説明

寸法安定性を有するポリイミドおよびそれに関連する方法

ポリイミドを40〜100重量パーセント含むフィルムを開示する。このポリイミドは、酸二無水物成分およびジアミン成分から誘導される。酸二無水物成分は、少なくとも3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)と、場合によりさらにピロメリット酸二無水物(PMDA)とであり、モル比は50〜100:50〜0(BPDA:PMDA)である。ジアミン成分は、1,5−ナフタレンジアミン(1,5−ND)と、1,4−ジアミノベンゼン(PPD)および/またはメタフェニレンジアミン(MPD)とを15〜95:85〜5(1,5−ND:PPD+MPD)のモル比で含む。フィルムは高温貯蔵弾性率(弾性率)が並外れて高く、高温クリープ(eplast)が並外れて低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示分野
本開示は、概して、高温用途に有用な熱および寸法安定性を有するポリイミドに関する。より具体的には、本開示のポリイミドは、a)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)および場合によりピロメリット酸二無水物(PMDA)を含む酸二無水物成分と、b)i.1,5−ナフタレンジアミン(1,5−ND)ならびにii.1,4−ジアミノベンゼン(PPD)および/またはメタフェニレンジアミン(MPD)を含むジアミン成分とから誘導される。
【背景技術】
【0002】
開示の背景
概して、エレクトロニクス用途におけるポリイミド基板は周知である。エレクトロニクス産業においては、寸法および熱安定性が改善されたより安価なポリイミド基板が必要とされている。
【0003】
太田らに付与された日本国特許出願公開第61−258835号(三菱化成工業株式会社(Mitsubishi Chemical Industries))には、無水ピロメリット酸(PMDA)をナフタレンジアミンおよびジアミノジフェニルエーテルと反応させることにより得られるコポリイミドが開示されている。
【発明の概要】
【0004】
概要
本開示は、ポリイミドを含むフィルムであって、ポリイミドの量が、以下に示す重量百分率:フィルムの40、50、60、65、70、75、80、85、90、95、および100重量パーセントのうちの任意の2個の間(場合により端点を含む)にあるフィルムを対象とする。このポリイミドは、酸二無水物成分およびジアミン成分から誘導される。酸二無水物成分は、少なくとも3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)であるが、場合によりさらにピロメリット酸二無水物(PMDA)でもあり、そのモル比は50〜100:50〜0(BPDA:PMDA)である。ジアミン成分は、1,5−ナフタレンジアミン(1,5−ND)ならびに1,4−ジアミノベンゼン(PPD)および/またはメタフェニレンジアミン(MPD)を、15〜95:85〜5(1,5−ND:PPD+MPD)のモル比で含む。本発明の組成物は並外れた高温貯蔵弾性率(弾性率)および並外れた低い高温クリープ(eplast)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0005】
好ましい実施形態の詳細な説明
本明細書における「フィルム」という用語は、自己支持型フィルムまたは基板上のコーティングを指す。「フィルム」という用語は「層」という用語と互換的に使用され、所望の面積を被覆するものを指す。
【0006】
本明細書において用いられる「酸二無水物」という用語は、専門的には酸二無水物ではない場合があるが、それでもジアミンと反応してポリアミン酸(今度はこれをポリイミドに転化させることが可能である)を形成することができることから機能的に等価である酸二無水物の前駆体および誘導体(それ以外では関連組成物)も包含することを意図している。
【0007】
同様に、「ジアミン」は、専門的にはジアミンでない場合があるが、それでも酸二無水物と反応してポリアミン酸(今度はこれをポリイミドに転化させることが可能である)を形成することができることから機能的に等価であるジアミンの前駆体および誘導体(それ以外では関連組成物)も包含することを意図している。
【0008】
通常、本明細書に記載されるポリマーは、製造に用いられるモノマーに応じて呼称される。したがって、BPDA/1,5−NDポリイミドと表記されるポリイミドは、BPDAおよび1,5−NDの重合反応生成物から誘導されたポリイミドを意味することを意図している。
【0009】
本開示のポリイミドフィルムの面または線熱膨張係数(CTE)は、TA Instruments TMA 2940を用いた熱機械分析により得ることができ、10℃/分で380℃まで昇温し、次いで降温した後、再び380℃まで昇温する操作を行い、50℃〜350℃の再昇温走査の際に得られるものをCTE(ppm/℃)とする。
【0010】
本明細書において用いられる「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」という用語またはこれらの他のあらゆる変形は、非排他的な包含を含むことを意図している。例えば、列挙された構成要素を含む方法、プロセス、物品、または装置は、必ずしもこれらの構成要素のみに限定されるものではなく、明示的に列挙されていないかまたはこの種の方法、プロセス、物品、もしくは装置に固有の他の構成要素を含み得る。さらに、明示的に別段の定めがある場合を除き、「または(or)」は包含的論理和を指し、排他的論理和ではない。例えば、条件AまたはBは、以下のいずれかによって満たされる:Aが真であり(または存在し)かつBが偽である(または存在しない)、Aが偽であり(または存在せず)かつBが真である(または存在する)、ならびにAおよびBの両方が真である(または存在する)。
【0011】
また、本発明の構成要素および成分の記述には不定冠詞(「a」または「an」)が用いられる。これは単に便宜上および本発明の一般的な意味を与えるために行われるものである。明示的に別段の定めがある場合を除き、この記述は1つまたは少なくとも1つを包含し、単数形は複数形も包含すると解釈すべきである。
【0012】
本開示の有用なポリイミドは、ジアミン成分および酸二無水物成分から誘導されたものである。ジアミン成分の少なくとも80、85、90、92、94、95、96、97、98、99、または100モルパーセントは:i.1,5−ナフタレンジアミン(1,5−ND)と、ii.1,4−ジアミノベンゼン(PPD)およびメタフェニレンジアミン(MPD)からなる群の少なくとも1種とを、15〜95:85〜5(1,5−ND:PPDおよび/またはMPD)のモル比で含む。MPDは1,3−ジアミノベンゼンと称されることもある。酸二無水物成分は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)および場合によりピロメリット酸二無水物(PMDA)を、50〜100:50〜0(BPDA:PMDA)のモル比で含む。
【0013】
一実施形態においては、BPDA:PMDAのモル比はA:Bであり、Aは、以下に示す:50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、および100のうちの任意の2個の間(場合により端点を含む)の任意の範囲であり、Bは、以下に示す:50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、および0のうちの任意の2個の間(場合により端点を含む)の任意の範囲である。一実施形態においては、1,5ND:PPDおよび/またはMPDの比はC:Dであり、Cは、以下に示す:15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、および95のうちの任意の2個の間(場合により端点を含む)の任意の範囲であり、Dは、以下に示す:85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、および5のうちの任意の2個の間(場合により端点を含む)の任意の範囲である。
【0014】
本開示のポリイミドは当該技術分野において周知の方法により作製することができる。一実施形態においては、本開示によるポリイミドフィルムは、上述のモノマーを一緒に溶媒と合一してポリアミン酸(ポリアミド酸とも称される)溶液を形成することにより作製することができる。酸二無水物およびジアミン成分は、典型的には、芳香族酸二無水物成分対芳香族ジアミン成分のモル比を0.90対1.10として合一される。分子量は、酸二無水物およびジアミン成分のモル比を調整することによって調整することができる。
【0015】
化学的転化(熱的転化プロセスとは異なり、同様に本発明の実施に適切である)の場合、ポリアミン酸流延溶液はポリアミン酸溶液から誘導される。一実施形態においては、ポリアミン酸流延溶液は、ポリアミン酸溶液を、(i)1種またはそれ以上の脱水剤(無水酢酸等の脂肪酸無水物や芳香族酸無水物等)や、(ii)1種またはそれ以上の触媒(トリエチルアミン等の脂肪族第3級アミン、ジメチルアニリン等の芳香族第3級アミン、ピリジン、ピコリン、イソキノリン等の複素環式第3級アミン等)等の転化剤と合一したものを含む。脱水材である無水物は、ポリアミン酸中のアミド酸基の量に対しモル過剰で用いられる場合が多い。使用される無水酢酸の量は、典型的には、アミン酸基1等量当たり約2.0〜3.0モルである。通常はこれに相当する量の第3級アミン触媒が使用される。
【0016】
一実施形態においては、ポリアミン酸溶液および/またはポリアミン酸流延溶液は、有機溶媒を約5、10、もしくは12%〜約12、15、20、25、27、30、または約40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、もしくは90重量%からの濃度で含む。好適な溶媒の例としては、スルホキシド溶媒(ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等)、ホルムアミド溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等)、アセトアミド溶媒(N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等)、ピロリドン溶媒(N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン等)、フェノール溶媒(フェノール、o−、m−、またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコール等)、ヘキサメチルホスホルアミド、およびガンマ−ブチロラクトンが挙げられる。これらの溶媒の1種または混合物を使用することが望ましい。これらの溶媒をキシレンやトルエン等の芳香族炭化水素またはジグリム、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコール、メチルエーテル酢酸、テトラヒドロフラン等のエーテル含有溶媒と併用することも可能である。
【0017】
ポリアミン酸(および流延溶液)は複数種の添加剤のいずれか1種、例えば、加工助剤(例えば、オリゴマー)、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、フィラー、または各種強化剤をさらに含んでいてもよい。
【0018】
次いで溶媒和混合物(ポリアミン酸流延溶液)をエンドレスベルトや回転ドラム等の支持体上に流延または塗布することによりフィルムを得ることができる。次いで、溶媒を含有するフィルムを、化学的転化剤(conversion chemical reactant)(化学硬化)と一緒に適切な温度で焼成(熱硬化)することにより自己支持型フィルムに転化させることができる。次いでフィルムを支持体から剥がし、熱および化学硬化を継続しながらテンター等で延伸することによりポリイミドフィルムを得ることができる。
【0019】
本発明によるポリイミドフィルムの製造に有用な方法がKreuzらに付与された米国特許第5,166,308号明細書に記載されている。(a)ジアミン成分および酸二無水物成分を予め一緒に混合しておいた後、溶媒を撹拌しながらこの混合物を少量ずつ添加する方法、(b)ジアミンおよび酸二無水物成分の混合物を撹拌しながら溶媒を加える方法(上の(a)と逆)、(c)ジアミンのみを溶媒に溶解し、次いで酸二無水物を反応速度制御が可能となるような速度でそこに加える方法、(d)酸二無水物成分のみを溶媒に溶解し、次いでアミン成分を反応速度制御が可能となるような速度でそこに加える方法、(e)ジアミン成分および酸二無水物成分を別々に溶媒に溶解し、次いでこれらの溶液を反応器内で混合する方法、(f)過剰のアミン成分を含むポリアミン酸および過剰の酸二無水物成分を含む他のポリアミン酸を予め形成しておき、次いで、特にランダムまたはブロック共重合体以外が生成するような方法を用いて反応器で互いに反応させる方法、(g)アミン成分の特定の部分および酸二無水物成分をまず最初に反応させ、次いで残りのジアミン成分を反応させるか、またはその逆を行う方法、(h)ポリアミン酸に転化剤を混合することによりポリアミン酸流延溶液を形成し、次いでこれを流延することによってゲルフィルムを形成する方法、(i)成分の一部または全部を任意の順序で溶媒の一部または全部のいずれかに加える方法(任意の成分の一部または全部を溶媒の一部または全部の溶液として添加することも可能)、(j)まず最初に酸二無水物成分の1種をジアミン成分の1種と反応させることにより第1ポリアミン酸を得、次いで他の酸二無水物成分を他のアミン成分と反応させることにより第2ポリアミン酸を得、次いで様々な方法のいずれかを用いてこのアミン酸を合一した後に製膜する方法等、多くの変形も可能である。
【0020】
幾つかの実施形態においては、ポリイミド絶縁層はフィラーを含む。フィラーを添加することにより、特にTg超におけるポリイミドの貯蔵弾性率が向上してより寸法安定性の高いポリイミドとなり、フレキシブルプリント基板、電線(または他の電気的)絶縁、フレキシブルヒーター、保護フィルム、およびCIGS加工に伴う高温下での取扱いが可能となる。幾つかの実施形態においては、フィラーは、球形状または略球形状フィラー、板形状フィラー、針状フィラー、繊維状フィラー、およびこれらの混合物からなる群から選択される。幾つかの実施形態においては、板形状フィラーおよび針状フィラーおよび繊維状フィラーが、ポリイミド層のCTEを維持または低下させると同時に貯蔵弾性率を依然として向上させるであろう。幾つかの実施形態においては、フィラーは、雲母、タルク、窒化ホウ素、ウォラストナイト、クレー、焼成クレー、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、およびこれらの混合物からなる群から選択される。フィラーは処理または未処理であってもよい。
【0021】
幾つかの実施形態においては、フィラーは、酸化物(例えば、ケイ素、チタン、マグネシウム、および/またはアルミニウムを含む酸化物)、窒化物(例えば、ホウ素および/またはケイ素を含む窒化物)、または炭化物(例えば、タングステンおよび/またはケイ素を含む炭化物)からなる群から選択される。幾つかの実施形態においては、フィラーは、酸素と、アルミニウム、ケイ素、チタン、マグネシウム、およびこれらの組合せからなる群の少なくとも1種とを含む。幾つかの実施形態においては、フィラーは、板状タルク、針状二酸化チタン、および/または少なくとも一部が酸化アルミニウムで被覆されている針状二酸化チタンを含む。幾つかの実施形態においては、フィラーのすべての寸法が50、25、20、15、12、10、8、6、5、4、2、1、0.8、0.75、0.65、0.5、0.4、0.3、または0.25ミクロン未満である。
【0022】
他の実施形態においては、少量の炭素繊維およびグラファイトを用いることができる。さらなる他の実施形態においては、少量の炭素繊維およびグラファイトを他のフィラーと併用することができる。幾つかの実施形態においては、フィラーはカップリング剤で被覆されている(そうでない場合は、ポリアミン酸またはポリイミドがカップリング剤を含む)。幾つかの実施形態においては、フィラーはアミノシランカップリング剤で被覆されている(そうでない場合は、ポリアミン酸またはポリイミドがアミノシランカップリング剤を含む)。幾つかの実施形態においては、フィラーは分散剤で被覆されている(そうでない場合は、ポリアミン酸またはポリイミドが分散剤を含む)。幾つかの実施形態においては、フィラーは、カップリング剤および分散剤の組合せで被覆されている(そうでない場合は、ポリアミン酸またはポリイミドがカップリング剤および分散剤の組合せを含む)。使用される具体的なフィラーに応じて、フィラーの配合量が少な過ぎるとフィルムの特性に最小限の影響しか与えない可能性があり、その一方で、フィラーの配合量が多過ぎるとポリイミドを脆化させる可能性がある。本開示に従う特定のフィラーのいずれかを選択する際には、選択された特定の用途に応じて通常の技術および実験が必要であろう。幾つかの実施形態においては、フィラーは以下の重量百分率:ポリイミド絶縁層の総重量の5、10、15、10、25、30、35、40、45、50、55、および60重量パーセントのうちのいずれか2個の間(場合により端点を含む)の量で存在する。
【0023】
幾つかの実施形態においては、好適なフィラーは350℃を超える温度でも通常は安定であり、幾つかの実施形態においては、フィルムの電気絶縁性を大幅に低下させることがない。幾つかの実施形態においては、フィラーは、針状フィラー、繊維状フィラー、板状フィラー、およびこれらの混合物から選択される。一実施形態においては、フィラーは、球状または略球状である。一実施形態においては、本開示のフィラーは、アスペクト比が少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15対1である。一実施形態においては、フィラーのアスペクト比は6:1である。他の実施形態においては、フィラーのアスペクト比は10:1であり、他の実施形態においては、アスペクト比は12:1である。
【0024】
幾つかの実施形態においては、フィラーは、金属箔基板との適合性を高める目的で、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル、およびこれらの混合物のナノ粒子から誘導された材料を含む。幾つかの実施形態においては、これらのナノ粒子の平均径は200nm以下であってもよく、アスペクト比は、1(球状粒子)〜それを超えるアスペクト比(長球、ナノニードル)の範囲のアスペクト比を包含することができる。最終的なポリイミド絶縁層の作製において、ナノ粒子は、ポリイミド層の総重量の1〜30重量%を占めることができ、場合により分散剤またはシランもしくは他の種類のカップリング剤と一緒に添加することができ、かつ他のフィラーと組み合わせることができる。
【0025】
幾つかの実施形態においては、フィラーの粒度には実施上の制限がある。フィラーのサイズが大き過ぎると所望の表面平滑性が得られない場合がある。フィラーが小さ過ぎると凝集が起こる場合があるため良好な分散が得られない可能性があり、その結果として絶縁耐力が低くなる可能性がある。したがって、フィラーのサイズを選択する際は、フィルムの所望の表面粗さ、フィラーの分散性、および加工性のバランスを考慮すべきである。幾つかの実施形態においては、ポリイミド層は、ナノフィラーを含む。ナノフィラーという用語は、少なくとも1つの寸法が1000nm未満すなわち1ミクロン未満のフィラーを意味することを意図している。幾つかの実施形態においては、ナノフィラーを用いる場合は分散がより困難な可能性があるので特殊な分散技法を必要とする場合がある。幾つかの実施形態においては、フィラーは少なくとも1つの寸法が(平均で)1000、800、600、500、450、400、350、300、275、250、225、または200ナノメートル(nm)未満である。
【0026】
幾つかの実施形態においては、ポリイミド層は、500℃の不活性条件下、例えば、実質的な真空、窒素、または任意の不活性ガス雰囲気中における等温重量減少が30分間で1%未満である。幾つかの実施形態においては、ポリイミド絶縁層の厚みは、以下の厚み:4、6、8、10、20、30、40、50、60、70、80、90、および100μmのうちの任意の2個の間(場合により端点を含む)にある。
【0027】
幾つかの実施形態においては、本開示のポリイミド絶縁フィルムの絶縁耐力は10、20、25、30、35、40、40、75、100、150、または200KV/mmを超える。
【0028】
幾つかの実施形態においては、本開示のポリイミドフィルムは、電気的性能を損なう可能性のあるピンホールや他の欠陥(異物粒子、導電性粒子、ゲル、フィラー凝集物、および他の汚染物質)を可能な限り含まない。本明細書において用いられる「ピンホール」という用語は、層が不均一な結果として生じるか、そうでない場合は製造工程に起因するあらゆる小孔を包含する。
【0029】
ポリイミド絶縁層は、フィルムの欠陥を減らすか、または完全性に与える影響を低減することを企図してより厚肉に形成することができ、あるいは複数のポリイミド絶縁層を使用することができる。複数のポリイミド薄層を用いる方が同じ厚みのポリイミド単層を用いるよりも有利な可能性がある。このような多層ポリイミドは、個々の層の各々の欠陥が重複する可能性が極めて低いことから、フィルムを貫通するピンホールや欠陥の発生を大幅に低減することが可能である。幾つかの実施形態においては、本開示のポリイミドフィルムは2つ以上のポリイミド層を含む。幾つかの実施形態においては、ポリイミド層は同一であってもよい。幾つかの実施形態においては、ポリイミド層は異なっていてもよい。
【実施例】
【0030】
以下の実施例において本発明をさらに説明するが、特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を制限するものではない。
【0031】
ポリアミン酸の調製:
メカニカルスターラーおよび窒素導入管を備えた250mLの4ッ口丸底フラスコに1種のジアミン(または複数種のジアミン)を装入した。N,N−ジメチルアセトアミドを撹拌しながら加えた(反応は通常ポリアミン酸の重量を基準として固形分15〜20%)で実施した)。ジアミンが溶解した後、酸二無水物を加え、反応物を室温で一夜撹拌した。表1に化学組成ならびにジアミンおよび酸二無水物のモル比を列挙する。
【0032】
【表1】

【0033】
フィルムの調製
ポリアミン酸溶液(上の一般手順により合成)を流延して各ポリマーの緻密なフィルムを得た。ポリアミン酸溶液を、ナイフギャップを15ミル(38×10−5m)としてガラス板上に25℃で流延した。板上でフィルムを100℃で1〜2時間乾燥した後、板から剥がし、窒素中、50℃の真空オーブンで一夜乾燥した。フィルムをさらに窒素雰囲気中、200℃の真空オーブン(約20インチ水銀)で3日間乾燥した。こうして厚みが2×10−5〜5×10−5m(1〜2ミル)のフィルムを得た。
【0034】
すべてのポリイミドフィルムについて数種の分析方法を用いて特性評価を行った。これらを表2にまとめる。動的粘弾性測定(DMA)装置を使用してポリイミドフィルムの機械的挙動について特性評価を行った。DMA操作は、温度および時間の関数として振動する微小歪み(例えば10μm)をポリマーに与えることによる粘弾性応答に基づくものである(TA Instruments,New Castle,DE,USAのDMA 2980)。引張、マルチ周波数−歪みモード(multifrequency−strain mode)でフィルムを動作させた。測定可能なサイズの長方形の試験片を固定把持爪(jaws)および可動把持爪で挟持した。幅6〜6.4mm、厚み0.03〜0.05mm、長さ10mmのMD方向の試験片をトルク力3in−lbで締め付けた。長手方向の静荷重を0.05N、オートテンションを125%とした。周波数を1Hzとしてフィルムを0℃〜500℃まで3℃/分の速度で昇温した。100および500℃における貯蔵弾性率を表2に示す。
【0035】
熱重量分析(TGA)をTA Instruments TGA−2050を用いて実施した。試料を窒素中10℃/分で室温から500℃まで昇温した後、500℃で30分間保持した。500℃で等温保持を開始してから終了時点までの重量減少を試料の初期重量の百分率として求める。報告したデータは試料間の水分量の差を除外するため、10分間昇温した後に標準化を行ったものである。
【0036】
【表2】

【0037】
高温クリープの測定
DMA(TA Instruments Q800モデル)を用いて、カスタマイズ設計された引張および応力制御モードでフィルム供試体のクリープ/回復分析を行った。幅6〜6.4mm、厚さ0.03〜0.05mm、長さ10mmの圧縮フィルムを固定把持爪および可動把持爪の間にトルク力3in−lbで挟持した。長手方向の静荷重を0.005Nとした。20℃/分の速度で460℃まで昇温してフィルムを加熱し、460℃で150分間保持した。クリーププログラムは、2MPaで20分間、次いで初期の静荷重(0.005N)以外の荷重を除荷して30分間回復させるように設定した。クリープ/回復プログラムを2MPaの場合と同じ時間間隔で4MPaおよび8MPaでも繰り返した。
【0038】
下の表3に8MPaのサイクル後の歪みおよび回復をまとめる。伸びをフィルムの初期長で除することにより、伸びを無単位の相当歪みに換算する。8MPa、460℃における歪みを「emax」として表にまとめる。「e max」という用語は、8MPaのサイクル完了時における無次元の歪みであり、フィルムの分解および溶媒の消失によるあらゆる変化に関し補正を行ったものである(除荷後の傾き(stress free slope)から外挿)。「e rec」という用語は、8MPaサイクル完了直後からの無荷重時(初期の静荷重0.005Nを除く)の歪みの回復であり、フィルムの分解および溶媒の消失によるあらゆる変化に関する補正を行ったものであり(除荷後の傾きから求められる)、材料の回復の指標である。「e plast」欄は塑性流動を表し、これは高温クリープの直接の指標であり、e maxおよびe recの差である。
【0039】
一般に望ましい材料は、歪み(e max)が可能な限り小さく、応力塑性流動(stress plastic flow)(e plast)が最も低く、かつ除荷後の傾きの値が小さいものである。
【0040】
【表3】

【0041】
実施例1は、ジアミンとして1,5 ナフタレンジアミンのみを用いた例を示すものであり、良好な高温貯蔵弾性率を示し、TGAは許容可能であり、e maxおよびe plastは低い。
【0042】
実施例2〜5は、PPDの5〜75重量%を1,5 ナフタレンジアミンに置き換えられることを例示するものであり、良好な高温貯蔵弾性率を示し、TGAは許容可能であり、e maxおよびe plastは低い。
【0043】
比較例1は、1,5−ナプタレン(napthalene)ジアミンを添加しない場合を例示するものであり、高温貯蔵弾性率が低くe maxが高い。
【0044】
比較例2は、1,5−ナフタレンジアミンをODAと併用した場合を例示するものであり、高温貯蔵弾性率は許容可能であり、TGA、e max、およびe plastが高い。
【0045】
比較例3は、1,5−ナフタレンジアミンをODAと併用した場合を例示するものであり、高温貯蔵弾性率が低く、e maxおよびe plastが高い。
【0046】
比較例4は、1,5−ナフタレンジアミンをODAと併用した場合を例示するものであり、高温貯蔵弾性率が低く、e maxおよびe plastが高い。
【0047】
比較例5は、1,5−ナフタレンジアミンをODAと併用した場合を例示するものであり、高温貯蔵弾性率が低く、e max試験の最中にフィルムが破断する。
【0048】
比較例6は、ODAを単独で使用した場合を例示するものであり、高温貯蔵弾性率が低く、TGA、e max、およびe plastが高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムであって、
A)前記フィルムの40〜100重量パーセントの量のポリイミドを含み、前記ポリイミドが、酸二無水物成分およびジアミン成分から誘導されたものであり、
a)前記酸二無水物成分が、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)および場合によりピロメリット酸二無水物(PMDA)であり、モル比が50〜100:50〜0(BPDA:PMDA)であり、
b)前記ジアミン成分が、1,5−ナフタレンジアミン(1,5−ND)と、1,4−ジアミノベンゼン(PPD)およびメタフェニレンジアミン(MPD)からなる群の少なくとも1種とを含み、モル比が15〜95:85〜5(1,5−ND:PPDおよびMPD)である、フィルム。
【請求項2】
前記酸二無水物成分が、BPDAである、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
BPDA:PMDAのモル比が、60〜90:40〜10である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項4】
前記ジアミン成分が、1,5−NDおよびPPDのみを含む、請求項1に記載のフィルム。
【請求項5】
1,5−ND:PPDおよびMPDの比が、除荷後の傾きの絶対値が10×(10)−6毎分未満となり、かつ7.4〜8MPaにおけるemaxが1%未満となるのに十分である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項6】
前記フィルムの5〜40重量パーセントがフィラーを含み、前記フィラーの少なくとも1つの寸法が平均して500ナノメートル未満である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項7】
カップリング剤、分散剤、またはこれらの組合せをさらに含む、請求項6に記載のフィルム。

【公表番号】特表2013−511590(P2013−511590A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539889(P2012−539889)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【国際出願番号】PCT/US2010/051040
【国際公開番号】WO2011/062684
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】