説明

密閉型電動圧縮機

【課題】電源の大容量化や高電圧化を招くことなく、低回転数域及び高回転数域の双方の効率改善を図るようにした密閉型電動圧縮機を提供する。
【解決手段】切替部143は、電源側に接続されている第1巻線140への印加電圧に応じて、第1巻線140、第2巻線141及び第3巻線142を直列に接続するか、第1巻線140に対して第2巻線141及び第3巻線142を並列に接続するか、を切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒等の流体を圧縮する密閉型電動圧縮機に関し、特に電動機の効率改善を図るようにした密閉型電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の密閉型電動圧縮機の消費電力低減への要求に対し、駆動用電動機の効率向上のため、種々の永久磁石同期電動機が用いられることが多い。このような密閉型電動圧縮機に用いられる永久磁石同期電動機は、一般的に、内部に複数の永久磁石が装着されたローターと、積層鋼板に絶縁部材を介して巻線を施した複数の歯部を有するステーターと、により構成されている。そして、ステーターに施された巻線に通電が成されると巻線による磁界と磁石の磁束とによりトルクが発生する(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
また、以上のような従来の密閉型電動圧縮機に用いられる永久磁石同期電動機の巻線の巻数は、最大回転数の最大負荷において運転電流が電源の許容値以下となるように設定されている。なお、従来の密閉型電動圧縮機に用いられる永久磁石同期電動機のステーターでは、各々の巻線が回転磁界を生じさせるような接続がなされている。また、各々の巻線の端部(中性点側引出線、電源側引出線)が接続されることで、中性点や入力線(U相、V相、W相)を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO08/102439号公報(図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
永久磁石同期電動機におけるトルクは、巻線による磁界と磁石の磁束により生じるため、直列に接続された巻線の巻数が多い仕様では、低回転数域において直列に接続された巻線の巻数が少ない仕様より小さな電流でトルクを発生させることができる。そのため、低回転数域において直列に接続された巻線の巻数が多い仕様では、制御器を含めた電気回路の高効率な運転が可能である。
【0006】
一方、回転数が増加するとローターの磁束により巻線に誘起される誘起電圧が高くなる。そのため、誘起電圧以上の電圧を印加する必要があるが、電源入力電圧以上の電圧を印加するには別回路が必要となり、コスト、製造工程、部品点数の増加などの課題が生じる。そこで、高回転数域では、ローター磁束を弱めるタイミングでステーターへ通電することにより運転を可能にする「弱め界磁制御」などの制御方法が通常採用される。
【0007】
しかしながら、「弱め界磁制御」時は、トルクを発生させるために、より大きな電流を流すことが必要となり、効率が低下してしまう。つまり、直列に接続された巻線の巻数を増やして低回転数域の効率を改善した場合、高回転数域では効率が低下してしまう。また、電流値が高いことにより、電源の大容量化も必要となる。すなわち、電源の大容量化や高電圧化を招くことなく、低回転数域及び高回転数域の双方の効率を改善するということは困難であった。
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたもので、電源の大容量化や高電圧化を招くことなく、低回転数域及び高回転数域の双方の効率改善を図るようにした密閉型電動圧縮機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る密閉型電動圧縮機は、密閉容器と、前記密閉容器内に配置された流体圧縮機構と、前記密閉容器内に配置され、前記流体圧縮機構を駆動する電動機と、を備えた密閉型電動圧縮機であって、前記電動機は、歯部を有する固定子コアと、同一歯部に巻き付けられる複数本の巻線と、前記密閉容器内に収容され、ワイドバンドギャップ半導体で構成するスイッチング素子を有する切替部と、を有しており、前記切替部は、ローターの回転数に応じて、前記複数本の巻線への電流の流れを切り替え可能としているものである。
【0010】
本発明に係る密閉型電動圧縮機は、密閉容器と、前記密閉容器内に配置された流体圧縮機構と、前記密閉容器内に配置され、前記流体圧縮機構を駆動する電動機と、を備えた密閉型電動圧縮機であって、前記電動機は、歯部を有する固定子コアと、同一歯部に巻き付けられる第1巻線、第2巻線及び第3巻線と、前記密閉容器内に収容され、ワイドバンドギャップ半導体で構成するスイッチング素子を有する切替部と、を有しており、前記切替部は、ローターの回転数に応じて、前記第1巻線、前記第2巻線及び前記第3巻線を直列に接続するか、前記第1巻線に対して前記第2巻線及び前記第3巻線を並列に接続するか、を切り替え可能としているものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る密閉型電動圧縮機によれば、ローターの回転数に応じて巻線への電流の流れを切り替えることができるので、電源の大容量化や高電圧化を招くことなく、低回転数域及び高回転数域の双方の効率改善を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る密閉型電動圧縮機の概略構成の一例を示す概略縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る密閉型電動圧縮機のステーターを説明するための概略図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る密閉型電動圧縮機のステーターの巻線の電気的な接続例を示す概略図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る密閉型電動圧縮機のステーターの巻線の概略構成を示す概略図である。
【図5】同一トルクにおいて直列に接続された巻線の巻数と運転電流との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る密閉型電動圧縮機(以下、圧縮機100と称する)の概略構成の一例を示す概略縦断面図である。図1に基づいて、圧縮機100の構成及び動作について説明する。この圧縮機100は、たとえば冷蔵庫や冷凍庫、自動販売機、空気調和機、冷凍装置、給湯器等の冷凍サイクル装置の一構成要素となるものである。なお、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。
【0014】
この圧縮機100は、冷媒などの流体を吸入し、圧縮して高温高圧の状態として吐出するものである。圧縮機100は、流体圧縮機構106と駆動機構部107とを有している。この流体圧縮機構106及び駆動機構部107は、密閉容器102内に収納されている。この密閉容器102は、圧力容器となっている。図1に示すように、流体圧縮機構106が密閉容器102の上側に配置され、駆動機構部107が密閉容器102の下側に配置されている。密閉容器102の底部は、冷凍機油130を貯留する油だめ131となっている。また、密閉容器102には、流体を吸入するための吸入管103と、流体を吐出するための吐出管104とが連接されている。
【0015】
流体圧縮機構106は、吸入管103から吸入した流体を圧縮して密閉容器102内の吐出空間105に排出する機能を有している。この吐出空間105に排出された流体は、吐出管104から圧縮機100の外部に吐出されるようになっている。駆動機構部107は、流体圧縮機構106で流体を圧縮するために、流体圧縮機構106を構成する揺動スクロール116を駆動する機能を果たすようになっている。つまり、駆動機構部107が主軸110を介して揺動スクロール116を駆動することによって、流体圧縮機構106で流体を圧縮するようになっているのである。
【0016】
流体圧縮機構106は、揺動スクロール116と、固定スクロール121とで概略構成されている。図1に示すように、揺動スクロール116は下側に、固定スクロール121は上側に配置されるようになっている。固定スクロール121には、台板の一方の面に突設された渦巻状突起である渦巻体122が形成されている。また、揺動スクロール116にも、台板の一方の面に突設された渦巻状突起である渦巻体117が形成されている。揺動スクロール116及び固定スクロール121は、渦巻体117と渦巻体122とを互いに噛み合わせ、密閉容器102内に装着される。そして、渦巻体117と渦巻体122との間には、相対的に容積が変化する圧縮室108が形成される。
【0017】
固定スクロール121は、フレーム125に図示省略のボルト等によって固定されている。固定スクロール121の中央部には、圧縮され、高圧となった流体を吐出する突出ポート124が形成されている。そして、圧縮され、高圧となった流体は、固定スクロール121の上部に設けられている吐出空間105に排出されるようになっている。
【0018】
揺動スクロール116は、固定スクロール121に対して自転運動することなく公転旋回運動を行うようになっている。また、揺動スクロール116の渦巻体117形成面とは反対側の面(以下、スラスト面119と称する)の略中心部には、中空円筒形状の揺動スクロールボス部118が形成されている。この揺動スクロールボス部118には、後述する主軸110の上端に設けられた偏心ピン部111が嵌入(係合)される。
【0019】
駆動機構部107は、内部に永久磁石を有し、主軸110に固定されたローター129と、密閉容器102に収容され、固着保持されたステーター109と、回転軸である主軸110とで構成されている。ローター129は、ステーター109への通電が開始することによりトルクを発生し、主軸110を回転させるようになっている。また、ステーター109の外周面は焼き嵌め等により密閉容器102に固着支持されている。そして、ローター129は、ステーター109の内周面側に回転可能に配設されている。すなわち、ローター129及びステーター109でモーター(電動機)を構成しているのである。なお、ステーター109については、後段で詳述する。
【0020】
主軸110は、ローター129の回転に伴って回転し、揺動スクロール116を旋回させるようになっている。この主軸110の上端部は、揺動スクロール116の揺動スクロールボス部118と回転自在に嵌合する偏心ピン部111が形成されている。油だめ131に溜まっている冷凍機油130は、主軸110の回転に伴い、吸い上げられて、主軸110に形成されている給油流路114を流れて流体圧縮機構106に給油されるようになっている。
【0021】
主軸110の上方部分は、フレーム125の貫通孔に設けられている主軸受で回転自在に支持され、主軸110の下方部分は、サブフレーム128の貫通孔に設けられている副軸受で回転自在に支持されている。
【0022】
フレーム125は、密閉容器102の内周面に固着され、中心部に主軸110を挿通される貫通孔が形成されている。この貫通孔には、主軸110を回転自在に支持する主軸受が設けられている。また、フレーム125に、揺動スクロール116のスラスト面119側から軸方向下側に貫通する排油穴126を形成し、スラスト面119を潤滑した冷凍機油130を油だめ131に戻すようにしておくとよい。なお、フレーム125は、その外周面を焼き嵌めや溶接等によって密閉容器102の内周面に固定するとよい。
【0023】
サブフレーム128は、密閉容器102の内周面に外周面が焼き嵌めや溶接等によって固着され、中心部に主軸110が挿通される貫通孔が形成されている。この貫通孔には、主軸110を回転自在に支持させるための副軸受が設けられている。このサブフレーム128は、密閉容器102内の下方に設置され、主軸110の下方部分を支持している。
【0024】
揺動スクロール116と固定スクロール121との間には、揺動スクロール116の偏心旋回運動中における自転運動を阻止するためのオルダムリング127が配設されている。このオルダムリング127は、揺動スクロール116と固定スクロール121との間に配設され、揺動スクロール116の自転運動を阻止するとともに、公転旋回運動を可能とする機能を果たすようになっている。つまり、オルダムリング127は、揺動スクロール116の自転防止機構として機能している。
【0025】
ここで、圧縮機100の動作について簡単に説明する。
電動機を構成するローター129は、ステーター109が発生する回転磁界からの回転力を受けて発生したトルクにより回転する。それに伴って、ローター129に固定された主軸110が回転駆動する。揺動スクロール116は、主軸110の偏心ピン部111に係合されており、揺動スクロール116の自転回転運動がオルダムリング127の自転防止機構によって公転旋回運動に変換される。この主軸110の回転駆動によって、密閉容器102内の流体が固定スクロール121の渦巻体122と揺動スクロール116の渦巻体117とにより形成される圧縮室108内へ流れ、吸入過程が開始する。
【0026】
圧縮室108内に流体が吸入されると、主軸110に対して偏心させられた揺動スクロール116の公転旋回運動で、圧縮室108の容積を減少させる圧縮過程へと移行する。つまり、流体圧縮機構106では、揺動スクロール116が公転旋回運動すると、流体が吸入口となる揺動スクロール116の渦巻体117及び固定スクロール121の渦巻体122の最外周開口部から取り込まれて、揺動スクロール116の回転とともに徐々に圧縮されながら中心部に向かうようになっている。流体は、吸入管103から密閉容器102内に流入する。そして、圧縮室108で圧縮された流体は、吐出過程に移行する。流体は、固定スクロール121の突出ポート124を通過し、吐出空間105を経由してから圧縮機100の外部へと吐出される。
【0027】
図2は、圧縮機100のステーター109を説明するための概略図である。図2に基づいて、ステーター109への巻線140の接続方法について説明する。図2では、固定子コアを構成する、たとえば略T字型形状の複数個の固定子コア150のうちの1つを示している。この複数個の固定子コア150の歯部150aのそれぞれに巻線140が施され、それらを環状に組み合わせてステーター109が構成される。図2では、複数個の固定子コア150が環状に組み合わされて構成されている分割コアタイプのステーター109を例に図示しているが、これに限定するものではない。
【0028】
固定子コア150の内周側には、巻線が集中巻される歯部150aが突出するように形成されている。そして、複数個の固定子コア150が環状に組み合わされた状態においては、隣り合う歯部150aの間に所定の間隙が形成される。図2に示すように、各固定子コア150は、その上下面に絶縁部材の一例であるインシュレーター151が装着され、巻線140がインシュレーター151を介して歯部150aに集中巻される。なお、固定子コア150は、複数枚の鋼板を積層して構成するとよい。また、インシュレーター151の上部には、切替部143が設置されている。この切替部143は、同一の歯部150aに集中巻される巻線への電流の流し方を所定の条件によって切り替えるものである。
【0029】
同一の歯部150aに集中巻される巻線は、電源側の第1巻線140と、中間の第2巻線141と、中性点側の第3巻線142と、で構成される。第1巻線140の一方の端末側を電源側口出し線140a、他方の端末側を反電源側口出し線140bと称する。第2巻線141の一方の端末側を電源側口出し線141a、他方の端末側を反電源側口出し線141bと称する。第3巻線142の一方の端末側を電源側口出し線142a、他方の端末側を中性点側口出し線142bと称する。
【0030】
そして、第1巻線140の反電源側口出し線140bと第2巻線141の電源側口出し線141a、及び、第2巻線141の反電源側口出し線141bと第3巻線142の電源側口出し線142aは、切替部143で接続されるようになっている。また、切替部143には、一端が第3巻線142の中性点側口出し線142bに接続される中性点接続線145の他端が接続されている。つまり、切替部143には、第1巻線140の反電源側口出し線140bと、第2巻線141の電源側口出し線141aと、第2巻線141の反電源側口出し線141bと、第3巻線142の電源側口出し線142aと、中性点接続線145と、が接続されている。なお、中性点側口出し線142bと中性点接続線145の一端は、制御端子152を介して接続されている。
【0031】
また、図2では、切替部143に、外部からの信号が入力される制御線146が接続されている状態を例に示している。つまり、切替部143は、マイコン等の制御装置(図示省略)から出力され、制御線146を介して入力される信号によって、巻線への電流の流し方を切り替えることが可能になっている。ただし、切替部143に制御装置を備えることが可能であれば、制御線146は不要である。この場合、第1巻線140の電源側口出し線140aを動力線としての機能を兼用させ、電源側口出し線140aを介して入力される電源によって切替部143が動作可能にしておくとよい。
【0032】
切替部143は、同一の歯部150aに集中巻される巻線への電流の流し方を切り替えるスイッチング素子を有している。そして、切替部143は、樹脂製品等でモールドされ、インシュレーター151の上部に設置される。ただし、切替部143の設置位置を、インシュレーター151の上部に限定するものではない。切替部143をインシュレーター151の上部に設置する場合には、インシュレーター151の上面に凹部等を形成し、形成した凹部に切替部143を収容して設置するとよい。
【0033】
切替部143は、たとえば炭化珪素(SiC)素子や、窒化ガリウム(GaN)素子、ダイヤモンド素子等のワイドバンドギャップ半導体素子で形成されたスイッチング素子を有している。ワイドバンドギャップ半導体とは、シリコン(Si)素子と比較して、バンドギャップが大きい半導体素子の総称であり、耐熱温度が高く(約400℃)、高温での動作が可能であるといった特徴がある。
【0034】
また、切替部143に損失が少なく高温下でも動作可能なワイドバンドギャップ素子を用いているので、切替部143を小型化でき、ステーター109への取り付け性およびステーター109の密閉容器102への収納性を向上させることができる。さらに、切替部143を小型化できるので、圧縮機100の運転中の密閉容器102の内部の流体の乱れも抑制することができる。加えて、切替部143にワイドバンドギャップ素子を用いているので、密閉容器102内が高温の吐出ガス雰囲気となる場合に対しても適応することができる。
【0035】
切替部143は、第1巻線140に印加される電圧が所定値以下であるときは、第1巻線140〜第3巻線142の全部を直列に接続する。一方、切替部143は、第1巻線140に印加される電圧が所定値を超えるときは、第1巻線140と第2巻線141と中性点接続線145、及び、第1巻線140と第3巻線142を接続するようになっている。つまり、この場合、切替部143は、第2巻線141と第3巻線142とが第1巻線140に対して並列になるように接続状態を切り替える。
【0036】
なお、印加される電圧が所定値以下であるかどうかについては、ローター129の回転数により判断してもよい。具体的には、圧縮機100に接続されている制御装置(図示省略)が、ローター129の回転数を必要な出力を得るために指令しており、その回転数に応じて印加電圧が所定値以下であるかどうかも判断できるようになっている。また、印加電圧が所定値以下であるときを「低回転数域」と、印加電圧が所定値を超えているときを「高回転数域」と、それぞれ称するものとする。制御装置は、たとえば指令している設定回転数に応じて印加電圧が所定値以下であるかどうかを判断してもよく、指令した回転数が所定値以下であるかどうかを判断してもよい。
【0037】
図3は、圧縮機100のステーター109の巻線の電気的な接続例を示す概略図である。図4は、圧縮機100のステーター109の巻線の概略構成を示す概略図である。図3及び図4に基づいて、本実施の形態の特徴部分である切替部143による巻線への電流の流れの切り替えについて説明する。図3では、巻線をY結線した場合を示しており、U相の電気的な接続のみを詳細に図示し、V相、W相の電動的な接続については図示を省略している。また、上述したように、圧縮機100のステーター109の巻線は、第1巻線140、第2巻線141、第3巻線142の3分割構成になっている。さらに、図3では、各相の並列数が3になっている場合を例に示している。
【0038】
図3及び図4に示すように、切替部143は、第1巻線140の反電源側口出し線140bが接続される接続部aと、第2巻線141の電源側口出し線141aが接続される接続部bと、第2巻線141の反電源側口出し線141bが接続される接続部cと、第3巻線142の電源側口出し線142aが接続される接続部dと、中性点接続線145が接続される接続部eと、制御線146が接続される接続部Xと、を少なくとも有している。そして、切替部143は、「低回転数域」であるのか、「高回転数域」であるのか、によって、巻線への電流の流れを切り替える。
【0039】
上述したように、切替部143は、「低回転数域」であるときは、第1巻線140〜第3巻線142の全部を直列に接続する。つまり、切替部143は、接続部aと接続部bとを、接続部cと接続部dとを、それぞれ接続する。このようにすることによって、第1巻線140、第2巻線141、第3巻線142が直列に接続されることになる。第1巻線140の電源側口出し線140aから流れてきた電流は、第1巻線140を流れて、切替部143の接続部aに至る。この電流は、切替部143の接続部bを介して第2巻線141を流れて、切替部143の接続部cに至る。この電流は、切替部143の接続部dを介して第3巻線142を流れて、中性点に至る。
【0040】
一方、切替部143は、「高回転数域」であるときは、第2巻線141と第3巻線142とを並列に接続する。つまり、切替部143は、接続部aと接続部bとを、接続部aと接続部dとを、接続部cと接続部eとを、それぞれ接続する。このようにすることによって、第2巻線141と第3巻線142が並列に接続されることになる。第1巻線140の電源側口出し線140aから流れてきた電流は、第1巻線140を流れて、切替部143の接続部aに至る。この電流は、切替部143の接続部b、接続部dを介して第2巻線141、第3巻線142を流れる。第2巻線141を流れた電流は、切替部143の接続部cに至る。この電流は、切替部143の接続部eを介して中性点に至る。第3巻線142を流れた電流は、中性点に至る。
【0041】
なお、図3及び図4では、巻線の分割数が3である場合を例に図示しているが、これに限定するものではなく、巻線の分割数は2以上であればよい。そして、巻線の分割数が多くなればなるほど、より細やかな電流低減制御を実現できる。また、図3及び図4では、各相の並列数が3である場合を例に図示しているが、これに限定するものではない。ただし、各相の並列数については、モーターの極数にも影響されるため、多い少ないで効果の差は生じない。さらに、「低回転数域」及び「高回転数域」のいずれにおいても、切替部143の接続に関与していない部分は絶縁されている。
【0042】
図5は、同一トルクにおいて直列に接続された巻線の巻数と運転電流との関係を示すグラフである。図5に基づいて、同一トルクにおいて直列に接続された巻線の巻数と運転電流との関係について説明するとともに、切替部143の作用について説明する。なお、図5では、横軸が回転数を、縦軸が運転電流を、それぞれ表している。また、図5では、巻線を図4に示すように3分割した場合の巻線の巻数と運転電流との関係を示している。図3においては、T1は直列に接続された巻線の巻数が少ない仕様、つまり第2巻線141と第3巻線142とが並列に接続されているパターンを、T2は直列に接続された巻線の巻数が多い仕様、つまり第1巻線140、第2巻線141、第3巻線142とが直列に接続されているパターンを、それぞれ表している。
【0043】
永久磁石同期電動機におけるトルクは、巻線による磁界と磁石の磁束により生じるため、図5に示す通り、直列に接続された巻線の巻数が多い仕様(図5に示すT2)では、「低回転数域」において直列に接続された巻線の巻数が少ない仕様(図5に示すT1)より小さな電流でトルクを発生させることができる。そのため、「低回転数域」においては、直列に接続された巻線の巻数が多い仕様では、制御器を含めた電気回路の高効率な運転が可能である。
【0044】
そこで、圧縮機100では、「低回転数域」である場合、切替部143が、第1巻線140、第2巻線141、第3巻線142の全部を直列に接続させる。低回転数域である場合、切替部143により第1巻線140、第2巻線141、第3巻線142は直列に接続されるため、同一歯部における巻線の巻数は第1巻線140〜第3巻線142の巻数の和となる。このように、「低回転数域」では切替部143により第1巻線140〜第3巻線142の全部が直列に接続されるため、同一歯部に巻き付けられ、直列に接続される巻線の巻数は、第1巻線140の巻数〜第3巻線142の巻数の和となるため、発生トルクが増加し、運転電流を減少させることができる。
【0045】
一方、回転数が増加するとローターの磁束により巻線に誘起される誘起電圧が高くなる。そこで、「高回転数域」では、ローター磁束を弱めるタイミングでステーターへ通電することにより運転を可能にする「弱め界磁制御」などの制御方法が通常採用される。しかしながら、「弱め界磁制御」時は、トルクを発生させるために、より大きな電流を流すことが必要となり、効率が低下してしまう(図5に示す破線矢印A)。また、電流値が高いことにより、電源の大容量化も必要となる。そのため、「高回転数域」においては、直列に接続された巻線の巻数が少ない仕様とすれば、電源の大容量化及び高電圧化を招来することなく高効率な運転が可能である。
【0046】
そこで、圧縮機100では、「高回転数域」である場合、切替部143が、第2巻線141と第3巻線142とを並列に接続させる。高回転数域である場合、切替部143により第2巻線141と第3巻線142が並列接続されるため、同一歯部の直列に接続される巻線の巻数は第1巻線140と第2巻線141の巻数の和、もしくは第1巻線140と第3巻線142の巻数の和となる。このように、「高回転数域」では切替部143により第2巻線141と第3巻線142とが並列に接続されるため、同一歯部に巻きつけられ、直列に接続される巻線の巻数は、第1巻線140の巻数と第2巻線141の巻数の和、もしくは第1巻線140の巻数と第3巻線142の巻数の和となるため、巻線に誘起する誘起電圧を低減でき、運転電流を低減することができる(図5に示す実線矢印B)。
【0047】
以上のように、圧縮機100によれば、各相の巻線を複数に分割し、第1巻線140への印加電圧によって巻線への電流の流れを切り替えるので、「低回転数域」及び「高回転数域」の双方において電動機の効率を大幅に改善できる。また、圧縮機100によれば、ワイドバンドギャップ素子を用いた切替部143を設けているので、密閉容器102の小型化を実現することができる。さらに、圧縮機100によれば、特別な電源装置を用いる必要もないので、電源装置を大型化することなく高効率な運転が可能になる。
【0048】
なお、制御線146を省略することができれば、制御線146の配置部分を省略することができ、密閉容器102の更なる小型化を実現できる。また、インシュレーター151に切替部143を設置した例を示したが、インシュレーター151以外の樹脂成型品等の絶縁部材を用意し、この絶縁部材に切替部143を設置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
100 密閉型電動圧縮機(圧縮機)、102 密閉容器、103 吸入管、104 吐出管、105 吐出空間、106 流体圧縮機構、107 駆動機構部、108 圧縮室、109 ステーター、110 主軸、111 偏心ピン部、114 給油流路、116 揺動スクロール、117 渦巻体、118 揺動スクロールボス部、119 スラスト面、121 固定スクロール、122 渦巻体、124 突出ポート、125 フレーム、126 排油穴、127 オルダムリング、128 サブフレーム、129 ローター、130 冷凍機油、131 油だめ、140 第1巻線、140a 電源側口出し線、140b 反電源側口出し線、141 第2巻線、141a 電源側口出し線、141b 反電源側口出し線、142 第3巻線、142a 電源側口出し線、142b 中性点側口出し線、143 切替部、145 中性点接続線、146 制御線、150 固定子コア、150a 歯部、151 インシュレーター、152 接続端子、X 接続部、a 接続部、b 接続部、c 接続部、d 接続部、e 接続部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器と、
前記密閉容器内に配置された流体圧縮機構と、
前記密閉容器内に配置され、前記流体圧縮機構を駆動する電動機と、を備えた密閉型電動圧縮機であって、
前記電動機は、
歯部を有する固定子コアと、
同一歯部に巻き付けられる複数本の巻線と、
前記密閉容器内に収容され、ワイドバンドギャップ半導体で構成するスイッチング素子を有する切替部と、を有しており、
前記切替部は、
ローターの回転数に応じて、前記複数本の巻線への電流の流れを切り替え可能としている
ことを特徴とする密閉型電動圧縮機。
【請求項2】
前記切替部は、
ローターの回転数に応じて、前記複数本の巻線の全部を直列に接続するか、前記複数本の巻線のうち一部を並列に接続又は短絡するか、を切り替える
ことを特徴とする請求項1に記載の密閉型電動圧縮機。
【請求項3】
密閉容器と、
前記密閉容器内に配置された流体圧縮機構と、
前記密閉容器内に配置され、前記流体圧縮機構を駆動する電動機と、を備えた密閉型電動圧縮機であって、
前記電動機は、
歯部を有する固定子コアと、
同一歯部に巻き付けられる第1巻線、第2巻線及び第3巻線と、
前記密閉容器内に収容され、ワイドバンドギャップ半導体で構成するスイッチング素子を有する切替部と、を有しており、
前記切替部は、
ローターの回転数に応じて、
前記第1巻線、前記第2巻線及び前記第3巻線を直列に接続するか、前記第1巻線に対して前記第2巻線及び前記第3巻線を並列に接続するか、を切り替え可能としている
ことを特徴とする密閉型電動圧縮機。
【請求項4】
一端が中性点に接続され、他端が前記切替部に接続された中性点接続線を設け、
前記切替部は、
前記第1巻線に対して前記第2巻線及び前記第3巻線を並列に接続するとき、
前記第1巻線、前記第2巻線及び前記中性点接続線を接続するとともに前記第1巻線と前記第3巻線を接続する
ことを特徴とする請求項3に記載の密閉型電動圧縮機。
【請求項5】
前記切替部は、
外部からの信号に基づいて動作が制御される
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の密閉型電動圧縮機。
【請求項6】
前記複数本の巻線は、
絶縁部材を介して前記歯部に巻き付けられており、
前記切替部は、
前記絶縁部材に装着されている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の密閉型電動圧縮機。
【請求項7】
前記ワイドバンドギャップ半導体は、
炭化珪素、窒化ガリウム系材料又はダイヤモンドである
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の密閉型電動圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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