説明

定着用ロール及び定着用ベルト

【課題】優れた耐磨耗性、非粘着性及び柔軟性を兼ね備える定着用ロールを提供する。
【解決手段】基材と、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを含む架橋性組成物を架橋することにより得られるフッ素ゴム表面層と、を備えることを特徴とする定着用ロール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着用ロール及び定着用ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
OA機器分野における印刷機や複写機では、トナー粒子が付着した転写材を加熱された定着用ロールと加圧用ロールとの間を通過させ、トナー粒子を溶融させて転写材に定着させる。定着用ロールの代わりに、定着用ベルトを用いる場合もある。
【0003】
定着用ロールや定着用ベルトには、耐熱性や離型性の他、印刷物の汚れを防止するために、トナーに対する非粘着性、転写材との擦れに対する耐磨耗性等が要求される。また、鮮明な画像を得る観点からは、凹凸のあるトナー粒子に確実に接触するように、柔軟性に優れることも要求される。
【0004】
上記のような特性を改善することを目的として、定着用ロール表面にフッ素樹脂層を形成した定着用ロールが開示されている(例えば、特許文献1〜3参照)。また、特許文献4には、フッ素樹脂とポリチタノカルボシシランとの混合物を主成分とする被覆層を設けた定着ローラも開示されている。
【0005】
また、特許文献5には、フッ素ゴム100重量部に対して、体積平均粒径が0.01〜10.0μmの低分子量四フッ化エチレン樹脂微粒子を3〜70重量部配合したゴム組成物の加硫物を含有する表面層を有する電子写真用定着部材も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−109529号公報
【特許文献2】特開平7−281542号公報
【特許文献3】特開2005−121793号公報
【特許文献4】特開平3−179480号公報
【特許文献5】特開2001−235954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の定着用ローラは、優れた耐磨耗性、非粘着性及び柔軟性を兼ね備えるものではなかった。
【0008】
本発明は、優れた耐磨耗性、非粘着性及び柔軟性を兼ね備える定着用ロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等が、非粘着性及び耐磨耗性に優れる定着用ロールについて鋭意検討したところ、特定のフッ素ゴム層を表面に有する定着用ロールが、非粘着性及び耐磨耗性に優れ、かつ柔軟性にも優れることを見出し、本発明は完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、基材と、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを含む架橋性組成物を架橋することにより得られるフッ素ゴム表面層と、を備えることを特徴とする定着用ロールである。
【0011】
フッ素樹脂(B)は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び、ポリフッ化ビニルからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
フッ素樹脂(B)は、パーフルオロフッ素樹脂であることが好ましい。
【0013】
フッ素樹脂(B)は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体であることが好ましい。
【0014】
フッ素ゴム(A)は、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビ
ニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、
テトラフルオロエチレン/プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/
ビニリデンフルオライド共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチ
レン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフルオライド共重合体、エチレン/ヘキサ
フルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド/テト
ラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、及び、ビニリ
デンフルオライド/クロロトリフルオロエチレン共重合体からなる群より選択される少な
くとも1種であることが好ましい。
【0015】
本発明はまた、基材と、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを含む架橋性組成物を架橋することにより得られるフッ素ゴム表面層と、を有することを特徴とする定着用ベルトでもある。
【発明の効果】
【0016】
本発明の定着用ロール及び定着用ベルトは、優れた耐磨耗性、非粘着性及び柔軟性を兼ね備える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)は、フッ素ゴム表面層が有する凸部の形状を模式的に示す斜視図であり、(b)は(a)の表面に垂直な直線B1と直線B2を含む平面で凸部31を切断した断面図であり、(c)は(a)の表面と平行な直線C1と直線C2を含む平面で切断した断面図である。
【図2】本発明の定着用ロールの一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の定着用ロール又は定着用ベルトは、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを含む架橋性組成物を架橋することにより得られるフッ素ゴム表面層を有することで、優れた耐磨耗性、非粘着性及び柔軟性を兼ね備えるものである。また、本発明の定着用ロール又は定着用ベルトは、インクの乗りが良好であり、高画質特性にも優れる。
以下に、各要素について説明する。
【0019】
(A)フッ素ゴム
フッ素ゴム(A)は、通常、主鎖を構成する炭素原子に結合しているフッ素原子を有し、且つゴム弾性を有する非晶質の重合体からなる。上記フッ素ゴム(A)は、1種の重合体からなるものであってもよいし、2種以上の重合体からなるものであってもよい。
【0020】
フッ素ゴム(A)は、ビニリデンフルオライド(VdF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、VdF/HFP/テトラフルオロエチレン(TFE)共重合体、TFE/プロピレン共重合体、TFE/プロピレン/VdF共重合体、エチレン/HFP共重合体、エチレン/HFP/VdF共重合体、エチレン/HFP/TFE共重合体、VdF/TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)共重合体、及び、VdF/CTFE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、VdF単位を含む共重合体からなるフッ素ゴムが好ましい。
【0021】
上記ビニリデンフルオライド(VdF)単位を含む共重合体からなるフッ素ゴム(以下、「VdF系フッ素ゴム」ともいう。)について説明する。VdF系フッ素ゴムは、少なくともビニリデンフルオライドに由来する重合単位を含むフッ素ゴムである。
【0022】
VdF単位を含む共重合体としては、VdF単位及び含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位(但し、VdF単位は除く。)を含む共重合体であることが好ましい。VdF単位を含む共重合体は、更に、VdF及び含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の共重合単位を含むことも好ましい。
【0023】
VdF単位を含む共重合体としては、30〜85モル%のVdF単位及び70〜15モル%の含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位を含むことが好ましく、30〜80モル%のVdF単位及び70〜20モル%の含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位を含むことがより好ましい。VdF及び含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の共重合単位は、VdF単位と含フッ素エチレン性単量体由来の共重合単位の合計量に対して、0〜10モル%であることが好ましい。
【0024】
含フッ素エチレン性単量体としては、たとえばTFE、CTFE、トリフルオロエチレン、HFP、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、PAVEともいう)、フッ化ビニルなどの含フッ素単量体があげられるが、これらのなかでも、TFE、HFP及びPAVEからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0025】
上記PAVEとしては、一般式(1):
CF=CFO(CFCFYO)−(CFCFCFO)−R (1)
(式中、YはF又はCFを表し、Rは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。pは0〜5の整数を表し、qは0〜5の整数を表す。)、及び、一般式(2):
CFX=CXOCFOR (2)
(式中、Xは、同一又は異なり、H、F又はCFを表し、Rは、直鎖又は分岐した、H、Cl、Br及びIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1〜2個含んでいてもよい炭素数が1〜6のフルオロアルキル基、若しくは、H、Cl、Br及びIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1〜2個含んでいてもよい炭素数が5又は6の環状フルオロアルキル基を表す。)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0026】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)又はパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)であることがより好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)であることが更に好ましい。これらをそれぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。
【0027】
VdF及び含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体としては、たとえばエチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどがあげられる。
【0028】
このようなVdF単位を含む共重合体として、具体的には、VdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/CTFE/TFE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/HFP/PAVE共重合体、VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体などの1種または2種以上が好ましい。これらのVdF単位を含む共重合体のなかでも、耐熱性、非粘着性の点から、VdF/HFP共重合体、及び、VdF/HFP/TFE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の共重合体がとくに好ましい。
【0029】
VdF/HFP共重合体としては、VdF/HFPのモル比が45〜85/55〜15であるものが好ましく、より好ましくは50〜80/50〜20であり、さらに好ましくは60〜80/40〜20である。
【0030】
VdF/HFP/TFE共重合体としては、VdF/HFP/TFEのモル比が40〜80/10〜35/10〜35のものが好ましい。
【0031】
VdF/PAVE共重合体としては、VdF/PAVEのモル比が65〜90/10〜35のものが好ましい。
【0032】
VdF/TFE/PAVE共重合体としては、VdF/TFE/PAVEのモル比が40〜80/3〜40/15〜35のものが好ましい。
【0033】
VdF/HFP/PAVE共重合体としては、VdF/HFP/PAVEのモル比が65〜90/3〜25/3〜25のものが好ましい。
【0034】
VdF/HFP/TFE/PAVE共重合体としては、VdF/HFP/TFE/PAVEのモル比が40〜90/0〜25/0〜40/3〜35のものが好ましく、より好ましくは40〜80/3〜25/3〜40/3〜25である。
【0035】
上記フッ素ゴム(A)は、架橋部位を与えるモノマー由来の共重合単位を含む共重合体からなることも好ましい。架橋部位を与えるモノマーとしては、たとえば特公平5−63482号公報、特開平7−316234号公報に記載されているようなパーフルオロ(6,6−ジヒドロ−6−ヨード−3−オキサ−1−ヘキセン)やパーフルオロ(5−ヨード−3−オキサ−1−ペンテン)などのヨウ素含有モノマー、特表平4−505341号公報に記載されている臭素含有モノマー、特表平4−505345号公報、特表平5−500070号公報に記載されているようなシアノ基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマー、アルコキシカルボニル基含有モノマーなどがあげられる。
【0036】
フッ素ゴム(A)は、主鎖末端にヨウ素原子又は臭素原子を有するフッ素ゴムであることも好ましい。主鎖末端にヨウ素原子又は臭素原子を有するフッ素ゴムは、実質的に無酸素下で、水媒体中でハロゲン化合物の存在下に、ラジカル開始剤を添加してモノマーの乳化重合を行うことにより製造できる。使用するハロゲン化合物の代表例としては、たとえば、一般式:
Br
(式中、xおよびyはそれぞれ0〜2の整数であり、かつ1≦x+y≦2を満たすものであり、Rは、炭素数1〜16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基、炭素数1〜16の飽和もしくは不飽和のクロロフルオロ炭化水素基、又は、炭素数1〜3の炭化水素基であり、これらは酸素原子を含んでいてもよい)で表される化合物があげられる。
【0037】
ハロゲン化合物としては、たとえば1,3−ジヨードパーフルオロプロパン、1,3−ジヨード−2−クロロパーフルオロプロパン、1,4−ジヨードパーフルオロブタン、1,5−ジヨード−2,4−ジクロロパーフルオロペンタン、1,6−ジヨードパーフルオロヘキサン、1,8−ジヨードパーフルオロオクタン、1,12−ジヨードパーフルオロドデカン、1,16−ジヨードパーフルオロヘキサデカン、ジヨードメタン、1,2−ジヨードエタン、1,3−ジヨード−n−プロパン、CFBr、BrCFCFBr、CFCFBrCFBr、CFClBr、BrCFCFClBr、CFBrClCFClBr、BrCFCFCFBr、BrCFCFBrOCF、1−ブロモ−2−ヨードパーフルオロエタン、1−ブロモ−3−ヨードパーフルオロプロパン、1−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブタン、2−ブロモ−3−ヨードパーフルオロブタン、3−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブテン−1、2−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブテン−1、ベンゼンのモノヨードモノブロモ置換体、ジヨードモノブロモ置換体、ならびに(2−ヨードエチル)および(2−ブロモエチル)置換体などがあげられ、これらの化合物は、単独で使用してもよく、相互に組み合わせて使用することもできる。
【0038】
これらのなかでも、重合反応性、架橋反応性、入手容易性などの点から、1,4−ジヨードパーフルオロブタンまたはジヨードメタンを用いるのが好ましい。
【0039】
フッ素ゴム(A)は、加工性が良好な点から、ムーニー粘度(ML1+10(121℃))が5〜140であることが好ましく、10〜120であることがより好ましく、20〜100であることが更に好ましい。
【0040】
上記フッ素ゴム(A)の架橋系としては、例えば、パーオキサイド架橋系、及び、ポリオール架橋系からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
耐薬品性の観点からはパーオキサイド架橋系が好ましく、耐熱性の観点からはポリオール架橋系が好ましい。上記架橋性組成物は、それぞれの架橋系において使用される架橋剤を含むものであってよい。架橋剤の配合量は、架橋剤の種類等によって適宜選択すればよいが、フッ素ゴム(A)100質量部に対して0.2〜5.0質量部であることが好ましく、より好ましくは0.3〜3.0質量部である。
【0041】
パーオキサイド架橋は、パーオキサイド架橋可能なフッ素ゴム及び架橋剤として有機過酸化物を使用することにより行うことができる。
【0042】
パーオキサイド架橋可能なフッ素ゴムとしては特に限定されず、パーオキサイド架橋可能な部位を有するフッ素ゴムであればよい。上記パーオキサイド架橋可能な部位としては特に限定されず、例えば、ヨウ素原子、臭素原子等を挙げることができる。
【0043】
有機過酸化物としては、熱や酸化還元系の存在下で容易にパーオキシラジカルを発生し得る有機過酸化物であればよく、たとえば1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエイトなどをあげることができる。これらの中でも、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3が好ましい。
有機過酸化物の配合量は、フッ素ゴム(A)100質量部に対して0.1〜15質量部が好ましく、より好ましくは0.3〜5質量部である。
【0044】
架橋剤が有機過酸化物である場合、上記架橋性組成物は架橋助剤を含むことが好ましい。架橋助剤としては、例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N′−m−フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5−トリス(2,3,3−トリフルオロ−2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン)、トリス(ジアリルアミン)−S−トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N−ジアリルアクリルアミド、1,6−ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N′,N′−テトラアリルフタルアミド、N,N,N′,N′−テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6−トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5−ノルボルネン−2−メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイトなどがあげられる。これらの中でも、架橋性及び機械物性、シール性が優れる点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましい。
【0045】
架橋助剤の配合量は、フッ素ゴム(A)100質量部に対して0.01〜10質量部であり、好ましくは0.1〜5.0質量部である。架橋助剤が、0.01質量部より少ないと、機械物性が低下し、シール性が劣り、10質量部をこえると、耐熱性が悪く、定着用ロール又は定着用ベルトの耐久性も低下する傾向がある。
【0046】
ポリオール架橋は、ポリオール架橋可能なフッ素ゴム及び架橋剤としてポリヒドロキシ化合物を使用することにより行うことができる。
【0047】
上記ポリオール架橋可能なフッ素ゴムとしては特に限定されず、ポリオール架橋可能な部位を有するフッ素ゴムであればよい。上記ポリオール架橋可能な部位としては特に限定されず、例えば、フッ化ビニリデン(VdF)単位を有する部位等を挙げることができる。上記架橋部位を導入する方法としては、フッ素ゴムの重合時に架橋部位を与える単量体を共重合する方法等が挙げられる。
【0048】
ポリヒドロキシ化合物としては、耐熱性に優れる点からポリヒドロキシ芳香族化合物が好適に用いられる。
【0049】
上記ポリヒドロキシ芳香族化合物としては、特に限定されず、たとえば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAという)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(以下、ビスフェノールAFという)、レゾルシン、1,3−ジヒドロキシベンゼン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシスチルベン、2,6−ジヒドロキシアントラセン、ヒドロキノン、カテコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(以下、ビスフェノールBという)、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)吉草酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)テトラフルオロジクロロプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、トリ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、3,3’,5,5’−テトラクロロビスフェノールA、3,3’,5,5’−テトラブロモビスフェノールAなどがあげられる。これらのポリヒドロキシ芳香族化合物は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などであってもよいが、酸を用いて共重合体を凝析した場合は、上記金属塩は用いないことが好ましい。ポリヒドロキシ芳香族化合物の配合量は、フッ素ゴム(A)100質量部に対して、0.1〜15質量部、好ましくは0.5〜5質量部である。
【0050】
架橋剤がポリヒドロキシ化合物である場合、上記架橋性組成物は架橋促進剤を含むことが好ましい。架橋促進剤は、ポリマー主鎖の脱フッ酸反応における分子内二重結合の生成と、生成した二重結合へのポリヒドロキシ化合物の付加を促進する。
【0051】
架橋促進剤としては、オニウム化合物があげられ、オニウム化合物のなかでも、第4級アンモニウム塩等のアンモニウム化合物、第4級ホスホニウム塩等のホスホニウム化合物、オキソニウム化合物、スルホニウム化合物、環状アミン、及び、1官能性アミン化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、第4級アンモニウム塩及び第4級ホスホニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0052】
第4級アンモニウム塩としては特に限定されず、たとえば、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムアイオダイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムメチルスルフェート、8−エチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−プロピル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−エイコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−テトラコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド(以下、DBU−Bとする)、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−フェネチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−(3−フェニルプロピル)−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライドなどがあげられる。これらの中でも、架橋性、機械物性、及び、シール性の点から、DBU−Bが好ましい。
【0053】
また、第4級ホスホニウム塩としては特に限定されず、たとえば、テトラブチルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド(以下、BTPPCとする)、ベンジルトリメチルホスホニウムクロライド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロライド、トリブチルアリルホスホニウムクロライド、トリブチル−2−メトキシプロピルホスホニウムクロライド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロライドなどをあげることができ、これらの中でも、架橋性、機械物性、及び、シール性の点から、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド(BTPPC)が好ましい。
【0054】
また、架橋促進剤として、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩とビスフェノールAFの固溶体、特開平11−147891号公報に開示されている塩素フリー架橋促進剤を用いることもできる。
【0055】
架橋促進剤の配合量は、フッ素ゴム(A)100質量部に対して、0.01〜8質量部であることが好ましく、より好ましくは0.02〜5質量部である。架橋促進剤が、0.01質量部未満であると、フッ素ゴムの架橋が充分に進行せず、得られるフッ素ゴム表面層の耐熱性等が低下する傾向がある。8質量部をこえると、上記架橋性組成物の成形加工性が低下、また機械物性における伸びが低下し、シール性も低下する傾向がある。
【0056】
(B)フッ素樹脂
フッ素樹脂(B)としては、溶融加工性のフッ素樹脂であることが好ましく、例えば、TFE/HFP共重合体、TFE/PAVE共重合体〔PFA〕、Et/TFE共重合体、Et/TFE/HFP共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、CTFE/TFE共重合体、Et/CTFE共重合体、ポリフッ化ビニリデン〔PVdF〕、TFE/VdF共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/HFP共重合体、及び、ポリフッ化ビニル〔PVF〕からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、溶融加工性であれば、低分子量のPTFEも用いることも可能である。
【0057】
フッ素樹脂(B)は、耐磨耗性、非粘着性、耐熱性、耐薬品性の観点から、パーフルオロフッ素樹脂であることが好ましい。
【0058】
フッ素ゴム表面層の非粘着性に優れる点から、フッ素樹脂(B)はTFE/HFP共重合体、すなわち、テトラフルオロエチレン単位とヘキサフルオロプロピレン単位とからなる共重合体(以下、「FEP」ともいう。)であることがより好ましい。FEPは、定着用ロールの耐熱性が優れたものとなる点でも好ましい。
【0059】
FEPとしては、TFE単位70〜99モル%とHFP単位1〜30モル%からなる共重合体であることが好ましく、TFE単位80〜97モル%とHFP単位3〜20モル%からなる共重合体であることがより好ましい。TFE単位が70モル%未満では機械物性が低下する傾向があり、99モル%をこえると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。
【0060】
FEPは、TFE、HFP、並びに、TFE及びHFPと共重合可能な単量体からなる共重合体であってもよく、当該単量体としては、CF=CF−OR(式中、Rは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、CX=CX(CF(式中、X、X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、CF=CF−OCH−Rf(式中、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられ、なかでも、PAVEであることが好ましい。
【0061】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、及び、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、なかでも、PMVE、PEVE及びPPVEからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0062】
上記アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体としては、Rfが炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であるものが好ましく、CF=CF−OCH−CFCFがより好ましい。
【0063】
FEPは、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、TFE単位及びHFP単位が合計で90〜99.9モル%であることが好ましい。共重合可能な単量体単位が0.1モル%未満であると成形性、耐環境応力割れ性及び耐ストレスクラック性に劣りやすく、10モル%をこえると、耐熱性、機械特性、生産性などに劣る傾向にある。
【0064】
フッ素樹脂(B)の融点は、フッ素ゴム(A)の一次架橋温度以上であることが好ましい。フッ素樹脂(B)の融点は、フッ素ゴム(A)の種類により適宜決定されるが、150℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることが更に好ましい。上限は特に限定されないが、300℃であってよい。
融点が低すぎると、架橋成形時にフッ素樹脂が溶融し、十分な耐磨耗性、非粘着性が得られないおそれがある。また、フッ素ゴム表面層の表面に後述するような凸部を形成する場合、充分な数の凸部を有するフッ素ゴム表面層が得られないおそれがある。
【0065】
フッ素樹脂(B)とフッ素ゴム(A)との相溶性向上のため、上記架橋性組成物は、少なくとも1種の多官能化合物を含有してもよい。多官能化合物とは、1つの分子中に同一または異なる構造の2つ以上の官能基を有する化合物である。
【0066】
多官能化合物が有する官能基としては、カルボニル基、カルボキシル基、ハロホルミル基、アミド基、オレフィン基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基、エポキシ基等、一般に反応性を有することが知られている官能基であれば任意に用いることができる。
これらの官能基を有する化合物は、フッ素ゴム(A)との親和性が高いだけではなく、フッ素樹脂(B)が持つ反応性を有することが知られている官能基とも反応し、さらに相溶性が向上することも期待される。
【0067】
上記フッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)を含む架橋性組成物は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)との体積比(フッ素ゴム(A))/(フッ素樹脂(B))が60/40〜95/5であることが好ましい。フッ素樹脂(B)が少なすぎると耐磨耗性、非粘着性が充分に得られないおそれがあり、一方、フッ素樹脂(B)が多すぎると、ゴム弾性が著しく損なわれる恐れがある。柔軟性と耐磨耗性の両方が良好な点から、(フッ素ゴム(A))/(フッ素樹脂(B))は、65/35〜95/5であることがより好ましく、70/30〜90/10であることがさらに好ましい。
【0068】
上記架橋性組成物は、必要に応じてフッ素ゴム中に配合される通常の添加剤、たとえば充填剤、加工助剤、可塑剤、着色剤、安定剤、接着助剤、離型剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、表面非粘着剤、柔軟性付与剤、耐熱性改善剤、難燃剤などの各種添加剤を配合することができ、これらの添加剤は、本発明の効果を損なわない範囲で使用すればよい。
【0069】
上記フッ素ゴム表面層は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを含む架橋性組成物を架橋することにより得られるものである。フッ素ゴム表面層は、定着用ロールの表面に設けられる層である。
【0070】
フッ素ゴム表面層は、上記構成からなるものであるため、フッ素ゴム表面層全体として、優れた耐磨耗性及び非粘着性を有し、更に柔軟性に優れたものである。
更に、得られるフッ素ゴム表面層には、フッ素樹脂とフッ素ゴムの明確な界面状態が存在しないので、表面のフッ素樹脂に富む領域が脱落や剥離することもなく、フッ素ゴムの表面にフッ素樹脂層を設けた定着用ロール又は定着用ベルトに比べて耐久性に優れている。
【0071】
フッ素ゴム表面層は、該表面層の表面に凸部を有することが好ましい。凸部がフッ素ゴム表面層の表面に存在していることにより、優れた耐磨耗性及び非粘着性を示す。
【0072】
凸部は、実質的に架橋性組成物に含まれるフッ素樹脂(B)からなることが好ましい。凸部は、例えば後述する方法により、上記架橋性組成物に含まれるフッ素樹脂(B)を表面に析出させて形成することができる。
【0073】
凸部は、フッ素樹脂表面層本体との間に明確な界面等が存在せず、上記凸部とフッ素ゴム表面層が一体的に構成されていることとなり、上記凸部が脱落したり、欠損したりしにくいとの効果をより確実に享受することができる。
【0074】
凸部が実質的に上記架橋性組成物に含まれるフッ素樹脂(B)からなることは、IR分析やESCA分析によってフッ素ゴム(A)由来のピークとフッ素樹脂(B)由来のピークのピーク比を求めることで示すことができる。例えば、凸部を有する領域において、IR分析によって、フッ素ゴム(A)由来の特性吸収のピークとフッ素樹脂(B)由来の特性吸収のピークとの比(成分由来ピーク比)を、凸部と凸部外のそれぞれの部分で測定し、(凸部ピーク/凸部外ピーク=ピーク比)が、1.2以上、好ましくは1.5以上であればよい。
【0075】
凸部の形状について、図面を参照しながらもう少し詳しく説明する。
図1(a)は、フッ素ゴム表面層が有する凸部の形状を模式的に示す斜視図であり、(b)は(a)の表面に垂直な直線B1と直線B2を含む平面で凸部31を切断した断面図であり、(c)は(a)の表面と平行な直線C1と直線C2を含む平面で切断した断面図である。そして、図1(a)〜(c)には、フッ素樹脂表面層の表面の微小領域を模式的に描画している。フッ素ゴム表面層の表面には、図1(a)〜(c)に示すように、例えば、略円錐形状(コーン形状)の凸部31が形成されている。
【0076】
ここで、凸部31の高さとは、フッ素ゴム表面層の表面から突出した部分の高さをいう(図1(b)中、H参照)。また、凸部31の底部断面積とは、凸部31を、フッ素ゴム成形品表面と平行な平面(直線C1と直線C2を含む平面)で切断した面において観察される凸部31(図1(c)参照)の断面に於ける面積の値をいう。
【0077】
フッ素ゴム表面層は、フッ素ゴム表面層の表面積に対して、凸部を有する領域の面積比が0.03(3%)以上であることが好ましい。より好ましい面積比は、0.15以上であり、0.30以上が更に好ましい。上記フッ素ゴム表面層の表面における、凸部を有する領域の面積比は、上記凸部の底部断面積を評価する切断面において、凸部が占める面積の比率をいう。
【0078】
凸部を有する領域の面積比が、フッ素樹脂(B)の体積比の1.2倍以上であり、1.3倍以上であることがより好ましい。フッ素ゴム表面層は、フッ素ゴム表面層の表面における凸部を有する領域の比率が、表面層のフッ素樹脂(B)の体積比よりも高く、架橋性組成物におけるフッ素樹脂の体積比よりも高い。
フッ素ゴム表面層は、この特徴によりフッ素樹脂の混合割合が小さくても、フッ素ゴムの欠点であった非粘着性、耐磨耗性が改善され、また、フッ素ゴムの利点が損なわれることもない。
【0079】
上記凸部は、高さが0.1〜30.0μmであることが好ましい。凸部の高さがこの範囲にあると、耐磨耗性及び非粘着性が優れる。より好ましい高さは、0.3〜20.0μmであり、更に好ましくは、0.5〜10.0μmである。
【0080】
上記凸部は、底部断面積が0.1〜2000μmであることが好ましい。凸部の底部断面積がこの範囲にあると、耐磨耗性及び非粘着性が優れる。より好ましい底部断面積は、0.3〜1500μmであり、更に好ましい底部断面積は、0.5〜1000μmである。
【0081】
フッ素ゴム表面層は、上記凸部の高さの標準偏差が0.300以下であることが好ましい。この範囲にあると、耐磨耗性及び非粘着性がより優れる。
【0082】
フッ素ゴム表面層は、凸部の数が500〜60000個/mmであることが好ましい。この範囲にあると、耐磨耗性及び非粘着性がより優れる。
【0083】
凸部を有する領域の面積比、凸部の高さ、凸部の底部断面積、凸部の数等は、例えば、キーエンス社製、カラー3Dレーザー顕微鏡(VK−9700)を用い、解析ソフトとして三谷商事株式会社製のWinRooF Ver.6.4.0を用いて算出することができる。凸部を有する領域の面積比は、凸部の底部断面積を求め、断面積合計の値が、測定全領域面積に占める割合として求められる。凸部の数は、測定領域中の凸部の数を1mm当たりの数に換算したものである。
【0084】
フッ素ゴム表面層において、上記凸部はフッ素ゴム表面層の表面の一部に形成されていればよく、フッ素ゴム表面層の表面には該凸部が形成されていない領域を有していてもよい。例えば、フッ素ゴム表面層の表面において、耐磨耗性及び非粘着性が必要とされない部分には上記凸部が形成されている必要はない。
【0085】
本発明の定着用ロール又は定着用ベルトは、基材とフッ素ゴム表面層とからなる。本発明の定着用ロールは、基材の表面に直接フッ素ゴム表面層を有するものであってもよいし、基材の表面に中間層を有し、中間層上にフッ素ゴム表面層を有するものであってもよい。中間層は、1層でもよいし、2層以上でもよい。具体的には、基材/フッ素ゴム表面層の構成でもよいし、基材/中間層/フッ素ゴム表面層のような構成や、基材/中間層1/中間層2/フッ素ゴム表面層のような構成でもよい。
【0086】
本発明の定着用ロール又は定着用ベルトにおいて、上記中間層としては、基材とフッ素ゴム表面層との接着性を高めることができる材料からなる層であることが好ましい。また、必要に応じて、その他の作用を有する中間層を更に形成してもよい。
【0087】
本発明の定着用ロールにおいて、上記基材は、管状の芯金であることが好ましい。芯金は、通常、鉄、アルミ等からなるものであるが、他の金属を用いてもよい。
【0088】
本発明の定着用ロールにおいてフッ素ゴム表面層の厚みは、その構成によって適宜選択すればよいが、基材/フッ素ゴム表面層の構成である場合には、0.1〜0.5mmであることが好ましく、0.2〜0.3mmであることがより好ましい。
【0089】
図2は、本発明の定着用ロールの一例を示す断面模式図である。定着用ロール1は、ヒーターランプ10を内側に備える管状の芯金11の外周に、シリコーンゴム等からなる中間層12を有しており、該中間層12上にフッ素ゴム表面層13を備えている。トナーが定着される用紙は、定着用ロール1と加圧ベルト20の間を通ることによって、トナーが用紙に定着する。
【0090】
本発明の定着用ベルトにおいて、上記基材は、定着時の加熱に耐え得るものであれば特に限定されないが、例えば、耐熱性樹脂からなることが好ましい。上記耐熱性樹脂としては、一般に耐熱性樹脂と称されているものであれば格段の制約はないが、その中でもポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、又は、ポリアミドイミド樹脂が好ましく用いられる。
【0091】
本発明の定着用ベルトにおいてフッ素ゴム表面層の厚みは、その構成によって適宜選択すればよいが、基材/フッ素ゴム表面層の構成である場合には、0.1〜5.0mmであることが好ましく、0.2〜3.0mmであることがより好ましい。
【0092】
次に、本発明の定着用ロール又は定着用ベルトが有するフッ素ゴム表面層の形成方法について説明する。
【0093】
上記フッ素ゴム表面層は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを含む架橋性組成物を架橋することにより得られるものである。耐磨耗性、非粘着性をより優れたものとする観点から、フッ素ゴム表面層は、下記混合工程、及び、成形架橋工程からなる製造方法により得ることができる。また、非粘着性、耐磨耗性をより優れたものにする観点からは、成形架橋工程の後に、下記熱処理工程を経て得られたものであることが好ましい。以下に、各工程について説明する。
【0094】
〔混合工程〕
上記架橋性組成物を得る方法は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを均一に混合できる方法を用いれば特に制限はないが、例えば、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを溶融混練する方法、又は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析する方法が好ましい。
以下に、溶融混練と共凝析について説明する。
【0095】
(溶融混練)
溶融混練は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを、フッ素樹脂(B)の融点より5℃低い温度以上の温度、好ましくはフッ素樹脂(B)の融点以上の温度で行う。加熱温度の上限は、フッ素ゴム(A)またはフッ素樹脂(B)のいずれか低い方の熱分解温度未満である。
【0096】
溶融混練は、その温度で架橋を引き起こす条件(架橋剤、架橋促進剤および受酸剤の存在下など)では行わないが、フッ素樹脂の融点より5℃低い温度以上の溶融混練温度で架橋を引き起こさない成分(たとえば特定の架橋剤のみ、架橋剤と架橋促進剤の組合せのみ、など)であれば、溶融混練時に添加混合してもよい。架橋を引き起こす条件としては、例えば、ポリオール架橋剤と架橋促進剤と受酸剤との組合せが挙げられる。
【0097】
したがって、上記溶融混練では、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを溶融混練してプレコンパウンド(予備混合物)を調製し、ついで、架橋温度未満の温度で他の添加剤や配合剤を混練してフルコンパウンド(架橋性組成物)とする2段階混練法が好ましい。もちろん、全ての成分を架橋剤の架橋温度未満の温度で混練する方法でもよい。
【0098】
上記架橋剤としては、アミン架橋剤、ポリオール架橋剤、パーオキサイド架橋剤等の公知の架橋剤を使用することができる。
【0099】
溶融混練は、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機等を使用して、フッ素樹脂の融点より5℃低い温度以上の温度、たとえば180℃以上、通常200〜290℃でフッ素ゴムと混練することにより行うことができる。これらの中でも、高剪断力を加えることができる点で、加圧ニーダーまたは二軸押出機等の押出機を用いることが好ましい。
【0100】
また、2段階混練法におけるフルコンパウンド化は、架橋温度未満、たとえば100℃以下の温度でオープンロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダーなどを用いて行うことができる。
【0101】
上記溶融混練と類似の処理として、フッ素樹脂中でフッ素ゴムをフッ素樹脂の溶融条件下で架橋する処理(動的架橋)がある。動的架橋では、熱可塑性樹脂のマトリックス中に未架橋ゴムをブレンドし、混練しながら未架橋ゴムを架橋させ、かつその架橋したゴムをマトリックス中にミクロに分散させる方法であるが、上記溶融混練は、架橋を引き起こさない条件(架橋に必要な成分の不存在、またはその温度で架橋反応が起こらない配合など)で溶融混練するものであり、またマトリックスは未架橋ゴムとなり、未架橋ゴム中にフッ素樹脂が均一に分散している混合物である点において本質的に異なる。
【0102】
(共凝析)
フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とがより均一に混合される点から、上記架橋性組成物は、共凝析により得られるものであることが好ましい。すなわち、上記架橋性組成物は、共凝析により得られたフッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを含むものであることが好ましい。共凝析を用いることで、非粘着性、耐磨耗性及び柔軟性がより優れたフッ素ゴム表面層を形成することができる。また、フッ素ゴム表面層の表面に形成される凸部を均一に形成することができるし、凸部の占有率を十分に高くすることもできる。
【0103】
上記架橋性組成物が、共凝析させたフッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを含むと、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とが架橋性組成物中に均一に分散していると予想される。
【0104】
上記共凝析の方法としては、例えば、(i)フッ素ゴム(A)の水性分散液と、フッ素樹脂(B)の水性分散液とを混合した後に凝析させる方法、(ii)フッ素ゴム(A)の粉末を、フッ素樹脂(B)の水性分散液に添加した後に凝析させる方法、(iii)フッ素樹脂(B)の粉末を、フッ素ゴム(A)の水性分散液に添加した後に凝析させる方法が挙げられる。上記共凝析の方法としては、特に各樹脂が均一に分散し易い点で、上記(i)の方法が好ましい。
【0105】
上記(i)〜(iii)の凝析方法における凝析は、例えば、凝集剤を用いて行うことができる。このような凝集剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸アルミニウム、ミョウバン等のアルミニウム塩、硫酸カルシウム等のカルシウム塩、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化ナトリウムや塩化カリウム等の一価カチオン塩等の公知の凝集剤が挙げられる。凝集剤により凝析を行う際、凝集を促進させるために酸又はアルカリを添加してpHを調整してもよい。
【0106】
上記架橋性組成物は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して得られた共凝析粉末を含むものであることが好ましい。上記共凝析粉末は、例えば、フッ素ゴム(A)の水性分散液と、フッ素樹脂(B)の水性分散液とを混合した後に凝析し、次いで凝析物を回収し、所望により乾燥させることにより得ることができる。また、上記架橋性組成物は、上記共凝析粉末と架橋剤とを含むものであることが好ましく、更に、後述する各種添加剤等を含むものであってもよい。
上記架橋性組成物は、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して共凝析粉末を得て、該共凝析粉末に架橋剤を添加して得られるものであることが好ましい。
【0107】
フッ素ゴム(A)の架橋系によっては架橋剤が必要であるので、フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して共凝析粉末を得た後、共凝析粉末に架橋剤を添加して架橋性組成物を得てもよい。
【0108】
通常は、共凝析粉末に架橋剤を添加した後、共凝析粉末と架橋剤とを混合する。上記混合は、例えば、ニーダー等を用いた通常の混合方法により、フッ素樹脂(B)の融点未満の温度で混合することができる。
【0109】
〔成形架橋工程〕
次に、架橋性組成物を成形及び架橋することにより、架橋成形体を作製する。成形及び架橋の順序は限定されず、成形した後架橋してもよいし、架橋した後成形してもよいし、成形と架橋を同時に行ってもよい。
【0110】
架橋性組成物の成形及び架橋の方法及び条件は、採用する成形及び架橋において公知の方法及び条件の範囲内でよい。
【0111】
成形方法としては、例えば、押出成形、圧縮成形等が挙げられる。
【0112】
架橋方法としては、スチーム架橋法、加圧成形法、放射線架橋法、加熱により架橋反応が開始される通常の方法が採用できる。本発明においては、非粘着性及び耐磨耗性の観点から、加熱による架橋反応が好適である。
【0113】
架橋を行う温度は、フッ素ゴム(A)の架橋温度以上であり、フッ素樹脂(B)の融点未満であることが好ましい。架橋をフッ素樹脂(B)の融点以上で行うと、充分な非粘着性、耐磨耗性が得られないおそれがある。
架橋を行う温度は、フッ素樹脂(B)の融点より5℃低い温度未満であり、かつフッ素ゴム(A)の架橋温度以上であることがより好ましい。架橋時間としては、例えば、1分間〜24時間であり、使用する架橋剤などの種類により適宜決定すればよい。
【0114】
ところで、フッ素ゴムの架橋において、最初の架橋処理(1次架橋という)を施した後に2次架橋と称される後処理工程を施すことがあるが、下記の熱処理工程で説明するように、従来の2次架橋工程と本明細書の成形架橋工程及び熱処理工程とは異なる処理工程である。
【0115】
上記成形架橋工程により得られる架橋成形体をフッ素ゴム表面層として用いることもできるが、非粘着性及び耐磨耗性をより優れたものとする観点からは、成形架橋工程により得られた架橋成形体に対して、下記の熱処理工程を行うことが好ましい。
【0116】
(熱処理工程)
この工程では、成形架橋工程で得られた架橋成形体をフッ素樹脂(B)の融点以上の温度に加熱してフッ素ゴム表面層を得る。
【0117】
熱処理工程は、フッ素ゴム表面層の表面のフッ素樹脂比率を高めるために行う処理工程であり、この目的に即して、フッ素樹脂(B)の融点以上かつフッ素ゴム(A)及びフッ素樹脂(B)の熱分解温度未満の温度が加熱温度として採用される。
【0118】
加熱温度がフッ素樹脂の融点よりも低い場合は、多数の凸部を有するフッ素ゴム表面層を得ることができない。また、フッ素ゴム及びフッ素樹脂の熱分解を回避するために、フッ素ゴム(A)またはフッ素樹脂(B)のいずれか低い方の熱分解温度未満の温度でなければならない。好ましい加熱温度は、短時間で非粘着性及び耐磨耗性を高めることができる点から、フッ素樹脂の融点より5℃以上高い温度である。
【0119】
上記の上限温度は通常のフッ素ゴムの場合であり、超耐熱性を有するフッ素ゴムの場合は、上限温度は超耐熱性を有するフッ素ゴムの分解温度であるので、上記上限温度はこの限りではない。
【0120】
熱処理工程において、加熱温度は加熱時間と密接に関係しており、加熱温度が比較的下限に近い温度では比較的長時間加熱を行い、比較的上限に近い加熱温度では比較的短い加熱時間を採用することが好ましい。このように加熱時間は加熱温度との関係で適宜設定すればよいが、加熱処理をあまり長時間行うとフッ素ゴムが熱劣化することがあるので、加熱処理時間は、耐熱性に優れたフッ素ゴムを使用する場合を除いて実用上96時間までである。通常、加熱処理時間は1分間〜72時間が好ましい。生産性が良好な点からは1分間〜24時間がより好ましいが、耐磨耗性及び非粘着性を向上させる観点からは、8〜72時間であることが好ましい。
【0121】
ところで、従来行われている2次架橋は1次架橋終了時に残存している架橋剤を完全に分解してフッ素ゴムの架橋を完結し、架橋成形品の機械的特性や圧縮永久ひずみ特性を向上させるために行う処理である。
したがって、フッ素樹脂(B)の共存を想定していない従来の2次架橋条件は、その架橋条件が偶発的に本発明における熱処理工程の加熱条件と重なるとしても、2次架橋ではフッ素樹脂の存在を架橋条件設定の要因として考慮せずにフッ素ゴムの架橋の完結(架橋剤の完全分解)という目的の範囲内での加熱条件が採用されているにすぎず、フッ素樹脂(B)を配合した場合にゴム架橋物(ゴム未架橋物ではない)中でフッ素樹脂(B)を加熱軟化または溶融する条件を導き出せるものではない。
【0122】
なお、上記成形架橋工程において、フッ素ゴム(A)の架橋を完結させるため(架橋剤を完全に分解するため)の2次架橋を行ってもよい。
【0123】
また、熱処理工程において、残存する架橋剤の分解が起こりフッ素ゴム(A)の架橋が完結する場合もあるが、熱処理工程におけるかかるフッ素ゴム(A)の架橋はあくまで副次的な効果にすぎない。
【0124】
上記熱処理工程を行うことにより、フッ素樹脂(B)の特性、たとえば耐磨耗性や非粘着性が、熱処理をしないものより格段に向上したフッ素ゴム表面層を得ることができる。しかも、表面領域以外では逆にフッ素ゴム(A)の特性が発揮でき、全体として、耐磨耗性、非粘着性及び柔軟性のいずれにもバランスよく優れたフッ素ゴム表面層が得られる。さらに、得られるフッ素ゴム表面層には、フッ素樹脂(B)とフッ素ゴム(A)の明確な界面状態が存在しないので、表面のフッ素樹脂(B)に富む領域が脱落や剥離することもなく、耐久性に優れている。このようなフッ素ゴム表面層を有することによって、本発明の定着用ロール又は定着用ベルトは、耐磨耗性、非粘着性及び柔軟性を兼ね備えたものとなる。
【0125】
ここで、本発明の定着用ロールを得るための具体的方法について簡単に説明するが、本発明の定着用ロールを得る方法は、下記方法に限られるものではない。
【0126】
本発明の定着用ロールを得る方法としては、下記方法が挙げられる。
例えば、共凝析、溶融混練等により上記架橋性組成物を調製した後、管状の芯金上に架橋性組成物を押出成形して、未架橋のフッ素ゴム表面層を形成する。
その後、加熱等によりフッ素ゴムを架橋させた後、熱処理を行い、芯金上にフッ素樹脂表面層が形成された定着用ロールを得る。
上記フッ素ゴムの架橋は押出成形と同時に行ってもよい。
【0127】
また、定着用ロールを得る他の方法としては、下記方法も挙げられる。
例えば、共凝析、溶融混練等により上記架橋性組成物を調製した後、押出成形法により上記架橋性組成物をチューブ状に成形する。次に、フッ素ゴムの架橋及び熱処理工程を行い、チューブ状のフッ素ゴム成形体を得る。
その後、チューブ状のフッ素ゴム成形体内に芯金を通し、ついで加熱することで、芯金表面にチューブ状のフッ素ゴム成形体を接着させ、芯金上にフッ素ゴム表面層を形成する。
なお、上記熱処理工程は、架橋後に行うものであれば、チューブ状のフッ素ゴム成形体に芯金を通した後に行ってもよい。
【0128】
本発明の定着用ロールが中間層を有する場合、共押出成形法を用いることもできる。
【0129】
次に、本発明の定着用ベルトを得るための具体的方法について簡単に説明するが、本発明の定着用ベルトを得る方法は、下記方法に限られるものではない。
【0130】
まず、定着用ベルトの内径に合せたアルミ芯金等の管状体上に、ポリイミド等からなる基材層を公知の方法により形成し、必要に応じて、シリコーンゴム等からなる中間層(弾性層)を基材層上に形成する。
また、共凝析、溶融混練等により調製した上記の架橋性組成物を、押出成形法によりチューブ状に成形し、必要に応じて加熱等により架橋を行い、架橋成形体を得る。その後、架橋成形体に熱処理を行うことによって、チューブ状のフッ素ゴム成形体を得る。
その後、チューブ状のフッ素ゴム成形体を、基材層又は中間層上に設け、加熱等により接着し、基材層又は中間層上にフッ素ゴム表面層を形成する。
最後に、上記の管状体から基材層、必要に応じて形成した中間層、及び、フッ素ゴム表面層からなる構造体を引き抜くことで、定着用ベルトが得られる。
【0131】
本発明の定着用ロール又は定着用ベルトを得る方法においては、必要に応じて、基材、中間層又はフッ素ゴム表面層に表面処理を行ってもよい。この表面処理としては、接着を可能とする処理方法であれば、その種類は特に制限されるものではなく、例えばプラズマ放電処理やコロナ放電処理等の放電処理、湿式法の金属ナトリウム/ナフタレン液処理等が挙げられる。また、表面処理としてプライマー処理も好適である。プライマー処理は常法に準じて行うことができる。プライマー処理を施す場合、表面処理されていないチューブの内表面をプライマー処理することもできるが、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、金属ナトリウム/ナフタレン液処理等を予め施したチューブの内表面を更にプライマー処理すると、より効果的である。
【実施例】
【0132】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるもの
ではない。
【0133】
本明細書における各種の特性については、つぎの方法で測定した。
【0134】
〔耐磨耗性〕
テーパー磨耗試験機を用い、磨耗輪にコピー用紙(コクヨ社製KB用紙)を貼り、ロール表面に荷重200gで押し当てながら磨耗輪を60rpmの速度で回転させた。1万回転させた後のロール表面を光学顕微鏡で100倍に拡大して、表面の磨耗痕の有無を観察した。
【0135】
フッ素ゴムディスパージョン(A1)
ポリオール架橋可能な2元フッ素ゴム(VdF/HFP共重合体、VdF/HFP=78
/22)のディスパージョン(固形分濃度:24質量%、フッ素ゴムのムーニー粘度(M
1+10(100℃)):80)
【0136】
フッ素ゴムディスパージョン(A2)
ポリオール架橋可能な2元フッ素ゴム(VdF/HFP共重合体、VdF/HFP=78
/22)のディスパージョン(固形分濃度:23質量%、フッ素ゴムのムーニー粘度(M
1+10(100℃)):60)
【0137】
フッ素ゴム(A3)
ポリオール架橋可能な2元フッ素ゴム(ダイキン工業(株)製のG7400BP)
【0138】
フッ素樹脂ディスパージョン(B1)
FEP水性ディスパージョン
(固形分濃度:21質量%、MFR:31.7g/10min(327℃測定)、融点:
約215℃)
【0139】
フッ素樹脂(B2)
ETFE(ダイキン工業(株)製のEP−610)
【0140】
充填剤
カーボンブラック(Cancarb社製のMTカーボン:N990)
【0141】
架橋剤
ビスフェノールAF 特級試薬 和光純薬工業(株)製
BTPPC 特級試薬 和光純薬工業(株)製
架橋助剤
酸化マグネシウム 協和化学工業(株)製 MA150
水酸化カルシウム 近江化学工業(株)製 CALDIC2000
【0142】
実施例1
容量1Lのミキサー内に、水500ccと塩化マグネシウム4gをあらかじめ混合した溶液にFEP水性ディスパージョン(B1)とフッ素ゴムディスパージョン(A1)とを、固形分が体積比で75/25(フッ素ゴム/FEP)となるようにあらかじめ混合した溶液400ccを投入し、ミキサーにて5分間混合し、共凝析した。
共凝析後、固形分を取り出し、120℃×24時間乾燥炉で乾燥させた後、オープンロールにて表1に示す所定の配合物を混合して、架橋性組成物とした。
その後、二軸押出機を用いて、表面をサンドブラスト処理したアルミニウム製の芯金(外径50mm)上に、厚みが0.5mmになるように架橋性組成物を被覆して未架橋のフッ素ゴム表面層を有するロールを得た。得られたロールを180℃で5分間加熱することによりフッ素ゴムを架橋させ、更に230℃に維持された加熱炉中に24時間入れ、加熱処理をして、架橋したフッ素ゴム表面層を有する定着用ロールを得た。
【0143】
実施例2
内容積3リットルの加圧型ニーダーに、フッ素ゴム(A3)とフッ素樹脂(B2)との体積比が75/25で、内容量の75%になる量を投入し、フッ素樹脂(B2)の融点(225℃)以上の230℃の温度で20分間溶融混練し、取り出し室温まで冷却させた後、オープンロールにて表1に示す所定の配合物を混合して、架橋性組成物とした。その後は実施例1と同様の方法で定着用ロールを得た。
【0144】
比較例1
オープンロールにて、フッ素ゴム(A3)に表1に示す所定の配合物を混合して、架橋性組成物とした。その後は実施例1と同様の方法で定着用ロールを得た。
【0145】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明の定着用ロール又は定着用ベルトは非粘着性、耐磨耗性、柔軟性に優れるため、種々の定着装置に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0147】
1:定着用ロール
2、3、23:外部加熱装置
10:ヒーターランプ
11:芯金
12:中間層
13、30:フッ素ゴム表面層
20:加圧ベルト
22、24:ベルト搬送用ローラ
26:加圧パッド
31:凸部
41:温度センサー
50a、50b:剥離爪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを含む架橋性組成物を架橋することにより得られるフッ素ゴム表面層と、
を備えることを特徴とする定着用ロール。
【請求項2】
フッ素樹脂(B)は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び、ポリフッ化ビニルからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載の定着用ロール。
【請求項3】
フッ素樹脂(B)は、パーフルオロフッ素樹脂である請求項1又は2記載の定着用ロール。
【請求項4】
フッ素樹脂(B)は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体である請求項1、2又は3記載の定着用ロール。
【請求項5】
フッ素ゴム(A)は、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビ
ニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、
テトラフルオロエチレン/プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/
ビニリデンフルオライド共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチ
レン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフルオライド共重合体、エチレン/ヘキサ
フルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド/テト
ラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、及び、ビニリ
デンフルオライド/クロロトリフルオロエチレン共重合体からなる群より選択される少な
くとも1種である
請求項1、2、3又は4記載の定着用ロール。
【請求項6】
基材と、
フッ素ゴム(A)とフッ素樹脂(B)とを含む架橋性組成物を架橋することにより得られるフッ素ゴム表面層と、
を有することを特徴とする定着用ベルト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−20025(P2013−20025A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152259(P2011−152259)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】