説明

容器詰飲料及び容器詰飲料中のテアフラビン類含有量の低減を抑制する方法

【課題】テアフラビン類を高濃度で含有するとともに、飲料中の濁りやオリの発生を抑制し得る容器詰飲料、及びテアフラビン類を含有する飲料中のテアフラビン類含有量の低減を抑制する方法を提供する。
【解決手段】容器詰飲料に、テアフラビン類と、紅茶抽出物の処理物と、ショ糖と、2種以上の人工甘味料とを含有せしめ、これにより、飲料の加熱殺菌処理によるテアフラビン類含有量の低減を抑制することができるとともに、飲料中の濁りやオリの発生を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰飲料及び容器詰飲料中のテアフラビン類含有量の低減を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紅茶等の発酵茶には、茶葉の発酵過程において茶葉に含まれる酸化酵素の働きによってカテキン類から生成されるテアフラビン類が含有されていることが知られている。このテアフラビン類は、様々な生理活性(例えば、脂質吸収阻害作用;脂質のミセル中への不溶化作用、脂質のミセル中への溶解・取込阻害作用、脂質のミセルからの脱離促進作用、ミセル膜破壊作用、脂質の沈殿促進作用等のミセル形成阻害作用等)を有することが知られており、特にテアフラビン類のうちのガレート型テアフラビン類は、その生理活性が強いことが知られている。
【0003】
このようなテアフラビン類を摂取する方法として、テアフラビン類を含有する飲食品の形態で摂取する方法が挙げられ、特に、テアフラビン類を含有する飲料の形態で摂取するのが、多量のテアフラビン類を容易に摂取することができるため好ましい。
【0004】
このような観点から、従来、テアフラビン類を含有する飲料、容器詰飲料等が種々提案されている(特許文献1〜2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−125428号公報
【特許文献2】国際公開2006/004114号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば、テアフラビン類を高濃度に含有する容器詰飲料を製造する場合、その製造段階において食品衛生法に定められた条件で飲料の加熱殺菌処理をする必要があるが、かかる加熱殺菌処理により、飲料中のテアフラビン類の含有量が低減してしまうという問題がある。このような問題を考慮して、加熱殺菌後の容器詰飲料に所望濃度のテアフラビン類を含有させるために、加熱殺菌前の飲料中にテアフラビン類をさらに高濃度に含有させておくこともできるが、容器詰飲料の製造コストが増大してしまい、テアフラビン類を高濃度に含有する容器詰飲料を安価に提供することができなくなってしまうという問題もある。
【0007】
また、飲料中、特に紅茶飲料中にテアフラビン類を高濃度に含有せしめると、テアフラビン類とカフェインとの凝固反応による複合物が析出する、クリームダウンと称される濁りやオリが生じ、特に透明容器に充填された容器詰飲料においては、見栄えが悪化し、飲料の商品価値が損なわれてしまうという問題もある。
【0008】
このような問題に鑑みて、本発明は、テアフラビン類を高濃度で含有するとともに、飲料中の濁りやオリの発生を抑制し得る容器詰飲料を提供することを目的とする。また、本発明は、テアフラビン類を含有する飲料中のテアフラビン類含有量の低減を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、第一に本発明は、テアフラビン類と、紅茶抽出物の処理物と、ショ糖と、2種以上の人工甘味料とを含有することを特徴とする容器詰飲料を提供する(発明1)。
【0010】
本発明において「テアフラビン類」には、テアフラビン(非ガレート型テアフラビン)の他、テアフラビン−3−モノガレート、テアフラビン−3’−モノガレート、テアフラビン−3,3’−ジガレート等のガレート基を有するエステル型テアフラビン(ガレート型テアフラビン)が含まれる。
【0011】
上記発明(発明1)によれば、テアフラビン類を含有する容器詰飲料に紅茶抽出物の処理物と、ショ糖と、2種以上の人工甘味料とを含有させることで、容器詰飲料の製造段階における加熱殺菌処理によって、当該飲料中のテアフラビン類の含有量が低減してしまうのを抑制することができるため、容器詰飲料中に高濃度でテアフラビン類を含有させることが可能となる。そして、テアフラビン類を高濃度で含有するにもかかわらず、紅茶抽出物の処理物と、ショ糖と、2種以上の人工甘味料とを含むことで、飲料中の濁りやオリの発生を抑制することができる。
【0012】
上記発明(発明1)においては、前記人工甘味料として、少なくともスクラロース及びアセスルファムカリウムを含有するのが好ましい(発明2)。かかる発明(発明2)によれば、人工甘味料としてスクラロース及びアセスルファムカリウムを少なくとも含むことで、飲料中のテアフラビン類の含有量の低減をより抑制することができるため、容器詰飲料中にテアフラビン類を高濃度に含有させることができる。
【0013】
上記発明(発明1,2)においては、前記紅茶抽出物の処理物が、紅茶抽出物の活性炭処理物であるのが好ましい(発明3)。かかる発明(発明3)によれば、紅茶抽出物の処理物として活性炭処理物を含有させることで、飲料中のテアフラビン類の含有量の低減をより効果的に抑制することができるため、容器詰飲料中にテアフラビン類を高濃度に含有させることができる。また、紅茶抽出物の活性炭処理物を含むことで、飲料中の濁りやオリの発生をより効果的に抑制することができる。
【0014】
上記発明(発明1〜3)においては、前記テアフラビン類として、精製紅茶抽出物を含有するのが好ましく(発明4)、かかる発明(発明4)においては、前記精製紅茶抽出物の総テアフラビン類中におけるガレート型テアフラビン類の含有比率が、80質量%以上であるのが好ましい(発明5)。
【0015】
上記発明(発明4,5)における精製紅茶抽出物は、テアフラビン類の中でも特に生理活性が強いガレート型テアフラビン類の含有比率が高いものであることから、上記発明(発明4,5)によれば、当該精製紅茶抽出物を容器詰飲料に含有させることで、好ましい生理活性(例えば、脂質吸収阻害作用、ミセル形成阻害作用、抗肥満作用等)を有するガレート型テアフラビン類を高濃度に含有する容器詰飲料を提供することができる。
【0016】
上記発明(発明1〜5)において、前記飲料としては、紅茶飲料、スポーツ飲料、機能性飲料、炭酸飲料等を例示することができる(発明6)。なお、本発明において「機能性飲料」とは、摂飲により生体に作用を及ぼす成分を含む飲料のことを意味し、一般に特定保健用食品及び栄養機能食品等の保健機能食品を含むものである。
【0017】
第二に本発明は、容器詰飲料中のテアフラビン類の含有量の低減を抑制する方法であって、前記容器詰飲料に、紅茶抽出物の処理物と、ショ糖と、2種以上の人工甘味料とを配合することを特徴とする容器詰飲料中のテアフラビン類含有量低減抑制方法を提供する(発明7)。
【0018】
上記発明(発明7)によれば、容器詰飲料中に紅茶抽出物の処理物と、ショ糖と、2種以上の人工甘味料とを配合することで、飲料の加熱殺菌処理による飲料中のテアフラビン類の含有量の低減を抑制することができる。
【0019】
上記発明(発明7)においては、前記人工甘味料として、少なくともスクラロース及びアセスルファムカリウムを配合するのが好ましい(発明8)。また、上記発明(発明7,8)においては、前記紅茶抽出物の処理物が、紅茶抽出物の活性炭処理物であるのが好ましい(発明9)。
【0020】
さらに、上記発明(発明7〜9)においては、前記容器詰飲料に、精製紅茶抽出物を配合するのが好ましく(発明10)、上記発明(発明7〜10)において、前記飲料としては、紅茶飲料、スポーツ飲料、機能性飲料、炭酸飲料を例示することができる(発明11)。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、テアフラビン類を高濃度で含有するとともに、飲料中の濁りやオリの発生を抑制し得る容器詰飲料を提供することができる。また、本発明によれば、テアフラビン類を含有する飲料中のテアフラビン類含有量の低減を抑制する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係る容器詰飲料について説明する。
本実施形態に係る容器詰飲料は、テアフラビン類、紅茶抽出物の処理物としての活性炭処理紅茶エキス、ショ糖、及び2種以上の人工甘味料を含有するものである。
【0023】
容器詰飲料に含有されるテアフラビン類としては、例えば、テアフラビン(非ガレート型テアフラビン)、テアフラビン−3−モノガレート、テアフラビン−3’−モノガレート、テアフラビン−3,3’−ジガレート等のガレート基を有するエステル型テアフラビン(ガレート型テアフラビン)等が挙げられ、これらのうちのいずれか1種を少なくとも含んでいればよいが、特に生理活性の観点からガレート型テアフラビンを含むのが好適である。
【0024】
容器詰飲料にこれらのテアフラビン類を含有させる方法としては、これらのテアフラビン類を飲料にそのまま添加してもよいし、テアフラビン類を高濃度に含有する精製紅茶抽出物を飲料に添加してもよい。
【0025】
容器詰飲料中のテアフラビン類の含有量は、0.001〜0.05質量%であり、好ましくは0.005〜0.025質量%である。テアフラビン類の含有量が0.001質量%未満であるとテアフラビン類が有する好ましい生理活性を十分に享受することができない。また、0.05質量%を超えると、渋みが強く、飲用に耐えられず、濁りの程度も著しくなる。テアフラビン類として、テアフラビン類を高濃度に含有する精製紅茶抽出物を容器詰飲料に添加してなる容器詰飲料を製造する場合、0.002質量%を超えるテアフラビン類を含有させるためには、紅茶抽出物の精製度を向上させて、精製紅茶抽出物中のテアフラビン類濃度を高くする必要があり、技術的な困難性が増大する。ただし、この点を解消しさえすれば、0.002質量%を超えるテアフラビン類の含有量であっても設計可能である。
【0026】
本実施形態に係る容器詰飲料は、さらに紅茶抽出物の処理物として、紅茶抽出物を活性炭に接触させることで得られる活性炭処理紅茶エキスを含有する。飲料中、特に紅茶飲料中にテアフラビン類を高濃度に含有させると、飲料に濁りやオリが発生するおそれがあるが、活性炭処理紅茶エキスを含むことで、飲料の濁りやオリの発生を抑制することができる。
【0027】
容器詰飲料における活性炭処理紅茶エキスの含有量は、固形分換算で0.005〜0.1質量%であるのが好ましく、特に0.02〜0.06質量%であるのが好ましい。活性炭処理紅茶エキスの含有量が上記範囲内であれば、飲料の加熱殺菌処理によるテアフラビン類の含有量の低減を抑制し、テアフラビン類を高濃度に含有する容器詰飲料とすることができるとともに、このようにテアフラビン類を高濃度に含有しているにもかかわらず、飲料中の濁りやオリの発生を抑制することもできる。
【0028】
本実施形態に係る容器詰飲料は、さらにショ糖を含有する。容器詰飲料に含有されるショ糖としては、例えば、グラニュー糖、液糖、上白糖、白双糖、三温糖、中双糖、氷砂糖、和三盆、黒砂糖等を用いることができる。容器詰飲料におけるショ糖の含有量は、0.5〜7質量%であるのが好ましく、特に0.5〜3質量%であるのが好ましい。
【0029】
本実施形態に係る容器詰飲料は、さらに2種以上の人工甘味料を含有する。容器詰飲料に含有される人工甘味料としては、例えば、スクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア、アスパルテーム、ネオテーム等が挙げられ、これらのうち少なくともスクラロース及びアセスルファムカリウムを含有するのが好ましい。
【0030】
本実施形態に係る容器詰飲料における2種以上の人工甘味料の合計含有量は、0.0003〜0.03質量%であるのが好ましく、特に0.001〜0.005質量%であるのが好ましい。また、人工甘味料としてスクラロース及びアセスルファムカリウムを用いる場合、それらの配合比率は、10:1〜1:10であるのが好ましい。
【0031】
本実施形態に係る容器詰飲料は、必要に応じて、飲料の製造に一般的に使用される各種添加剤がさらに配合されていてもよい。このような添加剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、苦味抑制剤、酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、pH調整剤、品質安定剤等が挙げられる。また、これらの他に、様々な生理活性を有することが知られているカテキン類(カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等)が配合されていてもよい。
【0032】
本実施形態に係る容器詰飲料に含有し得る、テアフラビン類を高濃度に含有する精製紅茶抽出物としては、例えば、以下のようにして製造されるものを用いることができる。
【0033】
上記精製紅茶抽出物を製造するためには、まず、紅茶抽出液を製造する。
紅茶抽出液の製造に使用する抽出原料は、茶(学名:Camellia sinensis)の葉部、茎部を完全に発酵させて得られる紅茶(紅茶葉)である。紅茶の茶種としては、特に限定されるものではなく、例えば、ダージリン、アッサム、ニルギリ、シッキム、ウバ、ヌワラエリア、ディンブラ、ウダプセラワ、キャンディ、ルフナ、キーモン、ラプサンスーチョン、雲南種、ケニア種、ジャワ種、スマトラ種、ネパール種、トルコ種、バングラディシュ種等が挙げられる。
【0034】
上記紅茶抽出液を得るためには、特殊な抽出方法を用いることなく、植物の一般的な抽出方法を用いればよい。例えば、紅茶葉を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用い粉砕して溶媒抽出による抽出に供することにより、紅茶抽出液を得ることができる。紅茶葉の乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。
【0035】
抽出溶媒としては、含水有機溶媒を、室温又は溶媒の沸点以下の温度で用いるのが好ましい。抽出溶媒として含水有機溶媒を用いることで、得られる紅茶抽出液中のテアフラビン類含有量を増大させることができ、あわせてカテキン類含有量を増大させることも可能となる。
【0036】
含水有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等の低級脂肪族アルコール;アセトン等の低級脂肪族ケトン等のうちの1種又は2種以上の有機溶媒と水との混合溶媒を用いることができ、特にエタノール水溶液を用いるのが好ましい。エタノールは食品添加物として認められているものであることから、抽出溶媒としてエタノール水溶液を用いることで、人体等への安全性の高い紅茶抽出液を得ることができる。
【0037】
抽出溶媒としての含水有機溶媒の有機溶媒濃度は、少なくとも紅茶葉からテアフラビン類を抽出させ得る限り特に限定されるものではなく、例えば、5〜90容量%であればよい。
【0038】
抽出処理は、抽出原料としての紅茶葉に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、紅茶葉の1〜30倍量(質量比)、好ましくは1〜10倍量(質量比)の抽出溶媒に、紅茶葉を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより紅茶抽出液を得ることができる。
【0039】
次に、上記のようにして得られた紅茶抽出液を精製して、精製紅茶抽出物を製造する。
紅茶抽出液の精製工程においては、まず、紅茶抽出液をそのまま吸着剤を充填したカラムに通液し、紅茶抽出液中の各成分(特に、テアフラビン類、カテキン類、カフェイン等)を吸着剤に吸着させる。かかる方法においては、得られた紅茶抽出液をそのままカラムに通液することができるため、紅茶抽出液の精製工程の前処理としての紅茶抽出液を希釈したり、濃縮したりする工程を省略することができ、精製紅茶抽出物の製造を簡易化することができる。
【0040】
なお、上記のようにして得られた紅茶抽出液の希釈物をカラムに通液してもよいし、当該紅茶抽出液の濃縮物又は乾燥物等を、所定の溶媒(例えば、エタノール水溶液等)に溶解させた紅茶抽出物溶液をカラムに通液してもよい。なお、抽出溶媒としてエタノール水溶液以外の含水有機溶媒(例えば、メタノール水溶液、アセトン水溶液等)を用いた場合、紅茶抽出液から抽出溶媒を留去し、所望により乾燥させて得られた紅茶抽出物(濃縮物、乾燥物等)を、エタノール水溶液に溶解させて、カラムに通液することで、より人体等への安全性の高い精製紅茶抽出物を製造することができる。
【0041】
カラムに充填される吸着剤としては、少なくとも紅茶抽出液中に含有されるガレート型テアフラビン類を吸着し得るものであればよく、例えば、活性炭(例えば、ZN−50(味の素ファインテクノ社製));親水性ビニルポリマー(例えば、トヨパールHW40EC(東ソー社製))、ヒドロキシプロピル化デキストラン(例えば、Sephadex LH-20(GEヘルスケアバイオサイエンス社製))、スチレン−ジビニルベンゼン重合体(例えば、ダイヤイオンHP−20(三菱化学社製)、アンバーライトXAD−2(オルガノ社製))、メタアクリル酸エステル重合体(例えば、ダイヤイオンHP2MG(三菱化学社製)、アンバーライトXAD−7HP(オルガノ社製))等を母体とするゲル型合成吸着剤等が挙げられる。特に好適な例としては、親水性ビニルポリマー又はメタアクリル酸エステル重合体を母体とするゲル型合成吸着剤が挙げられる。
【0042】
紅茶抽出液のカラムへの通液速度は、空間速度として0.5〜10h−1であり、好ましくは1〜5h−1である。当該通液速度が0.5h−1未満であると生産性の点で好ましくない。10h−1を超えると、吸着が不充分又は不安定となるおそれがある。
【0043】
紅茶抽出液のカラムへの通液量は、カラムに充填された吸着剤の体積量に対して0.1〜1.0倍量であり、好ましくは0.1〜0.5倍量である。当該通液量が1.0倍量を超えると、吸着が不充分又は不安定となるおそれがある
【0044】
次に、紅茶抽出液が注入されたカラムに、展開溶媒としてエタノール濃度20〜100容量%、好ましくは40〜80容量%のエタノール水溶液を、吸着剤のカラム充填体積量に対して0.5〜10倍量、好ましくは2〜5倍量通液し、クロマトグラフ法による分離処理を行う。このように、エタノール濃度(有機溶媒濃度)の高い(40〜80容量%)エタノール水溶液を展開溶媒として用いても、本実施形態に係る方法によれば、カフェイン及び非ガレート型テアフラビン類と、ガレート型テアフラビン類とをほぼ分離することができる。
【0045】
展開溶媒としてのエタノール水溶液のエタノール濃度が20容量%未満であると、カフェイン及び非ガレート型テアフラビン類と、ガレート型テアフラビン類との分離が不充分又は不安定となるおそれがあり、40〜80容量%であると、カフェイン及び非ガレート型テアフラビン類と、ガレート型テアフラビン類とを十分にかつ安定的に分離することができる。
【0046】
また、展開溶媒としてのエタノール水溶液の通液量が0.5倍量未満であると、カフェイン及び非ガレート型テアフラビン類と、ガレート型テアフラビン類との分離が不充分又は不安定となるおそれがあり、10倍量を超えると、ガレート型テアフラビン類の回収率は上がるものの、多量の溶出液を要するため、エタノールを回収する際の蒸留操作が煩雑になるおそれがある。
【0047】
展開溶媒としてのエタノール水溶液をカラムに通液後、初期通過液(例えば、吸着剤として親水性ビニルポリマー等を母体とするゲル型合成吸着剤を用いた場合、カラムへのエタノール水溶液の通液量のうちの40容量%程度)を廃棄する。当該初期通過液には、ガレート型テアフラビン類よりも吸着剤への吸着力の弱いカフェインや非ガレート型テアフラビン類、非ガレート型カテキン類が溶出するため、カフェイン、非ガレート型テアフラビン類、非ガレート型カテキン類等を紅茶抽出物から除去することができる。
【0048】
上記初期通過液を廃棄した後、ガレート型テアフラビン類の画分(精製紅茶抽出物の画分)を回収する。そして、得られた画分から、必要に応じて溶媒(エタノール水溶液)を留去し、乾燥することで、精製紅茶抽出物を得ることができる。
【0049】
このようにして得られた精製紅茶抽出物は、カフェイン、非ガレート型テアフラビン類のほとんどが除去されているため、カフェインの含有量が極めて少なく、かつ総テアフラビン類中におけるガレート型テアフラビン類の含有比率が極めて高いものとすることができる。
【0050】
具体的には、精製紅茶抽出物中のカフェイン含有量は、0.2質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以下である。また、精製紅茶抽出物の総テアフラビン類中におけるガレート型テアフラビン類の含有比率は、80質量%以上であり、好ましくは80〜90質量%である。
【0051】
さらに、精製紅茶抽出物中における総テアフラビン類と総カテキン類との合計質量におけるガレート型テアフラビン類とガレート型カテキン類との合計含有比率は、80質量%以上であり、好ましくは80〜90質量%以上である。
【0052】
このように、上記精製紅茶抽出物は、テアフラビン類を高濃度に含有し、特にガレート型テアフラビン類を高濃度に含有するものであって、カフェインを実質的に含有しない(0.2質量%以下の含有量)ものであるため、当該精製紅茶抽出物を本実施形態に係る容器詰飲料に配合することによって、容器詰飲料に、特に生理活性の強いガレート型テアフラビン類を高濃度に含有させるとともに、好ましくない生理活性を有するカフェインの含有量を低減させることができる。
【0053】
また、活性炭処理紅茶エキスは、例えば、以下のようにして製造される。
上記活性炭処理紅茶エキスを製造するためには、まず、紅茶抽出液を製造する。紅茶抽出物の抽出原料としては、上記精製紅茶抽出物の製造において用いられる抽出原料と同様の紅茶葉を使用すればよい。また、抽出処理についても同様にして行えばよい。抽出溶媒としては、水(熱水)等を用いるのが好ましいが、エタノール水溶液等の含水有機溶媒等を用いてもよい。
【0054】
上述のようにして得られる紅茶抽出液を、必要に応じて希釈又は濃縮し、活性炭に接触させる。紅茶抽出液を活性炭に接触させる方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭を充填したカラムに紅茶抽出液を通液してもよいし、紅茶抽出液中に粒状又は粉状等の活性炭を所定量添加し、十分に攪拌後、濾紙等を用いて固液分離してもよい。
【0055】
また、紅茶葉からの抽出処理の際に、紅茶葉とともに活性炭を抽出溶媒に添加してもよい。このように、紅茶葉とともに活性炭を抽出溶媒に添加することで、紅茶抽出液を得ながら活性炭に接触させることができるため、活性炭処理紅茶エキスの製造効率を向上させることができる。
【0056】
その後、紅茶抽出液についてメッシュ等を用いた固液分離により紅茶葉と活性炭とを除去し、所望により遠心分離及び珪藻土濾過処理等を施すことで、活性炭処理紅茶エキスを得ることができる。
【0057】
本実施形態に係る容器詰飲料は、テアフラビン類又は上述のようにして得られた精製紅茶抽出物と、紅茶抽出物の処理物と、ショ糖と、2種以上の人工甘味料と、所望により他の原料成分とを配合し、さらに水(イオン交換水等)又は紅茶抽出液を配合して調製された飲料を、所定の容器に充填して得ることができる。
【0058】
このようにして得られる本実施形態に係る容器詰飲料のヘーズ値は、0〜10%であるのが好ましく、特に0〜5%であるのが好ましい。ヘーズ値が上記範囲内であれば、飲料中に濁りやオリがほとんど生じることなく、飲料の見栄えを良好にすることができ、濁りやオリの発生により商品価値が損なわれるのを防止することができる。
【0059】
上記飲料としては、特に限定されるものではなく、例えば、紅茶飲料、緑茶飲料、ウーロン茶飲料等の茶系飲料;スポーツ飲料;機能性飲料;炭酸飲料等が挙げられる。これらのうち、紅茶飲料が好ましい。
【0060】
本実施形態に係る容器詰飲料において使用される容器としては、PETボトル、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常用いられる飲料用容器であればよい。
【0061】
本実施形態に係る容器詰飲料は、例えば、金属缶のような容器に飲料を充填後、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた殺菌条件(例えば、適宜加圧下(1.2mmHg)、121℃で7分間加熱)で殺菌されて製造される。なお、PETボトル、紙容器のように、容器に飲料を充填した状態で加熱殺菌できないものに関しては、予め上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器等を用いて高温短時間殺菌した後(120〜150℃で1〜数十秒)、一定の温度まで冷却して容器に充填する方法等により製造すればよい。
【0062】
本実施形態に係る容器詰飲料は、活性炭処理紅茶エキスと、ショ糖と、2種以上の人工甘味料とを含有することで、加熱殺菌処理による飲料中のテアフラビン類の含有量の低減を抑制することができ、加熱殺菌処理による飲料中のテアフラビン類の残存率を90質量%以上にすることができる。したがって、容器詰飲料中にテアフラビン類を高濃度に含有させるために、加熱殺菌前の飲料中にテアフラビン類を大量に含有させる必要がなく、好ましい生理活性を有するテアフラビン類を高濃度に含有する容器詰飲料を安価に製造することができる。
【0063】
しかも、テアフラビン類を高濃度に含有するにもかかわらず、飲料中の濁りやオリ等の発生を抑制することもでき、見栄えの良好な容器詰飲料とすることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例等に何ら限定されるものではない。
【0065】
〔精製紅茶抽出物の製造〕
20メッシュのナイロン網を備えた抽出網に投入され、上部が平坦になるように揃えた紅茶葉(中国湖南省産,CTC製法)100kgを、抽出槽に供給された60容量%エタノール水溶液450L中に90分間浸漬させた。このとき、15分ごとに抽出網を上下に移動させて、抽出槽中のエタノール水溶液を攪拌した。
【0066】
浸漬処理後、得られた抽出液を抽出槽から抜き出して、80メッシュのナイロン網を用いてろ過し、次いで53μmのフィルタでろ過することで、紅茶抽出液を回収した。
【0067】
ステンレスカラムに充填した合成吸着剤(トヨパールHW40EC,東ソー社製)90Lを、予め60容量%エタノール水溶液90Lにより平衡化し、上記のようにして得られた紅茶抽出液45L(合成吸着剤のカラム充填体積量に対して0.5倍量)をSV(空間速度)=4(h−1)の通液速度でステンレスカラムに注入した。
【0068】
次いで、展開溶媒として60容量%エタノール水溶液450LをSV=4(h−1)の通液速度でステンレスカラムに通液し、初期通過液180Lを廃棄した後に、後半の通過液(テアフラビン類画分)270Lを回収した。
【0069】
上記と同様のクロマトグラフィー分離処理を合計7回行い、テアフラビン分画物1890Lを得た。得られたテアフラビン分画物を濃縮し、噴霧乾燥することで、精製紅茶抽出物4.6kg(収率4.6%)を得た。
【0070】
上記のようにして得られた精製紅茶抽出物を定量した結果、精製紅茶抽出物中の総テアフラビン類含有量は、10〜25質量%であり、総テアフラビン類含有量に対するガレート型テアフラビン類含有量は、80.0質量%以上であった。また、精製紅茶抽出物中のカフェイン含有量は、0.0〜0.25質量%であった。
【0071】
〔活性炭処理紅茶エキスの製造〕
紅茶葉(中国湖南省産,CTC製法)120gを、抽出槽に供給された90℃の純水2040g中に添加するとともに、活性炭(味の素ファインテクノ株式会社製,ZN−50)38.4g(紅茶葉質量に対して32質量%)を添加し、15分間攪拌しながら抽出処理を行った。
【0072】
抽出処理後、得られた抽出液を抽出槽から抜き出して、20メッシュ及び150メッシュのナイロン網を用いてろ過し、活性炭処理紅茶抽出液を回収した。得られた活性炭紅茶抽出液を20℃まで冷却し、遠心分離(5000G,5分間)した後、珪藻土を用いてろ過処理を行い、濃縮、殺菌処理後、活性炭処理紅茶エキス187g(Brix 9.3%)を得た。
【0073】
〔テアフラビン類含有量低減抑制試験〕
上記のようにして得られた精製紅茶抽出物及び活性炭処理紅茶エキス(Brix 9.3%)と、アスコルビン酸ナトリウムと、ビタミンCと、市販の香料と、ショ糖(上白糖)と、スクラロースと、アセスルファムカリウムとを、下記表1に示す配合割合で配合し、イオン交換水を加えて合計200mLとし、紅茶飲料を調製した(実施例1,比較例1〜6)。
【0074】
【表1】

【0075】
上記のようにして得られた紅茶飲料を、レトルト殺菌にて124℃で8分間加熱殺菌処理に付し、加熱殺菌後の当該紅茶飲料について、下記条件のHPLC法によりテアフラビン−3,3’−ジガレートの含有量(μg/mL)を測定した。また、加熱殺菌前の紅茶飲料についても同様にしてテアフラビン−3,3’−ジガレートの含有量(μg/mL)を測定した。
【0076】
また、上記測定結果から、下記式に基づいて加熱殺菌後のテアフラビン−3,3’−ジガレートの残存率(質量%)を算出した。
残存率(質量%)=加熱殺菌後の含有量/加熱殺菌前の含有量×100
結果を表2に示す。
【0077】
<HPLC分析条件>
装置:Alliance 2695 Separations Module PDA(Model 2996)システム(日本ウォーターズ社製)
カラム:Xbridge Shield RP18(4.6mmI.D.×150mm,3.5μm,日本ウォーターズ社製)
移動相A液:水
移動相B液:アセトニトリル
移動相C液:1.0%リン酸水溶液を用いたグラジエント法
流速:1mL/min
検出:UV280nm
カラム温度:40℃
サンプル量:10μL
【0078】
【表2】

【0079】
表2に示すように、活性炭処理紅茶エキス及びショ糖と、人工甘味料としてスクラロース及びアセスルファムカリウムの両方とを配合した実施例1の紅茶飲料においては、ガレート型テアフラビン類(テアフラビン−3,3’−ジガレート)の残存率が90質量%以上であったのに対し、人工甘味料としてスクラロース及びアセスルファムカリウムのいずれか一方のみを配合した比較例1及び比較例2の紅茶飲料においては、残存率が90質量%に達しなかった。
【0080】
また、活性炭処理紅茶エキスと人工甘味料としてのスクラロース及びアセスルファムカリウムの両方とを配合しているが、ショ糖が配合されていない比較例3の紅茶飲料においても、残存率が90質量%に達しなかった。
【0081】
さらに、活性炭処理紅茶エキスを含むが、ショ糖、並びに人工甘味料としてのスクラロース及びアセスルファムカリウムが配合されていない比較例4の紅茶飲料においても、残存率が90質量%に達しなかった。
【0082】
さらにまた、ショ糖、並びに人工甘味料としてのスクラロース及びアセスルファムカリウムを含むが、活性炭処理紅茶エキスを含まない比較例6の紅茶飲料においても、残存率が90質量%に達しなかった。
【0083】
そして、比較例1〜4及び比較例6の紅茶飲料は、活性炭処理紅茶エキス、ショ糖、並びに人工甘味料としてのスクラロース及びアセスルファムカリウムのいずれも含まない比較例5の紅茶飲料と略同様の残存率を示すことが確認された。
【0084】
以上の結果から、紅茶飲料に、活性炭処理紅茶エキス、ショ糖及び2種以上の人工甘味料(特に、スクラロース及びアセスルファムカリウム)を配合することで、当該紅茶飲料の加熱殺菌処理によるテアフラビン類の含有量の低減を効果的に抑制し得ることが判明した。
【0085】
〔濁度評価試験〕
実施例1、比較例4及び比較例5の飲料について、5℃で1ヶ月保管した条件及び25℃で3ヶ月保管した条件で、ヘーズメーターHM−150型(村上色彩技術研究所社製)を用いてヘーズ値を測定した。
ヘーズ値の測定結果を表3に示す。
【0086】
【表3】

【0087】
表3に示すように、実施例1の紅茶飲料は、ヘーズ値が最も低く、最も濁りにくいことが判明した。また、比較例4の紅茶飲料においても、ヘーズ値が低く保たれ、濁りにくいことが判明した。一方、比較例5の紅茶飲料は、ヘーズ値が10以上を示し、目視観察の結果、濁りが生じていた。
【0088】
このことから、活性炭処理紅茶エキスを含有することで、飲料中の濁りやオリの発生を抑制することができ、活性炭処理紅茶エキスとともに、ショ糖、スクラロース及びアセスルファムカリウムを含有することで、飲料中の濁りやオリの発生をより効果的に抑制し得ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、好ましい生理活性を有するテアフラビン類を高濃度に含有する容器詰飲料の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テアフラビン類と、紅茶抽出物の処理物と、ショ糖と、2種以上の人工甘味料とを含有することを特徴とする容器詰飲料。
【請求項2】
前記人工甘味料として、少なくともスクラロース及びアセスルファムカリウムを含有することを特徴とする請求項1に記載の容器詰飲料。
【請求項3】
前記紅茶抽出物の処理物が、紅茶抽出物の活性炭処理物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の容器詰飲料。
【請求項4】
前記テアフラビン類として、精製紅茶抽出物を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の容器詰飲料。
【請求項5】
前記精製紅茶抽出物の総テアフラビン類中におけるガレート型テアフラビン類の含有比率が、80質量%以上であることを特徴とする請求項4に記載の容器詰飲料。
【請求項6】
前記飲料が、紅茶飲料、スポーツ飲料、機能性飲料又は炭酸飲料であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の容器詰飲料。
【請求項7】
容器詰飲料中のテアフラビン類の含有量の低減を抑制する方法であって、
前記容器詰飲料に、紅茶抽出物の処理物と、ショ糖と、2種以上の人工甘味料とを配合することを特徴とする容器詰飲料中のテアフラビン類含有量低減抑制方法。
【請求項8】
前記人工甘味料として、少なくともスクラロース及びアセスルファムカリウムを配合することを特徴とする請求項7に記載の容器詰飲料中のテアフラビン類含有量低減抑制方法。
【請求項9】
前記紅茶抽出物の処理物が、紅茶抽出物の活性炭処理物であることを特徴とする請求項7又は8に記載の容器詰飲料中のテアフラビン類含有量低減抑制方法。
【請求項10】
前記容器詰飲料に、精製紅茶抽出物を配合することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の容器詰飲料中のテアフラビン類含有量低減抑制方法。
【請求項11】
前記飲料が、紅茶飲料、スポーツ飲料、機能性飲料又は炭酸飲料であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の容器詰飲料中のテアフラビン類含有量低減抑制方法。

【公開番号】特開2011−19422(P2011−19422A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165686(P2009−165686)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】