宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験装置および試験方法
【課題】宇宙機用推薬タンク内部のメッシュ部の液圧破壊試験装置および試験方法を提供する。
【解決手段】チャンネル部材の開口面にシーム溶着されたメッシュ部材の液圧破壊試験装置Mであって、ベース部材10の上に載置され、試験片18のメッシュ部材の面外変形を可能とする空間11を備えた試験片保持台12と、試験片保持台12の上に載置され試験片18の開口部周辺を押さえる水圧底板13と、水圧底板13の上に載置された膜部材と、膜部材の周縁を水圧底板13との間で狭持するとともに試験片18に向かって開口したシリンダ15と、シリンダ15に挿通されたピストン16と、からなり、試験片保持台12に保持された試験片18のメッシュ部材に膜部材を介してシリンダ15とピストン16によって面外方向の液圧を付加する。
【解決手段】チャンネル部材の開口面にシーム溶着されたメッシュ部材の液圧破壊試験装置Mであって、ベース部材10の上に載置され、試験片18のメッシュ部材の面外変形を可能とする空間11を備えた試験片保持台12と、試験片保持台12の上に載置され試験片18の開口部周辺を押さえる水圧底板13と、水圧底板13の上に載置された膜部材と、膜部材の周縁を水圧底板13との間で狭持するとともに試験片18に向かって開口したシリンダ15と、シリンダ15に挿通されたピストン16と、からなり、試験片保持台12に保持された試験片18のメッシュ部材に膜部材を介してシリンダ15とピストン16によって面外方向の液圧を付加する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験装置および試験方法に関し、特に宇宙空間での無重力状態において推薬である液体を収納する大型タンクの液圧破壊試験装置および試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、人工衛星等の宇宙空間を航行する宇宙機用推薬タンクには、効率的に残量液体を排出するために球形タンクの内周にメッシュで覆われた液体通路(チャンネル)が形成されている(特許文献1参照)。
これらの液体通路、特にメッシュ部には、衛星運行中に、液体振動、スロッシング、面外圧力変動により、振動疲労破壊が生じる可能性が存在する。したがって、これらの推薬タンクは、振動疲労破壊に対する強度試験を行う必要があった。
しかし、従来は、実機により近い状態でチャンネル部材のメッシュ溶接部の破壊試験を実施するニーズはあったが、実施が困難であった。そこで、チャンネル部材のメッシュ溶接部に機械的荷重を負荷して破壊試験を実施していた。
【0003】
例えば、図11に示すようなチャンネル部材1の一部をカットして治具支持部2を形成し、メッシュ3をシーム溶接した試験片4を作成し、これを図12に示すような破壊試験機5にセットし、チャンネル部材1に荷重バー6を挿通して、荷重Pを鋼球7を介して加える。試験片4は、荷重バー6と共に下降し、治具支持部2が治具8に当接した後は、メッシュ3に荷重が付加され破壊に至るまでの荷重を測定することができる。
【特許文献1】特開平9−20299(第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、液体振動、スロッシング、面外圧力変動によるチャンネル部材のメッシュに付与される均一荷重を、機械式荷重で代替した場合には、機械式荷重付与のための圧子(押し治具)の形状の影響が避けられない。このため、機械式荷重では、完全に均一な荷重をメッシュに付与することは不可能であり、また、圧子の接触端部の集中荷重により圧力による均一荷重により得られる強度とは異なった値となる。したがって、上記した機械荷重負荷方式の破壊試験では、実際の宇宙空間で生じる破壊を再現することは困難であった。
また、より現実に近いと考えられる液圧式の振動疲労破壊方法は確立していなかった。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、宇宙機用推薬タンク内部のメッシュ部の液圧破壊試験装置および試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る液圧破壊試験装置および試験方法では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
第1の発明に係る宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験装置は、チャンネル部材の開口面にシーム溶着されたメッシュ部材の液圧破壊試験装置であって、ベース部材の上に載置され、試験片のメッシュ部材の面外変形を可能とする空間を備えた試験片保持台と、前記試験片保持台の上に載置され試験片の開口部周辺を押さえる水圧底板と、前記水圧底板の上に載置された膜部材と、前記膜部材の周縁を前記水圧底板との間で狭持するとともに試験片に向かって開口したシリンダと、前記シリンダに挿通されたピストンと、からなり、前記試験片保持台に保持された前記試験片の前記メッシュ部材に前記膜部材を介して前記シリンダとピストンによって面外方向の液圧を付加することを特徴とする。
【0007】
また、前記膜部材は、厚さ0.2〜1.0mmのゴムであることを特徴とする。
また、前記チャンネル部材の開口部の両端軸方向に設置される膜部材侵入防止部材を備えることを特徴とする。
【0008】
第2の発明に係る宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験方法は、チャンネル部材の開口面にシーム溶着されたメッシュ部材の液圧破壊試験方法であって、前記チャンネル部材のチャンネル面に液圧を作用させるための開口部を設ける試験片作成工程と、前記チャンネル部材の開口部の両端軸方向に膜部材侵入防止部材を設置する工程と、前記開口部の縁に膜部材破損防止材を設置する工程と、前記開口部から進入する可撓性の膜部材を介して、前記メッシュ部材に面外方向の液圧をシリンダによって付加する加圧工程と、からなることを特徴とする。
【0009】
また、前記加圧工程において、前記シリンダと前記膜部材の間に合成ゴム系接着剤を塗布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば以下の効果を得ることができる。
本発明に係る宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験装置は、ベース部材の上に載置され、試験片のメッシュ部材の面外変形を可能とする空間を備えた試験片保持台と、前記試験片保持台の上に載置され試験片の開口部周辺を押さえる水圧底板と、前記水圧底板の上に載置された膜部材と、前記膜部材の周縁を前記水圧底板との間で狭持するとともに試験片に向かって開口したシリンダと、前記シリンダに挿通されたピストンとからなり、前記試験片保持台に保持された試験片のメッシュ部材に膜部材を介して、前記シリンダとピストンによって面外方向の液圧を付加するので、実際に近い液圧破壊試験を行うことができる。
【0011】
また、膜部材が厚さ0.2〜1.0mmのゴムであるので、開口部から膨張して入り込み、シーム溶接したメッシュ部材に面外曲げ変形を起こさせることができる。
また、前記チャンネル部材の開口部の両端軸方向に膜部材侵入防止部材を設置したので、膜部材により確実にメッシュ部材に面外曲げ変形を起こさせることができる。
【0012】
また、本発明に係る宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験方法は、チャンネル部材の開口面にシーム溶着されたメッシュ部材の液圧破壊試験方法であって、前記チャンネル部材のチャンネル面に液圧を作用させるための開口部を設ける試験片作成工程と、前記チャンネル部材の開口部の両端軸方向に膜部材侵入防止部材を設置する工程と、前記開口部の縁に膜部材破損防止材を設置する工程と、前記開口部から進入する可撓性の膜部材を介して、前記メッシュ部材に面外方向の液圧をシリンダによって付加する加圧工程とからなるので、実際に近い液圧破壊試験を行うことができる。
【0013】
また、加圧工程において、シリンダと膜部材の間に合成ゴム系接着剤を塗布するので、液漏れを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験装置および試験方法の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る液圧破壊試験装置を示す縦断面図である。図2は、図1のA−A線断面図である。図3は、図1のB−B線断面図である。
【0015】
液圧破壊試験装置Mは、後述する衛星用推薬タンク60のチャンネルメッシュ部材61の耐久性を試験するための装置である。
液圧破壊試験装置Mは、ベース部材10の上に載置され、後述する試験片18のメッシュ部材27(図7参照)の面外変形を可能とする空間11を備えた試験片保持台12と、試験片保持台12の上に載置され試験片の開口部周辺を押さえる水圧底板13と、水圧底板13の上に載置された膜部材14(図5参照)と、膜部材14の周縁を水圧底板13との間で狭持するとともに試験片に向かって開口したシリンダ15と、シリンダ15に挿通されたピストン16等と、から構成されている。
【0016】
ベース部材10は、ボルト17によって基礎に固定されている。
試験片保持台12は、ほぼ中央に試験片のメッシュ部材の面外変形を可能とする空間11を有し、この空間11に架け渡すように試験片18の両端を保持する凹溝19を有している。
【0017】
試験片保持台12は、ボルト20によってベース部材10に固定される。
水圧底板13は、中央に試験片に形成する開口部とほぼ等しい開口13aを有しており、試験片18の開口部周辺を押さえる。また、開口13aは、上に設置されるシリンダ15の開口に向かってテーパー状に拡開しており、ボルト25でシリンダ15に固定されている。
【0018】
膜部材14は、弾性および水密性を有するものであればよく、天然ゴム、合成ゴム等を使用することができる。厚さは、0.2mm〜1.0mmの範囲であればよい。
【0019】
シリンダ15は、ボルト21によって試験片保持台12に固定されている。また、シリンダ15には、ピストン16がOリング22を介して挿入されている。シリンダ15の上端には、ピストン16が抜けるのを防止するために、上押さえ板23がボルト24によって取り付けられている。
【0020】
図4は、液圧破壊試験装置の平面図である。図5は、図2のC−C線拡大断面図である。
膜部材14は、水圧底板13とシリンダ15に挟まれており、水圧底板13の開口13aを覆っている。また、膜部材14とシリンダ15の間には、合成ゴム系接着剤が塗布されており、シールの役割をするとともに付与された圧力を保持する。
【0021】
図6は、衛星用推薬タンクの一例を示す説明図である。
衛星用推薬タンク60の内部には、無重力空間において、表面張力効果によってメッシュを通過してチャンネル内に入った推薬を出口へ誘導するチャンネルメッシュ部材61が設けられている。
【0022】
このチャンネルメッシュ部材61には、衛星の飛行中に液体振動、スロッシング、面外圧力変動により、振動疲労破壊が生じる可能性がある。したがって、衛星用推薬タンク60のチャンネルメッシュ部材61は、振動疲労破壊に対する強度試験を行うことが必要である。
【0023】
図7は、衛星用推薬タンクの液圧破壊試験装置に使用する試験片の平面図である。
図8は、試験片の一部を切り欠いた側面図である。図9は、図8のD−D線断面図である。
試験片18は、所定長さのチャンネル部材26の開口面にメッシュ部材27がシーム溶接されている。ここで使用されるメッシュ部材27は、例えばオーステナイト系ステンレス鋼製であって、線径0.035mmのものがチャンネルの長手方向に1インチ当たり325本、線径0.025mmのものが幅方向に1インチ当たり2300本配設されている。
別の例では、線径0.190mmのものがチャンネルの長手方向に1インチ当たり40本、線径0.140mmのものが幅方向に1インチ当たり400本配設されている。
なお、長手方向及び幅方向の線径や、1インチ当たりの本数としては、上述した2例以外であってもよい。特に、線径としては、0.2mm以下が好ましい。
【0024】
また、試験片18には、チャンネル部材26のチャンネル面に液圧を作用させるための長方形の開口部28が切削加工されている。なお、開口部28の切削面とチャンネル内側面が同一面となるように加工するとともに、膜部材14が破損しないように角部を面取り加工することが好ましい。
【0025】
次に、以上のように構成された液圧破壊試験装置と試験片を使用した液圧破壊試験方法について説明する。
先ず、試験片作成工程で所定長さのチャンネル部材26の開口面にメッシュ部材27をシーム溶接するとともに、チャンネル面に液圧を作用させるための長方形の開口部28切削する。
この際に、開口部28の切削面とチャンネル内側面が同一面となるよう切削し、角部を面取り加工する。これにより、試験片18が作成される。
【0026】
次に、試験片保持台12に試験片18をセットする。この際、チャンネル部材の開口部の両端軸方向に膜部材が膨らんで侵入するのを防止するために、シリコン等の膜部材侵入防止部材29を設置する。
なお、セットした試験片18の開口部28の縁に膜部材14が破損しないように合成樹脂製の受け板等の膜部材破損防止材(不図示)を設置することが好ましい。
更に、膜部材14とシリンダ15の間には、合成ゴム系接着剤を塗布し、液漏れを防止してピストン16で発生させた圧力を保持する。
【0027】
試験片18のセットが完了したら、加圧工程に移行する。具体的には、図外の加圧装置によって鋼球31を介してピストン16を下降する。
すると、シリンダ15内に充填しておいた液体が圧力を受け、水圧底板13とシリンダ15の間に配置してある膜部材14が液圧により膨張変形する。そして、膨張した膜部材14が開口部28から進入して、メッシュ部材27に面外方向の液圧を付加する。
このようにして、チャンネル部材のシーム溶接メッシュの液圧破壊試験を行うことが可能となる。
【0028】
図10は、本発明の試験装置による液圧荷重範囲(ΔF)と破断繰返し数(Nf)を示す図である。
図10に示すように、液圧荷重を2000Nとした場合、破断繰り返し数は、約230回と約500回であった。また、液圧荷重を1000Nとした場合、破断繰り返し数は、約1800回であった。また、液圧荷重を500Nとした場合、破断繰り返し数は、約1300回と約4400回であった。
なお、図中に記載の荷重比Rは、最大荷重に対する最小荷重の割合(R=最小荷重/最大荷重)を示す。
【0029】
以上の結果から、液圧荷重と破断繰り返し数には、一定の相関関係があることが判明した。このように、本実施形態に係る液圧破壊試験装置M及び試験方法によれば、実機に近い液圧破壊試験を行うことができる。
【0030】
なお、上述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0031】
上述した実施形態では、宇宙機用推薬タンクとして、衛星用推薬タンクの場合について説明したが、これに限らない。
衛星用以外にも,ロケット、宇宙往還機、宇宙ステーションなどのように、無重力状態で推進あるいは姿勢制御する必要のあるもの(推薬タンクを備えるもの)であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る衛星用推薬タンクの液圧破壊試験装置を示す縦断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】同衛星用推薬タンクの液圧破壊試験装置の平面図である。
【図5】図2のC−C線拡大断面図である。
【図6】衛星用推薬タンクの一例を示す説明図ある。
【図7】液圧破壊試験装置に使用する試験片の平面図である。
【図8】同試験片の一部を切り欠いた側面図である。
【図9】図8のD−D線断面図である。
【図10】同試験装置による液圧荷重範囲(ΔF)と破断繰返し数(Nf)を示す図である。
【図11】従来の機械荷重負荷方式によるチャンネルメッシュ試験片を示す斜視図である。
【図12】従来の機械荷重負荷方式による試験装置の説明図である。
【符号の説明】
【0033】
M…液圧破壊試験装置
10…ベース部材
11…空間
12…試験片保持台
13…水圧底板
14…膜部材
15…シリンダ
16…ピストン
18…試験片
19…凹溝
26…チャンネル部材
27…メッシュ部材
28…開口部
29…膜部材侵入防止部材
60…衛星用推薬タンク(宇宙機用推薬タンク)
61…チャンネルメッシュ部材
P…荷重
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験装置および試験方法に関し、特に宇宙空間での無重力状態において推薬である液体を収納する大型タンクの液圧破壊試験装置および試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、人工衛星等の宇宙空間を航行する宇宙機用推薬タンクには、効率的に残量液体を排出するために球形タンクの内周にメッシュで覆われた液体通路(チャンネル)が形成されている(特許文献1参照)。
これらの液体通路、特にメッシュ部には、衛星運行中に、液体振動、スロッシング、面外圧力変動により、振動疲労破壊が生じる可能性が存在する。したがって、これらの推薬タンクは、振動疲労破壊に対する強度試験を行う必要があった。
しかし、従来は、実機により近い状態でチャンネル部材のメッシュ溶接部の破壊試験を実施するニーズはあったが、実施が困難であった。そこで、チャンネル部材のメッシュ溶接部に機械的荷重を負荷して破壊試験を実施していた。
【0003】
例えば、図11に示すようなチャンネル部材1の一部をカットして治具支持部2を形成し、メッシュ3をシーム溶接した試験片4を作成し、これを図12に示すような破壊試験機5にセットし、チャンネル部材1に荷重バー6を挿通して、荷重Pを鋼球7を介して加える。試験片4は、荷重バー6と共に下降し、治具支持部2が治具8に当接した後は、メッシュ3に荷重が付加され破壊に至るまでの荷重を測定することができる。
【特許文献1】特開平9−20299(第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、液体振動、スロッシング、面外圧力変動によるチャンネル部材のメッシュに付与される均一荷重を、機械式荷重で代替した場合には、機械式荷重付与のための圧子(押し治具)の形状の影響が避けられない。このため、機械式荷重では、完全に均一な荷重をメッシュに付与することは不可能であり、また、圧子の接触端部の集中荷重により圧力による均一荷重により得られる強度とは異なった値となる。したがって、上記した機械荷重負荷方式の破壊試験では、実際の宇宙空間で生じる破壊を再現することは困難であった。
また、より現実に近いと考えられる液圧式の振動疲労破壊方法は確立していなかった。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、宇宙機用推薬タンク内部のメッシュ部の液圧破壊試験装置および試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る液圧破壊試験装置および試験方法では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
第1の発明に係る宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験装置は、チャンネル部材の開口面にシーム溶着されたメッシュ部材の液圧破壊試験装置であって、ベース部材の上に載置され、試験片のメッシュ部材の面外変形を可能とする空間を備えた試験片保持台と、前記試験片保持台の上に載置され試験片の開口部周辺を押さえる水圧底板と、前記水圧底板の上に載置された膜部材と、前記膜部材の周縁を前記水圧底板との間で狭持するとともに試験片に向かって開口したシリンダと、前記シリンダに挿通されたピストンと、からなり、前記試験片保持台に保持された前記試験片の前記メッシュ部材に前記膜部材を介して前記シリンダとピストンによって面外方向の液圧を付加することを特徴とする。
【0007】
また、前記膜部材は、厚さ0.2〜1.0mmのゴムであることを特徴とする。
また、前記チャンネル部材の開口部の両端軸方向に設置される膜部材侵入防止部材を備えることを特徴とする。
【0008】
第2の発明に係る宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験方法は、チャンネル部材の開口面にシーム溶着されたメッシュ部材の液圧破壊試験方法であって、前記チャンネル部材のチャンネル面に液圧を作用させるための開口部を設ける試験片作成工程と、前記チャンネル部材の開口部の両端軸方向に膜部材侵入防止部材を設置する工程と、前記開口部の縁に膜部材破損防止材を設置する工程と、前記開口部から進入する可撓性の膜部材を介して、前記メッシュ部材に面外方向の液圧をシリンダによって付加する加圧工程と、からなることを特徴とする。
【0009】
また、前記加圧工程において、前記シリンダと前記膜部材の間に合成ゴム系接着剤を塗布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば以下の効果を得ることができる。
本発明に係る宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験装置は、ベース部材の上に載置され、試験片のメッシュ部材の面外変形を可能とする空間を備えた試験片保持台と、前記試験片保持台の上に載置され試験片の開口部周辺を押さえる水圧底板と、前記水圧底板の上に載置された膜部材と、前記膜部材の周縁を前記水圧底板との間で狭持するとともに試験片に向かって開口したシリンダと、前記シリンダに挿通されたピストンとからなり、前記試験片保持台に保持された試験片のメッシュ部材に膜部材を介して、前記シリンダとピストンによって面外方向の液圧を付加するので、実際に近い液圧破壊試験を行うことができる。
【0011】
また、膜部材が厚さ0.2〜1.0mmのゴムであるので、開口部から膨張して入り込み、シーム溶接したメッシュ部材に面外曲げ変形を起こさせることができる。
また、前記チャンネル部材の開口部の両端軸方向に膜部材侵入防止部材を設置したので、膜部材により確実にメッシュ部材に面外曲げ変形を起こさせることができる。
【0012】
また、本発明に係る宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験方法は、チャンネル部材の開口面にシーム溶着されたメッシュ部材の液圧破壊試験方法であって、前記チャンネル部材のチャンネル面に液圧を作用させるための開口部を設ける試験片作成工程と、前記チャンネル部材の開口部の両端軸方向に膜部材侵入防止部材を設置する工程と、前記開口部の縁に膜部材破損防止材を設置する工程と、前記開口部から進入する可撓性の膜部材を介して、前記メッシュ部材に面外方向の液圧をシリンダによって付加する加圧工程とからなるので、実際に近い液圧破壊試験を行うことができる。
【0013】
また、加圧工程において、シリンダと膜部材の間に合成ゴム系接着剤を塗布するので、液漏れを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験装置および試験方法の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る液圧破壊試験装置を示す縦断面図である。図2は、図1のA−A線断面図である。図3は、図1のB−B線断面図である。
【0015】
液圧破壊試験装置Mは、後述する衛星用推薬タンク60のチャンネルメッシュ部材61の耐久性を試験するための装置である。
液圧破壊試験装置Mは、ベース部材10の上に載置され、後述する試験片18のメッシュ部材27(図7参照)の面外変形を可能とする空間11を備えた試験片保持台12と、試験片保持台12の上に載置され試験片の開口部周辺を押さえる水圧底板13と、水圧底板13の上に載置された膜部材14(図5参照)と、膜部材14の周縁を水圧底板13との間で狭持するとともに試験片に向かって開口したシリンダ15と、シリンダ15に挿通されたピストン16等と、から構成されている。
【0016】
ベース部材10は、ボルト17によって基礎に固定されている。
試験片保持台12は、ほぼ中央に試験片のメッシュ部材の面外変形を可能とする空間11を有し、この空間11に架け渡すように試験片18の両端を保持する凹溝19を有している。
【0017】
試験片保持台12は、ボルト20によってベース部材10に固定される。
水圧底板13は、中央に試験片に形成する開口部とほぼ等しい開口13aを有しており、試験片18の開口部周辺を押さえる。また、開口13aは、上に設置されるシリンダ15の開口に向かってテーパー状に拡開しており、ボルト25でシリンダ15に固定されている。
【0018】
膜部材14は、弾性および水密性を有するものであればよく、天然ゴム、合成ゴム等を使用することができる。厚さは、0.2mm〜1.0mmの範囲であればよい。
【0019】
シリンダ15は、ボルト21によって試験片保持台12に固定されている。また、シリンダ15には、ピストン16がOリング22を介して挿入されている。シリンダ15の上端には、ピストン16が抜けるのを防止するために、上押さえ板23がボルト24によって取り付けられている。
【0020】
図4は、液圧破壊試験装置の平面図である。図5は、図2のC−C線拡大断面図である。
膜部材14は、水圧底板13とシリンダ15に挟まれており、水圧底板13の開口13aを覆っている。また、膜部材14とシリンダ15の間には、合成ゴム系接着剤が塗布されており、シールの役割をするとともに付与された圧力を保持する。
【0021】
図6は、衛星用推薬タンクの一例を示す説明図である。
衛星用推薬タンク60の内部には、無重力空間において、表面張力効果によってメッシュを通過してチャンネル内に入った推薬を出口へ誘導するチャンネルメッシュ部材61が設けられている。
【0022】
このチャンネルメッシュ部材61には、衛星の飛行中に液体振動、スロッシング、面外圧力変動により、振動疲労破壊が生じる可能性がある。したがって、衛星用推薬タンク60のチャンネルメッシュ部材61は、振動疲労破壊に対する強度試験を行うことが必要である。
【0023】
図7は、衛星用推薬タンクの液圧破壊試験装置に使用する試験片の平面図である。
図8は、試験片の一部を切り欠いた側面図である。図9は、図8のD−D線断面図である。
試験片18は、所定長さのチャンネル部材26の開口面にメッシュ部材27がシーム溶接されている。ここで使用されるメッシュ部材27は、例えばオーステナイト系ステンレス鋼製であって、線径0.035mmのものがチャンネルの長手方向に1インチ当たり325本、線径0.025mmのものが幅方向に1インチ当たり2300本配設されている。
別の例では、線径0.190mmのものがチャンネルの長手方向に1インチ当たり40本、線径0.140mmのものが幅方向に1インチ当たり400本配設されている。
なお、長手方向及び幅方向の線径や、1インチ当たりの本数としては、上述した2例以外であってもよい。特に、線径としては、0.2mm以下が好ましい。
【0024】
また、試験片18には、チャンネル部材26のチャンネル面に液圧を作用させるための長方形の開口部28が切削加工されている。なお、開口部28の切削面とチャンネル内側面が同一面となるように加工するとともに、膜部材14が破損しないように角部を面取り加工することが好ましい。
【0025】
次に、以上のように構成された液圧破壊試験装置と試験片を使用した液圧破壊試験方法について説明する。
先ず、試験片作成工程で所定長さのチャンネル部材26の開口面にメッシュ部材27をシーム溶接するとともに、チャンネル面に液圧を作用させるための長方形の開口部28切削する。
この際に、開口部28の切削面とチャンネル内側面が同一面となるよう切削し、角部を面取り加工する。これにより、試験片18が作成される。
【0026】
次に、試験片保持台12に試験片18をセットする。この際、チャンネル部材の開口部の両端軸方向に膜部材が膨らんで侵入するのを防止するために、シリコン等の膜部材侵入防止部材29を設置する。
なお、セットした試験片18の開口部28の縁に膜部材14が破損しないように合成樹脂製の受け板等の膜部材破損防止材(不図示)を設置することが好ましい。
更に、膜部材14とシリンダ15の間には、合成ゴム系接着剤を塗布し、液漏れを防止してピストン16で発生させた圧力を保持する。
【0027】
試験片18のセットが完了したら、加圧工程に移行する。具体的には、図外の加圧装置によって鋼球31を介してピストン16を下降する。
すると、シリンダ15内に充填しておいた液体が圧力を受け、水圧底板13とシリンダ15の間に配置してある膜部材14が液圧により膨張変形する。そして、膨張した膜部材14が開口部28から進入して、メッシュ部材27に面外方向の液圧を付加する。
このようにして、チャンネル部材のシーム溶接メッシュの液圧破壊試験を行うことが可能となる。
【0028】
図10は、本発明の試験装置による液圧荷重範囲(ΔF)と破断繰返し数(Nf)を示す図である。
図10に示すように、液圧荷重を2000Nとした場合、破断繰り返し数は、約230回と約500回であった。また、液圧荷重を1000Nとした場合、破断繰り返し数は、約1800回であった。また、液圧荷重を500Nとした場合、破断繰り返し数は、約1300回と約4400回であった。
なお、図中に記載の荷重比Rは、最大荷重に対する最小荷重の割合(R=最小荷重/最大荷重)を示す。
【0029】
以上の結果から、液圧荷重と破断繰り返し数には、一定の相関関係があることが判明した。このように、本実施形態に係る液圧破壊試験装置M及び試験方法によれば、実機に近い液圧破壊試験を行うことができる。
【0030】
なお、上述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0031】
上述した実施形態では、宇宙機用推薬タンクとして、衛星用推薬タンクの場合について説明したが、これに限らない。
衛星用以外にも,ロケット、宇宙往還機、宇宙ステーションなどのように、無重力状態で推進あるいは姿勢制御する必要のあるもの(推薬タンクを備えるもの)であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る衛星用推薬タンクの液圧破壊試験装置を示す縦断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】同衛星用推薬タンクの液圧破壊試験装置の平面図である。
【図5】図2のC−C線拡大断面図である。
【図6】衛星用推薬タンクの一例を示す説明図ある。
【図7】液圧破壊試験装置に使用する試験片の平面図である。
【図8】同試験片の一部を切り欠いた側面図である。
【図9】図8のD−D線断面図である。
【図10】同試験装置による液圧荷重範囲(ΔF)と破断繰返し数(Nf)を示す図である。
【図11】従来の機械荷重負荷方式によるチャンネルメッシュ試験片を示す斜視図である。
【図12】従来の機械荷重負荷方式による試験装置の説明図である。
【符号の説明】
【0033】
M…液圧破壊試験装置
10…ベース部材
11…空間
12…試験片保持台
13…水圧底板
14…膜部材
15…シリンダ
16…ピストン
18…試験片
19…凹溝
26…チャンネル部材
27…メッシュ部材
28…開口部
29…膜部材侵入防止部材
60…衛星用推薬タンク(宇宙機用推薬タンク)
61…チャンネルメッシュ部材
P…荷重
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンネル部材の開口面にシーム溶着されたメッシュ部材の液圧破壊試験装置であって、
ベース部材の上に載置され、試験片のメッシュ部材の面外変形を可能とする空間を備えた試験片保持台と、
前記試験片保持台の上に載置され試験片の開口部周辺を押さえる水圧底板と、
前記水圧底板の上に載置された膜部材と、
前記膜部材の周縁を前記水圧底板との間で狭持するとともに試験片に向かって開口したシリンダと、
前記シリンダに挿通されたピストンと、からなり、
前記試験片保持台に保持された前記試験片の前記メッシュ部材に前記膜部材を介して前記シリンダとピストンによって面外方向の液圧を付加することを特徴とする宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験装置。
【請求項2】
前記膜部材は、厚さ0.2〜1.0mmのゴムであることを特徴とする請求項1に記載の宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験装置。
【請求項3】
前記チャンネル部材の開口部の両端軸方向に設置される膜部材侵入防止部材を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験装置。
【請求項4】
チャンネル部材の開口面にシーム溶着されたメッシュ部材の液圧破壊試験方法であって、
前記チャンネル部材のチャンネル面に液圧を作用させるための開口部を設ける試験片作成工程と、
前記チャンネル部材の開口部の両端軸方向に膜部材侵入防止部材を設置する工程と、
前記開口部から進入する可撓性の膜部材を介して、前記メッシュ部材に面外方向の液圧をシリンダによって付加する加圧工程と、
からなることを特徴とする宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験方法。
【請求項5】
前記加圧工程において、前記シリンダと前記膜部材の間に合成ゴム系接着剤を塗布することを特徴とする請求項4に記載の宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験方法。
【請求項1】
チャンネル部材の開口面にシーム溶着されたメッシュ部材の液圧破壊試験装置であって、
ベース部材の上に載置され、試験片のメッシュ部材の面外変形を可能とする空間を備えた試験片保持台と、
前記試験片保持台の上に載置され試験片の開口部周辺を押さえる水圧底板と、
前記水圧底板の上に載置された膜部材と、
前記膜部材の周縁を前記水圧底板との間で狭持するとともに試験片に向かって開口したシリンダと、
前記シリンダに挿通されたピストンと、からなり、
前記試験片保持台に保持された前記試験片の前記メッシュ部材に前記膜部材を介して前記シリンダとピストンによって面外方向の液圧を付加することを特徴とする宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験装置。
【請求項2】
前記膜部材は、厚さ0.2〜1.0mmのゴムであることを特徴とする請求項1に記載の宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験装置。
【請求項3】
前記チャンネル部材の開口部の両端軸方向に設置される膜部材侵入防止部材を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験装置。
【請求項4】
チャンネル部材の開口面にシーム溶着されたメッシュ部材の液圧破壊試験方法であって、
前記チャンネル部材のチャンネル面に液圧を作用させるための開口部を設ける試験片作成工程と、
前記チャンネル部材の開口部の両端軸方向に膜部材侵入防止部材を設置する工程と、
前記開口部から進入する可撓性の膜部材を介して、前記メッシュ部材に面外方向の液圧をシリンダによって付加する加圧工程と、
からなることを特徴とする宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験方法。
【請求項5】
前記加圧工程において、前記シリンダと前記膜部材の間に合成ゴム系接着剤を塗布することを特徴とする請求項4に記載の宇宙機用推薬タンクの液圧破壊試験方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−261682(P2008−261682A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103500(P2007−103500)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
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