形成してもよく、或いは複数の金属を積層して形成してもよい。中でも、反射性が高く、緻密な金属層が比較的容易に形成できて安価なアルミニウムが好適である。
【0051】
光反射性金属層9の厚さの下限としては10nmが好ましく、20nmが特に好ましい。一方、光反射性金属層9の厚さの上限としては200nmが好ましく、100nmが特に好ましい。光反射性金属層9の厚さが10nmの下限より小さいと、光反射性金属層9に入射する光を十分に反射することができない。20nm以上の厚さがあれば、より確実に光反射性金属層9に入射する光を反射することができる。一方、光反射性金属層9の厚さが200nmの上限を超えると、光反射性金属層9に目視でも確認できるクラックが発生し易くなり、100nm以下であれば目視で確認できないようなクラックも発生しにくい。
【0052】
光反射性金属層9は、凹凸構造層8の凹凸構造15を転写した形状に形成されており、光反射性金属層9は凹凸構造を有している。光反射性金属層9に形成された凹凸構造の微細な凹部と凸部の寸法と形状や配列を規則正しくした場合、反射光は回折光となり分光される欠点が生じる。そのため、線状の凹部や凸部の長さ、幅、深さまたは高さ、そしてその配列をそれぞれランダムに設定することで反射光が回折光となることを防止できる。
そして、この光反射性金属層9は、光反射性金属層9に入射した光を所定の方向、即ち凹凸構造15の短軸方向に散乱させて反射させる機能を有する。
なお、光反射性金属層9のような凹凸構造を有する金属層を形成するさらに別の方法として、例えば凹凸構造15を金属箔に直接形成する等の方法も挙げられるが、この方法では、光反射性金属層9の厚みが厚くなるために抵抗が低く、モジュールを固定するアルミフレームや端子BOXとつながる配線などとの通電が起こりやすくなるため、好ましくない。
【0053】
次に、光反射性金属層9と接着層10を介して接続される耐候層11には、耐高温、耐高湿、耐加水分解、難燃性等の長期耐候性が要求される。これらの要求を満たすものとして、一般的に、PVF(ポリフッ化ビニル)等のフッ素樹脂フィルムやフッ素樹脂塗膜、もしくは低オリゴマーPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等の耐加水分解性を高めたタイプのPETフィルム等が使用される。この他、耐候性に優れるPENフィルム等を使用してもよい。なお、耐候層11の材料としては上記に限ったものではなく、長期耐候性の基準値を満たす材料であれば適宜採用することができる。
【0054】
耐候層11は単層であっても多層であってもよい。単層の場合には、上述の材料のいずれかを要求特性に合わせて選択することができる。PVFは、長期耐候性に特に優れているため好適である。また、低オリゴマーPETフィルム等の耐加水分解性のPETフィルムは、安価でありながら長期耐候性にも優れているため、好適である。
【0055】
この耐候層11が多層構造の場合の例としては、PETフィルムにPVF(ポリ・フッ化・ビニル)等のフッ素樹脂フィルムを接着剤層を介して貼り合わせたものや、PETフィルムにPVF等のフッ素樹脂塗膜を形成したもの等が挙げられる。
PVF等のフッ素樹脂は長期耐候性に非常に優れており、単層でも十分な性能を発揮するものの、単層で十分な強度を得ようとすると厚みを厚くする必要がありコスト高の要因となる。よって、強度を確保する基材との組合せによる多層構造とすることが好ましい。
なお、耐候層11の層構成は上記に限ったものではなく、要求特性に応じて適宜変更可能である。
【0056】
接着層10は、接着強度として、長期間の屋外使用で劣化してデラミネーションなどを生じないこと、黄変の程度が小さいことなどが要求される。これらの要求を満たすものとして、ポリウレタン系、ポリアクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリ酢酸ビニル系、セルロース系の樹脂を1種又は2種以上混合したラミネート用接着剤を使用することができる。
また、長期間の屋外暴露による接着剤の劣化を防止するために、接着層10に劣化防止剤を添加しても良い。劣化防止剤としては、例えばカルボジイミン、エポキシなどの添加剤が挙げられる。
更に、接着層10には、例えば硬化剤、可塑剤、分散剤、各種レベリング剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、粘性改質剤、潤滑剤、光安定化剤等の各種添加剤が適宜配合されてもよい。
【0057】
また、耐候層11を接着層10によって光反射性金属層9と貼り合わせる方法は、例えば、ドライラミネーション方法、ノンソルベントドライラミネーション方法、ホットメルトラミネーション方法、エクストルージョンラミネーション方法を利用したサンドイッチ・エクストルージョンラミネーション方法などの公知の方法を適宜使用することができる。
【0058】
本実施形態による太陽電池モジュール1とその裏面シート5は、上述の構成を備えているから、凹凸構造層8の凹凸構造15及びこの形状に倣う光反射性金属層9は、線状で微細な凹部及び凸部の短軸方向に光を散乱させる一方向性散乱構造を備えており、光反射性金属層9において高低差1〜3μm程度で長さ数ミクロン程度でランダムの長さの線状の凹部及び凸部が平行に且つランダムに配列されているため、細長い微細な凹部及び凸部の短軸方向に強く散乱することになり、その断面形状によって散乱方向を制御することができる。
そのため、光反射性金属層9に対する反射光H2の反射角が直角に近い大きな角度のものが増大するため、太陽電池セル3の裏面や側面に衝突しないで前面板2で再反射し、太陽電池セル3の受光面3aにより多く入射できるため、従来のプリズムによる反射部材と比較して、より多くの反射光H2を再利用することができる。
【0059】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない限り適宜の変更等が可能である。以下、図面に基づいて本発明の変形例や他の実施形態について説明する。
図8は、上述した第一実施形態による裏面シート5の第一変形例による裏面シート18の概略構成を示す縦断面図である。
この裏面シート18は、太陽電池セル3自体を透過した光や太陽電池セル3に入射せずに封止層4を透過した光H1を反射する機能を有し、前面側から順に少なくとも透光性絶縁層7と、凹凸構造層8と、光反射性金属層9と、バリア層19と、接着層10と、耐候層11とが順に積層されて構成されており、バリア層19が設けられている以外は、裏面シート5と同様の構成となっている。使用する材料、作製方法に関しても、バリア層19を形成すること以外は、同様の材料の使用が可能であり、同様の作製方法を採用することが可能である。
【0060】
バリア層19は、バルブ金属もしくはバルブ金属を含む合金を、光反射性金属層9の凹凸構造に追従した層状になるように形成する。バルブ金属もしくはバルブ金属を含む合金を採用したバリア層19の形成手段としては、光反射性金属層9及び凹凸構造層8に収縮、黄変等の劣化を招来することなく均一に金属層が形成できれば特に限定されるものではなく、各種手段が可能であるが、(a)真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法;PVD法)、(b)プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法;CVD法)が採用される。これらの中でも、生産性が高く良質な金属層が形成できる真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法による真空蒸着装置の加熱手段としては電子線加熱方式、抵抗加熱方式、誘導加熱方式のいずれかを適宜用いればよい。
【0061】
バリア層19に用いられるバルブ金属とは、表面に酸化被膜を生じ不動態となる金属を指し、例えばアルミニウム(Al)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、亜鉛(Zn)、タングステン(W)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)等が挙げられ、これら金属の単体もしくは合金を用いることが可能である。また、単層で形成してもよく複数の金属を積層して用いてもよい。中でも、優れた耐食性を示し、緻密な金属層が比較的容易に形成できるクロムが好適である。
【0062】
バリア層19は、酸化珪素、酸化アルミニウムなどの無機酸化物を、光反射性金属層9の凹凸構造に追従した層状になるように形成してもよい。無機酸化物を採用したバリア層19の形成手段としては、光反射性金属層9及び凹凸構造層8に収縮、黄変等の劣化を招来することなく無機酸化物層が形成できれば特に限定されるものではなく、各種手段が可能であるが、真空蒸着法により形成することが一般的である。この真空蒸着法以外の手段としてスパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)などを用いることもできる。但し生産性を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も優れている。この真空蒸着法による真空蒸着装置の加熱手段としては電子線加熱方式、抵抗加熱方式、誘導加熱方式のいずれかを適宜用いればよい。
またバリア層19と光反射性金属層9との密着性及びバリア層19の緻密性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を用いることも可能である。また、バリア層19の透明性を上げるために蒸着の際、酸素ガスなど吹き込んだりする反応蒸着を行ってもよい。
【0063】
バリア層19に用いられる無機酸化物としては、透明性を有し、かつ酸素、水蒸気のガスバリア性を有し、かつ上記のいずれかの形成方法が可能であれば特に限定されるものではなく、例えば酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化錫、酸化マグネシウム、あるいはそれらの混合物などの無機酸化物が挙げられる。中でも、緻密な無機酸化物層が比較的容易に形成でき、長期安定性に優れる酸化珪素が好適である。
【0064】
バリア層19の厚さは、用いられる無機化合物の種類や構成により最適条件が異なるが、一般的には5〜300nmの範囲内が望ましく、その値は必要とされるバリア性の程度によって適宜選択される。ただし膜厚が5nm未満であると均一な膜が得られないことや膜厚が十分ではないことがあり、ガスバリア材としての機能を十分に果たすことができない場合がある。また膜厚が300nmを越える場合は無機酸化物薄膜層にフレキシビリティを保持させることができず、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、無機酸化物薄膜層に亀裂を生じる危惧がある。さらに好ましくは、10〜150nmの範囲内である。バリア層19の膜厚が10nm未満であると、無機酸化物の種類、構成によっては十分なバリア性が得られない可能性がある。また膜厚が150nmを超える場合は、クラックやピンホールが発生しやすくなり、バリア性が低下する可能性がある。
【0065】
バリア層19は、光反射性金属層9に対して耐候層11側に形成されている。このバリア層19は、高温高湿環境下において、耐候層11側から侵入してくる可能性のある水蒸気や、接着層10に使用される樹脂材料の加水分解で生じる可能性のあるカルボン酸等、耐候層11側で生じる光反射性金属層9を腐食させる成分をブロックし、光反射性金属層9の腐食を防止する。
【0066】
図9は、第二変形例による裏面シート21の概略構成を示す縦断面図である。この裏面シート21は、上述した第一変形例と相違してバリア層19は光反射性金属層9の凹凸構造層8側に配設されている。
このように配設されたバリア層19は、高温高湿環境下において、封止層4にEVAを用いた場合に発生する酢酸成分等を含むアウトガスや、凹凸構造層8に使用される樹脂材料の加水分解で生じる可能性のあるカルボン酸等、凹凸構造15側で生じる光反射性金属層9を腐食させる成分をブロックし、光反射性金属層9の腐食を防止する。
【0067】
また、裏面シート21において、バリア層19を、光反射性金属層9の両面、即ち凹凸構造層8側及び耐候層11側の両方に設けてもよい(図示せず)。このとき、凹凸構造層8側及び耐候層11側のそれぞれで生じる可能性のある、光反射性金属層9を腐食させる成分を、両側からブロックすることが出来るため、好適である。
【0068】
また、図10は本発明の第二実施形態による裏面シート23を示すものである。
この裏面シート23は、透光性絶縁層7としてPETフィルムを用いている。この透光性絶縁層7の裏面側には、凹凸構造層8と光反射性金属層9とが積層されており、さらに接着層10を介して耐加水分解性のPETフィルムからなる耐候層11が配置されている。この第二実施形態では、凹凸構造層8が多層構成となっており、透光性絶縁層7が凹凸構造層8を支持する基材8Aを兼ねている。
【0069】
また、図11は第二実施形態による裏面シート23の変形例である。
図11に示す第一変形例による裏面シート25において、透光性絶縁層7としてPETフィルムを用いている。この透光性絶縁層7の裏面側には、凹凸構造層8、光反射性金属層9、バリア層19が順次積層されており、さらに接着層10を介して耐加水分解性のPETフィルムからなる耐候層11が配置されている。しかも、凹凸構造層8が多層構成となっており、透光性絶縁層7が凹凸構造層8を支持する基材8Aを兼ねている。
【0070】
また、図12は第二実施形態による裏面シート23の第二変形例を示すものである。
図12に示す第二変形例による裏面シート27においては、透光性絶縁層7としてEVAフィルムを用いている。この透光性絶縁層7の裏面側には、基材28を接合すると共に凹凸構造15を有する多層構造の凹凸構造層8、光反射性金属層9、バリア層19とが積層されており、さらに接着層10を介して耐加水分解性のPETフィルムからなる耐候層11が配置されている。このとき、透光性絶縁層7と凹凸構造層8の基材28とは接着層29を介して貼り合わされている。
【0071】
また、図13は第二実施形態による裏面シート23の第三変形例を示すものである。
図13に示す第三変形例による裏面シート31においては、透光性絶縁層7としてPETフィルムを用いている。この透光性絶縁層7の裏面側には、凹凸構造層8、光反射性金属層9、バリア層19が積層されており、さらに接着層10を介してPETフィルム32とPVFフィルム33からなる耐候層11が配置されている。このとき、耐候層11を構成するPETフィルム32とPVF33は接着層34を介して貼り合わされている。また、透光性絶縁層7と凹凸構造層8は接着層35を介して貼り合わされている。
【0072】
このような各変形例や第二実施形態による裏面シート18、21、23、25、27、31においても第一実施形態による裏面シート5と同様に、凹凸構造15を形成した光反射性金属層9を含むため、前面側に向かって光を効率良く反射させることができる。したがって、太陽電池モジュール1の光の利用効率を向上させて発電量を増大させることが可能となる。
また、各裏面シート5、18、21、23、25、27、31は、太陽電池モジュール1への使用に限るものではなく、LED照明やEL素子などの発光素子の光利用効率向上など、光利用効率向上が望まれる光学素子やディスプレイ部材への転用が可能である。
【実施例】
【0073】
次に本発明の実施形態による太陽電池モジュール1の裏面シート5について、比較例及び実施例を作製して評価試験を行った。この評価試験について説明する。
(比較例)
裏面シート5の比較例として、図2に示した裏面シート5の基本構成を用いた。そして、凹凸構造層8及び凹凸構造15の形状に倣った一方向性散乱構造を有する光反射性金属層9に代えて、等方散乱性を示す白色PETフィルム(東レ製 ルミラーE20)を用い、裏面シートのその余の構成である透光性絶縁層7、接着層10,耐加水分解性PETフィルムからなる耐候層11は下記の実施例と同じにした。
そして、比較例による白色PETフィルムを備えた裏面シートの上に下記の実施例と同様に、封止層4の下層としてのEVAフィルム、太陽電池セル3、封止層4の上層としてのEVAフィルム、前面板2としての強化ガラスの順に積層し、真空ラミネータで熱ラミネートを行うことで比較例の太陽電池モジュールを作製した。これを評価用サンプル1とした。
【0074】
(実施例)
裏面シート5の実施例として、図2に示した裏面シート5を用いた。即ち、PETフィルムからなる透光性絶縁層7、凹凸構造15を備えた凹凸構造層8、凹凸構造15の形状からなる一方向性散乱構造を有する光反射性金属層9、接着層10、耐加水分解性PETフィルムからなる耐候層11の順に積層した裏面シート5を作製した。
裏面シート5を評価するために、裏面シート5、封止層4の下層としてのEVAフィルム、太陽電池セル3、封止層4の上層としてのEVAフィルム、前面板2として強化ガラスを順次積層して、真空ラミネータで熱ラミネートを行うことで太陽電池モジュール1を作製した。これを評価用サンプル2とした。
【0075】
(変換効率の測定)
上述のようにして得られた比較例の評価用サンプル1及び実施例の評価用サンプル2の光電変換効率を測定した。光源Lとしてソーラーシミュレータ(Newport製 34903A)を用い、太陽電池評価装置としてIVカーブトレーサー(ADCMT製 6244)を用いて行った。
評価用サンプル1、2の光電変換効率を測定すると表1に示すようになった。
【0076】
【表1】
一方向性散乱構造を有する光反射性金属層9を設けた実施例では、等方散乱性を示す白色PETフィルムを用いた比較例よりも、高い光電変換効率が得られることを確認できた。
【符号の説明】
【0077】
1 太陽電池モジュール
2 前面板(透光性前面板)
3 太陽電池セル
4 封止層
5、18、21、23、25、27、31 裏面シート(太陽電池裏面シート)
20 裏面シート(太陽電池裏面シート)
7 透光性絶縁層
8 凹凸構造層
8a 凹凸構造
9 光反射性金属層
10 接着層
11 耐候層
19 バリア層
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールの裏面に配設されて、太陽電池セルに入射せずに裏面シートへ入射する光を有効に再利用することが可能な太陽電池裏面シートと、この太陽電池裏面シートを用いた太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池パネルの普及は大きな広がりを見せ、電卓等の小型電子機器に搭載される比較的小さなものから、家庭用として住宅に取り付けられる太陽電池パネルや大規模な発電施設に用いられる大面積の太陽電池発電システム、さらには人工衛星の電源まで、様々な分野で利用が促進されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
太陽電池は光エネルギーを電気エネルギーに変換するものであり、太陽電池のうち主要なものは使用材料の種類によって結晶シリコン系、アモルファスシリコン系、有機化合物系等に分類される。このうち、現在市場で流通しているものは、ほとんどが結晶系シリコン太陽電池であり、この結晶系シリコン太陽電池はさらに単結晶型及び多結晶型に分類される。
単結晶型シリコンの太陽電池は基板の品質が良いために高効率化が容易であるという長所を有する反面、基板の製造コストが高いという短所を有する。これに対して多結晶型のシリコン太陽電池は基板の品質が劣るために高効率化が難しいという短所はあるものの、低コストで製造できるという長所があり、現在の太陽電池セルの主流となっている。
【0004】
多結晶型シリコンの太陽電池の高効率化に関しては様々な検討が行われている。一例として、太陽電池に用いられるシリコン基板の表面にはテクスチャ構造が形成されており、これによってシリコン基板表面での太陽光の反射を低減させて光電変換効率の向上が図られている。
一方、単結晶型シリコンの太陽電池においては、アルカリ溶液等の異方性エッチングにより微細なピラミッドまたは逆ピラミッドのテクスチャ構造を形成することで太陽光の反射を低減させることが行なわれている。この異方性エッチングでは、単結晶シリコンのエッチング速度が、Si(100)結晶方位面とSi(111)結晶方位面とで異なることを利用している(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
ところが、このような異方性エッチングを多結晶シリコンの太陽電池に適用しようとした場合、アルカリ水溶液によるエッチングが結晶の面方位に依存するため、多結晶シリコンにおけるピラミッド構造を均一に形成できず、シリコン基板全体での反射率の低減を効果的に行なうことができないという問題があった。
【0006】
このような問題を解決するために、多結晶シリコン基板へテクスチャを形成する方法として、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching)法によって多結晶シリコン基板表面に微細な突起を形成する手法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この手法によれば、微細な突起を多結晶シリコンにおける不規則な結晶の面方位に左右されずに均一に形成することにより、特に多結晶シリコンを用いた太陽電池セルにおいても反射率をより効果的に低減することができる。
【0007】
また、表面反射防止膜を組み合わせることにより、さらに変換効率を向上できることが知られている。即ち、結晶シリコンは波長400nm〜1100nm領域で6.00〜3.50の大きな屈折率を持つので、短波長領域で約54%、長波長領域で約34%の反射損失が生じる。この反射損失を減ずるために、屈折率の異なる透明材料で表面反射防止膜を形成し、これにより変換効率を向上させることができる。
さらに、シリコン基板上に形成する電極を微細化することで受光面積を増加させ、太陽光を多く取り込むことによって変換効率を向上させることも検討されている(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
以上のような高効率化技術の進歩により、最近では多結晶シリコン太陽電池においても、研究レベルでは18%程度の変換効率が達成されており、多結晶シリコン太陽電池における変換効率の理論限界(20〜30%)に近づいてきている。
そこで、更に光利用効率を高めるために、太陽電池モジュールの前面から入射した太陽光のうち太陽電池セルに入射せずに裏面シートへ入射する太陽光を再利用する試みが行なわれている。
【0009】
即ち、一般的な結晶シリコン系太陽電池モジュールでは、リーク電流を低減させるために太陽電池モジュール内の複数の太陽電池セル間に隙間が形成されている。そのため、太陽電池セルに入射せずに裏面シートへ入射する一部の太陽光を再利用することが出来れば光利用効率を向上できる。
そこで、太陽電池モジュール内の太陽電池セルの裏面側に反射材を備えた裏面シートを配置し、太陽電池セルの隙間から裏面シートへ入射する太陽光を反射させることにより、太陽電池セルに再入射させることで光利用効率の向上が図られている。反射材として、例えば、白色系顔料を混入した樹脂材料、つや消し表面加工を施した金属材料などの光を散乱反射させる反射材を用いることができる。また、反射材の表面を凹凸構造とすることで、さらに光利用効率を向上させることが可能である(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−295437号公報
【特許文献2】特開昭62−35582号公報
【特許文献3】特公昭60−27195号公報
【特許文献4】特開2000−332279号公報
【特許文献5】特開平10−284747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の太陽電池モジュールでは、上述した手段により光の利用効率を上げることで変換効率を向上させようとしているが、損失となってしまう光もあるため、十分に変換効率を向上させることができているとは言えない。
例えば、隣り合う太陽電池セルの間の領域に入射した光を裏面材で反射させて再利用する従来の手法では、図14に示す太陽電池モジュール50において、太陽電池セル51の裏面側に裏面シート52が設けられ、この裏面シート52には透光性絶縁層の裏面側に例えば高さ5mm程度のプリズムが平行に配列されてなる反射部材53が設けられている。
そして、太陽電池モジュール50の前面板から入射する入射光のうち、太陽電池セル51を透過したり太陽電池セル51の間隙を透過したりする入射光は反射部材53で反射させられるが、この反射光の多くは太陽電池セル51の裏面や側面で反射することになり、前面板で再反射して太陽電池セル5へ再入射する光は少ない。そのため、十分に損失光を再利用するに至っているとは言えず、損失光をより確実に再利用してさらなる発電効率の向上を図ることが強く望まれている。
【0012】
本発明は、このような実情に鑑みて、本来損失となってしまう光をより確実に再利用できるようにした太陽電池裏面シート及びこれを備えた太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る太陽電池裏面シートは、内部に太陽電池セルを封止した封止層の前面側に透光性前面板が積層されてなる太陽電池モジュールの裏面側に配置される太陽電池裏面シートであって、前面側から順に少なくとも透光性絶縁層と、該透光性絶縁層と反対側の面に凹凸構造を形成した凹凸構造層と、凹凸構造に倣った微細な凹凸形状を有する光反射性金属層と、接着層と、耐候層とが積層されてなり、光反射性金属層は微細な凹凸形状によって入射光を反射させて一方向に光を散乱させる一方向性散乱構造を有することを特徴とする。
本発明による太陽電池裏面シートは、例えば太陽電池セルを透過した光や太陽電池セルを外れた光が入射すると、透光性絶縁層を透過して凹凸構造層に進入し、凹凸構造に倣った微細な凹凸形状を有する光反射性金属層によって入射光が反射させられ、しかも光反射性金属層は一方向性散乱構造によって一方向に光を散乱させて反射させるために、これら反射光が裏面シートの透光性絶縁層から出射して一方向に散乱することで、入射光に近い角度で反射する反射光が多くなり、これらの光が透光性前面板で反射等して太陽電池モジュールの太陽電池セルに再入射するため反射光を再利用できる割合が増大する。
【0014】
また、一方向性散乱構造は、長軸と短軸と高低差がそれぞれ数ミクロン程度である線状の凹凸部がランダムに長軸方向に平行に複数配列されていて、反射光を短軸方向に散乱させるようにしたことを特徴とする。
線状の凹凸部がランダムに形成されていて長軸方向に平行に配列されていることで、反射光を散乱光として短軸方向の一方向に規制してより確実に再利用できる。
【0015】
また、凹凸部の長軸方向は、太陽電池セルの端辺に対して35°〜55°の範囲の角度で配列されていてもよい。
このような特徴の太陽電池裏面シートによれば、凹凸部の短軸方向である長軸方向に略直交する両方向に散乱光が射出し、再利用に寄与する反射光が増えてより確実に光を再利用することが可能となる。
【0016】
また、凹凸部の長軸方向は、太陽電池セルの端辺に略平行に配列されていてもよい。
このような特徴の太陽電池裏面シートによれば、凹凸部の短軸方向である長軸方向に略直交する両方向に散乱光が射出し、再利用に寄与する反射光が増えてより確実に光を再利用することが可能となる。
【0017】
また、光反射性金属層に対して凹凸構造層側または/及び接着層側に、光反射性金属層の腐食を防ぐためのバリア層が設けられていてもよい。
このような太陽電池裏面シートによれば、高温高湿環境下であっても、バリア層が光反射性金属層の腐食を防ぐため、光反射性金属層によって前面側から入射する光を特定方向へ乱反射させ、太陽電池セルへ再入射させることにより光の利用効率が向上する効果を長期にわたって持続させることができる。
【0018】
また、バリア層は、光反射性金属層に密接して配設されていてもよい。
これにより、バリア層が光反射性金属層の劣化を防ぐ効果を高めることができる。
【0019】
また、バリア層は、バルブ金属もしくはバルブ金属を含む合金からなっていてもよい。
バルブ金属とは、表面に酸化被膜を生じ不動態となる金属を指すものであり、このようなバルブ金属もしくはバルブ金属を含む合金は優れた耐食作用を持つため、バリア層として採用することで、光反射性金属層の腐食を長期に渡って防ぐことができる。
また、バリア層は、無機酸化物からなるものでもよい。
無機酸化物は、優れた水蒸気バリア性、ガスバリア性を示すことで知られており、このような無機酸化物をバリア層として採用することで、光反射性金属層の劣化を長期に渡って防ぐことができる。
【0020】
本発明による太陽電池モジュールは、上述したいずれかの太陽電池裏面シートを、その裏面側に配設したことを特徴とする。
このような太陽電池モジュールによれば、光反射性金属層に形成された凹凸構造が散乱方向に制限を設けた一方向性散乱構造であることによって、より確実に光を再利用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る太陽電池裏面シート及び太陽電池モジュールによれば、凹凸構造層の凹凸構造に倣った微細な凹凸形状を有する光反射性金属層によって、裏面シートへの入射光が反射させられ、しかも光反射性金属層は一方向性散乱構造によって一方向に光を散乱させて反射させるために、これら反射光が裏面シートの透光性絶縁層から出射して一方向に散乱することで、入射光に近い角度で反射する反射光が多くなり、これらの光が透光性前面板で反射する等して太陽電池モジュールの太陽電池セルに再入射するため、反射光を再利用できる割合が増大する。
特に、光反射性金属層は一方向性散乱構造によって一方向に光を散乱させるよう規制することができるから、光をより確実に再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一実施形態による太陽電池モジュールの概略構成を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す太陽電池モジュールの裏面シートの概略構成を示す拡大縦断面図である。
【図3】(a)、(b)、(c)は電極を含む太陽電池モジュールの概略構成を説明する縦断面図である。
【図4】本実施形態における裏面シートの凹凸構造層の凹凸構造を示す要部平面図である。
【図5】凹凸構造層の凹凸構造を示す断面図である。
【図6】図4、図5に示す凹凸構造を形成した光反射性金属層と反射光との関係を示す図である。
【図7】(a)は光反射性金属層の凹凸部が太陽電池セルの端辺に対して45°の角度で配列された構成を示す要部説明図、(b)は光反射性金属層の凹凸部が太陽電池セルの一の端辺に平行に配列された構成を示す要部説明図である。
【図8】第一実施形態における裏面シートの第一変形例による概略構成を示す縦断面図である。
【図9】第一実施形態における裏面シートの第二変形例による概略構成を示す縦断面図である。
【図10】本発明の第二実施形態による裏面シートの概略構成を示す縦断面図である。
【図11】第二実施形態による裏面シートの第一変形例による裏面シートの概略構成を示す縦断面図である。
【図12】第二実施形態による裏面シートの第二変形例による裏面シートの概略構成を示す縦断面図である。
【図13】第二実施形態による裏面シートの第三変形例による裏面シートの概略構成を示す縦断面図である。
【図14】従来の裏面材としてプリズムを用いた場合の図6と同様な図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態による太陽電池モジュールについて添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の第一実施形態による太陽電池モジュールの概略構成を示す縦断面図である。図1に示す太陽電池モジュール1は、太陽光等、光源Lからの光が入射する前面板2と、太陽電池セル3を封止する封止層4と、裏面シート5とが概略で積層されて構成されている。なお、光源Lとしては、通常、太陽以外に室内灯等の人工照明等が採用される。
また、太陽電池モジュール1は、前面板2、封止層4、太陽電池セル3及び裏面シート5が積層状態で真空ラミネータによって熱ラミネートされることで一体成形されている。
【0024】
前面板2は太陽電池モジュール1の最前面に配置されており、太陽電池セル3を衝撃、汚れ、水分の浸入等から保護するもので、透過率が高い透明な材料から形成された板状をなしている。
図1に示すように、光源Lから射出される光のうち、前面板2の入射面2aに垂直に入射する光H0は、前面板2内に入射して透過し封止層4に入射される。なお、入射面2aの法線NGは、例えば水平面に平行な平面P上に前面板2を載置した状態における平面Pの法線Nと平行な方向とする。入射面2aに垂直に入射する光H0とは、法線NGに平行に前面板2に入射する光のことを示している。
【0025】
前面板2は、強化ガラス、サファイアガラス等のガラス、あるいはPC(ポリカーボネート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等の樹脂シートから構成されている。また、前面板2の厚さは強化ガラスであれば約3〜5mm程度、樹脂シートであれば約5mm程度のものが用いられる。
【0026】
封止層4は、例えば厚み0.4〜1mm程度のシート状の封止材からなり、その内部に複数の太陽電池セル3を分散して固定している。前面板2に入射した光H0は封止層4を透過して太陽電池セル3へ入射する光H1となり、光H1の一部は太陽電池セル3間で封止層4を通過して裏面シート5に入射する光となる。
封止層4は光H1を透過させるため光線透過率が高い材料が用いられ、さらに耐候性、耐高温、耐高湿、耐候性等の耐久性、電気絶縁性を有する素材が好適である。この条件を満たす封止材として、例えば、酢酸ビニルの含有量が20〜30%であるEVA(エチレンビニルアセテート共重合体)やPVB(ポリビニルブチラール)等を主成分とする熱可塑性の合成樹脂材が使用される。
【0027】
太陽電池セル3は、光電効果により受光面3aに入射した光を電気へ変換する機能を持ち、単結晶シリコン型、多結晶シリコン型、アモルファスシリコン型、CIGS(Cu・In・Ga・Seの化合物)系薄膜型等多くの種類が存在するが、ここでは単結晶もしくは多結晶シリコン型の太陽電池セルを用いることとする。
この太陽電池セル3は、複数個が電極(図示省略)によって接続されてモジュールを形成している。
【0028】
本実施形態においては、封止層4から太陽電池セル3に入射した光H1が、太陽電池セル3で電気へ変換される。なお、前面板2の入射面2aに対して斜めに入射した光は、垂直入射の光H0と比較して、入射面2aで反射される割合が多く、太陽電池セル3に入射する光が少ない。即ち、発電に利用できる光が少ない。そのため、入射光H0が入射面2aに垂直に入射する場合が、最も効率良く発電を行なうことができる。
【0029】
次に、本実施形態における裏面シート5について図2により説明する。この裏面シート5は、太陽電池セル3自体を透過した光や太陽電池セル3に入射せずに封止層4を透過した光H1を反射する機能を有し、前面側から順に少なくとも透光性絶縁層7と、凹凸構造層8と、光反射性金属層9と、接着層10と、耐候層11とが順に積層されて構成されている。
【0030】
透光性絶縁層7は裏面シート5の前面側に配されており、電気絶縁性を有する材料から構成されている。
ここで、裏面シート5に要求される重要な性能の一つとして、電気絶縁性がある。この電気絶縁性は、太陽電池モジュール1が内部に電極を含むことから、長期使用での短絡や漏電等を防ぐための必須の性能である。また、太陽電池モジュール1においては、特に太陽電池セル3側の表面が電気絶縁性であることが求められている。
【0031】
透光性絶縁層7の必要性について、図3に示す太陽電池モジュール1Aの構成により説明する。図3に示す太陽電池モジュール1Aは例えば前面板2と封止層4と光反射性金属層9とが積層して構成されているものとする。そして、封止層4内には、複数の太陽電池セル3が電極13を挟んで配列されており、電極13によって太陽電池セル3が接続されて、発電された電力を取り出すことができる。
図3(a)に示す上述の概略構成を備えた太陽電池モジュール1Aにおいて、通常、太陽電池セル3は封止層4の厚み方向中央付近にあり、光反射性金属層9から離れているため、電極13がショートすることによる電流のリークは起こらない。
【0032】
しかし、太陽電池セル3を封止する封止層4は軟化した封止材からなるため、図3(b)に示すように光反射性金属層9が仮に前面板2側に比較的近い位置に配置されているとすると、太陽電池セル3と光反射性金属層9が接触してしまうことがある。このとき光反射性金属層9を通じて電極13がショートし、電流がリークする不具合が発生する。
これに対し、図3(c)に示すように太陽電池モジュール1Aにおいて、透光性絶縁層7を光反射性金属層9と封止層4との間に配設することにより、上述したショートを防止することができる。
なお、透光性絶縁層7の厚みが不十分な場合、図3(c)に示すように、透光性絶縁層7が絶縁破壊して電極13と光反射性金属層9との間で放電dが生じて電流のリークが起こることがある。
【0033】
ここで、電気絶縁性を示す数値基準の一つとして絶縁破壊電圧がある。この絶縁破壊電圧は、絶縁破壊電圧以上の電圧が加わると絶縁状態が破壊されるという指標であり、絶縁破壊電圧が高い方が電気的に安定であると言える。
例えば、参考文献1(「太陽光発電システム構成材料」(工業調査会))によると、各種電気絶縁用プラスチックフィルム(25μm)の絶縁破壊電圧(kV)のおおよその数値は、PET(ポリエチレンテレフタレート)6.5、PEN(ポリエチレンナフタレート)7.5、PVC(延伸硬質塩ビ)4.0、PC(ポリカーボネート)5.0、OPP(延伸ポリプロピレン)6.0、PE(ポリエチレン)4.0、TAC(トリアセテート) 3.0、PI(ポリイミド)7.0である。これらはいずれも絶縁材料としての絶縁破壊電圧を満たしている(参考 JISC2318/電気用二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム)。
また、PVF(ポリ・フッ化・ビニル)の代表的な製品であるデュポン社のテドラー(登録商標)の絶縁破壊電圧は、約3.0kVである。
【0034】
太陽電池モジュール1の絶縁性能の一つとして、最大システム電圧の2倍+1000Vの直流電圧を1分間印加しても絶縁破壊などの異常がないこと、と定められている(参考 JISC8918/結晶系太陽電池モジュール)。最大システム電圧は、通常600〜1000Vである。
以上の理由により、絶縁破壊電圧の平均値は3kV以上であるのが望ましく、上述の各種材料はこの基準を満たしている(参考 JISC2151/電気用プラスチックフィルム試験方法の17.2.2平板電極法)。絶縁破壊電圧が3kVより小さい場合、長期使用による短絡や漏電の可能性が高くなる。
【0035】
そのため、本実施形態における透光性絶縁層7は、上述した各種絶縁材料のいずれかからなる樹脂フィルムによって構成されている。この透光性絶縁層7に使用する材料としては、透明あるいは半透明の材料であることが望ましく、光の散乱を生じる要素が少ない方が好ましい。
裏面シート5に入射した光は、透光性絶縁層7を透過した後に光反射性金属層9で反射され、再度透光性絶縁層7を透過して裏面シート5からの反射光となる。したがって、透光性絶縁層7の透明性が高くて散乱要素が少なければ、裏面シート5へ入射した光が反射光となる効率が高くなる。
【0036】
また、透光性絶縁層7に用いる材料は上述したものに限ったものではなく、絶縁破壊電圧の基準値を満たす材料であれば、適宜採用することが可能である。例えば、EVAやPVB等を主成分とする合成樹脂フィルムを採用することも可能である。これらの樹脂を採用した場合には、封止層4との密着性が向上するため好ましい。
【0037】
また、透光性絶縁層7は単層であっても多層であってもよい。単層の場合には、上述の材料のいずれかを要求特性に合わせて選択することができる。
透光性絶縁層7が多層である場合の構成方法として、例えばPETフィルムにPVF等のフッ素樹脂フィルムを貼り合わせる方法、PETフィルムにPVF等のフッ素樹脂塗膜を形成する方法、PETフィルムにEVAやPVB等を主成分とする合成樹脂フィルムを貼り合わせる方法等が挙げられる。
PVF等のフッ素樹脂、EVAやPVB等を主成分とする合成樹脂は、電気絶縁性の基準を満たすとともに、封止層4との密着性が向上するため好ましい。しかし、単層で十分な強度を得ようとすると厚みを厚くする必要がありコスト高の要因となってしまう。したがって、透光性絶縁層7は強度を確保する基材との組合せによる多層構造とすることが好ましい。特に、フッ素樹脂に関しては、塗膜を形成する方法を採用することも出来、この構成を用いるとフッ素樹脂フィルムを貼り合わせる方法よりも工程を簡略化でできるため、好ましい。
【0038】
また、透光性絶縁層7は、上述の材料のいずれか、例えばPETフィルムを2層貼り合わせた多層構造としてもよい。絶縁性を高めるためには、1枚構成よりも多層構成の方が絶縁欠陥をカバーし、信頼性が高くなることが知られている。そのため、PETフィルム単層よりも、2層貼り合わせた多層構造の方が透光性絶縁層7の絶縁性をより向上させることができる。
なお、透光性絶縁層7の層構成は上述したものに限ったものではなく、要求特性に応じて適宜変更可能である。
【0039】
次に、凹凸構造層8について説明する。
凹凸構造層8は紫外線硬化樹脂もしくは熱硬化性樹脂から形成されている。
凹凸構造層8として使用する樹脂は、紫外線硬化樹脂もしくは熱硬化性樹脂であれば、種類は特に限定されるものではなく、例えばポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリル―(ポリ)スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル―ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)等のポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、リエチレンナフタレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を1種又は2種以上混合して使用することができる。
また、凹凸構造層8として、上述の樹脂の他に例えば散乱反射体、硬化剤、可塑剤、分散剤、各種レベリング剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、粘性改質剤、潤滑剤、光安定化剤等の各種添加剤が適宜配合されてもよい。
また、凹凸構造層8は、上述した材料のいずれかによって単層で構成されてもよく、多層で構成されてもよい。
【0040】
凹凸構造層8は、光反射性金属層9に密接する面に微細な凹凸形状からなる凹凸構造15が形成されている。そして、光反射性金属層9は凹凸構造15の凹凸形状に倣った凹凸形状を転写している。
凹凸構造15は、光H1が光反射性金属層9で反射する際に反射光の散乱方向に制限を設けた一方向性散乱構造を形成している。一方向性散乱とは、通常の等方散乱とは異なり、散乱方向に制限が設けられ、ある特定の方向に散乱することを意味する。
凹凸構造15は、図4に示すように、それぞれ数ミクロン程度の長さ(長軸)と幅(短軸)と高低差を有する線状または棒状の凸部及び/または凹部が多数配列された構成であり、その長さと幅、そして高さまたは深さ(高低差)等がランダムに設定された細長い微細凹凸構造で構成されている。しかも、凹凸構造15は微細な凹部と凸部が長軸方向に略平行にランダムに配列された構成を有している。このような凹凸構造15では、照射される光H1が微細で細長い凹部または凸部の短軸方向に散乱し且つ長軸方向には散乱しないため、散乱方向を制御することができる。
【0041】
また、図5(a)〜(c)に示すように、凹凸構造層8の凹凸構造15で形成される凹部と凸部は、例えば高低差h=1〜3μm程度であり、その長軸方向に直交する断面形状は面取りされた四角形や三角形等の略多角形、半円形、半楕円形等適宜の形状を採用できる。或いは図5(a)〜(c)に示す短軸方向の断面形状は、四角形と楕円形状や半円形状、凸円弧状形状などが混在する形状でも良い、一方、図4及び図5を参照して、長軸方向の断面形状は主に面取りされた四角形形状とされている。
なお、図5に示す凹凸構造15を有する凹凸構造層8は他の図に対して上下反転して示されている。
このような凹凸構造15が転写された光反射性金属層9では、図6に示すように、入射する光が細長い微細な凹部及び凸部の短軸方向に散乱するため、その断面形状によって散乱方向を制御することができる。
これは、短軸方向の断面形状は、高さ方向、幅方向の差が小さいため光が散乱しやすく、長軸方向の断面形状は、高さ方向に比べて幅方向が長いため幅方向への光の散乱が起こりにくいためである。
【0042】
また、凹凸構造15が転写された面形状を有する光反射性金属層9は、太陽電池セル3を例えば四角形として、その長軸方向がそのいずれかの端辺に対して45°±10°の範囲、即ち35°〜55°の範囲、好ましくは45°の傾斜角になるように配列されていることが好ましい(図7(a)参照)。
このように配列することで、前面板2に略直角に入射する入射光H0は、図6に示すように、裏面シート5に入射して凹凸構造15に倣う形状の光反射性金属層9で反射して太陽電池セル3に向けて反射する際、線状または棒状の凹部または凸部の短軸方向に散乱し、長軸方向にはあまり散乱しない。
【0043】
そのため、多くの反射光H2は入射光H1に近い反射角で反射するよう反射方向が規制され、太陽電池セル3に衝突せずに前面板2で全反射して、太陽電池セル3の受光面3aに再入射する。そして、裏面シート5内における入射光H1と太陽電池セル5との距離が領域X内にあるとして、図14に示すプリズムを反射部材53とした裏面シート52と比較して、反射光H2の光反射性金属層9に対する角度が垂直に近くなる。
そのため、図6に示すように、これら裏面シート5に入射する入射光H1は凹凸構造15の凹凸形状に倣う光反射性金属層9で反射させられることで再利用に寄与する面積が増え、発電効率を高めることができる。
【0044】
また、凹凸構造15の凹凸形状を有する光反射性金属層9は、凹部及び凸部の長軸方向が太陽電池セル3のそれぞれの端辺に対して略平行になるように配置することも好ましい(図7(b)参照)。このように配置することで、再利用に寄与する面積をさらに増やすことができ、発電効率をさらに高めることが可能である。
【0045】
なお、光反射性金属層9における凹凸構造15の長軸方向が太陽電池セル3のそれぞれの端辺に対して略平行になるように配置する構成(図7(b)参照)の方が、凹凸構造15の長軸方向が太陽電池セル3の端辺に対して35°〜55°の範囲に配置する構成(図7(a)参照)と比べてより発電効率を高めることができて好適である。
しかしながら、光反射性金属層9は、凹凸構造15の長軸方向が太陽電池セル3の端辺に対して35°〜55°の範囲に設定した配置の方が、太陽電池セル3の端辺に対して略平行になるような配置に比べて太陽電池セル3に対しての位置合わせが容易であり、作業性を重視する場合には好適である。
【0046】
樹脂材料からなる凹凸構造層8を形成する方法として、単層の場合には金型を用いたプレス法・キャスティング法・押し出し成形法・射出成形法などが挙げられる。これらの方法では、シート形成と同時に一方の面に凹凸構造15を形成することが可能である。
また、樹脂材料からなる凹凸構造層8(凹凸構造15)を形成する別の方法として、多層の場合には平面スタンパやロールスタンパの凹凸形成面に熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂や電子線硬化型樹脂等を塗布または注入して凹凸構造15を形成すると共に、対向する他方の面に基材を配置して硬化させ、硬化処理後にスタンパから離型するといった方法が挙げられる。これらの方法では、使用する樹脂の粘度を低くすることができるため成形性がよいという利点がある。
また、凹凸構造層8を多層とする場合、透光性絶縁層7を、凹凸構造15を一方の面に形成した凹凸構造層8の他方の面を支持する基材として採用することも可能である(図10,図11参照)。
【0047】
凹凸構造層8の凹凸構造15を加工するために使用する金型は、バイトによる金属板の切削加工や、バイト切削及び電子ビームによる描画やエッチングによって得られた母型の電鋳加工等により得ることができる。このような加工により成形された金型は、表面に凹凸構造15の逆型構造が形成されている。
例えば、所望の形状をもつバイトで金属板を切削することで、所望の凹凸構造15の逆型構造が形成された金型が得られる。金型は板状でもよく、ロール状でもよいが、ロール状の金型とする方が望ましい。ロール状の金型であれば、連続エンボス加工が可能であり、大きな面積を必要とする裏面シートの作製方法として好適である。
【0048】
上述の製造方法で使用する金型の基材は、特に限定されるものではなく、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PVC(延伸硬質塩ビ)、PC(ポリカーボネート)、OPP(延伸ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、TAC(トリアセテート)、PI(ポリイミド)等の樹脂材料からなるフィルムを使用することができる。
【0049】
次に、光反射性金属層9について説明する。
光反射性金属層9は、例えばアルミニウムや銀などの金属からなり、凹凸構造層8の凹凸構造15の凹凸形状に追従した形状を有する層状に形成する。光反射性金属層9の形成手段としては、均一厚みに金属層が形成できれば特に限定されるものではなく、例えば(a)真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法;PVD法)、(b)プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法;CVD法)等が採用される。
これらの方法の中でも、生産性が高く良質な金属層を形成できる真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法による真空蒸着装置の加熱手段としては電子線加熱方式、抵抗加熱方式、誘導加熱方式のいずれかを適宜用いればよい。
【0050】
光反射性金属層9に用いられる金属として、金属光沢を有しかつ上記のいずれかの形成方法が可能であれば特に限定されるものではない。光反射性金属層9として、例えば、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)等の単体金属もしくは合金が挙げられ、単層で形成してもよく、或いは複数の金属を積層して形成してもよい。中でも、反射性が高く、緻密な金属層が比較的容易に形成できて安価なアルミニウムが好適である。
【0051】
光反射性金属層9の厚さの下限としては10nmが好ましく、20nmが特に好ましい。一方、光反射性金属層9の厚さの上限としては200nmが好ましく、100nmが特に好ましい。光反射性金属層9の厚さが10nmの下限より小さいと、光反射性金属層9に入射する光を十分に反射することができない。20nm以上の厚さがあれば、より確実に光反射性金属層9に入射する光を反射することができる。一方、光反射性金属層9の厚さが200nmの上限を超えると、光反射性金属層9に目視でも確認できるクラックが発生し易くなり、100nm以下であれば目視で確認できないようなクラックも発生しにくい。
【0052】
光反射性金属層9は、凹凸構造層8の凹凸構造15を転写した形状に形成されており、光反射性金属層9は凹凸構造を有している。光反射性金属層9に形成された凹凸構造の微細な凹部と凸部の寸法と形状や配列を規則正しくした場合、反射光は回折光となり分光される欠点が生じる。そのため、線状の凹部や凸部の長さ、幅、深さまたは高さ、そしてその配列をそれぞれランダムに設定することで反射光が回折光となることを防止できる。
そして、この光反射性金属層9は、光反射性金属層9に入射した光を所定の方向、即ち凹凸構造15の短軸方向に散乱させて反射させる機能を有する。
なお、光反射性金属層9のような凹凸構造を有する金属層を形成するさらに別の方法として、例えば凹凸構造15を金属箔に直接形成する等の方法も挙げられるが、この方法では、光反射性金属層9の厚みが厚くなるために抵抗が低く、モジュールを固定するアルミフレームや端子BOXとつながる配線などとの通電が起こりやすくなるため、好ましくない。
【0053】
次に、光反射性金属層9と接着層10を介して接続される耐候層11には、耐高温、耐高湿、耐加水分解、難燃性等の長期耐候性が要求される。これらの要求を満たすものとして、一般的に、PVF(ポリフッ化ビニル)等のフッ素樹脂フィルムやフッ素樹脂塗膜、もしくは低オリゴマーPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等の耐加水分解性を高めたタイプのPETフィルム等が使用される。この他、耐候性に優れるPENフィルム等を使用してもよい。なお、耐候層11の材料としては上記に限ったものではなく、長期耐候性の基準値を満たす材料であれば適宜採用することができる。
【0054】
耐候層11は単層であっても多層であってもよい。単層の場合には、上述の材料のいずれかを要求特性に合わせて選択することができる。PVFは、長期耐候性に特に優れているため好適である。また、低オリゴマーPETフィルム等の耐加水分解性のPETフィルムは、安価でありながら長期耐候性にも優れているため、好適である。
【0055】
この耐候層11が多層構造の場合の例としては、PETフィルムにPVF(ポリ・フッ化・ビニル)等のフッ素樹脂フィルムを接着剤層を介して貼り合わせたものや、PETフィルムにPVF等のフッ素樹脂塗膜を形成したもの等が挙げられる。
PVF等のフッ素樹脂は長期耐候性に非常に優れており、単層でも十分な性能を発揮するものの、単層で十分な強度を得ようとすると厚みを厚くする必要がありコスト高の要因となる。よって、強度を確保する基材との組合せによる多層構造とすることが好ましい。
なお、耐候層11の層構成は上記に限ったものではなく、要求特性に応じて適宜変更可能である。
【0056】
接着層10は、接着強度として、長期間の屋外使用で劣化してデラミネーションなどを生じないこと、黄変の程度が小さいことなどが要求される。これらの要求を満たすものとして、ポリウレタン系、ポリアクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリ酢酸ビニル系、セルロース系の樹脂を1種又は2種以上混合したラミネート用接着剤を使用することができる。
また、長期間の屋外暴露による接着剤の劣化を防止するために、接着層10に劣化防止剤を添加しても良い。劣化防止剤としては、例えばカルボジイミン、エポキシなどの添加剤が挙げられる。
更に、接着層10には、例えば硬化剤、可塑剤、分散剤、各種レベリング剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、粘性改質剤、潤滑剤、光安定化剤等の各種添加剤が適宜配合されてもよい。
【0057】
また、耐候層11を接着層10によって光反射性金属層9と貼り合わせる方法は、例えば、ドライラミネーション方法、ノンソルベントドライラミネーション方法、ホットメルトラミネーション方法、エクストルージョンラミネーション方法を利用したサンドイッチ・エクストルージョンラミネーション方法などの公知の方法を適宜使用することができる。
【0058】
本実施形態による太陽電池モジュール1とその裏面シート5は、上述の構成を備えているから、凹凸構造層8の凹凸構造15及びこの形状に倣う光反射性金属層9は、線状で微細な凹部及び凸部の短軸方向に光を散乱させる一方向性散乱構造を備えており、光反射性金属層9において高低差1〜3μm程度で長さ数ミクロン程度でランダムの長さの線状の凹部及び凸部が平行に且つランダムに配列されているため、細長い微細な凹部及び凸部の短軸方向に強く散乱することになり、その断面形状によって散乱方向を制御することができる。
そのため、光反射性金属層9に対する反射光H2の反射角が直角に近い大きな角度のものが増大するため、太陽電池セル3の裏面や側面に衝突しないで前面板2で再反射し、太陽電池セル3の受光面3aにより多く入射できるため、従来のプリズムによる反射部材と比較して、より多くの反射光H2を再利用することができる。
【0059】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない限り適宜の変更等が可能である。以下、図面に基づいて本発明の変形例や他の実施形態について説明する。
図8は、上述した第一実施形態による裏面シート5の第一変形例による裏面シート18の概略構成を示す縦断面図である。
この裏面シート18は、太陽電池セル3自体を透過した光や太陽電池セル3に入射せずに封止層4を透過した光H1を反射する機能を有し、前面側から順に少なくとも透光性絶縁層7と、凹凸構造層8と、光反射性金属層9と、バリア層19と、接着層10と、耐候層11とが順に積層されて構成されており、バリア層19が設けられている以外は、裏面シート5と同様の構成となっている。使用する材料、作製方法に関しても、バリア層19を形成すること以外は、同様の材料の使用が可能であり、同様の作製方法を採用することが可能である。
【0060】
バリア層19は、バルブ金属もしくはバルブ金属を含む合金を、光反射性金属層9の凹凸構造に追従した層状になるように形成する。バルブ金属もしくはバルブ金属を含む合金を採用したバリア層19の形成手段としては、光反射性金属層9及び凹凸構造層8に収縮、黄変等の劣化を招来することなく均一に金属層が形成できれば特に限定されるものではなく、各種手段が可能であるが、(a)真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法;PVD法)、(b)プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法;CVD法)が採用される。これらの中でも、生産性が高く良質な金属層が形成できる真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法による真空蒸着装置の加熱手段としては電子線加熱方式、抵抗加熱方式、誘導加熱方式のいずれかを適宜用いればよい。
【0061】
バリア層19に用いられるバルブ金属とは、表面に酸化被膜を生じ不動態となる金属を指し、例えばアルミニウム(Al)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、亜鉛(Zn)、タングステン(W)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)等が挙げられ、これら金属の単体もしくは合金を用いることが可能である。また、単層で形成してもよく複数の金属を積層して用いてもよい。中でも、優れた耐食性を示し、緻密な金属層が比較的容易に形成できるクロムが好適である。
【0062】
バリア層19は、酸化珪素、酸化アルミニウムなどの無機酸化物を、光反射性金属層9の凹凸構造に追従した層状になるように形成してもよい。無機酸化物を採用したバリア層19の形成手段としては、光反射性金属層9及び凹凸構造層8に収縮、黄変等の劣化を招来することなく無機酸化物層が形成できれば特に限定されるものではなく、各種手段が可能であるが、真空蒸着法により形成することが一般的である。この真空蒸着法以外の手段としてスパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)などを用いることもできる。但し生産性を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も優れている。この真空蒸着法による真空蒸着装置の加熱手段としては電子線加熱方式、抵抗加熱方式、誘導加熱方式のいずれかを適宜用いればよい。
またバリア層19と光反射性金属層9との密着性及びバリア層19の緻密性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を用いることも可能である。また、バリア層19の透明性を上げるために蒸着の際、酸素ガスなど吹き込んだりする反応蒸着を行ってもよい。
【0063】
バリア層19に用いられる無機酸化物としては、透明性を有し、かつ酸素、水蒸気のガスバリア性を有し、かつ上記のいずれかの形成方法が可能であれば特に限定されるものではなく、例えば酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化錫、酸化マグネシウム、あるいはそれらの混合物などの無機酸化物が挙げられる。中でも、緻密な無機酸化物層が比較的容易に形成でき、長期安定性に優れる酸化珪素が好適である。
【0064】
バリア層19の厚さは、用いられる無機化合物の種類や構成により最適条件が異なるが、一般的には5〜300nmの範囲内が望ましく、その値は必要とされるバリア性の程度によって適宜選択される。ただし膜厚が5nm未満であると均一な膜が得られないことや膜厚が十分ではないことがあり、ガスバリア材としての機能を十分に果たすことができない場合がある。また膜厚が300nmを越える場合は無機酸化物薄膜層にフレキシビリティを保持させることができず、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、無機酸化物薄膜層に亀裂を生じる危惧がある。さらに好ましくは、10〜150nmの範囲内である。バリア層19の膜厚が10nm未満であると、無機酸化物の種類、構成によっては十分なバリア性が得られない可能性がある。また膜厚が150nmを超える場合は、クラックやピンホールが発生しやすくなり、バリア性が低下する可能性がある。
【0065】
バリア層19は、光反射性金属層9に対して耐候層11側に形成されている。このバリア層19は、高温高湿環境下において、耐候層11側から侵入してくる可能性のある水蒸気や、接着層10に使用される樹脂材料の加水分解で生じる可能性のあるカルボン酸等、耐候層11側で生じる光反射性金属層9を腐食させる成分をブロックし、光反射性金属層9の腐食を防止する。
【0066】
図9は、第二変形例による裏面シート21の概略構成を示す縦断面図である。この裏面シート21は、上述した第一変形例と相違してバリア層19は光反射性金属層9の凹凸構造層8側に配設されている。
このように配設されたバリア層19は、高温高湿環境下において、封止層4にEVAを用いた場合に発生する酢酸成分等を含むアウトガスや、凹凸構造層8に使用される樹脂材料の加水分解で生じる可能性のあるカルボン酸等、凹凸構造15側で生じる光反射性金属層9を腐食させる成分をブロックし、光反射性金属層9の腐食を防止する。
【0067】
また、裏面シート21において、バリア層19を、光反射性金属層9の両面、即ち凹凸構造層8側及び耐候層11側の両方に設けてもよい(図示せず)。このとき、凹凸構造層8側及び耐候層11側のそれぞれで生じる可能性のある、光反射性金属層9を腐食させる成分を、両側からブロックすることが出来るため、好適である。
【0068】
また、図10は本発明の第二実施形態による裏面シート23を示すものである。
この裏面シート23は、透光性絶縁層7としてPETフィルムを用いている。この透光性絶縁層7の裏面側には、凹凸構造層8と光反射性金属層9とが積層されており、さらに接着層10を介して耐加水分解性のPETフィルムからなる耐候層11が配置されている。この第二実施形態では、凹凸構造層8が多層構成となっており、透光性絶縁層7が凹凸構造層8を支持する基材8Aを兼ねている。
【0069】
また、図11は第二実施形態による裏面シート23の変形例である。
図11に示す第一変形例による裏面シート25において、透光性絶縁層7としてPETフィルムを用いている。この透光性絶縁層7の裏面側には、凹凸構造層8、光反射性金属層9、バリア層19が順次積層されており、さらに接着層10を介して耐加水分解性のPETフィルムからなる耐候層11が配置されている。しかも、凹凸構造層8が多層構成となっており、透光性絶縁層7が凹凸構造層8を支持する基材8Aを兼ねている。
【0070】
また、図12は第二実施形態による裏面シート23の第二変形例を示すものである。
図12に示す第二変形例による裏面シート27においては、透光性絶縁層7としてEVAフィルムを用いている。この透光性絶縁層7の裏面側には、基材28を接合すると共に凹凸構造15を有する多層構造の凹凸構造層8、光反射性金属層9、バリア層19とが積層されており、さらに接着層10を介して耐加水分解性のPETフィルムからなる耐候層11が配置されている。このとき、透光性絶縁層7と凹凸構造層8の基材28とは接着層29を介して貼り合わされている。
【0071】
また、図13は第二実施形態による裏面シート23の第三変形例を示すものである。
図13に示す第三変形例による裏面シート31においては、透光性絶縁層7としてPETフィルムを用いている。この透光性絶縁層7の裏面側には、凹凸構造層8、光反射性金属層9、バリア層19が積層されており、さらに接着層10を介してPETフィルム32とPVFフィルム33からなる耐候層11が配置されている。このとき、耐候層11を構成するPETフィルム32とPVF33は接着層34を介して貼り合わされている。また、透光性絶縁層7と凹凸構造層8は接着層35を介して貼り合わされている。
【0072】
このような各変形例や第二実施形態による裏面シート18、21、23、25、27、31においても第一実施形態による裏面シート5と同様に、凹凸構造15を形成した光反射性金属層9を含むため、前面側に向かって光を効率良く反射させることができる。したがって、太陽電池モジュール1の光の利用効率を向上させて発電量を増大させることが可能となる。
また、各裏面シート5、18、21、23、25、27、31は、太陽電池モジュール1への使用に限るものではなく、LED照明やEL素子などの発光素子の光利用効率向上など、光利用効率向上が望まれる光学素子やディスプレイ部材への転用が可能である。
【実施例】
【0073】
次に本発明の実施形態による太陽電池モジュール1の裏面シート5について、比較例及び実施例を作製して評価試験を行った。この評価試験について説明する。
(比較例)
裏面シート5の比較例として、図2に示した裏面シート5の基本構成を用いた。そして、凹凸構造層8及び凹凸構造15の形状に倣った一方向性散乱構造を有する光反射性金属層9に代えて、等方散乱性を示す白色PETフィルム(東レ製 ルミラーE20)を用い、裏面シートのその余の構成である透光性絶縁層7、接着層10,耐加水分解性PETフィルムからなる耐候層11は下記の実施例と同じにした。
そして、比較例による白色PETフィルムを備えた裏面シートの上に下記の実施例と同様に、封止層4の下層としてのEVAフィルム、太陽電池セル3、封止層4の上層としてのEVAフィルム、前面板2としての強化ガラスの順に積層し、真空ラミネータで熱ラミネートを行うことで比較例の太陽電池モジュールを作製した。これを評価用サンプル1とした。
【0074】
(実施例)
裏面シート5の実施例として、図2に示した裏面シート5を用いた。即ち、PETフィルムからなる透光性絶縁層7、凹凸構造15を備えた凹凸構造層8、凹凸構造15の形状からなる一方向性散乱構造を有する光反射性金属層9、接着層10、耐加水分解性PETフィルムからなる耐候層11の順に積層した裏面シート5を作製した。
裏面シート5を評価するために、裏面シート5、封止層4の下層としてのEVAフィルム、太陽電池セル3、封止層4の上層としてのEVAフィルム、前面板2として強化ガラスを順次積層して、真空ラミネータで熱ラミネートを行うことで太陽電池モジュール1を作製した。これを評価用サンプル2とした。
【0075】
(変換効率の測定)
上述のようにして得られた比較例の評価用サンプル1及び実施例の評価用サンプル2の光電変換効率を測定した。光源Lとしてソーラーシミュレータ(Newport製 34903A)を用い、太陽電池評価装置としてIVカーブトレーサー(ADCMT製 6244)を用いて行った。
評価用サンプル1、2の光電変換効率を測定すると表1に示すようになった。
【0076】
【表1】
一方向性散乱構造を有する光反射性金属層9を設けた実施例では、等方散乱性を示す白色PETフィルムを用いた比較例よりも、高い光電変換効率が得られることを確認できた。
【符号の説明】
【0077】
1 太陽電池モジュール
2 前面板(透光性前面板)
3 太陽電池セル
4 封止層
5、18、21、23、25、27、31 裏面シート(太陽電池裏面シート)
20 裏面シート(太陽電池裏面シート)
7 透光性絶縁層
8 凹凸構造層
8a 凹凸構造
9 光反射性金属層
10 接着層
11 耐候層
19 バリア層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に太陽電池セルを封止した封止層の前面側に透光性前面板が積層されてなる太陽電池モジュールの裏面側に配置される太陽電池裏面シートであって、
前面側から順に少なくとも透光性絶縁層と、該透光性絶縁層と反対側の面に凹凸構造を形成した凹凸構造層と、前記凹凸構造に倣った微細な凹凸形状を有する光反射性金属層と、接着層と、耐候層とが積層されてなり、
前記光反射性金属層は微細な凹凸形状によって入射光を反射させて一方向に光を散乱させる一方向性散乱構造を有することを特徴とする太陽電池裏面シート。
【請求項2】
前記一方向性散乱構造は、長軸と短軸と高低差がそれぞれ数ミクロン程度である線状の凹凸部がランダムに長軸方向に平行に複数配列されていて、反射光を短軸方向に散乱させるようにした請求項1に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項3】
前記凹凸部の長軸方向は、太陽電池セルの端辺に対して35°〜55°の範囲の角度で配列されている請求項2に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項4】
前記凹凸部の長軸方向は、太陽電池セルの端辺に略平行に配列されている請求項2に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項5】
前記光反射性金属層に対して前記凹凸構造層側または/及び前記接着層側に、前記光反射性金属層の腐食を防ぐためのバリア層が設けられている請求項1乃至4のいずれか1項に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項6】
前記バリア層は、前記光反射性金属層に密接して配設されている請求項5に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項7】
前記バリア層は、バルブ金属もしくはバルブ金属を含む合金からなる請求項5または6に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項8】
前記バリア層は、無機酸化物からなる請求項5乃至7のいずれか1項に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載された太陽電池裏面シートを、その裏面側に配設したことを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項1】
内部に太陽電池セルを封止した封止層の前面側に透光性前面板が積層されてなる太陽電池モジュールの裏面側に配置される太陽電池裏面シートであって、
前面側から順に少なくとも透光性絶縁層と、該透光性絶縁層と反対側の面に凹凸構造を形成した凹凸構造層と、前記凹凸構造に倣った微細な凹凸形状を有する光反射性金属層と、接着層と、耐候層とが積層されてなり、
前記光反射性金属層は微細な凹凸形状によって入射光を反射させて一方向に光を散乱させる一方向性散乱構造を有することを特徴とする太陽電池裏面シート。
【請求項2】
前記一方向性散乱構造は、長軸と短軸と高低差がそれぞれ数ミクロン程度である線状の凹凸部がランダムに長軸方向に平行に複数配列されていて、反射光を短軸方向に散乱させるようにした請求項1に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項3】
前記凹凸部の長軸方向は、太陽電池セルの端辺に対して35°〜55°の範囲の角度で配列されている請求項2に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項4】
前記凹凸部の長軸方向は、太陽電池セルの端辺に略平行に配列されている請求項2に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項5】
前記光反射性金属層に対して前記凹凸構造層側または/及び前記接着層側に、前記光反射性金属層の腐食を防ぐためのバリア層が設けられている請求項1乃至4のいずれか1項に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項6】
前記バリア層は、前記光反射性金属層に密接して配設されている請求項5に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項7】
前記バリア層は、バルブ金属もしくはバルブ金属を含む合金からなる請求項5または6に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項8】
前記バリア層は、無機酸化物からなる請求項5乃至7のいずれか1項に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載された太陽電池裏面シートを、その裏面側に配設したことを特徴とする太陽電池モジュール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−204460(P2012−204460A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65812(P2011−65812)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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