説明

子宮内膜癌および前癌の診断、分類および治療の方法

子宮内膜癌に関する診断および治療への適用について記載する。診断および治療への適用は、FGFR2遺伝子およびその発現産生物における、ある種の活性化変異に基づく。本発明は、FGFR2活性化変異に関連するヌクレオチド配列、アミノ酸配列、プローブ、およびプライマー、そして被験者の子宮内膜癌を診断および分類するためにこれらの変異体を包含するキットを対象とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する特許出願に対する相互参照)
本特許出願は、2007年3月23日に提出された米国仮特許出願第60/896,884号、および2007年10月23日に提出された米国仮特許出願第60/982,093号の継続出願であり、それらの内容をそれら全体において本明細書にて、それらに対して参照として援用する。
【0002】
(電子的に提出した素材の参照としての組み込み(incorporation-by-reference))
本明細書と共に同時に提示し、以下:2008年3月24日に作成された”Seq_list”と命名されたOne 27,110 byte ASCII(テキスト)、のように同定されたコンピュータ可読の核酸/アミノ酸配列リストを、その全体において本明細書にて参照として組み入れる。
【0003】
(発明の技術分野)
本発明は、子宮内膜癌の診断、分類、および治療のための方法およびキットの方向づけを行う。
【背景技術】
【0004】
子宮内膜癌は、米国において女性の生殖器系の最も一般的に診断される悪性腫瘍である。2007年に米国において子宮体癌の新規39,080例が診断され、7,400名の女性がこの疾患で死亡したと見積もられた(Jemal A. Siegel R, Ward E, Murray T, Xu J, Thun MJ. CA Cancer J Clin 2007 Jan-Feb; 57(1): 43-66)子宮内膜癌のある女性の大多数は、子宮摘出術で外科的に治癒する;しかし約15%の女性は、現行の化学療法に不応性の持続的または再発性の腫瘍を示す。進行したステージ、進行性または再発性の疾患を持つこれらの女性に関して、有効性が証明されたアジュバント療法がないため、生存は難しい。再発後生存期間の中央値は10か月であり(Jereczek-Fossa B, Badzio A, Jassen J., Int J Gynecol Cancer 1999 Jul; 9(4): 285-94)、再発した患者の5年生存はわずか13%に過ぎない(Creutzberg CL, van Putten WL, Koper PC, et al., Lancet 2000 Apr 22; 355 (9213): 1404-11)。
【0005】
悪性癌はしばしば多数の癌遺伝子および腫瘍抑制遺伝子における変異を表し、非常に多くの遺伝子の発現に変化を呈し、様々な染色体異常を含有する。この遺伝子の複雑さにもかかわらず、特定の分子の異常を標的とすることで、例えば選択的チロシンキナーゼ阻害剤であるイマチニブ(グリベック)およびゲフィニチブ(イレッサ)を用いて見られるように、ヒト腫瘍の急速な退縮を生じさせることが示された。この現象を説明するため、Bernard Weinstein は“癌遺伝子依存性”という用語を導入した。彼は、腫瘍細胞が細胞の生存と成長に関するその癌遺伝子の活性に依存するように、癌遺伝子の活性の存在下で腫瘍細胞のシグナル伝達回路網が再プログラム化されると提唱した(Weinstein IB. Science 2002 Jul 5; 297 (5578): 63-4)。事実、実験データおよび臨床データは癌遺伝子依存性というこの概念を支持しており、さらに変異、再配列、および過剰発現を含む癌遺伝子の活性化の多重のメカニズムが、癌遺伝子依存性に関与し得ることを示唆している(Weinstein IB, Joe AK., Nat Clin Pract Oncol 2006 Aug; 3(8): 448-57)。
【0006】
多様な染色体遺伝子の欠損が、子宮内膜癌において報告されている。十分にまたは中程度に分化した類内膜性の子宮内膜癌は、子宮癌のおよそ80%に及ぶ。それらは、高頻度のPTENにおける不活性化変異(26−80%)、KRAS2の活性化変異(13−26%)、およびβカテニンの機能獲得型変異(25−38%)を特徴とする(Hecht JL. Mutter GL., J Clin Oncol 2006 Oct 10; 24 (29):4783-91, Shiozawa T, Konishi I., Int J Clin Oncol 2006 Feb; 11(1): 13-21)。FGFR1、2および3における生殖系列の機能獲得型変異は、多様な頭蓋骨癒合症症候群および軟骨異形成症症候群において報告されている。これらの障害における遺伝子型/表現型の相関は複雑であり、3つの受容体の1つにおける変異に関連する14を越える別個の臨床的症候群、およびいくつかの臨床的症候群、例えば異なる受容体の変異に関連するパイフェル症候群およびクルーゾン症候群を伴う(Passos-Bueno MR, Wilcox WR, Jabs EW, Sertie AL, Alonso LG and Kitoh H. (1999), Hum Mutat 14: 115-125, Wikie AO, Patey SJ, Kan SH, van den Ouweland AM, and Hamel BC. (2002), Am J Med Genet 112: 266-278)。
【0007】
癌の生物学的基盤、ならびに癌の診断および治療を理解することでは大いに進展が得られたが、癌は未だ米国における主要な死亡原因の1つである。癌の診断および治療における固有の困難さとして、なによりも多くの異なる癌のサブグループの存在、および検査で陽性な患者の結果の可能性を最大にするための適当な治療戦略における併用薬の多様性が挙げられる。さらに、広範な子宮内膜癌のサブグループ、および疾患の進行の多様性がある。子宮内膜癌を適当に治療するため、そして治療成功のチャンスを最大にするために、子宮内膜癌タイプまたはサブタイプをできるだけ早期に同定することが重要である。
【0008】
このように、適当なそして最適な治療計画を選択するために、子宮内膜癌を検出し分類する方法が現在必要とされている。一度検出され分類されたら、さらに被験者の疾患をうまく治療する、または疾患の再発を阻止するチャンスを最大とするための、子宮内膜癌のタイプに基づいて子宮内膜癌を治療する改善された方法が必要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Jemal A. Siegel R, Ward E, Murray T, Xu J, Thun MJ. CA Cancer J Clin 2007 Jan-Feb; 57(1): 43-66
【非特許文献2】Jereczek-Fossa B, Badzio A, Jassen J., Int J Gynecol Cancer 1999 Jul; 9(4): 285-94
【非特許文献3】Creutzberg CL, van Putten WL, Koper PC, et al., Lancet 2000 Apr 22; 355 (9213): 1404-11
【非特許文献4】Weinstein IB. Science 2002 Jul 5; 297 (5578): 63-4
【非特許文献5】Weinstein IB, Joe AK., Nat Clin Pract Oncol 2006 Aug; 3(8): 448-57
【非特許文献6】Hecht JL. Mutter GL., J Clin Oncol 2006 Oct 10; 24 (29):4783-91
【非特許文献7】Shiozawa T, Konishi I., Int J Clin Oncol 2006 Feb; 11(1): 13-21
【非特許文献8】Passos-Bueno MR, Wilcox WR, Jabs EW, Sertie AL, Alonso LG and Kitoh H. (1999), Hum Mutat 14: 115-125
【非特許文献9】Wikie AO, Patey SJ, Kan SH, van den Ouweland AM, and Hamel BC. (2002), Am J Med Genet 112: 266-278
【発明の概要】
【0010】
本発明は、子宮内膜癌を診断、分類、および治療する方法を提供する。線維芽細胞増殖因子受容体2(FGFR2)の活性化変異を同定し、子宮内膜癌と相関させることにより、本明細書において、被験者における子宮内膜癌を診断、分類、および治療するための有用なツールを提供する。
【0011】
1つの態様において本発明は、被験者、好ましくはヒト被験者の子宮内膜癌または前癌を検出し、診断する方法である。本方法は、好ましくは子宮内膜細胞を含有する生体サンプルにおけるFGFR2の受容体の変異を検出することを包含し、その場合変異は、FGFR2受容体の活性化に関連する。FGFR2の1つまたはそれより多くの活性化変異の存在が、被験者における子宮内膜癌または前癌の診断指標である。活性化変異は、ミスセンス変異、すなわち欠失、挿入、および欠失と挿入の双方であることができ、しばしば高めれたリガンドの結合、乱交雑のリガンドの結合(例えば正常には野生型受容体に結合できないリガンドに受容体が結合し、それにより活性化されることを可能にする)、構成的な受容体の二量体化、シグナル伝達の増加を導く障害された受容体再利用、遅延された分解、過剰発現、またはキナーゼの活性化を結果的にもたらす。好ましい態様においてFGFR2は、最適なシグナル伝達のためにリガンドの刺激をまだなお必要とすると思われる構成的に活性な変異体である。
【0012】
好ましくは検出のステップは、ゲノムDNA、RNAまたはcDNAの少なくとも1つの核酸における、少なくとも1つのヌクレオチドFGFR2の変異について、生体サンプルをスクリーニングすることを包含する。ある種の態様において活性化変異は、FGFR2における少なくとも1つのアミノ酸の置換を結果的にもたらす。
【0013】
好ましい態様においてFGFR2活性化変異は、以下から成る群より選択される少なくとも1つの変異を含む:免疫グロブリン様(Ig)ドメインIIおよびIII間の接合部における変異(例えば配列番号2もしくは3のすべてにおける、252位のSからW、F、もしくはLへの変異;253位のPからRへの変異;263位のPからLへの変異;267位のSからPへの変異);IgIIIドメインにおける変異(例えば配列番号2もしくは3のすべてにおける、276位のFからVへの変異;278位のCからYもしくはFへの変異;281位のYからCへの変異;288位のIからSへの変異;289位のQからPへの変異;290位のYからC、GもしくはRへの変異;292位のKからEへの変異;310位のKからRへの変異;315位のAからTへの変異;321位のDからAへの変異;328位のYからCへの変異);IgIIIドメインおよび膜貫通(TM)ドメイン間の接合部における変異(例えば配列番号2もしくは3の各々すべてにおける、354位もしくは353位のSからCもしくはTへの変異;359位もしくは358位のVからFへの変異;362位もしくは361位のAからSへの変異;372位もしくは371位のSからCへの変異;375位もしくは374位のYからCへの変異;373位もしくは372位のSからCへの変異;376位もしくは375位のYからCへの変異);TMドメインの変異(例えば各々配列番号2もしくは3の各々すべてにおける、380位もしくは379位のGからRへの変異;383位もしくは382位のCからRへの変異、384位もしくは383位のGからRへの変異;392位もしくは391位のMからRへの変異);TMドメインおよびチロシンキナーゼドメインI間の接合部における変異(例えばIVS10+2A>Cのスプライシング変異);チロシンキナーゼドメインIにおける変異(例えば各々配列番号2もしくは3の各々すべてにおける、538位もしくは537位のIからVへの変異;540位のNからKへの変異;548位もしくは547位のIからVへの変異;549位もしくは548位のNからHへの変異;550位もしくは549位のNからKへの変異;565位もしくは564位のEからGへの変異);またはチロシンキナーゼドメインIIにおける変異(例えば、各々配列番号2もしくは3の各々すべてにおける、641位もしくは640位のKからRへの変異;650位もしくは649位のKからEへの変異;659位もしくは658位のKからNへの変異;660位もしくは659位のKからEへの変異;663位もしくは662位のGからEへの変異;678位もしくは677位のRからGへの変異;配列番号1の2290−91位のヌクレオチドCおよびTの欠失に起因するフレームシフト変異)。
【0014】
IgIIIドメインの好ましい活性化の変異のその他の例として、例えば配列番号2のすべてにおける、331位のNからIへの変異;337位のAからPへの変異;338位のGからPまたはRへの変異;340位のYからCまたはHへの変異;341位のTからPへの変異;342位のCからF、G、R、S、WまたはYへの変異;344位のAからGまたはPへの変異;347位のSからCへの変異;351位のSからCへの変異、そして配列番号3の均等な変異を含む。
【0015】
1つより多くのFGFR2活性化変異が生体サンプルにおいて検出されてよく、例えば少なくとも2つのFGFR2受容体の活性化変異がある種の態様において検出されることに注目することは重要である。
【0016】
検出する子宮内膜癌は、あらゆるサブタイプ、例えば漿液性、粘液性、および類内膜性の組織学的サブタイプであることができる。しかし好ましい態様において、検出する癌は類内膜性の組織学的サブタイプである。
【0017】
加えて本発明は、検査被験者におけるFGFR2シグナル伝達経路の活性のレベルを評価し、それをコントロール被験者の活性のレベルと比較することを包含する、被験者における子宮内膜癌を診断または分類する方法を提供し、その場合コントロール被験者と比較しての検査被験者のFGFR2経路の増加した活性が、子宮内膜癌を示す。経路の活性のレベルは、例えばFGFR2タンパク質の発現または活性のレベルの増加を評価することにより、評価することができる。あるいは発現または活性のレベルは、例えばFGFR2、好ましくは受容体の活性化を結果的にもたらす変異したFGFR2をコードするmRNAの量を決定することにより評価してよい。例えば1つの態様において、子宮内膜癌はゲノムの増幅によるFGFR2の過剰発現に関連し、本アッセイはFGFR2の過剰発現を特異的に検出するようにデザインする。
【0018】
本発明はまた、子宮内膜癌を診断または分類するためのキットであって、FGFR2遺伝子によりコードされるFGFR2タンパク質の増加した活性を結果的にもたらす同遺伝子の変異部位に、特異的にハイブリッド形成する、または隣接するオリゴヌクレオチド、および子宮内膜癌の診断で使用するための説明書を包含する、前記キットへの方向づけを行う。変異部位は、例えば配列番号1のヌクレオチド755、929、943、1118,1147,1642、1650、1978、および2290−91、ならびに配列番号7の均等なヌクレオチド、から成る群より選択されるヌクレオチドを包含してよい。好ましい態様においてキットは、変異部位を包含する少なくとも1つのプローブを包含する。
【0019】
本発明はさらに、FGFR2タンパク質の変異を特異的に認識する抗体、および使用のための説明書を包含する、子宮内膜癌を診断または分類するためのキットへの方向づけを行う。所望により変異は、変異のないFGFR2タンパク質、例えば配列番号2および3のタンパク質と比較した時に、増加した活性を結果的にもたらす。好ましくは抗体は、以下から成る群:免疫グロブリン様(Ig)ドメインIIおよびIII間の接合部における変異;IgIIIドメインにおける変異;IgIIIドメインおよび膜貫通(TM)ドメイン間の接合物における変異;TMドメインにおける変異;TMドメインおよびチロシンキナーゼドメインI間の接合部における変異;チロシンキナーゼドメインIにおける変異、またはチロシンキナーゼドメインIIにおける変異、より選択される特定のFGFR2タンパク質の変異に対して作成する。より好ましくは抗体は、以下から成る群:(a)配列番号2(NP_075259.2)もしくは配列番号3(NP_000132.1)の252位のSからWへの変異;(b)配列番号2もしくは3の310位のKからRへの変異;(c)配列番号2もしくは3の315位のAからTへの変異;(d)配列番号2の373位もしくは配列番号3の372位のSからCへの変異;(e)配列番号2の376位もしくは配列番号3の375位のYからCへの変異;(f)配列番号3の383位もしくは配列番号3の382位のCからRへの変異;(g)配列番号2の392位もしくは配列番号3の391位のMからRへの変異;(h)配列番号2の548位もしくは配列番号3の547位のIからVへの変異;(i)配列番号2の550位もしくは配列番号3の549位のNからKへの変異;または(j)配列番号2の660位もしくは配列番号3の659位のKからEへの変異、より選択される変異に対して作成する。
【0020】
本発明はさらに、被験者における子宮内膜癌または前癌を治療する方法を提供する。好ましくは被験者は子宮内膜癌(例えば漿液性、粘液性、および類内膜性の組織学的サブタイプ)を患っているヒトである。当該方法は好ましくは、FGFR2の活性化、例えばリガンド非依存的またはリガンド依存的な様式のいずれかで構成的に活性であるFGFR2変異型を特徴とする、子宮内膜癌または前癌を有する被験者に、医薬的に受容可能な担体と共に有効量のFGFR2阻害剤を投与することを包含する。この場合、FGFR2阻害剤はFGFR2の発現または活性を阻害し、それにより被験者の子宮内膜癌の成長または増殖を効果的に阻害する。FGFR2阻害剤は、好ましくは子宮内膜癌細胞の細胞周期の停止および/またはアポトーシスを誘発する。1つの態様においてFGFR2阻害剤は、子宮内膜癌に関する外科的処置後に、術後の子宮内膜癌の再発を阻害するために、被験者に投与する。もう1つの態様において阻害剤は、外科的摘出を受けられない、持続性または再発性の子宮内膜癌を有する患者に投与する。
【0021】
使用するFGFR2阻害剤は、FGFR2遺伝子の発現またはFGFR2発現産生物を阻害してよい。1つの態様において薬剤は、FGFR2アンチセンス核酸、好ましくは配列番号1の、929位のAからGへの置換;1650位のTからGへの置換;943位のGからAへの置換;755位のCからGへの置換;1650位のTからAもしくはGへの置換;1127位のAからGへの置換;1175位のCからGへの置換;1642位のAからGへの置換;1978位のAからGへの置換;イントロン10 A>C+2;または2290−91位のCTの欠失、および配列番号7の均等な置換、より選択される少なくとも1つのヌクレオチドの置換、を包含するセグメントとハイブリッド形成する、アンチセンス核酸である。
【0022】
もう1つの態様においてFGFR2阻害剤は、FGFR2ドメインを遮断することによりFGFR2活性を阻害する。例えばFGFR2阻害剤は、FGFR2の免疫グロブリン様(Ig)ドメインIIおよびIII間のリンカー領域;FGFR2のIgIIIドメイン;FGFR2のIgIIIドメインおよび膜貫通(TM)ドメイン間の接合部;(FGFR2の)TMドメイン;FGFR2のTMドメインおよびチロシンキナーゼドメインI間の接合部;FGFR2のチロシンキナーゼドメインI、またはFGFR2のチロシンキナーゼドメインII、に対して作成された抗FGFR2阻害抗体である。例えば1つの態様において、FGFR2阻害剤は、FGFR2のフォールディング、FGFR2の三次元構造、リガンドの結合、または基質、例えばATPとの結合を妨害する。
【0023】
好ましい例として、以下:(a)配列番号2(NP_075259.2)もしくは配列番号3(NP_000132.1)の252位のSからWへの変異;(b)配列番号2もしくは3の310位のKからRへの変異;(c)配列番号2もしくは3の315位のAからTへの変異;(d)配列番号2の373位もしくは配列番号3の372位のSからCへの変異;(e)配列番号2の376位もしくは配列番号3の375位のYからCへの変異;(f)配列番号2の383位もしくは配列番号3の382位のCからRへの変異;(g)配列番号2の392位もしくは配列番号3の391位のMからRへの変異;(h)配列番号2の548位もしくは配列番号3の547位のIからVへの変異;(i)配列番号2の550位もしくは配列番号3の549位のNからKへの変異;または(j)配列番号2の660位もしくは配列番号3の659位のKからEへの変異、より選択される変異を包含するFGFR2アミノ酸配列を、特異的に認識する抗体を含む。
【0024】
好ましい態様において抗体は、配列番号2または3の252位のSからWへの変異に対して作成する。もう1つの好ましい態様において、抗体はヒト化抗体であり、好ましくはモノクローナル抗体である。
【0025】
代わりの態様においてFGFR2阻害剤は、阻害的短鎖RNA(small inhibitory RNA,siRNA)、ヘアピン型短鎖RNA(small hairpin RNA, shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、またはリボザイムである。好ましい態様においてFGFR2阻害剤はshRNAであり、好ましくはFGFR2のエクソン2(配列番号4)、および/またはFGFR2のエクソン15(配列番号5)を標的とするshRNAである。もう1つの特定の非限定的態様において、FGFR2阻害剤はPD173074である。
【0026】
本発明はさらに子宮内膜癌を分類する方法を提供する。当該方法はユーザーが子宮内膜癌のタイプを適当に分類することを可能にし、その結果被験者の有する子宮内膜癌のタイプに基づいて、特定のかつ適当な治療を使用することができる。当該方法は、以下:子宮内膜癌細胞内のFGFR2変異に関してスクリーニングする;そして子宮内膜癌細胞内のFGFR2活性化変異の発見をもとに、FGFR2活性化に誘発される子宮内膜癌として子宮内膜癌のタイプを分類する、ことを包含する。好ましくはFGFR2活性化変異は、1つまたはそれより多くの上に同定したFGFR2の変異である。ある種の態様において当該方法はさらに、FGFR2変異がFGFR2活性化を誘発するかどうかを決定することを包含する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1のA−Eは、子宮内膜細胞の細胞死を結果的にもたらす、ANC3A細胞およびMFE296細胞におけるFGFR2のshRNAを介したノックダウンの結果を示す。図1Aおよび図1Bは、子宮内膜癌細胞の細胞増殖におけるFGFR2 shRNAの効果を示す。ANC3A細胞(図1A)またはMFE296細胞(図1B)は、空ベクター、非サイレンシング、またはFGFR2の2つの異なるエクソン(X2またはX15)を標的とする2つの独立したFGFR2 shRNAコンストラクトを形質導入し、細胞増殖における効果をSRBアッセイを使用して評価した。FGFR2 shRNAによる処置は、双方の細胞株の増殖を抑制した。非サイレンシングのコントロールshRNAは、細胞増殖への効果は認められなかった。図1C。ERK1/2およびAKTの活性化におけるFGFR2ノックダウンの効果。shRNAの形質導入に続いて、AN3CA細胞は、0.2%FBS中で18時間、血清を欠乏させるか、または10%FBSを含有する完全成長培地中に維持した。溶菌液を集め、FGFR2発現、ならびにERK1/2およびAKTの活性化についてウェスタンブロットにより分析した。FGFR2のノックダウンは、0.2%および10%のFBSにおいて低減されたERK1/2の活性化を、10%FBSにおいてAKTリン酸化の中程度の低減をもたらし、0.2%FBSにおいてはAKT活性化への効果は認められなかった。図1D。FGFR2のノックダウンに続いての細胞死。AN3CA細胞に、リポフェクトアミン2000形質導入試薬を使用して、非サイレンシングsiRNA(NS)コントロールまたはFGFR2 siRNA X2を形質導入した。形質導入後48時間で細胞を集め、500ng/mL アネキシンV−FITCおよび1μg/mL ヨウ化プロピジウムにて染色し、フローサイトメトリーによりアネキシン−FITC陽性の細胞について分析した。FGFR2のノックダウンは、アポトーシスの指標であるアネキシンV陽性細胞の増加を結果的にもたらした。総タンパク質溶菌液のうち30μgを、ウェスタンブロット解析により分析して、FGFR2のノックダウンを確認した。shRNAコンストラクトは、FITCと重複する発光スペクトルを有するGFPもまた発現するため、このノックダウンはshRNAコンストラクトではなく、siRNAコンストラクトを用いて行った。図1Eは、子宮内膜癌細胞株におけるPTEN発現を示す。子宮内膜癌細胞の溶菌液を集め、PTEN発現についてウェスタンブロット解析により評価した。
【図2】図2のA−B: 活性化されたFGFR2を発現する子宮内膜癌細胞は、汎用的FGFR(pan−FGFR)阻害剤であるPD173074に対して感受性がある。6つの子宮内膜癌細胞株に関する用量応答曲線。細胞生存率は、PD173074添加後72時間にSRBアッセイにて測定した。AN3CA細胞およびMFE296細胞は、N550K FGFR2変異を保有する。HECIA、Ishikawa、KLE、およびRL952は、FGFR2の野生型である。PD173074は、野生型FGFR2を発現する細胞株と比較して、変異FGFR2を発現する細胞株の細胞生存率において、顕著な負の効果を有した。PD173074のIC50値:AN3CA=61.7nM;MFE296=284.3nM;HECIA>3000nM;Ishikawa=2920.7nM;KLE>1000nM;RL952>1000nM。図2Bは、PD173074処置後のPLCgの活性化状態を示す。 細胞は0.2% FBS中で18時間、血清を欠乏させた後、段階的に増加する濃度のPD173074で3時間処置した。溶菌液を集め、ウェスタンブロット解析によりPLCgの活性化について評価した。図2Cは、FGF2不在下およびFGF2への応答下での細胞増殖を示す。構成的に活性なFGFR2キナーゼドメイン変異N550Kは、外来のFGF2リガンドの不在下(−FGF2)および存在下(+FGF2)の双方において、野生型受容体(WT)により誘発された値を上回る、増殖の増加を結果的にもたらす。これらのデータは、N550K変異は構成的に活性ではあるが、一方この変異はまた完全な活性のためにリガンドを必要とすることを示唆する。
【図3】図3のA−B: PD173074を介してのFGFR2の阻害は、活性化されたFGFR2を有する子宮内膜癌細胞における細胞死および細胞周期の停止を誘発する。(図3A)アネキシン染色は、汎用的FGFR阻害剤であるPD173074による処置に続いてのAN3CA細胞の細胞死を明らかにする。2.5×10細胞/ウェルの密度で播いたAN3CA細胞を、DMSO(ビヒクルコントロール)、または1μM PD173074で処置した。48、72、または96時間後、細胞を集め、500ng/mL アネキシン−FITCおよび1μg/mL ヨウ化プロピジウムで染色し、フローサイトメトリーによりアネキシン陽性の細胞についてトリプルで分析した。PD173074処置した細胞は、DMSO単独で処置した細胞と比較して、アポトーシスの指標であるアネキシンV染色の増加を示した。(図3B)PD173074は、AN3CA細胞においてG1細胞周期の停止を導く。細胞はトリプルで6ウェルプレートに播き、1μM PD173074で処置した。PD173074添加後72時間に、ヨウ化プロピジウム染色およびフローサイトメトリーにより、細胞周期を測定した。
【図4】PD173074の段階的に増加する濃度での処置に続いての、鍵となるシグナル伝達分子の活性化状態。細胞は、10% FBS中で3時間、段階的に増加する濃度のPD173074で処置した。溶菌液を集め、ウェスタンブロット解析によりERK1/2、AKT、STAT3、およびp38の活性化について評価した。PD173074処置は、AN3CA細胞およびMFE296細胞において、ERK1/2の活性化の抑制、AKTリン酸化の中程度の抑制を結果的にもたらしたが、STAT3またはp38の活性化への効果は認められなかった。PD173074処置はHECIA細胞においては、ERK1/2、AKT、STAT3、およびp38の活性化には奏功しなかった。
【図5】図5のA−B: PD173074処置後の時間にわたる鍵となるシグナル伝達分子の活性化の状態。(図5A)細胞は、0から72時間の示した時間の間、10% FBS中の1μM PD173074で処置した。溶菌液を集め、ウェスタンブロット解析によりERK1/2、AKT、STAT3、およびp38の活性化について分析した。PD173074処置は、AN3CA細胞およびMFE296細胞において、ERK1/2の活性化の抑制、およびAKTリン酸化の部分的抑制をもたらしたが、STAT3またはp38の活性化には奏功しなかった。PD173074処置はHECIA細胞においては、ERK1/2、AKT、STAT3、およびp38の活性化には奏功しなかった。(図5B)細胞は、0.2% FBS中で一晩飢餓状態とした後、0から72時間の示した時間の間、0.2% FBS中の1μM PD173074にて処置した。溶菌液を集め、ウェスタンブロット解析によりERK1/2、AKT、STAT3、およびp38の活性化について評価した。PD173074処置は、AN3CA細胞およびMFE296細胞において、ERK1/2の活性化の抑制、およびAKTリン酸化の中程度の抑制を結果的にもたらした。PD173074はHECIA細胞においては、ERK1/2、またはAKTの活性化には奏功しなかった。
【図6】図6は、FGFR2の変異を図で表す。FGFR2の変異を機能的ドメインにマップする。原発性子宮内膜癌および細胞株において同定された体細胞変異を、タンパク質を表した図の上に表示し、FGFR2b(配列番号2;NP_075259.2)に関連して番号付けする。生殖系列の変異は、多様な頭蓋骨癒合症症候群に関連付けられており、FGFR2c(配列番号3 NP_000132.1)に関連して番号付けする。4つの体細胞FGFR2の子宮内膜の変異(一方生殖系列ではこれまで報告されていない)は、骨格の軟骨異形成症においてFGFR3cのパラロガスな位置で報告されたものと同一のミスセンス変化を有する(**で示す)。新規の変異を下線で示す。IVS10+2A>C変異は、+VTのスプライス型に比例して相対的増加を結果的にもたらすようである。FSは、フレームシフトおよび未成熟な切断を結果的にもたらす2290−91の2bp欠失をいう。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を今度は、説明の目的のみのため本発明の好ましい態様に関して記載することにする。本発明の精神および範囲から離れることなく、説明した態様の中で、そして態様への多数の修飾または変更を加えてもよいことは、当業者に理解されるであろう。
【0029】
本発明は部分的には、FGFR2受容体における変異であって、受容体の活性化を誘発するものを使用して、被験者の子宮内膜癌または前癌を効果的に検出および分類することができる、という発見に基づく。本発明はさらに、FGFR2遺伝子またはその発現産生物を阻害することが、子宮内膜癌を治療する上で有効であるという発見に基づく。
【0030】
本明細書で使用する場合“子宮内膜癌”という用語は、例えば漿液性、粘液性、および類内膜性の組織学的サブタイプを含む、当該疾患のすべての形およびサブタイプを包括的に含む。子宮内膜癌は、子宮の内張りである子宮内膜に発症する癌である。
【0031】
本発明の文脈においてFGFR2遺伝子は、好ましくはヒト由来の遺伝子であって、配列番号1、7、または対立遺伝子のバリアントおよびオルソログを含む相同体に記された翻訳領域のヌクレオチド配列を包括的に含む。FGFR2タンパク質は、これもまた好ましくはヒト由来のタンパク質であって、配列番号2もしくは3、またはそのオルソログを含む相同体に記されたアミノ酸配列を有するタンパク質、を包括的に含む。図6は、FGFR2タンパク質のFGFR2ドメインの機能的ドメイン、および機能的ドメインと関連づけてマップしたFGFR2の変異を示す。
【0032】
FGFR2は、4つの異なる遺伝子によりコードされる構造的に関連するチロシンキナーゼ受容体(FGFR 1−4)のファミリーである。FGFR2は、3つの細胞外免疫グロブリン様(Ig)ドメイン、膜貫通ドメイン、および分断されたチロシンキナーゼドメインから構成される糖タンパク質である。IgIIIドメインにおける選択的スプライシングが、FGF/FGFRの結合およびシグナル伝達における冗長性および特異性の双方の双方のパターンの一次決定要因である。このスプライシング事象は組織特異的であり、別個のリガンド特異性を保有するFGFR1−FGFR3のIIIbよびIIIcの受容体のアイソフォームを生じる(Mohammadi M, Olsen SK and Ibrahimi OA (2005), Cytokine Growth Factor Rev 16: 107-137, Ornitz DM and Itoh N. (2001), Genome Biol 2: REVIEWS3005)。FGFR2に関しては、上皮系列の細胞のみが、エクソン8にコードされた“IIIb”アイソフォーム(FGFR2b;配列番号2;NP_07529.2)を発現し、一方間葉系由来細胞のみが、エクソン9を利用する “IIIc”アイソフォーム(FGFR2c;配列番号3;NP_000132.1)を発現する(Scotet E and Houssaint E. (1995). Biochim Biophys Acta 1264:238-242)。FGFR2bアイソフォームは優先的にFGF1、FGF3、FGF7、およびFGF10と結合し、一方FGFR2cは、FGF7および、FGF10とは結合しないが、FGF1、FGF2、FGF4、FGF6、およびFGF8とは高いアフィニティーでしっかり結合する(Ibrahimi OA, Zhang F, Eliseenkova AV, Itoh N, Linhardt RJ and Mohammadi M. (2004), Hum Mol Genet 13:2313-2324)。
【0033】
検査被験者または生体サンプルにおけるFGFR2の“増加した活性”または“活性化変異”は、コントロール、例えば健常な被験者または標準サンプルと比較しての、検査被験者または生体サンプルにおけるより高い総FGFR2活性をいう。好ましくは、必ずしもそうでなくてもよいが、活性はコントロールに比して、検査被験者または検査サンプルにおいて少なくとも10%、より好ましくは少なくとも50%、なおより好ましくは少なくとも100%、そしてさらにより好ましくは少なくとも150%高い。増加した活性は、例えば高められたリガンドの結合、乱交雑または不適当なリガンドの結合、構成的な受容体の二量体化、シグナル伝達の増加をもたらす障害された再利用、遅延された分解、またはキナーゼの活性化による、例えば増加した基底状態のFGFR2活性、延長された刺激、遅延された分解、または過剰発現に起因してよい。
【0034】
FGFR2のより高い発現レベルは、例えばFGFR2遺伝子の非翻訳領域の変異、またはFGFR2の転写もしくは翻訳に関与する翻訳領域もしくは非翻訳領域の遺伝子の変異に起因してよい。FGFR2の発現レベルは、例えばコントロールと比較した時の検査被験者のFGFR2mRNAもしくはFGFR2タンパク質のレベルを比較することにより、例えば正常な子宮内膜(例えば正常な隣接する子宮内膜サンプル)に対して腫瘍を比較することにより、決定することができる。
【0035】
“機能保存的バリアント”は、アミノ酸の、類似の特性(例えば極性、水素結合電位、酸性、塩基性、疎水性、芳香族性、など)を有するものとの置き換えを含むがこれに限定されない、ポリペプチドの全体の立体構造および機能を変更することなく、タンパク質または酵素中の所定のアミノ酸残基が変化したものである。類似の特性を持つアミノ酸は当該技術において周知されている。例えばアルギニン、ヒスチジンおよびリジンは、親水性−塩基性のアミノ酸であり、互換可能であってよい。同様に疎水性アミノ酸であるイソロイシンは、ロイシン、メチオニン、またはバリンと置き換えてよい。そのような変化は、タンパク質またはポリペプチドの見かけ上の分子量または等電点に、ほとんどまたは全く影響を及ぼさないと期待される。
【0036】
保存されているとして示されたもの以外のアミノ酸が、タンパク質または酵素中で異なっていてもよく、その結果類似の機能をもついずれか2つのタンパク質間の、一定比率のタンパク質またはアミノ酸の類似性は変動してよく、例えばクラスタ法による整列化スキーム(この場合類似性はMEGALIGNアルゴリズムに基づく)に従って決定した場合、70%から99%であってよい。 “バリアント”もまた、BLASTまたはFASTAアルゴリズムにより決定した場合、少なくとも60%のアミノ酸の同一性、好ましくは少なくとも75%、最も好ましくは少なくとも85%、そしてなおより好ましくは少なくとも90%、そしてさらにより好ましくは少なくとも95%の同一性を有し、そして比較するネイティブまたは親のタンパク質または酵素と、同じ、または実質的に類似する特性または機能を有する、ポリペプチドまたは酵素を含む。特定のバリアントは“機能獲得型”バリアントであり、タンパク質または酵素中の少なくとも1つの所定のアミノ酸残基の変化が、タンパク質の活性を含むがこれに限定されないポリペプチドの特定の機能を改善する、ポリペプチドバリアントを意味する。アミノ酸残基の変化は、あるアミノ酸を、類似の特性を有するものとの置き換えであることができる。
【0037】
本明細書で使用する場合、“相同の”および“類似の”という用語は、スーパーファミリー(例えば免疫グロブリンスーパーファミリー)および異なる種由来の相同タンパク質を含む“共通の進化起源”を保有するタンパク質間の関係をいう。そのようなタンパク質(およびそれらをコードする遺伝子)は、類似性のパーセント、または保存された位置としての特定の残基もしくはモチーフの存在という用語で表すかどうかは別として、それらの配列の類似性により反映されるように、配列の相同性を有する。
【0038】
具体的な態様において、2つのDNA配列は、配列比較アルゴリズム、例えばBLAST、FASTA、DNA Strides等により決定された場合、少なくとも約80%、そして最も好ましくは少なくとも約90%、または少なくとも95%のヌクレオチドが、定義された長さのDNA配列にわたりマッチする時、“実質的に相同または類似”である。
【0039】
“変異体”および“変異”という用語は、遺伝子材料、例えばDNAにおけるあらゆる検出可能な変化、またはそのような変化のあらゆる過程のメカニズム、もしくは結果を意味する。コントロール材料と比較した時、そのような変化は“異常”といってよい。これには、構造(例えば遺伝子のDNA配列)が変更された遺伝子の変異、あらゆる遺伝子またはDNAから生じるあらゆる変異の過程、および修飾された遺伝子またはDNAの配列により発現されるあらゆる発現産生物(例えばタンパク質)を含む。“バリアント”という用語もまた、修飾されたまたは変更された遺伝子、DNA配列、酵素、細胞など、すなわちあらゆる種類の変異を示すために使用してよい。
【0040】
本明細書で使用する場合、“配列特異的オリゴヌクレオチド”は、FGFR2遺伝子、好ましくはFGFR2活性化変異における、特定のバリエーションまたは変異を検出するために使用することができるオリゴヌクレオチドの関連するセットをいう。
【0041】
“プローブ”は、プローブ中の少なくとも1つの配列と、被験者の標的タンパク質中における配列との相補性により、標的領域中の配列とハイブリッド構造を形成する、核酸またはオリゴヌクレオチドをいう。
【0042】
本発明は、FGFR2の発現を阻害するために使用してよい、アンチセンス核酸(リボザイムを含む)を提供する。“アンチセンス核酸”は好ましくは、細胞質条件下でRNAまたはDNA分子中の相補的塩基とハイブリッド形成することで、DNA分子の役割を阻害する、一本鎖核酸分子である。RNAがメッセンジャーRNA転写物である場合、アンチセンス核酸は逆転写物またはmRNAを干渉する相補的な核酸である。現在使用する場合“アンチセンス”は、広くRNA−RNA相互作用、RNA−DNA相互作用、リボザイム、RNAに誘発されるサイレンシング複合体、およびRNアーゼ−Hを介した抑制を含む。アンチセンス核酸分子は、細胞内の発現に関するリコンビナント遺伝子によりコード化することができる(例えば米国特許第5,814,500号;米国特許第5,811,234号)、あるいは合成により調製することができる(例えば米国特許第5,780,607号)。合成オリゴヌクレオチドはアンチセンスとしての使用として適切である。
【0043】
診断法
本発明に従って、過剰発現および遅延された分解を含む、受容体の活性化を誘発するFGFR2受容体の変異を検出して、被験者の子宮内膜癌または前癌を診断または分類することができる。
【0044】
本明細書で使用する場合“被験者”は、子宮内膜癌を発症する可能性のある、ヒトまたはヒト以外の哺乳類、例えば霊長類、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、またはげっ歯類、である。すべての態様において、ヒトの被験者が好ましい。好ましくは被験者は、子宮内膜癌を有していると疑われる、子宮内膜癌と診断された、または子宮内膜癌の家族歴がある、そのいずれかのヒトである。子宮内膜癌を有すると疑われる被験者を同定するための方法は、物理的検査、被験者の家族の病歴、被験者の病歴、子宮内膜の生検、またはいくつかの画像技術、例えば超音波検査、コンピュータ断層撮影法(CT)、磁気共鳴画像(MRI)、磁気共鳴分光法(MRS)、または陽電子放出断層撮影法(PET)を含んでよい。子宮内膜癌に関する診断法、および子宮内膜癌診断の臨床的判断基準は、医学分野の当業者に周知されている。
【0045】
したがって診断法は、例えばFGFR2遺伝子の変異を包括的に含んでよく、その場合その変異が結果的に増加したFGFR2の受容体活性をもたらす。FGFR2の変異は、殊にFGFR2遺伝子のコード領域、例えばFGFR2遺伝子のIgIIドメインまたはIgIIIドメインにおける変異に影響を及ぼしてよい。変異は、ミスセンス変異、好ましくは核酸の置換、または欠失、または双方の組み合わせを結果的にもたらすミスセンス変異であってよい。好ましくは変異は、1つ、そして時にはそれより多くのアミノ酸の置換または欠失を結果的にもたらす。例えば以下の表2を参照のこと。
【0046】
本発明の診断法はまた、FGFR2タンパク質における変異、特にFGFR2タンパク質の増加した活性を結果的にもたらす変異を検出することを包括的に含む。好ましくは変異は、以下から成る群:免疫グロブリン様(Ig)ドメインIIおよびIII間の接合部における変異;IgIIIドメインにおける変異;IgIIIドメインおよび膜貫通(TM)ドメイン間の接合物における変異;TMドメインにおける変異;TMドメインおよびチロシンキナーゼドメインI間の接合部における変異;チロシンキナーゼドメインIにおける変異、またはチロシンキナーゼドメインIIにおける変異、より選択されるFGFR2における少なくとも1つの変異である。最も好ましくは変異は、FGFR2におけるアミノ酸の置換、例えば配列番号2もしくは配列番号3の252位のSからWへの変異、または配列番号2の550位もしくは配列番号3の549位のNからKへの変異、を誘発する。もう1つの態様においてFGFR2におけるアミノ酸の置換は、配列番号2もしくは3の310位のKからRへの変異;または配列番号2の392位もしくは配列番号3の391位のMからRへの変異である。1つの非限定的態様において変異は、配列番号1(NM−02297.2);2290−91位のヌクレオチドCおよびTの欠失;配列番号7;またはIVS10+2A>Cのスプライシング変異から成る。
【0047】
典型的には検出されるFGFR2受容体の活性化変異は、例えば、それによりFGFR2受容体が活性化されるリガンドの結合の増加、変更された(乱交雑の)リガンドのアフィニティー、構成的な受容体の二量体化、遅延された分解、障害された細胞膜からの再利用、過剰発現、またはキナーゼの活性化により、受容体の活性化を増加する。
【0048】
本明細書で使用する場合、“診断”という用語は、疾患の進展のあらゆるステージでの疾患の同定をいい、そしてまた疾患を発症または再発する被験者の素因の決定を含む。本発明はさらに、子宮内膜癌のタイプを確立および分類する手段を提供する。
【0049】
“生体(biological)サンプル”という用語は、DNAを入手しよいあらゆる細胞原料をいう。好ましくは“生体サンプル”は、子宮を裏打ちする子宮内膜細胞が生体サンプル中に存在することが保証される、子宮領域またはその近傍より入手する。1つの態様において生体サンプルは、血液の形、例えば月経血または閉経後の少量出血である。
【0050】
さらなる態様において被験者の子宮内膜癌の診断は、検査被験者の子宮内膜細胞中のFGFR2タンパク質の発現、遅延された分解、または活性のレベルを評価し、コントロール被験者の子宮内膜細胞中の発現または活性のレベルと比較することを包含し、その場合コントロール被験者と比較しての検査被験者のFGFR2タンパク質の増加した発現および/または活性が、子宮内膜癌または前癌を示す。
【0051】
FGFR2の発現または遅延された分解のレベルは、生体サンプル中のFGFR2タンパク質をコードするmRNAの量を決定することにより、または生体サンプル中のFGFR2タンパク質の濃度を決定することにより評価してよい。FGFR2活性のレベルは、FGFR2シグナル伝達経路のシグナル伝達の流束における活性のレベルを決定することにより、例えば本明細書に記載するように、サンプルまたは被験者におけるFGFR2活性を測定することにより評価してよい。
【0052】
核酸を基本とするアッセイ
本発明に従って、すなわちFGFR2 DNAまたはその転写物におけるFGFR2核酸の変異型、ならびにFGFR2またはFGFR2経路の他の成分の制御されていない発現、例えば過剰発現を、多様な適切な方法により検出することができる。
【0053】
生体サンプルに含有される核酸を分析し配列決定するための、そして遺伝子の障害を診断するための標準的な方法を利用することができ、遺伝子型の分析に関する多くの戦略は当業者に公知である。
【0054】
好ましい態様においてFGFR2遺伝子における変異の決定は、生体サンプル中のFGFR2のゲノムDNAまたはmRNAにおける変異を検出するための、核酸配列、例えば特定のオリゴヌクレオチドの使用を包括的に含む。そのようなオリゴヌクレオチドは、FGFR2核酸に存在する変異部位に、またはこの変異部位に隣接する領域に特異的にハイブリッド形成してよい。また、FGFR2のすべてまたは一部の増幅を可能にするプライマーを利用してもよい。あるいはそのような技術と組み合わせて、本明細書に記載したまたは当業者に公知のオリゴヌクレオチドの配列決定を適用して、FGFR2の変異を検出することができる。
【0055】
当業者は溶液中で、そして固相手段を利用する態様において、ハイブリダイゼーションのプローブを使用してよい。固相手段を伴う態様において、検査核酸は選択されたマトリクスまたは表面に吸着させる、またはそうでなければ付着させる。次に固定された一本鎖核酸を、選択されたプローブと特異的にハイブリダイゼーションさせる。
【0056】
もう1つの態様において当業者は、増幅技術、例えばPCRまたはリバースPCR(reverse-PCR)(“リバースポリメラーゼ連鎖反応法”)で、オリゴヌクレオチドプライマーを使用して、生体サンプル中に潜在的に存在する標的のDNAまたはmRNAを各々特異的に増幅してもよい。
【0057】
有用なオリゴヌクレオチドとして、FGFR2エクソンの増幅を可能にするプライマーを含む。
本発明は、より具体的には、以下のステップを包含する、子宮内膜癌または前癌のin vitroの診断方法を対象とする:
a)DNAを含有する生体サンプルを、FGFR2遺伝子のすべてまたは一部の増幅を可能にする特定のオリゴヌクレオチドと接触させる、すなわちサンプル中に含有されるDNAを、この場合ハイブリダイゼーションに適当な、そして生体サンプル中に含有されるDNAとプライマーとのハイブリダイゼーションを可能にする条件下で、接近させ;
b)前記DNAを増幅し;
c)増幅生成物を検出し;
d)得られた増幅された生成物を、正常なコントロールの生体サンプルを用いて得られた増幅された産生物と比較し、それによりFGFR2遺伝子における可能性ある異常を検出すること。
【0058】
ある種の態様において、生体サンプルのDNAは、増福を必要とせずに直接配列決定する。これらの態様において、配列決定されたDNAを、FGFR2遺伝子中の可能性ある異常を検出するためのコントロール配列と比較する。
【0059】
本発明の方法はまた、例えば生体サンプルに含有されるmRNAを、例えばRT−PCRにより増幅することにより、FGFR2遺伝子の転写物における異常の検出に適用することができる。
【0060】
本発明のもう1つの主題は、先に定義したように、以下のステップを包含する、子宮内膜癌のin vitroの診断方法である:
a)生体サンプル中に含有されるmRNAからcDNAを生成し;
b)前記cDNAを、前記cDNAとプライマーとのハイブリダイゼーションを可能にする条件下で、FGFR2遺伝子の転写物のすべてまたは一部の増幅を可能にする特定のオリゴヌクレオチドと接触し;
c)前記cDNAを増幅し;
d)増幅生成物を検出し;
e)得られた増幅された産生物を、正常なコントロールの生体サンプルを用いて得られた増幅された生成物と比較し、それによりFGFR2遺伝子の転写物における可能性ある異常を検出すること。
【0061】
コントロールは、当業者に公知のあらゆる正常な子宮内膜コントロールサンプル、例えば正常な隣接する子宮内膜サンプル、または血液または頬スワブより得られた正常なDNAであることができる。
【0062】
RNA分析に関して、生体サンプルは上に記載したようにあらゆる細胞原料、例えば生検組織であってよく、その原料から当業者に周知されている標準的な方法、例えばグアニジウムチオシアネート−フェノール−クロロホルム抽出(Chomocyznski et al., Anal. Biochem., 1987, 162: 156)を使用してRNAを単離する。次に単離されたRNAを、選択された部位に特異的である特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)により逆転写および増福をカップルさせる。プライマーのアニーリングに関する条件は、特定の逆転写および増福を確実にするように選ぶ;したがって増幅生成物の出現が、特定の遺伝子のバリエーションの存在の診断基準となる。もう1つの態様において、RNAを逆転写および増福し、その後増幅された配列を、例えば直接的な配列決定により同定する。なおもう1つの態様において、そのRNAより得たcDNAをクローン化し、配列決定して変異を同定することができる。
【0063】
本発明のFGFR2核酸はまた、例えば治療および診断のアッセイにおいてプローブとして使用することができる。例えば本発明は、実質的に精製されたオリゴヌクレオチドを包含するプローブを提供する。そのオリゴヌクレオチドは、野生型遺伝子(配列番号1および7)の配列とは異なるFGFR2遺伝子の領域、例えば変異領域または多形領域、と特異的にハイブリッド形成する能力があるヌクレオチド配列を有する領域を包含する。次にそのようなプローブを使用して、被験者から採取したサンプル中にFGFR2遺伝子の変異が存在することを、特異的に検出することができる。変異領域または多形領域は、FGFR2遺伝子のプロモーター、エクソン、またはイントロンの配列に位置することができる。
【0064】
本発明の特に好ましいプローブは、標的ヌクレオチド配列との特異的ハイブリダイゼーションを可能にするのに十分ないくつかのヌクレオチドを有する。したがって配列番号1−3に基づいた、そして本明細書に提供した変異配列に相補的な適切な長さのプローブを、意図した適用に依存して適当なレベルの特異性に関して、当業者が構成し、検査することができる。標的ヌクレオチド配列が、DNAの大きなフラグメント、例えば数十または数百キロバイトのゲノムDNAフラグメント中に存在する場合には、プローブのサイズは、DNAのより短いフラグメント中に存在する標的配列を検出するために使用するプローブと比較した場合、十分に特異的なハイブリダイゼーションを提供するため、より長くなければならないと思われる。例えばいくつかの診断法において、FGFR2遺伝子の一部分を最初に増幅し、したがって染色体DNAの残り部分から単離した後、プローブにハイブリッド形成させる。そのような状況下では、より短いプローブでハイブリダイゼーションの十分な特異性を提供するようである。例えば約15ヌクレオチド、なおより好ましくは20ヌクレオチドが好ましいが、約10ヌクレオチドのヌクレオチド配列を有するプローブでも十分であると思われる。
【0065】
好ましい態様において、プローブまたはプライマーはさらに、好ましくは検出される能力のあるものに結合させた標識を包含する。例えば標識は、放射性同位体、蛍光化合物、酵素、および酵素の補助因子より選択することができる。
【0066】
本発明のもう1つの好ましい態様において、例えばプローブまたはプライマーとして使用する単離された核酸は、例えばより安定化するように修飾する。修飾された核酸分子の例として、DNAのホスホロアミデート、ホスホチオエート、およびメチルホスホネートの類似体を含む(米国特許第5,176,996号;5,264,564号;および5,256,775号もまた参照のこと)。
【0067】
なおもう1つの態様において、HPLCまたは変性HPLC(DHPLC)の技術を使用して、FGFR2核酸を分析してよい。DHPLCは、部分的変性温度、すなわち塩基対のミスマッチ部位でのヘテロ二本鎖を変性させるのに十分な温度でHPLC分析を行うことで、ホモ二本鎖を、同じ塩基対の長さを有するヘテロ二本鎖から分離することができることを観察する場合に開発された(Hayward-Lester, et al., Genome Research, 1995, 5: 494; Underhill, er al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1996, 93: 193; Doris, et al., DHPLC Workshop, 1997, Stanford University)。したがってDHPLCの使用は、変異の検出に適用される(Underhill, et al., Genome Research, 1997, 7: 996; Liu, et al., Nucleic Acid Res., 1998, 26; 1396)。DHPLCは、1塩基対程度とわずかしか違っていないヘテロ二本鎖を分離することができる。米国特許第6,287,822号または6,024,878号に記載されているような”Matched Ion Polynucleotide Chromatography”(MIPC)またはDnaturing ”Matched Ion Polynucleotide Chromatography”(DMIPC)も、本発明と組み合わせてもまた有用となり得る分離法である。
【0068】
あるいは、FGFR2遺伝子における異常を検出するための、DGGE法(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法)、またはSSCP法(Single-Strand Conformation Polymorphism、一本鎖コンフォメーション多形分析)を使用することができる。DGGEは、変動する濃度の変性剤を含有するゲルを通しての電気泳動を使用して、1塩基対の変化程度の小さな配列差異に基づいて、同一の長さの2つのDNAフラグメントを分離するための方法である(Guldberg et al., Nuc. Acids Res. 1994, 22: 880)。SSCPは、2つの種のハイブリダイゼーションと、その後のゲル電気泳動による配列ミスマッチの検出を包含する、2つのDNA間の配列の差異を検出するための方法である(Ravnik-Glavac et al., Hum. Mol. Genet. 1994, 3: 801)。”HOT cleavage”、すなわち2つの種のハイブリダイゼーションと、その後の化学的開裂による配列ミスマッチの検出を包含する、2つのDNA間の配列の差異を検出するための方法(Cotton, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1988, 85: 4397)もまた使用することができる。好ましくはそのような方法に続いて直接的な配列決定を行う。有利なことにRT−PCR法は、スプライシングによる変異の結果、例えば隠れた(cryptic)部位の活性化によるエクソンのスキッピング、または異常なスプライシングの可視化を可能にするため、FGFR2転写物中の異常を検出するために使用してよい。好ましくはこの方法に続いて、同様に直接的な配列決定を行う。
【0069】
マイクロアレイを使用する技術、好ましくはハイスループットスクリーニングを可能にするマイクロアレイ技術もまた、FGFR2遺伝子における異常を検出するため、または本明細書に記載したように増加したシグナル伝達をもたらすFGFR2遺伝子の発現もしくはFGFR2経路の別の成分をアッセイするために、有利に実施することができる。マイクロアレイは、同一のオリゴヌクレオチドの同じセットをアレイの少なくとも2つの選択された別個の領域に付着させ、前記の選択された1つの領域と接触させた正常なサンプルを、前記の選択された別の領域と接触させた検査サンプルに対して容易に比較できるように、デザインしてよい。これらのアレイは、微量の液体の導管(microfluidic conduit)を使用して、正常なサンプルと検査サンプルの混合を避ける。有用なマイクロアレイ技術として、Nanogen, Inc (San Diego, Calif.)により開発されたもの、およびAffymetrixにより開発されたものを含む。しかし“遺伝子チップ”または“DNAチップ”とも呼ばれる、すべてのタイプのマイクロアレイを変異の同定に適用してよい。そのようなマイクロアレイは、当該技術において周知されている。
【0070】
オリゴヌクレオチドを付着させる固体支持体は、ガラス、シリコン、プラスチック(例えばポリプロピレン、ナイロン)、ポリアクリルアミド、ニトロセルロース、またはその他の材料から作製されてよい。核酸を表面に付着させるための1つの方法は、Schena et al., Science 1995, 270: 467-470により一般的に記載されているように、ガラスプレート上にプリンティングすることによる。この方法はcDNAのマイクロアレイを調製するために殊に有用である。DeRisi et al., Nature Genetics 1996, 14: 457-460; Shalon et al., Genome Res. 1996, 6: 639-645; およびSchena et al.,Pric, Natl. Acad. Sci. USA 1995, 93: 10539-11286もまた参照のこと。
【0071】
マイクロアレイを作製するためのその他の方法、例えばマスキングによる方法(Maskos and Southern, Nuc. Acids Res. 1992, 20: 1679-1684)もまた使用してよい。原則として、いかなるタイプのアレイでも、例えばナイロンのハイブリダイゼーションメンブレン上のドットブロット(Sambrook et al., Molecular Cloning A Laboratory Manual (第2版), 1-3巻, Cold Spring Harbor Laboratory , Cold Spring Harbor, N.Y., 1989)を使用することができるが、当業者に認識されているように、ハイブリダイゼーション容積がますます少量となるため、非常に小さなアレイが好ましい。これらのアッセイに関して、核酸のハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件は、付着させたオリゴヌクレオチドが、検査するサンプル中に存在するFGFR2遺伝子の少なくとも一部に、“特異的に結合する”または“特異的にハイブリッド形成する”ように、すなわちプローブがFGFR2遺伝子座に相補的な核酸配列とハイブリッド形成する、二本鎖を形成する、または結合するが、非相補的な核酸配列とはその部位にハイブリッド形成することがないように、選択する。本明細書で使用する場合、ポリヌクレオチドの短さが25塩基より短いもしくは等しければ、標準的な塩基対形成のルールを使用してミスマッチが起こらない、またはポリヌクレオチドの短さが25塩基より長くても、わずか5%のミスマッチにとどまる場合、あるポリヌクレオチド配列は、もう1つの配列と相補的であると考える。好ましくはポリヌクレオチドは完璧に相補的である(ミスマッチがない)。ネガティブコントロールを含むハイブリダイゼーションアッセイを行うことにより、特定のハイブリダイゼーション条件が結果的に特定のハイブリダイゼーションをもたらすことは、容易に示すことができる(例えば、Shalon de al., 上記、およびChee et al., Science 1996, 274: 610-614を参照のこと)。
【0072】
多様な方法を、ハイブリダイゼーション事象の検出および分析のために利用できる。DNAプローブの標識に使用するレポーター基(フルオロフォア、酵素、放射性同位体、など)に依存して、検出および分析は、蛍光定量的、比色測定、またはオートラジオグラフィーにより行う。放射される放射線、例えば蛍光放射線または粒子の放出を観察および測定することによって、ハイブリダイゼーション事象についての情報を得てよい。
【0073】
蛍光標識したプローブを使用する場合、転写物のアレイの各部位での蛍光発光は、好ましくは走査型共焦点レーザー顕微鏡により検出することができる。1つの態様において、適当な励起光を使用する分離スキャン(separate scan)は、使用する2つのフルオロフォア各々について行う。あるいは、2つのフルオロフォアに特異的な波長で同時検体照明を可能にするレーザーを使用して、2つのフルオロフォアからの発光を同時に分析することができる(Shalon et al. Genome Res. 1996, 6: 639-695を参照のこと)。
【0074】
タンパク質を基本とするアッセイ
FGFR2核酸を分析する代わりとして、タンパク質における変異、またはタンパク質の非制御産生物、例えば過剰発現に基づいて、FGFR2を評価することができる。
【0075】
好ましい態様においてFGFR2は、イムノアッセイにより検出する。例えばウェスタンブロット法は、特定のバリアント、またはFGFR2の存在もしくは不在の検出を可能にする。特にイムノアッセイは、FGFR2タンパク質中の特定の(野生型または変異の)アミノ酸配列を検出することができる。抗体の精製については以下に記載するが、その他のイムノアッセイの型式もまた、ウェスタンブロット法の代わりに使用することができる。これらの方法の1つはELISA法である。
【0076】
ELISA法において、FGFR2に対する抗体、すなわちFGFR2のエピトープフラグメントを、選択された表面、例えばタンパク質を結合することのできる表面、例えばポリスチレンミクロ滴定プレートのウェル上に固定化する。不完全に吸着されたポリペプチドを除去するため洗浄した後、非特異的タンパク質、例えばウシ血清アルブミン(BSA)の溶液を、選択された表面に結合させてよい。このことで、固定化表面上の非特異的な吸着部位のブロッキングを可能とし、したがって表面上の抗血清の非特異的結合により引き起こされるバックグラウンドを低下させる。次に固定化表面をサンプルと接触させ、免疫複合体(抗原/抗体)形成を伝達する様式で検査する。これには、サンプルを希釈液、例えばBSA溶液、ウシガンマグロブリン(BGG)、および/またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)/Tweenで希釈することを含む。次にサンプルを2から4時間、約25から37℃の間の温度でインキュベーションしたまま放置する。インキュベーションに続いて、サンプルと接触させた表面を洗浄して、免疫複合体以外の材料を除去する。洗浄方法は、溶液、例えばPBS/Tweenまたはホウ酸緩衝液で洗浄することを含んでよい。検査サンプルおよび結合した抗体間の特定の免疫複合体の形成、およびその後の洗浄に続いて、免疫複合体形成の発生、およびその量さえも、免疫複合体をタンパク質上の変異したエピトープを認識する、FGFR2変異体に対する二次抗体を作用させることにより決定してよい。検出手段を提供するため、二次抗体は関連する活性、例えば適当な発色基質と共にインキュベーションすることで発色を起こす酵素活性を有してよい。次に、例えば可視分光器を使用して発色の程度を測定することにより、定量を達成してよい。
【0077】
典型的には検出抗体は、酵素、例えばペルオキシダーゼと複合体を形成させ、そして可溶性発色団のペルオキシダーゼ基質、例えばテトラメチルベンジジンの添加に続いて、1M 硫酸を添加することにより、タンパク質を検出する。検査タンパク質の濃度は、標準曲線との比較により決定する。
【0078】
これらのプロトコルは、Molecular Biology、第2巻、第11章のCurrent ProtocolsおよびAntibodies, a Laboratory Manual, Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988) pp579-593 に詳述されている。
【0079】
あるいは、生化学的アッセイを使用して、例えばポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析したサンプルにおけるバンドの存否を検出することにより;逆相、イオン交換、およびゲル浸透を含む、高速液体クロマトグラフィーの様々な方法のいずれかにより分析したサンプルにおけるクロマトグラフィーのピークの存否により;分析的キャピラリー電気泳動クロマトグラフィー、または当該技術に公知のあらゆるその他の定量的または定性的な生化学的技術におけるFGFR2の存否により、FGFR2の発現、または蓄積を検出することができる。
【0080】
上で考察したイムノアッセイは、FGFR2タンパク質またはそのフラグメントに対して作成した抗体の使用を伴う。そのような抗体の生成を以下に記載する。
抗FGFR2抗体
そのような抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、単鎖、Fabフラグメント、Fag発現ライブラリ、および例えばヒト化抗体を含むが、これに限定されない。
【0081】
当該技術で公知の様々な方法を、FGFR2ポリペプチドまたはその誘導体もしくは類似体に対する、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の生成のために使用してよい。抗体の生成のため、ウサギ、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、等を含むがこれに限定されない様々なホスト動物を、抗原のポリペプチドを注射して免疫することができる。
【0082】
FGFR2ポリペプチドに対して作成されるモノクローナル抗体の調製のため、培養液における連続細胞株による抗体分子の生成のために提供されるあらゆる技術を使用してよい。これらには、Kohler and Milstein (Nature 256:495-497, 1975)により独自に開発されたハイブリドーマ技術、同様にトリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor et al., Immunology Today 4: 72, 1983; Cote et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 80: 2026-2030, 1983)、およびヒトモノクローナル抗体を生成するためのEBVハイブリドーマ技術(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp77-96, 1985)などを含むが、これらに限定されない。本発明の付加的な態様において、モノクローナル抗体は無菌動物において生成することができる(1989年12月28日に公開された国際特許公開第WO 89/12690号)。
【0083】
本発明に従って、一本鎖抗体の生成に関して記載された技術(Hustonに対する米国特許第5,476,786号および第5,132,405号;米国特許第4,946,778号)を適用して、FGFR2ポリペプチド特異的な一本鎖抗体を生成することができる。事実これらの遺伝子を、in vivoでの発現のために送達することができる。本発明の付加的な態様は、Fab発現ライブラリの構成に関して記載された技術(Huse et al., Scinece 246: 1275-1281, 1989)を利用して、FGFR2ポリペプチドまたはその誘導体もしくは類似体に関する、所望の特異性を持つモノクローナルFabフラグメントの迅速かつ容易な同定を可能にする。
【0084】
抗体分子のイディオタイプを含有する抗体フラグメントは、公知の技術により作成することができる。例えばそのようなフラグメントは:抗体分子のペプシン消化により生成することができるF(ab’).sub.2フラグメント;F(ab’).sub.2フラグメントのジスルフィド結合を還元することにより作成することのできるFab’フラグメント、およびパパインおよび還元剤による抗体分子の処理により作成することのできるFabフラグメント、を含むがこれに限定されない。
【0085】
抗体の生成において、所望の抗体に関するスクリーニングは、当該技術における公知の技術、例えばラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着法)、“サンドウィッチ”イムノアッセイ、免疫放射線測定法、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散法、in situ イムノアッセイ(例えばコロイド状の金、酵素、または放射性同位体標識を使用して)、ウェスタンブロット、沈降反応、凝集アッセイ(例えばゲル凝集アッセイ、血球凝集アッセイ)、補体結合アッセイ、免疫蛍光法、プロテインAアッセイ、免疫電気泳動アッセイ等、により達成することができる。1つの態様において抗体の結合は、一次抗体上の標識を検出することにより検出する。もう1つの態様において、一次抗体は、一次抗体への二次抗体または試薬の結合を検出することにより検出する。さらなる態様において、二次抗体を標識する。イムノアッセイにおいて結合を検出することに関しては、多くの手段が当該技術において知られており、それらは本発明の範囲内である。
【0086】
診断キット
本発明はさらに、子宮内膜癌を診断または分類するための、被験者のFGFR2遺伝子内の配列の決定のためのキットを提供する。キットは、バリアントの位置の配列を決定するための手段を包含し、そして所望により変異の分析のためのデータを含んでよい。配列決定のための手段は、適切な核酸を基本とする試薬および免疫学的な試薬を包含してよい。好ましくはキットはまた、バリアントの位置の配列を決定するため、そして被験者の子宮内膜癌を診断または分類するための、適切なバッファー、適当であればコントロール試薬、および指示書を包含する。
【0087】
核酸を基本とする診断キット
本発明は、生体サンプル中のFGFR2の遺伝子の多様性を検出するための、核酸を基本とする方法を提供する。FGFR2遺伝子の特定の位置の配列は、PCR増幅用の特定のプローブを使用してのハイブリダイゼーション、制限酵素による断片化、直接的な配列決定、SSCP、および当該技術に公知のその他の技術の、1つまたはそれより多くを非限定的に含む、当該技術に公知のあらゆる適切な手段を使用して決定する。
【0088】
1つの態様において診断キットは以下の構成内容を含む。
a)プローブDNA:プローブDNAは予め標識されていてよい;あるいはプローブDNAは未標識でもよく、標識用の成分はキット内に別の容器に含まれていてもよい;そして
b)ハイブリダイゼーション試薬:キットはまた、適用可能であれば固相マトリクス、およびスタンダードを含む、特定のハイブリダイゼーションプロトコルに必要な、適切に包装されたその他の試薬および材料を含有してよい。
【0089】
もう1つの態様において、診断キットは以下を含む:
a)配列決定プライマー:配列決定プライマーは、予め標識されていてもよいし、またはアフィニティー精製部分もしくは付着部分を含有してもよい;そして
b)配列決定試薬:キットはまた、特定の配列決定のプロトコルに必要な、適切に包装されたその他の試薬および材料を含有してもよい。
【0090】
1つの好ましい態様において、キットは配列決定プライマーのパネルを包含し、その配列はバリアントの位置に隣接する配列に対応する。
抗体を基本とする診断キット
本発明はまた、生体サンプル中の変異(または野生型)FGFR2タンパク質を検出するための、抗体を基本とする方法を提供する。この方法は以下の:(i)サンプルを1つまたはそれより多くの抗体調製物と接触させる。その場合抗体および生体サンプル中のFGFR2間で安定な抗原−抗体複合体を形成することができる条件下で、各抗体調製物は変異(または野生型)FGFR2に対して特異的である;そして(ii)ステップ(i)で形成されたあらゆる抗原−抗体複合体を、当該技術で公知のあらゆる適切な手段を使用して検出する。その場合複合体の検出が、変異(または野生型)FGFR2の存在を示す、
というステップを包含する。
【0091】
典型的にはイムノアッセイは、標識化抗体または標識化抗原成分(例えば抗体への結合に関してサンプル中の抗原と競合するもの)のいずれかを使用する。適切な標識は、非限定的に、酵素を基本とする、蛍光性、化学発光、放射性、または色素の分子を含む。プローブからのシグナルを増幅するアッセイもまた知られており、例えばビオチンおよびアビジンを使用するもの、ならびに酵素で標識したイムノアッセイ、例えばELISAアッセイがある。
【0092】
診断キットは典型的には以下の構成内容の1つまたはそれより多くを含む:
(i)FGFR2特異的抗体:抗体は予め標識されていてよい;あるいは抗体は未標識でよく、標識用の成分がキット内に別の容器に含まれていてもよい、または標識された二次抗体を提供する;そして
(ii)反応成分:キットはまた、適用可能であれば固相マトリクス、およびスタンダードを含む、特定のイムノアッセイプロトコルに必要な適切に包装されたその他の試薬および材料を含有してもよい。
【0093】
上述のキットは好ましくは、子宮内膜癌を診断または分類するための検査を実行し、読むための説明書を含む。さらに好ましい態様において、当該診断キットはハイスループットおよび/または自動操作に適用できる。
【0094】
子宮内膜癌を治療する方法
本発明はさらに、FGFR2活性化を特徴とする子宮内膜癌を治療する方法を提供する。治療法は好ましくは、被験者におけるFGFR2活性の阻害を包含する。一般にこの方法は、そのような治療を必要とする患者に、FGFR2の発現または活性を調節する有効量の薬剤を、医薬的に受容可能な担体と共に投与することを包含する。例えば治療薬剤は、FGFR2アンチセンス核酸、抗FGFR2細胞内阻害抗体、または低分子阻害剤であってよい。
【0095】
治療組成物は、原則的な活性な薬剤としてFGFR2阻害剤を包含する。適切な阻害剤の例として、FGFR2DNAの合成およびその発現産生物を阻害する阻害剤(例えばFGFR2 RNAまたはタンパク質)を含む。一例としての態様において、阻害剤は低分子のFGFR2阻害剤、例えばPD173074である。もう1例の態様において、RNA干渉を使用し、その場合阻害剤はRNAの合成および/または翻訳を阻害する試薬、例えば阻害的短鎖RNA(siRNA)、ヘアピン型短鎖RNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、またはリボザイムである。
【0096】
なおもう1つの態様において阻害剤は、FGFR2に対して、好ましくは変異FGFR2に対して、そして特にFGFR2の少なくとも1つのIgドメインに対して作成された抗体を包含する。好ましくは抗体は、FGFR2のIgIIおよびIgIIIドメイン間の変異したリンカー領域に関して、例えばS252W変異に対して特異的である。一般に好ましい抗体は、モノクローナル抗体、そして特に、それらがヒト被験者の体内で免疫原性反応を誘発しないように修飾された抗体(例えばヒト化抗体)である。FGFR2の活性を遮断する抗体は、当業者に周知されているあらゆる標準的な方法、例えば診断への適用の文脈において上に記載した方法に従って生成し、選択してよい。
【0097】
細胞内の抗体(時に“細胞内抗体”と呼ぶ)は、いくつかのシステム、例えばウイルス感染(Marasco et al., Hum. Gene Ther. 1998, 9: 1627)およびその他の感染疾患(Rondon et al., Annu. Rev. Microbiol. 1997, 51: 257)、ならびに癌遺伝子、例えばp21(Cardinal et al., FEBS Lett. 1998, 439: 197-202; Cochet et al., Cancer Res. 1998, 58: 1170-6)、myb(Kasono et al., Biochem Biophys Res Commun, 1998, 251: 124-30)、erbB−2(Graus-Porta et al., Mol Cell Biol. 1995, 15:1182-91)、等において、細胞内タンパク質の活性を制御するために使用されてきた(Marasco, Gene Ther. 1997, 4: 11; Chen et al., Hum. Gene Ther. 1994, 5:595を参照のこと)。この技術を適用して、抗FGFR2細胞内抗体の発現によりFGFR2活性を阻害することができる。
【0098】
適すると思われるその他の阻害剤として、FGFR2に対して作成されたアンチセンスオリゴヌクレオチド、より好ましくは変異FGFR2アイソフォームを含む。本発明に従ってのアンチセンス核酸をコードする配列を包含するベクターは、あらゆる公知の方法、例えば当該技術で利用可能な遺伝子療法に関する方法により、投与してよい。遺伝子療法の方法の一般的な総説に関しては、Goldspiel et al., Clinical Pharmacy 1993, 12: 488-505; Wu and Wu, Biotherapy 1991, 3: 87-95; Tolstoshev, Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol. 1993, 32: 573-596; Mulligan, Science 1993, 260: 926-932; およびMorgan and Anderson, Ann. Rev. Biochem. 1993, 62: 191-217; May, TIBTECH 1993, 11: 155-215を参照のこと。使用することのできるリコンビナントDNAの当該技術で一般に知られている方法は、Ausubel et al., 編、1993, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY; Kriegler, 1990, Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, Stockton Press, NY; およびDracopoli et al.,編、1994, Current Protocols in Human Genetics, John Wiley & Sons, NYの第12章および13章を参照のこと。
【0099】
本明細書で使用する場合“治療”という用語は、被験者の子宮内膜癌の発生または進行における治療的介入である。“治療”という用語はまた、公知のFGFR2活性化変異を有すると診断された被験者における子宮内膜癌の発生または再発の予防も、包括的に含む。
【0100】
“治療有効量”という用語は本明細書において、FGFR2活性のレベルを調節する、例えば約10パーセントまで、好ましくは約50パーセントまで、そしてより好ましくは約90パーセントまで減少させるのに十分な量または用量を意味するために使用する。好ましくは治療有効量は、被験者の活性、機能および応答における臨床的に意味のある欠損を寛解する、または補うことができる。あるいは治療有効量は、被験者の臨床的に意味のある状態における改善を引き起こすための十分量である。
【0101】
FGFR2阻害剤は、FGFR2の活性または発現を阻害することから、医薬組成物中に医薬的に受容可能な担体と共に有利なように製剤化される。その時この物質を、子宮内膜癌に対する活性成分または治療薬と呼んでよい。
【0102】
活性成分の濃度または量は、以下に考察するように所望の投与量および投与計画に依存する。適切な用量範囲は、使用するFGFR2阻害剤に大きくは依存するが、例示のみの目的として、1日当たり約0.01mg/kg体重から約100mg/kg体重を含んでよい。
【0103】
医薬組成物はまた、他の生物学的に活性な化合物を含んでよい。“医薬的に受容可能な”という語句は、ヒトに投与した時に生理学的に耐えられる、そして典型的にはアレルギー反応および類似の有害反応、例えば胃の不快感、めまい等を起こさない、分子実態および組成物をいう。好ましくは本明細書で使用する場合、“医薬的に受容可能な”という用語は、動物、そしてより特定すればヒトにおける使用に関する、国家もしくは州政府の規制当局により承認されている、または米国薬局方もしくはその他の一般的に認められている薬局方でリストされていることを意味する。“担体”という用語は、それと共に化合物を投与する希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルをいう。そのような医薬的担体は、無菌液、例えば水および油(石油、動物、野菜もしくは合成を原料とするもの、例えばピーナッツ油、大豆油、鉱物油、ゴマ油、等を含む)であることができる。水または水溶液、例えば生理食塩水溶液およびブドウ糖水溶液およびグリセロール溶液が、特に注射溶液用の担体として好ましく利用される。適切な医薬的担体は、E. W. Martinによる“Remington’s Pharmaceutical Sciences”に記載されている。
【0104】
本発明に従って本発明の医薬組成物は、非経口、経粘膜、例えば経口(per os)、経鼻、経膣もしくは経直腸、または経皮により導入することができる。非経口経路として、静脈内、細動脈内、筋肉内、皮膚内、皮下、腹腔内、心室内、および頭蓋内の投与を含む。子宮を直接標的とすること、例えば子宮または子宮の内張りへの直接投与による方法も、有利であると思われる。
【0105】
一つの態様において治療化合物は、コントロールされた放出システムで送達することができる。例えばポリペプチドは、持続的なポンプを用いての静脈内注入、ポリマーマトリックス、例えばポリ乳酸/ポリグルタミン酸(PLGA)にて、コレステロールと活性成分の混合物を含有する皮下植込み型のペレット(Silastic R. TM.; Dow Coming, Midland, Mich.; 米国特許第5,554,601号を参照のこと)、植え込み可能な浸透圧ポンプ、経皮パッチ、リポソーム、またはその他の投与方式を使用して投与してよい。
【実施例】
【0106】
本発明の実施例を提供するが、例示のみに過ぎず、本発明または付記した請求項の範囲を限定するものではないことと理解されたい。当業者は、請求項および本明細書の開示に従って本発明をいかなる形で実践することもできることは認識していよう。
【0107】
〔実施例1〕
子宮内膜癌における活性化FGFR2変異の検出
著者らの発見は、FGFR2の活性化および過剰発現が子宮内膜の腫瘍形成に一役を担うことを示す。エクソン8はエクソン9より3ヌクレオチド長く、したがってFGFR2bアイソフォームは、FGFR2cアイソフォームより1コドン長い。シグナル伝達の特異性はまた、受容体、リガンドおよびヘパリン(heparin)硫酸プロテオグリカンの組織特異的な発現(Allen et al., 2001; Fiore, 2001)によっても提供される。FGFR2の“b”および“c”のアイソフォームの長さの差異により、上皮系で発現されるFGFR2bアイソフォーム(配列番号2;NP_075259.2)に関連して、すべての変異に番号付けするものとする。エクソン8の下流で起こる変異に関しは、本明細書において、括弧でおよび表2で、FGFR2cアイソフォーム(配列番号3;NP_000132.1)に関連して番号付けした均等な変異を提供する。2つの子宮内膜細胞株で同定されたN550K(N549K)バリアントは、受容体の活性化をもたらす可能性があった、というのは、同一または類似の生殖系列のミスセンス変化が、FGFR2およびFGFR3においてクルーゾン症候群(Kan et al., 2002)および軟骨低形成症(Bellus et al., 1995)の患者で報告されているからである(図1)。
【0108】
次に、原発性子宮癌においてFGFR2活性化変異の範囲および頻度を決定することを模索した。これまでにFGFR2およびFGFR3の活性化変異が生殖系列において同定されているエクソン(エクソン7、8、10、13および15)の直接的な配列決定を、187例の原発性子宮癌において行い、腫瘍のすべてのグレードおよびステージ、ならびに子宮内膜癌の主要な組織学的サブタイプを表した(表1)。
【0109】
【表1】

【0110】
間葉系に発現されるアイソフォーム(FGFR2c)において発症する子宮内膜間質性肉腫、およびすべての癌肉腫(悪性の上皮系および間葉系の要素双方を伴う腫瘍)由来のESS−1において報告されたA315Tについてもまた、エクソン9(NM_000141)における変異に関してスクリーニングしたことは注目すべきである。腫瘍(32例の子宮内膜癌、プラス17例の癌肉腫)のサブセットについて、第2および第3の免疫グロブリンドメイン(以後D2およびD3という)、膜貫通ドメイン、ならびにキナーゼドメイン全体を包括的に含むエクソン5−18を配列決定して、新規の体細胞系変異に関連する発症を決定した。エクソン7、10、13および15に発見された変異に加えて、1つの付加的な変異、すなわちエクソン18の2bpの欠失が、このより広範な変異スクリーニングにおいて同定された。変異は19例(10%)で同定された。115例の子宮内膜癌のうち18例(16%)が変異を有しており、1例の漿液性癌(45例中1例、2%)が変異を持っていた。癌肉腫および明細胞癌においては変異は認められなかった。
【0111】
【表2】

【0112】
すべての変異についてconstitutionalDNAの配列決定を行い、変異が体細胞により生じることを確認した。類内膜性の症例のうち、正常なミスマッチの修復を有する症例(61例中6例、10%)と比較して、ミスマッチの修復の欠損を有する症例において多くのFGFR2変異が認められた(49例中11例、22%)が、統計学的有意性には達しなかった(p=0.10)。5例の腫瘍に関して、マイクロサテライト不安定性(MSI)の状態が決定されなかったことは、注目すべきである。MSI陽性の症例における2bpの欠失が活性化されている可能性は低く、したがってバイスタンダー(bystander)変異を表していると思われるため、著者らはこれを含めなかった。マイクロサテライト不安定性を示す腫瘍において多くの変異が認められるが、同じ変異がMSI陽性およびマイクロサテライト安定性(MSS)の原発性腫瘍の双方において観察されること、そして変異の大半は生殖系列で同定される活性化変異と同一であり、それらがマイクロサテライト不安定性に関連したバイスタンダー変異であるとすれば、偶然の一致は期待できない、という事実により、著者らはFGFR2におけるこれらの変異は病原性であると主張することとした。
【0113】
11の異なる変異のうち、7つは、頭蓋骨癒合症または骨系統疾患の症候群に関連することが依然に報告されており、1つ(A315T)は、類似のミスセンス変異が報告されている(A315S)FGFR2残基で起こり、そして4つの変異は新規であった(図1)。腫瘍の組織型に従っての変異の分布を、FGFR2変異を持つ腫瘍のグレードおよびステージと共に表2にまとめる。S252W変異は同定された最も一般的な変異であり、8例の独立した腫瘍に認められた。この変異は、FGFリガンドとの鍵となる接触を提供する、D2およびD3間のリンカー領域に起こる。S252Wおよび隣接するP253Rの変異は、アパート症候群、すなわち頭蓋骨癒合症ならびに手足の重篤な合指症を特徴とする、最も重篤な頭蓋骨癒合症症候群を引き起こす(Park et al., 1995)。
【0114】
生化学、構造、生物学のアッセイを駆使した研究を組み合わせて、S252W変異が、増加したリガンドの結合およびリガンドの乱交雑を示すことが示された(Ibrahimi et al., 2001; Ibrahimi et al., 2004; Yu et al., 2000)。S252W FGFR2c変異体およびS252W FGFR2b変異体の双方の受容体を用いて、広範なin vitroのアフィニティーの研究が行われ、この変異が、選択的スプライシングによるアイソフォームに起因するリガンドの結合特異性を妨害することに加えて、多数のFGF群に関する受容体の結合アフィニティーを2から8倍に増加することが示された(Ibrahimi et al., 2004)。
【0115】
このパネルの腫瘍におけるS252W変異の有病率は、類内膜性子宮内膜癌ではこの変異に関して陽性の選択であることを示唆する。すべてのFGFリガンドの発現について、正常な周期的な子宮内膜および子宮内膜癌では調べられていないが、菅腔上皮および腺上皮の基底部では主にFGF2が発現されているという、いくつかの研究報告がある(Moller et al., 2001; Sangha et al., 1997)。いくつかの研究はまた、複合型過形成および腺癌に関連した腺上皮におけるFGF2発現の増加を示した(Gold et al., 1994)。子宮内膜上皮細胞は正常には、FGF2と結合することのできないFGFR2アイソフォームのみしか発現しない。しかしこれら細胞におけるS252W変異の獲得が、結果的にS252W FGFR2b受容体のオートクリンの活性化をもたらすと予測されている。S252W変異はまた、変異受容体が、子宮内膜間質に高度に発現されるFGF9と結合することを可能にする(Tsai et al., 2002)。S252W変異の有病率は、異なるFGFR2アイソフォームが、子宮内膜において方向性のある上皮系から間葉系のシグナル伝達を仲介する上で、重要な役割を担うことを示唆する。
【0116】
4つの付加的な細胞外ドメインの変異、すなわち細胞系列におけるK310RおよびA315T、ならびに原発性腫瘍におけるS373C(S372C)およびY376C(Y375C)が同定され、後者の変異は2つの独立した腫瘍において認められた(図1、表2)。付加的なシステイン残基の喪失または獲得のいずれかをもたらす、FGFR2(またはパラロガスなFGFR3)におけるこれらの細胞外変異について行われた機能の研究は、これらのミスセンスによる変化が、分子内よりむしろ分子間のジスルフィド結合形成による、構成的な受容体の二量体化を結果的にもたらすことを示した(Naski et al., 1996)。生殖系列において、細胞外の膜近傍のFGFR2c変異のS372CおよびY375Cは、広範囲の付加的な臨床的特徴を伴う頭蓋骨癒合症症候群であるBeare-Stevenson cutis gyrata症候群の数名の個体において報告された(Przylepa et al., 1996)。FGFR3cにおけるパラロガスな変異(G370CおよびY373C)もまた、重篤な軟骨過形成症であるI型致死性骨異形成症に関連する(Rousseau et al., 1996)。A315S変異に類似するA315T変異は、FGF10と非正統的に結合する能力をFGFR2cに与えるようである(Ibrahimi et al., 2004)。
【0117】
著者らは、膜貫通ドメイン内の2つの変異;C383R(C382C)およびM392R(M391E)を同定した。著者らの同定したC383R変異は、軟骨異形成症の患者の95%以上に及ぶ、FGFR3におけるパラロガスな位置での非保存的ミスセンス変異(G380R)(Shiang de al., 1994)に類似する。FGFR3 G380R変異は、受容体の半減期を増加し、リガンドに誘発される内部移行への抵抗性を受容体に与えることが報告されている(Monsonego-Ornan et al., 2000)。より最近の研究は、野生型の受容体はリガンドの刺激に続いてリソソームの分解を行うのに対して、変異G380Rの変異受容体は、リソソームから細胞膜に戻って再利用され、したがってFGFシグナル伝達を増加させることを示した(Cho et al., 2004)。新規M392R変異は、黒色表皮腫を伴うクルーゾン症候群に関連する、よく研究されているFGFR3 A391E変異の近位の2残基である。A391E変異の生物物理学的分析は、FGFR3膜貫通ドメインの二量体化自由エネルギーの変化が、二量体の安定化に一致することを示した(Li et al., 2006)。FGFR2cにおけるC382R変異は、構成的な受容体のリン酸化およびNIH3T3細胞の形質転換をもたらすことが以前に示されている(Li et al., 1997)が、これらの膜貫通FGFR2b変異による受容体の活性の正確なメカニズムの解明は、依然として追及されている。
【0118】
細胞外ドメインおよび膜貫通ドメインの変異に加えて、FGFR2キナーゼドメインにおける4つの異なる変異が同定された。これらの2つ、すなわちN550K(N549K)およびK660E(K659E)は、いかなる頭蓋骨癒合症症候群においても生殖系列の変異として同定されていないが、FGFR2cにおける類似のN549H変異はクルーゾン症候群に関連付けられ(Kan et al., 2002)、そしてパラロガスな位置での同じ変異が、軟骨低形成症(N540K)および致死性骨異形成症II(K650E)に関連して、FGFR3において認められた(Naski et al., 1996)。N549HおよびK650Nの変異のFGFR2cキナーゼの結晶構造は、これらの変異が、キナーゼのヒンジ領域での新規の自己抑制的な分子のブレーキを緩めることにより、キナーゼを活性化させることを示す(M. Mohammadi, 未発表の結果)。
【0119】
新規IVS10+2A>Cのスプライシング変異の病理学的結果は判明していないが、しかしこの変異が受容体の増加したシグナル伝達を結果的にもたらすと推測したいところである。エクソン10の下流の2つのアミノ酸、バリンおよびスレオニン(VT)が含まれるか除外されるかを導く、FGFR1−3の細胞内膜近傍領域の選択的スプライシングがある。IVS10+2A>C変異は、GAAGTの基準外のスプライシング供与部位を結果的にもたらし、そして基準外のGC−AG供与体/受容体ペアが、GA−AG供与体/受容体ペアに比して、ゲノムにおいて15−30倍のより高い頻度で観察される(Burest et al., 2000; Chong et al., 2004)ことを考慮すれば、IVS10+2A>C変異は、+VTアイソフォームの相対的比率の増加を結果的にもたらすものと思われる。FGFR群をMAPKおよびPI3K経路に連結するFRS2アダプターシグナル伝達タンパク質は、選択的スプライシングVTを含むマウスFGFR1の膜近傍ドメインの配列に結合する(Burgar et al., 2002)。このように、IVS10+2A>C変異は、+VT転写物のレベルを増加させる、より効率的なスプライシング供与部位をもたらす可能性があり、このことが今度はFRS2aを介した増加したシグナル伝達を結果的にもたらすことになるのであろう。
【0120】
1例の子宮内膜腫瘍は、2287−88CTの新規の2bpの欠失を保有することが示された。この欠失はエクソン18の最後のコドンであるコドン766での未成熟な切断による、LTINEからLTHNQStopへのフレームシフトおよび変化を導く。この2bpの欠失は、FGFR2の同様に切断されたC3転写物と同様の様式で構成的に活性化される、切断されたFGFR2受容体を結果的にもたらすか、あるいは単純にバイスタンダー変異を表すものと思われる。
【0121】
2つの子宮内膜サンプルは2つの変異を保有することが示された。すなわちAN3 CA MSI陽性細胞株は、N550K(N549K)およびK310Kを保有し、MSI陰性腫瘍1492は、S252WおよびY376C(Y375C)を保有する。同一腫瘍における2つのおそらく優位な活性化変異の発見は、予想外であった。各例において、リガンド依存的なS252Wまたは特徴づけられていないK310Rのいずれかと共に、構成的なリガンド非依存的な受容体活性化を結果的にもたらすことが知られている変異が存在することに注目することは興味深く、子宮内膜上皮における増加したFGFR2活性化に関して、付加的な選択圧力が存在すると思われることを示唆する。
【0122】
〔実施例2〕
FGFR2の阻害による子宮内膜癌の治療
材料および方法
「配列解析」
変異の分析は以前に記載されている(8)ように行った。PCRプライマー配列は、M13 tailedとし、2方向で配列決定を行った。プライマー配列は、要望に応じて著者より入手可能である。
【0123】
「細胞培養および試薬」
ヒト子宮内膜MFE296細胞株は、European Collection of Cell Cultures (Salisbury, Wiltshire, UK)より購入した。ヒト子宮内膜細胞株、AN3CA、HECIA、Ishikawa、RL952、およびKLEは、Dr. Paul Goodfellow (Washington University, St. Louis, MO)の提供を受けた。MFE296細胞は、10% ウシ胎児血清(FBS)、2mM L−グルタミン、およびペニシリン−ストレプトマイシンを補充したMEM中で成長させた。AN3CA細胞は、10% FBS、非必須アミノ酸、2mM L−グルタミン、およびペニシリン−ストレプトマイシンを補充したDMEM中で培養した。HECIA細胞は、10% FBS、およびペニシリン−ストレプトマイシンを補充した、50% DMEM および50% RPMI 1640中で培養した。Ishikawa細胞およびRL952細胞は、10% FBS、非必須アミノ酸、およびペニシリン−ストレプトマイシンを補充したDMEM中で成長させた。KLE細胞は、10% FBS、およびペニシリン−ストレプトマイシンを補充した、50% DMEM および50% F−12培地中で成長させた。すべての培地、FBS、および補充物質は、Invitrogen (Carlsbad, CA)より購入した。すべての細胞は、5%COを含有する加湿雰囲気下で37℃で成長させた。PD173074はSigma-Aldrich (St. Louis, MO)より購入し、DMSO中で1mMのストック濃度に再構成し、−20℃で保存した。KH1−LVレンチウイルスベクタープラスミドは、Dr. Maria S. Soengas (University of Michigan, Ann Arbor, MI)のご好意により提供を受け、そしてpNHP、pVSV−G、およびpTATレンチウイルスパッキングプラスミドは、Dr. Matthew Houentelman (Translatioal Genomics Research Institute, Phoenix, AZ) のご好意により提供を受けた。
【0124】
「shRNAデザイン」
FGFR2の2つの異なるエクソン(エクソン2およびエクソン15)を標的とする、2つの独立したshRNAを、以下の配列に対してデザインした。エクソン2を標的とするshRNA:TTAGTTGAGGATACCACATTA(配列番号4;ヌクレオチド79−99、NM_022970);エクソン15を標的とするshRNA:ATGTATTCATCGAGATTTA(配列番号5;ヌクレオチド1866−1884、NM_022970)。非サイレンシングshRNAコンストラクトもまた、Qiagenからの非サイレンシングsiRNA配列(配列番号6;AATTCTCCGAACGTGTCACGT)に基づいてデザインし、ネガティブコントロールとして使用した。対応するオリゴヌクレオチドをアニールさせ、KH1−LVレンチウイルスベクター内にクローン化した。KH1−LV自己不活性型(self-inactivating)レンチウイルスベクターは、H1プロモーターのコントロール下では短いヘアピン配列の発現を、そしてヒトユビキチン−Cプロモーターのコントロール下ではGFP発現を可能にし、形質導入効率を容易にモニタリングすることができる。クローン化戦略は、要望に応じて著者より入手可能である。
【0125】
「レンチウイルスの作成」
75cmの培養フラスコを50mg/mlのポリ−D−リジン(Sigma-Aldrich、 St. Louis, MO)でコーティングし、HEK293FT細胞(Invitrogen, Carlsbad, CA)を1フラスコ当たり8×10細胞の密度で播いた。翌日細胞を、SuperFectトランスフェクション試薬(Quiagen, Valencia, CA)を使用して、7.1μg pNHP、2.8μg pVSV−G、0.5μg pTAT、および3.5μg KH1−LVで、SuperFect(μl)対DNA(μg)比4:1で、製造元のプロトコルに従ってトランスフェクションした。ウイルスを含有する培地を24時間後および40時間後に集め、両者を合わせ、0.45mm低分子タンパク質結合Duraporeフィルター(Millipore Corporation, Billerica, MA)を通して濾過し、細胞の残骸を除去し、そしてウイルス調製物を分注し、使用まで−80℃で保存した。
【0126】
「レンチウイルスの形質導入」
細胞は、6ウェルプレートで1ウェル当たり4×10細胞の密度で播いた。翌日細胞は、6μg/ml ポリブレン(Sigma-Aldrich、 St. Louis, MO)存在下、レンチウイルスストックで感染させた。空ベクターおよび非サイレンシングshRNA感染を、各実験のコントロールとして使用した。eGFP可視化により決定した(データは示していない)ところ、各shRNA実験において90%より高い形質導入効率を達成した。
【0127】
「成長阻害アッセイ」
感染後24時間で細胞をトリプシン処理し、完全成長培地中で96ウェルプレートに1ウェル当たり5,000細胞の密度でトリプルで播き、スルホローダミンB(SRB)アッセイ(Sigma-Aldrich、 St. Louis, MO)を使用して増殖を評価した。指定した時間ポイントにウェルを10%(wt/vol)トリクロロ酢酸で固定し、SRBで30分間染色し、1%(vol/vol)酢酸で洗浄した。タンパク質と結合した色素を10mM Trisベースの溶液に溶解させ、510nmで吸光度を測定した。PD173074薬の研究用として、細胞を完全成長培地中で96ウェルプレートに1ウェル当たり5,000細胞の密度で播いた。翌日、段階的に増加する濃度のPD173074を加え、72時間後にSRBを使用して増殖を評価した。
【0128】
「アポトーシス細胞のアネキシンV−FITTC標識」
アネキシンV−FITTC染色を使用して、製造元の指示書に従ってアポトーシスを起こした細胞上のホスファチジルセリンの暴露を測定した(BioVision, Inc. Mountain View, CA)。shRNAは、FITCと重複する発光スペクトルを有するGFPもまた発現するため、ノックダウンはshRNAコンストラクトよりむしろsiRNAコンストラクトを用いて達成した。6ウェルプレートで、1ウェル当たり2.5×10細胞を播いた。24時間後に細胞を、25nM 非サイレンシング(NS)siRNA、またはFGFR2 siRNA X2で、リポフェクタミン2000トランスフェクション試薬を使用してトランスフェクションした。siRNA二本鎖は、室温で20分間放置してリポフェクタミン2000との複合体を形成させ、トランスフェクションを37℃で24時間行った。トランスフェクション後48時間で、浮遊しているおよび付着した細胞を集め、冷却PBSで洗浄し、アネキシン結合バッファー(10mM Hepes(pH7.4)、140mM NaCl、2.5mM CaCl)中に再懸濁し、500ng/mL アネキシンV−FITC、および1μg/mL ヨウ化プロピジウム(Sigma-Aldrich、 St. Louis, MO)で染色し、CyAn ADPフローサイトメーター、およびSummitソフトウェア、バージョン4.3(Dako Cytomation, Carpinteria, CA)を使用して、アネキシン陽性の細胞について分析した。PD173074の研究用に、細胞を6ウェルプレートで、1ウェル当たり1×10細胞の密度で播いた。24時間後、細胞を1μM PD173074またはDMSO(ビヒクルコントロール)で処理し、指定した時間ポイントにアネキシンV−FITTCで染色し、フローサイトメトリーにより分析した。
【0129】
「細胞周期の分析」
細胞は、6ウェルプレートで1ウェル当たり1×10細胞の密度で播いた。翌日、細胞は1μM PD173074またはDMSO(ビヒクルコントロール)で処理した。72時間後細胞を、記載されている{Krishan, 1975 #28}ようにヨウ化プロピジウムで染色し、フローサイトメトリーにより分析した。細胞周期の分析は、ModFit ソフトウェア(Verity Software House, Inc. Topsham, ME)を使用して行った。
【0130】
「ウェスタンブロット解析」
細胞は60mmのディッシュに、1ディッシュ当たり2×10細胞の密度で播いた。翌日細胞を、0.2% FBS中で18時間一晩飢餓状態にするか、または完全成長培地中に維持した後、段階的に増加する濃度のPD173074と共に3時間インキュベーションした。細胞は氷冷PBS中で洗浄し、キナーゼバッファー[20mM Hepes pH7.4、2mM EGTA、1% Triton X100、10% グリセロール、1mM NaVO、1mM NaF、100μM AEBSF、および1錠/10mLのMini Complete Protease Inhibitor(Roche Molecular Biochemicals, Indianapolis, IN)]中ですすぎ、ウシガンマグロブリンスタンダード(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA)を用いてQuick Start Bradford Reagentを使用して、タンパク質濃度を推定した。等量のタンパク質を,4−12%濃度勾配ゲル上のSDS−PAGEにより分離し、ポリビニリデンジフロリドメンブレン(Invitrogen, Carlsbad, CA)に転写した。メンブレンは、リン酸化されたおよび総合のAKT、ERK1/2、p38、STAT−3およびSTAT−5、PLCγ、ならびに総RTENに対する抗体を用いてイムノブロットした(Cell Signaling Technology, Beverly, MA)。FGFR2の発現は、BekC17抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA)を用いて検出した。ホースラディッシュペルオキシダーゼと複合体化したヤギ抗マウスまたは抗ウサギ二次抗体(Biomeda, Foster City, CA)を使用し、続いて化学発光染色を行った。shRNAの研究用に、shRNA形質導入後48時間に溶菌液を集め、上に記載したように処理した。
【0131】
「統計分析」
統計分析は、MacintoshのGraphPad Prism バージョン4.0(GraphPad Software, San Diego, CA)を使用して行った。IC50値は、勾配の変動を伴うシグモイド型用量応答の非線形回帰を使用する用量−応答分析により算出した。アポトーシスデータは、一元配置分散分析(one-way ANOVA)により分析した。治療群間の有意差は、Student検定を使用して決定した。すべてのP値は、P<0.05である場合に有意とみなした。データは平均±SEとして表した。
【0132】
結果
「原発性子宮内膜癌におけるFGFR2、PTEN、およびKRAS2の変異のパターン:同時に起こるFGFR2およびPTENの変異、ならびに相互排他的なFGFR2およびKRAS2の変異。」
類内膜性子宮内膜癌において、PTENおよびKRAS2の変異が一般的であることを考慮して、PTENにおける機能喪失型の変異、および/またはKRASにおける機能獲得型の変異を持つ腫瘍において、FGFR2活性化が起こっているかどうかを決定することを、最初に模索した。FGFR2変異の状態が分かっている116例の子宮内膜腫瘍において、PTENの9つすべてのエクソン、およびKRASのエクソン1の配列決定を行った。類内膜性子宮内膜癌においてはエクソン1の変異がKRAS変異の96%より多くを占めることから、入手可能なDNAの量が限定されるため、KRASのエクソン1の配列決定のみを行った(The Catalog of Somatic Mutation in Cancer, http://www.sanger.ac.uk/genetics/CGP/cosmic)。変異の分析は、腫瘍の70%(82/116)にPTEN変異を明らかにした。FGFR2変異を有するこれら腫瘍のうち、77%(14/18)はPTEN変異もまた保有しており、類内膜性子宮内膜腫瘍において、FGFR2の変異はしばしばPTEN変異と並行して起こることを示した。KRAS変異は腫瘍の12%(15/116)に同定された。GFR2およびKRASにおける活性化変異は、相互排他的であった。注目すべきことに、1例の腫瘍は、FGFR2におけるフレームシフト変異(2290−91 delCT)を保有し、かつKRAS変異を含有していた。しかし、このFGFR2変異の病理学的本質が不明であるため、著者らはFGFR2における活性化変異は、KRASにおける活性化変異とは相互排他的であると結論した。PTEN不活性化変異は、KRAS変異およびFGFR2変異の双方と並行して起こっていた(表3)。
【0133】
【表3】

【0134】
「FGFR2のshRNAによるノックダウンは、PTENの不活性化にもかかわらず、子宮内膜癌細胞の細胞死を誘発する」
子宮内膜癌においてPTEN不活性化という状況でFGFR2活性化変異が起こること、そして細胞の生存を促進するP13K/AKT経路の公知の役割を考慮して、次にFGFR2の阻害が、PTEN不活性化の存在下で細胞死を誘発できるかどうかを決定することを模索した。細胞増殖におけるFGFR2発現のshRNAによるノックダウンの効果は、双方ともFGFR2活性化変異を保有する、AN3CAおよびMFE296の子宮内膜癌細胞において評価した。加えてAN3CAは、PTENの対立遺伝子双方に変異を有しており、PTENを発現しない(図1E)。加えてAN3CAは、PTENの双方の対立遺伝子に変異を有し、PTENを発現しない。他方MFE296は、PTENおよびPIK3CAに関して野生型である(The Catalog of Somatic Mutation in Cancer、http://www.sanger.ac.uk/genetics/CGP/cosmic)。AN3CA細胞およびMFE296細胞に、FGFR2を標的とする2つの独立したshRNAをレンチウイルスにより形質導入した。細胞の増殖および生存率は、複数の時間ポイントで測定した。FGFR2のノックダウンは、AN3CA細胞およびMFE296細胞の双方における細胞増殖を阻害し(図1A、B)、PTEN不活性化の存在下でさえも活性化されたFGFR2を標的とする有効性を示した。shRNAの形質導入後48時間のウェスタンブロットにより、FGFR2発現のノックダウンを確認し、ERK1/2およびAKTのリン酸化を調べた。図1cに示したように、FGFR2 shRNAコンストラクトは双方とも、FGFR2タンパク質の90%より高いノックダウンを結果的にもたらした。リン酸化ERK1/2のレベルの低下は、FGFR2のノックダウンに続いてAN3CAにおいて認められた。この効果は、細胞を0.2% FBSで中成長させた時にはより顕著であった。しかしセリン473でのAKTリン酸化の変化は観察されておらず(図1C)、この細胞株のPTEN変異の状態と一致する。
【0135】
FGFR2ノックダウンに続いて観察された細胞死が、アポトーシスの誘発によるものであることを確認するため、AN3CA細胞に、FGFR2を標的とするsiRNAをトランスフェクションし、アネキシンV−FITCで標識して、暴露されたホスファチジルセリンをフローサイトメトリーにより検出した。アネキシンV−FITC陽性の染色の増加は、非サイレンシングsiRNAコントロールと比較して、FGFR2 siRNAのトランスフェクション後48時間には明らかであり、これらの細胞がアポトーシスを起こしていることを示した(図1D)。FGFR2のノックダウンに続いて観察された細胞生存能の劇的な阻害は、これらの細胞が癌遺伝子依存性を示すと思われることを示唆する。それ故、活性化されたFGFR2は子宮内膜癌において潜在的治療標的である。
【0136】

「活性化されたFGFR2を発現する子宮内膜癌細胞は、汎用的FGFR阻害剤であるPD173074に対して感受性がある」
6つの子宮内膜癌細胞株(2つの変異株N550K FGFR2、および4つの野生型FGFR2)を、汎用的FGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるPD173074の、段階的に増加する濃度で処置した。この阻害剤は、FGFR群(FGFR1、IC50=〜25nM)およびVEGF群(VEGF2、IC50=〜100nM)に対する高い選択性を示し、FGFR3の活性化t(4;14)転位置および活性化変異を有する骨髄腫細胞において、アポトーシスを導入することが示されている(10)。図2Aに示したように、変異FGFR2を有する2つの子宮内膜癌細胞株は、野生型FGFR2を有する細胞株に比して、PD173074による阻害に対して10−40倍高い感受性があった。PTENの双方の対立遺伝子における機能喪失型変異を有するAN3CA株は、最も感受性の高い細胞株であった。アネキシンV−FITC標識は、〜70%のAN3CA細胞が、薬剤の処置後96時間でアポトーシスを起こしていることを示した(図3A)。加えて細胞周期の分析は、PD173074処置がAN3CA細胞のG1期での停止を誘発することを明らかにした(図3B)。図2Cに示したように、構成的に活性なFGFR2キナーゼドメイン変異N550Kは、外来のFGF2リガンドの不在下(−FGF2)および存在下(+FGF2)の双方において、野生型受容体(WT)により誘発されるレベルを上回る、増殖の増加を結果的にもたらす。これらのデータは、N550K変異が構成的に活性である一方で、N550K変異はまた完全な活性のためにはリガンドを必要とすることを示唆する。マウスインターロイキン依存性プロB BaF3細胞株は、受容体型チロシンキナーゼ機能の評価のためのモデルシステムとして、ルーチンに使用されている。BaF3細胞の増殖および生存は正常にはIL−3に依存するが、活性化された受容体型チロシンキナーゼのシグナル伝達が、細胞の生存能および増殖を維持するIL−3に置き換わることができる。増殖アッセイは、IL−3不在下、そして1nM FGF2および10μg/ml ヘパリンの存在下で行い、5日後、ViaLight Plus Cell Proliferation/Cytotoxicity キット(Lonza rockland Inc)を製造元の指示書に従って使用して、増殖をアッセイした。
【0137】

「汎用的FGFR阻害に続く細胞死は、ERKの阻害、AKTの部分的阻害に関連するが、STAT3の阻害またはp38の活性化には関連しない」
p38の遅延された活性化とカップルしたERK1/2、AKT、およびSTAT3/5のリン酸化の阻害は、癌遺伝子依存性を示す細胞における細胞死の誘発に関連する一般的な特色であることが、報告されている(17)。PD173074処置がこれらの経路、すなわちERK1/2、AKT、STAT3/5、およびp38の類似の阻害を結果的にもたらすかどうかを決定するため、リン酸化レベルを、3つの細胞株(PD173074に対して感受性の2つ、および抵抗性の1つ)においてウェスタンブロットにより評価した。STAT5発現は、これら3つの細胞株におけるウェスタンブロットでは検出できなかった(データは示していない)。図4に示したように、3時間のPD173074による処置は、AN3CA細胞およびMFE296細胞におけるERK1/2のリン酸化の、濃度依存的な減少をもたらした。野生型FGFR2を発現し、そしてPD173074抵抗性であるHECIA細胞は、ERK1/2リン酸化の減少を示さなかった。このことは、KRAS2 G12D変異による、この細胞株のMAPK経路の下流の活性化と一致する(The Catalog of Somatic Mutation in Cancer、http://www.sanger.ac.uk/genetics/CGP/cosmic)。
【0138】
PD173074処置はまた、AN3CA細胞およびMFE296細胞において、スレオニン308およびセリン473でのAKTのリン酸化の中程度の低減をもたらす。HECIA細胞では、AKTの活性化の低下は明らかではなかった。特に、PD173074処置は検査したいずれの細胞株においても、STAT3またはp38のリン酸化には奏功しなかった(図4)。FGFR群はこの経路を通してのシグナル伝達することが示されている(18)ため、著者らはまたPLCγの活性化についても調べた;PLCγ活性化における変化は、PD173074処置後には観察されなかった(データは示していない)。
【0139】
PD173074処置後3時間では、STAT3またはp38の活性化における変化は明らかではなかったが、癌遺伝子依存性のこれまでのモデルは、p38の活性化は遅延され、癌遺伝子阻害後8−24時間にピークに達することを示している{Sharma, 2006 #17}。それ故著者らは、PD173074処置後0から72時間の範囲の様々な時間ポイントで、ERK1/2、AKT、STAT3/5、およびp38の活性化を評価した。図4に提示したデータと一致して、PD173074処理は、MFE296細胞およびAN3CA細胞においてERK1/2活性化の急速な低下をもたらしたが、HECIA細胞では認められなかった(図5A)。リン酸化されたERK1/2は、PD173074処置後24−48時間で戻り始めたが、72時間までにベースラインの活性化には達しなかった。リン酸化されたAKTの低減もまた、MFE296細胞およびAN3CA細胞において検出されたが、セリン473位よりスレオニン308位の方がより顕著であった(図5A)。AKT活性化の減少は、MAPKのリン酸化の急速な阻害と比較して遅れ、PD173074処置後8時間および24時間にAKTリン酸化の最大の減少が検出された。
【0140】
特に、STAT3/5またはp38の活性化の変化は、AN3CA細胞およびMFE296細胞においては、時間コースを通して検出されなかった(図5A)。細胞を0.2%FBS培地中で成長させた場合、PD173074による処置は、完全成長培地で観察されたのと同様に、AN3CAおよびMFE296双方においてMAPK活性化の低下をもたらした(図5B)。興味深いことに0.2%FBS培地中でのPD173074処置は、AN3CA細胞およびMFE296細胞において、スレオニン308でのリン酸化AKTの中程度の低減、およびセリン473のわずかな低減を結果的にもたらした。0.2%FBS中のAN3CA細胞株におけるAKTの構成的活性化は、PTENの双方の対立遺伝子の不活性化による可能性が高い;構成的AKT活性化のメカニズムは、MFE296細胞においては、この細胞が野生型PTENおよびPIK3CAを発現するため分かっていない。
【0141】
考察
腫瘍の進行の分子的基盤を理解することで、多様な癌のタイプにおける標的療法の開発および成功を導いてきた{Pickering, 2008 #27}。様々なシグナル伝達経路に関与する遺伝子内の活性化変異が、結果的にこれら経路に対する腫瘍細胞の“依存性”をもたらし得る、という証拠がますます挙げられてきている{Sharma, 2007 #31}。さらにこれら活性化変異は、潜在的な治療標的を同定するために貢献するだけでなく、それらの存在はまた経路の阻害に対する臨床応答を予測することが可能になる{Lynch, 2004 #30}。しかし、標的の阻害に対する応答は、これらの変異が起こる分子の状況により影響されることが、ますます明らかになってきている。以前に著者らが、類内膜性子宮内膜腫瘍の〜16%にFGFR2の活性化変異を同定したように、本明細書においても、FGFR2変異が子宮内膜癌内で起こる遺伝子の状況を調べることを模索した。著者らはまた、FGFR2に活性化変異を保有する子宮内膜癌細胞においてFGFR2を阻害することの生物学的結果を調べることにより、活性化されたFGFR2を標的とする治療の可能性を評価することを模索した。
【0142】
本研究において著者らは、公知のFGFR2変異状態を有する、類内膜性子宮内膜腫瘍のKRAS変異およびPTEN変異の状態を評価した。KRASおよびFGFR2の活性化変異は同一腫瘍内で一緒に起こってはおらず、FGFR2がMAPK経路を通して腫瘍形成を行うことと一致する。FGFR2活性化はPTEN不活性化と並行して起こっており、少なくとも子宮内膜細胞においてFGFR2は、その生物学的効果をPI3K/AKTを通しては仲介しないことを示唆する。このことは、子宮内膜細胞のFGF7またはFGF10の刺激が結果的にERK1/2の活性化をもたらすが、AKTは活性化しない、という以前のある報告(19)により支持される。PTENおよびKRASの変異は、同一腫瘍内で起こっており、以前の報告(20)と一致する。
【0143】
著者らはまた、FGFR2シグナル伝達がAN3CAおよびMFE296の子宮内膜癌細胞株の生存および増殖に必須であることを示したが、このことは癌遺伝子依存性をおおいに示唆するものである。この結果は、活性化されたFGFR2を有する2つの細胞株が、汎用的FGFR阻害剤であるPD173074に対して選択的感受性があることを著者らが示した、PD173074 IC50の研究により支持される。AN3CA細胞がPD173074に対して最も感受性が高く、かつPTENの変異株であることは注目に値する。このことは、類内膜性子宮内膜癌におけるPTEN変異の高い発生率を考慮すると、特に重要である。PTEN不活性化は、細胞の“癌遺伝子依存性”を活性化された受容体の経路から構成的に活性化されたPI3K−AKTシグナル伝達へと移し、そうして受容体の阻害に対する抵抗性を導くと思われることが示唆された(21)。事実、低減されたまたは不在のPTENを有するErbB2を過剰発現する乳腫瘍は、トラスツツマブを含有する化学療法の投与計画に対して、相対的に抵抗性である(22,23)。注目すべきことに、PTENの喪失にもかかわらず、汎用的阻害剤によるFGFR2の阻害は、AN3CA細胞における細胞死および細胞周期の停止を誘発した。このようにAN3CA細胞はなお、FGFR2の癌遺伝子シグナルに依存性である。興味深いことにPD173074処置は細胞周期の停止を誘発したが、MFE296細胞においては高められたアネキシンV染色という結果を得られなかった(データは示していない)。細胞周期の停止だけが、MFE296細胞におけるPD173074の有効性の原因であるのかどうか、または未知のメカニズムを通してのアネキシンV陰性の細胞死の誘発がまた関与するのかどうか、依然として決定されていない。
【0144】
癌遺伝子の不活性化が、リン酸化されたERK、AKT、およびSTAT3/5の急速な喪失、および遅延されたp38の活性化に関連することから、Src、BCR−ABL、およびEGFRの活性化に起因する癌遺伝子依存性は、共通のシグナル伝達カスケードを共有することが示唆された(17)。著者らは本明細書において、完全成長培地中のFGFR2の阻害は、リン酸化されたERKの喪失、およびAKTの部分的阻害に関連するが、STAT3またはp38のリン酸化状態には奏功しないことを報告する。それ故、AN3CA細胞およびMFE296細胞における、活性化されたFGFR2への依存性の根底にあるメカニズムは、癌遺伝子依存性のその他のモデルとは別個のものである。
【0145】
PD173074を用いての汎用的FGFR阻害により誘発される細胞死は、10%FBS、および0.2%FBSを補充した双方の培地において、ERK1/2活性化の完全な阻害に相関していた。AN3CA細胞における変異PTENの状態を考慮すると、予想外なことに、PD173074処置は、10%FBS含有培地においてAKTリン酸化の部分的喪失をもたらした。それ故FGFR2は、PTENの下流のAKTリン酸化を仲介する可能性がある。事実マウスのケラチノサイトにおいて、インスリン様成長因子Iは、プロテインキナーゼCを介したプロテインホスファターゼの制御に関与するPI3Kの独立したメカニズムを通して、AKTリン酸化を変化させることが示されている(24)。AN3CA細胞およびMFE296細胞のPD173074処置に続いて観察された減少したAKTリン酸化の原因となるメカニズムは、依然として決定されていない。しかしAN3CA細胞で観察されたPD173074に誘発された細胞死は、AKTのこの脱リン酸化とは独立している可能性が高い。0.2%FBSで行った濃度応答曲線は、10%FBSで得られたものと、AN3CAに関して類似のIC50を得た(データは示していない)。0.2%FBS中で成長させたAN3CA細胞は、AKTの著明な脱リン酸化は示さなかったことから、これらのデータを合わせると、この細胞株においてAKTの脱リン酸化は、PD173074誘発による細胞死に必要ではないことを示唆する。
【0146】
まとめると著者らは、原発性類内膜性子宮内膜癌において、FGFR2変異はPTEN不活性化と同時に発生するが、KRAS2変異とは相互排他的であることを示した。
shRNAのノックダウンによるFGFR2シグナル伝達の遮断、または汎用的FGFR阻害剤であるPD173074による治療は、活性化されたFGFR2を発現する子宮内膜癌細胞株の細胞周期の停止および細胞死を結果的にもたらした。しかし、FGFR2の阻害の後に変化した細胞の経路は、癌遺伝子依存性が示された他の癌遺伝子の阻害の後に観察されたものとは別個のものであった。子宮内膜癌におけるFGFR2活性化に関連する癌遺伝子依存性の新たな経路が、おそらく出現するだろう。これらのデータを合わせると、構成的に活性な変異FGFR2の阻害は、この癌のタイプにおける高頻度のPTENの不活性化にもかかわらず、子宮内膜癌患者にとって治療上有益であることを示す。
【0147】
本発明は、本明細書に記載した特定の態様により範囲が限定されるものではない。本明細書に記載したものに加えて、本発明の様々な修飾が、前述の記載および添付の図面から当業者に明らかとなるだろう。その様な修飾は、請求項の範囲内に含まれることを意図する。すべての数値は概算であり、説明の目的としてのみ提供することもまた、理解されるものとする。
【0148】
本出願を通して引用した、すべての特許、特許出願、公開広報、製品の説明、およびプロトコルを、その全内容においてすべての目的に関し本明細書にて参照として援用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者における子宮内膜癌または前癌を検出する方法であって、子宮内膜細胞を含有する生体サンプルにおける線維芽細胞増殖因子受容体2(FGFR2)の受容体の変異を検出することを包含し、その場合変異はFGFR2受容体の活性化に関連し、子宮内膜細胞におけるFGFR2の前記変異の存在が、被験者の子宮内膜癌または前癌の診断指標である、前記方法。
【請求項2】
前記検出が、ゲノムDNA、RNA、およびcDNAから成る群より選択される、少なくとも1つの核酸における少なくとも1つのヌクレオチドFGFR2の変異に関するスクリーニングを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記FGFR2受容体活性化変異の検出が、以下から成る群:免疫グロブリン様(Ig)ドメインIIおよびIII間の接合部における変異;IgIIIドメインにおける変異;IgIIIドメインおよび膜貫通(TM)ドメイン間の接合部における変異;TMドメインにおける変異;TMドメインおよびチロシンキナーゼドメインI間の接合部における変異;チロシンキナーゼドメインIにおける変異、またはチロシンキナーゼドメインIIにおける変異、より選択される、FGFR2における少なくとも1つの変異である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
変異が、FGFR2における少なくとも1つのアミノ酸の置換を結果的にもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
FGFR2におけるアミノ酸の置換が、以下から成る群:(a)配列番号2(NP_075259.2)もしくは配列番号3(NP_000132.1)の252位のSからWへの変異;(b)配列番号2もしくは3の310位のKからRへの変異;(c)配列番号2もしくは3の315位のAからTへの変異;(d)配列番号2の373位もしくは配列番号3の372位のSからCへの変異;(e)配列番号2の376位もしくは配列番号3の375位のYからCへの変異;(f)配列番号2の383位もしくは配列番号3の382位のCからRへの変異;(g)配列番号2の392位もしくは配列番号3の391位のMからRへの変異;(h)配列番号2の548位もしくは配列番号3の547位のIからVへの変異;(i)配列番号2の550位もしくは配列番号3の549位のNからKへの変異;または(j)配列番号2の660位もしくは配列番号3の659位のKからEへの変異、より選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
変異が、配列番号2および3の252位のSからWへの変異である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも2つのFGFR2受容体活性化変異が検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
変異が、高められたリガンドの結合、乱交雑のリガンドのアフィニティー、構成的な受容体の二量体化、障害された再利用、遅延された分解、またはキナーゼの活性化を結果的にもたらし、それによりFGFR2受容体を活性化する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
変異が、以下から成る群:配列番号1の2290−91位のヌクレオチドCおよびTの欠失;またはIVS10+2A>Cのスプライシング変異、より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
PTEN不活性化変異もまた検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
癌が、類内膜性の組織学的サブタイプである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
被験者がヒトであり、FGFR2が構成的に活性な変異である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
この状態を患っている被験者における子宮内膜癌または前癌を治療する方法であって、FGFR2の活性化を特徴とする子宮内膜癌または前癌を有する被験者に、医薬的に受容可能な担体と共に有効量のFGFR2阻害剤を投与することを包含し、その場合FGFR2阻害剤がFGFR2の発現または活性を阻害し、それにより被験者の子宮内膜癌の成長または増殖を効果的に阻害する、前記方法。
【請求項14】
FGFR2阻害剤が、FGFR2遺伝子の発現またはFGFR2発現産生物を阻害する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
FGFR2阻害剤がPD173074である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
FGFR2阻害剤が、阻害的短鎖RNA(siRNA)、ヘアピン型短鎖RNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、またはリボザイムである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
阻害剤がshRNAである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
shRNAが、FGFR2のエクソン2(配列番号4)、および/またはFGFR2のエクソン15(配列番号5)を標的とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
阻害剤が、FGFR2に対して作成された抗体を包含する、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
抗体が、FGFR2の免疫グロブリン様(Ig)ドメインIIおよびIIIのリンカー領域;FGFR2のIgIIIドメイン;FGFR2のIgIIIドメインおよび膜貫通(TM)ドメイン間の接合部;FGFR2のTMドメイン中の変異;FGFR2のTMドメインおよびチロシンキナーゼドメインI間の接合部;FGFR2のチロシンキナーゼドメインI、またはFGFR2のチロシンキナーゼドメインII、に対して作成される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
抗体が、配列番号2または3の252位のSからWへの変異に対して作成される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
抗体がヒト化抗体である、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
阻害剤が、子宮内膜癌細胞の細胞周期の停止またはアポトーシスを誘発する、請求項13に記載の方法。
【請求項24】
FGFR2が構成的に活性な変異である、請求項13に記載の方法。
【請求項25】
FGFR2阻害剤を、子宮内膜癌に関する外科的処置後に、術後の被験者の子宮内膜癌の再発を阻害するために被験者に投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項26】
子宮内膜癌を分類する方法であって、以下:
子宮内膜癌細胞内のFGFR2変異に関してスクリーニングする、そして
子宮内膜癌細胞内のFGFR2活性化変異が発見されると、子宮内膜癌のタイプをFGFR2活性化に誘発される子宮内膜癌として分類する、
ことを包含する前記方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法であって、前記分類が子宮内膜癌を有する被験者のための治療を開発するために使用され、前記方法においてFGFR2変異がFGFR2活性化を誘発するかどうかを決定するステップをさらに包含する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
FGFR2における変異が、免疫グロブリン様(Ig)ドメインIIおよびIII間の接合部における変異;IgIIIドメインにおける変異;IgIIIドメインおよび膜貫通(TM)ドメイン間の接合物における変異;TMドメインにおける変異;TMドメインおよびチロシンキナーゼドメインI間の接合部における変異;チロシンキナーゼドメインIにおける変異、またはチロシンキナーゼドメインIIにおける変異である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
変異が、FGFR2における少なくとも1つのアミノ酸の置換を結果的にもたらす、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
FGFR2におけるアミノ酸の置換が、以下から成る群:(a)配列番号2(NP_075259.2)もしくは配列番号3(NP_000132.1)の252位のSからWへの変異;(b)配列番号2もしくは3の310位のKからRへの変異;(c)配列番号2もしくは3の315位のAからTへの変異;(d)配列番号2の373位もしくは配列番号3の372位のSからCへの変異;(e)配列番号2の376位もしくは配列番号3の375位のYからCへの変異;(f)配列番号2の383位もしくは配列番号3の382位のCからRへの変異;(g)配列番号2の392位もしくは配列番号3の391位のMからRへの変異;(h)配列番号2の548位もしくは配列番号3の547位のIからVへの変異;(i)配列番号2の550位もしくは配列番号3の549位のNからKへの変異;または(j)配列番号2の660位もしくは配列番号3の659位のKからEへの変異、より選択される請求項29に記載の方法。
【請求項31】
変異が、高められたリガンドの結合、乱交雑のリガンドのアフィニティー、構成的な受容体の二量体化、遅延された分解、障害された再利用、またはキナーゼの活性化を結果的にもたらし、それによりFGFR2受容体を活性化する、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
変異が、配列番号1の2290−91位のヌクレオチドCおよびTの欠失;またはIVS10+2A>Cのスプライシング変異である、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
癌が、類内膜性の組織的サブタイプである、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
被験者がヒトであり、FGFR2が構成的に活性な変異である、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
子宮内膜癌を診断または分類するためのキットであって、FGFR2遺伝子の変異部位に特異的にハイブリッド形成する、もしくは隣接するオリゴヌクレオチド、またはFGFR2タンパク質における変異を特異的に認識する抗体;および子宮内膜癌の診断で使用するための説明書を包含し、その場合変異が、子宮内膜細胞におけるFGFR2タンパク質の増加した活性もしくは発現を結果的にもたらす、前記キット。
【請求項36】
抗体が、配列番号2または3の252位のSからWへの変異を標的とする、請求項35に記載のキット。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−525301(P2010−525301A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−554794(P2009−554794)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【国際出願番号】PCT/US2008/058065
【国際公開番号】WO2008/118877
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(509263168)ザ・トランスレーショナル・ジェノミクス・リサーチ・インスティチュート (3)
【出願人】(501324867)ワシントン ユニバーシティー (3)
【Fターム(参考)】