説明

嫌気性処理装置及び嫌気性処理方法

【課題】 低濃度の有機物含有廃水を効率的に処理することが可能な嫌気性処理装置及び嫌気性処理方法を提供する。
【解決手段】 嫌気性微生物のグラニュールが備えられてなる槽を有し、該槽内において前記嫌気性微生物により有機物含有廃水が嫌気性処理されるように構成されてなる嫌気性処理装置であって、前記有機物含有廃水の生物化学的酸素要求量が1200mg/L以下であり、前記槽内の底部に配置された攪拌翼を有する攪拌手段が設けられ、該攪拌手段は、前記攪拌翼の末端から径方向外側に10cm離れた位置での流速が0.3m/秒を超え0.8m/秒以下となるように前記槽内を攪拌するものであることを特徴とする嫌気性処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嫌気性処理装置及び嫌気性処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、有機物含有廃水(例えば、下水汚泥、工場廃水(食品工場、化学工場、電子産業工場、パルプ工場等の工場からの廃水)等)の浄化処理においては、嫌気性微生物(例えば、メタン生成菌、酸生成菌等)が備えられてなる嫌気性処理槽内で廃水中の有機物を嫌気性処理してメタン、二酸化炭素等に分解することにより、有機物を廃水から除去することが行われている。
【0003】
このような嫌気性処理では、嫌気性微生物が自己造粒化したもの(グラニュール)が使用されているが、嫌気性微生物(特にメタン生成菌)の増殖速度が遅いことや、懸濁物質がグラニュールの良好な形成に悪影響を及ぼすことから、グラニュールを用いた嫌気性処理は、主に有機物濃度が比較的高く、懸濁物質濃度が低い廃水に用いられていた。
【0004】
そこで、流動性があり、軽量で破壊に強い微生物固定化用担体に嫌気性微生物を固定し、嫌気性処理槽内を連続的又は間欠的に攪拌することによって、懸濁物質を多く含むような有機物含有廃水を効率的に処理する技術が提案されている(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−62594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、かかる技術のように、有機物含有廃水を処理するために担体に依存せざるを得ない場合、担体の比重等の特性によっては、嫌気性処理槽内での担体の流動状態がグラニュールの流動状態と乖離するため、有機物含有廃水中の有機物と嫌気性微生物との接触状態に悪影響を及ぼす結果、嫌気性処理効率に悪影響を及ぼすおそれがある。従って、担体を用いることなく嫌気性微生物のグラニュールを用いて嫌気性処理を行うことが望ましい。
【0007】
一方、かかるグラニュールを用い、嫌気性処理槽の底部側から該嫌気性処理槽内に有機物含有廃水を流入させ、嫌気性処理槽の上部からオーバーフローさせて排出するまでの間に嫌気性処理を行うとき、有機物含有廃水(被処理水)が高濃度の場合には、通常は有機物とグラニュールの反応により発生したガス(バイオガス)によって槽内が攪拌されるため、被処理水とグラニュールの接触が良好に保たれ、良好な廃水処理が可能となる。一方、有機物含有廃水が低濃度の場合には、断面積当たりのバイオガス発生量が減少するため、被処理水とグラニュールの接触が悪くなるという問題があった。
【0008】
このため、有機物含有廃水が低濃度の場合には、嫌気性処理槽内への、該嫌気性処理槽の断面積当たりの流入水量を大きくし、嫌気性処理槽内での有機物含有廃水の上昇流速を大きくすることによって、該廃水を処理していた。具体的には、嫌気性処理槽の断面積を小さくすることや、嫌気性処理槽から排出された処理水を循環させて原水に混合し、嫌気性処理槽内への流入水量を増加させることによって、上昇流速を大きくしていた。
【0009】
しかし、このように上昇流速を増加させて低濃度の有機物含有廃水を処理するとかかる上昇流速の増加に伴って嫌気性処理槽からのグラニュールの流出量も多くなるため、その分嫌気性微生物量が減少し嫌気性処理の効率の低下を招くおそれがある。また、有機物濃度が低い場合はその分嫌気性微生物の増殖量も低下するため、高濃度の場合に比べてグラニュール流出の影響はより顕著となる。このように、低濃度の有機物含有廃水を効率的に処理することは困難であった。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑み、低濃度の有機物含有廃水を効率的に処理することが可能な嫌気性処理装置及び嫌気性処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意研究したところ、有機物含有廃水が低濃度の場合に、嫌気性処理槽内における嫌気性処理効率が高濃度の場合よりも低下する原因として、有機物とグラニュールとの接触量がそもそも少ないこと、また、かかる接触量の少なさに起因して、グラニュールによる有機物の処理時に発生するメタン、CO2等のバイオガスの量も少なくなり、バイオガスの発生による嫌気性処理槽内の攪拌作用が十分に得られず有機物とグラニュールとの接触量がさらに低下すること、さらに、かかる攪拌不足からグラニュール間に有機物含有廃水の短絡流路が形成され易くなり、かかる短絡流路が形成されると、該廃水中の有機物が少ないことと相俟って有機物とグラニュールとの接触量がさらに低下すること、が判明した。そして、このような有機物とグラニュールとの接触効率の低下により、有機物含有廃水が低濃度の場合には、十分に廃水処理を行うことが困難であることが判明した。
【0012】
さらに、本発明者らは、有機物含有廃水が低濃度の場合には、攪拌機による嫌気性処理槽内での攪拌を十分に行うことによって、有機物含有廃水が低濃度であっても、該廃水中の有機物とグラニュールとの接触効率を向上させてこれらの接触量を十分に確保し、効率的に廃水処理を行うことができることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の嫌気性処理装置は、嫌気性微生物のグラニュールが備えられてなる槽を有し、該槽内において前記嫌気性微生物により有機物含有廃水が嫌気性処理されるように構成されてなる嫌気性処理装置であって、前記有機物含有廃水の生物化学的酸素要求量が1200mg/L以下であり、攪拌翼が前記槽内の底部に配置されてなる攪拌手段が設けられ、該攪拌手段は、前記攪拌翼の末端から径方向外側に10cm離れた位置での前記有機物含有廃水の流速が0.3m/秒を超え0.8m/秒以下となるように前記槽内を攪拌するものであることを特徴とする。
【0014】
これにより、有機物含有廃水が低濃度であっても、有機物含有廃水中の有機物とグラニュールとの接触効率を高めることができるため、低濃度の有機物含有廃水を効率的に処理することが可能となる。
【0015】
また、本発明の嫌気性処理装置においては、前記攪拌翼が、上面視円形状であり、下方に向かって幅広となるようなテーパ形状の周面と、該周面上に回転軸を中心として放射状に配置されるように形成された羽根部と、を有するものであることが好ましい。
【0016】
かかる構成の攪拌翼を用いることにより、上記槽内を縦方向に循環する流れを効率的に生じさせることができ、これにより、上記槽内からのグラニュールの流出及び上記槽内でのグラニュールの破損を抑制しつつ、上記槽内を十分に攪拌することができるため、低濃度の有機物含有廃水をより効率的に処理することができる。
【0017】
また、本発明の嫌気性処理装置においては、前記攪拌翼が、双曲面形攪拌翼であることが好ましい。
【0018】
かかる構成により、より低い攪拌翼の末端速度でグラニュールに加えられるせん断力をより減少しつつ、上記槽内を縦方向に循環する流れをより効率的に生じさせることができ、これにより、上記槽内からのグラニュールの流出及び上記槽内でのグラニュールの破損をより抑制しつつ、上記槽内を十分に攪拌することができるため、低濃度の有機物含有廃水をより効率的に処理することができる。
【0019】
また、本発明の嫌気性処理方法は、嫌気性微生物のグラニュールを備えた槽内において前記嫌気性微生物により有機物含有廃水を嫌気性処理する嫌気性処理方法であって、生物化学的酸素要求量(BOD)が1200mg/L以下である前記有機物含有廃水を前記槽内に流入させ、攪拌翼が前記槽内の底部に配置されてなる攪拌手段により、前記攪拌翼末端から径方向外側に10cm離れた位置での前記有機物含有廃水の流速が0.3m/秒を超え0.8m/秒以下となるように前記槽内を攪拌することにより実施されることを特徴とする。
【0020】
これにより、有機物含有廃水が低濃度であっても、有機物含有廃水中の有機物とグラニュールとの接触効率を高めることができるため、低濃度の有機物含有廃水を効率的に処理することが可能となる。
【0021】
また、本発明の嫌気性処理方法においては、前記攪拌翼が、上面視円形状であり、下方に向かって幅広となるようなテーパ形状の周面と、該周面上に回転軸を中心として放射状に配置されるように形成された羽根部と、を有するものであることが好ましい。
【0022】
かかる構成の攪拌翼を用いることにより、上記槽内を縦方向に循環する流れを効率的に生じさせることができ、これにより、上記槽内からのグラニュールの流出及び上記槽内でのグラニュールの破損を抑制しつつ、上記槽内を十分に攪拌することができるため、低濃度の有機物含有廃水をより効率的に処理することができる。
【0023】
また、本発明の嫌気性処理方法においては、前記攪拌翼が、双曲面形攪拌翼であることが好ましい。
【0024】
かかる構成により、より低い攪拌翼の末端速度でグラニュールに加えられるせん断力をより減少しつつ、上記槽内を縦方向に循環する流れをより効率的に生じさせることができ、これにより、上記槽内からのグラニュールの流出及び上記槽内でのグラニュールの破損をより抑制しつつ、上記槽内を十分に攪拌することができるため、低濃度の有機物含有廃水をより効率的に処理することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、低濃度の有機物含有廃水を効率的に処理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】一実施形態に係る嫌気性処理装置の概略側面図
【図2】嫌気性処理槽中の有機物含有廃水の流動状態を示す概略側面図
【図3】双曲面形攪拌翼の上面図
【図4】攪拌翼の変形例を示す側面図
【図5】攪拌翼の変形例を示す上面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
【0028】
まず、本実施形態の嫌気性処理装置について説明する。図1に示すように、本実施形態の嫌気性処理装置1は、嫌気性微生物のグラニュールを保持してなる嫌気性処理槽2を有し、該嫌気性処理槽2内において、有機物含有廃水とグラニュールとが混合されて、嫌気性微生物により有機物含有廃水を嫌気性処理して嫌気性処理水とバイオガスとを得るようになっている。
【0029】
かかるグラニュールは、メタン生成菌、酸生成菌を含む嫌気性微生物により構成される。また、嫌気性処理は、有機物含有廃水に含まれる有機物を嫌気性微生物で酸素を介さずに分解する処理を意味し、嫌気性処理では、バイオガスとしてメタン、CO2 等を含有するガスが生成される。
【0030】
また、嫌気性微生物のグラニュールとは、嫌気性微生物が自己造粒化したものをいう。嫌気性微生物がグラニュールとなることによって、嫌気性処理槽2内の有機物含有廃水が流動していない状態では嫌気性処理槽2の底部に沈降し、有機物含有廃水が攪拌されて流動すると、該廃水の流動に応じて流動するようになっている。
【0031】
嫌気性処理槽2は、ここでは円筒形状とするが、その形状は特に限定されるものではなく、その他例えば、丸底円筒形状、直方体形状、卵型形状とすることができる。また、嫌気性処理槽2の内径は、攪拌翼の直径の2〜10倍であることが好ましく、4〜6倍であることがより好ましい。また、その内径は1〜20mであることが好ましく、2〜10mであることがより好ましい。
【0032】
嫌気性処理槽2の側壁の底部側には、有機物含有廃水が流入される流入経路3が設けられている。また、流入経路3には不図示の送液ポンプが設けられており、該送液ポンプによって有機物含有廃水の嫌気性処理槽2への流入速度を調整することができるようになっている。なお、有機物含有廃水は、不図示のスクリーン、浮上分離装置、沈殿槽、ろ過装置等の固液分離手段で予め、ごみや異物等が除去された後、流入経路3から嫌気性処理槽2に流入されるようにすることもできる。
【0033】
有機物含有廃水は、嫌気性処理槽2に流入されると、グラニュールと接触しながら上方に移動し、かかる移動の間に有機物含有廃水中の有機物がグラニュール中の嫌気性微生物により加水分解、酸生成、メタン生成の各工程を経てメタンガス、CO2等のバイオガスに変換される。嫌気性処理槽2内で嫌気性処理された嫌気性処理水は、嫌気性処理槽2の上部から溢れ出すこと(オーバーフロー)によって、嫌気性処理槽2から排出される。一方、メタンガスを含むバイオガスは、ガス排出経路4から排出され、不図示の燃料ガス形成部で硫化水素等の不純物を除去され、不図示の燃料ガス貯留部に移送される。また、更にCO2を除去してメタン濃度を高めてより価値の高い燃料とすることもできる。
【0034】
嫌気性処理槽2に流入する有機物含有廃水中の生物化学的酸素要求量(BOD)は、1200mg/L以下である。かかるBODが1200mg/L以下であることにより、従来嫌気性処理が困難であった低濃度の有機物含有廃水であっても、後述するように処理することが可能となる。かかる有機物含有廃水中のBODは、嫌気微生物の増殖を促進するという観点から、大きい方が好ましく、1200mg/Lに近い程好ましい。一方、嫌気性微生物の増殖量の極度の低下を回避し、嫌気性処理を維持するという観点からすると、上記有機物のBODは、100mg/L以上であることが好ましい。
【0035】
このような低濃度の有機物含有廃水としては、例えばし尿廃水、下水や、食品工場、化学工場、電子産業工場、パルプ工場等の工場からの廃水等の工場廃水等が挙げられる。
【0036】
図1及び図2に示すように、嫌気性処理槽2には、該嫌気性処理槽2の底部に攪拌翼6を有する攪拌機(攪拌手段)5が設けられている。攪拌機5の回転軸5aは、嫌気性処理槽2内に流入された有機物含有廃水が静止状態にあるとき、該有機物含有廃水の上面に対して垂直方向に延在するように配置されており、攪拌翼6は、回転軸5aの下端に設けられている。回転軸5aの上端には、回転軸5aを回転させるための駆動手段としての駆動モータ5bが設けられており、駆動モータ5bの回転速度を調整することによって、攪拌翼6の回転速度、すなわち攪拌翼6の末端速度が調整されるようになっている。ここで、攪拌翼6の末端とは、攪拌翼6において回転軸5aから最も離れた部分をいい、末端速度とは、該最も離れた部分の速度をいう。
【0037】
また、攪拌機5は、攪拌翼6の末端から径方向外側に10cm離れた位置Aでの有機物含有廃水の流速が0.3m/秒を超え0.8m/秒以下となるように、嫌気性処理槽2内を攪拌する。かかる流速は、位置Aにおける回転軸5aと垂直な平面方向で、かつ流速の絶対値が最大となる方向の流速をいい、例えば位置Aに3次元電磁流速計の流速計センサーを配置し、流速計を上記平面方向に通過する有機物含有廃水の流速を測定することにより、測定することができる。ここで3次元電磁流速計とは、センサーの周囲に磁界を発生させておき、液体の通過に伴って発生する電流を上下・前後・左右方向で各々検知して流速を演算するものである。
【0038】
上記流速が0.3m/秒を超えることにより、嫌気性処理槽2内を十分に攪拌することができるため、有機物とグラニュール(図1に符号7として示す)との接触回数及び接触時間といった接触量を増加させることができる。また、かかる接触量を増加させることにより、グラニュールによる有機物の処理時に発生するメタン、CO2等のバイオガスの量を増加させることができ、かかるバイオガスの発生による嫌気性処理槽2内の攪拌作用を十分に得ることができ、有機物とグラニュールとの接触量をさらに増加させることができる。さらに、かかる十分な攪拌により、グラニュール間に有機物含有廃水の短絡流路が形成され難くなるため、有機物とグラニュールとの接触量をさらに増加させることができる。これにより、有機物とグラニュールとの接触効率を向上させることができるため、有機物含有廃水が上記の様に低濃度であっても、十分に廃水処理を行うことが可能となる。
【0039】
また、嫌気性処理槽2内をより十分に攪拌して該廃水中の有機物とグラニュールとの接触効率をより向上させるという観点から、上記流速は、0.4m/秒以上であることが好ましい。
【0040】
一方、上記流速が0.8m/秒以下であることにより、グラニュールの流出や破損をより抑制することができ、かかる観点から、上記流速は、0.6m/秒以下であることが好ましい。
【0041】
攪拌機5は、嫌気性処理槽2の底部に配置される攪拌翼6を有し、位置Aにおける有機物含有廃水の流速が0.3m/秒を超え0.8m/秒以下となるように嫌気性処理槽2内を攪拌可能であれば、特に限定されない。但し、嫌気性処理槽2からのグラニュールの流出及び嫌気性処理槽2内でのグラニュールの破損を抑制しつつ嫌気性処理槽2内を十分に攪拌することができるという観点から、攪拌翼6は、上面視円形状であり、下方に向かって幅広となるようなテーパ形状の周面6aと、該周面6a上に回転軸5aを中心として放射状に配置されるように形成された羽根部6bと、を有するものであることが好ましい。
【0042】
かかる攪拌機5を用いることにより、攪拌翼6が回転軸5aを中心として回転すると、攪拌翼6の近傍の有機物含有廃水は、上記テーパ状の周面6aに沿って下方へ移動すると共に、羽根部6bとの接触によって回転方向に移動する。このように攪拌翼6によって下方且つ回転方向に移動した有機物含有廃水は、攪拌翼6の径方向外側において嫌気性処理槽2の底面と略平行に、すなわち回転軸5aとは垂直な平面に沿って、嫌気性処理槽2の中央部から側壁に向かって流動する。
【0043】
かかる嫌気性処理槽2の底部における有機物含有廃水の、回転軸5a側から側壁側への流動によって、該側壁に沿って底部から上部への有機物含有廃水の流動が形成される。一方、上記のように攪拌翼6の周面6aに沿って下方に流動する有機物含有廃水に引き寄せられるようにして回転軸5aに沿って上部から底部への有機物含有廃水の流動が形成される。かかる回転軸5aに沿った上部から底部への有機物含有廃水の流動に、上記した側壁に沿った底部から上部への有機物含有廃水の流動が引き寄せられるようにして、上部において側壁側から回転軸5a側に向かう有機物含有廃水の流動が形成される。このようにして、図2に示すように、嫌気性処理槽2内において、側面から見て回転軸5aに沿って上部から底部へと下降した後、回転軸5a側から側壁側へと移動し、該側壁に沿って上昇した後、回転軸5a側へと移動するように循環する有機物含有廃水の流動が形成される。
【0044】
かかる有機物含有廃水の流動が形成されることにより、かかる流動に伴って流動するグラニュールは、嫌気性処理槽2内において一旦上昇しても再び下降するため、嫌気性処理槽2からのグラニュールの流出を抑制することができる。なお、グラニュールは有機物含有廃水よりも重く、有機物含有廃水の最上面よりも下方で流動するため、オーバーフローによって有機物含有廃水が嫌気性処理槽2から排出されても、嫌気性処理槽2からのグラニュールの流出を抑制することが可能となる。
【0045】
ここで例えば、かかる羽根部6bを有する攪拌翼6と、平板状の羽根から成る攪拌翼(平板状の攪拌翼)と、を比較すると、両者が同じ羽根面積を有し同じ回転速度で回転する場合、攪拌翼6の方が平板状の攪拌翼よりも、上述のような嫌気性処理槽2の縦方向における循環流を生じさせ易い。このため、周面6aから垂直方向に突出する羽根部6bの突出長さを、平板状の攪拌翼の回転軸方向の長さ(高さ)よりも小さくしても、嫌気性処理槽2内を十分に攪拌することができる。また、上記突出長さを上記高さよりも小さくしつつ攪拌翼6の回転速度を平板状よりも小さくすることも、可能となる。これにより、攪拌翼6を用いた場合には、グラニュールに対する羽根部6bの接触面積及び接触速度を小さくすることができるため、グラニュールに対する羽根部6bのせん断力を小さくすることができ、グラニュールの破損をより抑制することができる。
【0046】
このような攪拌翼6を用いることにより、グラニュールの流出及び破損を抑制しつつ、嫌気性処理槽2内の攪拌を十分に行うことができるため、有機物含有廃水中の有機物とグラニュールとの接触効率をより向上させることができ、低濃度の有機物含有廃水をより効率的に処理することができる。
【0047】
かかる攪拌翼6としては、例えば図1〜図3に示すような双曲面形攪拌翼が好ましい。かかる双曲面形攪拌翼は、双曲面形状を有する周面6aに羽根部6bが形成されて構成される攪拌翼である。すなわち、上面視円形状であり、回転軸5aに対する傾斜角度が回転軸5a側から末端に行くほど大きくなるように下方に向かって幅広となるようなテーパ状の周面6aと、該周面6a上に回転軸を中心として放射状に配置され、且つ双曲面形攪拌翼の回転方向に対し末端側が回転軸5a側よりも後退側に配置されるように湾曲して形成された羽根部6bと、を有している。
【0048】
周面6aがこのように湾曲していることにより、周面6aにおいて回転軸5aに対する傾斜角度が小さい部分に沿って有機物含有廃水が下方に向かう力を、傾斜角度が大きい部分に沿って有機物含有廃水が径方向外側に向かう力へと効率的に転換することができる。また、羽根部6bが上記のように湾曲していることにより、より小さな末端速度で位置Aにおける有機物含有廃水の流速を大きくすることができる。これにより、グラニュールに加えられるせん断力をより減少しつつ、より低い末端速度で嫌気性処理槽2内を十分に攪拌することができるため、低濃度の有機物含有廃水をより効率的に処理することができる。
【0049】
このような攪拌翼6の末端速度は、嫌気性処理槽2の容量、内径や、攪拌翼6の直径に応じて、位置Aにおける有機物含有廃水の流速が0.3m/秒を超え0.8m/秒以下となるように適宜設定することができる。例えば、攪拌翼6として直径2mの双曲面形攪拌翼を用い、円筒形状の嫌気性処理槽2の容量を282m3、内径を6m、深さ10mとする場合、攪拌翼6の末端速度を0.4m/秒を超えるようにすることによって、位置Aにおける有機物含有廃水の流速を0.3m/秒を超えるようにすることができ、上記末端速度を1.2m/秒以下とすることによって、位置Aにおける有機物含有廃水の流速を0.8m/秒以下とすることができる。
【0050】
また、攪拌翼6の末端速度を0.6m/秒以上とすることによって、位置Aにおける有機物含有廃水の流速を0.4m/秒以上とすることができる。一方、上記末端速度を0.9m/秒以下とすることによって、位置Aにおける有機物含有廃水の流速を0.6m/秒以下とすることができる。
【0051】
また、上記した図2に示すような有機物含有廃水の流動を可能にする攪拌翼6としては、上記双曲面形攪拌翼の他、例えば図4及び図5に示すように、回転軸5a側から末端側まで同じ傾斜角度を有する周面6aと、該周面6a上に回転軸5aを中心として放射状に配置され、且つ回転方向に対し回転軸5a側と末端側とが同じ位置に配置されるように真っ直ぐ延在するように形成された突出部6bと、を有するものを挙げることもできる。
【0052】
本実施形態の嫌気性処理装置は、上記の如く構成されてなるが、次に、本実施形態の嫌気性処理方法について説明する。
【0053】
本実施形態の嫌気性処理方法は、上記した嫌気性微生物のグラニュールを備えた嫌気性処理槽2内において嫌気性微生物により有機物含有廃水を嫌気性処理する嫌気性処理方法であって、上記したように生物化学的酸素要求量が1200mg/L以下である有機物含有廃水を嫌気性処理槽2内に流入し、嫌気性処理槽2内の底部に配置された攪拌翼6を有する攪拌機5により、攪拌翼6の末端から径方向外側に10cm離れた位置Aでの有機物含有廃水の流速が0.3m/秒を超え0.8m/秒以下となるように嫌気性処理槽2内を攪拌することにより実施される。
【0054】
尚、本実施形態の嫌気性処理装置1及び嫌気性処理方法は、上記構成により、上記利点を有するものであったが、本発明の嫌気性処理装置及び嫌気性処理方法は、上記構成に限定されず、適宜設計変更可能である。
【実施例】
【0055】
次に、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。
【0056】
廃水(食品工場廃水、生物化学的酸素要求量(BOD):1500mg/L、化学的酸素要求量(CODCr):3750mg/L)を、円筒状の嫌気性処理槽(容積:282m3、内径:6m、深さ:10m)内において嫌気性微生物(メタン生成菌及び酸生成菌)のグラニュールで嫌気性処理している嫌気性処理槽内に、該嫌気性処理槽の底部に図2に示すような直径2mの双曲面形攪拌翼を有する攪拌機を設置した。攪拌翼の末端から径方向外側に10cm離れた位置に、流速計(JFEアドバンテック製、3次元電磁流速計、型式AEM213−D)を配置して、かかる位置での廃水の流速を測定しつつ、異なる濃度条件で処理を行った。
【0057】
攪拌機設置前(攪拌を行わない状態で)の高濃度廃水処理(BOD1500mg/L)において、メタン生成の活性の指標となる投入BOD1g当りのメタン発生量(以下、メタン発生量と表記)を測定したところ、0.70L・メタン/g・BODであった。
【0058】
これに対し、高濃度廃水を希釈してBOD濃度を1200mg/L、600mg/Lとし、以下のように攪拌条件を変えてメタン発生量を測定した。
【0059】
BOD濃度を1200mg/Lとした場合、双曲面形攪拌翼の末端速度各種条件における流速、メタン発生量及び、嫌気性処理槽から流出する懸濁物質(SS)濃度は、表1の通りであった。
【表1】

【0060】
この結果、流速0.4〜0.8m/秒の条件では、メタン発生量は、比較対象の高濃度廃水の無攪拌処理の場合と比べて±3%の範囲に収まっており、高濃度廃水と同程度の良好な嫌気性処理性能が発揮された。また、嫌気性処理槽から流出するSS濃度は、100mg/L以下であった。
【0061】
一方、流速0.3m/秒の条件では、メタン発生量は、比較対象の高濃度廃水の場合と比べて17%の低下が認められた。また、流速1.0m/秒の条件では、嫌気性処理槽から流出するSS濃度が300mg/L以上となった。このSS濃度は、微生物の増殖量から予想されるSSの流出増加量(通常100mg/L以下)を上回っているため、グラニュール汚泥の維持が困難となり処理の継続は困難と考えられる。なお、このようにグラニュールの流出量の過度の増加によって嫌気性処理の継続が困難となることを考慮し、流速1.0m/秒の条件ではメタン発生量の測定を実施しなかった。
【0062】
BOD濃度を600mg/Lとした場合、双曲面形攪拌翼の末端速度各種条件における流速、メタン発生量及び、嫌気性処理槽から流出するSS濃度は以下の通りであった。
【表2】

【0063】
この結果、流速0.4〜0.8m/秒の条件では、メタン発生量は、比較対象の高濃度廃水の無攪拌処理の場合と比べて±5%の範囲に収まっており、高濃度廃水と同程度の良好な嫌気性処理性能が発揮された。また、嫌気性処理槽から流出するSS濃度は、100mg/L以下であった。
【0064】
一方、流速0.3m/秒の条件では、メタン発生量は、比較対象の高濃度廃水の場合と比べて69%の低下が認められた。また、流速1.0m/秒の条件では、上記したBOD濃度が1200mg/Lの場合と同様に、嫌気性処理槽から流出するSS濃度が300mg/L以上となった。このSS濃度は、上記した微生物の増殖量から予想されるSSの流出増加量を上回っているため、グラニュール汚泥の維持が困難となり処理の継続は困難と考えられる。なお、このようにグラニュールの流出量の過度の増加によって嫌気性処理の継続が困難となることを考慮し、流速1.0m/秒の条件ではメタン発生量の測定を実施しなかった。
【0065】
以上の結果、攪拌翼の末端から径方向外側に10cm離れた位置での廃水の流速が0.3m/秒以下の場合には、攪拌不足により、嫌気性処理量が小さくなることが認められた。また、流速が0.8m/秒を超える場合には、グラニュールの流出が生じたため、嫌気性処理の継続が困難となることが認められた。これに対し、廃水の流速が0.3m/秒を超え0.8m/秒以下の場合には、攪拌不足による投入BOD量当りのメタン発生量の低下や、グラニュールの流出やグラニュールの破損が認められず、通常の高濃度廃水の場合と同様に、嫌気性処理が効率的になされることが認められた。
【符号の説明】
【0066】
1:嫌気性処理装置、2:嫌気性処理槽、3:流入経路、4:ガス排出経路、5:攪拌機、5a:回転軸、6:攪拌翼、6a:周面、6b:羽根部、7:グラニュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性微生物のグラニュールが備えられてなる槽を有し、該槽内において前記嫌気性微生物により有機物含有廃水が嫌気性処理されるように構成されてなる嫌気性処理装置であって、
前記有機物含有廃水の生物化学的酸素要求量が1200mg/L以下であり、
攪拌翼が前記槽内の底部に配置された攪拌手段が設けられ、該攪拌手段は、前記攪拌翼の末端から径方向外側に10cm離れた位置での流速が0.3m/秒を超え0.8m/秒以下となるように前記槽内を攪拌するものであることを特徴とする嫌気性処理装置。
【請求項2】
前記攪拌翼が、上面視円形状であり、下方に向かって幅広となるようなテーパ形状の周面と、該周面上に回転軸を中心として放射状に配置されるように形成された羽根部と、を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の嫌気性処理装置。
【請求項3】
前記攪拌翼が、双曲面形攪拌翼であることを特徴とする請求項1または2に記載の嫌気性処理装置。
【請求項4】
嫌気性微生物のグラニュールを備えた槽内において前記嫌気性微生物により有機物含有廃水を嫌気性処理する嫌気性処理方法であって、
生物化学的酸素要求量が1200mg/L以下である前記有機物含有廃水を前記槽内に流入させ、
攪拌翼が前記槽内の底部に配置された攪拌手段により、前記攪拌翼の末端から径方向外側に10cm離れた位置での流速が0.3m/秒を超え0.8m/秒以下となるように前記槽内を攪拌することにより実施されることを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項5】
前記攪拌翼が、上面視円形状であり、下方に向かって幅広となるようなテーパ形状の周面と、該周面上に回転軸を中心として放射状に配置されるように形成された羽根部と、を有するものであることを特徴とする請求項4に記載の嫌気性処理方法。
【請求項6】
前記攪拌翼が、双曲面形攪拌翼であることを特徴とする請求項4または5に記載の嫌気性処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−55837(P2012−55837A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202239(P2010−202239)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】