説明

定着装置および画像形成装置

【課題】抵抗発熱体層の機械的強度の低下を抑制して、従来よりもベルトの耐久性を高めることができる定着装置および当該定着装置を用いた画像形成装置を提供する。
【解決手段】抵抗発熱体層512を有する無端状のベルト51を用いた定着装置であって、ベルト51は、抵抗発熱層512の、少なくとも記録シートの通紙領域R1に対応する部分の全域を挟むようにして積層された第1および第2の電極層D1,D2を有し、第1と第2の電極層D1,D2を介して抵抗発熱層512に給電するように構成されている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置および当該定着装置を用いた画像形成装置に関し、特に、抵抗発熱体層を有するベルトを用いた定着装置において、当該ベルトの耐久性を向上させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンタ、複写機等の画像形成装置の定着装置として、ジュール発熱する抵抗発熱体の層を有するベルトを用いた定着装置が利用されている。
特許文献1には、抵抗発熱体層を有する無端状のベルトと、ベルトの周面を押圧してニップ部を形成する加圧ローラとを備え、ニップ部に未定着画像が形成された記録シートを通紙して熱定着させる定着装置が開示されている。ベルトには、その幅方向(回転軸方向)両端に電極層がそれぞれ設けられており、外部電源からの電力が当該両端の電極層を介して抵抗発熱体層に供給される構成となっている。
【0003】
また、特許文献1には、かかる抵抗発熱体層を、耐熱性の絶縁樹脂の中に導電性フィラーを分散して構成する技術が開示されている。このような抵抗発熱体層では、絶縁樹脂中の導電性フィラーの量(体積含有率)を変えることにより、単位体積当たりの電気抵抗率[Ω・m]を調整することができ、所望の発熱量が得られる電気抵抗値[Ω]に設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−109997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、抵抗発熱体層の発熱量は、供給電圧が同じ場合には、電気抵抗値に反比例する。また、抵抗発熱体層の電気抵抗値は、電気抵抗率および通電距離に比例する。
従来の定着装置では、ベルトの幅方向両端に電極層があり、抵抗発熱体層に供給される電流はベルト幅方向に流れるので、通電距離が、記録シートの最大通紙幅以上必要であり長くなっている。このため、所望の発熱量が得られる電気抵抗値にするのに、単位体積当たりの電気抵抗率を低くしなければならず、よって、導電性フィラーの体積含有率を高くしている。この場合、導電性フィラーの体積含有率が高くなり過ぎると、抵抗発熱体層の機械的強度が低下して脆くなるために、ベルトの耐久性が低下するという問題が生じる。
【0006】
本発明は、上述のような問題に鑑みてなされたものであって、抵抗発熱体層の機械的強度の低下を抑制して、従来よりもベルトの耐久性を高めることができる定着装置および当該定着装置を用いた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る定着装置は、抵抗発熱体層を有する無端状のベルトの周面に加圧部材を押圧させてニップ部を形成し、当該ニップ部に未定着画像が形成された記録シートを通紙して熱定着させる定着装置であって、前記ベルトは、前記抵抗発熱層の、少なくとも記録シートの通紙領域に対応する部分の全域を挟むようにして積層された第1および第2の電極層を有し、当該第1と第2の電極層を介して前記抵抗発熱層に給電するように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記構成の定着装置によれば、第1および第2の電極層が、抵抗発熱体層を挟むようにして積層されていて、抵抗発熱体層の厚み方向に通電されるので、抵抗発熱体層のベルトの幅方向に通電される従来の定着装置と比べて、通電距離を大幅に短くすることができる。
これにより、抵抗発熱体層の電気抵抗値が同じであれば、従来よりも通電距離が大幅に短くなった分、単位体積当たりの電気抵抗率を高くすることができるので、抵抗発熱体層が、耐熱性の絶縁樹脂の中に導電性フィラーを分散して構成する場合には、導電性フィラーの体積含有率を低く抑えることができる。その結果、抵抗発熱体層の機械的強度の低下を抑制することができ、よって、従来よりもベルトの耐久性を高めることができる。
【0009】
ここで、抵抗発熱層は、耐熱性の絶縁樹脂と、当該絶縁樹脂中に分散された導電性フィラーとからなるのが好ましい。
また、ベルトの幅方向の両端部において、第1と第2の電極層の少なくとも一方の電極層の端部が、抵抗発熱体層の端部よりも後退するように形成されているのが好ましい。これは、第1の電極層と第2の電極層との間における、抵抗発熱体層の沿面距離を確保するためであり、それにより、抵抗発熱体層の沿面(表面)を流れる電流を抑制することができるからである。この沿面距離は、5[mm]以上であるのが好ましい。
【0010】
また、ここで、第1と第2の電極層のそれぞれの非通紙領域部分に接して給電するための第1と第2の給電部材を備え、第1の給電部材と第2の電極層間の空間距離、第2の給電部材と第1の電極層間の空間距離が、それぞれ所定値以上となるように、第1と第2の給電部材の配設位置が決定されているのが好ましい。これは、第1の給電部材と第2の電極層間、および第2の給電部材と第1の電極層間の間で、放電が発生しないようにするためである。ここでの所定値、すなわち空間距離は、4[mm]以上であるのが好ましい。
【0011】
また、給電部材の取付容易性の観点から、ベルトにおいて、抵抗発熱体層を挟んでベルトの外周側が第1の電極層、ベルトの内周側が第2の電極層としたときに、第2の電極層の、ベルトの幅方向の少なくとも一方の端部が、抵抗発熱体層および第1の電極層の各端部よりもベルト幅方向外側に延びて、その部分の外周面が露出されており、第2の給電部材が、第2の電極層の、露出された外周面に接し、かつ第1の給電部材が第1の電極層の外周面に接するように配設されているのが好ましい。
【0012】
一方、小型化の観点からは、ベルトにおいて、抵抗発熱体層を挟んでベルトの外周側が第1の電極層、ベルトの内周側が第2の電極層としたときに、次の2つの構成のうち何れかの構成にするのが好ましい。1つは、第1の給電部材が第1の電極層の外周面に接し、第2の給電部材が第2の電極層の内周面に接するように配置されている構成である。もう1つは、第1の電極層の、ベルトの幅方向の少なくとも一方の端部が、抵抗発熱体層および第2の電極層の各端部よりもベルト幅方向外側に延びて、その部分の内周面が露出されており、第1の給電部材が、第1の電極層の、露出された内周面に接し、かつ第2の給電部材が第2の電極層の内周面に接するように配設されている構成である。
【0013】
また、ここで、第1の給電部材が、ベルトの幅方向の一方の端部に配設されていて、その反対側の端部に、第2の給電部材が配設されているのが好ましい。これは、電極層の内部でも多少なりとも電位勾配が生じることから、第1および第2の給電部材をともにベルト幅方向一端に配設した場合と比べて、抵抗発熱体層を流れる電流分布を均一にすることができるからである。
【0014】
また、抵抗発熱体層の絶縁樹脂は、ポリイミド樹脂であるのが好ましい。これは、耐熱性および耐圧性の点において、ポリイミド樹脂が優れているからである。
また、本願の発明は、上記構成の定着装置を備えた画像形成装置であってもよく、これにより上記構成の定着装置と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るプリンタの構成を示す概略図である。
【図2】上記プリンタにおける定着部の主要部の構成を示す斜視図である。
【図3】図2の定着装置を仮想面Vで切断したときのY´方向から見た断面図である。
【図4】定着ベルトの積層構造を説明するための部分断面図である。
【図5】本実施の形態の定着部と従来の定着装置において、定着ベルトの抵抗発熱体層の通電距離、通電断面積および電気抵抗率を比較した図である。
【図6】(a)は、本発明の第2の実施の形態に係る定着部の主要部の構成を示す模式側面図であり、(b)は、定着部が有する定着ベルトの積層構造を説明するための部分断面図である。
【図7】(a)は、本発明の第3の実施の形態に係る定着部の主要部の構成を示す模式側面図であり、(b)は、定着部が有する定着ベルトの積層構造を説明するための部分断面図である。
【図8】(a)は、本発明の第4の実施の形態に係る定着部の主要部の構成を示す模式側面図であり、(b)は、定着部が有する支持部材の積層構造を説明するための部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1の実施の形態>
以下、本発明に係る画像形成装置の第1の実施の形態について、タンデム型フルカラープリンタ(以下、単に「プリンタ」という)を例にして図面に基づき説明する。
<プリンタの全体構成>
図1は、プリンタの構成を示す概略図である。
【0017】
同図に示すように、プリンタ1は、画像プロセス部3、給紙部4、定着部5および制御部60を備えている。このプリンタ1は、ネットワーク(例えばLAN)に接続されていて、外部の端末装置(不図示)からのプリントジョブの実行指示を受付けると、その指示に基づいてイエロー、マゼンダ、シアンおよびブラックの各色のトナー像を形成し、これらを多重転写してフルカラーの画像を形成した後、記録シートへの印刷処理を実行する構成を有している。
【0018】
以下、イエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの各再現色をY,M,C,Kと表し、各再現色に関連する構成部分の番号にこのY,M,C,Kを添字として付加する。
画像プロセス部3は、Y〜K色のそれぞれに対応する作像部3Y,3M,3C,3K、光学部10、中間転写ベルト11などを備えている。
作像部3Yは、感光体ドラム31Y、その周囲に配設された帯電器32Y、現像器33Y、一次転写ローラ34Y、感光体ドラム31Yを清掃するためのクリーナ35Yなどを備えており、感光体ドラム31Y上にY色のトナー像を作像する。他の作像部3M〜3Kも、作像部3Yと同様の構成になっており、同図では符号を省略している。
【0019】
中間転写ベルト11は、無端状のベルトであり、駆動ローラ12と従動ローラ13に張架されて矢印A方向に循環走行される。
光学部10は、レーザダイオードなどの発光素子を備え、制御部60からの駆動信号によりY〜K色の画像形成のためのレーザ光Hを発し、感光体ドラム31Y〜31Kを露光走査する。
【0020】
この露光走査により、帯電器32Y〜32Kにより帯電された感光体ドラム31Y〜31K上に静電潜像が形成される。
各静電潜像は現像器33Y〜33Kにより現像されて、感光体ドラム31Y〜31K上にY〜K色のトナー像が作像される。
作像された各トナー像は、一次転写ローラ34Y〜34Kに印加された電圧による静電力により中間転写ベルト11上に一次転写される。この際、各色のトナー像が、走行する中間転写ベルト11の同じ位置に重ね合わせて転写されるように、作像部3Y,3M,3C,3Kにおける作像動作は、中間転写ベルト11の走行方向上流側から下流側に向けてタイミングをずらして実行される。
【0021】
一次転写の後、二次転写ローラ45に印加された電圧による静電力により、中間転写ベルト11上のトナー像が、給紙部4より搬送されてきた記録シートS上に一括して二次転写される。
給紙部4は、記録シートSを収容する給紙カセット41と給紙カセット41内の記録シートSを搬送路43上に一枚ずつ繰り出す繰り出しローラ42と、繰り出された記録シートSを二次転写位置46に送り出すタイミングをとるためのタイミングローラ対44などを備えている。記録シートSは、中間転写ベルト11上のトナー像のタイミングに合わせて給紙部4から二次転写位置46に搬送される。
【0022】
上記二次転写により、トナー像(未定着画像)が形成された記録シートSは、さらに定着部5に搬送される。定着部5において、記録シートS上のトナー像が加熱・加圧されて熱定着される。その後、記録シートSは、排出ローラ対71により排出トレイ72上に排出される。
制御部60は、これら画像プロセス部3、給紙部4および定着部5の動作を制御するものである。
<定着部の構成>
次に、定着部5の構成について、図2および図3を参照しながら説明する。
【0023】
図2は、定着部5の主要部の構成を示す斜視図であり、図3は、図2の仮想面Vで切断したときのY´方向から見た断面図である。
定着部5は、抵抗発熱体層を有する無端状の定着ベルト51と、定着ベルト51の内側に遊嵌された押圧ローラ52と、定着ベルト51の外側に配された加圧ローラ53と、定着ベルト51に電力を供給する給電部材54a,54b、付勢部56a,56bとを備えている。定着部5では、加圧ローラ53が、定着ベルト51を介して押圧ローラ52に押圧されており、定着ベルト51と加圧ローラ53との間に定着ニップ部N(図3参照)が形成されている。
【0024】
また、加圧ローラ53は、モータ(不図示)を動力源とし、歯車ギアやベルトなどの動力伝達機構を介して回転駆動される。押圧ローラ52および定着ベルト51は、加圧ローラ53の回転に従動して回転駆動され、互いに連動している。加圧ローラ53が矢印C方向に、押圧ローラ52および定着ベルト51が矢印B方向にそれぞれ回転する。なお、図2に示す仮想面Vは、定着ベルト51が回転駆動されたときの回転中心の仮想軸J(以下、回転軸Jという)に直交する面である。
【0025】
以下、定着部5における各構成要素について詳しく説明する。
(押圧ローラ)
押圧ローラ52は、長尺で円柱状の芯金521の周囲に弾性層522が形成されてなる。
芯金521は、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等からなり、その軸方向両端部に、定着部5の、不図示の筐体に設けられた軸受部に回転自在に支持される軸部521a,521bを有している。弾性層522は、耐熱性および断熱性の高い、例えば、シリコーンゴムやフッ素ゴム等の発泡弾性体などの材料からなる。この弾性層522を設けることにより、押圧ローラ52と定着ベルト51とが弾性接触するようにして、できるだけ接触圧の偏りを無くし、接触状態が良好になるようにしている。また、この弾性層522が断熱材としても機能するので、定着ベルト51で発生した熱が、押圧ローラ52を介して放熱されるのを抑制することができる。弾性層522の厚みは1〜20[mm]が好ましい。
【0026】
ここでは、芯金521(軸部521a,521bを除く)の外径が約18[mm]、弾性層522の厚みが約5[mm]であり、これらを合わせた押圧ローラ52の外径は、定着ベルト51の内径よりも小さく、30[mm]未満に設定されている。また、押圧ローラ52の軸部521a,521bを除いた長さは、定着ベルト51の幅寸法と等しい。
(加圧ローラ)
加圧ローラ53は、長尺で円柱状の芯金531の周囲に、弾性層532と離型層533とがこの順に積層されている。
【0027】
芯金531は、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等からなり、その軸方向両端部に、定着部5の、不図示の筐体に設けられた軸受部に回転自在に支持される軸部531a,531bを有している。弾性層532は、例えば、シリコーンゴムからなり、離型層533は、例えば、PFA等のフッ素系樹脂からなる。この弾性層532を設けることにより、加圧ローラ53と定着ベルト51とが弾性接触するようにして、できるだけ接触圧の偏りを無くし、接触状態が良好になるようにしている。弾性層532の厚みは1〜20[mm]、離型層533の厚みは10〜50[μm]が好ましい。
【0028】
ここでは、芯金531(軸部531a,531bを除く)の外径が約30[mm]、弾性層532の厚みが約3[mm]である。また、加圧ローラ53の軸部531a,531bを除いた長さは、定着ベルト51の記録シートSが通紙される通紙領域R1の幅よりも大きく、かつ定着ベルト51の両端部において、第1および第2の電極層D1,D2と接触しない大きさ330[mm]に設定されている。
(給電部材)
給電部材54a,54bは、ブロック状のカーボンブラシであって、摺動性および電導性を有する銅黒鉛質や炭素黒鉛質等の材料からなる。給電部材54a,54bは、それぞれリード線55を介して電源500に電気的に接続されている。
【0029】
給電部材54aは、不図示のガイド部材により矢印E方向(図3参照)に移動可能に保持され、付勢部56aにより定着ベルト51に向けて付勢されている。これにより、給電部材54aが、定着ベルト51の第1の電極層D1に摺接される。給電部材54bも、同様に保持されていて、付勢部56bにより定着ベルト51に向けて付勢され、第2の電極層D2に摺接される。
【0030】
給電部材54a,54bの大きさは、例えば、縦10[mm](Y軸方向)、横5[mm](X軸方向)、高さ11[mm](Z軸方向)に設定されている。
電源500は、例えば、電圧100[V]、周波数が50[Hz]または60[Hz]の家庭用電源である。なお、リード線55には、制御部60からの入力信号に基づいて、電力供給をON・OFF制御する公知の継電器(リレースイッチ)(不図示)が挿設されている。
(付勢部)
図3に示すように、付勢部56aは、基台57と、基台57に一端が取り付けられた圧縮コイルばね58とで構成されている。この基台57は、定着部5の不図示の筐体もしくはフレームに取り付けられ、圧縮コイルばね58が、圧縮された状態で基台57と給電部材54aとの間に介挿されてなる。
【0031】
なお、定着ベルト51の内側では、押圧ローラ52が定着ベルト51の内周面に接触して支持する支持部材として機能している。これにより、給電部材54aと押圧ローラ52との間で、定着ベルト51を挟み込むように構成している。ここでの圧縮コイルばね58による付勢方向Eは、押圧ローラ52の半径方向の中心G側に向かう方向となっており、できるだけ給電部材とベルトとの接触圧の偏りを無くして、給電部材の部分的な摩耗を防ぐようにしている。
【0032】
付勢部56bも同様に構成されている。よって、給電部材54bも、付勢部56bが有する圧縮コイルばねにより付勢されており、付勢された給電部材54bと押圧ローラ52との間で、定着ベルト51を挟み込むように構成している。
(定着ベルト)
図4は、定着ベルト51の構造を説明するため、定着ベルト51を回転軸J方向(図2参照)に切断したときの部分断面図である。
【0033】
図4に示すように、定着ベルト51は、絶縁層511、第2の電極層D2、抵抗発熱体層512、第1の電極層D1、弾性層513および離型層514がこの順で積層された積層構造となっている。
絶縁層511は、第1の電極層D1の抵抗発熱体層512とは反対側の表面を絶縁するとともに、ベルトの強度を確保する層である。また、絶縁層511は、抵抗発熱体層512で発生した熱が第2の電極層D2を介してベルト内側の押圧ローラ52に熱伝導するのを抑制する機能も有している。このような絶縁層511の構成材料として、例えば、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等の耐熱性の絶縁樹脂を用いることができる。
【0034】
抵抗発熱体層512は、電力供給を受けてジュール熱を発生させる層であり、耐熱性の絶縁樹脂に、導電性フィラーを均一に分散して構成されている。このような抵抗発熱体層512では、絶縁樹脂中の導電性フィラーの体積含有率を変えることで、単位体積当たりの電気抵抗率を調整することができ、所望の発熱量が得られる電気抵抗値に設定されている。
【0035】
抵抗発熱体層512を構成する耐熱性の絶縁樹脂として、PI,PPS,PEEK等を用いることができる。好ましくは、耐熱性および耐圧性の点で最も優れているPIを用いるのがよい。よつて、本実施の形態では、PIを用いている。また、導電性フィラーとしては、銀、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル等の金属粉末や、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、カーボンマイクロコイル等の炭素化合物粉末、およびこれらのうち2種類以上混合したものを用いることができる。導電性フィラーの形状は、繊維状、フレーク状または球状が好ましい。また、導電性フィラーの大きさは、平均粒径0.01〜10[μm]程度が好ましく、繊維状の場合は、さらに繊維長さが0.1〜30[μm]程度が好ましい。
【0036】
弾性層513は、耐熱性、弾性および絶縁性を有するゴム材や樹脂材、例えばシリコーンゴムからなる。この弾性層513を設けることにより、トナー像が押しつぶされたり、トナー像が不均一に溶融されたりするのを防止し、画像ノイズの発生を防止している。
離型層514は、定着後の記録シートSとの離型性を高めるための層であり、耐熱性を有し、離型性に優れた絶縁樹脂からなる。当該絶縁樹脂として、例えば、PFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体)等のフッ素樹脂を使用することができる。
【0037】
第1および第2の電極層D1,D2は、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、真鍮、リン青銅等の金属材料を用いて形成される。本実施の形態では、耐酸化性、耐熱性および良導性に優れたニッケルを用いている。
上記各層511〜514,D1,D2は、定着ベルト51の通紙領域R1の全域、および通紙領域R1のベルト幅方向(図2の回転軸J方向)両側の非通紙領域R2,R3の少なくとも一部に亘ってそれぞれ形成されている。
【0038】
このうち第1の電極層D1は、ベルト幅方向の一方の端部D1a(非通紙領域R2側)が、弾性層513および離型層514の各端部よりもベルト幅方向外側に延びており、第1の電極層D1の外周面D1cの一部が露出している。この外周面D1cの露出した部分に、給電部材54aが摺接されている。第2の電極層D2は、ベルト幅方向の他方の端部D2b(非通紙領域R3側)が、抵抗発熱体層512の端部512bよりもベルト幅方向外側に延びており、第2の電極層D2の外周面D2cの一部が露出している。この外周面D2cの露出した部分に、給電部材54bが摺接されている。これら給電部材54a,54b、第1および第2の電極層D1,D2を介して、抵抗発熱体層512に電源500(図2参照)からの電力が供給され、抵抗発熱体層512の厚み方向Tに電流が流れる構成となっている。
【0039】
なお、第1の電極層D1の両端部D1a,D1bは、それぞれ抵抗発熱体層512の両端部512a,512bよりもベルト幅方向内側に後退している。これは、第1の電極層D1と第2の電極層D2との間における、抵抗発熱体層512の沿面距離α1,α2を所定値以上確保するためであり、それにより、抵抗発熱体層512の沿面(表面)を流れる電流を抑制している。また、これにより、例えば、当該沿面に湿気を含んだ埃が付着して、第1の電極層D1と第2の電極層D2間にリーク電流が発生するのを抑制することができる。ここでの沿面距離α1,α2は、5[mm]以上が好ましい。
【0040】
また、こうして第1の電極層D1の端部D1bを後退させるとともに、給電部材54bの配置位置を調整することにより、第1の電極層D1と給電部材54bとの間の空間距離βを所定値以上確保している。これにより、第1の電極層D1と給電部材54bとの間で放電が発生しないようにしている。ここでの空間距離βは、4[mm]以上が好ましい。
なお、第2の電極層D2と給電部材54aとの間には、抵抗発熱体層512および第1の電極層D1が介在しているので、放電は発生しないことから、空間距離を考慮する必要がない。
【0041】
上記各層の厚みは、全周に亘って均一である。具体的には、絶縁層511が5〜100[μm]、抵抗発熱体層512が5〜100[μm]、弾性層513が10〜800[μm]、離型層514が5〜100[μm]、第1および第2の電極層D1,D2が5〜50[μm]である。
定着ベルト51の幅寸法は、記録シートSの通紙領域R1、および非通紙領域R2,R3の各幅を考慮して378[mm]に設定されている。なお、通紙領域R1の幅は、例えば、最大通紙幅(A3縦通し)よりも若干大きい寸法に設定されている。定着ベルト51の内径は、30[mm]に設定されている。
【0042】
上記構成の定着部5によれば、定着ベルト51の第1および第2の電極層D1,D2が、抵抗発熱体層512の少なくとも通紙領域R1に対応する部分の全域を挟むようにして積層され、抵抗発熱体層512の厚み方向Tに電流が流れるので、抵抗発熱体層のベルト幅方向に電流が流れる従来の定着装置と比べて、通電距離L(図4参照)が大幅に短くなっている。
【0043】
これにより、抵抗発熱体層の電気抵抗値が同じであれば、従来の定着装置と比べて、通電距離Lが短くなる分、抵抗発熱体層512において単位体積当たりの電気抵抗率を高くすることができる。したがって、抵抗発熱体層512の導電性フィラーの体積含有率を下げることができるので、導電性フィラーの体積含有率に起因する、抵抗発熱体層512の機械的強度の低下を抑制することができ、脆くなるのを防止することができる。その結果、従来よりもベルトの耐久性を高めることができる。
【0044】
図5は、本実施の形態の定着部5(実施例)と従来の定着装置(比較例)において、定着ベルトの抵抗発熱体層の通電距離、通電断面積および電気抵抗率を比較した図である。
本比較では、図5に示すように、供給電圧、抵抗発熱体層の各寸法(幅M1、厚みM2、内径M3)および電気抵抗値Rを同じ値にしている。なお、ここでの電気抵抗値Rは、供給電圧100[V]での消費電力が1180W程度になるように設定された値(8.5[Ω])である。
【0045】
先ず、通電距離Lを見ると、比較例では、通電距離Lが抵抗発熱体層の幅M1の340[mm]もあるのに対して、実施例では、通電距離Lが抵抗発熱体層の厚みM2の0.04[mm]と大幅に短くなっている(比較例の1/8500)。
一方、通電断面積Sでは、比較例では3.8[mm]しかないのに対して、実施例では32,028[mm]と極めて大きくなっている(比較例の8500倍)。なお、ここでの通電断面積Sは、抵抗発熱体層の内周長さ(=内径M3×円周率)を用いて、比較例では、「内周長さ×厚みM2」で求め、実施例では、「内周長さ×幅M1」で求めたものである。
【0046】
そして、単位体積当たりの電気抵抗率ρが、これら電気抵抗値R、通電距離Lおよび通電断面積Sを用いて求められている(ρ=R×(S/L))。
こうして求められた電気抵抗率ρを見ると、比較例では、9.4×10−5[Ω・m]と極めて低いのに対して、実施例では、6.8×10[Ω・m]と逆に極めて高く、本比較においては比較例の約7×10倍にもなっている。したがって、実施例では、抵抗発熱体層の導電性フィラーの体積含有率を、比較例よりも大幅に下げることができるので、抵抗発熱体層の機械的強度の低下を抑制でき、脆くなるのを防止することができるようになる。
【0047】
この場合、電気抵抗率ρを高くするため、導電性フィラーの体積含有率を下げる際、単に、導電性フィラーの量(個数)を減らすのではなく、導電性フィラーの大きさをより小さくして、その分、個数の減少を抑制するのが望ましい。これは、導電性フィラー同士の間隔が、従来と比べて大きくなり過ぎて、それによって抵抗発熱体層に温度ムラが生じ、定着ムラが発生するのを抑制するためである。
【0048】
なお、本実施の形態では、第1および第2の電極層D1,D2が金属材料で構成されており、熱伝導性が良いことから、仮に、抵抗発熱体層512で温度ムラが生じるとしても、第1および第2の電極層D1,D2で当該温度ムラを緩和することができるので、定着ムラが発生するのを抑制することができる。
<製造方法>
次に、本実施の形態の定着部5が備えた定着ベルト51の製造方法の一例について説明する。
【0049】
ここでは、定着ベルト51の抵抗発熱体層512、第1および第2の電極層D1,D2の製造工程を説明し、他の工程についてはその説明を省略する。また、ここでは、定着ベルト51が完成するまでの中間体を「ベルト中間体」と称する。このベルト中間体の内側には、定着ベルト51が完成するまでの間、円柱状の中子が嵌め込まれている。
(1)先ず、第1ベルト中間体(絶縁層511のみ形成された状態)の外周面に、無電解メッキによりニッケル層を形成する。その後、ニッケル電鋳により、ニッケル層の厚みが、例えば20[μm]になるまでメッキ処理を行う。
【0050】
この工程で、絶縁層511にニッケル層からなる第2の電極層D2が形成された第2ベルト中間体が形成される。
このように無電解メッキに加えてニッケル電鋳を行うことで、無電解メッキだけの場合と比べて、メッキ処理をより効率的に行うことができる。
(2)次に、耐熱性絶縁樹脂のPIと、導電性フィラーと、エポキシ等の接着成分とを、均一に分散させて、抵抗発熱体層512を形成するためのワニスを調製する。
【0051】
この工程では、抵抗発熱体層512の単位体積当たりの電気抵抗率ρが設計値に近づくように、導電性フィラーの体積含有率を計算して、得られた体積含有率となる量の導電性フィラー分散している。
(3)その後、公知のリングコータ式の製膜機を用いて、抵抗発熱体層を形成する。
具体的に、製膜機の円柱状金型とリングコータとの間に、上記調製したワニスを供給し、リングコータを上に移動させるようにして、円柱状金型の周面に当該ワニスの塗布膜を形成し、これを乾燥させて抵抗発熱体層を形成する。
【0052】
抵抗発熱体層の厚みは、円柱状金型とリングコータとの間のギャップの大きさにより調整することができる。
そして、抵抗発熱層を円柱状金型から取り外して所定の長さに切断し、これを上記工程(1)で形成した第2ベルト中間体の外側に嵌め込むことにより、第2の電極層D2に抵抗発熱体層512が積層された第3ベルト中間体が出来上がる。
【0053】
この際における、抵抗発熱層の長さは、第2ベルト中間体の長さよりも給電部材54bの接触部D2b(図4)だけ短くなるように設定される。
なお、成膜機の円柱状金型に、予め第2ベルト中間体を嵌め込んだ後に、リングコータによりワニスの塗布膜を形成して、抵抗発熱層512を積層するようにしても構わない。
(4)次に、抵抗発熱体層512が形成された第3ベルト中間体の外周面の一部に、テープなどでマスキングを施す。
【0054】
ここでは、第2の電極層D2の外周面D2cの露出した領域、および抵抗発熱体層512のベルト幅方向の両端部512a,512b(図4参照)をマスキングする。これにより、次工程で形成される第1の電極層D1の両端部D1a,D1bが、抵抗発熱体層512の両端部512a,512bよりもベルト幅方向内側に後退するようにしている。
(5)そして、マスキングを施した第3ベルト中間体の外周面に、無電解メッキによりニッケル層を形成し、その後、ニッケル電鋳により、ニッケル層の厚みが、例えば20[μm]になるまでメッキ処理を行う。
【0055】
この工程で、ニッケル層からなる第1の電極層D1が積層された第4ベルト中間体が形成される。なお、ここでも、先に無電解メッキを行うのは、抵抗発熱体層512が完全な導電体ではないからであり、メッキの接着性を高めるためである。
以上の工程を実施することにより、均一な厚みの抵抗発熱体層512、第1および第2の電極層D1,D2を形成することができる。
【0056】
最後に、上記第4ベルト中間体に弾性層513および離型層514を形成して、定着ベルト51が完成する。
<第2の実施の形態>
第2の実施の形態に係る定着部は、定着ベルトに給電する2つの給電部材のうちの一方が、定着ベルトの内側に配されている点で、第1の実施の形態とは相違する。
【0057】
その他の構成については基本的に第1の実施の形態の定着部5と同様であるので、同じ構成については、簡単のため、同じ符号で示し、その説明を省略する。
図6(a)は、第2の実施の形態に係る定着部100の主要部の構成を示す模式側面図である。
図6(a)に示す定着部100では、定着ベルト110の内側に、押圧ローラ102および給電部材104bが配され、定着ベルト110の外側に、加圧ローラ53、給電部材104aおよび付勢部105が配されている。
【0058】
押圧ローラ102の外径寸法は、定着ベルト110の内側に、給電部材104bを配するスペースを確保するため、第1の実施の形態の押圧ローラ52に比べて小さく設定されている。給電部材104bは、定着ベルト110の内周に摺接するように、不図示のフレームなどに支持され、上記確保されたスペースに配されている。他方の給電部材104aは、定着ベルト110を挟んで給電部材104bとは反対側に配され、付勢部105により付勢(矢印E方向)されて定着ベルト110の外周に摺接されている。
【0059】
図6(b)は、定着ベルト110を回転軸方向に切断したときの部分断面図である。
図6(b)に示すように、定着ベルト110は、絶縁層111、第2の電極層D4、抵抗発熱体層112、第1の電極層D3、弾性層113および離型層114がこの順で積層され、抵抗発熱体層112に供給される電流が厚み方向Tに流れるように構成されている点で、第1の実施の形態の定着ベルト51と共通している。
【0060】
なお、定着ベルト110が、第1の実施の形態の定着ベルト51と相違するのは、給電部材104bを第2の電極層D4の内周面D4cに摺接させるため、絶縁層111の端部111a(非通紙領域R2側)を、第2の電極層D4の端部D4aよりもベルト幅方向内側に後退させ、第2の電極層D4の内周面D4cの一部を露出させている点のみである。
本実施の形態においても、抵抗発熱体層112の厚み方向Tに電流が流れるので、従来の定着装置と比べて、通電距離Lが大幅に短くなり、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0061】
また、本実施の形態では、給電部材104a,104bが、定着ベルト110の外周側、内周側に配されているので、図6(b)に示すように、ベルト幅方向(Y−Y´方向)に見たときに、給電部材104a,104bの位置を合わせることができる。これにより、第1の実施の形態のように、給電部材54a,54bがベルト幅方向にずれる場合と比べて、定着ベルトの幅を短くすることができ、よって、定着部の小型化が図れるという利点がある。
<第3の実施の形態>
第3の実施の形態に係る定着部は、定着ベルトに給電する2つの給電部材が、共に定着ベルトの内側に配されている点で、第1の実施の形態とは相違する。
【0062】
その他の構成については基本的に第1の実施の形態の定着部5と同様であるので、同じ構成については、簡単のため、同じ符号で示し、その説明を省略する。
図7(a)は、第3の実施の形態に係る定着部140の主要部の構成を示す模式側面図である。
図7(a)に示す定着部140では、定着ベルト150の内側に、押圧ローラ142、給電部材144a,144bおよび付勢部145が配され、定着ベルト150の外側に加圧ローラ53が配されている。
【0063】
押圧ローラ142の外径寸法は、定着ベルト110の内側に、給電部材144a,144bおよび付勢部145を配するスペースを確保するため、第1の実施の形態の押圧ローラ52に比べて小さく設定されている。こうして確保されたスペースに、給電部材144a,144bが配され、付勢部145により付勢(矢印E方向)されて定着ベルト150の内周に摺接されている。なお、付勢部145は不図示のフレームに支持されている。
【0064】
図7(b)は、定着ベルト150を回転軸方向に切断したときの部分断面図である。
図7(b)に示すように、定着ベルト150は、絶縁層151、第2の電極層D6、抵抗発熱体層152、第1の電極層D5、弾性層153および離型層154がこの順で積層され、抵抗発熱体層152に供給される電流が厚み方向Tに流れるように構成されている点で、第1の実施の形態の定着ベルト51と共通している。
【0065】
なお、定着ベルト150が、第1の実施の形態の定着ベルト51と相違するのは、給電部材144aを第1の電極層D5の内周面D5cに、給電部材144bを第2の電極層D6の内周面D6cにそれぞれ摺接させるため、内周面D5c,D6cの一部を露出させている点のみである。
本実施の形態においても、抵抗発熱体層152の厚み方向Tに電流が流れるので、従来の定着装置と比べて、通電距離Lが大幅に短くなり、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0066】
また、本実施の形態では、給電部材144a,144bが、共に定着ベルト110の内側に配されているので、給電部材を定着ベルトの外側に配する場合と比べて、定着部の小型化を図ることができる。しかも、定着ベルトの内側は、定着ベルトの外側に比べると、紙粉等の異物が比較的少ないので、当該異物が電極層に付着して、電極層と給電部材との間に接触不良が生じる可能性を低くすることができるという利点がある。
<第4の実施の形態>
第4の実施の形態に係る定着部は、定着ベルトの内側に、押圧ローラに代えて長尺状の支持部材を配し、加圧ローラを、定着ベルトを介して当該支持部材に押圧することにより定着ニップ部を形成する構成としている点で、第3の実施の形態とは相違する。
【0067】
その他の構成については基本的に第3の実施の形態の定着部140と同様であるので、同じ構成については、簡単のため、同じ符号で示し、その説明を省略する。
図8(a)は、第4の実施の形態に係る定着部160の主要部の構成を示す模式側面図である。
図8(a)に示す定着部160では、定着ベルト150の内側に、長尺状の支持部材162、給電部材144aおよび不図示の給電部材144bが配されている。この支持部材162には、定着ベルト150の内周に摺接される円弧状の摺接面162cが形成されている。また、支持部材162は、図8(b)に示すように、長さ方向の両端に切欠部162a,162bが形成されている。この切欠部162aの位置に、給電部材144aが配され、支持部材162に取り付けられた圧縮コイルばね165により付勢(矢印E方向)されている。これにより、給電部材144aが定着ベルト150の第1の電極層D5の内周面D5c(図7(b)参照)に摺接される。また、切欠部162bにおいても同様であり、不図示の給電部材144bが配されていて、圧縮コイルばね165により付勢されている。これにより、給電部材144bが定着ベルト150の第1の電極層D5の内周面D5c(図7(b)参照)に摺接される。
【0068】
本実施の形態においても、第3の実施の形態の定着ベルト150を用いており、抵抗発熱体層152の厚み方向Tに電流が流れるので、従来の定着装置と比べて、通電距離Lが大幅に短くなり、第3の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
[変形例]
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明が上述の実施の形態に限定されないのは勿論であり、以下のような変形例を実施することができる。
【0069】
(1)上記実施の形態では、定着ベルトの抵抗発熱体層を、耐熱性の絶縁樹脂と、当該絶縁樹脂中に均一に分散された導電性フィラーとからなる構成を示したが、これに限定するものではない。例えば、これらに加えて、機械的強度を高めるために、ガラスファイバー、ウィスカ、酸化チタン、チタン酸カリウムなどを用いてもよく、また、熱伝導性を高めるために、窒化アルミ、アルミナなどを用いても構わない。さらに、製造安定性を向上させるため、イミド化剤、カップリング剤、界面活性剤、消泡剤などを加えても良い。
【0070】
また、導電性フィラーとして、金属粉末や炭素化合物粉末を用いる構成を示したが、これに限定するものではなく、例えば、金属合金や金属間化合物などの導電性粒子を用いた構成としてもよい。金属粉末や炭素化合物粉末に、金属合金や金属間化合物などの導電性粒子を加えた構成とすることもできる。
抵抗発熱体層の構成は、定着ベルトの仕様に応じて、適宜選択することができる。
【0071】
(2)上記実施の形態では、抵抗発熱体層が、定着ベルトの通紙領域R1だけでなく、非通紙領域R2,R3に亘って形成された構成を示したが、抵抗発熱体層は、少なくとも通紙領域R1にあればよいので、非通紙領域R2,R3に抵抗発熱体層がない構成とすることができる。この場合には、定着ベルトの非通紙領域R2,R3での発熱を抑制することができるので、熱効率を高めることができる。もっとも、この場合、非通紙領域R2,R3においては、第1および第2の電極層の間に絶縁層を設けるのが好ましい。それにより、第1および第2の電極層の間での放電を防止するとともに、第1および第2の電極層の間の沿面距離を所定値以上確保することができる。
【0072】
(3)上記実施の形態では、第1の電極層と第2の電極層とが同じ金属材料(ニッケル)からなる構成を示したが、これに限定するものではなく、異なる金属材料で構成することもできる。
(4)上記実施の形態では、定着ベルトが、絶縁層、第2の電極層、抵抗発熱体層、第1の電極層、弾性層および離型層がこの順で積層された積層構造を有する構成を示したが、これに限定するものではない。定着ベルトにおいて、抵抗発熱体層の少なくとも通紙領域に対応する部分の全域が、第1および第2の電極層に挟まれるように積層されていればよく、定着ベルト、または定着部の仕様に応じて、定着ベルトの構成を適宜選択することができる。
【0073】
例えば、他の部材との絶縁性を確保できるのであれば、定着ベルト自体に絶縁層を設ける必要はない。この場合には、定着ベルトの電極層は、例えば、SUS等の芯金上に直接メッキ処理することにより形成することができる。このようにSUS等の芯金上にメッキ処理する場合には、予め芯金に離型剤を塗っておくことにより、形成された電極層を取外し易くすることができる。
【0074】
(5)上記第1の実施の形態では、定着ベルト51を挟み込む押圧ローラ52が、定着ベルト51の内側に遊嵌された構成を示したが、これに限定するものではなく、例えば、押圧ローラ52が定着ベルト51の内側に絞まり嵌めされた構成としても構わない。
(6)上記実施の形態では、給電部材を付勢する付勢部材として圧縮コイルばねを用いた構成を示したが、これに限定するものではなく、例えば、板バネを用いて付勢する構成としてもよい。
【0075】
(7)上記実施の形態において、給電部材の大きさ、形状、配置等を限定するものではない。給電部材と定着ベルトの電極層との接触が良好に維持できればよく、給電部材の大きさ、形状、配置等は、定着部の仕様に応じて、適宜選択することができる。
例えば、給電部材より定着ベルトの電極層に電流を供給したとき、電極層の内部では、多少なりとも電位勾配が生じることから、上記第1の実施の形態のように給電部材をベルト幅方向両端にそれぞれ配した構成は、上記第2の実施の形態のように給電部材をベルト幅方向一端にのみ配した構成と比べて、抵抗発熱体層を流れる電流分布を均一にすることができ、よって温度ムラを抑制することができるので、この点において好ましい。
【0076】
(8)上記実施の形態では、画像形成装置として、タンデム型フルカラープリンタを用いて説明したが、本発明の適用範囲は、これに限らず、抵抗発熱体を用いた定着部を有する複写機、ファクシミリ装置、プリンタなどに適用することができる。
また、上記実施の形態及び変形例の内容は、可能な限り組み合わせても構わない。
(9)上記第1の実施の形態では、定着部5が備えた定着ベルト51の製造方法について説明したが、定着ベルトの製造方法を特に限定するものではない。例えば、第1および第2の電極層D1,D2の形成では、ニッケル箔を導電性接着剤で接着させるようにしてもよいし、ニッケルをインク状またはペースト状にして塗布しても構わない。
【0077】
定着ベルトの仕様または用途に合わせて、その製造方法を適宜選択することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、定着装置および当該定着装置を用いた画像形成装置に関し、特に、抵抗発熱体層を有するベルトを用いた定着装置において、当該ベルトの耐久性を向上させる技術として利用できる。
【符号の説明】
【0079】
1 プリンタ
3 画像プロセス部
3 作像部
4 給紙部
5 定着部
10 光学部
11 中間転写ベルト
12 駆動ローラ
13 従動ローラ
31 感光体ドラム
32 帯電器
33 現像器
34 一次転写ローラ
35 クリーナ
41 給紙カセット
42 ローラ
43 搬送路
44 タイミングローラ対
45 二次転写ローラ
46 二次転写位置
51 定着ベルト
52 押圧ローラ
53 加圧ローラ
54a 給電部材(第1の給電部材)
54b 給電部材(第2の給電部材)
56a,56b 付勢部
60 制御部
71 排出ローラ対
72 排出トレイ
100,140,160 定着部
104a,104b 給電部材
110,150 定着ベルト
112,152 抵抗発熱体層
144a,144b 給電部材
162 支持部材
500 電源
511 絶縁層
512 抵抗発熱体層
512a,512b 端部(抵抗発熱体層)
513 弾性層
514 離型層
R1 通紙領域
R2,R3 非通紙領域
D1,D3,D5 第1の電極層
D1a,D1b 端部(第1の電極層)
D1c 外周面(第1の電極層)
D2,D4,D6 第2の電極層
D2b 端部(第2の電極層)
D2c 外周面(第2の電極層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗発熱体層を有する無端状のベルトの周面に加圧部材を押圧させてニップ部を形成し、当該ニップ部に未定着画像が形成された記録シートを通紙して熱定着させる定着装置であって、
前記ベルトは、前記抵抗発熱層の、少なくとも記録シートの通紙領域に対応する部分の全域を挟むようにして積層された第1および第2の電極層を有し、
当該第1と第2の電極層を介して前記抵抗発熱層に給電するように構成されている
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記抵抗発熱層は、耐熱性の絶縁樹脂と、当該絶縁樹脂中に分散された導電性フィラーとからなる
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記ベルトの幅方向の両端部において、前記第1と第2の電極層の少なくとも一方の電極層の端部が、前記抵抗発熱体層の端部よりも後退するように形成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記ベルトの幅方向の両端部において、前記第1と第2の電極層の沿面距離が5[mm]以上である
ことを特徴とする請求項3に記載の定着装置。
【請求項5】
前記第1と第2の電極層のそれぞれの非通紙領域部分に接して給電するための第1と第2の給電部材を備え、
前記第1の給電部材と第2の電極層間の空間距離、前記第2の給電部材と第1の電極層間の空間距離が、それぞれ所定値以上となるように、前記第1と第2の給電部材の配設位置が決定されている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の定着装置。
【請求項6】
前記所定値は、4[mm]以上である
ことを特徴とする請求項5に記載の定着装置。
【請求項7】
前記ベルトにおいて、前記抵抗発熱体層を挟んでベルトの外周側が前記第1の電極層、ベルトの内周側が前記第2の電極層としたときに、
前記第2の電極層の、前記ベルトの幅方向の少なくとも一方の端部が、前記抵抗発熱体層および第1の電極層の各端部よりもベルト幅方向外側に延びて、その部分の外周面が露出されており、
前記第2の給電部材が、前記第2の電極層の、前記露出された外周面に接し、かつ前記第1の給電部材が前記第1の電極層の外周面に接するように配設されている
ことを特徴とする請求項5または6に記載の定着装置。
【請求項8】
前記ベルトにおいて、前記抵抗発熱体層を挟んでベルトの外周側が前記第1の電極層、ベルトの内周側が前記第2の電極層としたときに、
前記第1の給電部材が前記第1の電極層の外周面に接し、前記第2の給電部材が前記第2の電極層の内周面に接するように配置されている
ことを特徴とする請求項5または6に記載の定着装置。
【請求項9】
前記ベルトにおいて、前記抵抗発熱体層を挟んでベルトの外周側が前記第1の電極層、ベルトの内周側が前記第2の電極層としたときに、
前記第1の電極層の、前記ベルトの幅方向の少なくとも一方の端部が、前記抵抗発熱体層および第2の電極層の各端部よりもベルト幅方向外側に延びて、その部分の内周面が露出されており、
前記第1の給電部材が、前記第1の電極層の、前記露出された内周面に接し、かつ前記第2の給電部材が前記第2の電極層の内周面に接するように配設されている
ことを特徴とする請求項5または6に記載の定着装置。
【請求項10】
前記第1の給電部材が、前記ベルトの幅方向の一方の端部に配設されていて、その反対側の端部に、前記第2の給電部材が配設されている
ことを特徴とする請求項5から9のいずれかに記載の定着装置。
【請求項11】
前記抵抗発熱体層の前記絶縁樹脂は、ポリイミド樹脂である
ことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の定着装置。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−189749(P2012−189749A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52511(P2011−52511)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】