説明

定着ローラ

【課題】 耐摩耗性および離型性が高く耐久性に優れたDLCを用いた定着ローラを実用化可能なものにすること。
【解決手段】 ローラ状の素管からなるローラ基体211の表面に、アモルファスカーボンを主成分とする膜厚が5〜50μmの均一なコーティング層212を形成する。これにより、ローラ基体211の表面に形成されたコーティング層212の膜厚が均一で厚いので、耐摩耗性および離型性が高く耐久性に優れた実用化可能な定着ローラ210を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の複写機やプリンタなどに用いられる定着ローラおよびその製造方法、それを用いた定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置においては、一般に、ハロゲンランプや電磁誘導加熱(IH;induction heating)方式の電磁誘導加熱装置などで所定の定着温度に加熱した定着ローラ(加熱ローラ)により用紙に転写された未定着トナーを加熱溶融して用紙にトナー像を定着させている。
【0003】
このような加熱方式の定着装置においては、溶融したトナーの粘着力により用紙が定着ローラに巻き付きやすい。
【0004】
そこで、この種の定着装置では、定着ローラの表面にフッ素コーティング層を設けるとともにシリコンオイルを塗布して、定着時におけるトナーの付着(オフセット)を抑えて用紙の剥離性を向上させるようにしている。
【0005】
しかしながら、このような定着ローラは、耐摩耗性に低く、また繰り返し塗布されるシリコンオイルにより表面のフッ素コーティング層が劣化しやすいため、耐久性が劣るという問題があった。
【0006】
また、この種の定着ローラとして、内面に黒色塗料を塗布して内部に配設した熱源からの輻射熱を効率よく吸収するようにしたものがあるが、この定着ローラでは、表面のフッ素コーティングと黒色塗料の塗布との2段階のコーティング処理を行うため製造に手間がかかるという問題があった。
【0007】
一方、この種の定着ローラとして、熱伝導支持パイプの表面に成膜した有機弾性体(シリコンゴム、弗化シリコンゴムなど)の上に、真空中グロー放電プラズマによりプラズマ重合膜を堆積させて耐久性を向上させたヒートローラが知られている(特許文献1参照)。
【0008】
また、定着ローラの内面(および表面)にプラズマCVD法(化学蒸着法)によりダイヤモンド状薄膜を形成して耐久性を向上させたものが知られている(特許文献2参照)。
【0009】
また、金属等の被処理物の表面改質方法として、被処理物に高電圧パルスを印加するための導体に高周波電力を印加し、被処理物の周囲にプラズマを発生させて被処理物へのイオン注入効率を向上させる方法が知られている(特許文献3参照)。
【0010】
さらに、基材自体の温度上昇を抑えつつ、胴や真鍮等の基材表面に、プラズマCVD法により高密着で厚くかつ均一なダイヤモンドライクカーボン(DLC:Diamond Like Carbon)膜を成膜する成膜方法が知られている(特許文献4参照)。
【0011】
DLC膜は、3配位した炭素原子と4配位した炭素原子が混在したアモルファス構造や水素を含むアモルファスカーボンなどの構造が複雑に入り混じったものと考えられている。
【0012】
その中で4配位したsp(正四面体)構造の炭素原子が主体となって比較的欠陥(ダングリングボンド)の少ないアモルファスカーボンは、熱伝導度が非常に大きく、高硬度で耐摩耗性に優れ、摩擦係数が低く離型性に優れていることから、工業的に有用なコーティング膜として様々な分野での応用が期待されている。
【特許文献1】特開昭64−84269号公報
【特許文献2】特開平3−266874号公報
【特許文献3】特開2001−26887号公報
【特許文献4】特開2004−323973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、アモルファスカーボン膜は、高密着力を得られる素材(被コーティング部材)が限定されるため、広く実用化されていないのが現状である。例えば、SK鋼は、膜の剥離処理時に素材の面粗度が損なわれる場合がある。
【0014】
また、DLC膜は、硬く摩耗性に優れている反面、膜厚が非常に薄く応力も高いため衝撃に弱く、強い衝撃が加わると膜が剥離しやすい。
【0015】
また、DLC膜は、例えば、400℃以上の高温下では大気中の酸素と結合して膜が減少してしまうという問題がある。
【0016】
また、前記従来の成膜方法では、中空円筒状の金属素管(以下、これを「ローラ基体」という)の表面にDLC膜をコーティングした定着ローラを製造するにあたり、従来のプラズマCVD法により多数のローラ基体に膜形成処理を行った場合、成膜用原料ガスの回り込み具合や各ローラ素管を収容する真空容器等との位置関係に起因して、各ローラ基体への成膜状態のばらつきが各ローラ基体内あるいは各ローラ基体間で発生するという問題がある。
【0017】
このような成膜状態のばらつきの発生は、多数の定着ローラを同時に製造する場合に、各ローラ基体の表面に形成されたDLC膜の膜厚ムラを起こす原因となる。
【0018】
このような膜厚ムラが発生した定着ローラは、発熱温度ムラや、加圧のムラによる定着不良を起こすおそれがある。
【0019】
このようなことから、従来の成膜方法によりローラ基体の表面にDLC膜をコーティングした定着ローラでは、画像形成装置における定着装置のヒートローラとして実用化することが難しいという問題があった。
【0020】
本発明は、係る問題点に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性および離型性が高く耐久性に優れた実用化可能な定着ローラおよびその製造方法、それを用いた定着装置および画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
かかる課題を解決するため、本発明の定着ローラは、ローラ状の素管からなるローラ基体の表面に、アモルファスカーボンを主成分とする膜厚が5〜50μmの均一なコーティング層を形成した構成を採る。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ローラ基体の表面に形成されたコーティング層の膜厚が均一で厚いので、耐摩耗性および離型性が高く耐久性に優れた実用化可能な定着ローラを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の第1の態様に係る定着ローラは、ローラ状の素管からなるローラ基体の表面に、アモルファスカーボンを主成分とする膜厚が5〜50μmの均一なコーティング層を形成した構成を採る。
【0024】
この構成によれば、ローラ基体の表面に膜厚が厚く均一なコーティング層(アモルファスカーボン層)を形成したので、ローラ基体の表面の耐摩耗性および離型性が向上し、耐久性の高い実用化可能な定着ローラを得ることができる。
【0025】
本発明の第2の態様に係る定着ローラは、第1の態様において、前記ローラ基体は、中空円筒状の金属素管からなり、前記金属素管の内面にも前記コーティング層を形成した構成を採る。
【0026】
この構成によれば、第1の態様の効果に加え、中空円筒状の金属素管の表面(外周面)および内面にコーティング層を形成したので、金属素管の内部に熱源を配設した定着ローラにおいては、内面のコーティング層により熱吸収性が著しく向上し、加熱に要する時間(立ち上がり時間)を短縮できるとともにエネルギー消費も抑えることができる。
【0027】
本発明の第3の態様に係る定着ローラは、第1または第2の態様において、前記ローラ基体と前記コーティング層との間に、前記ローラ基体の熱膨張により前記コーティング層に加わる応力を吸収するためのチタンおよびシリコンを含有するバッファー層を形成した構成を採る。
【0028】
この構成によれば、第1または第2の態様の効果に加え、ローラ基体とコーティング層との間にチタンおよびシリコンを含有するバッファー層を形成したので、ローラ基体の熱膨張によりコーティング層に加わる応力をバッファー層で吸収してコーティング層の耐剥離性を向上させることができる。
【0029】
本発明の第4の態様に係る定着ローラの製造方法は、複数のローラ基体を収容する接地状態の真空容器内にCVDガスを充満させ、前記複数のローラ基体に同時にパルス高周波電圧とパルスバイアス電圧を重畳して前記複数のローラ基体の周囲にプラズマを発生させるとともに前記プラズマ中のイオンを前記複数のローラ基体に引き付けて前記複数のローラ基体の表面にアモルファスカーボンを主成分とするコーティング層を形成する定着ローラの製造方法であって、前記複数のローラ基体に前記コーティング層を形成する際、前記複数のローラ基体のそれぞれを内部に収納するように前記真空容器内に配置された中空円筒体からなる複数の接地部材を接地状態とし、前記複数のローラ基体の数が多くなるに従って前記複数のローラ基体に流入する前記パルスバイアス電圧の平均電流が大きくなるように前記パルスバイアス電圧を制御する。
【0030】
この方法によれば、複数のローラ基体を成膜する場合であっても、各ローラ基体へ流入するパルスバイアス電圧の実効値を適切にできるので、各ローラ基体の成膜状態のばらつきを減少させることができ、複数のローラ基体のそれぞれの表面に膜厚が均一で厚いコーティング層を形成することができる。
【0031】
本発明の第5の態様に係る定着ローラの製造方法は、第4の態様において、前記複数のローラ基体は中空円筒体からなり、前記複数のローラ基体に前記コーティング層を形成する際、前記複数のローラ基体のそれぞれの内部に挿入されるように前記真空容器内に配置された複数の第2の接地部材を接地状態とした。
【0032】
この方法によれば、第4の態様の効果に加え、複数のローラ基体のそれぞれの外面および内面に、1回のコーティング処理により、膜厚が均一で厚いコーティング層を同時に形成することができる。
【0033】
本発明の第6の態様に係る定着ローラの製造方法は、第4または第5の態様において、前記複数のローラ基体のそれぞれの表面に、炭化水素系ガスのプラズマCVDにより前記コーティング層を形成する。
【0034】
この方法によれば、第4または第5の態様の効果に加え、複数のローラ基体のそれぞれの表面に炭化水素系ガスのプラズマCVDによりコーティング層を形成するので、複数のローラ基体に対して最適な条件下でコーティング層を形成することが可能となる。
【0035】
本発明の第7の態様に係る定着ローラの製造方法は、第6の態様において、前記ローラ基体と前記コーティング層との間に、チタン含有ガスおよびシリコン含有ガスのプラズマCVDによりバッファー層を形成する。
【0036】
この方法によれば、第6の態様の効果に加え、チタン含有ガスおよびシリコン含有ガスのプラズマCVDによりローラ基体とコーティング層との間に形成したバッファー層により、ローラ基体の加熱時の熱膨張によりコーティング層に加わる応力を吸収することができるので、コーティング層の耐剥離性を向上させることができる。
【0037】
本発明の第8の態様に係る定着ローラの製造方法は、第4または第5の態様において、前記複数のローラ基体のそれぞれの表面に、炭化水素系ガスのプラズマイオン注入方式により前記コーティング層を形成する。
【0038】
この方法によれば、第4または第5の態様の効果に加え、複数のローラ基体のそれぞれの表面に炭化水素系ガスのプラズマイオン注入方式によりコーティング層を形成するので、複数のローラ基体に対して最適な条件下でコーティング層を形成することが可能となる。
【0039】
本発明の第9の態様に係る定着ローラの製造方法は、第8の態様において、前記ローラ基体と前記コーティング層との間に、チタン含有ガスおよびシリコン含有ガスのプラズマイオン注入方式によりバッファー層を形成する。
【0040】
この方法によれば、第8の態様の効果に加え、チタン含有ガスおよびシリコン含有ガスのプラズマイオン注入方式によりローラ基体とコーティング層との間に形成したバッファー層により、ローラ基体の加熱時の熱膨張によりコーティング層に加わる応力を吸収することができるので、コーティング層の耐剥離性を向上させることができる。
【0041】
本発明の第10の態様に係る定着装置は、所定の定着温度に加熱した定着ローラにより未定着トナーを加熱溶融して用紙にトナー像を定着させる定着装置であって、前記定着ローラとして、第1から第3のいずれかの態様に係る定着ローラを用いた構成を採る。
【0042】
この構成によれば、定着ローラとして、第1から第3のいずれかの態様に係る定着ローラを用いるので、耐久性に優れた長期使用可能な定着装置を得ることができる。
【0043】
本発明の第11の態様に係る定着装置は、第10の態様において、前記定着ローラを加熱するための熱源として、電磁誘導加熱方式の電磁誘導加熱装置を用いる構成を採る。
【0044】
この構成によれば、第10の態様の効果に加え、定着ローラを加熱するための熱源として電磁誘導加熱方式の電磁誘導加熱装置を用いるので、定着ローラが立ち上がるまでの加熱時間をより短縮でき、エネルギー消費をさらに抑制することができる。
【0045】
本発明の第12の態様に係る画像形成装置は、用紙に未定着トナー像を形成する画像形成手段と、前記画像形成手段により前記用紙に形成された前記未定着トナー像を前記用紙に定着させる定着手段と、を備えた画像形成装置であって、前記定着手段として、第10の態様に係る定着装置を用いた構成を採る。
【0046】
この構成によれば、定着手段として、第10の態様に係る定着装置を用いるので、用紙へのトナー像の定着性が長期に亘り安定した画像形成装置を得ることができる。
【0047】
本発明の第13の態様に係る画像形成装置は、第12の態様において、前記画像形成手段により前記未定着トナー像を形成するためのトナーとして、低温定着トナーである重合トナーを用いる構成を採る。
【0048】
この構成によれば、第12の態様の効果に加え、未定着トナー像を形成するためのトナーとして低温定着トナーである重合トナーを用いるので、用紙へのトナーの転写効率が高くなってトナー消費を抑制できるとともに、定着温度を低く設定してエネルギー消費を抑えることができる。
【0049】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一の構成または機能を有する構成要素及び相当部分には、同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0050】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る定着ローラを備えた定着装置を搭載するのに適した画像形成装置の全体構成を示す概略構成図である。
【0051】
図1に示すように、画像形成装置100は、装置本体101の内部にOHPシートや印字用紙などの用紙Pに未定着トナー像を形成(印刷)する画像形成手段としての画像形成ユニット110が配設されている。
【0052】
画像形成ユニット110は、感光体ドラム111、レーザー光学ユニット112、帯電器113、現像ユニット114、転写ローラ115、クリーニングユニット116などで構成されている。
【0053】
現像ユニット114は、マグネットロール114aを備えた磁気ブラシ接触型の2成分現像方式の現像装置で構成されている。
【0054】
装置本体101の下部には、画像形成ユニット110に向けて用紙Pを給紙する給紙ユニット120が配設されている。給紙ユニット120は、積層された用紙Pを収納する給紙カセット121、給紙カセット121から用紙Pを給紙する給紙ローラ122、給紙ローラ122により給紙された用紙Pを一枚ずつ分離する分離ローラ123などで構成されている。
【0055】
一方、装置本体101の上部には、装置本体101の上面のコンタクトガラス102上に原稿を自動給紙するための、装置本体101に対して開閉自在に構成された原稿自動給紙装置(ADF:Automatic Document Feeder)130が配設されている。
【0056】
原稿自動給紙装置130の下部には、コンタクトガラス102上にセットされた原稿の画像情報を読み取るためのフラットベットスキャナ140が配設されている。
【0057】
ここで、原稿自動給紙装置130により原稿を自動給紙して原稿の画像情報を読み取る場合には、閉鎖した状態の原稿自動給紙装置130の原稿載置トレイ131上に原稿をセットする。
【0058】
また、原稿自動給紙装置130により自動給紙できない原稿の画像情報を読み取る場合には、原稿自動給紙装置130を開放してコンタクトガラス102上に直接原稿をセットする。
【0059】
原稿のセット後、装置本体101の上部に設けられた図示しない操作部のスタートボタンを押すと、コンタクトガラス102上に自動給紙または直接セットされた原稿の画像情報がフラットベットスキャナ140により読み取られる。
【0060】
フラットベットスキャナ140が読み取った原稿の画像情報は、図示しない制御部のメモリに一旦蓄積される。なお、ここで、フラットベットスキャナ140が読み取った原稿の画像情報は、制御部のメモリに蓄積せずに、レーザー光学ユニット112により感光体ドラム111に直接露光するようにしてもよい。
【0061】
そして、フラットベットスキャナ140が読み取った原稿の画像情報を給紙ユニット120により給紙される用紙Pに印刷する場合には、周知の電子写真方式による画像形成プロセスが感光体ドラム111の周囲で実行される。
【0062】
図1において、画像形成プロセスが開始されると、まず、感光体ドラム111の表面が、帯電器113によって、約−700V程度に帯電される。その後、感光体ドラム111の表面には、レーザー光学ユニット112によってレーザー光が照射され、フラットベットスキャナ140が読み取った画像情報に応じた静電潜像が形成される。
【0063】
感光体ドラム111は、レーザー光学ユニット112で静電潜像を書き込まれた際に、その画像露光部の表面電位が、−100V以下程度にまで除電される。
【0064】
一方、現像ユニット114のマグネットロール114a上に存在するトナーの帯電量は、概ね−20〜−30μC/g程度である。この現像ユニット114においては、AC+DCの現像電圧を印加して現像が実施されるが、この現像電圧は、ACが4kHz、1.6kVppで、DCが−250V程度である。また、現像電圧としてDC成分のみを用いる場合もある。
【0065】
これにより、−100V以下程度にまで除電された感光体ドラム111上には、その画像露光部にトナーが付着することでトナー像が形成される。
【0066】
この間に、給紙ユニット120の給紙カセット121に収納された用紙Pが、給紙ローラ122により給紙されてレジストローラ117に送り込まれる。
【0067】
その後、感光体ドラム111上に形成されたトナー像は、レジストローラ117により所定のタイミングで再給紙され、転写ローラ115によって約+500V程度に帯電した用紙P上に転写される。
【0068】
このようにして用紙Pに転写された未定着トナー像は、定着装置200の定着ローラ210により熱を加えられることによって一旦溶融した後、定着ローラ210に圧接する加圧ローラ220により用紙Pに押し付けられる。これにより、用紙P上にトナー像が定着(固着)される。
【0069】
このようにしてトナー像が定着された用紙Pは、排紙ローラ118により、装置本体101の胴部に設けられた胴内排紙トレイ119上に排紙される。
【0070】
次に、画像形成装置100に搭載されている定着装置200の構成について説明する。図2は、本発明の実施の形態1に係る定着ローラを用いた定着装置の構成を示す概略断面図である。
【0071】
図2に示すように、定着装置200は、定着ローラ210および加圧ローラ220と、排紙ローラ118とをユニット化した構成を有している。
【0072】
定着ローラ210および加圧ローラ220は、ユニット筐体201にそれぞれ回転自在に軸支されている。加圧ローラ220は、図示しないバネなどの加圧手段により定着ローラ210に圧接している。
【0073】
定着ローラ210の外周面には、分離爪230が当接している。分離爪230は、用紙Pに転写された未定着トナー像の定着時における定着ローラ210への用紙Pの巻き付きを阻止して、用紙Pを排紙ローラ118に向けてガイドするは働きをする。
【0074】
定着ローラ210は、図示しないハロゲンランプやIH方式の電磁誘導加熱装置などからなる加熱手段(熱源)によって加熱されるように構成されている。
【0075】
定着ローラ210の近傍には、熱源による定着ローラ210の加熱温度を検知するための温度センサ250が配設されている。
【0076】
定着ローラ210の加熱温度は、温度センサ250の検知温度に基づいて、図示しない温度制御手段により所定の定着温度になるように制御されている。
【0077】
また、本定着装置には、定着ローラ210の外周面に付着したトナーやチリなどを除去するためのクリーニング装置を設置する場合もある。
【0078】
次に、定着装置200に用いられる本例の定着ローラ210について説明する。図3(a)は、本発明の実施の形態1に係る定着ローラの部分破断概略正面図である。図3(b)は、本発明の実施の形態1に係る定着ローラの概略側面図である。図3(c)は、図3(a)に示すA部の拡大断面図である。
【0079】
図3(a),(b),(c)に示すように、本例の定着ローラ210は、ローラ状の素管からなるローラ基体211の表面に、アモルファスカーボンを主成分とする膜厚が5〜50μmの均一なコーティング層212を形成した構成を有している。
【0080】
ここで、ローラ基体211の表面とは、少なくとも未定着トナー像が転写された用紙Pに対して定着ローラ210が接触する面、つまり定着ローラ210の定着可能領域面をいう。
【0081】
本例の定着ローラ210の表面に形成されるコーティング層212は、アモルファスカーボンを主成分とし、膜厚が5〜50μmと厚く、また均一な膜厚を有している。
【0082】
このように、本例の定着ローラ210は、ローラ基体211の表面に、厚く均一な膜厚のコーティング層(アモルファスカーボン層)212が形成されているので、ローラ基体211の表面の耐摩耗性および離型性を向上させることができ、耐久性が高く実用化可能なものとなる。
【0083】
また、本例の定着ローラ210は、図3(c)に示すように、ローラ基体211の表面(外周面)の他、ローラ基体211の内面にもコーティング層212を形成した構成を有している。また、図7(c)に示すように、コーティング層212のローラ基体境界部は、耐剥離性を向上させるためにバッファー層701を含むものであってもよい。
【0084】
この定着ローラ210は、ローラ基体211の内部に熱源を配設した場合に、内面のコーティング層212によりローラ基体211の内面の熱源からの輻射熱の吸収効率が向上し、加熱に要する時間(立ち上がり時間)を短縮できるとともにエネルギー消費も抑えることができる。
【0085】
次に、図4および図5を参照して、本例の定着ローラ210の製造方法について説明する。図4は、本発明の実施の形態1に係る定着ローラのローラ基体の表面にCVD膜を成膜するCVD成膜装置の構成を示す概略構成図である。図5は、本発明の実施の形態1に係る定着ローラの製造行程を示すフローチャートである。
【0086】
図4に示すように、CVD成膜装置400は、真空チャンバー401、基体ホルダー402、パルス高周波電源403、パルス高圧電源404、重畳装置405、フィードスルー406、ゲートバルブ407、真空ポンプ408、ガス導入管409、流量計410などで構成される。
【0087】
図5に示すように、定着ローラ210の製造にあたって、まず、ローラ基体211の基体加工が行われる(ステップST501)。
【0088】
ステップST501の基体加工においては、加熱定着時における用紙Pの皺の発生を防止するために、定着ローラ210の外径形状を鼓形状に形成するためのローラ基体211に対する切削加工が行われる。具体的には、ローラ基体211の外周面が、端部と中央部とで50〜200μm程度の外径差を有する鼓形状となるように切削加工される。
【0089】
次いで、ローラ基体211の表面に付着している異物を除去するために、ローラ基体211の基体洗浄が行われる(ステップST502)。
【0090】
一方、図4および図5に示すように、真空チャンバー401を開き(ステップST503)、洗浄を終えたローラ基体211を基体ホルダー402に保持して真空チャンバー401内に収容(基体装着)する(ステップST504)。
【0091】
その後、真空チャンバー401を閉じ(ステップST505)、ゲートバルブ407を開いて真空ポンプ408により排気し、真空チャンバー401内を高真空状態とする(ステップST506)。
【0092】
次いで、ガス導入管409を通して、流量計410で監視しながら所定量の水素ガス、あるいはアルゴンガスを真空チャンバー401内に導入する(ステップST507)。
【0093】
そして、パルス高周波電源403からパルス高周波電圧と、パルス高圧電源404から−1〜20kVのパルスバイアス電圧とを、重畳装置405により重畳してローラ基体211に印加し、ローラ基体211の表面をクリーニング処理する(ステップST508)。このクリーニング処理を行うことで、ローラ基体211の表面に付着した異物等を除去することができ、ローラ基体211の表面と、後述する成膜処理により形成されるコーティング層212との密着性をより一層向上させることができる。
【0094】
次いで、ゲートバルブ407を開いて、ステップST508のクリーニング処理で用いたガスを真空ポンプ408により排気する(ステップST509)。
【0095】
その後、ガス導入管409を通して、CVDガスとして所定量の炭化水素系ガスを真空チャンバー401内に導入する(ステップST510)。
【0096】
そして、真空チャンバー401の内部に炭化水素系ガスが充満した状態で、パルス高周波電源403のパルス高周波電圧と、パルス高圧電源404の負のパルスバイアス電圧とを重畳装置405により重畳した電圧を、ローラ基体211に印加して成膜処理を行う(ステップST511)。
【0097】
本成膜処理においては、まず、ローラ基体211にパルス高周波電圧を印加して、真空チャンバー401内の炭化水素系ガスをプラズマ化する。図6は、本CVD成膜装置400におけるプラズマ発生領域601を示している。
【0098】
これにより、図6に示すように、基体ホルダー402に保持されたローラ基体211の表面を囲むように発生したプラズマ中の電子と炭化水素系ガスとが衝突し炭化水素系ガスが分解されてイオンが生成される。
【0099】
この状態で、ローラ基体211に−1〜20kVのパルスバイアス電圧を印加する。これにより、パルス高周波電圧の印加によって生成されたイオンがローラ基体211に引き付けられる。
【0100】
この結果、ローラ基体211の表面に、膜厚が5〜50μmと厚く、均一な膜厚のアモルファスカーボンを主成分としたコーティング層212が形成される。
【0101】
その後、真空チャンバー401内のガスをリーク(放出)し(ステップST512)、真空チャンバー401を開いて(ステップST513)、ローラ基体211を真空チャンバー401から取り出す(ステップST514)。
【0102】
このようにして表面に膜厚が厚く均一なコーティング層212が形成されたローラ基体211は、図2に示した定着装置200の定着ローラ210として組み立てられる(ステップST515)。
【0103】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係る定着ローラについて説明する。図7(a)は、本発明の実施の形態2に係る定着ローラの部分破断概略正面図である。図7(b)は、本発明の実施の形態2に係る定着ローラの概略側面図である。図7(c)は、図7(a)に示すB部の拡大断面図である。
【0104】
図7(a),(b),(c)に示すように、本例の定着ローラ710は、実施の形態1に係る定着ローラ210のローラ基体211とコーティング層212との間に、チタンおよびシリコンを含有するバッファー層701を形成した構成を有している。
【0105】
本例の定着ローラ710の表面に形成されるコーティング層212は、実施の形態1に係る定着ローラ210のコーティング層212と同様、アモルファスカーボンを主成分とし、膜厚が5〜50μmと厚く、また均一な膜厚を有している。
【0106】
また、本例の定着ローラ710のローラ基体211とコーティング層212との間に形成されるバッファー層701は、コーティング層212よりも薄い、チタンおよびシリコンを含有する均一な薄膜で形成されている。
【0107】
このように、本例の定着ローラ710は、ローラ基体211とコーティング層212との間に薄膜からなるバッファー層701が形成されているので、加熱時におけるローラ基体211の熱膨張でコーティング層212に加わる応力をバッファー層701により吸収することができ、コーティング層212の耐剥離性を向上させることができる。
【0108】
なお、本例の定着ローラ710では、図7(c)に示すように、ローラ基体211の外面および内面にコーティング層212およびバッファー層701を形成した構成としているが、コーティング層212およびバッファー層701は、少なくともローラ基体211の外面に形成されていればよい。
【0109】
ただし、ローラ基体211の外面および内面にコーティング層212およびバッファー層701を形成することで、ローラ基体211の内面の熱源からの輻射熱の吸収効率を向上させることができるとともに、内面のコーティング層212の熱応力による剥離を抑えることができる。
【0110】
次に、図4および図8を参照して、本例の定着ローラ710の製造方法について説明する。図8は、本発明の実施の形態2に係る定着ローラの製造行程を示すフローチャートである。
【0111】
本例の定着ローラ710は、実施の形態1に係る定着ローラ210と同様、図4に示したCVD成膜装置400を用いて製造することができる。
【0112】
本例の定着ローラ710は、図8に示すように、その製造にあたり実施の形態1に係る定着ローラ210と同様のローラ基体211の基体加工が行われる(ステップST801)。
【0113】
次いで、ローラ基体211の表面に付着している異物を除去するために、ローラ基体211の基体洗浄が行われる(ステップST802)。
【0114】
一方、図4および図8に示すように、真空チャンバー401を開き(ステップST803)、洗浄を終えたローラ基体211を基体ホルダー402に保持して真空チャンバー401内に収容(基体装着)する(ステップST804)。
【0115】
その後、真空チャンバー401を閉じ(ステップST805)、ゲートバルブ407を開いて真空ポンプ408により排気し、真空チャンバー401内を高真空状態とする(ステップST806)。
【0116】
次いで、ガス導入管409を通して、流量計410で監視しながら所定量の水素ガス、あるいはアルゴンガスを真空チャンバー401内に導入する(ステップST807)。
【0117】
そして、パルス高周波電源403からパルス高周波電圧と、パルス高圧電源404から−1〜20kVのパルスバイアス電圧とを、重畳装置405により重畳してローラ基体211に印加し、ローラ基体211の表面をクリーニング処理する(ステップST808)。
【0118】
ローラ基体211のクリーニング処理後、ゲートバルブ407を開いて、ステップST808のクリーニング処理で用いたガスを真空ポンプ408により排気する(ステップST809)。
【0119】
次いで、ガス導入管409を通して、シリコン(Si)含有ガス、チタン(Ti)含有ガスなどの所定量のバッファー層形成ガスを真空チャンバー401内に導入する(ステップST810)。
【0120】
そして、真空チャンバー401の内部にバッファー層形成ガスが充満した状態で、パルス高周波電源403のパルス高周波電圧と、パルス高圧電源404の負のパルスバイアス電圧とを重畳装置405により重畳した電圧を、ローラ基体211に印加してバッファー層701の成膜処理を行う(ステップST811)。
【0121】
バッファー層701の成膜処理においては、まず、ローラ基体211にパルス高周波電圧を印加して、真空チャンバー401内のバッファー層形成ガスをプラズマ化する。
【0122】
これにより、実施の形態1に係る定着ローラ210の製造時と同様、基体ホルダー402に保持されたローラ基体211の表面を囲むようにプラズマが発生し、プラズマ中の電子とバッファー層形成ガスとが衝突しバッファー層形成ガスが分解されてイオンが生成される。
【0123】
この状態で、ローラ基体211に−1〜20kVのパルスバイアス電圧を印加する。これにより、パルス高周波電圧の印加によって生成されたイオンがローラ基体211に引き付けられる。
【0124】
この結果、ローラ基体211の表面に、チタンおよびシリコンを含有する均一な薄膜からなるバッファー層701が形成される。
【0125】
その後、ゲートバルブ407を開いて、バッファー層701の成膜処理で用いたガスを真空ポンプ408により排気する(ステップST812)。
【0126】
次いで、ガス導入管409を通して、CVDガスとして所定量の炭化水素系ガスを真空チャンバー401内に導入する(ステップST813)。
【0127】
そして、真空チャンバー401の内部に炭化水素系ガスが充満した状態で、パルス高周波電源403のパルス高周波電圧と、パルス高圧電源404の負のパルスバイアス電圧とを重畳装置405により重畳した電圧を、ローラ基体211に印加してコーティング層212の成膜処理を行う(ステップST814)。
【0128】
なお、ステップST814の成膜処理は、実施の形態1に係る定着ローラ210のローラ基体211へのコーティング層212の成膜処理と同じであるので、ここでの説明は省略する。
【0129】
ただし、本例の定着ローラ710の製造時におけるコーティング層212の成膜処理においては、プラズマイオン注入方式によりコーティング層212を形成するようにしてもよい。
【0130】
プラズマイオン注入方式によりコーティング層212を形成する場合には、ローラ基体211に実効値の高い負のパルスバイアス電圧を印加する。これにより、パルス高周波電圧の印加によって生成されたイオンは、ローラ基体211に引き付けられるとともに、その一部がローラ基体211の表面に形成されたバッファー層701に注入される。
【0131】
すなわち、プラズマイオン注入方式では、バッファー層701に炭素が注入され、バッファー層701に単にコーティング層212が付着するのでなく、バッファー層701にミキシング層(遷移層)を伴ってコーティング層212が形成される。これにより、ローラ基体211の表面に、より密着性に優れた膜厚5〜50μmの、イオン注入層を伴うアモルファスカーボンを主成分とするコーティング層212が形成される。
【0132】
次いで、コーティング層212の成膜処理後、真空チャンバー401内のガスをリークし(ステップST815)、真空チャンバー401を開いて(ステップST816)、ローラ基体211を真空チャンバー401から取り出す(ステップST817)。
【0133】
このようにしてバッファー層701およびコーティング層212が形成されたローラ基体211は、図2に示した定着装置200の定着ローラ210として組み立てられる(ステップST818)。
【0134】
図9に、ローラ基体表面にアモルファスカーボンを主成分とするコーティング層(DLCコート)を形成した本発明に係る定着ローラと、ローラ基体表面にフッ素コートを施した従来の定着ローラとの特性の比較結果を示す。
【0135】
図9(a)は、本発明に係る定着ローラと従来の定着ローラとのすべり性(摩擦係数変化)の比較結果を示す比較表である。図9(a)の比較結果から明らかなように、プリント枚数が300Kに達したころから、従来のフッ素コートを施した定着ローラは、すべり性が悪化したが、本発明に係る定着ローラは良好であった。
【0136】
図9(b)は、本発明に係る定着ローラと従来の定着ローラとの耐傷性(傷の状態)の比較結果を示す比較表である。図9(b)の比較結果から明らかなように、従来のフッ素コートを施した定着ローラは、プリント枚数が100Kに達したころから耐傷性が悪化し、プリント枚数が300Kに達したころでは耐傷性が最悪の状態となった。これに対し、本発明に係る定着ローラは良好であった。
【0137】
図9(c)は、本発明に係る定着ローラと従来の定着ローラとの耐摩耗性(膜厚変化)の比較結果を示す比較表である。図9(c)の比較結果から明らかなように、プリント枚数が300Kに達した時点で、従来のフッ素コートを施した定着ローラは、耐摩耗性が悪化したが、本発明に係る定着ローラは、耐摩耗性に変化が見られなかった。
【0138】
図9(d)は、本発明に係る定着ローラと従来の定着ローラとの定着性(耐オフセット)の比較結果を示す比較表である。図9(d)の比較結果から明らかなように、プリント枚数が300Kに達したころから、従来のフッ素コートを施した定着ローラは、オフセットが生じるようになったが、本発明に係る定着ローラは、オフセットが生じなかった。
【0139】
ところで、本実施の形態に係る定着ローラ210,710の製造に際しては、実際にはCVD成膜装置400の真空チャンバー401内に、一度に複数個のローラ基体211を収容し、各ローラ基体211に対して同時にパルスバイアス電圧とパルス高周波電圧とを重畳したパルス電圧を印加して、複数のローラ基体211に対してコーティング層212を同時に成膜するようにしている。
【0140】
しかしながら、この製造方法においては、ローラ基体211の数が多くなるに従って、ローラ基体211の表面に形成されるコーティング層212に膜厚むらが生じて成膜の品質が低下するおそれがある。つまり、近接するローラ基体間の電界の影響を受け、均一な膜ができなくなる場合がある。そこで、図10に示すような接地電極を設け膜厚ムラの防止を行なった。図10において、中空円筒体からなる接地部材1001は、内部にローラ基体211を収容し、図4で示す、真空チャンバー401に接地するものである。また、第2の接地部材1002は、中空円筒体からなる接地部材1001と同様、真空チャンバー401の接地されるもので、ローラ基体211の内側に設けるものである。これにより、ローラ基体211の周辺の電界強度が均一化され、プラズマ状態が安定し、均一な膜が得られるものである。
【0141】
さらに、本発明者らの研究結果、ローラ基体211の数が多くなるに従い、出力パルス電圧の上昇がゆるくなり、つまりローラ基体一本あたりに流入するパルスバイアス電圧の実効値が下がり、ローラ基体211に十分なパルスバイアス電圧がかからなくなることによってコーティング層212に十分な膜厚が得られないことがわかった。
【0142】
そこで、複数のローラ基体211に対してコーティング層212を同時に成膜する場合には、ローラ基体211の本数に応じて、ローラ基体211に印加するパルスバイアス電圧を変化させる、つまりローラ基体211の本数の増加に応じて、パルス高圧電圧電源404が出力するパルスバイアス電圧の絶対値を大きくするように制御するようにした。
【0143】
この結果、複数ローラ基体211の表面に均一な膜厚のコーティング層212を同時に形成することが可能となった。
【0144】
なお、ここで、基体ホルダー402にローラ基体211の装着の有無を検知するセンサを配置して、同時に成膜するローラ基体211の本数を自動的に検知し、検知したローラ基体211の本数に応じて、ローラ基体211に流入するパルスバイアス電圧の実効値を調整する変圧器を設けるようにしてもよい。
【0145】
このように、複数のローラ基体211の表面にコーティング層212を同時に形成して製造した定着ローラ210(および710)を用いて、1000枚プリントした後のローラ基体211とコーティング層212との密着性を評価した結果、同時に成膜したローラ基体211の本数にかかわらず、いずれの定着ローラもローラ基体211とコーティング層212との密着性が良好に保たれていることが分かった。
【0146】
なお、ここでは、パルス高圧電源404が出力するパルスバイアス電圧のパルス幅を一定にし、ローラ基体211の本数に応じてパルスバイアス電圧の絶対値の大きさを制御するようにしたが、パルスバイアス電圧の絶対値の大きさを一定にし、パルス幅を制御して、各ローラ基体211へ流入するパルスバイアス電圧の実効値を制御するようにしてもよい。これは、ローラ基体211の本数が多くてもパルスバイアス電圧のパルス幅を大きくすることにより、ローラ基体211に十分な実効値のパルスバイアス電圧が印加されることに着目したものである。
【0147】
また、ローラ基体211の本数が多くなるに従って、パルス高圧電源404のパルスバイアス電圧の繰り返し周波数を大きくしても、各ローラ基体211へ流入するパルスバイアス電圧の実効値を適切にでき、ローラ基体211の成膜の品質を適切に保つことができる。
【0148】
また、ローラ基体211としては、アルミニウムなどの中空円筒状の金属素管で構成することが、加工の容易性、定着ローラ210の軽量化、および低コスト化などの面で好ましい。
【0149】
また、本実施の形態に係る定着ローラ210,710は、表面にアモルファスカーボンを主成分とするコーティング層212が形成されているので、定着ローラ表面の表面自由エネルギーが低下しトナーに対する離型性に優れている。
【0150】
従って、これらの定着ローラ210,710を用いた定着装置200を搭載する画像形成装置100においては、画像形成ユニット110により未定着トナー像を形成するためのトナーとして、例えば、乳化重合法により形成した低温定着トナーである重合トナーを用いることも可能になる。
【0151】
未定着トナー像を形成するためのトナーとして低温定着トナーである重合トナーを用いることにより、用紙Pへのトナーの転写効率が高くなってトナー消費を抑制できるとともに、定着温度を低く設定してエネルギー消費を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明に係る定着ローラは、ローラ基体の表面に形成されたコーティング層の膜厚が均一で厚く、耐摩耗性および離型性が高く耐久性に優れた実用化可能なものであるので、電子写真方式の複写機やプリンタなどに用いられる定着ローラとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】本発明の実施の形態1に係る定着ローラを備えた定着装置を搭載するのに適した画像形成装置の全体構成を示す概略構成図
【図2】本発明の実施の形態1に係る定着ローラを用いた定着装置の構成を示す概略断面図
【図3】(a)は、本発明の実施の形態1に係る定着ローラの部分破断概略正面図、(b)は、本発明の実施の形態1に係る定着ローラの概略側面図、(c)は、(a)に示すA部の拡大断面図
【図4】本発明の実施の形態1に係る定着ローラのローラ基体の表面にCVD膜を成膜するCVD成膜装置の構成を示す概略構成図
【図5】本発明の実施の形態1に係る定着ローラの製造行程を示すフローチャート
【図6】図4に示すCVD成膜装置におけるプラズマ発生領域を示す概略図
【図7】(a)は、本発明の実施の形態2に係る定着ローラの部分破断概略正面図、(b)は、本発明の実施の形態2に係る定着ローラの概略側面図、(c)は、(a)に示すB部の拡大断面図
【図8】本発明の実施の形態2に係る定着ローラの製造行程を示すフローチャート
【図9】(a)は、本発明に係る定着ローラと従来の定着ローラとのすべり性(摩擦係数変化)の比較結果を示す比較表、(b)は、本発明に係る定着ローラと従来の定着ローラとの耐傷性(傷の状態)の比較結果を示す比較表、(c)は、本発明に係る定着ローラと従来の定着ローラとの耐摩耗性(膜厚変化)の比較結果を示す比較表、(d)は、本発明に係る定着ローラと従来の定着ローラとの定着性(耐オフセット)の比較結果を示す比較表
【図10】(a)は、本発明の実施の形態1および実施の形態2に係る定着ローラのローラ基体の表面にCVD膜を成膜する際に用いる接地部材の構成を示す概略断面図、(b)は、図10(a)のX−X断面図
【符号の説明】
【0154】
100 画像形成装置
101 装置本体
110 画像形成ユニット
200 定着装置
210,710 定着ローラ
211 ローラ基体
212 コーティング層
220 加圧ローラ
400 CVD成膜装置
401 真空チャンバー
402 基体ホルダー
403 パルス高周波電源
404 パルス高圧電源
405 重畳装置
406 フィードスルー
407 ゲートバルブ
408 真空ポンプ
409 ガス導入管
410 流量計
601 プラズマ発生領域
701 バッファー層
P 用紙



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラ状の素管からなるローラ基体の表面に、アモルファスカーボンを主成分とする膜厚が5〜50μmの均一なコーティング層を形成した定着ローラ。
【請求項2】
前記ローラ基体は、中空円筒状の金属素管からなり、
前記金属素管の内面にも前記コーティング層を形成した請求項1記載の定着ローラ。
【請求項3】
前記ローラ基体と前記コーティング層との間に、前記ローラ基体の熱膨張により前記コーティング層に加わる応力を吸収するためのチタンおよびシリコンを含有するバッファー層を形成した請求項1または請求項2記載の定着ローラ。
【請求項4】
複数のローラ基体を収容する接地状態の真空容器内にCVDガスを充満させ、前記複数のローラ基体に同時にパルス高周波電圧とパルスバイアス電圧を重畳して前記複数のローラ基体の周囲にプラズマを発生させるとともに前記プラズマ中のイオンを前記複数のローラ基体に引き付けて前記複数のローラ基体の表面にアモルファスカーボンを主成分とするコーティング層を形成する定着ローラの製造方法であって、
前記複数のローラ基体に前記コーティング層を形成する際、前記複数のローラ基体のそれぞれを内部に収納するように前記真空容器内に配置された中空円筒体からなる複数の接地部材を接地状態とし、前記複数のローラ基体の数が多くなるに従って前記複数のローラ基体に流入する前記パルスバイアス電圧の平均電流が大きくなるように前記パルスバイアス電圧を制御する定着ローラの製造方法。
【請求項5】
前記複数のローラ基体は中空円筒体からなり、前記複数のローラ基体に前記コーティング層を形成する際、前記複数のローラ基体のそれぞれの内部に挿入されるように前記真空容器内に配置された複数の第2の接地部材を接地状態とした請求項4記載の定着ローラの製造方法。
【請求項6】
前記複数のローラ基体のそれぞれの表面に、炭化水素系ガスのプラズマCVDにより前記コーティング層を形成する請求項4または請求項5記載の定着ローラの製造方法。
【請求項7】
前記ローラ基体と前記コーティング層との間に、チタン含有ガスおよびシリコン含有ガスのプラズマCVDによりバッファー層を形成する請求項6記載の定着ローラの製造方法。
【請求項8】
前記複数のローラ基体のそれぞれの表面に、炭化水素系ガスのプラズマイオン注入方式により前記コーティング層を形成する請求項4または請求項5記載の定着ローラの製造方法。
【請求項9】
前記ローラ基体と前記コーティング層との間に、チタン含有ガスおよびシリコン含有ガスのプラズマイオン注入方式によりバッファー層を形成する請求項8記載の定着ローラの製造方法。
【請求項10】
所定の定着温度に加熱した定着ローラにより未定着トナーを加熱溶融して用紙にトナー像を定着させる定着装置であって、
前記定着ローラとして、請求項1から請求項3のいずれかに記載の定着ローラを用いた定着装置。
【請求項11】
前記定着ローラを加熱するための熱源として、電磁誘導加熱方式の電磁誘導加熱装置を用いる請求項10記載の定着装置。
【請求項12】
用紙に未定着トナー像を形成する画像形成手段と、前記画像形成手段により前記用紙に形成された前記未定着トナー像を前記用紙に定着させる定着手段と、を備えた画像形成装置であって、
前記定着手段として、請求項10記載の定着装置を用いた画像形成装置。
【請求項13】
前記画像形成手段により前記未定着トナー像を形成するためのトナーとして、低温定着トナーである重合トナーを用いる請求項12記載の画像形成装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−34073(P2007−34073A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−219495(P2005−219495)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】