説明

子宮内膜症関連疾患の診断方法

被験者の生体試料におけるヒスタミン放出因子(HRF)ポリヌクレオチドの発現量を測定し、HRFポリヌクレオチドの存在量を正常生体試料のそれと比較し、正常生体試料と比較して有意に高いHRFポリヌクレオチド発現量を、子宮内膜症関連疾患またはそのリスクの程度の指標とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この出願の発明は、子宮内膜症関連疾患の分子生物学的な診断方法に関するものである。またこの出願の発明は、子宮内膜症関連疾患の分子メカニズムを利用した当該疾患の治療薬および治療方法に関するものである。
【背景技術】
子宮内膜症は一般的な産婦人科疾患であり、生殖可能年齢にある全女性の10%に影響している(非特許文献1)。子宮内膜症の組織は正所性子宮内膜のように周期的な増殖と崩壊を経て、周期的月経困難症、性交疼痛症、骨盤痛、および月経時血尿の原因になる。さらに不妊症患者の30〜40%がこの疾患を有していることも報告されている(非特許文献2)。一部の患者で子宮内膜細胞が転移し、異所的に増殖する際のメカニズムは未だに不明であるが、炎症性サイトカインの脱調節化が子宮内膜症の進行に寄与している可能性がある(非特許文献3、4)。事実、単球の活性化と腹腔内への移動が、子宮内膜症において最も一貫して報告されている免疫学的異常性の一つとなっている(非特許文献5〜8)。
ダイオキシンは内分泌攪乱物質の一種であり、環境中に遍在している。3,3,7,8−tetrachlorodibenzo−p−dioxisin(TCDD;ダイオキシン)はダイオキシン群の中でも最も毒性が高い物質であり、各種の毒性効果(例えば、免疫毒性、血液毒性、催奇形性、および発ガン性など)を有している(非特許文献9、10)。TCDDおよび関連化合物が誘導する遺伝子発現の変化は、毒素がアリル炭化水素受容体(AhR)に結合した時点で開始され、次にアリル炭化水素受容体核トランスロケーター(ARNT)と二量体を形成して、XRE(異物応答配列)モチーフを含む遺伝子調節要素と相互作用する複合体を形成する(非特許文献11、12)。サルをTCDDに慢性曝露させると、用量依存的に軽度から重度の子宮内膜症が発現したことから(非特許文献13)、ダイオキシンと子宮内膜症の関連性について幾つかの研究が行われた(非特許文献14〜18)。しかしながらTCDD曝露は子宮内膜症に相関しないと言う結果が最近報告され(非特許文献19、20)、ダイオキシン曝露と子宮内膜症の関連性は不明のままとなっている。
なおこの出願の発明者らは、IgE依存性ヒスタミン放出因子(Histamine Releasing Foctor:HRF)を含むTCDD標的遺伝子を同定している(非特許文献21〜23)。しかしながら、このようなTCDD標的遺伝子産物としてのHRFと子宮内膜症との関係は一切知られていない。
【非特許文献1】 Wheeler J.M.J.Reprod Med.1989,34(1):41−6
【非特許文献2】 Candiani G.B.et al.Obstct Gynecol.Surv.1991,46(6):374−82
【非特許文献3】 Garcia−Velasco J.A.and Arici A.Fertil Steril.1999,71(6):983−93
【非特許文献4】 Barcz et al.Med.Sci.Monit.2000,6(5):1042−6
【非特許文献5】 Jolicoeur C.et al.Am.J.Pathol.1998,152(1):125−33
【非特許文献6】 Lebovic D.I.et al.Fertil Steril 2001,75(1):1−10
【非特許文献7】 Hornung D.et al.Am.J.Pathol.2001,158(6):1949−54
【非特許文献8】 Blumenthal R.D.et al.Am.J.Pathol.2000,156(5):1581−8
【非特許文献9】 Chapman D.E.and Schiller C.M.Toxicol Appl.Pharmacol.1985,78(1):147−57
【非特許文献10】 McGregor D.B.et al.Environ Health Perspect.1998,106Suppl 2:755−60
【非特許文献11】 Sagawa K.and Fujii−Kuriyama T.J.Biochem.(Tokyo)1997,122(6):1075−9
【非特許文献12】 Nebert D.W.Crit.Rev.Toxicol.1989,20(3):153−74
【非特許文献13】 Rier S.E.et al.Fundam.Appl.Toxicol.1993,21(4):433−41
【非特許文献14】 Gibbsons A.Science 1993,262(5183):1373
【非特許文献15】 Obsteen K.G.and Sierra−Rivera E.Endocrinol.1997,15(3):301−8
【非特許文献16】 Bruner−Tran K.L.et al.Gynecol.Obstet.Invest.1999,48 Suppl.1:45−56
【非特許文献17】 Johson K.L.et al.Environ Health Perspect 1997,105(7):750−5
【非特許文献18】 Yang J.Z.and Foster W.G.Toxicol.Ind.Health 1997,13(1):15−25
【非特許文献19】 Igarashi T.et al.Endocr.J.1999,46(6):765−72
【非特許文献20】 Pauwels A.et al.Hum.Reprod.2001,16(10):2050−5
【非特許文献21】 Oikawa K.et al.Cancer Res.2001,61(15):5707−9
【非特許文献22】 Oikawa K.et al.Biochem.Biophys.Res.Commun.2002,290(3):984−7
【非特許文献23】 Ohbayashi et al.FEBS Lett.2001,508(3):341−4
【発明の開示】
子宮内膜症の診断は、従来は、腹腔内視鏡による観血的な方法以外には有効な方法は存在しなかった。
一方、各種のヒト疾患に対して、その疾患に特異的なマーカータンパク質やその遺伝子発現を指標とする分子生物学的診断が普及しつつある。この方法は、大がかりな設備を必要とせず、被験者への負担も少ないため、自覚症状のない多くの被験者に対しても広範囲に実施することが可能である。しかしながら、子宮内膜症については、このような分子生物学的な診断方法を行うための有効なマーカータンパク質やその遺伝子は知られていない。
この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、子宮内膜症に密接に関連する遺伝子発現を利用しい分子生物学的な診断方法を提供することを課題としている。
またこの出願の発明は、この診断方法に使用する各種材料を提供することを課題としている。
この出願は、前記の課題を解決するものとして、以下の(1)〜(11)の発明を提供する。
(1)被験者の生体試料におけるヒスタミン放出因子(HRF)ポリヌクレオチドの発現量を測定し、HRFポリヌクレオチドの発現量を正常生体試料のそれと比較し、正常生体試料と比較して有意に高いHRFポリヌクレオチド発現量を示す被験者を、子宮内膜症関連疾患の患者またはそのハイリスク者と判定することを特徴とする子宮内膜症関連疾患の診断方法。
(2)HRFポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするHRFオリゴヌクレオチド。
(3)前記発明(2)のHRFオリゴヌクレオチドを標識化したオリゴヌクレオチドプローブ。
(4)前記発明(2)のHRFオリゴヌクレオチドまたはHRFポリヌクレオチドをターゲットキャプチャープローブとして備えたDNAマイクロアレイ。
(5)HRFポリヌクレオチドをPCR増幅するためのプライマーセット。
(6)少なくとも以下の工程:
(a)被験者の生体試料よりRNAを調製する工程;
(b)工程(a)で調製されたRNAを電気泳動分離する工程;
(c)工程(b)で分離されたRNAを前記発明(3)のオリゴヌクレオチドプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする工程;
(d)工程(e)でRNAにハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドプローブの標識量をHRFポリヌクレオチド発現量の指標とし、正常生体試料の結果と比較する工程;および
(e)正常生体試料と比較して有意に高いHRFポリヌクレオチド発現量を、子宮内膜症関連疾患またはそのリスクの程度を示す指標として使用する工程、
を含むことを特徴とする子宮内膜症関連疾患の診断方法。
(7)少なくとも以下の工程:
(a)被験者の生体試料よりRNAを調製する工程;
(b)工程(a)で調製したRNAから、標識cDNAを調製する工程、
(c)工程(b)で調製した標識cDNAを前記発明(4)のDNAマイクロアレイに接触させる工程;
(d)工程(c)でDNAマイクロアレイのキャプチャープローブにハイブリダイズした標識cDNAの標識量をHRFポリヌクレオチド発現量の指標とし、正常生体試料の結果と比較する工程;および
(e)正常生体試料と比較して有意に高いHRFポリヌクレオチド発現量を、子宮内膜症関連疾患またはそのリスクの程度を示す指標として使用する工程、
を含むことを特徴とする子宮内膜症関連疾患の診断方法。
(8)少なくとも以下の工程:
(a)被験者の生体試料よりRNAを調製する工程;
(b)工程(a)で調製したRNAを鋳型とし、前記発明(5)のプライマーセットを用いてcDNAを合成する工程;
(c)工程(b)で合成されたcDNA量をHRFポリヌクレオチド発現量の指標とし、正常生体試料の結果と比較する工程;および
(d)正常生体試料と比較して有意に高いHRFポリヌクレオチド発現量を、子宮内膜症関連疾患またはそのリスクの程度を示す指標として使用する工程、
を含むことを特徴とする子宮内膜症関連疾患の診断方法。
(9)前記発明(6)、(7)および(8)の診断方法からなる群より選択される2以上の診断方法を含む子宮内膜症関連疾患の診断方法。
(10)細胞内HRFポリヌクレオチドの発現を抑制する分子を含有することを特徴とする子宮内膜症関連疾患の治療薬。
(11)細胞内HRFポリヌクレオチドの発現を抑制する分子を体内に投与することを特徴とする子宮内膜症関連疾患の治療方法。
すなわち、この出願の発明者らは、子宮内膜組織と子宮内膜症移植片におけるTCDD標的遺伝子(HRF、CYP1A1)の発現を調べた結果、子宮内膜症の進行とHRF発現レベルに高い相関関係を見出してこの出願の発明を完成させた。
なおこの発明において、「子宮内膜症関連疾患」とは、子宮内膜症、および子宮内膜症を原因とする月経困難症、不妊症および子宮腺筋症等を意味する。「診断」とは、被験者が子宮内膜症関連疾患に羅患しているか否かの判定、将来的に子宮内膜症関連疾患に羅患する危険性が存在するか否かの判定、および治療後に子宮内膜症関連疾患を再発する危険性が存在するか否かの判定を意味する。また、診断には、子宮内膜症関連疾患の羅患やその危険性がどの程度であるか測定することも含まれる。
また「HRFポリヌクレオチド」とはHRFタンパク質をコードするポリヌクレオチド[プリンまたはピリミジンが糖にβ−N−グリコシド結合したヌクレオシドのリン酸エステル(ATP、GTP、CTP、UTP;またはdATP、dGTP、dCTP、dTTP)が結合した分子を意味する。具体的には、HRFタンパク質をコードするゲノムDNA、ゲノムDNAから転写される mRNA、mRNAから合成されるcDNAである。また、2本鎖であっても1本鎖であってもよい。さらに、これらのゲノムDNAやmRNA、cDNAのセンス鎖およびアンチセンス鎖も含まれる。また「ポリヌクレオチド」とは、前記のヌクレオチドが100個以上結合した分子を言い、「オリゴヌクレオチド」とは2−99個連結した分子を言う。さらに「タンパク質」および「ペプチド」とは、アミド結合(ペプチド結合)によって互いに結合した複数個のアミノ酸残基から構成された分子を意味する。特にアミノ酸残基2−33個のものを「オリゴペプチド」、34個以上のものを「ポリペプチド」と記載する。
また、配列表に示した塩基配列およびアミノ酸配列については、1以上の塩基の付加、欠失、他の塩基への置換、あるいはこれらの塩基変異に基づく1以上のアミノ酸残基の付加、欠失および他のアミノ酸への置換をも包含する。
この発明におけるその他の用語や概念は、発明の実施形態の説明や実施例において詳しく規定する。なお、用語は基本的にはIUPAC−IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによるものであり、あるいは当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものである。またこの発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、薬剤の調製はRemington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,ed.A.Gennaro,Mack Publishing Co.,Easton,PA,1990に、遺伝子工学および分子生物学的技術はJ.Sambrook,E.F.Fritsch & T.Maniatis,”Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd edition)”,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York(1989);D.M.Glover et al.ed.,”DNA Cloning”,2nd ed.,Vol.1to4,(The Practical Approach Series),IRL Press,Oxford University Press(1995);Ausubel,F.M.et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,New York,N.Y,1995;日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法II」、東京化学同人(1986);日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸III(組換えDNA技術)」、東京化学同人(1992);R.Wu ed.,”Methods in Enzymology”,Vol.68(Recombinant DNA),Academic Press,New York(1980);R.Wu et al.ed.,”Methods in Enzymology”,Vol.100(Recombinant DNA,Part B)&101(Recombinant DNA,Part C),Academic Press,New York(1983);R.Wu et al.ed.,”Methods in Enzymology”,Vol.153(Recombinant DNA,Part D),154(Recombinant DNA,Part E)&155(Recombinant DNA,Part F),Academic Press,New York(1987);J.H.Miller ed.,”Methods in Enzymology”,Vol.204,Academic Press,New York(1991);R.Wu et al.ed.,”Methods in Enzymology”,Vol.218,Academic Press,New York(1993);S.Weissman(ed.),”Methods in Enzymology”,Vol.303,Academic Press,New York(1999);J.C.Glorioso et al.(ed.),”Methods in Enzymology”,Vol.306,Academic Press,New York(1999)などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法あるいはそれらと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる(それらの中にある記載はそれを参照することにより本明細書の開示に含められる)。
【図面の簡単な説明】
図1は、正常子宮内膜組織、子宮内膜症患者に由来する正所性子宮内膜組織、および子宮内膜症移植片におけるHRFとCYP1A1発現を調べた結果である。(A)HRF mRNAレベルはノーザンブロット分析により調べた。ブロットの再プローブをヒトβアクチンプローブを用いて行い、トータルRNAレベルを決定した。ノーザンブロットにより調べた試料中のCYP1A1 mRNBAレベルはサザンブロット分析を用いた定量的RT−PCRにより決定した。定量の精度を確認するため、5倍の異なる濃度のcDNA試料(1xおよび5x)をPCRテンプレートとして用い、同様な配置で調べた。βアクチンをmRNA量に対する内部対照として用いた。(B)HRFおよびCYP1A1のmRNAレベルに対する画像表示を同様に示す。mRNAレベルはdensintometry(MOLECULAR IMAGER,Nippon Bio−Rad)を用いてβアクチンシグナルに対して正規化した。試料11−2AはHRFのmRNAレベル、10−2AはCYP1A1のmRNAレベルを示し、任意に10に設定した。複数の試料が一個人由来である場合には、平均値を計算して表示した。エラーバーは複数試料の最大値を表す。12−1、7−1、8−1および6Bは正常な子宮内膜組織であり、アステリスクが印字された1Cは子宮内膜症患者の正所性子宮内膜である。
図2は、子宮内膜症移植片におけるHRF発現を調べた結果である。(A)正常な子宮内膜組織、子宮内膜症患者の正所性子宮内膜組織、および子宮内膜症移植片におけるHRF発現のノーザンブロット分析の結果である。ブロットはヒトβアクチンプローブを用いて再プローブを行い、トータルRNAレベルを決定した。カラム上のN、EuおよびEnはそれぞれ正常な子宮内膜組織、子宮内膜症患者の正所性子宮内膜組織、および子宮内膜症移植片を示す。(B)図1Aおよび図2Aにおいて調査した試料について、ノーザンブロット分析により測定したHRF mRNAレベルのグラフ表示である。HRF mRNAレベルはdensintometry(MOLECULAR IMAGER,Nippon Bio−Rad)を用いてβアクチンシグナルに対して正規化した。試料6BのmRNAレベルを任意に1に設定した。複数の試料が一個人由来である場合には、平均値を計算して表示した。エラーバーは複数試料の最大値を表す。
図3は、HRFおよびCD68発現の免疫組織化学的分析の結果である。茶色の染色で陽性部分が可視化されている。逆染色にはヘマトキシリンを用いた。(A)および(B)正常な子宮内膜組織におけるHRFタンパク質の検出(A:増殖フェーズ、B:分泌フェーズ、原図倍率x200)。(C)卵巣の子宮内膜症移植片内部におけるHRFタンパク質の検出(原図倍率x200)。(D)子宮内膜症移植片の形態を示す連続切片のH&E染色(原図倍率x200)。(E)さらに高倍率で(C)と同じ視野のHRFタンパク質を検出したもの(原図倍率x400)。(F)子宮内膜症移植片の連続切片におけるCD68陽性マクロファージの免疫組織化学的局在(原図倍率x400)。
図4は、移植アッセイの結果である。(A)NIH3T3細胞内のHRFタンパク質のウエスタンブロット分析の結果。wt:親のNIH3T3細胞、HRF:HRFを含むレトロウイルスベクターによる感染後に安定してHRFを発現する細胞株(pMSCV−HRF−3T3)、vector:空のベクターを感染させた対照細胞(pMSCV−3T3)。(B)ヌードマウスにおけるHRF過剰発現細胞の示す高い移植効率を示す。縦軸上のマークは次の状態を示す。+++:無数の移植コロニーが観察された状態、++:数十個の移植コロニーが観察された状態、+:数個の移植コロニーが観察された状態、−:移植コロニーは観察されなかった状態。対照細胞またはHRF過剰発現細胞を注射した個々のマウスは、それぞれ白丸または黒丸により示す。
【発明を実施するための最良の形態】
この出願の発明(1)の診断方法は、被験者の生体試料におけるHRFポリヌクレオチドの発現量を測定し、このHRFポリヌクレオチドの発現量を指標として子宮内膜症関連疾患を診断する方法である。すなわち、HRFポリヌクレオチドの発現量が正常生体試料と比較して有意に多い被験者を子宮内膜症関連疾患の患者またはそのハイリスク者と判定する。HRFポリヌクレオチドの発現量は子宮内膜症関連疾患と密接に関連することから、被験者の生体試料(例えば月経血等)におけるこのHRFポリヌクレオチドの発現量を指標として子宮内膜症の診断を行うことができる。またHRFポリヌクレオチド発現量が「有意に多い」とは、被験者のポリヌクレオチドの発現量が正常生体試料(すなわち健常者の生体試料)において測定されたHRFポリヌクレオチドと比較して、10%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは100%以上である場合を意味する。またさらに、この「有意に多い」とは、例えば同一被験者の複数試料についてのHRFポリヌクレオチド発現量の平均値と、複数の正常試料における同様の平均値とを統計的に検定した場合、前者が後者よりも有意に多い場合である。
HRFポリヌクレオチドは、各種の変異体(例えば、GenBank/XM_294045、XM_038391、XM_293291、XM_209741、XM_210566、XM_066706、XM_066675、XM_071321等)が知られているが、SEQ ID:1(塩基配列)に示したHRF cDNA(またはTPT−1:GenBank/NM_003295)を好ましいものとして例示する。このようなポリヌクレオチドは、それぞれ公知の方法によって容易に取得することができる。例えば、cDNAの場合には、公知の方法(Mol.Cell Biol.2,161−170,1982;J.Gene 25,263−269,1983;Gene,150,243−250,1994)を用いてcDNAライブラリーを合成し、それぞれ公知の塩基塩基配列に基づいて作製したプローブDNAを用いて、それぞれのcDNAを単離する方法によって取得することができる。得られたcDNAは、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、NASBN(Nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(Transcription−mediated amplification)法およびSDA(Strand Displacement Amplification)法などの通常行われる遺伝子増幅法により増幅することができる。また、この発明によって提供されるプライマーセットを用い、ヒト細胞から単離したmRNAを鋳型とするRT−PCR法によっても必要量の各cDNAを得ることができる。
以上のとおりのHRFポリヌクレオチド発現量を指標とする発明(1)の診断方法は、公知の遺伝子工学および分子生物学的技術に従い、当該分野で特定の遺伝子の発現を検知測定するために知られた手法、例えばin situハイブリダイゼーション、ノーザンブロッティング、ドットブロット、RNaseプロテクションアッセイ、RT−PCR、Real−Time PCR(Journal of Molecular Endocrinology,25,169−193(2000)およびそこで引用されている文献)、DNAアレイ解析法(Mark Shena編、”Microarray Biochip Technology”,Eaton Publishing,2000年3月)などによってHRFポリヌクレオチド発現量を検知・測定して実施することができる。こうした技術を利用したHRFポリヌクレオチド発現測定系、子宮内膜症関連疾患の検出系、子宮内膜症関連疾患のリスク検出系、それに利用する試薬、方法、プロセス、解析プログラムなどは、すべてこの発明の技術およびそれに利用するシステムに含まれる。
この出願は、前記の発明(1)の診断方法に使用する材料として、特に以下の発明(2)〜(5)を提供する。
発明(2)のHRFオリゴヌクレオチドは、HRFポリヌクレオチドとストリンジェント(stringent)な条件下でハイブリダイゼーションすることを特徴とする。
このHRFオリゴヌクレオチドは、例えば前記のHRFポリヌクレオチド(cDNA)を適当な制限酵素で切断することによっても得ることができる。あるいは、Carruthers(1982)Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.47:411−418;Adams(1983)J.Am.Chem.Soc.105:661;Belousov(1997)Nucleic Acid Res.25:3440−3444;Frenkel(1995)Free Radic.Biol.Med.19:373−380;Blommers(1994)Biochemistry 33:7886−7896;Narang(1979)Meth.Enzymol.68:90;Brown(1979)Meth.Enzymol.68:109;Beaucage(1981)Tetra.Lett.22:1859;米国特許第4,458,066号に記載されているような周知の化学合成技術により、in vitroにおいて合成することができる。
またストリンジェントな条件とは、前記のポリヌクレオチドとオリゴヌクレオチドとの選択的かつ検出可能な特異的結合を可能とする条件である。ストリンジェント条件は、塩濃度、有機溶媒(例えば、ホルムアミド)、温度、およびその他公知の条件によって定義される。すなわち、塩濃度を減じるか、有機溶媒濃度を増加させるか、またはハイブリダイゼーション温度を上昇させるかによってストリンジェンシー(stringency)は増加する。例えば、ストリンジェントな塩濃度は、通常、NaCl約750mM以下およびクエン酸三ナトリウム約75mM以下、より好ましくはNaCl約500mM以下およびクエン酸三ナトリウム約50mM以下、最も好ましくはNaCl約250mM以下およびクエン酸三ナトリウム約25mM以下である。ストリンジェントな有機溶媒濃度は、ホルムアミド約35%以上、最も好ましくは約50%以上である。ストリンジェントな温度条件は、約30℃以上、より好ましくは約37℃以上、最も好ましくは約42℃以上である。その他の条件としては、ハイブリダイゼーション時間、洗浄剤(例えば、SDS)の濃度、およびキャリアーDNAの存否等であり、これらの条件を組み合わせることによって、様々なストリンジェンシーを設定することができる。1つの好まし態様としては、750mM NaCl、75mMクエン酸三ナトリウムおよび1%SDSの条件で、30℃の温度によりハイブリダイゼーションを行う。より好ましい態様としては、500mM NaCl、50mMクエン酸三ナトリウム、1%SDS、35%ホルムアミド、100μg/mlの変性サケ精子DNAの条件で、37℃の温度によりハイブリダイゼーションを行う。最も好ましい態様としては、250mM NaCl、25mMクエン酸三ナトリウム、1%SDS、50%ホルムアミド、200μg/mlの変性サケ精子DNAの条件で、42℃の温度によりハイブリダイゼーションを行う。また、ハイブリダイゼーション後の洗浄の条件もストリンジェンシーに影響する。この洗浄条件もまた、塩濃度と温度によって定義され、塩濃度の減少と温度の上昇によって洗浄のストリンジェンシーは増加する。例えば、洗浄のためのストリンジェントな塩条件は、好ましくはNaCl約30mM以下およびクエン酸三ナトリウム約3mM以下、最も好ましくはNaCl約15mM以下およびクエン酸三ナトリウム約1.5mM以下である。洗浄のためのストリンジェントな温度条件は、約25℃以上、より好ましくは約42℃以上、最も好ましくは約68℃以上である。1つの好ましい態様としては、30mM NaCl、3mMクエン酸三ナトリウムおよび0.1%SDSの条件で、25℃の温度により洗浄を行う。より好ましい態様としては、15mM NaCl、1.5mMクエン酸三ナトリウムおよび0.1%SDSの条件で、42℃の温度により洗浄を行う。最も好ましい態様としては、15mM NaCl、1.5mMクエン酸三ナトリウムおよび0.1%SDSの条件で、68℃の温度により洗浄を行うことである。
発明(3)は、前記のHRFオリゴヌクレオチドを標識化したオリゴヌクレオチドプローブである。標識は、ラジオアイソトープ(RI)法または非RI法によって行うことができるが、非RI法を用いることが好ましい。非RI法としては、蛍光標識法、ビオチン標識法、化学発光法等が挙げられるが、蛍光標識法を用いることが好ましい。蛍光物質としては、オリゴヌクレオチドの塩基部分と結合できるものを適宜に選択して用いることができるが、シアニン色素(例えば、CyDyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、N−アセトキシ−N−アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)などを使用することができる。また標識法としては、当該分野で知られた方法(例えばランダムプライム法、ニック・トランスレーション法、PCRによるDNAの増幅、ラベリング/テイリング法、in vitro transcription法等)を適宜選択して使用できる。例えば、HRFオリゴヌクレオチドに官能基(例えば、第一級脂肪族アミノ基、SH基など)を導入し、こうした官能基に前記の標識を結合して標識化オリゴヌクレオチドプローブを作成することができる。
発明(4)は、前記発明(2)のHRFオリゴヌクレオチドまたはHRFポリヌクレオチドをターゲットキャプチャープローブとして備えたDNAマイクロアレイである。
マイクロアレイの作製方法としては、固相担体表面で直接オリゴヌクレオチドを合成する方法(オン・チップ法)と、予め調製したオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを固相担体表面に固定する方法とが知られている。この発明で使用するマイクロアレイは、このいずれの方法でも作製することができる。オン・チップ法としては、光照射で選択的に除去される保護基の使用と、半導体製造に利用されるフォトリソグラフィー技術および固相合成技術とを組み合わせて、微少なマトリックスの所定の領域での選択的合成を行う方法(マスキング技術:例えば、Fodor,S.P.A.Science 251:767,1991)等によって行うことができる。一方、予め調製したオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを固相担体表面に固定する場合には、官能基を導入したオリゴヌクレオチドを合成し、表面処理した固相担体表面にオリゴヌクレオチドを点着し、共有結合させる(例えば、Lamture,J.B.et al.Nucl.Acids Res.22:2121−2125,1994;Guo,Z.et al.Nucl.Acids Res.22:5456−5465,1994)。オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、一般的には、表面処理した固相担体にスペーサーやクロスリンカーを介して共有結合させる。ガラス表面にポリアクリルアミドゲルの微小片を整列させ、そこに合成オリゴヌクレオチドを共有結合させる方法も知られている(Yershov,G.et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:4913,1996)。また、シリカマイクロアレイ上に微小電極のアレイを作製し、電極上にはストレプトアビジンを含むアガロースの浸透層を設けて反応部位とし、この部位をプラスに荷電させることでビオチン化オリゴヌクレオチドを固定し、部位の荷電を制御することで、高速で厳密なハイブリダイゼーションを可能にする方法も知られている(Sosnowski,R.G.et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:1119−1123,1997)。このマイクロアレイを使用して血管炎を診断する場合には、例えば被験者の細胞から単離したmRNAを鋳型として、cDNAを合成し、PCR増幅する。
その際に、標識dNTPを取り込ませて標識cDNAとする。この標識cDNAをマクロアレイに接触させ、マイクロアレイのキャプチャープローブ(オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド)にハイブリダイズしたcDNAを検出する。ハイブリダイゼーションは、96穴もしくは384穴プラスチックプレートに分注して標識cDNA水性液を、マイクロアレイ上に点着することによって実施することができる。点着の量は、1〜100nl程度とすることができる。ハイブリダイゼーションは、室温〜70℃の温度範囲で、6〜20時間の範囲で実施することが好ましい。ハイブリダイゼーション終了後、界面活性剤と緩衝液との混合溶液を用いて洗浄を行い、未反応の標識cDNAを除去する。界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いることが好ましい。緩衝液としては、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液等を用いることができるが、クエン酸緩衝液を用いることが好ましい。
発明(5)は、HRFポリヌクレオチドをPCR増幅するためのプライマーセットである。このプライマーセットは公知の塩基塩基配列に基づき設計し、合成・精製の各工程を経て調製することができる。なお、プライマー設計の留意点として、例えば以下を挙げることができる。プライマーのサイズ(塩基数)は、鋳型DNAとの間の特異的なアニーリングを満足させることを考慮し、15−40塩基、望ましくは15−30塩基である。ただし、LA(long accurate)PCRを行う場合には、少なくとも30塩基が効果的である。センス鎖(5’末端側)とアンチセンス鎖(3’末端側)からなる1組あるいは1対(2本)のプライマーが互いにアニールしないよう、両プライマー間の相補的配列を避けると共に、プライマー内のヘアピン構造の形成を防止するため自己相補配列をも避けるようにする。さらに、鋳型DNAとの安定な結合を確保するためGC含量を約50%にし、プライマー内においてGC−richあるいはAT−richが偏在しないようにする。アニーリング温度はTm(melting temperature)に依存するので、特異性の高いPCR産物を得るため、Tm値が55−65℃で互いに近似したプライマーを選定する。また、PCRにおけるプライマー使用の最終濃度が約0.1〜約1μMになるよう調整する等を留意することも必要である。また、プライマー設計用の市販のソフトウェア、例えばOligoTM[National Bioscience Inc.(米国)製]、GENETYX[ソフトウェア開発(株)(日本)製]等を用いることもできる。
以上のとおりの材料(発明(2)〜(5)を使用することによって、様々な形態の子宮内膜症関連疾患のそのリスクを診断するための試薬セットの作成や診断方法の構築が可能となる。特にこの出願では、子宮内膜症関連疾患およしそのリスクの診断方法として、以下の発明(6)〜(9)が提供される。
すなわち発明(6)の診断方法は、発明(3)のオリゴヌクレオチドプローブを用いてHRFポリヌクレオチドの発現量(mRNA量)を検出する方法(ノーザンブロット分析法)である。この診断方法は、少なくとも以下の工程:
(a)被験者の生体試料よりRNAを調製する工程;
(b)工程(a)で調製されたRNAを電気泳動分離する工程;
(c)工程(b)で分離されたRNAを前記発明(3)のオリゴヌクレオチドプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする工程;
(d)工程(e)でRNAにハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドプローブの標識量をHRFポリヌクレオチド発現量の指標とし、正常生体試料の結果と比較する工程;および
(e)正常生体試料と比較して有意に高いHRFポリヌクレオチド発現量を、子宮内膜症関連疾患またはそのリスクの程度を示す指標として使用する工程、
を含むことを特徴とする。
また発明(7)の診断方法は、発明(4)のDNAマイクロアレイを使用する方法である。この方法は、少なくとも以下の工程:
(a)被験者の生体試料よりRNAを調製する工程;
(b)工程(a)で調製したRNAから、標識cDNAを調製する工程、
(c)工程(b)で調製した標識cDNAを前記発明(4)のDNAマイクロアレイに接触させる工程;
(d)工程(c)でDNAマイクロアレイのキャプチャープローブにハイブリダイズした標識cDNAの標識量をHRFポリヌクレオチド発現量の指標とし、正常生体試料の結果と比較する工程;および
(e)正常生体試料と比較して有意に高いHRFポリヌクレオチド発現量を、子宮内膜症関連疾患またはそのリスクの程度を示す指標として使用する工程、
を含むことを特徴とする。
さらに発明(8)の診断方法は、発明(5)のプライマーセットを用いて、HRFポリヌクレオチド(具体的にはmRNA)の発現量を測定する方法(RT−PCT法)である。この方法は、少なくとも以下の工程:
(a)被験者の生体試料よりRNAを調製する工程;
(b)工程(a)で調製したRNAを鋳型とし、前記発明(5)のプライマーセットを用いてcDNAを合成する工程;
(c)工程(b)で合成されたcDNA量をHRFポリヌクレオチド発現量の指標とし、正常生体試料の結果と比較する工程;および
(d)正常生体試料と比較して有意に高いHRFポリヌクレオチド発現量を、子宮内膜症関連疾患またはそのリスクの程度を示す指標として使用する工程、
を含むことを特徴とする。
またさらに、発明(9)の診断方法は、前記発明(6)、(7)および(8)の診断方法からなる群より選択される2以上の診断方法を含む方法である。
またこの出願によって提供される診断方法は、例えばHRFポリヌクレオチドがコードするHRFタンパク質を特異的に認識する抗体等を用いてHRFタンパク質の存在量を測定することによって子宮内膜症関連疾患を診断する方法と組み合わせることもできる。
なお、以上の各診断方法において、標識の観察や標識量の測定には、標識の種類に応じて当該分野で知られた方法を適宜選択して使用でき、例えば暗視野顕微鏡、位相差顕微鏡、反射コントラスト顕微鏡、螢光顕微鏡、デジタルイメージング顕微鏡、電子顕微鏡などによる方法も使用することができる。
以上の診断方法は、子宮内膜症関連疾患の診断、予防、治療において有用である。さらには、子宮内膜症関連疾患を治療した後、即ち、予後の状態を知る上でも有用である。
発明(10)は、細胞内HRFポリヌクレオチドの発現を抑制する分子を含有することを特徴とする子宮内膜症関連疾患の治療薬であり、また発明(11)は、細胞内HRFポリヌクレオチドの発現を抑制する分子を体内に投与することを特徴とする子宮内膜症関連疾患の治療方法である。すなわち、後記実施例にも示したように、HRFポリヌクレオチドを過剰に発現する細胞はin vivoにおいて活発に増殖することから、細胞内HRFポリヌクレオチドの過剰発現が子宮内膜組織の移植や増殖の原因となっていると考えられる。そこでこのHRFポリヌクレオチドの発現を抑制することによって、子宮内膜症関連疾患の治療、または少なくともその進行、悪化を停止もしくは抑制することが可能となる。
細胞内HRFポリヌクレオチドの発現を抑制する分子としては、アンチセンス配列、リボザイム、キメラオリゴ、RNA干渉(RNA interference:RNAi)を生じさせる二本鎖RNA分子等(以下、これらは「発現抑制分子」と記載することがある)を使用することができる。特に、RNAiは外来性RNA分子によって標的遺伝子のmRNAを分解し、標的遺伝子の発現を抑制する手法であり、アンチセンス配列等と比較して、標的遺伝子の発現抑制効果が格段に優れているために、好ましい手段である。使用するRNA分子としては、二本鎖RNA(double−strand RNA:dsRNA)、より好ましくはその短鎖(20−25bp程度)のRNA(small interfering RNA:siRNA)(例えば、Elbashir S.M.et al.Genes Dev.2001,15(2):188−200)、ヘアピン構造の短鎖RNA(short hairpin RNA:shRNA)(例えば、Paddison P.J.et al.Genes Dev.2002,16(8):948−958)、およびsiRNAとは別の短鎖RNA(small temporally regulated RNA:stRNA)(例えば、Grosshans H.and Slack F.J.J.Cell Biol.2002,156(1):17−21)等が好ましい。
以上のとおりの発現抑制分子は、標的遺伝子(HRFポリヌクレオチド)の配列(例えば配列番号1)に基づき設計され、公知の化学合成またはin vitro転写翻訳等の手段で作成することができる。なお、例えばsiRNAの設計に当たっては、以下を留意することが提案されている。(1)調節タンパク質結合部位の多い5’および3’の非翻訳領域(UTR)と開始コドン周辺領域は除外する;(2)開始コドンの50から100ヌクレオチド下流の領域を選択する;(3)選択した領域からAA(N19)TTまたはAA(21)となる領域であって、GC含量が少なくとも30%から70%、好ましくは50%程度の領域を選択する。
作成された発現抑制分子は、適当な溶媒と混合した状態で体内に投与することができるが、その効果をより持続させるためには、発現ベクターの形態で投与することが好ましい。発現ベクターとしては、プラスミドベクターまたはウイルスベクター等を使用することができる。例えば、RNAi用のRNA分子を発現させる場合のプラスミドベクターとしては、市販のpiGENEシリーズ、pSINsi/pBAsiシリーズ等を使用することができる。また、ウイルスベクターとしては、複製欠損性か、条件により複製するか、または複製コンピテントとなるべくさらに加工されたアデノウイルス(例えば、ヒトアデノウイルスゲノムに由来する複製非コンピテントベクター、例えば米国特許第6,096,718号;6,110,458号;6,113,913号;5,631,236号参照)、アデノ随伴ウイルスおよびレトロウイルスゲノムに由来するベクター等を使用することができる。レトロウイルスベクターには、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびそれらの組合せを主成分とするものが含まれる(例えば、米国特許第6,117,681号;6,107,478号;5,658,775号;5,449,614号;Buchscher(1992)J.Virol.66:2731−2739;Johann(1992)J.Virol.66:1635−1640参照)。このようなウイルスベクターは、例えばsiRNA発現用のアデノウイルスベクターの場合、先ず、基本プラスミドベクター(例えばpBAsi)を構築し、この基本ベクターからプロモーター+siRNAコード配列を切り出し、これをアデノウイルスベクター作成用コスミドに載せ換え、この組換えコスミドを293細胞等にトランスフェクションすることによって作成することができる。
以上のとおりの発現ベクターは、通常の遺伝子治療等の手順に従って、患者の子宮内膜等を含め、あらゆる投与経路によっても体内に投与することができる。また、プラスミドベクターの場合には、Hydrodynamic法(Song E.et al.Nature Medicine 2003,9(3):347−351)によって静脈内に投与することも好ましい方法である。
【実施例】
以下、実施例を示してこの出願の発明についてさらに詳細かつ具体的に説明するが、この出願の発明は以下の例によって限定されるものではない。
1.材料と方法
1−1.組織試料
RNA調製のために、18例の患者から以下の試料を得た。1)子宮内膜症移植片(n=21)、2)子宮内膜症患者に由来する正所性子宮内膜組織(掻爬による;n=4)、3)子宮内膜症を持たない患者に由来する正常子宮内膜組織(n=6)。いくつかの試料は一個人の異なる部位から得た。試料は液体窒素中で凍結し、−80℃で貯蔵してRNA調製に備えた。子宮内膜症移植片は卵巣から得た。RNA調製用の正常子宮内膜組織と、正常に増殖および分泌を行う子宮内膜組織をホルマリン固定、パラフィン包埋した試料は、平滑筋腫または子宮脱の患者から取得した。病理標本は組織学的試験により段階づけを行った結果、それらは子宮内膜症の第IIIからIV段階にわたっていた(t−ASRM:revised American Society for Reproductive Medicine classification of endometriosis[改訂版米国生殖医学学会子宮内膜症分類]、1996)。また、この研究の女性被験者は子宮内膜の過形成や腫瘍形成を示さず、手術前に抗炎症剤やホルモン剤の投与を受けていなかった。手術前に書面の同意を得たが、これは東京医科大学病院の人体調査に関する施設内監査委員会により承認されたプロトコルに従った。
1−2.ノーザンブロット分析
ノーザンブロットは文献(Oikawa K.et al.Cancer Res.2001,61(15):5707−9)の記載により実施した。HRFプローブは文献(Oikawa K.et al.Biochem.Biophys.Res.Commun.2002,290(3):984−7)の記載に従って調製した。ヒトβアクチンcDNA対照プローブ(CLONTECH Laboratories,Inc.)をスタンダードとした。
1−3.サザンブロット分析を用いたRT−PCR
文献(Kubota M.et al.Am.J.Pathol.1997,151(3):735−44)の記載に従い、オリゴヌクレオチドdTプライマーを用いてトータルRNAから第1鎖cDNAを合成した。次に、得られた第1鎖cDNA溶液2μl(1x)および10μl(5x)をテンプレートとして用い、PCRを行った。以下の4種類のプライマーを添加した後、初期変性を95℃で2分間、(95℃で0.5分、65℃で0.5分、72℃で1分)×22サイクルの条件でCYP1A1とβアクチンのcDNA断片のPCR増幅した。

増幅産物をアガロースゲル上の電気泳動により分画した後、ブロッティングとハイブリダイゼーションを行った。CYP1A1 cDNAプローブは、上述のプライマー対を用いた逆転写PCRにより得た。ヒトβアクチンcDNAプローブ(CLONTECH)を対照として用いた。Rediprime II random trime labeling system(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて、これらのcDNAプローブを32Pにより標識した。
1−4.抗体調製と免疫組織化学法
ヒトHRFに由来するオリゴペプチド(GKLEEQRPERVKPFMT:SEQ ID:2の101−116)に対するペプチド抗体を、ウサギを用いた標準法により行った作製し、HRF−GKLと命名した。免疫組織化学的分析は、脱パラフィン化した切片を抗 HRF抗体、HRF−TPY(Oikawa K.et al.Biochem.Biophys.Res.Commun.2002,290(3):984−7)およびHRF−GKL(1:100に稀釈)または抗ヒトCD68抗体(1:100に稀釈;Dako社)の混合液の存在下で一夜インキュベートした。抗HRF染色用には、脱パラフィン化した切片を圧力滅菌器を用いて熱誘導性の抗原回復に供した。LSABC(Dako)を用いて検出を行ったが、ここでは3,3’−ジアミノベンチジンを色素体として使用した。ヘマトキシリンを用いて逆染色を行った。
1−5.ウエスタンブロット分析
ウエスタンブロット分析は文献(Oikawa K.et al.Biochem.Biophys.Res.Commun.2002,290(3):984−7)の記載に従って行った。膜のプローブ処理は抗HRF(HRF−GKLまたはHRF−TPY)抗体を用い、1:2000の稀釈比で行った。シグナル検出はECL plus Western blotting detection system(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて行った。
1−6.細胞培養とレトロウイルス感染
NIH3T3細胞はAmerican Type Culture Collection(ATCC)より取得した。細胞は、37℃条件で10%FBSを添加したDMEM(GIBCO BRL,Life Technologies,Inc.)中、5%CO環境下に維持した。全長ORFを含むマウスHRFcDNAを以下のプライマーを用いてPCR増幅した。

得られたcDNA断片をBamHIおよびEcoRIで消化し、レトロウイルス発現ベクターMSCV−puro(CLONTECH)のBglII−EcoRI部位にクローニングした。組み替えレトロウイルスの調製と感染のプロトコルは文献(Kuroda>et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA1999,96(9):5025−30)の記載に従った。感染の24時間後、1μg/mlピューロマイシン(CLONTECH)を用いて2週間にわたり感染細胞を選別した。
1−7.動物と処置
5×10個の細胞の部分標本を、6週齢のメスBALB/Cヌードマウスの腹腔内に注射して移植アッセイを行った。2週間後に動物を屠殺し、移植片コロニー数を測定した。
2.結果
2−1.子宮内膜症におけるTCDD誘導性遺伝子HRFの発現パターン
ノーザンブロット分析により、子宮内膜症時のHRF発現パターンを決定した。その結果、5例中3例の患者から得た子宮内膜症移植片組織中に高レベルのHRF発現が認められた(図1Aおよび1B)。ヒトのチトクロームp450遺伝子スーパーファミリーの一部(例えばCYP1A1、CYP1A2およびCYP1B1)はジオキシンにより誘導されるため、CYP1A1の誘導はジオキシン依存性の遺伝子発現調節に対する基本的な標的になる。このためジオキシン曝露とHRF発現の関連を調べるために、ここではサザン分析によるRT−PCRを用いてCYP1A1発現を調査した(Trifa Y.et al.J.Biol.Chem.1998,273(7):3980−5;Oikawa K.et al.Gene2000,261(2):221−8)。その結果、CYP1A1は必ずしも高HRF発現を示す全例において誘導されている訳ではなかった(図1Aおよび1B)。このため、いくつかのケースではHRF発現がTCDDにより誘導されている可能性はあるにも関わらず、子宮内膜症移植片におけるHRFはTCDD曝露とは無関係に誘導されていることが確認された。
2−2.子宮内膜症移植片におけるHRF過剰発現
子宮内膜症を追加発症した患者の子宮内膜症移植片において、HRFが過剰発現していることが確認された。すなわち、7例の子宮内膜症患者について、ノーザンブロット分析を行った(図2A)。正常な子宮内膜組織および子宮内膜症患者の正所性の子宮内膜と比較すると、子宮内膜症移植片においては高度なHRF発現が観察された(図2B)。
2−3.正常子宮内膜と子宮内膜症移植片におけるHRFの免疫組織化学
HRFを発現する子宮内膜細胞のタイプを、抗HRFポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学により決定した。その結果、HRFが子宮内膜腺と正常組織の間質細胞に共に存在することが同定されたが、宮内膜腺は間質細胞より強い発現を示した(図3Aおよび3B)。分泌と増殖フェーズの間における発現パターンの顕著な変化はなかった。さらに、子宮内膜症移植片におけるHRF発現も調査した。その結果、卵巣の子宮内膜症移植片の間質および上皮成分の両方にHRFが存在していた(図3Cと3E)。正常な子宮内膜の間質細胞でのHRF発現は弱いのに対して、卵巣の子宮内膜症移植片では子宮内膜腺と間質細胞はいずれも同様な高レベルのHRF発現を示した。これらのHRFに対する特異的なシグナルは、免疫前血清を対照として用いた場合には観察されなかった(データ示さず)。しかしながら、子宮内膜症移植片におけるHRF誘導のメカニズムは依然として不明である。M−CSFによる活性化段階においてマクロファージがHRFを誘導することを示す報告(Teshima S.et al.J.Immunol.1998,161(11):6353−66)と一致するように、子宮内膜症移植片においてはCD68陽性のマクロファージの関与が観察されている(Hornung D.et al.Am.J.Pathol.2001,158(6):1949−54)。従って、移植片の連続切片に対するCD68染色を利用して、HRF過剰発現領域内部におけるCD68陽性のマクロファージを同定した(図3F)。ヘマトキシリン−エオジンを用いて染色した対照切片は、子宮内膜症移植片の全体的な形態を示している。これらの結果から、子宮内膜症移植片におけるHRF産生にはマクロファージが寄与しているであろうと考えられる。
2−4.NIH3T3細胞の腹腔内移植に対するHRFの効果
HRF発現増加による生理学的な影響について調査した。子宮内膜症の原因は未だに不明である(Klninckx R.P.et al.Gynecol Obstet Invest.1999,47 Suppl 1:3−9,discussion 9−10;van der Linden P.J.Q.Front Biosci.1997,2:c48−52)。主要な仮説に従うならば、子宮内膜症の発症は、卵管逆流により腹腔に達した(逆行性月経)子宮内膜組織の移植および増殖による。ここではこの移植に対してHRFが及ぼす影響を調査した。最初に、HRFを過剰発現するNIH3T3細胞の安定形質移入体を作製した。HRF発現用のレトロウイルスベクター(pMSCV−HRF)を感染後に、高度なHRF発現が確認された(図4A)。次にこれらの細胞(pMSCV−HRF−3T3細胞)をヌードマウスの腹腔内に注射した。pMSCV−HRF−3T3細胞は、対照ベクター(pMSC−3T3)を感染させた細胞と比較して高い移植能を有していた(図4B)。これらのデータから、HRFは免疫学的機能不全においてのみならず、子宮内膜症移植片の初期発達にも重要な役割を果たしていることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、子宮内膜症関連疾患およびそのリスクを簡便かつ確実に診断する方法と、そのための材料が提供される。これによって、子宮内膜症関連疾患の早期の発見、より適切な治療法の選択、再発の防止等が可能となる。
【配列表】





【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の生体試料におけるヒスタミン放出因子(HRF)ポリヌクレオチドの発現量を測定し、HRFポリヌクレオチドの発現量を正常生体試料のそれと比較し、正常生体試料と比較して有意に高いHRFポリヌクレオチド発現量を示す被験者を、子宮内膜症関連疾患の患者またはそのハイリスク者と判定することを特徴とする子宮内膜症関連疾患の診断方法子宮内膜症関連疾患またはそのリスクの程度の指標とすることを特徴とする子宮内膜症関連疾患の診断方法。
【請求項2】
HRFポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするHRFオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
請求項2のHRFオリゴヌクレオチドを標識化したオリゴヌクレオチドプローブ。
【請求項4】
請求項2のHRFオリゴヌクレオチドまたはHRFポリヌクレオチドをターゲットキャプチャープローブとして備えたDNAマイクロアレイ。
【請求項5】
HRFポリヌクレオチドをPCR増幅するためのプライマーセット。
【請求項6】
少なくとも以下の工程:
(a)被験者の生体試料よりRNAを調製する工程;
(b)工程(a)で調製されたRNAを電気泳動分離する工程;
(c)工程(b)で分離されたRNAを請求項3のオリゴヌクレオチドプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする工程;
(d)工程(e)でRNAにハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドプローブの標識量をHRFポリヌクレオチド発現量の指標とし、正常生体試料の結果と比較する工程;および
(e)正常生体試料と比較して有意に高いHRFポリヌクレオチド発現量を、子宮内膜症関連疾患またはそのリスクの程度を示す指標として使用する工程、
を含むことを特徴とする子宮内膜症関連疾患の診断方法。
【請求項7】
少なくとも以下の工程:
(a)被験者の生体試料よりRNAを調製する工程;
(b)工程(a)で調製したRNAから、標識cDNAを調製する工程、
(c)工程(b)で調製した標識cDNAを請求項4のDNAマイクロアレイに接触させる工程;
(d)工程(c)でDNAマイクロアレイのキャプチャープローブにハイブリダイズした標識cDNAの標識量をHRFポリヌクレオチド発現量の指標とし、正常生体試料の結果と比較する工程;および
(e)正常生体試料と比較して有意に高いHRFポリヌクレオチド発現量を、子宮内膜症関連疾患またはそのリスクの程度を示す指標として使用する工程、
を含むことを特徴とする子宮内膜症関連疾患の診断方法。
【請求項8】
少なくとも以下の工程:
(a)被験者の生体試料よりRNAを調製する工程;
(b)工程(a)で調製したRNAを鋳型とし、請求項5のプライマーセットを用いてcDNAを合成する工程;
(c)工程(b)で合成されたcDNA量をHRFポリヌクレオチド発現量の指標とし、正常生体試料の結果と比較する工程;および
(d)正常生体試料と比較して有意に高いHRFポリヌクレオチド発現量を、子宮内膜症関連疾患またはそのリスクの程度を示す指標として使用する工程、
を含むことを特徴とする子宮内膜症関連疾患の診断方法。
【請求項9】
請求項6、7および8の診断方法からなる群より選択される2以上の診断方法を含む子宮内膜症関連疾患の診断方法。
【請求項10】
細胞内HRFポリヌクレオチドの発現を抑制する分子を含有することを特徴とする子宮内膜症関連疾患の治療薬。
【請求項11】
細胞内HRFポリヌクレオチドの発現を抑制する分子を体内に投与することを特徴とする子宮内膜症関連疾患の治療方法。

【国際公開番号】WO2005/005983
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511454(P2005−511454)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000159
【国際出願日】平成16年1月13日(2004.1.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り Journal of Pathology Vol.199,p.318−323,2003年1月13日発行、インターネット(URL:http://www.interscience.wiley.com)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】