説明

嫌気性アンモニア酸化槽の運転方法

【課題】増殖速度が遅い嫌気性アンモニア酸化細菌の馴養期間を短縮でき、培養プラントを設ける必要がなくなると共に、嫌気性アンモニア酸化細菌が引き抜かれた一方の嫌気性アンモニア酸化槽の性能も低下させることがない。
【解決手段】嫌気性アンモニア酸化細菌の馴養済みの微生物固定化材14Aを有する馴養済み槽10から微生物固定化材14Aの一部を引き抜き、この引き抜いた微生物固定化材14Aを、これから馴養する未馴養槽12に投入して立ち上げを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嫌気性アンモニア酸化槽の運転方法に係り、特に被処理水中のアンモニアと亜硝酸とを嫌気性アンモニア酸化細菌により同時脱窒する嫌気性アンモニア酸化槽の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水や産業廃水に含有する窒素成分は、湖沼の富栄養化の原因になること、河川の溶存酸素の低下原因になること等の理由から、窒素成分を除去する必要がある。下水や産業廃水に含有する窒素成分は、アンモニア性窒素、亜硝酸性窒素、硝酸性窒素、有機性窒素が主たる窒素成分である。
【0003】
従来、この種の廃水は、窒素濃度が低濃度であれば、イオン交換法での除去や塩素、オゾンによる酸化も用いられているが、中高濃度の場合には生物処理が採用されており、一般的には以下の条件で運転されている。
【0004】
生物処理では好気硝化と嫌気脱窒による硝化・脱窒処理が行われており、好気硝化では、アンモニア酸化細菌(Nitrosomonas,Nitrosococcus,Nitrosospira,Nitrosolobusなど)と亜硝酸酸化細菌(Nitrobactor,Nitrospina,Nitrococcus,Nitrospira など)によるアンモニア性窒素や亜硝酸性窒素の酸化が行われる一方、嫌気脱窒では、従属栄養細菌(Pseudomonas denitrificans など)による脱窒が行われる。
【0005】
また、好気硝化を行う硝化槽は負荷0.2〜0.3kg−N/m3 /日の範囲で運転され、嫌気脱窒の脱窒槽は負荷0.2〜0.4kg−N/m3 /日の範囲で運転される。下水の総窒素濃度30〜40mg/Lを処理するには、硝化槽で6〜8時間の滞留時間、脱窒槽で5〜8時間が必要であり、大規模な処理槽が必要であった。また無機質だけを含有する産業廃水では、硝化槽や脱窒槽は先と同様の負荷で設計されるが、脱窒に有機物が必要で、窒素濃度の3〜4倍濃度のメタノールを添加していた。このためイニシャルコストばかりでなく、多大なランニングコストを要するという問題もある。
【0006】
これに対し、最近、嫌気性アンモニア酸化法による窒素除去方法が注目されている(例えば特許文献1)。この嫌気性アンモニア酸化法は、アンモニアを水素供与体とし、亜硝酸を水素受容体として、嫌気性アンモニア酸化細菌によりアンモニアと亜硝酸とを以下の反応式により同時脱窒する方法である。
【0007】
(化1)
1.0 NH4 +1.32NO 2 +0.066HCO 3 +0.13H+ →1.02N 2 +0.26NO 3 +0.066CH2 O 0.5 N 0.15+2.03H2 O
この方法によれば、アンモニアを水素供与体とするため、脱窒で使用するメタノール等の使用量を大幅に削減できることや、汚泥の発生量を削減できる等のメリットがあり,今後の窒素除去方法として有効な方法であると考えられている。
【0008】
しかし、嫌気性アンモニア酸化反応を行う嫌気性アンモニア酸化細菌は、Planctomycete を代表とする菌群であり、増殖速度が0.001h-1と極めて遅いことが報告されている(Strous,M.et al.:Nature,400,446(1999)。また、特許文献2では、比増殖速度は0.02〜0.05日-1程度の非常に小さな値であり、2倍の菌体量を得るためには14〜35日もの培養日数を要するとの報告がある。
【特許文献1】特開2001−37467号公報
【特許文献2】特開2003−24990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この為、嫌気性アンモニア酸化細菌を利用した嫌気性アンモニア酸化槽の立ち上げを活性汚泥から行おうとすると、今だかつて経験したことのない長期間の馴養時間を要し、極めて効率が悪いという欠点がある。
【0010】
小規模なラボレベルの実験装置であれば、予め嫌気性アンモニア酸化細菌を培養した汚泥を嫌気性アンモニア酸化槽内に投入することで立ち上げ期間を短縮することは可能であるが、大規模な実装置で同様なことを行おうとすると、嫌気性アンモニア酸化細菌を培養する培養プラントが必要になる。しかし、実用化にあたっては、培養プラントが巨大になり、運転に多額な設備費と運転管理費が必要となるばかりでなく、培養するために多量の窒素排水を調整する必要があるという欠点がある。
【0011】
このように嫌気性アンモニア酸化法を利用した嫌気性アンモニア酸化槽を現実に稼働するには、未だ解決すべき課題があり、国内では稼動例が無いのが実情である。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、増殖速度の遅い嫌気性アンモニア酸化細菌の馴養期間を短縮でき、培養プラントを設ける必要がなくなると共に、嫌気性アンモニア酸化細菌が引き抜かれた一方の嫌気性アンモニア酸化槽の性能も低下させることがない嫌気性アンモニア酸化槽の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、被処理水中のアンモニアと亜硝酸とを嫌気性アンモニア酸化細菌により同時脱窒する嫌気性アンモニア酸化において、前記嫌気性アンモニア酸化細菌の馴養が済んだ一方の嫌気性アンモニア酸化槽から前記嫌気性アンモニア酸化細菌の一部を引き抜き、この引き抜いた嫌気性アンモニア酸化細菌をこれから馴養を行う他方の嫌気性アンモニア酸化槽に投入して立ち上げ運転を行う嫌気性アンモニア酸化槽の運転方法であって、前記微生物固定化材は、前記嫌気性アンモニア酸化槽内を自由に流動できる固定化材料に前記嫌気性アンモニア酸化細菌を付着固定又は包括固定させた流動型の微生物固定化材であると共に、前記一方の嫌気性アンモニア酸化槽に、前記微生物固定化材を馴養しておく工程と、前記微生物固定化材が馴養された一方の嫌気性アンモニア酸化槽から一度に引き抜く微生物固定化材の引き抜き量が馴養した微生物固定化材全量の25%以下になるように引き抜いて前記他方の嫌気性アンモニア酸化槽に投入する工程と、前記一方の嫌気性アンモニア酸化槽から微生物固定化材を引き抜いたら、前記一方の嫌気性アンモニア酸化細菌槽に、未馴養な新しい微生物固定化材を補充しておく工程と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明は、実装置として運転する嫌気性アンモニア酸化槽で嫌気性アンモニア酸化細菌の培養も兼ね、培養した嫌気性アンモニア酸化細菌を引き抜いて他の嫌気性アンモニア酸化槽での立ち上げの種菌として供するという着想の基に、他方の嫌気性アンモニア酸化槽の馴養期間を短縮し、且つ引き抜かれた一方の嫌気性アンモニア酸化槽の性能低下を防止すべく構成すると共に、培養の効率化及び引き抜き精度や引き抜きの容易性等を図るべく前記一方の嫌気性アンモニア酸化槽で馴養の終了した嫌気性アンモニア酸化細菌は固定化材料に付着固定又は包括固定された微生物固定化材であるように構成したものである。
【0015】
本発明の請求項1によれば、一方の嫌気性アンモニア酸化槽で馴養済みの嫌気性アンモニア酸化細菌を他方の嫌気性アンモニア酸化細菌の馴養に利用するようにしたので、増殖速度の遅い嫌気性アンモニア酸化細菌の馴養期間を短縮でき、培養プラントを設ける必要がなくなる。また、嫌気性アンモニア酸化細菌を固定化材料に固定化した微生物固定化材として扱うことにより、一方の嫌気性アンモニア酸化槽からの嫌気性アンモニア酸化細菌の引き抜きや他方の嫌気性アンモニア酸化槽への嫌気性アンモニア酸化細菌の投入が容易になると共に、引き抜き量や投入量を精度良くコントロールすることができる。
【0016】
本発明において、馴養期間とは、アンモニア性窒素濃度及び亜硝酸性窒素濃度が同時に半量に減少するまでに要した期間、即ち嫌気性アンモニア酸化細菌が優占繁殖して嫌気性アンモニア酸化活性が発揮されるまでの期間をいう。また、立ち上げ運転は、新設の嫌気性アンモニア酸化槽を立ち上げる場合以外に、嫌気性アンモニア酸化細菌が失活した場合に再度立ち上げる場合も含む。また、一方の嫌気性アンモニア酸化槽と他方の嫌気性アンモニア酸化槽とが同じ廃水処理施設に設けられていても、他の廃水処理施設にそれぞれ設けられていてもよい。
【0017】
本発明において、前記一方の嫌気性アンモニア酸化槽から一度に引き抜く前記微生物固定化材の引き抜き量は、前記馴養された微生物固定化材全量の25%以下である。
【0018】
これは、馴養済みの一方の嫌気性アンモニア酸化槽から一度に引き抜く微生物固定化材の量が全量に対して25%以下であれば、引き抜かれた一方の嫌気性アンモニア酸化槽の脱窒性能に殆ど悪影響がないからである。一度に引き抜く微生物固定化材の量が全量に対して10%以下であれば更に良い。
【0019】
この場合、前記一方の嫌気性アンモニア酸化槽には、微生物固定化材を引き抜くことを前提として過剰の微生物固定化材を馴養しておくことが好ましい。
【0020】
このように、一方の嫌気性アンモニア酸化槽に、微生物固定化材を引き抜くことを前提として過剰の微生物固定化材を馴養しておき、過剰分の微生物固定化材を引き抜くようにすれば、嫌気性アンモニア酸化槽には常に必要量の微生物固定化材を保持することができ、脱窒性能に全く影響を与えることがない。即ち、過剰分は嫌気性アンモニア酸化槽をいわば培養槽として使用したことになる。
【0021】
また、本発明において、前記一方の嫌気性アンモニア酸化槽から馴養済みの微生物固定化材を引き抜くと共に、未馴養な新しい微生物固定化材を補充しておく。ここで、未馴養担体とは、嫌気性アンモニア酸化活性が低いものを言い、担体当たりの脱窒速度で1(kg-N/m 3 - 担体 /日) 以下の嫌気性アンモニア酸化活性のものであり、必ずしも新品を意味するものではない。尚、「担体当たり」の脱窒速度とことわらない限り、脱窒速度及び容積負荷は「反応槽容積当たり」での評価であり、単位は(kg-N/m 3 /日) と記載し、以下同様である。
【0022】
これは、引き抜き量が馴養された微生物固定化材全量の25%以下であれば、引き抜かれた一方の嫌気性アンモニア酸化槽の脱窒性能に殆ど影響がないが、次に引き抜く際に25%を超えるので1回しか引き抜くことができなくなる。しかし、本発明のように、微生物固定化材を引き抜くと同時に未馴養な微生物固定化材を補充しておくことにより、嫌気性アンモニア酸化槽内の微生物固定化材の量が減ることがない。従って、これを繰り返せば、1つの嫌気性アンモニア酸化槽から他の嫌気性アンモニア酸化槽に、馴養済みの微生物固定化材を次々に引き抜いて馴養の種菌とすることができる。
【0023】
また、本発明においては、前記一方の嫌気性アンモニア酸化槽からの微生物固定化材の引き抜きは、馴養済みの微生物固定化材の全量が1カ月以上かけて前記新しい微生物固定化材に入れ替わるように複数回に分けて引き抜くことが好ましい。
【0024】
一方の嫌気性アンモニア酸化槽から微生物固定化材を短期間で何回も頻繁に引き抜くと、引き抜かれた嫌気性アンモニア酸化槽には十分に馴養されていない微生物固定化材の比率が多くなり、脱窒性能を悪化させてしまう。従って、馴養済みの微生物固定化材の全量を1カ月以上、好ましくは2カ月以上かけて補充した新しい微生物固定化材に入れ替わるように複数回に分けて引き抜くように引き抜き頻度を調整すれば、補充した新しい微生物固定化材の馴養も進んでいるので、脱窒性能に与える影響が小さくなる。引き抜き方法として、好ましくは均等に引き抜くことが好ましい。即ち、複数回の引き抜き量を毎回同じとすることが好ましく、引き抜きごとに量が異なると、脱窒性能が変動し易くなるためである。
【0025】
また、本発明においては、前記一方の嫌気性アンモニア酸化槽から引き抜いた馴養済みの微生物固定化材を液状化し、液状化した微生物固定化材に活性汚泥を混合し、この混合微生物とゲル化材料とを混合した混合物を重合することで包括固定化担体を形成し、この包括固定化担体を他方の嫌気性アンモニア酸化槽に投入することが好ましい。
【0026】
このように、液状化した包括固定化担体に活性汚泥を混ぜて増量することにより包括固定化担体の数を増やすことができると共に、製造された包括固定化担体内には、他の細菌よりも嫌気性アンモニア酸化細菌の優占比率が高くなっており、馴養され易い状態になっているからである。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように本発明の嫌気性アンモニア酸化槽の運転方法によれば、一方の嫌気性アンモニア酸化槽で馴養済みの嫌気性アンモニア酸化細菌を他方の嫌気性アンモニア酸化細菌の馴養に利用するようにしたので、増殖速度の遅い嫌気性アンモニア酸化細菌の馴養期間を短縮でき、培養プラントを設ける必要がなくなると共に、嫌気性アンモニア酸化細菌が引き抜かれた一方の嫌気性アンモニア酸化槽の性能も低下させることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下添付図面に従って本発明に係る嫌気性アンモニア酸化槽の運転方法における好ましい実施の形態について詳説する。
【0029】
図1は、本発明の嫌気性アンモニア酸化槽の運転方法を実施する嫌気性アンモニア酸化装置の概念図である。
【0030】
図1に示す2つの縦型の嫌気性アンモニア酸化槽のうち、一方の嫌気性アンモニア酸化槽は、嫌気性アンモニア酸化細菌が優占繁殖した馴養済みの微生物固定化材14Aを有する嫌気性アンモニア酸化槽(以下、「馴養済み槽10」という)であり、他方の嫌気性アンモニア酸化槽は、嫌気性アンモニア酸化細菌が未だ優占繁殖していない微生物固定化材14Bを有する未馴養の嫌気性アンモニア酸化槽(以下、「未馴養槽12」という)で、これから立ち上げを行うものである。尚、本実施の形態の微生物固定化材14A、14Bは、不織布の周囲に微生物を付着固定する固定床型の微生物固定化材14A、14Bの例で説明するが、これに限定するものではない。例えば、ゲルや樹脂ビーズ等の槽内を流動可能な粒状の固定化材料の周囲に微生物を付着固定する付着・流動型の微生物固定化材や、含水ゲルの内部に微生物を包括固定し、槽内を自由に流動することのできる包括・流動型の微生物固定化材を使用することができる。
【0031】
固定化材料の材質としては、ポリビニルアルコールやアルギン酸、ポリエチレングリコール系のゲルや、セルロース、ポリエステル、ポリプロピレン、塩化ビニルなどのプラスチック系のものなどが上げられるが、特に限定しない。形状については、球形や円筒形、多孔質、立方体、スポンジ状、ハニカム状などの成形をおこなったものを使用することが好ましい。また,微生物の自己造粒を利用したグラニュールも本発明に使用できる。
【0032】
馴養済み槽10及び未馴養槽12の槽内には、棒状の不織布を固定化材料とした微生物固定化材14A、14Bが被処理水中に垂直に浸漬されており、原水配管16A,16Bを介して原水ポンプ18A、18Bにより槽10、12底部から供給された被処理水は槽10、12内を上向流として流れ、槽10、12上部から処理水管20A,20Bを介して排出される。ここで、図1に黒色で示した微生物固定化材14Aは、嫌気性アンモニア酸化細菌が優占繁殖した馴養済みの微生物固定化材であることを意味し、白色で示した微生物固定化材14Bは未だ嫌気性アンモニア酸化細菌が優占繁殖していない未馴養の微生物固定化材又は新たに補充した微生物固定化材であることを意味する。
【0033】
馴養済み槽10及び未馴養槽12の槽内底部には、分散盤22A,22Bが設けられ、原水配管16A,16Bから流入した被処理水は、槽10、12内全体に均等な上向流を形成すると同時に局所的に亜硝酸性窒素濃度(NO2 −N)が高くなり、嫌気性アンモニア酸化細菌が失活するのを防止するものである。
【0034】
図2及び図3に示すように、これら馴養済み槽10及び未馴養槽12は、同じ廃水処理場に設けられていても、別々の廃水処理場に設けられていてもよい。
【0035】
図2は、同一の廃水処理場内において、既に嫌気性アンモニア酸化細菌の馴養済み(運転中)のA系列の馴養済み槽10から、これから立ち上げ運転を行うB系列の未馴養槽12に、馴養済みの微生物固定化材14Aを移動することを示している。このように、同一の廃水処理場内において多数の処理系列A,B,C,Dを運転する際に、先に立ち上げた処理系列の嫌気性アンモニア酸化細菌を、他の処理系列の種汚泥とすることができる。
【0036】
図3は、既に嫌気性アンモニア酸化細菌の馴養済み(運転中)の廃水処理場Aから、これから立ち上げ運転を行う他の廃水処理場Fに、馴養済みの微生物固定化材14Aを移動することを示している。このように、異なる廃水処理場A,Fの間において、運転を開始しようとする一方の廃水処理場Fに対して、先に立ち上げた廃水処理場Aの汚泥を移送することができる。
【0037】
かかる馴養済み槽10と未馴養槽12とを使用して本発明の嫌気性アンモニア酸化槽の運転方法を実施するには、図1に示したように、馴養済み槽10から馴養済みの微生物固定化材14Aの一部を引き抜き、未馴養槽12に投入する。そして、馴養済み槽10には、未馴養な微生物固定化材14Bを補充し、運転を継続する。一方、未馴養槽12には、馴養済み槽10からの微生物固定化材14Aに加えて立ち上げ運転を行う。この場合、馴養済みの微生物固定化材14Aは、そのまま使用するとは限らず、固定化されている嫌気性アンモニア酸化細菌を引き剥がして馴養汚泥として未馴養槽12に添加してもよい。
【0038】
かかる本発明の運転方法において、馴養済み槽10で馴養した微生物固定化材14Aが包括固定化担体で、馴養済み槽10内の包括固定化担体の全量の一部を未馴養槽12に投入する場合には、図4に示す包括固定化担体の製造方法によって、未馴養槽12に投入する包括固定化担体の数を増量するとよい。
【0039】
図4に示すように、馴養済み槽10から引き抜いた包括固定化担体は、ホモジナイザー等により包括固定化担体を液状化する(液状化工程)。このときに、嫌気性アンモニア酸化細菌の中間代謝物であり酸素の混入を防ぐ還元剤であるヒドラジン及び/又は嫌気性アンモニア酸化細菌の中間代謝物であるヒドロキシルアミンを添加すると好ましい。次に、液状化した包括固定化担体に水又は活性汚泥を混合する(混合工程)。次に、混合工程で混合した混合物と包括固定化材料であるゲル化材料とを混合すると共に、ゲル化材料には、水や反応調整剤としての希硫酸が加えられる。そして、過酸化カリウム等の重合開始剤を添加して重合反応を起こすことにより、ゲル化材料をゲル化し、混合物をゲル化材料に包括固定する(包括固定化工程)。このように、液状化した包括固定化担体に活性汚泥を混ぜて増量することにより包括固定化担体の数を増やすことができると共に、製造された包括固定化担体内には、他の細菌よりも嫌気性アンモニア酸化細菌の優占比率が高くなっており、馴養され易い状態になっている。
【0040】
また、馴養済み槽10に補充する未馴養の微生物固定化材14A、及び未馴養槽12に投入する未馴養の微生物固定化材14Bが付着固定タイプの場合には、投入する前に固定化材料に予め汚泥等の微生物を付着させてから投入してもよい。また、このとき汚泥内に付着している有機物は、嫌気性アンモニア酸化細菌の馴養を阻害することから、槽内のBOD濃度を50mg/L以下まで低下させた後、馴養済みの嫌気性アンモニア酸化細菌を投入することが好ましい。また、微生物の付着していない固定化材料を投入して、運転中に微生物を付着させてもよい。
【0041】
表1は、かかる本発明の運転方法を行うことによって、増殖速度の遅い嫌気性アンモニア酸化細菌の馴養期間を短縮できることを説明した試験結果である。
【0042】
試験は、無機合成廃水を用いて、嫌気性アンモニア酸化法を利用して実験装置として構成した未馴養槽12の立上げを行った。尚、表1で添加とは、馴養済みの微生物固定化材14Aの投入に加えて、馴養済み槽10内で浮遊する馴養汚泥自体も未馴養槽12内に添加した場合で、無添加とは添加しない場合をいう。
【0043】
【表1】

【0044】
試験1は、嫌気性アンモニア酸化細菌が馴養されていない活性汚泥を付着した不織布を未馴養槽12に投入して立ち上げを行った場合である。
【0045】
立ち上げの運転条件として、新品の不織布を下水汚泥(汚泥濃度:MLSS30000mg/Lの汚泥)に浸漬し、不織布に下水汚泥を付着させたものを未馴養槽12に投入した。また、下水汚泥を付着させた不織布以外、下水汚泥自体も未馴養槽12に添加した。原水組成については、A.A.van de Graaf et.al Microbiology(1996),142,p2187-2196 を参考として、表2に示す組成のものを使用し、亜硝酸性窒素(NO2 −N)濃度及びアンモニア性窒素(NH4 −N)濃度を変化させて運転を行った。
【0046】
【表2】

【0047】
(備考)T.EllementS1:EDTA:5g/L,FeSO4 :5g/L
T.EllementS2:EDTA:15g/L,ZnSO 4 ・7H2 O:0.43g/L,CoCl2 ・6H2 O:0.24g/L,MnCl2 ・4H2 O:0.99g/L,CuSO4 ・5H2 O:0.25g/L,NaMoO 4 ・2H2 O:0.22g/L,NiCl2 ・6H2 O:0.19g/L,NaSeO 4 ・10H 2 O:0.21g/L,H 3 BO4 :0.014g/L
その結果、未馴養槽12では、運転開始から約124日目にアンモニアと亜硝酸の同時脱窒を開始し、嫌気性アンモニア酸化活性を確認した。その後、220日目に脱窒速度0.45(kg-N/m 3 / 日) を確認した。試験1の場合、馴養期間は220日であるが、未だ嫌気性アンモニア酸化法を利用した脱窒速度は十分ではない。
【0048】
試験2は、硝化汚泥を不織布に付着したものを未馴養槽12に投入して立ち上げた場合である。硝化汚泥とは硝化・脱窒装置の硝化槽からサンプリングした汚泥である。運転条件としては、先ず新品の不織布を硝化汚泥(汚泥濃度:MLSS30000mg/Lの汚泥)に浸漬し、不織布に硝化汚泥を付着させた。また、硝化汚泥が付着した不織布以外に、硝化汚泥自体も未馴養槽12に添加した。添加量は試験1と同様で以下の試験も添加した場合の添加量と同じである。その他は試験1と同様である。
【0049】
その結果、運転日数180日後であってもアンモニアと亜硝酸の同時脱窒を開始することはなく、嫌気性アンモニア酸化活性を確認することができなかった。即ち、馴養によって嫌気性アンモニア酸化細菌が優占繁殖せず、未馴養槽12を立ち上げることができなかった。
【0050】
試験1と試験2から、嫌気性アンモニア酸化細菌が優占繁殖していない未馴養な微生物固定化材では、未馴養槽12を立ち上げることができないか、立ち上がったとしても極めて長期間を要してしまうことが分かる。
【0051】
試験3〜7は本発明の運転方法であり、予め運転しておいた馴養済み槽10から馴養した微生物固定化材14Aを引き抜き、未馴養槽12に投入して未馴養槽12の立ち上げを行ったものである。即ち、予め運転しておいた馴養済み槽10は、不織布を固定床として槽内に見かけ充填率として80%投入した。そして、表2に示したように、亜硝酸性窒素濃度(NO2 −N)を200mg/L、アンモニア性窒素濃度(NH4 −N)を250mg/Lに調整した無機合成廃水を使用し、脱窒速度3〜5(kg-N/m 3 / 日) で運転を行った。このように、試験3〜7における馴養済み槽10の微生物固定化材14Aは、上記の不織布を固定床とした種床のものを使用し、これを未馴養槽14に添加する。馴養汚泥量は、ほぼ一定となるように試験した。尚、試験では馴養済み槽10の微生物固定化材14Aの形態は不織布を固定床としたが、これに限定されるものではない。また、未馴養槽14に添加する微生物固定化材の形態も不織布に限るものではなく、試験では不織布の場合以外に、包括固定化担体、PVAゲルビーズ、グラニュールの色々な形態で行った。
【0052】
試験3は、馴養済み槽10から馴養済みの微生物固定化材14A全体のうちの5%を引き抜いて未馴養槽12に投入すると共に、残りの95%は未馴養な活性汚泥を付着させた新品の微生物固定化材14Bを投入した。また、馴養済み槽10内の馴養汚泥自体は添加しなかった。その結果、運転開始後52日後には未馴養槽12の脱窒速度が3.0(kg-N/m 3 / 日) になり、しかも馴養済み槽10と同じレベルの嫌気性アンモニア酸化活性を得ることができた。即ち、試験3の馴養期間は52日であり、嫌気性アンモニア酸化法を利用した十分な脱窒速度を得ることができた。
【0053】
試験4は、馴養済み槽10から5%引き抜いた馴養済みの微生物固定化材14Aのうちの4%分を未馴養槽12に投入し、残り1%分は汚泥を引き剥がして未馴養槽12に投入した。その結果、運転開始後40日後には未馴養槽12の脱窒速度が3.3(kg-N/m 3 / 日) になり、馴養汚泥自体を添加したので試験3よりも良い結果となった。試験4の馴養期間は40日であり、嫌気性アンモニア酸化法を利用した十分な脱窒速度を得ることができた。
【0054】
試験5は、馴養済み槽10から5%引き抜いた馴養済みの微生物固定化材14Aから汚泥を引き剥がし、活性汚泥を混合した混合物をポリエチレングリコール系のゲルで固定化し、ペレット状に成形することで包括固定化担体を得た。ゲル濃度は15重量%であり、担体内の混合物濃度は1.5重量%であった。
【0055】
この包括固定化担体を未馴養槽12に担体充填率30%になるように投入して試験を行
った結果、運転開始後約1ヶ月(31日)で未馴養槽12の脱窒速度が3.3(kg-N/m 3 / 日) になり、試験4よりも短期間で馴養が可能となった。
【0056】
試験6は、馴養済み槽10から5%引抜いた馴養済みの微生物固定化材14Aから汚泥を引き剥がし、この汚泥にPVA(ポリビニルアルコール)製のゲルビーズを24時間浸漬した後、汚泥とPVAゲルビーズを未馴養槽12に投入した。尚、PVAゲルビーズの未馴養槽12への充填率は見かけ容積として50%になるようにした。その結果、運転開始後60日後に、他の上記試験3、4、5よりも小さいものの、未馴養槽12の脱窒速度が1.8(kg-N/m 3 / 日) まで立ち上げることができた。脱窒速度が試験3、4、5よりも小さかった理由は、PVAゲルビーズに付着されている馴養汚泥が一部剥離して槽から流出したためと考えられる。
【0057】
試験7は、馴養済み槽10から5%引抜いた馴養済みの微生物固定化材14Aから汚泥を引き剥がし、この汚泥にグラニュールを24時間浸漬した後、汚泥とグラニュールを未馴養槽12に充填した。グラニュールの未馴養槽12への充填率は見かけ容積として40%になるように充填し、UASB装置を用いて運転した。その結果、運転開始後50日後に、未馴養槽12の脱窒速度が3.5(kg-N/m 3 / 日) になり、馴養済み槽10と同じレベルの嫌気性アンモニア酸化活性を得ることができた。即ち、試験7の馴養期間は50日であり、嫌気性アンモニア酸化法を利用した十分な脱窒速度を得ることができた。
【0058】
また、表1の試験3〜7から分かるように、本発明の運転方法を実施した場合の馴養期間は1〜2ヶ月である。このことから馴養済み槽10に補充した未馴養の微生物固定化材14Bは1ヶ月以上の馴養期間が必要であり、好ましくは2ヶ月以上の馴養が必要である。従って、馴養済み槽10からの引き抜き頻度は、馴養済み槽10内の馴養済みの微生物固定化材14Aの全量が1ヶ月以上、より好ましくは2ヶ月以上をかけて補充した微生物固定化材14Bに切り替わる速さで少量ずつ引く抜くことが好ましい。この引き抜き頻度よりも速く引き抜くと、馴養済み槽10内に未馴養の微生物固定化材が多く占めるようになり、馴養済み槽10の脱窒性能を悪化させることになる。
【0059】
また、本発明の運転方法においては、馴養済み槽10から一度に引き抜く微生物固定化材14Aの引き抜き量は、馴養済み槽10の微生物固定化材14A全量の25%以下であることが好ましい。
【0060】
図5は、馴養済み槽10から一度に引き抜く微生物固定化材14Aの引き抜き量と、馴養済み槽10における脱窒性能との関係を調べた試験結果であり、脱窒性能は脱窒速度を測定することで評価した。
【0061】
試験は、亜硝酸性窒素濃度(NO2 −N)220mg/L、アンモニア性窒素濃度(NH4 −N)200mg/Lに調整した表2の無機合成廃水を用い、HRTを3時間として運転条件の馴養済み槽10(実験装置)を6槽用意した。微生物固定化材14Aの固定化材料としては不織布を用いた。6槽とも、微生物固定化材14Aを引き抜く前の脱窒速度は2.5(kg-N/m 3 / 日) であった。
【0062】
そして、6槽の馴養済み槽10からの微生物固定化材14Aの引き抜き量を、微生物固定化材14A全体に対して3%、5%、10%、15%、25%、30%になるように引き抜いた。
【0063】
その結果を図5に示す。図5の横軸は微生物固定化材14Aを引き抜いてからの経過日数であり、縦軸は馴養済み槽10の脱窒速度である。図5から分かるように、引き抜き量が10%以下であれば、引き抜いてからの日数が経過に伴う脱窒速度の低下は殆どない。
引き抜き量が15%及び25%では、引き抜いた直後から10日程度まで脱窒速度が少し低下し、10日以降再び元の脱窒速度に戻る。しかし、引き抜き量が30%になると、引き抜いてからの日数が経過に伴って脱窒速度が急激に低下し、経過日数5日目で脱窒速度が約1(kg-N/m 3 / 日) まで急激に低下し、その後30日経過しても脱窒速度の回復気配はなかった。
【0064】
図5の結果から、馴養済み槽10から一度に引き抜く馴養済みの微生物固定化材14Aの引き抜き量は、微生物固定化材14A全量の25%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下であり、特に好ましくは5%以下である。
【0065】
従って、馴養済み槽10を嫌気性アンモニア酸化細菌の培養のための培養槽として兼用する場合には、馴養済み槽10から引き抜く微生物固定化材14Aの引き抜き量を25%以下とし、且つ1〜2ヶ月以上かけて補充した微生物固定化材14Bに切り替わるように引き抜くことが重要である。
【0066】
また、本発明の運転方法においては、馴養済み槽10には、微生物固定化材14Aを引き抜くことを前提として過剰の微生物固定化材14Aを馴養しておくことが好ましい。脱窒速度3.0(kg-N/m 3 / 日) で運転している馴養済み槽10を使用して、引き抜く前に予め引き抜き量に相当する5%の微生物固定化材14Aを過剰に投入しておき、その5%の微生物固定化材14Aを1度に引き抜くと同時に、新しい微生物固定化材14Bを補充する引き抜き・補充操作を1ヶ月に1回行って連続運転を行った。その結果、馴養済み槽10から微生物固定化材14Aを5%引き抜いても馴養済み槽10の脱窒速度の低下はなく、また馴養済み槽10からの処理水の水質の悪化もなかった。これにより、馴養済み槽10を培養槽として兼用し、1ヶ月に1度、馴養済みの微生物固定化材14Aを得ることができ、他の未馴養槽12の種菌として利用することができた。
【0067】
以上は、脱窒性能を悪化せずに馴養済み槽10から引き抜く微生物固定化材14Aの引き抜き量と引き抜き頻度等に関して説明したものであるが、馴養済み槽10から同量の微生物固定化材14Aを引き抜いても、引き抜く馴養済み槽10内の部位が異なると馴養済み槽10の脱窒性能に悪影響がでるので、引き抜く部位を適切に設定する必要がある。
【0068】
図6は、適切な引き抜き部位を設定するために、馴養済み槽10の脱窒速度分布を調べたものである。
【0069】
試験は、図1に示した被処理水が上向流で流れる縦型の馴養済み槽10を使用すると共に、不織布を固定化材料とした馴養済みの微生物固定化材14Aを使用し、無機合成廃水による廃水処理試験を行った。馴養済み槽10内には、直径100mm×長さ300mmの複数本の丸棒状の不織布を垂直方向に浸漬配置した微生物固定化材14Aが設けられる。被処理水の組成は表2に示した無機合成廃水を使用し、亜硝酸性窒素(NO2 −N)濃度及びアンモニア性窒素(NH4 −N)濃度を変化させて運転を行った。水温は36°C、HRT6時間、窒素負荷が約1.8〜2.2(kg-N/m 3 / 日) の負荷で1カ月間の連続運転を行った。このときの脱窒速度は1.3〜1.62(kg-N/m 3 / 日) であった。
【0070】
そして、1カ月後に、微生物固定化材14Aのうちの1本を馴養済み槽10から取り出して長さ方向に5cmずつ6つの短冊に切断し、短冊ごとの脱窒速度を調べた。結果は図6に示す。
【0071】
図6の棒グラフは、微生物固定化材14Aの不織布を切断した6つの短冊のそれぞれの脱窒速度を示したものであり、No.1は不織布の一番下の短冊で、不織布の下から50mmの位置で切断した短冊である。同様に、No.2は下から2番目の短冊、No.3は下から3番目の短冊、No.4は下から4番目の短冊、No.5は下から5番目の短冊、No.6は下から6番目の短冊である。
【0072】
図6の結果から分かるように、微生物固定化材14Aの下半分の部位に相当するNo.1〜No.3の短冊が高い脱窒速度を示し、微生物固定化材14Aの上半分の部位に相当するNo.4〜No.6の短冊が低い脱窒速度を示した。このことは、縦型の馴養済み槽10の例で見たときに、馴養済み槽10内の脱窒速度は均一ではなく、被処理水の流入側(槽下部)から流出側(槽上部)に至る被処理水の流れ方向から見て、流入側の脱窒速度が大きく、流出側の脱窒速度が小さいことが分かる。換言すると、流入側における嫌気性アンモニア酸化細菌の活性が高く、流出側における嫌気性アンモニア酸化細菌の活性が小さい。このことは、馴養済み槽10内を流れる被処理水の流れ方向に対して直交する方向の部位から微生物固定化材14Aを引き抜くと、馴養済み槽10の脱窒性能に悪影響を及ぼす危険がある。即ち、被処理水の流れ方向に対して直交する方向の引き抜き部位が流入側である場合には、活性の高い嫌気性アンモニア酸化細菌が多量に引き抜かれることになり馴養済み槽10の脱窒速度は顕著に悪化してしまう。
【0073】
従って、本発明の運転方法では、脱窒性能に悪影響がでないように、馴養済み槽10から微生物固定化材14Aを引き抜くときは、馴養済み槽10内を流れる被処理水の流れ方向に対して平行な方向の部位から均等に微生物固定化材14Aを引き抜くことが重要になる。尚、不織布を固定化材料とした微生物固定化材14Aの代わりに、PVAゲルビーズを円柱状容器に充填した固定床式の微生物固定化材14Aとして、馴養済み槽10内に垂直方向に複数本浸漬配置して同様に引き抜き試験を行ったが、この場合にも馴養済み槽10内を流れる被処理水の流れ方向に対して平行な方向の部位から均等に微生物固定化材14Aを引き抜くことにより、馴養済み槽10の脱窒速度に殆ど悪影響を与えることはなかった。このように、微生物固定化材14Aの引き抜く部位を適切に設定することは、不織布や円柱状容器に充填したPVAゲルビーズのように固定床式の微生物固定化材に限らない。
【0074】
そこで、微生物固定化材14Aの引き抜き部位と脱窒性能との関係を確認するために、図7の概念図に示すように、被処理水の流れ方向に対して平行な方向の部位と、流れ方向に対して直交する方向の部位の両方から馴養済みの微生物固定化材14Aを引き抜けるようにした。即ち、馴養済み槽10内に10本の微生物固定化材14Aを10本垂直に配置すると共に、各微生物固定化材14Aを10個の短冊に切断し、それぞれを図示しない支持部材で支持したものを2槽用意した。実際の馴養済み槽10では、図7の表裏方向にも微生物固定化材14Aが配置されるが、ここでは説明が理解し易いように、図示した一平面に配置された微生物固定化材14Aで説明する。これにより、図7の破線で囲んだ10個の短冊13の集合体、即ち短冊13に切断する前の微生物固定化材14Aを引き抜けば被処理水の流れ方向に対して平行な方向の部位から微生物固定化材14Aを引き抜くことになる。また、2点鎖線で囲んだ10個の短冊13の集合体15を引き抜けば、被処理水の流れ方向に対して直交する方向の部位から微生物固定化材14Aを引き抜くことになる。何れの引き抜きの場合も引き抜き量が同じになる。この2つの馴養済み槽10について、表2に示した無機合成廃水を使用し、窒素負荷が約1.8〜2.2(kg-N/m 3 / 日) の負荷で連続運転を行った。このときの脱窒速度は1.3〜1.62(kg-N/m 3 / 日) であった。そして、馴養済み槽10から排出される処理水中の亜硝酸性窒素濃度が5mg/Lになったことから脱窒性能が安定したことを確認した後、一方の馴養済み槽10からは不織布を1本引き抜き、他方の馴養済み槽10からは流れ方向に直交する10個の短冊の集合体15を引き抜いた。10個の短冊集合体15は、不織布の下から50〜75mmに位置する、流入位置側の短冊集合体15を引き抜いた。
【0075】
その結果、被処理水の流れ方向に対して平行な方向の部位から1本の不織布を引き抜いたときには、一時的に処理水の亜硝酸性窒素濃度が30mg/Lまで上昇したが、約10日で処理水の亜硝酸性窒素濃度は元の5mg/Lまで低下した。これに対し、被処理水の流れ方向に直交する部位から10個の短冊集合体15を引き抜いたときには、馴養済み槽10の脱窒速度が低下し、処理水の亜硝酸性窒素濃度が100mg/Lを超え、30日たっても脱窒性能が回復することはなかった。馴養済み槽10の嫌気性アンモニア酸化細菌を調べたところ失活してしまっていた。
【0076】
このように、馴養済み槽10内を流れる被処理水の流れ方向に対して平行な方向の部位から均等に微生物固定化材14Aを引き抜くことにより、馴養済み槽10の脱窒性能に殆ど悪影響を与えることなく微生物固定化材14Aを引き抜くことができる。
【0077】
図8は、縦型の馴養済み槽10内を流れる被処理水の流れ方向に対して平行な方向の部位から均等に微生物固定化材14Aを引き抜くことが簡単にできるように、固定化材料である不織布をユニット化したものである。図8(A)は側面概念図、図8(B)は上面概念図である。
【0078】
図8に示すように、縦型の馴養済み槽10内の被処理水中には、棒状の不織布を固定化材料とした多数の微生物固定化材14Aが上下2段に分けて垂直配置されると共に、微生物固定化材14A同士は一定の隙間(間隔)をあけて配列される。また、上下2段の微生物固定化材14Aの配置関係は、下段の隙間の上に上段の微生物固定化材14Aが配置され、上段の隙間の下に下段の微生物固定化材14Aが配置される。また、同じ列の微生物固定化材14Aにおける不織布の上端と下端とはそれぞれ連結棒17で連結される。これにより、図8(B)に示すように、上下一対の連結棒17、17に間隔をおいて複数の微生物固定化材14Aが支持された四角板状のユニット21が形成される。馴養済み槽の上段と下段のそれぞれには、複数枚のユニット21が四方を開放した骨組みのケーシング23によって支持される。このケーシング23には、一定間隔で、ユニット21を挿入するガイド溝25が垂直方向に形成され、このガイド溝25にユニット21を挿入することで、複数のユニット21を被処理水の流れ方向に対して平行に配列させることができる。
【0079】
このように、微生物固定化材14Aを固定床式にすると共に被処理水の流れ方向に平行な複数のユニット21として馴養済み槽10に浸漬させておけば、ユニット21を引き抜くことにより、被処理水の流れ方向に対して平行な方向の部位から微生物固定化材14Aを均等に且つ簡単に引き抜くことができる。また、馴養済み槽10の上段及び下段の微生物固定化材14Aの配置が互い違いになるようにすると共に、被処理水の入口に分散用の邪魔板22Aを配置したので、被処理水の流れを馴養済み槽10内全体に分散することができる。これにより、馴養済み槽10内に局所的に亜硝酸性窒素濃度が高くなるエリアが生じないようにしている。アンモニアと亜硝酸とを同時脱窒する嫌気性アンモニア酸化法において、亜硝酸は必要であるが、亜硝酸性窒素濃度が80mg/L以上になると嫌気性アンモニア酸化細菌の活性を阻害するため、馴養済み槽10内に局所的に亜硝酸性窒素濃度が高くなるエリアが生じることは好ましくないからである。
【0080】
図8は縦型の馴養済み槽10の例で示したが、図9は横型の馴養済み槽10の場合であり、図8の同じ部材や装置は同符合を付し、説明は省略する。
【0081】
横型の馴養済み槽10の場合には、被処理水(原水)は、図9(A)に示すように、馴養済み槽10の流入部(図9の左側)から流出部(図9の右側)に向けて水平方向に流れる。従って、図9(B)に示すように、馴養済み槽10内に間隔を開けて配列された馴養済みの多数の微生物固定化材14Aのうち、被処理水の流れ方向に平行な一列の微生物固定化材(黒色で示した不織布)のみを図6の場合と同様に連結棒17で連結してユニット21とし、このユニット21を引き抜くようにする。このように、引き抜き用のユニット21を1つ形成することで、微生物固定化材14Aの全てをユニット21にする必要がないので、ユニット化が容易になると共に、ユニット21の作製経費も安価になる。また、図9(C)のように1列に設けたユニット21を流入側と流出側で2つのユニット21A,21Bに分割し、馴養済み槽10の脱窒性能に応じて引き抜くユニット21A,21Bを変えるようにしてもよい。しかし、横型の馴養済み槽10の場合にも、図8の縦型の馴養済み槽10と同様に、微生物固定化材14Aの全てをユニット化するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の嫌気性アンモニア酸化槽の運転方法の実施する嫌気性アンモニア酸化装置の概念図
【図2】本発明の嫌気性アンモニア酸化槽の運転方法を同一の廃水処理場で行う場合を示した模式図
【図3】本発明の嫌気性アンモニア酸化槽の運転方法を異なる廃水処理場で行う場合を示した模式図
【図4】馴養済み槽で馴養済みの微生物固定化材が包括固定化担体の場合に、未馴養槽に投入する包括固定化担体を製造する方法の説明図
【図5】馴養済み槽から一度に引き抜く微生物固定化材の量と脱窒速度との関係を示した関係図
【図6】馴養済み槽における脱窒速度の分布を説明する説明図
【図7】馴養済み槽の脱窒性能を悪化させないための微生物固定化材の引き抜き部位を説明する説明図
【図8】本発明を実施する嫌気性アンモニア酸化装置において、微生物固定化材を被処理水の流れ方向に平行になるようにユニット化したユニットを備えた縦型の馴養済み槽の構成図
【図9】本発明を実施する嫌気性アンモニア酸化装置において、微生物固定化材を被処理水の流れ方向に平行になるようにユニット化したユニットを備えた横型の馴養済み槽の構成図
【符号の説明】
【0083】
10…馴養済み槽、12…未馴養槽、13…短冊、14A…馴養済みの微生物固定化材、14B…未馴養又は補充した微生物固定化材、15…短冊集合体、16A,16B…原水配管、17…連結棒、18A,18B…原水ポンプ、20A,20B…処理水管、21…ユニット、23…ケーシング、25…ガイド溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水中のアンモニアと亜硝酸とを嫌気性アンモニア酸化細菌により同時脱窒する嫌気性アンモニア酸化において、前記嫌気性アンモニア酸化細菌の馴養が済んだ一方の嫌気性アンモニア酸化槽から前記嫌気性アンモニア酸化細菌の一部を引き抜き、この引き抜いた嫌気性アンモニア酸化細菌をこれから馴養を行う他方の嫌気性アンモニア酸化槽に投入して立ち上げ運転を行う嫌気性アンモニア酸化槽の運転方法であって、
前記微生物固定化材は、前記嫌気性アンモニア酸化槽内を自由に流動できる固定化材料に前記嫌気性アンモニア酸化細菌を付着固定又は包括固定させた流動型の微生物固定化材であると共に、
前記一方の嫌気性アンモニア酸化槽に、前記微生物固定化材を馴養しておく工程と、
前記微生物固定化材が馴養された一方の嫌気性アンモニア酸化槽から一度に引き抜く微生物固定化材の引き抜き量が馴養した微生物固定化材全量の25%以下になるように引き抜いて前記他方の嫌気性アンモニア酸化槽に投入する工程と、
前記一方の嫌気性アンモニア酸化槽から微生物固定化材を引き抜いたら、前記一方の嫌気性アンモニア酸化細菌槽に、未馴養な新しい微生物固定化材を補充しておく工程と、を備えたことを特徴とする嫌気性アンモニア酸化槽の運転方法。
【請求項2】
前記嫌気性アンモニア酸化槽には、微生物固定化材を引き抜くことを前提として、過剰量の微生物固定化材を馴養しておくことを特徴とする請求項1の嫌気性アンモニア酸化槽の運転方法。
【請求項3】
前記一方の嫌気性アンモニア酸化槽からの微生物固定化材の引き抜きは、馴養済みの微生物固定化材の全量が1カ月以上かけて前記新しい微生物固定化材に入れ替わるように複数回に分けて引き抜くことを特徴とする請求項1又は2の嫌気性アンモニア酸化槽の運転方法。
【請求項4】
前記一方の嫌気性アンモニア酸化槽から引き抜いた馴養済みの微生物固定化材を液状化し、液状化した微生物固定化材に活性汚泥を混合し、この混合微生物とゲル化材料とを混合した混合物を重合することで包括固定化担体を形成し、この包括固定化担体を他方の嫌気性アンモニア酸化槽に投入することを特徴とする請求項1〜3の何れか1の嫌気性アンモニア酸化槽の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−75817(P2007−75817A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−298010(P2006−298010)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【分割の表示】特願2004−181540(P2004−181540)の分割
【原出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】