説明

安定な中間接続層を有するタンデム式OLED

タンデム式OLEDは、アノードと;カソードと;該アノードとカソードの間に配置されていて、それぞれが少なくとも1つの発光層を備える複数の有機エレクトロルミネッセンス・ユニットと;隣り合ったそれぞれの有機エレクトロルミネッセンス・ユニットの間に配置された中間接続層とを含んでなり、該中間接続層が、4.0eV以上の仕事関数を持つ高仕事関数金属層と、金属化合物とを少なくとも含み、該中間接続層の面抵抗率が100kΩ/□よりも大きく、かつ、高仕事関数金属層がOLEDの動作安定性を向上させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の有機エレクトロルミネッセンス(EL)ユニットを用意してタンデム式(またはカスケード式、または積層式)有機エレクトロルミネッセンス・デバイスを形成することに関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(EL)デバイス、または有機発光ダイオード(OLED)は、印加された電圧に応答して光を出す電子デバイスである。OLEDの構造には、アノードと、有機EL媒体と、カソードが順番に含まれる。アノードとカソードの間に配置された有機EL媒体は、一般に、有機正孔輸送層(HTL)と、有機電子輸送層(ETL)からなる。ETL内のHTL/ETL界面の近くで正孔と電子が再結合して光が出る。Tangらは、「有機エレクトロルミネッセンス・ダイオード」、Applied Physics Letters、第51巻、913ページ、1987年と、譲受人に譲渡されたアメリカ合衆国特許第4,769,292号において、このような層構造を利用した高効率OLEDを提示した。そのとき以来、別の層構造を有する多数のOLEDが開示されてきた。例えば、HTLとETLに挟まれた有機発光層(LEL)を含む3層OLEDがあり、例えばAdachi他、「3層構造を有する有機膜におけるエレクトロルミネッセンス」、Japanese Journal of Applied Physics、第27巻、L269ページ、1988年や、Tang他、「ドープされた有機薄膜のエレクトロルミネッセンス」、Journal of Applied Physics、第65巻、3610ページ、1989年などに開示されている。LELは、一般に、ゲスト材料をドープされたホスト材料を含んでおり、層構造はHTL/LEL/ETLと表記される。さらに、他の多層OLEDとして、デバイスの内部に正孔注入層(HIL)および/または電子注入層(EIL)および/または正孔阻止層および/または電子阻止層を含むものが存在している。これらの構造によってデバイスの性能がさらに向上した。
【0003】
さらに、OLEDの性能をより向上させるため、個々のOLEDを鉛直方向にいくつか積層させることによって製造されていて単一の電源で駆動するタンデム式OLED(または積層式OLED、またはカスケード式OLED)と呼ばれる新しいタイプのOLED構造も製造されている。それは例えばTanakaらのアメリカ合衆国特許第6,107,734号、Jonesらのアメリカ合衆国特許第6,337,492号、Kidoらの日本国特開2003/045676A、アメリカ合衆国特許出願公開2003/0189401 A1、Liaoらのアメリカ合衆国特許第6,717,358号、アメリカ合衆国特許出願公開2003/0170491 A1、2003年5月13日に出願されて譲受人に譲渡された「n型とp型の有機層を有する接続ユニットを備えるカスケード式有機エレクトロルミネッセンス・デバイス」という名称のアメリカ合衆国特許出願シリアル番号第10/437,195号に記載されている(これらの開示内容は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。例えばTanakaらは、アメリカ合衆国特許第6,107,734号において、中間接続層としてIn-Zn-O(IZO)膜またはMg:Ag/IZO膜を用いた3-ELユニット・タンデム式OLEDを提示しており、純粋なトリス(8-ヒドロキシ-キノリン)アルミニウム発光層から10.1cd/Aという輝度効率を実現した。Kidoらは、「電荷生成層を有する高効率有機ELデバイス」、SID 03 Digest、964ページ、2003年において、中間接続層としてIn-Sn-O(ITO)膜またはV2O5膜を用いた3-ELユニット・タンデム式OLEDを製造し、蛍光染料をドープした発光層から48cd/Aに達する輝度効率を実現した。Liaoらは、「高効率タンデム式有機発光ダイオード」、Applied Physics Letters、第84巻、167ページ、2004年において、中間接続層としてドープした有機“p-n”接合層を用いた3-ELユニット・タンデム式OLEDを提示しており、リン光染料をドープした発光層から136cd/Aという輝度効率を実現した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中間接続層として有機“p-n”接合を用いることは光学的な外部カップリングに有効であり、デバイスの製造が容易になる。しかし別の方法としてタンデム式OLEDで無機中間接続層を用いる必要もある。したがって安定な無機中間接続層を探索することが相変わらず必要とされている。
【0005】
中間接続層としてIZO膜またはITO膜を利用すると横方向の導電性が大きくなるため、画素のクロストークという問題が発生する。さらに、IZO膜やITO膜を形成するにはスパッタリングが必要であり、その下にある有機層にダメージを与える可能性がある。中間接続層としてV2O5膜を用いると画素のクロストークを制限できるが、V2O5は非常に毒性のある物質に分類されており(例えばオールドリッチ社のカタログを参照のこと)、しかも蒸着させることが難しい。
【0006】
本発明の1つの目的は、非毒性材料を用いたタンデム式OLEDを製造することである。
【0007】
本発明の別の目的は、動作安定性が向上したタンデム式OLEDを製造することである。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、駆動電圧が改善されたタンデム式OLEDを製造することである。
【0009】
本発明のさらに別の目的は、電力効率が向上したタンデム式OLEDを製造することである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、光の透過率が向上したタンデム式OLEDを製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの目的は、タンデム式OLEDであって、
a)アノードと;
b)カソードと;
c)該アノードと該カソードの間に配置されていて、それぞれが少なくとも1つの発光層を備える複数の有機エレクトロルミネッセンス・ユニットと;
d)隣り合ったそれぞれの有機エレクトロルミネッセンス・ユニットの間に配置された中間接続層とを含んでなり、該中間接続層が、4.0eV以上の仕事関数を持つ高仕事関数金属層と、金属化合物層とを少なくとも含み、該中間接続層の面抵抗率が100kΩ/□よりも大きく、かつ、該高仕事関数金属層が該OLEDの動作安定性を向上させているタンデム式OLEDによって達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の1つの利点は、タンデム式OLEDの製造に用いる材料を毒性のないものにできることである。これは、OLEDの用途を広げる上で重要であろう。
【0013】
本発明の別の利点は、中間接続層において高仕事関数金属の(0.2nmという薄さの)薄膜を用いることによってタンデム式OLEDの動作安定性を向上させうることである。
【0014】
本発明のさらに別の利点は、高仕事関数金属の薄膜を含む中間接続層を利用することにより、タンデム式OLEDの駆動電圧を小さくできることである。その結果、タンデム式OLEDの電力効率を向上させることができる。
【0015】
本発明のさらに別の利点は、中間接続層を約2nmという薄さにできるため、タンデム式OLEDにおいて大きな透過率が可能になることである。
【0016】
本発明のさらに別の利点は、タンデム式OLEDの構造で用いるすべての層を同じ真空チェンバーの中で熱蒸発法によって作製できるため、製造コストを少なくし、しかも製造収率を大きくできることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
個々の層が薄すぎて実際のスケールで図示するとさまざまな層の厚さの違いが大きくなりすぎるため、図1〜図5は実際のスケール通りになっていない。
【0018】
譲受人に譲渡されたアメリカ合衆国特許第6,717,358号、アメリカ合衆国特許出願公開2003/0170491 A1、Liaoらによって2003年5月13日に出願されて譲受人に譲渡された「n型とp型の有機層を有する接続ユニットを備えるカスケード式有機エレクトロルミネッセンス・デバイス」という名称のアメリカ合衆国特許出願シリアル番号第10/437,195号(これらの開示内容は、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)に、タンデム式OLED(または積層式OLED、またはカスケード式OLED)の層構造が開示されている。このデバイス構造には、アノードと、カソードと、複数の有機ELユニットと、複数の接続ユニット(今後は中間接続層と呼ぶ)が含まれており、それぞれの中間接続層は2つの有機ELユニットの間に配置されている。このタンデム構造では電源が1つだけ必要とされ、アノードとカソードにその電源が接続されてアノードに正電位を印加し、カソードに負電位を印加する。OLEDは、光の透過率が大きくて電荷注入が有効になされると、エレクトロルミネッセンスの効率が高い。
【0019】
本発明では、少なくとも1つの高仕事関数金属層と金属化合物層が含まれた中間接続層を内部に形成することによってタンデム式OLEDを構成し、そのタンデム式OLED性能を向上させる。
【0020】
図1には、本発明によるタンデム式OLED100を示してある。このタンデム式OLED100は、アノード110とカソード140を備えており、その少なくとも一方は透明である。アノードとカソードの間にはN個の有機ELユニット120が配置されている。ここに、Nは2以上の整数である。これら有機ELユニットは順番に積層された状態でアノードとカソードの間に挟まれている。これら有機ELユニットは120.1〜120.Nと表記してある。ここに、120.1は(アノードに隣接する)1番目のELユニットであり、120.Nは(カソードに隣接する)N番目のELユニットである。ELユニット120という用語は、本発明で120.1〜120.Nと名づけた任意のELユニットを表わす。互いに隣り合った2つの有機ELユニットの間には、中間接続層(またはコネクタ)130が配置されている。全部でN-1個の中間接続層がN個の有機ELユニットに付随して存在しており、130.1〜130.(N-1)と表記する。中間接続層130.1は、有機ELユニット120.1と120.2の間に配置されており、中間接続層130.2は、有機ELユニット120.2と次のELユニットの間に配置されており、中間接続層130.(N-1)は、有機ELユニット120.(N-1)と120.Nの間に配置されている。中間接続層130という用語は、本発明で130.1〜130.(N-1)と名づけた任意の中間接続層を表わす。タンデム式OLED100は、外部の電圧/電流源150に導電線160を通じて接続されている。
【0021】
タンデム式OLED100は、電圧/電流源150が発生させる電位を一対の接触電極、すなわちアノード110とカソード140の間に、アノード110がカソード140に対して正電位になるように印加することによって作動する。この外部から印加する電位は、N個ある有機ELユニットに、その各ユニットの電気抵抗値に比例して分布する。タンデム式OLEDに印加される電圧によって正孔(正に帯電したキャリア)がアノード110から1番目の有機ELユニット120.1に注入され、電子(負に帯電したキャリア)がカソード140からN番目の有機ELユニット120.Nに注入される。それと同時に電子と正孔が各中間接続層130.1〜130.(N-1)の中に発生し、各中間接続層130.1〜130.(N-1)から離れる。例えば中間接続層130.(N-1)の中でこのようにして発生する電子は、隣接する有機ELユニット120.(N-1)に注入されてアノードに向かう。同様に、中間接続層130.(N-1)の中で発生する正孔は、隣接する有機ELユニット120.Nに注入されてカソードに向かう。その後、これらの電子と正孔が対応する有機ELユニットの中で再結合して光を出す。その光は、OLEDの透明な1つまたは複数の電極を通じて観察される。言い換えるならば、カソードから注入された電子はN番目の有機ELユニットから1番目の有機ELユニットへとエネルギーをカスケード式に伝え、それぞれの有機ELユニットの中で光を出す。
【0022】
タンデム式OLED100の各有機ELユニット120は、正孔と電子の輸送と電子-正孔再結合をサポートして光を発生させることができる。それぞれの有機ELユニット120は複数の層を含むことができる。本発明の有機ELユニットで使用できる多くの有機EL多層構造が従来技術で知られている。そのような構造として、HTL/ETL、HTL/LEL/ETL、HIL/HTL/LEL/ETL、HIL/HTL/LEL/ETL/EIL、HIL/HTL/電子阻止層または正孔阻止層/LEL/ETL/EIL、HIL/HTL/LEL/正孔阻止層/ETL/EILなどがある。タンデム式OLEDの各有機ELユニットは、他の有機ELユニットと層構造が同じでも異なっていてもよい。アノードに隣接する1番目の有機ELユニットの層構造は、HIL/HTL/LEL/ETLであることが好ましく、カソードに隣接するN番目の有機ELユニットの層構造はHTL/LEL/ETL/EILであることが好ましく、他の有機ELユニットの層構造はHTL/LEL/ETLであることが好ましい。図2(ELユニット220)には、本発明のタンデム式OLED100に含まれるELユニット120の一実施態様が示してあり、ELユニット220は、HTL221と、LEL222と、ETL223を備えている。
【0023】
有機ELユニットに含まれる有機層は、小分子OLED材料、またはポリマーLED材料、または両方の組み合わせから形成することができる。なお小分子OLED材料とポリマーLED材料は、どちらも従来技術で知られている。タンデム式OLEDに含まれる各有機ELユニットの対応する有機層は、他の対応する有機層と同じでも異なっていてもよい。いくつかの有機ELユニットをポリマーに、他のユニットを小分子にすることができる。
【0024】
それぞれの有機ELユニットは、性能が向上するように選択すること、または望む属性(例えばOLED多層構造の光透過率、駆動電圧、輝度効率、発光色、取り扱いやすさ、デバイスの安定性など)が実現されるように選択することができる。
【0025】
タンデム式OLEDの駆動電圧を小さくするためには、発光効率を損なうことなく、それぞれの有機ELユニットをできるだけ薄くすることが望ましい。各有機ELユニットは、厚さが500nm未満であることが好ましく、2〜200nmであることがより好ましい。有機ELユニットの各層は、厚さが200nm以下であることが好ましく、0.1〜100nmであることがより好ましい。
【0026】
タンデム式OLEDに含まれる有機ELユニットの数は、原則として2以上である。タンデム式OLEDに含まれる有機ELユニットの数は、輝度効率(単位はcd/A)が向上するか最大になる数であることが好ましい。照明の用途では、有機ELユニットの数は、電源の最大電圧によって決めることができる。
【0027】
よく知られているように、従来のOLEDは、アノードと、有機媒体と、カソードを備えている。本発明のタンデム式OLEDは、アノードと、複数の有機ELユニットと、複数の中間接続層と、カソードとを備えており、中間接続層がこのタンデム式OLEDの新しい特徴になっている。
【0028】
タンデム式OLEDが効果的に機能するためには、中間接続層が隣接する有機ELユニットにキャリアを効果的に提供する必要がある。金属、金属化合物、これら以外の無機化合物は有機材料よりも抵抗率が小さいため、キャリアの注入に有効である可能性がある。しかし抵抗率が小さいことで面抵抗が小さくなり、画素のクロストークが発生する可能性がある。隣接する画素間を通過する横方向の電流によって画素のクロストークが起こるが、その横方向の電流を画素の駆動に用いる電流の10%未満に制限するのであれば、中間接続層の横方向の抵抗値(Ric)は、タンデム式OLEDの抵抗値の少なくとも8倍でなければならない。一般に、従来型OLEDの2つの電極間の静的抵抗値はほぼ数kΩであるが、タンデム式OLEDは、2つの電極間の抵抗値が約10kΩ〜数10kΩでなくてはならない。したがってRicは100kΩよりも大きくなくてはならない。各画素間のスペースが単位面積よりも小さいことを考えると、中間接続層の面抵抗は、100kΩ/□よりも大きくなくてはならない(横方向の抵抗値は、面抵抗×□)。面抵抗は膜の抵抗率と厚さの両方によって決まるため(面抵抗は膜の抵抗率を膜の厚さで割った値)、中間接続層を構成する層を抵抗率の小さな金属、金属化合物、これら以外の無機化合物の中から選択すると、層が十分に薄いのであれば中間接続層で100kΩを超える面抵抗を実現することが可能である。
【0029】
タンデム式OLEDが効果的に機能するための別の条件は、有機ELユニットと中間接続層を構成する層の透過率ができるだけ大きくなっていて、有機ELユニットの中で発生する光がデバイスの外に出られることである。簡単な計算によると、各中間接続層の透過率が出る光の70%だと、タンデム式OLEDの利点はあまりなかろう。なぜなら、デバイス中にいくら多くのELユニットが存在していても、従来型のデバイスと比べて発光効率を2倍にすることは決してできないからである。有機ELユニットを構成する層は、一般に、そのELユニットから発生する光に対して透明であるため、その透過率は、一般にタンデム式OLEDを構成する際に問題にならない。公知のように、金属、金属化合物、これら以外の無機化合物は透過率が小さい。しかし中間接続層を構成する層を金属、金属化合物、これら以外の無機化合物の中から選択するとき、層を十分に薄くするのであれば、光の透過率を70%よりも大きくすることが可能である。中間接続層は、スペクトルの可視領域での透過率が少なくとも75%であることが好ましい。
【0030】
したがって隣り合う有機ELユニットの間に設けられた中間接続層は非常に重要である。なぜなら中間接続層は、画素のクロストークも透過率の低下もなしに、隣接する有機ELユニットに電子と正孔を効率的に注入するために必要だからである。図3には、本発明による中間接続層の一実施態様が示してある。中間接続層330は、順番に、低仕事関数金属層331と、高仕事関数金属層332と、金属化合物層333を含んでいる。この明細書では、低仕事関数金属は、仕事関数が4.0eV未満の金属と定義される。同様に、高仕事関数金属は、仕事関数が4.0eV以上の金属と定義される。低仕事関数金属層331は、アノード側が有機ELユニットのETLに隣接して配置されており、金属化合物層333は、カソード側が別の有機ELユニットのHTLに隣接して配置されている。低仕事関数金属層331は、隣接する電子輸送層に電子が効果的に注入されるように選択する。金属化合物層333は、隣接する正孔輸送層に正孔が効果的に注入されるように選択する。金属化合物層は、p型半導体を含んでいることが好ましいが、必ずしもそうでなくてもよい。高仕事関数金属層332は、低仕事関数金属層331と金属化合物層333の間で起こる可能性のある相互作用または相互拡散を阻止することによってOLEDの動作安定性が向上するように選択する。
【0031】
図4には、本発明による中間接続層の別の一実施態様が示してある。中間接続層430は、順番に、n型半導体層431と、高仕事関数金属層332と、金属化合物層333を含んでいる。n型半導体層431は、アノード側が有機ELユニットのETLに隣接して配置されており、金属化合物層333は、カソード側が別の有機ELユニットのHTLに隣接して配置されている。この明細書では、n型半導体層とは、その層が導電性であり、主要な電荷担体が電子であることを意味する。同様に、p型半導体層とは、その層が導電性であり、主要な電荷担体が正孔であることを意味する。図3に示した低仕事関数金属層331と同様、n型半導体層431は、隣接する電子輸送層に電子が効果的に注入されるように選択する。図3と同様、金属化合物層333は、隣接する正孔輸送層に正孔が効果的に注入されるように選択し、高仕事関数金属層332は、n型半導体層431と金属化合物層333の間で起こる可能性のある相互作用または相互拡散を阻止することによってOLEDの動作安定性が向上するように選択する。
【0032】
ELユニットのETLがn型ドープ有機層である場合には、中間接続層の層構造を図5に示したように簡単化することができる。この図では、中間接続層530は、順番に、アノード側が有機ELユニットのn型ドープETLに隣接して配置された高仕事関数金属層332と、カソード側が別の有機ELユニットのHTLに隣接して配置された金属化合物層333を含んでいる。金属化合物層333は、隣接する正孔輸送層に正孔が効果的に注入されるように選択し、高仕事関数金属層332は、n型ドープETLと金属化合物層333の間で起こる可能性のある相互作用または相互拡散を阻止することによってOLEDの動作安定性が向上するように選択する。この明細書では、n型ドープ層とは、その層が導電性であり、電荷担体が主に電子であることを意味する。導電性は、ドーパントからホスト材料に電荷が移動する結果として電荷移動錯体が形成されることによって生じる。層の導電性は、ドーパントの濃度と、ドーパントがホスト材料に電子を供与する効率に応じ、数桁違ってくる可能性がある。ELユニットのETLとしてn型ドープ有機層を用いると、電子を隣接する中間接続層からETLに効果的に注入することができる。
【0033】
中間接続層が大きな光透過率(スペクトルの可視領域での光透過率が少なくとも75%)と、優れたキャリア注入能力と、優れた動作安定性を持つようにするためには、中間接続層に含まれる各層の厚さを注意深く制御する必要がある。中間接続層に含まれる低仕事関数金属層331の厚さは、0.1nm〜5.0nmの範囲である。この範囲は、0.2nm〜2.0nmの範囲であることが好ましい。中間接続層に含まれる高仕事関数金属層332の厚さは、0.1nm〜5.0nmの範囲である。この範囲は、0.2nm〜2.0nmの範囲であることが好ましい。中間接続層の金属化合物層333の厚さは、0.5nm〜20nmの範囲である。この範囲は、1.0nm〜5.0nmの範囲であることが好ましい。中間接続層のn型半導体層431の厚さは、0.5nm〜20nmの範囲である。この範囲は、1.0nm〜5.0nmの範囲であることが好ましい。
【0034】
中間接続層を形成するのに用いる材料は、基本的に非毒性材料の中から選択する。低仕事関数金属層331は、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybのいずれかを含んでいる。低仕事関数金属層331は、Li、Na、Cs、Ca、Ba、Ybのいずれかを含んでいることが好ましい。
【0035】
高仕事関数金属層332は、Ti、Zr、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、In、Snのいずれかを含んでいる。高仕事関数上記金属層332は、Ag、Al、Cu、Au、Zn、In、Snのいずれかを含んでいることが好ましい。より好ましいのは、高仕事関数上記金属層332がAgまたはAlを含んでいることである。
【0036】
金属化合物層333の選択は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、ケイ素、ゲルマニウム、またはこれらの組み合わせの化学量論的酸化物または非化学量論的酸化物の中から行なうことができる。金属化合物層333の選択は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、ケイ素、ゲルマニウム、またはこれらの組み合わせの化学量論的硫化物または非化学量論的硫化物の中から行なうことができる。金属化合物層333の選択は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、ケイ素、ゲルマニウム、またはこれらの組み合わせの化学量論的セレン化物または非化学量論的セレン化物の中から行なうことができる。金属化合物層333の選択は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、ケイ素、ゲルマニウム、またはこれらの組み合わせの化学量論的テルル化物または非化学量論的テルル化物の中から行なうことができる。金属化合物層333の選択は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、ケイ素、ゲルマニウム、またはこれらの組み合わせの化学量論的窒化物または非化学量論的窒化物の中から行なうことができる。金属化合物層333の選択は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、ケイ素、ゲルマニウム、またはこれらの組み合わせの化学量論的炭化物または非化学量論的炭化物の中から行なうこともできる。
【0037】
金属化合物層333は、MoO3、NiMoO4、CuMoO4、WO3、ZnTe、Al4C3、AlF3、B2S3、CuS、GaP、InP、SnTeの中から選択することができる。金属化合物層333は、MoO3、NiMoO4、CuMoO4、WO3の中から選択することが好ましい。
【0038】
n型半導体層431は、ZnSe、ZnS、ZnSSe、SnSe、SnS、SnSSe、LaCuO3、La4Ru6O19などを含んでいる。n型半導体層431は、ZnSeまたはZnSを含んでいることが好ましい。
【0039】
中間接続層は、熱蒸発、電子ビーム蒸発、イオン・スパッタリング法のいずれかで形成することができる。タンデム式OLEDでは、蒸着法を利用してすべての材料(中間接続層も含む)を堆積させることが好ましい。
【0040】
本発明のタンデム式OLEDは支持用基板の上に設けられて、カソードまたはアノードがその基板と接するのが一般的である。基板と接する電極は、通常、底部電極と呼ばれる。一般に底部電極はアノードであるが、本発明がこの構成に限定されることはない。基板は、どの方向に光を出したいかに応じ、透過性または不透明にすることができる。透光特性は、基板を通してEL光を見る上で望ましい。その場合には、透明なガラスまたはプラスチックが一般に用いられる。EL光を上部電極を通じて見るような用途では、底部支持体の透過特性は重要でないため、底部支持体は、光透過性、光吸収性、光反射性のいずれでもよい。この場合に用いる基板としては、ガラス、プラスチック、半導体材料、シリコン、セラミック、回路板材料などがある。もちろんこのような構成のデバイスでは、透光性のある上部電極を設ける必要がある。
【0041】
EL光をアノード110を通して見る場合には、アノードは、興味の対象となる光に対して透明であるか、実質的に透明である必要がある。本発明で用いる透明なアノード用の一般的な材料は、インジウム-スズ-酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛-酸化物(IZO)、スズ酸化物であるが、他の金属酸化物(例えばアルミニウムをドープした酸化亜鉛、インジウムをドープした酸化亜鉛、マグネシウム-インジウム酸化物、ニッケル-タングステン酸化物)も可能である。これら酸化物に加え、金属窒化物(例えば窒化ガリウム)、金属セレン化物(例えばセレン化亜鉛)、金属硫化物(例えば硫化亜鉛)をアノード材料として用いることができる。EL光をカソード電極だけを通して見るような用途では、アノード材料の透過特性は重要でなく、あらゆる導電性材料(透明なもの、不透明なもの、反射性のもの)を使用することができる。この用途での具体的な導電性材料としては、銀、金、イリジウム、モリブデン、パラジウム、白金などがある。典型的なアノード材料は、透過性であろうとなかろうと、仕事関数が4.0eV以上である。望ましいアノード材料は、一般に適切な任意の手段(例えば蒸発、スパッタリング、化学蒸着、電気化学的手段)で堆積される。アノード材料は、よく知られているフォトリソグラフィ法を利用してパターニングすることができる。場合によっては、アノードの表面を研磨して凹凸を減らしてから他の層を堆積させることで、短絡を少なくしたり、反射率を大きくしたりすることができる。
【0042】
必ずしも必要ではないが、有機ELユニットにHILを設けると有用であることがしばしばある。HILは、あとに続く有機層の膜形成特性を向上させ、HTLに正孔を注入しやすくすることができるため、タンデム式OLEDの駆動電圧が低下する。HILで用いるのに適した材料としては、アメリカ合衆国特許第4,720,432号に記載されているポルフィリン化合物、アメリカ合衆国特許第6,208,075号に記載されているプラズマ堆積させたフルオロカーボン・ポリマー、いくつかの芳香族アミン(例えばm-MTDATA(4,4',4"-トリス[(3-エチルフェニル)フェニルアミノ]トリフェニルアミン))などがある。有機ELデバイスで有用であることが報告されている他の正孔注入材料は、ヨーロッパ特許公開第0 891 121 A1号および第1 029 909 A1号に記載されている。さらに、アメリカ合衆国特許第6,423,429号に記載されているように、p型をドープされた有機層もHILにとって有用である。p型をドープされた有機層とは、その層が導電性であり、電荷担体が主として正孔であることを意味する。導電性は、正孔がドーパントからホスト材料に移動する結果として電荷移動錯体が形成されることによって生じる。
【0043】
有機ELユニットのHTLは、少なくとも1つの正孔輸送化合物(例えば芳香族第三級アミン)を含んでいる。芳香族第三級アミンは、炭素原子(そのうちの少なくとも1つは芳香族環のメンバーである)だけに結合する少なくとも1つの3価窒素原子を含んでいる化合物であると理解されている。芳香族第三級アミンの1つの形態は、アリールアミン(例えばモノアリールアミン、ジアリールアミン、トリアリールアミン、ポリマー・アリールアミン)である。具体的なモノマー・トリアリールアミンは、Klupfelらによってアメリカ合衆国特許第3,180,730号に示されている。1個以上のビニル基で置換された他の適切なトリアリールアミン、および/または少なくとも1つの活性な水素含有基を含む他の適切なトリアリールアミンは、Brantleyらによってアメリカ合衆国特許第3,567,450号と第3,658,520号に開示されている。
【0044】
芳香族第三級アミンのより好ましい1つのクラスは、アメリカ合衆国特許第4,720,432号と第5,061,569号に記載されている少なくとも2つの芳香族第三級アミン部分を含むものである。HTLは、単一の芳香族第三級アミン化合物で形成すること、または芳香族第三級アミン化合物の混合物で形成することができる。有用な芳香族第三級アミンの代表例としては、以下のものがある。
1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;
1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)-4-フェニルシクロヘキサン;
N,N,N',N'-テトラフェニル-4,4"'-ジアミノ-1,1':4',1":4",1"'-クアテルフェニル;
ビス(4-ジメチルアミノ-2-メチルフェニル)フェニルメタン;
1,4-ビス[2-[4-[N,N-ジ(p-トリル)アミノ]フェニル]ビニル]ベンゼン(BDTAPVB);
N,N,N',N'-テトラ-p-トリル-4,4'-ジアミノビフェニル;
N,N,N',N'-テトラフェニル-4,4'-ジアミノビフェニル;
N,N,N',N'-テトラ-1-ナフチル-4,4'-ジアミノビフェニル;
N,N,N',N'-テトラ-2-ナフチル-4,4'-ジアミノビフェニル;
N-フェニルカルバゾール;
4,4'-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(NPB);
4,4'-ビス[N-(1-ナフチル)-N-(2-ナフチル)アミノ]ビフェニル(TNB);
4,4'-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]p-テルフェニル;
4,4'-ビス[N-(2-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル;
4,4'-ビス[N-(3-アセナフテニル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル;
1,5-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ナフタレン;
4,4'-ビス[N-(9-アントリル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル;
4,4'-ビス[N-(1-アントリル)-N-フェニルアミノ]-p-テルフェニル;
4,4'-ビス[N-(2-フェナントリル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル;
4,4'-ビス[N-(8-フルオランテニル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル;
4,4'-ビス[N-(2-ピレニル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル;
4,4'-ビス[N-(2-ナフタセニル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル;
4,4'-ビス[N-(2-ペリレニル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル;
4,4'-ビス[N-(1-コロネニル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル;
2,6-ビス(ジ-p-トリルアミノ)ナフタレン;
2,6-ビス[ジ-(1-ナフチル)アミノ]ナフタレン;
2,6-ビス[N-(1-ナフチル)-N-(2-ナフチル)アミノ]ナフタレン;
N,N,N',N'-テトラ(2-ナフチル)-4,4"-ジアミノ-p-テルフェニル;
4,4'-ビス{N-フェニル-N-[4-(1-ナフチル)-フェニル]アミノ}ビフェニル;
2,6-ビス[N,N-ジ(2-ナフチル)アミン]フルオレン;
4,4',4"-トリス[(3-メチルフェニル)フェニルアミノ]トリフェニルアミン(MTDATA);
4,4'-ビス[N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(TPD)。
【0045】
有用な正孔輸送材料の別のクラスとして、ヨーロッパ特許第1,009,041号に記載されている多環式芳香族化合物がある。3個以上のアミン基を有する第三級芳香族アミン(オリゴマー材料も含む)も使用することができる。さらに、ポリマー正孔輸送材料を使用することができる。それは、例えば、ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、コポリマー(例えばポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホネート)(PEDOT/PSSとも呼ばれる))などである。
【0046】
アメリカ合衆国特許第4,769,292号と第5,935,721号により詳しく説明されているように、有機ELユニットのLELは発光材料または蛍光材料を含んでおり、この領域で電子-正孔対の再結合が起こる結果としてエレクトロルミネッセンスが生じる。LELは単一の材料で構成できるが、より一般的には、1種類または複数のゲスト化合物をドープしたホスト材料を含んでいる。光は主としてドーパントから発生し、任意の色が可能である。LEL内のホスト材料は、電子輸送材料、または正孔輸送材料、または正孔-電子再結合をサポートする別の単一の材料または組み合わせた材料にすることができる。ドーパントは、通常は強い蛍光染料の中から選択される。しかしリン光化合物(例えばWO 98/55561、WO 00/18851、WO 00/57676、WO 00/70655に記載されている遷移金属錯体)も有用である。ドーパントは、一般に、0.01〜10質量%の割合でホスト材料に組み込まれる。ホスト材料としては、ポリマー材料も使用できる(例えばポリフルオレン、ポリビニルアリーレン(例えばポリ(p-フェニレンビニレン)、PPV))。この場合、小分子ドーパントは、ホスト・ポリマーの中に分子として分散させること、またはドーパントを微量成分とコポリマー化してホスト・ポリマーに添加することができる。
【0047】
ドーパントとして染料を選択する際の重要な1つの関係は、電子エネルギーのバンドギャップの比較である。ホスト材料からドーパント分子にエネルギーが効率的に移動するための必要条件は、ドーパントのバンドギャップがホスト材料のバンドギャップよりも小さいことである。リン光発光体では、ホスト材料からドーパントにエネルギーが移動できるよう、ホストの三重項エネルギー・レベルが十分に高いことも重要である。
【0048】
有用であることが知られているホスト分子および発光分子としては、アメリカ合衆国特許第4,768,292号、第5,141,671号、第5,150,006号、第5,151,629号、第5,405,709号、第5,484,922号、第5,593,788号、第5,645,948号、第5,683,823号、第5,755,999号、第5,928,802号、第5,935,720号、第5,935,721号、第6,020,078号に開示されているものなどがある。
【0049】
8-ヒドロキシキノリン(オキシン)の金属錯体と、それと同様の誘導体は、エレクトロルミネッセンスをサポートすることのできる有用なホスト材料の1つのクラスを形成する。有用なキレート化オキシノイド系化合物の代表例としては、以下のものがある。
CO-1:アルミニウムトリスオキシン[別名、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(III)]
CO-2:マグネシウムビスオキシン[別名、ビス(8-キノリノラト)マグネシウム(II)]
CO-3:ビス[ベンゾ{f}-8-キノリノラト]亜鉛(II)
CO-4:ビス(2-メチル-8-キノリノラト)アルミニウム(III)-μ-オキソ-ビス(2-メチル-8-キノリノラト)アルミニウム(III)
CO-5:インジウムトリスオキシン[別名、トリス(8-キノリノラト)インジウム]
CO-6:アルミニウムトリス(5-メチルオキシン)[別名、トリス(5-メチル-8-キノリノラト)アルミニウム(III)]
CO-7:リチウムオキシン[別名、(8-キノリノラト)リチウム(I)]
CO-8:ガリウムオキシン[別名、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)]
CO-9:ジルコニウムオキシン[別名、テトラ(8-キノリノラト)ジルコニウム(IV)]
【0050】
有用なホスト材料の別のクラスとして、アメリカ合衆国特許第5,935,721号に記載されているようなアントラセン(例えば9,10-ジ-(2-ナフチル)アントラセン)とアントラセン誘導体、アメリカ合衆国特許第5,121,029号に記載されているジスチリルアリーレン誘導体、ベンズアゾール誘導体(例えば2,2',2"-(1,3,5-フェニレン)トリス[1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール])などがある。カルバゾール誘導体は、リン光発光体にとって特に有用なホストである。
【0051】
有用な蛍光ドーパントとしては、アントラセン、テトラセン、キサンテン、ペリレン、ルブレン、クマリン、ローダミン、キナクリドンの誘導体や、ジシアノメチレンピラン化合物、チオピラン化合物、ポリメチン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、フルオレン誘導体、ペリフランテン誘導体、インデノペリレン誘導体、ビス(アジニル)アミンホウ素化合物、ビス(アジニル)メタン化合物、カルボスチリル化合物などがある。
【0052】
本発明の有機ELユニットのETLを形成する際に用いるのが好ましい薄膜形成材料は、金属キレート化オキシノイド化合物である。その中には、オキシンそのもの(一般に、8-キノリノールまたは8-ヒドロキシキノリンとも呼ばれる)も含まれる。このような化合物は、電子を注入して輸送するのを助け、高レベルの性能を示し、薄膜の形態にするのが容易である。具体的なオキシノイド化合物はすでに例示した。
【0053】
他の電子輸送材料としては、アメリカ合衆国特許第4,356,429号に開示されているさまざまなブタジエン誘導体や、アメリカ合衆国特許第4,539,507号に記載されているさまざまな複素環式蛍光増白剤がある。ベンズアゾールとトリアジンも、有用な電子輸送材料である。
【0054】
例えばアメリカ合衆国特許第6,013,384号に記載されているように、n型ドープ有機層もETLにとって有用である。n型ドープ有機層は、ホスト有機材料と、少なくとも1種類のn型ドーパントとを含んでいる。n型ドープ有機層のホスト材料としては、小分子材料、またはポリマー材料、またはこれらの組み合わせがある。このホスト材料は、上記の電子輸送材料の中から選択することが好ましい。
【0055】
n型ドープETLのn型ドーパントとして使用される材料としては、仕事関数が4.0eV未満の金属または金属化合物がある。特に有用なドーパントとして、アルカリ金属、アルカリ金属の化合物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の化合物がある。“金属の化合物”という用語には、有機金属錯体、金属-有機塩、無機塩、酸化物、ハロゲン化物が含まれる。金属含有n型ドーパントというクラスのうちで特に有用なのは、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybのいずれかと、これらの有機化合物または無機化合物である。中間接続層のn型ドープ有機層でn型ドーパントとして使用される材料としては、強力な電子供与特性を有する有機還元剤も挙げられる。“強力な電子供与特性”とは、有機ドーパントが少なくともいくつかの電荷をホストに与えてホストと電荷移動錯体を形成できねばならないことを意味する。有機分子の具体例としては、ビス(エチレンジチオ)-テトラチアフルバレン(BEDT-TTF)、テトラチアフルバレン(TTF)、ならびにこれらの誘導体などがある。ホストがポリマーである場合には、ドーパントは上記の任意のものが可能であり、分子として分散させた材料、または微量成分としてホストとコポリマー化した材料でもよい。適切なn型ドーパントをドープすると、ドープされた有機層は、主として電子輸送特性を示すようになろう。ドープするn型ドーパントの濃度は、0.01〜20容積%の範囲であることが好ましい。
【0056】
必ずしも必要なわけではないが、ELユニットにEILを含めると有用なことがしばしばある。EILは、ETLに電子を注入するのを容易にし、導電率を大きくし、その結果としてタンデム式OLEDの駆動電圧を小さくすることができる。EILで用いるのに適した材料は、強力な還元剤または仕事関数が小さな(4.0eV未満)金属をドープした上記のETLである。別の無機電子注入材料も、有機ELユニットにおいて有用である可能性がある。それについて次の段落で説明する。
【0057】
アノードだけを通して発光を見る場合には、本発明で使用するカソード140は、ほぼ任意の導電性材料で構成することができる。望ましい材料は優れた膜形成特性を有するため、下にある有機層との接触がよくなり、低電圧で電子の注入が促進され、優れた安定性を得ることができる。有用なカソード材料は、仕事関数が小さな(4.0eV未満)金属または合金を含んでいることがしばしばある。好ましい1つのカソード材料は、アメリカ合衆国特許第4,885,221号に記載されているように、銀が1〜20%の割合で含まれたMg:Ag合金からなる。適切なカソード材料の別のクラスとして、有機層(例えばETL)に接触する薄い無機EILを備えていて、その上により厚い導電性金属層を被せた構成の二層がある。その場合、無機EILは、仕事関数が小さな金属または金属塩を含んでいることが好ましく、そうなっている場合には、より厚い被覆層は仕事関数が小さい必要がない。このような1つのカソードは、アメリカ合衆国特許第5,677,572号に記載されているように、LiFからなる薄い層と、その上に載るより厚いAl層からなる。他の有用なカソード材料としては、アメリカ合衆国特許第5,059,861号、第5,059,862号、第6,140,763号に開示されているものがあるが、これだけに限定されるわけではない。
【0058】
カソードを通して発光を見る場合、カソードは、透明であるか、ほぼ透明である必要がある。このような用途のためには、金属が薄いか、透明な導電性酸化物を使用するか、このような材料が含まれている必要がある。光学的に透明なカソードは、アメリカ合衆国特許第4,885,211号、第5,247,190号、第5,703,436号、第5,608,287号、第5,837,391号、第5,677,572号、第5,776,622号、第5,776,623号、第5,714,838号、第5,969,474号、第5,739,545号、第5,981,306号、第6,137,223号、第6,140,763号、第6,172,459号、第6,278,236号、第6,284,393号、日本国特許第3,234,963号、ヨーロッパ特許第1 076 368号に、より詳細に記載されている。カソード材料は、一般に、蒸着、電子ビーム蒸着、イオン・スパッタリング、化学蒸着いずれかの方法によって堆積させる。必要な場合には、よく知られた多数の方法でパターニングすることができる。方法としては、例えば、スルー・マスク蒸着、アメリカ合衆国特許第5,276,380号とヨーロッパ特許第0 732 868号に記載されている一体化シャドウ・マスキング、レーザー除去、選択的化学蒸着などがある。
【0059】
有機ELユニットのLELとETLを合体させて単一の層にし、発光と電子輸送の両方をサポートする機能を担わせることができる場合がある。HTLはホストとして機能しうるため、発光性ドーパントをHTLに添加することも従来技術で知られている。多数のドーパントを1つ以上の層に添加して白色発光OLEDを作ることができる。例えば青色発光材料と黄色発光材料の組み合わせ、シアン色発光材料と赤色発光材料の組み合わせ、赤色発光材料と緑色発光材料と青色発光材料の組み合わせがある。白色発光デバイスが記載されているのは、例えばアメリカ合衆国特許出願公開2002/0025419 A1、アメリカ合衆国特許第5,683,823号、第5,503,910号、第5,405,709号、第5,283,182号、ヨーロッパ特許第1 187 235号、第1 182 244号である。
【0060】
従来技術で知られている追加の層(例えば電子阻止層または正孔阻止層)を本発明のデバイスで使用することができる。例えばアメリカ合衆国特許出願公開2002/0015859 A1に記載されているように、リン光発光体デバイスの効率を向上させるのに正孔阻止層が一般に使用される。
【0061】
上記の有機材料は、気相法(例えば熱蒸発)で堆積させることが好ましいが、流体(溶媒)から堆積させることもできる。溶媒を用いるのであれば、場合によっては結合剤も用いて膜の形成を改善する。材料がポリマーである場合には、溶媒堆積が有用であるが、他の方法(例えばスパッタリング、ドナー・シートからの熱転写)も利用することができる。熱蒸発によって堆積させる材料は、タンタル材料からなることの多い昇華用“ボート”から気化させること(例えばアメリカ合衆国特許第6,237,529号に記載されている)や、まず最初にドナー・シートにコーティングし、次いで基板のより近くで昇華させることができる。混合材料からなる層では、別々の昇華用ボートを用いること、または材料をあらかじめ混合し、単一のボートまたはドナー・シートからコーティングすることができる。フル・カラー・ディスプレイではLELの画素化が必要となる可能性がある。LELを画素化して堆積させることは、シャドウ・マスク、一体化シャドウ・マスク(アメリカ合衆国特許第5,294,870号)、ドナー・シートからの空間的に限定された染料熱転写(アメリカ合衆国特許第5,688,551号、第5,851,709号、第6,066,357号)、インクジェット法(アメリカ合衆国特許第6,066,357号)を利用して実現できる。有機ELユニットまたは中間接続層の他の有機層では、画素化した堆積は必ずしも必要ではない。
【0062】
たいていのOLEDデバイスは、水分と酸素の一方または両方に敏感であるため、一般に不活性雰囲気(例えば窒素やアルゴン)中で、乾燥剤(例えばアルミナ、ボーキサイト、硫酸カルシウム、粘土、シリカゲル、ゼオライト、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、硫酸塩、ハロゲン化金属、過塩素酸塩)とともに密封される。封入と乾燥のための方法としては、アメリカ合衆国特許第6,226,890号に記載されている方法などがある。さらに、障壁層(例えばSiOx、テフロン(登録商標))や、交互に積層された無機層/ポリマー層が、封入法として知られている。
【実施例】
【0063】
本発明をさらによく理解するため、以下の例を提示する。記述を簡潔にするため、材料と、その材料から形成される層を以下のように略記する。
ITO:インジウム-スズ-酸化物;ガラス基板の表面に透明なアノードを形成するのに用いる。
CFx:重合したフルオロカーボン層;ITOの上に正孔注入層を形成するのに用いる。
NPB:N,N'-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N'-ジフェニル-ベンジジン;有機ELユニットの正孔輸送層を形成するのに用いる。
Alq:トリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム(III);有機ELユニットにおいて、発光層を形成する際のホストとして、またn型をドープされた電子輸送層を形成する際のホストとして用いる。
C545T:10-(2-ベンゾチアゾリル)-1,1,7,7-テトラメチル-2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H,11H(1)ベンゾピラノ(6,7,8-ij)キノリジン-11-オン;ELユニットの発光層の緑色ドーパントとして用いる。
Li:リチウム;有機ELユニットのn型をドープされた電子輸送層を形成する際のn型ドーパントとして用いる。
Mg:Ag:堆積比が10:0.5のマグネシウム:銀;カソードを形成するのに用いる。
【0064】
以下の例では、較正された厚さモニター(INFICON IC/5堆積制御装置)を用いて有機層の厚さとドーピングの濃度をその場で制御して測定した。製造した全デバイスのEL特性は、定電流源(KEITHLEY 2400ソースメーター)と光度計(フォト・リサーチ社のスペクトラスキャンPR 650)を室温で用いて評価した。色は、国際照明委員会(CIE)座標を用いて記述する。
【0065】
従来のOLEDは以下のようにして製造する:透明なITO導電層でコーティングした厚さ約1.1mmのガラス基板を市販のガラス磨きツールを用いてクリーンにして乾燥させた。ITOの厚さは約42nmであり、ITOの面抵抗率は約68Ω/□である。次にITOの表面を酸化性プラズマで処理してその表面をアノードにした。RFプラズマ処理チェンバーの中でCHF3ガスを分解することにより、HILとして厚さ1nmのCFx層をクリーンなITOの表面に堆積させた。次に基板を真空蒸着チェンバー(トロヴァトMFG社)に移し、基板の上に他のすべての層を堆積させた。約10-6トルという真空下で加熱したボートから蒸発させることにより、以下の層を以下の順番で堆積させた。
1.ELユニット:
a)HTL、厚さ約90nm、NPBを含む;
b)LEL、厚さ30nm、C545Tを1.0容積%ドープしたAlqを含む;
c)1番目のETL、厚さ30nm、Liを1.2容積%ドープしたAlqを含む。
2.カソード:厚さ約210nm、MgAgを含む。
【0066】
これらの層を堆積させた後、デバイスを蒸着チェンバーからドライ・ボックス(VACバキューム・アトモスフェア社)に移して封入した。このデバイスの発光性能を室温にて20mA/cm2で測定した。
【0067】
この従来型OLEDは、20mA/cm2を流すのに約6.1Vという駆動電圧を必要とする。このテスト条件下でこのデバイスは、輝度が2110cd/m2、輝度効率が約10.6cd/A、電力効率が約5.45 lm/Wになる。CIExとCIEyは、それぞれ0.279と0.651であり、発光のピークは520nmの位置にある。
【0068】
例2(比較例)
【0069】
タンデム式OLEDを例1に記載したようにして構成した。堆積させた層構造は以下の通りである。
1.1番目のELユニット:
a)HTL、厚さ約100nm、NPBを含む;
b)LEL、厚さ20nm、C545Tを1.0容積%ドープしたAlqを含む;
c)1番目のETL、厚さ40nm、Liを1.2容積%ドープしたAlqを含む。
2.1番目の中間接続層:
a)高仕事関数金属層、厚さ10nm、Agを含む。
3.2番目のELユニット:
a)HTL、厚さ約70nm、NPBを含む;
b)LEL、厚さ20nm、C545Tを1.0容積%ドープしたAlqを含む;
c)1番目のETL、厚さ40nm、Liを1.2容積%ドープしたAlqを含む。
4.カソード:厚さ約210nm、MgAgを含む。
【0070】
このタンデム式OLEDは、20mA/cm2を流すのに22.9Vという駆動電圧を必要とする。このテスト条件下でこのデバイスは、輝度が937cd/m2、輝度効率が約4.68cd/A、電力効率が約0.64 lm/Wになる。CIExとCIEyは、それぞれ0.179と0.689であり、発光のピークは516nmの位置にある。20mA/cm2における駆動電圧は例1の場合の約4倍であり、輝度効率は例1の場合の半分未満である。このことから、タンデム式OLEDにおいて、高仕事関数金属からなる層が1つだけでは有効な中間接続層を形成できないことが明らかにわかる。極端に大きな駆動電圧は、高仕事関数層とELユニットの間に形成される高い注入障壁が原因である。輝度効率が低いのは、中間接続層とELユニットの間にキャリアが多く注入されていないことと、厚い金属層で光が吸収されることが原因である。
【0071】
例3(比較例)
【0072】
タンデム式OLEDを例2に記載したようにして構成した。堆積させた層構造は以下の通りである。
1.1番目のELユニット:
a)HTL、厚さ約90nm、NPBを含む;
b)LEL、厚さ30nm、C545Tを1.0容積%ドープしたAlqを含む;
c)1番目のETL、厚さ30nm、Liを1.2容積%ドープしたAlqを含む。
2.1番目の中間接続層:
a)金属化合物層、厚さ2nm、MoO3を含む。
3.2番目のELユニット:
a)HTL、厚さ約88nm、NPBを含む;
b)LEL、厚さ30nm、C545Tを1.0容積%ドープしたAlqを含む;
c)1番目のETL、厚さ30nm、Liを1.2容積%ドープしたAlqを含む。
4.カソード:厚さ約210nm、MgAgを含む。
【0073】
このタンデム式OLEDは、20mA/cm2を流すのに14.3Vという駆動電圧を必要とする。このテスト条件下でこのデバイスは、輝度が4781cd/m2、輝度効率が約23.9cd/A、電力効率が約5.24 lm/Wになる。CIExとCIEyは、それぞれ0.267と0.660であり、発光のピークは520nmの位置にある。20mA/cm2における駆動電圧は例1の場合の約2.3倍であり、輝度効率も例1の場合の約2.3倍である。このことから、金属化合物層としての厚さ2nmのMoO3は、タンデム式OLEDにおいて有効な中間接続層を形成できることがわかる。デバイスの動作安定性を室温にて80mA/cm2でテストした。動作時間が長くなるにつれて正規化輝度が低下することが図6に示してあり、動作時間が長くなるにつれて駆動電圧が増大することが図7に示してある。80mA/cm2では、デバイスの初期輝度は約21,220cd/m2であった。この電流密度を維持したとき、この明るさでの動作寿命(輝度が初期輝度の50%に低下するまでの動作時間として定義される)は約145時間である。初期輝度を100cd/m2にしてデバイスをテストするならば、動作寿命は145×212.2=30,769時間よりも長くなるであろう。しかし電圧の上昇を動作中に調べると、初期電圧値とデバイスを寿命まで使用した後の電圧を比較した電圧の上昇は約3.6Vであった(80mA/cm2では18.53Vから22.13Vに増加した)。デバイスを定電圧方式で駆動するならば、初期輝度は、定電流方式で駆動するよりもはるかに速く低下し、したがって寿命ははるかに短くなるであろう。したがってMoO3は非毒性材料ではあるが、中間接続層として単独で使用する場合には十分に安定ではない。
【0074】
例4
例3と同じ層構造を持つタンデム式OLEDを構成したが、ステップ2において1番目の中間接続層を以下のようにした点が異なっている。
1)高仕事関数金属層、厚さ0.5nm、Agを含む;
2)金属化合物層、厚さ2nm、MoO3を含む。
【0075】
このタンデム式OLEDは、20mA/cm2を流すのに13.4Vという駆動電圧を必要とする。このテスト条件下でこのデバイスは、輝度が4627cd/m2、輝度効率が約23.1cd/A、電力効率が約5.43 lm/Wになる。CIExとCIEyは、それぞれ0.270と0.660であり、発光のピークは520nmの位置にある。駆動電圧は、20mA/cm2において例1の場合の約2.2倍であり、輝度効率は例1の場合の約2.2倍である。このことから、タンデム式OLEDにおいて二層Ag/MoO3が有効な中間接続層を形成できることがわかる。デバイスの動作安定性を室温にて80mA/cm2でテストした。動作時間が長くなるにつれて正規化輝度が低下することが図6に示してあり、動作時間が長くなるにつれて駆動電圧が増大することが図7に示してある。80mA/cm2では、デバイスの初期輝度は約20,130cd/m2であった。この電流密度を維持したとき、この明るさでの動作寿命は約164時間である。初期輝度を100cd/m2にしてデバイスをテストするならば、動作寿命は164×201.3=33,013時間よりも長くなるであろう。
【0076】
例4の性能を例3の性能と比較すると、20mA/cm2における例4の初期駆動電圧のほうが約1V低いため、電力効率がより大きく、寿命もより長い。さらに、電圧の上昇を動作中に調べると、初期電圧値とデバイスを寿命まで使用した後の電圧を比較した電圧の上昇は約0.7Vであった(80mA/cm2では17.8Vから18.5Vに増加した)。この電圧の上昇幅は、例3の場合よりもはるかに少ない。例3と例4の両方を定電圧方式で駆動するならば、例4は例3よりもはるかに寿命が長くなろう。したがって高仕事関数金属層を金属化合物層とともに組み込むことにより、安定な中間接続層を形成することができる。この安定な中間接続層は、初期駆動電圧を低下させると同時に、タンデム式OLEDの寿命も延ばすであろう。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明によるタンデム式OLEDの概略断面図であり、このタンデム式OLEDは、複数の有機ELユニットと、その各有機ELユニットに挟まれた中間接続層を備えている。
【図2】本発明のタンデム式OLEDに含まれる有機ELユニットの1つに関する概略断面図であり、この有機ELユニットは、“HTL/LEL/ETL”という層構造を有する。
【図3】本発明のタンデム式OLEDに含まれる1つの中間接続層に関する概略断面図であり、この中間接続層は、“低仕事関数金属層/高仕事関数金属層/金属化合物層”という層構造を有する。
【図4】本発明のタンデム式OLEDに含まれる別の中間接続層に関する概略断面図であり、この中間接続層は、“n型半導体層/高仕事関数金属層/金属化合物層”という層構造を有する。
【図5】本発明のタンデム式OLEDに含まれるさらに別の中間接続層に関する概略断面図であり、この中間接続層は、“高仕事関数金属層/金属化合物層”という層構造を有する。
【図6】本発明のタンデム式OLEDと参照デバイスを室温にて80mA/cm2という一定の駆動電流密度にしたときの、正規化輝度と動作時間の関係を表わすグラフである。
【図7】本発明のタンデム式OLEDと参照デバイスを室温にて80mA/cm2という一定の駆動電流密度にしたときの、駆動電圧と動作時間の関係を表わすグラフである。
【符号の説明】
【0078】
100 タンデム式OLED
110 アノード
120 ELユニット
120.1 1番目のELユニット
120.2 2番目のELユニット
120.(N-1) (N-1)番目のELユニット
120.N N番目のELユニット
130 中間接続層
130.1 1番目の中間接続層(または1番目の接続層)
130.2 2番目の中間接続層(または2番目の接続層)
130.(N-1) (N-1)番目の中間接続層(または(N-1)番目の接続層)
140 カソード
150 電圧/電流源
160 導電体
220 ELユニット
221 正孔輸送層
222 発光層
223 電子輸送層
330 中間接続層
331 低仕事関数金属層
332 高仕事関数金属層
333 金属化合物層
430 中間接続層
431 n型半導体層
530 中間接続層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンデム式OLEDであって、
a)アノードと;
b)カソードと;
c)該アノードと該カソードの間に配置されていて、それぞれが少なくとも1つの発光層を備える複数の有機エレクトロルミネッセンス・ユニットと;
d)隣り合ったそれぞれの有機エレクトロルミネッセンス・ユニットの間に配置された中間接続層とを含んでなり、該中間接続層が、4.0eV以上の仕事関数を持つ高仕事関数金属層と、金属化合物層とを少なくとも含み、該中間接続層の面抵抗率が100kΩ/□よりも大きく、かつ、該高仕事関数金属層が該OLEDの動作安定性を向上させているタンデム式OLED。
【請求項2】
それぞれの有機エレクトロルミネッセンス・ユニットが、正孔輸送層と、発光層と、電子輸送層とを少なくとも含み、それぞれの中間接続層が、該有機エレクトロルミネッセンス・ユニットの該電子輸送層に隣接して配置されていて4.0eV未満の仕事関数を持つ低仕事関数金属層と、4.0eV以上の仕事関数を持つ高仕事関数金属層と、金属化合物層とを含み、該中間接続層の面抵抗率が100kΩ/□よりも大きく、かつ、該高仕事関数金属層がOLEDの動作安定性を向上させている、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項3】
それぞれの有機エレクトロルミネッセンス・ユニットが、正孔輸送層と、発光層と、電子輸送層とを少なくとも含んでいて、それぞれの中間接続層が、該有機エレクトロルミネッセンス・ユニットの該電子輸送層に隣接して配置されたn型半導体層と、4.0eV以上の仕事関数を持つ高仕事関数金属層と、金属化合物層とを含み、該中間接続層の面抵抗率が100kΩ/□よりも大きく、かつ、該高仕事関数金属層がOLEDの動作安定性を向上させている、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項4】
それぞれの有機エレクトロルミネッセンス・ユニットが、正孔輸送層と、発光層と、電子輸送層とを少なくとも含んでいて、該電子輸送層が、n型ドープ有機層であり、それぞれの中間接続層が、該有機エレクトロルミネッセンス・ユニットの該電子輸送層に隣接して配置された4.0eV以上の仕事関数を持つ高仕事関数金属層と、金属化合物層とを含み、該中間接続層の面抵抗率が100kΩ/□よりも大きく、かつ、該高仕事関数金属層がOLEDの動作安定性を向上させている、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項5】
上記中間接続層に含まれる該高仕事関数金属層の厚さが0.1nm〜5.0nmの範囲である、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項6】
上記中間接続層に含まれる該高仕事関数金属層の厚さが0.2nm〜2.0nmの範囲である、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項7】
上記中間接続層に含まれる該金属化合物層の厚さが0.5nm〜20nmの範囲である、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項8】
上記中間接続層に含まれる該金属化合物層の厚さが1.0nm〜5nmの範囲である、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項9】
上記中間接続層に含まれる該低仕事関数金属層の厚さが0.1nm〜10nmの範囲である、請求項2に記載のタンデム式OLED。
【請求項10】
上記中間接続層に含まれる該低仕事関数金属層の厚さが0.2nm〜2.0nmの範囲である、請求項2に記載のタンデム式OLED。
【請求項11】
上記中間接続層に含まれる該n型半導体層の厚さが0.5nm〜20nmの範囲である、請求項3に記載のタンデム式OLED。
【請求項12】
上記中間接続層に含まれる該n型半導体層の厚さが1.0nm〜5.0nmの範囲である、請求項3に記載のタンデム式OLED。
【請求項13】
上記中間接続層が、スペクトルの可視領域において少なくとも75%の光透過率を有する、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項14】
該高仕事関数金属層が、Ti、Zr、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、In又はSnを含んでいる、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項15】
該高仕事関数金属層が、Ag、Al、Cu、Au、Zn、In又はSnを含んでいる、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項16】
該高仕事関数金属層が、AgまたはAlを含んでいる、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項17】
上記金属化合物層の選択が、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、ケイ素、ゲルマニウム、またはこれらの組み合わせの化学量論的酸化物または非化学量論的酸化物の中からなされる、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項18】
上記金属化合物層の選択が、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、ケイ素、ゲルマニウム、またはこれらの組み合わせの化学量論的硫化物または非化学量論的硫化物の中からなされる、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項19】
上記金属化合物層の選択が、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、ケイ素、ゲルマニウム、またはこれらの組み合わせの化学量論的セレン化物または非化学量論的セレン化物の中からなされる、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項20】
上記金属化合物層の選択が、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、ケイ素、ゲルマニウム、またはこれらの組み合わせの化学量論的テルル化物または非化学量論的テルル化物の中からなされる、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項21】
上記金属化合物層の選択が、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、ケイ素、ゲルマニウム、またはこれらの組み合わせの化学量論的窒化物または非化学量論的窒化物の中からなされる、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項22】
上記金属化合物層の選択が、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、ケイ素、ゲルマニウム、またはこれらの組み合わせの化学量論的炭化物または非化学量論的炭化物の中からなされる、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項23】
上記金属化合物層が、MoO3、NiMoO4、CuMoO4、WO3、ZnTe、Al4C3、AlF3、B2S3、CuS、GaP、InP、SnTeの中から選択される、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項24】
上記金属化合物層が、MoO3、NiMoO4、CuMoO4、WO3の中から選択される、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項25】
該低仕事関数金属層が、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy又はYbを含んでいる、請求項2に記載のタンデム式OLED。
【請求項26】
該低仕事関数金属層が、Li、Na、Cs、Ca、Ba又はYbを含んでいる、請求項2に記載のタンデム式OLED。
【請求項27】
上記n型半導体層が、ZnSe、ZnS、ZnSSe、SnSe、SnS、SnSSe、LaCuO3又はLa4Ru6O19を含んでいる、請求項3に記載のタンデム式OLED。
【請求項28】
上記n型半導体層が、ZnSeまたはZnSを含んでいる、請求項3に記載のタンデム式OLED。
【請求項29】
上記中間接続層が熱蒸発法によって形成される、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項30】
上記中間接続層が電子ビーム蒸発法によって形成される、請求項1に記載のタンデム式OLED。
【請求項31】
上記中間接続層がイオン・スパッタリング法によって形成される、請求項1に記載のタンデム式OLED。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−501223(P2008−501223A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515160(P2007−515160)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2005/016813
【国際公開番号】WO2005/119805
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】