説明

孔版印刷装置

【課題】600dpiよりも高解像度のサーマルヘッドを用いた印刷において、べた部での白抜けやまだらといった印刷不良が発生することを防止して良好な画像品質の印刷物を得ることが可能な孔版印刷装置を提供する。
【解決手段】サーマルヘッド20とプラテンローラ19とを有し、入力される画像信号に応じてサーマルヘッド20の発熱素子を選択的に発熱させることによりマスタ24の熱可塑性樹脂フィルムに各発熱素子毎に独立した穿孔を形成して画像信号に応じた穿孔パターンを溶融穿孔し、サーマルヘッド20としてその主走査方向における解像度が600dpiを超えるものが用いられる製版装置3を備えた孔版印刷装置1において、画像信号として主走査方向及び副走査方向にそれぞれ連続するものが入力された場合には、穿孔53として主走査方向の各穿孔がそれぞれ独立し副走査方向の2以上の穿孔が連続した楕円形状のものを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスタに対して熱溶融穿孔製版を行うサーマルヘッドを有する製版装置を具備した孔版印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性の支持円筒体に樹脂あるいは金属網体のメッシュスクリーンを複数層巻装した構成の回転自在な版胴と、熱可塑性樹脂フィルム(厚み1〜3μm程度のものが一般的である)に和紙繊維または合成繊維あるいは和紙繊維と合成繊維とを混抄したものからなる多孔性支持体を貼り合わせたラミネート構造のマスタとを用い、マスタの熱可塑性樹脂フィルム面をサーマルヘッドで加熱穿孔製版した後に版胴に巻装し、版胴内部に設けられたインキ供給手段より版胴の内周面にインキを供給して、プレスローラ等の押圧手段で用紙を版胴に押圧することにより、版胴開孔部、マスタ穿孔部より滲出したインキを用紙に転移させて印刷を行うデジタル式感熱孔版印刷がよく知られている。
【0003】
孔版印刷では上述したようにマスタをサーマルヘッドで穿孔製版しているが、通常の穿孔製版ではマスタに対して写真画像のような中間調を再現することが困難であるため、濃度を高める場合にはマスタを微小間隔で副走査方向に搬送すると共にサーマルヘッドの発熱素子を連続的に発熱させ、マスタに対して1つずつの穿孔が連続して繋がった団子形状の穿孔を形成することにより階調表現を行う技術が、例えば「特許文献1」に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−210911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した技術を含め、従来のサーマルヘッドによる穿孔製版では、最高解像度が600dpiまでであった。この解像度は、一般的なユーザには快く受け入れられる値であるが、印刷物を商品とするユーザには受け入れられない値であった。そこで、600dpiよりも高解像度の印刷物を得ることを目的とした孔版印刷装置として、1200dpiのサーマルヘッドを開発して検討を行っているが、この1200dpiのサーマルヘッドによる製版では、べた部において白抜けやまだらといった印刷不良が発生している。
本発明は上述の問題点を解決し、600dpiよりも高解像度のサーマルヘッドを用いた印刷において、べた部での白抜けやまだらといった印刷不良が発生することを防止して良好な画像品質の印刷物を得ることが可能な孔版印刷装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、主走査方向に配列された複数の発熱素子を有するサーマルヘッドと、マスタの熱可塑性樹脂フィルムを前記発熱素子に押圧させつつ副走査方向に搬送するプラテンローラとを有し、入力される画像信号に応じて前記発熱素子を選択的に発熱させることにより前記熱可塑性樹脂フィルムに前記各発熱素子毎に独立した穿孔を形成して前記画像信号に応じた穿孔パターンを溶融穿孔し、前記サーマルヘッドとしてその主走査方向における解像度が600dpiを超えるものが用いられる製版装置を備えた孔版印刷装置において、前記画像信号として主走査方向及び副走査方向にそれぞれ連続するものが入力された場合には、前記穿孔として主走査方向の各穿孔がそれぞれ独立し副走査方向の2以上の穿孔が連続した楕円形状のものを形成することを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の孔版印刷装置において、さらに前記発熱素子の副走査方向における長さが副走査方向における解像度ピッチの40〜95%に設定されていることを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の孔版印刷装置において、さらに前記発熱素子の主走査方向における長さが主走査方向における解像度ピッチの40〜80%に設定されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1ないし3の何れか1つに記載の孔版印刷装置において、さらにサーマルヘッドの温度または使用するインキの種類またはインキの温度またはマスタの種類に応じて前記サーマルヘッドに印加するエネルギを調整するエネルギ調整手段を有することを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項1ないし4の何れか1つに記載の孔版印刷装置において、さらに使用するインキの種類またはインキの温度またはマスタの種類に応じて用紙への印刷を行う印刷部における印圧を調整する印圧調整手段を有することを特徴とする。
【0011】
請求項6記載の発明は、請求項1ないし5の何れか1つに記載の孔版印刷装置において、さらに多孔性樹脂膜の塗布層が1層以上設けられたマスタが用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、副走査方向の2以上の穿孔を連続することで、穿孔カスによる穿孔形成の阻害及びサーマルヘッドの蓄熱作用の増大をそれぞれ低減することができ、べた部での白抜けやまだらといった印刷不良の発生を防止して良好な画像品質の印刷物を得ることができ、主走査方向にそれぞれ独立した穿孔とすることでマスタが有する熱可塑性樹脂フィルムの溶融塊が幹となる部分が多孔性支持体の強度にプラスされ、これによりマスタの強度が確保されて耐刷性が良好となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施形態を採用した孔版印刷装置を示している。同図において孔版印刷装置1は、印刷部2、製版装置としての製版部3、給紙部4、排版部5、排紙部6、画像読取部7等を有している。
【0014】
装置本体8のほぼ中央に配設された印刷部2は、版胴9及びプレスローラ10を有している。開孔部と非開孔部とを有する版胴9は装置本体8に対して着脱自在に構成されており、その内部にはインキ供給管を兼ねた支軸11、版胴9の内周面に対してその周面を近接配置されたインキローラ12、インキローラ12の周面に対してその周面を近接配置されたドクターローラ13等を有するインキ供給手段14が配設されている。支軸11より供給されたインキはインキローラ12とドクターローラ13との近接部においてインキ溜まり15を形成し、このインキ溜まり15のインキがインキローラ12とドクターローラ13との近接部を通過してインキローラ12の周面に層状に供給される。インキローラ12の周面に供給されたインキは、後述するプレスローラ10によって版胴9の外周面が押圧された際に版胴9の内周面とインキローラ12とが接触することにより版胴9の内周面に供給され、版胴9の開孔部より滲出して用紙へと転写される。インキ溜まり15の近傍には、インキ溜まり15に供給されたインキの温度を検出するインキ温度検出手段26が設けられている。
【0015】
版胴9の外周面には、版胴外周面上にマスタを巻装させるべくマスタの先端部を挟持するクランパ16が配設されている。クランパ16は版胴9の非開孔部に開閉自在に取り付けられており、版胴9が所定の開放位置あるいは閉塞位置を占めた際に図示しない開閉手段によって開閉される。
【0016】
版胴9の下方には、図示しない一対のアーム部材によってその支軸両端を回転自在に支持されたプレスローラ10が配設されている。プレスローラ10は、図示しない各アーム部材が図示しない揺動手段によって揺動されることにより、図1に示す版胴9の外周面より離間した離間位置と版胴9の外周面に所定の圧接力で圧接する圧接位置とを選択的に占める。図示しない揺動手段の近傍には、プレスローラ10の版胴9に対する圧接力である印圧を変化させる印圧調整手段17が配設されている。この印圧調整手段17は、特開平10−315599号公報に開示された押圧力可変手段20と同様の構成を有しており、ここではその詳細な説明を省略する。
【0017】
装置本体8の右上部には製版部3が配設されている。製版部3は、マスタ保持部材18、プラテンローラ19、サーマルヘッド20、マスタ切断手段21、マスタ搬送ローラ対22,23等を有している。
マスタ保持部材18は製版部3の図示しないユニット側板に取り付けられており、熱可塑性樹脂フィルムと多孔性支持体とを貼り合わせてなるマスタ24をロール状に巻成したマスタロール24aの芯部を回転自在かつ着脱自在に支持する。
【0018】
マスタ保持部材18の左方に配設されたプラテンローラ19は製版部3の図示しないユニット側板に回転自在に支持されており、ステッピングモータ25によって回転駆動される。プラテンローラ19の下方に位置し複数の発熱素子を有するサーマルヘッド20は図示しないユニット側板に支持されており、図示しない付勢手段の付勢力によってその発熱素子面をプラテンローラ19の周面に圧接されている。サーマルヘッド20は、マスタ24の熱可塑性樹脂フィルム面に接触しつつ各発熱素子を選択的に発熱させ、マスタ24を穿孔製版する。本実施形態では、サーマルヘッド20として用紙搬送方向と直交する用紙幅方向である主走査方向での解像度が1200dpiのものが用いられる。
【0019】
サーマルヘッド20の近傍には、サーマルヘッド温度検出手段27及びエネルギ調整手段28が設けられている。サーマルヘッド温度検出手段27は周知の温度センサであり、サーマルヘッド20近傍の温度を検出する。エネルギ調整手段28はサーマルヘッド20に印加されるエネルギを調整する手段であり、このエネルギ調整手段28は特許第3488287号公報に開示された製版エネルギー制御部22と同様の構成であるためここではその詳細な説明を省略する。
【0020】
プラテンローラ19及びサーマルヘッド20の左方にはマスタ切断手段21が配設されている。図示しないユニット側板に固設された固定刃と、この固定刃に対して移動自在に支持された可動刃とを有するマスタ切断手段21は、図示しないモータの駆動により固定刃に対して可動刃が回転移動あるいは上下動することによってマスタ24を切断する。
【0021】
マスタ切断手段21の左方にはマスタ搬送ローラ対22,23が配設されている。各マスタ搬送ローラ対22,23は図示しないユニット側板にそれぞれ回転自在に支持された駆動ローラと従動ローラとを有しており、それぞれ図示しない駆動手段によって同期して回転駆動される。
【0022】
製版部3の下方には給紙部4が配設されている。給紙部4は、給紙トレイ29、給紙ローラ30、分離ローラ対31、レジストローラ対32等を有している。
上面に多数の用紙Pを積載可能な給紙トレイ29は装置本体8に上下動自在に支持されており、図示しない昇降手段によって上下動される。給紙トレイ29の上面には用紙Pの幅方向の揃えを行う一対のサイドフェンス33が配設されており、各サイドフェンス33は用紙幅方向に向けて互いに同期して移動可能に構成されている。
【0023】
給紙トレイ29の左端上方には、表面に高摩擦抵抗部材を有する給紙ローラ30が配設されている。給紙ローラ30は装置本体8に揺動自在に支持された図示しないブラケットに回転自在に支持されており、給紙トレイ29が上昇した際に所定の圧接力で給紙トレイ29上の最上位の用紙Pに圧接する。給紙ローラ30は給紙モータ34によって回転駆動される。
【0024】
給紙ローラ30の左方には分離ローラ対31が配設されている。分離ローラ対31はそれぞれ表面に高摩擦抵抗部材を有する2つのローラによって構成されており、給紙ローラ30と同期して給紙モータ34によって回転駆動され、用紙Pを分離給送する。
【0025】
分離ローラ対31の左方には、駆動ローラと従動ローラとを有するレジストローラ対32が配設されている。各ローラは装置本体8の図示しない側板間に回転自在に支持されており、図示しない版胴駆動手段からの回転駆動力を図示しない駆動力伝達手段を介して伝達されることにより、版胴9と同期して回転駆動される。
【0026】
装置本体8の左上部には排版部5が配設されている。排版部5は、上排版部材35、下排版部材36、排版ボックス37、圧縮板38等を有している。
上排版部材35及び下排版部材36は、共に駆動ローラ、従動ローラ、無端ベルト等を有しており、図示しない排版駆動手段によって駆動ローラが回転駆動されることにより無端ベルトが移動する。また、下排版部材36は図示しない移動手段によって移動自在に構成されており、図に示す初期位置と無端ベルトが版胴9の外周面に当接する剥離位置とを選択的に占める。
【0027】
内部に使用済みマスタを貯容する排版ボックス37は、装置本体8に対して着脱自在に構成されている。上排版部材35と下排版部材36とによって運ばれた使用済みマスタを排版ボックス37の内部に押し込む圧縮板38は装置本体8に上下動自在に支持されており、図示しない昇降手段によって上下動される。
【0028】
排版部5の下方には排紙部6が配設されている。排紙部6は、剥離爪39、用紙搬送手段40、排紙トレイ41等を有している。
剥離爪39はその基端を装置本体8に揺動自在に支持されており、図示しない爪揺動手段によって揺動されることにより、鋭角状に形成されたその自由端が版胴9の外周面に近接する位置と、クランパ16等の障害物を回避するために版胴9の外周面より離間する離間位置とを選択的に占める。
【0029】
剥離爪39の左下方に配設された用紙搬送手段40は、駆動ローラ、従動ローラ、無端ベルト、吸引ファン等を有しており、図示しない排紙駆動手段によって駆動ローラが回転駆動すると共に吸引ファンが作動することにより、無端ベルト上に用紙Pを吸引しつつ左方へと搬送する。
【0030】
用紙搬送手段40の左方には排紙トレイ41が配設されている。用紙搬送手段40によって搬送される印刷済みの用紙Pが多数積載される排紙トレイ41は、その上面に用紙Pの揃えを行うための1つのエンドフェンス42と一対のサイドフェンス43とを有している。エンドフェンス42は用紙搬送方向と同方向に移動自在であり、各サイドフェンス43は用紙幅方向と同方向に、互いに接離自在に構成されている。
【0031】
装置本体8の上部には画像読取部7が配設されている。画像読取部7は、原稿を載置するコンタクトガラス44、コンタクトガラス44に対して接離自在な圧板45、原稿画像を走査して読み取る走査ユニット46、走査された画像を集束するレンズ47、集束された画像を処理するCCD等の画像読取センサ48等を有している。
【0032】
上述の構成に基づき、以下に孔版印刷装置1の動作を説明する。
オペレータによりコンタクトガラス44上に印刷すべき原稿が載置された後、圧板45が閉じられた状態で図示しない製版スタートキーが押下されると、画像読取部7において原稿画像の読取動作が行われる。画像の読み取りは走査ユニット46で原稿画像を走査することにより行われ、読み取られた画像はレンズ47で集束された後に画像読取センサ48に送られる。画像読取センサ48に送られた後に光電変換された画像データ信号は図示しないサーマルヘッドドライバに送られ、この信号に基づいてサーマルヘッド20の各発熱素子が選択的に作動してマスタ24に対する熱溶融穿孔製版が行われる。
【0033】
画像読取動作と並行して、排版部5では版胴9の外周面上から使用済みマスタを剥離する排版動作が行われる。図示しない製版スタートキーが押下されると、図示しない版胴駆動手段が作動して版胴9が回転を開始し、版胴9が所定の排版位置に到達するとその回転が停止する。そして、下排版部材36が作動すると共に剥離位置に移動し、下排版部材36によって版胴9上の使用済みマスタがすくい上げられる。その後、版胴9が回転駆動されると共に上排版部材35が作動し、版胴9上の使用済みマスタは各排版部材35,36によって搬送されて排版ボックス37内に貯容される。その後、圧縮板38が作動して排版ボックス37内の使用済みマスタが圧縮されると共に版胴9が所定の給版位置まで回転して停止し、クランパ16が開放されて孔版印刷装置1は給版待機状態となる。
【0034】
排版動作と並行して、製版部3では製版動作が行われる。図示しない製版スタートキーが押下されると、プラテンローラ19、各マスタ搬送ローラ対22,23がそれぞれ回転し、マスタロール24aよりマスタ24が引き出される。引き出されたマスタ24はサーマルヘッド20を通過する際に穿孔され、その熱可塑性樹脂フィルム面に製版画像を形成されつつ印刷部2へと搬送される。そしてマスタ24の先端がクランパ16によって保持可能な位置まで搬送されたと判断されるとクランパ16が閉じられ、製版されたマスタ24はその先端部を版胴9の外周面上に保持される。その後、版胴9がマスタ24の搬送速度と同じ周速度で回転し、マスタ24の版胴9への巻装動作が行われる。そして1版分のマスタ24が製版されると、プラテンローラ19及び各マスタ搬送ローラ対22.23の作動が停止されると共にマスタ切断手段21が作動してマスタ24が切断される。切断されたマスタ24は版胴9の回転によって製版部3より引き出され、マスタ24の巻装後に版胴9がホームポジションで停止することにより製版動作及び給版動作が完了する。
【0035】
給版動作に引き続き版付け動作が行われる。版胴9がホームポジションで停止すると、給紙ローラ30及び分離ローラ対31が回転して給紙トレイ29上より最上位の用紙Pが引き出されると共に、版胴9が図1において時計回り方向に低速で回転駆動される。引き出された用紙Pは1枚だけ分離給送され、その先端をレジストローラ対32に挟持される。そして、版胴9に巻装されたマスタ24の版胴回転方向における画像領域先端部がプレスローラ10との接触部に到達する所定のタイミングでレジストローラ対32が回転し、用紙Pが版胴9とプレスローラ10との接触部に向けて給送される。レジストローラ対32の回転とほぼ同時に図示しない揺動手段の作動によりプレスローラ10がその周面を版胴9の外周面に圧接させ、給送された用紙Pが版胴9上のマスタ24に圧接される。この押圧動作によりプレスローラ10と用紙Pとマスタ24と版胴9とが圧接し、インキローラ12によって版胴9の内周面に供給されたインキが版胴9の開孔部より滲出し、マスタ24の多孔性支持体に充填された後にマスタ24の穿孔部を介して用紙Pに転写され、いわゆる版付けが行われる。
【0036】
版付けによって画像を転写された用紙Pは、剥離爪39によって版胴9の外周面より剥離され、下方へと落下して用紙搬送手段40へと送られた後、用紙搬送手段40によって吸引搬送されて排紙トレイ41上に排出される。その後、版胴9が再びホームポジションまで回転して停止し、版付け動作を終えて孔版印刷装置1は印刷待機状態となる。
【0037】
孔版印刷装置1が印刷待機状態となった後、図示しない操作パネル上において各種印刷条件が入力された後に図示しない試し刷りキーが押下されると、版胴9が版付け時よりも高速である設定された印刷速度に応じた周速度で回転すると共に給紙部4より用紙Pが1枚だけ給送され、版付け時と同様に試し刷りが行われる。試し刷りによって画像位置及び画像濃度等が確認され、図示しない操作パネル上において印刷枚数が設定された後に図示しない印刷スタートキーが押下されると、給紙部4から用紙Pが連続的に給送されて試し刷り時と同様に印刷動作が行われる。そして設定された印刷枚数が消化されると、版胴9がホームポジションで停止して孔版印刷装置1は再び印刷待機状態となる。
【0038】
図2(b)は、上述した製版動作時において用紙幅方向である主走査方向s2と用紙搬送方向である副走査方向f2とにそれぞれ連続した画像信号が図示しないサーマルヘッドドライバに入力された場合に、サーマルヘッド20によってマスタ24の熱可塑性樹脂フィルム面に形成される理想的な穿孔51の状態を示している。本実施形態では解像度1200dpiのサーマルヘッド20を用いているため、従来用いられていた600dpiのサーマルヘッドによる、主走査方向s1と副走査方向f1とにそれぞれ連続した画像信号がサーマルヘッドドライバに入力された場合にマスタ24の熱可塑性樹脂フィルム面に形成される理想的な穿孔52の状態を示す図2(a)と比較すると、個々の穿孔51の面積が穿孔52に比してそれぞれ1/4になっている。
【0039】
図2(b)に解像度1200dpiにおける理想的な穿孔51の状態を示したが、従来では解像度600dpiを超える解像度において各穿孔51をそれぞれ独立して形成することが困難であった。これは、マスタの熱可塑性樹脂フィルムを穿孔する際に発生する穿孔カスが解像度1200dpiのような超微細穿孔の形成を阻害すること、高い解像度では副走査方向におけるライン数が増加(例えば300dpiの1ラインに対して1200dpiでは4倍のライン数が必要)してサーマルヘッドでの蓄熱作用が増大して良好な穿孔の形成が困難となること等が理由として挙げられる。
【0040】
そこで本発明のサーマルヘッド20では、図2(c)及び図2(d)に示すように主走査方向及び副走査方向にそれぞれ連続した画像信号に応じた穿孔を行う際に、主走査方向にはそれぞれ独立しかつ副走査方向には2ドット連続した楕円形状の穿孔53を形成する構成としている。図2(c)は連続した画像信号が偶数の場合を、図2(d)は連続した画像信号が奇数の場合をそれぞれ示している。
【0041】
上述の構成によれば、副走査方向に2ドット連続した穿孔53とすることで、穿孔カスによる穿孔形成の阻害及びサーマルヘッドの蓄熱作用の増大をそれぞれ低減することができ、べた部での白抜けやまだらといった印刷不良の発生を防止して解像度1200dpiにおいても良好な画像品質の印刷物を得ることができる。また、印刷部2では版胴9とプレスローラ10とが圧接するため、版胴9上に巻装されているマスタ24においてはある程度の副走査方向の伸びに対する強度が必要となるが、この伸びに対しては、主走査方向にそれぞれ独立した穿孔53とすることでマスタ24が有する熱可塑性樹脂フィルムの溶融塊が幹となる部分が多孔性支持体の強度にプラスされ、これによりマスタ24の強度が確保されて耐刷性が良好となる。
【0042】
ここで、上述した穿孔53を形成するためのサーマルヘッド20の制御方法の一例を示す。図3は、サーマルヘッドを駆動させるための制御方法を説明する概略図である。図3(a)は従来のサーマルヘッドの制御方法を示している。この制御方法は、画素データであるdata信号、data信号をサーマルヘッド内のドライバICのシフトレジスタへ転送させるためのclk信号、data信号をラッチさせるためのlatch信号、サーマルヘッドの各発熱素子への通電信号であるstb信号の4つの信号から構成されている。
【0043】
図3(b)は本実施形態におけるサーマルヘッド20を駆動させるための制御方法の一例であり、従来と同様に4つの信号から構成されている。しかし各信号のタイミングが従来とは異なり、本実施形態ではstb信号のタイミングが従来に比してかなり近接しており、このタイミングによって本実施形態における副走査方向に2以上連続した穿孔が得られる。副走査方向に3以上連続する穿孔は、stb信号の幅を長くすることにより達成可能である。図3では1つの発熱素子のみを示したが、複数のブロックに分けて実施してもよい。
【0044】
上記実施形態では、穿孔53として副走査方向の2つの穿孔が連続したものを示したが、3以上の穿孔が連続する構成としてもよい。しかし連続する穿孔数は、孔版印刷装置特有のスティッキング及び耐刷性等の観点からは2程度が好ましい。
【0045】
上述したサーマルヘッド20において600dpiを超える高い解像度で良好な穿孔を得るためには、各種評価及び実験からサーマルヘッド20が有する発熱素子の副走査方向長さが副走査方向解像度ピッチの40〜95%であることが望ましいことが判明した。これは使用するマスタの種類等によって異なるため、このような範囲で規定している。この範囲よりも低い場合にはサーマルヘッド20の寿命が短くなってマスタにおける未穿孔や穿孔不良が多くなり、高い場合には副走査方向における各穿孔の分離性が保たれなくなるという不具合が生じる。
【0046】
また、サーマルヘッド20において600dpiを超える高い解像度で良好な穿孔を得るためには、各種評価及び実験からサーマルヘッド20が有する発熱素子の主走査方向長さが主走査方向解像度ピッチの40〜80%であることが望ましいことが判明した。これも使用するマスタの種類等によって異なるため、このような範囲で規定している。この範囲よりも低い場合にはサーマルヘッド20の寿命が短くなってマスタにおける未穿孔や穿孔不良が多くなり、高い場合には副走査方向における各穿孔の分離性が保たれなくなるという不具合が生じる。
【0047】
さらに上記実施形態では、サーマルヘッド20の温度を検出するサーマルヘッド温度検出手段27を設け、サーマルヘッド温度検出手段27によって検出された温度に基づいてサーマルヘッド20に印加するエネルギをエネルギ調整手段28によって調整する構成を採用しているので、より確実に穿孔53を形成することができる。
【0048】
上記実施形態では、サーマルヘッド温度検出手段27によって検出された温度に基づいてサーマルヘッド20に印加するエネルギをエネルギ調整手段28によって調整する構成としたが、この変形例として図4に示すように、エネルギ調整手段28及び印圧調整手段17を制御する制御手段49を設けると共に、インキの種類を識別するインキ種類識別手段50及びマスタの種類を検出するマスタ種類検出手段54を設け、インキ種類識別手段50によって識別されたインキ種類またはインキ温度検出手段26によって検出されたインキ温度またはマスタ種類検出手段54によって検出されたマスタの種類に応じてサーマルヘッド20に印加するエネルギをエネルギ調整手段28によって調整する構成、インキ種類識別手段50によって識別されたインキ種類またはインキ温度検出手段26によって検出されたインキ温度またはマスタ種類検出手段54によって検出されたマスタの種類に応じてプレスローラ10の印圧を印圧調整手段17によって調整する構成としても上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。また、インキ種類識別手段50及びマスタ種類識別手段54に代えて、インキの種類またはマスタの種類を入力可能な操作パネル55を設け、操作パネル55から入力されたインキの種類またはマスタの種類に応じてエネルギ調整手段28及び印圧調整手段17を制御する構成としてもよい。
【0049】
さらに、上記実施形態に使用されるマスタ24として多孔性樹脂膜の塗布層が1層以上設けられているものを使用することにより、マスタ表面すなわち熱可塑性樹脂フィルム面の平滑度が向上し、600dpiを超える高い解像度の超微細穿孔を形成する際には大きな優位性が得られ、良好な製版画像を形成でき良好な印刷物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態を採用した孔版印刷装置の概略正面図である。
【図2】本発明の一実施形態においてマスタに形成される穿孔を説明する概略図である。
【図3】本発明の一実施形態に用いられるサーマルヘッドの発熱制御を説明する概略図である。
【図4】本発明の一実施形態の変形例に用いられる制御手段のブロック図である。
【符号の説明】
【0051】
1 孔版印刷装置
3 製版装置(製版部)
17 印圧調整手段
19 プラテンローラ
20 サーマルヘッド
24 マスタ
28 エネルギ調整手段
53 穿孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主走査方向に配列された複数の発熱素子を有するサーマルヘッドと、マスタの熱可塑性樹脂フィルムを前記発熱素子に押圧させつつ副走査方向に搬送するプラテンローラとを有し、入力される画像信号に応じて前記発熱素子を選択的に発熱させることにより前記熱可塑性樹脂フィルムに前記各発熱素子毎に独立した穿孔を形成して前記画像信号に応じた穿孔パターンを溶融穿孔し、前記サーマルヘッドとしてその主走査方向における解像度が600dpiを超えるものが用いられる製版装置を備えた孔版印刷装置において、
前記画像信号として主走査方向及び副走査方向にそれぞれ連続するものが入力された場合には、前記穿孔として主走査方向の各穿孔がそれぞれ独立し副走査方向の2以上の穿孔が連続した楕円形状のものを形成することを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項2】
請求項1記載の孔版印刷装置において、
前記発熱素子の副走査方向における長さが副走査方向における解像度ピッチの40〜95%に設定されていることを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の孔版印刷装置において、
前記発熱素子の主走査方向における長さが主走査方向における解像度ピッチの40〜80%に設定されていることを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか1つに記載の孔版印刷装置において、
サーマルヘッドの温度または使用するインキの種類またはインキの温度またはマスタの種類に応じて前記サーマルヘッドに印加するエネルギを調整するエネルギ調整手段を有することを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか1つに記載の孔版印刷装置において、
使用するインキの種類またはインキの温度またはマスタの種類に応じて用紙への印刷を行う印刷部における印圧を調整する印圧調整手段を有することを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか1つに記載の孔版印刷装置において、
多孔性樹脂膜の塗布層が1層以上設けられたマスタが用いられることを特徴とする孔版印刷装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−137525(P2010−137525A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318874(P2008−318874)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)
【Fターム(参考)】