説明

安定化された電極を備える、長寿命リチウム電池

本発明は、電極安定化添加剤を含む非水性電解液、安定化された電極、及びこれを含む電気化学デバイスに関する。従って、本発明は、アルカリ金属塩、極性非プロトン系溶媒、及び電極安定化添加剤を含む電解液を提供する。幾つかの態様において、これらの添加剤は、少なくとも一つの酸素原子と、少なくとも一つのアルケニル基又はアルキニル基を含む、置換又は無置換の、環式又はスピロ環式炭化水素を含む。例えばリチウムマンガン酸化物スピネル電極又はカンラン石又は炭素-被覆カンラン石電極を備えた、電気化学デバイスにおいて使用する場合に、これら新規な電解液は、改善されたカレンダー寿命及びサイクル寿命を持つ電池を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極安定化添加剤を含む非水性電解液、安定化された電極、及びこれを含む電気化学的デバイスに関するものである。特に、本発明は、安定化されたスピネル、カンラン石又はその他の電極を備える、長寿命リチウム電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、炭素アノード、リチオ化された遷移金属酸化物カソード、及び有機物質を主成分とする溶媒を含み、溶解した導電性の塩、例えばリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6)を含有する電解液を使用している。これらの電池は、一般的にセルラフォーン(cellular phones)、カム-レコーダ(cam-recorders)、コンピュータ、及びその他の電子機器分野における、電池市場を席巻している。しかし、これらの電池技術を、電機及びハイブリッド自動車に応用しようとの試みにおいては、限られた成功例しか見られない。問題となり得る領域は、安全性、カレンダ寿命(calendar life)、コスト、及びハイブリッド自動車の場合には、出力アシスト及び高率の発電性制動に関する能力を包含する。
【0003】
リチウム-マンガン-酸化物-スピネルを主成分とする電極は、カソード材料として大きな注目を集めたが、その理由は、マンガン(Mn)が、市販のLi-イオン電池において通常使用されている、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)に比して安価である点にある。Mnは、また良好な出力特性を持ち、安全性が高く、しかもCo及びNiと比較して、環境に優しい。しかし、LiMn2O4スピネルの貧弱な容量の保持性(フェージング)が、この技術の主な欠点となっており、工業における、広範な受け入れを阻害している。その上、容量損失、インピーダンスの上昇、及び材料の不安定性を包含する、その電気化学的な性能の劣化が、より高い温度(即ち、約40-50℃)においては、より一層重大なものとなり、携帯用の電子デバイス及びハイブリッド電気自動車は、容易に、このような高温度状態に至る恐れがある。該スピネルを主成分とする電池の、電気化学的な劣化の原因となり得る幾つかのファクタが報告されているが、一般的には、この劣化は、マンガンスピネルの不安定性に起因するものである。この劣化は、該有機物質を主成分とする電解液中での、マンガンイオンの生成及び該電解液へのマンガンイオンの溶解によって生じるものと考えられる。
【0004】
このマンガンの溶解は、殆ど全ての市販のLi-イオン電池において使用されている、該LiPF6を主成分とする有機電解液内でのサイクル中の、該マンガンスピネル電極表面上での、マンガン(III)イオンの不安定性に起因する。このマンガン(III)イオンの不安定性は、該マンガンスピネル電極表面上で起る、不均化反応[2Mn3+(安定な固体)→Mn4+(安定な固体)+ Mn2+(溶解傾向を示す、不安定な固体)]に起因する。生成される該Mn2+イオンは、LiPF6-含有有機電解液中に溶解する。その後、該溶解したマンガンイオンは、該電解液を介して該グラファイトアノードまで拡散し、該アノードにおいて、該マンガンイオンは、金属マンガンに還元され、該アノード表面上に堆積するものと考えられる。この現象は、該アノードのインピーダンスにおける膨大な増加、及び該電池からの活性なリチウムの喪失並びに該スピネルカソードの劣化をもたらす。そのため、この電池は、貧弱な電気化学的性能、及び低い又は殆ど零の出力を持つ。
【0005】
さらに、マンガンの溶解は、酸の侵食によるものとされており、またLiPF6-を主成分とする電解液中に通常存在する、痕跡量のHFによっても起る。上記のマンガンイオンの拡散問題と共に、HF等の酸の存在も、部分的にプロトン化されたλ-MnO2相の生成をもたらす。この相は、電気化学的には、全く活性なものではない。というのは、プロトンが、MnO6の立方最密充填型酸素配列の、八面体酸素サイトと結合しているからである。このシナリオは、該マンガンの溶解に伴って、マンガンスピネルカソード材料の劣化に導く、λ-MnO2の部分的なプロトン化も存在することを示唆している。
【0006】
Ni-及びCo-を主成分とするリチウムイオン電池の、もう一つの代替品として、カンラン石を主成分とするカソードが、大きな注目を集めている。特に、これがPadhi等によって紹介されてから[A.K. Padhi, K.S. Nanjunndaswamy, J.B. Goodenough, J. Electrochem. Soc., 1997, 144(4):1188]、LiFePO4型のカンラン石材料は、リチウム-イオン電池(LIB)用途に関して、最も研究されているカソードの一つとなっている。多くのカソードとは異なり、この材料に関する電気化学は、Fe2+/Fe3+-レドックス反応対を含み、この反応は、3.45Vなる電圧において起り、また170mAh/gなる理論的容量を有している。放電された及び充電された正の活物質、即ち各LiFePO4及びFePO4は、同一の構造的な配列を有し、即ち同一の空間群及び近接する結晶パラメータを有し、結果としてその電気化学的なサイクル過程において、極めて良好な系の安定性をもたらす。この安定性は、LiMIIIO2(M=Ni、Co)の層状物質の充電に関与する、高度に酸化性のNi4+イオンとは対照的に、Fe3+イオンの発生によって変更されることはない。さらに、3.45Vなるカットオフ電圧は、電解液の老化促進を防止するのに十分に低いが、該カンラン石のエネルギー密度及び電気化学的性能を犠牲にするほど低くはない。その上、LiFePO4は、安価な材料であり、また非-毒性かつ環境に優しい材料である。これらの理由から、LiFePO4は、潜在的に興味深い、LIB用のカソード材料であると考えられている。
【0007】
しかし、LiFePO4は、絶縁性物質であり、このことが、その速度能力(rate capability)及び結果としてそのカレンダ寿命を著しく制限している。この材料の電子的な導電性能を高めるべく、近年幅広い研究がなされているが、依然として改良の余地が十分に残されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
該カソード材料の劣化を阻止するために、幾つかの研究がなされており、その例は、該スピネルカソード又はグラファイトアノード表面の、マンガンのカチオン性置換又は表面変性(被覆)を含む。これについては、例えばC. Sigala, A.等, J. Electrochem. Soc., 2001, 148:A824; I.J. Davidson等, J. Power Sources, 1995, 54:205; M. Yoshio等, J. Power Sources, 2001, 101:79;及びA.M. Kannan & A. Manthiram, Electrochem. Solid State Lett., 2002, 5:A167を参照することができる。これらの方法は、室温においては、幾分かの見込みを示したが、高温におけるマンガンの溶解による、著しい電気化学的な劣化を防止することはなかった。これについては、例えばA. Blyr等, J. Electrochem. Soc., 1998, 145:194;及びG.G. Amatucci等, J. Electrochem. Soc., 2001, 148:A171を参照することができる。従って、当分野においては、あらゆる望ましくない反応から、該カソード表面を保護するための、電解液系を開発する必要がある。さらに、当分野においては、このような電解液系を使用した電池に対する需要もある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一局面において、本発明は、電気化学的デバイスにおいて使用するための、1又はそれ以上の電極安定化添加剤を含む、非水系の電解質溶液を提供する。該電極安定化添加剤は、少なくとも一つの酸素原子と、少なくとも一つのアルケニル基又はアルキニル基を含む、置換又は無置換の、環式及びスピロ環式炭化水素を含む。もう一つの局面において、該安定化添加剤を用いて、安定化された電極及び蓄電池(battery cells)を提供する。このような電池は、優れた比出力及びエネルギー、並びに殆ど又は全く出力又は容量の損失をもたらすことなしに、延長されたカレンダ及びサイクル寿命を持つ。さらに別の局面では、本発明の安定化添加剤を含む非水性電解液の製造方法を提供する。このような電解液は、スピネルを主成分とする及びカンラン石を主成分とするリチウムイオン電池両者の性能、並びにリチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル-コバルト酸化物、及びリチウムバナジウム酸化物リチウムイオン電池等の、性能を高める上で有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の一局面においては、アルカリ金属塩、極性非-プロトン性溶媒、及び少なくとも一つの酸素原子と、少なくとも一つのアルケニル基又はアルキニル基を含む、置換又は無置換のスピロ環式炭化水素である、電極安定化添加剤を含む電解液を提供する。この電解液は、実質的に非水性であり、即ちこれらの電解液は、水を全く含まないか、あるいは殆ど水を含まない(例えば、≦100ppmの水)ものである。該電極安定化添加剤は、1、2、3、4、5又は6個の酸素原子を含むことができる。幾つかの態様において、該電極安定化添加剤は、該電極安定化添加剤が、1又はそれ以上のアルケニル基を持ち、また他の態様では、1又は2個のアルケニル基を持つ。
以下の式Iで表されるスピロ環式添加剤が、本発明の電解液において使用するのに、特に適している:
【0011】
【化1】

【0012】
ここで、X1、X2、X3、及びX4は、夫々独立に、O又はCR3R4を表し、但しY1がOである場合、X1はOではなく、Y2がOである場合、X2はOではなく、Y3がOである場合、X3はOではなく、Y4がOである場合、X4はOではないことを条件とし、
Y1、Y2、Y3、及びY4は、夫々独立に、O又はCR3R4を表し、但しX1がOである場合、Y1はOではなく、X2がOである場合、Y2はOではなく、X3がOである場合、Y3はOではなく、X4がOである場合、Y4はOではないことを条件とし、
R1及びR2は、夫々独立に、置換又は無置換の二価のアルケニル基又はアルキニル基を表し、及び
各場合における、R3及びR4は、夫々独立に、H、F、Cl、置換又は無置換のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を表す。
【0013】
式Iで表される添加剤のこのような態様の幾つかにおいて、X1、X2、X3、及びX4の少なくとも一つは、Oである。その他の態様においては、X1がOであり、あるいはX1、X2、X3、及びX4の何れかがOである。式Iで表される添加剤の他の態様において、R1及びR2は同一である。例えば、R1及びR2は、夫々CH-CH=CH2、C=CH2、又はC=CHCH3である。他の態様において、R3及びR4は、両者共にHである。式Iで表される適当な安定化添加剤は、3,9-ジビニル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4,8-トリオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4,8-トリオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジメチレン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジメチレン-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物を含む。市販品として入手することのできないこれらの化合物は、当分野において周知の技術、例えば特に米国特許第4,513,143号及び同第4,532,335号に記載されている技術によって、容易に製造できる。
本発明の別の局面においては、アルカリ金属塩、極性非-プロトン性溶媒、及び以下の式IIで表される電極安定化添加剤を含む、電解液を提供する:
【0014】
【化2】

【0015】
ここで、X1及びX2は、独立にO、CHR3、CHR4又はCR3R4を表し、但しY1がOである場合、X1はOではなく、Y2がOである場合、X2はOではないことを条件とし、
Y1及びY2は、独立に、O、CHR3、CHR4、又はCR3R4を表し、但しX1がOである場合、Y1はOではなく、X2がOである場合、Y2はOではないことを条件とし、
R1及びR2は、独立に、置換又は無置換の二価のアルケニル基又はアルキニル基を表し、及び
各場合における、R3及びR4は、独立に、H、F、Cl、置換又は無置換のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を表す。ここで、該電解液は、実質的に非水系である。
代表的な、式IIで表される化合物は、2,4-ジビニル-テトラヒドロピラン、2,5-ジビニル-テトラヒドロピラン、2,6-ジビニル-テトラヒドロピラン、2,5-ジビニル-[1,4]ジオキサン、2,5-ジビニル-[1,3]ジオキサン、2-エチリデン-5-ビニル-[1,3]ジオキサン、及びこれらの任意の2又はそれ以上の混合物を含むが、これらに限定されない。
【0016】
本発明で用いる安定化添加剤は、該非水性の電解液中において、広い範囲の量で存在する。例えば、該安定化添加剤は、該電解液の約0.0005〜約15又は30質量%(wt%)なる範囲内の量で存在し得る。あるいはまた、該添加剤は、約0.0005、0.001、0.01、又は0.1質量%〜約2.5、又は10質量%なる範囲内の量で存在し得る。本明細書の記載に基いて、本発明の電解液において使用する安定化剤の適当な量の選択は、全く当業者の能力の範囲内にある。
本発明の電解液は、極性非-プロトン性溶媒に溶解した、アルカリ金属塩を含む。このアルカリ金属塩は、典型的に約0.5〜約2モルなる範囲内の濃度にて存在し、また典型的にはリチウム塩である。リチウム塩の例は、Li[(C2O4)2B]、Li(C2O4)BF2、LiPF2C4O8、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、Li(CF3SO2)3C、LiN(SO2C2F5)2、リチウムアルキルフルオロホスフェート、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物を包含する。Li[(C2O4)2B]及びLi(C2O4)BF2等のリチウム(キレート)ボレート又はLiPF2C4O8等のリチウム(キレート)ホスフェートを、アルカリ金属塩として、あるいは付随的な安定化添加剤として使用することも可能である。従って、幾つかの態様においては、該アルカリ金属塩は、リチウム(キレート)ボレート又はリチウム(キレート)ホスフェート以外のものであり、また該電解液は、さらに約0.0005〜約15質量%なる範囲内の量で、Li[(C2O4)2B]、Li(C2O4)BF2又はLiPF2C4O8をも含む。
【0017】
非水性電解液において使用するのに適した、極性非-プロトン性溶媒は、当分野において公知であり、またその例は、酢酸エチル、酢酸プロピル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルアセテート、γ-ブチロラクトン、スルホラン、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物を包含する。水及びアルコール等のプロトン性溶媒は、本発明においては使用することができない。
さらに、本発明の非水性電解液を製造するための方法をも提供する。例えば、幾つかの態様において、この方法は、アルカリ金属塩、極性非-プロトン性溶媒、及び少なくとも一つの酸素原子と、少なくとも一つのアルケニル基又はアルキニル基を含む、置換又は未置換の、環式又はスピロ環式炭化水素を含むが、これらに限定されない、本明細書に記載したような電極安定化添加剤を、併合する工程を含む。幾つかの態様において、該電極安定化添加剤は、環式化合物であり、また上記式Iで表される化合物を含む。もう一つの態様において、該電極安定化添加剤は、上記式IIで表される化合物を含む。本発明の方法は、ここに記載した、任意の該アルカリ金属塩又は極性非-プロトン性溶媒を使用することができる。
【0018】
如何なる理論にも拘泥するつもりはないが、本発明の電気化学的デバイスは、該非水系電解液中に存在する、該電極安定化添加剤のために、高い性能を示すものと考えられる。従って、これら添加剤は、化学的な攻撃から該電極を保護し、結果的にその後の性能の劣化を減じ、若しくは防止するものと考えられる。具体的には、該電気化学的デバイス製造の初期において、該添加剤は、該正の電極(カソード)の表面上に、保護フィルムを形成し、また負の電極(アノード)に表面上に、保護フィルムを形成することも可能であると考えられる。該不動態化フィルムは、Mn2+及びFe2+イオンが、該電解液中に溶解するのを防止し、かつ一般に該電池を安定化する。該不動態化フィルムが、アノード上に形成される場合には、該フィルムは、また該アノード表面における、Mn2+イオン(スピネルカソード由来)及びFe2+イオン(カンラン石カソード由来)の減少を遅らせ若しくは阻止する。該フィルム-形成過程中に、本発明で使用する添加剤は、酸化され、若しくは酸化かつ重合される可能性がある。本発明の添加剤は、典型的に約1.5V〜約6.5Vなる範囲の酸化電位を持つ。
【0019】
かくして、もう一つの局面によれば、本発明は、電気化学的デバイス用の電極を提供し、この電極は、表面と、該表面上に、電極安定化添加剤から形成された、不動態化フィルムとを含む。該不動態化フィルムは、少なくとも一つの酸素原子と、少なくとも一つのアルケニル基又はアルキニル基を含む、置換又は無置換のスピロ環式炭化水素を包含する、本明細書に記載した任意の添加剤から製造できる。従って、例えば式Iで表されるものを含む、スピロ環式添加剤を使用して、本発明の電極を不動態化することができる。該不動態化フィルムは、また式IIで示される環式添加剤から製造することもできる。あるいはまた、二種の環式及び/又はスピロ環式添加剤の組合せを使用することも可能である。このような幾つかの態様において、一種の添加剤は、該カソード上に不動態化フィルムを形成し、金属イオンの溶出を防止する上で選択的であり、また他方の添加剤は、該アノード表面を不動態化して、該アノードにおける金属イオンの減少を、遅らせ、若しくはこれを阻止する上で選択的であり得る。例えば、2,4-ジビニル-テトラヒドロピランと2,5-ジビニル-[1,3]ジオキサンとの組合せ、又は2,5-ジビニル-テトラヒドロピランと2-エチリデン-5-ビニル-[1,3]ジオキサンとの組合せを、該電極安定化添加剤として使用することができる。
【0020】
もう一つの局面において、本発明は、カソード上に不動態化フィルムを生成する方法を提供し、この方法は、電気化学的デバイスを充電する工程を含み、ここで該電気化学的デバイスは、アノード、カソード、及び実質的に非水性の電解液を含み、該電解液は、アルカリ金属塩、極性非-プロトン性溶媒、及び少なくとも一つの酸素原子と、少なくとも一つのアルケニル基又はアルキニル基を含む、置換又は無置換のスピロ環式炭化水素である、電極安定化添加剤を含む。該充電工程は、放電工程を伴うことができる。幾つかの態様において、該充電及び放電工程は、2回又はそれ以上の回数に渡り繰り返すことができる。
【0021】
本発明のもう一つの局面において、ここに記載する電解液の何れかは、さらに第二の電極安定化添加剤を含むことができる。かくして、一態様において、本発明の電解液は、アルカリ金属塩、極性非-プロトン性溶媒、少なくとも一つの酸素原子と、少なくとも一つのアルケニル基又はアルキニル基を含む、置換又は無置換のスピロ環式炭化水素である、第一の電極安定化添加剤、及びアノードを安定化することのできる、第二の電極安定化添加剤を含む。適当な該第二の電極安定化添加剤は、ビニルエチレンカーボネート、ビニルカーボネート;Li(C2O4)2B又はLi(C2O4)BF2等のリチウム(キレート)ボレート;LiPF2C4O8等のリチウム(キレート)ホスフェート;シクロトリホスファゼン(cyclo-triphosphazene)、例えばP-エトキシ-P,P',P"-ペンタフルオロシクロトリホスファゼン(式III)、P,P'-ジエトキシ-P,P',P"-テトラフルオロシクロトリホスファゼン(式IV)、P-フェノキシ-P,P',P"-ペンタフルオロシクロトリホスファゼン(式V)、P,P',P"-ヘキサメトキシシクロトリホスファゼン(式VI)、又はP-フェノキシ-P'-(プロプ-2-エンオキシ)-P,P',P"-ペンタフルオロシクロトリホスファゼン(式VII);又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物を含むが、これらに限定されない。幾つかの態様において、特に該第二の電極安定化添加剤が、リチウム(キレート)ボレート又はリチウム(キレート)ホスフェートである態様において、該アルカリ金属塩は、Li(C2O4)2B、Li(C2O4)BF2、又はLiPF2C4O8以外のものである。該第二の電極安定化添加剤は、約0.01wt%〜約15wt%なる範囲内の量で存在し得る。代表的なシクロトリホスファゼンの例示的な構造を、以下に与える:






























【0022】
【化3】

【0023】
もう一つの局面において、本発明は、アノード上に不動態化フィルムを生成する方法を提供し、この方法は、電気化学的デバイスを充電する工程を含み、ここで該電気化学的デバイスは、アノード、カソード、及び実質的に非水性の電解液を含み、該電解液は、アルカリ金属塩、極性非-プロトン性溶媒、及びビニルエチレンカーボネート、ビニルカーボネート;Li(C2O4)2B、Li(C2O4)BF2又はこれらの混合物等のリチウム(キレート)ボレート;LiPF2C4O8等のリチウム(キレート)ホスフェート;シクロトリホスファゼン;又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物から選択される、電極安定化添加剤を含む。もう一つの局面において、該充電工程は、放電工程を伴うことができる。さらに別の局面において、該充電及び放電工程は、2回又はそれ以上の回数に渡り繰り返すことができる。
【0024】
もう一つの局面においては、アノード及びカソード両者の上に、不動態化フィルムを生成するための方法を提供するものであり、この方法は、電気化学的デバイスを充電する工程を含み、ここで該電気化学的デバイスは、アノード、カソード、及び実質的に非水性の電解液を含み、該電解液は、アルカリ金属塩、極性非-プロトン性溶媒、及び少なくとも一つの酸素原子と、少なくとも一つのアルケニル基又はアルキニル基を含む、置換又は無置換のスピロ環式炭化水素である、第一の電極安定化添加剤、及びアノードを安定化することのできる、第二の電極安定化添加剤、例えばビニルエチレンカーボネート、ビニルカーボネート、リチウム(キレート)ボレート、リチウム(キレート)ホスフェート、シクロトリホスファゼン、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物を含む。該充電工程は、放電工程を伴うことができる。幾つかの態様において、該充電及び放電工程は、2回又はそれ以上の回数に渡り繰り返すことができる。
【0025】
もう一つの局面において、本発明は、電気化学的デバイスを提供するものであり、このデバイスは、カソード、アノード、及びここに記載した電解液を含む。一態様において、該電気化学的デバイスは、リチウム二次電池であり、そのカソードは、リチウム金属酸化物製カソードであり、そのアノードは、炭素又はリチウム金属製アノードであり、また該アノード及びカソードは、多孔質の隔離体によって相互に分離されている。このような電池内の該カソードは、典型的にスピネル、カンラン石、炭素-被覆カンラン石、LiFePO4、LiCoO2、LiNiO2、LiNi1-xCoyMetzO2、LiMn0.5Ni0.5O2、LiMn0.3Co0.3Ni0.3O2、LiMn2O4、LiFeO2、LiMet0.5Mn1.5O4、Li1+x'NiαMnβCoγMet'δO2-z'Fz'、An'B2(XO4)3[ナシコン(Nasicon)]、酸化バナジウム、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物を含み、ここでMetとは、Al、Mg、Ti、B、Ga、Si、Mn、又はCoであり;Met'は、Mg、Zn、Al、Ga、B、Zr、又はTiであり;AはLi、Ag、Cu、Na、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnであり;BはTi、V、Cr、Fe、及びZrであり;XはP、S、Si、W、Moであり;0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦m≦0.5、及び0≦n≦0.5、0≦x'≦0.4、0≦α≦1、0≦β≦1、0≦γ≦1、0≦δ≦0.4、及び0≦z'≦0.4、及び0≦n'≦3である。このようなデバイスにおいて、該アノードは、グラファイト、アモルファス炭素、Li4Ti5O12、錫合金、珪素合金、金属間化合物、リチウム金属、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物を含むことができる。適当なグラファイト材料は、天然グラファイト、人工グラファイト、グラファイト化したメソ-炭素マイクロビーズ、部分的にグラファイト化した炭素、及びグラファイト繊維、並びに任意のアモルファス炭素物質を包含する。
【0026】
本発明の電気化学的電池において、該カソードは、スピネル、カンラン石、又は炭素-被覆カンラン石(例えば、公開US特許出願第2004/0157126号を参照のこと)を含むことができる。例えば、該スピネルは、式:Li1+xMn2-zMetyO4-mXnで表されるスピネルマンガン酸化物であり得、ここで、MetはAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、Ni、又はCoであり、XはS又はFであり、また0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦m≦0.5、及び0≦n≦0.5である。あるいはまた、該カソードは、式:LiFe1-zMet”yPO4-mXnで表される、カンラン石を含むことができ、該式において、Met"はAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、Ni、Mn、又はCoであり;XはS又はFであり、また0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦m≦0.5及び0≦n≦0.5である。
【0027】
本発明の該カソードは、さらに酸を中和することができ、あるいはマンガン又は鉄イオンの溶出を減衰又は阻止できる物質で、表面被覆することにより、該カソード(例えば、スピネル又はカンラン石)の粒子を安定化することができる。従って、該カソードは、また該スピネル又はカンラン石粒子上に金属酸化物、例えばZrO2、TiO2、ZnO2、WO3、Al2O3、MgO、SiO2、SnO2、AlPO4、Al(OH)3、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物、あるいは任意の他の適当な金属酸化物の、表面被膜を含むことができる。この被膜は、また炭素-被覆カンラン石に適用することも可能である。炭素-被覆カンラン石を使用した場合には、該金属酸化物被膜は、炭素-被覆カンラン石に適用することができ、あるいは先ずカンラン石に金属酸化物被膜を適用し、次いで該金属酸化物被膜を、炭素で被覆することも可能である。スピネルカソードを金属酸化物で被覆する方法を以下に記載し、またこれらの方法は、カンラン石カソードについて使用するためにも適したものであり得る。
【0028】
スピネル上の該金属酸化物被膜は、様々な方法を利用して適用することができる。例えば、該被覆元素源は、有機溶媒又は水に溶解することができる。該被覆元素源は、金属アルコキシド、塩又は酸化物(例えば、アルミニウムイソプロポキシド、又はマグネシウムメトキシド)を含む。スピネルカソード材料を、次いで該塗布溶液中に分散させる。この混合物を、該有機溶媒が、完全に蒸発するまで攪拌する。必要ならば、フラッシングガス(CO2又は水分を含まない不活性ガス)を使用して、該塗布溶液中の該溶媒の蒸発を容易に行うために使用できる。この乾燥し、被覆した物質を、次に約100℃〜約500℃なる範囲内の温度にて、熱処理する。
TiO2被膜を、チタン酸テトラ-n-ブチル(TBT)のヒドロキシル化によって、スピネル粉末に適用することができる。従って、例えば該チタネートをLiOHと反応させて、該スピネル粉末上に、水酸化チタンを沈殿させることが可能である。この被覆材料を、約100℃〜約400℃なる範囲内の温度にて、熱処理して、所定の酸化物被膜を有するスピネル粒子を製造することができる。
【0029】
該スピネルの被覆において、ゾル-ゲル法を使用することができる。M-エチルヘキサネートジイソプロポキシド(M=Zr、Al、Ti、B、Si)及び錫エチルヘキサノイソプロポキシドを含む、該被覆材料は、アルコール(例えば、2-プロパノール又はイソプロパノール)に溶解することができる。次に、このカソード材料を、該塗布溶液と混合し、約100℃〜約500℃なる範囲内の温度にて、アニールする。あるいはまた、珪酸エチルをエタノール及び水に溶解することによって、塗布溶液を製造することができる。スピネル粉末を、該塗布溶液中に浸漬し、攪拌し、110℃にて乾燥し、次に約200℃〜約500℃なる範囲内の温度にて、焼成する。
スピネルをAlPO4で被覆する方法は、淡い白色の懸濁液(該AlPO4ナノ粒子溶液)が得られるまで、水に、硝酸アルミニウム及びリン酸アンモニウムを溶解することによって行うことができる。次いで、スピネルカソード粉末を、該塗布溶液に添加し、混合する。得られるスラリーを、約100℃〜約500℃なる範囲内の温度にて、乾燥し、かつアニールすることができる。
【0030】
また、コロイド状懸濁液を用いて、スピネルを金属酸化物で被覆することもできる。例えば、該スピネル粉末を、4質量%(〜0.3モル%)のコロイド状ZrO2懸濁液を用いて、被覆することができる。該スピネル粒子を、約1時間に渡り、該ZrO2懸濁液中に浸漬し、かつそこで攪拌し、次いで75℃にて、該発生期の液体を蒸発させる。その後、この生成物を、約200℃〜約400℃又は約500℃なる範囲内の温度にて、加熱することができる。
あるいはまた、スピネルの該ZrO2被膜は、2つの異なる被覆溶液(酸化ジルコニウム+ポリマープリカーサ又は硝酸ジルコニウムの水性溶液)を用いて、実施することもできる。スピネルは、該混合物が乾燥するまで、該塗布溶液と混合することができる。次いで、この混合物を、約100℃にて加熱して、該塗布溶液中の該溶媒を蒸発させることが可能である。次に、この乾燥した混合物を、200〜500℃なる範囲の温度にて熱処理することができる。
【0031】
ZnO2被膜は、酢酸亜鉛を水に溶解し、次に該スピネルの粉末を添加し、室温にて約4時間十分に攪拌することにより、該スピネルに適用することができる。乾燥後、該被覆した粉末を、120℃にて加熱し、さらに約200℃〜約400℃なる範囲内の温度にて、焼成する。
最後に、同時沈殿法を利用して、スピネルを被覆することも可能である。スピネルの粉末を、NaHCO3溶液に分散させ、超音波によって攪拌する。次に、この懸濁液を、機械的に攪拌し、一方でAl2(SO4)3溶液を、これに滴添する。このようにして、Al(OH)3を該スピネル粒子表面に沈殿させる。この最終的な粉末を濾過し、洗浄し、かつ乾燥させる。この乾燥粉末を空気中で、約200℃〜約600℃なる範囲の温度にて加熱する。
【0032】
本発明の電気化学的デバイスの幾つかの態様において、該カソードは、スピネル、カンラン石、又は炭素-被覆カンラン石であり、また該電解液の該アルカリ金属塩は、Li(C2O4)BF2、Li[(C2O4)2B]、LiPF2C4O8又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物を含む。このような態様の幾つかにおいて、該電極安定化添加剤は、3,9-ジビニル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4,8-トリオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4,8-トリオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジメチレン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジメチレン-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物である。これら態様の何れかにおいて、該カソードは、本明細書に記載したように、金属酸化物の表面被膜を含むことができる。
【0033】
材料のブレンドで構成される、安定化された電極及び該電極を用いた電気化学的デバイスも、本発明の範囲内に入る。例えば、該カソードはスピネルと、Li1+x'NiαMnβCoγMet'δO2-z'Fz'とのブレンドを含むことができ、ここでMet'はMg、Zn、Al、Ga、B、Zr、又はTiであり;また0≦x'≦0.4、0≦α≦1、0≦β≦1、0≦γ≦1、0≦δ≦0.4、及び0≦z'≦0.4である。スピネル対Li1+x'NiαMnβCoγMet'δO2-z'Fz'の比は、典型的には約0.5〜約98質量%なる範囲にあり、また幾つかの態様においては、約0.5〜約60質量%なる範囲内にある。適当なカソードは、またカンラン石又は炭素-被覆カンラン石と、Li1+x'NiαMnβCoγMet'δO2-z'Fz'とのブレンドを含むことができ、ここでMet'はMg、Zn、Al、Ga、B、Zr、又はTiであり;また0≦x'≦0.4、0≦α≦1、0≦β≦1、0≦γ≦1、0≦δ≦0.4、及び0≦z'≦0.4である。前と同様に、カンラン石又は炭素-被覆カンラン石対Li1+x'NiαMnβCoγMet'δO2-z'Fz'の比は、約0.5〜約98質量%なる範囲内であり得る。
【0034】
このような混合電極は、該電解液の該アルカリ金属塩が、Li(C2O4)BF2、Li[(C2O4)2B]、LiPF2C4O8又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物であるようなもの、並びに本明細書に記載の電極安定化添加剤を使用したものを包含する、ここに記載した何れの電気化学的デバイスと共に使用することも可能である。
上記の多孔質の隔離体は、当業者にとって周知の材料から作ることができる。典型的には、該多孔質の隔離体は、ポリプロピレン、ポリエチレン、又はポリプロピレン及びポリエチレンの多層積層体を含む。
【0035】
従って、一態様によれば、本発明の電気化学的デバイスは、スピネル、カンラン石、又は炭素-被覆カンラン石製のカソード;グラファイト又はアモルファス炭素製のアノード;及びアルカリ金属塩、即ちLi(C2O4)BF2、Li[(C2O4)2B]、LiPF2C4O8又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物、即ち酢酸エチル、酢酸プロピル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルエーテル、γ-ブチロラクトン、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物、及び電極安定化添加剤、即ち3,9-ジビニル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4,8-トリオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4,8-トリオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジメチレン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジメチレン-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物を含有する、実質的に非水性の電解液を含む。
【0036】
以下の用語は、本明細書全体を通して、以下の如く定義されるものとして使用する。
スピロ環式炭化水素とは、炭素と水素とを含み、また2又はそれ以上のリングを含み、ここで該リングの少なくとも2つが単一の炭素原子において結合している、リング系を包含する。典型的には、本発明でいうスピロ環式炭化水素とは、8〜20個の炭素原子を含み、また幾つかの態様においては、8〜16個の炭素原子を含む。
該用語「スピネル」とは、マンガンを主成分とするスピネル、例えば式:Li1+xMn2-zMetyO4-mXnで表されるスピネルを意味し、ここで、MetはAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、Ni、又はCoであり、XはS又はFであり、また0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦m≦0.5、及び0≦n≦0.5である。
該用語「カンラン石」とは、鉄を主成分とするカンラン石、例えば式:LiFe1-zMet”yPO4-mXnで表されるカンラン石を意味し、この式において、Met"はAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、Ni、Mn、又はCoであり;XはS又はFであり、また0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦m≦0.5及び0≦n≦0.5である。
【0037】
アルキル基は、1〜約20個の炭素原子、及び典型的には1〜12個の炭素原子、又は幾つかの態様においては、1〜8個の炭素原子を含む、直鎖及び分岐鎖アルキルを包含する。ここで使用する用語「アルキル基」とは、以下に定義するようなシクロアルキル基を含む。直鎖アルキル基の例は、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、及びn-オクチル基を含む。分岐鎖アルキル基の例は、イソプロピル、sec-ブチル、t-ブチル、ネオペンチル及びイソペンチル基を含むが、これらに限定されない。代表的な置換アルキル基は、例えばアミノ、チオ、ヒドロキシ、シアノ、アルコキシ、及び/又はハロ基、例えばF、Cl、Br及びI基で、1又はそれ以上に渡り置換されていてもよい。
【0038】
シクロアルキル基は、環状のアルキル基、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、及びシクロオクチル基であるが、これらに限定されない。幾つかの態様において、該シクロアルキル基は、3〜8個のリング構成員を有し、一方他の態様では、該リング構成炭素原子数は、3〜5、6、又は7なる範囲にある。シクロアルキル基は、さらに多環式のシクロアルキル基、例えばノルボルニル、アダマンチル、ボルニル、カンフェニル、イソカンフェニル、及びカレニル基;及び縮合環、例えばデカリニル等を含むが、これらに限定されない。シクロアルキル基は、また上に定義したような、直鎖又は分岐鎖アルキル基で置換されている、リングをも包含する。代表的な置換シクロアルキル基は、モノ-置換された又は2以上で置換された、例えば2,2-、2,3-、2,4-、2,5-、又は2,6-ジ置換シクロヘキシル基、又は例えばアルキル、アルコキシ、アミノ、チオ、ヒドロキシ、シアノ、及び/又はハロ基で置換されていてもよい、モノ-、ジ-又はトリ-置換ノルボルニル又はシクロヘプチル基であり得るが、これらに限定されない。
【0039】
アルケニル基は、2〜約20個の炭素原子を有し、かつさらに少なくとも一つの二重結合を含む、直鎖、分岐鎖又は環式のアルキル基である。幾つかの態様において、アルケニル基は、1〜12個の炭素原子、又は典型的には1〜8個の炭素原子を持つ。アルケニル基は、例えば特にビニル、プロペニル、2-ブテニル、3-ブテニル、イソブテニル、シクロヘキセニル、シクロペンテニル、シクロヘキサジエニル、ブタジエニル、ペンタジエニル、及びヘキサジエニル基を含む。アルケニル基は、アルキル基と同様に置換されていてもよい。二価のアルケニル基、即ち二箇所に結合点を持つアルケニル基は、例えばCH-CH=CH2、C=CH2、又はC=CHCH3を含むが、これらに限定されない。
アルキニル基は、2〜約20個の炭素原子を有し、しかもさらに少なくとも一つの三重結合を含む、直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。幾つかの態様において、アルキニル基は、1〜12個の炭素原子、又は典型的には1〜8個の炭素原子を持つ。アルキニル基の例は、エチニル、プロピニル、及びブチニル基を含むが、これらに限定されない。アルキニル基は、アルキル基と同様に置換されていてもよい。二価のアルキニル基、即ち二箇所に結合点を持つアルキニル基は、例えばCH-C≡CHを含むが、これらに限定されない。
【0040】
当業者は、容易にここで論じた範囲の全てが、あらゆる目的にとって、該範囲内の全ての小範囲を記載し、また必要に応じて記載でき、またこのような小範囲全てが、本発明の一部及び一区画を構成するものであることを容易に明らかにすることができる。あらゆる掲載された範囲が、十分に説明されたものであり、またその同一の範囲を、少なくとも等価な半分、1/3、1/4、1/5、1/10、等に分割可能であることを容易に認識することができる。非-限定的な例として、ここで論じた各範囲は、下部の1/3、中央部の1/3及び上部の1/3に、容易に分割あるいはすることができる。
本明細書において言及した、あらゆる刊行物、特許出願、発行された特許、及びその他の文書は、個々の刊行物、特許出願、発行された特許、及びその他の文書各々の全体が、具体的に、かつ個別に、参考として組込まれているものとして、ここに参考文献として組入れる。参考文献として組込まれたテキストに含まれている定義は、本開示における定義と矛盾する場合には、排除される。
【実施例】
【0041】
このように一般的に記載された本発明は、以下の実施例を参照することによって、一層容易に理解されるであろうが、該実施例は、例示の目的で与えられるものであって、何ら本発明を限定するものではない。
実施例1:
ここにおいて具体的に述べる実施例では、図1に示したような電気化学的電池を利用する。図1を参照すると、該電気化学的電池10は、電解液/隔離体14によって分離されているアノード12及びカソード16を含み、これらは全て絶縁性ハウジング18内に収容されている。該アノードは、該電解液によって、該カソードから分離されており、また適当な端子(図示せず)が、夫々アノード12及びカソード16と電気的に接続されるように設けられている。該電極各々と結合している、バインダ(例えば、ポリビニリデンジフルオライド)は、当分野において周知であり、従ってここでは説明しない。この特定の例において、本発明の電気化学的電池は、グラファイトアノード、例えば天然グラファイト、人工グラファイト、メソ-炭素マイクロビーズ、炭素繊維又は硬質炭素、マンガンスピネルカソード、及びEC:EMC(3:7なる質量比)中に分散させた、約1.2MのLiPF6で構成される電解液を含む。図2は、この電池を、3.0及び4.1V間で、サイクル処理に掛けた際に、得られる容量の保持性を示す図である。これは、55℃にてサイクルさせた際に、顕著な容量の減少を示す。
【0042】
実施例2:
1wt%の3,9-ジビニル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(TOS-1; ミルウォーキーの、SIGMA-ALDRICHから入手)を、実施例1の電気化学的電池の電解液に添加した。この電池を、次に100%DODにて、55℃で、150サイクルに渡り、サイクル処理に掛けた。3.0及び4.1V間で、この電池をサイクルさせた際に得られた結果を、図3に示す。この電池は、実施例1の電気化学的電池を越えて改善された、容量保持性を持つことが明らかとなった(図2と3との比較)。この改善は、該添加剤による、該電極上における薄いフィルム生成の結果であると考えられる。図4は、該電気化学的電池において遭遇する電位範囲に渡る、TOS-1を使用した、サイクリックボルタンメトリーの結果を示す図である。電流における増加は、該添加剤の酸化及び/又は重合と一致している。
【0043】
実施例3:
Mn2+イオンの溶解が抑制されたにも拘らず、該グラファイト置換スピネル電池の著しい劣化の原因を検討するために、55℃におけるサイクル中に、特別に設計したLi-Sn標準電極を用いて、この電池のACインピーダンスを測定した。これらの結果を図5に示す。該ACインピーダンスは、室温における1化成サイクル後(図5A)及び55℃における25サイクル後(図5B)に測定した。このサイクル処理の初期段階において、負極のインピーダンスは、正極のインピーダンスよりも著しく小さいが、55℃での25サイクル後には、該負極のインピーダンスは著しく増大し、該正極のインピーダンスを凌駕した。
マンガンスピネルを主成分とする該Li-イオン電池において、55℃にてサイクル処理した、該グラファイトアノードを、エネルギー分散型分光法(EDS)によって検討した。該EDSスペクトルは、明らかに該グラファイト表面におけるMn金属の存在を示した。該溶解したMn2+は、該グラファイト表面において減じられているものと考えられ、その電位はLi0に対して約0.08Vであり、また該グラファイト表面におけるフィルムの形成において、触媒的な役割を演じ、これが、該負極における界面インピーダンスの大幅な上昇に導く。
【0044】
この仮説を立証するために、公称電圧が、Li0に対して約1.5Vである、Li4Ti5O12スピネルアノードを用いて、サイクル実験を行った。図6は、55℃における、Li4Ti5O12/Li1.06Mn1.94-xAlxO4電池のサイクル性能を示す図である。この結果は、該Li4Ti5O12/Li1.06Mn1.94-xAlxO4電池が、グラファイト/Li1.06Mn1.94-xAlxO4電池と比較して、優れた容量保持性(100サイクル後に95%)を呈することを示しており、我々は、この事実が、該電解質溶液中にMn2+が残存しており、また0.01≦x≦0.05である場合に、その高い還元電位のために、該Li4Ti5O12表面上でMn2+が還元されないことによるものと考える。
【0045】
実施例4:
EC/PC/DMC (1/1/3)の電解液に分散させた、1.0MのLi(C2O4)BF2を、EC/EMC(3:7)中に分散させた、1.2MのLiPF6の代わりに、スピネル/炭素電池系において使用した。3.0及び4.1V間で、この電池をサイクル処理した際に得られた結果を、図7に示す。この電池系は、実施例1の電気化学的電池を越えて改善された、容量保持性を持つことが明らかとなった。Li(C2O4)BF2のこの改善された性能は、LiPF6に比して著しく高い安定性によるものである。即ち、Li(C2O4)BF2は、該スピネルからMn2+イオンを溶出させる、強酸を生成しない。
【0046】
実施例5:
1質量%のTOS-1を、EC/PC/DMC (1/1/3)の電解液に分散させた、1.0MのLi(C2O4)BF2に添加した。この電池を、25℃及び55℃にて、100%DODにて、3.0及び4.1V間で、サイクル処理した。図8に示すように、この電池系は、実施例1、2及び4の電気化学的電池を越える、安定な容量保持性を示すことが明らかになった(図2、3及び7との比較)。この改善の結果は、該電解液に及ぼす、Li(C2O4)BF2のこの安定化効果、及び該スピネルからのMn2+イオンの溶出を阻止する、該TOS-1による該電極表面での保護フィルムの生成に起因するものと考えられる。この結果は、過去20年間に渡り、世界の科学界において出されてきた、長期に及ぶ需要を満足するものである。スピロ環式添加剤と、該電池内のリチオ化されたボレート塩との組み合わせが、このスピネル系の完全な安定化をもたらした。
【0047】
実施例6:
LiFePO4を、鉄(II)オキサレート、リン酸2水素アンモニウム、及びリチウムカーボネートの1:1:1(モル比)の固体反応によって製造した。該プリカーサは、アセトン中で一夜ボールミル処理することによって、混合した。得られたゲルを、減圧下で60℃にて乾燥し、十分に再粉砕し、最終的に精製したN2ガス雰囲気下で、700℃にて24時間加熱した。得られた灰色の粉末を、気相法において、N2/C3H6の予熱した流れを用いて、炭素層で被覆した。炭素被覆技術(Carbon Coating Technology)(CCT)と呼ばれるこの技術は、カンラン石物質を含む予熱した反応炉に、不活性ガスとしてのN2と、炭素源ガスとしてのプロピレン:C3H6との混合物を供給することからなる(公開されたUS特許出願第2004/0157126号を参照のこと)。C3H6の分解を行う温度は、700℃に固定した。電気化学的研究を、LiFePO4及び炭素被覆LiFePO4両者について行った。電極は、EC:PC:DMC (1:1:3)中の1.2M LiPF6であった。
【0048】
図9は、LiFePO4上に被覆した炭素(C-LiFePO4)対リチウム金属カウンタ(counter)の、室温における、典型的な充電-放電電位プロフィールを示す。この材料は、C/3レート(C/3 rate)にて、100サイクル後においてさえ、容量の減衰を示すことなく、極めて良好にサイクルを繰返した。図10は、25℃及び55℃両者における、C-LiFePO4対MCMBグラファイトアノードの充-放電サイクル特性を示す。室温において、この電池は、100サイクル後においてさえ、容量の減衰を示すことなく、極めて良好にサイクルを繰返した。しかし、かなりの容量減衰が、55℃にて充-放電サイクルを行った際に観測された。同様な結果は、LiFePO4(炭素被覆なし)とグラファイトアノードとで構成されるこの電池を、55℃にて充-放電サイクルした際にも得られた(図11)。
【0049】
実施例7:
55℃における顕著な容量の減衰に隠された理由を理解するために、電解液の存在下におけるC-LiFePO4の安定性を、先ず検討した。C-LiFePO4粉末の適当量を、EC:PC:DMC(1:1:3)に分散させたLiPF6中に浸漬し、55℃にて2週間加熱した。この溶液を、次に濾過し、誘導結合プラズママススペクトル(ICP)分析法に掛けて、鉄イオンの痕跡を探索した。LiPF6を主成分とする電解液中での、該カンラン石C-LiFePO4粉末の老化処理の2週間後に、535ppmを越えるFe2+イオンを、該電解液中に検出した。溶解したイオンの量は、温度及び老化処理時間の増大に伴って、増加した。この結果は、明らかにFeイオンが、充-放電サイクル中に、該電解液中に溶解することを追認するものである。しかし、少量のFeの溶解に関連する、活性なLiFePO4の材料の量は、重要ではなく、この電池を55℃にて充-放電処理した際に観測される、主な容量損失に関して説明することはできない。
【0050】
55℃にて充-放電処理した際の、該グラファイト/LiFePO4電池の、該大幅な劣化の起源を検討するために、55℃にて充-放電サイクルに付した際の、該電池のACインピーダンスを、特別に設計したLi-Sn基準電極を用いて測定した。これらの結果を、図12及び13に示す。該ACインピーダンスは、室温における一回の化成サイクル後(図12)、及び55℃における50サイクル後(図13)に測定した。サイクル処理の初期段階において、負極及び正極のインピーダンスは、極めて類似しているが、55℃での50サイクル後には、該負極のインピーダンスは、大幅に増大し、また全電池インピーダンスの殆ど90%である。
【0051】
カンラン石カソードを主成分とするLi-イオン電池において、55℃にてサイクル処理された、グラファイトアノードを、EDSを用いて検討した。該EDSスペクトル(図示せず)は、明らかに該グラファイト表面におけるFe金属の存在を示した。この溶解したFe2+が、該グラファイト表面で還元され、その電位は、Li0に対して約0.06V〜約0.1Vであり、また該グラファイト表面にフィルムを形成する上で、触媒的な役割を演じ、該負極における界面インピーダンスの、大幅な上昇に導くものと考えられる。
【0052】
この仮説を立証するために、Li0に対して約1.5Vなる公称電圧をもつ、Li4Ti5O12スピネルアノードを用いて、サイクル処理実験を行った。図14は、55℃における、Li4Ti5O12/LiFePO4電池のサイクル性能を示す。その結果、上記のグラファイト/LiFePO4電池と比較して、優れた容量保持性(100サイクル後に80%)を示した。このことは、該Fe2+が、該電解液中に残されており、またその高い還元電位のために、該Li4Ti5O12表面上で還元されることがないという事実に帰せられる。
【0053】
実施例8:
本実施例は、該カンラン石LiFePO4電池系の性能が、より酸性度の低い電解質塩を使用することにより改善できることを示す。特に興味深いものは、LiBoB、Li(C2O4)BF2及びLiPF2C4O8である。これらの塩は強力な酸性環境を生成しないので、Fe2+イオンの溶解は、このような電解質によって、顕著に還元又は抑制されるはずである。LiFePO4粉末を、EC:PC:DMC(1:1:3)に分散させた0.7MのLiBoB及びEC:PC:DMC(1:1:3)に分散させた1.2MのLiPF6両者において、2週間に渡り55℃にて保存した。ICPを使用して、溶液中のFe2+イオンを検出した。予想されるように、無視できる程度の量のFe2+イオンのみが、該LiBoBを主成分とする電解液中で老化させた、粉末から採取した溶液から検出された(3.7ppm未満)。対照的に、該LiPF6を主成分とする電解液は、かなりの量のFe2+イオン(535ppm)の存在を示した。
【0054】
図15は、C-LiFePO4対グラファイトの、55℃における、EC:PC:DMC(1:1:3)に分散させた9.7MのLiBoB及びEC:PC:DMC(1:1:3)に分散させた1.2MのLiPF6中における、該容量減衰を比較したものである。LiBoB-を主成分とする電解液を用いた、グラファイト/C-LiFePO4電池の充-放電サイクル性能は、55℃にて顕著に改善され、このことはLiBoB電解液を用いた場合に観測される、制限された鉄の溶出量と一致する。これらの結果は、カンラン石が、LiPF6を主成分とする電解液におけるよりも、LiBoBを主成分とする電解液中で、より安定であると考えられることを示している。
【0055】
実施例9:
本実施例では、EC:PC:DMC(1:1:3)に分散させ、1質量%のTOS-1を添加した1.2MのLiPF6及びEC:PC:DMC(1:1:3)に分散させ、1質量%のTOS-1を含む0.7MのLiBoBの何れかを用いて、C-LiFePO4/グラファイト電池の容量の減衰を比較する。次いで、この電池を、多数回のサイクルに渡り、55℃にて、100%のDODにおける、3.0〜4.1Vなる範囲内でサイクル処理に付した。図16に示すように、各電池は、添加剤を含まない同様な電気化学的電池に比して、改善された容量保持性を持つことが明らかにされた(図15と比較)。
【0056】
実施例10:
本実施例では、図17においてLP-40と記載した、1.0MのLiPF6/EC/DEC(1:1)電解液に、1質量%のTOS-1を添加した。次に、TOS-1を添加した又は添加してない、1.0MのLiPF6/EC/DEC(1:1)電解液中の、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(10%過剰のLi)/MCMB10-28電池系を、55℃にて、1Cレートにて、3.0〜4.1Vなる範囲内で充-放電サイクルさせた。該電解液にTOS添加剤を含む電池について、容量保持性における顕著な改善が観測され、55℃での1200サイクル後に、70%の容量が残存していた(図17参照)。しかし、TOS-1を添加してない電池系では、55℃にて丁度600サイクル後には、僅かに55%の容量が残されたに過ぎない。この改善は、該電極の表面における、該TOS添加剤からの、不動態化フィルムの生成によるものであると考えられる。
【0057】
実施例11:
本実施例では、1質量%のTOS-1及び1質量%のTOS-1+1質量%のLiBoBの組合せを、別々に1.2M LiPF6/EC/PC/DMC(1:1:3)電解液に添加した。TOS-1及びTOS-1+ LiBoB添加剤を含む2つの電解液、並びに基準としての1.2M LiPF6/EC/PC/DMC(1:1:3)電解液を、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(10%過剰のLi)/MCMB10-28電池系において使用した。これらの電池系を、55℃にて、1Cレートにて、100%DODにて、3.0V〜4.0Vなる範囲内でサイクルさせた。この電池系は、該TOS添加剤が、高温度における電池容量の保持性を88%まで改善するが、TOS-1及びLiBoB添加剤の組合せは、僅かに83%の容量を示す、添加剤を含まない電池と比較して、さらに93%まで容量保持性を改善することを明らかにした(図18参照)。1質量%のTOS-1及び1質量%のLiBoBの組合せに関する、より良好な電池性能が、該アノード及びカソード電極両者の表面保護によるものとすることができる。従って、該添加剤の組合せは、スピロ環式添加剤及びアノード表面にフィルムを生成し得る、任意の他の添加剤を含むことができる。これらの他の添加剤は、LiBoB、Li(C2O4)BF2、LiPF2C4O8、ビニルカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、等を含むことができるが、これらに限定されない。
【0058】
実施例12:
本実施例では、1質量%のTOS-1、及び1質量%のTOS-1+10%のP-エトキシ-P,P',P”-ペンタフルオロシクロトリホスファゼン(図19のCPA)との組合せを、別々に1.2M LiPF6/EC/PC/DMC(1:1:3)電解液に添加した。TOS-1、及びTOS-1+P-エトキシ-P,P',P”-ペンタフルオロシクロトリホスファゼン含む2つの電解液、並びに基準としての1.2M LiPF6/EC/PC/DMC(1:1:3)電解液を、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(10%過剰のLi)/MCMB10-28電池系において使用した。これらの電池を、55℃にて、1Cレートにて、100%DODにて、3.0V〜4.0Vなる範囲内でのサイクル処理に付した。この電池系は、該TOS-1+P-エトキシ-P,P',P”-ペンタフルオロシクロトリホスファゼンが、高温度における電池容量の保持性をさらに改善することを明らかにした(図19参照)。使用可能な他のシクロトリホスファゼンは、P,P'-ジエトキシ-P,P',P”-テトラフルオロシクロトリホスファゼン(IV)、P-フェノキシ-P,P',P”-ペンタフルオロシクロトリホスファゼン(V)、P,P',P”-ヘキサメトキシシクロトリホスファゼン(VI)、及びP-フェノキシ-P'-(プロプ-2-エン-オキシ)-P,P',P”-ペンタフルオロシクロトリホスファゼン(VII)を含むが、これらに限定されない。
【0059】
幾つかの態様を例示し、かつ説明してきたが、当業者によって、広い局面における本発明から逸脱することなしに、これら態様に、様々な変更並びに改良を施すことができるものと理解すべきである。本発明の様々な特徴は、上記特許請求の範囲に規定されている。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例1において説明した電気化学電池を、模式的に表示するものである。
【図2】55℃における、エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)の3:7混合物からなる電解液に分散させた1.2M LiPF6中での、LiMn2O4スピネルカソード対炭素アノードの、比容量保持性を模式的に示す図である。
【図3】55℃における、添加剤としての、1質量%(wt%)の3,9-ジビニル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(TOS-1)を含む、EC/EMC(3:7)電解液に分散させた1.2M LiPF6中での、LiMn2O4カソード対炭素アノードの、比容量保持性を模式的に示す図である。
【図4】3,9-ジビニル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン添加剤の、サイクリックボルタングラムを示す図である。使用した電解液は、EC/EMC(3:7)電解液に分散させた1.2M LiPF6である。
【図5】Li-Sn合金の基準電極を用いた、グラファイト/Li1.06Mn1.94-xAlxO4電池の、アノード及びカソード電極に関するインピーダンスデータを示す図であり、図5Aは、25℃における1サイクル後のものであり、また図5Bは、55℃における25サイクル後のものである。使用した電解液は、1.2M LiPF6/EC:PC:DMC(1:1:3)である。
【図6】2.8-1.5Vなる電圧範囲においてサイクル処理した、Li4Ti5O12/置換スピネル電池の、比容量保持特性を模式的に示す図である。その充-放電曲線を、挿入図で示した。使用した電解液は、1.2M LiPF6/EC:PC:DMC(1:1:3)である。
【図7】55℃における、EC/プロピレンカーボネート(PC)/ジメチルカーボネート(DMC)(1:1:3)電解液に分散させた1M Li(C2O4)BF2中での、LiMn2O4カソード対炭素アノードの、比容量保持性を模式的に示す図である。
【図8】55℃における、添加剤としての、1質量%の3,9-ジビニル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンを含む、EC/PC/DMC (1:1:3)電解液に分散させた1M Li(C2O4)BF2中での、LiMn2O4カソード対炭素アノードの、比容量保持性を模式的に示す図である。この電池は、55℃にて、100%放電深度(DOD)にて、如何なる容量の減衰をも示さない。
【図9】C/3及び25℃における、炭素-被覆カンラン石(C-LiFePO4)/リチウム電池の、充-放電容量対サイクル数のグラフである。使用した電解液は、EC:PC:DMC(1:1:3)に分散させた、1.2M LiPF6である。
【図10】EC:PC:DMC(1:1:3)に分散させた、1.2M LiPF6電解液を用いて、25℃及び55℃における、C-LiFePO4/グラファイト電池の、充-放電容量対サイクル数のグラフである。25℃においては、該電池は、制限された容量損失で、良好にサイクルを行った。しかし、55℃において充-放電サイクルさせた電池は、かなりの容量損失を示し、僅か100サイクル後に、85%を越える容量の減衰を示した。
【図11】C/3及び55℃における、LiFePO4/グラファイト電池の、充-放電容量対サイクル数のグラフである。ここでは、50サイクル未満の後に、その容量の殆ど全てを失った。用いた電解液は、EC:PC:DMC(1:1:3)に分散させた、1.2M LiPF6である。
【図12】LiSn基準電極を使用し、1.2M LiPF6/EC:PC:DMC(1:1:3)電解液を使用して、25℃における第一サイクル後の、C-LiFePO4/グラファイト電池のACインピーダンスを示す。この時点において、該カソードのインピーダンスは、該アノードの値よりも僅かに大きい。
【図13】1.2M LiPF6/EC:PC:DMC(1:1:3)電解液を使用し、55℃にて50サイクルに渡り、該C-LiFePO4/グラファイト電池を充-放電サイクルさせた後、該ACインピーダンス分析は、該グラファイト負極のインピーダンスが、著しく増大したことを示す。
【図14】C/3及び55℃において、1.2M LiPF6/EC:PC:DMC(1:1:3)電解液を使用した、LiFePO4/Li4Ti5O12電池の、放電容量対サイクル数のグラフである。このグラフは、該容量の減衰が、極めて制限されたものであることを示しているが、その理由は、公称電圧である、1.5Vなる電圧において、該Li4Ti5O12アノード表面上で、FeイオンがFe金属に還元されるからである。
【図15】C/3及び55℃において、EC:PC:DMC(1:1:3)に分散させた0.7M LiBoB電解液及びEC:PC:DMC(1:1:3)に分散させた1.2M LiPF6電解液を使用した、C/3及び55℃における、該C-LiFePO4/グラファイト電池容量対サイクル数のグラフである(一部欠落している可能性あり)。
【図16】EC:PC:DMC(1:1:3)に分散させた1.2M LiPF6電解液及びEC:PC:DMC(1:1:3)に分散させた0.7M LiBoB電解液中での、C-LiFePO4カンラン石カソード対GDR炭素あるいはモードの、55℃における、比容量保持性を模式的に示す図である。これら2つの電解液には、3,9-ジビニル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン添加剤が添加されていた。
【図17】1Cレート及び55℃における、1質量%のTOS-1添加剤を含む、又はこれを含まない、1.0M LiPF6/EC/DEC(1/1)電解液(LP-40)中での、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(10%過剰のLi)/MCMB10-28電池系の、放電容量対サイクル数のグラフである。
【図18】1Cレート及び55℃における、添加剤を含まない、1%のTOS-1添加剤を含む、又は1%のTOS-1+1%のリチウムビスオキサラトボレート(LiBoB)を含む、1.2M LiPF6/EC:PC:DMC(1:1:3)電解液を使用した際の、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(10%過剰のLi)/MCMB10-28電池の、容量対サイクル数のグラフである。
【図19】1Cレート及び55℃における、添加剤を含まない、1%のTOS-1添加剤を含む、又は0.1%のTOS-1+10%のP-エトキシ-P,P',P”-ペンタフルオロシクロトリホスファゼン(上記した式III)を含む、1.2M LiPF6/EC:PC:DMC(1:1:3)電解液を使用した際の、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(10%過剰のLi)/MCMB10-28電池の、容量対サイクル数のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属塩、
極性非-プロトン性溶媒、及び
少なくとも一つの酸素原子と、少なくとも一つのアルケニル基又はアルキニル基を含む、置換又は無置換のスピロ環式炭化水素である、電極安定化添加剤を含み、
実質的に非水性であることを特徴とする、電解液。
【請求項2】
該電極安定化添加剤が、1、2、3、4、5又は6個の酸素原子を含む、請求項1記載の電解液。
【請求項3】
該電極安定化添加剤が、1又は2個のアルケニル基を持つ、請求項1記載の電解液。
【請求項4】
該電極安定化添加剤が、以下の式I:
【化1】

ここで、X1、X2、X3、及びX4は、夫々独立に、O又はCR3R4を表し、但しY1がOである場合、X1はOではなく、Y2がOである場合、X2はOではなく、Y3がOである場合、X3はOではなく、Y4がOである場合、X4はOではないことを条件とし、
Y1、Y2、Y3、及びY4は、夫々独立に、O又はCR3R4を表し、但しX1がOである場合、Y1はOではなく、X2がOである場合、Y2はOではなく、X3がOである場合、Y3はOではなく、X4がOである場合、Y4はOではないことを条件とし、
R1及びR2は、夫々独立に、置換又は無置換の二価のアルケニル基又はアルキニル基を表し、及び
各場合における、R3及びR4は、夫々独立に、H、F、Cl、置換又は無置換のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を表す、
で表されるものである、請求項1記載の電解液。
【請求項5】
該X1、X2、X3、及びX4の少なくとも一つがOである、請求項4記載の電解液。
【請求項6】
該X1がOである、請求項4記載の電解液。
【請求項7】
該X1、X2、X3、及びX4の各々が、Oである、請求項4記載の電解液。
【請求項8】
該R1及びR2が同一である、請求項4記載の電解液。
【請求項9】
該R1及びR2が、各々CH-CH=CH2、C=CH2、又はC=CHCH3である、請求項8記載の電解液。
【請求項10】
各場合における、R3及びR4が、夫々Hである、請求項4記載の電解液。
【請求項11】
該安定化添加剤が、3,9-ジビニル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4,8-トリオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4,8-トリオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジメチレン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジメチレン-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物である、請求項4記載の電解液。
【請求項12】
該安定化添加剤が、約0.0005〜約15質量%なる範囲内の量で存在する、請求項1記載の電解液。
【請求項13】
該安定化添加剤が、約0.0005〜約2質量%なる範囲内の量で存在する、請求項1記載の電解液。
【請求項14】
該アルカリ金属塩が、リチウム塩である、請求項1記載の電解液。
【請求項15】
該アルカリ金属塩が、Li[(C2O4)2B]、Li(C2O4)BF2、LiPF2C4O8、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、Li(CF3SO2)3C、LiN(SO2C2F5)2、リチウムアルキルフルオロホスフェート、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物である、請求項1記載の電解液。
【請求項16】
該アルカリ金属塩が、リチウム(キレート)ボレートである、請求項1記載の電解液。
【請求項17】
該アルカリ金属塩が、Li(C2O4)BF2、Li[(C2O4)2B]、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物である、請求項1記載の電解液。
【請求項18】
該極性非-プロトン性溶媒が、酢酸エチル、酢酸プロピル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルアセテート、γ-ブチロラクトン、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物である、請求項1記載の電解液。
【請求項19】
アルカリ金属塩、
極性非-プロトン性溶媒、及び
以下の式II:
【化2】

ここで、X1及びX2は、夫々独立に、O、CHR3、CHR4、又はCR3R4を表し、但しY1がOである場合、X1はOではなく、Y2がOである場合、X2はOではないことを条件とし、
Y1及びY2は、夫々独立に、O、CHR3、CHR4、又はCR3R4を表し、但しX1がOである場合、Y1はOではなく、X2がOである場合、Y2はOではないことを条件とし、
R1及びR2は、夫々独立に、置換又は無置換の二価のアルケニル基又はアルキニル基を表し、及び
各場合における、R3及びR4は、夫々独立に、H、F、Cl、置換又は無置換のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を表す、
で表される、電極安定化添加剤を含み、
実質的に非水性であることを特徴とする、電解液。
【請求項20】
該電極安定化添加剤が、2,4-ジビニル-テトラヒドロピラン、2,5-ジビニル-テトラヒドロピラン、2,6-ジビニル-テトラヒドロピラン、2,5-ジビニル-[1,4]ジオキサン、2,5-ジビニル-[1,3]ジオキサン、2-エチリデン-5-ビニル-[1,3]ジオキサン、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物である、請求項19記載の電解液。
【請求項21】
アルカリ金属塩、
極性非-プロトン性溶媒、及び
少なくとも一つの酸素原子と、少なくとも一つのアルケニル基又はアルキニル基を含む、スピロ環式炭化水素である、電極安定化添加剤
を、併合する工程を含むことを特徴とする、請求項1記載の電解液の製造方法。
【請求項22】
表面と、該表面上に、少なくとも一つの酸素原子と、少なくとも一つのアルケニル基又はアルキニル基を含む、置換又は無置換のスピロ環式炭化水素である、電極安定化添加剤から形成された、不動態化フィルムとを含み、電気化学デバイス用の電極であることを特徴とする、電極。
【請求項23】
該電極安定化添加剤が、以下の式I:
【化3】

ここで、X1、X2、X3、及びX4は、夫々独立に、O、CHR3、CHR4、又はCR3R4を表し、但しY1がOである場合、X1はOではなく、Y2がOである場合、X2はOではなく、Y3がOである場合、X3はOではなく、かつY4がOである場合、X4はOではないことを条件とし、
Y1、Y2、Y3及びY4は、夫々独立に、O、CHR3、CHR4又はCR3R4を表し、但しX1がOである場合、Y1はOではなく、X2がOである場合、Y2はOではなく、X3がOである場合、Y3はOではなく、かつX4がOである場合、Y4はOではないことを条件とし、
R1及びR2は、夫々独立に、置換又は無置換の、二価のアルケニル基又はアルキニル基を表し、及び
各場合における、R3及びR4は、夫々独立に、H、F、Cl、置換又は無置換のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を表す、
で表されるものである、請求項22記載の電極。
【請求項24】
該安定化添加剤が、3,9-ジビニル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4,8-トリオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4,8-トリオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジメチレン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジメチレン-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物である、請求項22記載の電極。
【請求項25】
表面と、電極安定化添加剤から該表面上に形成された、不動態化フィルムとを含み、電気化学デバイス用の電極であって、該電極安定化添加剤が、以下の式II:
【化4】

ここで、X1及びX2は、夫々独立に、O、CHR3、CHR4、又はCR3R4を表し、但しY1がOである場合、X1はOではなく、Y2がOである場合、X2はOではないことを条件とし、
Y1及びY2は、夫々独立に、O、CHR3、CHR4、又はCR3R4を表し、但しX1がOである場合、Y1はOではなく、X2がOである場合、Y2はOではないことを条件とし、
R1及びR2は、夫々独立に、置換又は無置換の、二価のアルケニル基又はアルキニル基を表し、及び
各場合における、R3及びR4は、夫々独立に、H、F、Cl、置換又は無置換のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基を表す、
で表される、ことを特徴とする、電極。
【請求項26】
該電極安定化添加剤が、2,4-ジビニル-テトラヒドロピラン、2,5-ジビニル-テトラヒドロピラン、2,6-ジビニル-テトラヒドロピラン、2,5-ジビニル-[1,4]ジオキサン、2,5-ジビニル-[1,3]ジオキサン、2-エチリデン-5-ビニル-[1,3]ジオキサン、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物である、請求項25記載の電極。
【請求項27】
カソード、
アノード、及び
請求項1記載の電解液、
を含むことを特徴とする、電気化学的デバイス。
【請求項28】
該デバイスが、リチウム二次電池であり、該カソードが、リチウム金属酸化物のカソードであり、該アノードが、炭素又はリチウム金属アノードであり、かつ該アノード及びカソードが、多孔質の隔離体によって、相互に分離されている、請求項27記載の電気化学的デバイス。
【請求項29】
該カソードが、スピネル、カンラン石、炭素-被覆カンラン石、LiFePO4、LiCoO2、LiNiO2、LiNi1-xCoyMetzO2、LiMn0.5Ni0.5O2、LiMn0.3Co0.3Ni0.3O2、LiMn2O4、LiFeO2、LiMet0.5Mn1.5O4、Li1+x'NiαMnβCoγMet'δO2-z'Fz'、An'B2(XO4)3、酸化バナジウム、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物を含み、ここでMetとは、Al、Mg、Ti、B、Ga、Si、Mn、又はCoであり;Met'は、Mg、Zn、Al、Ga、B、Zr、又はTiであり;AはLi、Ag、Cu、Na、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnであり;BはTi、V、Cr、Fe、及びZrであり;XはP、S、Si、W、Moであり;0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦m≦0.5、及び0≦n≦0.5、0≦x'≦0.4、0≦α≦1、0≦β≦1、0≦γ≦1、0≦δ≦0.4、0≦z'≦0.4、及び0≦n'≦3である、請求項27記載の電気化学的デバイス。
【請求項30】
該カソードが、スピネルを含む、請求項27記載の電気化学的デバイス。
【請求項31】
該カソードが、式:Li1+xMn2-zMetyO4-mXnで表されるスピネルを含み、ここで、MetはAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、Ni、又はCoであり、XはS又はFであり、また0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦m≦0.5、及び0≦n≦0.5である、請求項30記載の電気化学的デバイス。
【請求項32】
該カソードが、カンラン石又は炭素-被覆カンラン石を含む、請求項27記載の電気化学的デバイス。
【請求項33】
該カソードが、式:LiFe1-zMet”yPO4-mXnで表される、カンラン石を含み、該式において、Met"はAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、Ni、Mn、又はCoであり;XはS又はFであり、また0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦m≦0.5及び0≦n≦0.5である、請求項32記載の電気化学的デバイス。
【請求項34】
該カソードが、その粒子上に、金属酸化物の表面被覆を含む、請求項27〜33の何れか1項に記載の電気化学的デバイス。
【請求項35】
該金属酸化物が、ZrO2、TiO2、ZnO2、WO3、Al2O3、MgO、SiO2、SnO2、AlPO4、Al(OH)3、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物である、請求項34記載の電気化学的デバイス。
【請求項36】
該電解液の該アルカリ金属塩がLi(C2O4)BF2、Li[(C2O4)2B]、LiPF2C4O8又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物である、請求項30記載の電気化学的デバイス。
【請求項37】
該安定化添加剤が、3,9-ジビニル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4,8-トリオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4,8-トリオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジメチレン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジメチレン-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物である、請求項36記載の電気化学的デバイス。
【請求項38】
該カソードが、金属酸化物の表面被覆を含み、かつ該電解液の該アルカリ金属塩がLi(C2O4)BF2、Li[(C2O4)2B]、LiPF2C4O8又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物である、請求項30記載の電気化学的デバイス。
【請求項39】
該安定化添加剤が、3,9-ジビニル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4,8-トリオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4,8-トリオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジメチレン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジメチレン-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物である、請求項38記載の電気化学的デバイス。
【請求項40】
該カソードが、スピネルと、Li1+x'NiαMnβCoγMet'δO2-z'Fz'とのブレンドであり、ここでMet'は、Mg、Zn、Al、Ga、B、Zr、又はTiであり;かつ0≦x'≦0.4、0≦α≦1、0≦β≦1、0≦γ≦1、0≦δ≦0.4、及び0≦z'≦0.4である、請求項30記載の電気化学的デバイス。
【請求項41】
該Li1+x'NiαMnβCoγMet'δO2-z'Fz'に対するスピネルの割合が、約0.5〜約98質量%なる範囲内にある、請求項40記載の電気化学的デバイス。
【請求項42】
該カソードが、カンラン石又は炭素-被覆カンラン石と、Li1+x'NiαMnβCoγMet'δO2-z'Fz'とのブレンドであり、ここでMet'は、Mg、Zn、Al、Ga、B、Zr、又はTiであり;かつ0≦x'≦0.4、0≦α≦1、0≦β≦1、0≦γ≦1、0≦δ≦0.4、及び0≦z'≦0.4である、請求項32記載の電気化学的デバイス。
【請求項43】
該Li1+x'NiαMnβCoγMet'δO2-z'Fz'に対するカンラン石又は炭素-被覆カンラン石の割合が、約0.5〜約98質量%なる範囲内にある、請求項42記載の電気化学的デバイス。
【請求項44】
該電解液の該アルカリ金属塩がLi(C2O4)BF2、Li[(C2O4)2B]、LiPF2C4O8又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物である、請求項40記載の電気化学的デバイス。
【請求項45】
該安定化添加剤が、3,9-ジビニル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4,8-トリオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4,8-トリオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジメチレン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジメチレン-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物である、請求項44記載の電気化学的デバイス。
【請求項46】
該アノードがグラファイト、アモルファス炭素、Li4Ti5O12、錫合金、珪素合金、金属間化合物、リチウム金属、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物を含む、請求項27記載の電気化学的デバイス。
【請求項47】
スピネル、カンラン石又は炭素-被覆カンラン石のカソード、
グラファイト又はアモルファス炭素のアノード、及び
実質的に非水性の電解液を含み、該非水性の電解液が、
Li(C2O4)BF2、Li[(C2O4)2B]、又はLiPF2C4O8又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物である、アルカリ金属塩と、
酢酸エチル、酢酸プロピル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルエーテル、γ-ブチロラクトン、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物である、該極性非-プロトン性溶媒と、
3,9-ジビニル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4,8-トリオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4,8-トリオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジメチレン-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジメチレン-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジエチリデン-1,5,7,11-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物である、電極安定化添加剤とを含む、ことを特徴とする、電気化学的デバイス。
【請求項48】
カソードと、
アノードと、
請求項19記載の電解液
を含むことを特徴とする、電気化学的デバイス。
【請求項49】
カソードの表面を不動態化する方法であって、電気化学的デバイスを帯電させる工程を含み、該電気化学的デバイスが、カソードと、アノードと、実質的に非水性の電解液とを含み、該非水性の電解液が、
(i) アルカリ金属塩と、
(ii) 極性非-プロトン性溶媒と、
(iii) 少なくとも一つの酸素原子と、少なくとも一つのアルケニル基又はアルキニル基を含む、置換又は無置換のスピロ環式炭化水素である、電極安定化添加剤を含むことを特徴とする、上記方法。
【請求項50】
さらに、該電気化学的デバイスを放電させる工程をも含む、請求項49記載の方法。
【請求項51】
上記の帯電及び放電工程を、2又はそれ以上の回数に渡り繰返す、請求項50記載の方法。
【請求項52】
アルカリ金属塩、
極性非-プロトン性溶媒、
少なくとも一つの酸素原子と、少なくとも一つのアルケニル基又はアルキニル基を含む、置換又は無置換のスピロ環式炭化水素である、第一の電極安定化添加剤、及び
アノードを安定化することのできる、第二の電極安定化添加剤を含み、
実質的に非水性であることを特徴とする、電解液。
【請求項53】
該第二の電極安定化添加剤が、ビニルエチレンカーボネート、ビニルカーボネート、リチウム(キレート)ボレート、リチウム(キレート)ホスフェート、シクロトリホスファゼン、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物から選択される、請求項52記載の電解液。
【請求項54】
該リチウム(キレート)ボレートが、Li(C2O4)2B、Li(C2O4)BF2、又はこれらの混合物から選択される、請求項53記載の電解液。
【請求項55】
該リチウム(キレート)ホスフェートが、LiPF2C4O8である、請求項53記載の電解液。
【請求項56】
該シクロトリホスファゼンが、P-エトキシ-P,P',P"-ペンタフルオロシクロトリホスファゼン、P,P'-ジエトキシ-P,P',P"-テトラフルオロシクロトリホスファゼン、P-フェノキシ-P,P',P"-ペンタフルオロシクロトリホスファゼン、P,P',P"-ヘキサメトキシシクロトリホスファゼン、P-フェノキシ-P'-(プロプ-2-エンオキシ)-P,P',P"-ペンタフルオロシクロトリホスファゼン、又はこれらの任意の2又はそれ以上の混合物から選択される、請求項53記載の電解液。
【請求項57】
該第二の電極安定化添加剤が、約0.01質量%〜約15質量%なる範囲内の量で存在する、請求項52記載の電解液。
【請求項58】
該アルカリ金属塩が、Li(C2O4)2B、Li(C2O4)BF2、又はLiPF2C4O8以外のものである、請求項52記載の電解液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2008−533650(P2008−533650A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−546756(P2007−546756)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2005/044341
【国際公開番号】WO2006/065605
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(507200617)ユーシカゴ アーゴン リミテッド ライアビリティ カンパニー (2)
【Fターム(参考)】