説明

安定した赤外線フィルム

基板、結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物と、ジビニルエーテルポリマー、フルオロポリマー、及びシリコーンポリマーからなる群から選択される有機ポリマーとの層、ならびに場合によりアミニウム化合物の層を覆う撥水層を含む赤外線フィルムが提供される。そのような赤外線フィルムは、光学特性が安定しており、そしてセキュリティーマーキング、流体の分析用の検査片、及び赤外で検出される他の物品に有用である。そのような赤外線フィルムを製造する方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に、赤外線フィルムの分野に関し、詳細には熱及び光に対して安定していて撥水性があり、色が非常に薄いが強度の赤外吸収を提供する赤外線フィルムに関係する。より具体的には本発明は、結晶状態のアミニウムフリーラジカルカチオン化合物と、ジビニルエーテルポリマー、フルオロポリマー、及びシリコーンポリマーからなる群から選択される有機ポリマーとを含む少なくとも一つの層を含む赤外線フィルムに関係する。本発明は、流体の分析用の検査片、セキュリティーマーキング、及び本発明の赤外線フィルムを含む他の光学物品にも関係し、そして本発明の赤外線フィルムを利用することにより検査片、セキュリティーマーキング、又は他の光学物品を製造する方法にも関係する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
幾つかの製品、例えば、セキュリティーマーキング及び流体試料の分析用の検査片は、赤外領域に強い吸収を有する無色又はほぼ無色の層から利益を得て、その製品は赤外線スキャナ又はカメラにより読み取ることができるが、ヒト又は可視スキャナもしくはカメラにより検出されるほど十分な可視像を提供しない。例えば、Corey等への米国特許第6,316,264号には、未知物質の存在もしくは濃度、又は液体検査試料中の構成物質を決定するための検査片が記載されており、その検査片は、赤外領域内に検出可能な応答を有するが、可視領域内では検査片の応答を妨害しない赤外線層を含む。同じく、例えば、全てCarlsonへ付与された米国特許第6,381,059号;同第6,589,451号;及び同第7,151,626号には、アミニウムラジカルカチオン化合物を含み、赤外領域内での検出が可能であるが、ヒトの目又は可視スキャナによる検出では不可視又はほぼ不可視である、セキュリティーマーキング用の赤外線層が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そのような赤外線層では、赤外吸収の強度及び可視着色のレベルが、光、熱及び周囲条件下での長期貯蔵に対して非常に安定していれば、そして水性流体との直接の接触を含む特定の適用例(例えば、流体試料用の検査片)の場合、それが撥水性で流体が赤外線層を覆っていなければ、又は変性させなければ、有利となろう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の概要
本発明は、色が非常に薄いが強い安定した赤外吸収を提供し、好ましくは撥水性である、赤外線フィルムに関係する。
【0005】
本発明の一態様は、基板及び少なくとも一つの層を含む赤外線フィルムに関係し、その少なくとも一つの層は、結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物と、ジビニルエーテルポリマー、フルオロポリマー、及びシリコーンポリマーからなる群から選択される有機ポリマーとを含む。一実施態様において、アミニウムラジカルカチオン化合物は、アミニウムラジカルカチオンの塩であり、その塩のアニオンは、ヘキサフルオロアンチモナート及びヘキサフルオロホスファートからなる群から選択される。一実施態様において、アミニウムラジカルカチオン化合物は、テトラキス(フェニル)−1,4−ベンゼンジアミンラジカルカチオンの塩である。一実施態様において、アミニウムラジカルカチオン化合物は、トリス(フェニル)−アミニウムラジカルカチオンの塩である。
【0006】
本発明の赤外線フィルムの一実施態様において、赤外線フィルムの少なくとも一つの層は、800〜900nmの範囲内に吸収ピークを有する。一実施態様において、420〜680nmの範囲内の、赤外線フィルムの少なくとも一つの層の吸収が、800〜900nmの範囲内の吸収ピークでの吸収の20%未満であり、好ましくは800〜900nmの範囲内の吸収ピークでの吸収の10%未満である。
【0007】
本発明の赤外線フィルムの別の態様は、結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、及び1,4−シクロヘキサンジメタノール、のジビニルエーテルのポリマーの群から選択されるジビニルエーテルポリマーと、を含む少なくとも一つの層に関係する。一実施態様において、アミニウムラジカルカチオン化合物及びジビニルエーテルポリマーを含む少なくとも一つの層は、更に、脂肪族ウレタンを含む。一実施態様において、少なくとも一つの層は、フルオロポリマーを含む。一実施態様において、少なくとも一つの層は、フルオロポリマー及び脂肪族ウレタンを含む。一実施態様において、少なくとも一つの層は、シリコーンポリマーを含む。一実施態様において、少なくとも一つの層は、シリコーンポリマー及び脂肪族ウレタンを含む。
【0008】
本発明の赤外線フィルムの別の態様は、反射性不透明基板、好ましくは白色ポリエステルフィルムを含む基板に関する。
【0009】
本発明の赤外線フィルムの更に別の態様は、アミニウムラジカルカチオン化合物を含む少なくとも一つの層を覆う撥水層を含む赤外線フィルムに関係する。一実施態様において、撥水層は、フルオロポリマーを含む。一実施態様において、撥水層は、シリコーンポリマー、好ましくは架橋されたシリコーンポリマーを含む。
【0010】
本発明の一態様は、流体の分析用の検査片に関係し、その検査片は、基板及び少なくとも一つの層を含む赤外線フィルムを含み、その少なくとも一つの層は、結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物と、ジビニルエーテルポリマー、フルオロポリマー、及びシリコーンポリマーからなる群から選択される有機ポリマーとを含む。一実施態様において、基板は、白色ポリエステルフィルムであり、少なくとも一つの層は、結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物、脂肪族ウレタン、及びジビニルエーテルポリマーを含み、そして撥水性の第二の層が、その少なくとも一つの層を覆う。
【0011】
本発明の別の態様は、セキュリティーマーキングに関係し、そのセキュリティーマーキングは、基板及び少なくとも一つの層を含む赤外線フィルムを含み、その少なくとも一つの層は、結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物と、ジビニルエーテルポリマー、フルオロポリマー、及びシリコーンポリマーからなる群から選択される有機ポリマーとを含む。
【0012】
本発明の更に別の態様は、光学物品に関係し、その光学物品は、基板及び少なくとも一つの層を含む赤外線フィルムを含み、その少なくとも一つの層は、結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物と、ジビニルエーテルポリマー、フルオロポリマー、及びシリコーンポリマーからなる群から選択される有機ポリマーとを含む。一実施態様において、赤外線フィルムは、アミニウムラジカルカチオン化合物を含む少なくとも一つの層のうちの少なくとも一つの表面にレーザ像パターンを含み、そのアミニウムラジカルカチオン化合物の赤外吸収がレーザへの暴露により変化して、レーザ像パターンが赤外領域内で読み取り可能になる。一実施態様において、レーザ像パターンは、1400nmを超える目に安全な領域内で読み取り可能である。
【0013】
本発明の別の態様は、赤外線フィルムを製造する方法に関し、その方法は、(a)基板、(b)その基板を覆い、結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物と、ジビニルエーテルポリマー、フルオロポリマー、及びシリコーンポリマーからなる群から選択される有機ポリマーとを含む第一の層、ならびに(c)第一の層を覆う第二の撥水層、を提供するステップを含む。一実施態様において、第二の層は、フルオロポリマーを含む。一実施態様において、第二の層は、シリコーンポリマーを含む。一実施態様において、基板は、反射性不透明基板、好ましくは白色ポリエステルフィルムである。
【0014】
当業者に理解されるとおり、本発明の一態様又は実施態様の特徴は、本発明の他の態様又は実施態様にも適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
【0016】
[有機フリーラジカル化合物]
本明細書で用いられる用語「有機フリーラジカル化合物」は、有機化合物の基底状態で、例えば炭素原子、窒素原子、又は酸素原子である原子上に少なくとも1個の遊離不対電子を含む有機化合物に関係する。本発明の赤外線層、検査片、セキュリティーマーキングシステム、及び光学物品に関して適切な有機フリーラジカル化合物は、有機フリーラジカルカチオンの塩を含む。簡潔にする目的で、用語「有機フリーラジカルカチオン」、「有機ラジカルカチオン」、及び「ラジカルカチオン」は、本明細書内では相互に交換可能に用いられる。本明細書で用いられる言語「カチオン」は、分子内の正電荷原子、例えば、正電荷の窒素原子に関係する。有機フリーラジカル化合物の遊離不対電子及び正電荷が、単一の原子上に位置するか、又は1個を超える原子の間で共有されていてもよいことに留意しなければならない。
【0017】
本発明の赤外線層、検査片、セキュリティーマーキングシステム、及び光学物品に関する有機フリーラジカルカチオンの適切な塩の例としては、非限定的に、アミニウムラジカルカチオン化合物の塩、例えば、トリス(p−ジブチルアミノフェニル)アミニウムヘキサフルオロアンチモナートが挙げられ、それは、Smithfield, RIのSperian Protectionから入手できる染色剤の商品名IR-99として市販されている。アミニウムラジカルカチオン化合物の別の適切な塩は、Smithfield, RIのSperian Protectionから入手できる染色剤の商品名IR-165である。IR-165は、テトラキス(フェニル)−1,4−ベンゼンジアミンラジカルカチオンのヘキサフルオロアンチモナート塩である。
【0018】
Carlsonへの米国特許第7,151,626号及びCarlson等への米国特許出願公開第20070097510号に記載されたとおり、アミニウムラジカルカチオン化合物を含むコーティングが、赤外領域で高レベルの反射率を示すことが見出された。IR-165型化合物を含む層は、赤外線遮断が同量であるIR-99型化合物よりも、可視の400〜700nm波長領域でかなり低い吸収を有しており、つまりそれは強い赤外吸収及び遮断があり、全く、又はほとんど可視色を含まないことが望ましい製品適用に好ましい。
【0019】
用語「赤外」及び「赤外領域」は、本明細書で相互に交換可能に用いられ、そして700nm〜2500nmの波長に関係する。用語「可視波長領域」、「可視波長」、「可視領域」、及び「可視」は、本明細書では相互に交換可能に用いられ、そして400nm〜700nmの波長に関係する。
【0020】
本発明の赤外線層に関する有機ラジカルカチオン化合物の適切な塩としては、非限定的に、アミニウムラジカルカチオン化合物の塩が挙げられる。塩に関する対アニオンの選択は、様々な因子、例えば、赤外線層を使用する容易さ及びコスト、ならびに有機ラジカルカチオン塩が用いられる赤外線層の、酸素、水分、及び光子暴露による変性に対して必要となる安定性に依存する。
【0021】
式(1)には、本発明の赤外遮断層のための代表的なフリーラジカル化合物であるIR-99の化学構造が示される。IR-99は、トリス(4−ジアルキルアミノフェニル)アミニウムラジカルカチオンの塩の例である。
【0022】
【化1】

【0023】
IR-99が窒素原子の1個に示された単一の遊離電子を含む有機フリーラジカル化合物であることが、チャート1から認められる。それは、この例では、ヘキサフルオロアンチモナートアニオンを含む塩形態で存在する。
【0024】
本発明の赤外線フィルムの一実施態様において、アミニウムラジカルカチオン化合物は、アミニウムラジカルカチオンの塩であり、その塩のアニオンは、ヘキサフルオロアンチモナート及びヘキサフルオロホスファートからなる群から選択される。一実施態様において、アミニウムラジカルカチオン化合物は、テトラキス(フェニル)−1,4−ベンゼンジアミンラジカルカチオンの塩である。一実施態様において、アミニウムラジカルカチオン化合物は、トリス(フェニル)−アミニウムラジカルカチオンの塩である。
【0025】
[セキュリティーマーキングシステム、検査片、及び光学物品のための赤外線フィルム]
本発明は、色が非常に薄いが強い赤外吸収を提供し、そして好ましくは撥水性である、安定した赤外線フィルムに関係する。本明細書で用いられる言語「フィルム」は、本明細書ではポリエステルフィルムと呼ばれる白色ポリエチレンテレフタラートのフィルム、透明ポリエステルフィルム、白色ポリスチレンフィルム、透明ポリプロピレンフィルム、及び白色ポリ塩化ビニル(PVC)フィルムなどの透明又は不透明基板上にある少なくとも一つの層を含む任意の物品又は製品に関係する。例えば、本発明の赤外線フィルムとしては、プラスチック又はポリマー層が紙又は金属又は別のプラスチックフィルム上にコーティング又は積層された形態が挙げられる。
【0026】
本発明の一態様は、基板及び少なくとも一つの層を含む赤外線フィルムに関係し、少なくとも一つの層は、結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物と、ジビニルエーテルポリマー、フルオロポリマー、及びシリコーンポリマーからなる群から選択される有機ポリマーとを含む。一実施態様において、アミニウムラジカルカチオン化合物は、アミニウムラジカルカチオンの塩であり、その塩のアニオンは、ヘキサフルオロアンチモナート及びヘキサフルオロホスホナートからなる群から選択される。一実施態様において、アミニウムラジカルカチオン化合物は、テトラキス(フェニル)−1,4−ベンゼンジアミンラジカルカチオンの塩である。一実施態様において、アミニウムラジカルカチオン化合物は、トリス(フェニル)−アミニウムラジカルカチオンの塩である。
【0027】
アミニウムラジカルカチオン化合物の結晶状態は、貯蔵条件下ならびに熱、光、及び水分への暴露下で、赤外線フィルムの光学特性に更なる安定性を提供する。アミニウムラジカルカチオン化合物の結晶状態とは、アミニウムラジカルカチオン化合物がその層内に結晶を形成していることを意味する。これらの結晶は、高倍率の顕微鏡で観察することができ、又は透明の赤外線フィルムの場合には、結晶形成のため曇り度(percent haze)が上昇することにより見ることもできる。アミニウムラジカルカチオン化合物、例えばIR-165の結晶状態は、高温、例えば130℃で層を長期間加熱することにより、又はコーティング配合剤の中に、アミニウムラジカルカチオン化合物への溶解度が低い高沸点溶媒、例えば2,4−ペンタンジオンを含むことにより、形成させることができる。この高沸点溶媒は、アミニウムラジカルカチオン化合物を、乾燥の最終段階で沈殿又は結晶化させ、それにより赤外線フィルムの層内に、結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物を形成させる。
【0028】
本発明の赤外線フィルムの一実施態様において、赤外線フィルムの少なくとも一つの層は、800〜900nmの範囲内に吸収ピークを有する。これは、赤外線スキャナ又はカメラにより検出される典型的な赤外波長範囲である。一実施態様において、420〜680nmの範囲内の、赤外線フィルムの少なくとも一つの層の吸収は、800〜900nmの範囲内の吸収ピークでの吸収の20%未満であり、好ましくは800〜900nmの範囲内の吸収ピークでの吸収の10%未満である。結晶状態のIR-165は、これらの所望の吸収特性の適合及び保持に特に適している。
【0029】
本発明の赤外線フィルムの別の態様は、結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、及び1,4−シクロヘキサンジメタノール、のジビニルエーテルのポリマーの群から選択されるジビニルエーテルポリマーと、を含む少なくとも一つの層に関係する。特定の理論に拘束されるのを望むものではないが、カチオン性の基を有するアミニウムラジカルカチオン化合物は、ジビニルエーテル化合物のモノマーのカチオン重合を触媒して、ジビニルエーテル化合物のポリマーを形成させると考えられる。ジビニルエーテルポリマーを提供する一つのアプローチが、アミニウムラジカルカチオン化合物及び有機溶媒、例えば2-ブタノン及びシクロヘキサノンのコーティング配合剤中にジビニルエーテル化合物のモノマーを含ませることで、層を生成し、そして層の乾燥及び加熱中にモノマーの一部を揮発及び除去しながら、層の乾燥及び加熱後にジビニルエーテル化合物の一部をポリマー状態で残留させることである。一実施態様において、アミニウムラジカルカチオン化合物及びジビニルエーテルポリマーを含む少なくとも一つの層は、更に、脂肪族ウレタン、例えば、Huntsman Corporationから入手できる脂肪族ウレタンの商品名CA-128を含むことができる。その脂肪族ウレタンポリマーは、層に凝集強さ及び接着強さを付与する。一実施態様において、少なくとも一つの層は、更に、フルオロポリマー、例えば、Wilmington, DEのDupont Corporationから入手できるポリフッ化ビニリデンポリマーの商品名Kynar 9037を含む。そのフルオロポリマーは、撥水性及び耐水性を付与して、層の安定性を上昇させる。フルオロポリマーは、層のコーティングの流動性及び均一性も上昇させる。一実施態様において、少なくとも一つの層は、更に、フルオロポリマー及び脂肪族ウレタンを含む。一実施態様において、少なくとも一つの層は、更に、シリコーンポリマー、例えば、ジメチルポリシロキサンポリマーを含む。シリコーンポリマーは、撥水性及び耐水性を付与して、層の安定性を上昇させる。シリコーンポリマーは、層のコーティングの流動性及び均一性も上昇させる。一実施態様において、少なくとも一つの層は、更に、シリコーンポリマー及び脂肪族ウレタンを含む。
【0030】
本発明の赤外線フィルムの別の態様は、赤外線及び紫外線を反射する硫酸バリウム顔料粒子を含む反射性不透明基板、好ましくは白色ポリエステルフィルム、例えば、Hopewell, VAのDupont Teijin Corporationのポリエステルフィルムの商品名MELINEX 339を含む基板に関する。アミニウムラジカルカチオン化合物を含む層への初期透過、及び基板に反射された後のこの層への逆透過(return pass)の中の赤外線を遮断する赤外線フィルムが、層内のアミニウム化合物が非常に少量、例えば0.05g/m2以下であっても赤外線スキャナ又はカメラにより容易に検出されうるような高赤外線反射率の背景を提供するのに、反射性不透明基板が有用となる。
【0031】
本発明の赤外線フィルムの更に別の態様は、アミニウムラジカルカチオン化合物を含む少なくとも一つの層を覆う撥水層を含む赤外線フィルムに関係する。この撥水性は、水による変性に対する安定性を上昇させること、及び赤外線フィルムの表面から望ましくない任意の水性流体をはじいて、赤外領域での検出の妨害を回避すること、又は可視領域での任意の望ましくない検出を防止することに有用である。撥水性のレベルは、撥水層上の水滴では少なくとも60°の接触角、好ましくは少なくとも90°の接触角である。一実施態様において、撥水層は、フルオロポリマー、例えばポリフッ化ビニリデンポリマーを含む。一実施態様において、撥水層は、シリコーンポリマー、好ましくは架橋性シリコーンポリマー、例えば、撥水層内で架橋されたシリコーンポリマーを形成するSi−H基を有するポリシロキサンを含む。
【0032】
本発明の一態様は、流体の分析用の検査片に関係し、その検査片は、基板及び少なくとも一つの層を含む赤外線フィルムを含み、少なくとも一つの層は、結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物と、ジビニルエーテルポリマー、フルオロポリマー、及びシリコーンポリマーからなる群から選択される有機ポリマーとを含む。一実施態様において、基板は、白色ポリエステルフィルムであり、少なくとも一つの層は、結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物、脂肪族ウレタン、及びジビニルエーテルポリマーを含み、第二の層が、その少なくとも一つの層を覆い、その第二の層は、シリコーンポリマーを含む。
【0033】
本発明の別の態様は、セキュリティーマーキングに関係し、そのセキュリティーマーキングは、基板及び少なくとも一つの層を含む赤外線フィルムを含み、その少なくとも一つの層は、結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物と、ジビニルエーテルポリマー、フルオロポリマー、及びシリコーンポリマーからなる群から選択される有機ポリマーとを含む。
【0034】
本発明の更に別の態様は、光学物品に関係し、その光学物品は、基板及び少なくとも一つの層を含む赤外線フィルムを含み、その少なくとも一つの層は、結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物と、ジビニルエーテルポリマー、フルオロポリマー、及びシリコーンポリマーからなる群から選択される有機ポリマーとを含む。光学物品としては、非限定的に、流体の分析用の検査片、セキュリティーマーキング及びセキュリティーマーキングシステム、ならびにその物品を、赤外領域内で光学的に検出又は利用してもよい他の適用例が挙げられる。一実施態様において、赤外線フィルムは、アミニウムラジカルカチオン化合物を含む少なくとも一つの層のうちの少なくとも一つの表面にレーザ像パターンを含み、そのアミニウムラジカルカチオン化合物の赤外吸収がレーザへの暴露により変化して、レーザ像パターンが赤外領域内で読み取り可能になる。典型的には、レーザは、赤外レーザ、例えば、830nmで発光する半導体ダイオードレーザ又は1065nmで発光するYAGレーザである。一実施態様において、レーザ像パターンは、1400nmを超える目に安全な領域で読み取り可能である。アミニウムラジカルカチオン化合物の選択に応じて、700nm〜1600nm及びそれを超えて検出されるこの広範囲の赤外領域は、赤外線フィルムを目に安全な波長で読み取る選択を提供することで、例えば、店舗のレジで、又は暗い部屋で人が怪我をする心配がないように、赤外レーザ装置で読み取ることができることで有用である。
【0035】
本発明の別の態様は、赤外線フィルムを製造する方法に関し、その方法は、(a)基板、(b)その基板を覆い、結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物と、ジビニルエーテルポリマー、フルオロポリマー、及びシリコーンポリマーからなる群から選択される有機ポリマーとを含む第一の層、ならびに(c)第一の層を覆う第二の撥水層、を提供するステップを含む。一実施態様において、第二の層は、フルオロポリマーを含む。一実施態様において、第二の層は、シリコーンポリマーを含む。一実施態様において、基板は、反射性不透明基板、好ましくは白色ポリエステルフィルムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板及び少なくとも一つの層を含む赤外線フィルムであって、前記少なくとも一つの層が、結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物と、ジビニルエーテルポリマー、フルオロポリマー、及びシリコーンポリマーからなる群から選択される有機ポリマーとを含む赤外線フィルム。
【請求項2】
前記アミニウムラジカルカチオン化合物が、アミニウムラジカルカチオンの塩であり、前記塩のアニオンが、ヘキサフルオロアンチモナート及びヘキサフルオロホスファートからなる群から選択される、請求項1記載の赤外線フィルム。
【請求項3】
前記アミニウムラジカルカチオン化合物が、テトラキス(フェニル)−1,4−ベンゼンジアミンラジカルカチオンの塩である、請求項1記載の赤外線フィルム。
【請求項4】
前記アミニウムラジカルカチオン化合物が、トリス(フェニル)−アミニウムラジカルカチオンの塩である、請求項1記載の赤外線フィルム。
【請求項5】
前記赤外線フィルムの前記少なくとも一つの層が、800〜900nmの範囲内の吸収ピークを有する、請求項1記載の赤外線フィルム。
【請求項6】
前記赤外線フィルムの前記少なくとも一つの層の420〜680nmの範囲内の吸収が、800〜900nmの範囲内の前記吸収ピークでの吸収の20%未満である、請求項5記載の赤外線フィルム。
【請求項7】
前記赤外線フィルムの前記少なくとも一つの層の420〜680nmの範囲内の吸収が、830〜860nmの範囲内の前記吸収ピークでの吸収の10%未満である、請求項5記載の赤外線フィルム。
【請求項8】
前記ジビニルエーテルポリマーが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、及び1,4−シクロヘキサンジメタノール、のジビニルエーテルのポリマーの群から選択される、請求項1記載の赤外線フィルム。
【請求項9】
前記アミニウムラジカルカチオン化合物及び前記ジビニルエーテルポリマーを含む前記少なくとも一つの層が、更に、脂肪族ウレタンポリマーを含む、請求項8記載の赤外線フィルム。
【請求項10】
前記フルオロポリマーが、ポリフッ化ビニリデンである、請求項1記載の赤外線フィルム。
【請求項11】
前記アミニウムラジカルカチオン化合物及び前記ポリフッ化ビニリデンを含む前記少なくとも一つの層が、更に、脂肪族ウレタンポリマーを含む、請求項10記載の赤外線フィルム。
【請求項12】
前記シリコーンポリマーが、ジメチルポリシロキサンポリマーである、請求項1記載の赤外線フィルム。
【請求項13】
前記アミニウムラジカルカチオン化合物及び前記ジメチルポリシロキサンポリマーを含む前記少なくとも一つの層が、更に、脂肪族ウレタンポリマーを含む、請求項12記載の赤外線フィルム。
【請求項14】
前記アミニウムラジカルカチオン化合物を含む前記少なくとも一つの層が、ジビニルエーテルポリマー及びフルオロポリマーを含む、請求項1記載の赤外線フィルム。
【請求項15】
前記アミニウムラジカルカチオン化合物を含む前記少なくとも一つの層が、更に、脂肪族ウレタンポリマーを含む、請求項14記載の赤外線フィルム。
【請求項16】
前記アミニウムラジカルカチオン化合物を含む前記少なくとも一つの層が、ジビニルエーテルポリマー及びシリコーンポリマーを含む、請求項1記載の赤外線フィルム。
【請求項17】
前記アミニウムラジカルカチオン化合物を含む前記少なくとも一つの層が、更に、脂肪族ウレタンポリマーを含む、請求項16記載の赤外線フィルム。
【請求項18】
前記基板が、反射性不透明基板を含む、請求項1記載の赤外線フィルム。
【請求項19】
前記基板が、白色ポリエステルフィルムである、請求項1記載の赤外線フィルム。
【請求項20】
前記赤外線フィルムが、前記アミニウムラジカルカチオン化合物を含む前記少なくとも一つの層を覆う撥水層を含む、請求項1記載の赤外線フィルム。
【請求項21】
前記撥水層が、フルオロポリマーを含む、請求項20記載の赤外線フィルム。
【請求項22】
前記撥水層が、シリコーンポリマーを含む、請求項20記載の赤外線フィルム。
【請求項23】
前記撥水層の前記シリコーンポリマーが、架橋されたシリコーンポリマーである、請求項22記載の赤外線フィルム。
【請求項24】
請求項1記載の前記赤外線フィルムを含む、流体の分析用の検査片。
【請求項25】
a.白色ポリエステルフィルム;
b.結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物、脂肪族ウレタンポリマー、及びジビニルエーテルポリマーを含む第一の層;
c.前記第一の層を覆い、シリコーンポリマーを含む第二の層、
を含む赤外線フィルムを含む、流体の分析用の検査片。
【請求項26】
請求項1記載の前記赤外線フィルムを含む、セキュリティーマーキング。
【請求項27】
請求項1記載の前記赤外線フィルムを含む、光学物品。
【請求項28】
前記赤外線フィルムが、前記アミニウムラジカルカチオン化合物を含む前記少なくとも一つの層のうちの少なくとも一つの表面にレーザ像パターンを含み、前記アミニウムラジカルカチオン化合物の赤外吸収がレーザへの暴露により変化して、前記レーザ像パターンが赤外領域内で読み取り可能になる、請求項27記載の光学物品。
【請求項29】
前記レーザ像パターンが、1400nmを超える目に安全な領域で読み取り可能である、請求項28記載の光学物品。
【請求項30】
a.基板、
b.前記基板を覆い、結晶状態のアミニウムラジカルカチオン化合物と、ジビニルエーテルポリマー、フルオロポリマー、及びシリコーンポリマーからなる群から選択される有機ポリマーとを含む第一の層、
c.前記第一の層を覆う撥水性の第二の層、
を提供するステップを含む、赤外線フィルムを製造する方法。
【請求項31】
前記第二の層が、フルオロポリマーを含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記第二の層が、シリコーンポリマーを含む、請求項30記載の方法。
【請求項33】
前記基板が、反射性不透明基板である、請求項30記載の方法。
【請求項34】
前記反射性不透明基板が、白色ポリエステルフィルムである、請求項33記載の方法。

【公表番号】特表2012−511162(P2012−511162A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534506(P2011−534506)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/005850
【国際公開番号】WO2010/062340
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(511107360)
【氏名又は名称原語表記】CARLSON,Steven,Allen
【Fターム(参考)】