説明

媒体に含有されるハロゲン化芳香族化合物の迅速分解法

【課題】 短い時間で直ちにハロゲン化芳香族化合物を実質的に完全に分解するとともに、主溶剤の分解率を抑制することも可能な、化学的に安全なハロゲン化芳香族化合物の分解処理方法を確立すること。
【解決手段】 ハロゲン化芳香族化合物と、強アルカリ性物質と、アミド化合物と、耐熱耐アルカリ性極性溶剤とを、常温〜250℃で接触させることにより、前記ハロゲン化芳香族化合物を分解する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリクロロビフェニル類(以下PCBと称する)に代表される有害なハロゲン化芳香族化合物を安全に化学分解処理する方法に関する。特に、急激な反応熱を伴うことなくハロゲン化芳香族化合物を分解するとともに、前記化合物を分解した後に生成されうる有害物質の生成をほぼ完全に抑制し、反応後の反応液から高効率で耐熱耐アルカリ性極性溶剤をリサイクルすることを可能とした上で、さらに短時間でハロゲン化芳香族化合物の化学処理を可能とした新規のハロゲン化芳香族化合物の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有害物質であるハロゲン化芳香族化合物を安全に化学分解し、無害化処理することは、環境保全の観点から最重要課題となっている。従来から、ハロゲン化芳香族化合物の分解に関して、種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、金属ナトリウムによる分解処理(特許文献1)、電子線照射による分解処理(特許文献2,3及び4)、酸化カルシウムを加えたボールミルによるメカノケミカル処理(特許文献5)等が公開されている。
【0004】
しかし、これらの方法には、それぞれ以下のような問題点が指摘されている。
金属ナトリウムによりハロゲン化芳香族化合物を分解する方法においては、発火性の金属ナトリウムを使用するため、この取り扱いに危険を伴い、安全性に課題がある。また、電子線照射による分解処理は、使用する装置が高価であるため、処理コストが高くなってしまうという問題がある。さらにメカノケミカル処理においては、ボールミル等の衝撃粉砕装置を用いるが、このときに使用する装置が高価であるという問題がある。すなわち、いずれの方法も安全性及びコストの観点から満足のいく方法であるとは言えない。
【0005】
上記のような従来法に存在する問題点を解決すべく、ハロゲン化芳香族化合物を化学的に分解処理する方法として、化学抽出分解法が提案されている。化学抽出分解法は、ポリクロロビフェニル類及びPCB含有絶縁油の処理方法(特許文献6,7及び8)として公開されている。具体的には、ハロゲン化芳香族化合物(PCB)を、溶解性にすぐれた耐熱耐アルカリ性極性溶剤(主に1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン)中で強アルカリ性物質(水酸化カリウム又は、水酸化ナトリウム)を用いて脱ハロゲン化する方法である。これらの方法は、PCBを分解し、この濃度を基準値(0.5mg/kg以下)まで減少させることができる点で画期的な方法である。ところが、これらの方法による処理は、一般に処理時間が長く、ハロゲン化芳香族化合物をほぼ完全に分解するには、例えばPCB含有絶縁油の処理の場合4時間/1バッチもの時間がかかる。これらの方法では、1日に高々5バッチ程度の処理しか行えないことになる。国内におけるハロゲン化芳香族化合物の保管量が増大している昨今、この処理量は圧倒的に不足している。
【0006】
尚、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開2000−246002号
【特許文献2】特開2001−9408号
【特許文献3】特開2001−9409号
【特許文献4】特開2001−70913号
【特許文献5】特開2001−47026号
【特許文献6】特開平6−25691号
【特許文献7】特開平7−8572号
【特許文献8】特開平7−289656号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のことより、従来よりも短い処理時間でPCB等を含むハロゲン化芳香族化合物をほぼ完全に分解するとともに、主溶剤の分解率を抑制することが可能な、分解処理方法の確立が望まれている。そこで本発明の目的は、炭化水素油中に含まれる、PCB等を含むハロゲン化芳香族化合物を完全かつ安全に、かつ従来よりも短時間で分解処理することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明の態様は以下の通りである:
1. ハロゲン化芳香族化合物を含有する媒体と、強アルカリ性物質と、アミド化合物と、耐熱耐アルカリ性極性溶剤とを、常温〜250℃で接触させることにより、前記ハロゲン化芳香族化合物を分解する方法。
2. ハロゲン化芳香族化合物を含有する媒体と、強アルカリ性物質に、アミド化合物および耐熱耐アルカリ性極性溶剤を添加し、常温〜250℃で接触させることにより、前記ハロゲン化芳香族化合物を分解する方法。
3. ハロゲン化芳香族化合物を含有する媒体と、強アルカリ性物質に、アミド化合物を溶解させた耐熱耐アルカリ性極性溶剤を添加し、常温〜250℃で接触させることにより、前記ハロゲン化芳香族化合物を分解する方法。
4. アミド化合物が、N−(2−ジメチルアミノエチル)ホルムアミド、エチレンビスホルムアミドから選択される非環状アミド化合物;N−(2−ジメチルアミノエチル)−N−メチルホルムアミド、1−メチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチルヒダントイン、1,3,5−トリメチルヒダントインから選択される環状アミド化合物;またはこれらの混合物から選択される、上記1〜3のいずれか1つに記載の方法。
5. アミド化合物が、N−(2−ジメチルアミノエチル)ホルムアミド、エチレンビスホルムアミドから選択される、上記4に記載の方法。
6. ハロゲン化芳香族化合物が、ダイオキシン類または、ポリ塩素化ビフェニル類(PCB)または、ポリ塩素化ベンゼン類である、上記1〜5のいずれか1つに記載の方法。
7. ハロゲン化芳香族化合物を含有する媒体が、絶縁油、熱媒体、潤滑油、可塑剤、塗料及びインキから選択されることを特徴とする上記1〜6のいずれか1項に記載の方法。
8. 強アルカリ性物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド、及びこれらの混合物から選択される、上記1〜7のいずれか1つに記載の方法。
9. 耐熱耐アルカリ性極性溶剤が、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン及びこれらの混合物から選択される、上記1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【0009】
ハロゲン化芳香族化合物は、人体、動植物に対して強い毒性を示す化合物であり、特に催奇形性などのおそれから、有害物質として廃棄物の処理及び清掃に関する法律により指定されているものが多数ある。これら化合物が土壌、地下水、焼却灰、洗浄水、機械油等に存在する場合は、何らかの処理を施してこれらの濃度を基準値以下に減少させなければならないことが厳密に定められている。本発明において「ハロゲン化芳香族化合物」とは、芳香族化合物にフッ素、塩素、臭素及びヨウ素が1以上置換した化合物全般を指す。本発明では、例えばポリクロロビフェニル類(PCB)、ダイオキシン類、フロン類、およびポリクロロベンゼン類等を指す。PCBとは、ビフェニル骨格に塩素原子が数個置換した化合物の総称であり、塩素原子の置換位置、置換数により多数の異性体が存在する。またダイオキシン類とは、狭義の意味ではダイオキシン類対策特別措置法で指定される特定の化合物を指すが、本発明では、いわゆる内分泌撹乱物質(環境ホルモン)として疑われるハロゲン化化合物を全て含む。
【0010】
上記のハロゲン化芳香族化合物を「分解する」とは、以下に詳しく述べる化学反応により、これらハロゲン化芳香族化合物を他の無害な化合物に転換することを意味し、特にハロゲン化芳香族化合物の脱ハロゲン化反応によって、別の化合物を生成することを意味する。
【0011】
本発明において「強アルカリ性物質」とは、陽子受容体あるいは電子対供与体となる物質全般を指し、例えば、アルカリ金属元素、およびアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アンモニア、アミン類等が挙げられる。特に本発明の方法では、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド、及びこれらの混合物を好適に用いることができる。
【0012】
また、前記強アルカリ性物質は、粉末アルカリ性物質であることが好ましく、粉末アルカリ性物質は、アルカリ性物質を粉砕し、粉末化するなどして得ることができる。ここで、粉砕するとは、機械的な力を利用して固体を破壊して細かくし、表面積を増大させる物理的操作であれば良い。具体的には砕料を粉砕機中に充填し、排出口を閉じたまま希望する細かさになるまで粉砕操作を継続する方法が挙げられ、また、乾式において粉砕する場合、吸湿の懸念がある時は粉砕機内を真空にしたり、不活性気体を充填することができる。粉末アルカリ性物質の粒径は、10〜1000μmとするのが好ましい。
【0013】
本発明において「アミド化合物」とは、アンモニア(NH3)またはアミン(RNH2)の水素が金属原子またはアシル原子団で置換された構造を有する環状または非環状化合物全般を指し、例えば金属アミド、酸アミド、アミノ酸、及びアミノ酸誘導体等が挙げられる。本発明の方法で好適に使用されるアミド化合物は、以下の式:
【0014】
【化1】

【0015】
(ここでR1は、水素、及びC1〜C3アルキルからなる群より選択される)により表されるアミド化合物及びそれらの塩、及び以下の式:
【0016】
【化2】

【0017】
(ここでR2は、水素、及びC1〜C3アルキルからなる群より選択され;R3は、水素、及びC1〜C3アルキルからなる群より選択され;R4は、水素、C1〜C3アルキル、及び=Oからなる群より選択され;R5は、水素、及びC1〜C3アルキルからなる群より選択される)により表されるアミド化合物及びそれらの塩があげられる。特に好適な非環状アミド化合物として、例えば、N−(2−ジメチルアミノエチル)ホルムアミド、エチレンビス(ホルムアミド)、好適な環状アミド化合物としてN−(2−ジメチルアミノエチル)−N−メチルホルムアミド、1−メチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチルヒダントイン、1,3,5−トリメチルヒダントインが挙げられ、これらを単独でまたは複数混合して用いることができる。
【0018】
本発明において「ハロゲン化芳香族化合物を含有する媒体」とは、一般に高圧トランス、高圧コンデンサ、安定器などに使用される絶縁油;集中暖房、パネルヒータ、及び各種工業において使用される加熱冷却用熱媒体;油圧オイル、真空ポンプ油、切削油、極圧添加剤などを含む潤滑油;電線被覆用絶縁テープ用可塑剤、樹脂混合用可塑剤、接着剤、ニス・ワックス、アスファルト等混合用可塑剤;ノンカーボン紙や感圧複写紙用塗料、難燃性、耐食性、耐薬品性、耐水性等の性質を有する各種塗料及び印刷用インキなどに代表される熱安定性の高い油のことである。かかる媒体の一部では、かつてハロゲン化芳香族化合物が使用されていた。また、例えば重電機器用トランスに用いられる絶縁油や、絶縁油を用いる地中送電線などは、ポリ塩化ビフェニル類(PCB)を絶縁油として用いていなくても微量のPCBが混入している場合があり、かかる媒体中の微量混入PCBが大きな問題となっている。このような媒体中にハロゲン化芳香族化合物(PCB)が溶解している場合、それが如何に低濃度であっても廃棄することはできず、保管し、一定の期間内に処分しなければならない。したがって本発明の方法によりハロゲン化芳香族化合物を分解し、規定の濃度にまで低減させる必要がある。
【0019】
本発明において「耐熱耐アルカリ性極性溶剤」とは、反応時に高温(少なくとも100℃以上、好ましくは160℃以上、特に好ましくは210℃以上)にした場合でも、分解、消失などをすることがほとんどない溶剤であって、この溶剤中に前記強アルカリ性物質を溶解した時に、分解、消失などをすることがほぼない極性の溶剤全般を指す。耐熱耐アルカリ性極性溶剤は、無機溶剤、有機溶剤のいずれを用いることもできるが、ハロゲン化芳香族化合物の溶解性などの点から、有機溶剤、特に脂肪族炭化水素溶剤、脂環族炭化水素溶剤等を用いることが好ましい。本発明で好適に用いられる耐熱耐アルカリ性極性溶剤として、例えば1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(以下、DMIと称する)、スルホラン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、低級アルキルエーテル類、トリメチレングリコール、ブチレングリコール及びこれらの混合物などが挙げられる。このうち、ハロゲン化芳香族化合物をよく溶解し、耐熱性が高く、さらに高温にしたときの悪臭がない、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを使用することが好ましい。
【0020】
本発明において、ハロゲン化芳香族化合物と、強アルカリ性物質と、アミド化合物と、耐熱耐アルカリ性溶剤とを接触させる際には、これら物質の添加の順序は特に限定されないが、ハロゲン化芳香族化合物と強アルカリ性物質とに、アミド化合物が溶解した耐熱アルカリ性溶剤を添加することが特に好ましい。
接触させる時の温度は、常温〜250℃、好ましくは常温〜210℃である。また反応処理時間は、被処理ハロゲン化芳香族化合物の量や濃度にもよるが、一般に0.5〜4時間、特に1〜2時間程度で行うことができる。上記温度で反応させることによって、ハロゲン化芳香族化合物を短時間で、実質的に完全に分解することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法によると、ハロゲン化芳香族化合物の分解処理時間を短縮することができる。したがって従来よりも経済的に且つ簡易にハロゲン化芳香族化合物を分解することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の方法の具体的な実施の形態について以下に説明する。まず、本発明の方法によりハロゲン化芳香族化合物を分解させる化学反応メカニズムを、従来法(化学抽出分解法)と比較しつつ詳述する。
【0023】
従来の化学抽出分解法(特許文献6,7及び8参照)に説明される方法(DMIを溶媒として、PCBを水酸化ナトリウムで分解する反応)における化学反応メカニズムは、主に水酸化ナトリウムからの水酸化物イオンによるPCBへの求核置換反応である。すなわちこの反応では、PCB中の複数の塩素を水酸基(−OH)で置き換えることにより、PCBを別の化合物に変換することを試みている。この従来法では、水酸化物イオンのPCBへの求核置換反応が律速となる。しかし、水酸化物イオンの芳香族環への求核置換反応は一般に遅く、PCB中の塩素を効率的に水酸基で置き換えることは非常に困難である。したがって、従来法では、例えばPCBを定量下限値未満にまで分解するには、例えば4時間もの時間がかかることになる。
【0024】
これに対して、本発明の方法によるハロゲン化芳香族化合物の分解処理方法は、その化学反応メカニズムが従来法とは全く異なっている。本発明に係る方法は、ハロゲン化芳香族化合物(例えばPCB)と強アルカリ性物質(例えば水酸化ナトリウム)とアミド化合物と、耐熱耐アルカリ性極性溶剤とを、常温〜250℃で接触させることを特徴とするが、この際、例えばアミド化合物(例えばN−(2−ジメチルアミノエチル)ホルムアミド)を使用する場合、このアミド化合物が大きな役割を果たす。すなわち本発明による方法の化学反応メカニズムは、水酸化物イオンと比較して非常に強い求核種であるヒドリドイオン(H-)によるPCBへの求核置換反応を利用していることに非常に大きな特徴がある。
【0025】
本発明の方法において添加するアミド化合物が強アルカリ性物質によって分解されて生じるヒドリドイオン(H-)は、先に述べたとおり非常に強い求核種であることが知られており、反応系に水酸化物イオンが共存する場合でも、これに比べて非常に高い反応性を有する。これにより、PCB中の複数の置換塩素のうち一つが水素(−H)で置換されても、二つ目の塩素の置換が困難になるということがない。したがって、PCB中に複数ある塩素の置換が、逐次的に進行するのである。
【0026】
また、本発明の方法では、反応系内に水酸化物イオンよりもはるかに反応性の高いヒドリドイオンが存在するので、PCBの重合反応よりも先に水素の付加反応が起こる。したがって、本発明の方法では、PCBの重合反応が抑制されることにより、耐熱耐アルカリ性溶剤(例えばDMI)の分解を抑制できる。さらに本発明の方法によると、反応系に存在するアルカリ性物質(例えば水酸化ナトリウム)が脱塩素で生じるHClの中和剤として働くため、HClガスの発生を抑制することが可能となるというメリットもある。
【0027】
本発明の方法による化学反応メカニズムによる利点は、以下の点である。すなわち、PCB重合体などの副生物類を生成することなく、さらにHClガスを発生させることなく、ハロゲン化芳香族化合物を実質的に確実に分解することができる。また、本発明の方法によると、耐熱耐アルカリ性溶剤(例えばDMI)の分解率が非常に低くなる。
【0028】
ここで、耐熱耐アルカリ性溶剤の分解率が低くなるメカニズムは、アミド化合物の添加によるものである。従来法によるPCBのアルカリ分解反応においては、アルカリの水酸化物イオンによる求核置換反応が起こっていることを上述したが、この際アルカリは過剰に添加されているため、この過剰のアルカリによって溶剤であるDMIが攻撃を受ける可能性があった。
【0029】
しかし、本発明の方法で使用するアミド化合物、PCB、及びDMIをそれぞれアルカリと反応させたときの反応性を比較すると、PCB>アミド化合物>>DMIという関係が成立している。すなわち、本発明の方法で使用するアミド化合物は上記のように分子設計されているのである。したがって反応系に過剰の水酸化物イオンが存在したとしても、これがDMIを攻撃する前に、添加したアミド化合物を攻撃する。この反応によってアミド化合物からヒドリドイオンが生成され、さらにPCBの分解に寄与するわけである。こうしたメカニズムから溶剤であるDMIの分解率が抑えられるのである。
【0030】
本発明の方法において溶剤となる耐熱耐アルカリ性溶剤は、高温での反応(例えば100℃以上)に耐えうる溶剤であればいずれを用いることもでき、例えば、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、低級アルキルエーテル類、トリメチレングリコール、ブチレングリコール、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、n−トリデカン、n−テトラデカン、n−ペンタデカン、n−ヘキサデカン、ナフテン溶剤及びこれらの混合物などが挙げられる。このうち、ハロゲン化芳香族化合物をよく溶解し、耐熱性が高く、さらに高温にしたときの悪臭がない、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)を使用することが非常に好ましい。DMIを主溶剤として用い、他の溶剤を補助的に用いることもまた可能である。本発明の方法においては、耐熱耐アルカリ性溶剤は、例えば処理しようとするハロゲン化芳香族化合物を含有する媒体の重量を基準として、10〜200重量%、好ましくは50〜150重量%、さらに好ましくは80〜120重量%使用することができる。
【0031】
本発明の方法において、ヒドリドイオンの供給源となるアミド化合物は、アンモニア(NH3)またはアミン(RNH2)の水素が金属原子またはアシル原子団で置換された構造を有する環状または非環状化合物全般を指し、例えば金属アミド、酸アミド、アミノ酸、及びアミノ酸誘導体等が挙げられる。本発明の方法で特に好適に使用されるアミド化合物は、以下の式:
【0032】
【化3】

【0033】
(ここでR1は、水素、及びC1〜C3アルキルからなる群より選択される)により表されるアミド化合物及びそれらの塩、及び以下の式:
【0034】
【化4】

【0035】
(ここでR2は、水素、及びC1〜C3アルキルからなる群より選択され;R3は、水素、及びC1〜C3アルキルからなる群より選択され;R4は、水素、C1〜C3アルキル、及び=Oからなる群より選択され;R5は、水素、及びC1〜C3アルキルからなる群より選択される)により表されるアミド化合物及びそれらの塩があげられる。さらに特に好適な非環状アミド化合物として、例えば、N−(2−ジメチルアミノエチル)ホルムアミド、エチレンビス(ホルムアミド)、好適な環状アミド化合物としてN−(2−ジメチルアミノエチル)−N−メチルホルムアミド、1−メチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチルヒダントイン、1,3,5−トリメチルヒダントインが挙げられ、これらを単独でまたは複数混合して用いることができる。アミド化合物は、耐熱耐アルカリ性溶剤の重量を基準として、0.01〜25重量%、好ましくは0.1〜10重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%使用することができる。
【0036】
本発明の方法において、アミド化合物のアルカリ分解を行ったり、脱離された塩素イオンを中和する働きをする強アルカリ性物質は、ハロゲン化芳香族化合物の分解反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に制限はなく、例えば、アルカリ金属元素、およびアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アンモニア、アミン類等が挙げられる。特に本発明の方法では、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド、及びこれらの混合物を好適に用いることができる。強アルカリ性物質は、耐熱耐アルカリ性溶剤の重量を基準として、例えば溶剤としてDMIを用いた場合は、0.1〜50重量%、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜5重量%使用することができる。但し強アルカリ性物質の使用量は、用いる耐熱耐アルカリ性溶剤の種類により、様々に変えることができる。
【0037】
強アルカリ性物質の形状は、従来のフレーク形状のものとは異なる、粉末アルカリ性物質を使用することがより好ましい。従来のフレーク形状のアルカリ性物質を使用した場合、粉末アルカリ性物質に比べ比表面積が小さく、接触面積の差により反応性が顕著に降下してしまう。
【0038】
これに対して、粉末形状のアルカリ性物質をハロゲン化芳香族化合物の分解処理へ適用した場合には、比表面積が非常に大きいのでハロゲン化芳香族化合物との接触面積が大きく、反応性が向上する。すなわち粉末形状のアルカリ物質を用いれば、強アルカリ性物質の反応性が降下することなく、処理時間の短縮により経済性向上を可能とすることに非常に大きな特徴がある。粉末アルカリ性物質の粒径は、好ましくは10〜1000μmである。従来のフレーク形状のアルカリ性物質を使用する場合には、機械的な手段を用いて上記のような粒度にまで粉砕して用いることができる。
【0039】
本発明の方法で分解処理するハロゲン化芳香族化合物は、通常、地下水や焼却飛灰、土壌等に含まれていることが多い。これらを処理する際に、ハロゲン化芳香族化合物を基準濃度以下に減少させる必要がある。このような場合には、前記汚染された地下水、焼却飛灰、土壌等を、ハロゲン化芳香族化合物をよく溶解する溶剤類と接触させて抽出、移行させる。本発明の方法では、このように汚染物質の処理により生じた、ハロゲン化芳香族化合物が溶解した溶剤類を反応に用いて、この溶解したハロゲン化芳香族化合物を分解することができる。つまり、ハロゲン化芳香族化合物それ自体を本発明の反応に用いることも可能であり、さらにハロゲン化芳香族化合物を含む物質を抽出することによりハロゲン化芳香族化合物を含むこととなった洗浄剤類や各種油類等を本発明に適用することも可能である。さらに上述したように、ハロゲン化芳香族化合物が溶解した電気絶縁油などを直接本発明の方法に供することができる。
【0040】
本発明の方法によるハロゲン化芳香族化合物の分解反応を以下に実施例として説明する。本実施例は本発明の実施の態様の一部を記載したものであり、本発明の思想を制限するものと考えてはならない。
【実施例】
【0041】
実施例1
本発明の方法による反応メカニズムを用いて、ポリクロロビフェニル類の分解反応を行った。
【0042】
反応液の温度を測定するための温度計、気相部の温度を測定するための温度計、撹拌棒及び撹拌機を備えた1Lの四ツ口の反応フラスコ(反応系の気相部は、不活性気体(窒素)により封入してある)に、ポリクロロビフェニル(カネクロールKC−1000、鐘淵化学工業製)25ppmを含有した絶縁油(JIS C2320相当品)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ネオス製)200g、粉末状に処理された水酸化ナトリウム(旭硝子製)3g、およびN−(2−ジメチルアミノエチル)ホルムアミド(ネオスQ、ネオス製)2gを混合し、撹拌機により反応液を撹拌しながら油浴の温度を上昇させた。油浴温度を210℃に維持し、反応を1時間続行した。反応後反応液を室温まで冷却し、反応液中に含まれるPCB類の濃度を測定した。PCB類の含有量の測定は、「特別管理産業廃棄物に係る基準の検定方法」(平成4年厚生省告示第192号 改正平成10年)に基づき、高分解能ガスクロマトグラフ/高分解能質量分析計(HRGC/HRMS)を用いて行った。本実施例の結果を表1に掲載する。
実施例2
アミド化合物として、エチレンビスホルムアミド2gを使用したこと以外は、実施例1と同様に反応させた。本実施例の結果を表1に掲載する。
比較例1
比較例として、従来の化学抽出分解法(水酸基によるPCBの塩素の置換)による反応により、PCB類の分解反応を行った。
【0043】
実施例1と同様の装置に、ポリクロロビフェニル(KC−1000、鐘淵化学工業製)25ppmを含有した絶縁油(JIC C2320相当品)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI、三井化学製)200g、水酸化ナトリウム(旭硝子製)3gを混合し、撹拌機により反応液を撹拌しながら油浴の温度を上昇させた。油浴温度を210℃に維持し、反応を2時間続行して反応液をサンプリングし、上記実施例と同様に反応液中に含まれるPCB類の濃度を測定したが、表1に掲載するようにまだ0.5ppm以上残留していたため、さらに2時間反応を続行した。総計4時間反応させた後の反応液を室温まで冷却し、反応液中に含まれるPCB類の濃度を、それぞれ上記実施例と同様に測定した。
【0044】
【表1】

【0045】
本発明の方法にしたがって行ったPCBの分解反応では、反応時間1時間でPCBが0.5ppm以下(すなわち基準値以下)にまで分解される。これに対し、比較例1では、PCBが0.5ppm以下にまで分解されるまで4時間要した。
【0046】
本発明方法は、従来法よりも短い時間でハロゲン化芳香族化合物を分解することができ、したがって処理量を大きくすることができるので、増大するPCB類を含む媒体の保管量の削減に貢献することが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化芳香族化合物を含有する媒体と、強アルカリ性物質と、アミド化合物と、耐熱耐アルカリ性極性溶剤とを、常温〜250℃で接触させることにより、前記ハロゲン化芳香族化合物を分解する方法。
【請求項2】
ハロゲン化芳香族化合物を含有する媒体と、強アルカリ性物質に、アミド化合物および耐熱耐アルカリ性極性溶剤を添加し、常温〜250℃で接触させることにより、前記ハロゲン化芳香族化合物を分解する方法。
【請求項3】
ハロゲン化芳香族化合物を含有する媒体と、強アルカリ性物質に、アミド化合物を溶解させた耐熱耐アルカリ性極性溶剤を添加し、常温〜250℃で接触させることにより、前記ハロゲン化芳香族化合物を分解する方法。
【請求項4】
アミド化合物が、N−(2−ジメチルアミノエチル)ホルムアミド、エチレンビスホルムアミドから選択される非環状アミド化合物;N−(2−ジメチルアミノエチル)−N−メチルホルムアミド、1−メチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチルヒダントイン、1,3,5−トリメチルヒダントインから選択される環状アミド化合物;またはこれらの混合物から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
アミド化合物が、N−(2−ジメチルアミノエチル)ホルムアミド、エチレンビスホルムアミドから選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ハロゲン化芳香族化合物が、ダイオキシン類または、ポリ塩素化ビフェニル類(PCB)または、ポリ塩素化ベンゼン類である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ハロゲン化芳香族化合物を含有する媒体が、絶縁油、熱媒体、潤滑油、可塑剤、塗料及びインキから選択されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
強アルカリ性物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド、及びこれらの混合物から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
耐熱耐アルカリ性極性溶剤が、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン及びこれらの混合物から選択される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。


【公開番号】特開2006−192114(P2006−192114A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7295(P2005−7295)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000135265)株式会社ネオス (95)
【Fターム(参考)】