説明

定トルク電動ドライバー

【課題】トルクリミッタの作動に伴う伝動回転部の回転停止状態を適正に検知することができるセンサを設けて、電動モータの駆動を迅速に停止させ、各種部品等の組立て作業における生産効率の向上と製造コストの低減を容易に達成することができる定トルク電動ドライバーを提供する。
【解決手段】トルクリミッタ14を把持部ケーシング10内に回転自在に収納配置すると共に、ドライバービット22に結合されるトルクリミッタの伝動回転部20の外周面部にセンサ感知部材28を配設し、前記センサ感知部材に対応させて前記把持部ケーシング内にセンサ30を配置し、前記ドライバービットによるねじ締め作業において、前記トルクリミッタの駆動軸16側が空転してその伝動回転部20が回転停止する状態を前記センサにより検出し、前記電動モータの駆動停止制御を行う制御手段34を設けた構成からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷が規定値以上に作用した場合において、回転力を伝動する継手部が滑動ないし離反して、駆動側が空転するように構成されたトルクリミッタを使用することにより、このトルクリミッタにより設定された所定のトルク値となるように、電動モータ駆動によるねじ締め作業を達成できるよう構成した定トルク電動ドライバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、先に、ねじ具の締付けトルクないしは緩めトルクを高精度に設定することができるトルクリミッタを応用することにより、特に小形精密部品の組立てやプラスチック製品等の脆弱な部品の結合および組立てを行う場合に適した、低トルクで小ねじの締付けまたは取外しを容易かつ安全に行うことができるトルク固定形ドライバーを提案した(特許文献1参照)。なお、このトルク固定形ドライバーとしては、駆動手段として、電動モータを備えない手動式のトルク固定形ドライバーと、電動モータを備えた電動モータ駆動式トルク固定形ドライバーとが、それぞれ提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載のトルク固定形ドライバーは、外ケースの内側に駆動軸を回転自在に収納し、この駆動軸の外周部にコイルばねを締まり嵌めすると共に、前記コイルばねの両端部に設けたフックを、それぞれ前記外ケースないしはこれに固定した部材に係合してなるトルクリミッタを備え、前記ケースを把持部ケーシングとし、または前記外ケースを把持部ケーシングで囲繞固定して、前記駆動軸の先端にドライバービットを設けた構成からなるものである。
【0004】
そして、前記電動モータ駆動式トルク固定形ドライバーの場合は、前記外ケースまたは把持部ケーシングの閉塞された後端部に、電動モータの出力軸を着脱可能に結合して回転駆動し得るように構成し、前記電動モータを囲繞支持する第1の外部ケーシングと、前記トルク固定形ドライバーを囲繞すると共にその出力軸を回転自在に支持する第2の外部ケーシングとを、相互に着脱交換可能に接続した構成からなる。
【0005】
また、前記トルク固定形ドライバーと同様の構成を主要部とする電動ドライバー用トルクキーパーが提案されている(特許文献2参照)。すなわち、この特許文献2には、従来の電動ドライバーにおいては、それに設けられているトルク設定機構によりトルク値を設定して使用するようにしているが、トルク設定機構における前記トルク設定値のピッチ間隔が比較的大まかであるため、締め止めするねじに合った所要のトルクに合致しない場合が多いことから、電動ドライバーのトルク設定機構によりトルク値を所要のトルク値より低いところで設定しておき、最初に電動ドライバーで締め付けた後、予め設定トルク値に合わせた手動用トルクドライバーで再度締め付けるか、或いは最初から手動用トルクドライバーで締め付けるかの何れかの方法で、ねじ止め作業を行っていたことが指摘されている。
【0006】
そして、この特許文献2に記載のトルクキーパーは、工具側本体とビット側本体とを互いに螺合して嵌合することによりハウジング本体を形成し、このハウジング本体にビットの基端部を嵌着するビットホルダーとトルクリミッタとを内装し、電動ドライバー先端のシャフトホルダーに嵌着する接続シャフトを、前記トルクリミッタを介してビットホルダーに接続してなり、前記トルクリミッタの所要の設定トルク値を、前記工具側本体とビット側本体との螺子の締め込みによって、自在に設定できるように構成したものである。
【0007】
さらに、前記提案と同様に、トルクリミッタを使用した電動ドライバーとして、トルクリミッタ動作時の反力維持が実現でき、使用感や使い勝手に優れる電動ドライバーが提案されている(特許文献3参照)。すなわち、この特許文献3には、トルクリミッタ付きの電動ドライバーを用いてねじ締めを行う場合、電動ドライバーのハウジングには、出力軸の回転方向と反対方向への反力が働くため、作業者はハウジングが当該方向へ回転しないようにこの反力に抗してハウジングを支持することになることから、この状態でトルクリミッタが働くとハウジングへの反力も失われるため、それまで支持していたハウジングごと手が反動で回転してしまい、作業者に不快感を与えたり、先端工具がねじから外れて被加工材を傷付けたりするおそれがあることが指摘されている。
【0008】
そして、この特許文献3に記載の電動ドライバーは、ハウジング内に、切替え操作によって正逆回転可能なモータを内蔵すると共に、前記モータの駆動で正逆回転する出力軸を前記ハウジングの先端に設けた筒状部で軸支して前方に突出させ、前記モータと出力軸との間に、前記出力軸の所定トルクで前記モータからの回転伝達を遮断するトルクリミッタを設けた電動ドライバーであって、前記筒状部と出力軸との間に、前記出力軸の正回転時には前記出力軸の回転を許容し、前記トルクリミッタの作動に伴う前記出力軸の前記筒状部に対する相対的な逆回転時には、前記出力軸の回転を規制するワンウェイクラッチを設けると共に、そのワンウェイクラッチに前記出力軸の逆回転時の回転規制を任意に解除可能とした解除手段を設けた構成からなる。
【0009】
【特許文献1】特開平11−285985号公報
【特許文献2】特開2000−6041号公報
【特許文献3】特開2006−272535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述した特許文献1において提案したトルク固定形ドライバーは、トルクリミッタを使用することにより、小形精密部品の組立てやプラスチック製品等の脆弱な部品の結合および組立てに際しての、予め設定された所要の締付けトルクによるねじ具の締付け作業を、手動式ドライバーおよび電動式ドライバーとして、適正かつ高精度に行うことができるものである。
【0011】
しかし、前記提案に係る電動式トルク固定形ドライバーにおいては、ねじ締め作業において、その締付けトルクが設定された定トルク値になると、トルクリミッタは電動モータの出力軸に直結する駆動軸側が空転するが、電動モータの駆動はそのまま継続することになる。従って、この場合、電動モータの駆動による電力消費が無駄になるばかりでなく、継続するねじ締め作業へ移行するための時間的な無駄も生じ、各種部品等の組立て作業における生産効率を低下させると共に、製造コストの低減にも影響を与える難点がある。
【0012】
また、前述した特許文献2に記載の電動ドライバー用トルクキーパーにおいては、工具側本体とビット側本体とを互いに螺合して嵌合することによりハウジング本体を形成するものであり、トルクリミッタの動作状態を作業者が確認することは可能であるが、電動ドライバーとしての前述したような問題点については未解決である。
【0013】
さらに、前述した特許文献3に記載の電動ドライバーにおいては、トルクリミッタの作動に伴う前記出力軸の前記筒状部に対する相対的な逆回転時には前記出力軸の回転を規制するワンウェイクラッチを設けたものであり、トルクリミッタが作動してもワンウェイクラッチの働きによって反力が突然失われることがなく、また作業者への不快感の発生や被加工材の損傷等を効果的に防止することができるが、前記と同様に電動ドライバーとしての前述したような問題点については未解決である。
【0014】
そこで、本発明者は、前述した問題点を解決するため、鋭意研究並びに試作を重ねた結果、トルクリミッタの駆動軸側を電動モータの出力軸に結合し、このトルクリミッタの伝動回転部側をドライバービットの接続を行うビットホルダー軸に結合して、前記トルクリミッタの伝動回転部およびビットホルダー軸を把持部ケーシング内に回転自在に保持し、前記トルクリミッタの伝動回転部の外周の一部に磁性体等のセンサ感知部材を設けると共に、このセンサ感知部材に対応させて前記把持部ケーシングの内側面にホール素子等のセンサを設け、前記センサにより前記トルクリミッタの伝動回転部の回転状態を前記センサ感知部材による間欠的な検出信号により監視して、前記トルクリミッタの作動に伴う伝動回転部の回転停止状態を前記検出信号の有無によって判定し、これにより前記トルクリミッタの伝動回転部の回転停止を検知した際に、この検知信号に基づいて電動モータの駆動を直ちに停止することができる定トルク電動ドライバーを実現することができることを突き止めた。
【0015】
このように構成される定トルク電動ドライバーは、ねじ締め作業において、その締付けトルクが設定された定トルク値になると、トルクリミッタは電動モータの出力軸に直結する駆動軸側が空転するが、この状態を前記センサによって直ちに検知して、電動モータの駆動を迅速に停止させることができる。従って、電動モータの駆動による電力消費も適正に行われると共に、継続するねじ締め作業への移行も迅速かつ円滑に達成することができ、しかも各種部品等の組立て作業における生産効率の向上と製造コストの低減に寄与することができる。
【0016】
従って、本発明の目的は、トルクリミッタを使用する定トルク電動ドライバーにおいて、トルクリミッタの作動に伴う伝動回転部の回転停止状態を適正に検知することができるセンサを設けて、電動モータの駆動を迅速に停止させことにより、電動モータの駆動による電力消費も適正に行うことができると共に、継続するねじ締め作業へ移行も迅速かつ円滑に行うことができ、しかも各種部品等の組立て作業における生産効率の向上と製造コストの低減を容易に達成することができる定トルク電動ドライバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記の目的を達成するため、本発明の請求項1に記載の定トルク電動ドライバーは、電動モータの出力軸にトルクリミッタの駆動軸を結合し、前記トルクリミッタの伝動回転軸をドライバービットに結合し、前記トルクリミッタにより規定されるトルク設定値に基づいてねじ締めを行うように構成した定トルク電動ドライバーからなり、
前記トルクリミッタを、把持部ケーシング内に回転自在に収納配置すると共に、前記ドライバービットに結合されるトルクリミッタの伝動回転部の外周面部に単一もしくは複数からなるセンサ感知部材を配設し、さらに前記センサ感知部材に対応させて前記把持部ケーシング内にセンサを配置し、
前記ドライバービットによるねじ締め作業において、前記トルクリミッタの駆動軸側が空転してその伝動回転部側が回転停止する状態を前記センサにより検出し、前記電動モータの駆動停止制御を行う制御手段を設けたことを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項2に記載の定トルク電動ドライバーは、前記伝動回転部の外周面部に配設するセンサ感知部材を、その円周方向に等間隔で配置した複数のマグネットにより構成し、前記センサとしてホール素子を使用することを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項3に記載の定トルク電動ドライバーは、電動モータの出力軸には減速機構を接続し、この減速機構の出力軸にトルクリミッタの駆動軸を結合するように構成することを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項4に記載の定トルク電動ドライバーは、前記トルクリミッタを、前記電動モータの出力軸側およびドライバービット側に対しそれぞれ着脱自在に結合して、別のトルクリミッタと交換可能に設けてなることを特徴とする
【0021】
本発明の請求項5に記載の定トルク電動ドライバーにおいて、前記トルクリミッタの伝動回転軸は、スラスト軸受を介して把持部ケーシング内に回転自在に保持し、前記センサ感知部材を配設した伝動回転部をスラスト方向に安定化させるように構成することを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項6に記載の定トルク電動ドライバーは、前記電動モータの駆動停止制御を行う制御手段において、前記センサによって検出されるトルクリミッタの作動時における、電動モータの負荷電流または負荷電圧を検出すると共に、この負荷電流値または負荷電圧値が初期値と比較して所定値以上に変化する場合に、所要のアラームを発生するように構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の請求項1に記載の定トルク電動ドライバーによれば、トルクリミッタの作動に伴う伝動回転部の回転停止状態を適正に検知することができるセンサを設けて、電動モータの駆動を迅速に停止させことにより、電動モータの駆動による電力消費も適正に行うことができると共に、継続するねじ締め作業へ移行も迅速かつ円滑に行うことができ、しかも各種部品等の組立て作業における生産効率の向上と製造コストの低減を容易に達成することができる。
【0024】
本発明の請求項2記載の定トルク電動ドライバーによれば、センサ感知部材とセンサとを、それぞれ複数のマグネットとホール素子の組合せにより構成することにより、トルクリミッタの作動状態を、適正かつ確実に検出することができる。
【0025】
本発明の請求項3記載の定トルク電動ドライバーによれば、電動モータの出力軸には減速機構を接続し、この減速機構の出力軸にトルクリミッタの駆動軸を結合する構成とすることにより、精密なねじ締め作業への対応が容易となる。
【0026】
本発明の請求項4記載の定トルク電動ドライバーによれば、トルクリミッタを、電動モータの出力軸側およびドライバービット側に対しそれぞれ着脱自在に結合する構成とすることにより、各種のトルク設定されたトルクリミッタの使用と共に、磨耗劣化によりトルク特性が変化したトルクリミッタの交換を簡便かつ容易に行うことができる。
【0027】
本発明の請求項5記載の定トルク電動ドライバーによれば、トルクリミッタの伝動回転軸を、スラスト軸受を介して把持部ケーシング内に回転自在に保持することにより、センサ感知部材を配設した伝動回転部をスラスト方向に安定化させることができると共に、トルクリミッタの作動状態を適正かつ確実に検出することができる。
【0028】
本発明の請求項6記載の定トルク電動ドライバーによれば、電動モータの駆動停止制御を行う制御手段において、前記センサによって検出されるトルクリミッタの作動時における、電動モータの負荷電流または負荷電圧を検出すると共に、この負荷電流値または負荷電圧値が初期値と比較して所定値以上に変化する場合に、所要のアラームを発生するように構成することにより、トルクリミッタの磨耗劣化などによる設定トルクの変動状態を検出することができ、これによりトルクリミッタのトルク管理とメンテナンスとを簡便に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、本発明に係る定トルク電動ドライバーの実施例につき、添付図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明に係る定トルク電動ドライバーの一実施例を示す概略構成説明図である。すなわち、図1において、参照符号10は把持部ケーシングを示し、この把持部ケーシング10の内部に電動モータ12とトルクリミッタ14とを内蔵した構成からなる。
【0031】
本実施例における定トルク電動ドライバーにおいて、トルクリミッタ14は、駆動軸16と伝動回転部18とを備え、この伝動回転部18に伝動回転軸20が結合された構成からなり、前記伝動回転軸20に作用する負荷トルクが予め設定された規定値以上となった場合、駆動軸16からの回転駆動力に対し、滑動ないし離反動作によって伝動回転軸18への回転力の伝動を制限するように構成されたものであり、従来公知の構成からなる継手部が内蔵されている。従って、このトルクリミッタ14には、従来公知の種々の構成からなるトルクリミッタを使用することができる。
【0032】
そこで、本実施例においては、前記トルクリミッタ14の駆動軸16に対して、電動モータ12の出力軸13を、適宜係止ピン15を介して結合する。また、前記トルクリミッタ14の伝動回転軸20は、ドライバービット22を着脱自在に結合するビットホルダとして構成し、伝動回転部18側に設けたフランジ部21と伝動回転軸20の中位部に取り付けたE−リング24との間において、それぞれスラスト軸受25、26を介して、前記伝動回転部18と共に把持部ケーシング10内に回転自在に保持される。このようにして、本実施例の定トルク電動ドライバーは、前記トルクリミッタ14により規定されるトルク設定値に基づいて、ねじ締めを行うように構成される。
【0033】
しかるに、本実施例の定トルク電動ドライバーにおいては、前記のように回転自在に保持された伝動回転部18の外周面部に、単一もしくは複数からなるセンサ感知部材28を配設し、さらに前記センサ感知部材28に対応させて前記把持部ケーシング10内にセンサ30を配置する。この場合、前記センサ感知部材28としては、伝動回転部18の外周部においてその円周方向に等間隔で配置した複数のマグネットにより構成すると共に、前記センサ30としては、ホール素子を好適に使用することができる。
【0034】
なお、図1において、参照符号32は電動モータ12の駆動用電源、34は電動モータ12を駆動制御するための制御装置、36は電動モータ12のON/OFF操作を手動で行うための把持部ケーシング10に設けた操作スイッチをそれぞれ示す。従って、本実施例において、前記定トルク電動ドライバーの把持部ケーシング10に設けたセンサ30により検出されるトルクリミッタ14の動作信号は、前記制御装置34に入力し、この制御装置34において、トルクリミッタ14の動作状態を判定し、前記電動モータ12の駆動停止制御を行うように構成される。
【0035】
また、前述した実施例においては、トルクリミッタ14を電動モータ12の出力軸13に直結した構成を示したが、例えば電動モータ12の出力軸側に遊星歯車減速機構などの減速機構を接続して、この減速機構の出力軸をトルクリミッタ14の駆動軸16に結合する構成とすることもできる。
【0036】
次に、前記構成からなる定トルク電動ドライバーを使用してねじ締め作業を行う場合のトルク制御動作について説明する。
【0037】
本実施例に係る定トルク電動ドライバーを、制御装置34を介して電源32に接続し、操作スイッチ36をON状態に操作すれば、電動モータ12が付勢されて、その出力軸13が正転駆動し、トルクリミッタ14を介してドライバービット22に回転駆動力が伝達され、ねじ締め作業を行うことができる。
【0038】
ねじ締め作業の開始からねじの締付け完了に至る大部分のねじ締め行程においては、ドライバービット22の回転と共に、トルクリミッタ14の伝動回転軸20および伝動回転部18が、一体的に回転動作する。従って、この場合において、把持部ケーシング10に設けたセンサ30において、伝動回転部18に設けたセンサ感知部材28を連続的に検知して得られる信号(パルス信号)により、前記伝動回転部18およびドライバービット22の回転状態を、制御装置34で判定する。
【0039】
次いで、ねじの締付け行程においては、電動モータ12より得られるねじの締付けトルクが、前記トルクリミッタ14を介してドライバービット22に付与される。この場合、ねじの締付けに際して生じるドライバービット22に対する負荷トルクが、トルクリミッタ14に設定された規定トルク値を超えると、トルクリミッタ14に内蔵される継手部が滑動ないし離反動作して、その駆動軸16(電動モータ12の出力軸13)が空転して伝動回転部18の回転が停止する。従って、このような状態は、前記センサ30によるセンサ感知部材28の連続的な検知(パルス信号の発生)が得られないことにより、前記伝動回転部18およびドライバービット22の停止状態を、制御装置34で判定する。
【0040】
このようにして、本実施例の定トルク電動ドライバーにおいては、前述したねじ締め作業において、トルクリミッタ14により設定した規定トルク値によるねじの締付けを完了することができる。そして、この場合、前記ドライバービット22の停止状態を検出し判定した制御装置34においては、電動モータ12に対する電力供給を遮断するように構成して、操作スイッチ36の操作に関係なく、電動モータ12の駆動を停止させる。従って、前述した本実施例の定トルク電動ドライバーにより、ねじ締め作業を行う場合のねじ締めトルク特性と、その制御を行うセンサ検出信号、電動モータ駆動電源およびその負荷電流の時系列的な変化特性については、それぞれ図2に示すような特性が得られる。
【0041】
また、本実施例の定トルク電動ドライバーにおいては、電動モータ12に対し、ねじの締付け完了時すなわちトルクリミッタ14の動作時における負荷電流を検出することにより、長期的な定トルク電動ドライバーの使用に際し、負荷電流値が初期の検出時より所定以上の変化が確認された場合には、トルクリミッタ14の磨耗劣化などによってトルク設定値が変動していることを予測することができる。例えば負荷電流値が初期の検出時より低下していれば、トルクリミッタ14の設定トルク値が低下していることが想定される。
【0042】
そこで、本発明においては、例えば前記制御装置34において、電動モータ12の負荷電流を検出するように構成する。そして、ねじの締付け完了時すなわちトルクリミッタ14の動作時における負荷電流を検出し、この負荷電流値が初期の検出時の電流値より所定以上の変化が検出された場合に、所要のアラームを発生するように設定する。このように構成することにより、トルクリミッタ14の磨耗劣化などによる設定トルク値の変動を確認して、作業者に対しトルクリミッタ14の交換を喚起することができる。
【0043】
また、本発明においては、電動モータ12の負荷電圧を検出するように構成し、前記と同様にして、負荷電圧値が初期の検出時の電圧値より所定以上の変化が検出された場合に、所要のアラームを発生するように設定することもできる。この場合においても、前記と同様にして、トルクリミッタ14の磨耗劣化などによる設定値トルク値の変動を確認して、作業者に対しトルクリミッタ14の交換を喚起することができる。
【0044】
以上、本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は前述した実施例に限定されることなく、例えばトルクリミッタにワンウェイクラッチを組み合わせて、ねじの取外し操作を簡便にする等、本発明の精神を逸脱しない範囲内において多くの設計変更を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る定トルク電動ドライバーの一実施例を示す概略構成説明図である。
【図2】本発明に係る定トルク電動ドライバーのトルク特性とその制御に関するセンサ検出信号、電動モータ駆動電源およびその負荷電流の時系列的な変化特性を示す説明図である。
【符号の説明】
【0046】
10 把持部ケーシング
12 電動モータ
13 出力軸
14 トルクリミッタ
15 係止ピン
16 駆動軸
18 伝動回転部
20 伝動回転軸
21 フランジ部
22 ドライバービット
24 E−リング
25、26 スラスト軸受
28 センサ感知部材(マグネット)
30 センサ(ホール素子)
32 電源
34 制御装置
36 操作スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータの出力軸にトルクリミッタの駆動軸を結合し、前記トルクリミッタの伝動回転軸をドライバービットに結合し、前記トルクリミッタにより規定されるトルク設定値に基づいてねじ締めを行うように構成した定トルク電動ドライバーからなり、
前記トルクリミッタを、把持部ケーシング内に回転自在に収納配置すると共に、前記ドライバービットに結合されるトルクリミッタの伝動回転部の外周面部に単一もしくは複数からなるセンサ感知部材を配設し、さらに前記センサ感知部材に対応させて前記把持部ケーシング内にセンサを配置し、
前記ドライバービットによるねじ締め作業において、前記トルクリミッタの駆動軸側が空転してその伝動回転部側が回転停止する状態を前記センサにより検出し、前記電動モータの駆動停止制御を行う制御手段を設けたことを特徴とする定トルク電動ドライバー。
【請求項2】
前記伝動回転部の外周面部に配設するセンサ感知部材は、その円周方向に等間隔で配置した複数のマグネットにより構成し、前記センサとしてホール素子を使用することを特徴とする請求項1記載の定トルク電動ドライバー。
【請求項3】
前記電動モータの出力軸には減速機構を接続し、この減速機構の出力軸にトルクリミッタの駆動軸を結合するように構成することを特徴とする請求項1または2記載の定トルク電動ドライバー。
【請求項4】
前記トルクリミッタを、前記電動モータの出力軸側およびドライバービット側に対しそれぞれ着脱自在に結合して、別のトルクリミッタと交換可能に設けてなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の定トルク電動ドライバー。
【請求項5】
前記トルクリミッタの伝動回転軸は、スラスト軸受を介して把持部ケーシング内に回転自在に保持し、前記センサ感知部材を配設した伝動回転部をスラスト方向に安定化させるように構成することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の定トルク電動ドライバー。
【請求項6】
前記電動モータの駆動停止制御を行う制御手段において、前記センサによって検出されるトルクリミッタの作動時における、電動モータの負荷電流または負荷電圧を検出すると共に、この負荷電流値または負荷電圧値が初期値と比較して所定値以上に変化する場合に、所要のアラームを発生するように構成することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の定トルク電動ドライバー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−183643(P2008−183643A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17481(P2007−17481)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(390041380)
【Fターム(参考)】