説明

容積型機械の作動状態測定方法

【課題】 演算器に導入される信号からノイズを除去して、データ数を減少させた場合にも誤差のない容積型機械の作動状態を測定する方法及び装置を提供すること。
【解決手段】 運転状態にある容積型機械における行程サイクルに関連した信号の成分を求め、それらを演算器17で合成して作動状態を表わす信号を求める容積型機械の作動状態測定方法であって、前記行程サイクルに関連した信号はLPF(ロ−パスフィルタ)14によるフィルタリング処理と燃焼のTDCを基準とするゲート幅の中でサンプリングするサンプリング処理との2つの処理を受けた信号であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は容積型機械の作動状態測定方法に関するもので、特に筒内圧を簡易的に計測する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体技術の飛躍的な発展に伴い、自動車用エンジンのコンピュータ制御が広く行われるようになっている。このようなコンピュータ制御の一つの目的は燃費効率を改善することにあり、そのためにはエンジンを稀薄限界になるべく近い状態で運転することが必要である。
【0003】
しかし、そのようなエンジン制御を行おうとするとき、制御目標である稀薄限界そのものが回転速度、負荷、大気状態などによって大きく左右されるため、制御が困難であるという問題がある。また、稀薄限界を超えると、燃焼変動や失火の増加によってドライバビリティや排気特性が急激に変化することも大きな問題である。したがって、従来のような空燃比のみに着目したエンジン制御では制御目標を稀薄限界よりも過濃側に設定しており、理想的制御は行われていないことが多い。
【0004】
このため、ドライバビリティや排気特性をある水準に保ちながら、稀薄域での制御精度を上げるためには、エンジンの燃焼状態を直接示す、図示平均有効圧IMEPをエンジン制御情報として用いることができるようになれば有益であり、かつ望まれる。
【0005】
この図示平均有効圧IMEPは、Pをシリンダの筒内圧、Vをその容積、Vsを行程容積として以下のように定義される。
IMEP=(1/Vs)∫Pdv (1)
従来この筒内圧Pを計測するためにはシリンダ内に圧力センサを取り付けて計測を行うのが一般的であり、精度が得られない。この圧力センサはシリンダ構造物(シリンダブロックとシリンダヘッドの集合体をいう。この明細書において同じ)のシリンダヘッドに取り付けられ、シリンダ内に差し込まれて、燃焼ガスと接触状態に置かれる。
【0006】
また、IMEPは式(1)を離散化した式(2)により算出されている。
【0007】
【数1】


ここに、P(j)、V(j)は1サイクル間で等間隔にn個サンプリングされた、基準としたクランク角から数えてj番目の圧力と容積をそれぞれ表わす。
【0008】
前述の通り、従来一般の筒内圧は圧力センサにより検知されるが、圧力センサを取り付けるシリンダヘッドはシリンダ毎に吸気弁、排気弁、プラグなどが多数取り付けられていて、複雑な構造になっているので、空間取合の点から圧力センサをシリンダヘッドに取り付けるのは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平8−20339号公報
【特許文献2】特開2005−133694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、シリンダ構造物の外側にシリンダ構造物の挙動を検出する力センサや歪みゲージなどのセンサを取り付け、前記センサからの挙動信号を用いて筒内圧の指圧波形瞬時値を得る技術が開発されている(特許文献1及び2参照)。
【0011】
この技術によって、シリンダ内の燃焼ガスに接触する圧力センサを使用せず、燃焼ガスと非接触の力センサ、ギャップセンサ、加速度センサをシリンダ構造物に外付けして、筒内圧と相関関係にあるシリンダ構造物の挙動に関する挙動信号を元にしてシリンダ内圧力を求めるので、圧力センサをシリンダヘッドに取り付ける必要をなくし、筒内圧の導出ひいては図示平均有効圧の導出を容易としている。
【0012】
しかるに、この外付けセンサによって検出するシリンダ構造物の挙動の信号は、筒内圧に基づく信号の他に、多くのノイズも重畳されたものになる。
【0013】
図示平均有高圧の導出を速くするためにデータ数を減少させる試みがなされているが、データ数を減少させる場合には、特にノイズの影響が大きく、これが誤差の原因となるので、信号を演算器に入れる前にノイズをできるだけ除去することが望ましいが、現在まで有効な技術が開発されていない。
【0014】
この発明は上記の如き事情に鑑みてなされたものであって、演算器に導入される信号からノイズを除去して、データ数を減少させた場合にも誤差の少ない容積型機械の作動状態測定方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明の容積型機械の作動状態測定方法は、運転状態にある容積型機械における行程サイクルに関連した信号の成分を求め、それら成分を合成処理してシリンダの作動状態を表わす信号を求める容積型機械の作動状態測定方法であって、前記行程サイクルに関連した信号はLPF(ロ−パスフィルタ)によるゲート幅を含む範囲のフィルタリング処理と燃焼のTDC(上死点)を基準とする前記ゲート幅の中でサンプリングするサンプリング処理との2つの処理を受けた信号であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
上記本発明によれば、運転状態にある容積型機械の行程サイクルに関連した信号が、ローパスフィルタによるフィルタリング処理によってノイズを低減され、かつ、燃焼のTDCを基準とする前記ゲート幅の中の、ノイズの影響の少ない信号が切り出されるサンプリング処理がなされた後に演算装置に入力されるので、機械のIMEPなどの作動状態を表わす信号を導出する場合に、信号数を少なくしても誤差の少ない演算を可能にする。
【0017】
また、ローパスフィルタでノイズを低減した信号に対してさらにサンプリング処理すれば、装置の構成を簡単にしても、ノイズが除去され、誤差の少ない演算が可能になる。すなわちローパスフィルタで信号処理することによって高周波領域をカットされて単純化された信号を、さらにゲートによって信号の一部を取り出して処理するので、演算処理の演算量を減らすことができる。
【0018】
また、サンプリング処理でノイズの影響の小さい信号を切り出した後に、さらにその信号をフィルタリング処理すれば、ローパスフィルタリングによって信号の振幅の低下や位相のずれを生ずる場合でも、演算装置の演算に補正を加えることができるので、誤差の少ない作動状態を表わす信号の導出が可能である。すなわちゲートによってカットして取り出された波形のみをローパスフィルタに通すことによる処理量の低減が可能となり、さらにローパスフィルタによって単純化された波形だけを処理することで演算装置の演算量を減らすことができ、さらに、IMEP演算結果にLPF周波数補正をすることができるので実際の作動状態に対して一層高い相関を持つ信号が得られる。
【0019】
また、行程サイクルに関連した信号の成分として、基本波形及びその高調波成分とすれば、誤差の少ない作動状態の演算、導出が可能である。
【0020】
また、作動状態を表わす信号として、IMEPを表わす信号とすれば、誤差の少ないIMEPが直接に演算されるので容積型機械の理想的な制御のための望ましい作動状態を表わす信号を得ることができる。
【0021】
また、サンプリング処理とフィルタリング処理の2つの処理を受けた信号をA/D変換した後に合成演算すれば、演算装置の負担を軽減させることができる。
【0022】
さらにまた、フィルタリング処理の補正を、合成処理において行なえば、サンプリング装置でサンプリング処理したノイズの影響の小さい信号を切り出した後に、さらにその信号をフィルタリング処理してノイズを除去することに加えて、ローパルフィルタのフィルタリングによって信号の振幅の低下や位相のずれを生ずる場合でも、演算装置の演算に必ず補正を加えることとなり、誤差の少ない作動状態を表わす信号の導出が可能である。すなわちゲートによってカットして取り出された波形のみをローパスフィルタに通すことによるローパスフィルタによる処理量の低減が可能となり、さらにローパスフィルタによって単純化された波形だけを処理することで演算装置の演算量を減らすることができ、さらに、IMEP演算結果にLPF周波数補正をすることができるので一層高い相関が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】構造物上のセンサ装置を示す縦断面説明図。
【図2】シリンダ構造物上のセンサ装置を示す平面説明図。
【図3】Equivalent(IMEP)forceと(IMEP)0の関係を示すグラフ。
【図4】信号処理演算装置を示すブロック図。
【図5】信号処理演算装置で処理された信号を示すグラフ。
【図6】信号処理演算装置を示すブロック図。
【図7】信号処理演算装置で処理された信号を示すグラフ。
【図8】(IMEP)forceと(IMEP)0の関係を示すグラフ。
【図9】(IMEP)forceと(IMEP)0の関係を示すグラフ。
【図10】(IMEP)forceと(IMEP)0の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明の一実施の態様を図面をもって詳細に説明する。
【0025】
まずこの発明を単シリンダエンジンに適用する場合について説明する。シリンダ構造物上のセンサの位置を示す図1及び図2において、センサ装置1はこの発明のエンジンの作動状態測定方法を実施する場合に使用し、シリンダ構造物2に外付けによって取り付けた挙動センサ3を備えている。シリンダ構造物2はシリンダブロック4とシリンダヘッド5とを組み合わせたものでシリンダブロック4とシリンダヘッド5は、ガスケット6を挾んでボルト7で定着されている。
【0026】
挙動センサ3は、シリンダ構造物2の挙動を検出するセンサである。検出の対象であるシリンダ構造物2に生ずる挙動の種類としては、例えば力の変化、シリンダブロック4とシリンダヘッド5との間の隙間(ギャップ)の変化、シリンダブロック4とシリンダヘッド5との間のガスケット隙間8の変化、シリンダ構造物2に作用する加速度の変化及びシリンダ構造物の変形があり、それぞれの検出対象に対応して力を検出するための力センサ3aがシリンダブロック4又はガスケット隙間8、特に好ましくはシリンダブロックとシリンダヘッドとを締着するボルトに取り付けられ、シリンダブロック4とシリンダヘッド5との隙間を検出するギャップセンサが取り付けられ、ガスケット隙間8を検出するためのギャップセンサ3bがガスケット隙間8に取り付けられ、又は加速度を検出するための加速度センサ3cがシリンダブロック4に取り付けられ、シリンダブロックの変形を検出するためにギャップセンサ3bがシリンダブロックに取り付けられ、シリンダヘッドに作用する加速度を検出するために加速度センサ3cがシリンダヘッドに取り付けられるようにしている。それぞれのセンサ3a、3b、3cは、単独で使用され、又は他のセンサと組み合わせて使用され、また必要に応じて選択して使用される。なお挙動センサ3の取り付け位置は、図1、図2に示すものに限られない。
【0027】
シリンダ構造物2の挙動、すなわちシリンダ構造物2に作用する力、ギャップ、加速度又はシリンダ構造物の変形を検出する。エンジンの1サイクルの吸入、圧縮、爆発、排気の4行程において、シリンダ構造体における力、ギャップ、加速度及び変形は、筒内圧と相関を持つので、各センサの信号を元信号として信号処理装置11、11bで処理して行程サイクルに関連した信号を得、さらにそれを演算装置17で演算してシリンダの作動状態を表わす信号である筒内圧瞬時値又は図示平均有効圧を導出する。
信号処理演算装置11としては例えば図4に示すものを使用することができる。
【第1の実施例】
【0028】
第1の実施例に係る信号処理演算装置11は入力部12と出力部13との間に、ローパスフィルタ14、アナログスイッチ15、A/D変換器16を順に備え、さらに信号処理装置11の下流に演算装置17を備える。
【0029】
ローパスフィルタ14にはローパスフィルタ14のカットオフを制御するカットオフコントローラ18が接続し、カットオフコントローラ18にはF/Vコンバータ21が接続する。
【0030】
F/Vコンバータ21はクロック(ECU)信号によりローパスフィルタ14のカットオフを決定してローパスフィルタ14に入力する。このローパスフィルタ14のカットオフはエンジンの回転速度に応じて決定することも可能である。
【0031】
アナログスイッチ15にはゲートセット(Gate Set)コントローラ22が接続している。ゲートセット(Gate Set)コントローラ22はTDC信号とクロック(ECU)信号を受けてアナログスイッチ15におけるゲート幅を決定してアナログスイッチ15に入力する。ゲート幅は例えばTDCを基準とした前後の所定の角度(ゲート角)で定められる。A/D変換器16はアナログスイッチ15の出力信号をTDC信号又はクロック(ECU)信号に基づいてA/D変換して出力する。演算装置17はA/D変換器16の出力を演算して筒内圧瞬時値及びエンジンシリンダのIMEPを導出し出力する。その図示平均有効圧については、本発明では行程サイクルに関連した角度でサンプリングした行程サイクルに関連した信号の上述の筒内圧瞬時値内の基本波(振幅C1、位相φ1)、第2高調波((振幅C2、 位相φ2)を取り出して、式(3)又は式(4)により演算装置17で演算して求めている。
【0032】
【数2】


ここに、K、hはエンジン諸元より定まる定数、nを1サイクル間のサンプルデータ数としてm=n/2である。またP(360j/nh)、P(−360j/nh)は、燃焼のTDCを基準として前後360j/nh度における上述の筒内圧瞬時値を表わす。
【0033】
図3は現在行われている筒内圧センサからの信号により式(2)により求めた図示平均有効圧(IMEP)0と上述の筒内圧瞬時値(力センサ)より式(3)から計算したEquivalent(IMEP)force(添字forceは力センサを表わす)との関係を示している。両者は比例関係にあることが分かる。
【0034】
このように構成された信号処理演算装置11によるIMEP導出操作は次の通りである。外付けの挙動センサ3(3a、3b、3c等)で検出された元信号は、入力部12から信号処理装置11に入り、まずローパスフィルタ14でノイズを除去され、次に前記ノイズを除去された信号は、アナログスイッチ15で所定のゲート角だけでサンプリングされて取り入れられ、この信号をA/D変換器16でA/D変換されて行程サイクルに関連した信号を得、これに演算装置17で演算されてシリンダの作動状態を示す信号、例えばIMEPが導出される。
【0035】
信号処理演算装置11で処理される信号の変化は図5に示されている。
図5は圧力センサによって検出された筒内圧の信号(PC00015.DAT)と力センサで検出したシリンダ構造の挙動の力センサ元信号を示している。両信号は相関性を持っているが、力センサで検出した信号にはノイズが重畳していることがわかる。力センサ元信号から、筒内圧瞬時値及びIMEPを導出するためにまず元信号を信号処理演算装置11に入力してローパスフィルタ14を通す。これによってノイズが低減したフィルタリングされた信号(力センサ(LPF2−3))を得る。
【0036】
次にフィルタリングされた信号(力センサ(LPF2−3))をアナログスイッチ15に入力してTDCを基準とするゲート幅の信号(力センサ(LPF2−3)Gate±120deg)だけを切り出してサンプリングする。この切り出された信号(力センサ(LPF2−3)Gate±120deg)(行程サイクルに関連した信号)はTDC前後の信号部分だけであるのでノイズの影響がきわめて小さい部分である。
このゲート幅はこの図示の実施例の場合はTDCの前後±120degである。この信号((力センサ(LPF2−3)Gate±120deg))をA/D変換器16に入力してA/D変換し、演算装置17で演算してシリンダの作動状態を示す信号、例えば筒内圧瞬時値及びIMEPを演算し導出する。
【0037】
この第1の実施例の場合は
1)相関係数は、N=720でGate Setした(LPFなし)場合に比べ若干低下する。ただし、N=720〜12で相関係数はほぼ同一(ρ=0.9721〜0.9761)である。
2)傾き(切辺あり)は、N=720で0.5095、N=12で0.5944、Nが減少すると増加する傾向がある。
【0038】
この第1の実施例の場合はローパスフィルタで信号処理することによって高周波領域をカットされて単純化された信号を、さらにゲートに信号の一部を取り出して処理するので、演算処理の演算量を減らすことができる。
【第2の実施例】
【0039】
図6にはこの発明の第2の実施例に係る信号処理演算装置11bが示されている。信号処理演算装置11bは入力部12と出力部13との間にアナログスイッチ15、ローパスフィルタ14、A/D変換器16を備え、さらに信号処理演算装置11bの下流に演算装置17を備える点は第1の実施例の信号処理演算装置11と同一であるが、信号のフィルタリングを行うローパスフィルタ14の上流に、元信号を所定のゲート幅の中でサンプリング処理するアナログスイッチ15が設けられる点が第1の実施例の信号処理演算装置11と異なっている。またこのことに関連して演算装置17の演算がローパスフィルタ(LPF)補正を含めることがあり、そのためのLPF補正値を算出するLPF補正値の算出手段19を設けることができる。
【0040】
アナログスイッチ15にはゲートセット(Gate Set)コントローラ22が接続している。ゲートセット(Gate Set)コントローラ22はTDC信号とクロック(ECU)信号を受けてアナログスイッチ15におけるゲート幅を決定してアナログスイッチ15に入力する。ゲート幅は例えばTDCを基準とした前後の所定の角度(ゲート角)で定められる。
【0041】
ローパスフィルタ14にはローパスフィルタ14のカットオフを制御するカットオフコントローラ18が接続し、カットオフコントローラ18にはF/Vコンバータ21が接続する。
【0042】
F/Vコンバータ21はクロック(ECU)信号によりローパスフィルタ14のカットオフを決定してローパスフィルタ14に入力する。このローパスフィルタ14のカットオフはエンジンの回転速度に応じて決定することも可能である。
【0043】
A/D変換器16はアナログスイッチ15の出力信号をTDC信号又はクロック(ECU)信号に基づいてA/D変換して出力する。演算装置17はA/D変換器16の出力を演算して筒内圧瞬時値及びエンジンシリンダのIMEPを導出し出力する。
【0044】
このように構成された信号処理演算装置11bにおけるIMEP導出操作は次の通りである。外付けの挙動センサ(3a、3b、3c等)で検出された元信号は入力部12から信号処理演算装置11bに入り、アナログスイッチ15で所定のゲート角だけで信号をサンプリングして取り入れ、ついでローパスフィルタ14を通してノイズを低減させ、この信号をA/D変換器16でA/D変換して行程サイクルに関連した信号を得、次にこれを演算装置17で演算してシリンダの作動状態を表わす信号、例えばIMEPを導出する。
【0045】
信号処理演算装置11bで処理される信号の変化は図7に示されている。図7は圧力センサによって検出された筒内圧の信号(PC00015.DAT)と力センサで検出したシリンダ構造の挙動の信号(力センサ)を示している。両信号は相関性を持っているが、力センサで検出した信号にはノイズが重畳していることがわかる。信号(力センサ)(元信号)から、筒内圧瞬時値及びIMEPを導出するためにまず元データを信号処理演算装置11bに入力してアナログスイッチ15に入力してTDCを基準とするゲート幅の信号(力センサ(Gate±120deg))だけを切り出してサンプリングする。この切り出された信号(力センサ(Gate±120deg))はTDC前後の信号部分だけであるのでノイズの影響がきわめて小さい部分である。このゲート幅はこの図示の実施例の場合はTDCの前後±120degである。
【0046】
次にサンプリングされた信号(力センサ(Gate±120deg))をローパスフィルタ14を通す。これによってさらにノイズが低減した信号(力センサ(Gate±120degLPF2−3))を得る。この信号((力センサ(Gate±120degLPF2−3)))をA/D変換器16に入力してA/D変換して行程サイクルに関連した信号を得、次にこれを演算装置17でシリンダの作動状態を表わす信号、例えば筒内圧瞬時値及びIMEPを演算し導出する。
【0047】
この第2の実施例の場合は、ゲートによってカットして取り出された波形のみをローパスフィルタに通すことによる処理量の低減が可能となり、さらにローパスフィルタによって単純化された波形だけを処理することで演算装置の演算量を減らすことができ、さらに、IMEP演算結果にLPF周波数補正をすることができるので一層高い相関が得られる。
1)LPF補正により、Nが減少しても、N=720、Gate Set、LPFなしでの相関係数と同レベルになる。
2)相関係数は、N=720、Gate±120deg、LPFなしρ=0.9971に対し、N=720〜12で、ρ=0.9917〜0.9919(N=18)、0.9732(N=12)で、Nが減少してもN=720と同レベルになる。
3)傾き(切辺あり)は、N=720で0.4144、N=18で0.4068、N=12で0.4004でほぼ同一になる。
【0048】
(IMEPの演算結果に対するサンプル数Nの影響)
IMEPの演算結果に対するサンプル数Nの影響を信号処理演算装置11、11bを使用する方式(本演算方式)とそれらを使用しない方式(従来方式)と対比して図8から図10に示す。
【0049】
図8にサンプル数Nの影響(従来方式:N=720〜18、連続300サイクル)が示されている。図8のデータを従来方式で処理した場合、N=720で演算ゲートの効果が認められるが、Nを減らすとバラツキが大きくなり相関の程度が極度に悪化する。したがって、オンボードのエンジン制御システムなど、サンプル数に制限が生ずる場合には、従来方式では対応は困難である。
【0050】
図9に本願発明の第1の実施例に係るシリンダ構造物に外付けした力センサで検出した信号を使用して信号処理演算装置11で導出したIMEP(本演算方式)と圧力センサで検出信号を使用して導出したIMPF(従来方式)の関係を示している。データ数Nが少なくなっても両者が良好な比例関係になっていることが分かる。
【0051】
図10にサンプル数Nの影響(従来方式N:720〜18、連続300サイクル)が示されている。本演算方式の場合IMEPに関与する周波数成分が明らかなので、ゲート演算、平滑化回路によるノイズ除去、同回路の周波数特性補正の併用により対策可能である。その結果、N=18(40degごとのサンプリング)まで減じても相関の程度はN=720と同レベルに維持できる。このような信号処理は、従来方式では困難であり、本演算方式の特色と言える。なお図10は1条件300個のデータをプロットしているため、シンボルが区別しにくくなっている。
【0052】
なお上記実施例1及び実施例2ではA/D変換機16を使用してフィルタリング処理とサンプリング処理との両方の処理を受けた信号23をA/D変換した後にIMEP演算装置に入力しているが、他の実施例として、両方の処理を受けた信号をアナログ信号のまま演算することも可能であり、その場合にはA/D変換機16を使用しない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
この発明によればサンプル数を減じても誤差の少ない容積型機械の作動状態測定方法及び装置を得ることができるのでオンボードのエンジン制御システムなどに利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 センサ装置
2 シリンダ構造物
3 挙動センサ
4 シリンダブロック
5 シリンダヘッド
6 ガスケット
7 ボルト
11、11b 信号処理演算装置
12 入力部
13 出力部
14 ローパスフィルタ
15 アナログスイッチ
16 A/D変換器
17 演算装置
18 カットオフコントローラ
19 LPF補正値算出手段
21 F/Vコンバータ
22 ゲートセットコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転状態にある容積型機械における行程サイクルに関連した信号の成分を求め、それら成分を合成処理してシリンダの作動状態を表わす信号を求める容積型機械の作動状態測定方法であって、前記行程サイクルに関連した信号はLPF(ロ−パスフィルタ)によるゲート幅を含む範囲のフィルタリング処理と燃焼のTDCを基準とする前記ゲート幅の中でサンプリングするサンプリング処理との2つの処理を受けた信号であることを特徴とする容積型機械の作動状態測定方法。
【請求項2】
前記行程サイクルに関連した信号にフィルタリング処理がされ、次に前記サンプリング処理がされることを特徴とする請求項1記載の容積型機械の作動状態測定方法。
【請求項3】
前記行程サイクルに関連した信号に前記サンプリング処理がされ、次に前記ローパスフィルタによるフィルタリング処理がされることを特徴とする請求項1記載の容積型機械の作動状態測定方法。
【請求項4】
前記行程サイクルに関連した信号の成分は、前記行程サイクルに関連した信号の基本波成分及びその高調波成分であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の容積型機械の作動状態測定方法。
【請求項5】
前記作動状態を表わす信号は、IMEP(図示平均有効圧)を表わす信号であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の容積型機械の作動状態測定方法。
【請求項6】
前記2つの処理を受けた信号をA/D変換して前記合成処理を行うことを特徴とする請求項1〜5記載の容積型機械の作動状態測定方法。
【請求項7】
前記フィルタリング処理の補正を前記合成処理において行うことを特徴とする請求項1記載の容積型機械の作動状態測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−185779(P2011−185779A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51942(P2010−51942)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】