説明

定着装置及び画像形成装置

【課題】熱効率の低下を抑えながら、安定した給電を行うことができる抵抗発熱体方式の定着装置及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】抵抗発熱体層を有する定着ベルト200の外周面に加圧部材210を圧接させた定着ニップで記録シートにトナー像を定着する定着装置100において、定着ベルト200内にシャフト221を遊挿し、シャフト221に基端が固設された摺接パッド220の先端を定着ニップ相当位置の定着ベルト200内周面に摺接して定着ニップを形成する。定着ベルト200と共に、ベルト駆動ギア210は回転自在に支持され、定着ベルト200の回転軸方向における摺接パッド220よりも外側において定着ベルト200の両端開口に嵌設されている。受電部203はベルト駆動ギア210に付設され、抵抗発熱体層に電気的に接続されている。給電部材204は、シャフト221に係止され、受電部203に摺接して、抵抗発熱体層に給電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置及び画像形成装置に関し、特に、抵抗発熱体方式の定着装置において発熱効率を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、簡素な装置構成で省エネルギー化を図ることができる定着装置として、抵抗発熱体方式の定着装置が注目されている。抵抗発熱体方式の定着装置においては、無端ベルト状の定着回転体(以下、「定着ベルト」という。)内に抵抗発熱体層を設け、給電部材を当接させることにより、抵抗発熱体層を発熱させる構成が多く提案されている。
しかしながら、定着ベルトは外力によって弾性変形し易く、給電部材を当接させることによって定着ベルトが弾性変形すると、給電が安定化させることが難しくなる。
【0003】
このため、例えば、図7に示されるように、円筒形状のベース体の外周面上に、抵抗発熱体層を有するフィルム状ヒーターと、トナーに対して高い離型性を有する離型層と、順次積層したヒートローラーが提案されており、ヒートローラーの回転軸方向における両端部には、金属製の軸部品が嵌設されている。軸部品は円板状の軸部、フランジ部及びベース体の筒孔に嵌設される挿入部とからなっており、ベアリングによって回転可能に支持されている。
【0004】
この軸部品は、軸部に給電ブラシを当接させる等によって給電を受け、フランジ部からフィルム状ヒーターの抵抗発熱体層に給電する。軸部品の軸部は剛性を有しており、かつ、フランジ部はフィルム状ヒーターの抵抗発熱体層に固着されているので、安定した給電を実現することができる(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−112048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、記録シートにトナー像を定着させるためには、フィルム状ヒーターに加圧ローラーを圧接させて定着ニップを形成する必要がある。しかしながら、フィルム状ヒーター単体では、定着ニップを形成するに足る十分な強度を得ることができないので、上記従来技術にあっては、ベース体がフィルム状ヒーターに内部から圧接されている。
定着ニップを形成するという目的上、十分な剛性を得る必要があり、ベース体は熱容量が大きくならざるを得ない。このため、上記従来技術においては、熱損失が大きく、ウォームアップ時間を十分に短縮することができない等の問題を有している。
【0007】
本発明は、上述のような問題に鑑みて為されたものであって、熱効率の低下を抑えながら、安定した給電を行うことができる抵抗発熱体方式の定着装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る定着装置は、抵抗発熱体層を有する無端状の定着ベルトの外周面に対して、加圧部材を圧接させて形成される定着ニップに記録シートを通紙することによってトナー像を定着する定着装置であって、前記定着ベルト内に遊挿された軸部材と、前記軸部材に基端が固設され、先端が前記定着ニップ相当位置の前記定着ベルト内周面に摺接して定着ニップを形成する摺接部材と、前記定着ベルトと共に回転自在に支持された一対の環状部材であって、前記定着ベルトの回転軸方向における前記摺接部材よりも外側において前記定着ベルトの両端開口に嵌設された環状部材と、前記環状部材に付設され、前記抵抗発熱体層に電気的に接続された一対の受電部と、前記軸部材に係止され、前記一対の受電部それぞれに摺接し、前記抵抗発熱体層に給電する少なくとも一対の給電部材と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このようにすれば、受電部に給電部材を摺接させて、抵抗発熱体層に給電するので、定着ベルトを弾性変形させることなく安定した給電を行うことができる。また、摺接部材は、先端を有する定着ニップ側の内周面において定着ベルトに摺接し、他の内周面からは離隔しているので、定着ベルトから摺接部材へ伝導する熱量を低減して、熱効率を向上させることができる。
【0010】
なお、定着ベルト内に軸部材を遊挿するとは、軸部材が静止している状態において定着ベルトが自由に回転走行できるように、定着ベルト内に軸部材を挿入することをいう。また、定着ベルトに環状部材を嵌設するとは、定着ベルトに環状部材を固嵌めすることをいい、定着ベルト内に環状部材を挿入した状態において、定着ベルトと環状部材とが互いに固定されていることをいう。
【0011】
この場合において、前記受電部が、定着ベルトの全周に亘って前記定着ベルトの内周面側から前記抵抗発熱体層に電気的に接続されており、前記抵抗発熱体層が、前記定着ベルトの全周に亘って均一な厚みを有していれば、抵抗発熱体層を全周に亘って均一に発熱させることができるので、定着ムラを防止して、優れた画質を実現することができる。
また、前記環状部材を回転駆動する駆動源と、前記環状部材の回転速度が所定速度を下回ると、前記駆動源の回転駆動力を前記環状部材に伝達する伝達部材と、を備え、前記定着ベルトを前記環状部材と一体に回転させれば、定着ベルトと加圧部材との間でスリップが生じた場合でも、駆動源からの回転力を用いて定着ベルトを回転させることによって、定着ベルトと加圧部材とのスリップを迅速に解消することができる。
【0012】
また、前記摺接部材が、前記定着ベルトの回転軸方向について、前記定着ニップの両外側に延出しており、前記摺接部材の前記定着ベルトに当接する面が、前記定着ニップに対応する位置では陥凹し、前記回転軸方向における両端部においては突出する滑らかな曲面形状を有していれば、定着ベルトの挫屈を防止して、座屈に起因する破損を防ぐことができるので、定着ベルトの長寿命化を図ることができる。
【0013】
また、前記受電部は前記環状部材の内周面側に環状に設けられており、前記給電部材が前記環状部材の内周面側から前記受電部に摺接していれば、給電部材の受電部に摺接する面を均一に磨耗させることができるので、給電部材の不均一に磨耗することに起因する給電の不安定化を防止することができる。
また、前記環状部材と前記軸部材との間に介在して、前記軸部材に前記定着ベルトと前記環状部材とを回転可能に軸支させるベアリング部材を備えていれば、環状部材を円滑に回転させることができるので、定着ベルトの回転ムラに起因する定着ムラを防止することができる。また、環状部材が軸部材に摺接しないので、環状部材や軸部材の磨耗を防止して、超寿命化を図ることができる。
【0014】
また、前記軸部材が、前記定着ベルトと回転軸を同じくする円柱形状以外の形状をとる保持部を有しており、前記摺接部材の基端が当該保持部に固設されていれば、定着ベルトとの摩擦によって、定着ベルトが回転する方向に摺接部材が付勢された場合でも、軸部材が円柱形状以外の形状をとっているので、摺接部材の位置ずれを防止して、安定した画像定着を行うことができる。
【0015】
また、前記給電部材と前記軸部材とが、互いに電気的に絶縁されていれば、給電部材からの漏電をより確実に防止することができる。したがって、定着装置の安全性を高めることができる。
また、本発明に係る画像形成装置は、本発明に係る定着装置を備えることを特徴とする。このため、本発明に係る定着装置の上述のような効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る画像形成装置主要な構成を示す図である。
【図2】定着装置100の主要な構成を示す断面斜視図であって、(a)は定着ベルトの回転軸を含む断面を示し、(b)は定着ベルトの回転軸に垂直な断面を示す。
【図3】定着ベルト200の層構成を示す断面図である。
【図4】摺接パッド220の断面形状を示す図である。
【図5】本発明の変形例に係る定着装置100の主要な構成を示す断面斜視図であって、(a)は定着ベルト200の回転軸を含む断面を示し、(b)は定着ベルト200の回転軸に垂直な断面を示す。
【図6】本発明の変形例に係る定着装置100の主要な構成を示す断面斜視図であって、(a)は定着ベルト200の回転軸を含む断面を示し、(b)は定着ベルト200の回転軸に垂直な断面を示す。
【図7】従来技術に係る抵抗発熱体方式の定着装置の主要な構成を示す外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る定着装置及び画像形成装置の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
[1] 画像形成装置の構成
まず、本発明に係る画像形成装置の構成について説明する。
図1は、本発明に係る画像形成装置主要な構成を示す図である。画像形成装置1は、いわゆる中間転写方式のカラー画像形成装置であって、図1に示されるように、作像ユニット101Y〜101Kを備えている。作像ユニット101Y〜101Kは何れも同様の構成を備えており、円筒形状の感光体ドラム102の外周面を帯電装置103にて一様に帯電させて所定の電位とした後、その帯電領域に露光装置104によって原稿画像に応じた画像露光が施され、静電潜像が形成される。
【0018】
現像装置105は、トナーカートリッジ108Y〜108Kから供給されたYMCK各色のトナーを、現像バイアスを印加された現像ローラー105aによって感光体ドラム102の外周面上に供給して静電潜像を現像し、可視トナー像とする。1次転写ローラー106には1次転写電圧が印加されており、トナーを静電吸着することによって、感光体ドラム102の外周面上から中間転写ベルト110上へ可視トナー像を1次転写する。中間転写ベルト110上へ可視トナー像を1次転写した後に、感光体ドラム102の外周面に残留するトナーは清掃装置107によって除去される。
【0019】
中間転写ベルト110は、2次転写対向ローラー111と従動ローラー112とに張架されており、不図示の駆動源によって回転駆動された2次転写対向ローラー111に従動回転することによって矢印A方向に回転走行しながら、YMCK各色のトナー像を順次、1次転写される。従動ローラー112は、回転走行する中間転写ベルト110との間の摩擦力によって従動回転する。
【0020】
上と並行して、記録シートSを収容した給紙カセット120においては、ピックアップローラー121によって記録シートSが1枚ずつ送り出され、2次転写対向ローラー111と2次転写ローラー113とが形成する2次転写ニップへと搬送される。2次転写ローラー113には2次転写バイアスが印加されており、2次転写ニップにおいて、中間転写ベルト110上に担持されるトナー像が記録シートSに静電転写される。
【0021】
トナー像を担持する記録シートSは、抵抗発熱体方式の定着装置100へ搬送され、トナー像を熱定着される。その後、記録シートSは排紙ローラー130によって排紙トレイ131上に排出される。一方、2次転写後に中間転写ベルト110上に残留するトナーは矢印A方向に搬送された後、清掃装置109によって除去される。
[2] 定着装置100の構成
次に、定着装置100の構成について説明する。
【0022】
図2は、定着装置100の主要な構成を示す断面斜視図であって、(a)は定着ベルトの回転軸を含む断面を示し、(b)は(a)のB−B線における断面を示す。図1に示されるように、定着装置100は抵抗発熱体層を有する無端状の定着ベルト200、定着ベルト200に圧接して定着ニップを形成する加圧ローラー210、定着ベルト200を介して加圧ローラー210に対向する摺接パッド220、及び、これらの部材を収容するハウジング230を備えている。
【0023】
図3は、定着ベルト200の層構成を示す断面図である。図3に示されるように、定着ベルト200は、内周側から抵抗発熱体層300、補強層301、弾性層302及び離型層303を順次積層した構成を備えている。抵抗発熱体層300は、樹脂に導電フィラーを分散させることにより所定の電気抵抗率に調整されている。樹脂材料としてはポリイミド(PI: Polyimide)、ポリフェニレンサルファイド(PPS: Poly Phenylene Sulfide)及びポリエーテルエーテルケトン(PEEK: Polyether Ether Ketone)等を用いれば良く、中でも最も高い耐熱性を有するポリイミドを用いるのが望ましい。
【0024】
導電フィラーとしては、銀(Ag)や銅(Cu)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)等の金属の粉末や、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素化合物の粉末、及びヨウ化銀(AgI)、ヨウ化銅(CuI)等の無機化合物の高イオン導電体粉末を用いるのが望ましく、それぞれ2種類以上を混合させて分散させても良い。
【0025】
導電フィラーの形状は、少ない含有量でフィラー同士の接触確率を高くして、パーコレーションし易くするために、繊維状が望ましい。炭素化合物や高イオン導電体は温度が高くなると体積抵抗率が低下する負の抵抗変化率(NTC: Negative Temperature Coefficient)を有しており、抵抗発熱体層300にNTC特性を付与するために用いる。特に、高イオン導電体は抵抗発熱体層300の機械的強度を低下させることがないことからも有用である。
【0026】
しかしながら、炭素化合物や高イオン導電体のみでは、抵抗発熱体層300の電気抵抗率を調整して、定着装置の消費電力を商用電源で500[W]から1500[W]まで程度の範囲内にすることは困難であるため、金属微粒子を併用して電気抵抗率を調整するのが望ましい。金属微粒子は、針形状やフレーク形状の銀やニッケルを用いるのが好ましく、粒径は0.01[μm]から10[μm]までの範囲内が良い。このようにすれば、炭素化合物や高イオン導電体と線状に絡み合うことによって均一な体積抵抗率を有する抵抗発熱体層300を得ることができる。
【0027】
耐熱樹脂中に分散させる導電フィラーは、耐熱樹脂重量に対して、金属微粒子が50[重量%]から300[重量%]までの範囲内であるのが良く、炭素化合物及び高イオン導電体は[5重量%]から100[重量%]までの範囲内であるのが好ましい。導電フィラーが多過ぎると電気抵抗率が下がり過ぎて使用し辛く、少な過ぎると電気抵抗率が大きくなり過ぎて使用し辛い。
【0028】
抵抗発熱体層300の厚みは任意であるが、5[μm]〜100[μm]の範囲内が望ましい。抵抗発熱体層300の電気抵抗率は印加電圧や消費電力、抵抗発熱体層300の厚さ、定着ベルト200の外径、軸方向の長さ等に応じて設定すべきであるが、概ね1.0×10-6[Ω・m]から1.0×10-2[Ω・m]までの範囲内とするのが良く、更に望ましくは1.0×10-5[Ω・m]から5.0×10-3[Ω・m]とするのが好適である。
【0029】
なお、抵抗発熱体層300の電気抵抗率を調整するために、金属合金や金属間化合物などの導電性粒子を適宜、分散させても良い。また、抵抗発熱体層300の機械的強度を向上させるために、ガラスファイバー、ウィスカー(単結晶繊維)、酸化チタン(TiO2)繊維、チタン酸カリウム(K2O・nTiO2)繊維などを分散させても良い。更に、抵抗発熱体層300の熱伝導率を向上させるために、窒化アルミニウム(AlN)や酸化アルミニウム(アルミナ:Al2O3)等を分散させても良い。
【0030】
抵抗発熱体層300の製造安定性を考慮すれば、イミド化剤やカップリング剤、界面活性剤、消泡剤を用いても良い。抵抗発熱体層300は、芳香族テトラカルボン酸二無水物(aromatic tetracarboxylic dianhydride)と芳香族ジアミン(aromatic diamine)とを有機溶媒中で重合させて得られるポリイミドワニス(ployimide vanish)に、上述のような導電性フィラーを均一に分散させてから金型に塗布し、イミド転化させることによって製造される。
【0031】
また、上記に代えて、抵抗発熱体層300として薄膜の金属層を構成しても良い。薄膜の金属層を構成する材料は、体積抵抗率(または導電率)の温度係数が小さいものが望ましく、例えば、ステンレス(SUS: stainless use steel)やニクロム(Ni-Cr)、チタン(Ti)等を用いると良い。金属薄膜層は、樹脂材上にメッキやスパッタリング、蒸着などを施すことによって形成することができる。また、樹脂材上に金属薄膜層を形成するに先立って、予め樹脂材の表面に対し、エッチング等の酸活性処理、パラジウム等による触媒処理、ブラスト研磨処理、プラズマ処理などを施せば、樹脂材と金属薄膜層との密着強度を高めることができる。
【0032】
定着ベルト200の離型層303は、パーフルオロアルコキシ(PFA: per fluoro alkoxy)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE: poly tetra fluoro ethylene)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE: ethylene tetra fluoro ethylene)等のフッ素系チューブ及びフッ素系コーティング等の離型性を付与した構成が望ましく、導電性を有していても良い。厚さは任意であるが、5[μm]から100[μm]までの範囲内が望ましい。フッ素系チューブとしては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製のPFA350−J、451HP−J、951HP Plus等を用いることができる。離型層303と水との接触角は90度以上が良く、望ましくは110度以上である。また、離型層303の表面粗さはRa:0.01[μm]から50[μm]程度までの範囲内であるのが望ましい。
【0033】
なお、補強層301は、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド等の樹脂からなっており、定着ベルト200を補強し、また、電気的に絶縁する。弾性層302は、シリコーンゴムやフッ素ゴム等からなっている。定着ベルト200は、少なくとも抵抗発熱層300と離型層303とを備えていることが必要で、他の層は用途に応じて付加すれば良い。抵抗発熱体層300は離型層303よりも内周側に設ければ良く、抵抗発熱体層300と離型層303との間に他の層が介在するか否かは問わない。
【0034】
加圧ローラー210は、定着ローラー200に圧接されており、不図示の駆動源によって回転駆動される。加圧ローラー210は、芯金210aの外周面上に弾性層と離型層を順次積層したものである。加圧ローラー210の外径は任意であるが、20[mm]から100[mm]までの範囲内が望ましい。加圧ローラー210の離型層は、定着ベルト200の離型層303と同様に、PFA、PTFEといったフッ素系チューブ及びフッ素系コーティング等の離型性を付与した構成が望ましく、導電性を有していても良い。離型層の厚さは、例えば、5[μm]から100[μm]までの範囲内とすればよい。
【0035】
弾性層はシリコーンゴムやフッ素ゴム等の耐熱性の高い材料が望ましく、厚さは1[mm]から20[mm]までの範囲内とすれば良い。芯金210aは、厚さが0.1[mm]から10[mm]までの範囲内にあるパイプ形状をとり、アルミニウムや鉄(Fe)といった材料からなっている。芯金210aは、パイプ形状の他、中実の円柱形状や断面が三ツ矢形状等であっても良い。
【0036】
定着ベルト200の内側には、定着ベルト200を挟んで加圧ローラー210に圧接することによって定着ニップを形成する摺接パッド220が固定配置されている。摺接パッド220は、剛性を有する樹脂もしくはゴムからなっている。摺接パッド220がゴムからなる場合には、定着ベルト200との間の摩擦抵抗を小さくするために、摩擦係数の低い摺動部材を定着ベルト200に接する箇所に配置するとよい。
【0037】
摺接パッド220は、ニップ圧による変形(ベンディング)を抑制するために、強度の高いシャフト221に支持されている。シャフト221は絶縁性の角柱部221aに円筒部221bを回転しないように嵌設した構造となっている。摺接パッド220は角柱部221aに固定支持されており、シャフト221の円筒部221bはハウジング230に回転しないように固定されている。
【0038】
摺接パッド220は、定着ベルト200の周方向について一部分のみに設けられているので、上述した従来技術のように、ベース体を定着ベルト200の全周に亘って設ける場合と比較して、熱損失を抑えて熱効率を向上させることができる。
図4は、摺接パッド220の断面形状を示す図である。図4に示されるように、定着ベルト200の回転軸方向における両端部においては、摺接パッド220は加圧ローラー210側に突出した形状を突出した断面形状220aをとり、定着ニップに近づくにつれて、突出量が小さくなって、平らな断面形状220bとなり、その後、定着ニップ部では陥凹した断面形状220cをとる。
【0039】
摺接パッド220の断面のうち湾曲部分の曲率半径は、断面形状220aから断面形状220bに至る間では漸増する。具体的には、断面形状220aでは定着ベルト200の内周面の曲率半径とほぼ同じになっており、断面形状220bに近づくにつれて曲率半径が大きくなる。断面形状220bは、曲率半径が無限大になる位置、すなわち、定着ベルト200に当接する辺が直線になる位置である。なお、摺接パッド220の幅Wが340[mm]から345[mm]までの範囲内であれば、断面形状220aから断面形状220bを経て断面形状220cに至る距離Dは10[mm]から50[mm]までの範囲内とするのが望ましい。
【0040】
また、断面形状220cから断面形状220bに至る間には、加圧ローラー210の曲率半径の30%以上となるように、当該曲率半径が増大する。摺接パッド220は剛性を有しており、定着ニップにおいては、摺接パッド220の湾曲形状に沿って定着ベルト220が回転走行する。また、加圧ローラー210は、その弾性層を摺接パッド220の湾曲形状に合わせて弾性変形させながら回転する。
【0041】
定着ベルト200は、加圧ローラー210との間の摩擦力によって従動回転するが、定着ベルト200の内周面と摺接パッド220との間の摩擦力が大きいと、定着ベルト200と加圧ローラー210との間でスリップが発生して、回転不良を起こすおそれがある。このような回転不良を防止するために、定着ローラー200の回転軸方向における両端にはベルト駆動ギア201が嵌設されている。定着ベルト200の回転不良が発生すると、ベルト駆動ギア201によって定着ベルト200が回転駆動され、回転不良から復帰する。
【0042】
ベルト駆動ギア201は、ベアリング202を介してシャフト221に回転可能に支持されている。シャフト221は、上述のように、角柱部221aに円筒部221bを嵌設した構造となっている。また、ベルト駆動ギア201は、定着ベルト200に外囲されたボス部分201aと、定着ベルト200外に位置するフランジ部分201bとからなっている。ベルト駆動ギア201のフランジ部分201bの内周側はベアリング202を介して、シャフト221の円筒部221bに支持される一方、当該フランジ部分201bの外周側はギアになっており、シャフト232に軸支されたギア231に歯合している。シャフト232もまたベアリング233を介してハウジング230に支持されている。
【0043】
ギア231は、加圧ローラー210による定着ベルト200の回転速度よりも、ベルト駆動ギア201を介したギア231による定着ベルト200の回転速度の方が若干遅めになるように、不図示の駆動源によって回転駆動されている。また、当該駆動源からギア231に回転駆動力を伝達する経路上にはトルクリミッタが介在しており、加圧ローラー210による定着ベルト200の回転駆動に回転不良が生じていない場合には、当該トルクリミッタが空転して、回転駆動力の伝達を遮断する。回転不良が生じた場合には、ギア231に回転駆動力を伝達して、定着ベルト200を回転させる。
【0044】
ボス部分201aの内周面、外周面及び摺接パッド220側の側面には受電部203が互いに導通可能に設けられている。ボス部分201aの外周面に設けられた受電部203は、定着ベルト200の抵抗発熱体層300に当接しており、電気的に接続されている。これによって、定着ベルト200の両端に当接する一対の受電部203間に電流を流すことによって、定着ベルト200の抵抗発熱体層300に電流が流され、抵抗発熱体層300が発熱する。なお、受電部203は、当該回転軸方向において摺接パッド220から離隔している。
【0045】
また、定着ベルト200の両端に当接する受電部203のうちの一方のみを抵抗発熱体層300に導電性接着剤を用いて接着して、他方は導通を確保しつつ接着していなくても良い。このようにすれば、定着ベルト200が蛇行しても、接着されていない方の受電部203と抵抗発熱体層300とがずれることによって、定着ベルト200にせん断力が作用するのを防止することができる。
【0046】
受電部203に用いる導電体には、定着ベルト200の周方向について均一な電気的特性を有する材料を用いるのが望ましく、銅やアルミニウム、ニッケル、真鍮、リン銅等の金属を化学メッキや電気メッキによってボス部分201aの表面上に形成する。まず、化学メッキを施してから電気メッキを施すとなお良い。
導電体材料としては、銅とニッケルが特に好ましく、銅をメッキした上にニッケルをメッキすると更に良い。また、メッキする以外にも、銅箔やニッケル箔を導電性接着剤でボス部分201aに接着しても良いし、導電性インクや導電性ペーストを塗布して受電部203としても良い。更に、ベルト駆動ギア201に対して、リング状の受電部203を装着しても良い。
【0047】
受電部203への給電は、受電部203に給電部材204を接触させることによって行われる。また、給電部材204へは、不図示の電源装置から電線207を経由して給電を受ける。電線207は絶縁材料で被覆されており、定着ベルト200の外部からシャフトの円筒部221bの中空部分を経由して定着ベルト200の内部の給電部材に至るように配設されている。
【0048】
また、給電部材204は保持板205によって、定着ベルト200の半径方向にのみ移動可能に保持されており、付勢部材206によって受電部203側へ付勢されている。付勢部材206としては、例えば、弾性を有する部材を用いれば良く、コイルばねを用いても良い。
上述の従来技術においては、軸部品を経由して給電する関係上、軸部品やベアリングといった充電箇所を露出させざるを得ず、安全上の問題があり、また、絶縁対策も困難である。これに対して、付勢部材206は、絶縁性の角柱部221aに支持されているので、付勢部材206を介した漏電が防止されている。これによって安全性を高めることができる。
【0049】
また、給電部材204は、定着ベルト200の回転軸方向において、ベルト駆動ギア201よりも内側に配設されている。このため、給電部材204や受電部203といった充電箇所へのアクセスがベルト駆動ギア201によって阻止されるので、漏電や感電といった事故を防止して、定着装置100の安全性を高めることができる。
また、給電部材204としては、例えば、カーボンブラシを用いることができる。給電部材204の形状は任意であり、受電部203と摺動させても良いし、受電部203の回転に従動して回転する回転体としても良い。上のような構成をとれば、定着ベルト200の抵抗発熱体層300に流れる電流の分布を均一にして、発熱分布を均一にすることができるので、定着ムラを防止することができる。
【0050】
定着ベルト200の回転軸方向において、加圧ローラー210は摺接パッド220よりも短くなっており、かつ、加圧ローラー210は回転軸方向の全域に亘って摺接パッド220に対向している。したがって、定着ベルト200の回転軸方向における何れの端部においても、摺接パッド220は加圧ローラー210よりより端部へ延出している。このような構成をとることによって、加圧ローラー210の回転軸方向の全域に亘って、加圧ローラー210の圧接力を摺接パッド220が受け止めるので、定着ベルト200の局所的な変形をなくして、定着装置100の耐久性を高めることができる。
【0051】
また、ベルト駆動ギア201は定着ベルト200の回転軸方向における端部においてのみ定着ベルト200に当接するので、当該回転軸方向の全長に亘って定着ベルト200に当接する場合と比較して熱損失を小さくすることができる。したがって、ウォームアップ時間への熱損失の影響を抑えることができる。
また、剛性を有するベルト駆動ギア201のボス部分201aに対して、付勢部材206によって付勢しながら給電部材204を当接させるので、受電部203と給電部材204との接触不良に起因する定着不良を防止することができる。また、受電部203を容易に厚膜化することができるので、受電部203を容易に製造することができ、また、受電部203の耐久性を向上させることができる。
【0052】
[3] 変形例
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明が上述の実施の形態に限定されないのは勿論であり、以下のような変形例を実施することができる。
(1)上記実施の形態においては、ベアリング202を介してシャフト221によりベルト駆動ギア201を支持する場合について説明したが、本発明がこれに限定されないのは言うまでもなく、これに代えて次のようにしても良い。
【0053】
図5は、本変形例に係る定着装置100の主要な構成を示す断面斜視図であって、(a)は定着ベルト200の回転軸を含む断面を示し、(b)は定着ベルト200の回転軸に垂直な断面を示す。なお、図2において対応する部材がある部材には同じ符号が付されている。図5(a)に示されるように、本変形例に係る定着装置100においては、ベルト駆動ギア201はもはやシャフト221には支持されておらず、これに代えて、図5(b)に示されるように、2つのギア231と給電部材206とによって支持されている。このようにしても、ベルト駆動ギア201を支持して、給電部材206を確実に受電部203に当接させることができる。また、ベルト駆動ギア201が定着ベルト200に接触する面積は、上記実施の形態と同じであるので、熱損失についても同様に低減することができる。
【0054】
また、図6は、別の変形例に係る定着装置100の主要な構成を示す断面斜視図であって、(a)は定着ベルト200の回転軸を含む断面を示し、(b)は定着ベルト200の回転軸に垂直な断面を示しており、対応する部材には同じ符号が付されている。本変形例に係る定着装置100においては、ベルト駆動ギア201はもはやシャフト221には支持されておらず、これに代えて、図6(b)に示されるように、受電部203に当接する2つのコロ601と給電部材206とによって支持されている。このようにしても、ベルト駆動ギア201を支持して、給電部材206を確実に受電部203に当接させることができる。従って、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0055】
なお、図5(b)においては、定着ベルト200の回転中心について、一方のギア231から他方のギア132に至る中心角120度の弧状部分において給電部材206が受電部203に摺接するように配置したが、前記中心角は180度未満であれば良い。図6(b)についても同様に、一方のコロ601から他方のコロ601に至る中心角180度未満の弧状部分において給電部材206が受電部203に摺接するように配置すれば、前記中心角は120度でなくとも良い。
【0056】
(2)上記実施の形態においては、不図示の駆動源に回転駆動された加圧ローラー210に定着ベルト200が従動回転する場合について説明したが、本発明がこれに限定されないのは言うまでも無く、ベルト駆動ギア201を介して回転駆動された定着ベルト200に加圧ローラー210が従動回転しても良い。また、ベルト駆動ギア201を介して定着ベルト200が回転駆動される場合には、加圧ローラー210に代えて、回転しない固定の加圧部材を用いても良い。
【0057】
(3)上記実施の形態においては、ベルト駆動ギア201が定着ベルト200の回転駆動と座屈防止との2つの用途を兼ねる場合について説明したが、本発明がこれに限定されないのは言うまでも無く、ベルト駆動ギア201に代えて、ギア部分を有さない環状部材を定着ベルト200に嵌設しても良い。このようにしても、ベルト駆動ギア201を嵌設した場合と同様に、定着ベルト200の座屈や破損を防止することができる。
【0058】
(4)上記実施の形態においては、定着ベルト200に圧接された状態で加圧ローラー210がハウジング230に軸支される場合について説明したが、本発明がこれに限定されないのは言うまでも無く、これに代えて次のようにしても良い。すなわち、ハウジング230とは別体の付勢手段に加圧ローラー210を軸支させると同時に、同じ付勢手段によって、加圧ローラー210を定着ベルト200へ向かって付勢させても良い。このようにすれば、より精度良く定着ベルト200に対する加圧ローラー210の圧接力を調整することができる。
【0059】
(5)上記実施の形態においては、中間転写方式のカラー画像形成装置を例にとって説明したが、本発明がこれに限定されないのは言うまでも無く、中間転写方式以外のカラー画像形成装置に本発明を適用しても良いし、モノクロ画像形成装置に適用しても良い。また、画像形成装置が、プリンタ装置や複写装置、ファクシミリ装置等の単機能機であるか、これらの機能のうちの複数を兼ね備えた多機能機(MFP: Multi Function Peripheral)であるかに関わらず本発明の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る定着装置及び画像形成装置は、抵抗発熱体方式の定着装置において定着ベルトの破損を防止する装置として有用である。
【符号の説明】
【0061】
1…………………画像形成装置
100……………定着装置
200……………定着ベルト
201……………ベルト駆動ギア
201a…………ボス部分
201b…………フランジ部分
202、233…ベアリング
203……………受電部
204……………給電部材
205……………保持板
206……………付勢部材
207……………電線
210……………加圧ローラー
220……………摺接パッド
221、232…シャフト
221a…………角柱部
221b…………円筒部
230……………ハウジング
231……………ギア
300……………抵抗発熱体層
301……………補強層
302……………弾性層
303……………離型層
601……………コロ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗発熱体層を有する無端状の定着ベルトの外周面に対して、加圧部材を圧接させて形成される定着ニップに記録シートを通紙することによってトナー像を定着する定着装置であって、
前記定着ベルト内に遊挿された軸部材と、
前記軸部材に基端が固設され、先端が前記定着ニップ相当位置の前記定着ベルト内周面に摺接して定着ニップを形成する摺接部材と、
前記定着ベルトと共に回転自在に支持された一対の環状部材であって、前記定着ベルトの回転軸方向における前記摺接部材よりも外側において前記定着ベルトの両端開口に嵌設された環状部材と、
前記環状部材に付設され、前記抵抗発熱体層に電気的に接続された一対の受電部と、
前記軸部材に係止され、前記一対の受電部それぞれに摺接し、前記抵抗発熱体層に給電する少なくとも一対の給電部材と、を備える
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記受電部は、前記定着ベルトの全周に亘って前記定着ベルトの内周面側から前記抵抗発熱体層に電気的に接続されており、
前記抵抗発熱体層は、前記定着ベルトの全周に亘って均一な厚みを有している
ことを特徴とする請求項1の定着装置。
【請求項3】
前記環状部材を回転駆動する駆動源と、
前記環状部材の回転速度が所定速度を下回ると、前記駆動源の回転駆動力を前記環状部材に伝達する伝達部材と、を備え、
前記定着ベルトは少なくとも前記環状部材の一方と一体に回転する
ことを特徴とする請求項1又は2の定着装置。
【請求項4】
前記摺接部材は、前記定着ベルトの回転軸方向について、前記定着ニップの両外側に延出しており、
前記摺接部材の前記定着ベルトに当接する面は、前記定着ニップに対応する位置では陥凹し、前記回転軸方向における両端部においては突出する滑らかな曲面形状を有している
ことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の定着装置。
【請求項5】
前記受電部は前記環状部材の内周面側に環状に設けられており、前記給電部材は前記環状部材の内周面側から前記受電部に摺接している
ことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の定着装置。
【請求項6】
前記環状部材と前記軸部材との間に介在して、
前記軸部材に前記定着ベルトと前記環状部材とを回転可能に軸支させるベアリング部材を備える
ことを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の定着装置。
【請求項7】
前記軸部材は、前記定着ベルトと回転軸を同じくする円柱形状以外の形状をとる保持部を有しており、
前記摺接部材は当該保持部に固設されている
ことを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の定着装置。
【請求項8】
前記給電部材と前記軸部材とは、互いに電気的に絶縁されている
ことを特徴とする請求項1から7の何れかに記載の定着装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れかに記載された定着装置を備える
ことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−114129(P2013−114129A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261570(P2011−261570)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】