説明

密閉型モータ

【課題】 製造コストを大幅に増大させることなく、ステータコアは勿論、コイルエンドも効果的に冷却することが可能な密閉型モータを提供すること
【解決手段】 ハウジング11と筒状のキャン12の外周面とによって囲われた空所V内に設置されたステータコア13Aとコイルエンド13Bとからなるステータ13と、キャン12の内部であるロータ室14内の出力軸15に取り付けられたロータ16とを備えたキャンドモータ10において、上記空所Vに絶縁油Jを封入したものであり、ハウジング11の頂部には絶縁油Jに連通する油溜め18と給油管19を設け、絶縁油Jの封入時には油溜め18の上部に小空間Qを残す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は密閉型モータに関するものであり、更に詳しくは、ステータがモータハウジングと密閉型円筒部の外周面とで閉じられた空所に配置されている密閉型モータにおいて、空所内に絶縁性で液状の冷却媒体が封入された密閉型モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
密閉型モータのステータに発生する熱はステータコアの端部が当接しているモータハウジングへ熱伝導によって放熱される。ステータのコイルエンドはモータハウジングと接していないために、コイルエンドの発熱はステータコアを介しての熱伝導が主であり、それ以外には気体による熱伝導が僅かに存在するのみである。そのため、コイルエンドはステータの中で最も高温になることが多く、ステータが高温度になることによって、以下のような不具合が生ずる。
a.コイルを構成する部材の内部抵抗が大になってモータ効率が低下する。
b.高温時の絶縁性を確保するためのモータの絶縁階級が高くなり、製造コストを上昇させる。
【0003】
従来、このステータの発熱を効果的に冷却するために、例えばモータフレーム(モータハウジング)の外周側に水冷ジャケットを設けて冷却する手段や、ステータ全体を樹脂で封止する手段が採用されている。
【0004】
図2は水冷ジャケットを取り付けた密閉型モータであるキャンドモータを示す断面図である。図2において、ステータ102はモータフレーム101とキャン107とで密封されており、モータフレーム101の右端はポンプ取付フランジ103に固着され、左端は反負荷側フランジ104に固着されている。そして、モータフレーム101の外周側には、右端をポンプ取付フランジ103に固着し、左端を反負荷側フランジ104に固着して水冷ジャケット105が設けられている。水冷ジャケット105には2個のソケット106が取り付けられており、モータフレーム101内のステータ102を冷却している(例えば特許文献1を参照)。そのほか、キャンドステータの外周側に取り付けた水冷ジャケット内に水流規制部材を設けて冷却水が水冷ジャケット内を螺旋状に流れ、偏流や滞留を生じないようにして、冷却効率の向上を図ったキャンドモータも開示されている(例えば特許文献2を参照)。
【0005】
また、図3はモータMとポンプPとからなる真空ポンプのポンプP側の大部分の図示を省略した断面図である。モータMに設けられているステータ211とロータ216のうち、ステータ211を樹脂材212によって封じると共に、ステータ211の内周側には同一の樹脂からなるステータキャン218を設けたものである。このように、ステータを覆っていたモータフレーム、およびその外周側の水冷ジャケットを無くすることによって、モータの小型化、軽量化を図ったものである。また、従来は金属製であったステータキャン218を樹脂製としたことにより、モータの運転時に渦電流損失を発生せず、その損失に伴う発熱やモータ効率の低下を招かないとされている(例えば特許文献3を参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平5−223097号公報
【特許文献2】特開平10−318197号公報
【特許文献3】特開2003−153494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1の水冷ジャケット105によってステータ102を冷却するキャンドモータは、ステータコア102Aが水冷ジャケット105に当接しているので、ステータコア102Aの発熱は比較的容易に冷却されるが、ステータ102のコイルエンド102Bは水冷ジャケット105に接していないので、コイルエンド102Bを冷却することは困難であり、放熱性の大幅な改善は見込めない。また、特許文献3のステータ211の全体を樹脂材212で密封したキャンドモータMは、樹脂材212を介して放熱されるので、ステータ211の放熱性は可成り改善されるが、ステータ211を樹脂材212でモールドする作業が煩雑で工数を要し、製造コストを大幅に上昇させる。また、樹脂材は一般的に熱伝導率が小さいため、モータが大型化した場合には充分な放熱性を期待できないと言う問題がある。
【0008】
本発明は上述の問題に鑑みてなされ、製造コストを大幅に増大させることなく、ステータコアは勿論、コイルエンドも充分に冷却することが可能な密閉型モータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は請求項1の構成によって解決されるが、その解決手段を説明すれば次に示す如くである。
【0010】
請求項1の密閉型モータは、モータハウジングと密閉用円筒部の外周側とによって閉じられている空所内に配置されたステータコアとステータコイルとからなり、前記ステータコアの端部は前記モータハウジングに当接しているステータと、前記円筒部内に配置されたモータ出力軸に取り付けられているロータとを備えた密閉型モータにおいて、
前記閉じられた空所内に電気絶縁性で液状の冷却媒体が、前記空所の頂部に小空間を残して封入されており、前記ステータの全体が前記冷却媒体に浸漬されているものである。
【0011】
このような密閉型モータは、運転時にステータコアにおいて発生する熱はステータコアが当接しているモータハウジングへの熱伝導によって冷却されると共に、ステータコアに接触している冷却媒体の対流によってもモータハウジングへ伝達される。また、モータハウジングに当接していないコイルエンドにおいて発生する熱は、コイルエンドに接触している冷却媒体の対流によってモータハウジングへ伝達される。また、空所の頂部に残した小空間は冷却媒体の温度が上昇して体積膨張した時の膨張分の逃げ場、すなわち緩衝部として作用する。
【0012】
請求項2の密閉型モータは、封入された前記冷却媒体と連通する冷却媒体溜めが前記モータハウジングの頂部に設けられており、前記冷却媒体の封入時には、前記冷却媒体溜めの上部に前記小空間を残すように封入されるものである。
このような密閉型モータは、冷却媒体溜めを経由して冷却媒体を容易に封入することができ、かつ冷却媒体溜めに残す小空間の容積を任意かつ簡易に設定することができる。
【0013】
請求項3の密閉型モータは、前記冷却媒体として絶縁油が使用されているものである。
このような密閉型モータは、冷却媒体によって電気機器としての電気絶縁性が保証される。
【0014】
請求項4の密閉型モータは、平行に配置された2本の前記モータ出力軸を有しており、前記2本のモータ出力軸は同期して反対側へ回転するように構成されているものである。
このような密閉型モータは、例えば一対のロータが噛み合って反対側に回転されるルーツ型ロータを備えたポンプや送風機の駆動源となる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の密閉型モータによれば、モータの運転時にステータコアに発生する熱はモータハウジングへの熱伝導と、接触している冷却媒体の対流によってモータハウジングへ熱伝達されて冷却され、従来は高温度になり易かったコイルエンドに発生する熱も接触している冷却媒体の対流によってモータハウジングへ熱伝達されて冷却されるので、ステータは効率よく冷却され、温度上昇を抑えることができる。従って、ステータコイルの内部抵抗が上昇せずモータ効率が改善される。また、モータ負荷が大である時もステータコイルの温度を低く抑えることができるので、密閉型モータの絶縁階級を低く設定することができ、低級の絶縁材料を使用することができて製造コストを大幅に抑制することができる。また、空所の頂部に残した小空間は冷却媒体の温度が冷却媒体が温度上昇して体積膨張した時の膨張分の逃げ場、すなわち緩衝部として作用し、その膨張によってキャンやモータハウジングが破損されることを防ぐ。
る破損を防ぐ。
【0016】
請求項2の密閉型モータによれば、モータハウジングの頂部に設けられ、封入されている冷却媒体と連通している冷却媒体溜めの上部の小空間は、冷却媒体が熱膨張する場合の膨張分の逃げ場となるので、その熱膨張によって密閉円筒部やモータハウジングが破損されることを防ぐ。
【0017】
請求項3の密閉型モータによれば、冷却媒体として絶縁油が使用されているので、電気機器としての電気絶縁性が保証されるほか、絶縁材料と冷却媒体とが兼用され、密閉型モータの設計変更部分も少なくて済むことから、製造コストの上昇を抑制する。
【0018】
請求項4の密閉型モータによれば、2本のモータ出力軸が同期して反対側へ回転され、一対のロータが反対側に回転するルーツ型の回転機器の駆動源として使用されるが、例えば真空度の高い領域で運転されるルーツ型真空ポンプから密閉型モータへ伝達される熱も効果的に放熱することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の請求項1に係る密閉型モータは、上述したように、モータハウジングと密閉用円筒部の外周側とによって閉じられ、ステータが配置されている空所内に電気絶縁性で液状の冷却媒体が、空所の頂部に小空間を残して封入されており、ステータの全体が冷却媒体に浸漬されているものである。
【0020】
上記の小空間は、モータハウジングの頂部に冷却媒体溜めを設けて、その冷却媒体溜めの上部に形成させてもよい。
【0021】
上記の空所に封入させる冷却媒体として絶縁油を使用することができるが、ステータの発熱を冷却することができ、かつ電気絶縁性である限りにおいて、同等な油類、例えば潤滑油であってもよい。また使用する冷却媒体は可及的に低粘度であるものが好ましい。
【0022】
ステータが配置され、閉じられている空所に冷却媒体が封入されている密閉型モータとしては、平行に配設された2本のモータ出力軸を有し、それぞれの出力軸は同期して反対側へ回転するように構成されているものであってもよい。
【実施例】
【0023】
図1は本発明の密閉型モータの実施例となるキャンドモータ10の構成を示す断面図である。すなわち、キャンドモータ10は、ハウジング11と密閉用円筒部となるキャン12の外周面とに囲われたステータコア13Aとコイルエンド13Bとからなるステータ13と、キャン12の内部であるロータ室14においてモータの出力軸15に取り付けられているロータ16とによって構成されている。すなわち、出力軸15はロータ室14の両端側に設けられた軸受17a、17bに支持されている。 なお、ハウジング11は右側に省略して図示した負荷(例えば真空ポンプ)30のケーシング21に取り付けられているが、出力軸15の負荷側(右側)はハウジング11の外へ突出され、カップリング25を介して負荷の回転軸35と連結されている。
【0024】
そして、本発明の実施例によるキャンドモータ10が従来のキャンドモータと異なるところは、ハウジング11に油溜め18と給油管19が設けられており、ハウジング11とキャン12とによって囲われた空所Vには、油溜め18に小空間Qが残るようにして、絶縁油Jが封入されており、ステータ13のステータコア13Aとコイルエンド13Bは絶縁油J内に浸漬された状態となっていることにある。
【0025】
従って、キャンドモータ10の運転時にステータコア13Aに発生する熱はハウジング11へ直接に熱伝導して冷却されると共に、ステータコア13Aに接触している絶縁油Jの対流によってもハウジング11へ伝達される。同時に、コイルエンド13Bも接触している絶縁油Jの対流によってハウジング11へ伝達される。このことにより、ステータ13の温度上昇が抑制される。なお、油溜め18における小空間Qは絶縁油10の温度が上昇して体積膨張した時の膨張分の逃げ場、すなわち緩衝部として作用する。以上のように、実施例のキャンドモータ10はコイルエンド13Bのような複雑な形状の部材も接触する絶縁油Jによって容易に除熱することができ、ステータ13の温度を上昇させない。また、実施例のキャンドモータ10は絶縁油Jをハウジング11内に封入するだけであるから、製造コストを殆ど増大させない。
【0026】
以上、本発明の密閉型モータを、キャンドモータを実施例として説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0027】
例えば本実施例においてはハウジング11とキャン12の外周面とによって囲われた空所に封入する液状の冷却媒体として絶縁油Jを採用したが、絶縁油J以外の液体、例えば絶縁油Jと同等以下の粘度を有し、電気絶縁性であって腐食性を持たない液体、例えば潤滑油を封入してもよい。すなわち、ステータコア13Aとコイルエンド13Bを除熱してハウジング11へ伝達することができる液体で、電気絶縁性を有し腐食性を持たない限りにおいて、封入する液状の冷却媒体の種類は限定されない。
【0028】
また本実施例においては、出力軸15が1本であるキャンドモータ10を例示したが、2本の出力軸が平行に設けられており、同期して反対側へ回転するように構成されている密閉型モータであってもよい。このような密閉型モータはルーツ型ロータを有する真空ポンプや送風機と組み合わせて連結される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例のキャンドモータを示す断面図である。
【図2】先行技術のキャンドモータの断面図である。
【図3】他の先行技術のキャンドモータの断面図である。
【符号の説明】
【0030】
10 キャンドモータ、 11 ハウジング、
12 キャン、 13 ステータ、
13A ステータコア、 13B コイルエンド、
14 ロータ室、 15 出力軸、
16 ロータ、 17a 軸受、
17b 軸受、 18 油溜め、
19 給油管、 25 カップリング、
30 回転機器、 31 回転機器のハウジング、
35 回転軸、 J 絶縁油、
Q 小空間、 V 閉じられた空所。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータハウジングと密閉用円筒部の外周側とによって閉じられた空所内に配置されているステータコアとステータコイルとからなり、前記ステータコアの端部は前記モータハウジングに当接しているステータと、前記円筒部内に配置されたモータ出力軸に取り付けられているロータとを備えた密閉型モータにおいて、
前記閉じられた空所に、電気絶縁性で液状の冷却媒体が、前記空所の頂部に小空間を残して封入されており、前記ステータの全体が前記冷却媒体に浸漬されている
ことを特徴とする密閉型モータ。
【請求項2】
封入された前記冷却媒体と連通する冷却媒体溜めが前記モータハウジングの頂部に設けられており、前記冷却媒体の封入時には、前記冷却媒体溜めの上部に前記小空間を残すように封入される
ことを特徴とする請求項1に記載の密閉型モータ。
【請求項3】
前記冷却媒体として絶縁油が使用されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の密閉型モータ。
【請求項4】
前記密閉型モータが平行に配置された2本の前記モータ出力軸を有しており、前記2本のモータ出力軸は同期して反対側へ回転するように構成されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3までの何れかに記載の密閉型モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−166536(P2006−166536A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−352193(P2004−352193)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】