密封装置
【課題】デファレンシャル装置において、潤滑油の漏れを抑制する密封装置でトルクの増加や主リップが摩耗しやすいなどの問題がある。そこで、低減トルクを大幅に低減できて、寿命も長い密封装置を提供することにある。
【解決手段】弾性部材120を25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上であるシリコーンゲルのような第一の粘弾性材料から形成するとともに、主リップ121の空気側傾斜面135にリブ142を設ける。
【解決手段】弾性部材120を25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上であるシリコーンゲルのような第一の粘弾性材料から形成するとともに、主リップ121の空気側傾斜面135にリブ142を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関し、特に、自動車等のデファレンシャル装置、自動車等のトランスミッション装置、ウォーターポンプまたは車輪用軸受装置に使用されれば好適な密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、密封装置としては、特開平7−286656号公報(特許文献1)に記載されているものがある。
【0003】
この密封装置は、デファレンシャル装置(差動装置)のキャリヤケース(一方部材)に固定され、入力軸(他方部材)の周面や入力軸に固定されたスリンガに摺動する弾性体からなるリップを備えている。上記入力軸は、上記キャリヤケースに対して転がり軸受で相対回転可能に支持されている。上記キャリヤケースは内部に潤滑油(液体)が充填されている。上記リップは、潤滑油の充填された内部から外部空間に向かって、入力軸に固定されたユニバーサルジョイントフランジの周面に強く圧接させて摺動するためのガータースプリングを有する主リップと、上記ユニバーサルジョイントフランジに摺動する副リップと、上記ユニバーサルジョイントフランジに取り付けられた環状のスリンガに摺動するダストリップとが設けられている。
【0004】
この密封装置は、上記潤滑油が上記キャリヤケース内から外部に漏れることを抑制している。特に、上記主リップによって潤滑油が外部に漏洩することを抑制している。上記主リップは上記キャリヤケース側から軸方向一方側かつ径方向内方に向かう第一部分と、この第一部分の軸方向一方側端部に接続され径方向内方に上記ユニバーサルジョイントフランジに摺動する先端縁を有する第二部分とを備える。上記主リップの先端縁は上記ユニバーサルジョイントフランジに径方向に強く圧接している。上記先端縁は、上記入力軸が回転したときに、上記ユニバーサルジョイントフランジの周面に対して摺動する。このとき、上記主リップと上記ユニバーサルジョイントフランジの周面とは、上記キャリヤケース内部の上記潤滑油によって潤滑される。上記主リップは、一般的な密封装置用のニトリルゴムや、アクリルゴムで形成され、このニトリルゴムや、アクリルゴムは、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.1から0.2であり、弾性(貯蔵剪断弾性率)が大きく、変形してもすぐに元の形状に戻りやすい性質を有している。
【0005】
上記キャリヤケースや、回転軸、ユニバーサルジョイントフランジ、密封装置、転がり軸受は、加工精度に基づく不可避的な精度誤差を有する。この精度誤差や、上記各部材に負荷される荷重などの影響で、上記キャリヤケースに転がり軸受、回転軸、ユニバーサルジョイントフランジ、および、密封装置を組み付けた状態(以下、組み付け状態という)であって、上記ユニバーサルフランジが上記密封装置に対して相対回転停止である場合においては、上記ユニバーサルジョイントフランジの周面の中心線と、上記先端縁に上記第二部材の周面を当接させる前(以下、組み付け前状態という)の上記先端縁の描く円の中心線とは、完全には一致しない。詳しくは、上記組み付け状態において、上記ユニバーサルジョイントフランジの周面の中心線が上記組み付け前状態の上記先端縁の描く円の中心線に対して径方向にずれている、または/および、上記ユニバーサルジョイントフランジの周面の中心線の延伸方向と上記組み付け前状態の上記先端縁の描く円の中心線の延伸方向との間に角度が生じている、という状態が生じる。
【0006】
このとき、上記密封装置は、上記主リップがtanδで表される損失正接が0.1から0.2であるである粘弾性材料で形成され、また、上記第一部分が環状の軸方向断面板状に形成される一方、上記第二部分が環状の軸方向断面ブロック状に形成され、上記第一部分が上記第二部分よりも径方向に変位しやすいため、上記ユニバーサルジョイントフランジの周面の中心線と、上記先端縁の描く円の中心線を、上記先端縁の描く円を含む平面において一致させるよう、主として上記密封装置の第一部分が変形する。
【0007】
さらに、組み付け状態かつ上記ユニバーサルフランジの上記密封装置に対する相対回転時において、ユニバーサルジョイントフランジの回転中心線が上記ユニバーサルジョイントフランジの周面の中心線に対して径方向にずれている、または/および、上記ユニバーサルジョイントフランジの回転中心線の延伸方向と上記ユニバーサルジョイントフランジの周面の中心線の延伸方向との間に角度が生じている、という状態が生じる。
【0008】
このとき、上記密封装置は、上記第一部分が上記第二部分よりも径方向に変位しやすいため、上記第二部分が上記ユニバーサルジョイントの回転中心線を中心に公転するとともに、上記第一部分が上記第二部分の公転に伴い周期的に変形する。
【0009】
このような従来の密封装置では、上記ユニバーサルフランジが上記密封装置に対して相対回転停止である場合も、上記ユニバーサルフランジが上記密封装置に対して相対回転している場合も、上記主リップは上記ユニバーサルフランジを強く緊迫し、上記相対回転時には、上記主リップと上記ユニバーサルジョイントフランジの周面との摩擦抵抗が大きくなるとともに、主リップが摩耗しやすい。
【0010】
また、上記主リップを備えた密封装置は、デファレンシャル装置のケース部材に固定され出力軸部材の周面に摺動する密封装置、トランスミッション装置のケース部材に固定され入力軸部材または出力軸部材の周面に摺動する密封装置、潤滑油により潤滑される車輪用軸受の外輪部材に固定され内輪部材の周面に摺動する密封装置、ウオーターポンプの外輪部材に固定され内輪部材の周面に摺動する密封装置にも用いられ、上記密封装置と同様に、摩擦抵抗が大きく主リップが摩耗しやすい課題が生じる。
【0011】
このような背景において、デファレンシャル装置において、潤滑油の漏れを抑制する密封装置のトルクの大幅な低減が所望されている。また、上記従来の密封装置において、主リップの寿命が短いという問題がある。
【特許文献1】特開平7−286656号公報(第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明の課題は、トルクを大幅に低減できて、寿命も長い密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、この発明の密封装置は、
環状に形成され、
第一部材と、上記第一部材に対して相対回転する第二部材との、何れか一方部材に固定されるとともに、
リップ部を有する弾性部材を備え、
上記リップ部の先端縁が、上記第一部材と上記第二部材との何れか他方部材の周面に当接し、上記第一部材と上記第二部材との相対回転により上記他方部材の周面と摺動し、
上記第一部材と上記第二部材との形成する空間を、液体の密封される軸方向一方側の液体側空間と軸方向他方側の空気側空間とに画定する密封装置において、
上記リップ部は、上記先端縁の上記軸方向他方側に隣接して形成され上記先端縁から軸方向他方側に離れるにつれて上記他方の部材の周面から径方向に離れる空気側傾斜面を備え、上記空気側傾斜面に沿って形成され、上記先端縁から上記軸方向他方側かつ上記周方向一方側に傾斜して延在するとともに上記先端縁側で上記他方の部材の周面に当接する複数のリブを備え、
上記先端縁を上記他方部材の周面に付勢する弾性部材の少なくとも一部分は、
25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上である第一の粘弾性材料からなることを特徴としている。
【0014】
上記「先端縁を上記他方部材の周面に付勢する上記弾性部材の少なくとも一部分は、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上である第一の粘弾性材料からなる」という文言は、弾性部材の全てが第一の粘弾性材料である場合は勿論のこと、
上記弾性部材の一部分に上記第一の粘弾性材料を用い、上記弾性部材の一部分を除く部分にこの第一の粘弾性材料とは異なる、例えば、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55未満である粘弾性材料を用いた構成とし、上記第一の粘弾性材料が上記先端縁を上記他方部材の表面に付勢する力を全て、または、一部、担う場合も含むものとする。
【0015】
本発明によれば、上記第一部材と上記第二部材との相対回転停止時には、上記第一の粘弾性材料が、上記先端縁を上記他方部材の周面に付勢することで、上記液体側空間から上記液体が上記空気側空間に漏れようとすることを抑制する。
【0016】
また、本発明によれば、上記第一部材と上記第二部材との相対回転時には、上記第二部材の周面の回転中心線が、上記組み付け前状態の先端縁の描く円の中心線に対して、上記組み付け前状態の先端縁の描く円を含む平面上で、径方向に位置がずれたり、延在方向の角度の差を有していることで、上記先端縁に摺動する上記第二部材の周面が描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡が、上記第二部材の周面の径よりも大きくなっても、上記第一の粘弾性部材の25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上であるため、上記先端縁が、上記先端縁に摺動する上記第二部材の周面が描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡に容易に沿うよう拡径するとともに、上記先端縁が組み付け前状態の径に戻ろうとする速さを抑えることができる。よって、上記第二部材の周面と上記先端縁との緊迫力を小さくして摺動における面圧を小さくすることができ、摩擦抵抗を小さくすることでトルクを大幅に低減できるとともに、リップ部の摩耗を抑制できる。したがって、この密封装置を有する自動車等の燃費を低減できる。また、密封装置の寿命を長くすることができる。
【0017】
また、本発明によれば、上記リップ部は、上記先端縁の上記軸方向他方側に隣接して形成され上記先端縁から軸方向他方側に離れるにつれて上記他方の部材の周面から径方向に離れる空気側傾斜面を備え、上記空気側傾斜面に沿って形成され、上記先端縁から上記軸方向他方側かつ上記周方向一方側に傾斜して延在するとともに上記先端縁側で上記他方の部材の周面に当接する複数のリブを備えているため、上記第一部材と上記第二部材との相対回転時に、上記先端縁が上記先端縁に摺動する上記第二部材の周面の描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡に容易に沿うよう拡径することで、上記先端縁と上記第二部材との当接部で、面圧が小さくなったり、隙間が生じたりした場合に、上記液体側空間から上記先端縁と上記第二部材との当接部における面圧の小さい部分や隙間が生じた部分を通過して上記空気側空間へ漏れ出ようとする液体を上記リブが液体側空間へ押し戻すポンプ作用を生じることで、上記先端縁が拡径しても、上記液体が上記空気側空間へ漏れ出すことを強く抑制し、良好な密封性が得られる。
【0018】
また、一実施形態の密封装置は、上記第一の粘弾性材料は、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.60以上である粘弾性材料からなることを特徴としている。
【0019】
上記実施形態によれば、さらに摩擦抵抗を小さくするとともに、主リップの摩耗を抑制でき、トルクを大幅に低減できて、寿命を長くすることができる。
【0020】
また、一実施形態の密封装置は、上記リブの稜線が上記先端縁から上記リブの延在方向に沿った所定の範囲において上記空気側傾斜面からの突出高さが一定である低隆起部と、この低隆起部から上記リブの延在方向に沿って上記空気側傾斜面からの突出高さが大きくなる傾斜隆起部を備えることを特徴としている。
【0021】
上記実施形態によれば、上記リブが摩耗していないときには低隆起部でポンプ作用の効果が得られるとともに、上記先端縁が摩耗するとともに低隆起部が摩耗し、先端縁が軸方向に広くなったときに、傾斜隆起部により強いポンプ作用の効果が得られ、先端縁の摩耗時にも、液体が漏れやすくなることを抑制でき、一実施形態の密封装置の寿命を延ばすことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の密封装置によれば、寿命を長くすることができる。また、トルクを格段に低減することができて、この発明の密封装置を搭載した自動車等の燃費を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の第一実施形態の密封装置を有するデファレンシャル装置の分解斜視図である。また、図2は、本発明の第一実施形態の密封装置を有するデファレンシャル装置の入力軸の中心軸を含む平面によって切断した断面図である。また、図3は、本発明の第一実施形態の密封装置の軸方向断面図である。
【0025】
この自動車等に用いられるデファレンシャル装置(差動装置)は、一般的に、図1に示すように、キャリアケース20と、キャリアケース20内に配置されデフケースレフト42aに固定して取付けられるリングギヤ44と、上記キャリアケース20に回転自在に支持されて、上記リングギヤ44に噛み合うピニオン46を先端に有する入力軸14を備えている。また、デフケース42は、デフケースレフト42aと、デフケースレフト42aにボルト42cにより結合され差動機構を内装するデフケースライト42bとを備え、上記リングギヤ44は上記デフケース42にボルト44aで保持される。上記デフケースライト42b内には、十字形に延びる軸部に自転可能に嵌合した4つのデフピニオン48を有するスパイダ50と、上記デフピニオン48に噛み合う2つのサイドギヤ52とが設けられ、サイドギヤ52には図示しない左右のアクスルシャフトが、スプライン結合している。
【0026】
上記入力軸14は、図2に示すように、ユニバーサルジョイントフランジ18を介してプロペラシャフト16に接続され、プロペラシャフト16の回転力が伝達されて回転駆動する。このようにして先端に上記ピニオン46を有する上記入力軸14が回転駆動すると、上記ピニオン46と噛み合う上記リングギヤ44が固定して取付けられた上記デフケース42、及びデフケース42内に配置された上記サイドギヤ52が、図示しない上記アクスルシャフトの軸線を中心に一体的に回転して、車両の直進時には上記デフピニオン48が自転することなく図示しない上記アクスルシャフトの軸線を中心に回転することにより上記サイドギヤ52が回転して、サイドギヤ52にスプライン結合された図示しない左右の上記アクスルシャフトが等速で回転する。一方、車両が進行方向を変え左右の車輪に回転数差が生じた時には、上記デフピニオン48が自転することにより、この回転数差を調整して、タイヤが滑るのを防止している。
【0027】
このようなデファレンシャル装置において、上記入力軸14を上記キャリアケース20に回転自在に支持するデフ入力軸支持部12は、図2に示すように、上記キャリアケース20に固定して取付けられたベアリングケージ22と、ベアリングケージ22に支持される円錐ころ軸受(転がり軸受)24とを備え、上記ベアリングケージ22の内面22aに上記円錐ころ軸受24の外輪26を圧入すると共に、上記円錐ころ軸受24の内輪28の内周面28aに上記入力軸14を圧入することにより組み付けられ、上記外輪26と上記内輪28と上記外輪26の軌道面と上記内輪28の軌道面との間を転動可能な円錐ころを備える上記円錐ころ軸受24を介して入力軸14を回転自在に支持している。
【0028】
上記デフ入力軸支持部12の上記キャリアケース20内には、上記入力軸14の回転を円滑にするために、潤滑油が充填される。この潤滑油が外部空間に漏れることを防ぐため、上記入力軸14にスプライン嵌合されたユニバーサルジョイントフランジ18に圧接する主リップ121を有する弾性部材120を備えた第一実施形態の密封装置10が設けられている。上記第一実施形態の密封装置10が固定されるハウジング部材としての上記ベアリングケージ22(一方部材)の内面は内周円筒面となっている。軸部材としての上記ユニバーサルジョイントフランジ18(他方部材)の外周面は外周円筒面となっている。上記ベアリングケージ22や上記ユニバーサルジョイントフランジ18は金属材料等、上記弾性部材120よりも硬い材料から形成されている。
【0029】
図3、図4、図6および図7は、上記第一実施形態の密封装置10の構造を、詳細に説明する断面図である。詳しくは、図3は、組み付け前での、芯金部材125、弾性部材120の位置関係を示す軸方向の断面図である。図3では、弾性部材120の位置として上記ユニバーサルジョイントフランジ18から力を受けていない場合における、弾性部材の組み付け前での位置を示している。図4は、図3の要部拡大図である。図5は、図4におけるこの第一実施形態の密封装置を軸中心線側から見た要部拡大図である。一方、図6は、第一実施形態の密封装置10をベアリングケージ22の内面に固定するとともに上記ユニバーサルジョイントフランジ18に嵌め込み、かつ、弾性部材120が摩耗していない非摩耗状態での弾性部材120の位置を示す断面図である。図7は、図6の要部拡大図である。図8(a)は、上記第一実施形態の密封装置10に上記ユニバーサルジョイントフランジ18を嵌め込んだ状態において、上記ユニバーサルジョイントフランジ18が上記第一実施形態の密封装置10に対して相対回転停止状態である場合の位置を示す要部断面図であり、図8(b)は上記ユニバーサルジョイントフランジ18が上記第一実施形態の密封装置10に対して相対回転状態である場合の位置を示す要部断面図である。図3、図4、図6および図7のリブ142は、リブ142の稜線の軸方向成分が軸方向に伸びる様子を、軸方向中心を含む平面に沿って記載している。図5に示すとおり、上記リブ142は上記空気側傾斜面135に沿って形成され、上記先端縁133から上記軸方向他方側かつ周方向一方側に傾斜している。
【0030】
図3に示すとおり、第一実施形態の密封装置10は環状の芯金部材125と、環状の弾性部材120と、ガータースプリング130とを備える。芯金部材125は、環状に形成され、断面L字状の形状を有している。芯金部材は、筒状の軸方向延在部126と、径方向延在部127とからなる。上記径方向延在部126は、軸方向延在部126の内周面における軸方向の他方側(図3の紙面における左側)から径方向の内方に延在している。
【0031】
上記弾性部材120は、環状に形成され、軸方向延在部126の軸方向の一方側の外周と、上記外周につながる上記軸方向延在部126の軸方向一方側の端部と、上記端部につながる軸方向延在部126の内周と、上記内周につながる径方向延在部127の軸方向の一方側とからなる芯金部材125の軸方向の一方側の全面を覆うように芯金部材125に固着されている。上記弾性部材120は基部123と、主リップ121と、副リップ122と、外周部124とを有する。
【0032】
上記基部123は軸方向延在部126の内周面および径方向延在部127の軸方向の一方側の端面に沿うように配置されている。上記基部123は、軸方向延在部126の内周面および径方向延在部127の軸方向の一方側の端面に固着されている。
【0033】
上記副リップ122は上記基部123の径方向の内方から径方向の内方かつ軸方向の他方側に延在している。
【0034】
上記主リップ121は上記基部123の径方向の内方から径方向の内方かつ軸方向の一方側に延在している。上記主リップ121は第一部分131と第二部分132とを有する。上記第一部分131は上記基部123の径方向内方から径方向の内方かつ軸方向の一方側に延在している。上記第二部分132は、上記第一部分131の軸方向の一方側の先端につながるとともに上記第一部分131の軸方向の一方側の先端より径方向の内方側に延在する。
【0035】
上記第二部分132の径方向の内方には、上記主リップ121のうち最も径方向内方側となる先端縁133がある。上記先端縁133の軸方向の一方側には上記先端縁133から軸方向の一方側に離れるに従い径方向の外方側に延在する液体側傾斜面134が隣接する。上記液体側傾斜面134は軸中心線に対して鋭角αで傾く略円錐面に形成されている。上記先端縁133の軸方向の他方側には上記先端縁133から軸方向の他方側に離れるに従い径方向の外方側に延在する空気側傾斜面135が隣接する。上記空気側傾斜面135は軸中心線に対して鋭角βで傾く略円錐面に形成されている。鋭角αは鋭角βよりも大きく形成している。
【0036】
上記第二部分132の径方向の外側には環状の溝が形成され、この環状の溝に環状のガータースプリング130が嵌め込まれている。上記ガータースプリング130は螺旋状のスプリングを有し、スプリングが少し伸びた状態で上記環状の溝に嵌められている。上記環状のガータースプリング130は上記主リップ121を径方向の内方に付勢する。
【0037】
図4に示すように、上記空気側傾斜面135には、上記空気側傾斜面135に沿って上記先端縁133から上記軸方向他方側かつ周方向一方側に傾斜して延在するリブ142が形成されている。上記リブ142の稜線は上記先端縁133から上記リブ141の延在方向に沿った所定の範囲において、上記空気側傾斜面135からの突出高さが一定である低隆起部143と、この低隆起部143から上記リブ142の延在方向に沿って上記空気側傾斜面135からの突出高さが大きくなる傾斜隆起部144と、この傾斜隆起部144から上記リブ142の延在方向に沿って上記空気側傾斜面135からの突出高さが一定かつ上記低隆起部143の突出高さよりも大きい高隆起部145とを備える。
【0038】
図5に示すとおり、上記リブ142は上記空気側傾斜面135に沿って形成され、上記先端縁133から上記軸方向他方側かつ周方向一方側に傾斜している。本第一実施形態の密封装置10の軸中心線に対する上記リブ142の延在方向の鋭角の傾きは5°から85°に設定されている。なお、上記範囲内でも、好ましくは15°から75°、更に好ましくは25から65°の範囲とすることが好ましい。
【0039】
図6に示すように、上記主リップ121、および、上記副リップ122は組み付け状態において、上記ベアリングケージ22(一方部材)と上記ユニバーサルジョイントフランジ18(他方部材)との相対回転により、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の外周面に摺動するようになっている。上記軸方向延在部126の外周面と上記外周部124の外周面とが、上記外周部124の変形を伴って、上記ベアリングケージ22の内周面に当接して固定されている。上記主リップ121、および、上記副リップ122は組み付け状態において、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の外周面から力を受けていて、図3における、上記ユニバーサルジョイントフランジ18から力を受けていないと仮定した場合よりも、径方向の外方側に移動している。
【0040】
図6および図7に示すように、主リップ121は組み付け状態において、図4および図5に示される上記先端縁133の全周と、上記リブ142の上記先端縁133側と、は弾性部材が変形して上記ユニバーサルジョイントフランジ18に全周にわたって当接している。この状態の上記先端縁を組み付け状態の先端縁133aとする。上記リブ142は、上記先端縁133aから上記低隆起部143の延在方向範囲内まで上記リブ142が変形して当接している。上記リブ142は、上記先端縁133aとともに摩耗していくと、上記傾斜隆起部144、上記高隆起部145の順に上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に接触することになる。そして、上記傾斜隆起部144は上記低隆起部143よりポンプ作用の効果が大きいため上記先端縁133aと上記低隆起部143とが摩耗しても十分な密封性を維持し、上記高隆起部145は上記傾斜隆起部144よりさらにポンプ作用の効果が大きいため上記先端縁133aと上記傾斜隆起部144とが摩耗しても十分な密封性を維持できる。
【0041】
上記弾性部材120は上記リブ142を含むその全体が、第一の粘弾性材料161から形成されている。具体的にはゴム材からなる。上記第一の粘弾性材料161は、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上である粘弾性材料である。さらに好ましくは、上記弾性材料は、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.60以上である粘弾性材料からなる。このような第一の粘弾性材料としては、シリコーンを主原料とする非常に柔らかいゲル状素材があげられる。このようなゲル素材としては、株式会社ジェルテック製の商品名:αGELがあげられる。このゲル素材はスポンジ状のシリコーンゲルである。
【0042】
また、上記tanδで表される損失正接は、貯蔵剪断弾性率(G’)と損失剪断弾性率(G”)の比、G”/G’であり、tanδの値が大きいほどエネルギーを吸収し、衝撃緩衝試験では反発弾性率が小さくなり、加振試験においては共振倍率が低くなる。上記tanδで表される損失正接が大きくなるということは、弾性(貯蔵剪断弾性率)よりも粘性(損失剪断弾性率)が大きくなることである。上記tanδで表される損失正接が大きくなると、応力を付与されていない粘弾性体に外部から応力を付与した後に、この応力を解放したときに、外部から応力を付与される前の状態の形に戻る速さが遅くなる。
【0043】
組み付け前状態において、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の中心線と、上記第一実施形態の密封装置10の組み付け前状態の上記先端縁133の中心線とは、組み付け前状態の上記先端縁133の描く円を含む平面上で微少な径方向のずれが生じている。組み付け状態において、この上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の中心線と上記第一実施形態の密封装置10の上記先端縁133の組み付け前状態の中心線とが、上記組み付け前状態の先端縁133の描く円を含む平面上で一致するように、主リップ121全体が変形している。この組み付け状態で上記組み付け状態の先端縁133aは周方向全周にわたり、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に当接し、上記液体側空間151から上記空気側空間152へ液体が漏れようとすることを阻止している。
【0044】
組み付け状態である、上記第一実施形態の密封装置10を有するデファレンシャル装置を使用する自動車の停止時には、図8(a)に示すように、上記ユニバーサルジョイントフランジの周面の中心線と上記第一実施形態の密封装置10の上記先端縁の組み付け前状態の中心線とが上記組み付け前状態の先端縁の描く円を含む平面上の中心点181で、略一致している。この組み付け状態で、組み付け状態の先端縁133aは周方向全周にわたり、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に当接し、上記液体側空間151から上記空気側空間152へ液体が漏れようとすることを阻止している。このとき、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の回転中心線における、上記組み付け前状態の先端縁133の描く円を含む平面上の回転中心点186と、上記中心点181とは、位置がずれている。なお、図8(a)、図8(b)における、上記中心点181に対する上記回転中心点186の位置のずれは誇張して記載されている。
【0045】
図8(b)に示すように、上記第一実施形態の密封装置10を有するデファレンシャル装置を使用する自動車の前進時に、上記入力軸14が回転駆動すると、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面は、上記回転中心点186を中心に上記第一実施形態の密封装置10に対して周方向他方側に回転する。このため、上記組み付け前状態の先端縁133の描く円を含む平面上において、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の描く上記回転中心点186から最も大径である円状の軌跡は、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の径よりも大きくなる。組み付け状態の先端縁133aは上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の描く上記回転中心点から最も大径である円状の軌跡に沿って拡径する。この回転状態の上記先端縁を回転状態での先端縁133bとする。なお、図8(b)における、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面と、回転状態での先端縁133bとのすきまは誇張して記載されている。
【0046】
上記組み付け前状態の先端縁133の描く円を含む平面上における回転状態での上記先端縁133bの中心点182は、上記回転中心点186に略一致するよう、上記第一部分が主として変形する。そして、上記第一の粘弾性部材161の25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上であるため、組み付け状態の上記先端縁133aが上記先端縁に摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の描く上記平面上の上記回転中心線186から最も大径である円状の軌跡に容易に沿うよう回転状態の上記先端縁133bの位置に拡径するとともに、回転状態での上記先端縁133bが組み付け前状態の上記先端縁133の径に戻ろうとする速さを抑えることができる。よって、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面と上記先端縁との摺動における面圧を小さくすることができ、摩擦抵抗を小さくすることでトルクを大幅に低減できるとともに、主リップの摩耗を抑制できる。したがって、この第一実施形態の密封装置を有する自動車等の燃費を低減できる。また、第一実施形態の密封装置の寿命を長くすることができる。
【0047】
このとき、上記主リップ121は、組み付け状態の上記先端縁133aが回転状態での上記先端縁133bに拡径した状態から、組み付け前状態の上記先端縁133に戻りにくいため、上記主リップ121が上記回転中心軸186を中心に公転するときの変位量が小さくなり、回転状態での上記先端縁133bと上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面との局部的な面圧の高い接触部分の面圧を抑制できる。また、上記第一実施形態の密封装置10は振動が小さくなる。
【0048】
上記組み付け前状態の先端縁133の描く円を含む平面上における上記先端縁回転状態での上記先端縁133bの径が上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の径よりも大きくなることで、上記先端縁133bと上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面との接触面圧の小さい部分や、非接触となり生じた部分をとおって、上記液体側空間151から上記空気側空間152へ液体が漏れようとしても、上記リブ142が液体側空間151へ押し戻すポンプ作用を生じることで、上記液体が上記空気側空間152へ漏れ出すことを強く抑制し、良好な密封性が得られる。
【0049】
上記第一実施形態の密封装置によれば、上記ベアリングケージ22と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との相対回転停止時には、上記第一の粘弾性材料が、上記先端縁133を上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に付勢することで、上記液体側空間151から上記液体が上記空気側空間152に漏れようとすることを抑制する。
【0050】
また、上記第一実施形態の密封装置によれば、上記ベアリングケージ22と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との相対回転時には、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の回転中心線が、上記組み付け前状態の先端縁133の描く円の中心線に対して、上記組み付け前状態の先端縁133の描く円を含む平面上で、径方向に位置がずれたり、延在方向の角度の差を有していることで、回転状態での上記先端縁133bに摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面が描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡が、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の径よりも大きくなっても、上記第一の粘弾性部材の25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上であるため、回転状態での上記先端縁133bが、上記先端縁に摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面が描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡に容易に沿うよう拡径するとともに、回転状態での上記先端縁133bが組み付け前状態の上記先端縁133の径に戻ろうとする速さを抑えることができる。よって、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面と回転状態での上記先端縁133bとの摺動における面圧を小さくすることができ、摩擦抵抗を小さくすることでトルクを大幅に低減できるとともに、主リップ121の摩耗を抑制できる。したがって、この密封装置を有する自動車等の燃費を低減できる。また、密封装置10の寿命を長くすることができる。
【0051】
また、上記第一実施形態の密封装置によれば、上記主リップ121は、上記先端縁133の上記軸方向他方側に隣接して形成され上記先端縁133から軸方向他方側に離れるにつれて上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面から径方向に離れる空気側傾斜面135を備え、上記空気側傾斜面135に沿って形成され、上記先端縁133から上記軸方向他方側かつ上記周方向一方側に傾斜して延在するとともに上記先端縁側で上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に当接する複数のリブ142を備えているため、上記ベアリングケージ22と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との相対回転時に、上記先端縁133bが上記先端縁133に摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡に容易に沿うよう拡径することで、上記先端縁133bと上記ユニバーサルジョイントフランジ18との当接部で、面圧が小さくなったり、隙間が生じたりした場合に、上記液体側空間151から上記先端縁133bと上記ユニバーサルジョイントフランジ18との当接部における面圧の小さい部分や隙間が生じた部分を通過して上記空気側空間152へ漏れ出ようとする液体を上記リブ142が液体側空間151へ押し戻すポンプ作用を生じることで、上記先端縁133が拡径しても、上記液体が上記空気側空間152へ漏れ出すことを強く抑制し、良好な密封性が得られる。
【0052】
また、上記第一実施形態の密封装置は、上記粘弾性材料は、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.60以上である粘弾性材料からなるため、さらに摩擦抵抗を小さくするとともに、主リップの摩耗を抑制でき、トルクを大幅に低減できて、寿命を長くすることができる。
【0053】
また、上記第一実施形態の密封装置は、上記リブ142の稜線が上記先端縁133から上記リブ142の延在方向に沿った所定の範囲において上記空気側傾斜面135からの突出高さが一定である低隆起部143と、この低隆起部143から上記リブ142の延在方向に沿って上記空気側傾斜面135からの突出高さが大きくなる傾斜隆起部144を備えるため、上記リブ142が摩耗していないときには低隆起部143でポンプ作用の効果が得られるとともに、上記先端縁133が摩耗するとともに低隆起部143が摩耗し、先端縁133が軸方向に広くなったときに、傾斜隆起部144により強いポンプ作用の効果が得られ、先端縁133の摩耗時にも、液体が漏れやすくなることを抑制でき、密封装置の寿命を伸ばすことができる。
【0054】
参考に、上記第一実施形態の密封装置10に対する、従来の密封装置410の主リップ21の動きを図9(a)、図9(b)に示す。図9(a)は図8(a)に相当する、上記密封装置410に上記ユニバーサルジョイントフランジ18を嵌め込んだ状態において、上記ユニバーサルジョイントフランジ18が上記密封装置410に対して相対回転停止状態である場合の位置を示す要部断面図であり、図9(b)は図8(b)は上記ユニバーサルジョイントフランジ18が上記密封装置410に対して相対回転状態である場合の位置を示す要部断面図である。
【0055】
従来の密封装置410は、上記第一実施形態の密封装置10に対して、弾性部材を形成する粘弾性材料の25℃におけるtanδで表される損失正接が0.10から0.20である粘弾性材料であることが異なる。また、従来の密封装置410は、上記第一実施形態の密封装置10と異なり、リブを有さない。
【0056】
図9(a)に示すとおり、組み付け状態である、上記従来の密封装置410を有するデファレンシャル装置を使用する自動車の停止時には、上記ユニバーサルジョイントフランジの周面の中心線と上記従来の密封装置10の上記先端縁の組み付け前状態の中心線とが上記組み付け前状態の先端縁の描く円を含む平面上の中心点81で、略一致している。この組み付け状態で、組み付け状態の先端縁33aは周方向全周にわたり、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に当接し、上記液体側空間から上記空気側空間へ液体が漏れようとすることを阻止している。このとき、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の回転中心線における、上記組み付け前状態の先端縁33の描く円を含む平面上の回転中心点86と、上記中心点81とは、位置がずれている。なお、図9(a)、図9(b)における、上記中心点81に対する上記回転中心点86の位置のずれは誇張して記載されている。
【0057】
図9(b)に示すように、上記従来の密封装置410を有するデファレンシャル装置を使用する自動車の前進時に、上記入力軸14が回転駆動すると、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面は、上記回転中心点86を中心に上記従来の密封装置410に対して周方向他方側に回転する。このため、上記組み付け前状態の先端縁33の描く円を含む平面上において、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の描く上記回転中心点86から最も大径である円状の軌跡は、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の径よりも大きくなる。このとき、従来の密封装置410は弾性部材を形成する粘弾性材料の25℃におけるtanδで表される損失正接が0.10から0.20である粘弾性材料から形成されているため、組み付け状態の上記先端縁33aはほとんど拡径しない。
【0058】
このために、組み付け状態の上記先端縁33aと略同じ径である回転状態での先端縁33bが、回転停止時と同様に強い緊迫力による大きな面圧で上記ユニバーサルジョイントフランジ18と接触したまま摺動する。
【0059】
そして、上記従来の密封装置410の上記主リップ21は、回転状態での上記先端縁33bが、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面と略同じ径であるため、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の回転により、上記回転中心点86を中心として大きな変位量で公転する。上記従来の密封装置410の上記主リップ21は、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.10から0.20である粘弾性材料から形成されているため、弾性が大きく、公転するときの変位量が上記第一実施形態の密封装置10よりも大きくなり、回転状態での上記先端縁33bと上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面との局部的な面圧の高い接触部分の面圧を緩和することができない。このため、従来の回転状態での上記先端縁33bと上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面との摺動摩擦が大きく、回転状態での上記先端縁33bに摩耗が生じやすい。また、上記従来のの密封装置410は振動が大きくなる。なお、図9(b)における、上記ユニバーサルジョイントフランジ18と上記密封装置410との上記回転状態での公転による径方向への変位量は誇張して記載されている。
【0060】
以下、本発明の第二実施形態を図示の形態により詳細に説明する。第二実施形態は、上記第一実施形態と弾性部材の構成を除いて上記第一実施形態と同様である。このため、以下には、弾性部材について、詳細に説明する。
【0061】
図10は、第二実施形態の密封装置210の構造を、詳細に説明する断面図である。詳しくは、図10は、組み付け前での、芯金部材125、弾性部材220の位置関係を示す軸方向の断面図である。図10では、弾性部材220の位置として上記ユニバーサルジョイントフランジ18から力を受けていない場合における、弾性部材の組み付け前での位置を示した要部拡大図である。図10のリブ242は、リブ242の稜線の軸方向成分が軸方向に伸びる様子を、軸方向中心を含む平面に沿って記載している。図示しないが、第一実施形態の密封装置の図5に示される空気側傾斜面135、液体側傾斜面134、および、リブ142と同じ形態であり、上記リブ242は上記空気側傾斜面235に沿って形成され、上記先端縁233から上記軸方向他方側かつ周方向一方側に傾斜している。
【0062】
上記第一実施形態の密封装置10の弾性部材120は、弾性部材120全体が25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上である第一の粘弾性材料からなるのに対して、第二実施形態の密封装置210の弾性部材220はこの弾性部材220の主リップ221の第二部分の一部のみに25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上である第一の粘弾性材料を用い、その他の部分については、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55未満、特に、0.10以上0.20以下である第二の粘弾性材料を用い、これらを一体化している。第一の粘弾性材料については、上記第一実施形態における第一の粘弾性材料と同じものを使用している。第二の粘弾性材料は、具体的には、ゴム材からなる。ゴム材は、好ましくは、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴムが好適に用いられる。
【0063】
図10に示すとおり、第二実施形態の密封装置210は環状の芯金部材125と、環状の弾性部材220と、ガータースプリング130とを備える。芯金部材125は、上記第一実施形態と同様であり、環状に形成され、断面L字状の形状を有している。芯金部材は、筒状の軸方向延在部126と、径方向延在部127とからなる。上記径方向延在部126は、軸方向延在部126の内周面における軸方向の他方側(図10の紙面における左側)から径方向の内方に延在している。
【0064】
上記弾性部材220は、環状に形成され、軸方向延在部126の軸方向の一方側の外周と、上記外周につながる上記軸方向延在部126の軸方向一方側の端部と、上記端部につながる軸方向延在部126の内周と、上記内周につながる径方向延在部127の軸方向の一方側とからなる芯金部材125の軸方向の一方側の全面を覆うように芯金部材125に固着されている。上記弾性部材220は基部223と、主リップ221と、副リップ222と、外周部224とを有する。
【0065】
上記基部223は軸方向延在部126の内周面および径方向延在部127の軸方向の一方側の端面に沿うように配置されている。上記基部223は、軸方向延在部126の内周面および径方向延在部127の軸方向の一方側の端面に固着されている。
【0066】
上記副リップ222は上記基部223の径方向の内方から径方向の内方かつ軸方向の他方側に延在している。
【0067】
上記主リップ221は上記基部223の径方向の内方から径方向の内方かつ軸方向の一方側に延在している。上記主リップ221は第一部分231と第二部分232とを有する。上記第一部分231は上記基部223の径方向内方から径方向の内方かつ軸方向の一方側に延在している。上記第二部分232は、上記第一部分231の軸方向の一方側の先端につながるとともに上記第一部分231の軸方向の一方側の先端より径方向の内方側に延在する。
【0068】
上記第二部分232の径方向の内方には、上記主リップ221のうち最も径方向内方側となる先端縁233がある。上記先端縁233の軸方向の一方側には上記先端縁233から軸方向の一方側に離れるに従い径方向の外方側に延在する液体側傾斜面234が隣接する。上記液体側傾斜面234は軸中心線に対して鋭角αで傾く略円錐面に形成されている。
【0069】
上記先端縁233の軸方向の他方側には上記先端縁233から軸方向の他方側に離れるに従い径方向の外方側に延在する空気側傾斜面235が隣接する。上記空気側傾斜面135は軸中心線に対して鋭角βで傾く略円錐面に形成されている。鋭角αは鋭角βよりも大きく形成している。
【0070】
上記第二部分232の径方向の外側には環状の溝が形成され、この環状の溝に環状のガータースプリング130が嵌め込まれている。上記ガータースプリング130は螺旋状のスプリングを有し、スプリングが少し伸びた状態で上記環状の溝に嵌められている。上記環状のガータースプリング130は上記主リップ221を径方向の内方に付勢する。
【0071】
上記空気側傾斜面235には、上記空気側傾斜面235に沿って上記先端縁233から上記軸方向他方側かつ周方向一方側に傾斜して延在するリブ242が形成されている。上記リブ242の稜線は上記先端縁233から上記リブ241の延在方向に沿った所定の範囲において、上記空気側傾斜面235からの突出高さが一定である低隆起部243と、この低隆起部243から上記リブ242の延在方向に沿って上記空気側傾斜面235からの突出高さが大きくなる傾斜隆起部244と、この傾斜隆起部244から上記リブ242の延在方向に沿って上記空気側傾斜面235からの突出高さが一定かつ上記低隆起部243の突出高さよりも大きい高隆起部245とを備える。上記リブ242は上記第一実施形態における上記リブ142と同じ形状に形成され、上記第一実施形態と同様の効果を奏する。
【0072】
上記基部223と、上記第一部分231と、上記副リップ222と、上記外周部224と、上記リブ242とは、上記第二の粘弾性材料271から形成される一方、上記第二部分232は上記第一の粘弾性材料261と上記第二の粘弾性材料271とから形成される。上記第二部分232は、上記第二の粘弾性材料271で上記第一実施形態の第二部分132と同様の形状に形成されているが、上記空気側傾斜面235かつ上記リブ242の径方向の外方側から上記先端縁233の径方向範囲よりも軸方向一方側まで軸方向かつ環状かつ有底に凹入する凹入部281が形成されている点が上記第一実施形態の第二部分132の形状と異なる。上記凹入部281には、上記第一の粘弾性材料261が充填されている。
【0073】
この第一の粘弾性材料261により、上記先端縁233に上記ユニバーサルジョイントフランジ18を嵌め入れた組み付け状態で、かつ、上記第二実施形態の密封装置210に対して上記ユニバーサルジョイントフランジ18が相対回転停止している時に、この第一の粘弾性材料261は、上記先端縁233を上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に付勢する。
【0074】
また、この第一の粘弾性材料261により、上記先端縁233に上記ユニバーサルジョイントフランジ18を嵌め入れた組み付け状態で、かつ、上記第二実施形態の密封装置210に対して上記ユニバーサルジョイントフランジ18が相対回転している時に、上記先端縁233が上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の描く組み付け前状態の先端縁233の描く円を含む平面上の上記回転中心点から最も大径である円状の軌跡に沿って拡径することができるとともに、上記先端縁233が組み付け前状態の上記先端縁233の径に戻ろうとする速さを抑えることができる。よって、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面と上記先端縁との摺動における面圧を小さくすることができ、摩擦抵抗を小さくすることでトルクを大幅に低減できるとともに、主リップの摩耗を抑制できる。したがって、この第二実施形態の密封装置を有する自動車等の燃費を低減できる。また、第二実施形態の密封装置の寿命を長くすることができる。
【0075】
このとき、上記主リップ221は、組み付け状態の上記先端縁233が回転状態での上記先端縁233に拡径した状態から、組み付け前状態の上記先端縁233に戻りにくいため、上記主リップ221が上記回転中心軸286を中心に公転するときの変位量が小さくなり、回転状態での上記先端縁233と上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面との局部的な面圧の高い接触部分の面圧を抑制できる。また、上記第二実施形態の密封装置210は振動が小さくなる。
【0076】
上記組み付け前状態の先端縁233の描く円を含む平面上における上記先端縁回転状態での上記先端縁233の径が上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の径よりも大きくなることで、上記先端縁233と上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面との接触面圧の小さい部分や、非接触となり生じた部分をとおって、液体側空間から空気側空間へ液体が漏れようとしても、上記リブ242が上記液体側空間へ押し戻すポンプ作用を生じることで、上記液体が上記空気側空間へ漏れ出すことを強く抑制し、良好な密封性が得られる。
【0077】
さらに、上記第二の粘弾性材料271を液体側空間に密封する液体に対して耐性を有する材料とすることで、耐液体性に優れた密封装置が得られる。
【0078】
上記第二実施形態の密封装置によれば、上記ベアリングケージ22と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との相対回転停止時には、上記第一の粘弾性材料261が、上記先端縁233を上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に付勢することで、上記液体側空間から上記液体が上記空気側空間に漏れようとすることを抑制する。
【0079】
また、上記第二実施形態の密封装置によれば、上記ベアリングケージ22と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との相対回転時には、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の回転中心線が、上記組み付け前状態の先端縁233の描く円の中心線に対して、上記組み付け前状態の先端縁233の描く円を含む平面上で、径方向に位置がずれたり、延在方向の角度の差を有していることで、回転状態での上記先端縁233に摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面が描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡が、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の径よりも大きくなっても、上記第一の粘弾性部材の25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上であるため、回転状態での上記先端縁233が、上記先端縁に摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面が描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡に容易に沿うよう拡径するとともに、回転状態での上記先端縁233が組み付け前状態の上記先端縁233の径に戻ろうとする速さを抑えることができる。よって、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面と回転状態での上記先端縁233との摺動における面圧を小さくすることができ、摩擦抵抗を小さくすることでトルクを大幅に低減できるとともに、主リップ221の摩耗を抑制できる。したがって、この密封装置を有する自動車等の燃費を低減できる。また、密封装置の寿命を長くすることができる。
【0080】
また、上記第二実施形態の密封装置によれば、上記主リップ221は、上記先端縁233の上記軸方向他方側に隣接して形成され上記先端縁233から軸方向他方側に離れるにつれて上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面から径方向に離れる空気側傾斜面235を備え、上記空気側傾斜面235に沿って形成され、上記先端縁233から上記軸方向他方側かつ上記周方向一方側に傾斜して延在するとともに上記先端縁側で上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に当接する複数のリブ242を備えているため、上記ベアリングケージ22と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との相対回転時に、上記先端縁233が上記先端縁233に摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡に容易に沿うよう拡径することで、上記先端縁233と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との当接部で、面圧が小さくなったり、隙間が生じたりした場合に、上記液体側空間から上記先端縁233と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との当接部における面圧の小さい部分や隙間が生じた部分を通過して上記空気側空間へ漏れ出ようとする液体を上記リブ242が液体側空間へ押し戻すポンプ作用を生じることで、上記先端縁133が拡径しても、上記液体が上記空気側空間へ漏れ出すことを強く抑制し、良好な密封性が得られる。
【0081】
また、上記第二実施形態の密封装置は、上記第一の粘弾性材料261は、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.60以上である粘弾性材料からなるため、さらに摩擦抵抗を小さくするとともに、主リップの摩耗を抑制でき、トルクを大幅に低減できて、寿命を長くすることができる。
【0082】
また、上記第二実施形態の密封装置は、上記リブ242の稜線が上記先端縁233から上記リブ242の延在方向に沿った所定の範囲において上記空気側傾斜面235からの突出高さが一定である低隆起部243と、この低隆起部243から上記リブ242の延在方向に沿って上記空気側傾斜面235からの突出高さが大きくなる傾斜隆起部244を備えるため、上記リブ242が摩耗していないときには低隆起部243でポンプ作用の効果が得られるとともに、上記リブ242の先端縁233が摩耗するとともに低隆起部243が摩耗し、先端縁233が軸方向に広くなったときに、傾斜隆起部244により強いポンプ作用の効果が得られ、先端縁233の摩耗時にも、液体が漏れやすくなることを抑制でき、密封装置の寿命を伸ばすことができる。
【0083】
以下、本発明の第三実施形態を図示の形態により詳細に説明する。第三実施形態は、上記第一実施形態と弾性部材の構成を除いて上記第一実施形態と同様である。このため、以下には、弾性部材について、詳細に説明する。
【0084】
図11は、第二実施形態の密封装置310の構造を、詳細に説明する断面図である。詳しくは、図11は、組み付け前での、芯金部材125、弾性部材320の位置関係を示す軸方向の断面図である。図11では、弾性部材320の位置として上記ユニバーサルジョイントフランジ18から力を受けていない場合における、弾性部材の組み付け前での位置を示した要部拡大図である。図11のリブ342は、リブ342の稜線の軸方向成分が軸方向に伸びる様子を、軸方向中心を含む平面に沿って記載している。図示しないが、第一実施形態の密封装置の図5に示される空気側傾斜面135、液体側傾斜面134、および、リブ142と同じ形態であり、上記リブ342は上記空気側傾斜面335に沿って形成され、上記先端縁333から上記軸方向他方側かつ周方向一方側に傾斜している。
【0085】
上記第一実施形態の密封装置10の弾性部材120は、弾性部材120全体が25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上である第一の粘弾性材料からなるのに対して、第三実施形態の密封装置310の弾性部材320はこの弾性部材320の表面およびリブ342が25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55未満、特に、0.10以上0.20以下である第二の粘弾性材料を用い、これらを一体化している。第一の粘弾性材料については、上記第一実施形態における第一の粘弾性材料と同じものを使用している。第二の粘弾性材料は、具体的には、ゴム材からなる。ゴム材は、好ましくは、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴムが好適に用いられる。
【0086】
上記弾性部材320は、環状に形成され、軸方向延在部126の軸方向の一方側の外周と、上記外周につながる上記軸方向延在部126の軸方向一方側の端部と、上記端部につながる軸方向延在部126の内周と、上記内周につながる径方向延在部127の軸方向の一方側とからなる芯金部材125の軸方向の一方側の全面を覆うように芯金部材125に固着されている。上記弾性部材320は基部323と、主リップ321と、副リップ322と、外周部324とを有する。
【0087】
上記基部323は軸方向延在部126の内周面および径方向延在部127の軸方向の一方側の端面に沿うように配置されている。上記基部323は、軸方向延在部126の内周面および径方向延在部127の軸方向の一方側の端面に固着されている。
【0088】
上記副リップ322は上記基部323の径方向の内方から径方向の内方かつ軸方向の他方側に延在している。
【0089】
上記主リップ321は上記基部323の径方向の内方から径方向の内方かつ軸方向の一方側に延在している。上記主リップ321は第一部分331と第二部分332とを有する。上記第一部分331は上記基部323の径方向内方から径方向の内方かつ軸方向の一方側に延在している。上記第二部分332は、上記第一部分331の軸方向の一方側の先端につながるとともに上記第一部分331の軸方向の一方側の先端より径方向の内方側に延在する。
【0090】
上記第二部分332の径方向の内方には、上記主リップ321のうち最も径方向内方側となる先端縁333がある。上記先端縁333の軸方向の一方側には上記先端縁333から軸方向の一方側に離れるに従い径方向の外方側に延在する液体側傾斜面334が隣接する。上記液体側傾斜面334は軸中心線に対して鋭角αで傾く略円錐面に形成されている。上記先端縁333の軸方向の他方側には上記先端縁333から軸方向の他方側に離れるに従い径方向の外方側に延在する空気側傾斜面335が隣接する。上記空気側傾斜面335は軸中心線に対して鋭角βで傾く略円錐面に形成されている。鋭角αは鋭角βよりも大きく形成している。
【0091】
上記第二部分332の径方向の外側には環状の溝が形成され、この環状の溝に環状のガータースプリング130が嵌め込まれている。上記ガータースプリング130は螺旋状のスプリングを有し、スプリングが少し伸びた状態で上記環状の溝に嵌められている。上記環状のガータースプリング130は上記主リップ321を径方向の内方に付勢する。
【0092】
上記空気側傾斜面335には、上記空気側傾斜面335に沿って上記先端縁333から上記軸方向他方側かつ周方向一方側に傾斜して延在するリブ342が形成されている。上記リブ342の稜線は上記先端縁333から上記リブ341の延在方向に沿った所定の範囲において、上記空気側傾斜面335からの突出高さが一定である低隆起部343と、この低隆起部343から上記リブ342の延在方向に沿って上記空気側傾斜面335からの突出高さが大きくなる傾斜隆起部344と、この傾斜隆起部344から上記リブ342の延在方向に沿って上記空気側傾斜面335からの突出高さが一定かつ上記低隆起部343の突出高さよりも大きい高隆起部345とを備える。上記リブ342は上記第一実施形態における上記リブ142と同じ形状に形成され、上記第一実施形態と同様の効果を奏する。
【0093】
上記基部323と、上記主リップ321と、上記副リップ322と、上記外周部324とを含む上記弾性部材320は、露出する表面から所定深さよりも内部が、上記第一の粘弾性材料361から形成される一方、露出する表面から所定深さまでは上記第二の粘弾性材料371から形成され、上記リブ342についてはその全体が上記第二の粘弾性材料371から形成される。
【0094】
この第一の粘弾性材料361により、上記先端縁333に上記ユニバーサルジョイントフランジ18を嵌め入れた組み付け状態で、かつ、上記第三実施形態の密封装置310に対して上記ユニバーサルジョイントフランジ18が相対回転停止している時に、この第一の粘弾性材料361は、上記先端縁333を上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に付勢する。
【0095】
また、この第一の粘弾性材料361により、上記先端縁333に上記ユニバーサルジョイントフランジ18を嵌め入れた組み付け状態で、かつ、上記第二実施形態の密封装置310に対して上記ユニバーサルジョイントフランジ18が相対回転している時に、上記先端縁233が上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の描く組み付け前状態の先端縁333の描く円を含む平面上の上記回転中心点から最も大径である円状の軌跡に沿って拡径することができるとともに、上記先端縁333が組み付け前状態の上記先端縁333の径に戻ろうとする速さを抑えることができる。よって、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面と上記先端縁との摺動における面圧を小さくすることができ、摩擦抵抗を小さくすることでトルクを大幅に低減できるとともに、主リップの摩耗を抑制できる。したがって、この第三実施形態の密封装置を有する自動車等の燃費を低減できる。また、第三実施形態の密封装置の寿命を長くすることができる。
【0096】
このとき、上記主リップ321は、組み付け状態の上記先端縁333が回転状態での上記先端縁333に拡径した状態から、組み付け前状態の上記先端縁333に戻りにくいため、上記主リップ321が上記回転中心軸386を中心に公転するときの変位量が小さくなり、回転状態での上記先端縁333と上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面との局部的な面圧の高い接触部分の面圧を抑制できる。また、上記第三実施形態の密封装置310は振動が小さくなる。
【0097】
上記組み付け前状態の先端縁333の描く円を含む平面上における上記先端縁回転状態での上記先端縁333の径が上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の径よりも大きくなることで、上記先端縁333と上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面との接触面圧の小さい部分や、非接触となり生じた部分をとおって、液体側空間から空気側空間へ液体が漏れようとしても、上記リブ342が上記液体側空間へ押し戻すポンプ作用を生じることで、上記液体が上記空気側空間へ漏れ出すことを強く抑制し、良好な密封性が得られる。
【0098】
さらに、上記第二の粘弾性材料371を液体側空間に密封する液体に対して耐性を有する材料とすることで、耐液体性に優れた密封装置が得られる。
【0099】
上記第三実施形態の密封装置によれば、上記ベアリングケージ22と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との相対回転停止時には、上記第一の粘弾性材料361が、上記先端縁333を上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に付勢することで、上記液体側空間から上記液体が上記空気側空間に漏れようとすることを抑制する。
【0100】
また、上記第三実施形態の密封装置によれば、上記ベアリングケージ22と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との相対回転時には、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の回転中心線が、上記組み付け前状態の先端縁333の描く円の中心線に対して、上記組み付け前状態の先端縁333の描く円を含む平面上で、径方向に位置がずれたり、延在方向の角度の差を有していることで、回転状態での上記先端縁333に摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面が描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡が、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の径よりも大きくなっても、上記第一の粘弾性部材の25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上であるため、回転状態での上記先端縁333が、上記先端縁に摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面が描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡に容易に沿うよう拡径するとともに、回転状態での上記先端縁333が組み付け前状態の上記先端縁333の径に戻ろうとする速さを抑えることができる。よって、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面と回転状態での上記先端縁333との摺動における面圧を小さくすることができ、摩擦抵抗を小さくすることでトルクを大幅に低減できるとともに、主リップ321の摩耗を抑制できる。したがって、この密封装置を有する自動車等の燃費を低減できる。また、密封装置の寿命を長くすることができる。
【0101】
また、上記第三実施形態の密封装置によれば、上記主リップ321は、上記先端縁333の上記軸方向他方側に隣接して形成され上記先端縁333から軸方向他方側に離れるにつれて上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面から径方向に離れる空気側傾斜面335を備え、上記空気側傾斜面335に沿って形成され、上記先端縁333から上記軸方向他方側かつ上記周方向一方側に傾斜して延在するとともに上記先端縁側で上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に当接する複数のリブ342を備えているため、上記ベアリングケージ22と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との相対回転時に、上記先端縁333が上記先端縁333に摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡に容易に沿うよう拡径することで、上記先端縁333と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との当接部で、面圧が小さくなったり、隙間が生じたりした場合に、上記液体側空間から上記先端縁333と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との当接部における面圧の小さい部分や隙間が生じた部分を通過して上記空気側空間へ漏れ出ようとする液体を上記リブ342が液体側空間へ押し戻すポンプ作用を生じることで、上記先端縁333が拡径しても、上記液体が上記空気側空間へ漏れ出すことを強く抑制し、良好な密封性が得られる。
【0102】
また、上記第三実施形態の密封装置は、上記第一の粘弾性材料361は、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.60以上である粘弾性材料からなるため、さらに摩擦抵抗を小さくするとともに、主リップの摩耗を抑制でき、トルクを大幅に低減できて、寿命を長くすることができる。
【0103】
また、上記第三実施形態の密封装置は、上記リブ342の稜線が上記先端縁333から上記リブ342の延在方向に沿った所定の範囲において上記空気側傾斜面335からの突出高さが一定である低隆起部343と、この低隆起部343から上記リブ342の延在方向に沿って上記空気側傾斜面335からの突出高さが大きくなる傾斜隆起部344を備えるため、上記リブ342が摩耗していないときには低隆起部343でポンプ作用の効果が得られるとともに、上記リブ342の先端縁333が摩耗するとともに低隆起部343が摩耗し、先端縁333が軸方向に広くなったときに、傾斜隆起部344により強いポンプ作用の効果が得られ、先端縁333の摩耗時にも、液体が漏れやすくなることを抑制でき、密封装置の寿命を伸ばすことができる。
【0104】
なお、上記第一実施形態、上記第二実施形態、および、上記第三実施形態の実施例の密封装置では、リブの稜線が先端縁から上記リブの延在方向に沿った所定の範囲において上記空気側傾斜面からの突出高さが一定である低隆起部と、この低隆起部から上記リブの延在方向に沿って上記空気側傾斜面からの突出高さが大きくなる傾斜隆起部を備えていたが、平行リブであっても、上記先端縁から上記リブの延在方向に沿って上記空気側傾斜面からの突出高さが大きくなる傾斜リブであっても、また稜線が延在方向に曲線である形状をいずれかの部分に採用しても良い。
【0105】
また、上記第一実施形態の実施例の密封装置では弾性部材全体を一種類の第一の粘弾性材料で形成していたが、二つ以上の種類の第一の粘弾性材料を組み合わせて、形成してもよい。また、上記第二実施形態、および、上記第三実施形態の実施例の密封装置では特定の箇所に第一の粘弾性材料を用い、他の部分に第二の粘弾性材料を用いて形成していたが、上記特定の箇所は本発明の効果が得られる他の箇所であってもよいことはもちろんである。
【0106】
また、上記第一実施形態、上記第二実施形態、および、上記第三実施形態では、本発明の密封装置をデファレンシャル装置(差動装置)の入力軸部材の密封装置として使用したが、デファレンシャル装置(差動装置)の出力軸部材、トランスミッション装置の入力軸部材、トランスミッション装置の出力軸部材、ウォーターポンプ、潤滑油で潤滑される車輪用軸受装置の外輪部材と内輪部材または/および内輪部材との間の密封装置としてもよく、そのほかの用途に用いても良いことはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の第一実施形態の密封装置を有するデファレンシャル装置(差動装置)の分解斜視図である。
【図2】本発明の第一実施形態の密封装置を有するデファレンシャル装置の入力軸の軸方向と出力軸の軸方向とを含む平面によって切断した断面図である。
【図3】本発明の第一実施形態の密封装置全体の拡大断面図である。
【図4】本発明の第一実施形態の密封装置の要部断面図である。
【図5】本発明の第一実施形態の密封装置の軸中心線側から見た様子を示す要部拡大図である。
【図6】本発明の第一実施形態の密封装置を軸部材に装着した様子を示す密封装置全体の拡大断面図である。
【図7】本発明の第一実施形態の密封装置を軸部材に装着した様子を示す要部断面図である。
【図8】図8(a)は、本発明の第一実施形態の密封装置を軸部材に装着し、軸部材が回転停止状態である様子を示す要部断面図であり、図8(b)は、本発明の第一実施形態の密封装置を軸部材に装着し、軸部材が回転状態である様子を示す要部断面図である。
【図9】図9(a)は、従来の密封装置を軸部材に装着し、軸部材が回転停止状態である様子を示す要部断面図であり、図9(b)は、従来の密封装置を軸部材に装着し、軸部材が回転状態である様子を示す要部断面図である。
【図10】本発明の第二実施形態の密封装置全体の拡大断面図である。
【図11】本発明の第三実施形態の密封装置全体の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0108】
18 ユニバーサルジョイントフランジ(他方部材、ハウジング部材)
22 ベアリングケージ(一方部材、軸部材)
10,210,310 密封装置
121,221,321 主リップ
122,222,223 副リップ
131,132,133 第一部分
132,232,332 第二部分
133,233,333 先端縁
134,234,334 液体側傾斜面
135,235,335 空気側傾斜面
142,242,342 リブ
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関し、特に、自動車等のデファレンシャル装置、自動車等のトランスミッション装置、ウォーターポンプまたは車輪用軸受装置に使用されれば好適な密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、密封装置としては、特開平7−286656号公報(特許文献1)に記載されているものがある。
【0003】
この密封装置は、デファレンシャル装置(差動装置)のキャリヤケース(一方部材)に固定され、入力軸(他方部材)の周面や入力軸に固定されたスリンガに摺動する弾性体からなるリップを備えている。上記入力軸は、上記キャリヤケースに対して転がり軸受で相対回転可能に支持されている。上記キャリヤケースは内部に潤滑油(液体)が充填されている。上記リップは、潤滑油の充填された内部から外部空間に向かって、入力軸に固定されたユニバーサルジョイントフランジの周面に強く圧接させて摺動するためのガータースプリングを有する主リップと、上記ユニバーサルジョイントフランジに摺動する副リップと、上記ユニバーサルジョイントフランジに取り付けられた環状のスリンガに摺動するダストリップとが設けられている。
【0004】
この密封装置は、上記潤滑油が上記キャリヤケース内から外部に漏れることを抑制している。特に、上記主リップによって潤滑油が外部に漏洩することを抑制している。上記主リップは上記キャリヤケース側から軸方向一方側かつ径方向内方に向かう第一部分と、この第一部分の軸方向一方側端部に接続され径方向内方に上記ユニバーサルジョイントフランジに摺動する先端縁を有する第二部分とを備える。上記主リップの先端縁は上記ユニバーサルジョイントフランジに径方向に強く圧接している。上記先端縁は、上記入力軸が回転したときに、上記ユニバーサルジョイントフランジの周面に対して摺動する。このとき、上記主リップと上記ユニバーサルジョイントフランジの周面とは、上記キャリヤケース内部の上記潤滑油によって潤滑される。上記主リップは、一般的な密封装置用のニトリルゴムや、アクリルゴムで形成され、このニトリルゴムや、アクリルゴムは、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.1から0.2であり、弾性(貯蔵剪断弾性率)が大きく、変形してもすぐに元の形状に戻りやすい性質を有している。
【0005】
上記キャリヤケースや、回転軸、ユニバーサルジョイントフランジ、密封装置、転がり軸受は、加工精度に基づく不可避的な精度誤差を有する。この精度誤差や、上記各部材に負荷される荷重などの影響で、上記キャリヤケースに転がり軸受、回転軸、ユニバーサルジョイントフランジ、および、密封装置を組み付けた状態(以下、組み付け状態という)であって、上記ユニバーサルフランジが上記密封装置に対して相対回転停止である場合においては、上記ユニバーサルジョイントフランジの周面の中心線と、上記先端縁に上記第二部材の周面を当接させる前(以下、組み付け前状態という)の上記先端縁の描く円の中心線とは、完全には一致しない。詳しくは、上記組み付け状態において、上記ユニバーサルジョイントフランジの周面の中心線が上記組み付け前状態の上記先端縁の描く円の中心線に対して径方向にずれている、または/および、上記ユニバーサルジョイントフランジの周面の中心線の延伸方向と上記組み付け前状態の上記先端縁の描く円の中心線の延伸方向との間に角度が生じている、という状態が生じる。
【0006】
このとき、上記密封装置は、上記主リップがtanδで表される損失正接が0.1から0.2であるである粘弾性材料で形成され、また、上記第一部分が環状の軸方向断面板状に形成される一方、上記第二部分が環状の軸方向断面ブロック状に形成され、上記第一部分が上記第二部分よりも径方向に変位しやすいため、上記ユニバーサルジョイントフランジの周面の中心線と、上記先端縁の描く円の中心線を、上記先端縁の描く円を含む平面において一致させるよう、主として上記密封装置の第一部分が変形する。
【0007】
さらに、組み付け状態かつ上記ユニバーサルフランジの上記密封装置に対する相対回転時において、ユニバーサルジョイントフランジの回転中心線が上記ユニバーサルジョイントフランジの周面の中心線に対して径方向にずれている、または/および、上記ユニバーサルジョイントフランジの回転中心線の延伸方向と上記ユニバーサルジョイントフランジの周面の中心線の延伸方向との間に角度が生じている、という状態が生じる。
【0008】
このとき、上記密封装置は、上記第一部分が上記第二部分よりも径方向に変位しやすいため、上記第二部分が上記ユニバーサルジョイントの回転中心線を中心に公転するとともに、上記第一部分が上記第二部分の公転に伴い周期的に変形する。
【0009】
このような従来の密封装置では、上記ユニバーサルフランジが上記密封装置に対して相対回転停止である場合も、上記ユニバーサルフランジが上記密封装置に対して相対回転している場合も、上記主リップは上記ユニバーサルフランジを強く緊迫し、上記相対回転時には、上記主リップと上記ユニバーサルジョイントフランジの周面との摩擦抵抗が大きくなるとともに、主リップが摩耗しやすい。
【0010】
また、上記主リップを備えた密封装置は、デファレンシャル装置のケース部材に固定され出力軸部材の周面に摺動する密封装置、トランスミッション装置のケース部材に固定され入力軸部材または出力軸部材の周面に摺動する密封装置、潤滑油により潤滑される車輪用軸受の外輪部材に固定され内輪部材の周面に摺動する密封装置、ウオーターポンプの外輪部材に固定され内輪部材の周面に摺動する密封装置にも用いられ、上記密封装置と同様に、摩擦抵抗が大きく主リップが摩耗しやすい課題が生じる。
【0011】
このような背景において、デファレンシャル装置において、潤滑油の漏れを抑制する密封装置のトルクの大幅な低減が所望されている。また、上記従来の密封装置において、主リップの寿命が短いという問題がある。
【特許文献1】特開平7−286656号公報(第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明の課題は、トルクを大幅に低減できて、寿命も長い密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、この発明の密封装置は、
環状に形成され、
第一部材と、上記第一部材に対して相対回転する第二部材との、何れか一方部材に固定されるとともに、
リップ部を有する弾性部材を備え、
上記リップ部の先端縁が、上記第一部材と上記第二部材との何れか他方部材の周面に当接し、上記第一部材と上記第二部材との相対回転により上記他方部材の周面と摺動し、
上記第一部材と上記第二部材との形成する空間を、液体の密封される軸方向一方側の液体側空間と軸方向他方側の空気側空間とに画定する密封装置において、
上記リップ部は、上記先端縁の上記軸方向他方側に隣接して形成され上記先端縁から軸方向他方側に離れるにつれて上記他方の部材の周面から径方向に離れる空気側傾斜面を備え、上記空気側傾斜面に沿って形成され、上記先端縁から上記軸方向他方側かつ上記周方向一方側に傾斜して延在するとともに上記先端縁側で上記他方の部材の周面に当接する複数のリブを備え、
上記先端縁を上記他方部材の周面に付勢する弾性部材の少なくとも一部分は、
25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上である第一の粘弾性材料からなることを特徴としている。
【0014】
上記「先端縁を上記他方部材の周面に付勢する上記弾性部材の少なくとも一部分は、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上である第一の粘弾性材料からなる」という文言は、弾性部材の全てが第一の粘弾性材料である場合は勿論のこと、
上記弾性部材の一部分に上記第一の粘弾性材料を用い、上記弾性部材の一部分を除く部分にこの第一の粘弾性材料とは異なる、例えば、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55未満である粘弾性材料を用いた構成とし、上記第一の粘弾性材料が上記先端縁を上記他方部材の表面に付勢する力を全て、または、一部、担う場合も含むものとする。
【0015】
本発明によれば、上記第一部材と上記第二部材との相対回転停止時には、上記第一の粘弾性材料が、上記先端縁を上記他方部材の周面に付勢することで、上記液体側空間から上記液体が上記空気側空間に漏れようとすることを抑制する。
【0016】
また、本発明によれば、上記第一部材と上記第二部材との相対回転時には、上記第二部材の周面の回転中心線が、上記組み付け前状態の先端縁の描く円の中心線に対して、上記組み付け前状態の先端縁の描く円を含む平面上で、径方向に位置がずれたり、延在方向の角度の差を有していることで、上記先端縁に摺動する上記第二部材の周面が描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡が、上記第二部材の周面の径よりも大きくなっても、上記第一の粘弾性部材の25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上であるため、上記先端縁が、上記先端縁に摺動する上記第二部材の周面が描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡に容易に沿うよう拡径するとともに、上記先端縁が組み付け前状態の径に戻ろうとする速さを抑えることができる。よって、上記第二部材の周面と上記先端縁との緊迫力を小さくして摺動における面圧を小さくすることができ、摩擦抵抗を小さくすることでトルクを大幅に低減できるとともに、リップ部の摩耗を抑制できる。したがって、この密封装置を有する自動車等の燃費を低減できる。また、密封装置の寿命を長くすることができる。
【0017】
また、本発明によれば、上記リップ部は、上記先端縁の上記軸方向他方側に隣接して形成され上記先端縁から軸方向他方側に離れるにつれて上記他方の部材の周面から径方向に離れる空気側傾斜面を備え、上記空気側傾斜面に沿って形成され、上記先端縁から上記軸方向他方側かつ上記周方向一方側に傾斜して延在するとともに上記先端縁側で上記他方の部材の周面に当接する複数のリブを備えているため、上記第一部材と上記第二部材との相対回転時に、上記先端縁が上記先端縁に摺動する上記第二部材の周面の描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡に容易に沿うよう拡径することで、上記先端縁と上記第二部材との当接部で、面圧が小さくなったり、隙間が生じたりした場合に、上記液体側空間から上記先端縁と上記第二部材との当接部における面圧の小さい部分や隙間が生じた部分を通過して上記空気側空間へ漏れ出ようとする液体を上記リブが液体側空間へ押し戻すポンプ作用を生じることで、上記先端縁が拡径しても、上記液体が上記空気側空間へ漏れ出すことを強く抑制し、良好な密封性が得られる。
【0018】
また、一実施形態の密封装置は、上記第一の粘弾性材料は、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.60以上である粘弾性材料からなることを特徴としている。
【0019】
上記実施形態によれば、さらに摩擦抵抗を小さくするとともに、主リップの摩耗を抑制でき、トルクを大幅に低減できて、寿命を長くすることができる。
【0020】
また、一実施形態の密封装置は、上記リブの稜線が上記先端縁から上記リブの延在方向に沿った所定の範囲において上記空気側傾斜面からの突出高さが一定である低隆起部と、この低隆起部から上記リブの延在方向に沿って上記空気側傾斜面からの突出高さが大きくなる傾斜隆起部を備えることを特徴としている。
【0021】
上記実施形態によれば、上記リブが摩耗していないときには低隆起部でポンプ作用の効果が得られるとともに、上記先端縁が摩耗するとともに低隆起部が摩耗し、先端縁が軸方向に広くなったときに、傾斜隆起部により強いポンプ作用の効果が得られ、先端縁の摩耗時にも、液体が漏れやすくなることを抑制でき、一実施形態の密封装置の寿命を延ばすことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の密封装置によれば、寿命を長くすることができる。また、トルクを格段に低減することができて、この発明の密封装置を搭載した自動車等の燃費を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の第一実施形態の密封装置を有するデファレンシャル装置の分解斜視図である。また、図2は、本発明の第一実施形態の密封装置を有するデファレンシャル装置の入力軸の中心軸を含む平面によって切断した断面図である。また、図3は、本発明の第一実施形態の密封装置の軸方向断面図である。
【0025】
この自動車等に用いられるデファレンシャル装置(差動装置)は、一般的に、図1に示すように、キャリアケース20と、キャリアケース20内に配置されデフケースレフト42aに固定して取付けられるリングギヤ44と、上記キャリアケース20に回転自在に支持されて、上記リングギヤ44に噛み合うピニオン46を先端に有する入力軸14を備えている。また、デフケース42は、デフケースレフト42aと、デフケースレフト42aにボルト42cにより結合され差動機構を内装するデフケースライト42bとを備え、上記リングギヤ44は上記デフケース42にボルト44aで保持される。上記デフケースライト42b内には、十字形に延びる軸部に自転可能に嵌合した4つのデフピニオン48を有するスパイダ50と、上記デフピニオン48に噛み合う2つのサイドギヤ52とが設けられ、サイドギヤ52には図示しない左右のアクスルシャフトが、スプライン結合している。
【0026】
上記入力軸14は、図2に示すように、ユニバーサルジョイントフランジ18を介してプロペラシャフト16に接続され、プロペラシャフト16の回転力が伝達されて回転駆動する。このようにして先端に上記ピニオン46を有する上記入力軸14が回転駆動すると、上記ピニオン46と噛み合う上記リングギヤ44が固定して取付けられた上記デフケース42、及びデフケース42内に配置された上記サイドギヤ52が、図示しない上記アクスルシャフトの軸線を中心に一体的に回転して、車両の直進時には上記デフピニオン48が自転することなく図示しない上記アクスルシャフトの軸線を中心に回転することにより上記サイドギヤ52が回転して、サイドギヤ52にスプライン結合された図示しない左右の上記アクスルシャフトが等速で回転する。一方、車両が進行方向を変え左右の車輪に回転数差が生じた時には、上記デフピニオン48が自転することにより、この回転数差を調整して、タイヤが滑るのを防止している。
【0027】
このようなデファレンシャル装置において、上記入力軸14を上記キャリアケース20に回転自在に支持するデフ入力軸支持部12は、図2に示すように、上記キャリアケース20に固定して取付けられたベアリングケージ22と、ベアリングケージ22に支持される円錐ころ軸受(転がり軸受)24とを備え、上記ベアリングケージ22の内面22aに上記円錐ころ軸受24の外輪26を圧入すると共に、上記円錐ころ軸受24の内輪28の内周面28aに上記入力軸14を圧入することにより組み付けられ、上記外輪26と上記内輪28と上記外輪26の軌道面と上記内輪28の軌道面との間を転動可能な円錐ころを備える上記円錐ころ軸受24を介して入力軸14を回転自在に支持している。
【0028】
上記デフ入力軸支持部12の上記キャリアケース20内には、上記入力軸14の回転を円滑にするために、潤滑油が充填される。この潤滑油が外部空間に漏れることを防ぐため、上記入力軸14にスプライン嵌合されたユニバーサルジョイントフランジ18に圧接する主リップ121を有する弾性部材120を備えた第一実施形態の密封装置10が設けられている。上記第一実施形態の密封装置10が固定されるハウジング部材としての上記ベアリングケージ22(一方部材)の内面は内周円筒面となっている。軸部材としての上記ユニバーサルジョイントフランジ18(他方部材)の外周面は外周円筒面となっている。上記ベアリングケージ22や上記ユニバーサルジョイントフランジ18は金属材料等、上記弾性部材120よりも硬い材料から形成されている。
【0029】
図3、図4、図6および図7は、上記第一実施形態の密封装置10の構造を、詳細に説明する断面図である。詳しくは、図3は、組み付け前での、芯金部材125、弾性部材120の位置関係を示す軸方向の断面図である。図3では、弾性部材120の位置として上記ユニバーサルジョイントフランジ18から力を受けていない場合における、弾性部材の組み付け前での位置を示している。図4は、図3の要部拡大図である。図5は、図4におけるこの第一実施形態の密封装置を軸中心線側から見た要部拡大図である。一方、図6は、第一実施形態の密封装置10をベアリングケージ22の内面に固定するとともに上記ユニバーサルジョイントフランジ18に嵌め込み、かつ、弾性部材120が摩耗していない非摩耗状態での弾性部材120の位置を示す断面図である。図7は、図6の要部拡大図である。図8(a)は、上記第一実施形態の密封装置10に上記ユニバーサルジョイントフランジ18を嵌め込んだ状態において、上記ユニバーサルジョイントフランジ18が上記第一実施形態の密封装置10に対して相対回転停止状態である場合の位置を示す要部断面図であり、図8(b)は上記ユニバーサルジョイントフランジ18が上記第一実施形態の密封装置10に対して相対回転状態である場合の位置を示す要部断面図である。図3、図4、図6および図7のリブ142は、リブ142の稜線の軸方向成分が軸方向に伸びる様子を、軸方向中心を含む平面に沿って記載している。図5に示すとおり、上記リブ142は上記空気側傾斜面135に沿って形成され、上記先端縁133から上記軸方向他方側かつ周方向一方側に傾斜している。
【0030】
図3に示すとおり、第一実施形態の密封装置10は環状の芯金部材125と、環状の弾性部材120と、ガータースプリング130とを備える。芯金部材125は、環状に形成され、断面L字状の形状を有している。芯金部材は、筒状の軸方向延在部126と、径方向延在部127とからなる。上記径方向延在部126は、軸方向延在部126の内周面における軸方向の他方側(図3の紙面における左側)から径方向の内方に延在している。
【0031】
上記弾性部材120は、環状に形成され、軸方向延在部126の軸方向の一方側の外周と、上記外周につながる上記軸方向延在部126の軸方向一方側の端部と、上記端部につながる軸方向延在部126の内周と、上記内周につながる径方向延在部127の軸方向の一方側とからなる芯金部材125の軸方向の一方側の全面を覆うように芯金部材125に固着されている。上記弾性部材120は基部123と、主リップ121と、副リップ122と、外周部124とを有する。
【0032】
上記基部123は軸方向延在部126の内周面および径方向延在部127の軸方向の一方側の端面に沿うように配置されている。上記基部123は、軸方向延在部126の内周面および径方向延在部127の軸方向の一方側の端面に固着されている。
【0033】
上記副リップ122は上記基部123の径方向の内方から径方向の内方かつ軸方向の他方側に延在している。
【0034】
上記主リップ121は上記基部123の径方向の内方から径方向の内方かつ軸方向の一方側に延在している。上記主リップ121は第一部分131と第二部分132とを有する。上記第一部分131は上記基部123の径方向内方から径方向の内方かつ軸方向の一方側に延在している。上記第二部分132は、上記第一部分131の軸方向の一方側の先端につながるとともに上記第一部分131の軸方向の一方側の先端より径方向の内方側に延在する。
【0035】
上記第二部分132の径方向の内方には、上記主リップ121のうち最も径方向内方側となる先端縁133がある。上記先端縁133の軸方向の一方側には上記先端縁133から軸方向の一方側に離れるに従い径方向の外方側に延在する液体側傾斜面134が隣接する。上記液体側傾斜面134は軸中心線に対して鋭角αで傾く略円錐面に形成されている。上記先端縁133の軸方向の他方側には上記先端縁133から軸方向の他方側に離れるに従い径方向の外方側に延在する空気側傾斜面135が隣接する。上記空気側傾斜面135は軸中心線に対して鋭角βで傾く略円錐面に形成されている。鋭角αは鋭角βよりも大きく形成している。
【0036】
上記第二部分132の径方向の外側には環状の溝が形成され、この環状の溝に環状のガータースプリング130が嵌め込まれている。上記ガータースプリング130は螺旋状のスプリングを有し、スプリングが少し伸びた状態で上記環状の溝に嵌められている。上記環状のガータースプリング130は上記主リップ121を径方向の内方に付勢する。
【0037】
図4に示すように、上記空気側傾斜面135には、上記空気側傾斜面135に沿って上記先端縁133から上記軸方向他方側かつ周方向一方側に傾斜して延在するリブ142が形成されている。上記リブ142の稜線は上記先端縁133から上記リブ141の延在方向に沿った所定の範囲において、上記空気側傾斜面135からの突出高さが一定である低隆起部143と、この低隆起部143から上記リブ142の延在方向に沿って上記空気側傾斜面135からの突出高さが大きくなる傾斜隆起部144と、この傾斜隆起部144から上記リブ142の延在方向に沿って上記空気側傾斜面135からの突出高さが一定かつ上記低隆起部143の突出高さよりも大きい高隆起部145とを備える。
【0038】
図5に示すとおり、上記リブ142は上記空気側傾斜面135に沿って形成され、上記先端縁133から上記軸方向他方側かつ周方向一方側に傾斜している。本第一実施形態の密封装置10の軸中心線に対する上記リブ142の延在方向の鋭角の傾きは5°から85°に設定されている。なお、上記範囲内でも、好ましくは15°から75°、更に好ましくは25から65°の範囲とすることが好ましい。
【0039】
図6に示すように、上記主リップ121、および、上記副リップ122は組み付け状態において、上記ベアリングケージ22(一方部材)と上記ユニバーサルジョイントフランジ18(他方部材)との相対回転により、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の外周面に摺動するようになっている。上記軸方向延在部126の外周面と上記外周部124の外周面とが、上記外周部124の変形を伴って、上記ベアリングケージ22の内周面に当接して固定されている。上記主リップ121、および、上記副リップ122は組み付け状態において、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の外周面から力を受けていて、図3における、上記ユニバーサルジョイントフランジ18から力を受けていないと仮定した場合よりも、径方向の外方側に移動している。
【0040】
図6および図7に示すように、主リップ121は組み付け状態において、図4および図5に示される上記先端縁133の全周と、上記リブ142の上記先端縁133側と、は弾性部材が変形して上記ユニバーサルジョイントフランジ18に全周にわたって当接している。この状態の上記先端縁を組み付け状態の先端縁133aとする。上記リブ142は、上記先端縁133aから上記低隆起部143の延在方向範囲内まで上記リブ142が変形して当接している。上記リブ142は、上記先端縁133aとともに摩耗していくと、上記傾斜隆起部144、上記高隆起部145の順に上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に接触することになる。そして、上記傾斜隆起部144は上記低隆起部143よりポンプ作用の効果が大きいため上記先端縁133aと上記低隆起部143とが摩耗しても十分な密封性を維持し、上記高隆起部145は上記傾斜隆起部144よりさらにポンプ作用の効果が大きいため上記先端縁133aと上記傾斜隆起部144とが摩耗しても十分な密封性を維持できる。
【0041】
上記弾性部材120は上記リブ142を含むその全体が、第一の粘弾性材料161から形成されている。具体的にはゴム材からなる。上記第一の粘弾性材料161は、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上である粘弾性材料である。さらに好ましくは、上記弾性材料は、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.60以上である粘弾性材料からなる。このような第一の粘弾性材料としては、シリコーンを主原料とする非常に柔らかいゲル状素材があげられる。このようなゲル素材としては、株式会社ジェルテック製の商品名:αGELがあげられる。このゲル素材はスポンジ状のシリコーンゲルである。
【0042】
また、上記tanδで表される損失正接は、貯蔵剪断弾性率(G’)と損失剪断弾性率(G”)の比、G”/G’であり、tanδの値が大きいほどエネルギーを吸収し、衝撃緩衝試験では反発弾性率が小さくなり、加振試験においては共振倍率が低くなる。上記tanδで表される損失正接が大きくなるということは、弾性(貯蔵剪断弾性率)よりも粘性(損失剪断弾性率)が大きくなることである。上記tanδで表される損失正接が大きくなると、応力を付与されていない粘弾性体に外部から応力を付与した後に、この応力を解放したときに、外部から応力を付与される前の状態の形に戻る速さが遅くなる。
【0043】
組み付け前状態において、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の中心線と、上記第一実施形態の密封装置10の組み付け前状態の上記先端縁133の中心線とは、組み付け前状態の上記先端縁133の描く円を含む平面上で微少な径方向のずれが生じている。組み付け状態において、この上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の中心線と上記第一実施形態の密封装置10の上記先端縁133の組み付け前状態の中心線とが、上記組み付け前状態の先端縁133の描く円を含む平面上で一致するように、主リップ121全体が変形している。この組み付け状態で上記組み付け状態の先端縁133aは周方向全周にわたり、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に当接し、上記液体側空間151から上記空気側空間152へ液体が漏れようとすることを阻止している。
【0044】
組み付け状態である、上記第一実施形態の密封装置10を有するデファレンシャル装置を使用する自動車の停止時には、図8(a)に示すように、上記ユニバーサルジョイントフランジの周面の中心線と上記第一実施形態の密封装置10の上記先端縁の組み付け前状態の中心線とが上記組み付け前状態の先端縁の描く円を含む平面上の中心点181で、略一致している。この組み付け状態で、組み付け状態の先端縁133aは周方向全周にわたり、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に当接し、上記液体側空間151から上記空気側空間152へ液体が漏れようとすることを阻止している。このとき、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の回転中心線における、上記組み付け前状態の先端縁133の描く円を含む平面上の回転中心点186と、上記中心点181とは、位置がずれている。なお、図8(a)、図8(b)における、上記中心点181に対する上記回転中心点186の位置のずれは誇張して記載されている。
【0045】
図8(b)に示すように、上記第一実施形態の密封装置10を有するデファレンシャル装置を使用する自動車の前進時に、上記入力軸14が回転駆動すると、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面は、上記回転中心点186を中心に上記第一実施形態の密封装置10に対して周方向他方側に回転する。このため、上記組み付け前状態の先端縁133の描く円を含む平面上において、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の描く上記回転中心点186から最も大径である円状の軌跡は、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の径よりも大きくなる。組み付け状態の先端縁133aは上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の描く上記回転中心点から最も大径である円状の軌跡に沿って拡径する。この回転状態の上記先端縁を回転状態での先端縁133bとする。なお、図8(b)における、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面と、回転状態での先端縁133bとのすきまは誇張して記載されている。
【0046】
上記組み付け前状態の先端縁133の描く円を含む平面上における回転状態での上記先端縁133bの中心点182は、上記回転中心点186に略一致するよう、上記第一部分が主として変形する。そして、上記第一の粘弾性部材161の25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上であるため、組み付け状態の上記先端縁133aが上記先端縁に摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の描く上記平面上の上記回転中心線186から最も大径である円状の軌跡に容易に沿うよう回転状態の上記先端縁133bの位置に拡径するとともに、回転状態での上記先端縁133bが組み付け前状態の上記先端縁133の径に戻ろうとする速さを抑えることができる。よって、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面と上記先端縁との摺動における面圧を小さくすることができ、摩擦抵抗を小さくすることでトルクを大幅に低減できるとともに、主リップの摩耗を抑制できる。したがって、この第一実施形態の密封装置を有する自動車等の燃費を低減できる。また、第一実施形態の密封装置の寿命を長くすることができる。
【0047】
このとき、上記主リップ121は、組み付け状態の上記先端縁133aが回転状態での上記先端縁133bに拡径した状態から、組み付け前状態の上記先端縁133に戻りにくいため、上記主リップ121が上記回転中心軸186を中心に公転するときの変位量が小さくなり、回転状態での上記先端縁133bと上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面との局部的な面圧の高い接触部分の面圧を抑制できる。また、上記第一実施形態の密封装置10は振動が小さくなる。
【0048】
上記組み付け前状態の先端縁133の描く円を含む平面上における上記先端縁回転状態での上記先端縁133bの径が上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の径よりも大きくなることで、上記先端縁133bと上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面との接触面圧の小さい部分や、非接触となり生じた部分をとおって、上記液体側空間151から上記空気側空間152へ液体が漏れようとしても、上記リブ142が液体側空間151へ押し戻すポンプ作用を生じることで、上記液体が上記空気側空間152へ漏れ出すことを強く抑制し、良好な密封性が得られる。
【0049】
上記第一実施形態の密封装置によれば、上記ベアリングケージ22と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との相対回転停止時には、上記第一の粘弾性材料が、上記先端縁133を上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に付勢することで、上記液体側空間151から上記液体が上記空気側空間152に漏れようとすることを抑制する。
【0050】
また、上記第一実施形態の密封装置によれば、上記ベアリングケージ22と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との相対回転時には、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の回転中心線が、上記組み付け前状態の先端縁133の描く円の中心線に対して、上記組み付け前状態の先端縁133の描く円を含む平面上で、径方向に位置がずれたり、延在方向の角度の差を有していることで、回転状態での上記先端縁133bに摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面が描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡が、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の径よりも大きくなっても、上記第一の粘弾性部材の25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上であるため、回転状態での上記先端縁133bが、上記先端縁に摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面が描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡に容易に沿うよう拡径するとともに、回転状態での上記先端縁133bが組み付け前状態の上記先端縁133の径に戻ろうとする速さを抑えることができる。よって、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面と回転状態での上記先端縁133bとの摺動における面圧を小さくすることができ、摩擦抵抗を小さくすることでトルクを大幅に低減できるとともに、主リップ121の摩耗を抑制できる。したがって、この密封装置を有する自動車等の燃費を低減できる。また、密封装置10の寿命を長くすることができる。
【0051】
また、上記第一実施形態の密封装置によれば、上記主リップ121は、上記先端縁133の上記軸方向他方側に隣接して形成され上記先端縁133から軸方向他方側に離れるにつれて上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面から径方向に離れる空気側傾斜面135を備え、上記空気側傾斜面135に沿って形成され、上記先端縁133から上記軸方向他方側かつ上記周方向一方側に傾斜して延在するとともに上記先端縁側で上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に当接する複数のリブ142を備えているため、上記ベアリングケージ22と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との相対回転時に、上記先端縁133bが上記先端縁133に摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡に容易に沿うよう拡径することで、上記先端縁133bと上記ユニバーサルジョイントフランジ18との当接部で、面圧が小さくなったり、隙間が生じたりした場合に、上記液体側空間151から上記先端縁133bと上記ユニバーサルジョイントフランジ18との当接部における面圧の小さい部分や隙間が生じた部分を通過して上記空気側空間152へ漏れ出ようとする液体を上記リブ142が液体側空間151へ押し戻すポンプ作用を生じることで、上記先端縁133が拡径しても、上記液体が上記空気側空間152へ漏れ出すことを強く抑制し、良好な密封性が得られる。
【0052】
また、上記第一実施形態の密封装置は、上記粘弾性材料は、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.60以上である粘弾性材料からなるため、さらに摩擦抵抗を小さくするとともに、主リップの摩耗を抑制でき、トルクを大幅に低減できて、寿命を長くすることができる。
【0053】
また、上記第一実施形態の密封装置は、上記リブ142の稜線が上記先端縁133から上記リブ142の延在方向に沿った所定の範囲において上記空気側傾斜面135からの突出高さが一定である低隆起部143と、この低隆起部143から上記リブ142の延在方向に沿って上記空気側傾斜面135からの突出高さが大きくなる傾斜隆起部144を備えるため、上記リブ142が摩耗していないときには低隆起部143でポンプ作用の効果が得られるとともに、上記先端縁133が摩耗するとともに低隆起部143が摩耗し、先端縁133が軸方向に広くなったときに、傾斜隆起部144により強いポンプ作用の効果が得られ、先端縁133の摩耗時にも、液体が漏れやすくなることを抑制でき、密封装置の寿命を伸ばすことができる。
【0054】
参考に、上記第一実施形態の密封装置10に対する、従来の密封装置410の主リップ21の動きを図9(a)、図9(b)に示す。図9(a)は図8(a)に相当する、上記密封装置410に上記ユニバーサルジョイントフランジ18を嵌め込んだ状態において、上記ユニバーサルジョイントフランジ18が上記密封装置410に対して相対回転停止状態である場合の位置を示す要部断面図であり、図9(b)は図8(b)は上記ユニバーサルジョイントフランジ18が上記密封装置410に対して相対回転状態である場合の位置を示す要部断面図である。
【0055】
従来の密封装置410は、上記第一実施形態の密封装置10に対して、弾性部材を形成する粘弾性材料の25℃におけるtanδで表される損失正接が0.10から0.20である粘弾性材料であることが異なる。また、従来の密封装置410は、上記第一実施形態の密封装置10と異なり、リブを有さない。
【0056】
図9(a)に示すとおり、組み付け状態である、上記従来の密封装置410を有するデファレンシャル装置を使用する自動車の停止時には、上記ユニバーサルジョイントフランジの周面の中心線と上記従来の密封装置10の上記先端縁の組み付け前状態の中心線とが上記組み付け前状態の先端縁の描く円を含む平面上の中心点81で、略一致している。この組み付け状態で、組み付け状態の先端縁33aは周方向全周にわたり、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に当接し、上記液体側空間から上記空気側空間へ液体が漏れようとすることを阻止している。このとき、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の回転中心線における、上記組み付け前状態の先端縁33の描く円を含む平面上の回転中心点86と、上記中心点81とは、位置がずれている。なお、図9(a)、図9(b)における、上記中心点81に対する上記回転中心点86の位置のずれは誇張して記載されている。
【0057】
図9(b)に示すように、上記従来の密封装置410を有するデファレンシャル装置を使用する自動車の前進時に、上記入力軸14が回転駆動すると、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面は、上記回転中心点86を中心に上記従来の密封装置410に対して周方向他方側に回転する。このため、上記組み付け前状態の先端縁33の描く円を含む平面上において、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の描く上記回転中心点86から最も大径である円状の軌跡は、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の径よりも大きくなる。このとき、従来の密封装置410は弾性部材を形成する粘弾性材料の25℃におけるtanδで表される損失正接が0.10から0.20である粘弾性材料から形成されているため、組み付け状態の上記先端縁33aはほとんど拡径しない。
【0058】
このために、組み付け状態の上記先端縁33aと略同じ径である回転状態での先端縁33bが、回転停止時と同様に強い緊迫力による大きな面圧で上記ユニバーサルジョイントフランジ18と接触したまま摺動する。
【0059】
そして、上記従来の密封装置410の上記主リップ21は、回転状態での上記先端縁33bが、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面と略同じ径であるため、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の回転により、上記回転中心点86を中心として大きな変位量で公転する。上記従来の密封装置410の上記主リップ21は、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.10から0.20である粘弾性材料から形成されているため、弾性が大きく、公転するときの変位量が上記第一実施形態の密封装置10よりも大きくなり、回転状態での上記先端縁33bと上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面との局部的な面圧の高い接触部分の面圧を緩和することができない。このため、従来の回転状態での上記先端縁33bと上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面との摺動摩擦が大きく、回転状態での上記先端縁33bに摩耗が生じやすい。また、上記従来のの密封装置410は振動が大きくなる。なお、図9(b)における、上記ユニバーサルジョイントフランジ18と上記密封装置410との上記回転状態での公転による径方向への変位量は誇張して記載されている。
【0060】
以下、本発明の第二実施形態を図示の形態により詳細に説明する。第二実施形態は、上記第一実施形態と弾性部材の構成を除いて上記第一実施形態と同様である。このため、以下には、弾性部材について、詳細に説明する。
【0061】
図10は、第二実施形態の密封装置210の構造を、詳細に説明する断面図である。詳しくは、図10は、組み付け前での、芯金部材125、弾性部材220の位置関係を示す軸方向の断面図である。図10では、弾性部材220の位置として上記ユニバーサルジョイントフランジ18から力を受けていない場合における、弾性部材の組み付け前での位置を示した要部拡大図である。図10のリブ242は、リブ242の稜線の軸方向成分が軸方向に伸びる様子を、軸方向中心を含む平面に沿って記載している。図示しないが、第一実施形態の密封装置の図5に示される空気側傾斜面135、液体側傾斜面134、および、リブ142と同じ形態であり、上記リブ242は上記空気側傾斜面235に沿って形成され、上記先端縁233から上記軸方向他方側かつ周方向一方側に傾斜している。
【0062】
上記第一実施形態の密封装置10の弾性部材120は、弾性部材120全体が25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上である第一の粘弾性材料からなるのに対して、第二実施形態の密封装置210の弾性部材220はこの弾性部材220の主リップ221の第二部分の一部のみに25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上である第一の粘弾性材料を用い、その他の部分については、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55未満、特に、0.10以上0.20以下である第二の粘弾性材料を用い、これらを一体化している。第一の粘弾性材料については、上記第一実施形態における第一の粘弾性材料と同じものを使用している。第二の粘弾性材料は、具体的には、ゴム材からなる。ゴム材は、好ましくは、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴムが好適に用いられる。
【0063】
図10に示すとおり、第二実施形態の密封装置210は環状の芯金部材125と、環状の弾性部材220と、ガータースプリング130とを備える。芯金部材125は、上記第一実施形態と同様であり、環状に形成され、断面L字状の形状を有している。芯金部材は、筒状の軸方向延在部126と、径方向延在部127とからなる。上記径方向延在部126は、軸方向延在部126の内周面における軸方向の他方側(図10の紙面における左側)から径方向の内方に延在している。
【0064】
上記弾性部材220は、環状に形成され、軸方向延在部126の軸方向の一方側の外周と、上記外周につながる上記軸方向延在部126の軸方向一方側の端部と、上記端部につながる軸方向延在部126の内周と、上記内周につながる径方向延在部127の軸方向の一方側とからなる芯金部材125の軸方向の一方側の全面を覆うように芯金部材125に固着されている。上記弾性部材220は基部223と、主リップ221と、副リップ222と、外周部224とを有する。
【0065】
上記基部223は軸方向延在部126の内周面および径方向延在部127の軸方向の一方側の端面に沿うように配置されている。上記基部223は、軸方向延在部126の内周面および径方向延在部127の軸方向の一方側の端面に固着されている。
【0066】
上記副リップ222は上記基部223の径方向の内方から径方向の内方かつ軸方向の他方側に延在している。
【0067】
上記主リップ221は上記基部223の径方向の内方から径方向の内方かつ軸方向の一方側に延在している。上記主リップ221は第一部分231と第二部分232とを有する。上記第一部分231は上記基部223の径方向内方から径方向の内方かつ軸方向の一方側に延在している。上記第二部分232は、上記第一部分231の軸方向の一方側の先端につながるとともに上記第一部分231の軸方向の一方側の先端より径方向の内方側に延在する。
【0068】
上記第二部分232の径方向の内方には、上記主リップ221のうち最も径方向内方側となる先端縁233がある。上記先端縁233の軸方向の一方側には上記先端縁233から軸方向の一方側に離れるに従い径方向の外方側に延在する液体側傾斜面234が隣接する。上記液体側傾斜面234は軸中心線に対して鋭角αで傾く略円錐面に形成されている。
【0069】
上記先端縁233の軸方向の他方側には上記先端縁233から軸方向の他方側に離れるに従い径方向の外方側に延在する空気側傾斜面235が隣接する。上記空気側傾斜面135は軸中心線に対して鋭角βで傾く略円錐面に形成されている。鋭角αは鋭角βよりも大きく形成している。
【0070】
上記第二部分232の径方向の外側には環状の溝が形成され、この環状の溝に環状のガータースプリング130が嵌め込まれている。上記ガータースプリング130は螺旋状のスプリングを有し、スプリングが少し伸びた状態で上記環状の溝に嵌められている。上記環状のガータースプリング130は上記主リップ221を径方向の内方に付勢する。
【0071】
上記空気側傾斜面235には、上記空気側傾斜面235に沿って上記先端縁233から上記軸方向他方側かつ周方向一方側に傾斜して延在するリブ242が形成されている。上記リブ242の稜線は上記先端縁233から上記リブ241の延在方向に沿った所定の範囲において、上記空気側傾斜面235からの突出高さが一定である低隆起部243と、この低隆起部243から上記リブ242の延在方向に沿って上記空気側傾斜面235からの突出高さが大きくなる傾斜隆起部244と、この傾斜隆起部244から上記リブ242の延在方向に沿って上記空気側傾斜面235からの突出高さが一定かつ上記低隆起部243の突出高さよりも大きい高隆起部245とを備える。上記リブ242は上記第一実施形態における上記リブ142と同じ形状に形成され、上記第一実施形態と同様の効果を奏する。
【0072】
上記基部223と、上記第一部分231と、上記副リップ222と、上記外周部224と、上記リブ242とは、上記第二の粘弾性材料271から形成される一方、上記第二部分232は上記第一の粘弾性材料261と上記第二の粘弾性材料271とから形成される。上記第二部分232は、上記第二の粘弾性材料271で上記第一実施形態の第二部分132と同様の形状に形成されているが、上記空気側傾斜面235かつ上記リブ242の径方向の外方側から上記先端縁233の径方向範囲よりも軸方向一方側まで軸方向かつ環状かつ有底に凹入する凹入部281が形成されている点が上記第一実施形態の第二部分132の形状と異なる。上記凹入部281には、上記第一の粘弾性材料261が充填されている。
【0073】
この第一の粘弾性材料261により、上記先端縁233に上記ユニバーサルジョイントフランジ18を嵌め入れた組み付け状態で、かつ、上記第二実施形態の密封装置210に対して上記ユニバーサルジョイントフランジ18が相対回転停止している時に、この第一の粘弾性材料261は、上記先端縁233を上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に付勢する。
【0074】
また、この第一の粘弾性材料261により、上記先端縁233に上記ユニバーサルジョイントフランジ18を嵌め入れた組み付け状態で、かつ、上記第二実施形態の密封装置210に対して上記ユニバーサルジョイントフランジ18が相対回転している時に、上記先端縁233が上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の描く組み付け前状態の先端縁233の描く円を含む平面上の上記回転中心点から最も大径である円状の軌跡に沿って拡径することができるとともに、上記先端縁233が組み付け前状態の上記先端縁233の径に戻ろうとする速さを抑えることができる。よって、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面と上記先端縁との摺動における面圧を小さくすることができ、摩擦抵抗を小さくすることでトルクを大幅に低減できるとともに、主リップの摩耗を抑制できる。したがって、この第二実施形態の密封装置を有する自動車等の燃費を低減できる。また、第二実施形態の密封装置の寿命を長くすることができる。
【0075】
このとき、上記主リップ221は、組み付け状態の上記先端縁233が回転状態での上記先端縁233に拡径した状態から、組み付け前状態の上記先端縁233に戻りにくいため、上記主リップ221が上記回転中心軸286を中心に公転するときの変位量が小さくなり、回転状態での上記先端縁233と上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面との局部的な面圧の高い接触部分の面圧を抑制できる。また、上記第二実施形態の密封装置210は振動が小さくなる。
【0076】
上記組み付け前状態の先端縁233の描く円を含む平面上における上記先端縁回転状態での上記先端縁233の径が上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の径よりも大きくなることで、上記先端縁233と上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面との接触面圧の小さい部分や、非接触となり生じた部分をとおって、液体側空間から空気側空間へ液体が漏れようとしても、上記リブ242が上記液体側空間へ押し戻すポンプ作用を生じることで、上記液体が上記空気側空間へ漏れ出すことを強く抑制し、良好な密封性が得られる。
【0077】
さらに、上記第二の粘弾性材料271を液体側空間に密封する液体に対して耐性を有する材料とすることで、耐液体性に優れた密封装置が得られる。
【0078】
上記第二実施形態の密封装置によれば、上記ベアリングケージ22と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との相対回転停止時には、上記第一の粘弾性材料261が、上記先端縁233を上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に付勢することで、上記液体側空間から上記液体が上記空気側空間に漏れようとすることを抑制する。
【0079】
また、上記第二実施形態の密封装置によれば、上記ベアリングケージ22と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との相対回転時には、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の回転中心線が、上記組み付け前状態の先端縁233の描く円の中心線に対して、上記組み付け前状態の先端縁233の描く円を含む平面上で、径方向に位置がずれたり、延在方向の角度の差を有していることで、回転状態での上記先端縁233に摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面が描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡が、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の径よりも大きくなっても、上記第一の粘弾性部材の25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上であるため、回転状態での上記先端縁233が、上記先端縁に摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面が描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡に容易に沿うよう拡径するとともに、回転状態での上記先端縁233が組み付け前状態の上記先端縁233の径に戻ろうとする速さを抑えることができる。よって、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面と回転状態での上記先端縁233との摺動における面圧を小さくすることができ、摩擦抵抗を小さくすることでトルクを大幅に低減できるとともに、主リップ221の摩耗を抑制できる。したがって、この密封装置を有する自動車等の燃費を低減できる。また、密封装置の寿命を長くすることができる。
【0080】
また、上記第二実施形態の密封装置によれば、上記主リップ221は、上記先端縁233の上記軸方向他方側に隣接して形成され上記先端縁233から軸方向他方側に離れるにつれて上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面から径方向に離れる空気側傾斜面235を備え、上記空気側傾斜面235に沿って形成され、上記先端縁233から上記軸方向他方側かつ上記周方向一方側に傾斜して延在するとともに上記先端縁側で上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に当接する複数のリブ242を備えているため、上記ベアリングケージ22と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との相対回転時に、上記先端縁233が上記先端縁233に摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡に容易に沿うよう拡径することで、上記先端縁233と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との当接部で、面圧が小さくなったり、隙間が生じたりした場合に、上記液体側空間から上記先端縁233と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との当接部における面圧の小さい部分や隙間が生じた部分を通過して上記空気側空間へ漏れ出ようとする液体を上記リブ242が液体側空間へ押し戻すポンプ作用を生じることで、上記先端縁133が拡径しても、上記液体が上記空気側空間へ漏れ出すことを強く抑制し、良好な密封性が得られる。
【0081】
また、上記第二実施形態の密封装置は、上記第一の粘弾性材料261は、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.60以上である粘弾性材料からなるため、さらに摩擦抵抗を小さくするとともに、主リップの摩耗を抑制でき、トルクを大幅に低減できて、寿命を長くすることができる。
【0082】
また、上記第二実施形態の密封装置は、上記リブ242の稜線が上記先端縁233から上記リブ242の延在方向に沿った所定の範囲において上記空気側傾斜面235からの突出高さが一定である低隆起部243と、この低隆起部243から上記リブ242の延在方向に沿って上記空気側傾斜面235からの突出高さが大きくなる傾斜隆起部244を備えるため、上記リブ242が摩耗していないときには低隆起部243でポンプ作用の効果が得られるとともに、上記リブ242の先端縁233が摩耗するとともに低隆起部243が摩耗し、先端縁233が軸方向に広くなったときに、傾斜隆起部244により強いポンプ作用の効果が得られ、先端縁233の摩耗時にも、液体が漏れやすくなることを抑制でき、密封装置の寿命を伸ばすことができる。
【0083】
以下、本発明の第三実施形態を図示の形態により詳細に説明する。第三実施形態は、上記第一実施形態と弾性部材の構成を除いて上記第一実施形態と同様である。このため、以下には、弾性部材について、詳細に説明する。
【0084】
図11は、第二実施形態の密封装置310の構造を、詳細に説明する断面図である。詳しくは、図11は、組み付け前での、芯金部材125、弾性部材320の位置関係を示す軸方向の断面図である。図11では、弾性部材320の位置として上記ユニバーサルジョイントフランジ18から力を受けていない場合における、弾性部材の組み付け前での位置を示した要部拡大図である。図11のリブ342は、リブ342の稜線の軸方向成分が軸方向に伸びる様子を、軸方向中心を含む平面に沿って記載している。図示しないが、第一実施形態の密封装置の図5に示される空気側傾斜面135、液体側傾斜面134、および、リブ142と同じ形態であり、上記リブ342は上記空気側傾斜面335に沿って形成され、上記先端縁333から上記軸方向他方側かつ周方向一方側に傾斜している。
【0085】
上記第一実施形態の密封装置10の弾性部材120は、弾性部材120全体が25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上である第一の粘弾性材料からなるのに対して、第三実施形態の密封装置310の弾性部材320はこの弾性部材320の表面およびリブ342が25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55未満、特に、0.10以上0.20以下である第二の粘弾性材料を用い、これらを一体化している。第一の粘弾性材料については、上記第一実施形態における第一の粘弾性材料と同じものを使用している。第二の粘弾性材料は、具体的には、ゴム材からなる。ゴム材は、好ましくは、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴムが好適に用いられる。
【0086】
上記弾性部材320は、環状に形成され、軸方向延在部126の軸方向の一方側の外周と、上記外周につながる上記軸方向延在部126の軸方向一方側の端部と、上記端部につながる軸方向延在部126の内周と、上記内周につながる径方向延在部127の軸方向の一方側とからなる芯金部材125の軸方向の一方側の全面を覆うように芯金部材125に固着されている。上記弾性部材320は基部323と、主リップ321と、副リップ322と、外周部324とを有する。
【0087】
上記基部323は軸方向延在部126の内周面および径方向延在部127の軸方向の一方側の端面に沿うように配置されている。上記基部323は、軸方向延在部126の内周面および径方向延在部127の軸方向の一方側の端面に固着されている。
【0088】
上記副リップ322は上記基部323の径方向の内方から径方向の内方かつ軸方向の他方側に延在している。
【0089】
上記主リップ321は上記基部323の径方向の内方から径方向の内方かつ軸方向の一方側に延在している。上記主リップ321は第一部分331と第二部分332とを有する。上記第一部分331は上記基部323の径方向内方から径方向の内方かつ軸方向の一方側に延在している。上記第二部分332は、上記第一部分331の軸方向の一方側の先端につながるとともに上記第一部分331の軸方向の一方側の先端より径方向の内方側に延在する。
【0090】
上記第二部分332の径方向の内方には、上記主リップ321のうち最も径方向内方側となる先端縁333がある。上記先端縁333の軸方向の一方側には上記先端縁333から軸方向の一方側に離れるに従い径方向の外方側に延在する液体側傾斜面334が隣接する。上記液体側傾斜面334は軸中心線に対して鋭角αで傾く略円錐面に形成されている。上記先端縁333の軸方向の他方側には上記先端縁333から軸方向の他方側に離れるに従い径方向の外方側に延在する空気側傾斜面335が隣接する。上記空気側傾斜面335は軸中心線に対して鋭角βで傾く略円錐面に形成されている。鋭角αは鋭角βよりも大きく形成している。
【0091】
上記第二部分332の径方向の外側には環状の溝が形成され、この環状の溝に環状のガータースプリング130が嵌め込まれている。上記ガータースプリング130は螺旋状のスプリングを有し、スプリングが少し伸びた状態で上記環状の溝に嵌められている。上記環状のガータースプリング130は上記主リップ321を径方向の内方に付勢する。
【0092】
上記空気側傾斜面335には、上記空気側傾斜面335に沿って上記先端縁333から上記軸方向他方側かつ周方向一方側に傾斜して延在するリブ342が形成されている。上記リブ342の稜線は上記先端縁333から上記リブ341の延在方向に沿った所定の範囲において、上記空気側傾斜面335からの突出高さが一定である低隆起部343と、この低隆起部343から上記リブ342の延在方向に沿って上記空気側傾斜面335からの突出高さが大きくなる傾斜隆起部344と、この傾斜隆起部344から上記リブ342の延在方向に沿って上記空気側傾斜面335からの突出高さが一定かつ上記低隆起部343の突出高さよりも大きい高隆起部345とを備える。上記リブ342は上記第一実施形態における上記リブ142と同じ形状に形成され、上記第一実施形態と同様の効果を奏する。
【0093】
上記基部323と、上記主リップ321と、上記副リップ322と、上記外周部324とを含む上記弾性部材320は、露出する表面から所定深さよりも内部が、上記第一の粘弾性材料361から形成される一方、露出する表面から所定深さまでは上記第二の粘弾性材料371から形成され、上記リブ342についてはその全体が上記第二の粘弾性材料371から形成される。
【0094】
この第一の粘弾性材料361により、上記先端縁333に上記ユニバーサルジョイントフランジ18を嵌め入れた組み付け状態で、かつ、上記第三実施形態の密封装置310に対して上記ユニバーサルジョイントフランジ18が相対回転停止している時に、この第一の粘弾性材料361は、上記先端縁333を上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に付勢する。
【0095】
また、この第一の粘弾性材料361により、上記先端縁333に上記ユニバーサルジョイントフランジ18を嵌め入れた組み付け状態で、かつ、上記第二実施形態の密封装置310に対して上記ユニバーサルジョイントフランジ18が相対回転している時に、上記先端縁233が上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の描く組み付け前状態の先端縁333の描く円を含む平面上の上記回転中心点から最も大径である円状の軌跡に沿って拡径することができるとともに、上記先端縁333が組み付け前状態の上記先端縁333の径に戻ろうとする速さを抑えることができる。よって、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面と上記先端縁との摺動における面圧を小さくすることができ、摩擦抵抗を小さくすることでトルクを大幅に低減できるとともに、主リップの摩耗を抑制できる。したがって、この第三実施形態の密封装置を有する自動車等の燃費を低減できる。また、第三実施形態の密封装置の寿命を長くすることができる。
【0096】
このとき、上記主リップ321は、組み付け状態の上記先端縁333が回転状態での上記先端縁333に拡径した状態から、組み付け前状態の上記先端縁333に戻りにくいため、上記主リップ321が上記回転中心軸386を中心に公転するときの変位量が小さくなり、回転状態での上記先端縁333と上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面との局部的な面圧の高い接触部分の面圧を抑制できる。また、上記第三実施形態の密封装置310は振動が小さくなる。
【0097】
上記組み付け前状態の先端縁333の描く円を含む平面上における上記先端縁回転状態での上記先端縁333の径が上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の径よりも大きくなることで、上記先端縁333と上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面との接触面圧の小さい部分や、非接触となり生じた部分をとおって、液体側空間から空気側空間へ液体が漏れようとしても、上記リブ342が上記液体側空間へ押し戻すポンプ作用を生じることで、上記液体が上記空気側空間へ漏れ出すことを強く抑制し、良好な密封性が得られる。
【0098】
さらに、上記第二の粘弾性材料371を液体側空間に密封する液体に対して耐性を有する材料とすることで、耐液体性に優れた密封装置が得られる。
【0099】
上記第三実施形態の密封装置によれば、上記ベアリングケージ22と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との相対回転停止時には、上記第一の粘弾性材料361が、上記先端縁333を上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に付勢することで、上記液体側空間から上記液体が上記空気側空間に漏れようとすることを抑制する。
【0100】
また、上記第三実施形態の密封装置によれば、上記ベアリングケージ22と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との相対回転時には、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の回転中心線が、上記組み付け前状態の先端縁333の描く円の中心線に対して、上記組み付け前状態の先端縁333の描く円を含む平面上で、径方向に位置がずれたり、延在方向の角度の差を有していることで、回転状態での上記先端縁333に摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面が描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡が、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の径よりも大きくなっても、上記第一の粘弾性部材の25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上であるため、回転状態での上記先端縁333が、上記先端縁に摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面が描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡に容易に沿うよう拡径するとともに、回転状態での上記先端縁333が組み付け前状態の上記先端縁333の径に戻ろうとする速さを抑えることができる。よって、上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面と回転状態での上記先端縁333との摺動における面圧を小さくすることができ、摩擦抵抗を小さくすることでトルクを大幅に低減できるとともに、主リップ321の摩耗を抑制できる。したがって、この密封装置を有する自動車等の燃費を低減できる。また、密封装置の寿命を長くすることができる。
【0101】
また、上記第三実施形態の密封装置によれば、上記主リップ321は、上記先端縁333の上記軸方向他方側に隣接して形成され上記先端縁333から軸方向他方側に離れるにつれて上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面から径方向に離れる空気側傾斜面335を備え、上記空気側傾斜面335に沿って形成され、上記先端縁333から上記軸方向他方側かつ上記周方向一方側に傾斜して延在するとともに上記先端縁側で上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面に当接する複数のリブ342を備えているため、上記ベアリングケージ22と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との相対回転時に、上記先端縁333が上記先端縁333に摺動する上記ユニバーサルジョイントフランジ18の周面の描く上記平面上の上記回転中心線から最も大径である円状の軌跡に容易に沿うよう拡径することで、上記先端縁333と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との当接部で、面圧が小さくなったり、隙間が生じたりした場合に、上記液体側空間から上記先端縁333と上記ユニバーサルジョイントフランジ18との当接部における面圧の小さい部分や隙間が生じた部分を通過して上記空気側空間へ漏れ出ようとする液体を上記リブ342が液体側空間へ押し戻すポンプ作用を生じることで、上記先端縁333が拡径しても、上記液体が上記空気側空間へ漏れ出すことを強く抑制し、良好な密封性が得られる。
【0102】
また、上記第三実施形態の密封装置は、上記第一の粘弾性材料361は、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.60以上である粘弾性材料からなるため、さらに摩擦抵抗を小さくするとともに、主リップの摩耗を抑制でき、トルクを大幅に低減できて、寿命を長くすることができる。
【0103】
また、上記第三実施形態の密封装置は、上記リブ342の稜線が上記先端縁333から上記リブ342の延在方向に沿った所定の範囲において上記空気側傾斜面335からの突出高さが一定である低隆起部343と、この低隆起部343から上記リブ342の延在方向に沿って上記空気側傾斜面335からの突出高さが大きくなる傾斜隆起部344を備えるため、上記リブ342が摩耗していないときには低隆起部343でポンプ作用の効果が得られるとともに、上記リブ342の先端縁333が摩耗するとともに低隆起部343が摩耗し、先端縁333が軸方向に広くなったときに、傾斜隆起部344により強いポンプ作用の効果が得られ、先端縁333の摩耗時にも、液体が漏れやすくなることを抑制でき、密封装置の寿命を伸ばすことができる。
【0104】
なお、上記第一実施形態、上記第二実施形態、および、上記第三実施形態の実施例の密封装置では、リブの稜線が先端縁から上記リブの延在方向に沿った所定の範囲において上記空気側傾斜面からの突出高さが一定である低隆起部と、この低隆起部から上記リブの延在方向に沿って上記空気側傾斜面からの突出高さが大きくなる傾斜隆起部を備えていたが、平行リブであっても、上記先端縁から上記リブの延在方向に沿って上記空気側傾斜面からの突出高さが大きくなる傾斜リブであっても、また稜線が延在方向に曲線である形状をいずれかの部分に採用しても良い。
【0105】
また、上記第一実施形態の実施例の密封装置では弾性部材全体を一種類の第一の粘弾性材料で形成していたが、二つ以上の種類の第一の粘弾性材料を組み合わせて、形成してもよい。また、上記第二実施形態、および、上記第三実施形態の実施例の密封装置では特定の箇所に第一の粘弾性材料を用い、他の部分に第二の粘弾性材料を用いて形成していたが、上記特定の箇所は本発明の効果が得られる他の箇所であってもよいことはもちろんである。
【0106】
また、上記第一実施形態、上記第二実施形態、および、上記第三実施形態では、本発明の密封装置をデファレンシャル装置(差動装置)の入力軸部材の密封装置として使用したが、デファレンシャル装置(差動装置)の出力軸部材、トランスミッション装置の入力軸部材、トランスミッション装置の出力軸部材、ウォーターポンプ、潤滑油で潤滑される車輪用軸受装置の外輪部材と内輪部材または/および内輪部材との間の密封装置としてもよく、そのほかの用途に用いても良いことはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の第一実施形態の密封装置を有するデファレンシャル装置(差動装置)の分解斜視図である。
【図2】本発明の第一実施形態の密封装置を有するデファレンシャル装置の入力軸の軸方向と出力軸の軸方向とを含む平面によって切断した断面図である。
【図3】本発明の第一実施形態の密封装置全体の拡大断面図である。
【図4】本発明の第一実施形態の密封装置の要部断面図である。
【図5】本発明の第一実施形態の密封装置の軸中心線側から見た様子を示す要部拡大図である。
【図6】本発明の第一実施形態の密封装置を軸部材に装着した様子を示す密封装置全体の拡大断面図である。
【図7】本発明の第一実施形態の密封装置を軸部材に装着した様子を示す要部断面図である。
【図8】図8(a)は、本発明の第一実施形態の密封装置を軸部材に装着し、軸部材が回転停止状態である様子を示す要部断面図であり、図8(b)は、本発明の第一実施形態の密封装置を軸部材に装着し、軸部材が回転状態である様子を示す要部断面図である。
【図9】図9(a)は、従来の密封装置を軸部材に装着し、軸部材が回転停止状態である様子を示す要部断面図であり、図9(b)は、従来の密封装置を軸部材に装着し、軸部材が回転状態である様子を示す要部断面図である。
【図10】本発明の第二実施形態の密封装置全体の拡大断面図である。
【図11】本発明の第三実施形態の密封装置全体の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0108】
18 ユニバーサルジョイントフランジ(他方部材、ハウジング部材)
22 ベアリングケージ(一方部材、軸部材)
10,210,310 密封装置
121,221,321 主リップ
122,222,223 副リップ
131,132,133 第一部分
132,232,332 第二部分
133,233,333 先端縁
134,234,334 液体側傾斜面
135,235,335 空気側傾斜面
142,242,342 リブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に形成され、
第一部材と、上記第一部材に対して相対回転する第二部材との、何れか一方部材に固定されるとともに、
リップ部を有する弾性部材を備え、
上記リップ部の先端縁が、上記第一部材と上記第二部材との何れか他方部材の周面に当接し、上記第一部材と上記第二部材との相対回転により上記他方部材の周面と摺動し、
上記第一部材と上記第二部材との形成する空間を、液体の密封される軸方向一方側の液体側空間と軸方向他方側の空気側空間とに画定する密封装置において、
上記リップ部は、上記先端縁の上記軸方向他方側に隣接して形成され上記先端縁から軸方向他方側に離れるにつれて上記他方の部材の周面から径方向に離れる空気側傾斜面を備え、上記空気側傾斜面に沿って形成され、上記先端縁から上記軸方向他方側かつ上記周方向一方側に傾斜して延在するとともに上記先端縁側で上記他方の部材の周面に当接する複数のリブを備え、
上記先端縁を上記他方部材の周面に付勢する弾性部材の少なくとも一部分は、
25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上である第一の粘弾性材料からなることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1に記載の密封装置において、上記第一の粘弾性材料は、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.60以上である粘弾性材料からなることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の密封装置において、上記リブの稜線が上記先端縁から上記リブの延在方向に沿った所定の範囲において上記空気側傾斜面からの突出高さが一定である低隆起部と、この低隆起部から上記リブの延在方向に沿って上記空気側傾斜面からの突出高さが大きくなる傾斜隆起部を備えることを特徴とする密封装置。
【請求項1】
環状に形成され、
第一部材と、上記第一部材に対して相対回転する第二部材との、何れか一方部材に固定されるとともに、
リップ部を有する弾性部材を備え、
上記リップ部の先端縁が、上記第一部材と上記第二部材との何れか他方部材の周面に当接し、上記第一部材と上記第二部材との相対回転により上記他方部材の周面と摺動し、
上記第一部材と上記第二部材との形成する空間を、液体の密封される軸方向一方側の液体側空間と軸方向他方側の空気側空間とに画定する密封装置において、
上記リップ部は、上記先端縁の上記軸方向他方側に隣接して形成され上記先端縁から軸方向他方側に離れるにつれて上記他方の部材の周面から径方向に離れる空気側傾斜面を備え、上記空気側傾斜面に沿って形成され、上記先端縁から上記軸方向他方側かつ上記周方向一方側に傾斜して延在するとともに上記先端縁側で上記他方の部材の周面に当接する複数のリブを備え、
上記先端縁を上記他方部材の周面に付勢する弾性部材の少なくとも一部分は、
25℃におけるtanδで表される損失正接が0.55以上である第一の粘弾性材料からなることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1に記載の密封装置において、上記第一の粘弾性材料は、25℃におけるtanδで表される損失正接が0.60以上である粘弾性材料からなることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の密封装置において、上記リブの稜線が上記先端縁から上記リブの延在方向に沿った所定の範囲において上記空気側傾斜面からの突出高さが一定である低隆起部と、この低隆起部から上記リブの延在方向に沿って上記空気側傾斜面からの突出高さが大きくなる傾斜隆起部を備えることを特徴とする密封装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−127661(P2009−127661A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300335(P2007−300335)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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