定在波低減装置
【課題】車室内空間93における定在波を低減させる。
【解決手段】フィードバック型コムフィルタ30は、マイクロホン20、スピーカ21、及び遅延部41とともに閉ループLPを構成する。フィードバック型コムフィルタ30は、当該フィルタ30への入力信号X(i)を一巡させる帰還ループを含んでいる。この帰還ループを信号が一巡するのに要する時間は定在波SW1の半周期T1/2になっている。遅延部41は、閉ループLPを信号が一巡するための所要時間が抑圧対象の定在波SW1の半周期T1/2になるようにフィードバック型コムフィルタ30の出力信号Y(i)の位相を調整する。
【解決手段】フィードバック型コムフィルタ30は、マイクロホン20、スピーカ21、及び遅延部41とともに閉ループLPを構成する。フィードバック型コムフィルタ30は、当該フィルタ30への入力信号X(i)を一巡させる帰還ループを含んでいる。この帰還ループを信号が一巡するのに要する時間は定在波SW1の半周期T1/2になっている。遅延部41は、閉ループLPを信号が一巡するための所要時間が抑圧対象の定在波SW1の半周期T1/2になるようにフィードバック型コムフィルタ30の出力信号Y(i)の位相を調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の走行中に発生する騒音を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の走行中は、自動車のタイヤから車室内空間へ振動が伝わると、広帯域の周波数成分をもった騒音が発生する。この騒音はロードノイズと呼ばれる。ロードノイズの中には、車室内空間に放射されて定在波となる耳障りなものがある。特許文献1には、車室内空間において発生する定在波を低減させる技術の開示がある。同文献に開示された技術では、車室内空間において発生する各定在波の波長の1/4の長さを持った複数個のパイプを自動車のルーフの下面に固定する(特許文献1の図15〜図18を参照)。この技術では、各パイプの共鳴周波数と同じ周波数を持った定在波が車室内空間において発生した場合に、パイプ内において管共鳴現象が発生し、定在波のエネルギーが失われる。よって、この技術によると、車室内空間における定在波を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−220775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術の場合、車室内空間における定在波を低減させるのに必要且つ十分なパイプの長さを車室内空間の室内形状などから求め、この長さを持ったパイプをルーフの下に固定する必要がある。例えば、4ドアセダンタイプの乗用車であれば、160Hz前後の定在波を発生させ易いような室内形状となっているものが多い。160Hzの定在波をパイプの管共鳴現象によって低減させようとすると、50センチメートル以上にも及ぶパイプを準備せねばならない。このような長尺なパイプを自動車の車室内空間に収納することは困難であり、仮に収納することができたとしても、車室内の搭乗者に圧迫感を与えてしまう。また、タイヤの空気圧等の加振条件の経時変化によって車の振動方向や振動周波数の変化があった場合、パイプでは共鳴周波数の調整ができず、車室内の定在波を低減することが困難となる。
【0005】
本発明は、このような背景の下に案出されたものであり、空間内における大きなスペースを占有することなく、その空間内において発生する定在波を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、抑圧対象の定在波の成分を含む音を収音して電気信号に変換する音響振動入力デバイスと、前記音響振動入力デバイスの出力信号における前記抑圧対象である定在波に対応した成分を選択して出力するフィードバック型コムフィルタと、前記フィードバック型コムフィルタの処理を経た電気信号を音として出力する音響振動出力デバイスとを少なくとも含む第1の閉ループを有し、前記第1の閉ループは、前記抑圧対象の定在波が前記音響振動入力デバイスから入力されるときの位相と、前記音響振動出力デバイスから出力されるときの位相の位相差をπの奇数倍にする第1の位相調整手段を含み、前記フィードバック型コムフィルタは、第2の閉ループをなし、前記第2の閉ループは、前記音響振動入力デバイスの出力信号を前記第2の閉ループ内に導入する加算部を有するとともに、前記音響振動入力デバイスを経由して前記加算部に入力される信号における前記抑圧対象の定在波と同じ周波数の成分の位相と前記第2の閉ループを介して前記加算部に帰還される信号における前記抑圧対象の定在波と同じ周波数の成分の位相との位相差をπの奇数倍にする第2の位相調整手段を含む定在波低減装置を提供する。
【0007】
本発明によると、空間内において定在波が発生している場合は、その定在波を含む音の信号が音響振動入力デバイスからフィードバック型コムフィルタと遅延部を経由し、定在波を構成する音波に対して逆の位相を持った音波として音響振動出力デバイスから放音される。音響振動出力デバイスから出力された音波は、定在波を構成する音波と互いに打ち消し合い、定在波を低減させる。よって、空間内における大きなスペースを占有することなく、その空間内において発生する定在波を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態である定在波低減装置とこの装置が備え付けられた自動車の構成を示す図である。
【図2】同装置の制御部内のフィードバック型コムフィルタにおけるLPFを除いたものの振幅特性Hを示す図である。
【図3】同装置の制御部内の加算部の入力端子と制御部の後段のLPFの出力端子との間の区間の振幅特性Fを示す図である。
【図4】同装置の効果を確認するための測定結果である。
【図5】同装置の効果を確認するための測定結果である。
【図6】本発明の第2実施形態である定在波低減装置とこの装置が備え付けられた自動車の構成を示す図である。
【図7】本発明の第3実施形態である定在波低減装置とこの装置が備え付けられた自動車の構成を示す図である。
【図8】本発明の第4実施形態である定在波低減装置とこの装置が備え付けられた自動車の構成を示す図である。
【図9】本発明の第5実施形態である定在波低減装置とこの装置が備え付けられた自動車の構成を示す図である。
【図10】本発明の第5実施形態である定在波低減装置によって低減する定在波を示す図である。
【図11】本発明の他の実施形態である定在波低減装置の制御部内の加算部の入力端子と制御部の後段のLPFの出力端子との間の区間の振幅特性F’を示す図である。
【図12】本発明の他の実施形態である定在波低減装置とこの装置が備え付けられた自動車の構成を示す図である。
【図13】本発明の他の実施形態である定在波低減装置とこの装置が備え付けられた自動車の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態である定在波低減装置10とこの装置10が備え付けられた自動車90の構成を示す図である。自動車90のタイヤ91から車室内空間93へ当該空間93の固有周波数の振動が伝わった場合、車室内空間93における対向する2つの面(図1の例では、運転席側ドア94及び助手席側ドア95)で反射した複数個(図1の例では、簡便のため、2個とする)の音波PWが合成され、ドア間の距離Dの2/k(k=1,2…)倍の波長λkを持った単一周波数の定在波SWk(k次の音響モード)が発生する。
【0010】
定在波低減装置10は、車室内空間93におけるk次の定在波SWkの腹に相当する位置であるドア95の上部を制御点Pとし、定在波SWkを構成する音波PWと制御点Pにおいて相殺し合うような音波CW(不図示)を放音することにより、定在波SWkを低減させる。
【0011】
この定在波低減装置10は、マイクロホン20と、制御部22と、スピーカ21とを含む閉ループLPOUTを有している。この閉ループLPOUTにおけるマイクロホン20は、抑圧対象である定在波SWkの成分を含む音を収音して電気信号に変換する音響振動入力デバイスとしての役割を果たす装置である。また、スピーカ21は、制御部22による処理を経た電気信号を音として出力する音響振動出力デバイスとしての役割を果たす装置である。スピーカ21は、その放音面を制御点Pに向けた姿勢で、ドア95の上部の位置(助手席側のアシストグリップ(不図示)の近傍の位置)に固定されている。マイクロホン20は、スピーカ21と同相面となるドア95側の位置に固定されている。
【0012】
制御部22は、マイクロホン20から制御部22に入力される音信号X(i)から音波CWの音信号である音信号Z’(i)を生成し、音信号Z’(i)をスピーカ21から音波CWとして放音させる装置である。制御部22は、A/Dコンバータ68、フィードバック型コムフィルタ30、遅延部41、LPF(Low Pass Filter)42、D/Aコンバータ69、及びパワーアンプ部43を有する。
【0013】
A/Dコンバータ68は、マイクロホン20から出力されるアナログ信号をデジタル形式に変換し、このデジタル形式の音信号を信号X(i)としてフィードバック型コムフィルタ30に出力する。フィードバック型コムフィルタ30は、加算部31、遅延部33、LPF34、及び係数乗算部35からなる閉ループLPINを有している。閉ループLPINにおける加算部31は、当該フィードバック型コムフィルタ30の出力信号Y(i)を閉ループLPINに導出する役割を果たす。また、遅延部33は、マイクロホン20及びA/Dコンバータ68を経由して加算部31に入力される信号X(i)における抑圧対象の定在波SW1と同じ周波数の成分の位相と閉ループLPINを介して加算部31に帰還される信号における抑圧対象の定在波SW1と同じ周波数の成分の位相との位相差をπの奇数倍にする位相調整手段(第2の位相調整手段)としての役割を果たす。また、LPF34は、閉ループLPINを経由して加算部31に帰還される信号の周波数特性を調整する周波数特性調整手段としての役割を果たす。係数乗算部35は、この周波数特性の調整を経た信号を位相反転し、フィードバックゲインを調整する役割を果たす。
【0014】
より詳細に説明すると、閉ループLPINにおける加算部31は、A/Dコンバータ68の出力信号X(i)と係数乗算部35の出力信号Y’(i−n)×αとを加算した信号X(i)+Y’(i−n)×αを信号X(i)における定在波SWkに対応した成分を含む信号Y(i)として当該フィルタ30の後段の遅延部41と当該フィルタ30内の遅延部33に出力する。遅延部33は、加算部31の出力信号Y(i)をnサンプル遅延させた信号Y(i−n)をLPF34に出力する。ここで、この遅延部33の遅延サンプル数nは、定在波SWkの半周期T1/2の奇数倍の時間(例えば、半周期T1/2の1倍の時間T1/2とする)を当該遅延部33の遅延時間DT33とし、この時間DT33を音信号X(i)のサンプリング周期Tsで除算することによって得られた値である。LPF34は、遅延部33の出力信号Y(i−n)におけるカットオフ周波数fc以上の周波数成分を減衰させた信号Y’(i−n)を係数乗算部35に出力する。このLPF34のカットオフ周波数fcは、例えば、定在波SW1の周波数fsw1よりも高く定在波SW2の周波数fsw2よりも低い周波数である(ここで、fswk=c/λk:cは音速(m/s))。係数乗算部35は、LPF34の出力信号Y’(i−n)に負の係数α(0>α>−1)を乗算し、この乗算結果である信号Y’(i−n)×αを加算部31に出力する。
【0015】
ここで、加算部31、遅延部33、LPF34、及び係数乗算部35からなる閉ループLPINを信号が一巡するのに要する時間は、抑圧対象の定在波SWkのうち波長の最も長い定在波SW1の半周期T1/2であり、閉ループLPINは信号の位相反転を行う係数乗算部35を含んでいる。従って、定在波SW1と同一周波数の成分に着目すると、加算部31では、A/Dコンバータ68経由で入力される信号X(i)の定在波SW1の成分と、係数乗算部35経由で帰還される信号Y’(i−n)×αの定在波SW1の成分とが同相加算される。従って、フィードバック型コムフィルタ30は、A/Dコンバータ68経由で入力される信号X(i)のうち抑圧対象の定在波SW1の成分を選択して通過させる役割を果たす。
【0016】
フィードバック型コムフィルタ30の後段の遅延部41は、抑圧対象の定在波SWkがマイクロホン20に入力されるときの位相と、スピーカ21から出力されるときの位相の位相差をπの奇数倍にする位相調整手段(第1の位相調整手段)としての役割を果たす装置である。この遅延部41は、フィードバック型コムフィルタ30の出力信号Y(i)をmサンプル遅延させた信号を信号Z(i)としてLPF42に出力する。ここで、閉ループLPOUTでは、スピーカ21、スピーカ21とマイクロホン20との間の気導経路、マイクロホン20、A/Dコンバータ68、フィードバック型コムフィルタ30、遅延部41、LPF42、係数乗算部99、D/Aコンバータ69、パワーアンプ部43の各々において信号の伝送遅延が発生する。遅延部41の遅延サンプル数mは、閉ループLPOUTにおける信号の伝送遅延の総計と抑圧対象の定在波SW1の半周期T1/2の奇数倍の時間(例えば、半周期T1/2の1倍の時間T1/2とする)との差を当該遅延部41の遅延時間DT41とし、この時間DT41を信号X(i)のサンプリング周期Tsで除算することによって得られた値である。
【0017】
LPF42は、閉ループLPOUTを介して制御点Pに帰還される信号の周波数特性を調整する周波数特性調整手段としての役割を果たす。このLPF42は、遅延部41の出力信号Z(i)におけるカットオフ周波数fc(周波数fsw1よりも高くfsw2よりも低い周波数fc)以上の周波数成分を減衰させた信号Z’(i)を係数乗算部99に出力する。係数乗算部99は、LPF42の出力信号Z’(i)に正の係数β(0<β<1)を乗算し、この乗算結果である信号Z’(i)×βをD/Aコンバータ69に出力する。この信号Z’(i)×βは、D/Aコンバータ69によるアナログ信号への変換とパワーアンプ部43による増幅とを経た後、スピーカ21から音波CWとして出力される。
【0018】
以上が、定在波低減装置10の構成の詳細である。この定在波低減装置10の動作中に車室内空間93において定在波SWkが励起された場合、その定在波SWkのものと同じ単一周波数の成分を含み且つ定在波SWkを構成する音波PWと逆の位相を持った音波CWがスピーカ21から制御点Pに向けて放音される。その理由は次の通りである。
【0019】
図2は、基本的な構成のフィードバック型コムフィルタ(図1に示すフィードバック型コムフィルタ30からLPF34を除去した構成のコムフィルタ)の振幅特性Hを示す図である。α<0である場合における振幅特性Hは、抑圧対象である定在波SW1の周波数fSW1とその奇数倍に急峻なピーク(極大)を有している。これは、フィードバック型コムフィルタ30では、抑圧対象である定在波SW1がA/Dコンバータ68を介して加算部31に入力されるときの位相と、閉ループLPINの係数乗算器35から加算部31に帰還されるときの位相との間にπの奇数倍の位相差が生じ、加算部31においてA/Dコンバータ68経由の定在波の成分と係数乗算部35経由の定在波の成分が同相加算されるからである。また、上述したように、この定在波低減装置10では、抑圧対象の定在波SWkがマイクロホン20に入力されるときの位相と、スピーカ21から出力されるときの位相との間にπの奇数倍の位相差が発生する。従って、車室内空間93において減衰対象である1次の定在波SW1が励起された場合、この定在波SW1のものと同じ単一周波数fSW1の成分を持った音波(図4参照)が、定在波SW1を構成する音波PWと逆の位相を持った音波CWとして放音される。
【0020】
以上説明した本実施形態は、次の効果を有する。
第1に、本実施形態では、定在波SWkが励起された場合、制御点Pにおける音の音信号X(i)が、A/Dコンバータ68→フィードバック型コムフィルタ30→遅延部41→LPF42→係数乗算部99→D/Aコンバータ69→パワーアンプ部43を経由し、定在波SWkを構成する音波PWと逆の位相を持った音波CWとして制御点Pに帰還される。これにより、制御点Pにおいて音波PWと音波CWとが相殺し合い、定在波SWkが低減される。また、音信号X(i)に定在波SWk以外の音の成分(例えば、オーディオ機器のオーディオ音声の成分)が含まれていたとしても、その成分はフィードバック型コムフィルタ30において減衰され、車室内空間93に帰還されることがない。このため、オーディオ機器のオーディオ音声などが閉ループLPOUTを循環してハウリングが発生したり、オーディオ音声などの音質に悪影響が及んだりすることもない。従って、本実施形態によると、ハウリングの発生や車室内空間93におけるオーディオ音声などの音質への悪影響を回避しつつ、定在波SWkを低減させることができる。
【0021】
第2に、本実施形態では、制御部22内における遅延部33の後段及び遅延部41の後段にLPF34及び42が介挿されており、このLPF34及び42によって信号Z’(i)の高次成分は低減される。なお、定在波SW1の周波数が高く全体の系の遅延が定在波SW1の半周期T1/2よりも大きくなった場合は、定在波SW1の1周期分の時間T1だけ遅延させて逆相にしたものを信号Z’(i)としてもよい。また、アナログ遅延素子とアナログフィルタを用いればアナログ回路による定在波低減装置にすることもできる。
【0022】
第3に、本実施形態では、LPF42とD/Aコンバータ69の間に係数乗算部99が介挿されている。この係数乗算部99の係数βが1に近くなると音波CWの振幅は大きくなり、係数βが0に近くなると音波CWの振幅は小さくなる。よって、本実施形態によると、係数βを最適値に設定することにより、音波CWが閉ループLPOUTを循環してハウリングが発生する、という事態の発生を防止することができる。
【0023】
ここで、本願発明者は、本実施形態の効果を確認するため、以下のような検証を行った。まず、本願発明者は、4ドアセダンタイプの自動車の車室内空間に定在波低減装置10を設けた場合と設けない場合の各々について、車室内空間に周波数fSW1の音波を放射して助手席側ドア及び運転席側ドア間の各点の音圧分布を計測した。図4は、この計測結果を示すグラフである。図4のグラフの横軸は、助手席側ドアと運転席側ドアの間の各点における助手席側ドアからの距離である。また、縦軸は、各点における音圧レベル(エネルギー)である。図4に示すように、定在波低減装置10を設けた場合と設けない場合の何れについても、助手席側ドアと運転席側ドアの間の中心から両ドアに近づくに従ってレベルが大きくなっている。これは、1次の定在波SW1(両ドア間の距離の2倍の波長を持った定在波SW1)が発生しているためである。しかし、定在波低減装置10を設けた場合と設けない場合の各々における各点のレベルを比較すると、前者の各点のレベルの方が後者の各点のレベルよりも低くなっている。
【0024】
また、本願発明者は、4ドアセダンタイプの自動車の車室内空間に定在波低減装置10を設けない場合と設けた場合の各々について、運転席のヘッドレスト付近の位置を測定点とし、広帯域の成分を含むテスト音を放射して測定点のパワースペクトルを測定した。図5は、この測定結果である1/3オクターブ振幅特性を人間の聴覚特性に応じて補正したA特性である。ここで、自動車の車室内空間において発生する定在波SWkの周波数fSWkは、その車室内空間の形状に依存する。4ドアセダンタイプの自動車における1次の定在波SW1の周波数fSW1は160Hz前後である。図5の波形図では、定在波低減装置10を設けない場合と設けた場合とでこの160HzのA特性音圧に顕著な相違が現れている。すなわち、定在波低減装置10を設けない場合における160HzのA特性音圧は67dBであるのに対し、定在波低減装置10を設けた場合における160HzのA特性音圧は62dBである。
【0025】
以上の検証の結果から、本実施形態である定在波低減装置10を自動車90の車室内空間93に備え付けることにより、抑圧対象である定在波SW1を低減させることができることが分かる。
【0026】
<第2実施形態>
図6は、本発明の第2実施形態である定在波低減装置10’とこの装置10’が備え付けられた自動車90の構成を示す図である。この定在波低減装置10’は、第1の位相調整手段として機能する遅延部41’及び係数乗算部99’を閉ループLPOUT内に含んでおり、第2の位相調整手段としての機能する遅延部33及び係数乗算部35を閉ループLPIN内に含んでいる。
【0027】
より詳細に説明すると、この定在波低減装置10’では、フィードバック型コムフィルタ30内の加算部31は、A/Dコンバータ68の出力信号X(i)と係数乗算部35の出力信号Y’(i−n)を加算し、この加算結果を信号Y(i)として当該フィルタ30の後段の遅延部41’と当該フィルタ30内の遅延部33に出力する。遅延部33は、加算部31の出力信号Y(i)にnサンプルの遅延(時間DT33の遅延)を与えた信号Y(i−n)をLPF34に出力する。LPF34は、遅延部33の出力信号Y(i−n)におけるカットオフ周波数fc以上の周波数成分を減衰させた信号Y’(i−n)を係数乗算部35に出力する。係数乗算部35は、LPF34の出力信号Y’(i−n)に負の係数α(0>α>−1)を乗算し、この乗算結果である信号Y’(i−n)×αを加算部31に出力する。
【0028】
また、この定在波低減装置10’では、フィードバック型コムフィルタ30の後段の遅延部41’は、フィードバック型コムフィルタ30の出力信号Y(i)をm’サンプル遅延させた信号を信号Z(i)としてLPF42に出力する。遅延部41’の遅延サンプル数m’は、閉ループLPOUTにおける信号の伝送遅延の総計(スピーカ21、スピーカ21とマイクロホン20との間の気導経路、マイクロホン20、A/Dコンバータ68、フィードバック型コムフィルタ30、遅延部41’、LPF42、係数乗算部99’、D/Aコンバータ69、パワーアンプ部43の各々における信号の伝送遅延の総計)と抑圧対象の定在波SW1の1周期T1の整数倍の時間(例えば、1周期T1の1倍の時間T1とする)との差を当該遅延部41’の遅延時間DT41’とし、この時間DT41’を信号X(i)のサンプリング周期Tsで除算することによって得られた値である。係数乗算部99’は、遅延部41’の出力信号Z’(i)に負の係数β’(−1<β’<0)を乗算することによって信号Z’(i)を位相反転し、この位相反転した信号Z’(i)×β’をD/Aコンバータ69に出力する。
【0029】
本実施形態によっても、定在波SWkを構成する音波PWと逆の位相を持った音波CWが制御点Pに帰還される。よって、第1実施形態と同様に、ハウリングの発生や車室内空間93におけるオーディオ音声などの音質への悪影響を回避しつつ、定在波SWkを低減させることができる。
【0030】
<第3実施形態>
図7は、本発明の第3実施形態である定在波低減装置10Aとこの装置10Aが備え付けられた自動車90の構成を示す図である。この定在波低減装置10Aは、第1の位相調整手段として機能する遅延部41及び係数乗算部99を閉ループLPOUT内に含んでおり、第2の位相調整手段として機能する遅延部41、33A、及び係数乗算部35を閉ループLPIN内に含んでいる。つまり、この定在波低減装置10Aでは、フィードバック型コムフィルタ30A内の遅延部41が第1の位相調整手段としての役割と第2の位相調整手段としての役割の2つの役割を果たす。
【0031】
より詳細に説明すると、この定在波低減装置10Aでは、フィードバック型コムフィルタ30A内の加算部31は、A/Dコンバータ68の出力信号X(i)と係数乗算部35の出力信号Y’(i−n)×αとを加算した信号Y(i)=X(i)+Y’(i−n)×αをLPF32に出力する。LPF32は、加算部31の出力信号Y(i)におけるカットオフ周波数fc以上の周波数成分を減衰させた信号Y’(i)を遅延部41に出力する。遅延部41は、LPF32の出力信号Y’(i)にmサンプルの遅延(時間DT41の遅延)を与えた信号を信号X(i)における定在波SWkに対応した成分を含む信号Y’(i−m)として当該フィルタ30Aの後段の係数乗算部99と当該フィルタ30A内の遅延部33Aに出力する。
【0032】
遅延部33Aは、遅延部41の出力信号Y’(i−m)を(n−m)サンプル遅延させた信号Y’(i−n)を係数乗算部35に出力する。ここで、この遅延部33Aの遅延サンプル数(n−m)は、抑圧対象の定在波SW1の半周期T1/2の奇数倍の時間(例えば、半周期T1/2の1倍の時間T1/2とする)と遅延部41の遅延時間DT41との差を当該遅延部33Aの遅延時間DT33Aとし、この時間DT33Aを信号X(i)のサンプリング周期Tsで除算することによって得られた値である。係数乗算部35は、遅延部33Aの出力信号Y’(i−n)に負の係数α(0>α>−1)を乗算し、この乗算結果である信号Y’(i−n)×αを加算部31に出力する。
【0033】
また、この定在波低減装置10Aでは、フィードバック型コムフィルタ30Aの後段の係数乗算部99は、遅延部41の出力信号Y’(i−m)に正の係数β(0<β<1)を乗算し、この乗算結果である信号Y’(i−m)×βをD/Aコンバータ69に出力する。
【0034】
本実施形態である定在波低減装置10Aにおける加算部31の入力端子から遅延部41の出力端子までの間の区間の振幅特性は、定在波低減装置10における加算部31の入力端子からLPF42の出力端子までの間の区間の振幅特性F(図3)と同じになる。よって、本実施形態によると、第1実施形態のものよりも回路構成を簡略化でき、ユニットを小型にすることが可能になる。さらに、ハウリングの発生や車室内空間93におけるオーディオ音声などの音質への悪影響を回避しつつ、定在波SWkを低減させることができる。
【0035】
<第4実施形態>
図8は、本発明の第4実施形態である定在波低減装置10A’とこの装置10A’が備え付けられた自動車90の構成を示す図である。この定在波低減装置10A’は、第1の位相調整手段として機能する遅延部41’及び係数乗算部99’を閉ループLPOUT内に含んでおり、第2の位相調整手段として機能する遅延部41’、33A’、及び係数乗算部35を閉ループLPIN内に含んでいる。つまり、この定在波低減装置10A’においても定在波低減装置10A(第3実施形態)と同様に、フィードバック型コムフィルタ30A’内の遅延部41’が第1の位相調整手段としての役割と第2の位相調整手段としての役割の2つの役割を果たす。
【0036】
より詳細に説明すると、この定在波低減装置10A’では、フィードバック型コムフィルタ30A’内の加算部31は、A/Dコンバータ68の出力信号X(i)と係数乗算部35の出力信号Y’(i−n)×αとを加算した信号Y(i)=X(i)+Y’(i−n)×αをLPF32に出力する。LPF32は、加算部31の出力信号Y(i)におけるカットオフ周波数fc以上の周波数成分を減衰させた信号Y’(i)を遅延部41’に出力する。遅延部41’は、LPF32の出力信号Y’(i)にm’サンプルの遅延(時間DT41’の遅延)を与え、このm’サンプルの遅延を与えた信号を信号X(i)における定在波SWkに対応した成分を含む信号Y’(i−m’)として当該フィルタ30A’の後段の係数乗算部99’と当該フィルタ30A’内の遅延部33A’に出力する。
【0037】
遅延部33A’は、遅延部41’の出力信号Y’(i−m’)を(n−m’)サンプル遅延させた信号Y’(i−n)を係数乗算部35に出力する。ここで、この遅延部33A’の遅延サンプル数(n−m’)は、抑圧対象の定在波SW1の半周期T1/2の奇数倍の時間(例えば、半周期T1/2の1倍の時間T1/2とする)と遅延部41’の遅延時間DT41’との差を当該遅延部33A’の遅延時間DT33A’とし、この時間DT33A’を信号X(i)のサンプリング周期Tsで除算することによって得られた値である。係数乗算部35は、遅延部33A’の出力信号Y’(i−n)に負の係数α(0>α>−1)を乗算し、この乗算結果である信号Y’(i−n)×αを加算部31に出力する。
【0038】
また、この定在波低減装置10A’では、フィードバック型コムフィルタ30A’の後段の係数乗算部99’は、遅延部41’の出力信号Y’(i−m’)に負の係数β’(−1<β’<0)を乗算することによって信号Y’(i−m’)を位相反転し、この位相反転した信号Y’(i−m’)×β’をD/Aコンバータ69に出力する。本実施形態によっても、第3実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0039】
<第5実施形態>
図9は、本発明の第5実施形態である定在波低減装置10Bとこの装置10Bが備え付けられた自動車90の構成を示す図である。この定在波低減装置10Bでは、A/Dコンバータ68及びD/Aコンバータ69間に6つの制御部22B−u(u=1〜6)が並列に介挿されている。各制御部22B−u内では、フィードバック型コムフィルタ30−u、遅延部41−u、及びLPF42−uが直列に接続されている。
【0040】
図9において、制御部22B−1は、車室内空間93におけるドア94及び95間を往復する音波PWが合成されてできる定在波SWk1(ドア94及び95間の真中に節NDを有する軸波:図10(A)参照)を低減させるためのものである。制御部22B−2は、車室内空間93におけるフロンドガラス98及びリアガラス(不図示)間を往復する音波PWが合成されてできる定在波SWk2(フロントガラス98及びリアガラス間の真中に節NDを有する軸波:図10(B)参照)を低減させるためのものである。制御部22B−3は、車室内空間93における天井97及び床(不図示)間を往復する音波PWが合成されてできる定在波SWk3(天井97及び床間の真中に節NDを有する軸波:図10(C)参照)を低減させるためのものである。そして、制御部22B−4,22B−5,22B−6は、車室内空間93における各面に対して斜めに入射する音波PWが合成されてできる定在波SWk4,SWk5,及びSWk6を各々低減させるためのものである。各制御部22B−uにおけるフィードバック型コムフィルタ30−u内の遅延部33−uと同フィルタ30−uの後段の遅延部41−uには、各制御部22B−uにより低減させる定在波SWuの波長λuに応じた個別の遅延サンプル数m及びnが各々設定されている。
【0041】
本実施形態によると、車室内空間93において発生する左右方向の定在波SWk1(k=1,2…)、前後方向の定在波SWk2(k=1,2…),上下方向の定在波SWk3(k=1,2…)や、斜め方向の定在波SWk4(k=1,2…),SWk5(k=1,2…),SWk6(k=1,2…)を低減させることができる。さらに、制御部22B−uの数を増やすことにより、異なる方向の定在波SWku(k=1,2…)が複合された定在波の低減も可能である
【0042】
以上、この発明の第1〜第5実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態があり得る。例えば、以下の通りである。
(1)上記第1乃至第5実施形態では、自動車90の車室内空間93における助手席側のドア95の上部にマイクロホン20及びスピーカ21を設けた。しかし、運転席側のドア94の上部にマイクロホン20及びスピーカ21を設けてもよい。また、車室内空間93における別の位置(例えば、運転席側のアシストグリップ、ヘッドレスト、Aピラー、Bピラー、Cピラー、運転席の足元、助手席の足元、ドアトリム、座席下部、ヒールキックなど)にマイクロホン20及びスピーカ21を設けてもよい。
【0043】
(2)上記第1及び第2実施形態では、フィードバック型コムフィルタ30内の閉ループLPINにおける遅延部33と係数乗算部35の間、及び閉ループLPOUTにおける遅延部41と係数乗算部99の間にLPF34及び42が介挿されていた。また、第3及び第4実施形態では、閉ループLPINにおける加算部31と遅延部41の間にLPF32が介挿されていた。しかし、閉ループLPINにおける別の位置(例えば、加算部31と遅延部33の間や、係数乗算部35と加算部31の間)にLPFを介挿してもよいし、閉ループLPOUTにおける別の位置(例えば、A/Dコンバータ68とフィードバック型コムフィルタ30の間、フィードバック型コムフィルタ30と遅延部41の間、遅延部41と係数乗算部99の間、係数乗算部99とD/Aコンバータ69の間)にLPFを介挿してもよい。
【0044】
また、LPFの個数を3つ以上にしてもよい。例えば、第1及び第2実施形態におけるフィードバック型コムフィルタ30内の閉ループLPINにおける加算部31の後段にLPFを追加してもよい。この構成では、フィードバック型コムフィルタ30内の閉ループLPINにおける加算部31の後段、遅延部33の後段、及び遅延部41の後段に3つのLPFが挿入されることになる。よって、振幅特性F(図3)における周波数fcより高域の減衰量をより大きくすることができる。また、第3(第4)実施形態において、フィードバック型コムフィルタ30A内における遅延部33A(33A’)の後段、及びフィードバック型コムフィルタ30A(30A’)の後段にLPFを追加してもよい。この構成で、フィードバック型コムフィルタ30A(30A’)内における加算部31の後段、遅延部33A(33A’)の後段、及び遅延部41の後段に3つのLPFが挿入されることになる。よって、振幅特性F(図3)における周波数fcより高域の減衰量をより大きくすることができる。
【0045】
(3)上記第1実施形態において、遅延部33の後段のLPF34を除去し、フィードバック型コムフィルタ30の後段のLPF42のみを残す構成としてもよい。図11に示すように、この構成におけるフィードバック型コムフィルタ30内の加算部31の入力端子から遅延部41の出力端子までの間の区間の振幅特性F’は、周波数fcより高域における各ピークの周波数が各々の高域側及び低域側のボトムとのゲイン比を保ちつつ徐々に低下していくものになる。この構成によっても、ハウリングの発生や車室内空間93におけるオーディオ音声などの音質への悪影響を回避しつつ、定在波SWkを低減させることができる。
【0046】
(4)上記第1乃至第5実施形態において、フィードバック型コムフィルタにおける伝達関数のピークの周波数(フィードバック型コムフィルタ30内の遅延部33の遅延サンプル数n)を調整する周波数調整手段を設けてもよい。自動車90の車室内空間93の定在波SWkはその空間93における対向する面間の距離Dの2/k(k=1,2…)倍の波長λk(k=1,2…)を持った音波PWが合成されてできるものであるから、基本的には、定在波SWkの周波数fSWkは車室内空間93の形状に依存する。しかし、車室内空間93に放射される音の加振源であるタイヤ91を異なる寸法のものに取り換えた場合や空間93の内外の温度が変化した場合には、その影響を受けて周波数fSWkが低域側または高域側に僅かに変化し得る。本実施形態によると、車室内空間93における定在波SWkの周波数fSWkが変化する場合でも、定在波SWkを低減させることができる。
【0047】
また、この場合において、自動車90が走行を開始する度に、走行開始後の所定時間(例えば、1分)の間に発生するk次の定在波SWkの周波数fSWkを検出し、この周波数fSWkとフィードバック型コムフィルタ30における伝達関数のピークの周波数とが一致するように遅延部33の遅延サンプル数nを自動調整してもよい。自動車90の車室内空間93における定在波SWkは車速には依存しないため、自動車90の走行開始時の定在波SWkの周波数fSWkがその後の走行中に大きく変化することは無い。よって、本実施形態によると、適応制御などの複雑な処理を要することなく、自動車90の車室内空間93の定在波SWkの周波数fSWkを捕捉し、周波数fSWkの成分を効率的に低減させることができる。
【0048】
(5)上記第1乃至第5実施形態において、音響振動入力デバイスであるマイクロホン20の出力信号から車室内空間93内における定在波SWkの周期を推定する推定手段を具備し、第1の位相調整手段である遅延部41による位相の調整量をこの推定部が推定した周期に基づいて決定するようにしてもよい。この実施形態は、以下に示す第1及び第2の構成により実現できる。
【0049】
図12は、本実施形態の第1の変形例である定在波低減装置10Cとこの装置10Cが備え付けられた自動車90の構成を示す図である。この定在波低減装置10Cは、推定部79を有している。推定部79は、次のような処理を行う。推定部79は、マイクロホン20が車室内空間93内において収音した音の音信号X(i)にFFT(Fast Fourie Transform)を施す。推定部79は、このFFTにより得られたパワースペクトルにおける優勢な周波数を車室内空間93内における1次の定在波SW1の周波数f1とする。そして、推定部79は、この周波数f1で1(秒)を除算した値を車室内空間93における定在波SW1の周期の推定値T1’とし、この推定値T1’を示す信号を遅延部41と遅延部33に供給する。遅延部41は、推定部79から推定値T1’を示す信号が供給されると、この推定値T1’の1/2の時間T1’/2(すなわち、定在波SW1の半周期分の時間)と閉ループLPOUTにおける信号の伝送遅延の総計との差を当該遅延部41の最適遅延時間DTOPT41とし、この時間DTOPT41をサンプリング周期Tsで除算することによって得られた値となるように当該遅延部41の遅延サンプル数mを更新する。遅延部33は、推定値T1’の1/2の時間T1’/2を当該遅延部33の最適遅延時間DTOPT33とし、この時間DTOPT33をサンプリング周期Tsで除算することによって得られた値となるように当該遅延部33の遅延サンプル数nを更新する。
【0050】
図13は、本実施形態の第2の変形例である定在波低減装置10Dとこの装置10Dが備え付けられた自動車90の構成を示す図である。この定在波低減装置10Dは、温度計80と推定部79を有している。温度計80は、車室内空間93に設置される。推定部79は、次のような処理を行う。推定部79は、温度計80が測定した温度からその測定時点における車室内空間93内の音の伝搬速度Cを求める。推定部79は、車室内空間93のドア間の距離Dの2倍の長さを1次の定在波SW1の波長λ1とする。推定部79は、音の伝搬速度Cでこの波長λ1を除算した値を定在波SW1の周期の推定値T1’とし、この推定値T1’を示す信号を遅延部41と遅延部33に供給する。遅延部41は、推定部79から推定値T1を示す信号が供給されると、この推定値T1’の1/2の時間T1’/2(すなわち、定在波SW1の半周期分の時間)と閉ループLPOUTにおける信号の伝送遅延の総計との差を当該遅延部41の最適遅延時間DTOPT41とし、この時間DTOPT41をサンプリング周期Tsで除算することによって得られた値となるように当該遅延部41の最新の遅延サンプル数mを更新する。遅延部33は、推定値T1’の1/2の時間T1’/2を当該遅延部33の最適遅延時間DTOPT33とし、この時間DTOPT33をサンプリング周期Tsで除算することによって得られた値となるように当該遅延部33の遅延サンプル数nを更新する。
【0051】
(6)上記第1,第3、及び第5実施形態における遅延部41は、閉ループLPOUTを信号が一巡するのに要する時間が車室内空間93における定在波SWkの半周期の1倍の時間Tk/2となるようにフィードバック型コムフィルタ30の出力信号Y(i)の位相を調整した。しかし、閉ループLPOUTを信号が一巡するのに要する時間が車室内空間93における定在波SWkの半周期の1倍以外の奇数倍の時間(例えば、定在波SWkの半周期の3倍の時間3Tk/2や定在波SWkの半周期の5倍の時間5Tk/2)となるようにフィードバック型コムフィルタ30の出力信号Y(i)の位相を調整してもよい。
【0052】
(7)上記第2及び第4実施形態における遅延部41は、閉ループLPOUTを信号が一巡するのに要する時間が車室内空間93における定在波SWkの周期の1倍の時間Tkとなるようにフィードバック型コムフィルタ30の出力信号Y(i)の位相を調整し、位相の調整を経た信号Y(i)を位相反転させてからスピーカ21に供給した。しかし、閉ループLPOUTを信号が一巡するのに要する時間が車室内空間93における定在波SWkの1周期の1倍以外の整数倍の時間(例えば、定在波SWkの1周期の2倍の時間2Tkや定在波SWkの1周期の3倍の時間3Tk)となるようにフィードバック型コムフィルタ30の出力信号Y(i)の位相を調整し、位相の調整を経た信号Y(i)を位相反転させてからスピーカ21に供給してもよい。
【0053】
(8)上記第1乃至第3実施形態は、自動車の車室内空間93における定在波SWkを低減させる装置として本発明を適用したものであった。しかし、本発明を別の用途に適用してもよい。例えば、スピーカエンクロージャ内における不要共振を吸収する役割を果たしている多孔質材に代えて、本発明である定在波低減装置を利用してもよい。この実施形態では、スピーカエンクロージャ内の寸法により決まるk次の定在波SWkの腹の位置に、マイクロホンとスピーカとを設置する。そして、定在波低減装置10により、マイクロホンが収音した音の音信号X(i)から音信号Z’(i)を生成し、音信号Z’(i)を、定在波SWkを低減させる音波CWとしてスピーカから出力させる。この実施形態は、少なくとも一対の面に囲まれた空間(例えば、輸送機、車、船、飛行機、鉄道、宇宙ステーション、会議室、防音室、カラオケBOX、音響機能付き風呂、スピーカBOX、電子ピアノ、パソコン、家電における筐体の中の空間や、家屋の屋根と地面に面した空間、床と壁に面した廊下の空間など)における定在波SWkの抑圧への適用が可能である。
【0054】
また、電子鍵盤楽器の筐体内におけるビリツキと呼ばれる不要振動の発生を防止する技術的手段として本発明を利用してもよい。この実施形態では、電子鍵盤楽器の筐体の寸法により決まるk次の定在波SWkの腹の位置に、マイクロホンとスピーカとを設定する。そして、定在波低減装置10により、マイクロホンが収音した音の音信号X(i)から音信号Z’(i)を生成し、音信号Z’(i)をスピーカ21から音波CWとして出力させる。
【0055】
また、アコースティックギターにおける異常音の発生を防止する技術的手段として本発明を適用してもよい。アコースティックギターでは、弦の発弦によって特定の周波数の音が発生すると、この音に応じて胴部内の空間で定在波SWkが発生し、ウルフトーンと呼ばれる異常音が発生することがある。この実施形態では、この異常音の原因となる定在波SWkを低減させるべく、胴部内の空間の形状及び寸法により決まるk次の定在波SWkの腹の位置に、マイクロホンとスピーカとを設定する。そして、定在波低減装置10により、マイクロホンが収音した音の音信号X(i)から音信号Z’(i)を生成し、音信号Z’(i)をスピーカから音波CWとして出力させる。
【0056】
(9)上記第1乃至第5実施形態において、周波数特性調整手段であるLPF32,34,42を、定在波SWkを通過させる通過帯域を持った別の種類のフィルタ(例えば、HPF(High Pass
Filter)、BPF(Band Pass Filter)、ローシェエルビングフィルタ、ハイシャルビングフィルタ、ピーキングフィルタ,ディッピングフィルタや、これらを組み合わせたフィルタ、及びこれらとLPFを組み合わせたフィルタ)により置き換えてもよい。
【0057】
(10)上記第1、第2、及び第5実施形態では、LPF42とD/Aコンバータ69の間に係数乗算部99が介挿されていた。また、第3及び第4実施形態では、フィードバック型コムフィルタ30AとD/Aコンバータ69の間に係数乗算部99が介挿されていた。しかし、閉ループLPOUTにおける別の位置(例えば、定在波低減装置10,10’におけるA/Dコンバータ68とフィードバック型コムフィルタ30の間、フィードバック型コムフィルタ30と遅延部41の間、遅延部41とLPF42の間、定在波低減装置10A,10A'におけるA/Dコンバータ68とフィードバック型コムフィルタ30の間など)に係数乗算部99を介挿してもよい。
【0058】
(11)上記第1、第2、及び第5実施形態では、A/Dコンバータ68とD/Aコンバータ69の間に、フィードバック型コムフィルタ30、遅延部41、LPF42、及び係数乗算部99がこの順に配列されていた。しかし、これら各部の配列を、フィードバック型コムフィルタ30→遅延部41→LPF42→係数乗算部99や、フィードバック型コムフィルタ30→遅延部41→係数乗算部99→LPF42や、フィードバック型コムフィルタ30→LPF42→係数乗算部99→遅延部41や、フィードバック型コムフィルタ30→LPF42→遅延部41→係数乗算部99や、フィードバック型コムフィルタ30→係数乗算部99→LPF42→遅延部41や、フィードバック型コムフィルタ30→係数乗算部99→遅延部41→LPF42などに変更してもよい。また、遅延部41、LPF42、及び係数乗算部99をフィードバック型コムフィルタ30の前段に配置してもよい。
【0059】
(12)上記第3及び第4実施形態では、A/Dコンバータ68とD/Aコンバータ69の間に、フィードバック型コムフィルタ30A及び係数乗算部99がこの順に配列されていた。しかし、係数乗算部99をフィードバック型コムフィルタ30Aの前段に配置してもよい。
【0060】
(13)上記第1乃至第5実施形態において、閉ループLPOUTにおける信号の伝送遅延の総計を計測する遅延量計測部を設けてもよい。この実施形態は、例えば、次のような構成によって実現できる。遅延量計測部は、閉ループLPOUTにおける任意の計測点(例えば、パワーアンプ部43とスピーカ21の間の計測点とする)にパルス音の信号を供給する。この信号は、計測点から、スピーカ21、マイクロホン20、A/Dコンバータ68、フィードバック型コムフィルタ30…D/Aコンバータ69、パワーアンプ部43を経由して計測点に帰還される。遅延量計測部は、計測点にパルス音、トーンバースト等の時変する音の信号を供給した時刻と計測点に信号が帰還された時刻との間の時間を、閉ループLPOUTにおける信号の伝送遅延の総計とし、この総計を示す信号を遅延部41に供給する。遅延部41は、この伝送遅延の総計に基づいて当該遅延部41の遅延サンプル数mを調整する。この実施形態によると、音波CWの位相が目標とする位相より進んだものとなったり遅れたものとなって定在波SWkを充分に抑圧できない、という事態の発生を防止できる。
【符号の説明】
【0061】
10,10A,10B…定在波低減装置、20…音響振動入力デバイス、21…音響振動出力デバイス、22…制御部、30,30A…フィードバック型コムフィルタ、31…加算部,41…遅延部、32,34,42…LPF、35…係数乗算部、43…パワーアンプ部、79…推定部、80…温度計、90…自動車、91…タイヤ、93…車室内空間、94…運転席側ドア、95…助手席側ドア。
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の走行中に発生する騒音を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の走行中は、自動車のタイヤから車室内空間へ振動が伝わると、広帯域の周波数成分をもった騒音が発生する。この騒音はロードノイズと呼ばれる。ロードノイズの中には、車室内空間に放射されて定在波となる耳障りなものがある。特許文献1には、車室内空間において発生する定在波を低減させる技術の開示がある。同文献に開示された技術では、車室内空間において発生する各定在波の波長の1/4の長さを持った複数個のパイプを自動車のルーフの下面に固定する(特許文献1の図15〜図18を参照)。この技術では、各パイプの共鳴周波数と同じ周波数を持った定在波が車室内空間において発生した場合に、パイプ内において管共鳴現象が発生し、定在波のエネルギーが失われる。よって、この技術によると、車室内空間における定在波を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−220775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術の場合、車室内空間における定在波を低減させるのに必要且つ十分なパイプの長さを車室内空間の室内形状などから求め、この長さを持ったパイプをルーフの下に固定する必要がある。例えば、4ドアセダンタイプの乗用車であれば、160Hz前後の定在波を発生させ易いような室内形状となっているものが多い。160Hzの定在波をパイプの管共鳴現象によって低減させようとすると、50センチメートル以上にも及ぶパイプを準備せねばならない。このような長尺なパイプを自動車の車室内空間に収納することは困難であり、仮に収納することができたとしても、車室内の搭乗者に圧迫感を与えてしまう。また、タイヤの空気圧等の加振条件の経時変化によって車の振動方向や振動周波数の変化があった場合、パイプでは共鳴周波数の調整ができず、車室内の定在波を低減することが困難となる。
【0005】
本発明は、このような背景の下に案出されたものであり、空間内における大きなスペースを占有することなく、その空間内において発生する定在波を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、抑圧対象の定在波の成分を含む音を収音して電気信号に変換する音響振動入力デバイスと、前記音響振動入力デバイスの出力信号における前記抑圧対象である定在波に対応した成分を選択して出力するフィードバック型コムフィルタと、前記フィードバック型コムフィルタの処理を経た電気信号を音として出力する音響振動出力デバイスとを少なくとも含む第1の閉ループを有し、前記第1の閉ループは、前記抑圧対象の定在波が前記音響振動入力デバイスから入力されるときの位相と、前記音響振動出力デバイスから出力されるときの位相の位相差をπの奇数倍にする第1の位相調整手段を含み、前記フィードバック型コムフィルタは、第2の閉ループをなし、前記第2の閉ループは、前記音響振動入力デバイスの出力信号を前記第2の閉ループ内に導入する加算部を有するとともに、前記音響振動入力デバイスを経由して前記加算部に入力される信号における前記抑圧対象の定在波と同じ周波数の成分の位相と前記第2の閉ループを介して前記加算部に帰還される信号における前記抑圧対象の定在波と同じ周波数の成分の位相との位相差をπの奇数倍にする第2の位相調整手段を含む定在波低減装置を提供する。
【0007】
本発明によると、空間内において定在波が発生している場合は、その定在波を含む音の信号が音響振動入力デバイスからフィードバック型コムフィルタと遅延部を経由し、定在波を構成する音波に対して逆の位相を持った音波として音響振動出力デバイスから放音される。音響振動出力デバイスから出力された音波は、定在波を構成する音波と互いに打ち消し合い、定在波を低減させる。よって、空間内における大きなスペースを占有することなく、その空間内において発生する定在波を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態である定在波低減装置とこの装置が備え付けられた自動車の構成を示す図である。
【図2】同装置の制御部内のフィードバック型コムフィルタにおけるLPFを除いたものの振幅特性Hを示す図である。
【図3】同装置の制御部内の加算部の入力端子と制御部の後段のLPFの出力端子との間の区間の振幅特性Fを示す図である。
【図4】同装置の効果を確認するための測定結果である。
【図5】同装置の効果を確認するための測定結果である。
【図6】本発明の第2実施形態である定在波低減装置とこの装置が備え付けられた自動車の構成を示す図である。
【図7】本発明の第3実施形態である定在波低減装置とこの装置が備え付けられた自動車の構成を示す図である。
【図8】本発明の第4実施形態である定在波低減装置とこの装置が備え付けられた自動車の構成を示す図である。
【図9】本発明の第5実施形態である定在波低減装置とこの装置が備え付けられた自動車の構成を示す図である。
【図10】本発明の第5実施形態である定在波低減装置によって低減する定在波を示す図である。
【図11】本発明の他の実施形態である定在波低減装置の制御部内の加算部の入力端子と制御部の後段のLPFの出力端子との間の区間の振幅特性F’を示す図である。
【図12】本発明の他の実施形態である定在波低減装置とこの装置が備え付けられた自動車の構成を示す図である。
【図13】本発明の他の実施形態である定在波低減装置とこの装置が備え付けられた自動車の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態である定在波低減装置10とこの装置10が備え付けられた自動車90の構成を示す図である。自動車90のタイヤ91から車室内空間93へ当該空間93の固有周波数の振動が伝わった場合、車室内空間93における対向する2つの面(図1の例では、運転席側ドア94及び助手席側ドア95)で反射した複数個(図1の例では、簡便のため、2個とする)の音波PWが合成され、ドア間の距離Dの2/k(k=1,2…)倍の波長λkを持った単一周波数の定在波SWk(k次の音響モード)が発生する。
【0010】
定在波低減装置10は、車室内空間93におけるk次の定在波SWkの腹に相当する位置であるドア95の上部を制御点Pとし、定在波SWkを構成する音波PWと制御点Pにおいて相殺し合うような音波CW(不図示)を放音することにより、定在波SWkを低減させる。
【0011】
この定在波低減装置10は、マイクロホン20と、制御部22と、スピーカ21とを含む閉ループLPOUTを有している。この閉ループLPOUTにおけるマイクロホン20は、抑圧対象である定在波SWkの成分を含む音を収音して電気信号に変換する音響振動入力デバイスとしての役割を果たす装置である。また、スピーカ21は、制御部22による処理を経た電気信号を音として出力する音響振動出力デバイスとしての役割を果たす装置である。スピーカ21は、その放音面を制御点Pに向けた姿勢で、ドア95の上部の位置(助手席側のアシストグリップ(不図示)の近傍の位置)に固定されている。マイクロホン20は、スピーカ21と同相面となるドア95側の位置に固定されている。
【0012】
制御部22は、マイクロホン20から制御部22に入力される音信号X(i)から音波CWの音信号である音信号Z’(i)を生成し、音信号Z’(i)をスピーカ21から音波CWとして放音させる装置である。制御部22は、A/Dコンバータ68、フィードバック型コムフィルタ30、遅延部41、LPF(Low Pass Filter)42、D/Aコンバータ69、及びパワーアンプ部43を有する。
【0013】
A/Dコンバータ68は、マイクロホン20から出力されるアナログ信号をデジタル形式に変換し、このデジタル形式の音信号を信号X(i)としてフィードバック型コムフィルタ30に出力する。フィードバック型コムフィルタ30は、加算部31、遅延部33、LPF34、及び係数乗算部35からなる閉ループLPINを有している。閉ループLPINにおける加算部31は、当該フィードバック型コムフィルタ30の出力信号Y(i)を閉ループLPINに導出する役割を果たす。また、遅延部33は、マイクロホン20及びA/Dコンバータ68を経由して加算部31に入力される信号X(i)における抑圧対象の定在波SW1と同じ周波数の成分の位相と閉ループLPINを介して加算部31に帰還される信号における抑圧対象の定在波SW1と同じ周波数の成分の位相との位相差をπの奇数倍にする位相調整手段(第2の位相調整手段)としての役割を果たす。また、LPF34は、閉ループLPINを経由して加算部31に帰還される信号の周波数特性を調整する周波数特性調整手段としての役割を果たす。係数乗算部35は、この周波数特性の調整を経た信号を位相反転し、フィードバックゲインを調整する役割を果たす。
【0014】
より詳細に説明すると、閉ループLPINにおける加算部31は、A/Dコンバータ68の出力信号X(i)と係数乗算部35の出力信号Y’(i−n)×αとを加算した信号X(i)+Y’(i−n)×αを信号X(i)における定在波SWkに対応した成分を含む信号Y(i)として当該フィルタ30の後段の遅延部41と当該フィルタ30内の遅延部33に出力する。遅延部33は、加算部31の出力信号Y(i)をnサンプル遅延させた信号Y(i−n)をLPF34に出力する。ここで、この遅延部33の遅延サンプル数nは、定在波SWkの半周期T1/2の奇数倍の時間(例えば、半周期T1/2の1倍の時間T1/2とする)を当該遅延部33の遅延時間DT33とし、この時間DT33を音信号X(i)のサンプリング周期Tsで除算することによって得られた値である。LPF34は、遅延部33の出力信号Y(i−n)におけるカットオフ周波数fc以上の周波数成分を減衰させた信号Y’(i−n)を係数乗算部35に出力する。このLPF34のカットオフ周波数fcは、例えば、定在波SW1の周波数fsw1よりも高く定在波SW2の周波数fsw2よりも低い周波数である(ここで、fswk=c/λk:cは音速(m/s))。係数乗算部35は、LPF34の出力信号Y’(i−n)に負の係数α(0>α>−1)を乗算し、この乗算結果である信号Y’(i−n)×αを加算部31に出力する。
【0015】
ここで、加算部31、遅延部33、LPF34、及び係数乗算部35からなる閉ループLPINを信号が一巡するのに要する時間は、抑圧対象の定在波SWkのうち波長の最も長い定在波SW1の半周期T1/2であり、閉ループLPINは信号の位相反転を行う係数乗算部35を含んでいる。従って、定在波SW1と同一周波数の成分に着目すると、加算部31では、A/Dコンバータ68経由で入力される信号X(i)の定在波SW1の成分と、係数乗算部35経由で帰還される信号Y’(i−n)×αの定在波SW1の成分とが同相加算される。従って、フィードバック型コムフィルタ30は、A/Dコンバータ68経由で入力される信号X(i)のうち抑圧対象の定在波SW1の成分を選択して通過させる役割を果たす。
【0016】
フィードバック型コムフィルタ30の後段の遅延部41は、抑圧対象の定在波SWkがマイクロホン20に入力されるときの位相と、スピーカ21から出力されるときの位相の位相差をπの奇数倍にする位相調整手段(第1の位相調整手段)としての役割を果たす装置である。この遅延部41は、フィードバック型コムフィルタ30の出力信号Y(i)をmサンプル遅延させた信号を信号Z(i)としてLPF42に出力する。ここで、閉ループLPOUTでは、スピーカ21、スピーカ21とマイクロホン20との間の気導経路、マイクロホン20、A/Dコンバータ68、フィードバック型コムフィルタ30、遅延部41、LPF42、係数乗算部99、D/Aコンバータ69、パワーアンプ部43の各々において信号の伝送遅延が発生する。遅延部41の遅延サンプル数mは、閉ループLPOUTにおける信号の伝送遅延の総計と抑圧対象の定在波SW1の半周期T1/2の奇数倍の時間(例えば、半周期T1/2の1倍の時間T1/2とする)との差を当該遅延部41の遅延時間DT41とし、この時間DT41を信号X(i)のサンプリング周期Tsで除算することによって得られた値である。
【0017】
LPF42は、閉ループLPOUTを介して制御点Pに帰還される信号の周波数特性を調整する周波数特性調整手段としての役割を果たす。このLPF42は、遅延部41の出力信号Z(i)におけるカットオフ周波数fc(周波数fsw1よりも高くfsw2よりも低い周波数fc)以上の周波数成分を減衰させた信号Z’(i)を係数乗算部99に出力する。係数乗算部99は、LPF42の出力信号Z’(i)に正の係数β(0<β<1)を乗算し、この乗算結果である信号Z’(i)×βをD/Aコンバータ69に出力する。この信号Z’(i)×βは、D/Aコンバータ69によるアナログ信号への変換とパワーアンプ部43による増幅とを経た後、スピーカ21から音波CWとして出力される。
【0018】
以上が、定在波低減装置10の構成の詳細である。この定在波低減装置10の動作中に車室内空間93において定在波SWkが励起された場合、その定在波SWkのものと同じ単一周波数の成分を含み且つ定在波SWkを構成する音波PWと逆の位相を持った音波CWがスピーカ21から制御点Pに向けて放音される。その理由は次の通りである。
【0019】
図2は、基本的な構成のフィードバック型コムフィルタ(図1に示すフィードバック型コムフィルタ30からLPF34を除去した構成のコムフィルタ)の振幅特性Hを示す図である。α<0である場合における振幅特性Hは、抑圧対象である定在波SW1の周波数fSW1とその奇数倍に急峻なピーク(極大)を有している。これは、フィードバック型コムフィルタ30では、抑圧対象である定在波SW1がA/Dコンバータ68を介して加算部31に入力されるときの位相と、閉ループLPINの係数乗算器35から加算部31に帰還されるときの位相との間にπの奇数倍の位相差が生じ、加算部31においてA/Dコンバータ68経由の定在波の成分と係数乗算部35経由の定在波の成分が同相加算されるからである。また、上述したように、この定在波低減装置10では、抑圧対象の定在波SWkがマイクロホン20に入力されるときの位相と、スピーカ21から出力されるときの位相との間にπの奇数倍の位相差が発生する。従って、車室内空間93において減衰対象である1次の定在波SW1が励起された場合、この定在波SW1のものと同じ単一周波数fSW1の成分を持った音波(図4参照)が、定在波SW1を構成する音波PWと逆の位相を持った音波CWとして放音される。
【0020】
以上説明した本実施形態は、次の効果を有する。
第1に、本実施形態では、定在波SWkが励起された場合、制御点Pにおける音の音信号X(i)が、A/Dコンバータ68→フィードバック型コムフィルタ30→遅延部41→LPF42→係数乗算部99→D/Aコンバータ69→パワーアンプ部43を経由し、定在波SWkを構成する音波PWと逆の位相を持った音波CWとして制御点Pに帰還される。これにより、制御点Pにおいて音波PWと音波CWとが相殺し合い、定在波SWkが低減される。また、音信号X(i)に定在波SWk以外の音の成分(例えば、オーディオ機器のオーディオ音声の成分)が含まれていたとしても、その成分はフィードバック型コムフィルタ30において減衰され、車室内空間93に帰還されることがない。このため、オーディオ機器のオーディオ音声などが閉ループLPOUTを循環してハウリングが発生したり、オーディオ音声などの音質に悪影響が及んだりすることもない。従って、本実施形態によると、ハウリングの発生や車室内空間93におけるオーディオ音声などの音質への悪影響を回避しつつ、定在波SWkを低減させることができる。
【0021】
第2に、本実施形態では、制御部22内における遅延部33の後段及び遅延部41の後段にLPF34及び42が介挿されており、このLPF34及び42によって信号Z’(i)の高次成分は低減される。なお、定在波SW1の周波数が高く全体の系の遅延が定在波SW1の半周期T1/2よりも大きくなった場合は、定在波SW1の1周期分の時間T1だけ遅延させて逆相にしたものを信号Z’(i)としてもよい。また、アナログ遅延素子とアナログフィルタを用いればアナログ回路による定在波低減装置にすることもできる。
【0022】
第3に、本実施形態では、LPF42とD/Aコンバータ69の間に係数乗算部99が介挿されている。この係数乗算部99の係数βが1に近くなると音波CWの振幅は大きくなり、係数βが0に近くなると音波CWの振幅は小さくなる。よって、本実施形態によると、係数βを最適値に設定することにより、音波CWが閉ループLPOUTを循環してハウリングが発生する、という事態の発生を防止することができる。
【0023】
ここで、本願発明者は、本実施形態の効果を確認するため、以下のような検証を行った。まず、本願発明者は、4ドアセダンタイプの自動車の車室内空間に定在波低減装置10を設けた場合と設けない場合の各々について、車室内空間に周波数fSW1の音波を放射して助手席側ドア及び運転席側ドア間の各点の音圧分布を計測した。図4は、この計測結果を示すグラフである。図4のグラフの横軸は、助手席側ドアと運転席側ドアの間の各点における助手席側ドアからの距離である。また、縦軸は、各点における音圧レベル(エネルギー)である。図4に示すように、定在波低減装置10を設けた場合と設けない場合の何れについても、助手席側ドアと運転席側ドアの間の中心から両ドアに近づくに従ってレベルが大きくなっている。これは、1次の定在波SW1(両ドア間の距離の2倍の波長を持った定在波SW1)が発生しているためである。しかし、定在波低減装置10を設けた場合と設けない場合の各々における各点のレベルを比較すると、前者の各点のレベルの方が後者の各点のレベルよりも低くなっている。
【0024】
また、本願発明者は、4ドアセダンタイプの自動車の車室内空間に定在波低減装置10を設けない場合と設けた場合の各々について、運転席のヘッドレスト付近の位置を測定点とし、広帯域の成分を含むテスト音を放射して測定点のパワースペクトルを測定した。図5は、この測定結果である1/3オクターブ振幅特性を人間の聴覚特性に応じて補正したA特性である。ここで、自動車の車室内空間において発生する定在波SWkの周波数fSWkは、その車室内空間の形状に依存する。4ドアセダンタイプの自動車における1次の定在波SW1の周波数fSW1は160Hz前後である。図5の波形図では、定在波低減装置10を設けない場合と設けた場合とでこの160HzのA特性音圧に顕著な相違が現れている。すなわち、定在波低減装置10を設けない場合における160HzのA特性音圧は67dBであるのに対し、定在波低減装置10を設けた場合における160HzのA特性音圧は62dBである。
【0025】
以上の検証の結果から、本実施形態である定在波低減装置10を自動車90の車室内空間93に備え付けることにより、抑圧対象である定在波SW1を低減させることができることが分かる。
【0026】
<第2実施形態>
図6は、本発明の第2実施形態である定在波低減装置10’とこの装置10’が備え付けられた自動車90の構成を示す図である。この定在波低減装置10’は、第1の位相調整手段として機能する遅延部41’及び係数乗算部99’を閉ループLPOUT内に含んでおり、第2の位相調整手段としての機能する遅延部33及び係数乗算部35を閉ループLPIN内に含んでいる。
【0027】
より詳細に説明すると、この定在波低減装置10’では、フィードバック型コムフィルタ30内の加算部31は、A/Dコンバータ68の出力信号X(i)と係数乗算部35の出力信号Y’(i−n)を加算し、この加算結果を信号Y(i)として当該フィルタ30の後段の遅延部41’と当該フィルタ30内の遅延部33に出力する。遅延部33は、加算部31の出力信号Y(i)にnサンプルの遅延(時間DT33の遅延)を与えた信号Y(i−n)をLPF34に出力する。LPF34は、遅延部33の出力信号Y(i−n)におけるカットオフ周波数fc以上の周波数成分を減衰させた信号Y’(i−n)を係数乗算部35に出力する。係数乗算部35は、LPF34の出力信号Y’(i−n)に負の係数α(0>α>−1)を乗算し、この乗算結果である信号Y’(i−n)×αを加算部31に出力する。
【0028】
また、この定在波低減装置10’では、フィードバック型コムフィルタ30の後段の遅延部41’は、フィードバック型コムフィルタ30の出力信号Y(i)をm’サンプル遅延させた信号を信号Z(i)としてLPF42に出力する。遅延部41’の遅延サンプル数m’は、閉ループLPOUTにおける信号の伝送遅延の総計(スピーカ21、スピーカ21とマイクロホン20との間の気導経路、マイクロホン20、A/Dコンバータ68、フィードバック型コムフィルタ30、遅延部41’、LPF42、係数乗算部99’、D/Aコンバータ69、パワーアンプ部43の各々における信号の伝送遅延の総計)と抑圧対象の定在波SW1の1周期T1の整数倍の時間(例えば、1周期T1の1倍の時間T1とする)との差を当該遅延部41’の遅延時間DT41’とし、この時間DT41’を信号X(i)のサンプリング周期Tsで除算することによって得られた値である。係数乗算部99’は、遅延部41’の出力信号Z’(i)に負の係数β’(−1<β’<0)を乗算することによって信号Z’(i)を位相反転し、この位相反転した信号Z’(i)×β’をD/Aコンバータ69に出力する。
【0029】
本実施形態によっても、定在波SWkを構成する音波PWと逆の位相を持った音波CWが制御点Pに帰還される。よって、第1実施形態と同様に、ハウリングの発生や車室内空間93におけるオーディオ音声などの音質への悪影響を回避しつつ、定在波SWkを低減させることができる。
【0030】
<第3実施形態>
図7は、本発明の第3実施形態である定在波低減装置10Aとこの装置10Aが備え付けられた自動車90の構成を示す図である。この定在波低減装置10Aは、第1の位相調整手段として機能する遅延部41及び係数乗算部99を閉ループLPOUT内に含んでおり、第2の位相調整手段として機能する遅延部41、33A、及び係数乗算部35を閉ループLPIN内に含んでいる。つまり、この定在波低減装置10Aでは、フィードバック型コムフィルタ30A内の遅延部41が第1の位相調整手段としての役割と第2の位相調整手段としての役割の2つの役割を果たす。
【0031】
より詳細に説明すると、この定在波低減装置10Aでは、フィードバック型コムフィルタ30A内の加算部31は、A/Dコンバータ68の出力信号X(i)と係数乗算部35の出力信号Y’(i−n)×αとを加算した信号Y(i)=X(i)+Y’(i−n)×αをLPF32に出力する。LPF32は、加算部31の出力信号Y(i)におけるカットオフ周波数fc以上の周波数成分を減衰させた信号Y’(i)を遅延部41に出力する。遅延部41は、LPF32の出力信号Y’(i)にmサンプルの遅延(時間DT41の遅延)を与えた信号を信号X(i)における定在波SWkに対応した成分を含む信号Y’(i−m)として当該フィルタ30Aの後段の係数乗算部99と当該フィルタ30A内の遅延部33Aに出力する。
【0032】
遅延部33Aは、遅延部41の出力信号Y’(i−m)を(n−m)サンプル遅延させた信号Y’(i−n)を係数乗算部35に出力する。ここで、この遅延部33Aの遅延サンプル数(n−m)は、抑圧対象の定在波SW1の半周期T1/2の奇数倍の時間(例えば、半周期T1/2の1倍の時間T1/2とする)と遅延部41の遅延時間DT41との差を当該遅延部33Aの遅延時間DT33Aとし、この時間DT33Aを信号X(i)のサンプリング周期Tsで除算することによって得られた値である。係数乗算部35は、遅延部33Aの出力信号Y’(i−n)に負の係数α(0>α>−1)を乗算し、この乗算結果である信号Y’(i−n)×αを加算部31に出力する。
【0033】
また、この定在波低減装置10Aでは、フィードバック型コムフィルタ30Aの後段の係数乗算部99は、遅延部41の出力信号Y’(i−m)に正の係数β(0<β<1)を乗算し、この乗算結果である信号Y’(i−m)×βをD/Aコンバータ69に出力する。
【0034】
本実施形態である定在波低減装置10Aにおける加算部31の入力端子から遅延部41の出力端子までの間の区間の振幅特性は、定在波低減装置10における加算部31の入力端子からLPF42の出力端子までの間の区間の振幅特性F(図3)と同じになる。よって、本実施形態によると、第1実施形態のものよりも回路構成を簡略化でき、ユニットを小型にすることが可能になる。さらに、ハウリングの発生や車室内空間93におけるオーディオ音声などの音質への悪影響を回避しつつ、定在波SWkを低減させることができる。
【0035】
<第4実施形態>
図8は、本発明の第4実施形態である定在波低減装置10A’とこの装置10A’が備え付けられた自動車90の構成を示す図である。この定在波低減装置10A’は、第1の位相調整手段として機能する遅延部41’及び係数乗算部99’を閉ループLPOUT内に含んでおり、第2の位相調整手段として機能する遅延部41’、33A’、及び係数乗算部35を閉ループLPIN内に含んでいる。つまり、この定在波低減装置10A’においても定在波低減装置10A(第3実施形態)と同様に、フィードバック型コムフィルタ30A’内の遅延部41’が第1の位相調整手段としての役割と第2の位相調整手段としての役割の2つの役割を果たす。
【0036】
より詳細に説明すると、この定在波低減装置10A’では、フィードバック型コムフィルタ30A’内の加算部31は、A/Dコンバータ68の出力信号X(i)と係数乗算部35の出力信号Y’(i−n)×αとを加算した信号Y(i)=X(i)+Y’(i−n)×αをLPF32に出力する。LPF32は、加算部31の出力信号Y(i)におけるカットオフ周波数fc以上の周波数成分を減衰させた信号Y’(i)を遅延部41’に出力する。遅延部41’は、LPF32の出力信号Y’(i)にm’サンプルの遅延(時間DT41’の遅延)を与え、このm’サンプルの遅延を与えた信号を信号X(i)における定在波SWkに対応した成分を含む信号Y’(i−m’)として当該フィルタ30A’の後段の係数乗算部99’と当該フィルタ30A’内の遅延部33A’に出力する。
【0037】
遅延部33A’は、遅延部41’の出力信号Y’(i−m’)を(n−m’)サンプル遅延させた信号Y’(i−n)を係数乗算部35に出力する。ここで、この遅延部33A’の遅延サンプル数(n−m’)は、抑圧対象の定在波SW1の半周期T1/2の奇数倍の時間(例えば、半周期T1/2の1倍の時間T1/2とする)と遅延部41’の遅延時間DT41’との差を当該遅延部33A’の遅延時間DT33A’とし、この時間DT33A’を信号X(i)のサンプリング周期Tsで除算することによって得られた値である。係数乗算部35は、遅延部33A’の出力信号Y’(i−n)に負の係数α(0>α>−1)を乗算し、この乗算結果である信号Y’(i−n)×αを加算部31に出力する。
【0038】
また、この定在波低減装置10A’では、フィードバック型コムフィルタ30A’の後段の係数乗算部99’は、遅延部41’の出力信号Y’(i−m’)に負の係数β’(−1<β’<0)を乗算することによって信号Y’(i−m’)を位相反転し、この位相反転した信号Y’(i−m’)×β’をD/Aコンバータ69に出力する。本実施形態によっても、第3実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0039】
<第5実施形態>
図9は、本発明の第5実施形態である定在波低減装置10Bとこの装置10Bが備え付けられた自動車90の構成を示す図である。この定在波低減装置10Bでは、A/Dコンバータ68及びD/Aコンバータ69間に6つの制御部22B−u(u=1〜6)が並列に介挿されている。各制御部22B−u内では、フィードバック型コムフィルタ30−u、遅延部41−u、及びLPF42−uが直列に接続されている。
【0040】
図9において、制御部22B−1は、車室内空間93におけるドア94及び95間を往復する音波PWが合成されてできる定在波SWk1(ドア94及び95間の真中に節NDを有する軸波:図10(A)参照)を低減させるためのものである。制御部22B−2は、車室内空間93におけるフロンドガラス98及びリアガラス(不図示)間を往復する音波PWが合成されてできる定在波SWk2(フロントガラス98及びリアガラス間の真中に節NDを有する軸波:図10(B)参照)を低減させるためのものである。制御部22B−3は、車室内空間93における天井97及び床(不図示)間を往復する音波PWが合成されてできる定在波SWk3(天井97及び床間の真中に節NDを有する軸波:図10(C)参照)を低減させるためのものである。そして、制御部22B−4,22B−5,22B−6は、車室内空間93における各面に対して斜めに入射する音波PWが合成されてできる定在波SWk4,SWk5,及びSWk6を各々低減させるためのものである。各制御部22B−uにおけるフィードバック型コムフィルタ30−u内の遅延部33−uと同フィルタ30−uの後段の遅延部41−uには、各制御部22B−uにより低減させる定在波SWuの波長λuに応じた個別の遅延サンプル数m及びnが各々設定されている。
【0041】
本実施形態によると、車室内空間93において発生する左右方向の定在波SWk1(k=1,2…)、前後方向の定在波SWk2(k=1,2…),上下方向の定在波SWk3(k=1,2…)や、斜め方向の定在波SWk4(k=1,2…),SWk5(k=1,2…),SWk6(k=1,2…)を低減させることができる。さらに、制御部22B−uの数を増やすことにより、異なる方向の定在波SWku(k=1,2…)が複合された定在波の低減も可能である
【0042】
以上、この発明の第1〜第5実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態があり得る。例えば、以下の通りである。
(1)上記第1乃至第5実施形態では、自動車90の車室内空間93における助手席側のドア95の上部にマイクロホン20及びスピーカ21を設けた。しかし、運転席側のドア94の上部にマイクロホン20及びスピーカ21を設けてもよい。また、車室内空間93における別の位置(例えば、運転席側のアシストグリップ、ヘッドレスト、Aピラー、Bピラー、Cピラー、運転席の足元、助手席の足元、ドアトリム、座席下部、ヒールキックなど)にマイクロホン20及びスピーカ21を設けてもよい。
【0043】
(2)上記第1及び第2実施形態では、フィードバック型コムフィルタ30内の閉ループLPINにおける遅延部33と係数乗算部35の間、及び閉ループLPOUTにおける遅延部41と係数乗算部99の間にLPF34及び42が介挿されていた。また、第3及び第4実施形態では、閉ループLPINにおける加算部31と遅延部41の間にLPF32が介挿されていた。しかし、閉ループLPINにおける別の位置(例えば、加算部31と遅延部33の間や、係数乗算部35と加算部31の間)にLPFを介挿してもよいし、閉ループLPOUTにおける別の位置(例えば、A/Dコンバータ68とフィードバック型コムフィルタ30の間、フィードバック型コムフィルタ30と遅延部41の間、遅延部41と係数乗算部99の間、係数乗算部99とD/Aコンバータ69の間)にLPFを介挿してもよい。
【0044】
また、LPFの個数を3つ以上にしてもよい。例えば、第1及び第2実施形態におけるフィードバック型コムフィルタ30内の閉ループLPINにおける加算部31の後段にLPFを追加してもよい。この構成では、フィードバック型コムフィルタ30内の閉ループLPINにおける加算部31の後段、遅延部33の後段、及び遅延部41の後段に3つのLPFが挿入されることになる。よって、振幅特性F(図3)における周波数fcより高域の減衰量をより大きくすることができる。また、第3(第4)実施形態において、フィードバック型コムフィルタ30A内における遅延部33A(33A’)の後段、及びフィードバック型コムフィルタ30A(30A’)の後段にLPFを追加してもよい。この構成で、フィードバック型コムフィルタ30A(30A’)内における加算部31の後段、遅延部33A(33A’)の後段、及び遅延部41の後段に3つのLPFが挿入されることになる。よって、振幅特性F(図3)における周波数fcより高域の減衰量をより大きくすることができる。
【0045】
(3)上記第1実施形態において、遅延部33の後段のLPF34を除去し、フィードバック型コムフィルタ30の後段のLPF42のみを残す構成としてもよい。図11に示すように、この構成におけるフィードバック型コムフィルタ30内の加算部31の入力端子から遅延部41の出力端子までの間の区間の振幅特性F’は、周波数fcより高域における各ピークの周波数が各々の高域側及び低域側のボトムとのゲイン比を保ちつつ徐々に低下していくものになる。この構成によっても、ハウリングの発生や車室内空間93におけるオーディオ音声などの音質への悪影響を回避しつつ、定在波SWkを低減させることができる。
【0046】
(4)上記第1乃至第5実施形態において、フィードバック型コムフィルタにおける伝達関数のピークの周波数(フィードバック型コムフィルタ30内の遅延部33の遅延サンプル数n)を調整する周波数調整手段を設けてもよい。自動車90の車室内空間93の定在波SWkはその空間93における対向する面間の距離Dの2/k(k=1,2…)倍の波長λk(k=1,2…)を持った音波PWが合成されてできるものであるから、基本的には、定在波SWkの周波数fSWkは車室内空間93の形状に依存する。しかし、車室内空間93に放射される音の加振源であるタイヤ91を異なる寸法のものに取り換えた場合や空間93の内外の温度が変化した場合には、その影響を受けて周波数fSWkが低域側または高域側に僅かに変化し得る。本実施形態によると、車室内空間93における定在波SWkの周波数fSWkが変化する場合でも、定在波SWkを低減させることができる。
【0047】
また、この場合において、自動車90が走行を開始する度に、走行開始後の所定時間(例えば、1分)の間に発生するk次の定在波SWkの周波数fSWkを検出し、この周波数fSWkとフィードバック型コムフィルタ30における伝達関数のピークの周波数とが一致するように遅延部33の遅延サンプル数nを自動調整してもよい。自動車90の車室内空間93における定在波SWkは車速には依存しないため、自動車90の走行開始時の定在波SWkの周波数fSWkがその後の走行中に大きく変化することは無い。よって、本実施形態によると、適応制御などの複雑な処理を要することなく、自動車90の車室内空間93の定在波SWkの周波数fSWkを捕捉し、周波数fSWkの成分を効率的に低減させることができる。
【0048】
(5)上記第1乃至第5実施形態において、音響振動入力デバイスであるマイクロホン20の出力信号から車室内空間93内における定在波SWkの周期を推定する推定手段を具備し、第1の位相調整手段である遅延部41による位相の調整量をこの推定部が推定した周期に基づいて決定するようにしてもよい。この実施形態は、以下に示す第1及び第2の構成により実現できる。
【0049】
図12は、本実施形態の第1の変形例である定在波低減装置10Cとこの装置10Cが備え付けられた自動車90の構成を示す図である。この定在波低減装置10Cは、推定部79を有している。推定部79は、次のような処理を行う。推定部79は、マイクロホン20が車室内空間93内において収音した音の音信号X(i)にFFT(Fast Fourie Transform)を施す。推定部79は、このFFTにより得られたパワースペクトルにおける優勢な周波数を車室内空間93内における1次の定在波SW1の周波数f1とする。そして、推定部79は、この周波数f1で1(秒)を除算した値を車室内空間93における定在波SW1の周期の推定値T1’とし、この推定値T1’を示す信号を遅延部41と遅延部33に供給する。遅延部41は、推定部79から推定値T1’を示す信号が供給されると、この推定値T1’の1/2の時間T1’/2(すなわち、定在波SW1の半周期分の時間)と閉ループLPOUTにおける信号の伝送遅延の総計との差を当該遅延部41の最適遅延時間DTOPT41とし、この時間DTOPT41をサンプリング周期Tsで除算することによって得られた値となるように当該遅延部41の遅延サンプル数mを更新する。遅延部33は、推定値T1’の1/2の時間T1’/2を当該遅延部33の最適遅延時間DTOPT33とし、この時間DTOPT33をサンプリング周期Tsで除算することによって得られた値となるように当該遅延部33の遅延サンプル数nを更新する。
【0050】
図13は、本実施形態の第2の変形例である定在波低減装置10Dとこの装置10Dが備え付けられた自動車90の構成を示す図である。この定在波低減装置10Dは、温度計80と推定部79を有している。温度計80は、車室内空間93に設置される。推定部79は、次のような処理を行う。推定部79は、温度計80が測定した温度からその測定時点における車室内空間93内の音の伝搬速度Cを求める。推定部79は、車室内空間93のドア間の距離Dの2倍の長さを1次の定在波SW1の波長λ1とする。推定部79は、音の伝搬速度Cでこの波長λ1を除算した値を定在波SW1の周期の推定値T1’とし、この推定値T1’を示す信号を遅延部41と遅延部33に供給する。遅延部41は、推定部79から推定値T1を示す信号が供給されると、この推定値T1’の1/2の時間T1’/2(すなわち、定在波SW1の半周期分の時間)と閉ループLPOUTにおける信号の伝送遅延の総計との差を当該遅延部41の最適遅延時間DTOPT41とし、この時間DTOPT41をサンプリング周期Tsで除算することによって得られた値となるように当該遅延部41の最新の遅延サンプル数mを更新する。遅延部33は、推定値T1’の1/2の時間T1’/2を当該遅延部33の最適遅延時間DTOPT33とし、この時間DTOPT33をサンプリング周期Tsで除算することによって得られた値となるように当該遅延部33の遅延サンプル数nを更新する。
【0051】
(6)上記第1,第3、及び第5実施形態における遅延部41は、閉ループLPOUTを信号が一巡するのに要する時間が車室内空間93における定在波SWkの半周期の1倍の時間Tk/2となるようにフィードバック型コムフィルタ30の出力信号Y(i)の位相を調整した。しかし、閉ループLPOUTを信号が一巡するのに要する時間が車室内空間93における定在波SWkの半周期の1倍以外の奇数倍の時間(例えば、定在波SWkの半周期の3倍の時間3Tk/2や定在波SWkの半周期の5倍の時間5Tk/2)となるようにフィードバック型コムフィルタ30の出力信号Y(i)の位相を調整してもよい。
【0052】
(7)上記第2及び第4実施形態における遅延部41は、閉ループLPOUTを信号が一巡するのに要する時間が車室内空間93における定在波SWkの周期の1倍の時間Tkとなるようにフィードバック型コムフィルタ30の出力信号Y(i)の位相を調整し、位相の調整を経た信号Y(i)を位相反転させてからスピーカ21に供給した。しかし、閉ループLPOUTを信号が一巡するのに要する時間が車室内空間93における定在波SWkの1周期の1倍以外の整数倍の時間(例えば、定在波SWkの1周期の2倍の時間2Tkや定在波SWkの1周期の3倍の時間3Tk)となるようにフィードバック型コムフィルタ30の出力信号Y(i)の位相を調整し、位相の調整を経た信号Y(i)を位相反転させてからスピーカ21に供給してもよい。
【0053】
(8)上記第1乃至第3実施形態は、自動車の車室内空間93における定在波SWkを低減させる装置として本発明を適用したものであった。しかし、本発明を別の用途に適用してもよい。例えば、スピーカエンクロージャ内における不要共振を吸収する役割を果たしている多孔質材に代えて、本発明である定在波低減装置を利用してもよい。この実施形態では、スピーカエンクロージャ内の寸法により決まるk次の定在波SWkの腹の位置に、マイクロホンとスピーカとを設置する。そして、定在波低減装置10により、マイクロホンが収音した音の音信号X(i)から音信号Z’(i)を生成し、音信号Z’(i)を、定在波SWkを低減させる音波CWとしてスピーカから出力させる。この実施形態は、少なくとも一対の面に囲まれた空間(例えば、輸送機、車、船、飛行機、鉄道、宇宙ステーション、会議室、防音室、カラオケBOX、音響機能付き風呂、スピーカBOX、電子ピアノ、パソコン、家電における筐体の中の空間や、家屋の屋根と地面に面した空間、床と壁に面した廊下の空間など)における定在波SWkの抑圧への適用が可能である。
【0054】
また、電子鍵盤楽器の筐体内におけるビリツキと呼ばれる不要振動の発生を防止する技術的手段として本発明を利用してもよい。この実施形態では、電子鍵盤楽器の筐体の寸法により決まるk次の定在波SWkの腹の位置に、マイクロホンとスピーカとを設定する。そして、定在波低減装置10により、マイクロホンが収音した音の音信号X(i)から音信号Z’(i)を生成し、音信号Z’(i)をスピーカ21から音波CWとして出力させる。
【0055】
また、アコースティックギターにおける異常音の発生を防止する技術的手段として本発明を適用してもよい。アコースティックギターでは、弦の発弦によって特定の周波数の音が発生すると、この音に応じて胴部内の空間で定在波SWkが発生し、ウルフトーンと呼ばれる異常音が発生することがある。この実施形態では、この異常音の原因となる定在波SWkを低減させるべく、胴部内の空間の形状及び寸法により決まるk次の定在波SWkの腹の位置に、マイクロホンとスピーカとを設定する。そして、定在波低減装置10により、マイクロホンが収音した音の音信号X(i)から音信号Z’(i)を生成し、音信号Z’(i)をスピーカから音波CWとして出力させる。
【0056】
(9)上記第1乃至第5実施形態において、周波数特性調整手段であるLPF32,34,42を、定在波SWkを通過させる通過帯域を持った別の種類のフィルタ(例えば、HPF(High Pass
Filter)、BPF(Band Pass Filter)、ローシェエルビングフィルタ、ハイシャルビングフィルタ、ピーキングフィルタ,ディッピングフィルタや、これらを組み合わせたフィルタ、及びこれらとLPFを組み合わせたフィルタ)により置き換えてもよい。
【0057】
(10)上記第1、第2、及び第5実施形態では、LPF42とD/Aコンバータ69の間に係数乗算部99が介挿されていた。また、第3及び第4実施形態では、フィードバック型コムフィルタ30AとD/Aコンバータ69の間に係数乗算部99が介挿されていた。しかし、閉ループLPOUTにおける別の位置(例えば、定在波低減装置10,10’におけるA/Dコンバータ68とフィードバック型コムフィルタ30の間、フィードバック型コムフィルタ30と遅延部41の間、遅延部41とLPF42の間、定在波低減装置10A,10A'におけるA/Dコンバータ68とフィードバック型コムフィルタ30の間など)に係数乗算部99を介挿してもよい。
【0058】
(11)上記第1、第2、及び第5実施形態では、A/Dコンバータ68とD/Aコンバータ69の間に、フィードバック型コムフィルタ30、遅延部41、LPF42、及び係数乗算部99がこの順に配列されていた。しかし、これら各部の配列を、フィードバック型コムフィルタ30→遅延部41→LPF42→係数乗算部99や、フィードバック型コムフィルタ30→遅延部41→係数乗算部99→LPF42や、フィードバック型コムフィルタ30→LPF42→係数乗算部99→遅延部41や、フィードバック型コムフィルタ30→LPF42→遅延部41→係数乗算部99や、フィードバック型コムフィルタ30→係数乗算部99→LPF42→遅延部41や、フィードバック型コムフィルタ30→係数乗算部99→遅延部41→LPF42などに変更してもよい。また、遅延部41、LPF42、及び係数乗算部99をフィードバック型コムフィルタ30の前段に配置してもよい。
【0059】
(12)上記第3及び第4実施形態では、A/Dコンバータ68とD/Aコンバータ69の間に、フィードバック型コムフィルタ30A及び係数乗算部99がこの順に配列されていた。しかし、係数乗算部99をフィードバック型コムフィルタ30Aの前段に配置してもよい。
【0060】
(13)上記第1乃至第5実施形態において、閉ループLPOUTにおける信号の伝送遅延の総計を計測する遅延量計測部を設けてもよい。この実施形態は、例えば、次のような構成によって実現できる。遅延量計測部は、閉ループLPOUTにおける任意の計測点(例えば、パワーアンプ部43とスピーカ21の間の計測点とする)にパルス音の信号を供給する。この信号は、計測点から、スピーカ21、マイクロホン20、A/Dコンバータ68、フィードバック型コムフィルタ30…D/Aコンバータ69、パワーアンプ部43を経由して計測点に帰還される。遅延量計測部は、計測点にパルス音、トーンバースト等の時変する音の信号を供給した時刻と計測点に信号が帰還された時刻との間の時間を、閉ループLPOUTにおける信号の伝送遅延の総計とし、この総計を示す信号を遅延部41に供給する。遅延部41は、この伝送遅延の総計に基づいて当該遅延部41の遅延サンプル数mを調整する。この実施形態によると、音波CWの位相が目標とする位相より進んだものとなったり遅れたものとなって定在波SWkを充分に抑圧できない、という事態の発生を防止できる。
【符号の説明】
【0061】
10,10A,10B…定在波低減装置、20…音響振動入力デバイス、21…音響振動出力デバイス、22…制御部、30,30A…フィードバック型コムフィルタ、31…加算部,41…遅延部、32,34,42…LPF、35…係数乗算部、43…パワーアンプ部、79…推定部、80…温度計、90…自動車、91…タイヤ、93…車室内空間、94…運転席側ドア、95…助手席側ドア。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抑圧対象の定在波の成分を含む音を収音して電気信号に変換する音響振動入力デバイスと、前記音響振動入力デバイスの出力信号における前記抑圧対象である定在波に対応した成分を選択して出力するフィードバック型コムフィルタと、前記フィードバック型コムフィルタの処理を経た電気信号を音として出力する音響振動出力デバイスとを少なくとも含む第1の閉ループを有し、
前記第1の閉ループは、前記抑圧対象の定在波が前記音響振動入力デバイスから入力されるときの位相と、前記音響振動出力デバイスから出力されるときの位相の位相差をπの奇数倍にする第1の位相調整手段を含み、
前記フィードバック型コムフィルタは、第2の閉ループをなし、前記第2の閉ループは、前記音響振動入力デバイスの出力信号を前記第2の閉ループ内に導入する加算部を有するとともに、前記音響振動入力デバイスを経由して前記加算部に入力される信号における前記抑圧対象の定在波と同じ周波数の成分の位相と前記第2の閉ループを介して前記加算部に帰還される信号における前記抑圧対象の定在波と同じ周波数の成分の位相との位相差をπの奇数倍にする第2の位相調整手段を含むことを特徴とする定在波低減装置。
【請求項2】
前記フィードバック型コムフィルタは、前記第2の位相調整手段として、前記抑圧対象の定在波の半周期の奇数倍の遅延時間を持った遅延部と、位相反転を行う係数乗算部とを前記第2の閉ループ内に含み、
前記第1の閉ループは、前記第2の位相調整手段を構成する遅延部を含まず、前記第1の閉ループにおける信号の伝送遅延の総量と前記抑圧対象の定在波の半周期の奇数倍の時間との差の遅延時間を持った遅延部を前記第1の位相調整手段として含むことを特徴とする請求項1に記載の定在波低減装置。
【請求項3】
前記フィードバック型コムフィルタは、前記第2の位相調整手段として、前記抑圧対象の定在波の半周期の奇数倍の遅延時間を持った遅延部と、位相反転を行う係数乗算部とを前記第2の閉ループ内に含み、
前記第1の閉ループは、前記第2の位相調整手段を構成する遅延部を含まず、前記第1の閉ループにおける伝送遅延の総量と前記抑圧対象の定在波の周期の整数倍の時間との差の遅延時間を持った遅延部と位相反転を行う係数乗算回路を前記第1の位相調整手段として含むことを特徴とする請求項1に記載の定在波低減装置。
【請求項4】
前記フィードバック型コムフィルタは、前記第2の位相調整手段として、前記第2の閉ループにおける信号の伝送遅延の総量と前記抑圧対象の定在波の半周期の奇数倍の時間との差の遅延時間を持った第1の遅延部と、前記抑圧対象の定在波の半周期の奇数倍の遅延時間と前記第1の遅延部の遅延時間との差の遅延時間を持った第2の遅延部と、位相反転を行う係数乗算部とを前記第2の閉ループ内に含み、
前記第1の閉ループは、前記第2の位相調整手段を構成する第1および第2の遅延部のうちの第1の遅延部を含み、この第1の遅延部が前記第1の位相調整手段として機能することを特徴とする請求項1に記載の定在波低減装置。
【請求項5】
前記フィードバック型コムフィルタは、前記第2の位相調整手段として、前記第2の閉ループにおける信号の伝送遅延の総量と前記抑圧対象の定在波の周期の整数倍の時間との差の遅延時間を持った第1の遅延部と、前記抑圧対象の定在波の半周期の奇数倍の遅延時間と前記第1の遅延部の遅延時間との差の遅延時間を持った第2の遅延部と、位相反転を行う係数乗算部とを前記第2の閉ループ内に含み、
前記第1の閉ループは、前記第2の位相調整手段を構成する第1および第2の遅延部のうちの第1の遅延部と位相反転を行う係数乗算部とを含み、この第1の遅延部と係数乗算部が前記第1の位相調整手段として機能することを特徴とする請求項1に記載の定在波低減装置。
【請求項6】
前記第2の閉ループは、周波数特性調整部を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の定在波低減装置。
【請求項7】
前記音響振動入力デバイスの出力信号から前記音響振動入力デバイス及び前記音響振動出力デバイスが設けられた空間内における定在波の周期を推定する推定手段を具備し、
前記第1の位相調整手段は、前記推定手段が推定した周期に基づいて当該第1の位相調整手段における位相の調整量を決定することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1の請求項に記載の定在波低減装置。
【請求項1】
抑圧対象の定在波の成分を含む音を収音して電気信号に変換する音響振動入力デバイスと、前記音響振動入力デバイスの出力信号における前記抑圧対象である定在波に対応した成分を選択して出力するフィードバック型コムフィルタと、前記フィードバック型コムフィルタの処理を経た電気信号を音として出力する音響振動出力デバイスとを少なくとも含む第1の閉ループを有し、
前記第1の閉ループは、前記抑圧対象の定在波が前記音響振動入力デバイスから入力されるときの位相と、前記音響振動出力デバイスから出力されるときの位相の位相差をπの奇数倍にする第1の位相調整手段を含み、
前記フィードバック型コムフィルタは、第2の閉ループをなし、前記第2の閉ループは、前記音響振動入力デバイスの出力信号を前記第2の閉ループ内に導入する加算部を有するとともに、前記音響振動入力デバイスを経由して前記加算部に入力される信号における前記抑圧対象の定在波と同じ周波数の成分の位相と前記第2の閉ループを介して前記加算部に帰還される信号における前記抑圧対象の定在波と同じ周波数の成分の位相との位相差をπの奇数倍にする第2の位相調整手段を含むことを特徴とする定在波低減装置。
【請求項2】
前記フィードバック型コムフィルタは、前記第2の位相調整手段として、前記抑圧対象の定在波の半周期の奇数倍の遅延時間を持った遅延部と、位相反転を行う係数乗算部とを前記第2の閉ループ内に含み、
前記第1の閉ループは、前記第2の位相調整手段を構成する遅延部を含まず、前記第1の閉ループにおける信号の伝送遅延の総量と前記抑圧対象の定在波の半周期の奇数倍の時間との差の遅延時間を持った遅延部を前記第1の位相調整手段として含むことを特徴とする請求項1に記載の定在波低減装置。
【請求項3】
前記フィードバック型コムフィルタは、前記第2の位相調整手段として、前記抑圧対象の定在波の半周期の奇数倍の遅延時間を持った遅延部と、位相反転を行う係数乗算部とを前記第2の閉ループ内に含み、
前記第1の閉ループは、前記第2の位相調整手段を構成する遅延部を含まず、前記第1の閉ループにおける伝送遅延の総量と前記抑圧対象の定在波の周期の整数倍の時間との差の遅延時間を持った遅延部と位相反転を行う係数乗算回路を前記第1の位相調整手段として含むことを特徴とする請求項1に記載の定在波低減装置。
【請求項4】
前記フィードバック型コムフィルタは、前記第2の位相調整手段として、前記第2の閉ループにおける信号の伝送遅延の総量と前記抑圧対象の定在波の半周期の奇数倍の時間との差の遅延時間を持った第1の遅延部と、前記抑圧対象の定在波の半周期の奇数倍の遅延時間と前記第1の遅延部の遅延時間との差の遅延時間を持った第2の遅延部と、位相反転を行う係数乗算部とを前記第2の閉ループ内に含み、
前記第1の閉ループは、前記第2の位相調整手段を構成する第1および第2の遅延部のうちの第1の遅延部を含み、この第1の遅延部が前記第1の位相調整手段として機能することを特徴とする請求項1に記載の定在波低減装置。
【請求項5】
前記フィードバック型コムフィルタは、前記第2の位相調整手段として、前記第2の閉ループにおける信号の伝送遅延の総量と前記抑圧対象の定在波の周期の整数倍の時間との差の遅延時間を持った第1の遅延部と、前記抑圧対象の定在波の半周期の奇数倍の遅延時間と前記第1の遅延部の遅延時間との差の遅延時間を持った第2の遅延部と、位相反転を行う係数乗算部とを前記第2の閉ループ内に含み、
前記第1の閉ループは、前記第2の位相調整手段を構成する第1および第2の遅延部のうちの第1の遅延部と位相反転を行う係数乗算部とを含み、この第1の遅延部と係数乗算部が前記第1の位相調整手段として機能することを特徴とする請求項1に記載の定在波低減装置。
【請求項6】
前記第2の閉ループは、周波数特性調整部を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の定在波低減装置。
【請求項7】
前記音響振動入力デバイスの出力信号から前記音響振動入力デバイス及び前記音響振動出力デバイスが設けられた空間内における定在波の周期を推定する推定手段を具備し、
前記第1の位相調整手段は、前記推定手段が推定した周期に基づいて当該第1の位相調整手段における位相の調整量を決定することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1の請求項に記載の定在波低減装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−68918(P2013−68918A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229374(P2011−229374)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】
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