説明

容量演算装置、容量演算方法、被充電装置、及び充電率の参照値域決定方法

【課題】 蓄電素子の劣化に対応して、その実容量の演算精度を一定確保する。
【解決手段】
リチウムイオン二次電池2の実容量を演算する容量演算装置1であって、予め求めた二次電池の電圧と充電率との相関を示すテーブルを格納するメモリ14と、メモリ14に格納されたテーブルを参照して実容量を演算するCPU13とを備え、CPU13は、テーブルの、前記相関において予め定めた充電率の一部の値域に対応する部分を利用して実容量を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の二次電池その他の蓄電素子の充電可能な実容量を演算する容量演算装置、容量演算方法及びそれを用いた被充電装置、並びにこれらに利用する充電率の参照値域決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池に代表される充放電可能な二次電池は、情報通信機器の他、ハイブリッド自動車や電気自動車、その他産業用途といった大型負荷を対象としても広く用いられるようになっており、大容量化、大電流化が図られている。
【0003】
このような大型負荷を対象とする二次電池の使用に際しては、電池交換、設備保守等の観点から、二次電池の充電状態を正確に把握することが重要であり、そのための各種の技術が提案されている。
【0004】
そのような技術の一例として、特許文献1においては、図10のグラフに示すような、二次電池の開放電圧OCVと充電率(リチウムイオン二次電池の測定時点における残存容量と実容量との比)SOC(State of Charge)との相関を利用して、二次電池の実容量を演算するようにした技術が開示されている(特許文献1の図1、図4等を参照)。実容量とは、二次電池が完全充電された状態から取り出し可能な基準的な電気量であり、二次電池の使用に伴い、電極の劣化等の原因で徐々に低下する量である。
【0005】
以下、図10のグラフのように示した相関をV−SOC曲線と称する。
【0006】
具体的には、二次電池の放電に伴う電圧の変化に応じたV−SOC曲線上におけるSOCの変化量を一対一対応で数値化したテーブルを用い、実容量Cは、以下の数式
C=CI×100/(SOC(a)−SOC(b)) (1)
で与えられる。ここでSOC(a)は、任意の時点における電圧Vaに対応する充電率であり、SOC(b)は、電圧Vaから変化した後の測定時における電圧Vbに対応する充電率であり、CIは、電圧Vaから電圧Vbの変化の間にリチウムイオン二次電池に充放電された電流の積算値を示す。
【0007】
上記(1)式に従えば、時間的に離隔した任意の二点間の電圧を測定することにより、V−SOC曲線に対応するテーブルを参照して当該測定電圧に対応する充電率を得て、リチウムイオン二次電池の実容量を求めることができる。電圧の測定時点としては、利用者の必要に応じてリチウムイオン二次電池の初期状態、充放電開始時、充放電停止時等を設定することができ、これにより電池の使用状況に応じて必要な時にその実容量を知ることができる。
【0008】
この技術は、種類、容量等が同一である二次電池であれば、そのV−SOC曲線は使用状態によらずほぼ一定、すなわち、二次電池の初期状態から使用を経て劣化した状態においても、OCVとSOCとの相関関係に変化がさほど生じないという観察に基づくものであり、これにより、二次電池の実容量を簡便に検出することが可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−68369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来の技術においては、以下のような問題があった。
【0011】
近年の二次電池の大容量化、大電流化に伴って、二次電池の劣化度の進行に伴うV−SOC曲線の変化の程度は従来に比して無視できない要素となってきている。したがって、従来技術のように、例えば初期状態における二次電池の測定に基づき作成したV−SOC曲線及びこれに基づくテーブルを参照して実容量を演算する場合、二次電池の劣化度が進行した際には、演算値と真の実容量の間にずれが生ずる可能性が高くなってしまう。
【0012】
一方で、二次電池の劣化の程度は、その個別の使用状態である、充電電流、充電電圧、使用温度等と言った多種のパラメータに依存し、特定の傾向を想定することはできない。換言すれば、二次電池の劣化の一般的なパターンに対応したV−SOC曲線を作成することはできず、これが電池の劣化を考慮した実容量の演算を困難なものとしている。
【0013】
このように、従来の技術によれば、二次電池の実容量の演算においては、二次電池の劣化に応じた精度が十分に確保されていないという課題があった。
【0014】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、二次電池のような蓄電素子の劣化に対応して、当該蓄電素子の実容量の精度を一定確保することが可能な容量演算装置、容量演算方法、被充電装置、及び充電率の参照値域決定方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面は、蓄電素子の実容量を演算する容量演算装置であって、
予め求めた蓄電素子の電圧と充電率との相関を示すテーブルを格納する格納手段と、
前記格納手段に格納された前記テーブルを参照して前記実容量を演算する演算手段とを備え、
前記演算手段は、前記テーブルの、前記相関において予め定めた前記充電率の一部の値域に対応する部分を利用して前記実容量を演算する、容量演算装置である。
【0016】
又、本発明の第2の側面は、前記テーブルの、前記予め定めた前記充電率の一部の値域とは、前記蓄電素子の劣化の程度によらず、その対応する前記電圧の変化が所定の範囲内に収まっている値域である、本発明の第1の側面の容量演算装置である。
【0017】
又、本発明の第3の側面は、前記テーブルの、予め定めた前記充電率の一部の値域は、複数の値域に分割されており、
前記演算手段は、前記複数の値域の全部又は一部に対応する前記電圧の値域を参照して、前記実容量を演算する、本発明の第1又は第2の側面の容量演算装置である。
【0018】
又、本発明の第4の側面は、前記テーブルの前記充電率の前記一部の値域又は前記複数の値域の前記一部は、前記充電率が0%以上の部分を含んでいる、本発明の第1から第3のいずれかの側面の容量演算装置である。
【0019】
又、本発明の第5の側面は、前記テーブルの前記充電率の前記一部の値域又は前記複数の値域の前記一部は、前記充電率が100%以下の部分を含んでいる、本発明の第1から第4のいずれかの側面の容量演算装置である。
【0020】
又、本発明の第6の側面は、前記演算手段は、前記蓄電素子の時間的に離隔した任意の二点の電圧と、前記二点間における前記二次電池への充放電に用いた電流の積算値と、前記テーブルを参照して得られる前記二点の電圧に対応する各容量率とを取得して前記実容量を演算する、本発明の第1から第5のいずれかの側面の容量演算装置である。
【0021】
又、本発明の第7の側面は、前記演算手段は、
前記蓄電素子の時間的に離隔した任意の二点の電圧を取得し、
前記テーブルを参照して、前記二点の電圧のいずれか一方の電圧が、前記予め定めた前記充電率の一部の値域に対応する電圧の値域に収まっていない場合は、前記値域の上限値又は下限値のうち、前記一方の電圧に近い値を近似値と定め、
前記テーブルを参照して得られる、前記近似値に対応する前記充電率及び前記取得した他方の電圧に対応する前記充電率と、これら充電率の変化における前記蓄電素子への電流積算値と
を更に取得して、前記実容量に関連する量を演算する、本発明の第1から第5のいずれかの側面の容量演算装置である。
【0022】
又、本発明の第8の側面は、負荷に脱着自在に接続され、これに電力を供給する蓄電素子と、
前記蓄電素子の容量を演算する容量演算手段とを備え、
前記容量演算手段として、本発明の第1から第7のいずれかの側面の容量演算装置を有する、被充電装置である。
【0023】
又、本発明の第9の側面は、蓄電素子の実容量を演算する容量演算方法であって、
予め求めた蓄電素子の電圧と充電率との相関を示すテーブルを参照して前記実容量を演算する演算工程を備え、
前記演算工程は、前記テーブルの、前記相関において予め定めた前記充電率の一部の値域に対応する部分を利用して前記実容量を演算するものである、容量演算方法である。
【0024】
又、本発明の第10の側面は、前記テーブルの、前記予め定めた前記充電率の一部の値域とは、前記蓄電素子の劣化の程度によらず、その対応する前記電圧の変化が所定の範囲内に収まっている値域である、本発明の第9の側面の容量演算方法である。
【0025】
又、本発明の第11の側面は、本発明の第9又は第10の側面の容量演算方法の、前記演算工程をコンピュータにより実行するためのプログラムである。
【0026】
又、本発明の第12の側面は、蓄電素子の実容量の演算に際して参照される予め求めた蓄電素子の電圧と充電率との相関を示すテーブルの、前記演算に際して参照される前記充電率の一部の値域を決定する、充電率の参照値域決定方法であって、
同一の前記蓄電素子に対し、その劣化の程度に応じて複数の前記相関を求める工程と、
前記複数の前記相関を比較して、前記充電率に対応する前記電圧の変化が所定の範囲内に収まっている領域を抽出する工程とを備え、
前記抽出された領域に対応する充電率の値域を前記一部の値域として定める、充電率の参照値域決定方法である。
【発明の効果】
【0027】
以上のような本発明によれば、蓄電素子の劣化に対応して、当該蓄電素子の実容量の演算精度を一定確保することが可能となる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る容量演算装置の構成を示すブロック図
【図2】(a)本発明の実施の形態に係る容量演算装置にて用いられるV−SOC曲線の参照値域を説明するための図(b)本発明の実施の形態に係る容量演算装置にて用いられるV−SOC曲線の参照値域に基づき作成されたテーブルを示す図
【図3】(a)本発明の実施の形態に係る容量演算装置にて用いられるV−SOC曲線の参照値域を決定する工程を説明するための図(b)本発明の実施の形態に係る容量演算装置にて用いられるV−SOC曲線の参照値域を決定する工程を説明するための図
【図4】(a)本発明の実施の形態に係る容量演算装置にて用いられるV−SOC曲線の参照値域を決定する工程を説明するための図(b)本発明の実施の形態に係る容量演算装置にて用いられるV−SOC曲線の参照値域を決定する工程を説明するための図
【図5】本発明の実施の形態に係る容量演算装置にて用いられるV−SOC曲線の参照値域を決定する工程を説明するための図
【図6】本発明の実施の形態に係る容量演算装置の動作のフローチャートを示す図
【図7】本発明の実施の形態に係る容量演算装置の動作の他の例のフローチャートを示す図
【図8】本発明の実施の形態に係る容量演算装置の他の動作の例を説明するための図
【図9】本発明の実施の形態に係る被充電装置の構成を示すブロック図
【図10】従来の技術による二次電池の実容量演算に用いられるV−SOC曲線を示す図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施の形態に係る容量演算装置1及びその近傍の構成を示すブロック図である。
【0031】
図1に示すように、本実施の形態の容量演算装置1は、リチウムイオン二次電池2に並列接続された電圧計11と、リチウムイオン二次電池2の経路に接続された電流計12と、CPU13、メモリ14、出力I/F15及び入力I/F16から構成される。
【0032】
電圧計11及び電流計12は、リチウムイオン二次電池2の電圧、電流をそれぞれ測定する手段であり、検知方式に寄らず周知慣用の任意の技術的手段により実施することができる。CPU13は容量演算装置1の主部であり、電圧計11及び電流計12から得たデータ及びメモリ14に記憶された、後述するV−SOC曲線を用いてリチウムイオン二次電池2の実容量を演算する手段であり、メモリ14はCPU13が利用する、V−SOC曲線に基づき作成されたテーブル、演算アルゴリズムその他の各種情報を格納する手段である。
【0033】
又、出力I/FはLED、液晶ディスプレイ等により実現され、CPU13が処理する情報を利用者に対して文字、数字、図形等の映像として表示する手段であり、入力I/F16はタッチパネル、釦、キーボード等により実現され、利用者が容量演算装置1に対する操作を受付け、制御信号としてCPU13へ入力する手段である。
【0034】
又、リチウムイオン二次電池2は、正極活物質として、三成分系化合物(Li、Ni、Mn、Coを含む酸化物、例えばLiNi0.33Mn0.33Co0.33)にスピネル系化合物(Li、Mnを含む酸化物、例えばLiMn)を混合した材料を、又、負極活物質として黒鉛を、それぞれ用いている。
【0035】
又、リチウムイオン二次電池2には容量演算装置1の他に、リチウムイオン二次電池2に対して充放電を行う充放電回路3が接続されている。充放電回路3はリチウムイオン二次電池2を放電させ、図示しない外部負荷に対して電力供給を行うとともに、図示しない外部商用電源等を介してリチウムイオン二次電池2に充電を行うための手段である。
【0036】
以上の説明において、容量演算装置1は本発明の容量演算装置に相当し、CPU13は本発明の演算手段に相当し、メモリ14は本発明の格納手段に相当する。又、リチウムイオン二次電池2は本発明の蓄電素子に相当する。
【0037】
以下、本発明の実施の形態の容量演算装置1の動作を説明するとともに、これにより本発明の容量演算方法の一実施の形態について説明を行う。
【0038】
図2(a)は、本実施の形態にて用いられるV−SOC曲線を示す図である。V−SOC曲線は、図10に示す従来技術のV−SOC曲線と同様、初期状態にあるリチウムイオン二次電池2を完全充電してから放電させ、放電電気量及び端子電圧を実測することにより作成するものであり、したがって曲線の特性は同一である。
【0039】
本実施の形態は、実容量の演算に際して参照されるテーブルの基となるV−SOC曲線において、参照対象となる充電率の値域を選択的に限定したことを特徴とする。すなわち、図2(a)に示すように、演算に用いる充電率の値域を、図中R1、R2及びR3に限定し、これ以外の値域は演算において参照しない。充電率の値域R1、R2及びR3はそれぞれが対応する電圧の値域(以下、電圧値域と呼ぶ)VR1、VR2及びVR3に対応している。
【0040】
次に、図2(b)は、メモリ14に格納されている、図2(a)の各値域に含まれる充電率及び電圧を一対一対応で数値化したテーブルの一例である。図に示すように、充電率の各値域に対応しない部分については省略された構成となっている。これにより、実容量の演算に必要な電圧の測定に際して、これら電圧の値域以外の電圧が測定された場合は、演算を行わないようにしている。
【0041】
ここで、充電率の値域R1、R2及びR3の決定は、以下のように行う。
【0042】
図3(a)(b)及び図4(a)(b)は、図2(a)に示すV−SOC曲線の対象と同一のリチウムイオン二次電池に関し、劣化の程度の進行に応じて放電電気量及び端子電圧を実測することにより作成したV−SOC曲線を示す図である。図3(a)、図3(b)、図4(a)、図4(b)の順番で、容量が初期状態から順に劣化が進んだ状態での曲線を示す。
【0043】
先に説明したように、V−SOC曲線の変化自体は、充放電電圧その他多種のパラメータに依存するため、統一した傾向を見いだすことは困難だが、発明者は、これら各曲線を比較検討した結果、以下の特徴があることを見いだした。
【0044】
図5は、図3(a)(b)及び図4(a)(b)の各V−SOC曲線(図3(a)の例は破線、図3(b)の例は一点鎖線、図4(a)の例は長破線、図4(b)の例は二点鎖線にて表示)を重ね合わせた図である。図に示すように、V−SOC曲線全体の中で、劣化の程度に応じた曲線の変化は、全ての充電率において現れるのではなく、特定の充電率の値域において大きく現れる傾向があることが解る。換言すれば、この特定の値域に対応する電圧値が測定された場合は、その測定した電圧値に対応した充電率は、劣化の程度に応じて大幅に異なる数値をとることになる。
【0045】
一方で、演算において参照される、V−SOC曲線に基づき作成されたテーブルは、初期状態又は一定状態の劣化の程度に基づく一意なものであるため、そのような数値に基づく実容量の演算値は不正確であることを意味する。
【0046】
したがって、上記特定の充電率の値域を除外した値域、すなわち、電池の劣化の程度によらずV−SOC曲線の変化が、所定の範囲内に収まる程度に小さい充電率の値域R1、R2、R3を抽出し、これら値域に対応する曲線の部分のみを演算に用いるようにすれば、従来例のような初期状態に基づくV−SOC曲線から作成したテーブルを参照した場合であっても、演算値と真の実容量の間とのずれの発生を抑制して、精度の高い実容量演算を行うことが可能となる。ここで抽出対象となるV−SOC曲線の変化の所定の範囲としては、初期状態の電圧を基準として±0.02Vの範囲内に収まることが望ましい。
【0047】
なお、図3〜図5を参照して説明した充電率の値域の抽出の手順は、本発明の充電率の参照値域を決定する方法の一例である。
【0048】
次に、図6のフローチャートを参照して、容量演算装置1の演算動作を説明する。
【0049】
はじめに、メモリ14には初期値として充電率100%時の電圧値が格納され、かつCPU13は電流計12を常時積算計測しているものとする。この状態で、入力I/F16に対して演算の指示入力がなされると、ステップ101として、CPU13は電圧計11を参照して現在の電圧値を取得する。
【0050】
ステップ102として、CPU13は、メモリ14に格納した、図2(b)のテーブルを参照し、取得した電圧値が電圧値域VR1、VR2又はVR3のいずれかに含まれるかどうかを判定する。
【0051】
取得した電圧値がこれら電圧値域に含まれる場合は、ステップ103に移行し、テーブルから電圧値に対応する充電率(電圧値域R1、R2又はR3のいずれかに含まれる)を取得し、これと初期値の充電率、並びに測定時までの充放電電流の積算値を用いて、従来例同様、(1)式に従って実容量を演算する。
【0052】
ここまでの動作を、充放電回路3の動作によりリチウムイオン二次電池2が充電中の状態を例にとり、図2(a)を参照して説明する。
【0053】
演算の指示が行われると、電圧計11が計測した電圧値が図中V(a)であるときに(ステップ101)、CPU13は、電圧値V(a)が電圧値域VR2に含まれると判断し(ステップ102)、テーブルを参照してV(a)に対応する充電率R(a)を取得して、実容量の演算を行う(ステップ103)。
【0054】
このときの実容量C(a)は、
C(a)=CI(a)×100(R(a)−R(0)) (2)
で表される。ここで、数式(2)において、CI(a)は、充電開始時から電圧V(a)に達するまでの充電電流の積算値、R(0)(0≦R2(0)<R(a))は充電開始時における充電率を示す。実容量C(a)は出力I/F15を介して利用者に表示される。
【0055】
最後に、ステップ105として、CPU13は演算結果を出力I/F15へ出力し、利用者に表示して、動作を終了する。
【0056】
一方、ステップ102において、取得した電圧値が電圧値域VR1、VR2又はVR3のいずれにも含まれないと判定した場合はステップ104に移行し、CPU13は、それ以降の動作を中止する。なお、必要であれば、入力I/F16からの設定により、現在演算が不可能である旨を出力I/F15を介して利用者に告知した後、動作を終了するようにしてもよい。
【0057】
なお、本実施の形態においては、充電率の全ての数値を用いることがないために、参照用として用いられない充電率の範囲内で容量演算装置1を使用した場合に実容量が得られないという不具合が懸念されるが、これは以下の理由から実質的な影響はないと考えられる。すなわち、実際のリチウムイオン二次電池2の使用に際しては、必ずしも充電率が100%〜0%の全ての領域においてまんべんなく充放電が行われることはなく、利用者は、リチウムイオン二次電池2の用途、規格等に応じた好適条件で使用するために、特定の充電率の範囲内で電池の使用、すなわち充放電を行っている。したがって、予め演算に有効な値域が判明していれば、利用者はその値域に対応する充電率の範囲内でリチウムイオン二次電池2を使用することが期待される。
【0058】
又、図3及び4に示したリチウムイオン二次電池2の劣化の進行度合いは数ヶ月から数年と長期に渡って検出される変化であるのに対し、実際の実容量演算の動作は例えば1日に一回と、比較的短期間になされる場合が多いと想定される。したがって、実際の使用において必要な時に演算値が得られない状況は生じにくいと考えられる。
【0059】
なお、上記の説明においては、ステップ104等にて、実容量の演算に必要な電圧の測定に際して電圧値域VR1〜VR3以外の電圧が測定された場合は演算を行わないものとしたが、以下のように演算を行うようにしてもよい。
【0060】
図7は、本実施の形態の容量演算装置1の演算動作の他の例のフローチャートを示す図である。
【0061】
ステップ201、202、203及び205は上述した動作例のステップ101、102、103及び105にそれぞれ同内容の動作であり、図2(a)に示すように、測定した電圧が参照地域内に含まれる場合の動作シーケンスを示す。
【0062】
一方、ステップ202において、取得した電圧値が、電圧値域VR1〜VR3のいずれにも含まれない場合、CPU13はステップ204に進み、更に、取得した電圧値が、各電圧値域VR1〜VR3のそれぞれの上限値及び下限値のいずれに最も近接しているかを判定する。そしてステップ206として、取得した値に最も近接した上限値又は下限値を近似値とし、テーブルを参照してこれに対応する充電率を取得して、ステップ203同様にして演算を実行する。ただし、ステップ203における電流計12の測定値に基づく電流積算値は、上記近似値に基づく充電率に対応する電流積算値に換算する。
【0063】
ここまでの動作を、充放電回路3の動作によりリチウムイオン二次電池2が充電中の状態を例にとり、図8を参照して説明する。演算の指示が行われると、電圧計11が計測した電圧値が図中V(b)であるときに(ステップ201)、CPU13は、電圧値V(b)が電圧値域VR1〜VR3のいずれにも含まれず、且つ電圧値域VR2の上限値VR2(u)が近似値であると判断し(ステップ202、204)、テーブルを参照してVR2(u)に対応する充電率R2(u)を取得して演算を行う(ステップ206)。
【0064】
このときの演算結果C(b)は、
C(b)=CI(b)×100(R2(u)−R(0)) (3)
で表される。ここで、数式(3)において、CI(b)は、充電開始時から電圧VR2(u)に達するまでの充電電流の積算値、R(0)(0≦R(0)<R2(u))は充電開始時における充電率を示す。
【0065】
最後に、ステップ207として、CPU13は演算結果を出力I/F15へ出力し、利用者に表示して、動作を終了する。このとき、演算結果は測定時の電圧V(b)に基づく実容量ではないため、あくまで暫定値である旨の表示を伴って出力することが望ましいが、例えば、測定時の電圧と上記近似値との差分が微差又は誤差程度と判断できる程度の大きさであれば、実容量とみなして出力するようにしてもよい。又、暫定値はメモリ14に保持しておいて外部へ出力しない構成としてもよい。なお、演算結果は本発明の実容量に関連する量に相当する。
【0066】
以上のような演算によっても、近似値の幅を予め調整することで、一定の精度を確保することができる。
【0067】
以上のように、本実施の形態の容量演算装置によれば、V−SOC曲線に基づく容量率と開放電圧の相関を示すテーブルの参照に際して、予め抽出した有効な一部の容量率の値域及びそれに対応した電圧の値域のみを利用して実容量の演算を行うようにしている。これにより、二次電池の実容量の演算精度を一定水準に保つことが可能となる。
【0068】
なお、図5(図2)に示す例では、値域R1は充電率が0〜10%相当の範囲、値域R2は充電率が42〜68%相当の範囲、値域R3は充電率が97〜100%相当範囲として抽出されているものとしたが、これは例示であり、V−SOC曲線の変化が実容量の演算精度を満たす一定範囲内に抑えられた充電率の値域の個数や範囲は、本発明の方法としての、開放電圧及び積算電流量の実測に基づくV−SOC曲線の作成及び比較により経験的に求めるものであり、演算の対象となるリチウムイオン二次電池の物理的、電気化学的特性に依存するものである。
【0069】
しかしながら、図2(b)のテーブルの参照に際しては、値域R1〜R3の全てを対象として利用する必要はない。上述のように、利用者は特定の充電率の範囲内でリチウムイオン二次電池2を使用することが期待されるため、状況に応じて一部の値域のみを演算に使用するようにしてもよい。これにより、演算アルゴリズムを簡略化して演算をより高速に行うことができる。
【0070】
又、上記の説明においては、演算に用いられる充電率の値域は、開放電圧及び積算電流量の実測に基づくV−SOC曲線の作成及び比較により求めるとしたが、特に、値域R1のような充電率0%近傍の値域については、実測に寄らず予め固定値としての値域を設定するようにしておいてもよい。これは、曲線の終端であることから、V−SOC曲線の変化がそれ以上生じにくいと予想されるためである。
【0071】
これにより、CPU13への演算アルゴリズムの設定を簡易に行うことができ、本発明をより低コストで実現することができる。又、リチウムイオン二次電池の充放電期間が長期間となる使用態様に好適な構成である。同様に、値域R3のような充電率100%近傍の値域についても、実測に寄らず予め固定値としての値域を設定するようにしておいてもよい。この場合は、リチウムイオン二次電池の充放電期間が短期間となる使用態様に好適である。又、充電率が0%近傍の値域と100%近傍の値域とを固定値域として併存して設定するようにしてもよい。
【0072】
又、上記の説明においては、図2(b)に示すように、テーブルは演算に用いられる充電率と電圧との相関のうち、V−SOC曲線の比較に基づき得られた、利用可能な値域のみから作成されているものとしたが、従来例と同様、全充電率に渡って数値が記録されたテーブルを用いてもよい。この場合は、テーブルにおいて、利用可能な値域以外の値域は参照しないように予め設定しておくようにする。これにより演算アルゴリズムの軽微な変更のみで本発明を実現できる。
【0073】
又、上記の説明においては、演算動作の開始は、利用者による入力I/F16からの操作入力によるものとしたが、CPU13に内蔵される、又は外部の図示しないタイマーを利用して、予め定めた時刻にて行うようにしてもよい。さらに、リチウムイオン二次電池2の充電の開始及び終了のタイミング、電圧計11及び電流計12から得られる各種情報を組み合わせて、演算開始のトリガーとしてもよい。
【0074】
又、上記の説明においては、V−SOC曲線は、開放電圧と容量率との相関であるとしたが、充放電等によりリチウムイオン二次電池に電流が流れる状態における電圧と容量率との相関であるとしてもよい。
【0075】
又、上記の説明においては、本発明の蓄電素子はリチウムイオン二次電池であるとしたが、電気化学反応により充放電可能な電池であれば、ニッケル水素電池その他各種の二次電池を用いてもよい。さらに電気二重層キャパシタのように、電気を直接電荷として蓄積する方式の素子であってもよい。要するに、本発明の蓄電素子は、充放電可能に電気を蓄積可能な素子であれば、その具体的な方式によって限定されるものではない。更に、上記の実施の形態においては、容量演算装置は電圧計11及び電流計12を含んだ構成としたが、これらの構成は、リチウムイオン二次電池2が有する保護回路やリチウムイオン二次電池2により動作する被充電装置側に組み込まれたものを利用してもよく、したがって、電圧計11及び電流計12は省略してもよい。
【0076】
又、上記の実施の形態においては、容量演算装置を中心に説明を行ったが、本発明は、図9に示すように、被充電装置として実現してもよい。図9に示すように、被充電装置90は、リチウムイオン二次電池2に相当する電池部91と、電池部91を内蔵し、これより電力の供給を受けて動作する負荷92と、電池部91への充放電制御を管理する、充放電回路3及び容量演算装置1に相当する、本発明の容量演算手段としての管理部93とを備える。負荷92としては、電気自動車、情報通信装置その他直流電源にて動作する任意の機械類を用いることができる。又、被充電装置90に対して、電池部91は脱着可能となっている。
【0077】
なお、負荷92は被充電装置91の外部に設け、被充電装置90は外部へ電力を取り出す構成としてもよい。この場合、本発明の被充電装置は電源装置として実現されることになる。
【0078】
又、本発明は、上述した本発明の容量演算方法の演算工程の動作をコンピュータにより実行させるためのプログラムであって、コンピュータと協働して動作するプログラムであってもよく、当該プログラムが、コンピュータにより読み取り可能且つ読み取られた当該プログラムがコンピュータと協動して前記動作を実行する記録媒体に記録された態様であってもよい。
【0079】
なお、本発明の上記「工程」とは、発明の工程を構成する全部又は一部の動作の双方を意味するものである。
【0080】
又、本発明のプログラムの一利用形態は、記録媒体に担持された状態でコンピュータにより読みとられ、当該コンピュータと協働して動作する態様であっても良い。ここでコンピュータとは、CPU等の純然たるハードウェアに限らず、ファームウェアや、OS、更に周辺機器を含むものであっても良い。又、記録媒体とは、光ディスク、光磁気ディスク、磁気ディスク、不揮発性メモリその他、本発明のプログラムを、外部からのアクセス可能であって固定的に担持可能な媒体を意味するものである。
【0081】
したがって、本発明の構成は、ソフトウェア的に実現してもよいし、ハードウェア的に実現してもよい。
【0082】
要するに、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内であれば、以上説明したものを含め、上記実施の形態に種々の変更を加えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上のような本発明は、蓄電素子の劣化に対応して、当該蓄電素子の実容量の演算精度を一定確保することが可能な効果を有し、例えば電気自動車その他の被充電装置において用いられる二次電池の使用において有用である。
【符号の説明】
【0084】
1 容量演算装置
2 リチウムイオン二次電池
3 充放電回路
11 電圧計
12 電流計
13 CPU
14 メモリ
15 出力I/F
16 入力I/F

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電素子の実容量を演算する容量演算装置であって、
予め求めた蓄電素子の電圧と充電率との相関を示すテーブルを格納する格納手段と、
前記格納手段に格納された前記テーブルを参照して前記実容量を演算する演算手段とを備え、
前記演算手段は、前記テーブルの、前記相関において予め定めた前記充電率の一部の値域に対応する部分を利用して前記実容量を演算する、容量演算装置。
【請求項2】
前記テーブルの、前記予め定めた前記充電率の一部の値域とは、前記蓄電素子の劣化の程度によらず、その対応する前記電圧の変化が所定の範囲内に収まっている値域である、請求項1に記載の容量演算装置。
【請求項3】
前記テーブルの、予め定めた前記充電率の一部の値域は、複数の値域に分割されており、
前記演算手段は、前記複数の値域の全部又は一部に対応する前記電圧の値域を参照して、前記実容量を演算する、請求項1又は2に記載の容量演算装置。
【請求項4】
前記テーブルの前記充電率の前記一部の値域又は前記複数の値域の前記一部は、前記充電率が0%以上の部分を含んでいる、請求項1から3のいずれかに記載の容量演算装置。
【請求項5】
前記テーブルの前記充電率の前記一部の値域又は前記複数の値域の前記一部は、前記充電率が100%以下の部分を含んでいる、請求項1から4のいずれかに記載の容量演算装置。
【請求項6】
前記演算手段は、前記蓄電素子の時間的に離隔した任意の二点の電圧と、前記二点間における前記二次電池への充放電に用いた電流の積算値と、前記テーブルを参照して得られる前記二点の電圧に対応する各充電率とを取得して前記実容量を演算する、請求項1から5のいずれかに記載の容量演算装置。
【請求項7】
前記演算手段は、
前記蓄電素子の時間的に離隔した任意の二点の電圧を取得し、
前記テーブルを参照して、前記二点の電圧のいずれか一方の電圧が、前記予め定めた前記充電率の一部の値域に対応する電圧の値域に収まっていない場合は、前記値域の上限値又は下限値のうち、前記一方の電圧に近い値を近似値と定め、
前記テーブルを参照して得られる、前記近似値に対応する前記充電率及び前記取得した他方の電圧に対応する前記充電率と、これら充電率の変化における前記蓄電素子への電流積算値と
を更に取得して、前記実容量に関連する量を演算する、請求項1から5のいずれかに記載の容量演算装置。
【請求項8】
負荷に脱着自在に接続され、これに電力を供給する蓄電素子と、
前記蓄電素子の容量を演算する容量演算手段とを備え、
前記容量演算手段として、請求項1から7のいずれかに記載の容量演算装置を有する、被充電装置。
【請求項9】
蓄電素子の実容量を演算する容量演算方法であって、
予め求めた蓄電素子の電圧と充電率との相関を示すテーブルを参照して前記実容量を演算する演算工程を備え、
前記演算工程は、前記テーブルの、前記相関において予め定めた前記充電率の一部の値域に対応する部分を利用して前記実容量を演算するものである、容量演算方法。
【請求項10】
前記テーブルの、前記予め定めた前記充電率の一部の値域とは、前記蓄電素子の劣化の程度によらず、その対応する前記電圧の変化が所定の範囲内に収まっている値域である、請求項9に記載の容量演算方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の容量演算方法の、前記演算工程をコンピュータにより実行するためのプログラム。
【請求項12】
蓄電素子の実容量の演算に際して参照される予め求めた蓄電素子の電圧と充電率との相関を示すテーブルの、前記演算に際して参照される前記充電率の一部の値域を決定する、充電率の参照値域決定方法であって、
同一の前記蓄電素子に対し、その劣化の程度に応じて複数の前記相関を求める工程と、
前記複数の前記相関を比較して、前記充電率に対応する前記電圧の変化が所定の範囲内に収まっている領域を抽出する工程とを備え、
前記抽出された領域に対応する充電率の値域を前記一部の値域として定める、充電率の参照値域決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−44734(P2013−44734A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185234(P2011−185234)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】