説明

安定化された注射用水溶液製剤

【課題】 フルオロウラシルの抗腫瘍効果を増強する、5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩は、水溶液にすると、不安定で長期の保存ができず、これまで、固体製剤としてのみ開発され販売されていた。臨床の場面で、直ちに投与できる5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩を含有する安定した注射用水溶液製剤の開発が望まれていた。
【解決手段】 本発明は、5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする安定化された注射用水溶液製剤及び5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩の安定化方法を提供する。
本発明製剤では、pH調整剤と抗酸化剤とを併用することにより、優れた保存安定性効果を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする安定化された注射用水溶液製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明で有効成分として使用される5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸は、別名(6S)−N−[4−[[(2−アミノ−5−ホルミル−1,4,5,6,7,8−ヘキサヒドロ−4−オキソ−6−プテリジニル)メチル]アミノ]ベンゾイル]−L−グルタミン酸として知られる化合物である。
この化合物は、別名、6S−ホリニン酸(6S-folinic acid)で、還元型葉酸の誘導体であって、胃ガン、結腸・直腸ガンに対するフルオロウラシルの抗腫瘍効果の増強剤としてそのカルシウム塩である、レボホリナートカルシウム(calcium levofolinate)が販売されている〔商品名、アイソボリン(ワイス−武田薬品)〕。5−ホルミル−テトラヒドロ葉酸は、6位の炭素原子の立体配置により、D体(6R−体)、L体(6S−体)の光学異性体が存在し、薬効的にはL体(6S−体)が活性体として知られるが、ラセミ体もL体も既に上市されている〔ラセミ体の商品名:ロイコボリン(ワイス−武田薬品)〕。
ラセミ体は、一般的に安定であるが、L体は、水溶液中で不安定で加水分解及び酸化分解することが知られている。そのため現在まで上市されているL体製剤は凍結乾燥固形製剤である。
【0003】
5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸関連製剤の安定化に関する報告は既に公表されているが、いずれも不満足な結果しか得られていない。
以下に先行技術文献を列挙する。
特許文献1:ロイコボリンの塩、トロメタミン及びモノチオグリセロールからなる注射液として使用する混合物であって、大陽光に対しても長期間安定な製剤を開示する。トロメタミン、即ち(2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパネジオール)は緩衝剤、モノチオグリセロールは酸化防止剤として用いられている。しかし、開示されたロイコボリン製剤は、DL混合型のラセミ体であり、その性状は、L体とは全く異なるものである。
非特許文献1:ロイコボリンは、還元型葉酸製剤であり、中性または弱アルカリpHでより安定であることが開示されている。レボホリナートカルシウムは、L型であり、(6S)−ホリナートカルシウムであることが開示されている。
特許文献2:5−ホルミル−テトラヒドロホレートカルシウムの(6S)−ジアステレオマーの95重量%以上と5−ホルミル−テトラヒドロホレートカルシウムの(6R)−ジアステレオマーの5重量%以下との混合物を200〜2000mg及びヒト治療用アクセプタブル担体からなる組成物(ラセミ体)が開示されている。
特許文献3:5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸、食品製剤または必須栄養素製剤を含む組成物が開示されている。
特許文献4:5,10−メチレンテトラヒドロ葉酸−シクロデキストリン−包接化合物が開示されている。
特許文献5:安定な結晶性テトラヒドロ葉酸またはその塩が開示されている。
特許文献6:冷蔵庫温度で安定なホリニン酸水溶液及びその製造法が開示されている。
特許文献7:葉酸誘導体の安定化方法が開示されている。
【特許文献1】特開平3−90026号公報(特許第3043381号)
【特許文献2】特開平11−106342号公報
【特許文献3】特表2000−505286号公報
【特許文献4】特開平7−18084号公報(特許第2667354号)
【特許文献5】特開平9−169759号公報(特許第3382103号)
【特許文献6】特開平3−56418号公報(特許第2945718号)
【特許文献7】特開昭58−027063号公報(特公平2−22909号)
【非特許文献1】The Merck Index, 13th Edition, 4248 (2001年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
胃ガン、結腸・直腸ガンに対するフルオロウラシルの抗腫瘍効果を増強する、5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩は、水溶液にすると、不安定で長期の保存ができなかった。そのため、5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩の製剤は、固体製剤としてのみ開発され販売されていた。臨床の場面で、直ちに投与できる5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩を含有する安定した注射用水溶液製剤の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記事情を考慮して、種々検討していたところ、5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする水溶液製剤中に、pH調整剤と抗酸化剤を添加することにより、保存安定性が極めて向上した水溶液製剤が得られることを見いだした。さらに5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩を含有する水溶液製剤には、安定である選択的pH値領域が存在することを見いだし、加えて水溶液製剤の包装形態を工夫することにより、一層安定な5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩含有水溶液製剤を製造することに成功した。これらの知見に基づき、さらに検討を続けた結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
1.5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする注射用水溶液製剤、
2.5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸の薬理学的に許容される塩が、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩である前項1に記載の製剤、
3.5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸の薬理学的に許容される塩が、カルシウム塩である前項1または2に記載の製剤、
4.pH調整剤と抗酸化剤とが配合された前項1〜3のいずれか一に記載の製剤、
5.抗酸化剤が、アスコルビン酸またはその塩、ピロ亜硫酸ナトリウム、塩酸システイン、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオグリセロール、及びチオグリコール酸またはその塩から選ばれる前項4に記載の製剤、
6.抗酸化剤が、アスコルビン酸またはその塩である前項4に記載の製剤、
7.抗酸化剤が、アスコルビン酸またはその塩とその他の抗酸化剤との組み合わせである前項4に記載の製剤、
8.その他の抗酸化剤が、ピロ亜硫酸ナトリウム、塩酸システイン、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオグリセロール、及びチオグリコール酸またはその塩から選ばれる前項7に記載の製剤、
9.抗酸化剤の配合量が、0.005〜1w/v%である前項4に記載の製剤、
10.pH調整剤が、トロメタミンである前項4に記載の製剤、
11.pH調整剤の配合量が、0.01〜1w/v%である前項4に記載の製剤、
12.水溶液のpH値が、6〜7に調整された前項1〜11のいずれか一に記載の製剤、
13.水溶液のpH値が、8.5〜9.0に調整された前項1〜11のいずれか一に記載の製剤、
14.包装形態が、以下から選ばれる少なくとも1を採用する前項1〜13のいずれか一に記載の製剤:
1)ガラス製またはプラスチック製容器への封入;
2)内容器と外袋からなる2重包装で、内容器と外袋の間に脱酸素剤を装填した包装形態からなる内容器への封入;
3)容器内が不活性ガスで置換されている容器への封入;
4)ガラス製またはプラスチック製のプレフィルドシリンジへの封入;
5)内容器のプレフィルドシリンジと外袋からなる2重包装で、内容器と外袋の間に脱酸素剤を装填した包装形態からなる内容器への封入;
6)容器のプレフィルドシリンジ内が不活性ガスで置換されている容器への封入、
15.5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする水溶液製剤に、抗酸化剤を添加することを特徴とする5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩含有注射用水溶液製剤の安定化方法、
16.さらにpH調整剤を添加する前項15に記載の安定化方法、及び
17.レボホリナートカルシウムを有効成分とし、アスコルビン酸またはその塩とpH調整剤とを含む注射用医薬水溶液製剤に関する。
【発明の効果】
【0007】
5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする注射用水溶液製剤(以下、本発明製剤と略記することがある)は、保存安定性が極めて優れ、臨床に用いる際にも、時間をかけてあらためて固形製剤を溶解する必要がなく、患者に直ちに投与でき、或いは希釈液で適当な濃度に希釈するだけで投与が可能となる。また保存時の水溶液のpH値の低下と透過度の低下が抑制される。これらの性質は、5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩の有用性をより一層高めるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明製剤において有効成分として使用される5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸は、本発明ではその薬理学的に許容される塩の形態で使用することが好ましい。そのような塩は、慣用の無毒性の塩であって、塩基との塩、例えば無機塩基との塩、例えばアルカリ金属塩(例、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(例、カルシウム塩、マグネシウム塩等)などを挙げることができる。特に好ましくは、カルシウム塩である。またこれらの薬理学的に許容される塩には、無水物である無水塩、水和物である含水塩をともに包含する。本発明製剤の有効成分である5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸は、L体の光学活性化合物である。これはまた(6S)体とも呼ばれる。本発明製剤では、5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩の含量は通常0.01〜5w/v%が用いられる。
【0009】
本発明製剤は、好適にはpH調整剤と抗酸化剤とが配合される。pH調整剤や抗酸化剤は、公知の物質であり、広く公知のpH調整剤と抗酸化剤が利用できる。
pH調整剤としては、例えば、塩基性化物質、緩衝化物質等が用いられる。塩基性化物質としては、無機塩基、有機塩基、塩基性の有機酸、金属酸化物などが用いられる。無機塩基としては、アルカリ金属の水酸化物(例、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、アルカリ土類金属の水酸化物(例、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等)が例示される。有機塩基としては、トロメタミン(トロメタモール)、コハク酸アミド、アダマンチルアミン、N,N'−ビス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、トリス(ヒドロキシエチル)アミノメタン、N−メチルグルカミン(メグルミン)、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が例示される。塩基性の有機酸としては、塩基性アミノ酸(例、リジン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチン等)並びに、3−(N−モルフォリノ)プロパンスルホン酸、2−(N−モルフォリノ)エタンスルホン酸、3−〔シクロヘキシルアミノ〕−1−プロパンスルホン酸、2−〔シクロヘキシルアミノ〕−1−プロパンスルホン酸または2−〔シクロヘキシルアミノ〕−1−エタンスルホン酸のアルカリ金属塩等が例示される。金属酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムが例示される。
緩衝化物質としては、例えば、無機酸の塩、有機酸の塩、有機塩基の塩、アミノ酸等が用いられる。
無機酸の塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、第二リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム等が例示される。
有機酸の塩としては、酢酸、クエン酸、乳酸、マレイン酸、フェニル酢酸、安息香酸、ラウリル硫酸等のカリウム塩やナトリウム塩が例示される。有機塩基の塩としては、アミノグアニジン、グアニジン、アダマンチルアミン、N,N'−ビス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の炭酸塩や炭酸水素塩等が例示される。アミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、セリン、トレオニン等が例示される。
pH調整剤としてはグリシン、トロメタミンが好ましく、このうちトロメタミンが特に好ましい。
pH調整剤の添加量は、目的とするpH値とその溶液量によって決定される。本発明の水溶液製剤は、pH5.5〜7.5またはpH8.3〜9.0、好ましくはpH6.0〜7.0またはpH8.5〜9.0、より好ましくはpH6.0〜7.0であり、pH調整剤は0.01〜1w/v%、好ましくは0.02〜0.5w/v%になるように配合する。溶液のpH値は、酸(例えば塩酸)及び塩基(例えば水酸化ナトリウム水溶液)を適宜用いて調節することが可能である。
【0010】
抗酸化剤としては、アスコルビン酸またはその塩、ピロ亜硫酸ナトリウム、塩酸システイン、亜硫酸水素ナトリウム、チオグリセロール、チオグリコール酸またはその塩、及び亜硫酸ナトリウム等が例示され、好適には、アスコルビン酸またはその塩が用いられ、その塩としてはその薬学的に許容される塩が例示される。最も好ましくは、アスコルビン酸またはそのナトリウム塩が用いられる。抗酸化剤は、例えばアスコルビン酸またはその塩を単独で用いてもよいが、アスコルビン酸またはその塩とその他の抗酸化剤との組み合わせで用いるのがより好ましい。好ましい具体例としては、アスコルビン酸とピロ亜硫酸ナトリウムの組み合わせが挙げられる。抗酸化剤は、0.005〜1w/v%、好ましくは0.01〜0.5w/v%になるように配合する。
【0011】
本発明製剤は、さらに糖類を含有していてもよい。糖類としては、単糖類(例、グルコース、ガラクトース、リボース、キシロース、マンノース、マルトトリオース、マルトテトラオース等)、二糖類(例、蔗糖、乳糖、セロビオース、麦芽糖等)、三糖類(例、ラフィノース)、糖アルコール(例、ソルビトール、イノシトール、マンニトール等)、多糖類(例、デキストラン、コントロイチン硫酸、ヒアルロン酸、硫酸デキストリン等)、及びその塩、環状糖類(例、シクロデキストリン等)等が例示される。本発明製剤は、さらに必要に応じて、等張化剤(例、グルコース、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、マンニトール等)、無痛化剤(例、グルコース、ベンジルアルコール、塩酸メピバカイン、塩酸キシロカイン、塩酸プロカイン、塩酸カルボカイン、グリセリン、プロピレングリコール、塩酸リドカイン等)、防腐剤(例、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル等のパラオキシ安息香酸エステル、チメロサール、クロロブタノール、ベンジルアルコール等)等を用いることができる。これらの添加量は、当業者が公知の技術に従って容易に設定することができる。
【0012】
本発明製剤は、さらに所望により光安定化剤を添加してもよい。薬理学的に許容される光安定化剤は、広く利用できるが、糖類として、例えば、グルコース、ショ糖、フラクトース、マルトース等、糖アルコール類として、例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等、多価アルコール類として、例えば、グリセリン、プロピレングリコール等を挙げることができる。その他ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾフェノン誘導体、サリチル酸誘導体、パラアミノ安息香酸誘導体、桂皮酸誘導体、ウロカニン酸誘導体、リボフラビン、葉酸等も好適な光安定化剤である。本発明製剤には、これらの光安定化剤の一種または二種以上を配合することができる。その添加量は、0.01〜1w/v%、好ましくは0.05〜0.1w/v%である。
【0013】
本発明製剤において、最も望ましくは、水溶液のpH値が6〜7、抗酸化剤がアスコルビン酸とピロ亜硫酸ナトリウムの組み合わせ、抗酸化剤の濃度が0.1〜0.3w/v%である。但し、ピロ亜硫酸ナトリウムの濃度が0.2%以上になると、沈殿物が生じてくる。この注射用水溶液製剤をシリンジ等の容器に充填し、この容器(内容器)と外袋からなる2重包装で、内容器と外袋の間に脱酸素剤を装填した包装形態で保存するのが最も望ましい。
本発明製剤は、40℃/4ヶ月間保存(25℃/2年保存に相当)しても、有効成分である5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸カルシウムの含量は90%以上あり、医薬として十分に使用できるものである。
5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸カルシウムの水溶液は、最初にpH6.0〜7.0に調整しても、保存状態で溶液のpH値がしだいに酸性側に移行していく。アスコルビン酸単独でも、この酸性側への移行を抑制することができるが、アスコルビン酸とピロ亜硫酸ナトリウムの組み合わせを用いると、溶液のpH値の低下を一段と抑制することができる。
さらに5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸カルシウムの水溶液の透過度は、保存状態で低下し、着色していくが、アスコルビン酸はこの透過度の低下を抑制することができる。アスコルビン酸とピロ亜硫酸ナトリウムの組み合わせを用いるとこの透過度の低下をさらに抑制することができる。
これらの抑制効果は、ピロ亜硫酸ナトリウムがアスコルビン酸の安定化に寄与し、これによりアスコルビン酸が長期間にわたって5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸カルシウム溶液に存在することによって得られる。
内容器と外袋からなる2重包装で、内容器と外袋の間に脱酸素剤を装填した包装形態で保存すると、本発明製剤の透過度の低下をさらに一段と抑制することができる。
【0014】
本発明製剤は、必要に応じて、他の薬物(例、5−フルオロウラシル、ウラシル、マイトマイシン等の抗悪性腫瘍剤等)を含有していてもよく、また他の薬物を別に包装し、本発明製剤とキット製品としてもよい。
本明細書にて注射用水溶液製剤とは、最終形態での注射剤に限らず、用時に溶解液(希釈液)を用いて最終注射液に調製することができる注射液前駆体〔例えば、液状注射剤(濃厚または濃厚注射剤)〕製剤をも含む意味に用いる。
本発明製剤は、自体公知の方法により製造することができる。例えば、塩化ナトリウム、トロメタミン、アスコルビン酸、レボホリナートカルシウムを含む水溶液のpH値を所定の値に調整後、所定のレボホリナートカルシウム濃度に希釈する。その後無菌条件下にて除菌ろ過し、アンプル、バイアル、シリンジ(プレフィルドシリンジ)等の容器に充填し、密封することにより製造することができる。
【0015】
本発明製剤は、その一層の保存安定性の確保のために包装形態が、以下から選ばれる少なくとも1を採用する;
1)ガラス製またはプラスチック製容器への本発明製剤の封入
これは、保存期間中の容器壁を通じての空気の混入を排除し、空気(酸素)による5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩の分解を最小限にするためである。ガラスまたはプラスチックの材質は、空気透過性が排除されたものであれば広く公知の材質が使用できる。プラスチック材質の場合は、空気の透過性の完全排除は困難な場合もあり、以下の他の手段2)、3)とプラスチック容器との併用が好ましい。
2)内容器と外袋からなる2重包装で、内容器と外袋の間の空間に脱酸素剤を装填した包装形態からなる内容器への本発明製剤の封入
これは容器自体の空気不透過性が完全でなくとも2重袋とすることで、一層の空気不透過性を達成し、加えて内容器と外袋からなる2重包装の中空に脱酸素剤〔エージレス、商品名、三菱ガス化学(株)等〕を装填することで空気(酸素)の容器内への通過を防ぐものである。
脱酸素剤としては、例えば、鉄系脱酸素剤:エージレスZH(商品名)、エージレスZP−50(商品名)、有機化合物系脱酸素剤:エージレスG(商品名)、エージレスGL(商品名)〔以上三菱ガス化学(株)製〕、カテコール系脱酸素剤:タモツA(商品名)、タモツD(商品名)〔以上王子タック(株)製〕等が用いられる。
内容器には、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のプラスチック容器を使い、内容器内と外袋の間の空気の移動を可能とし、外袋には一層空気不透過性の高い材質、例えば密度の高い材質あるいは金属材質等を用いる。
3)容器内が不活性ガスで置換されている容器への本発明製剤の封入
本発明製剤が封入される容器内が空気でなく、窒素等の不活性ガスで置換されていることによって、空気中の酸素による分解が防止可能である。
4)ガラス製またはプラスチック製のプレフィルドシリンジへの封入
注射器機能を担持し、また水溶液保持機能をもつ、いわゆるプレフィルドシリンジ内に本発明製剤が封入されうる。プラスチック材質の場合、上記1)と同様、以下の手段5)、6)との併用が好ましい。
5)内容器のプレフィルドシリンジと外袋からなる2重包装で、内容器と外袋の間に脱酸素剤を装填した包装形態からなる内容器への封入
6)容器のプレフィルドシリンジ内が不活性ガスで置換されている容器への封入。
【0016】
本発明製剤の投与方法は、非経口投与、特に静脈投与が一般的である。また、その投与量は、従前公知の用法・用量に準じて決定できる。注射剤としての手技を例示すれば、5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩を含有する製剤(例えば5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸を10〜100mg、抗酸化剤、例えばアスコルビン酸を5〜100mg、pH調整剤、例えばトロメタミンを10〜50mg含有する2〜30mLの液状製剤)を、必要に応じて生理食塩水または5%ブドウ糖液または電解質維持液などの溶液で希釈し、5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸として0.01〜0.1w/v%含有する溶液を点滴静注する。その際、1分間に体重1kgあたり0.5〜30μgの点滴速度で投与する。投与は、フルオロウラシル療法の抗腫瘍効果増強作用のためにはフルオロウラシル剤の投与と同時に一日1〜3回行う。
【実施例】
【0017】
以下に本発明を、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なおRHは、相対湿度(%)を示す。
【0018】
実施例1 抗酸化剤の安定化効果
(1)アスコルビン酸含有製剤
塩化ナトリウム0.224g及びレボホリナートカルシウム0.550gに注射用水25mlを加え、加温(45〜50℃)溶解し、窒素ガスをバブリングしながら撹拌下、トロメタミン0.12g及びアスコルビン酸0.04gを加えた後、注射用水を加えて全量を30mlとした。この溶液に5%(重量/容量%、以下同様)塩酸を少しずつ滴下してpH値を8.1に調整し、ついで注射用水を加えて全量を40mlとした。
(2)ピロ亜硫酸ナトリウム含有製剤
塩化ナトリウム0.224g及びレボホリナートカルシウム0.550gに注射用水25mlを加え、加温(45〜50℃)溶解し、窒素ガスをバブリングしながら撹拌下、トロメタミン0.12g及びピロ亜硫酸ナトリウム0.008gを加えた後、注射用水を加えて全量を30mlとした。この溶液に5%塩酸を少しずつ滴下してpH値を8.1に調整し、ついで注射用水を加えて全量を40mlとした。
(3)チオグリセロール含有製剤
塩化ナトリウム0.224g及びレボホリナートカルシウム0.550gに注射用水25mlを加え、加温(45〜50℃)溶解し、窒素ガスをバブリングしながら撹拌下、トロメタミン0.12g及びチオグリセロール0.08gを加えた後、注射用水を加えて全量を30mlとした。この溶液に5%塩酸を少しずつ滴下してpH値を8.1に調整し、ついで注射用水を加えて全量を40mlとした。
(4)塩酸システイン含有製剤
塩化ナトリウム0.448g及びレボホリナートカルシウム1.100gに注射用水50mlを加え、加温(45〜50℃)溶解し、窒素ガスをバブリングしながら撹拌下、トロメタミン0.24gを加えた後、注射用水を加えて全量を60mlとした。この溶液30mlをとり、塩酸システイン0.09gを加え、5%塩酸を少しずつ滴下してpH値を8.1に調整し、ついで注射用水を加えて全量を40mlとした。
(5)チオグリコール酸含有製剤
上記(4)の操作において、塩酸システイン0.09gの代わりにチオグリコール酸0.09gを加え、5%塩酸の代わりに1%水酸化ナトリウム溶液を用いた。
(6)亜硫酸水素ナトリウム含有製剤
塩化ナトリウム0.224g及びレボホリナートカルシウム0.550gに注射用水25mlを加え、加温(45〜50℃)溶解し、窒素ガスをバブリングしながら撹拌下、グリシン0.18gを加えた後、5%塩酸でpH値を7.0に調整し、ついで亜硫酸水素ナトリウム0.008gを加えた後、注射用水を加えて全量を30mlとした。この溶液に1%水酸化ナトリウム溶液を少しずつ滴下してpH値を7.0に調整し、ついで注射用水を加えて全量を40mlとした。
(7)亜硫酸ナトリウム含有製剤
塩化ナトリウム0.224g及びレボホリナートカルシウム0.550gに注射用水25mlを加え、加温(45〜50℃)溶解し,窒素ガスをバブリングしながら撹拌下、トロメタミン0.12g及び亜硫酸ナトリウム0.012gを加え、注射用水を加えて30mlとした。この溶液に5%塩酸を少しずつ滴下してpH値を7.0に調整し、ついで注射用水を加えて全量を40mlとした。
【0019】
上記(1)〜(7)で調製された水溶液製剤をそれぞれろ過フィルター(孔径0.2μm、ミリポア(株)製、以下同様)でろ過した後、窒素ガスで置換した5mlガラスアンプルに溶液の5mlずつ充填、溶封して注射用水溶液アンプルを製造した。
【0020】
安定性評価試験
上記水溶液製剤(1)〜(3)について、60℃/3週間の安定性評価試験を行った。
水溶液中に残存するレボホリナートカルシウム含量は、高速液体クロマトグラフ法を用いて下記条件(以下の実験においても同様)にて測定した。
供試製剤の2mlを量り取り、これに下記に記載の内標準溶液(以下の実験においても同様)10mlを加え、ついで水を加えて全量を50mlとし試料溶液とした。別にレボホリナートカルシウム62.5mgを水に溶かして全量を25mlとした。この溶液10mlに内標準溶液10mlを加えた後、水で全量を50mlとし、標準溶液とした。標準溶液及び試料溶液20μlにつき、次の条件で液体クロマトグラフ法によりレボホリナートカルシウム含量の測定を行った。
1)測定条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:254nm)
カラム:内径4.0mm,長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフ用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填した。
カラム温度:45℃付近の一定温度
移動相:0.008mol/Lのリン酸水素二ナトリウム水溶液 / メタノール /
40%テトラブチルアンモンニウムヒドロキシド水溶液の混合液〔385 : 110 : 1.3(容量比)〕にリン酸を加えてpH値を7.5に調節した。
流量:レボホリナートカルシウムの保持時間が約10分になるように調整した。
内標準溶液:パラオキシ安息香酸メチル0.04gに水を加えて全量を100mlとした溶液。
2)結果
結果を表1−1に示す。表1−1は、レボホリナートカルシウムの初期値(製剤製造直後)を100としたときの変異を示したものである。抗酸化剤の添加で安定化効果が確認されたが、特にアスコルビン酸の添加の場合に極めて優れた安定化効果が確認された。
各抗酸化剤による安定化効果を高速液体クロマトグラフ法で分析したが、各安定化剤の安定化効果には、有意な特異性が確認された。
【0021】
【表1−1】

【0022】
上記水溶液製剤(4)〜(7)について60℃/2週間の安定性評価試験を上記と同様に行った。結果を表1−2に示す。各抗酸化剤による安定化効果を高速液体クロマトグラフ法で分析したが、各安定化剤の安定化効果には、有意な特異性が確認された。
【0023】
【表1−2】

【0024】
実施例2 pH値の影響の検討
注射用水約80mlをビーカー(容量200ml)にとり、窒素ガスをバブリングしながら、塩化ナトリウム0.56g、トロメタミン0.3g及びアスコルビン酸0.5gを加えて撹拌溶解させた。ついでレボホリナートカルシウム1.375g(5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸として1.1g)を加え、加温(45−50℃)撹拌溶解後、5%塩酸を少しずつ滴下して溶液のpH値を5.0に調整した。
5%塩酸の代わりに1%水酸化ナトリウム溶液を用いること以外、上記と同様な操作を行い、溶液のpH値をそれぞれ6.0、7.0、8.0及び9.0に調整した溶液を製造した。それぞれの溶液に注射用水をさらに加えて全量を100mlとした後、窒素ガスのバブリングをやめ、溶液をろ過フィルターでろ過して注射用溶液を得た。窒素ガスで置換した5mlガラスアンプルに得られた注射用溶液の5mlを充填して、溶封した。
【0025】
このようにして調製された各水溶液製剤の60℃での安定性評価試験を行い、残存するレボホリナートカルシウム含量を高速液体クロマトグラフ法で測定した。
表2は、レボホリナートカルシウムの初期値を100としたときの変異を示したものである。pH6.0〜7.0前後の場合に極めて優れた安定化効果が確認された。
【0026】
【表2】

【0027】
実施例3 pHの影響の検討
注射用水約80mlをビーカー(容量200ml)にとり、窒素ガスをバブリングしながら、塩化ナトリウム0.56g、トロメタミン0.3gを加えて加温(45−50℃)撹拌溶解させた。ついでレボホリナートカルシウム1.375g(5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸として1.1g)を加え、撹拌溶解後、5%塩酸を少しずつ滴下して溶液のpH値を6.0に調整した。上記と同様な操作を行い、溶液のpH値をそれぞれ7.0、7.5、7.9、8.1、8.3、8.7、9.0、9.2及び9.5(5%塩酸の代わりに1%水酸化ナトリウム水溶液を使用)に調整した溶液を製造した。
それぞれの溶液に注射用水をさらに加えて全量を100mlとした後、窒素ガスのバブリングをやめ、溶液をろ過フィルターでろ過して注射用溶液を得た。窒素ガスで置換した5mlガラスアンプルに得られた注射用溶液の5mlを充填して、溶封した。
【0028】
このようにして調製された、各水溶液製剤の60℃での安定性評価試験を行い、残存するレボホリナートカルシウム含量を高速液体クロマトグラフ法で測定した。表3は、レボホリナートカルシウムの初期値を100としたときの変異を示したものである。pH6.0〜7.0、及びpH8.7〜pH9.0前後の場合に極めて優れた安定化効果が確認された。
【0029】
【表3】

【0030】
実施例4 アスコルビン酸添加量の検討
注射用水約80mlをビーカー(容量200ml)にとり、窒素ガスをバブリングしながら、塩化ナトリウム0.56g、トロメタミン0.3g及びレボホリナートカルシウム1.375g(5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸として1.1g)を加え、撹拌溶解させた(本操作を5回行った)。ついで、それぞれの溶液にアスコルビン酸0(無添加)、0.05g、0.1g、0.3g、0.5g、及び1.0gを加えて撹拌溶解させ、6種の溶液を製造した。アスコルビン酸添加量0(無添加)、0.05g、及び0.1gの場合、5%塩酸を、アスコルビン酸添加量0.3g、0.5g、及び1.0gの場合、1%水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ滴下して溶液のpH値を8.1に調整した。溶液に注射用水をさらに加えて全量を100mlとした後、窒素ガスのバブリングをやめ、溶液をろ過フィルターでろ過して注射用溶液を得た。窒素ガスで置換した5mlガラスアンプルに得られた注射用溶液の5mlを充填して、溶封した。
このようにして調製された、各水溶液製剤の60℃での安定性評価試験を行い、残存するレボホリナートカルシウム含量を高速液体クロマトグラフ法で測定した。表4は、レボホリナートカルシウムの初期値を100としたときの変異を示したものである。
【0031】
【表4】

【0032】
実施例5 アスコルビン酸添加量の検討
注射用水約80mlをビーカー(容量200ml)にとり、窒素ガスをバブリングしながら、塩化ナトリウム0.56g、トロメタミン0.3g及びレボホリナートカルシウム1.375g(5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸として1.1g)を加え、撹拌溶解させた(本操作を5回行った)。ついで、それぞれの溶液にアスコルビン酸0.05g、0.075g、0.1g、0.2g及び0.3gを加えて撹拌溶解させ、5種の溶液を製造した。アスコルビン酸添加量0.05g、0.075g、及び0.1gの場合、5%塩酸を、アスコルビン酸添加量0.2g、及び0.3gの場合、1%水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ滴下してそれぞれの溶液のpH値を8.7に調整した。溶液に注射用水をさらに加えて全量を100mlとした後、窒素ガスのバブリングをやめ、溶液をろ過フィルターでろ過して注射用溶液を得た。窒素ガスで置換した5mlガラスアンプルに得られた注射用溶液の5mlを充填して、溶封した。
このようにして調製された、各水溶液製剤の60℃での安定性評価試験を行い、残存するレボホリナートカルシウム含量を高速液体クロマトグラフ法で測定した。表5は、レボホリナートカルシウムの初期値を100としたときの変異を示したものである。
【0033】
【表5】

【0034】
実施例6 複数抗酸化剤の添加
注射用水約1100mlをビーカーにとり、窒素ガスをバブリングしながら、塩化ナトリウム8.04g、トロメタミン3.6g、アスコルビン酸3.6g及びピロ亜硫酸ナトリウム1.2gを加え、撹拌溶解させた。得られた溶液にレボホリナートカルシウム15.62gを加え、撹拌溶解させた。5%塩酸を少しずつ滴下して溶液のpH値を6.2に調整した。注射用水をさらに加えて全量を1200mlとした後、窒素ガスのバブリングをやめ、溶液をろ過フィルターでろ過して注射用溶液を得た。得られた注射用溶液の5mlを窒素ガスで置換したポリプロピレン製シリンジ(容量5ml)に充填した後、105℃で30分間高圧蒸気滅菌を行った。この滅菌されたシリンジを脱酸素剤、エージレスZP−50〔商品名、三菱ガス化学(株)製〕とともにバリア性プラスチックフィルムで包装した。
このようにして製造された水溶液製剤の安定性評価試験(60℃及び40℃/75%RH)を行い、一定期間保存後に残存するレボホリナートカルシウム含量を高速液体クロマトグラフ法で測定し、結果を表6に示した。
表6には、レボホリナートカルシウムの初期値を100とした時のレボホリナートカルシウムの残存率(%)を示す。
【0035】
【表6】

【0036】
実施例7 アスコルビン酸0.1%添加
注射用水約1100mlをビーカーにとり、窒素ガスをバブリングしながら、塩化ナトリウム8.04g、トロメタミン3.6g、及びアスコルビン酸1.2gを加え、撹拌溶解させた。得られた溶液にレボホリナートカルシウム15.62gを加え、撹拌溶解させた。5%塩酸を少しずつ滴下して溶液のpH値を6.2に調整した。注射用水をさらに加えて全量を1200mlとした後、窒素ガスのバブリングをやめ、溶液をろ過フィルターでろ過して注射用溶液を得た。得られた注射用溶液の5mlを窒素ガスで置換したポリプロピレン製シリンジ(容量5ml)に充填した後、105℃で30分間高圧蒸気滅菌を行った。この滅菌されたシリンジを脱酸素剤、エージレスZP−50〔商品名、三菱ガス化学(株)製〕とともにバリア性プラスチックフィルムで包装した.
このようにして製造された水溶液製剤の安定性評価試験(60℃及び40℃/75%RH)を行い、一定期間保存後に残存するレボホリナートカルシウム含量を高速液体クロマトグラフ法で測定し、結果を表7に示した。
表7には、レボホリナートカルシウムの初期値を100とした時のレボホリナートカルシウムの残存率(%)を示す。
【0037】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩の注射用水溶液製剤は、極めて安定な製剤であり長期間保存することができる。
本発明製剤は5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩の新たな産業上の利用可能性を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする注射用水溶液製剤。
【請求項2】
5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸の薬理学的に許容される塩が、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩である請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸の薬理学的に許容される塩が、カルシウム塩である請求項1または2に記載の製剤。
【請求項4】
pH調整剤と抗酸化剤とが配合された請求項1〜3のいずれか一に記載の製剤。
【請求項5】
抗酸化剤が、アスコルビン酸またはその塩、ピロ亜硫酸ナトリウム、塩酸システイン、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオグリセロール、及びチオグリコール酸またはその塩から選ばれる請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
抗酸化剤が、アスコルビン酸またはその塩である請求項4に記載の製剤。
【請求項7】
抗酸化剤が、アスコルビン酸またはその塩とその他の抗酸化剤との組み合わせである請求項4に記載の製剤。
【請求項8】
その他の抗酸化剤が、ピロ亜硫酸ナトリウム、塩酸システイン、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオグリセロール、及びチオグリコール酸またはその塩から選ばれる請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
抗酸化剤の配合量が、0.005〜1w/v%である請求項4に記載の製剤。
【請求項10】
pH調整剤が、トロメタミンである請求項4に記載の製剤。
【請求項11】
pH調整剤の配合量が、0.01〜1w/v%である請求項4に記載の製剤。
【請求項12】
水溶液のpH値が、6〜7に調整された請求項1〜11のいずれか一に記載の製剤。
【請求項13】
水溶液のpH値が、8.5〜9.0に調整された請求項1〜11のいずれか一に記載の製剤。
【請求項14】
包装形態が、以下から選ばれる少なくとも1を採用する請求項1〜13のいずれか一に記載の製剤:
1)ガラス製またはプラスチック製容器への封入;
2)内容器と外袋からなる2重包装で、内容器と外袋の間に脱酸素剤を装填した包装形態からなる内容器への封入;
3)容器内が不活性ガスで置換されている容器への封入;
4)ガラス製またはプラスチック製のプレフィルドシリンジへの封入;
5)内容器のプレフィルドシリンジと外袋からなる2重包装で、内容器と外袋の間に脱酸素剤を装填した包装形態からなる内容器への封入;
6)容器のプレフィルドシリンジ内が不活性ガスで置換されている容器への封入。
【請求項15】
5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする水溶液製剤に、抗酸化剤を添加することを特徴とする5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその薬理学的に許容される塩含有注射用水溶液製剤の安定化方法。
【請求項16】
さらにpH調整剤を添加する請求項15に記載の安定化方法。
【請求項17】
レボホリナートカルシウムを有効成分とし、アスコルビン酸またはその塩とpH調整剤とを含む注射用医薬水溶液製剤。

【公開番号】特開2006−111614(P2006−111614A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261991(P2005−261991)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】