説明

定量PCR用試薬および定量PCR方法

【課題】蛍光プローブ法およびインターカレーター法に対応した定量PCR用試薬および定量PCR方法において、検出感度を飛躍的に向上させる。
【解決手段】金属粒子20、蛍光レポーター21、クエンチャー22およびプローブ23が結合されたTaqman(登録商標)プローブ15を含み、DNAポリメラーゼ反応がTaqman(登録商標)プローブ15の結合領域まで進んだ段階で蛍光粒子とクエンチャーとが分離されるように構成したTaqman(登録商標)プローブユニット10を含む定量PCR用試薬1を用いてPCRを行い、金属粒子20に励起光を照射することにより生じるプラズモン増強場Pにより増幅された蛍光レポーター21の蛍光強度を測定することにより遺伝子増幅の進度を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCR(Polymerase Chain Reaction)を利用した遺伝子増幅における遺伝子増幅の進度を検出するための定量PCR用試薬および定量PCR方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりPCR(Polymerase Chain Reaction)を利用した遺伝子増幅技術が知られている。また、これにより増幅された遺伝子を定量化する方法としては、アガロースゲル電気泳動法、蛍光プローブ法、インターカレーター法が知られている。これらの中で蛍光プローブ法およびインターカレーター法は、検出精度が高く、またリアルタイムに結果を出せることから、高精度の測定が必要な場合によく用いられる。
【0003】
例えば特許文献1に記載されているように、蛍光プローブ法は、被検出遺伝子の所定領域に相補的に結合する蛍光プローブを定量PCR用試薬として用いる。蛍光プローブには、蛍光レポーターおよびその近傍に配されたクエンチャーが設けられており、初期状態で蛍光レポーターに対して励起光を照射しても蛍光エネルギーはクエンチャーに吸収され蛍光レポーターから蛍光は生じないが、プライマーと被検出遺伝子とのDNAポリメラーゼ反応が進み、被検出遺伝子と結合した蛍光プローブが分解されると、蛍光レポーターとクエンチャーとの距離が離れ、蛍光レポーターから蛍光が生じるようになる。この蛍光の強度を測定することにより、遺伝子増幅の進度を検出することが可能である。
【0004】
また、インターカレーター法は、遺伝子結合蛍光色素(SYBRグリーンI(登録商標)等)を定量PCR用試薬として用いる。遺伝子結合蛍光色素は、遺伝子と結合した際にのみ蛍光を生じるため、この蛍光の強度を測定することにより、遺伝子増幅の進度を検出することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−144198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような蛍光プローブ法およびインターカレーター法に対応した定量PCR用試薬および定量PCR方法において、検出感度を飛躍的に向上させた定量PCR用試薬および定量PCR方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の定量PCR用試薬は、PCR(Polymerase Chain Reaction)を利用した遺伝子増幅における遺伝子増幅の進度を検出するための定量PCR用試薬であって、多数の金属粒子と、励起光の照射を受けて蛍光を生じる多数の蛍光粒子とを混在させて含み、金属粒子に励起光を照射することにより生じるプラズモン増強場により増幅された蛍光粒子の蛍光強度を測定することにより遺伝子増幅の進度を検出可能としたことを特徴とするものである。
【0008】
本発明の定量PCR用試薬は、蛍光プローブ法の中でもTaqman(登録商標)PCR法に対応した試薬として、金属粒子、蛍光粒子およびクエンチャーが結合されたTaqman(登録商標)プローブを含み、DNAポリメラーゼ反応がTaqman(登録商標)プローブの結合領域まで進んだ段階で蛍光粒子とクエンチャーとが離間するように構成されたものとしてもよい。
【0009】
また、蛍光プローブ法の中でもモレキュラービーコン法に対応した試薬として、金属粒子、蛍光粒子およびクエンチャーが結合されたモレキュラービーコンを含み、DNAポリメラーゼ反応がモレキュラービーコンに対して行われた段階で蛍光粒子とクエンチャーとが離間するように構成されたものとしてもよい。
【0010】
これらの場合にクエンチャーは、クエンチャーと蛍光粒子との間で蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を生じるFRET用蛍光物質としてもよい。
【0011】
また、インターカレーター法に対応した試薬として、蛍光粒子と、プライマーおよび金属粒子が結合されたプライマーユニットとを含み、DNAポリメラーゼ反応が進むにつれて蛍光粒子がDNA内にインターカレーションされるように構成されたものとしてもよい。
【0012】
上記の定量PCR用試薬において、金属粒子は、直径10〜100nmの球状体としてもよいし、長さ10〜100nmの棒状体としてもよい。
【0013】
また、金属粒子は、Agを主成分とするものであることが好ましい。
【0014】
ここで、「Agを主成分とする」とは、金属粒子中におけるAgの質量パーセント濃度が最も高いことを意味する。
【0015】
また、金属粒子は、光透過材料により被覆されていることが好ましい。
【0016】
本発明の定量PCR方法は、PCR(Polymerase Chain Reaction)を利用した遺伝子増幅における遺伝子増幅の進度を検出するための定量PCR方法であって、多数の金属粒子と、励起光の照射を受けて蛍光を生じる多数の蛍光粒子とを加えてPCRを行い、金属粒子に励起光を照射することにより生じるプラズモン増強場により増幅された蛍光粒子の蛍光強度を測定することにより遺伝子増幅の進度を検出することを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の定量PCR用試薬によれば、PCR(Polymerase Chain Reaction)を利用した遺伝子増幅における遺伝子増幅の進度を検出するための定量PCR用試薬において、多数の金属粒子と、励起光の照射を受けて蛍光を生じる多数の蛍光粒子とを混在させて含み、金属粒子に励起光を照射することにより生じるプラズモン増強場により増幅された蛍光粒子の蛍光強度を測定することにより遺伝子増幅の進度を検出可能なものとし、遺伝子増幅の進度を表す蛍光粒子の蛍光強度をプラズモン増強効果を利用して10〜100倍程度と飛躍的に増強したので、検出感度を飛躍的に向上させることができる。
【0018】
本発明の定量PCR用試薬において、金属粒子、蛍光粒子およびクエンチャーが結合されたTaqman(登録商標)プローブを含み、DNAポリメラーゼ反応がTaqman(登録商標)プローブの結合領域まで進んだ段階で蛍光粒子とクエンチャーとが離間するように構成されたものとすれば、Taqman(登録商標)PCR法に対応した試薬とすることができる。
【0019】
また、金属粒子、蛍光粒子およびクエンチャーが結合されたモレキュラービーコンを含み、DNAポリメラーゼ反応がモレキュラービーコンに対して行われた段階で蛍光粒子とクエンチャーとが離間するように構成されたものとすれば、モレキュラービーコン法に対応した試薬とすることができる。
【0020】
また、蛍光粒子と、プライマーおよび金属粒子が結合されたプライマーユニットとを含み、DNAポリメラーゼ反応が進むにつれて蛍光粒子がDNA内にインターカレーションされるように構成されたものとすれば、インターカレーター法に対応した試薬とすることができる。
【0021】
また、金属粒子を、Agを主成分とするものとすれば、プラズモン増強効果を効率的に発生させられるため、より検出感度を飛躍的に向上させることができる。
【0022】
また、金属粒子を、光透過材料により被覆することにより、金属消光を防止することができる。また金属粒子の主成分をAg等の酸化しやすい物質とした場合には、さらに金属粒子の酸化も防止することができる
本発明の定量PCR方法によれば、PCR(Polymerase Chain Reaction)を利用した遺伝子増幅における遺伝子増幅の進度を検出するための定量PCR方法において、多数の金属粒子と、励起光の照射を受けて蛍光を生じる多数の蛍光粒子とを加えてPCRを行い、金属粒子に励起光を照射することにより生じるプラズモン増強場により増幅された蛍光粒子の蛍光強度を測定することにより遺伝子増幅の進度を検出するようにして、遺伝子増幅の進度を表す蛍光粒子の蛍光強度をプラズモン増強効果を利用して10〜100倍程度と飛躍的に増強したので、検出感度を飛躍的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施の形態の定量PCR用試薬の概略構成図
【図2】上記定量PCR用試薬におけるクエンチャー分離前の状態を示す図
【図3】上記定量PCR用試薬におけるクエンチャー分離後の状態を示す図
【図4】本発明の第2の実施の形態の定量PCR用試薬の概略構成図
【図5】本発明の第3の実施の形態の定量PCR用試薬の概略構成図
【図6】本発明の第4の実施の形態の定量PCR用試薬の概略構成図
【図7】本発明の第5の実施の形態の定量PCR用試薬の概略構成図
【図8】本発明の第6の実施の形態の定量PCR用試薬の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の第1の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施の形態の定量PCR用試薬の概略構成図である。
【0025】
図1に示すように、本実施の形態の定量PCR用試薬1は、蛍光プローブ法の中でもTaqman(登録商標)PCR法に対応したものであり、金属粒子20の表面に複数のTaqman(登録商標)プローブ15が修飾されたTaqman(登録商標)プローブユニット10を含むものである。
【0026】
Taqman(登録商標)プローブ15は、蛍光レポーター21、クエンチャー22および被検出遺伝子12の所定領域に相補的に結合するプローブ23からなり、蛍光レポーター21と金属粒子20とがPEGリンカー24により結合され、プローブ23と金属粒子20とがPEGリンカー24により結合され、クエンチャー22とプローブ23とは直接結合されている。このうち、特に蛍光レポーター21と金属粒子20とを結合させるPEGリンカー24の長さは、金属粒子20において発生させるプラズモン増強場Pの影響範囲(金属粒子20を中心に周囲数10nm程度)内に蛍光レポーター21を位置させることが可能な長さにする必要がある。
【0027】
金属粒子20は、球状体であり、その直径は10〜100nm程度、好ましくは40〜50nm程度とするのがよい。また材質については、Ag、Au、Cu、Pt等の種々の金属を用いることができるが、プラズモン増強効果を効率的に発生させられるという観点から、Agを用いることが好ましい。
【0028】
蛍光レポーター21としては、Cy5(登録商標)等の蛍光色素や、Qdot(登録商標)等の蛍光物質を用いることができる。
【0029】
クエンチャー22としては、Cy7Q(登録商標)等を用いることができる。また、クエンチャーと蛍光レポーター21との間で蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を生じるFRET用蛍光物質としてもよい。例えば、蛍光レポーター21としてCy5(登録商標)を用いた場合、クエンチャー22としてCy5.5(登録商標)を用いれば、両者間でFRETを生じさせることができる。
【0030】
次に、上記定量PCR用試薬1の作用について説明する。図2は上記定量PCR用試薬におけるクエンチャー分離前の状態を示す図、図3は上記定量PCR用試薬におけるクエンチャー分離後の状態を示す図である。なお、図2、3ともに、分かりやすくするために金属粒子表面のTaqman(登録商標)プローブは一つのみ表示し、それ以外は省略している。
【0031】
図2に示すように、プライマー11や被検出遺伝子12等に定量PCR用試薬1を加えてPCRを行った場合、被検出遺伝子12の所定領域にプローブ23が相補的に結合する。また、被検出遺伝子12の別の領域にはプライマー11が相補的に結合する。そして、図3に示すように、DNAポリメラーゼ反応がTaqman(登録商標)プローブの結合領域まで進むと、プローブ23が分解され、Taqman(登録商標)プローブユニット10を全体として見れば蛍光レポーター21とクエンチャー22とが分離され、蛍光レポーター21とクエンチャー22とが離間する。
【0032】
図2に示すような初期状態で蛍光レポーター21に対して励起光を照射しても励起エネルギーはクエンチャー22に吸収され蛍光レポーター21から蛍光は生じないが、図3に示すように、プライマー11と被検出遺伝子12とのDNAポリメラーゼ反応が進むと蛍光レポーター21とクエンチャー22とが離間して、蛍光レポーター21から蛍光が生じるようになる。なお、厳密には蛍光レポーター21とクエンチャー22とが完全に別体とならなくても、両者が離間すれば蛍光レポーター21から蛍光が生じるようになる。この蛍光の強度を測定することにより、遺伝子増幅の進度を検出することが可能である。なお、蛍光レポーター21とクエンチャー22との間でFRETを生じさせるように構成している場合には、蛍光色の変化を測定すればよい。
【0033】
本実施の形態では、蛍光レポーター21の近傍に金属粒子20が結合されており、金属粒子20に励起光を照射することにより生じるプラズモン増強場Pにより、蛍光レポーター21の蛍光強度が10〜100倍程度と飛躍的に増強されるため、検出感度を飛躍的に向上させることができる。
【0034】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図4は本発明の第2の実施の形態の定量PCR用試薬の概略構成図である。
【0035】
本実施の形態の定量PCR用試薬は、上記第1の実施の形態の定量PCR用試薬と比較して、金属粒子20を、光透過材料25により被覆した点が異なり、それ以外の点は上記第1の実施の形態と同様であるため、同様の点についての説明は省略する。
【0036】
図4に示すように、本実施の形態のTaqman(登録商標)プローブユニット10aの金属粒子20は、光透過材料25により被覆されている。この光透過材料25としては、SiO膜等を用いることができる。
【0037】
本発明のように、プラズモン増強場を生じる金属粒子20を蛍光レポーター21の近傍に配した場合、金属粒子20と蛍光レポーター21との距離があまりに近すぎると、蛍光レポーター21内で励起されたエネルギーが蛍光を生じさせる前に金属粒子20に遷移してしまい、蛍光を生じなくなるという現象(金属消光)が起こり得る。従って、金属粒子20を、10nm程度の厚さの光透過材料25により被覆することにより、金属粒子20と蛍光レポーター21とが近接しすぎないようにすることができるため、金属消光を防止することが可能となる。
【0038】
また、金属粒子の主成分をAg等の酸化しやすい物質とした場合には、金属粒子20を光透過材料25により被覆することにより、さらに金属粒子20の酸化も防止することができる。
【0039】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。図5は本発明の第3の実施の形態の定量PCR用試薬の概略構成図である。
【0040】
本実施の形態の定量PCR用試薬は、上記第2の実施の形態の定量PCR用試薬と比較して、Taqman(登録商標)プローブ15の構成が異なり、それ以外の点は上記第2の実施の形態と同様であるため、同様の点についての説明は省略する。
【0041】
図5に示すように、本実施の形態のTaqman(登録商標)プローブユニット10bのTaqman(登録商標)プローブ15´は、蛍光レポーター21、クエンチャー22および被検出遺伝子12の所定領域に相補的に結合するプローブ23からなり、蛍光レポーター21は2つの結合其を備え、一方の結合其はPEGリンカー24を介して金属粒子20と結合されるとともに、他方の結合其はプローブ23と結合される。クエンチャー22はプローブ23と直接結合されている。
【0042】
上記第1および第2の実施の形態のTaqman(登録商標)プローブ15では、蛍光レポーター21とクエンチャー22とが互いに結合されておらず、両者共に両者の対向位置の反対側において他の部材と結合している。蛍光レポーター21はPEGリンカー24を介して金属粒子20と結合しており、クエンチャー22とプローブ23はプローブ23中のDNA断片を介して直接結合している。また、プローブ23は、PEGリンカー24を介して金属粒子20と結合している。PEGリンカー24は可撓性を有するため、上記のように構成された上記第1および第2の実施の形態のTaqman(登録商標)プローブ15では、蛍光レポーター21とクエンチャー22との距離(位置関係)が変化しやすく、クエンチャー22の効能を安定的に発揮させることが難しくなることが懸念される。
【0043】
これに対して本実施の形態のTaqman(登録商標)プローブ15´は、蛍光レポーター21にプローブ23を直接結合するとともに、このプローブ23にクエンチャー22が直接結合しているので、蛍光レポーター21とクエンチャー22との距離(位置関係)が変化しにくくなり、クエンチャー22の効能を安定的に発揮させることができる。
【0044】
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。図6は本発明の第4の実施の形態の定量PCR用試薬の概略構成図である。
【0045】
本実施の形態の定量PCR用試薬は、上記第3の実施の形態の定量PCR用試薬と比較して、金属粒子20の形状を棒状体にした点および金属粒子20を光透過材料25により被覆していない点が異なり、それ以外の点は上記第3の実施の形態と同様であるため、同様の点についての説明は省略する。
【0046】
図6に示すように、本実施の形態のTaqman(登録商標)プローブユニット10cの金属粒子20´は、棒状体であり、その長さは10〜100nm程度とするのがよい。例えば長さ80nm、直径13nmのAuナノロッドとすることができる。
【0047】
Taqman(登録商標)プローブ15´は、棒状の金属粒子20の両端部に修飾される。
【0048】
金属粒子20´を棒状体とした場合、プラズモン増強場Pは棒の両端部にしか発現しないが、球状体の場合と比較して強いプラズモン増強場が発現するため、より検出感度を向上させることができる。
【0049】
なお、本実施の形態においても、金属粒子20´を光透過材料25により被覆してもよい。
【0050】
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。図7は本発明の第5の実施の形態の定量PCR用試薬の概略構成図である。なお、上記実施の形態と同様の点についての説明は省略する。
【0051】
図7に示すように、本実施の形態の定量PCR用試薬2は、インターカレーター法に対応したものであり、金属粒子40の表面に複数のプライマー41がPEGリンカー42を介して修飾されたプライマーユニット30を含むものである。
【0052】
被検出遺伝子32や蛍光色素(SYBRグリーンI(登録商標))31等に定量PCR用試薬2を加えてPCRを行った場合、蛍光色素(SYBRグリーンI(登録商標))31は、遺伝子と結合した際にのみ蛍光を生じるため、この蛍光の強度を測定することにより、遺伝子増幅の進度を検出することが可能である。
【0053】
本実施の形態では、蛍光色素(SYBRグリーンI(登録商標))31を取り込むプライマー41の近傍に金属粒子40が結合されており、金属粒子40に励起光を照射することにより生じるプラズモン増強場Pにより、蛍光色素(SYBRグリーンI(登録商標))31の蛍光強度が10〜100倍程度と飛躍的に増強されるため、検出感度を飛躍的に向上させることができる。
【0054】
なお、本実施の形態においても、金属粒子40を光透過材料により被覆してもよい。
【0055】
次に、本発明の第6の実施の形態について説明する。図8は本発明の第6の実施の形態の定量PCR用試薬の概略構成図である。なお、上記実施の形態と同様の点についての説明は省略する。
【0056】
図8に示すように、本実施の形態の定量PCR用試薬3は、蛍光プローブ法の中でもモレキュラービーコン法に対応したものであり、金属粒子60の表面に複数のモレキュラービーコン63が修飾されたモレキュラービーコンユニット50を含むものである。
【0057】
モレキュラービーコン63の両端には各々蛍光レポーター61およびクエンチャー62が結合されており、蛍光レポーター61と金属粒子60とがPEGリンカー64により結合されている。
【0058】
被検出遺伝子52等に定量PCR用試薬3を加えてPCRを行った場合、初期状態で蛍光レポーター61に対して励起光を照射しても蛍光エネルギーはクエンチャー62に吸収され蛍光レポーター61から蛍光は生じないが、モレキュラービーコン63と被検出遺伝子52とのDNAポリメラーゼ反応が進むと、蛍光レポーター61とクエンチャー62との距離が離れ、蛍光レポーター61から蛍光が生じるようになる。この蛍光の強度を測定することにより、遺伝子増幅の進度を検出することが可能である。
【0059】
本実施の形態では、蛍光レポーター61の近傍に金属粒子60が結合されており、金属粒子60に励起光を照射することにより生じるプラズモン増強場Pにより、蛍光レポーター61の蛍光強度が10〜100倍程度と飛躍的に増強されるため、検出感度を飛躍的に向上させることができる。
【0060】
なお、本実施の形態においても、金属粒子60を光透過材料により被覆してもよい。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行なってもよいのは勿論である。例えば、PEGリンカーの代わりに、ポリメタクリレート、ポリアクリレート等のポリマーリンカーを用いても良いし、シランカップリングによる結合でも良い。
【符号の説明】
【0062】
1、2、3 定量PCR用試薬
10 Taqman(登録商標)プローブユニット
11 プライマー
12 被検出遺伝子
15 Taqman(登録商標)プローブ
20 金属粒子
21 蛍光レポーター
22 クエンチャー
23 プローブ
24 PEGリンカー
25 光透過材料
30 プライマーユニット
31 蛍光色素(SYBRグリーンI(登録商標))
32 被検出遺伝子
40 金属粒子
41 プライマー
42 PEGリンカー
43 光透過材料
50 モレキュラービーコンユニット
52 被検出遺伝子
60 金属粒子
61 蛍光レポーター
62 クエンチャー
63 モレキュラービーコン
64 PEGリンカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCR(Polymerase Chain Reaction)を利用した遺伝子増幅における遺伝子増幅の進度を検出するための定量PCR用試薬であって、
多数の金属粒子と、励起光の照射を受けて蛍光を生じる多数の蛍光粒子とを混在させて含み、
前記金属粒子に励起光を照射することにより生じるプラズモン増強場により増幅された前記蛍光粒子の蛍光強度を測定することにより遺伝子増幅の進度を検出可能としたことを特徴とする定量PCR用試薬。
【請求項2】
前記金属粒子、前記蛍光粒子およびクエンチャーが結合されたTaqman(登録商標)プローブを含み、
DNAポリメラーゼ反応が前記Taqman(登録商標)プローブの結合領域まで進んだ段階で前記蛍光粒子と前記クエンチャーとが離間するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の定量PCR用試薬。
【請求項3】
前記金属粒子、前記蛍光粒子およびクエンチャーが結合されたモレキュラービーコンを含み、
DNAポリメラーゼ反応が前記モレキュラービーコンに対して行われた段階で前記蛍光粒子と前記クエンチャーとが離間するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の定量PCR用試薬。
【請求項4】
前記クエンチャーが、該クエンチャーと前記蛍光粒子との間で蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を生じるFRET用蛍光物質であることを特徴とする請求項2または3記載の定量PCR用試薬。
【請求項5】
前記蛍光粒子と、
前記プライマーおよび前記金属粒子が結合されたプライマーユニットとを含み、
DNAポリメラーゼ反応が進むにつれて前記蛍光粒子がDNA内にインターカレーションされるように構成されていることを特徴とする請求項1記載の定量PCR用試薬。
【請求項6】
前記金属粒子が、直径10〜100nmの球状体であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の定量PCR用試薬。
【請求項7】
前記金属粒子が、長さ10〜100nmの棒状体であることを特徴とする請求項1から
5のいずれか1項記載の定量PCR用試薬。
【請求項8】
前記金属粒子が、Agを主成分とするものであることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の定量PCR用試薬。
【請求項9】
前記金属粒子が、光透過材料により被覆されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の定量PCR用試薬。
【請求項10】
PCR(Polymerase Chain Reaction)を利用した遺伝子増幅における遺伝子増幅の進度を検出するための定量PCR方法であって、
多数の金属粒子と、励起光の照射を受けて蛍光を生じる多数の蛍光粒子とを加えて前記PCRを行い、
前記金属粒子に励起光を照射することにより生じるプラズモン増強場により増幅された前記蛍光粒子の蛍光強度を測定することにより遺伝子増幅の進度を検出することを特徴とする定量PCR方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−147679(P2012−147679A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6425(P2011−6425)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】