説明

密閉型電池用封口板とその製造用金型及び製造方法

【課題】密閉型電池の封口板をコイニング加工により成形する際のメタルフローにより発生する欠陥を解消する。同時に、その余肉を利用して脆弱な弁部周辺を肉付けして保護や補強をできる密閉型電池用封口板とその製造用金型及び製造方法の提供。
【解決手段】封口板2’の基材を薄膜に成形した弁部11の近傍に突部14を成形して、その突部14に弁部11を薄膜に成形(圧印)した際に波状的に生じるメタルフローを逃がす(吸収する)ことにより、基材の密度に粗密な部分や増肉する部分ができないように脆弱に弁部周辺を肉付けして保護や補強し、メタルフローに基づく微小割れ(マイクロクラック)や内部破断を生じないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばリチウムイオン電池などの密閉型電池に用いられる密閉型電池用封口板とその製造金型及び製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、リチウムイオン電池などの密閉型の二次電池では、安全弁を設けて異常が生じた際に電池内圧を開放しなければならない。
【0003】
そのための一つの方法として、(特許文献1)には、図9に示すような電池ケース1を密閉する封口板2に、2度の圧印加工(コイニング)により弁機能を付与したものが記載されている。
【0004】
すなわち、この封口板2では、第1のコイニング加工により凹部3を成形する。このとき、成形された凹部3の底面は平坦な薄板状に形成する。さらに、その第1のコイニングにより成形した凹部3の底面に、第2のコイニング加工によってS状の溝4を成形し、その溝4を成形した凹部3を、図9のように開口側に膨出させたものである。このように膨出させた封口板2の凹部3は、溝4の部分で肉厚が最小となる。そのため、ケース1の内圧が、この肉厚が最小となった溝4部分の設定破断圧力を超えると、順次破断して内圧を開放させるというものである。
【特許文献1】特開2002−367583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようにコイニング加工を行うものでは、特に、第1のコイニング加工の際に発生する余肉により、基材内部に微小割れ(マイクロクラック)を生じてしまう問題がある。
【0006】
すなわち、上記のようなコイニング加工では、図10の(a)→(c)のように、圧印が進むと平板であった基材10が圧縮されて密度が高くなる部位と、応力により変形して増肉する部位ができる。このように基材10に疎密な部分ができることからメタルフローが波状的に起きて、図10(c)のように、断面に微小割れ6を生じて内部破断を起こしてしまう。その結果、弁部のシール性が損なわれ、致命的欠陥を生じてしまう問題がある。 そこで、この発明の課題は、コイニング加工により成形する際の不整合なメタルフローにより発生する欠陥を解消すること、同時に、その余肉を利用して脆弱な弁部周辺を肉付けして保護または補強あるいはその両方をすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、この発明では、封口板の基材を薄膜に成形した弁部の近傍に、弁部の成形時の余肉でもって突部を成形した構成を採用したのである。
【0008】
このような構成を採用したことにより、弁部を薄膜(薄板)に成形(圧印:プレス加工)した際に波状的に生じるメタルフローを弁部の近傍に突部を成形して逃がす(収容する)。その際、その突部を脆弱な弁部の周辺に成形することにより、その脆弱な部分を保護したり補強したりする。
【0009】
なお、上記成形時の余肉とは、圧印(プレス加工)によりはみ出す基材の量(肉量)とするものである。
【0010】
このとき、突部を弁部の周囲を取り囲むように、あるいは弁部を介して対向して成形する構成を採用することができる。
【0011】
このような構成を採用し、突部を、弁部の周囲を取り囲むように、あるいは弁部を介して対向して設けたことにより、例えば、脆弱な弁部の周囲あるいは弁部の対向する側部の厚みは成形した突部の分だけ厚くなり、剛性を増すので、それらに囲まれたあるいは挟まれた弁部を保護することができる。
【0012】
また、封口板を成形する金型のパンチとダイのパンチ型と受け型のいずれか一方、または両方の薄膜を成形する部分の近傍に、前記薄膜部分からのメタルフローを収容するポケットと、そのポケットからのメタルフローを規制する肉止めを設けた構成を採用することができる。
【0013】
このような構成を採用することにより、コイニングによる圧印の際に、ポケットはメタルフロー(肉の流れ)を逃がし(収容し)、肉止めはメタルフローを止めることができる。これらを組み合わせることでメタルフローを自在にコントロールすることができ、その流れをコントロールしたメタルフローで、弁部の近傍に突部を成形することができる。
【0014】
また、このとき金型の肉止めをパンチとダイと別体として、成形時に弾性体を介して押し圧力を印加して基材に接するようにした構成を採用することができる。
【0015】
このような構成を採用することにより、肉止めが基材に接してから実際に圧接するまでのタイミングを、弾性体の強弱で調整してメタルフローをコントロールすることができる。
【0016】
このとき、基材を圧印して密閉型電池の封口板の弁部を薄膜に成形する金型の前記薄膜を成形する近傍にポケットと肉止めを備え、前記金型で基材を圧印した際に封口板の薄膜部分からのメタルフローをポケットに収容し、そのポケットに収容したメタルフローを肉止めで止めて弁部の近傍に突部を成形する方法を採用することができる。
【0017】
このような方法を採用することにより、圧印の際に波状的に生じるメタルフローを弁部の近傍に突部を成形して逃がすことができるので、弁部の薄膜が内部破断を起こさないように成形できる。
【発明の効果】
【0018】
この発明は、以上のように構成したことにより、コイニングの際に波状的に生じるメタルフローを逃がす(収容する)ことができるので、内部破断を生じないようにできる。その結果、致命的な欠陥を生じないようにして弁部に良好なシール性を付与できる。また、同時に、その余肉を利用して脆弱な弁部周辺を肉付けして保護または補強あるいはその両方を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1に、この形態の封口板2’を示す。前記封口板2’は、基材10を薄膜に成形した弁部11の近傍に突部14を成形したものである。但し、図1のものは、コイニング加工直後のもので、後述するような補助成形による刻印を成形していないものである。このようなコイニング加工直後のものを示したのは、本願発明をより理解し易くするためである。
【0021】
前記基材10は、アルミニウム合金製で、電池ケースの開口に合わせた角型(これ以外にも丸型のものもあるので形状には限定されない)に形成されたものである。また、この角型の周囲には、フランジを設けて電池ケースの開口と接合するようにしてある。さらに、基材10の中央には、図1のように薄膜に形成した弁部11が設けられている。ちなみに、この弁部11の両側には、後述するように後工程によって端子を取り付けるための貫通孔が設けられる。
【0022】
一方、弁部11は小判形に成形され、その小判形の底面は図2のように平坦な薄膜状に成形されている。この弁部11の近傍には、すなわち、この形態では小判形の弁部11の周囲に、弁部11を取り囲むようにして突部14を成形してある(突部はこれに限定されることはなく、後述するように例えば、弁部を介して対向させて設けるなど様々な形態が考えられる)。また、ここでは突部14は、図2のように基材10の裏面側にも成形してある。
【0023】
この形態は、上記のように構成されており、この封口板2’では、例えばコイニング加工により、図3のように波状的にメタルフロー15が発生すると、その発生したメタルフロー15を突部14に成形して逃がしているので、基材10の密度に粗密な部分や増肉する部分ができにくい。そのため、微小割れ(マイクロクラック)を生じることはなく、微小割れを基材内部に生じて内部破断を生じてしまうこともない。その結果、弁部11に良好なシール性を付与できる。
【0024】
また、このように構成される突部14は、基材10よりも厚くなっているので、周囲を取り囲んだ薄膜状の脆弱な弁部11を外力(例えば、曲げ圧力など)から保護することができる。
【0025】
次に、このような封口板2’を成形するためのコイニング用(転写用)金型について述べる。
【0026】
すなわち、封口板2’を成形する金型は、図4(a)のように、パンチ20のパンチ型21とダイ22の受け型23に、ポケット24と肉止め25を形成したものである。
【0027】
このように構成した金型で基材10を圧印すると、図4(b)のように、弁部11の薄膜部分からの基材のメタルフロー15をポケット24に収容する。その際、ポケット24に収容したメタルフロー15は、肉止め25によってストップさせてポケット24をちょうど満たすようにする。こうすることで、密度が高くなったり、応力により変形して増肉が起きたりしないようにして均一な突部14を成形する。そのため、このように弁部11の圧印によるメタルフロー15でポケット24がちょうど満たされるように、ポケット24の大きさと肉止め25の位置を設計する。
【0028】
したがって、このようにメタルフロー15をポケット24に吸収させたことにより、メタルフロー15が波状的に重なることはなく、基材10の密度に疎密な部分ができにくい。したがって、微小割れを生じることはなく、微小割れを基材の内部に生じて内部破断を生じることもない。その結果、弁部11に良好なシール性を付与できる。
【0029】
図5aは、上記の肉止め25を図4(a)のパンチ20とダイ22と別体としたもので、別体とした肉止め25を成形時に弾性体26を介して押し圧力を印加して、基材10に接するようにしたものである。
【0030】
このようにすることにより、肉止め25が作動するタイミングを弾性体26の弾性圧で調整し、メタルフロー15の量を調整する。
【0031】
すなわち、この形態では、パンチ20側の肉止め25は、AとBの二つの種類があって、Aの肉止め25は、ストッパー面を傾斜面として、パンチ20から離れる側の隙間が狭くなるようにしてある。一方、ダイ22側の肉止め25は、ダイホルダーに形成してある。
【0032】
また、各肉止め25とプレスのバックプレート27間に弾性体26を取り付けて、圧印時に基材10へ押し圧を印加するようにしてある。
【0033】
なお、ここでは、弾性体26にスプリングを用いているが、これ以外にもウレタンや油圧ダンパー等を用いることができる。
【0034】
その際、弾性体26であるスプリングの長さと、スプリングの弾性圧を仕上がりやメタルフロー15の流れを予測して選択することにより、メタルフロー15の制御を行う。例えば、図5aのものでは、Aの肉止め25よりBの肉止め25のスプリングを強く設定してあるが、このように設定することで、図5bのように基材10へ圧印を行うと、Bの肉止め25がAの肉止め25より基材10に強く圧接してメタルフロー15の流れを止めて、図5bのように、突部14を成形することができる。
【0035】
次に、上記金型を使用した封口板2’の製造方法について述べる。この製造方法では、コイル状の基材10を定寸送りとしてプレス加工する(プレス順送り方法)もので、図6のように、
1.パイロット孔開け加工(抜き加工)
2.スリット加工
3.予備コイニングによる圧縮加工、
4.本コイニグ成形
5.補助成形
6.孔開け加工(抜き加工)
7.トリミング加工(抜き加工)
の7工程で構成される。
【0036】
すなわち、パイロット孔開け加工は、パイロットピンによる送り位置決めをするための金型加工で、パイロット孔加工ができると、定寸送りを行ってスリット加工を行う。
【0037】
スリット加工は、コイル状の基材10から1枚分の封口板2’を切り出すための工程で、1枚の封口板2’に要する基材10の面積の周囲にスリット30を入れて加工する。スリット加工ができると予備コイニングを行う。
【0038】
予備コイニングは、封口板2’で大きなメタルフロー15が予測される部位に予備圧縮を行うもので、この予備圧縮は、封口板のサイズや形状によって省略してもよい。
【0039】
本コイニングは、先の図5a、図5bで述べた金型を使用して行う加工で、前述したように金型に基材10のメタルフロー15を拘束するためのストッパー機能を有する肉止め25を使用する。また、肉の移動を予測してメタルフロー15を逃がす(収容する)ためにポケット24を設け、肉を多く集めたい場所や動きを自由にして肉の流れを積極的に誘う構造とする。
【0040】
また、圧印の際の基材10に対してパンチ20が侵入すると、平板の状態であった基材10が圧縮されて密度の高くなる部位と、応力により変形して増肉する部位ができるが、このとき、肉止め25は反力を受ける。この反力に対しては、弾性体(スプリング)26の強弱を利用して可動タイミングを合わせることにより、薄膜(板)成形された弁部の近傍にメタルフロー15を吸収した突部14を成形する。
【0041】
突部14の成形が完了すると、補助成形として弁部の薄膜(板)への刻印加工や成形をする。次に、抜き加工により、部品として必要な端子用の孔開け加工などを行う。そして、外周部の形状を維持しながらトリミング加工をする。トリミングされた製品は、変形やキズなどの不具合がないように取り出す。
【0042】
こうして製造される封口板は、コイニングの際に波状的に生じるメタルフロー15を突部14に成形して逃がす(収容する)ことができるので、致命的欠陥である内部破断を生じない。そのため、弁部11のシール性を向上させることができる。
【実施例1】
【0043】
この実施例は、弁部及び突部の形状を示すもので、図7(a)は、弁部11を小判形として、その周囲に突部14を成形した実施形態のものを示す。また、図7(b)と(c)は、弁部11を介して突部14を対向して成形した態様を示すもので、平面図と断面図を併記してある。さらに、図7のものを含む他の態様を分類して図8a、図8bに示す。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施形態の斜視図
【図2】実施形態の要部の断面図
【図3】実施形態の作用説明図
【図4】実施形態の作用説明図
【図5a】実施形態の作用説明図
【図5b】実施形態の作用説明図
【図6】実施形態の作用説明図
【図7】(a)、(b)、(c)実施例1の平面図及び断面図
【図8a】実施例1の平面図
【図8b】実施例1の平面図
【図9】従来例の断面図
【図10】従来例の作用説明図
【符号の説明】
【0045】
2’ 封口板
10 基材
11 弁部
14 突部
15 メタルフロー
20 パンチ
21 パンチ型
22 ダイ
23 受け型
24 ポケット
25 肉止め
26 弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基材を薄膜に成形した弁部の近傍に、弁部の成形時の余肉でもって突部を成形し、かつ、前記突部で脆弱な弁部の周辺を保護または補強あるいはその両方を行うことを特徴とする密閉型電池用封口板。
【請求項2】
上記突部を弁部の周囲を取り囲むように、あるいは、弁部を介して対向して成形した請求項1に記載の密閉型電池用封口板。
【請求項3】
密閉型電池の封口板を成形するパンチとダイのパンチ型と受け型のいずれか一方、または両方の薄膜を成形する部分の近傍に、前記薄膜部分からの基材のメタルフローを収容するポケットと、そのポケットからのメタルフローの流れを規制する肉止めを設けた密閉型電池用封口板の製造金型。
【請求項4】
上記肉止めをパンチとダイと別体として、成形時に弾性体を介して押し圧力を印加して基材に接するようにした請求項3に記載の密閉型電池用封口板の製造金型。
【請求項5】
基材を圧印して密閉型電池の封口板の弁部を薄膜に成形する金型の前記薄膜を成形する近傍に、ポケットと肉止めを備え、前記金型で基材を圧印した際に封口板の薄膜部分からのメタルフローをポケットに収容し、そのポケットに収容したメタルフローを肉止めで止めて弁部の近傍に突部を成形する密閉型電池用封口板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−351234(P2006−351234A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172491(P2005−172491)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(592204886)冨士発條株式会社 (11)
【Fターム(参考)】