説明

嫌気的疾患用治療薬

本発明は、形質転換嫌気性微生物を活性成分として含む嫌気的疾患治療のための医薬組成物と、嫌気的疾患部位における嫌気性微生物の特異的生着および増殖を促進するための嫌気性微生物の生着および増殖促進剤を活性成分として含む医薬組成物とを組み合わせて含む、固形腫瘍などの嫌気的疾患の治療薬を提供する。さらに、本発明は、嫌気的環境下にある疾患部位における形質転換嫌気性微生物の生着および増殖を促進するための、嫌気性微生物生着および増殖促進剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本願は2009年4月17日に出願された米国仮出願61/124,528号の優先権の利益を主張する。米国仮出願61/124,528号およびその継続出願は、その全体が本願において参考として援用される。
【0002】
本発明は、新規な形質転換嫌気性微生物を含む嫌気的疾患治療剤であって、該形質転換嫌気性微生物を有効成分として含有する嫌気的疾患治療用医薬組成物と、該嫌気性微生物の嫌気的疾患部位への生着および増殖を促進する嫌気性微生物生着・増殖促進剤を有効成分として含有する医薬組成物とを組み合わせてなる嫌気的疾患治療剤に関する。さらにまた本発明は、該形質転換嫌気性微生物の嫌気的環境下にある疾患部位への生着および増殖を促進させるための、嫌気性微生物生着・増殖促進剤に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、悪性腫瘍や虚血性疾患などの嫌気的環境下にある疾患(以下、嫌気的疾患という)の治療方法、例えば、固形腫瘍の治療方法において、形質転換嫌気性微生物を遺伝子輸送担体として用いる方法が注目され、例えば、形質転換したクロストリジウムを用いた腫瘍部位への遺伝子輸送方法が提案されている(例えば、米国特許番号第6416754号、6652849号および米国特許公開公報第2003/0103952号を参照)。さらに、形質転換ビフィドバクテリウム・ロンガムについて、固形腫瘍に対する治療への応用が提案されている(例えば、特開2002-97144号公報、Yazawa et al. Cancer Gene Ther., 7, 269-274 (2000)、Yazawa et al. Breast Cancer Res. Treat., 66, 165-170 (2001)を参照)。
【0004】
これらの形質転換微生物は、大腸菌とクロストリジウムで相互複製されるシャトルプラスミドpNTR500FやpCD540FT等(米国特許番号第6416754号、6652849号および米国特許公開公報第2003/0103952号)や、大腸菌とビフィドバクテリウムで相互複製されるシャトルプラスミドpBLES100-S-eCD(特開2002-97144号公報)等の発現ベクターを用いて作製されている。これらのプラスミドベクターは全て、形質転換菌のクロストリジウムまたはビフィドバクテリウムと大腸菌とで相互複製するシャトルベクターであるので、当該プラスミドベクターで形質転換された菌は、当該形質転換遺伝子が、少なくとも当該形質転換菌以外の通性嫌気性の大腸菌に水平伝達するおそれがあるものであり、環境において、また、実際の治療において、問題が懸念されるものであった。
【0005】
また、特開2002-97144号公報は、ビフィドバクテリウム・ロンガムを投与したマウスにラクツロースを腹腔内投与することにより、腫瘍組織内でビフィドバクテリウム・ロンガムが選択的に増殖し得ることを記載している。しかし、同文献に記載の形質転換微生物は、他の嫌気性大腸菌などに水平伝達し得るプラスミドベクターを用いて形質転換したものであり、嫌気的疾患の治療において安全且つ有効に用いるためには問題が残っている。
【発明の概要】
【0006】
形質転換嫌気性微生物を用いる嫌気的疾患の治療方法においては、用いる形質転換嫌気性微生物が、非病原性および非毒性であり、且つ、嫌気的状態にある疾患組織だけにおいて生着、増殖し、嫌気的状態ではない正常な組織では生着、増殖しないことのみならず、さらに、該形質転換嫌気性微生物の形質転換遺伝子が、当該形質転換嫌気性微生物以外の病原性菌または好気性若しくは通性嫌気性菌に水平伝達しないことも必要である。
【0007】
また、形質転換嫌気性微生物を用いる嫌気的疾患の治療方法において治療効果を十分に発揮させるには、用いる形質転換嫌気性微生物が、嫌気的疾患部位において特異的に生着するのみならず、さらに、治療に有効な量になるように増殖し、しかも、治療終了までの期間において継続的に生存することが求められる。一方、生菌を静脈内または疾患組織内に投与するものであることから、血管内での影響および患者の負担をできる限り抑えるために、投与量は少ない方が好ましく、このため、必要最小量の投与により、嫌気的疾患部位特異的に、且つ、治療に有効な量まで増殖することが望まれる。
【0008】
したがって、本発明の課題は、形質転換嫌気性微生物を用いる嫌気的疾患治療方法において、安全で、実用性が高く、且つ、少ない投与量で効果を発揮することができる嫌気的疾患治療剤を提供することにある。
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、上記シャトルプラスミドpBLES100-S-eCDを改良したプラスミドpAV001-HU-eCD-M968を作製した(国際公開WO 2007-136107号公報参照)。本発明者らは、さらにこれを改良して、当該プラスミドから大腸菌の複製開始点を含む断片のpUC oriを取り除いたプラスミドpBifiCDを作製した(米国仮出願61/124,528号参照)。このプラスミドは大腸菌の複製開始点を含まないので、該プラスミドで形質転換した菌は、万一、大腸菌への水平伝達を起こしたとしても、大腸菌で複製される可能性がなく、極めて安全な形質転換嫌気性菌であり、実用的な嫌気的疾患治療剤と成り得るものである。該プラスミドで形質転換した菌、例えばビフィドバクテリウム・ロンガム105-A/pBifiCD(独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(NPMD、〒292−0818千葉県木更津市上総鎌足2−5−8)受託番号:NITE BP−491)は、良好なシトシン・デアミナーゼ(CD)発現作用を示し、該CDによって抗腫瘍物質の5−FUに変換されるプロドラッグの5−FCを併用する事により、極めて顕著な腫瘍増殖抑制効果を発揮し、優れた腫瘍治療剤として期待できるものである。しかしながら、本発明者らは、かかる形質転換菌は、生体組織におけるその生着・増殖能力が十分とはいえず、嫌気的疾患の治療に十分な量の目的遺伝子を固形腫瘍などの目的の組織へ輸送するためには、比較的大量の形質転換菌を投与する必要があるという別の問題を見出した。したがって、安全性およびコストの観点から、より効率よく菌を生着・増殖させる方法がまた必要である。
【0010】
本発明者らは、例えば前記ビフィドバクテリウム・ロンガム105-A/pBifiCD(受領番号:NITE BP-491)を有効成分とする医薬組成物の嫌気的疾患治療剤としての実用性を高めるべく鋭意検討を行ったところ、かかる形質転換嫌気性微生物と、ある種の糖類を有効成分として含有する医薬組成物とを併用する事により、嫌気的疾患部位における当該微生物の特異的生着および増殖が飛躍的に増大し、さらに、嫌気的疾患部位での該微生物の増殖を持続させ、治療効果を顕著に高めることができることを見出した。本発明者らはまた、これらの糖類を組み合わせて用いる事により、本発明の嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物の投与量を少なくしても、高投与量の場合と同等の治療効果を発揮させることができ、それによって嫌気的疾患治療剤としての安全性を高めることができることを見出した。さらに、これらの糖類が、本発明の嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物の嫌気的疾患部位への生着および増殖を促進させるため、優れた嫌気性微生物生着・増殖促進剤と成り得ることを見出した。本発明者らはこれらの知見に基づきさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1]
嫌気性微生物で機能する発現ベクターであって、大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを含まない発現ベクターで形質転換された形質転換嫌気性微生物を有効成分として含有する医薬組成物と、
嫌気的疾患部位における、該形質転換嫌気性微生物の生着・増殖促進剤を有効成分として含有する医薬組成物
とを組み合わせてなる、嫌気的疾患治療剤、
【0012】
[2] 発現ベクターが、
(1)大腸菌以外の嫌気性微生物で機能するプラスミド複製ユニット、および
(2)目的とする活性を有する蛋白質をコードするDNAと嫌気性微生物で機能するプロモーターおよびターミネーターを含むDNA断片とからなる蛋白質発現ユニット、
を含む発現ベクターである、[1]記載の疾患治療剤、
[3] 目的とする活性を有する蛋白質が、嫌気的環境下にある疾患の治療活性を有する蛋白質である、[2]記載の疾患治療剤、
【0013】
[4] 嫌気的環境下にある疾患の治療活性を有する蛋白質が、(a)抗腫瘍活性を有する蛋白質、または(b)抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質である、[3]記載の疾患治療剤、
[5] 嫌気的環境下にある疾患の治療活性を有する蛋白質が、(b)抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質である、[4]記載の疾患治療剤、
[6] 嫌気性微生物が、ビフィドバクテリウム属細菌、ラクトバチルス属細菌、エンテロコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌およびクロストリジウム属細菌からなる群より選択される、[1]記載の疾患治療剤。
【0014】
[7] 嫌気性微生物が、ビフィドバクテリウム属細菌である、[6]記載の疾患治療剤、
[8] ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・サーモフィラム、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、およびビフィドバクテリウム・ロンガムからなる群より選択される、[7]記載の疾患治療剤、
[9] ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガムである、[8]記載の疾患治療剤、
【0015】
[10] ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガム105−A/pBifiCD(独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター受領番号:NITE BP−491)である、[9]記載の疾患治療剤、
[11] 抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質が、シトシン・デアミナーゼ、ニトロリダクターゼおよびβ−グルクロニダーゼからなる群より選択される、[5]記載の疾患治療剤、
[12] 抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質がシトシン・デアミナーゼである、[11]記載の疾患治療剤、
【0016】
[13] 形質転換嫌気性微生物生着・増殖促進剤が、アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコース、マルトース、ラクトース、メリビオース、メレジトース、ラフィノース、ラクツロースからなる群より選択される少なくとも一種である、[1]記載の疾患治療剤、
[14] 形質転換嫌気性微生物生着・増殖促進剤が、グルコースまたはマルトースである、[13]記載の疾患治療剤、
[15] 形質転換嫌気性微生物生着・増殖促進剤が、マルトースである、[14]記載の疾患治療剤、
【0017】
[16] 有効成分として、アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコース、マルトース、ラクトース、メリビオース、メレジトース、ラフィノース、ラクツロースからなる群より選択される少なくとも一種を含む、嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物生着・増殖促進剤、
[17] 有効成分がグルコースまたはマルトースである、[16]記載の嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物生着・増殖促進剤、
[18] 形質転換嫌気性微生物生着・増殖促進剤がマルトースである、[17]記載の嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物生着・増殖促進剤、
【0018】
[19] 形質転換嫌気性微生物生着・増殖促進剤を有効成分として含有する医薬組成物が、静脈内投与用製剤である、[1]記載の疾患治療剤、
[20] 有効成分が、グルコースまたはマルトースである、[19]記載の疾患治療剤、
[21] さらに、(b)抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質によって抗腫瘍物質に変換される抗腫瘍物質前駆体を有効成分として含有する医薬組成物を組合せてなる、[5]記載の疾患治療剤、
[22] 抗腫瘍物質前駆体が5−フルオロシトシンである、[21]記載の疾患治療剤、に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の嫌気的疾患治療剤は、組み換え遺伝子が大腸菌で複製される可能性がなく、環境に対しても、実際の治療においても極めて安全である。また、本発明の形質転換嫌気性微生物の生着・増殖促進剤は、嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物の疾患部位への特異的生着・増殖を促進することにより治療効果を向上させ、かつ微生物の投与量を削減することを可能にする。そして、本発明の嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物を有効成分として含有する医薬組成物と、本発明の嫌気性微生物生着・増殖促進剤を有効成分として含有する医薬組成物とを組み合わせた嫌気性疾患治療剤は、該形質転換嫌気性微生物の治療効果が顕著に向上し、該形質転換嫌気性微生物の投与量も低減することができる、安全で極めて優れた治療剤として期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、プラスミド「pBifiCD」のマップを示す図である。
【図2】図2は、B.longum Re-105A/pBifiCDとマルトースの併用における腫瘍増殖抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、一態様において、嫌気性微生物で機能する発現ベクターであって、大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを含まない発現ベクターで形質転換された形質転換嫌気性微生物を有効成分として含有する医薬組成物と、嫌気的疾患部位における、該形質転換嫌気性微生物の生着・増殖促進剤を有効成分として含有する医薬組成物とを組み合わせてなる、嫌気的疾患治療剤を提供する。
【0022】
本願明細書において、「医薬組成物を組み合わせてなる疾患治療剤」とは、2種以上の医薬組成物を混合して新たな医薬組成物とした疾患治療剤、または、治療において組み合わせて用いるための2種以上の医薬組成物を含む疾患治療剤の何れかを意味する。2種以上の医薬組成物を組み合わせて用いる場合、それぞれの医薬組成物を同時に用いるものであっても、別々に、一定間隔をおいて用いるものであってもよい。
【0023】
本発明の嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物は、嫌気性菌、特に、大腸菌以外の腸内細菌、例えば、ビフィドバクテリウム属細菌、ラクトバチルス属細菌、エンテロコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、クロストリジウム属細菌等で機能するプラスミドベクターでで形質転換された嫌気性微生物である。本発明の発現ベクターは、当該形質転換菌以外の菌、特に大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを具有しない。
【0024】
これまでに報告されている嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物は、大腸菌と形質転換菌との双方で機能するシャトルベクターで形質転換されたものであり、大腸菌以外の形質転換菌のみで機能する発現ベクターで形質転換されたものではない。したがって、形質転換遺伝子が、当該形質転換嫌気性微生物以外の病原性菌または好気性若しくは通性嫌気性菌に水平伝達するおそれがあり、環境的にも、また、実際の治療においても問題が懸念されるものであった。
【0025】
これに対して、本発明の形質転換嫌気性微生物は、形質転換菌以外の菌、特に大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを含まない発現ベクターで形質転換されていることから、万一、大腸菌への水平伝達を起こしたとしても、大腸菌で複製される可能性がなく、環境に対しても、実際の治療においても極めて安全なものである。
【0026】
より具体的には、本発明の嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物に用いる発現ベクターは、例えば、(1)大腸菌以外の嫌気性微生物で機能するプラスミド複製ユニットと、(2)目的とする活性を有する蛋白質をコードするDNAおよび、嫌気性微生物で機能するプロモーター並びにターミネーターを含むDNA断片から本質的になる蛋白質発現ユニットとから本質的になり、且つ、当該形質転換菌以外の菌、特に大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを含まない点に特徴を有するものである。
【0027】
該発現ベクターが具有する、大腸菌以外の嫌気性微生物で機能するプラスミド複製ユニットとしては、大腸菌以外の嫌気性微生物、例えば、ビフィドバクテリウム属細菌、ラクトバチルス属細菌、エンテロコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌またはクロストリジウム属細菌等の腸内細菌で機能し、形質転換菌以外の嫌気性微生物で機能しないプラスミド複製ユニットであればいかなるものでもよく、大腸菌以外の嫌気性微生物、例えば、ビフィドバクテリウム属細菌で機能するプラスミド複製ユニットが挙げられ、具体的には、ビフィドバクテリウム属細菌で機能するOriV領域およびRepB遺伝子からなるpTB6 repユニット又はその一塩基変異多形を例示することができる。
【0028】
また、該発現ベクターが具有する、蛋白質発現ユニットのプロモーター及びターミネーターとしては、嫌気性微生物、例えば、ビフィドバクテリウム属細菌、ラクトバチルス属細菌、エンテロコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌またはクロストリジウム属細菌等の腸内細菌で機能するプロモーター及びターミネーターであればいかなるものでもよく、例えば、嫌気性微生物で機能するヒストン様DNA結合蛋白質をコードする遺伝子のプロモーター及びターミネーター、例えば、ビフィドバクテリウム属細菌由来のヒストン様DNA結合蛋白質をコードする遺伝子のプロモーター及びターミネーターDNA又はその一塩基変異多形を例示することができる。
【0029】
本発明の発現ベクターは、選択マーカー活性遺伝子ユニットをさらに含んでもよい。
選択マーカー活性としては、本発明のプラスミドベクターで形質転換された嫌気性微生物を選別できるものであれば特に制限されず、例えば、スペクチノマイシン耐性、アンピシリン耐性、テトラサイクリン耐性、ネオマイシン耐性、カナマイシン耐性などの薬剤耐性マーカーや、栄養要求性などが挙げられ、スペクチノマイシン耐性が好ましい。
【0030】
そして選択マーカー活性遺伝子ユニットとしては、例えば、スペクチノマイシン耐性活性を発揮する蛋白質をコードするDNAの一塩基変異体とそのプロモーター配列とを含むDNA、例えば、エンテロコッカス・フェカリス由来のスペクチノマイシンアデニルトランスフェラーゼをコードするDNA(以下、AAD9カセットという)又はその一塩基変異多形を例示することができる。
【0031】
なお、本発明で言う一塩基変異体とは、少なくとも1箇所の塩基が変異した一塩基変異多形(以下、SNPという)を意味し、1箇所のみでのSNPだけでなく、複数個所でのSNPを含む。
【0032】
発現ベクターが具有する蛋白質発現ユニットに組み込まれる遺伝子は、嫌気的環境下にある疾患の治療活性を有する蛋白質であり、例えば、本発明の嫌気的疾患治療剤を悪性腫瘍治療剤として用いる場合は、抗腫瘍活性を有する蛋白質あるいは抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質を発現する遺伝子であって、巨大サイズDNA(約10kb以上)や受容細胞に有毒となるDNAなど形質転換を阻害するDNAでなければ、いかなるものでも用いることができる。
【0033】
該遺伝子が発現する抗腫瘍活性を有する蛋白質としては、例えばサイトカインが挙げられ、具体的なサイトカインとしては、例えば、インターフェロン(IFN)−α、β、γ、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、インターロイキン(IL)−1α、1β、2、3、4、6、7、10、12、13、15、18、腫瘍壊死因子(TNF)−α、リンホトキシン(LT)−β、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)、白血病阻止因子(LIF)、T細胞活性化共刺激因子B7(CD80)及びB7−2(CD86)、キット・リガンド、オンコスタチンM等が挙げられる。また、エンドスタチン、アンジオスタチン、クリングル−1、2、3、4、5等の血管新生抑制物質も挙げられる。
これらの蛋白質の配列は様々な生物において知られており、その配列情報に基づいてPCR法等の公知の手法を利用することにより、本発明に用いる抗腫瘍活性を有する蛋白質をコードするDNAを入手することができる。
【0034】
また、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質としては、5−フルオロシトシン(以下、5−FCという)を抗腫瘍活性物質の5−フルオロウラシル(以下、5−FUという)に変換する酵素のシトシン・デアミナーゼ(以下、CDという)や、5−アジリジノ−2,4−ジニトロベンズアミド(以下、CB1945という)を抗腫瘍活性アルキル化剤に変換する酵素のニトロリダクターゼや、ガンシクロビルを抗腫瘍活性代謝物に変換する酵素の単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(以下、HSV1−TKという)や、グルクロン酸抱合抗腫瘍活性物質を抗腫瘍活性物質に変換する酵素のβ−グルクロニダーゼなどを挙げることができ、好ましくは、5−FCを5−FUに変換する酵素であるCDを挙げることができる。
【0035】
このようなCDをコードするDNAは、例えば、大腸菌由来のCDをコードするDNAを含有するプラスミドpAdex 1 CSCD(理化学研究所 ジーンバンク RDB No.1591)、又は同じく大腸菌由来のCDをコードするDNAを含有するプラスミドpMK116から単離されるものを用いることができる(D.A.Mead et al.,Protein Engineering 1:67-74(1986))。
【0036】
さらに、本発明の嫌気的疾患治療剤を虚血性疾患治療剤として用いる場合は、本発明の発現ベクターが具有する蛋白質発現ユニットに組み込まれる遺伝子として、虚血性疾患治療に有用な血管新生促進活性を有する蛋白質を挙げることができる。具体的には、線維芽細胞増殖因子2(FGF2)、内皮細胞増殖因子(ECGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)などを挙げることができる。
【0037】
同様に、これらの蛋白質の配列は様々な生物において知られており、その配列情報に基づいてPCR法等の公知の手法を利用することにより、本発明に用いる血管新生促進活性を有する蛋白質をコードするDNAを入手することができる。
【0038】
本発明の嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物の形質転換に用いる発現ベクターは、例えば、大腸菌以外の嫌気性微生物で機能するプラスミド複製ユニットと、目的とする活性を有する蛋白質をコードするDNAおよび嫌気性微生物で機能するプロモーター並びにターミネーターを含むDNA断片からなる蛋白質発現ユニットとを含み、嫌気性微生物に形質転換した場合にその嫌気性微生物内において機能するもので、形質転換菌以外の菌、特に大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを含まないプラスミドであればいかなるものも含まれる。
【0039】
例えば、上記文献に報告されている、シャトルプラスミドpBLES100(Matsumura et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 61, 1211-1212 (1997))、同pAV001(WO 2006-57289)、同pBRASTA101(Tanaka et al., Biosci Biotechnol Biochem. 69(2): 422-425 (2005))、同pDG7、同pEBM3、同pECM2、同pLP825など(Alessandra Argnani et al., Microbiology. 142: 109-114 (1996))に、目的とする活性を有する任意の蛋白質をコードするDNAおよび該嫌気性微生物で機能するプロモーター並びにターミネーターを含むDNA断片を含む蛋白質発現ユニットを組み込み、大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを除去したものなどを挙げることができる。
【0040】
あるいは、pNTR500F、pCD540FTなど(米国特許番号第6416754号、米国特許番号第6652849号、米国特許公開公報2003/0103952号)、同pBLES100-S-eCD(特開2002-97144号公報)、同pAV001-HU-eCD-M968(国際公開WO 2007-136107号)などのプラスミドに組み込まれた蛋白質発現ユニットを、別の、任意の蛋白質発現ユニットに組換えたシャトルプラスミド、さらに、それから大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを除去したものなどを挙げることができる。
【0041】
本発明の発現ベクターの具体的な例示として、例えば、大腸菌以外の嫌気性微生物で機能するプラスミド複製ユニットとして、ビフィドバクテリウム属細菌で機能するOriV領域およびRepB遺伝子を含むpTB6 repユニットを具有し、嫌気性微生物で機能するプロモーター並びにターミネーターを含むDNA断片として、ビフィドバクテリウム属細菌由来のヒストン様DNA結合蛋白質をコードする遺伝子のプロモーター及びターミネーターを具有し、目的とする活性を有する蛋白質をコードするDNAとして、5−FCを5−FUに変換する酵素のCDをコードするDNAを具有し、選択マーカー活性遺伝子ユニットとして、エンテロコッカス・フェカリス由来のスペクチノマイシンアデニルトランスフェラーゼをコードするDNA(AAD9カセット)からなるベクターを挙げることができる。
より具体的な例示として、例えば、配列番号1の塩基配列で示される、pBifiCDを挙げることができる。
【0042】
本発明の嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物の形質転換に用いる発現ベクターは、例えば、米国仮出願61/124,528号に記載するようにして作製することができる。
したがって、本発明の発現ベクターは、
(1)大腸菌の複製開始点、例えばpUC oriと任意に選択マーカー活性遺伝子ユニット、例えば、AAD9カセットを含むプラスミド(以下、選択マーカープラスミドという)を作製し(工程1)、
(2)この選択マーカープラスミドの直鎖化プラスミドを調製し、これと、プロモーター及びターミネーター、例えば、ビフィドバクテリウム属細菌由来のヒストン様DNA結合蛋白質をコードする遺伝子のプロモーター及びターミネーターと、(a)抗腫瘍活性を有する蛋白質または(b)抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質、例えば、CDからなる断片(以下、蛋白質発現ユニットという)をライゲーションして、選択マーカー活性遺伝子ユニットと蛋白質発現ユニットを有するプラスミド(以下、選択マーカー・活性蛋白質プラスミドという)を作製し(工程2)、
(3)この選択マーカー・活性蛋白質プラスミドの直鎖化プラスミドを調製し、これと、大腸菌以外の嫌気性微生物で機能するプラスミド複製ユニット、例えば、ビフィドバクテリウム属細菌で機能するOriV領域およびRepB遺伝子からなるpTB6 repユニットのDNA断片(以下、プラスミド複製ユニットという)をライゲーションして、大腸菌の複製開始点及び選択マーカー活性遺伝子ユニット、蛋白質発現ユニット並びにプラスミド複製ユニットを有するプラスミド(以下、シャトルプラスミドという)を作製し(工程3)、
(4)このシャトルプラスミドから大腸菌の複製開始点を除去する(工程4)ことにより作製することができる。
なお、各工程における操作は、文献記載の公知の方法に準じて行うことができる。
【0043】
本発明の発現ベクターはまた、上記の各種シャトルプラスミド、例えば、シャトルプラスミドpBLES100(Matsumura et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 61, 1211-1212 (1997))、同pAV001、同pBRASTA101など(Tanaka et al., Biosci Biotechnol Biochem. 69(2): 422-425 (2005))、同pDG7、同pEBM3、同pECM2、同pLP825など(Alessandra Argnani et al., Microbiology. 142: 109-114 (1996))pNTR500F、同pCD540FTなど(米国特許番号第6416754号、6652849号および米国特許公開公報第2003/0103952号)に、常法に従って、目的とする活性を有する任意の蛋白質をコードするDNAならびに該嫌気性微生物で機能するプロモーターおよびターミネーターを含むDNA断片を含む蛋白質発現ユニットを組み込み、次いで、同様に、常法により、大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを除去する事により作製することもできる。
【0044】
本発明の発現ベクターはさらに、プラスミドpAV001-HU-eCD-M968(WO 2007-136107)から、大腸菌の複製開始点を含む断片のpUC oriを取り除いた、上記本発明のプラスミドpBifiCDと同様に、プラスミドpNTR500F、同pCD540FT(米国特許番号第6416754号、6652849号および米国特許公開公報第2003/0103952号)、同pBLES100-S-eCD(JP A 2002-97144)などから、大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを除去する事によっても作製することができる。
【0045】
本発明のプラスミドはさらにまた、プラスミドpNTR500F、同pCD540FT(米国特許番号第6416754号、6652849号および米国特許公開公報第2003/0103952号)、同pBLES100-S-eCD(特開2002-97144号公報)、プラスミドpAV001-HU-eCD-M968(WO 2007-136107)などから、当該プラスミドに組み込まれた蛋白質発現ユニットを、別の、任意の蛋白質発現ユニットに組換え、さらに、それから大腸菌で機能するプラスミド複製ユニットを除去する事によっても作製することができる。
【0046】
本発明の嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物は、形質転換に用いる任意の嫌気性微生物を、上記発現ベクターを用いて、遺伝子工学分野の公知の方法にしたがって形質転換する事により作製することができる。
【0047】
本発明の嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物は固形腫瘍など嫌気的疾患の治療剤に用いるものであるから、当該嫌気性微生物としては、偏性嫌気性で且つ非病原性であることが必須であり、クロストリジウムやサルモネラなどの病原性の菌であっても非病原性化したものであればよく、また、ラクトバチルスなどの通性嫌気性菌であっても偏性嫌気性に変異化したものであればよい。
【0048】
好ましくは非病原性の嫌気性バクテリアが挙げられ、より好ましくは非病原性の腸内細菌が挙げられ、中でも、ビフィドバクテリウム属細菌が最も好ましい。
【0049】
ビフィドバクテリウム属細菌としては、例えばビフィドバクテリウム・アドレッセンティス、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・サーモフィラム、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ロンガムが挙げられ、ビフィドバクテリウム・ロンガムが最も好ましい。
【0050】
これらの菌は、いずれも市販されているか、又は寄託機関から容易に入手することができる。例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC-15707、ビフィドバクテリウム・ビフィダムATCC-11863、ビフィドバクテリウム・インファンティスATCC-15697等は、ATCC(The American Type Culture Collection )から容易に入手することができる。
【0051】
また、それぞれの菌の株についても特に限定されず、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガムの株については、ビフィドバクテリウム・ロンガム105-A株、ビフィドバクテリウム・ロンガムaE-194b株、ビフィドバクテリウム・ロンガムbs-601株、ビフィドバクテリウム・ロンガムM101-2株を挙げることができ、中でもビフィドバクテリウム・ロンガム105-A株が好ましい。
【0052】
ビフィドバクテリウム・ブレーベの株については、例えば、ビフィドバクテリウム・ブレーベ標準株(Japan Collection of Microorganisms(JCM)1192)、ビフィドバクテリウム・ブレーベaS-1株、ビフィドバクテリウム・ブレーベI-53-8W株を挙げることができ、中でも、ビフィドバクテリウム・ブレーベ標準株、ビフィドバクテリウム・ブレーベaS-1株が好ましい。
【0053】
ビフィドバクテリウム・インファンティスの株については、例えば、ビフィドバクテリウム・インファンティス標準株(JCM1222)、ビフィドバクテリウム・インファンティスI-10-5株を挙げることができ、中でも、ビフィドバクテリウム・インファンティス標準株、ビフィドバクテリウム・インファンティスI-10-5株が好ましい。
【0054】
また、ビフィドバクテリウム・ラクテンティスの株については、例えば、ビフィドバクテリウム・ラクテンティス標準株(JCM1220)を挙げることができる。
【0055】
本発明の嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物は、嫌気的環境下にある組織内で生育でき、且つ、目的とする活性を有する蛋白質を発現することができ、さらに残留発現ベクターの、形質転換菌以外の、特に病原性又は好気性若しくは通性嫌気性微生物への水平伝達のおそれのないものであれば特に制限されない。
【0056】
本発明の形質転換嫌気性微生物の好ましい例示としては、嫌気的環境下にある腫瘍組織内で生育でき、且つ、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質を発現することができる形質転換嫌気性微生物を挙げることができ、より好ましくは、嫌気的環境下にある腫瘍組織内で生育でき、且つ、5−FCを5−FUに変換する酵素であるCDを発現することができるビフィドバクテリウム属細菌からなる遺伝子輸送担体を挙げることができ、pBifiCDで形質転換されたビフィドバクテリウム・ロンガム105-A株(ビフィドバクテリウム・ロンガム105-A/pBifiCD;独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター受領番号:NITE ABP-491)を特に好ましく例示することができる。
【0057】
本発明の遺伝子輸送担体は、市販の実験書、例えば、遺伝子マニュアル(講談社)、高木康敬編遺伝子操作実験法(講談社)、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)(1982)、モレキュラー・クローニング第2版(Molecular C1oning,2nd ed.)コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)(1989)、メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymol.),194(1991)、等に記載された方法に従って作製することができる。
【0058】
本発明の形質転換嫌気性微生物は、目的の生体内組織における該微生物の生着・増殖を促進する生着・増殖促進剤と組み合わせて用いることにより、より優れた嫌気的疾患の治療効果を奏する。
【0059】
本発明において用いることができる嫌気性微生物生着・増殖促進剤は、本発明の形質転換嫌気性微生物の嫌気的疾患部位での特異的な生着、増殖を向上させることができ、安全で、且つ、静脈内投与が可能であるものであれば如何なるものでもよい。例えば、アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコース、マルトース、ラクトース、メリビオース、メレジトース、ラフィノース、ラクツロースなどの糖類を挙げることができる。
これらの中で、グルコース、ラクツロースまたはマルトースが好ましく、マルトースが最も好ましい。
【0060】
本発明の形質転換嫌気性微生物を有効成分として含有する医薬組成物は、本発明の形質転換嫌気性微生物を含有している限り特に制限はされない。また、本発明の形質転換嫌気性微生物の2種以上を含有していてもよい。さらにまた、本発明の医薬組成物や治療剤は、本発明の遺伝子輸送担体以外の嫌気的疾患治療効果を示す化合物を含有する医薬組成物や治療剤と組み合わせて用いることができる。
【0061】
本発明の形質転換嫌気性微生物を有効成分として含有する嫌気的疾患治療用医薬組成物の剤形としては、例えば、該形質転換嫌気性微生物を含有する液剤または固形製剤を挙げることができる。液剤は、本発明の形質転換嫌気性微生物の培養液を精製し、これに必要に応じて適当な生理食塩液若しくは補液又は医薬添加物を加えてアンプル又はバイアル瓶などに充填することにより製造することができる。また、固形製剤は、液剤に適当な保護剤を添加してアンプル又はバイアル瓶などに充填した後凍結乾燥又はL乾燥するか、液剤に適当な保護剤を添加して凍結乾燥又はL乾燥した後これをアンプル又はバイアル瓶などに充填することにより製造することができる。
【0062】
本発明の形質転換嫌気性微生物を有効成分として含有する医薬組成物の投与方法としては、経口投与、非経口投与共に可能であるが、非経口投与が好ましく、例えば静脈注射、皮下注射、局所注入、脳室内投与等を行うことができ、静脈注射が最も好ましい。
【0063】
本発明の嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物の投与量は、嫌気的疾患部位において生着でき、且つ、有効治療量の活性蛋白質を発現するのに十分な量に増殖できる量であれば特に限定はされないが、投与時の患者負担を可能な限り軽減する観点から、できる限り少ない方が好ましい。
該嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物を実際に治療に用いる際の投与量は、疾患の程度、患者の体重、年齢、性別に応じて適宜選択し、改善の度合いに応じて適宜増減する。また、例えば、用いる嫌気性微生物が産生する活性蛋白質の有効治療量、および、用いる嫌気性微生物の当該活性蛋白質の産生量などによって、適宜設定する。
【0064】
具体的には、例えば静脈内投与の場合には、菌塊による塞栓等のリスクを避けるため、できるだけ低濃度の注射剤を複数回に分けて分注するか、または適当な輸液で希釈して持続注入することが好ましい。例えば、成人の場合、該形質転換嫌気性微生物の菌体を、体重1kg当たり10〜1012cfuを1日1〜複数回に分け、1〜複数日間、連続して、または適宜、間隔をおいて投与する。より具体的には、該形質転換嫌気性微生物の菌体を10〜1010cfu/mL含有する製剤を、成人1人あたり1〜1000mLを直接、または適当な補液で希釈して、好ましくは1日1〜数回に分け、1〜数日連続して投与する。
【0065】
また、疾患組織へ直接投与する局所投与の場合は、できるだけ疾患組織全体へ菌が生着、増殖することが求められるため、高濃度の注射剤を、疾患組織の複数個所に投与することが望ましい。例えば、成人の場合、本発明の嫌気性微生物の菌体を、体重1kg当たり10〜1012cfuを1日1〜数回、必要に応じ1〜複数日間、連続してまたは適宜、間隔をおいて投与する。より具体的には、本発明の嫌気性微生物の菌体を10〜1010cfu/mL含有する製剤を、成人1人あたり1〜1000mLを直接、1日数回、必要に応じ1〜数日連続して投与する。
【0066】
治療期間中に疾患組織中の菌が消失していることが確認された場合は、一旦治療を中断し、上記と同様にして再度菌を投与する。
【0067】
本発明の嫌気性微生物生着・増殖促進剤を有効成分として含有する医薬組成物としては、例えば、該嫌気性微生物生着・増殖促進剤を含有する液剤または固形製剤を挙げることができる。液剤は、該嫌気性微生物生着・増殖促進剤を注射用水に溶解し、これに必要に応じて適当な緩衝剤、等張化剤、安定化剤、pH調整剤などの医薬添加物を加え、さらに滅菌した後、バッグ又は点滴用瓶などに充填することにより製造することができる。また、固形製剤は、該嫌気性微生物生着・増殖促進剤を、適当な緩衝剤、等張化剤、安定化剤、pH調整剤などの医薬添加物と混和することにより製造することができる。このような固形製剤を投与する際には、滅菌した注射用水または生理食塩水などに溶解して投与する。
【0068】
本発明の嫌気性微生物生着・増殖促進剤の医薬組成物の投与方法としては、静脈内投与が最も好ましいが、必要に応じて、皮下注射、局所注入、脳室内投与等を行うこともでき、さらに、経口投与を行うこともできる。
【0069】
本発明の嫌気性微生物生着・増殖促進剤の投与量は、本発明の形質転換嫌気性微生物を嫌気的疾患部位において特異的に生着させ、有効治療量まで増殖させ、且つ、治療終了までの期間において継続的に生存させることができる量であれば特に限定はされないが、患者または疾患組織に対する影響をできるだけ与えない量であることが好ましい。
実際に治療に用いる際の投与量は、患者の体重、年齢、性別に応じて適宜選択し、また、本発明の嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物の投与量に応じて、適宜増減する。
【0070】
具体的には、例えば、マルトースを有効成分とする嫌気性微生物生着・増殖促進剤を成人に用いる場合、10%マルトース静脈内投与用溶液を、体重1kg当たり3〜20mLを1日1回、好ましくは体重1kg当たり5〜10mLを1日1回投与する。より具体的には、10%マルトース静脈内投与用溶液製剤を、成人1人あたり、200〜600mLを、1日1回、治療期間中継続して投与する。
【0071】
本発明の嫌気性微生物生着・増殖促進剤は、本発明の形質転換嫌気性微生物を投与する際に、菌を希釈する輸液として投与することもできる。
さらに、本発明の医薬組成物や嫌気的疾患治療剤は、本発明の効果を妨げない限り、本発明の形質転換嫌気性微生物または嫌気性微生物生着・増殖促進剤のほかに任意の成分を含有していてもよい。そのような任意成分として、例えば、薬理学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤等が挙げられる。
【0072】
本発明の形質転換嫌気性微生物が、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質を発現することができる遺伝子を組み込んだ嫌気性菌の場合、当該嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物を活性成分として含有する医薬組成物や嫌気的疾患治療剤は、当該形質転換嫌気性微生物によって発現される蛋白質によって有効量の抗腫瘍物質に変換できる量の抗腫瘍物質前駆体と組み合わせて使用する。
【0073】
この抗腫瘍物質前駆体は本発明の形質転換嫌気性微生物を活性成分として含有する医薬組成物や固形腫瘍治療剤に含有させてもよいが、当該抗腫瘍物質前駆体を含有する医薬組成物として、本発明の嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物を活性成分として含有する医薬組成物や固形腫瘍治療剤と組み合わせて用いることが好ましい。
【0074】
本発明に用いる抗腫瘍物質前駆体は、前駆体(プロドラッグ)の状態では正常組織に対する副作用が少なく、かつ、抗腫瘍物質に変換後は、治療の対象である嫌気性疾患に対して高い治療効果を有する抗腫瘍物質前駆体であれば特に制限されないが、例えば前述の、5−FUのプロドラッグである5−FC、抗腫瘍活性アルキル化剤に変換されるCB1945、抗腫瘍活性代謝物に変換されるガンシクロビルやグルクロン酸抱合抗腫瘍活性物質等が挙げられる。
【0075】
したがって、抗腫瘍物質前駆体と組み合わせて本発明の医薬組成物や嫌気性疾患治療剤を用いる場合、本発明の医薬組成物や嫌気性疾患治療剤の投与方法と、抗腫瘍物質前駆体を含有する医薬組成物の投与方法は同じであっても異なっていてもよく、また、投与も同時であってもよく隔時であってもよいが、抗腫瘍物質前駆体を含有する医薬組成物の投与は、本発明の医薬組成物や嫌気性疾患治療剤の投与後、本発明の形質転換嫌気性菌が腫瘍細胞で十分生育できる時間をおいた後に投与する方が好ましい。
【0076】
また、抗腫瘍物質前駆体と組み合わせて本発明の医薬組成物や嫌気性疾患治療剤を用いる場合、嫌気的疾患治療用形質転換嫌気性微生物が嫌気性環境下にある腫瘍組織でのみ生着・増殖して、そこで局所的に活性蛋白質を産生するため、通常の抗腫瘍物質前駆体を用いる固形腫瘍の治療方法と比較して、副作用をはるかに低減することができ、かつ、抗腫瘍物質前駆体の投与量も広範に設定することができる。
【0077】
抗腫瘍物質前駆体の投与量は、組み合わせて使用する形質転換嫌気性菌の腫瘍組織における生育率、及び抗腫瘍物質前駆体から抗腫瘍物質への変換効率に応じて適宜選択することができる。また、遺伝子輸送担体の投与量と同様に、疾患の程度、患者の体重、年齢、性別に応じて適宜選択し、改善の度合いに応じて適宜増減することもできる。
【0078】
例えば、実際の治療では、用いる抗腫瘍物質前駆体および変換された抗腫瘍物質の種類、抗腫瘍物質前駆体から変換される抗腫瘍物質の有効治療量、用いる嫌気性微生物が産生する抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質の種類、ならびに用いる嫌気性微生物の当該活性蛋白質の産生量などによって、投与量を適宜設定する。
【0079】
具体的には、例えば、CD発現形質転換嫌気性微生物と、抗腫瘍物質前駆体の5−FCを組み合わせて投与する場合には、疾患組織中に菌が生着、増殖し、且つ、血液中および正常組織中において菌の消失が確認された後、5−FCを、成人の体重1kg当たり1〜100mg/日を1日1〜複数回に分け、治療期間中連続して投与する。投与方法としては、経口投与が好ましいが、静脈内投与あるいは肛門内投与などの非経口投与を行うこともできる。
【0080】
なお、本発明における「XとYとを組み合わせてなる」には、XとYとをそれぞれ別の形態としたもの、XとYとを単一の形態(例えばXとYとを含有する形態)としたもののいずれの場合をも含む。また、XとYを別の形態としたものの場合、X、Yのいずれも、他の成分をさらに含有してもよい。
【0081】
本発明の医薬組成物や嫌気的疾患治療剤は、嫌気的環境を有する疾患、好ましくは各種固形癌に適用できる。固形癌としては、例えば大腸癌、脳腫瘍、頭頚部癌、乳癌、肺癌、食道癌、胃癌、肝癌、胆嚢癌、胆管癌、膵癌、膵島細胞癌、絨毛癌、結腸癌、腎細胞癌、副腎皮質癌、膀胱癌、精巣癌、前立腺癌、睾丸腫瘍、卵巣癌、子宮癌、絨毛癌、甲状腺癌、悪性カルチノイド腫瘍、皮膚癌、悪性黒色腫、骨肉腫、軟部組織肉腫、神経芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、網膜芽細胞腫、メラノーマ、扁平上皮癌などが挙げられる。
【0082】
また、嫌気的環境下にある他の疾患としては、虚血性疾患、例えば、心筋梗塞または閉塞性動脈硬化症や、バージャー病などの下肢虚血疾患等を挙げることができる。
【実施例】
【0083】
以下、参考例及び実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0084】
〔製造例1〕
B.longum Re-105A/pBifiCD(NITE ABP-491)凍結製剤の製造
米国仮出願61/124,528号に記載の方法によって製造した、B.longum Re-105A/pBifiCDの培養菌液2mLを、ブドウ糖、大豆ペプチド(ハイニュート(TM)SMP)、塩酸システイン、パントテン酸カルシウム、ビオチン、ニコチン酸、リボフラビン、塩酸チアミン、アスコルビン酸、炭酸ナトリウム、パラアミノ安息香酸、チミジン、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、塩化ナトリウム、:リン酸一カリウム、塩化第二鉄などを加えて調製した培地(APS-2S-2.5R培地)2Lに入れ、約40℃で、18〜21時間、嫌気培養した。
培養終了後の菌液を、孔径0.8μmの限外ろ過膜を付したろ過装置(日本ポール株式会社製、製品番号FS001K05)を用いてろ過、精製して、精製菌液を得た。
【0085】
グリセリン100gに注射用水を加え、全量1Lにし、これを孔径0.2μmのろ過膜でろ過したのち、121℃で20分間高圧蒸気滅菌して、10%グリセリン溶液を調製した。
前記精製菌液に、同量の10%グリセリン溶液を加えて5%グリセリン製剤溶液とし、容量30mLのバイアル瓶に、10mLずつ分注し、無菌ろ過した窒素ガスを吹き込んだ後密栓した。
次いで、バイアルを液体窒素により凍結させ、超低温フリーザー内で保管した。
【0086】
〔参考例1〕
B.longum Re-105A/pBifiCD(NITE ABP-491)の各種糖類の資化性
B.longum Re-105A/pBifiCD(NITE ABP-491)の各種糖の資化性をAPI 50CHおよびAPI20Aを用いて確認した。
定法にしたがって、コロニーをAPI 50CHまたはAPI20A培地に懸濁し、濁度を調整した後にキットのプレートへ接種して培養し、24時間ならびに48時間培養後の色変化によって判定した。判定は48時間後の結果に基づいて行った。
API 50CHおよびAPI20Aの各試験について、試験者2名で各々2回行った。
なお、API20Aの試験は、グリセロール、アラビノース、キシロース、グルコース、マンノース、ラムノース、マンニトール、ソルビトール、サリシン、セロビオース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、メレジトース、ラフィノースについて行い、その他の糖類は試験項目に含まれていないため、実施しなかった。
【0087】
総合判定は、API 50CHとAPI20Aの最終判定に基づいて行った。
また、API 50CHおよびAPI20Aの最終判定は、各4回(2名の試験者の各2回)の試験結果に基づいて行った。
API 50CHとAPI20Aの最終判定が異なる場合は、API20Aがビフィズス菌対応のキットであることから、API20Aの判定を採用し、API20Aの試験項目外のものについては、API 50CHの判定を採用した。
【0088】
その結果、単糖類のL-アラビノース、D-キシロース、ガラクトース、グルコース、二糖類のマルトース、ラクトース、メリビオース、三糖類のメレジトース、ラフィノースが陽性を示し、単糖類のリボースとフルクトースおよび二糖類のスクロースが弱陽性を示した。
【0089】
試験結果を表1に示した。表中の(+)は陽性、(−)は陰性、(w)は弱陽性を意味し、(v)および(wv)は試験結果のバラつきを意味する。
また、API20A欄の(NT)は試験不実施(試験項目外)を意味する。
【0090】
【表1】

【0091】
【表1−2】

【0092】
〔実施例1〕
B.longum Re-105A/pBifiCDとグルコースの併用
(1)担癌ヌードマウス作製
ヒト乳癌細胞株のKPL-1細胞5 x 105 cells/mouse/0.2 mLをヌードマウスの右前肢側の背部皮下に移植した。腫瘍径(長径, 短径, 厚み)はノギス(デジマチックキャリパー、CD-15PS、Mitutoyo、神奈川)で測定し、腫瘍体積の算出は下式から求めた。腫瘍体積の測定は、B.longum Re-105A/pBifiCD投与前日(Day -1)とB.longum Re-105A/pBifiCD投与7日後(Day 7)に実施した。
腫瘍体積(mm3)=長径(mm) x 短径(mm) x 厚み(mm)/2
【0093】
(2)B.longum Re-105A/pBifiCD凍結製剤、10 %グルコース溶液及び生理食塩液投与
KPL-1担癌ヌードマウス61匹より腫瘍体積80〜150 mm3の範囲の担癌ヌードマウス22匹を選択し、腫瘍体積が同程度を指標に2群(1群11匹)に分けた。各群のマウスに、B.longum Re-105A/pBifiCD凍結製剤を0.05 mLずつ1日4回(4回の投与間隔は1時間とし、投与期間中は室温に放置)、マイジェクター(29G x 1/2、TERUMO、東京)を用いて静脈内投与した(Day 0)。
B.longum Re-105A/pBifiCD投与翌日(Day 1)から、第1群〔グルコース(+)群〕に10%グルコース溶液を1 mLずつ1日2回(A.M./P.M.)注射針(25G x 1 R.B.、TERMO)を用いて腹腔内投与し、以後同量を組織摘出前日(Day 6)まで6日間連日投与した。また第2群〔グルコース(-)群〕には、同じ方法で生理食塩液を同量投与した。
【0094】
(3)B.longum Re-105A/pBifiCD(NITE ABP-491)の腫瘍内菌数測定
製剤投与7日後(Day 7)にマウスを犠牲死させて腫瘍を摘出し、電子天秤(AB104-S、METTLER TOLEDO、東京)を用いて重量(g)を測定した。測定後、ハサミで細切してミンチ状にし、腫瘍をホモジナイズ管(HOMOGENIZER、SANSYO、東京)に入れ、嫌気性希釈液を、腫瘍重量(g):嫌気性希釈液(mL)=1:9の比率で加えて、ホモジナイズ機(NZ-1300、EYELA)で、300rpmで粉砕した。腫瘍ホモジナイズ液は嫌気性希釈液にて希釈し、原液及び希釈液をBLFSプレート3枚に100μLずつ塗布した。塗布したBLFSプレートは密閉容器内に脱酸素・炭酸ガス発生剤と共に密閉し、37℃の恒温器で嫌気的に3日間培養した。培養後、プレート上のコロニー数をカウントし、コロニー数が30〜300に収まるBLFSプレートから腫瘍内菌数を求めた(ただし、上記範囲にコロニー数が収まるプレートが存在しない場合は、より範囲に近いコロニー数が存在するプレートを選択した)。腫瘍内菌数の算出は下式によりおこなった。
【0095】
腫瘍内菌数計算方法
腫瘍内菌数(cfu/g)=平均コロニー数(n) × 腫瘍ホモジネート時の希釈率(x) × プレートへの塗布時の希釈率(y) × 10(z)
(n): (P1+P2+P3)/3 、P1,2,3は各プレートのコロニー数
(x):〔腫瘍重量(g)+ 嫌気性希釈液量(mL)〕/腫瘍重量(g)
(y): A: x 1(原液)、B: x 102(102倍希釈)、C: x 104(104倍希釈)、
(z): 腫瘍1g当たりの菌数への換算値 〔1プレートあたり100 μL(=0.1gとする)のホモジネート液を塗布するため。〕
【0096】
統計解析
得られた実験結果は平均値±標準偏差で示した。グルコース(+)群とグルコース(−)群の検定には、SPSS(統計解析ソフト、エス・ピー・エス・エス株式会社、東京)を用いた。検定結果はp<0.05をもって有意差ありとした。
【0097】
(5)結果:グルコース(+)群とグルコース(-)群の腫瘍組織への生着・増殖比較
腫瘍体積80〜150 mm3のKPL-1担癌ヌードマウスにおいて、B.longum Re-105A/pBifiCDの腫瘍への生着は、グルコース(+)群では11匹中10例、グルコース(-)群では11匹中4例であった。この結果、グルコース(+)群とグルコース(-)群のB.longum Re-105A/pBifiCDの腫瘍への生着には有意な差が認められた(Fisherの直接確率法にて: p=0.024)。また、生着が認められた各群のマウスの平均腫瘍内菌数は、グルコース(+)群で1.8 x 106 ±1.9 x 106 cfu/g(n=10)、グルコース(-)群で1.1 x 10 ±1.6 x 10 cfu/g(n=4)であり、両群の腫瘍内増殖に有意な差が認められた(Mann-WhitneyのU検定にて; P=0.008)。
このことから、グルコースが、B.longum Re-105A/pBifiCDの腫瘍組織への特異的な生着促進作用及び腫瘍組織における増殖促進作用を示すことが確認された。
【0098】
〔実施例2〕
B.longum Re-105A/pBifiCDとマルトースの併用(1)
(1)担癌ヌードマウスの作製と腫瘍体積の測定
実施例1と同様にして担癌ヌードマウスの作製と腫瘍体積の測定を行った。
なお、移植細胞数は5 x 105 cells/mouse、移植容量(細胞液濃度)は0.2mL (2.5 x 106 cells/mL)、移植部位は右前肢背部側の皮下とした。
【0099】
(2)群分け
菌投与前日(Day-1)に、腫瘍体積がおよそ50〜200 mm3の担癌ヌードマウスから、一般状態および体重推移を指標にして、異常がみられない動物42匹選抜し、層別連続的無作為化法により平均腫瘍体積が同程度となるように7群に分けた。
【0100】
(3)B.longum Re-105A/pBifiCD凍結製剤、10 %マルトース溶液の投与
B.longum Re-105A/pBifiCD凍結製剤を使用直前に恒温槽を用いて37℃、10分間完全に融解した。融解した製剤を軽く転倒混和して菌液を分散させ、所定量〔0.2mL x 2回(AM/PM)/day ; total 0.4 mL/マウス〕を分取した。
投与は午前、午後各1回とし、午後の投与は午前の投与から4時間の間隔をおいた(許容時間は30分以内とした)。投与順は群毎に個体番号の若い順とし、A群からH群へと順に投与した。26Gの注射針及び1 mLのポリプロピレン製注射筒を使用して尾静脈内に投与した。
【0101】
以下の表2の群構成にしたがって、マルトース液(株式会社大塚製薬工場製、10%マルトース注射液)または生理食塩水〔1mL x 2回(AM/PM)/day ; total 2 mL/マウス〕を腹腔内に投与(ip)した。
Day0の腹腔内投与は、午前、午後のいずれも各群6匹の尾静脈内投与が終了してから1時間以内に実施した。
Day1以降は、午前、午後各1回とし、午後の投与は午前の投与から4時間の間隔をおいた(許容時間は30分以内とした)。
【0102】
【表2】

【0103】
(4)腫瘍および肝臓内菌数測定
上記(3)、表2に示した群構成にしたがって、Day 1、Day 7及びDay 14にマウスを安楽死させて腫瘍及び肝臓を摘出し、電子天秤(AB204-S,METTLER TOLEDO,東京)を用いて重量(g)を測定した。
摘出組織はハサミで細切してミンチ状にし、ホモジナイズ管(HOMOGENIZER,SANSYO,東京)に入れ、嫌気性希釈液を、組織重量(g):嫌気性希釈液(mL)=1 : 9の比率で加えて、ホモジナイズ機(NZ-1300,EYELA)で、300 rpmで粉砕した。
組織ホモジナイズ液は嫌気性希釈液にて希釈し、原液及び各希釈液をBLFSプレート3枚に100μLずつ塗布した。塗布したBLFSプレートは密閉容器内に脱酸素・炭酸ガス発生剤と共に密閉し、37℃の恒温室で嫌気的に3日間培養した。
【0104】
また、B.longum Re-105A/pBifiCD凍結製剤100μLを嫌気希釈液で106倍希釈し,希釈液を100μL塗布したBLFSプレートを陽性対照として密閉容器内で同時に培養した。
培養後、プレート上のコロニー数をカウントし、,コロニー数が30〜300に収まるBLFSプレートから腫瘍及び肝臓内菌数を求めた。ただし、上記範囲にコロニー数が収まる希釈率が存在しない場合は、より範囲に近いコロニー数が存在するプレートを選択した。
組織内菌数の算出は、実施例1、(3)と同様にして算出した。
【0105】
(5)結果1:マルトース投与群とマルトース非投与群の腫瘍への生着性と腫瘍内菌数比較
マルトース投与群とマルトース非投与群の菌最終投与翌日(Day 1)、 投与後7日(Day 7)及び投与後14日 (Day 14)の腫瘍への生着及び腫瘍内菌数(平均値/メディアン値)を表3及び表4に示した。
【0106】
【表3】

【0107】
【表4】

【0108】
Day 1における腫瘍内菌数の比較
メディアン値を指標としてA群 (マルトース投与群) とF群 (マルトース非投与群) の腫瘍内菌数を比較した結果、 A群はF群よりも多く、統計学的にも有意な差が認められた(Mann-WhitneyのU検定にて; P=0.009)。
このことから、マルトースが、B.longum Re-105A/pBifiCDの腫瘍組織への特異的な生着促進作用を示すことが確認できた。
【0109】
Day 7における腫瘍内菌数の比較
メディアン値を指標としてB群 (マルトース投与群) とG群 (マルトース非投与群) の腫瘍内菌数を比較した結果、 B群はG群よりも多かった。このことから、マルトースは、B.longum Re-105A/pBifiCDの腫瘍組織における増殖促進作用を示すことが確認できた。
【0110】
Day 14における腫瘍内菌数の比較
メディアン値を指標としてC群 (マルトース投与群) とH群 (マルトース非投与群) の腫瘍内菌数を比較した結果、 C群はH群よりも多く、 統計学的にも有意な差が認められた〔Mann-WhitneyのU検定(Bonnferoni補正;p<0.017で有意); P=0.002〕。
一方D群(マルトース投与をDay 7以降中断した群)の腫瘍内菌数はH群と同程度であり、統計学的にも有意な差が認められなかった〔Mann-WhitneyのU検定(Bonnferoni補正;p<0.017で有意); P=0.589〕。
このことから、マルトースが、B.longum Re-105A/pBifiCDの腫瘍組織における増殖促進作用及び増殖維持作用を示すことが確認され、さらに、増殖を維持させるためには継続的な投与が必要であることが確認できた。
【0111】
(6)結果2:マルトース投与群とマルトース非投与群の肝臓への生着性と肝臓内菌数の比較
マルトース投与群とマルトース非投与群の菌最終投与翌日(Day 1)、 投与後7日(Day 7)及び投与後14日 (Day 14)の肝臓への生着及び肝臓内菌数(平均値/メディアン値)を表5及び表6に示した。
【0112】
【表5】

【0113】
【表6】

【0114】
Day 1、Day 7及びDay 14におけるマルトース投与群とマルトース非投与群の肝臓内菌数の比較
Day 1では、マルトース投与群、非投与群ともに肝臓内に菌の存在が認められたが、 Day 7及びDay 14では両群ともに菌の存在は認められなかった。
このことから、マルトースが、B.longum Re-105A/pBifiCDの正常組織への生着および増殖に対して影響を与えないことが確認できた。
【0115】
〔実施例3〕
B.longum Re-105A/pBifiCDとマルトースの併用(2)
(1)腫瘍細胞の培養および継代
ヒト胃癌細胞株MKN45細胞を、37°C,5% CO2に設定したCO2インキュベーター(MCO-20AIC,三洋電機株式会社)を用いて加湿条件下で静置培養した。また、細胞密度がコンフルエントになった段階で以下の手順で継代操作を行った。培養容器内の培地を除去し、Ca2+、Mg2+-free Dulbecco’s phosphate buffered saline[PBS(-),Lot No. 160708,日水製薬株式会社]を用いて軽くリンスした。PBS(-)を吸引除去した後、細胞が浸る程度の少量の0.25% trypsin(Lot No. 6280J,和光純薬工業株式会社)および0.02% EDTA(Lot No. SS054,和光純薬工業株式会社)含有PBS(-)(trypsin/EDTA液)を添加しCO2インキュベーター内に静置した。
顕微鏡下で観察し、細胞が培養容器の底面からほぼ剥がれたことを確認して増殖用培地を加えた。ピペッティングにより細胞を分離させた後、遠沈管に移して約1,000 rpm(180×g)で5分間遠心分離した。上清を除去し、増殖用培地を加えて細胞を培養容器に播種した。細胞の継代は3または4日毎に実施した。
【0116】
(2)腫瘍細胞の移植
上記(1)にて回収した細胞をPBS(-)で洗浄した。細胞を適当量のPBS(-)に浮遊させ、その一部を0.4%トリパンブルーと混合し、細胞数および生存率を求めた。その結果、生存率は93%であった。PBS(-)を用いて生細胞密度を5×107 cells/mLに調整した。細胞懸濁液は、移植に用いるまで氷冷下で保存した。
動物の右背部皮下に1 mL注射筒(テルモ株式会社)および26G注射針(テルモ株式会社)を用いて移植した。
移植細胞数: 5×106 cells/0.1 mL/body
【0117】
(3)群分けおよび試験群構成
群分け
腫瘍細胞移植後、ノギス(CD-S20C,株式会社ミツトヨ)を用いて腫瘍の長径および短径を測定し、下記(9)の計算式に従って腫瘍体積を算出した。まず、「単変数による個体の除去」を行い、実験に使用する動物を選択した。これらの動物の平均腫瘍体積は221.5 mm3であった。「単変数によるブロック化割付け」を行い,各試験群の腫瘍体積の平均値が均等になるように割付けた。この日をDay 0(移植後10日)と設定した。ソフトウェアはSAS System Release 8.2(SAS前臨床パッケージ Version 5.0,SAS Institute Japan株式会社)を使用した。
【0118】
試験群構成
試験群構成は表7に示すとおりである。
【表7】

【0119】
(4)投与液の調製
菌(B.longum Re-105A/pBifiCD)の調製方法および調製頻度
10 mL(2.3×109 cfu/mL)入りバイアルを使用直前に37℃の温浴で10分間融解した。
5-FCの調製方法および調製頻度
必要量の5-FCを正確に分取した。これに注射用水を加え、超音波装置で20分間処理し、12.5 mg/mL溶液を調製した。投与液の保存および使用は調製日限りとし,1〜3回目の投与液をまとめて調製した。投与液は、すべての投与が終了するまでの間遮光下にて室温保存した。
マルトースおよび生理食塩水の調製方法および調製頻度
投与日にマルトースもしくは生理食塩水を分注して用いた。投与液の保存および使用は調製日限りとし、1回目と2回目の投与液をまとめて調製した、投与液は、すべての投与が終了するまでの間室温保存した。
【0120】
(5)投与回数,投与時刻および投与期間
菌(B.longum Re-105A/pBifiCD)
Day 1〜Day 3に、第2〜4群に1日に1回(7時30分〜12時)3日間投与した。
5-FC
Day 5〜Day 25に、第2〜4群に1日3回(約4時間間隔)、Day 26に1回の計64回投与した。
マルトースおよび生理食塩水
Day 1〜Day 25に、第2〜4群に1日2回、計50回投与した。投与間隔は6時間以上とした。ただし、Day 1〜Day 3では、菌(B.longum Re-105A/pBifiCD)の投与終了後1時間以上経過した後に1回目の投与を行ったため、投与間隔は3〜4時間であった。
【0121】
(6)投与方法
菌(B.longum Re-105A/pBifiCD)
ヌードラットを保定し、10 mL注射筒(テルモ株式会社)、25G翼付静注針(テルモ株式会社)およびシリンジポンプ(TE-331S,テルモ株式会社)を用いて投与液を尾静脈内に持続投与した。
5-FC
5 mL注射筒(テルモ株式会社)および胃ゾンデ(RZ-1,テフロン(登録商標)製,日本クレア株式会社)を用いて経口投与した。
マルトースおよび生理食塩水
2.5 mL注射筒(テルモ株式会社)および27G注射針(ニプロ株式会社)を用いて腹腔内に投与した。
【0122】
(7)投与量
菌(B.longum Re-105A/pBifiCD)
1×1010 cfu/kg/day(第2群:1.4〜1.8×109 cfu/body/day)または4×1010 cfu/kg/day(第3群:5.8〜7.0×109 cfu/body/day,第4群:6.0〜6.7×109 cfu/body/day)とした。投与速度は10 mL/kg/hrとした。投与速度はDay 1におけるラットの体重から算出し、小数第2位を四捨五入して用いた。
5-FC
750 mg/kg/day(250 mg/kg/time)とした。投与容量は60 mL/kg/day(20 mL/kg/time)とした。投与液量はラットの最新体重から算出し、小数第2位を四捨五入して用いた。
マルトースおよび生理食塩水
マルトースの投与量は200 mg/body/day(100 mg/body/time)とし、生理食塩水の投与量は0 mg/body/dayとした(マルトース量として表示)。投与容量は2 mL/body/day(1 mL/body/time)とした。
【0123】
(8)腫瘍径の測定
腫瘍体積の算出
腫瘍細胞移植後、ノギスを用いて腫瘍の長径および短径を測定し、下記の計算式に従って腫瘍体積を算出した。群分け日以降は、Day 0、5、8、11、14、17、20、23および26に腫瘍径を測定した。
腫瘍体積(mm3)= 1/2 × 長径(mm)× 短径(mm)× 短径(mm)
腫瘍増殖率の算出
5-FC投与開始以降の腫瘍体積から下記の計算式に従って腫瘍増殖率を算出した。
腫瘍増殖率 = Day 5以降の腫瘍体積 / Day 5の腫瘍体積
T/C(%)の算出
Day 8以降の腫瘍増殖率から下記の計算式に従ってT/C(%)を算出した。
T/C(%) = 第2,3または4群の平均腫瘍増殖率 / 第1群の平均腫瘍増殖率 × 100
【0124】
(9)結果
腫瘍体積
腫瘍体積の測定結果を表8及び図2に示した。
第1群(無処置群)の腫瘍体積はDay 0では223.3 ± 43.0 mm3であり、Day 5では505.0 ± 125.9 mm3であった。また、Day 26では4002.6 ± 661.1 mm3であった。観察期間を通じて腫瘍体積の著しい増大が認められた。
【0125】
第2群(菌低用量、マルトース投与)の腫瘍体積はDay 0では221.0 ± 44.4 mm3であり、5-FC投与開始日のDay 5では496.1 ± 108.3 mm3であった。また、Day 26では2370.9 ± 487.4 mm3であった。第2群では第1群と比較してDay 11以降のすべての時点で腫瘍体積の有意な低値(Day 11ではP<0.05,Day 14,17,20,23および26ではP<0.001:Studentのt検定)が認められた。
【0126】
第3群(菌高用量、マルトース投与)の腫瘍体積はDay 0では219.7 ± 41.9 mm3であり、5-FC投与開始日のDay 5では488.7 ± 80.2 mm3であった。また、Day 26では2135.6 ± 592.9 mm3であった。第3群では第1群と比較してDay 8以降のすべての時点で腫瘍体積の有意な低値(Day 8ではP<0.01,Day 11,14,17,20,23および26ではP<0.001:Studentのt検定)が認められ、さらに、第4群と比較してDay 14,20,23および26に腫瘍体積の有意な低値(いずれもP<0.05:Studentのt検定)が認められた。
【0127】
第4群(菌高用量、マルトース非投与)の腫瘍体積はDay 0では222.1 ± 43.5 mm3であり、5-FC投与開始日のDay 5では500.3 ± 109.3 mm3であった。また、Day 26では2879.3 ± 658.4 mm3であった。第4群では第1群と比較してDay 11以降のすべての時点で腫瘍体積の有意な低値(Day 14ではP<0.05,Day 11,17,20,23および26ではP<0.01:Studentのt検定)が認められた。
【0128】
【表8】

【0129】
腫瘍増殖率
結果を表9に示した.
第1群の腫瘍増殖率はDay 26では8.4 ± 2.7であった。
第2群の腫瘍増殖率はDay 17以降のすべての時点で第1群と比較して有意な低値(Day 17,20および23ではP<0.05,Day 26ではP<0.01:Studentのt検定)であり、Day 26では4.9 ± 1.2であった。
第3群の腫瘍増殖率はDay 8以降のすべての時点で第1群および第4群と比較して有意な低値(いずれの時点でも第1群と比較してP<0.01,第4群と比較してP<0.05:Studentのt検定)であり、Day 26では4.4 ± 0.8であった。
第4群の腫瘍増殖率はDay 17以降のすべての時点で第1群と比較して有意な低値(いずれもP<0.05:Studentのt検定)であり、Day 26では5.9 ± 1.4であった。
【0130】
【表9】

【0131】
T/C(%)
結果を表10に示した。
第2群のDay 26におけるT/C(%)は58.3であった。
第3群のDay 26におけるT/C(%)は52.4であった。
第4群のDay 26におけるT/C(%)は70.2であった。
【0132】
【表10】

【0133】
本試験結果から、マルトースが、B.longum Re-105A/pBifiCDの腫瘍組織への特異的な生着促進作用、腫瘍組織における増殖促進作用及び増殖維持作用を示すことが確認された。
さらに、マルトースを併用する事により、低用量の菌の投与でも高用量の菌の投与と同等の抗腫瘍効果を発揮させることが可能であり、したがって、菌の投与量を低減することができ、よって、患者への負担および副作用の低い、安全な治療ができることが確認できた。
【0134】
〔実施例4〕
B.longum Re-105A/pBifiCDとマルトースまたはラクツロースとの併用
(1)担癌ヌードマウスの作製と腫瘍体積の測定
実施例1および実施例2と同様にして担癌ヌードマウスの作製と腫瘍体積の測定を行った。
【0135】
(2)群分けと被験薬物の投与
KPL-1担癌ヌードマウスの腫瘍体積が60〜90 mm3のマウス32匹を選別し、4群(1群8匹)に分け、下記(3)に示した群構成と投与スケジュールに従って、それぞれの被験薬物を投与した。
【0136】
菌(B.longum Re-105A/pBifiCD)の投与
菌(B.longum Re-105A/pBifiCD)は、(3)群構成と投与スケジュールに従って、B.longum Re-105A/pBifiCD凍結製剤(2.3 x 109cfu/mL)を、マウスあたり0.3 mLを1日に2回、3日間(day 1〜3)静脈内に投与した。なお、菌の総投与量は4.1 x 109cfu/マウスであった。
【0137】
フルシトシン(5-FC)の投与
12.5 mg/mLの5-FC溶液を、(3)に示す群構成と投与スケジュールに従い、対照群(A群)を除く2群のマウスに0.4 mLを1日に3回、経口投与(750mg/kg/day)した。投与期間は菌の最終投与翌日から21日間(day 4〜24)とした。
【0138】
マルトースの投与
(3)に示す群構成と投与スケジュールに従い、10%マルトース注射液1 mLを1日に2回、マウスに腹腔内投与した。投与期間は菌(B. longum Re-105A/pBifiCD)の投与日から24日間(day 1〜24)とした。
なお、D群では、マルトースの代わりに同量の生理食塩液を同一スケジュール(day 1〜24)で投与した。
【0139】
ラクツロースの投与
精製水で溶解した20%(w/v)ラクツロース溶液を、(3)に示す群構成と投与スケジュールに従い、1 mLを1日に1回マウスに腹腔内投与した。投与期間は菌の投与日から24日間(day 1〜24)としたが、投与期間中(day 13とday 19)に2例のマウスの死亡を確認したため、投与スケジュールを変更して、day 19以降の投与は中止した。
【0140】
(3)群構成と投与スケジュール概要
群構成と投与スケジュールを表11に示した。
【0141】
【表11】

【0142】
(4)腫瘍内菌数の測定
試験観察最終日(day 25)及び翌日(day 26)に5-FCを1回のみ経口投与し1時間後にマウスを犠牲死させて腫瘍を摘出し、重量(g)を測定後、嫌気性希釈液にてホモジナイズした。
腫瘍内菌数の算出は、実施例1、(3)と同様にして算出した。
【0143】
(5)結果
各群のマウスの腫瘍体積を経日的に測定し、平均値±SDで表示した。また抗腫瘍効果判定の指標として対照群に対する相対腫瘍体積比率〔T/C(%)〕を用いた。
対照群(A群)及び菌(B.longum Re-105A/pBifiCD)と糖類の併用投与群の腫瘍体積変動及びDay 4の腫瘍体積に対するDay 25の腫瘍体積で計算した腫瘍増殖率を表12に示した。
また抗腫瘍効果の指標としてT/C(%)を表13に示した。
糖源非併用群(D群)のday 25でのT/Cが51.3(%)(Student's t-test: p=0.013)であるのに対し、マルトース併用群(B群)のT/Cは38.5(%)(p=0.003)、ラクツロース併用群(C群)のT/Cは35.0(%)(p=0.002)と何れも腫瘍増殖抑制作用の増強効果が見られた。
【0144】
【表12】

【0145】
【表13】

【0146】
本試験結果から、ラクツロースもマルトースと同様に、B.longum Re-105A/pBifiCDの腫瘍組織への特異的な生着促進作用、増殖促進作用及び増殖維持作用を示し、B.longum Re-105A/pBifiCDの抗腫瘍効果を増強させることが可能であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明の発現ベクターは、大腸菌などの、他の病原性または好気性/通性嫌気性微生物に水平伝達するおそれのない、治療的または予防的使用で外因性遺伝子を嫌気性微生物に導入するための極めて安全な遺伝子輸送担体を提供することが可能である。該ベクターはかかる他の微生物の複製開始点を含まないため、仮に水平伝達が起こったとしても、該ベクターは形質転換体以外の微生物中では複製されない。
さらに、本発明の形質転換微生物の生着・増殖促進剤は、本発明の形質転換微生物の治療的効果を改善し、同等の治療的効果を有したまま形質転換微生物の投与量を低減させることが出来、それにより処置される患者の負担を軽減することが出来る。
さらに、形質転換嫌気性微生物を含む医薬組成物と、生着・増殖促進剤を含む医薬組成物とを組み合わせて含む本発明の治療剤は、改善された治療的効果および低減された有効投与量、ならびに環境的および治療的観点から改善された安全性を有する、嫌気性疾患の治療剤としての有用性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性疾患部位に送達するための嫌気的疾患治療剤であって、
嫌気性微生物を形質転換するための、該嫌気性微生物において複製されるが大腸菌において複製されないプラスミドベクターであって、該嫌気性微生物において機能するが大腸菌において機能しないプラスミド複製ユニットを含むプラスミドベクターで形質転換された嫌気性微生物を有効成分として含有する医薬組成物と、
上記嫌気性微生物の生着・増殖促進剤を有効成分として含有する医薬組成物
とを組み合わせてなる、嫌気的疾患治療剤。
【請求項2】
プラスミドベクターが、さらに、
目的とする活性を有する蛋白質をコードするDNAと嫌気性微生物で機能するプロモーターおよびターミネーターを含むDNA断片とからなる蛋白質発現ユニット
を含むプラスミドベクターである、請求項1に記載の疾患治療剤。
【請求項3】
目的とする活性を有する蛋白質が、嫌気的環境下にある疾患の治療活性を有する蛋白質である、請求項2に記載の疾患治療剤。
【請求項4】
嫌気的環境下にある疾患の治療活性を有する蛋白質が、(a)抗腫瘍活性を有する蛋白質、または(b)抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質である、請求項3に記載の疾患治療剤。
【請求項5】
嫌気的環境下にある疾患の治療活性を有する蛋白質が、(b)抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質である、請求項4に記載の疾患治療剤。
【請求項6】
嫌気性微生物が、ビフィドバクテリウム属細菌、ラクトバチルス属細菌、エンテロコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌およびクロストリジウム属細菌からなる群より選択される、請求項1に記載の疾患治療剤。
【請求項7】
嫌気性微生物が、ビフィドバクテリウム属細菌である、請求項6に記載の疾患治療剤。
【請求項8】
ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・サーモフィラム、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、およびビフィドバクテリウム・ロンガムからなる群より選択される、請求項7に記載の疾患治療剤。
【請求項9】
ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガムである、請求項8に記載の疾患治療剤。
【請求項10】
ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガム105−A/pBifiCD(独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター受領番号:NITE ABP−491)である、請求項9に記載の疾患治療剤。
【請求項11】
抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質が、シトシン・デアミナーゼ、ニトロリダクターゼおよびβ−グルクロニダーゼからなる群より選択される、請求項5に記載の疾患治療剤。
【請求項12】
抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質がシトシン・デアミナーゼである、請求項11に記載の疾患治療剤。
【請求項13】
生着・増殖促進剤が、アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコース、マルトース、ラクトース、メリビオース、メレジトース、ラフィノース、ラクツロースからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の疾患治療剤。
【請求項14】
生着・増殖促進剤が、グルコースまたはマルトースである、請求項13に記載の疾患治療剤。
【請求項15】
生着・増殖促進剤が、マルトースである、請求項14に記載の疾患治療剤。
【請求項16】
有効成分として、アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコース、マルトース、ラクトース、メリビオース、メレジトース、ラフィノース、ラクツロースからなる群より選択される少なくとも一種を含む、嫌気性疾患部位に送達するための形質転換嫌気性微生物の生着・増殖促進剤。
【請求項17】
有効成分がグルコースまたはマルトースである、請求項16に記載の生着・増殖促進剤。
【請求項18】
有効成分ががマルトースである、請求項17に記載の生着・増殖促進剤。
【請求項19】
さらに、(b)抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質によって抗腫瘍物質に変換される抗腫瘍物質前駆体を有効成分として含有する医薬組成物を組合せてなる、請求項5に記載の疾患治療剤。
【請求項20】
抗腫瘍物質前駆体が5−フルオロシトシンである、請求項19に記載の疾患治療剤。
【請求項21】
プラスミド複製ユニットが、ビフィドバクテリウム属細菌、ラクトバチルス属細菌、エンテロコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌およびクロストリジウム属細菌からなる群より選ばれる嫌気性微生物で機能する、請求項6に記載の疾患治療剤。
【請求項22】
プラスミド複製ユニットが、ビフィドバクテリウム属細菌で機能する、OriV領域およびRepB遺伝子からなるpTB6 repユニットである、請求項7に記載のプラスミドベクター。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−518112(P2011−518112A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541634(P2010−541634)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【国際出願番号】PCT/JP2009/001776
【国際公開番号】WO2009/128275
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(504434039)株式会社アネロファーマ・サイエンス (2)
【Fターム(参考)】