説明

定着構造

【課題】コンクリート造のトンネル周壁部におけるクラックを抑制することができ、且つ、大引張力を受けた後に元の状態に戻り易い再現性のある定着構造を提供することを目的とする。
【解決手段】トンネル内空部でトンネル断面方向に延在させて配設された補強用鋼棒10の端部10aをコンクリート造のトンネル周壁部21に定着させる定着構造において、補強用鋼棒10の端部10aに装着されているとともにトンネル周壁部21内に埋設されたカップラー11と、カップラー11を介して補強用鋼棒10の端部10aと連結されて補強用鋼棒10の延長方向に延在された定着用鋼棒12と、定着用鋼棒12に設けられてトンネル周壁部21内に定着する定着部13と、カップラー11を被覆する弾性材14と、カップラー11と定着部13との間の定着用鋼棒12に外装されて定着部13と弾性材14との間に介装されたシース管15とが備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル内空部でトンネル断面方向に延在させて配設されたPC鋼材の端部をトンネル周壁部に定着させる定着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路、鉄道などの用途で施工されるシールドトンネルでは、トンネル内部にプレキャスト床版が設置される場合がある。そして、一般的に、トンネルの断面は、円形断面で施工されている。しかし、円形断面のうち実際に利用されるスペースは上下部分を除いた内空断面であることが多いことから、近年、略横長のトンネル空間を形成させた略楕円形状或いは馬蹄形状などの異形断面(以下、これらを「扁平トンネル」と記述する)のトンネルを施工する傾向にある。このような扁平トンネルに構築される扁平セグメントリングには、断面円形のセグメントリングと比較して外方からの土圧やセグメントの自重によって上下方向の圧縮力が作用することになる。とくに、扁平セグメントリングに作用する曲げモーメントは、断面の斜め下方に位置するトンネル脚部近傍において応力が集中して最大曲げモーメントが発生する。
【0003】
従来の扁平セグメントリングにおいては、このような曲げモーメントを減少させる方法として、扁平セグメントリングに大きな強度をもたせることが行なわれ、例えば鉄筋量を多くしてセグメントの厚さ寸法を大きくしてセグメントの強度を上げていた。ところが、セグメントの厚さ寸法を大きくすることは、セグメントが高価になるうえ、トンネルの掘削断面が大きくなるといった欠点があり、経済的ではなかった。そこで、扁平セグメントリング自体の強度を上げることなく、上述した扁平による曲げモーメントに対応した構造が、例えば特許文献1に提案されている。
【0004】
特許文献1には、扁平トンネルの内空側において、水平方向に引張力を受けもち略水平方向に配置された補強用鋼棒を設けることで、地震や土水圧等により扁平トンネルに上下方向の圧縮力が作用した際に、セグメントに過大な曲げモーメントがかかる事を防止する技術が提案されている。上記した補強用鋼棒の両端部はセグメントにそれぞれ定着されている。従来の補強用鋼棒端部の定着構造としては、補強用鋼棒の端部に定着部が設けられ、この定着部と補強用鋼棒の端部とがコンクリートセグメント内に埋設された構成の定着構造がある。
【特許文献1】特許第2520034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の定着構造では、引張力が作用する補強用鋼棒がコンクリートに接触しているため、補強用鋼棒端部の周りのコンクリートにクラックが発生し易いという問題がある。また、上記した従来の定着構造では、地震によって補強用鋼棒に大きな引張力が作用した場合、補強用鋼棒の端部がコンクリートに拘束されているため、地震が収まった後に補強用鋼棒が元の状態に戻り難いという問題がある。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、コンクリート造のトンネル周壁部におけるクラックを抑制することができ、且つ、大引張力を受けた後に元の状態に戻り易い再現性のある定着構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る定着構造は、トンネル内空部でトンネル断面方向に延在させて配設された補強用鋼棒の端部をコンクリート造のトンネル周壁部に定着させる定着構造において、前記補強用鋼棒の端部に装着されているとともに前記トンネル周壁部内に埋設されたカップラーと、該カップラーを介して前記補強用鋼棒の端部と連結されて前記補強用鋼棒の延長方向に延在された定着用鋼棒と、該定着用鋼棒に設けられて前記トンネル周壁部内に定着する定着部と、前記カップラーを被覆する弾性材と、前記カップラーと前記定着部との間の前記定着用鋼棒に外装されて前記定着部と前記弾性材との間に介装されたシース管とが備えられていることを特徴としている。
【0008】
このような特徴により、補強用鋼棒とトンネル周壁部のコンクリートとは、シース管によって縁が切られた状態となり、トンネル周壁部へは定着部からの支圧力のみが伝播される。また、補強用鋼棒とトンネル周壁部のコンクリートとが縁切りされており、補強用鋼棒がコンクリートによって拘束されていないため、地震等により補強用鋼棒が大引張力を受けた後、元の状態に容易に戻される。さらに、カップラーの外周に配設された弾性材の弾性力によって元に戻る力が作用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る定着構造によれば、補強用鋼棒とトンネル周壁部のコンクリートとは、シース管によって縁が切られた状態となっているため、コンクリート造のトンネル周壁部におけるクラックを抑制することができる。また、大引張力を受けた後に元の状態に戻り易い再現性のある定着構造にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る定着構造の実施の形態について、図面に基いて説明する。
図1は扁平セグメントリングを表す断面図であり、図2は扁平セグメントリングの底部を表す平面図である。
【0011】
図1に示すように、本実施の形態における定着構造1は、道路、鉄道、共同溝などに採用されるトンネルを補強する鋼棒10(補強用鋼棒)の定着構造であって、シールド工法によって地山内に延設された断面馬蹄形状(以下、この形状を「扁平」と記述する)をなす扁平セグメントリング2に適用されるものである。
【0012】
扁平セグメントリング2は、湾曲した複数のコンクリート造のセグメント20が環状に組み合わされて構築されている。扁平セグメントリング2の断面視斜め下方に位置するセグメントを脚部セグメント21、21(トンネル周壁部)とし、断面視で底部中央部に配置されていて両脚部セグメント21、21の間に挟まれてなるセグメントを底盤セグメント22とする。扁平セグメントリング2は、両側の脚部セグメント21、21から底盤セグメント22に向かうにしたがってセグメントの厚さ寸法が大きくなっている。また、扁平セグメントリング2の内部には、両側の脚部セグメント21,21間の位置に床版3が形成されている。
【0013】
図1、図2に示すように、床版3は、予め工場などで製造される略長方形状のプレキャストコンクリート版30からなるものである。このプレキャストコンクリート版30は、その長手方向をトンネル軸方向に直交させる方向(トンネル幅方向)にして扁平セグメントリング2内に配置され、トンネル軸方向に連続的に複数並べられている。また、プレキャストコンクリート版30の下方には、底盤セグメント22の内側面上に立設された柱状の支持構造31が配設されており、この支持構造31を介してプレキャストコンクリート版30の中央部分が底盤セグメント22の内周面に支持されている。
【0014】
また、床版3の両側方には、鋼材やコンクリートなどからなる圧縮伝達部材4がそれぞれ配設されており、この圧縮伝達部材4を介して床版3の両側部は脚部セグメント21、21の内周面にそれぞれ支持されている。これにより、扁平セグメントリング2に略水平方向の圧縮力が作用するとき、この圧縮力が圧縮伝達部材4を介して床版3に伝達される。
【0015】
上記した床版3および圧縮伝達部材4の内部には、トンネル幅方向に延在する貫通孔3a、4aが複数形成されている。これらの貫通孔3a、4aは、例えばプレキャストコンクリート内にシース管を埋設させることで形成される孔であり、トンネル軸方向に間隔をあけて並列に形成されている。これらの貫通孔3a、4aの中には、両端が脚部セグメント21、21内にそれぞれ定着された棒状の鋼棒10がそれぞれ挿通されている。鋼棒10は、両側の脚部セグメント21、21間に架設されるものである。この鋼棒10は、地震等によって扁平セグメントリング2に上下方向の圧縮力が作用して両側の脚部セグメント21、21が互いに離間しようとするとき、引張力が作用して扁平セグメントリング2の変形を抑制する。
【0016】
図3は鋼棒10両端の定着構造1を表す拡大断面図である。
図3に示すように、定着構造1は、カップラー11、ボルト12(定着用鋼棒)、定着部13、弾性材14、シース管15、及び台座16から構成されている。
【0017】
カップラー11は、内周面に雌ネジ11aが切られた筒形状の部材であり、例えば長ナット状の部材からなる。カップラー11は、鋼棒10の軸線延長線上に配設されており、鋼棒10の延長方向に延在されている。また、カップラー11は、鋼棒10の端部10aに装着されている。具体的に説明すると、カップラー11のトンネル内空側の部分と雄ネジ状のPC鋼材端部10aとが螺合されている。また、カップラー11の中央部分には孔11bが開けられており、この孔11bからカップラー11の中にカップラー11の径方向(軸直交方向)に延在するピン11cが差し込まれている。
【0018】
弾性材14は、弾性変形する部材であり、例えばポリエチレンフォーム等からなる。弾性材14は、カップラー11の外周面及びトンネル外周側の端面にそれぞれ被覆されている。
【0019】
ボルト12は、全長に亘って雄ネジ状に形成された部材であり、鋼棒10の軸線延長線上に配設され、鋼棒10の延長方向に延在されている。ボルト12のトンネル内空側の一端部は、カップラー11のトンネル外周側の部分に螺合されて取り付けられている。これにより、鋼棒10とボルト12とがカップラー11を介して連結された状態になっている。なお、ボルト12の一端部は、その端面が上記したカップラー11のピン11cに当接するまでカップラー11に捩じ込まれて螺合されている。なお、ボルト12は、端部だけが雄ネジ状の棒状部材であってもよい。
【0020】
定着部13は、ボルト12の他端部に設けられ、脚部セグメント21内に埋設されている。定着部13は、ボルト12の他端部を挿通させる孔50aを有するアンカープレート50と、ボルト12の他端部に通されたワッシャ51と、ボルト12の他端部に螺合されたナット52とからなる。ナット52がトンネル内空側に締め込まれることで、ワッシャ51を介してアンカープレート50が押え付けられている。
【0021】
シース管15は、カップラー11と定着部13(アンカープレート50)との間のボルト12に外装された円筒形状の部材である。シース管15は、定着部13のアンカープレート50とカップラー11の端面に被覆された弾性材14との間に介装されている。
【0022】
台座16は、カップラー11のトンネル内空側に配置されて脚部セグメント21、21の内周面に沿って埋設された部材である。台座16は、脚部セグメント21、21の内周面と面一に形成されているとともに、カップラー11のトンネル内空側の端面が当接される鉛直面16aを有している。また、台座16には、鋼棒10を挿通させるための貫通孔16bが形成されている。
【0023】
上記した構成からなる定着構造1によれば、鋼棒10と脚部セグメント21のコンクリートとは、シース管15によって縁が切られた状態となっているため、脚部セグメント21へは定着部13からの支圧力のみが伝播される。これにより、コンクリート造の脚部セグメント21におけるクラックを抑制することができる。また、
【0024】
また、上述したように、鋼棒10と脚部セグメント21のコンクリートとは縁が切られた状態となっているため、鋼棒10がコンクリートによって拘束されていない。このため、地震等により鋼棒10が大引張力を受けた後、元の状態に容易に戻される。
さらに、上記した構成からなる定着構造1によれば、カップラー11の外周に配設された弾性材14の弾性力によって、鋼棒10が大引張力を受けた後、元に戻る力が作用する。これにより、地震発生後の再現性を向上させることができる。
【0025】
以上、本発明に係る定着構造の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記した実施の形態では、断面形状が扁平形状のトンネル(扁平セグメントリング2)に設置された鋼棒10の定着構造1について説明しているが、本発明は、トンネルの断面形状は適宜変更可能であり、例えば真円形状のトンネルであってもよい。
また、上記した実施の形態では、セグメント20を組み合わせてなる扁平セグメントリング2に設置されるが、本発明は、セグメントを用いないトンネル構造であってもよく、例えば、シールド掘削と並行して現場打ち工法でトンネル周壁部を形成していくトンネル構造であってもよい。
【0026】
また、上記した実施の形態では、補強用鋼棒として、通常時は力が作用してなく、扁平セグメントリング2に上下方向の圧縮力が作用して両側の脚部セグメント21、21が互いに離間しようとするときに引張力が作用する鋼棒10が例示されているが、本発明における補強用鋼棒は、上記した単なる鋼棒10に限定されない。例えば、床版3にプレストレスを付与するために予め引張力を作用させたPC鋼棒であってもよい。
【0027】
また、上記した実施の形態では、補強用鋼棒である鋼棒10は、トンネル幅方向に水平に延在されているが、本発明は、補強用鋼棒が鉛直方向に延在されていてもよく、斜めに延在されていてもよい。また、本発明は、補強用鋼棒がトンネル幅方向に対して斜めに延在されていてもよい。
【0028】
また、上記した実施の形態では、カップラー11の端面が当接される鉛直面16aを有する台座16が備えられているが、本発明は、台座16が備えられていない構成にすることもできる。例えば、トンネルの内周面に垂直にカップラーを配置させる場合には台座16は不要である。
【0029】
また、上記した実施の形態では、内周面に雌ネジが切られたカップラー11が備えられ、鋼棒10の端部10aやボルト12(定着用鋼棒)の一端を螺合させているが、本発明は、カップラーとPC鋼材等とが螺合により取り付けられる構成に限定されない。例えば、カップラーとPC鋼材等とがワンプッシュ式に取り付けられる構成であってもよい。具体的に説明すると、カップラーの内周面に、周方向に延在する凹凸状の被係止部を軸方向に連続的に形成する。一方、補強用鋼棒や定着用鋼棒の外周面に、周方向に延在する鋸目状の係止部を軸方向に連続的に形成する。そして、補強用鋼棒等をカップラーの内周孔の中に挿入させて取り付ける。このとき、係止部が被係止部に引っ掛かり、螺合されていなくても引き抜きができなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態を説明するためのトンネル(扁平セグメントリング)の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態を説明するためのトンネル(扁平セグメントリング)の平面図である。
【図3】本発明の実施の形態を説明するための定着構造の断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 定着構造
2 扁平セグメントリング(トンネル)
10 鋼棒(補強用鋼棒)
11 カップラー
12 ボルト(定着用鋼棒)
13 定着部
14 弾性材
15 シース管
21 脚部セグメント(トンネル周壁部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内空部でトンネル断面方向に延在させて配設された補強用鋼棒の端部をコンクリート造のトンネル周壁部に定着させる定着構造において、
前記補強用鋼棒の端部に装着されているとともに前記トンネル周壁部内に埋設されたカップラーと、
該カップラーを介して前記補強用鋼棒の端部と連結されて前記補強用鋼棒の延長方向に延在された定着用鋼棒と、
該定着用鋼棒に設けられて前記トンネル周壁部内に定着する定着部と、
前記カップラーを被覆する弾性材と、
前記カップラーと前記定着部との間の前記定着用鋼棒に外装されて前記定着部と前記弾性材との間に介装されたシース管と
が備えられていることを特徴とする定着構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−240366(P2008−240366A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82657(P2007−82657)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【出願人】(000198307)石川島建材工業株式会社 (139)
【Fターム(参考)】