説明

定着装置および画像形成装置

【課題】無端ベルトを熱伝導体あるいは発熱源として用いられるローラに捲装した構成を対象とした定着装置における問題に鑑み、抵抗発熱体の温度にばらつきが生じている場合でも、無端ベルトのウオームアップ開始温度を常に所定温度に維持できる構成を備えた定着装置を提供する。
【解決手段】所定方向に走行してトナー像を加熱,溶融するとともに可撓性を有する無端状の定着部材121と,定着部材121の内周面側に個設されて定着部材121を介して加圧部材131に当接してニップ部を形成する当接部材122と,当接部材122の非当接面側で加圧部材131による押圧力を支持することで当接部材122の変形を防止する支持部材125と,ニップ部を除く位置で定着部材121の内周面側に発熱体123とを備え、定着部材121は、その回転時に、発熱体123との間で所定距離以下の隙間または所定圧力以上で接触し、且つ非回転時に、発熱体123との間で所定距離以上の隙間を持って維持されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置および画像形成装置に関し、さらに詳しくは、ベルトを定着部材として用いるベルト定着機構に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、電子写真方式による画像形成装置においては、潜像担持体である感光体上に形成された静電潜像がトナーにより可視像処理され、トナー像が記録紙などの記録媒体に転写されたうえで定着されることにより複写出力を得るようになっている。
【0003】
定着方式としては、記録紙の搬送路を挟んで対向当接する定着ローラおよび加圧ローラを用い、定着ローラ内に設けられている熱源からの熱と加圧ローラとの挟持作用により熱と圧力でトナー像を定着する熱ローラ定着方式や、定着ローラに代えて熱良導体となる定着ベルトと加圧ローラおよびベルトを捲装されるローラそしてベルトに対する加熱源を設けたベルト定着方式が知られている。
ベルト定着方式は、熱ローラ定着方式に比べて定着ベルトの温度立ち上がりがよいことが理由となって所定の定着温度までの昇温時間を短縮できるという利点がある。
【0004】
ベルト定着方式を用いた定着装置の例としては、熱源体である加熱ヒータを有した加熱ローラと表層にゴム層が設けられた定着ローラを内包した定着ベルト(定着体)と定着ベルトに当接する加圧ローラ(加圧体)が定着回転体とした構成が提案されている(例えば、特許文献1)。
この定着装置においては、定着装置に到達したトナー転写済みの記録紙が定着ベルトと加圧ローラのニップに入り、記録紙が定着ニップを通過する過程で、転写されたトナー像が加熱および加圧され定着される。
【0005】
上記構成の他の例として、回転体の内面に摺接する固定部材を有している構成があり、具体的には、フィルム加熱方式(例えば、特許文献2)、加圧ベルト方式(例えば、特許文献3)がある。
【0006】
しかし、上記特許文献2、3に開示されている構成では、耐久性およびベルトにおける温度安定性が悪く、熱容量が大きく、昇温が遅いために、定着装置での所定温度に達するまでのウオームアップ(温度立ち上がり)に要する時間が長いという問題がある。
【0007】
そこで、上述した課題を解決するための構成として、無端ベルトが捲装されるパイプ状の金属部材(金属パイプ)からなる熱伝導体により無端ベルト内面との間に熱を拡散して無端ベルト全体に均質な熱を与えることによりベルト全体の温度を安定されるようにした構成(例えば、特許文献4)、さらにこの構成を発展させた構成として、ベルトへの加熱源として抵抗発熱体を用いる構成が提案されている(例えば、特許文献5)。
【0008】
上述した特許文献に開示されている構成において、無端ベルトは、これと対向する加圧ローラの回転に連動して移動するようになっており、記録紙に対する定着位置に順次異なるベルト面が到来することで、定着位置への熱供給が行えるようになっている。
【0009】
また、上述した抵抗発熱体を用いた構成を対象として、抵抗発熱体と無端ベルトの内面との間に微小ギャップ(直径差で0<δ≦1mm:ただしδはギャップを意味する)を設けて両者が接触しないようにしてベルトの高速移動によりベルト全体への均一加熱を促進できる構成が提案されている(例えば、特許文献6)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、抵抗発熱体には温度により内部抵抗が変化し、同じ電圧を印加しても発熱量が温度により変わってしまうという特性があり、定着装置の温度制御の精度を悪くしていることがわかった。
このため、作像終了後に定着部材である定着ベルトと発熱体である抵抗発熱体とが接触した状態で維持されると、次の作像までの間隔等により、抵抗発熱体の作像開始時の温度にばらつきが発生し、次作像開始時に定着部材の温度を検知して、温度制御のために所定の電圧を加熱抵抗体に印加しても、抵抗発熱体が狙いの温度にならず、結果的に定着ベルトの温度が狙い通りに制御できないという不具合が発生した。
【0011】
本発明の目的は、上記従来の定着装置の問題に鑑み、特に、無端ベルトを熱伝導体あるいは発熱源として用いられるローラに捲装した構成を対象とした定着装置における問題に鑑み、抵抗発熱体の温度にばらつきが生じている場合でも、無端ベルトのウオームアップ開始温度を常に所定温度に維持できる構成を備えた定着装置およびこれにより定着開始までの待機時間の長大化を防止できる画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するため、本発明は次の構成よりなる。
(1)所定方向に走行してトナー像を加熱,溶融するとともに可撓性を有する無端状の回転または周回可能な定着部材と,前記定着部材の内周面側に固設されて当該定着部材を介して加圧部材に当接してニップ部を形成する当接部材と,当接部材の非当接面側で前記加圧部材による押圧力を支持することで当接部材の変形を防止する支持部材と,前記ニップ部を除く位置で定着部材の内周面側に発熱体と、
を備え、
前記定着部材は、その回転または周回時に、前記発熱体との間で所定距離以下の隙間または所定圧力以上で接触し、且つ、回転停止時または非周回時に、前記発熱体との間で所定距離以上の隙間を持って維持されることを特徴とする定着装置。
【0013】
(2)前記定着部材は、その回転停止時に、該定着部材の所定の回転方向とは逆の方向に回転されることを特徴とする(1)記載の定着装置。
【0014】
(3)前記発熱体は、定着部材の回転開始時に、該定着部材と前記発熱体とが所定距離以下の隙間または所定圧力以上で接触した後に、昇温を開始されることを特徴とする(1)記載の定着装置。
【0015】
(4)前記発熱体が複数に分割されており、少なくとも前記ニップ部に対して前記定着部材の走行方向上流側に配設された第2発熱体と、複数に分割されたその他の発熱体のうち前記第2発熱体に隣り合う第1発熱体とを備え、
前記第1発熱部材と前記第2発熱部材との間に対応する位置に、前記定着部材の温度を検知する温度検知手段を備え、前記定着部材の非回転時には、少なくとも該定着部材と前記第1発熱体が所定距離以上の隙間を持って維持されることを特徴とする(1)記載の定着装置。
【0016】
(5)前記第2発熱体は、前記複数に分割されたその他の発熱体とは別に、前記温度検知手段の検知結果に基いて発熱量が制御されることを特徴とする(4)記載の定着装置。
【0017】
(6)前記定着部材は、非回転時に前記発熱体を冷却する機構を有することを特徴とする(1)乃至(5)のうちの一つに記載の定着装置。
【0018】
(7)前記定着部材の非回転時に発熱体を支持する構造体を備えることを特徴とした(1)乃至(6)のうちの一つに記載の定着装置。
【0019】
(8)(1)乃至(7)のうちの一つに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、定着部材の回転時あるいは周回時には、定着部材を抵抗発熱体と所定距離以下の隙間または所定圧力以上で接触させているので、定着部材の周回時においてニップ部入口側での定着ベルトと抵抗発熱体とが離れるのを防止して抵抗発熱体から直接定着部材を加熱できることにより無駄な電力消費を抑えるとともに、過剰な温度上昇を防止しながら効率よく定着部材の加熱が行える。
一方、回転停止または周回停止時には、定着部材と抵抗発熱体とが所定距離以上の隙間を持って維持される状態で維持したい。本発明によれば作像終了後に定着部材と抵抗発熱体とを所定距離以上または所定圧力以下で維持することにより、作像終了後は抵抗発熱体の温度を定着部材との接触時に比べて速く下げることが可能となる。これにより抵抗発熱体の温度依存性に起因する発熱量ばらつきを防止することができ、次作像工程にて定着部材を狙い通りの温度に加熱制御することが可能となる。
【0021】
また本発明においては、抵抗発熱体からの熱伝達を抑制するための構成として、定着部材の回転停止時に定着部材を所定の回転方向、つまり、定着時での回転方向と逆方向に回転するという簡単な構成を用いるだけで済むので、特別な熱伝達抑制を要することなく既存構成を利用するだけで定着部材を狙い通りの温度に加熱制御を行うことができる。
【0022】
さらに本発明においては、発熱体を定着部材の走行方向においてニップ部を境にして上流側と下流側とに設け個々に発熱量を制御することもできるので、仮に、定着部材と発熱体とが所定条件で熱伝達を抑制する状態、つまり、離間あるいは軽い接触状態にない場合であっても、定着部材に対する個別の加熱設定により定着部材の温度をウオームアップ開始時での所定温度に制御することが可能となる。
【0023】
しかも本発明においては、定着部材において発熱体を冷却する機構を設けていることによっても、定着部材に対する発熱体からの熱伝達を抑制して定着部材をウオームアップ開始時での所定温度に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の対象とする定着装置の構成を説明するための模式図である。
【図2】図1に示した定着装置の一部変形例を説明するための模式図である。
【図3】図1に示した定着装置に用いられる定着ベルトの挙動を説明するための模式図である。
【図4】図3に示した場合の定着部材として用いられる定着ベルトの温度変化と抵抗発熱体の温度変化とを説明するための線図である。
【図5】本発明による定着装置での定着部材として用いられる定着ベルトと抵抗発熱体との隙間の有無に対する定着ベルトの温度変化を説明するための線図である。
【図6】本発明により定着装置での定着部材として用いられる定着ベルトと抵抗発熱体との接触時期と抵抗発熱体の発熱開始時期とを説明するためのタイミングチャートである。
【図7】本発明による定着装置での抵抗発熱体の別例を説明するための模式図である。
【図8】図7に示した抵抗発熱体の構成による定着ベルトの温度変化を説明するための線図である。
【図9】本発明による定着装置での冷却機構の構成を説明するための模式図である。
【図10】図9に示した機構を用いた場合の定着部材での温度変化を説明するための線図である。
【図11】本発明による定着装置での一部変形例を説明するための模式図である。
【図12】本発明による定着装置を用いる画像形成装置の構成を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図示実施例により本発明を実施するための形態について説明する。
まず、本発明の特徴を説明する前に、本発明が前提とする定着装置の構成およびその構成での状態を説明すると次の通りである。
【0026】
図1は、従来の定着装置を示す構成図である。
定着装置は、定着部材としての定着ベルト121、当接部材122、抵抗発熱体123、加圧部材としての加圧ローラ131等で構成される。定着ベルト121は、薄肉で可撓性を有する無端状ベルトであって、図1中の矢印方向(反時計方向)に走行(周回)する。
定着ベルト121の内部(内周面側)には、当接部材122、抵抗発熱体123、等が固設されており、定着ベルト121は、当接部材122に押圧されて、加圧ローラ131との間にニップ部を形成する。
【0027】
当接部材122は、その幅方向両端部が定着装置の図示しない側板等により固定支持されている。
当接部材122は不導体、具体的には樹脂材料や、セラミック、ガラス等の絶縁体で形成することができ、抵抗発熱体123に印加される電圧によって当接部材122が発熱されないことになる。
【0028】
抵抗発熱体123は定着ベルト121の内周面に対して、ニップ部から離れた位置において、定着ベルト121と抵抗発熱体123とのギャップ(δ)は、0mmより大きく1mm以下に設定されている(0mm<δ≦1mmである。)。
【0029】
しかしながら、本構成では当接部材122の幅方向両端部が定着装置の図示しない側板等により固定支持されているため、当接部材122の変形及びそれに伴うニップ部での加圧力の変化が発生することがある。
このような当接部材122の変形を防止するために支持部材25を備える構成もある。
図2に示す定着装置は、図1の定着装置に支持部材125が追加された構成となっている。
【0030】
支持部材125はステンレスや鉄等の機械的強度が高い金属材料で形成されており、支持部材125を具備することにより、当接部材122が加圧ローラ131から加圧力を受けて撓んでしまうこと(幅方向両端部にかかる加圧力によって幅方向中央部が大きく撓むこと)を防止することができる。
【0031】
この定着装置においても抵抗発熱体123が定着ベルト121を積極的に加熱して、当接部材122が定着ベルト121を積極的に加熱しないように構成されている。したがって、定着ベルト121は、ニップ部に達するまでに抵抗発熱体123によって加熱される。
【0032】
次に動作について説明する。
画像形成装置が出力信号を受けると、駆動装置(不図示)が動作を開始し、それと同期して抵抗発熱体123が加熱を開始する。駆動装置の動作と抵抗発熱体123の加熱は同時刻に同時に開始する必要は無く、独立して定着ベルト121の回転開始、抵抗発熱体123の加熱開始タイミングを設定可能である。
【0033】
駆動装置の駆動力は駆動伝達装置(不図示)により加圧部材に伝達され加圧部材131が回転を開始する。加圧部材31の回転力は接触している定着ベルト121に伝達され、定着ベルト121が連れ周りを始める。
【0034】
次に定着ベルト121と抵抗発熱体123の間隙について説明する。
図1に示した定着装置において、定着ベルト121はニップ部以外では抵抗発熱体123にガイドされており、定着ベルト121と抵抗発熱体123は一定の間隔、具体的には1mm以内の間隔を有するように構成されている。定着ベルト121にはテンションをかけていないため、定着ベルト回転時と非回転時では定着ベルト121の軌跡が変化する。
【0035】
図3(B)に示す回転、つまり周回時には、ニップ入口からニップ出口方向へと駆動(引っ張り力)がかかるため、ニップ入口(進入)側は定着ベルト121の内周が抵抗発熱体123に接触し、ニップ出口側では遠心力による膨らみを規制するニップ部もないことから抵抗発熱体123から離れる(しかしながら1mm以内の間隔は保ちながら)挙動を示す。
【0036】
これに対し、図3(A)に示すように、定着ベルト121が非回転、つまり非周回状態で放置されると、この状態では定着ベルト121に駆動がかかっておらず、ニップ位置で入口側から引っ張られる力が働かないため、ニップ入口側と出口側とは対称的な形状となっている。
【0037】
しかしながら、回転停止直後は、図3(A)に示すような、ニップ入口側および出口側に対して対称的な形状とはならず、ユニット構成により異なるものの、回転時(図3(B)参照)からニップ入口側および出口側に対して対称的な形状(図3(A)参照))になるまでは所定の時間が必要となる。
特に定着ベルト121と抵抗発熱体123との密着性を向上させるために潤滑剤が介在(塗布)されている場合には、この傾向が顕著となり、図3(A)に示す状態になるまで数分〜十数分を要することもある。
【0038】
図3(B)に示すニップ入口側のように定着ベルト121と抵抗発熱体123との間に間隙が生じない状態では、抵抗発熱体123から定着ベルト121に直接加熱することができ、無駄な電力を消費することなく、効率良く定着ベルト121を加熱することが可能となる。このような隙間を生じさせない状態を得るには、定着ベルト121を、その周回時に、抵抗発熱体123との間で所定距離以下の隙間または所定圧力以上で接触させ、且つ、非周回時に、前記発熱体との間で所定距離以上の隙間を持って維持させるようにする。
【0039】
逆に、図3(B)に示すニップ出口側のように定着ベルト121と抵抗発熱体123に間隙が生じると、抵抗発熱体123からの熱が定着ベルト121に効率よく伝わらず、無駄な電力を消費したり、抵抗発熱体123が過剰昇温を来して到達温度によっては発熱体として機能しなくなる可能性もある。特に本構成は昇温が速いシステムであるので、この傾向は顕著となる。
【0040】
一方、定着ベルト121が所定温度に到達すると被定着材として用いられる記録紙Sが給紙搬送され、定着装置のニップ部を通過することにより熱と圧力が加わり未定着画像Tが記録紙Sに定着される。
図4には、抵抗発熱体の温度と内部抵抗の関係が示されている。
通常、抵抗発熱体の温度が高いと内部抵抗も高くなるため、同じ電圧を印加しても発熱に寄与する電流が少なくなり、所望の発熱量が得られなくなる。
【0041】
逆に、抵抗発熱体の温度が高い状態を想定して電圧を印加すると、抵抗発熱体の温度が低い場合に発熱に寄与する電流が過多となり、所望以上の発熱量となって、定着ベルト121と抵抗発熱体123に間隙が生じた場合と同様に、上述した場合と同様な過剰昇温状態を引き起こす可能性もある。特に本構成は昇温が速いシステムであるので、この傾向は顕著となる。
抵抗発熱体自身への温度検知手段を備える方法も考えられるが、コストアップになることと、前述したように定着ベルト121と抵抗発熱体123との間隙を生じさせることは好ましくないため、定着ベルト121と抵抗発熱体123との間に温度検知手段を備える構成にはできず、抵抗発熱体123の内側(回転中心側)に温度検知手段を備える構成は定着装置の小型化に対して妨げになり、また温度検知手段のハーネスのレイアウトや、耐熱処理が必要になることなどのデメリットもある。
【0042】
以上のような構成を対象とした場合の本発明における第1の特徴は、定着部材として用いられる定着ベルト121の回転時および回転停止時における抵抗発熱体に対する接触状態を制御する点にある。
【0043】
つまり、本実施例では、定着ベルト121の回転時に、図3(B)に示したように、定着ベルト121と抵抗発熱体123との間に間隙が生じない状態を設定し、定着ベルト121の回転停止時には、速やかに図3(A)に示したように、定着ベルト121と抵抗発熱体123との間に間隙を生じさせるように離間させるようになっている。
定着ベルト121の回転時および回転停止時での抵抗発熱体123に対する当接状態を設定するための構成として、定着ベルト121を駆動する駆動伝達装置(図示されず)が用いられる。
【0044】
駆動伝達装置は、モータおよびこの駆動力を定着ベルト121の駆動部材に伝達するギヤ列などを含み、定着ベルト121の回転停止時に通常の定着作業時での回転方向とは逆方向に回転できる機能をモータに持たせたり、ギヤ列が定着ベルト121の回転停止後に所定の量だけ戻るようにした構成が適用されている。
このような構成とする点が本発明の第2の特徴であり、駆動伝達装置が逆回転すると、ニップ部で定着ベルト121をニップ入口側に移動させる力が働き、定着ベルト121の位置は回転停止直後であっても、図3(B)の状態から図3(A)に移動する。
【0045】
これにより定着ベルト121と抵抗発熱体123との間には1mm以内のギャップが発生し、図5に示すように、抵抗発熱体123の温度を定着ベルト121との接触時に比べて速く下げることができる。
この結果、作像動作停止後から次の作像開始までの時間に関わらず、抵抗発熱体123の温度依存性に起因する発熱量ばらつきを防止することが可能となり、定着ベルトを狙い通りの温度に加熱制御することが可能となる。
【0046】
次に本発明の第3の特徴について説明する。
本発明の第3の特徴は、抵抗発熱体123の発熱開始時期を設定したことにある。
つまり、前述したように、定着ベルト121と抵抗発熱体123に間隙が生じると、抵抗発熱体123からの熱が定着ベルト121に効率よく伝わらず、無駄な電力を消費したり、抵抗発熱体123が過剰な温度上昇を来す可能性がある。
このため、動作開始時には、図6に示すように、まず駆動伝達装置(不図示)が動作を開始し、定着ベルト121と抵抗発熱体123が、図3(B)のように接触した状態で抵抗発熱体123に通電開始するように定着装置を制御する。これにより抵抗発熱体123の過昇温を防止することが可能となる。
【0047】
次に本発明の第4の特徴について説明する。
本発明の第4の特徴は、定着ベルト121に対する温度管理を、より精度よく行うようにした点にある。
図7は、この特徴を説明するための図であり、同図に示された構成では、上述した定着ベルト121に対する抵抗発熱体123が単一構造と異なり、第1抵抗発熱体127および第2抵抗発熱体128というように複数の抵抗発熱体を用いて定着ベルト121を加熱する構造とされている。
【0048】
第1抵抗発熱体127および第2抵抗発熱体128は、不図示の制御装置で個別に発熱量を制御することが可能であり、サーミスタが用いられている温度検出素子141で検知された温度により第1抵抗発熱体127および第2抵抗発熱体128の発熱量をそれぞれ制御することにより、更に効率よく、所望の温度に定着ベルト121を制御することが可能となる。
第1抵抗発熱体127で加熱された定着ベルト121の温度は温度検出素子141で検出し、温度検出素子141の下流側に具備された第2抵抗発熱体128はその検出温度により、定着ベルト121の温度を更に精度良く補正することを目的として具備されている。
【0049】
第2抵抗発熱体128は当接部材122に近接しているため、本発明の第1の特徴として説明したように、定着ベルト121と離間できる構成を用いても、定着ベルト121と第2抵抗発熱体128の距離は第1抵抗発熱体127との距離に比べて狭くなり、部分的に接触してしまう場合がある。
しかしながら第2抵抗発熱体128の温度は、温度検出素子41で検知した定着ベルト121の温度と対応がとれるため、回転停止時には少なくとも第1抵抗発熱体127が定着ベルト121と離間する構成とすればよい。
【0050】
次に本発明の第5の特徴について説明する。
本発明の第5の特徴は、図7に示した複数の抵抗発熱体を用いる構成を対象として、各抵抗発熱体の温度管理が行えるようにした点にある。
つまり、図8は、温度検出位置での検出温度と、第2抵抗発熱体128を通過した後、当接部材122の位置に進入した際の定着ベルト121の表面温度を示した概略図である。
【0051】
温度検出素子141通過時の定着ベルト121の温度が所望の制御温度である場合には、第2抵抗発熱体128の発熱量は中レベルに制御して、定着ベルト121の温度を維持する(符号(1)で示すプロフィール)。
温度検出素子141通過時の定着ベルト121の温度が所望の制御温度より低い場合には、第2抵抗発熱体128の発熱量は強レベルに制御して、定着ベルト121を積極的に加熱して、当接部材122進入時の定着ベルト121の表面温度が所望の制御温度になるように制御を行う(符号(2)で示すプロフィール)。
温度検出素子141通過時の定着ベルト121の温度が所望の制御温度より高い場合には、第2抵抗発熱体128の発熱量は弱レベル(もしくはオフ)に制御して、定着ベルト121が放熱するようにして、当接部材122進入時の定着ベルト121の表面温度が所望の制御温度になるように制御を行う(符号(3)で示すプロフィール)。
【0052】
以上のように温度検出素子141通過時の検出温度によって定着ベルト121下流側の第2抵抗発熱体128の発熱量を制御することにより更に精度よく、所望の温度に定着ベルト121を制御することが可能となる。
【0053】
次に本発明の第6の特徴について説明する。
本発明の第6の特徴は、定着ベルト121の回転停止時に、抵抗発熱体を冷却する点にある。
つまり、図9は、図2に示した定着装置を対象として、冷却機構を設けた構成の一例である。
具体的には定着装置外部から抵抗発熱体123と支持部材125の間に外気を送り込む機構が設けられている。一端が抵抗発熱体123と支持部材125の間に向けられて備えられたダクト150に図示しないファンから外気が送られ、定着ベルト停止中は抵抗発熱体123を冷却する。
図示しない送風機構は画像形成装置に備えられた、定着装置以外の部分へ送風されるファン等を利用しても良い。
【0054】
以上の構成により、図10に示すように、ベルトの回転停止中に送風することにより、更に効率よく抵抗発熱体を冷却することが可能となる。この際、ベルト停止中に常時送風する必要はなく、抵抗発熱体123が所定の温度まで低下した時間で送風を停止する制御を行っても良い。また送風開始タイミングも必ずしも定着ベルト121の停止を待つ必要はなく、画像を定着する目的に影響しない範囲で、停止前に送風を開始しても良い。
【0055】
次に本発明の第7の特徴について説明する。
本発明の第7の特徴は、抵抗発熱体の変形などを防止するための構成を備えた点にある。
つまり、定着装置の逆転により、定着ベルト121が抵抗発熱体123から離間するように動作するが、抵抗発熱体123は薄膜状であるために、定着ベルト121に伴って歪み、抵抗発熱体123と定着ベルト121が効率よく離間できない場合がある。
【0056】
このような場合には、図示しない側板等に抵抗発熱体123が定着ベルト121の逆転に伴って移動しないような部材(例えば図11の固定部材151)で抵抗発熱体123の端部を保持する。これにより、抵抗発熱体123を定着ベルト121から効率よく離間することが可能となる。
またこれに伴い、抵抗発熱体に離間動作に伴う応力が生じることによる変形等のストレスを低減することも可能となる。
【0057】
次に、上述した構成を用いる画像形成装置の構成を図12により説明すると次の通りである。
図12に示した画像形成装置は、複数の色画像を形成する作像部がベルトの展張方向に沿って並置されたタンデム方式を用いるカラープリンタあるが、本発明はこの方式に限ることはなく、またプリンタだけではなく複写機やファクシミリ装置などを対象とすることも可能である。
【0058】
図12において画像形成装置100は、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色に色分解された色にそれぞれ対応する像としての画像を形成可能な像担持体としての感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkを並設したタンデム構造が採用されている。
【0059】
図12に示す構成の画像形成装置1000は、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに形成された可視像が、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに対峙しながら矢印A1方向に移動可能な無端ベルトが用いられる中間転写体(以下、転写ベルトという)11に対して1次転写行程を実行してそれぞれの画像が重畳転写され、その後、記録シートなどが用いられる記録紙Sに対して2次転写行程を実行することで一括転写されるようになっている。
【0060】
各感光体ドラムの周囲には、感光体ドラムの回転に従い画像形成処理するための装置が配置されており、いま、ブラック画像形成を行う感光体ドラム20Bkを対象として説明すると、感光体ドラム20Bkの回転方向に沿って画像形成処理を行う帯電装置30Bk,現像装置40Bk、1次転写ローラ12Bkおよびクリーニング装置50Bkが配置されている。帯電後に行われる書き込みは、光書込装置8が用いられる。
【0061】
転写ベルト11に対する重畳転写は、転写ベルト11がA1方向に移動する過程において、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに形成された可視像が、転写ベルト11の同じ位置に重ねて転写されるよう、転写ベルト11を挟んで各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに対向して配設された1次転写ローラ12Y、12C、12M、12Bkによる電圧印加によって、A1方向上流側から下流側に向けてタイミングをずらして行われる。
【0062】
各感光体ドラム感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkは、A1方向の上流側からこの順で並んでいる。各感光体ドラム感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkは、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの画像をそれぞれ形成するための画像ステーションに備えられている。
【0063】
画像形成装置1000は、色毎の画像形成処理を行う4つの画像ステーションと、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkの上方に対向して配設され、転写ベルト11及び1次転写ローラ12Y、12C、12M、12Bkを備えた転写ベルトユニット10と、転写ベルト11に対向して配設され転写ベルト11に従動し、連れ回りする転写部材としての転写ローラである2次転写ローラ5と、転写ベルト11に対向して配設され転写ベルト11上をクリーニングする中間転写ベルトクリーニング装置13と、これら4つの画像ステーションの下方に対向して配設された光書き込み装置としての光書込装置8とを有している。
【0064】
光書込装置8は、光源としての半導体レーザ、カップリングレンズ、fθレンズ、トロイダルレンズ、折り返しミラーおよび偏向手段としての回転多面鏡などを装備しており、各感光体ドラム20Y,20C,20M,20Bkに対して色毎に対応した書き込み光Lb(図12では、便宜上、ブラック画像の画像ステーションのみを対象として符号が付けてあるが、その他の画像ステーションも同様である)を出射して感光体ドラム20Y,20C,20M,20Bkに静電潜像を形成する構成とされている。
【0065】
画像形成装置1000には、感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkと転写ベルト11との間に向けて搬送される記録紙Sを積載した給紙カセットとしてのシート給送装置61と、シート給送装置61から搬送されてきた記録紙Sを、画像ステーションによるトナー像の形成タイミングに合わせた所定のタイミングで、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkと転写ベルト11との間の転写部に向けて繰り出すレジストローラ対4と、記録紙Sの先端がレジストローラ対4に到達したことを検知する図示しないセンサとが設けられている。
【0066】
画像形成装置1000には、トナー像が転写された記録紙Sにトナー像を定着させるためのローラ定着方式の定着ユニットとしての定着装置100と、定着済みの記録紙Sを画像形成装置1000の本体外部に排出する排紙ローラ7と、画像形成装置1000の本体上部に配設されて排出ローラ7により画像形成装置1000の本体外部に排出された記録紙Sを積載する排紙トレイ17と、排紙トレイ17の下側に位置し、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色のトナーを充填されたトナーボトル9Y、9C、9M、9Bkとが備えられている。
【0067】
転写ベルトユニット10は、転写ベルト11、1次転写ローラ12Y、12C、12M、12Bkの他に、転写ベルト11が掛け回されている駆動ローラ72及び従動ローラ73を有している。
従動ローラ73は、転写ベルト11に対する張力付勢手段としての機能も備えており、このため、従動ローラ73には、バネなどを用いた付勢手段が設けられている。このような転写ベルトユニット10と、1次転写ローラ12Y、12C、12M、12Bkと、2次転写ローラ5と、クリーニング装置13とで転写装置71が構成されている。
【0068】
シート給送装置61は、画像形成装置1000の本体下部に配設されており、最上位の記録紙Sの上面に当接する給紙ローラとしての給送ローラ3を有しており、給送ローラ3が反時計回り方向に回転駆動されることにより、最上位の記録紙Sをレジストローラ対4に向けて給送するようになっている。
【0069】
定着装置100は、図1に示したように、定着ベルト121とこれの内面に配置されている抵抗発熱体123と加圧ローラ131と図示していないが支持部材122を備えた構成が用いられ、上述した各特徴に基づき動作することで、トナー像を担持した記録紙Sに対して熱と圧力とによりトナー像を記録紙Sの表面に定着するようになっている。
【0070】
転写装置71に装備されているクリーニング装置13は、詳細な図示を省略するが、転写ベルト11に対向、当接するように配設されたクリーニングブラシとクリーニングブレードとを有しており、転写ベルト11上の残留トナー等の異物をクリーニングブラシとクリーニングブレードとにより掻き取り、除去して、転写ベルト11をクリーニングするようになっている。
【0071】
クリーニング装置13はまた転写ベルト11から除去した残留トナーを搬出し廃棄するための図示しない排出手段を有している。
なお、図1に示す構成の画像形成装置1000では、転写ベルト11に対して各感光体ドラムで形成された画像を順次転写することで色画像が重畳されたものを2次転写ローラ5により記録紙Sに一括転写する方式であるが、これに代えて、転写ベルト11に記録紙Sを担持し、この記録紙Sを各感光体ドラムに対峙させて各色の画像を直接記録紙S上で重畳する方式とすることも可能である。
【符号の説明】
【0072】
100 定着装置
121 定着ベルト
122 当接部材
123 抵抗発熱体
125 支持部材
127 第1抵抗発熱体
128 第2抵抗発熱体
141 温度検出素子
1000 画像形成装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0073】
【特許文献1】特開平11−2982号公報
【特許文献2】特開平04−44075号公報
【特許文献3】特開平10−213984号公報
【特許文献4】特開2007−334205号公報
【特許文献5】特開2008−158482号公報
【特許文献6】特開2008−216928号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に走行してトナー像を加熱,溶融するとともに可撓性を有する無端状の回転または周回可能な定着部材と,前記定着部材の内周面側に固設されて当該定着部材を介して加圧部材に当接してニップ部を形成する当接部材と,当接部材の非当接面側で前記加圧部材による押圧力を支持することで当接部材の変形を防止する支持部材と,前記ニップ部を除く位置で定着部材の内周面側に発熱体と、
を備え、
前記定着部材は、その回転時または周回時に、前記発熱体との間で所定距離以下の隙間または所定圧力以上で接触し、且つ、回転停止時または非周回時に、前記発熱体との間で所定距離以上の隙間を持って維持されることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記定着部材は、その回転停止時に、該定着部材の所定の回転方向とは逆の方向に回転されることを特徴とする請求項1記載の定着装置。
【請求項3】
前記発熱体は、定着部材の回転開始時に、該定着部材と前記発熱体とが所定距離以下の隙間または所定圧力以上で接触した後に、昇温を開始されることを特徴とする請求項1記載の定着装置。
【請求項4】
前記発熱体が複数に分割されており、少なくとも前記ニップ部に対して前記定着部材の走行方向上流側に配設された第2発熱体と、複数に分割されたその他の発熱体のうち前記第2発熱体に隣り合う第1発熱体とを備え、
前記第1発熱部材と前記第2発熱部材との間に対応する位置に、前記定着部材の温度を検知する温度検知手段を備え、前記定着部材の非回転時には、少なくとも該定着部材と前記第1発熱体が所定距離以上の隙間を持って維持されることを特徴とする請求項1記載の定着装置。
【請求項5】
前記第2発熱体は、前記複数に分割されたその他の発熱体とは別に、前記温度検知手段の検知結果に基いて発熱量が制御されることを特徴とする請求項4記載の定着装置。
【請求項6】
前記定着部材は、非回転時に前記発熱体を冷却する機構を有することを特徴とする請求項1乃至5のうちの一つに記載の定着装置。
【請求項7】
前記定着部材の非回転時に発熱体を支持する構造体を備えることを特徴とした請求項1乃至6のうちの一つに記載の定着装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のうちの一つに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−208456(P2012−208456A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122251(P2011−122251)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】