説明

定着ローラおよびこの定着ローラを用いた定着器

【課題】記録媒体の搬送速度にムラが生じ難く,記録媒体に皺も生じ難い定着ローラおよび定着器を提供する。
【解決手段】金属製の中空パイプ63の外側に設けられた弾性層とを有する定着ローラであり,中空パイプ63に,中空パイプが熱膨張した際の円周方向における伸びを吸収する隙間67が中空パイプの軸線方向に設けられている。隙間67は充填材68で埋める。隙間67は中空パイプの半径方向から見て互いに嵌り合う凹凸の連続線状に設け,凹凸形状は互いに嵌り合う楔形状とする。中空パイプは,先ず,金属板の両側部を円弧状に曲げ加工し,次いで,金属板の中央部を円弧状に曲げ加工し,その後,両側部の端面同士が隙間を隔てて対向するようにパイプ状に曲げ加工して形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,電子写真技術を用いて画像を形成するプリンター、ファクシミリ、複写機等の画像形成装置に用いられる定着ローラおよびこの定着ローラを用いた定着器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に,定着器は,内部に熱源が配置される金属製(例えば鉄やアルミ製)の中空パイプと,この中空パイプの外側に設けられた弾性層とを有する加熱ローラと,この加熱ローラに圧接して回転する加圧ローラとを有している。通常,加熱ローラを定着ローラと称することも多いが,本明細書では,上記加熱ローラと加圧ローラとを総称して定着ローラという。
従来,このような定着ローラにおける中空パイプには,その軸線方向に伸びる隙間は設けられていなかった(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開昭61−137689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した従来の定着ローラは,加熱されると中空パイプが膨張してその外径が変化するため,弾性層の外径も変化する。このため,上述した従来の定着ローラを用いた定着器では,定着対象である用紙等の記録媒体の搬送速度にムラが生じて画像不良が生じるおそれがあるという問題があった。
また,通常,前記中空パイプの温度は,その軸線方向(長手方向)において不均一となるため,中空パイプの外径(したがって弾性層の外径)も軸線方向に関して不均一となり,定着ローラによる記録媒体の搬送速度も軸線方向に関して不均一となる。
このため,従来の定着ローラを用いた定着器では,用紙等の記録媒体に皺が生じることがあるという問題があった。
本発明の目的は,記録媒体の搬送速度にムラが生じ難く,また,記録媒体に皺が生じ難い定着ローラおよび定着器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために本発明の定着ローラは,金属製の中空パイプと,この中空パイプの外側に注型成形にて設けられた弾性層とを有する定着ローラであって,
前記中空パイプに,当該中空パイプが熱膨張した際のその円周方向における伸びを吸収する隙間を当該中空パイプの軸線方向に設けるとともに,前記隙間を,前記中空パイプをなす金属よりも軟らかい充填材で埋めたことを特徴とする。
このような構成によれば,定着ローラが加熱されて中空パイプが膨張しても,当該中空パイプの円周方向における伸びが,前記隙間によって吸収されることとなる。なお,隙間は充填材で埋められているが,その充填材は中空パイプをなす金属よりも軟らかいので,中空パイプの伸びは充填材によっては大きくは阻害されない。中空パイプの熱膨張による伸びは,その円周方向における伸びがほとんどであり,肉厚方向(半径方向)への伸びは円周方向における伸びに比べて微少である。
したがって,この発明の定着ローラによれば,当該定着ローラの温度が変化しても,その中空パイプの外径がほとんど変化しなくなるので,弾性層の外径の変化量も小さくなる。結果として,この発明の定着ローラを用いた定着器によれば,定着対象である用紙等の記録媒体の搬送速度にムラが生じ難くなる。
また,中空パイプの温度が,その軸線方向(長手方向)において不均一となっても,中空パイプの外径がほとんど変化しなくなる結果として,中空パイプの外径(したがって弾性層の外径)も軸線方向に関して略均一となる。したがって,定着ローラによる記録媒体の搬送速度も軸線方向に関して略均一となる。
したがって,本発明の定着ローラを用いた定着器によれば,用紙等の記録媒体に皺が生じ難くなり,また,画像不良も生じ難くなる。
【0005】
しかも,前記隙間は充填材で埋められているので,中空パイプの外側に注型成形にて弾性層を形成する際,その弾性層をなす材料が隙間を通じて中空パイプ内に漏れだしてしまうということがなくなる。したがって,弾性層を良好に成形することが可能となる。
なお,前述したように,定着ローラには,前記中空パイプ内に熱源が配置されて,自身が加熱される加熱ローラと,前記中空パイプ内に熱源は配置されないが,加熱ローラに圧接されていることにより間接的に加熱される加圧ローラとが含まれている。
【0006】
望ましくは,前記充填材は,耐熱性合成樹脂とする。
このようにすることで,中空パイプの外側に弾性層を形成する際,その弾性層をなす材料が隙間を通じて中空パイプ内に漏れ出すことを確実に防止することができる。
【0007】
また望ましくは,前記隙間は,前記中空パイプの軸線方向から見て,半径方向内方に向けて狭まるV形状とする。
このように構成すると,中空パイプの外側に弾性層を形成する際の,その弾性層をなす材料に対する充填材のシール効果が向上し,弾性層をなす材料が隙間を通じて中空パイプ内に漏れ出すことをより確実に防止することができる。
【0008】
望ましくは,前記隙間は,前記中空パイプの半径方向から見て,互いに嵌り合う凹凸の連続線状に設ける。
中空パイプに軸線方向の隙間を単に一直線状に設けると,その中空パイプは捩り力に対して弱くなる。
これに対し,前記隙間を,中空パイプの半径方向から見て,互いに嵌り合う凹凸の連続線状に設けると,中空パイプに作用する捩り力が,前記凹凸形状における中空パイプの軸線方向に関する対向部同士の当接によって受け止められる。
したがって,軸線方向に隙間が設けられているにもかかわらず,捩り力に対して強い中空パイプが得られる。
【0009】
また,望ましくは,前記中空パイプは,先ず,金属板の両側部を円弧状に曲げ加工し,次いで,その金属板の中央部を円弧状に曲げ加工し,その後,前記両側部の端面同士が前記隙間を隔てて対向するようにパイプ状に曲げ加工して形成する。
軸線方向の隙間を単に一直線状に設けた中空パイプは,押し出し成形と絞り加工とによっても作成することはできる。しかしながら,そのような加工では,外径精度の高い中空パイプを得ることは困難である。外径精度を高めるためには,さらに,研磨加工が必要となる。
これに対し,上記のような曲げ加工によれば,軸線方向の隙間を有する中空パイプを容易にかつ外径精度良く作成することができる。
しかも,前述したように,隙間を中空パイプの半径方向から見て互いに嵌り合う凹凸の連続線状に設ける場合,押し出し成形と絞り加工とによってはそのようなパイプは作成することはできないが,上記のような曲げ加工によれば,隙間を中空パイプの半径方向から見て互いに嵌り合う凹凸の連続線状とした中空パイプを容易に作成することができる。
さらに望ましくは,前記凹凸は互いに嵌り合う楔形状とする。
このように構成すると,曲げ加工により作成した中空パイプのスプリングバックを防止でき,外径精度の良い中空パイプを得ることができ,結果として,外径精度の良い定着ローラを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下,本発明に係る定着ローラおよび定着器の一実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は,本発明に係る定着ローラおよび定着器の一実施の形態を用いた画像形成装置の一例の内部構造を示す概略正面図である。
この画像形成装置は,用紙の両面にモノクロ(単色)画像またはフルカラー画像を形成することのできるカラー画像形成装置であり,ケース11と,このケース11内に収容された,像担持体ユニット20と,露光手段としての露光ユニット30と,現像手段としての現像器(現像装置)40とを備えている。また,中間転写体ユニット50と,定着手段としての定着ユニット(定着器)60とを備えている。
ケース11には装置本体10の図示しないフレームが設けられており,このフレームに各ユニット等が取り付けられている。
【0011】
像担持体ユニット20は,外周面に感光層を有する感光体21と,この感光体21の外周面を一様に帯電させる帯電手段としてのコロナ帯電器(スコロトロン帯電器)22とを有しており,このコロナ帯電器22により一様に帯電させられた感光体21の外周面を露光ユニット30からのレーザー光Lで選択的に露光して静電潜像を形成し,この静電潜像に現像器40で現像剤であるトナーを付与して可視像(トナー像)とし,このトナー像を中間転写体ユニット50の中間転写体である中間転写ベルト51に一次転写部T1で一次転写し,さらに,二次転写部(転写部)T2で,転写対象である用紙に二次転写させるようになっている。
【0012】
ケース11内には,上記二次転写部T2に用紙を供給し二次転写部T2で片面に画像が形成された用紙をケース11上面の用紙排出部(排紙トレイ)15に向けて搬送する搬送路16と,この搬送路16により用紙排出部15に向けて搬送された用紙をスイッチバックさせて他面にも画像を形成すべく前記二次転写部T2に向けて返送する返送路17とが設けられている。
70は,装置本体に対して着脱可能に構成された両面ユニットであり,この両面ユニット70が装着されることによって前記返送路17が完成される。
71は用紙返送用の駆動モータ,72はこのモータ71からタイミングベルト等の駆動機構(図示せず)を介して駆動される用紙返送用の返送ローラ対である。
【0013】
ケース11の下部には,複数枚の用紙を積層保持する給紙カセット18が設けられており,その用紙を一枚ずつ上記二次転写部T2に向けて給送する給紙ローラ19が設けられている。
上記両面ユニット70の下方には,手差し給紙部80をなすマルチパーパーストレイ81が設けられており,このマルチパーパーストレイ81にセットされた用紙を一枚ずつ給送する給紙ローラ82が装置本体に設けられている。
二次転写部T2の前段にはゲートローラ対10gが設けられている。用紙を二次転写部T2へ供給するに際し,このゲートローラ対10gに用紙の先端を当接させることで当該用紙の撓みを利用して当該用紙の先端揃え(斜行防止)を行いかつ二次転写部T2への用紙の供給タイミングを決定する構成となっている。
【0014】
現像器40はロータリ現像器(ロータリ現像装置)であり,回転体本体41に対して,イエロートナー,シアントナー,マゼンタトナー,ブラックトナーが収容された各色用の現像器カートリッジ(図示せず)が着脱可能に装着されている。回転体本体41が矢印R方向に90度ピッチで回転することによって,各現像器カートリッジが備えている現像ローラ(図示せず)を感光体21に選択的に当接させ,感光体21の表面を選択的に現像することが可能となっている。
【0015】
露光ユニット30は,上記レーザー光Lを感光体21に向けて照射する。
中間転写体ユニット50は,図示しないユニットフレームと,このフレームで回転可能に支持された駆動ローラ54と複数本の従動ローラに掛け回されて張架された中間転写体としての前記中間転写ベルト51とを備えており,中間転写ベルト51が図示矢印方向に循環駆動される。感光体21と中間転写ベルト51との当接部において前記一次転写部T1が形成されており,駆動ローラと本体側に設けられた二次転写ローラ10bとの圧接部において前記二次転写部T2が形成される。
【0016】
二次転写ローラ10bは,前記駆動ローラ54に対して(したがって中間転写ベルト51に対して)接離可能であり,接触した際に二次転写部T2が形成される。
したがって,カラー画像を形成する際には,二次転写ローラ10bが中間転写ベルト51から離間している状態で,中間転写ベルト51の1回転につき中間転写ベルト51上に1色の画像が形成され,中間転写ベルト51の複数回転により中間転写ベルト51上に複数色の画像が重畳されて中間転写ベルト51上にカラー画像が形成され,その後,二次転写ローラ10bが中間転写ベルト51に当接し,その当接部(二次転写部T2)に用紙が供給されることによって中間転写ベルト51上から用紙上にカラー画像(トナー像)が転写(二次転写)されることとなる。
トナー像が転写された用紙は,定着器60を通ることでトナー像が溶融定着され,上記排紙トレイ15に向けて排出される。
【0017】
この画像形成装置は,定着器60を通過した用紙を排紙トレイ15上に排出する排紙ローラ対91,92と,定着器60と排紙ローラ対91,92との間に設けられていて,定着器60を通過した用紙をスイッチバックさせて上述した感光体21等からなる画像形成部へ返送するスイッチバックローラ対93とを備えている。
スイッチバックローラ対93は,定着器60から排紙ローラ対91,92へと向かう排紙経路16a中に設けられており,用紙のスイッチバックは,用紙の後端がスイッチバックローラ対93のニップ部を通過する直前に上記駆動モータ71で排紙ローラ対91,92およびスイッチバックローラ対93を逆転させて用紙を返送路17へ供給することによってなされる。
返送路17へ供給された用紙は,返送ローラ対72で搬送され,二次転写部T2への用紙の供給タイミングを決定するゲートローラ対10gを経て二次転写部T2へと供給される。
【0018】
図2は定着器(定着ユニット)60を示す拡大図である。
定着器60は,定着対象である記録媒体を挟圧しつつ加熱搬送する一対の定着ローラ61,61を有している。
62は定着器のケースであり,このケース62に上記定着ローラ61が回転可能に支持されていて,図示しない駆動機構により一方のローラが回転駆動され,他方のローラが従動回転する。定着ローラ61の内部には熱源(例えばハロゲンランプ)61aが配置される。
【0019】
仮に,例えば上述したような画像形成装置において,定着ローラが加熱されて外径が変化し,それによって,定着対象である用紙等の記録媒体の搬送速度にムラが生じると,その影響が二次転写部T2に及んで画像不良を生じるおそれがある。また,前述したように定着ローラの外径が軸線方向に関して不均一になると,定着ローラによる記録媒体の搬送速度が軸線方向に関して不均一となって用紙に皺が生じることがある。
そこで,この実施の形態では,一対の定着ローラ61,61をいずれも後述する構成としてある。
【0020】
図3は中空パイプを示す部分斜視図,図4は図3におけるそれぞれのIV−IV拡大端面図である。
図2,図3に示すように,定着ローラ61は,金属製の中空パイプ63と,この中空パイプ63の外側に設けられた弾性層64とを有している。弾性層64の表面には,トナー剥離性に優れた表層65が設けられている。
図3において,66は中空パイプ63の両端(一方のみ図示)に固着された筒状軸部66aを有するフランジ部材であり,このフランジ部材66の筒状軸部66aが,ケース62に図示しない軸受け部材を介して回転可能に支持される。
【0021】
図3,図4に示すように,中空パイプ63には,中空パイプ63が熱膨張した際のその円周方向における伸びを吸収する隙間67が中空パイプ63の軸線方向に設けられており,この隙間67は,中空パイプ63をなす金属よりも軟らかい充填材68で埋められている(シールされている)。
充填材68としては,耐熱性合成樹脂(例えばエポキシ樹脂)を用いる。
【0022】
図4に示すように,隙間67は,中空パイプ63の軸線方向から見て,半径方向内方に向けて狭まるV形状としてある。
隙間67の最狭部の寸法cは,例えば,中空パイプ63がスチール製で,その肉厚tが0.5mm,外径dが32mmの場合,0.1mm程度とする。
図3に示すように,隙間67は,中空パイプ63の半径方向から見て,互いに嵌り合う凹凸の連続線状に設けてある。この凹凸形状は,矩形や波形による凹凸形状としてもよいが,この実施の形態では,前記凹凸形状は,互いに嵌り合う楔形状としてある。
【0023】
以上のような中空パイプ63は,先ず,金属板の両側部を円弧状に曲げ加工し,次いで,その金属板の中央部を円弧状に曲げ加工し,その後,前記両側部の端面同士が対向するようにパイプ状に曲げ加工して形成する。
具体的には,例えば次のようにして作成する。
【0024】
図5は金属板の部分省略平面図,図6(a)〜(d),および図7(e)〜(g)は金属板の曲げ加工の工程図である。
(i)図5および図6(a)に示すように,両端縁63aを,互いに嵌り合うこととなる凹凸の連続形状(ここでは互いに嵌り合う楔形の連続形状)に打ち抜いた金属板63bを用意する。なお,図5および図6(a)において,矢印Xで示す方向が,金属板63bを圧延加工して製造する際のその圧延方向である。
【0025】
(ii)図6(b)に示すような雄型101と雌型102とで金属板63bをプレス加工し,金属板63bの両側部63cを円弧状(望ましくは略1/4円弧)に曲げ加工する。なお,同図においては,各部材をを分かりやすくするために,金属板63bと雄型101と雌型102との間にそれぞれ間隔を開けてこれらの部材を描いてあるがこの間隔は実際には存在せず,金属板63bと雄型101と雌型102とはそれぞれの接触部において密着している。後述する図6(c)(d),図7(e)〜(g)においても同様である。
【0026】
(iii)図6(b)で得られた金属板63bの中央部を,図6(c)に示すような雄型103と雌型104とでプレス加工して円弧状(望ましくは略1/4円弧)に曲げ加工する。
(iv)図6(d)に示すように,図6(c)で得られた金属板63bの内部に芯型105を配置し,図6(d)に示すような上型106と下型107とを用いて,図7(e)から(g)に示すようにして金属板63bの両側部63cの端面(63a)同士が前記隙間67を隔てて対向するようにパイプ状に曲げ加工して中空パイプ63を得る。
【0027】
より詳しくは例えば次の通りである。
図6(d)および図7(e)〜(g)に示す芯型105の外径は,得るべき中空パイプ63の内径と等しくしてある。
上型106のプレス面106cの半径と下型107のプレス面107aの半径は,それぞれ得るべき中空パイプ63の外径(半径)と等しくしてある。
上型106は左右の割型であり,それら割型106a,106bはそれぞれ独立して昇降可能である。
【0028】
先ず,図6(d)に示す状態から,図7(e)に示すように右側の上型106aを下型107に対して相対的に下降させ(以下,同様に,型の移動は相対的移動を意味する),金属板63bの右側をプレス加工し,略半円形状に曲げ加工する。なお,下型107も上型106と同様左右の割型とし(割面107b参照),この図7(e)に示す工程の際に,右側の下型を上動させてもよい。
次いで,図7(f)に示すように,芯型106を多少(右側の端部(63a)に左側の端部(63a)を重ねることができる程度に)下降させるとともに,左側の上型106bを下降させ,金属板63bの左側をプレス加工し,略半円形状に曲げ加工する。この状態で左右の端部(63a)同士は略重なり合った状態となる。
【0029】
その後,図7(g)に示すように,芯型105および左右の上型106a,106bをともに下降させ,中空パイプ63を得る。この状態では,左右の端部(63a)同士は互いに嵌り合った状態となる。
その後,隙間67を充填材68で埋めて(例えばパテで埋めるようにして埋めて),図3に示したとおりの中空パイプ63を得る。
なお,図6(d)から図7(g)に至る工程では,左右どちらの上型を先に下降させてもよい。
【0030】
定着ローラ61は,以上のような中空パイプ63の外側に,例えば図11に示すような注型(外径型)110を用いて弾性層64を成形することで得ることができる。
図11において,111,112は上下のエンドキャップ,113は上エンドキャップ111に設けられた液体状弾性材料(例えば液体状ゴム)の注入口である。
定着ローラ61は,以上のような型内に,図示のように中空パイプ63をセットし,注入口113から液体状弾性材料を充填することで得ることができる。
この際,隙間67は充填材68で塞がれているので,液体状弾性材料が中空パイプ中空パイプ63内に漏れ出すことはない。
【0031】
以上のような定着ローラないし定着器によれば次のような作用効果が得られる。
(a)この実施の形態の定着ローラ61は,金属製の中空パイプ63と,この中空パイプ63の外側に設けられた弾性層64とを有し,中空パイプ63に,当該中空パイプ63が熱膨張した際のその円周方向における伸びを吸収する隙間67が当該中空パイプ63の軸線方向に設けられているので,定着ローラ61が加熱されて中空パイプ63が膨張しても,中空パイプ63の円周方向における伸びが,前記隙間67によって吸収されることとなる。隙間67は充填材68で埋められているが,その充填材68は中空パイプ63をなす金属よりも遙かに軟らかいので,中空パイプ63の伸びは充填材68によってはほとんど阻害されない。中空パイプ63の熱膨張による伸びは,その円周方向における伸びがほとんどであり,肉厚方向(半径方向)への伸びは円周方向における伸びに比べて微少である。特にこの実施の形態における中空パイプのように薄肉の中空パイプでは,肉厚方向(半径方向)への伸びは円周方向における伸びに比べて極めて微少である。
したがって,この定着ローラ61によれば,当該定着ローラ61の温度が変化しても,その中空パイプ63の外径dがほとんど変化しなくなるので,弾性層64の外径の変化量も小さくなる。結果として,この定着ローラ61を用いた定着器60によれば,定着対象である用紙等の記録媒体の搬送速度にムラが生じ難くなる。
また,中空パイプ63の温度が,その軸線方向(長手方向)において不均一となっても,中空パイプ63の外径dが軸線方向に関してほとんど変化しなくなる結果として,弾性層64の外径も軸線方向に関して略均一となる。したがって,定着ローラ61による記録媒体の搬送速度も軸線方向に関して略均一となる。
したがって,この定着ローラ61を用いた定着器60によれば,画像不良が生じ難くなり,用紙等の記録媒体に皺も生じ難くなる。
しかも,隙間67は充填材で埋められているので,中空パイプ63の外側に注型成形にて弾性層64を形成する際,その弾性層64をなす材料が隙間67を通じて中空パイプ63内に漏れだしてしまうということがなくなる。したがって,弾性層64を良好に成形することが可能となる。
【0032】
(b)充填材68は耐熱性合成樹脂としてあるので,中空パイプ63の外側に弾性層64を形成する際,その弾性層64をなす材料の熱で充填材68が溶融してしまうことがない。
したがって,弾性層64をなす材料が隙間67を通じて中空パイプ63内に漏れ出すことを確実に防止することができる。
【0033】
(c)隙間67は,中空パイプ63の軸線方向から見て,半径方向内方に向けて狭まるV形状としてあるので,中空パイプ63の外側に弾性層64を形成する際の,その弾性層64をなす材料に対する充填材68のシール効果が向上し,弾性層をなす材料が隙間67を通じて中空パイプ63内に漏れ出すことをより確実に防止することができる。
【0034】
(d)隙間67は,中空パイプ63の半径方向から見て,互いに嵌り合う凹凸の連続線状に設けてあるので,さらに次のような作用効果が得られる。
図8に示すように,中空パイプ63’には,軸線方向の隙間67’を単に一直線状に設けることも可能であり,このような中空パイプ63’も本願発明の一実施の形態を構成しうる。
しかしながら,軸線方向の隙間67’を単に一直線状に設けた中空パイプ63は,捩り力に対して弱くなる。このような中空パイプ63’に捩り力(トルクT)が作用すると,隙間67の対向部位同士がそれぞれ軸線方向Sに大きく移動し得るからである。
これに対し,図3に示したように,隙間67を,中空パイプ63の半径方向から見て,互いに嵌り合う凹凸(前述したように矩形や波形による凹凸形状を含む)の連続線状に設けると,中空パイプ63に作用する捩り力が,前記凹凸形状における中空パイプ63の軸線方向に関する対向部同士の当接(当接部を図3に符号63dで示す)によって受け止められる。
したがって,軸線方向に隙間67が設けられているにもかかわらず,捩り力に対して強い中空パイプ63が得られる。
【0035】
(e)中空パイプ63は,先ず,金属板63bの両側部63cを円弧状に曲げ加工し,次いで,その金属板63bの中央部を円弧状に曲げ加工し,その後,前記両側部の端面(図3の符号63e参照)同士が対向するようにパイプ状に曲げ加工して形成するので,さらに次のような作用効果が得られる。
例えば図8に示したような,軸線方向の隙間67’を単に一直線状に設けた中空パイプ63’は,押し出し成形と絞り加工とによっても作成することはできる。しかしながら,そのような加工では,外径精度の高い中空パイプを得ることは困難である。外径精度を高めるためには,さらに,研磨加工が必要となる。
これに対し,上記のような曲げ加工によれば,軸線方向の隙間67を有する中空パイプを容易にかつ外径精度良く作成することができる。例えば,肉厚0.3〜0.5mm程度の薄肉中空パイプを精度良く作成することができる。
しかも,例えば図3に示したように,隙間67を中空パイプ63の半径方向から見て互いに嵌り合う凹凸の連続線状に設ける場合,押し出し成形と絞り加工とによってはそのようなパイプは作成することはできないが,上記のような曲げ加工によれば,隙間67を中空パイプ63の半径方向から見て互いに嵌り合う凹凸の連続線状とした中空パイプ63を容易に作成することができる。
【0036】
(f)前記凹凸は互いに嵌り合う楔形状としてあるので,曲げ加工により作成した中空パイプ63のスプリングバックを防止でき,外径精度の良い中空パイプ63を得ることができ,結果として,外径精度の良い定着ローラ61を得ることができる。したがって,本願でいう楔形状は,スプリングバックを防止できる末広がり形状の意味であり,曲線からなる形状(例えばジグソーパズルにおける断片同士の嵌め合い部のような形状等)も含んでいる。
また,このような構造の中空パイプ63は,前述した押し出し成形と絞り加工とによっては作成することはできないが,上記のような曲げ加工によれば,容易に作成することができる。
【0037】
(g)中空パイプ63は,当該中空パイプ63を作成するための金属板63bの圧延方向(図5,図6(a)の矢印X方向)が当該中空パイプ63の軸線方向と直交方向となるように曲げ加工してあるので(図6参照),得られる中空パイプ63は,図9に示すように,圧延で金属板63bに生成された結晶組織(結晶繊維)の方向(圧延方向と同方向である矢印X方向)が,中空パイプ63の軸線方向と直交する方向となっている。
したがって,中空パイプ63の軸線方向と直交方向に作用する圧縮力Pに対して強いパイプが得られ,定着ローラに適したパイプを得ることができる。
【0038】
例えば図10に示すように,中空パイプ63’’は,金属板63bの圧延方向(図5,図6(a)の矢印X方向)が当該中空パイプ63’’の軸線方向と同方向となるように曲げ加工して作成することも可能であり,このような中空パイプ63’’も本願発明の一実施の形態を構成しうる。
しかしながら,このような中空パイプ63’’は,圧延で金属板63bに生成された結晶組織(結晶繊維)の方向(圧延方向と同方向である矢印X方向)が,中空パイプ63の軸線方向と同方向となるので,中空パイプ63’’の軸線方向と直交方向に作用する圧縮力Pに対しては弱いパイプとなり,定着ローラには必ずしも適してはいない。
【0039】
以上,本発明の実施の形態について説明したが,本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく,本発明の要旨の範囲内において適宜変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る定着ローラおよび定着器の一実施の形態を用いた画像形成装置の一例の内部構造を示す概略正面図。
【図2】定着器を示す拡大図。
【図3】中空パイプを示す部分斜視図。
【図4】図3におけるそれぞれのIV−IV拡大端面図。
【図5】金属板の部分省略平面図。
【図6】(a)〜(d)は金属板の曲げ加工の工程図。
【図7】(e)〜(g)は金属板の曲げ加工の工程図。
【図8】他の実施の形態の中空パイプを示す部分斜視図。
【図9】作用説明図。
【図10】作用説明図。
【図11】弾性層の成形方法の説明図。
【符号の説明】
【0041】
60:定着器,61:定着ローラ,63:中空パイプ,63b:金属板,64:弾性層,67:隙間,68:充填材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の中空パイプと,この中空パイプの外側に注型成形にて設けられた弾性層とを有する定着ローラであって,
前記中空パイプに,当該中空パイプが熱膨張した際のその円周方向における伸びを吸収する隙間を当該中空パイプの軸線方向に設けるとともに,前記隙間を,前記中空パイプをなす金属よりも軟らかい充填材で埋めたことを特徴とする定着ローラ。
【請求項2】
前記充填材を耐熱性合成樹脂としたことを特徴とする請求項1記載の定着ローラ。
【請求項3】
前記隙間を,前記中空パイプの軸線方向から見て,半径方向内方に向けて狭まるV形状としたことを特徴とする請求項1または2記載の定着ローラ。
【請求項4】
前記隙間を,前記中空パイプの半径方向から見て,互いに嵌り合う凹凸の連続線状に設けたことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の定着ローラ。
【請求項5】
前記中空パイプは,先ず,金属板の両側部を円弧状に曲げ加工し,次いで,その金属板の中央部を円弧状に曲げ加工し,その後,前記両側部の端面同士が前記隙間を隔てて対向するようにパイプ状に曲げ加工して形成することを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の定着ローラ。
【請求項6】
前記凹凸形状を,互いに嵌り合う楔形状としたことを特徴とする請求項4または5記載の定着ローラ。
【請求項7】
定着対象である記録媒体を挟圧しつつ加熱搬送する少なくとも一対のローラを有する定着器であって,前記ローラ対のうちの少なくとも一方のローラが前記請求項1〜6のうちいずれか一項に記載の定着ローラで構成されていることを特徴とする定着器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2007−25196(P2007−25196A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206573(P2005−206573)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】