説明

容器の蓋部材、当該蓋部材を備えた容器および容器セット

【課題】容易に容器の閉塞または開放を行うことができる容器の蓋部材、当該蓋部材を備えた容器および容器セットを提供することである。
【解決手段】本発明に係る培養容器500の蓋部材200は、本体部300と蓋部400とからなる。蓋部400は、第1ヒンジ部420および第2ヒンジ部430、係止部460により当接面を本体部300に当接させ、当該本体部300の開口部320を閉塞する。また、蓋部400には、当接面から突出して設けられたベロ部470を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実験、臨床検査および組織培養を行うための器具に関し、容器の蓋部材、当該蓋部材を備えた容器および容器セットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、細胞培養など、特に免疫細胞に関する培養研究においては人的作業により実験および研究が行われている。その結果、実験および研究が行い易い培養容器が必要となり、当該培養容器について種々の開発が行われている。
【0003】
特許文献1には、長時間に亙って培養器から取り出すことが可能な改良された培養容器と閉塞部材との組立体について開示されている。
【0004】
特許文献1記載の培養容器と閉塞部材との組立体は、培養器内で細胞培養を成長させるのに使用するようになされた組立体であって、チャンバと、同チャンバに結合されて同チャンバ内に細胞と培養液とを導入するための開口を有するネック部とを含む容器と、ネック部に設けられた開口を覆うための閉塞部材であって、ネック部に当該閉塞部材を取り外し自在に取り付けるための手段と、容器内への及び同容器からのガスの拡散を許容する手段とを含む、閉塞部材と、容器内への及び同容器内からのガスの拡散を阻止するために閉塞部材に取り外し自在に取り付けられたプラグと、からなるものである。
【0005】
【特許文献1】特開平07−163333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また近年、細胞工学または医工学の急速な進歩により培養分野においても、自動化が求められている。当該自動化は、無菌環境下において大量培養を行うことができるというメリットがあり、病気の治療方法を促進する技術として注目されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の培養容器と閉塞部材との組立体においては、人手によりキャップからプラグを抜き取る動作、またはキャップにプラグを挿し込む動作を行うことが可能であるものの、自動化を行う場合、キャップからプラグを抜き取る動作およびキャップにプラグを挿し込む動作が困難である。すなわち、プラグの位置決め等の問題が生じ、自動化が複雑化し、コストがかかる。
【0008】
また、自動化に限らず人的作業による場合であっても、プラグがキャップから外れ、独立の部材となるため、プラグ紛失等の問題が生じる。
【0009】
本発明の目的は、容易に容器の閉塞または開放を行うことができる容器の蓋部材、当該蓋部材を備えた容器および容器セットを提供することである。
本発明の他の目的は、容易に容器の閉塞または開放を行うことができる無菌環境用容器の蓋部材、当該蓋部材を備えた無菌環境用容器および無菌環境用容器セットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)
一の局面に従う容器の蓋部材は、容器の蓋部材であって、容器に嵌合し、開口部を有する本体部と、連結部により本体部に係合され、かつ開口部の閉塞および開放を行う蓋部と、を含み、蓋部は、蓋部を本体部に係止する係止部と、本体部と当接する当接面から突出して設けられた突出部と、を含むものである。
【0011】
容器の蓋部材は、本体部と蓋部とで構成される。蓋部は、連結部および係止部により当接面を本体部に当接させ、当該本体部の開口部を閉塞する。また、蓋部には、当接面から突出して設けられた突出部を有する。
【0012】
この場合、蓋部材が本体部および蓋部からなる。本体部を容器に嵌合させた状態で、蓋部のみを開くことで、本体部の開口部が開放され、容易に容器の内部空間および外部空間を連通させることができる。さらに、本体部と当接する当接面から突出して突出部が設けられるので、当該突出部に力を加えることで、係止部の係り止めを容易に解除することができる。
【0013】
(2)
容器の蓋部材において蓋部は、孔部を有し、かつ孔部にフィルタ部材が配設されてもよい。
【0014】
この場合、蓋部に孔部が設けられ、かつ孔部にフィルタ部材が設けられるので、蓋部を本体部に係止した場合でも、容器の内部空間と外部空間との間に清浄な空気だけを通過させることができる。また、容器が培養容器の場合、培養容器内の培養液交換の際には、蓋部および本体部の係り止めを解除して、開口部を露見させることで、本体部を取り外すことなく内部空間の培養液交換を実施することができる。また、フィルタ部材を当接面側に設けることにより、フィルタ部材を確実に保持することができる。一方、フィルタ部材を当接面側と対抗する面側に設けることにより、容易にフィルタ部材を交換することができる。
【0015】
また、遠沈管等の容器の場合、一般にオートクレーブと呼ばれる高圧蒸気で殺菌を行う際に、フィルタ部材を通じてガスの出入りを行うことができる。
具体的には、廃液が保管されていた遠沈管等の容器を高圧蒸気滅菌する際に、遠沈管の内圧が上昇し、容器が壊れてしまう、または、内部に高圧蒸気が入り込まないという等の問題があるため、一般には、ユーザが蓋部を外してまたは緩める行為を行ってから高圧蒸気滅菌を行っている。
【0016】
そのため、ユーザによる蓋部を外す行為、または蓋部を緩める行為のいずれも汚染の危険性が潜んでいる。
これに対して、本発明の蓋部材では、蓋部に孔部が設けられ、かつ孔部にフィルタ部材が設けられるので、蓋部を本体部に係止した場合でも、容器の内部空間と外部空間との間に高圧蒸気を通過させることができ、ユーザの汚染の危険性を防止することができる。
【0017】
(3)
容器の蓋部材において突出部は、少なくとも連結部から係止部への方向の延長上に設けられてもよい。
【0018】
この場合、突出部は、連結部から係止部への方向の延長上に設けられているので、突出部に力を加えることにより、連結部を回転軸として係止部に大きな力を加えることができ、係止部を容易に外すことができる。
【0019】
(4)
容器の蓋部材において、突出部は、板形状であってもよい。
【0020】
この場合、突出部は、板形状であるので、培養容器中に細胞等を培養させた状態で、自動開封機器により蓋部材の係止部を容易に解除することができる。その結果、開口部を開放して自動で培養容器の内部空間の培養液を交換することができる。すなわち、大量の培養容器を短時間で処理することができる。
【0021】
(5)
容器の蓋部材において、突出部は、ベロ形状であってもよい。
【0022】
この場合、突出部は、ベロ形状であるので、容器中に細胞等を培養させた状態で、自動開封機器により蓋部材の係止部を容易に解除することができる。その結果、開口部を開放して自動で容器の内部空間の培養液を交換することができる。すなわち、大量の培養容器を短時間で処理することができる。
【0023】
(6)
容器の蓋部材において、本体部および蓋部は、一体として設けられてもよい。
【0024】
この場合、本体部および蓋部は、一体として設けられるので、蓋部の紛失等を防止することができる。また、一体として形成することによりコストダウンを図ることができる。
【0025】
(7)
容器の蓋部材において、容器は、培養容器または遠沈管からなり、本体部の開口部は、液だれ防止部を有してもよい。
【0026】
この場合、容器の開口部に液だれ防止部が備えられているので、培養容器または遠沈管から培養液等を排出する際に、開口部の周囲に液だれが生じない。
【0027】
(8)
容器の蓋部材において、液だれ防止部は、本体部の開口部周囲から蓋部側へ延びる立ち壁からなってもよい。
【0028】
この場合、液だれ防止部は、開口部周囲から蓋部側へ延びる立ち壁からなるので、培養液等を排出する際に、開口部の周囲に液だれが生じない。特に、立ち壁の先端を細くすることで、培養液の表面張力が生じないようにすることで、液だれを防止することができる。
【0029】
(9)
容器の蓋部材において、液だれ防止部は、本体部の開口部周辺において、連結部から遠ざかる位置で、開口部の円周の略180度の範囲に設けられてもよい。
【0030】
この場合、液だれ防止部は、本体部の開口部周辺において、連結部から遠ざかる位置で、開口部の円周の略180度の範囲に設けられる。そして、開口部から培養液等の排出処理をする場合、連結部が開口部の中央よりも少なくとも鉛直上方向に配されるので、蓋部材の開口部から液だれ防止部を通過して短時間で培養液等の排出処理をすることができる。
【0031】
(10)
容器の蓋部材であって、蓋部が開口部の閉塞した場合に、蓋部は、立ち壁を挟持する凹部を有してもよい。
【0032】
この場合、蓋部が開口部の閉塞した場合に、蓋部が、立ち壁を挟持する凹部を有するので、立ち壁を大きく形成することができる。その結果、液だれを防止することができる。
【0033】
(11)
他の局面に従う容器セットは、容器セットであって、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の蓋部材と、容器とを含むものである。
【0034】
この場合、蓋部材が本体部および蓋部からなる。本体部を容器に嵌合させた状態で、蓋部のみを開くことで、本体部の開口部が開放され、容易に容器の内部空間および外部空間を連通させることができる。さらに、本体部と当接する当接面から突出して突出部が設けられるので、当該突出部に力を加えることで、係止部の係り止めを容易に解除することができる。
【0035】
(12)
容器セットの容器に蓋部材が取り付けられた場合において、容器は、台上に載置するための載置面を有し、蓋部材の連結部は、開口部の中心を基準として、載置面と反対側に配設されてもよい。
【0036】
この場合、連結部は、載置面から開口部の中心より離れた位置(中心より鉛直上方向)に配設されているので、蓋部材が開放された場合、載置面側に蓋部が配設されない。その結果、開口部から容器内の培養液を交換する場合に、交換機材(培養液交換ノズルの培養液に接触しない部分)に雑菌があり、当該雑菌が下方に落下した場合であっても、蓋部の当接面側が、受け皿とならない。すなわち、容器内に連通する開口部側の当接面が受け皿とならないので、容器内への雑菌等の混入を極限まで低減することができる。なお、当該載置面は、平面または専用保持具等に載置できる部位を意味し、任意の平面、曲面、支持脚等を含む。
【0037】
(13)
容器セットにおいて、液だれ防止部は、少なくとも載置面側を含む開口部の円周の略180度の範囲に設けられることが好ましい。
【0038】
この場合、液だれ防止部は、少なくとも載置面側を含む開口部の円周の略180度の範囲に設けられるので、載置面の開口部側と逆側を鉛直上方向に上げて、容器を傾斜させることで、短時間で培養液等の排出処理をすることができる。
【0039】
(14)
容器の蓋部材において、容器は、培養容器または遠沈管であってもよい。
【0040】
この場合、無菌環境下で使用される培養容器または遠沈管において容易に容器の内部空間および外部空間を連通させることができる。
【0041】
(15)
容器の蓋部材において、容器はフラスコまたはローラボトルであってもよい。
【0042】
この場合、容器は、フラスコまたはローラボトルであってもよい。すなわち、大量生産されているフラスコおよびローラボトルを利用することで、細胞の培養を大量に処理することができる。なお、容器は、回転フラスコ、攪拌バイオリクタ等の他の容器であってもよい。
【0043】
(16)
他の局面に従う容器は、容器の筒口部に一体として形成され、かつ連結部を有する蓋部を含み、蓋部は、蓋部を容器の筒口部に係止する係止部と、筒口部と当接する当接面から突出して設けられた突出部と、を含むものである。
【0044】
この場合、容器に蓋部が一体に形成されている。蓋部のみを開くことで、容器の筒口部が開放され、容易に容器の内部空間および外部空間を連通させることができる。さらに、筒口部と当接する当接面から突出して突出部が設けられるので、当該突出部に力を加えることで、係止部の係り止めを容易に解除することができる。
【0045】
(17)
容器において、容器は、培養容器または遠沈管からなり、筒口部は、液だれ防止部を有してもよい。
【0046】
この場合、容器の筒口部に液だれ防止部が備えられているので、培養容器または遠沈管から培養液等を排出する際に、筒口部の周囲に液だれが生じない。
【0047】
(18)
容器において、容器は、台上に載置するための載置面を有し、蓋部材の連結部は、筒口部の中心を基準として、載置面と反対側に配設されてもよい。
【0048】
この場合、連結部は、載置面から筒口部の中心より離れた位置(中心より鉛直上方向)に配設されているので、蓋部材が開放された場合、載置面側に蓋部が配設されない。その結果、筒口部から容器内の培養液を交換する場合に、交換機材(培養液交換ノズルの培養液に接触しない部分)に雑菌があり、当該雑菌が下方に落下した場合であっても、蓋部の当接面側が、受け皿とならない。すなわち、容器内に連通する筒口部側の当接面が受け皿とならないので、容器内への雑菌等の混入を極限まで低減することができる。なお、当該載置面は、平面または専用保持具等に載置できる部位を意味し、任意の平面、曲面、支持脚等を含む。
【発明の効果】
【0049】
本発明に係る容器の蓋部材、当該蓋部材を備えた容器および容器セットによれば、容易に容器の閉塞または開放を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る培養容器に蓋部材を嵌合した状態の一例を示す模式的外観図である。
【図2】蓋部材の模式的平面図である。
【図3】蓋部材の模式的側面図である。
【図4】蓋部材のA−A線断面を説明する模式的説明図である。
【図5】図4の蓋部材の閉塞状態を説明する模式的説明図である。
【図6】蓋部材の動作の一例を示す模式的断面図である。
【図7】蓋部材の動作の一例を示す模式的断面図である。
【図8】蓋部材の動作の一例を示す模式的断面図である。
【図9】蓋部材の他の例を示す模式的断面図である。
【図10】蓋部材の他の例を示す模式的断面図である。
【図11】蓋部材の効果を説明する模式図である。
【図12】液だれ防止リブの他の例を示す模式的斜視図である。
【図13】蓋部材の他の例を示す模式的断面図である。
【図14】蓋部材の他の例を示す模式的平面図である。
【図15】蓋部材のさらに他の例を示す模式的側面図である。
【図16】培養容器セットの他の例を示す模式的外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明に係る実施の形態において図面を用いて説明する。なお、以下の実施の形態においては、容器として無菌環境下で使用する容器(培養容器)、を例示する。なお、本発明は、培養容器に限定されず、遠沈管等他の無菌環境下で使用される他の任意の容器、無菌環境下で使用される容器セット、さらには無菌環境下以外の容器にも適用することができる。
(第1の実施の形態)
【0052】
図1は本発明に係る培養容器に蓋部材を嵌合した状態の一例を示す模式的外観図であり、図2は蓋部材200の模式的平面図であり、図3は蓋部材200の模式的側面図である。図4は蓋部材200のA−A線断面を説明する模式的説明図であり、図5は、図4の蓋部材200を矢印R1の方向に回動させた閉塞状態を説明する模式的説明図である。
【0053】
図1に示すように、本実施の形態に係る培養容器セット100は、培養容器500および蓋部材200からなる。培養容器500は、培養フラスコである。培養容器500は、培養時に載置面530を下面として使用される。培養容器500は、内部に空間が形成された略立方体形状の一の面に筒状部520が設けられ、筒状出口510により培養容器500の内部空間と筒状部520の内部空間とが、連通された構造を有する。培養容器500の筒状部520の端部外周面には、螺旋状の雄ねじが形成されている。
【0054】
また、図2から図5に示すように、蓋部材200は、主に本体部300、蓋部400およびフィルタ550からなる。本実施の形態において、本体部300および蓋部400は、一体に形成されている。
【0055】
本体部300は、主に筐体310からなり、筐体310に、開口部320、係止リブ330および雌ねじ340(図4参照)が形成される。
【0056】
蓋部400は、主に円板蓋410からなり、円板蓋410に、第1ヒンジ部420、第2ヒンジ部430、孔部440、密閉リブ450、係止部460およびベロ部470が形成される。
【0057】
以下、詳細を説明する。本体部300の筐体310は、中央に開口部320が設けられた略円筒形状からなり、内周部に螺旋状の溝からなる雌ねじ340が形成されている。当該雌ねじ340は、培養容器500の筒状部520の端部周面に形成された雄ねじと嵌合される。その結果、図1に示すように、培養容器500と蓋部材200とが締結される。
また、本体部300の筐体310の外周部の一部に係止リブ330が形成されている。
【0058】
一方、蓋部400は、円板蓋410からなり、円板蓋410は、第1ヒンジ部420および第2ヒンジ部430により本体部300の筐体310に連なるように形成されている。
本実施の形態において、第1ヒンジ部420は、2個形成され、第2ヒンジ部430は1個形成されている。第1ヒンジ部420および第2ヒンジ部430は、互いにヒンジの肉厚が異なるように形成されている。
【0059】
また、円板蓋410の中央には、孔部440が形成されており、孔部440の周囲には、密閉リブ450が形成されている。密閉リブ450は、本体部300の開口部320の内周面に沿って液密に嵌合できるように形成されている。また、密閉リブ450の内側には、フィルタ550が設けられる。
【0060】
該フィルタ550は、培養に供する細胞が窒息しないように培養容器500の内部空間と培養容器500の外部環境とでガス交換を行うためのものであり、外部環境中に存在する空中浮遊菌を含む菌、または胞子の侵入を防ぐものである。一般的には、開口径0.45μm以下、好ましくは0.20μm以下の不織布フィルタ、またはメンブレンフィルタを使用する。
【0061】
円板蓋410の円周部に係止部460が設けられている。当該係止部460は、筐体310の係止リブ330と係止するように設けられる(図5参照)。ここで、係止部460は、ベロ部470の本体部300側に突起を設けた上、本体部300の係止リブ330に係止または嵌合する突起構造を有する。さらに、円板蓋410には、ベロ部470が設けられる。当該ベロ部470は、図1に示すように、載置面530を下面にした培養容器500に取り付けた場合に、下方に向くように形成される。
【0062】
すなわち、蓋部材200を培養容器500に締結した場合に、ベロ部470が下方向に向くように、培養容器500の雄ねじ340に対して、蓋部材200の雌ねじを設ける。
具体的には、蓋部材200を培養容器500に所定の締め付けトルクで締結した時に、ベロ部470が下を向いたところで、蓋部材200が培養容器500に締結完了するように雄ねじ340および蓋部材200の雌ねじのねじ切り位置を合わせて設ける。なお、ベロ部470が下を向くように、締め付けトルクのみを制御してもよい。
【0063】
その結果、ベロ部470を下に向けることで円板蓋410の開閉時に、開口部320上方に円板蓋410が異物混入防止屋根として存在している状態となり、開口部320に落下生菌が混入することを防ぐことができる。すなわち、第1ヒンジ部420および第2ヒンジ部430が開口部320の中心を介して、培養容器500の載置面530と反対側に配設されている。なお、本実施例においては、第1ヒンジ部420および第2ヒンジ部430が開口部320の中心を介して、培養容器500の載置面530と反対側に配設されていることとしているが、これに限定されず、開口部320の中心を基準として、培養容器500の載置面530と反対側に配設されていればよい。
【0064】
次に、自動化で蓋部材200の蓋の開閉を行う場合について説明を行う。図6から図8は、蓋部材200の動作の一例を示す模式的断面図である。
【0065】
まず、図6に示すように、蓋部材200が閉塞状態である場合、培養容器500の内部空間と、培養容器500の外部空間とは、開口部320、孔部440およびフィルタ550を通して連通している。すなわち、フィルタ550により内部空間に清浄な空気のみを通過させることができる。
【0066】
次に、図6および図7に示すように、自動機のピン610が、ベロ部470を矢印R2の方向に押す。それにより、第1ヒンジ部420および第2ヒンジ部430を軸として、ベロ部470に力が加えられ、円板蓋410の係止部460が、係止リブ330との係止を解除する。
【0067】
続いて、図8に示すように、自動機のピン610がベロ部470を矢印R3の方向に移動させる。それにより、円板蓋410が上方向に移動し、蓋部材200が開放状態となる。その結果、開口部320により、培養容器500の内部空間と、培養容器500の外部空間とが連通される。そして、自動機により培養液交換ノズル620が開口部320内を通過して、培養容器500内の培養液が吸引され、新たな培養液が供給される。
【0068】
その後、培養液交換ノズル620が開口部320内から引き出され、自動機のピン610が図8、図7、図6の順にベロ部470(図の面とは逆側の面)を押すことにより、蓋部材200を閉塞状態にすることができる。
【0069】
(第2の実施の形態)
次いで、図9および図10は、蓋部材200の他の例を示す模式的断面図であり、図11は蓋部材200aの効果を説明する模式図であり、図12は液だれ防止リブ360の他の例を示す模式的斜視図である。
【0070】
図9および図10に示すように、第2の実施の形態に係る蓋部材200aの本体部300は、主に筐体310からなり、筐体310に、開口部320、係止リブ330、雌ねじ340、保持リブ350および液だれ防止リブ360が形成される。
【0071】
図9の保持リブ350は、培養容器500の筒状部520近傍を保持するために設けられ、液だれ防止リブ360は、開口部320の周囲に設けられる。
液だれ防止リブ360は、高さL、幅Hからなる。当該高さHは、約3mmから約6mmの範囲内であることが好ましい。また、幅Hは、培養液の表面張力を生じさせない大きさが好ましく、例えば、培養液の場合、約3mm以下であることが好ましい。
【0072】
蓋部400は、主に円板蓋410からなり、第1ヒンジ部420、第2ヒンジ部430、孔部440、密閉リブ450、凹部451、係止部460およびベロ部470が形成される。
【0073】
図10に示すように、蓋部400を本体部300に対して矢印R1の方向に回動させ、閉塞状態にした場合、凹部451は、液だれ防止リブ360をダブルシールするように設けられる。ここで、ダブルシールとは液だれ防止リブ360を挟みつつ接触している状態をいう。
【0074】
また、図11に示すように、第2の実施の形態に係る蓋部材200aにおいては、自動機により、載置面530を傾斜させることにより、培養液を矢印FLの方向に排出することができる。したがって、短時間で培養液を排出する廃棄処理を行うことができ、自動化を図ることができる。また、第2の実施の形態に係る蓋部材200aにおいては、液だれ防止リブ360を有するので、液だれが生じない。
【0075】
さらに、図12(a)に示すように、液だれ防止リブ360を開口部320の周囲360度全周に設けてもよく、図12(b)に示すように、載置面530を含む開口部320の周囲180度半周に液だれ防止リブ360hを設けてもよい。
【0076】
(第3の実施の形態)
次いで、図13は、蓋部材200の他の例を示す模式的断面図である。
【0077】
図13に示すように、蓋部材200bは、主に円板蓋410からなり、第1ヒンジ部420、第2ヒンジ部430、密閉リブ450、係止部460およびベロ部470が形成される。すなわち、図2に示した蓋部材200の孔部440が形成されていないタイプである。また、フィルタ550も設けられていない。
【0078】
この場合、培養容器500内の空気および培養液のみで培養できる細胞等に対しては、有効である。すなわち、空気および培養液の交換が不要だからである
【0079】
(第4の実施の形態)
続いて、図14は、蓋部材200の他の例を示す模式的平面図である。
【0080】
図14に示すように、蓋部材200cは、蓋部材200、200a、200bと異なり、ベロ部470cの形状が、ベロ部470と異なり、左右対称でない形状からなる。すなわち、ベロ部470、470cは、自動機のピン610または人的作業の際に人の手により力が加えられる形状であればよい。また、ベロ部470、470cは、1個に限らず、複数個設けてもよい。さらに、係止部460,係止リブ330を1組の場合について説明したが、これに限定されず、複数設けてもよい。
【0081】
(第5の実施の形態)
次に、図15は、蓋部材200のさらに他の例を示す模式的側面図である。
【0082】
図15に示すように、蓋部材200dは、ベロ部470の代わりにベロ部470dが円板蓋410に対して垂直なリブとして設けられる。それにより、自動機のピン610がベロ部470dに力が加えられることにより、蓋部材200dの開放状態および閉塞状態への移行が可能となる。本実施の形態においては、ベロ部470dを円板蓋410に対して垂直なリブである場合について説明をしたが、これに限定されず、円板蓋410に対して交差する形状の部材、または他の任意の形状の部材であってもよい。
【0083】
続いて、図16は培養容器セット100の他の例を示す模式的外観図である。
【0084】
図16に示す培養容器セット100aは、培養容器500の筒状部520に蓋部400およびフィルタ550が設けられている。すなわち、図16に示す培養容器セット100aは、筒状部520に一体として蓋部400が設けられる。
【0085】
当該蓋部400は、フィルタ550および孔部440が設けられているものであってもよく、また、フィルタ550および孔部440が設けられていないものであってもよい。
【0086】
以上のように、本実施の形態に係る培養容器セット100は、蓋部材200が本体部300および蓋部400からなる。本体部300を培養容器500に嵌合させた状態で、蓋部400のみを開くことで、本体部300の開口部320が開放され、容易に培養容器500の内部空間および外部空間を連通させることができる。さらに、ベロ部470は、第1ヒンジ部420,第2ヒンジ部430から係止リブ330への方向の延長上、すなわち、本体部300と当接する当接面から突出して設けられているので、ベロ部470に力を加えることにより、第1ヒンジ部420,第2ヒンジ部430を回転軸として係止リブ330に大きな力を加えることができ、係止リブ330を容易に外すことができる。
【0087】
また、ベロ部470は、ベロ形状であるので、培養容器500中に細胞等を培養させた状態で、自動機のピン610により蓋部材200の係止リブ330を容易に解除することができる。その結果、開口部320を開放して自動で培養容器500の内部空間の培養液を交換することができる。すなわち、大量の培養容器500を短時間で処理することができる。
【0088】
また、蓋部400に孔部440が設けられ、かつ孔部440にフィルタ550が設けられるので、蓋部400を本体部300に係止させた場合でも、培養容器500の内部空間と外部空間との間に清浄な空気だけを通過させることができる。また、培養容器500内の培養液交換の際には、蓋部400および本体部300の係止部460を解除して、開口部320を露見させることで、本体部300を取り外すことなく培養容器500内の培養液交換を実施することができる。
【0089】
さらに、第1ヒンジ部420,第2ヒンジ部430は、開口部320の中心より鉛直上方向の位置、(開口部320の中心を基準として、培養容器500の載置面530と反対側)に配設されているので、蓋部材200が開放された場合、開口部320の鉛直下側に蓋部400が配設されない。そのため、開口部320から培養容器500内の培養液を交換する場合に、培養液交換ノズル620に雑菌があり、当該雑菌が下方に落下した場合であっても、蓋部400の当接面側が、受け皿とならない。すなわち、培養容器500内に連通する開口部320側の当接面が受け皿とならないので、培養容器500内への雑菌等の混入を極限まで低減することができる。
【0090】
また、本体部300および蓋部400は、一体として設けられるので、蓋部400の紛失等を防止することができる。また、本体部300と一体として形成することによりコストダウンを図ることができる。
【0091】
また、本実施の形態に係る培養容器セット100aは、培養容器500に蓋部400が一体に形成されている。蓋部400のみを開くことで、培養容器500の筒状部520が開放され、容易に培養容器500の内部空間および外部空間を連通させることができる。さらに、筒状部520と当接する当接面から突出してベロ部470が設けられるので、当該ベロ部470に力を加えることで、係止リブ330の係り止めを容易に解除することができる。
【0092】
なお、ベロ部470,470b,470c,470dの突出量は、1ミリメートル以上20ミリメートル以下であることが好ましく、3ミリメートル以上15ミリメートル以下であることがより好ましい。
【0093】
突出量が1ミリメートル以上であることは、自動機のピン610のサイズを考慮した最低限の値であり、突出量が20ミリメートル以下であることは、一般的に隣接配置される容器への緩衝を考慮した値である。例えば、培養容器500は、幅が85m、高さが40mm、奥行きが130mmであり、筒部の外直径が30mm程度であるので、突出量を20mm以下で設けることにより、隣接する培養容器への緩衝を防止することができる。
【0094】
また、突出量が当該下限値未満(3ミリメートル未満)の場合、突出量が少なすぎて自動機のピン610が安定してベロ部に接触しないため開閉が困難となる。また突出量が当該上限値(15ミリメートル)より大きい場合、隣接配置される容器への緩衝および余裕度がないため問題となる。当該突出量であれば、余裕度があるので、隣接する容器の緩衝を確実に防止することができ、自動機のピン610による開閉が可能となる。
【0095】
また、突出量が当該下限値未満(3ミリメートル未満)の場合、突出量が少なすぎて自動機のピン610が安定してベロ部に接触しないため開閉が困難となる。また突出量が当該上限値(15ミリメートル)より大きい場合、隣接配置される容器への緩衝および余裕度がないため問題となる。当該突出量であれば、余裕度があるので、隣接する容器の緩衝を確実に防止することができ、自動機のピン610による開閉が可能となる。
【0096】
また、ベロ部470,470b,470c,470dの幅は、上記の通り自動機のピン610で開閉可能な幅であることが好ましく、さらに幅5ミリメートル以上、蓋部の幅の1.5倍以下であることが好ましい。幅5ミリメートル未満の場合、幅が少なすぎて自動機のピン610で開閉する際にベロ部が変形し開閉が困難となる。蓋部の幅の1.5倍より大きい場合、作製装置や自動機の大きさが相対的に大きくなるため経済的でない。当該幅であれば、自動機のピン610による開閉可能になる。
【0097】
また、培養容器500は、内容量が15ml以上5000ml以下の範囲内であることが好ましい。また、内容量が15ml以下の場合には、培養する細胞数が少ないので効率的でない。
他方、内容量が5000ml以上の場合には、培養容器500の大きさが、大きすぎてハンドリングが困難であるため好ましくない。
【0098】
本実施の形態においては、培養容器500が容器に相当し、開口部320が開口部に相当し、開口部320の中心が、開口部の中心に相当し、載置面530が載置面に相当し、本体部300が本体部に相当し、第1ヒンジ部420、第2ヒンジ部430が連結部に相当し、蓋部400が蓋部に相当し、係止リブ330が係止部に相当し、ベロ部470,470c,470dが突出部に相当し、フィルタ550がフィルタ部材に相当し、図1における培養容器500の姿勢が、水平面に載置された場合に相当し、筒状部520が筒口部に相当する。
【0099】
本発明の好ましい実施の形態は上記の通りであるが、本発明はそれらだけに制限されない。本発明の精神と範囲から逸脱することのない様々な実施形態が他になされることは理解されよう。さらに、本実施形態において、本発明の構成による作用および効果を述べているが、これら作用および効果は、一例であり、本発明を限定するものではない。
【符号の説明】
【0100】
100 培養容器セット
100a 培養容器セット
200,200a,200b,200c,200d 蓋部材
300 本体部
310 筐体
320 開口部
330 係止リブ
340 雌ねじ
400 蓋部
410 円板蓋
420 第1ヒンジ部
430 第2ヒンジ部
440 孔部
450 密閉リブ
460 係止部
470,470c,470d ベロ部
510 筒状出口
520 筒状部
550 フィルタ
610 自動機のピン
620 培養液交換ノズル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓋部材であって、
容器に嵌合し、開口部を有する本体部と、
連結部により前記本体部に係合され、かつ前記開口部の閉塞または開放を行う蓋部と、を含み、
前記蓋部は、
前記蓋部を前記本体部に係止する係止部と、
前記本体部と当接する当接面から突出して設けられた突出部と、を含むことを特徴とする容器の蓋部材。
【請求項2】
前記蓋部は、孔部を有し、かつ前記孔部にフィルタ部材が配設されたことを特徴とする請求項1記載の容器の蓋部材。
【請求項3】
前記突出部は、少なくとも前記連結部から前記係止部への方向の延長上に設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の容器の蓋部材。
【請求項4】
前記突出部は、板形状であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の容器の蓋部材。
【請求項5】
前記突出部は、ベロ形状であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の容器の蓋部材。
【請求項6】
前記本体部および前記蓋部は、一体として設けられたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の容器の蓋部材。
【請求項7】
前記容器は、培養容器または遠沈管からなり、
前記本体部の開口部は、液だれ防止部を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の容器の蓋部材。
【請求項8】
前記液だれ防止部は、前記本体部の開口部周囲から前記蓋部側へ延びる立ち壁からなることを特徴とする請求項7記載の容器の蓋部材。
【請求項9】
前記液だれ防止部は、前記本体部の開口部周辺において、前記連結部から遠ざかる位置で、前記開口部の円周の略180度の範囲に設けられたことを特徴とする請求項7または8記載の容器の蓋部材。
【請求項10】
前記蓋部が前記開口部の閉塞した場合に、前記蓋部は、前記立ち壁を挟持する凹部を有することを特徴とする請求項8記載の容器の蓋部材。
【請求項11】
容器セットであって、
請求項1から請求項10いずれか1項に記載の蓋部材と、
容器と、を含む容器セット。
【請求項12】
前記容器に前記蓋部材が取り付けられた場合において、
前記容器は、台上に載置するための載置面を有し、
前記蓋部材の連結部は、前記開口部の中心を基準として、前記載置面と反対側に配設されたことを特徴とする請求項11記載の容器セット。
【請求項13】
前記液だれ防止部は、少なくとも前記載置面側を含む前記開口部の円周の略180度の範囲に設けられたことを特徴とする請求項12記載の容器セット。
【請求項14】
前記容器は、培養容器または遠沈管であることを特徴とする請求項10から13のいずれか1項に記載の容器セット。
【請求項15】
前記容器はフラスコまたはローラボトルであることを特徴とする請求項10から14のいずれか1項に記載の容器セット。
【請求項16】
容器の筒口部に一体に形成され、かつ連結部を有する蓋部を含み、
前記蓋部は、
前記蓋部を前記容器の筒口部に係止する係止部と、
前記筒口部と当接する当接面から突出して設けられた突出部と、を含むことを特徴とする容器。
【請求項17】
前記容器は、培養容器または遠沈管からなり、
前記筒口部は、液だれ防止部を有することを特徴とする請求項16記載の容器。
【請求項18】
前記容器は、台上に載置するための載置面を有し、
前記蓋部材の連結部は、前記筒口部の中心を基準として、前記載置面と反対側に配設されたことを特徴とする請求項16または17に記載の容器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−29691(P2012−29691A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152134(P2011−152134)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】