説明

容器用の栓、その栓を備えた容器及び液取扱装置

【課題】 容器からの液の抽出や容器への液の注入を行う際の操作を簡素化しながらコンタミネーションの発生を抑制できる容器用の栓を提供する。
【解決手段】 容器の開口部に取り付けられ、この容器内への液の注入及びこの容器内からの液の抽出の少なくとも一方を行う管体を挿通可能な栓1であり、管体が挿通される通路3が形成されており、この通路3内に、管体を穿刺可能で、殺菌剤を含浸した殺菌剤含浸部材5が保持されている構成とする。管体を容器に挿入するとき、栓1に管体を挿通させると、殺菌剤含浸部材5に管体が穿刺され、これにより、殺菌剤含浸部材5に含浸されている殺菌剤によって管体を殺菌することができる。このため、容器外面の殺菌操作や容器の栓を開けるといった操作を行なわずに、一般環境に置かれた容器に管体を挿入することができ、容器からの液の抽出や容器への液の注入を行う際の操作を簡素化しながらコンタミネーションの発生を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滅菌して使用する容器用の栓に係り、特に、液の注入や抽出を行うための容器の開口部に設けられた栓に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養などでは、滅菌された容器内からの培養する細胞のサンプリングといったような滅菌した容器からの細胞懸濁液などの液の抽出、また、培養液を入れた容器への培養する細胞の播種や培養液への薬剤の注入などといったような滅菌した容器への液の注入などの操作が行なわれる。このような滅菌した容器からの液の抽出や滅菌した容器への液の注入といった操作では、コンタミネーションの発生を抑制する必要がある。
【0003】
例えば滅菌した容器からの液を抽出し、その液を別の滅菌した容器に注入するといったような、物理的に一体でない滅菌した容器間で細胞懸濁液や薬剤などの液を移動させる操作などにおいてコンタミネーションの発生を抑制するため、クリーンベンチ内などの操作環境の清浄度の向上や作業者からの汚染の抑制などが実施されている。さらに、滅菌された容器が、クリーンベンチ内などの清浄化された環境外、つまり、微生物などの汚染物が浮遊している一般環境に置かれていた場合、クリーンベンチ内などでアルコールを噴霧して容器の外面を殺菌し、容器の栓の部分を拭いて過剰なアルコールを除くといった容器の殺菌操作を行った後、栓を外して液の抽出や注入の操作を行うことで、コンタミネーションを抑制している。
【0004】
このように、容器が一般環境に置かれていた場合、コンタミネーションの発生を抑制するうえで容器の殺菌操作を行うことが必要であるが、アルコールを噴霧して容器の外面を殺菌し、容器の栓の部分を拭いて過剰なアルコールを除くといった後、容器の栓を外して液の抽出や注入を行うといった一連の操作を、できるだけ迅速に行うこともコンタミネーションの発生を抑制するうえで必要になってくる。しかし、これら一連の操作は繁雑なものであり、これら一連の操作を迅速に行うためには熟練を必要とする。
【0005】
さらに、このような一般環境に置かれた容器の殺菌操作を行い、滅菌した容器からの液の抽出や滅菌した容器への液の注入行うといった一連の操作は、例えば再生医療に用いる細胞の増殖などのための細胞培養など、産業的な細胞の生産における細胞培養でも行われる。このため、このような産業的な細胞の生産における細胞培養などにおいて熟練した技術者が必要になることは、細胞培養のコストの増大を招く一つの要因となるため望ましくない。これらのことから、熟練した技術者でなくても、一般環境に置かれた容器からの液の抽出や容器への液の注入をコンタミネーションの発生を抑制しながら行えるようにするため、容器の外面の殺菌や容器の栓を開けるといった操作なしにコンタミネーションの発生を抑制する技術、つまり、容器からの液の抽出や容器への液の注入を行う際の操作を簡素化しながらコンタミネーションの発生を抑制できる技術が必要とされている。
【0006】
これに対し、容器からの液の抽出や容器への液の注入をコンタミネーションの発生を抑制しながら行えるようにするために利用できる技術として、滅菌用の蒸気が通流する管路に連結されて内部を蒸気滅菌可能にした充填ヘッドや、蒸気滅菌可能にした弁を取り付けた容器用の栓などが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開平5−118970号公報(第2−3頁、第2図)
【特許文献2】特開平10−111221号公報(第2−3頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1、2のような蒸気滅菌可能にした充填ヘッドや、蒸気滅菌可能にした弁を取り付けた容器用の栓などでは、滅菌用の蒸気を充填ヘッドや弁に通流させるといった操作が必要となり、容器からの液の抽出や容器への液の注入を行う操作が複雑化してしまう。このため、特許文献1、2のような蒸気滅菌可能にした充填ヘッドや、蒸気滅菌可能にした弁を取り付けた容器用の栓などでは、容器からの液の抽出や容器への液の注入を行う際の操作を簡素化しながらコンタミネーションの発生を抑制することはできない。
【0008】
本発明の課題は、容器からの液の抽出や容器への液の注入を行う際の操作を簡素化しながらコンタミネーションの発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の容器用の栓は、容器の開口部に取り付けられ、この容器内への液の注入及びこの容器内からの液の抽出の少なくとも一方を行う管体を挿通可能な栓であり、管体が挿通される通路が形成されており、この通路内に、管体を穿刺可能で、殺菌剤を含浸した殺菌剤含浸部材が保持されている構成とすることにより上記課題を解決する。また、殺菌剤含浸部材は、不織布または酒精綿である構成とする。
【0010】
このような構成とすることにより、栓に中空針などの管体を挿通させて容器内に挿入したとき、一般環境に置かれたために外側が汚染されている可能性がある容器の影響で管体の外面が汚染されたとしても、殺菌剤含浸部材に管体が穿刺されることによって、殺菌剤含浸部材に含浸されている殺菌剤によって管体を殺菌することができる。したがって、容器からの液の抽出や容器への液の注入を行う場合、管体を栓に挿通させるだけでコンタミネーションの発生を抑制でき、容器からの液の抽出や容器への液の注入を行う際の操作を簡素化しながらコンタミネーションの発生を抑制できる。
【0011】
さらに、通路の容器の外側に位置する端部が、管体を穿刺可能であるか、または、取り外し可能で、通路を気密に密閉可能な外部閉塞部材で閉塞されている構成とする。これにより、殺菌剤がアルコールなどであっても、殺菌剤の殺菌剤含浸部材からの蒸発を抑制できるため、殺菌剤含浸部材による殺菌効果の持続を長期化できる。
【0012】
さらに、通路の殺菌剤含浸部材よりも容器内側の部分に、管体を穿刺可能で、通路を塞ぐ状態で内部閉塞部材が設けられている構成とすれば、殺菌剤含浸部材に含浸させた殺菌剤の容器の内容物への影響を低減できる。
【0013】
また、内部閉塞部材は、通路を塞ぐ状態で設けられた管体が穿刺可能な器状の部材であり、殺菌剤含浸部材が内部閉塞部材内に収容され、内部閉塞部材の管体が穿刺される部分が殺菌剤含浸部材側に突出している構成とする。このような構成とすることにより、殺菌剤含浸部材からの殺菌剤の容器内への流入を確実に抑制することができ、殺菌剤の容器の内容物への影響を確実に低減できる。
【0014】
また、殺菌剤含浸部材は、粒状の形成されており、該粒状の殺菌剤含浸部材が、前記通路内に複数保持されている構成とする。このような構成とすることにより、管体の栓への抜き差しを容易にできる。
【0015】
また、通路の前記殺菌剤含浸部材よりも容器内側の部分に、管体外面に付着した液体を拭き取る拭き取り部材が設けられている構成とすれば、殺菌剤含浸部材に含浸させた殺菌剤の容器の内容物への影響を低減できる。
【0016】
さらに、本発明の容器は、滅菌可能な容器であり、内部への液の注入及び内部からの液の抽出の少なくとも一方を行う管体を挿通可能な栓が開口部に取り付けられており、この栓として上記のいずれかの構成の栓を備えた構成とすることにより上記課題を解決する。
【0017】
また、本発明の液取扱装置は、滅菌可能な容器と、この容器内への液の注入及びこの容器内からの液の抽出の少なくとも一方を行う管体と、この管体からの液の排出及びこの管体内への液の吸入の少なくとも一方を行うためのポンプと、この管体と栓とを相対的に近づける方向及び離す方向に移動させるための駆動手段とを備え、容器は、管体が挿通可能な栓が開口部に取り付けられており、この栓が上記のいずれかの構成の栓である構成とすることにより上記課題を解決する。
【0018】
さらに、液取扱装置において、管体の少なくとも開口部を密閉状態で覆い、この管体を穿刺可能な柔軟で弾性及び気密性を有する膜状の材料で形成された袋状の被覆部材を備えた構成とする。このような構成とすることにより、栓に挿通されていない状態の管体の汚染も低減できるため、コンタミネーションの発生をより確実に抑制できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、容器からの液の抽出や容器への液の注入を行う際の操作を簡素化しながらコンタミネーションの発生を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1の実施形態)
以下、本発明を適用してなる容器用の栓や容器の第1の実施形態について図1乃至図5を参照して説明する。図1は、本発明を適用してなる容器用の栓の概略構成を示す断面図である。図2は、本発明を適用してなる容器用の栓の概略構成を示す斜視図である。図3は、本発明を適用してなる容器用の栓の概略構成を、外部閉塞部材を外した状態で示す上面図である。図4は、本発明を適用してなる容器用の栓の概略構成を示す底面図である。図5は、本発明を適用してなる栓を備えた容器の一例を示す斜視図である。
【0021】
本実施形態の容器用の栓1は、図1乃至図4に示すように、ゴムや合成樹脂などの樹脂製であり、一方の端面から他方の端面にかけて貫通する断面円形の通路3が設けられた略円筒状に形成されている。栓1の通路3は、この栓1を取り付けた図1乃至図4には図示していない容器内への液の注入及び容器内からの液の抽出の少なくとも一方を行う図1乃至図4には図示していない中空針などの管体を挿通するための通路となる。この栓1に形成された通路3は、一方の端面側に形成された入口部3a、入口部3aよりも拡径し、殺菌剤含浸部材5を収容する収容室3b、収容室3bの底となる仕切板3cの中央部に形成された貫通穴3d、他方の端面側に設けられ、仕切板3cの貫通穴3dを介して収容室3bと連通する出口部3eなどで構成されている。
【0022】
本実施形態では、栓1の通路3の出口部3eは、図5に示すように、栓1を容器7に気密に密着させた状態で取り付けるための役目も果たし、出口部3eの内径は、円筒状の容器7の外径と同じ大きさに形成されている。ただし、栓1の容器への取り付けかたが異なる場合、出口部3eを栓1の容器への取り付けに利用しない場合などは、出口部3eの内径は適宜設定でき、また、出口部3eを設けない構成にすることもできる。また、栓1の仕切板3cの中央部に形成された貫通穴3dは、中空針などの管体8を挿通可能な径で形成されている。
【0023】
栓1の入口部3aが設けられている側の端面には、図1、図2及び図5に示すように、この端面を覆うように気密性を有するフィルムまたは膜からなる外部閉塞部材9が取り付けられている。外部閉塞部材9は、例えばアルミ箔と合成樹脂製のフィルムなどをラミネートしたラミネートフィルム、柔軟性と弾性を有するゴムやシリコン、エラトマ樹脂などの樹脂製の膜など、殺菌剤の蒸発を抑制することができる様々な材料で形成することができる。また、外部閉塞部材9としてラミネートフィルムなどを用いた場合には、栓1を備えた容器7を使用するときに、栓1の入口部3a側の端面から剥離する。
【0024】
一方、外部閉塞部材9として樹脂製の膜などを用いた場合には、中空針などの管体8を外部閉塞部材9に穿刺して用いる。穿刺した中空針などの管体8を外部閉塞部材9から抜いても、外部閉塞部材9が柔軟性と弾性を有する樹脂製であれば、管体8によって外部閉塞部材9に形成された穴はほとんど閉じた状態となる。なお、外部閉塞部材9を樹脂製とする場合には、通路3などの栓1の他の部分と一体に形成することもできる。この場合、外部閉塞部材9は、通路3の入口部3aに対応する部分にのみ形成される。
【0025】
本実施形態では、栓1の通路3の収容室3bに収容され、円盤状になった殺菌剤含浸部材5は、仕切板3cによって通路3内に保持されている。殺菌剤含浸部材5は、中空針などの管体8を穿刺して挿通させることが可能であり、例えば不織布または酒精綿などにより形成されている。酒精綿で殺菌剤含浸部材5を形成した場合には、アルコールが含浸されていることになるが、殺菌剤になれば、アルコールの他、逆性石鹸などの殺菌作用を有する薬剤を不織布などに含浸させて殺菌剤含浸部材5を形成することができる。さらに、殺菌剤含浸部材5は、殺菌剤をゲル状にすること、例えばアルコールゲルなどでも形成できる。アルコールゲルなどで殺菌剤含浸部材5を形成すれば、殺菌剤含浸部材5の殺菌剤が殺菌剤含浸部材5から流出し、この栓1を備えた容器内に進入し、容器の内容物に影響するのを抑制できる。
【0026】
このように本実施形態の栓1は、多重蓋様の構造になっており、容器7のような内部を滅菌した状態で使用する適宜の容器の液の出し入れを行う開口部7aに取り付けられる。栓1は、図5に例示した容器7のような形状に限らず、様々な形状の容器に適用でき、また、様々な用途の容器に適用できる。例えば、滅菌された薬剤を収容した薬剤容器、培養液を収容した培養容器、細胞懸濁液から細胞を遠心分離により回収するための遠沈管、また、管状の容器、直方体状の容器、輸液バックのようなフレキシブル容器など、栓1は、滅菌して使用する様々な形状と用途の容器に適用できる。
【0027】
ここで、例えば、栓1を備えた容器7が、細胞懸濁液から細胞を遠心分離により回収するための遠沈管であったとすると、容器7は、内部は滅菌され細胞懸濁液が収容された状態になっているが、遠心分離を行うためにクリーンベンチから出され、一般環境に設置された遠心機にかけられることによって、一般環境に置かれた状態となり、外面が汚染された可能性がある状態となる。このような容器7から液を抽出したり、容器7内に液を注入したりするとき、作業者は、アルコール噴霧などによる容器7の外面の殺菌操作を行うことなく、液の抽出または液の注入用のシリンジなどに取り付けた中空針などの管体8を、図5に示す波線の矢印のように、栓1の通路3に挿通させる。このとき、栓1の通路3の入口部3aから挿入された管体8は、殺菌剤含浸部材5に穿刺されて殺菌剤含浸部材5を貫通し、仕切板3cの貫通穴3dを通って容器7の内部に入ることになる。
【0028】
したがって、クリーンベンチ内などの清浄環境から一般環境に出されたために外側が汚染されている可能性がある容器7の影響で、管体8の外面が汚染された可能性があったとしても、中空針などの管体8を栓1に挿通するとき、殺菌剤含浸部材5に管体8が穿刺されることによって、殺菌剤含浸部材5に含浸されている殺菌剤によって管体8の外面を殺菌することができる。したがって、作業者は一般環境に置かれた容器7にアルコールを噴霧する容器外面の殺菌操作や、栓の周囲のアルコールを拭き取って栓を開けるといった操作を行うことなく、管体8を栓に挿通させるだけでコンタミネーションの発生を抑制しながら、容器7からの液の抽出や容器7への液の注入を行うことができる。
【0029】
このように本実施形態の容器用の栓や容器であれば、容器からの液の抽出や容器への液の注入を行う際の操作を簡素化しながらコンタミネーションの発生を抑制できる。
【0030】
さらに、容器からの液の抽出や容器への液の注入を行う際の操作を簡素化しながらコンタミネーションの発生を抑制できることにより、熟練した技術者が容器からの液の抽出や容器への液の注入を行う必要がなくなる。また、熟練した技術者による操作が必要なくなることから、例えば再生医療に用いる細胞の増殖などのための細胞培養など、産業的な細胞の生産における細胞培養のコストを低減できる。
【0031】
加えて、従来のように、栓部分の滅菌のための蒸気を供給するための設備や配管が必要ないため、栓や容器の使用に対する制限を低減でき、また、栓などの構造を簡素化できる。
【0032】
ところで、一般環境に置かれた容器をアルコールの噴霧などにより殺菌する、容器の栓を外すなどといった操作は、自動的に容器や注入動作などを行う液取扱装置には馴染まず、手作業によって行われることになる。手作業による操作は、作業者自身による汚染の持ち込みや作業者のケアレスミスによるコンタミネーションの発生を招く可能性がある。
【0033】
これに対して、本実施形態の容器用の栓や容器であれば、一般環境に置かれた容器をアルコールの噴霧などにより殺菌する、容器の栓を外すなどといった操作を行う必要がないため、液取扱装置などを用いた容器からの液の抽出や容器への液の注入の自動化が可能となる。そして、自動化が可能になることにより、作業者自身による汚染の持ち込みや作業者のケアレスミスによるコンタミネーションの発生などを防ぐことができる。
【0034】
さらに、本実施形態の容器用の栓や容器では、栓1の通路3の入口部側3aの端面が、管体8を穿刺可能であるか、または、取り外し可能で、通路3を気密に密閉可能な外部閉塞部材9で閉塞されている。このため、殺菌剤がアルコールなどであっても、殺菌剤の殺菌剤含浸部材5からの蒸発を抑制できる。
【0035】
加えて、外部閉塞部材9が殺菌剤含浸部材5に含浸された殺菌剤の蒸発を防ぐため、例えば容器内に試薬を注入した後、この容器内から細胞などの試料のサンプリングを行うといった操作を行う場合でも、殺菌剤含浸部材の殺菌効果が持続する時間を長くでき、また、容器の栓を開ける必要もない。このため、作業者は、容器内へ液を注入し、さらに、容器内からサンプリングつまり液の抽出を行うといった一連の操作を、時間的余裕を持って行うことができる。したがって、作業者に対し、できるだけ速やかにこのような一連の無菌操作を行うといった高度なスキルを求める必要がなくなる。
【0036】
(第2の実施形態)
以下、本発明を適用してなる容器用の栓の第2の実施形態について図6を参照して説明する。図6は、本発明を適用してなる容器用の栓の概略構成を示す断面図である。なお、本実施形態では、第1の実施形態と同一の構成などには同じ符号を付して説明を省略し、第1の実施形態と相違する構成や特徴部などについて説明する。
【0037】
本実施形態の容器用の栓が第1の実施形態と相違する点は、栓の通路に収容した殺菌剤含浸部材と殺菌剤含浸部材を通路内に保持する仕切板との間に通路を閉塞する内部閉塞部材が設けられていることにある。すなわち、本実施形態の容器用の栓11は、入口部3a、収容室3b、仕切板3cの中央部に形成された貫通穴3d、そして出口部3eなどからなる通路3の形状などは第1の実施形態と同じである。しかし、収容室3bを画成する壁の内面のうち、仕切板3cの収容室3bの底面となる面、収容室3bの側面となる面を覆うように膜状の内部閉塞部材13が設けられている。そして、殺菌剤含浸部材5は、仕切板3cの収容室3bの底面となる面や収容室3bの側面となる面に対向する各面が膜状の内部閉塞部材13で覆われた状態で収容室3b内に収容されている。言い換えれば、内部閉塞部材13は、殺菌剤含浸部材5と、仕切板3cの収容室3bの底面となる面や収容室3bの側面となる面との間に挟まれた状態で設置された器状の部材である。
【0038】
本実施形態の内部閉塞部材13は、柔軟性と弾性を有する樹脂製、例えば注射薬などの容器の栓などで使用されるエラトマ樹脂やシリコン、天然ゴムなどの樹脂製の膜であり、貫通穴3dの収容室3b側の開口を密閉すると共に、穿刺した図示していない中空針などの管体を抜いても形成された穴はほとんど閉じた状態となるものである。さらに、内部閉塞部材13は、器状に形成されていることで内側に液体を保持できるようになっている。また、殺菌剤含浸部材5を貫通してきた図示していない中空針などの管体の外面に付着した殺菌剤を払拭することもできる。
【0039】
内部閉塞部材13の中央部、つまり、仕切板3cに形成された貫通穴3dに対応する部分は、収容室3b内側に向けて先端に向かうに連れて細くなる円錐台状に突出しており、この円錐台状に突出した部分が中空針などの管体が穿刺されて貫通する貫通部13aとなる。円錐台状の貫通部13a内は、中空針などの管体を穿刺して貫通させ易いように、貫通穴3dに連続した中空状態になっている。なお、本実施形態の殺菌剤含浸部材5は、器状の内部閉塞部材13内に収容された状態で収容室3b内に設置されている。また、本実施形態の殺菌剤含浸部材5は、内部閉塞部材13の貫通部13aに対応する部分が凹んだ状態となっている。
【0040】
このような本実施形態の栓11では、収容室3bつまり殺菌剤含浸部材5側に突出した貫通部13aを有する器状の内部閉塞部材13を備えており、内部閉塞部材13内に殺菌剤含浸部材5が設置されている。そして、中空針などの管体を穿刺する貫通部13aが内部閉塞部材13の他の部分よりも高くなる段差を有し、他の部分よりも表面積が狭い貫通部13aの頂部に中空針などの管体が穿刺される。このため、殺菌剤含浸部材5から過剰な殺菌剤が流出したり、殺菌剤含浸部材5に中空針などの管体を穿刺するときの管体による加圧で殺菌剤含浸部材5から殺菌剤が流出したりしても、流出した殺菌剤は、内部閉塞部材13の貫通部13a周囲の器状の部分に溜まる。したがって、殺菌剤含浸部材5から殺菌剤が流出したとしても、流出した殺菌剤が貫通穴3dを介して容器内へ流入し、容器の内容物に影響を与えるのを抑制することができる。
【0041】
さらに、殺菌剤含浸部材5から殺菌剤が流出したとしても、流出した殺菌剤が貫通穴3dを介して容器内へ流入し難いため、中空針などの管体を穿刺して容器からの液の抽出や容器内への液の注入といった操作を行うときに、殺菌剤含浸部材5から殺菌剤が流出しないよう、また、流出した殺菌剤が貫通穴3dを介して容器内へ流入しないよう注意しながら操作を行う必要がなくなり、このような操作を容易にできる。
【0042】
また、本実施形態では、内部閉塞部材13は、全体を柔軟性と弾性を有する樹脂で形成したが、少なくとも図示していない中空針などの管体が挿通される部分のみを柔軟性と弾性を有する樹脂製とした構成などにすることもできる。
【0043】
(第3の実施形態)
以下、本発明を適用してなる容器用の栓の第3の実施形態について図7を参照して説明する。図7は、本発明を適用してなる容器用の栓の概略構成を示す断面図である。なお、本実施形態では、第1及び第2の実施形態と同一の構成などには同じ符号を付して説明を省略し、第1及び第2の実施形態と相違する構成や特徴部などについて説明する。
【0044】
本実施形態の容器用の栓が第1の実施形態と相違する点は、第2の実施形態と同様に、栓の通路に収容した殺菌剤含浸部材と殺菌剤含浸部材を通路内に保持する仕切板との間に通路を閉塞する内部閉塞部材が設けられていることにある。そして、本実施形態の容器用の栓が第2の実施形態と相違する点は、内部閉塞部材と殺菌剤含浸部材の形状にある。すなわち、本実施形態の栓15は、仕切板3cの収容室3b側を覆う円形の膜状の内部閉塞部材17と、収容室3bに収容された粒状の複数の殺菌剤含浸部材19とを備えている。
【0045】
本実施形態の内部閉塞部材17は、柔軟性と弾性を有する樹脂製、例えば注射薬などの容器の栓などで使用されるエラトマ樹脂やシリコン、天然ゴムなどの樹脂製の円形の膜であり、貫通穴3dの収容室3b側の開口を密閉すると共に、穿刺した中空針などの管体を抜いても形成された穴はほとんど閉じた状態となるものである。また、本実施形態の内部閉塞部材17では、仕切板3c側の面の中央部つまり仕切板3cの貫通穴3dに対応する位置に、貫通穴3dに嵌合する突起17aが形成されている。本実施形態の殺菌剤含浸部材19は、吸水性を有する粒状の部材、例えばウレタンビーズなどで形成されており、殺菌剤が含浸されている。
【0046】
内部閉塞部材17は、栓15を備えた図示していない容器内への殺菌剤の流入を抑制すると共に、殺菌剤含浸部材19の径が貫通穴3dの径よりも小さい場合には、殺菌剤含浸部材19が貫通穴3dを介して図示していない容器内へ入るのを防いでいる。これにより、栓15を備えた図示していない容器の内容物への殺菌剤の影響を抑制している。
【0047】
このような本実施形態の栓15では、殺菌剤含浸部材19が粒状で収容室3bに複数収容された状態となっている。このため、図示していない中空針などの管体を第1及び第2の実施形態のように円盤状の殺菌剤含浸部材に穿刺する必要がなく、図示していない中空針などの管体は、複数の殺菌剤含浸部材19の間を殺菌剤含浸部材19に外面が接触しながら栓15に挿通されることになる。したがって、中空針などの管体を第1及び第2の実施形態のように円盤状の殺菌剤含浸部材に穿刺する場合に比べ、中空針などの管体の栓への抜き差しを容易にできる。
【0048】
さらに、第1及び第2の実施形態のように円盤状の殺菌剤含浸部材を中空針などの管体を穿刺するときに加圧し難いため、中空針などの管体を栓に挿通するときの殺菌剤含浸部材からの殺菌剤の流出を抑制できる。
【0049】
(第4の実施形態)
以下、本発明を適用してなる容器用の栓の第4の実施形態について図8を参照して説明する。図8は、本発明を適用してなる容器用の栓の概略構成を示す断面図である。なお、本実施形態では、第1乃至第3の実施形態と同一の構成などには同じ符号を付して説明を省略し、第1乃至第3の実施形態と相違する構成や特徴部などについて説明する。
【0050】
本実施形態の容器用の栓が第1乃至第3の実施形態と相違する点は、栓の通路の殺菌剤含浸部材よりも容器内側に、中空針などの管体の外面に付着した液体を拭き取る拭き取り部材を設けたことにある。すなわち、本実施形態の容器用の栓21は、通路3の出口部3e内に設置された円盤状の拭き取り部材23を備えている。拭き取り部材23は、仕切板3cの殺菌剤含浸部材5が設置された側の面と反対側の面、つまり、図示していない容器内側の面に接した状態で設けられており、仕切板3cに形成されている貫通穴3dの出口側を塞いだ状態になっている。拭き取り部材23は、図示していない中空針などの管体を穿刺可能で、図示していない中空針などの管体外面に付着した液体を拭き取ることができる材料、例えば発泡スチロール、綿、ウレタン、その他のフィルターまたはフィルター様の部材などで形成されている。
【0051】
このような本実施形態の容器用の栓21では、図示していない中空針などの管体が殺菌剤含浸部材5に穿刺され貫通した後、拭き取り部材23に穿刺されることによって、殺菌剤含浸部材5を貫通したときに図示していない中空針などの管体の外面に付着したアルコールなどの殺菌剤を拭き取ることができる。したがって、殺菌剤含浸部材5を貫通した中空針などの管体の外面に殺菌剤が付着することによって、容器内に殺菌剤が持ち込まれるのを抑制できるため、殺菌剤の容器の内容物への影響を低減できる。
【0052】
(第5の実施形態)
以下、本発明を適用してなる容器用の栓の第5の実施形態について図5、図9及び図10を参照して説明する。図9及び図10は、本発明を適用してなる液取扱装置の概略構成を模式的に示す図である。なお、本実施形態では、第1乃至第4の実施形態と同一の構成などには同じ符号を付して説明を省略し、第1乃至第4の実施形態と相違する構成や特徴部などについて説明する。
【0053】
本実施形態では第1乃至第4の実施形態に示した栓を備えた容器を用い、液の容器への注入及び液の容器からの抽出の少なくとも一方の機能、つまり、サンプリング装置及び分注装置の少なくとも一方の機能を果たす液取扱装置について説明する。すなわち、本実施形態の液取扱装置25は、図9及び図10に示すように、第1の実施形態に示したような栓1を備えた容器7を用い、例えば容器7からの細胞懸濁液のサンプリングや薬液の吸入といったような液の抽出、培養液が入った容器7への細胞懸濁液の注入による細胞の播種や薬液の注入といったような液の注入など、サンプリング装置及び分注装置の少なくとも一方の機能を果たすものである。本実施形態では、第1の実施形態に示したような栓1を備えた容器7を用いた場合を例示するが、第2乃至第4の実施形態に示した栓11、15、21を備えた容器7を用いることもできる。
【0054】
本実施形態の液取扱装置25では、栓1を備えた容器7は、台座27上に保持具29によって保持されている。容器7の栓1の上方には、液の容器7への注入及び液の容器7からの抽出の少なくとも一方を行なうための中空針などの管体8が支持部材31によって支持されている。支持部材31は、駆動機構33を介して、駆動機構33による管体8の上下方向の移動をガイドするガイド棒35に連結されている。ガイド棒35は、台座27から上方に向けて延在した状態で台座27に固定されている。管体8は、チューブ37を介して、液の吸引及び排出の少なくとも一方を行なうためのポンプ39に接続されている。
【0055】
チューブ37は、管体8の一方の端部と支持部材31の下面に設けられた連結部31aで連結されている。また、連結部31aには、管体8を覆う袋状の被覆部材41の開口部分が気密に取り付けられている。被覆部材41は、管体8を穿刺可能な柔軟で弾性及び気密性を有する膜状の材料、例えばゴムやシリコン、エラトマ樹脂などで形成された袋状の部材である。
【0056】
このような本実施形態の液取扱装置25では、中空針などの管体8を栓1の挿通させていないとき、図9に示すように、中空針などの管体8は、被覆部材41に内包されることによって、被覆部材41の外側の環境と気密に隔離された状態になっている。したがって、液取扱装置25が、清浄環境つまりクリーンベンチの外など、外気に触れる一般環境下に置かれても、被覆部材41内に在る管体8の外気からの汚染は生じない。
【0057】
液の注入や抽出のために、中空針などの管体8を栓1に挿通させて容器7内に挿入するときは、駆動機構33がガイド棒35に沿って下方に移動する。これにより、図5に示すように、管体8は、栓1の外部閉塞部材9、殺菌剤含浸部材5に順次穿刺され、容器7内に挿入される。このとき、管体8は、図10に示すように、被覆部材41の下端部分が栓1の外部閉塞部材9の外面に接触した状態で、被覆部材41と外部閉塞部材9とを穿刺し、栓1の通路3内に挿通されて行く。したがって、管体8が容器7内に挿入されるときも、被覆部材41内は密閉状態が保たれており、管体8の栓1の外側にある部分が外気に曝されることはなく、被覆部材41内に在る管体8の部分の外気からの汚染は生じない。また、管体8の栓1内に相通されている部分も、第1の実施形態などで説明したように汚染は生じない。
【0058】
管体8を容器7から抜くときは、駆動機構33がガイド棒35に沿って下方に移動する。これにより、管体8は、図9に示すように、被覆部材41に内包された状態に戻るが、被覆部材41は柔軟で弾性を有しているため、管体8が穿刺されたときに形成された穴は閉じられた状態となり、被覆部材41の密封性が維持される。したがって、管体8を容器7から抜いた後も、管体8が外気に触れることによる汚染が防止される。
【0059】
このように、本実施形態の液取扱装置25では、第1の実施形態に示したような栓1を備えた容器を用い、さらに、中空針などの管体8が、管体を穿刺可能な柔軟で弾性及び気密性を有する膜状の材料で形成された袋状の被覆部材41によって覆われているため、栓に挿通されていない状態の管体の汚染も抑制できるため、コンタミネーションの発生をより確実に抑制できる。
【0060】
また、本発明の液取扱装置は、本実施形態の構成の液取扱装置に限らず、管体を被覆部材で被覆していれば様々な構成で形成することができる。
【0061】
また、本発明の容器用の栓や容器は、第1乃至第5の実施形態の構成の容器用の栓に限らず、管体が挿通される通路が形成されており、この通路内に、管体を穿刺可能で、殺菌剤を含浸した殺菌剤含浸部材が保持した構成の栓であれば様々な構成で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明を適用してなる第1の実施形態における容器用の栓の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明を適用してなる第1の実施形態における容器用の栓の概略構成を示す斜視図である。
【図3】本発明を適用してなる第1の実施形態における容器用の栓の概略構成を、外部閉塞部材を外した状態で示す上面図である。
【図4】本発明を適用してなる第1の実施形態における容器用の栓の概略構成を示す底面図である。
【図5】本発明を適用してなる第1の実施形態における栓を備えた容器の一例を示す斜視図である。
【図6】本発明を適用してなる第2の実施形態における容器用の栓の概略構成を示す断面図である。
【図7】本発明を適用してなる第3の実施形態における容器用の栓の概略構成を示す断面図である。
【図8】本発明を適用してなる第3の実施形態における容器用の栓の概略構成を示す断面図である。
【図9】本発明を適用してなる第5の実施形態における液取扱装置の概略構成を、管体を容器内に挿入していない状態で模式的に示す図である。
【図10】本発明を適用してなる第5の実施形態における液取扱装置の概略構成を、管体を容器内に挿入した状態で模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 栓
3 通路
3a 入口部
3b 収容室
3c 仕切板
3d 貫通穴
3e 出口部
5 殺菌剤含浸部材
9 外部閉塞部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器の開口部に取り付けられ、該容器内への液の注入及び該容器内からの液の抽出の少なくとも一方を行う管体を挿通可能な栓であり、
前記管体が挿通される通路が形成されており、該通路内に、前記管体を穿刺可能で、殺菌剤を含浸した殺菌剤含浸部材が保持されていることを特徴とする容器用の栓。
【請求項2】
前記通路の前記容器の外側に位置する端部が、前記管体を穿刺可能であるか、または、取り外し可能で、前記通路を気密に密閉可能な外部閉塞部材で閉塞されていることを特徴とする請求項1に記載の容器用の栓。
【請求項3】
前記通路の前記殺菌剤含浸部材よりも前記容器内側の部分に、前記管体を穿刺可能で、前記通路を密閉状態に閉塞する内部閉塞部材が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の容器用の栓。
【請求項4】
滅菌可能な容器であり、内部への液の注入及び内部からの液の抽出の少なくとも一方を行う管体を挿通可能な栓が開口部に取り付けられており、該栓として請求項1乃至3のいずれか1項に記載の栓を備えたことを特徴とする容器。
【請求項5】
滅菌可能な容器と、該容器内への液の注入及び該容器内からの液の抽出の少なくとも一方を行う管体と、該管体からの液の排出及び該管体内への液の吸入の少なくとも一方を行うためのポンプと、該管体と前記栓とを相対的に近づける方向及び離す方向に移動させるための駆動手段とを備え、前記容器は、前記管体が挿通可能な栓が開口部に取り付けられており、該栓が請求項1乃至3のいずれか1項に記載の栓であることを特徴とする液取扱装置。
【請求項6】
前記管体の少なくとも開口部を密閉状態で覆い、該管体を穿刺可能な柔軟で弾性及び気密性を有する膜状の材料で形成された袋状の被覆部材を備えたことを特徴とする請求項5に記載の液取扱装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−44774(P2006−44774A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231358(P2004−231358)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】