説明

密度コントロールによる交通流制御システム

【課題】最適政策流速度をもつ交通流を実現し、車両の走行エネルギーを大幅に削減する知能を持った信号機群の制御方法及び信号システムを提供する。車両の一台一台の動きを計算,表示し、広域の交通流を最適制御できるアルゴリズムを遂行するダイヤグラムを内蔵する制御装置を提供する。
【解決手段】オフセット制御の下で、スプリットの短縮を通じて密度コントロールを行うことにより、交通状況に合わせた最適政策流速度をもつ交通流を発現し、最小の走行エネルギーをもたらす信号制御で、この実現のために交通流の制御アルゴリズムを遂行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号機のない高速道路を走行する車両以外の全ての車両が「最も走行エネルギーが少なくなるように」、「政策的に交通流」を発生させ、かつ円滑な走行を実現する「信号機群制御とその運用システム」に関するものである。
【0002】
オフセット制御された交通流の下で、スプリットの短縮(以下、ヒール・カットという)を通じて密度のコントロールを行い、渋滞流から自由流への「相転移」を発現させて、政策的にエネルギー最小の交通流を発生させる信号制御装置及び信号システムに関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、道路信号の制御は「同時オフセット」または「パターン選択制御オフセット」等でおこなわれているが、この方式は、「自由流」(速度=40km/h以上:密度=0.35未満等、最高速度に基づく臨界密度未満)をキープしている場合、スムースな走行を実現する。
又、密度が0.35以上の場合でも下流が自由流の場合,下流から上流への密度の移動により「自由流」へ戻そうとする特性を有している。
しかし、右折,左折,合流等の割込みの影響でこの特質が破壊され、「渋滞流」から脱出出来ずスムースな走行ができていない。
【0004】
さらに、渋滞流の中では信号待ち以外の局面で、発進−停止を短時間の内に繰り返し行う走行「stop&go」をするため、「ショック・ウエーブ」が発生し、各車両の走行エネルギーの増大をもたらしている。
【0005】
又、系統制御で「上り・下りの交通量比から決定された固定オフセット」も実施されているが、「信号待ち台数」から導き出された、かつ、「リアルタイムのオフセット」でない為、チグハグなタイミングとなり、円滑でかつ省エネルギー走行の交通流を実現できていない。
適切なオフセット時間が20秒の時、10秒固定オフセットで制御する為青現示への切り替えのタイミングが早すぎて、ウエーブを解消できない状況はしばしば見かけられる。
また、固定オフセットの為、信号待ち台数が少ない時「前倒し発進」すべきところ、逆の「遅れ発進」を指令する等チグハグさが現れている。現状は、「オフセット不適」の状態である。
【0006】
「リアルタイム・オフセット」を実施すれば良いが、実施に至っていない。
「リアルタイム・オフセット」が実施されない理由は、下記の理由による。
1.発進流の「速度」と「オフセット時間」が連動している為、どちらかの基準を決める必要があるが、その基準が判明しなかったためである。
「オフセット」をとると、先頭車両から「前のリンクの最後尾車両までの距離」と「到達時間(先頭車両の発進時刻と前リンク最後尾車両の発進時刻の時間差)」の関係から「速度」が決定される。
一方、「所定の速度」が与えられると、ショック・ウエーブを発生させない様に、「実際の密度」から導きだされる「オフセット時間」が決定される。
【0007】
速度の調整でオフセット時間をゼロにした発進流を「自然流」と名付ける。
【0008】
「速度」は、制限最高速度から「自然流速度」まで選択でき、速度と「オフセット時間」の組み合わせは無限に存在する。
本特許において、この基準として「速度」を「最小エネルギー」から導き出し、「オフセット時間」を決定するアルゴリズムを提供する。
【0009】
往路にて優先オフセットをとるとショック・ウエーブは解消されるが、、対抗車線(復路)の信号は上流から先に青現示となり、上流の車両は下流ののリンクの最後尾車両につかえてしまい、ショック・ウエーブが発生する。
そこで往復路ともオフセットをとると、ショックウエーブは解消されるが、次にクロス車線において3〜5幹線おきにスプリット時間が極端に少ない「開かずの交差点」が発生する。
広域制御においては、単純なリアルタイム・オフセットでは対応できない。
これは「一方通行」制御で解消するが、全国総て一方通行にする訳にはいかない。これは、「オフセットの閉合条件」解決の問題と合わせて、「オフセットの致命的な欠陥」である。
本特許において、この欠陥を補償するため「密度コントロール」制御を行う。
【0010】
近年、サイクル,スプリット,オフセットの組み合わせで渋滞の緩和を図る方式が提案されている。これらの制御方式は、「サイクル長、スプリット」を主とし、「オフセット」を従とするコントロール方式であり、渋滞の緩和には役に立つかもしれないが、走行エネルギー

の増加」は当該ノードの出力を増加させる下流側のリンクにおいては同時に上流

交通流率(後述するβ値)が低下して交通量の増加には結びつかない。
「交通量を増加させようとスプリットを増加させると、次サイクルにて逆に交通量が減少する。」これは、「smithのパラドックス」の一種である。
また、「サイクル長,スプリット時間」をどんなにいじくっても、渋滞流の中で発生する「ショック・ウェーブ」をゼロにすことはできない。
【0011】
また、「自然流」発進を前提とすると、「オフセット」が表に現れることがない。
「オフセット」を主とし、「サイクル,スプリット」を従とするコントロール方式へ転換すれば、交通流率をキープしながら「旅行距離を伸ばし」、走行エネルギーの最小化が実現できる。
【0012】
現在主流である日米の交通流シミュレーター(NETSIM,NETSTREAM,AVENUE)は、交通量(Q)−車両密度(K)関係を基に構築されている。
このQ−K関数は、[0007]で名付けけた「自然流」の考え方に立っており、「ショック・ウエーブ」の解消を速度調整で行う点に特徴があり、自動的にオフセットがとられている。
従って、「速度を指定してオフセットをとる」発想はでてこない。
【0013】
交通流をコントロールする3手段(サイクル,スプリット,オフセット)の内、交通流を決定する最重要要素である「速度」をコントロールできる手段は「オフセット」のみである。
「オフセット対応」のみで、十分「エネルギー最少」の交通流政策が可能であるが、[0009]で指摘した「致命的な欠陥」があるため、密度コントロールの導入が必要とされる。
【0014】
交通政策は、「渋滞の解消」から「走行エネルギーの最少化」へ舵を切り直す時期に来ている。
交通流の円滑化策は、省エネルギー走行を実現する上で最も重要かつ効果的な方策である。個別車両の省エネは、交通流の円滑度の「インフラ」に依存する。
渋滞時(たとえば初期密度=0.625)に於いては、10・15モード燃費:35km/Lのハイブリッド車ですら、12.99km/リッターの低燃費となる。
【0015】
又、個別車両の省エネは、民間サイドで可能であるが、交通流の円滑度を決定する「信号システム」等の政策的制御は、行政サイドの役目であり、民間サイドでは不可能である。
交差点の高知能化が可能となれば、最も効果的に「走行エネルギーの最小化」と円滑な交通流をもたらす。
本発明は、この「交差点のインテジジェンス化」の具体的な方策を提供する。
【0016】
経済的な観点では、
走行エネルギー最小化策は、燃料消費量の削減を通じて、「CO2排出の削減」と「減税と同等の効果」をもたらして、地球温暖化防止と景気対策の両立が可能となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
1・オフセット制御の下で、密度コントロールを行うことにより「最適政策流速度」をもつ交通流を実現し、車両の走行エネルギーを大幅に削減する「知能を持った」信号機群の制御方法及び信号システムを提供すること。
【0018】
2・(特殊ダイヤグラム)
上記[0017]を分析し、交通流の動き、変化、特性を視覚的に表現するため、および各信号制御装置が「アルゴリズムを遂行する全ての方程式」を内蔵する「独自のダイヤグラム」を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0019】
光ビーコン,画像検出器等の「信号待ち台数」検出器と、このデータを川上に送信する送信機,次信号機の受信機、および「オフセット時間」算出機,「速度別旅行距離」算出機,その車両の最小エネルギーをもたらす自由流速度(政策流速度)の抽出機を備え、また、政策的自由流へ導く為の「臨界密度」,「ヒール・カット」時間および回数の算出機を備え、、「ヒール・カットされたスプリット」および「最適渋滞流オフセット時間」を点灯器へ指令する制御器からなる。(図−1,2)
【0020】
密度コントロールに於ける相転移ポジションの決定(図−3)
記号の意味は、〔0032〕〜〔0037〕に記す。
(step−1)相転移曲線の設定
λを反応時間,N^を信号待ち台数,△tを自由流速度に基づくoffset時間,βを出力,Zをリンク長とする。
政策的自由流へ導く為の「臨界密度」に対応する最適速度をvとする。
この速度が「自然流」によってもたらされるとすれば、自由流の密度(N^)は
^=(Z/v)*β である。(βはvより求められる。)
ヒールカットされた残りの持ち時間はλN^を超えないものとする。
Hc時間から、Hc回数(γ)を求める。
Hc回数(γ)は、γ=Round−down[(η−λ N^)/△t]求められる。γ=絶対値とする。
ROUND.down(x)は、xの整数部を示す。
【0021】
ヒールカットされた残りの持ち時間は、相転移ゾーンのリンク毎に、Hc0(有効持ち時間=η),Hc1(有効持ち時間=η−△t),Hc2(有効持ち時間=η−2△t)・・・Hcγ(有効持ち時間=η−γ△t)となる。 渋滞流の有効持ち時間(εHt)はη−γ△tとなる。(図−7)
【0022】
相転移ゾーンの曲線は、Hc回数(γ)に基づく「幅のある曲線」となる。個々の相転移ポイントは、(図−3)に示す様に「のこぎり波」を形成し、(γ+1)リンク毎に周期性を持つ為、「Hcゾーンの中心線」が代表的な車両の相転移ポジションとなる。
このことは、グラフ上で確認することは可能であるが、果たして「Hcゾーンの中心線」が相転移のポジションを示すかは、「フーリエ級数」に基づいて証明されると予想するが、本特許では証明を省く。
【0023】
相転移曲線は以下の方程式となる。
(x−y)軸を(t,Ni)とする・・・Ni:台数表示。
【数1】

γ:ヒールカット回数,N:飽和台数,△t:自由流速度に基づくoffset 時間tcyc:1サイクル時間とすると
【数2】

【0024】
(step−2)渋滞流曲線の設定
Lsj:渋滞流(j)曲線の勾配(tanα)を求める任意のリンク,#Nを渋滞流の旅行距離(台数ベース)とする。
Lsjを指定して、渋滞流曲線の勾配を決定する。
スタート点を(Nwj,tj),Npをtjに対応する相転移曲線の位置,サイクル数をcとする。
【数3】

【数4】

Lsjを渋滞流(j)曲線の勾配(tanα)を求める最小のリンクとすると,以下の式となる。
【数5】

tanβは負の値をとる。
【0025】
渋滞流曲線は以下の方程式となる。
【数6】

渋滞流スタート位置を、リンクNO.を40にセットし(たとえばリンク長を330mとすると走行区間約13km)、Ni=[Ls(40)−1]*N(34.4台)+ni(5台目)=1,346.6台を数6の式に代入してfを求める。
【0026】
(step−3)相転移ポジションの決定
渋滞流が相転移曲線に遭遇するポジション(t,Ni)は、数1と数6で表される各曲線の交点である。
(t,Ni)=[(f−b)/(a−e)],[a*(f−b)/(a−c)+b]
【0027】
自由流10km/h〜100km/hの範囲で1km/hごとの速度別に、90通り全ての燃費を計算し、最小エネルギー及び最小エネルギーをもたらす速度を抽出する。
【0028】
(step−4)渋滞流及び自由流のサイクル数の決定
渋滞流,自由流の(旅行距離/ショート・トリップ)#N,#Nは、以下の式で算出される。
詳細は、以下のダイヤグラムで説明する。
【数7】

【数8】

渋滞流のスタートから遭遇点までの総旅行距離(Σ#NJ:台数換算),遭遇点から基準点(N=0)までの自由流の総旅行距離(Σ#NF:台数換算)を各々上記 数7,数8の値で除して各々のサイクル数を求める。
【0029】
(step−5)以上の走行データを基に、政策流速度(最小エネルギーをもたらす渋滞流,自由流の各速度)を燃料消費モデルより抽出する。
【0030】
(step−6)(step−5)で抽出された速度を基に、オフセット時間,ヒールカット回数を決定する。

このようにして、密度コントロールされた最適交通流が発現する。
【0031】
特殊ダイヤグラム
このダイヤグラムは、持ち時間曲線と走行曲線の交点が次サイクルの新しい先頭車両を決めることを特徴としている。
その結果、次サイクルの信号待ち行列台数が明示可能となる。
又、「反応時間」を視覚的に表現できること,出力率(β値)を視覚化することを特徴としている。特にβ値の視覚化は、交通流特性を分析する上で非常に役に立つ。
本ダイヤグラムは、従来の「タイム−スペース」ダイヤグラムであるが、個々の車両の動きを詳細に明示することが可能となっている。
又、本モデルは「追随モデルの一種」である。
【0032】
<前提条件>は以下のとおり
(a)片側複車線(追い越しを考慮しない),開放系
基準信号機より下流のリンクは、任意の密度の状態であるとする。
(b)車両長 :M(m)信号待ち時の車間距離と車両長と合わせて 1ユニットとする。
(縦軸1単位):M (以下1ユニットを「台」と表示す(1目盛=2台)
(c)時間:秒(横軸1単位) :t (1目盛=2秒)
(d)反応時間 :λ(秒)
(e)スプリット :η(秒)
(f)サイクル長 :η/sp(秒) (sp:スプリット率)
(g)リンク長 :Z(m)
(h)交差点の幅は、0mとする。
【0033】
(i)持ち時間関数:前の車両が発進し,後続車がλ秒後に発進する減少関数で、各ゾーン内のN(i)(i番目の車両)は、(スプリット−λN(i))の走行持ち時間を持つ。
(1)有効持ち時間関数:
i番目の車両の持ち時間からショック・ウエーブ継続時間を差し引いた残りの「正味持ち時間」をあらわす。
【数9】

(2)仮想持ち時間曲線ショックウエーブ継続時間を差し引いた持ち時間曲線
【数10】

【0034】
(j)走行函数:発進流を形成する速度(V/秒)を持つ増加関数:
【数11】

発進時の「ヒゲ調整」を行う。
この変換により、非線形走行曲線を線形化することができる。
α:加速度とする 発進時の2次曲線を1次変換する。
【数12】

【数13】

【0035】
仮想走行曲線:
スプリットの終点の時間軸をマイナスω秒水平移動した曲線
【0036】
(k)遅延関数: (図−4,5)
信号−1の信号待ち台数をN^とする。
信号−1と信号−2が同時に切り替わる(青現示となる)とすると、Z2ゾーンの先頭車両はZ1ゾーンの最終車両(N^=A25)を追越せないから、信号−2の先頭車両は、△t秒遅れて発進しなければならない。
この遅れ発進を、「△t秒のオフセットをとる」という。
信号間距離をZ(m)とし、各ゾーンの飽和台数をNとすると、Z=N
【数14】

【数15】

信号待ち台数が少ない場合、「前倒し発進」する様、(マイナス)のオフセット時間が与えられる。
[(N^/β)<(Z/V)の場合]
例えば、N^=9台,V=11.1(m/S),Z=240Mの場合△t=−7.75秒前倒し発進する。
速度,信号待ち台数別のオフセット時間を(Fig−6)に示す。
【0037】
(l)PASS関数:1サイクル後の新先頭車両NO.(#N)の決定関数仮想持ち時間曲線gと仮想走行曲線hの交点で決定する.
リンク長(Z)は一定とする。
各リンク長,密度が異なっても、平均リンク長,平均密度をとれば、下記の方程式は成立する。
j:ゾーン判定値とすると、(gとhの交点があるゾーン)
【数16】

または、
【数17】

【0038】
(m)ゾーン判定関数:
【数18】

ROUND.down(x)は、xの整数部を示す。
【0039】
(n)交通量関数
(q):ショート・トリップでの交通量を表す
【数19】

【0040】
(o)前詰関数
k:周期性を持つ関数である。
(ショート・トリップの終点)待ち行列位置のリンク判定確率
ショート・トリップの交通量をqとすると
【数20】

【数21】

【数22】

【0041】
旅行距離関数
#N:旅行距離を表す
【数23】

【0042】
(p)流出入関数:
μi:流出台数 μi+1:流入台数(i:リンクNo.)
【数24】

【0043】
(q)右左折の「割込み」,「間引き」:
右左折の「流入−流出」のネット値を「純流入台数」として扱う。
【0044】
交通流の特性:
(1) 交通流の特性は発進流で決まり、その後は(λV+M)の車頭距離をキープして「コンボイ走行」する。
(2) 同時オフセットの場合、△t=0であるからV=11.1,N^=25台の時、N^/β=240/11.1より次サイクルの信号待ち行列はN^=14.04台となる。
これは、Z/W(車頭距離)=240/(11.1+6.0)=14.04と一致する。
(3) 又、△t=16.89秒のオフセットをとると、16.89=N^/β−240/11.1より N^=25台となり、前サイクルと同一の信号待ち台数となる。
(4) 1/β=(λV+M)/Vは、「車頭時間」をあらわす。
また、走行曲線の勾配=1/tanα,持ち時間曲線の勾配=tanβとすると,
【数25】

(5) オフセットをとった場合、次サイクルの信号待ち行列は、N^(t+1)=N^(t)+μ(t)−μi+1(t)
待ち行列台数は前サイクル時のそれと同・より、N^t+1=N^となり、
(6) β値は、「出力係数」,「交通量率」を示し、30β(η−ω)は、交通量/hourをあらわす。(1サイクル=120秒の場合)
(7) 「オフセット・ミスマッチ」の相関図を(図−9)に示す。
「固定オフセット」は、「臨界密度に対応するオフセット時間」の「固有値」の場合のみ「オフセット・ミスマッチ」度がゼロとなり、「固有値」から離れるに従って「オフセット・ミスマッチ」度が大きくなり、交通量が減少する。
「リアル・タイム・オフセット」は、全領域で「オフセット・ミスマッチ」がゼロであるため、交通量は「ベストの状態をキープ」される。
(8) 「リアル・タイム・オフセット」以外の場合(同時オフセット,10秒固定オフセット等)、下流から上流へ密度の移動が発生する。
【0045】
(速度別・旅行距離の算出)
上流の信号機は、下流直前の信号機から受信した情報に基づき、0.278M/SEC毎に90通りすべて旅行距離及び走行エネルギーを算出する。
【0046】
(走行エネルギーの算出)
フラットな道路で、割り込みがない「ごく簡単な条件下のモデル」に基づいて算出する。
速度別に走行エネルギーE(V)を計算する。
走行エネルギーの算出は、
1・ 発進走行エネルギー
2・ 定速走行エネルギー
3・ アイドリングエネルギー
に分けて計算する。
【0047】
発進走行エネルギー(燃料消費モデル)
発進走行・・・ロジスティック曲線に沿って速度を形成する。(3次式で近似する)
α(t):加速度は、従来にない考え方を導入し、速度関数V(t)がロジスティック曲線を形成する前提に立つものとする。
この理由は、例えば40km/h迄加速する発進流において、加速度を一定とすると、スタートから40km/hまで2速ギアのみで走行する状態となり、現実的でない。ドライバーは、1速−2速−3速−4速のギア操作を行う。
【0048】
ロジスティック曲線
【数26】

はe−atの関数であるから、テーラー展開により3次式に近似できる。
また、加速度は2次式で表される。
0:政策流速度(定速走行速度t0:加速時間,M:車体重重(1,250KG)
α:加速度(m/s),δ:減速加速度(m/s),V:速度(m/s)とすると、加速度は、以下のtに関する2次式で表される。
【数27】

速度は加速度を積分したものであるから、
【数28】

走行抵抗は、下記の推定式とする。 V:速度(m/s)とすると、
【数29】

【0049】
加速時駆動力(N)
【数30】

【0050】
要求駆動力は、(α+δ)に比例するため
【数31】

【0051】
エンジン回転数(Ne(定義式)r:有効回転半径
【数32】

【0052】
エンジン供給トルクs(Te) (推定式) (/kg−m)
【数33】

【0053】
エンジン要求トルクd(Te)(定義式) (/kg−m)
【数34】

【0054】
ギア比gは、エンジントルクの需給バランスにて決定される。
s(Te)は「フル・スロットル」時のレベルであるから、(λ:アクセル開度とすると)
【数35】

が成立する。
【0055】
そこで、CVT(無段可変変速機)を前提としてgを求め、
MT(マニュアル・トランスミッション)に変換する。
MTは以下のギア比のセットとする。
1速 3.939
2速 2.122

4速 1.000
5速 0.828
【0056】
(λ=1.0の場合)減速比gのシフト・ポジションは[数18]〜[数21]の4元連立方程式で決定される。
整理すると、g1の解は、下記の3次方程式の解となる。
【数36】

3次式は虚数の扱いに対応困難な為、ニュートンの近似式でgの推定値を求める。近似ポイントをg(0)とすると
【数37】

【0057】
相関図

【0058】
MT(マニュアル・シフト)は、CVTと比べ(図−8)に見られるようにギア不適合によるエネルギーロスが大きい。しかしながら、ギア比の選択肢に制約(1〜5速の5通りしかない)があるため、エネルギーロスの発生は避けられない。発進時のエネルギーロスは、約30%に達する。
【0059】
燃料消費モデルは、[0033]〜[0036]を前提とし、以下の推定式から構成される。
エンジン出力PW(p(定義式)
【数38】

【0060】
ε:L/PS・h(馬力・1時間当たり燃料消費量)とすると(推定式)楕円となる。
【数39】

【0061】
燃料消費量をΩi(単位時間[△t=0.1667sec]当たり消費量)とし、燃料消費率線ε’:L/PS・s(馬力・1秒当りの燃料消費量)とすると
【数40】

【0062】
従って発進走行時エネルギー:E1は、
【数41】

【0063】
ガソリンの持っているエネルギーを、1L当り8,400kalとし、エンジン熱効率=0.22,動力伝達効率=0.85とすると、1Lのガソリンの正味熱効率=1,570kcalとなる。.
E1とVの相関関係は、E1をkcal単位にとると下記の推定式を得る。
【数42】

【0064】
定速走行・・・・H6年度の「燃料消費効率と旅行速度」データを基準に現在のエンジン熱効率=0.25,動力伝達効率=0.9とすると、1Lのガソリンの正味熱効率=1,890kcal となる。.
「波状走行」なしとして走行エネルギーを算出する。
現在の日本には、適切なdataは存在していない為、燃費曲線Pn(e2)を「co2排出data」から推定する。
現在のエンジン熱効率=0.25,動力伝達効率=0.9とすると、1Lのガソリンの正味熱効率=0.225(1,890kcal/L)となる。.
「波状走行」なしとして走行エネルギーを算出する。
H6年度の「燃料消費効率と旅行速度」データを基準にし、旅行速度と走行速度をシミュレート(スプリット率0.7)して、走行速度と燃費の関係式を導く。
乗用車の定速走行燃費をPnj(e2),走行速度をv(m/sec)とすると
【数43】

同様に貨物車については、
【数44】

燃料消費率はPn(e2)の逆数である。
【0065】
アイドリング・・・600rpm 消費エネルギー:0.1875kcal/秒とする。
【0066】
各速度,旅行距離に基づき、上記の1・〜3の総走行エネルギーを求める。
【0067】
エネルギー計算値は、政策効果の目途をつける為のものであり、各パラメーターは実態に即した統計的データに基づき厳密に算出したものではない。
エネルギー計算値は、一種の指数ととらえ、政策の方向性を示すものである。
【発明の効果】
【0068】
本発明を実施することにより、それぞれの交通密度の局面に合わせて政策的に「最小のエネルギー」の走行を実現できる「インフラ」を整備することが出来る。
一般道路を走行する総ての車両は、各々の走行環境における「最小のエネルギー」を享受できる。
【0069】
日本全国の交通量を8,260億走行台キロメートル(2005年),高速道路の同ウエイトを15%として、(乗用車、貨物車),(DID〔平日、休日〕,郊外)別の効果を試算すると、年間で281.5億キロリットルの削減をもたらす。これは、一般道路で消費するエネルギー(自動車:485.6億KL,貨物車:356.6億KL計842.2億KL)の33.4%に相当する。
ガソリン@120円,軽油@100円として計算すると、3兆890億円の削減となる。
【発明を実施する為の最良の形態】
【0070】
(政策流速度の抽出)
▲1▼画像感知器,ビーコン等の交通流計測装置により入手される「信号待ち車両台数」
▲2▼信号間距離
▲3▼反応時間(1台前の車両が発進し、次の車両が発進するまでの時間)
▲4▼車頭距離(車両長+車間距離)
▲5▼通過車両の速度
▲6▼右折・左折の流入台数(割込み台数)
を認識し、次の上流の信号制御装置へ情報を送信する。
【0071】
(速度別・旅行距離の算出)
上流の信号機は、下流直前の信号機から受信した情報に基づき、下記の各速度に基づき、オフセット走行の旅行距離(S)を算出する。
【0072】
(走行エネルギーの算出)
ポイント速度別に走行エネルギーE(V)を計算する。
走行エネルギーの算出は、
1・ 発進走行エネルギー
2・ 定速走行エネルギー
3・ アイドリングエネルギー
に分けて計算する。
【0073】
密度コントロールの手順
1・自由流の最小エネルギーをもたらす速度(v)を抽出する。
この速度が「自然流」によってもたらされるとすれば、自由流の密度(N^)は
【数34】

である。(βはVより求められる。)
2・現実の密度に対するoffset時間を下記より算出する。
【数35】

3・offsetの状況下で、スプリットを縮小する時間を「ヒールカット」と名つける。
Hc時間から、Hc回数(γ)を求める。
【数36】

4・渋滞流(j)の持ち時間(εHtj)は下記の通りとなる。
【数37】

密度コントロールに於ける相転移ポジションの決定
(step−1)相転移曲線の設定
λを反応時間,N^を信号待ち台数,△tを自由流速度に基づくoffset時間,βを出力Zをリンク長とする。
ヒールカットされた残りの持ち時間はλN^を超えないものとする。
Hc時間から、Hc回数(γ)を求める。
Hc回数(γ)は、γ=Round−down[(η−λ N^)/△t]求められる。γ=絶対値とする。
ROUND.down(x)は、xの整数部を示す。
【0074】
ヒールカットされた残りの持ち時間は、
相転移ゾーンのリンク毎に、Hc0(有効持ち時間=η),Hc1(有効持ち時間=η−△t),Hc2(有効持ち時間=η−2△t)・・・Hcγ(有効持ち時間=η−γ△t)となる。渋滞流の有効持ち時間(εHt)はη−γ△tとなる。
【0075】
相転移ゾーンの曲線は、Hc回数(γ)に基づく「幅のある曲線」となる。
個々の相転移ポイントは、「のこぎり波」を形成し、(γ+1)リンク毎に周期性を持つ

【0076】
相転移曲線は以下の方程式となる。
(x−y)軸を(t,Ni)とする・・・Ni:台数表示。
【数38】

γ:ヒールカット回数,N:飽和台数,△t:自由流速度に基づくoffset時間tcyc:1サイクル時間とすると
【数39】

【0077】

Lsj : 渋滞流(j)曲線の勾配(tanα)を求める任意のリンク,#Nを渋滞流の旅行距離(台数ベース)とする。
Lsjを指定して、渋滞流曲線の勾配を決定する。
スタート点を(Nwj,tj),Npをtjに対応する相転移曲線の位置,サイクル数をcとする。
【数40】

【数41】

Lsjを渋滞流(j)曲線の勾配(tanα)を求める最小のリンクとすると,以下の式となる。
【数42】

tanβは負の値をとる。
【0078】
渋滞流曲線は以下の方程式となる。
【数43】

渋滞流スタート位置を、リンクNO.を40にセットし(たとえばリンク長を330mとすると走行区間約13km)、Ni=[Ls(40)−1]*N(34.4台)+ni(5台目)=1,346.6台を数6の式に代入してfを求める。
【0079】
(step−3) 相転移ポジションの決定
渋滞流が相転移曲線に遭遇するポジション(t,Ni)は、数1と数6で表される各曲線の交点である。
(t,Ni)=[(f−b)/(a−e)],[a*(f−b)/(a−c)+b]
【0080】
「最小走行エネルギー」をもたらす最適ポイント速度を中心とし、±3.0M/Sの範囲で、0.2M/S毎に30通りすべて計算し、最小エネルギーを抽出する。
【0081】

渋滞流,自由流の(旅行距離/ショート・トリップ)#N,#Nは、以下の式で算出される。
詳細は、以下のダイヤグラムで説明する。
【数44】

【数45】

渋滞流のスタートから遭遇点までの総旅行距離(Σ#NJ:台数換算)、遭遇点から基準点(N=0)までの自由流の総旅行距離(Σ#NF:台数換算)を各々上記 数6,数7の値で除して各々のサイクル数を求める。
【0082】
(step−5)以上の走行データを基に、政策流速度(最小エネルギーをもたらす渋滞流,自由流の各速度)を燃料消費モデルより抽出する。
【0083】
(step−6)(step−5)で抽出された速度を基に、オフセット時間,ヒールカット回数を決定する。

このようにして、密度コントロールされた最適交通流が発現する。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】1検出器Aでとらえた「信号待ち台数」の情報を送信機B1から送信し、受信機B2はその情報をうけとる。1の情報及びリンク2〜3の環境(リンク長,密度)を条件として信号機2の制御器は[1〜5]のデータを算出する。このデータに基づく5,6の指令を7の点灯器へ指令して、「密度コントロール」された交通流を発現させる。
【図2】ダイヤグラムにて旅行距離を算出し、これを基に燃料消費モデルにて走行エネルギーを算出し、政策流速度を抽出する。この速度に基づき「ヒール・カット」時間,オフセット時間を算出し、点灯器へ指令して政策流を発生させる。
【図3】密度0.55の状態では、Dを発進した車両はD−Eの渋滞流を継続し、相転移ポジションFで渋滞流から自由流へ相転移し、E−Fの走行を行なう。比較のため、密度0.45〜0.50の車両の走行軌跡を図示している。
【図4】オフセットをとると、B1の車両は△t=16.89秒おくれて発進しQ’−Uの軌跡をたどる。V−U軌跡はオフセット=0ノ軌跡ト一致する。
【図5】同時オフセットの走行軌跡は、S〔リンクB内の20台目の車両)から発進した車両はT−U間にてショック・ウエーブを受け、U−V−Wの走行軌跡をたどる。信号B(ノードB)で16.90秒のオフセットをとると、16,90秒だけ持ち時間曲線が右にスライドし、リンクB内の20番目の車両はXから発進しX−U−V−Wの走行を行なう。16.90秒のオフセットをとった場合、有効持ち時間の増加に伴ない、

【図6】β値はv/(λv+M)で表される。
【図7】自由流速度Vfに基づき、オフセット時間△t(=ヒール・カット時間)が決定される。リンクBにおいてHc−1のスプリットを△t秒短縮する。以下同様にHc−2(2*△t秒),Hc−3(3*△t秒)のヒール・カットを行なうことにより、サイクル2では,リンクA,B,Cは▲a▼▲b▼▲c▼の臨界密度を形成する。
【図8】CVTは、マニュアル・トランス・ミッションの発進エネルギーより30%少ない。
【図9】同時オフセットのオフセットミスマッチを図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路交通において、オフセット制御の下で「スプリットの削減」(以下ヒール・カットと言う)を通じた「密度コントロール」を行なうことにより、「最小の走行エネルギー」をもたらす「最適政策流速度」による交通流を実現し、車両のエネルギーを大幅に削減する「知能を持った」信号機群の制御方法及び信号システム
【請求項2】
一台一台の車両の動きを計算して走行軌跡をグラフに表示し、かつショート・トリップ毎の車輌群の平均交通量,平均旅行距離を算出しサイクル毎の密度を表示することで、交通流の動き、変化、特性を視覚的に表現すること、及び各信号制御装置が「アルゴリズムを遂行する全ての方程式」を内蔵する独自のダイヤグラム

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−123852(P2011−123852A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298682(P2009−298682)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(510002718)
【Fターム(参考)】