説明

宇宙船の姿勢維持方法、制御モジュールおよび変位補正力の決定方法

【課題】この発明の実施の形態は、少なくとも1つの変位方向に対して変位した姿勢への宇宙船の変位に応じて宇宙船の編隊を維持する方法を開示する。
【解決手段】この発明の実施の形態は、少なくとも1つの変位方向に対して変位した姿勢への宇宙船の変位に応じて宇宙船の編隊を維持する方法を開示する。ここで、宇宙船は、補正力を発生するコマンドを生成することにより、補正力を発生するように、構成される。補正力は、宇宙船を変位方向に対して変位した姿勢に維持するように構成された基本力と、変位した姿勢での宇宙船の変位方向に対する編隊維持を最適化するように構成された余裕力との和の関数として決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には宇宙船の位置を決めることに関し、特に、基本姿勢からの誤差範囲内で宇宙船の姿勢を維持するシステムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
宇宙船は、通信を促進し、科学的データを集め、衛星による測量を促進し、地球圏外の観測を行なうために頻繁に使用される。たとえば、宇宙ベースの観測所は、観測の質に影響する天候の制約および大気の影響を受けずに、観測を可能にする。たとえば、人工衛星は、地球規模で気候と天然資源に関する科学的データを集める観測システムに対して不可欠である。
【0003】
使用目的によっては、宇宙船を基本姿勢に維持しなければならない。たとえば、多数の応用例では、2つ以上の互いに協力する宇宙船の星座を利用する。そのような応用例に対する宇宙船の使用は、星座の各宇宙船間の距離が相当に(十分に)高精度で維持されることを必要とする。したがって、宇宙船は、規定された(所定の)誤差範囲内で特定の配列で位置しなければならない。
【0004】
不運にも、宇宙船は、地球の不均一な重力、他の天体の重力の影響、太陽の圧力、大気のドラッグおよび推進システムなどによって引き起こされるような、「動揺させる」力(摂動力)を蒙りやすい。低高度軌道の宇宙船に対して、大気のドラッグは通常優勢な摂動力である。摂動力は、地球の偏平率(J)、大気密度と温度の変動、および太陽活動のマグニチュード(強度)を含む多数の要因により変動する。
【0005】
これらの要因による力は不均一であり得るし、また、各宇宙船の質量および輪郭は、経時的におよび宇宙船毎に変動し得るので、大気のドラッグおよびその他の摂動は、宇宙船の星座の宇宙船間の間隔に影響する。したがって、何ら処置が講じられない場合、宇宙船は、あらかじめ決められた(予定)位置から変動させられ、またそれらの規定された誤差範囲を越えて変動する。適切な宇宙船間ポジショニング(配置)を維持するために、星座における宇宙船は摂動力を補償(補正)する。
【0006】
2機の宇宙船構成に基づいた最近の応用例は、差動ドラッグ(抗力)やJエフェクト(効果)のような既知の外乱を受けつつ、長期に亘って、センチメートル単位の誤差範囲内で、「従」宇宙船が「リーダー(主)」宇宙船に対して固定された相対位置にあることを要求する。宇宙船の状態、すなわち位置と速度、はs=[x、v、y、vであり、宇宙船で利用可能なコントロール(制御)はc=[ΔV、ΔVであり、またTは転置オペレーター(演算子)である。宇宙船のダイナミックス(動力学)は、次の差分方程式によって記述することができる。
【0007】
【数1】

【0008】
ここで、行列AおよびBが宇宙船の物理的特性を表わし、ベクトルdが摂動力を表わす。この差分方程式は、宇宙船の現在状態k、制御および摂動力に基づいて次の時間ステップでの宇宙船の次の(k+1)状態を決定する。
【0009】
線形2次レギュレータ
1つの従来の編隊維持方法は、一種のフィードバックコントローラである線形2次レギュレータ(LQR)に基づく。LQRは、宇宙船の期待状態(望ましい状態)をs=[0、0、0、0]として定義する。これは所定位置での宇宙船について記述する。そして、宇宙船の位置および速度に対するいかなる非0値も、最小化されねばならない変位と考えられる。
【0010】
最小化するべき2次コスト関数Jは、次式で表される。
【0011】
【数2】

【0012】
ここで、QとRは、典型的には、要素が状態誤差および制御コストに関する重みにそれぞれ対応する対角線行列である。マグニチュード(強度)において連続で、且つ、各時間ステップの範囲中に適用される複数の制御を有する複数のシステムに対する最適解は、以下の式(1)で表される、制御を現在状態に直接関連づけるフィードバック法則である。
【0013】
【数3】

【0014】
ここで、
【数4】

であり、そして、Pは次式のように表される代数的リッカーティ式の解である。
【0015】
【数5】

【0016】
LQRコントローラは、宇宙船システムにおいて一般的に使用されるが、制御が時間的に且つマグニチュード(強度)的に連続であり、インパルシブ(衝撃的な)近似は、インパルス(衝撃)間のマグニチュード(強度:大きさ)あるいは期間のいずれかを変調することにより行なわれる。
【0017】
時間変調されたLQR制御
時間変調されたLQR制御は、制御入力ΔVthreshに対して閾値を設定することに基づく。衝撃間の時間間隔の間に、宇宙船が外乱により所定位置から変位させられることがあるので、状態変数sの大きさが増加し、また制御変数cの大きさも、式(1)にしたがって増大する。制御が閾値に達すると、大きさΔVthreshの衝撃が宇宙船に加えられる。閾値および重み行列Q、Rは経験的に得ることができる。したがって、時間変調されたLQR制御方法では、衝撃力の大きさは常に固定され、また、この方法は衝撃が出される時間だけを決定する。
【0018】
マグニチュード(強度:大きさ)変調されたLQR制御
大きさ変調されたLQR制御は、衝撃の時間を一定の間隔に決めること、および、式(1)の中のフィードバック法則によって与えられる衝撃大きさを加えることに基づく。衝撃時間は、一般的に、時間ステップの期間および重み行列Q、Rを経験的に調節することにより得られる。外乱が知られている場合、フィードバックΔVに加えることができるフィードフォワード項ΔVffを生成するため、将来の外乱は、現在の時間ステップの間に、前方へ積分されることができる。
【0019】
LQRコントローラの限界は、直接指定できないが、パラメータの調整を通じてのみ指定することができる、誤差閾値のような困難な制約を含むことである。コントローラは時間ステップ中に外乱についての知識を使用することができるが、最適化は行なわれない。1メートル未満の誤差閾値でのLQR編隊維持は、数秒の時間ステップを必要とし、それは多数の衝撃を生み出す。さらに、大きさ変調されたLQR制御は、数秒程度の小さな時間ステップを定義することを必要とし、それは衝撃の数をさらに増加させる。
【0020】
リニアプログラミング(線型計画)制御
別の編隊維持方法は、推進剤の消費を最小化しつつ、宇宙船を所定位置の近くに維持するために、将来における所定時間に対する制御プラン(計画)を生成するために、線型計画(LP)を使用する。時間の長さは、最適化によって考慮される将来における時間ステップの数として定義される。
【0021】
各将来の時間ステップに対する状態パラメータs、制御パラメータcおよび最適化パラメータwを含むベクトルは、z=[s、c、w、s、c、w、・・・、sであり、また、d=[d、d、・・・、dN−1は、所定の将来の期間中の既知の外乱のベクトルである。状態、制御および最適化パラメータの下限および上限を含むベクトルは、それぞれb=[s、cmin、0、smin、cmin、0、・・・、sminおよびbU=[s、cmax、wmax、smax、cmax、wmax、・・・、smaxである。計画の生成のためには、初期状態sは一定であり、測定によって決定される。対応するLP問題は、
【数6】

を条件として、min fzである。
ここで、
【数7】

である。ここで、1は1のベクトルであり、0はコンテキストに依存して零のベクトルか行列であり、Iは恒等行列である。
【0022】
しかしながら、従来のLP手法は不正確で信頼性が低い。たとえば、困難な制約のいくつかの定義はその問題を実行不可能にする。すなわち、コントローラは宇宙船を誤差範囲内に維持するための解を決定することができない。したがって、宇宙船は有効な制御プラン(計画)がない。仮に解を決定することができたとしても、開ループ制御計画の実行は必ずしも正確ではなく、宇宙船を規定された誤差範囲の外側の位置にさせる。また、LP問題は、変数が連続であると仮定するので、制御に対するパラメータの量子化は考慮されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
いくつかの応用例は、宇宙船のようなオブジェクト(物体)が基本姿勢から誤差範囲内に維持されることを要求する。あいにく、宇宙船は異なる力にさらされ、それらの力は宇宙船を変位させる。たとえば、宇宙船は、地球の不均一な重力、他の天体の重力の影響、太陽の圧力、大気のドラッグおよび推進システムなどによって引き起こされるような、「動揺させる」力(摂動力)にさらされる。したがって、宇宙船は摂動力を補償(補正)しなければならない。典型的には、宇宙船を基本姿勢から誤差範囲内に維持するために、内蔵のスラスターは非常に短期間の衝撃力を与え、それは速度、すなわちΔV、の瞬間的な変化としてモデル化される。
【0024】
宇宙船の変位を補正する操作は、「編隊(隊形)維持」あるいは「編隊飛行」として知られている。単一の宇宙船に対して、補正操作は「ステーションキーピング(静止位置の維持)」と呼ばれる。以後、用語「編隊維持」は宇宙船の全ての可能な操作について記述するために使用される。すなわち、この用語は、宇宙船を、少なくとも一方向の変位に対する基本姿勢の誤差範囲内に維持するプロセス(過程)について記述する。
【0025】
宇宙船の制御モジュールは編隊維持要件を満たす方向、時刻および補正力の大きさを決定する。良い性能を提供する制御モジュールは、宇宙船のミッションライフ(任務生活)に直接の影響を及ぼす推進剤の消費を最適化し、衝撃の数を減らし、それにより、有効な観測時間を増大させる。これは衝撃が宇宙船の動作を瞬間的に妨害するかも知れないからである。
【0026】
この発明の目的は、物体の変位に応じて基本姿勢から該変位の少なくとも一方向に対して変位された姿勢へ誤差範囲内で物体を維持するシステムおよび方法を提供することである。1つの実施の形態では、物体は宇宙船である。この実施の形態の1つのバリエーション(変形例)では、宇宙船は人工衛星である。
【0027】
この発明の別の目的は、変位を補正するために発生された補正力、たとえば衝撃、の数を最小化しつつ、宇宙船を誤差範囲内に維持することである。その目的のために、変位方向と反対の方向に発生される力の大きさが決定される。
【課題を解決するための手段】
【0028】
この発明の実施の形態は、2つの独立成分、すなわち宇宙船の変位の増加を防止する基本力(base force)、および宇宙船を誤差範囲内に維持し、かつ力の発生間の期間を最適化する1つの余裕力(excess force)、によって補正力が形成されるという認識に基づく。
【0029】
この発明の実施の形態は、これら2つの成分の組合せが宇宙船を誤差範囲内に維持することを可能にし、且つ宇宙船の性能を増大するように、該2つの成分を別々に決定する。さらに、これらの成分の独立は、編隊維持の計算の複雑さを著しく低減し、先行技術とは対照的に、変位を補正する時間および力の大きさの両方をダイナミックに決定することを可能にする。
【0030】
さらに、これらの実施の形態は、基本力の大きさを、変位した姿勢での宇宙船の速度から直接決定することができるという別の認識に基づく。この実施の形態の1つの変形例は、補正力の大きさの量子化された性質を考慮する。この変形例では、基本力の大きさは、速度および該大きさの量子化分解能に基づいて決定される。変位した位置での宇宙船への基本大きさの力の印加の結果は、宇宙船の速度が変位方向に対して実質的に零になるということであり、それは変位の程度(大きさ)の増大を防止する。
【0031】
余裕力の大きさは宇宙船の変位を減少させて、宇宙船を誤差範囲内に維持するように決定される。したがって、1つの実施の形態は、変位の方向に沿った誤差範囲にのみ基づいて余裕力の大きさ(以下、「余裕大きさ」とも言う)を決定する。さらに、別の実施の形態は、離散制御セット(組)のファクタ(複数の因子)を決定する力の大きさの量子化分解能を考慮し、量子化分解能と共に余裕力の大きさを与える因子を選択する。
【0032】
1つの実施の形態は、少なくとも1つの変位方向に対して変位した姿勢への宇宙船の変位に応じて宇宙船の編隊を維持する方法を開示する。ここで、宇宙船は、補正力を発生するコマンドを生成することにより、補正力を発生するように、構成される。補正力は、宇宙船を変位方向に対して変位した姿勢に維持するように構成された基本力と、変位した姿勢での宇宙船の変位方向に対する編隊維持を最適化するように構成された余裕力との和の関数として決定される。
【0033】
別の実施の形態は、変位方向に沿って定義された誤差範囲に対して宇宙船の姿勢を維持するのに適した制御モジュールであって、宇宙船が補正力を発生するように構成される制御モジュールを開示する。ここで、制御モジュールは、宇宙船により基本力を発生することが、変位方向に対して変位した姿勢で宇宙船の実質的に零速度となるような、該基本力を決定するための手段と、変位した姿勢で実質的に零速度を有する宇宙船により余裕力を発生させることが、誤差範囲に対して宇宙船の姿勢を最適化するように、該余裕力を決定するための手段と、変位方向と反対の方向に力を発生するコマンドを生成するための手段と、からなり、補正力は基本力および余裕力の和である。
【0034】
さらに別の実施の形態は、物体の変位を補正する補正力を決定する方法であって、変位の増大を防止するように構成された基本力と、変位を低減するように構成された余裕力と、の和の関数として、補正力をプロセッサによって決定するステップを含み、余裕力の大きさが離散制御セット(組)の大きさから選択される、方法を開示する。
【発明の効果】
【0035】
この発明によれば、物体の変位に応じて基本姿勢から該変位の少なくとも一方向に対して変位された姿勢へ誤差範囲内で物体を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】宇宙船の編隊維持のための、例示のシステムおよび方法のブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態による宇宙船の編隊維持のための方法のフローチャートである。
【図3】この発明の1つの実施の形態による、変位のx軸線に沿った編隊維持のための方法のフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態による離散時間コントローラの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
実施の形態1.
図1は、宇宙船110の編隊維持のための、システムおよび方法の一例のブロック図である。宇宙船は、たとえば、別の宇宙船120からの距離125によって定義される、基本姿勢115からの誤差範囲内に維持されるように要求される。他の実施の形態では、基本姿勢はグローバル(大域)座標系に対して定義される。
【0038】
この発明の異なる実施の形態は宇宙船110に関して記述される。しかしながら、実施の形態は、地球上および地球圏外の両方の、任意のタイプ(型)の物体に適用可能である。
【0039】
宇宙船は変位力131−132、たとえば摂動力、にさらされ、その結果、基本姿勢115から変位した姿勢116への宇宙船の変位を引き起こす。慣例により、またここに定義されるように、力は大きさと方向を有するベクトルである。
【0040】
各姿勢は、宇宙船の(x、y、z)位置および(θ、Φ、ω)方向により特徴づけられる。したがって、変位は、平行移動、回転、あるいはその組合せで有り得る。通常、変位117の方向は、基本姿勢から変位した姿勢への並進変位および回動変位の組合せである。同様に、変位の大きさは、基本姿勢と変位した姿勢との間の平面距離および角距離の組合せである。
【0041】
しかしながら、宇宙船のダイナミクスは宇宙船の自由度中に分離される。この発明の実施の形態は、変位軸に沿った、たとえば軸線x145および軸線y146に沿った変位、あるいは変位軸の回りの変位、たとえば軸線xの回りの回転135、などの宇宙船の1つの変位あるいはそれらの変位の組合せに適用可能である。したがって、変位は、変位軸に沿った変位133−134の拡張により、別々にあるいは組合せて、記述することができる。
【0042】
この記述を明瞭にするため、実施の形態は、x軸線に沿った宇宙船の並進変位に対して記述される。したがって、この明細書および添付の請求項の目的のため、変位の大きさは少なくとも1つの変位軸線に沿った、あるいはその軸線の回りの、変位した姿勢と基本姿勢との間の距離、たとえば大きさ(範囲)134、であり、また変位の方向は、少なくとも1つの変位軸線に沿った、あるいはその軸線の回りの、基本姿勢から変位した姿勢への方向である。
【0043】
宇宙船は、変位方向と反対の方向に補正力を発生するコマンドを生成することによって、変位を補正するように構成された制御モジュール140を含む。制御モジュールは当該技術において知られているようなプロセッサ141を含む。宇宙船は、対向する方向に、且つ選択された変位軸と整列されて、あるいは該軸の回りに配置された、少なくとも2つのスラスター148−149を含む。
【0044】
変位の補正のための力は連続的でもあり得るし、あるいは衝撃的でもあり得るが、その大きさは力の時間に関する積分値である。力が宇宙船に加えられると、宇宙船の運動量および速度が変えられる。しかしながら、長い間に加えられた小さな力は、短い間に加えられた大きな力と同一の運動量変化をもたらすことができる。したがって、この明細書および添付の請求項の目的のために、力は方向と大きさとを有しており、そして、その大きさの値は、該力を加えた結果における方向に沿った宇宙船の速度の変化に等しい。
【0045】
1つの実施の形態では、力は、該力の量子化分解能によって制限された大きさの衝撃力であり、すなわち、その大きさは量子化分解能の倍数である。力の大きさの値のセット(組)は連続的でもあり得るし、あるいは量子化されることもできる。連続的制御を実施した人工衛星は、任意の大きさの衝撃を加えることができる。量子化された制御を実施した人工衛星は、量子化分解能の倍数である大きさを持った力だけを加えることができる。たとえば、3mm/sの量子化分解能に対して、利用可能な大きさは、0mm/s、3mm/s、6mm/s、9mm/sなどである。
【0046】
典型的には、広さ範囲を有する誤差範囲155内に変位を維持しなければならない。誤差範囲は各横変位および角変位に対して定義される。異なる変位軸に対する誤差範囲は、所定位置が実質的にエラーボックスの中心にあるように、該所定位置を囲む側面151−152を有する該エラーボックス150を形成する。典型的には、一種の誤差範囲は、変位した姿勢が誤差範囲に接するように、該変位した姿勢に対応する。たとえば、宇宙船がx軸線に沿って変位されると、x軸線に沿った対応する誤差範囲がその範囲内に宇宙船を維持するために選択される。典型的には、最大の変位は誤差範囲の大きさの半分である。
【0047】
編隊維持の1つの目的は、変位を補正するために発生されたインパルス(衝撃)の数を最小化しつつ、宇宙船を誤差範囲内に維持することである。その目的のために、変位方向と反対の方向に発生される衝撃力の大きさが決定される。
【0048】
この発明の実施の形態は、上記の目的が補正力の2つの独立成分を含むという認識に基づく。1つの成分、以後「基本力」という、は、宇宙船の変位の増大を防止する役目をする、すなわち、宇宙船を誤差範囲に維持する役目をする。他の成分、以後「余裕力」という、は、宇宙船の変位を低減し、且つ現補正力の発生と次の補正力の発生との間の期間を最適化する役目をする。これら2つの別々の成分は、宇宙船を誤差範囲内に維持することを可能にし、且つ宇宙船の性能を増大するように、別々に決定される。さらに、これらの成分の独立は、編隊維持の計算の複雑さを著しく低減し、先行技術とは対照的に、補正力の時間および大きさの両方をダイナミックに決定することを可能にする。
【0049】
さらに、実施の形態は、基本力の大きさを、変位した姿勢での宇宙船の速度および制御モジュールの量子化分解能から直接決定することができるという別の認識に基づく。変位した位置での宇宙船への基本大きさの補正力の印加の結果は、宇宙船の速度が実質的に零になるということであり、それは変位の大きさの増大を防止する。たとえば、1つの実施の形態において、実質的に零の速度は量子化分解能未満の値を有する。この実施の形態の1つの変形例では、実質的に零の速度は変位方向と反対の方向を有する。
【0050】
余裕力は実質的に零の速度を有する宇宙船の変位の大きさを減少させるように決定され、したがって、余裕大きさの値は宇宙船の速度から独立している。1つの実施の形態では、余裕力の大きさは、制御モジュールの量子化分解能により制約される乱数である。しかしながら、他の実施の形態は、制御の量子化分解能と誤差範囲とに基づいて余裕大きさの値を最適化するために、余裕大きさの速度からの独立を使用する。さらに、制御の量子化された性質のために、余裕力の大きさは、有限の濃度の離散制御セット(組)から選択することができる。
【0051】
たとえば、1つの実施の形態は、変位、たとえば値dmaxによって境界づけられた摂動力、の大きさを考慮する。離散制御セットは、そのセットの要素に対して範囲を設定することにより決定される。最小の要素は零であり、また最大の要素は最小の量子化された大きさと等しく、それは、宇宙船が零速度からスタートして、且つ大きさdmaxの一定の摂動力によって抵抗されつつ、誤差範囲の反対側に到着することを可能にする。
【0052】
いくつかの実施の形態では、余裕力の最適値は整数計画法(IP)を使用して決定される。離散制御セットは、典型的には、少数の要素、たとえば粗い量子化に対しては15未満、および小さな誤差範囲を有するので、1つの実施の形態は全数列挙法を使用して、IP問題を解決する。
【0053】
図2は、この発明の実施の形態による宇宙船の編隊維持のための方法のブロック図である。まず、この方法は、変位での宇宙船への基本大きさの補正力の印加により、宇宙船の速度が実質的に零になって、変位の程度(大きさ)の増大を防止するように、補正力の基本大きさ215を決定210する。通常、補正力の、時間280で決定される基本大きさは以下に記述されるようなものであり、ここで、時間は変位の程度(大きさ)に基づいて決定される。
【0054】
1つの実施の形態では、補正力は衝撃的であり、また基本力の大きさΔVbaseは、
【数8】

により、変位した姿勢での宇宙船の速度230および制御モジュールの量子化分解能q240から直接量子化され決定される。
【0055】
基本力の発生は、変位が誤差範囲内に維持されることを保証する。この方法はまた、変位した姿勢での、速度が実質的に零の宇宙船への余裕大きさの補正力の印加により変位を増大するように、余裕力の大きさΔVexcess255を決定250する。したがって、制御モジュールは、指定時間280で補正力を発生するコマンドを生成する。ここで、補正力の大きさ265は基本大きさ215および余裕大きさ255の和260に等しい。
【0056】
いくつかの実施の形態では、余裕力の大きさは離散制御セットU274から得られる。ここで、U⊂N。1つの実施の形態では、大きさは、量子化分解能に離散制御セットから選択された要素を掛けることにより決定される。制御モジュールの量子化された性質のために、離散制御セットU⊂Nは有限数の要素N、すなわちU={0、1、N−1}を有する。いくつかの実施の形態では、離散制御セットの中で最も小さな要素は0か1のいずれかである。
【0057】
離散制御セットUの最も大きな要素は、宇宙船を、実質的に零の速度で、変位した姿勢からスタートして、大きさdmaxの変位力によって対抗されながら誤差範囲の反対側に到着させる、余裕力の最小の大きさとして決定される。たとえば、一定の大きさdmaxが2mm/sに等しい場合、量子化分解能は3mm/sであり、また、誤差範囲は400mmである。最小の連続する大きさは、
【数9】

により与えられる。
【0058】
この例に対して、最小の制御は40mm/sである。Uの最も大きな要素は、
【数10】

により与えられる。ここで、qは量子化分解能である。最も大きな要素は14であり、したがって、今、離散制御セットUは15の要素、U={0、1、・・・、14}から成ると定義することができる。
【0059】
1つの実施の形態では、余裕力の大きさは、離散制御セットから1つの要素を無作為に選択することにより得られる。代替の実施の形態では、整数計画法(IP)は、
【数11】

により、余裕大きさに対する最適値uを決定するために使用される。
ここで、関数φは、補正力の発生の間の期間Δt最大化する。関数φの引数としての時間tは、摂動力が時間的に可変になり得るという事実を考慮する。特定の要素u∈Uに対して、関数φは、時間tおよび次の時間t+Δtでの大きさΔVbase+quの力の印加の間の期間である。システムのダイナミックス(動力学)と摂動力とが知られているので、システムの将来の振舞および特定の大きさの力が発生された後の期間を予測することが可能である。
【0060】
1つの実施の形態は、上述のように、基本大きさの値を考慮に入れる。別の実施の形態は、衝撃力を発生するときに、宇宙船の速度が実質的に零であり、衝撃力の基本大きさの値を使用しない、と直接仮定する。
【0061】
特に、余裕力の大きさの値uは、摂動力の性質に依存して、分析的にあるいは数値的に決定される。したがって、最適なuのサーチ(検索)の間、摂動力の値が考慮に入れられる。
【0062】
典型的には、制御セットUは、粗い量子化且つ小さな誤差範囲により、少数の要素、たとえば15未満、を有する。したがって、1つの実施の形態では、IP問題は全数列挙法を使用して解決することができる。たとえば、制御セットUのすべての要素が、その関連する期間を得るために評価される。最大期間を与える要素が最適な要素uである。
【0063】
何百または何千というサイズ(大きさ)を有するより大きな制御セットに対して、遺伝的アルゴリズム(GA)のような方法が、最適解の評価においてより効率的であり得る。しかしながら、従来の方法に対比して、基本力の印加により困難な制約を満たす解を常に見つけることができる。
【0064】
図3は、この発明の1つの実施の形態による、変位のx軸線に沿った、宇宙船の編隊維持のための方法のフローチャートを示す。同様の方法が、変位の他の軸に沿った、あるいはその回りの編隊維持のために、使用される。開始310時に、制御モジュールは、宇宙船の現在位置xおよび速度vを読み出す320。
【0065】
制御モジュールは、宇宙船が誤差範囲の上限にあり、基本姿勢から離れるように移動している、と判定330する場合には、次に制御モジュールは、宇宙船が指定された誤差範囲を越えて基本姿勢から変位するのを防止する基本力の大きさΔVbaseを決定340する。その後、制御モジュールは、基本力と共同して、変位の方向に沿った編隊維持の性能を最適化する余裕力の大きさΔVexcessを決定350する。次に、制御モジュールは、基本大きさと余裕大きさとの和の関数(すなわち補正力の大きさがΔVbase+ΔVexcessに等しく、且つ補正力の方向が変位方向と反対の方向である)として補正力を発生するために、負のx方向に向いたスラスターへのコマンド(指令)360を生成する。
【0066】
制御モジュールは、宇宙船が下限にあり、また誤差範囲から離れるように移動している、と判定330する場合には、次に、制御モジュールは基本力を決定345し、余裕力を決定355し、また、基本大きさと余裕大きさとの和に等しい大きさの衝撃を発生するため、正のx方向に向いたスラスターへのコマンド365を生成する。
【0067】
最後に、宇宙船が誤差範囲内にある場合には、制御コマンドは生成されない。この方法は繰り返し繰り返される。すなわち、制御モジュールは現在位置xおよび現在速度vを獲得し、制御規則を評価し、生成すべきコマンドがあれば、それを決定する。
【0068】
しかしながら、上記方法の直接の適用は、或る時間ステップの期間に関係する短い時間の間、所定位置の誤差範囲を越えて宇宙船を変位させる場合がある。したがって、1つの実施の形態は、宇宙船が、次の1つ、あるいは少数の時間ステップにおいて誤差範囲を越えて変位されるか否か、を予測する。この実施の形態では、制御モジュールは、各衝撃力を発生するため制御規則およびコマンドを前もって評価する。
【0069】
いくつかの実施の形態において、制御モジュールは、システムの状態、すなわち宇宙船の位置および速度、を周期的に検知し、制御規則を評価し、必要ならば、コマンドを生成する、図4に示されるような離散時間コントローラとして実施される。状態は、補正力が加えられるべきか否かを判断するために、条件付きのスイッチ430において評価される。補正力が加えられるべきである場合、状態情報は、基本力の計算のために、フィードバック制御440に送信される。状態情報も、余裕力の計算のために、基本制御と共に最適制御410に送信される。基本制御および最適な超過制御は、スラスターへ発生されるコマンドを決定するために、付加450される。
【0070】
この発明は好ましい実施の形態の例として記述されたが、この発明の趣旨及び範囲内で様々な他の改変および変更を行ってもよいことが理解されるべきである。したがって、この発明の真実の趣旨及び範囲内に入るような、全ての変更例及び変形例をカバーすることが、添付の特許請求の範囲の目的である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの変位方向に対して変位した姿勢への宇宙船の変位に応じて宇宙船の編隊を維持する方法であって、前記宇宙船は補正力を発生するように構成され、
前記補正力を、前記宇宙船を変位方向に対して前記変位した姿勢に維持するように構成された基本力と、前記変位した姿勢での前記宇宙船の変位方向に対する編隊維持を最適化するように構成された余裕力との和の関数として決定する工程と、
前記補正力を発生するコマンドを生成する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記変位した姿勢で前記宇宙船の速度に基づいて前記基本力の大きさを決定する工程、
をさらに含む、請求項1の方法。
【請求項3】
前記基本力は、該基本力の大きさが量子化分解能の倍数であるような、量子化分解能を有する衝撃力であり、
前記量子化分解能に基づいて前記基本力の大きさを決定する工程、
をさらに含む、請求項2の方法。
【請求項4】
前記大きさを決定する工程は、次式によってなされ、
【数1】

ここで、ΔVbaseは変位の方向xに沿った前記基本力の大きさであり、vは前記変位の方向に沿った前記宇宙船の速度であり、また、qは前記量子化分解能である、
請求項3の方法。
【請求項5】
前記変位した姿勢は誤差範囲に接し、
前記基本力を前記誤差範囲に基づいて決定する工程、
をさらに含む、請求項1の方法。
【請求項6】
前記余裕力は、該余裕力の大きさが量子化分解能の倍数であるような、量子化分解能を有する衝撃力であり、
前記変位の方向に沿った誤差範囲の取得する工程と、
前記余裕力が前記補正力と次の補正力との間の期間を最適化するように、前記余裕力の大きさを前記誤差範囲および前記量子化分解能に基づいて決定する工程と、
をさらに含む、請求項1の方法。
【請求項7】
離散制御セットの大きさを決定する工程と、
前記余裕力の大きさを前記離散制御セットから選択する工程と、
をさらに含む、請求項6の方法。
【請求項8】
全数列挙法を使用して、前記余裕力の大きさを前記離散制御セットから選択する工程、
をさらに含む、請求項7の方法。
【請求項9】
整数計画法(IP)を使用して、前記余裕力の大きさを前記離散制御セットから選択する工程、
をさらに含む、請求項7の方法。
【請求項10】
前記離散制御セットの中の要素U∈N、U={0、1、・・・.N−1}の数は有限の濃度Nを有しており、また、前記IPは次の関数φを最大化することにより最適なuを決定し、
【数2】

ここで、uは前記量子化分解能を掛けられて前記余裕力を生成する因子であり、ΔVbaseは前記基本力の大きさであり、tは前記補正力が加えられる時間である、請求項9の方法。
【請求項11】
前記宇宙船は値dmaxによって境界付けられた大きさを有する変位力にさらされ、また、前記離散制御セットを決定する工程は、
前記離散制御セットの最も大きな要素を、前記宇宙船を実質的に零の速度で前記変位した姿勢からスタートして、前記大きさdmaxの変位力によって対抗されながら誤差範囲の反対側に到着させる、前記前記余裕力の最小の大きさとして決定する工程と、
前記離散制御セットの中で最も小さな要素を0か1のいずれかとして選択する工程と、
をさらに含む、請求項7の方法。
【請求項12】
次式により最小の連続する大きさΔvを決定する工程と、
【数3】

ここで、rangeは前記誤差範囲の大きさであり、
次式により最大の要素maxUを決定する工程と、
【数4】

ここで、qは前記量子化分解能である、
をさらに含む、請求項11の方法。
【請求項13】
前記変位の程度および誤差範囲に基づいて前記補正力を発生する時間を決定する工程、
をさらに含む、請求項1の方法。
【請求項14】
前記補正力、前記基本力および前記余裕力は量子化分解能を有し、また前記変位した姿勢は前記変位の方向に沿って誤差範囲に接し、
次式により前記基本力の大きさを決定する工程と、
【数5】

ここで、ΔVbaseは変位の方向xに沿った前記基本力の大きさであり、vは前記変位の方向に沿った前記宇宙船の速度であり、また、qは前記量子化分解能であり、
離散制御セットの大きさから前記余裕力の大きさを決定する工程と、をさらに含み、ここで、前記離散制御セットの中で最大の要素maxUが次式により決定され、
【数6】

ここで、Δvは、次式であり、
【数7】

ここで、rangeは前記誤差範囲の大きさであり、また、dmaxは前記変位力の大きさの限界である、
請求項1の方法。
【請求項15】
変位方向に沿って定義された誤差範囲に対して宇宙船の姿勢を維持するのに適した制御モジュールであって、前記宇宙船は補正力を発生するように構成され、
前記宇宙船により基本力を発生することが、前記変位方向に対して変位した姿勢で前記宇宙船の実質的に零速度となるように、該基本力を決定するための手段と、
前記変位した姿勢で実質的に零速度を有する前記宇宙船により余裕力を発生させることが、前記誤差範囲に対して前記宇宙船の姿勢を最適化するように、該余裕力を決定するための手段と、
前記変位方向と反対の方向に力を発生するコマンドを生成するための手段と、を備え、前記補正力は前記基本力および前記余裕力の和である、制御モジュール。
【請求項16】
変位の程度および誤差範囲に基づいて前記補正力を発生する時間を決定するための手段、
をさらに含む、請求項15の制御モジュール。
【請求項17】
基本力を決定するための前記手段は、次式により該基本力の大きさを決定するように構成されたプロセッサを含み、
【数8】

ここで、ΔVbaseは変位の方向xに沿った前記基本力の大きさであり、vは前記変位の方向に沿った前記宇宙船の速度であり、また、qは量子化分解能である、
請求項16の制御モジュール。
【請求項18】
余裕力を決定するための前記手段は、次式により該余裕力の大きさを決定するように構成されたプロセッサを含み、
【数9】

ここで、Δvは次式であり、
【数10】

ここで、rangeは前記誤差範囲の大きさであり、また、dmaxは変位力の大きさの限界である、
請求項16の制御モジュール。
【請求項19】
物体の変位を補正するための補正力を決定する方法であって、前記変位の増大を防止するように構成された基本力と、前記変位を低減するように構成された余裕力と、の和の関数として、前記補正力をプロセッサによって決定する工程を含み、前記余裕力の大きさが離散制御セットの大きさから選択される、方法。
【請求項20】
前記変位および変位力に基づいて前記離散制御セットの中で最大の要素を決定する工程と、
前記離散制御セットの中で最も小さな要素を0か1のいずれかとして選択する工程と、
をさらに含む、請求項19の方法。
【請求項21】
前記変位を前記誤差範囲の大きさの半分として定義する工程、
をさらに含む、請求項19の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−25381(P2012−25381A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−135072(P2011−135072)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(597067574)ミツビシ・エレクトリック・リサーチ・ラボラトリーズ・インコーポレイテッド (484)
【住所又は居所原語表記】201 BROADWAY, CAMBRIDGE, MASSACHUSETTS 02139, U.S.A.
【Fターム(参考)】