説明

容量式物理量検出装置

【課題】反りによる物理量の検出精度の低下を抑制することができる容量式物理量検出装置を提供する。
【解決手段】物理量の印加によって静電容量が変化する容量部と、該容量部の出力信号を処理する処理部と、温度を検出する検温部と、を有するセンサチップを備え、検温部は、センサチップにおける、センサチップの中心をその厚さ方向に貫く中心線が通過する位置に形成された第1検温素子と、中心線と直交する直交方向において、第1検温素子から所定距離離れた位置に形成された第2検温素子と、を有し、容量部は、直交方向に沿う検出方向に可動する可動電極と、該可動電極と検出方向にて対向する固定電極と、を有し、処理部は、第1検温素子の出力信号と第2検温素子の出力信号とに基づいて、熱によるセンサチップの反りを算出し、算出した反りに基づいて、容量部の出力信号を補正する補正回路を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理量の印加によって静電容量が変化する容量部と、容量部の出力信号を処理する処理回路と、温度を検出する検温部と、を有するセンサ部を備えた容量式物理量検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示されるように、物理量を検出するセンサチップと、該センサチップと積層して配置され、センサチップにより得られた信号に基づいて物理量を取得する回路チップと、センサチップの温度を検出するための温度センサと、を備える物理量センサ装置が提案されている。この物理量センサ装置では、センサチップと回路チップとが積層する方向において、回路チップの中央とセンサチップの中央とが並んでおり、温度センサが、回路チップの中央に設けられている(特許文献1の図1参照)。
【0003】
一般に、外部温度が上昇すると、物体は膨張し、反りが生じる。これは、物体の中央から端に向うにしたがって、その形状が外部温度によって変化し易いためである。これに対し、特許文献1では、センサチップの中央と重なる、回路チップの中央に温度センサが設けられている。これによれば、外部温度が上昇したとしても、中央では反りが生じ難いので、反りに起因する応力(以下、この応力を反り応力と示す)が、温度センサに印加され難くなる。特許文献1では、この反り応力の影響が低減された温度センサの出力信号に基づいて、センサチップ周囲の気体の粘性係数を算出し、算出した粘性係数に基づいて、物理量の補正を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−257504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、外部温度が上昇すると、物体は膨張し、反りが生じる。したがって、例えば、物理量を対向電極間の静電容量の変動に基づいて検出する場合、上記した反りによって、電極間の対向面積が変動し、これによって物理量の検出精度が低下する虞がある。
【0006】
これに対し、特許文献1では、反りの影響が低減された温度を検出することで、粘性係数の補正を行うことはできるが、反りに起因する、電極間の対向面積の変動による物理量の検出精度の低下を抑制することができなかった。
【0007】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、反りによる物理量の検出精度の低下を抑制することができる容量式物理量検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、物理量の印加によって静電容量が変化する容量部と、該容量部の出力信号を処理する処理部と、温度を検出する検温部と、を有するセンサチップを備えた容量式物理量検出装置であって、検温部は、センサチップにおける、センサチップの中心を該センサチップの厚さ方向に貫く中心線が通過する位置に形成された第1検温素子と、中心線と直交する直交方向において、第1検温素子から所定距離離れた位置に形成された第2検温素子と、を有し、容量部は、直交方向に沿う検出方向に可動する可動電極と、該可動電極と検出方向にて対向する固定電極と、を有し、処理部は、第1検温素子の出力信号と第2検温素子の出力信号とに基づいて、熱によるセンサチップの反りを算出し、算出した反りに基づいて、容量部の出力信号を補正する補正回路を有することを特徴とする。
【0009】
このように本発明によれば、センサチップの中心に第1検温素子が形成され、中心から所定距離離れた位置に第2検温素子が形成されている。これによれば、第1検温素子では、熱によるセンサチップの反りの影響が小さく、第2検温素子では、反りの影響が大きくなる。したがって、本発明に記載したように、補正回路にて、第1検温素子の出力信号と第2検温素子の出力信号とに基づいて、熱によるセンサチップの反り(固定電極と可動電極との対向面積の変動)を算出し、算出した反りに基づいて、容量部の出力信号を補正することができる。これにより、反りによる物理量の検出精度の低下が抑制される。
【0010】
請求項2に記載のように、センサチップは、容量部が形成された容量チップと、処理部が形成された回路チップと、を有し、容量チップと回路チップそれぞれの中心が、中心線にて一致するように、容量チップと回路チップとが機械的及び電気的に接続されており、第1検温素子は、回路チップの容量チップとの対向面における、中心線が通過する位置に形成され、第2検温素子は、回路チップの対向面における、直交方向において、第1検温素子から所定距離離れた位置に形成された構成が好適である。これによれば、容量チップに検温部が形成された構成とは異なり、検温部の形状に依らずに、容量部の形状を決定することができる。
【0011】
請求項3に記載のように、センサチップは、容量部が形成された容量チップと、処理部が形成された回路チップと、を有し、容量チップと回路チップそれぞれの中心が、中心線にて一致するように、容量チップと回路チップとが機械的及び電気的に接続されており、第1検温素子は、容量チップの回路チップとの対向面における、中心線が通過する位置に形成され、第2検温素子は、容量チップの対向面における、直交方向において、第1検温素子から所定距離離れた位置に形成された構成が好適である。これによれば、回路チップに検温部が形成された構成と比べて、容量チップの反りの検出精度が向上される。したがって、反りによる物理量の検出精度の低下がより効果的に抑制される。
【0012】
請求項4に記載のように、容量チップと回路チップとは、複数のバンプを介して、機械的及び電気的に接続され、複数のバンプは、直行方向に沿い、且つ、中心線にて十字に交差する2つの仮想直線上に並んでおり、第2検温素子は、2つの仮想直線から離れた構成が良い。
【0013】
これによれば、容量チップと回路チップそれぞれの中心がバンプによって囲まれるので、それぞれの中心の剛性が向上され、中心に反りが生じ難くなる。これとは反対に、十字を成す2つの仮想直線から離れた部位は、リリースされるので、反り易くなる。この結果、第1検温素子への反りの影響がより小さくなり、第2検温素子への反りの影響がより大きくなる。これにより、反りの検出精度が向上される。
【0014】
請求項5に記載のように、センサチップを収納するケースを有し、センサチップとケースそれぞれの中心が、中心線にて一致するように、センサチップとケースとが機械的に接続された構成が好ましい。これによれば、ケースの中心が、中心線からずれた構成とは異なり、外部応力の印加によって、容量式物理量検出装置が偏心振動することが抑制される。これにより、偏心振動による物理量の検出精度の低下が抑制される。
【0015】
センサチップとケースとの機械的な接続としては、請求項6に記載のように、センサチップは、弾性を有する第1接着剤を介して、ケースに機械的に接続された構成が良い。これによれば、外部応力が印加された際に、その外部応力の一部が、弾性を有する第1接着剤によって、ケースを振動する力に変換されるので、ケースを介してセンサチップに印加される外部応力が低減される。これにより、外部応力による物理量の検出精度が低下することが抑制される。
【0016】
ケースの具体的な構成、及び、ケースとセンサチップとの電気的な接続としては、請求項7に記載のように、ケースは、有底筒状の絶縁基材部と、該絶縁基材部の内部に設けられた配線パターンと、該配線パターンと電気的に接続され、絶縁基材部の表面に設けられた電極と、絶縁基材部の開口部を閉塞する閉塞部と、を備え、センサチップとケースの電極とが、第1ワイヤを介して電気的に接続された構成を採用することができる。
【0017】
請求項8に記載のように、ケースを収納する収納部を有し、ケースと収納部それぞれの中心が、中心線にて一致するように、ケースと収納部とが機械的に接続された構成が好ましい。これによれば、収納部の中心が、中心線からずれた構成とは異なり、外部応力の印加によって、容量式物理量検出装置が偏心振動することが抑制される。これにより、偏心振動による物理量の検出精度の低下が抑制される。
【0018】
収納部とケースとの電気的な接続としては、請求項9に記載のように、ケースを収納する収納部を有し、ケースと収納部それぞれの中心が、中心線にて一致するように、ケースと収納部とが機械的に接続されており、収納部に、収納部の内部と外部とを電気的に接続するための複数のリードの一部位がそれぞれ埋設され、ケースの電極と収納部のリードとが、第2ワイヤを介して電気的に接続された構成を採用することができる。
【0019】
ケースと収納部との機械的な接続としては、請求項10に記載のように、ケースは、弾性を有する第2接着剤を介して、収納部に機械的に接続された構成が良い。これによれば、外部応力が印加された際に、その外部応力の一部が、弾性を有する第2接着剤によって、ケースを振動する力に変換されるので、ケースを介してセンサチップに印加される外部応力が低減される。これにより、外部応力による物理量の検出精度の低下が抑制される。
【0020】
物理量としては、請求項11に記載のように、角速度を検出することができる。この場合、容量部の具体的な構成としては、請求項11に記載のように、容量部は、鉛直方向と検出方向とに直行する振動方向にて、逆位相で振動する対を成す2つの振動子を有し、可動電極は、振動子の一部である構成を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態に係る角速度センサの概略構成を示す上面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】センサチップとケースとの電気的な接続構成を示す平面図である。
【図4】バンプと検温部それぞれの位置を説明するための平面図である。
【図5】歪みの補正を説明するためのフローチャートである。
【図6】歪み量とセンサ信号の誤差との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に記載の容量式物理量検出装置を、角速度センサに適用した場合の実施形態を図に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る角速度センサの概略構成を示す上面図である。図2は、図1のII−II線に沿う断面図である。図3は、センサチップとケースとの電気的な接続構成を示す平面図である。図4は、バンプと検温部それぞれの位置を説明するための平面図である。図5は、歪みの補正を説明するためのフローチャートである。図6は、歪み量とセンサ信号の誤差との関係を示すグラフである。なお、図1では、収納部50の蓋部52を省略し、図3では、ケース30の閉塞部33を省略している。そして、図4では、容量チップ11とバンプ13との配置を示すために、容量チップ11を破線で示している。
【0023】
以下においては、後述する振動子の振動する方向を振動方向、容量チップ11と回路チップ12とが積層する方向を積層方向、振動方向と積層方向に垂直な方向を検出方向と示す。なお、上記した積層方向は、容量チップ11と回路チップ12それぞれの厚さ方向に沿い、角速度の印加方向でもある。また、積層方向の内、センサチップ10の中心を通る中心線C(図2で破線で示した線)が、特許請求の範囲に記載の中心線に相当する。そして、中心線C(積層方向)に直交する振動方向と検出方向それぞれが、特許請求の範囲に記載の直交方向の一方向に相当する。
【0024】
角速度センサ100は、要部として、センサチップ10と、ケース30と、収納部50と、を有する。図1及び図2に示すように、センサチップ10は、弾性を有する第1接着剤70を介してケース30の内面に固定され、ケース30は、弾性を有する第2接着剤71を介して収納部50に固定されている。そして、センサチップ10、ケース30、及び、収納部50それぞれの中心が、中心線Cにて一致している。また、センサチップ10は、ケース30によって構成される内部空間内に収納され、ケース30は、収納部50によって構成される内部空間内に収納されている。これにより、センサチップ10が、ケース30と収納部50とによって、二重に収納されている。
【0025】
図3に示すように、センサチップ10とケース30とが、第1ワイヤ72を介して電気的に接続され、図1に示すように、ケース30と、収納部50に一部が埋設されたリード54とが、第2ワイヤ73を介して電気的に接続されている。リード54の一端は、収納部50によって構成される内部空間内に設けられ、リード54の他端は、収納部50の外部に設けられて、外部素子と電気的に接続可能となっている。以上、示した構成により、センサチップ10の出力信号が、第1ワイヤ72、ケース30、第2ワイヤ73、及び、リード54を介して、外部素子に出力されるようになっている。
【0026】
センサチップ10は、物理量の印加によって静電容量が変化する容量部(図示略)が形成された容量チップ11と、容量部の出力信号を処理する処理部(図示略)が形成された回路チップ12と、を有する。図2に示すように、センサチップ10は、回路チップ12に容量チップ11が積層されたスタック構造と成っており、容量チップ11と回路チップ12とは、それぞれの中心が、中心線Cにて一致するように、バンプ13を介して、機械的及び電気的に接続されている。図3に示すように、回路チップ12における、容量チップ11との対向面12aに、外部端子14が形成されており、この外部端子14が、ケース30の内部に形成された内部電極32aと、第1ワイヤ72を介して電気的に接続されている。本実施形態では、図4に示すように、温度を検出する検温部15が、回路チップ12における容量チップ11との対向面12a側に形成されている。検温部15は、本発明の特徴点なので、後で詳説する。また、その特徴点に関連して、バンプ13の配置も説明する。
【0027】
上記した容量部は、図示しないが、振動方向において、逆位相で振動する対を成す2つの振動子と、該振動子の一部によって構成される可動電極と、検出方向において、可動電極と対向する固定電極と、を有する。振動子が振動方向に振動している状態で、積層方向に角速度が印加されると、検出方向に沿うコリオリ力が振動子に発生する。すると、このコリオリ力によって振動子が検出方向に変位(振動)し、その変位(振動)に伴って、振動子の一部である可動電極も検出方向に変位(振動)する。この結果、可動電極と固定電極との電極間隔が変動し、可動電極と固定電極間の静電容量が変動する。この静電容量の変動が、容量チップ11の出力信号として、回路チップ12に出力される。
【0028】
上記した処理部は、図示しないが、CV変換回路と、補正回路と、を有する。バンプ13を介して、容量チップ11から回路チップ12に、静電容量の変動を含む電気信号が入力されると、その静電容量の変動が、上記したCV変換回路によって、電圧の変動に変換される。一方、補正回路には、上記した電圧の変動と共に、検温部15の出力信号が入力される。補正回路では、検温部15の出力信号に基づいて、容量チップ11の反りを算出し、算出した反りに基づいて、電圧に変換された容量チップ11の出力信号を補正する。この補正された信号が、回路チップ12の出力信号、すなわち、センサチップ10の出力信号として、第1ワイヤ72、ケース30、第2ワイヤ73、及びリード54を介して、外部素子に出力される。以上、示したように、センサチップ10では、角速度を静電容量に変換し、変換された静電容量を電圧に変換し、変換した電圧を検温部15の出力信号に基づいて補正することで、角速度を検出している。なお、上記した補正は、本発明の特徴点なので、後で詳説する。
【0029】
ケース30は、積層方向に一端が開口する有底筒状の絶縁基材部31と、該絶縁基材部31の内部に設けられた配線パターン(図示略)と、配線パターンと電気的に接続され、絶縁基材部31の表面に設けられた電極32と、絶縁基材部31の開口部を閉塞する閉塞部33と、を有する。図2に示すように、閉塞部33の外面が、収納部50との固定面となっており、閉塞部33が、第2接着剤71を介して収納部50と機械的に接続されている。なお、閉塞部33は金属から成る。
【0030】
本実施形態に係る絶縁基材部31は、図2及び図3に示すように、矩形状の底部34と、該底部34におけるセンサチップ10の搭載面34aの縁に沿って、センサチップ10の周囲を囲むように設けられた壁部35と、壁部35によって囲まれた搭載面34aに設けられた段差部36と、を有する。
【0031】
図1及び図3に示すように、段差部36の上面に、複数の内部電極32aが形成され、底部34の外面に、複数の外部電極32bが形成され、壁部35の上面に、枠状の接続電極32cが形成されている。内部電極32aそれぞれが、第1ワイヤ72を介して、回路チップ12の外部端子14と電気的に接続され、外部電極32bそれぞれが、第2ワイヤ73を介して、対応するリード54と電気的に接続されている。また、接続電極32cは、図示しない接合部材を介して、閉塞部33と機械的及び電気的に接続されている。これら電極32a〜32cのいずれかは、対応する配線パターンを介して、互いに電気的に接続されている。
【0032】
収納部50は、2つの開口部を有する筒部51と、該筒部51の2つの開口部を閉塞する蓋部52と、筒部51の内面と連結された、ケース30を支持する支持部53と、を有する。図2に示すように、筒部51と蓋部52とによって構成される内部空間内に、ケース30と支持部53とが収納されており、筒部51における振動方向に並ぶ2つの壁部に、リード54の一部が埋設されている。リード54の一端が、上記した内部空間内に設けられ、リード54の他端が、上記した内部空間の外部に設けられている。なお、リード54の一端は、後述する連結部57に設けられている。
【0033】
支持部53は、ケース30を搭載する搭載部55と、該搭載部55と連結され、絶縁基材部31の壁部35の周囲を囲む側壁部56と、側壁部56を、筒部51と連結する連結部57と、を有する。搭載部55は、振動方向と検出方向によって規定される平面に沿う平面形状を成し、連結部57は、振動方向と検出方向によって規定される平面において、枠状を成す。側壁部56は、積層方向に延びており、側壁部56の一端が、搭載部55におけるケース30の搭載面55aに連結され、側壁部56の他端が、枠状の連結部57の内側面と連結されている。
【0034】
次に、本実施形態に係る角速度センサ100の特徴点である検温部15と補正回路とについて説明すると共に、バンプ13の配置について説明する。図4に示すように、検温部15は、回路チップ12の中心に形成された第1検温素子15aと、回路チップ12の隅に形成された第2検温素子15bと、を有する。複数のバンプ13は、中心線Cにて十字に交差し、且つ、矩形を成す回路チップ12の4辺それぞれの中点を通過する2つの仮想直線L1,L2上に並んで配置されている。これらバンプ13と検温素子15a,15bとは、バンプ13と回路チップ12との線膨張係数差に起因する熱応力が、検温素子15a,15bに印加されるのが抑制される程度に離れている。本実施形態に係る検温素子15a,15bそれぞれは、PN接合を有するダイオードであり、順方向電圧の温度特性に基づいて、温度が検出される。
【0035】
一般に、外部温度が上昇すると、物体は膨張し、反りが生じる。これは、物体の中央から端に向うにしたがって、その形状が外部温度によって変化し易いためである。上記したように、第1検温素子15aは、回路チップ12の中心に形成され、第2検温素子15bは、回路チップ12の隅に形成されている。これにより、第1検温素子15aでは、熱によるセンサチップ10の反りの影響が小さく、第2検温素子15bでは、反りの影響が大きくなっている。したがって、第1検温素子15aの出力信号は、回路チップ12の温度に依存し、第2検温素子15bの出力信号は、回路チップ12の温度だけではなく、回路チップ12の反りに依存している。
【0036】
補正回路には、CV変換回路にて電圧に変換された容量チップ11の出力信号(以下、センサ信号と示す)と共に、検温素子15a,15bそれぞれの出力信号が入力される。補正回路では、検温素子15a,15bそれぞれの出力信号に基づいて、熱による回路チップ12の反りを算出する。具体的には、検温素子15a,15bそれぞれの出力信号の差分を取り、その差分に対応した回路チップ12の反りを検出する。ところで、外部温度が上昇すると、回路チップ12と容量チップ11とは共に反る。したがって、上記したように、回路チップ12の反りを算出することで、間接的に容量チップ11の反りに起因する、固定電極と可動電極との対向面積の変動を算出することができる。
【0037】
以下、図5にしたがって、補正回路の補正動作を詳説する。補正回路は、先ず、検温素子15a,15bの出力信号の差分に基づいて、反りの値(積層方向への電極の歪み量)を算出する(S10)。そして、反りの値が、aμm未満かを判定する(S20)。aμm未満の場合、補正回路は、センサ信号の変動が誤差範囲であると判断して、補正を行わずに、センサ信号を外部に出力する(S30)。aμm以上の場合、補正回路は、反りの値が、aμm以上bμm未満であるかを判定する(S40)。そして、aμm以上bμm未満の場合、補正回路は、センサ信号の変動が誤差範囲を超えたと判断して、センサ信号を、算出した反りに応じて補正し、補正したセンサ信号を外部に出力する(S50)。反りの値が、bμm以上の場合、補正回路は、センサ信号の変動が補正範囲を超えたと判断して、センサ信号の補正を中止する(S60)。そして、図示しないが、反りが補正範囲を超える程度に大きいことを、外部に通知する。
【0038】
本発明者は、3deg/sの角速度を検出する角速度センサ100において、反りによる積層方向への電極の歪み量(μm)と、センサ信号の誤差(deg/s)との関係を実測したところ、図6に示す結果を得た。図6によれば、歪み量が0〜0.5μmまでの場合、センサ信号の誤差が十分に小さいが、歪み量が1μmを超えた場合、センサ信号の誤差が急激に大きくなっていることがわかる。換言すれば、歪み量が0〜0.5μmの場合、センサ信号の誤差が誤差範囲内であるが、歪み量が1μmを超えた場合、センサ信号の誤差を補正することが急激に難しくなることがわかる。そこで、本発明者は、この実測結果に基づき、上記した、a,bの値として、a=0.5μm,b=1μmと設定している。これにより、歪み量が0.5〜1μmの範囲の場合に、センサ信号が補正される。なお、言うまでもないが、上記したa,bの値は、一例に過ぎず、本発明を限定する値ではない。
【0039】
次に、本実施形態に係る角速度センサ100の作用効果を説明する。上記したように、回路チップ12の中心に第1検温素子15aが形成され、中心から離れた位置に第2検温素子15bが形成されている。これによれば、第1検温素子15aでは、熱による回路チップ12の反りの影響が小さく、第2検温素子15bでは、反りの影響が大きくなる。したがって、上記したように、補正回路にて、第1検温素子15aの出力信号と第2検温素子15bの出力信号とに基づいて、熱による容量チップ11の反り(固定電極と可動電極との対向面積の変動)を間接的に算出し、算出した反りに基づいて、センサ信号を補正することができる。これにより、反りによる角速度の検出精度の低下が抑制される。
【0040】
本実施形態では、検温部15が回路チップ12に形成されている。これによれば、容量チップ11に検温部15が形成された構成とは異なり、検温部15の形状に依らずに、容量部の形状を決定することができる。
【0041】
本実施形態では、容量チップ11と回路チップ12とを機械的及び電気的に接続する複数のバンプ13が、中心線Cにて十字に交差する2つの仮想直線L1、L2上に並んでおり、第2検温素子15bが、2つの仮想直線L1、L2から離れている。これによれば、容量チップ11と回路チップ12それぞれの中心がバンプ13によって囲まれるので、それぞれの中心の剛性が向上され、中心に反りが生じ難くなる。これとは反対に、十字を成す2つの仮想直線L1、L2から離れた部位は、リリースされるので、反り易くなる。この結果、第1検温素子15aへの反りの影響がより小さくなり、第2検温素子15bへの反りの影響がより大きくなる。これにより、反りの検出精度が向上される。
【0042】
センサチップ10、ケース30、収納部50それぞれの中心が、中心線Cにて一致している。これによれば、ケース30の中心が、中心線Cからずれた構成とは異なり、外部応力の印加によって、角速度センサ100が偏心振動することが抑制される。これにより、偏心振動による角速度の検出精度の低下が抑制される。
【0043】
センサチップ10は、弾性を有する第1接着剤70を介して、ケース30に機械的に接続され、ケース30は、弾性を有する第2接着剤71を介して、収納部50に機械的に接続されている。これによれば、外部応力が印加された際に、その外部応力の一部が、弾性を有する接着剤70,71によって、ケース30を振動する力に変換されるので、ケース30を介してセンサチップ10に印加される外部応力が低減される。これにより、外部応力による角速度の検出精度の低下が抑制される。
【0044】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0045】
本実施形態では、角速度を検出する例を示した。しかしながら、本発明の適用としては、上記例に限定されず、物理量を容量変化によって検出することができるものであれば、適宜採用することができる。例えば、加速度を検出する構成に採用することもできる。
【0046】
また、本実施形態では、検温素子15a,15bの出力信号に基づいて、反りを算出する例を示した。しかしながら、例えば、反りの影響が小さい第1検温素子15aの出力信号に基づいて、容量チップ11周囲の気体の粘性係数を算出し、算出した粘性係数に基づいて、角速度の補正を行っても良い。このように、検温部15の信号に基づいて、粘性係数と反りの両方を補正しても良い。これによれば、例えば、反りを検出するための圧電素子と、粘性係数を検出するための温度センサの両方がセンサチップに形成された構成と比べて、構成が簡素となる。
【0047】
本実施形態では、センサチップ10が、物理量の印加によって静電容量が変化する容量部(図示略)が形成された容量チップ11と、容量部の出力信号を処理する処理部(図示略)が形成された回路チップ12と、を有する例を示した。しかしながら、センサチップ10は、上記したように、2つのチップではなく、1つのチップから構成されても良い。この場合、上記した1つのチップに、容量部と、処理部と、検温部15とが形成される。そして、上記したチップの中心に第1検温素子15aが形成され、上記したチップの隅に第2検温素子15bが形成される。
【0048】
本実施形態では、回路チップ12に検温部15が形成された例を示した。しかしながら、容量チップ11に検温部15を形成しても良い。この場合、第1検温素子15aは、容量チップ11における回路チップ12との対向面の中心に形成され、第2検温素子15bは、上記した対向面の隅に形成される。これによれば、回路チップ12に検温部15が形成された構成と比べて、容量チップ11の反りの検出精度が向上される。したがって、反りによる角速度の検出精度の低下がより効果的に抑制される。
【0049】
本実施形態では、バンプ13が、十字を成す仮想直線L1,L2上に位置する例を示した。しかしながら、バンプ13の配置としては、上記例に限定されない。例えば、中心線Cを介して点対称となるように、バンプ13が配置されても良い。この場合、点対称に配置されたバンプ13によって囲まれた領域内に、中心線Cが位置することとなるが、第2検温素子15bは、その領域から離れて設けられる。また、この構成の場合においても、検温素子15a,15bそれぞれは、線膨張係数差に起因する熱応力が、検温素子15a,15bに印加されるのが抑制される程度に、バンプ13から離される。
【符号の説明】
【0050】
10・・・センサチップ
11・・・容量チップ
12・・・回路チップ
13・・・バンプ
15・・・検温部
15a・・・第1検温素子
15b・・・第2検温素子
30・・・ケース
50・・・収納部
100・・・角速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理量の印加によって静電容量が変化する容量部と、該容量部の出力信号を処理する処理部と、温度を検出する検温部と、を有するセンサチップを備えた容量式物理量検出装置であって、
前記検温部は、前記センサチップにおける、前記センサチップの中心を該センサチップの厚さ方向に貫く中心線が通過する位置に形成された第1検温素子と、前記中心線と直交する直交方向において、前記第1検温素子から所定距離離れた位置に形成された第2検温素子と、を有し、
前記容量部は、前記直交方向に沿う検出方向に可動する可動電極と、該可動電極と前記検出方向にて対向する固定電極と、を有し、
前記処理部は、前記第1検温素子の出力信号と前記第2検温素子の出力信号とに基づいて、熱による前記センサチップの反りを算出し、算出した反りに基づいて、前記容量部の出力信号を補正する補正回路を有することを特徴とする容量式物理量検出装置。
【請求項2】
前記センサチップは、前記容量部が形成された容量チップと、前記処理部が形成された回路チップと、を有し、
前記容量チップと前記回路チップそれぞれの中心が、前記中心線にて一致するように、前記容量チップと前記回路チップとが機械的及び電気的に接続されており、
前記第1検温素子は、前記回路チップの前記容量チップとの対向面における、前記中心線が通過する位置に形成され、
前記第2検温素子は、前記回路チップの対向面における、前記直交方向において、前記第1検温素子から所定距離離れた位置に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の容量式物理量検出装置。
【請求項3】
前記センサチップは、前記容量部が形成された容量チップと、前記処理部が形成された回路チップと、を有し、
前記容量チップと前記回路チップそれぞれの中心が、前記中心線にて一致するように、前記容量チップと前記回路チップとが機械的及び電気的に接続されており、
前記第1検温素子は、前記容量チップの前記回路チップとの対向面における、前記中心線が通過する位置に形成され、
前記第2検温素子は、前記容量チップの対向面における、前記直交方向において、前記第1検温素子から所定距離離れた位置に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の容量式物理量検出装置。
【請求項4】
前記容量チップと前記回路チップとは、複数のバンプを介して、機械的及び電気的に接続され、
複数の前記バンプは、前記直行方向に沿い、且つ、前記中心線にて十字に交差する2つの仮想直線上に並んでおり、
前記第2検温素子は、2つの前記仮想直線から離れていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の容量式物理量検出装置。
【請求項5】
前記センサチップを収納するケースを有し、
前記センサチップと前記ケースそれぞれの中心が、前記中心線にて一致するように、前記センサチップと前記ケースとが機械的に接続されていることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の容量式物理量検出装置。
【請求項6】
前記センサチップは、弾性を有する第1接着剤を介して、前記ケースに機械的に接続されていることを特徴とする請求項5に記載の容量式物理量検出装置。
【請求項7】
前記ケースは、有底筒状の絶縁基材部と、該絶縁基材部の内部に設けられた配線パターンと、該配線パターンと電気的に接続され、前記絶縁基材部の表面に設けられた電極と、前記絶縁基材部の開口部を閉塞する閉塞部と、を備え、
前記センサチップと前記ケースの電極とが、第1ワイヤを介して電気的に接続されていることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の容量式物理量検出装置。
【請求項8】
前記ケースを収納する収納部を有し、
前記ケースと前記収納部それぞれの中心が、前記中心線にて一致するように、前記ケースと前記収納部とが機械的に接続されていることを特徴とする請求項5〜7いずれか1項に記載の容量式物理量検出装置。
【請求項9】
前記ケースを収納する収納部を有し、
前記ケースと前記収納部それぞれの中心が、前記中心線にて一致するように、前記ケースと前記収納部とが機械的に接続されており、
前記収納部に、前記収納部の内部と外部とを電気的に接続するための複数のリードの一部位がそれぞれ埋設され、
前記ケースの電極と前記収納部のリードとが、第2ワイヤを介して電気的に接続されていることを特徴とする請求項7に記載の容量式物理量検出装置。
【請求項10】
前記ケースは、弾性を有する第2接着剤を介して、前記収納部に機械的に接続されていることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の容量式物理量検出装置。
【請求項11】
前記物理量は、角速度であって、
前記容量部は、前記鉛直方向と前記検出方向とに直行する振動方向にて、逆位相で振動する対を成す2つの振動子を有し、
前記可動電極は、前記振動子の一部によって構成されていることを特徴とする請求項1〜10いずれか1項に記載の容量式物理量検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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